説明

合成樹脂レザー及びその製造方法

【課題】高い柔軟性や屈曲性に加えて、繰り返し受ける擦れ現象に対しての耐摩耗性を有する合成樹脂レザーを提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜10の裏面側に接着層11を介して基材12を接着した合成樹脂レザーであって、皮膜10は、その表面に、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤の塗布によって形成される表面処理層10Aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)を主成分とする皮膜を有する合成樹脂レザーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)を主成分とする皮膜を有する合成樹脂レザーは、皮膜の裏面側に織物,編物又は不織物などの基材を接着した基本構造を有し、柔軟な皮膜を用いることで屈曲性(特に、耐寒屈曲性)に優れた性質を持っており、皮膜自体を架橋成膜して強固な膜にする所謂合成皮革と比べて特異な性質を持っている。この合成樹脂レザーは、その屈曲性或いは柔軟性を利用して、車両内装材に広く用いられており、特に繰り返し屈曲される部位にて有効に活用されている。
【0003】
合成樹脂レザーは、軟質ポリ塩化ビニル層を皮膜にしたものから、より環境に配慮したポリオリフィン系樹脂レザーの開発がなされ、更により機能性を追求して、熱可塑性ポリウレタンとアクリル系軟質樹脂との混合樹脂層を皮膜にするものが開発されている。
【0004】
下記特許文献1には、柔軟性があり、耐表面傷付き性に優れ、高周波ウェルダーで溶着加工が行え、難燃性を有し、縫い目が広がることがない引裂強度を有するものとして、ショアA硬度65〜90の熱可塑性ポリウレタン50〜95重量%とショアA硬度50〜80のアクリル系軟質樹脂50〜5重量%との混合樹脂層を設けてなり、且つ混合樹脂層のショアA硬度が60〜80である皮膜を有する合成樹脂レザーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−166181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術のような熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜を有する合成樹脂レザーは、柔軟性や高い屈曲性を目指して開発されたものであって、その点では強固な皮膜を有する合成皮革とは一線を画した開発経緯がある。前述した特許文献1の従来技術では、柔軟性や屈曲性に加えて、耐表面傷付き性や引裂強度といった強度面での機能を高めているが、表面に他の部材が接触して繰り返し擦れる現象に対しては、十分な耐摩耗性を得ることができない問題があった。車両座席の外装などに合成樹脂レザーを適用する場合は、高い柔軟性や屈曲性に加えて、十分な耐摩耗性が求められている。
【0007】
また、車両座席の外装、椅子やソファーの外装などでは、汗や皮脂、保湿用ローションなどの付着がしばしば生じることから、人体に直接又は間接的に触れることが多いところに用いられる合成樹脂レザーの性質としては、耐オレイン酸性が求められている。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、高い柔軟性や屈曲性、良好な加工性や強度に加えて、繰り返し受ける擦れ現象に対しての耐摩耗性を有する合成樹脂レザーを提供すること、また、それに加えて耐オレイン酸性を有する合成樹脂レザーを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明による合成樹脂レザー及びその製造方法は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0010】
熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜の裏面側に接着層を介して基材を接着した合成樹脂レザーであって、前記皮膜は、その表面に表面処理層を有し、該表面処理層は、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤の塗布によって形成されていることを特徴とする合成樹脂レザー。
【0011】
熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜を成形する皮膜成形工程と、
成形された前記皮膜の表面に、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤を塗布して表面処理層を形成する表面処理工程と、前記皮膜の裏面側に接着層を介して基材を接着する基材接着工程とを有することを特徴とする合成樹脂レザーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の合成樹脂レザー及びその製造方法によると、高い柔軟性と屈曲性を備えると共に、耐摩耗性の良好な合成樹脂レザーを得ることができる。特に、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜の表面に水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤を塗布することによって、耐オレイン酸性の高い架橋膜からなる表面処理層を形成することができ、耐摩耗性に加えて、耐オレイン酸性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーの構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1に示した本発明の実施形態に係る合成樹脂レザー1は、皮膜10の裏面側に接着層11を介して基材12を接着した構造を備えており、皮膜10の表面に表面処理層10Aが形成されている。皮膜10は熱可塑性ポリウレタン(TPU)を主成分とする層である。この層は、混合樹脂成分の場合には熱可塑性ポリウレタンの成分が50%以上含まれているか、或いは、複数種類の樹脂成分を含む場合に、その中で最も占有率が高い成分が熱可塑性ポリウレタンになっている。基本的には、この皮膜10は、前述した従来技術と同様に、熱可塑性ポリウレタンと他の樹脂成分との混合樹脂によって、高い柔軟性や屈曲性と良好な加工性や強度を備えているものである。
【0015】
皮膜10は、その表面に表面処理層10Aを有し、この表面処理層10Aは、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤の塗布によって形成されている。表面処理層10Aは、耐オレイン酸性の高い架橋膜からなる表面処理層10Aを形成することができ、耐摩耗性に加えて、耐オレイン酸性を維持することができる。
【0016】
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザー1の製造方法を説明すると、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜10を成形する皮膜成形工程と、成形された皮膜10の表面に、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤を塗布して表面処理層10Aを形成する表面処理工程と、皮膜10の裏面側に接着層11を介して基材12を接着する基材接着工程とを有する。
【0017】
皮膜成形工程は、カレンダー成形、押し出し成形などによって、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜10を成形する。表面処理工程は、水性の表面処理剤を成形された皮膜10の表面に塗布し、エージング処理を経て表面処理層10Aを形成する。表面処理剤の塗布は、グラビアダイレクト印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法等の通常の印刷法や、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコーティング法を用いて行うことができる。表面処理を施した皮膜へ絞付け工程を行う。基材接着工程は、皮膜10の裏面側もしくは基材12の一面側に接着剤を塗布して皮膜10と基材12とを接着層11を介して接着する。
【0018】
皮膜10に用いる熱可塑性ポリウレタンは、ジイソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物とを反応させて得ることができる。中でも、長鎖ポリオール、ジイソシアネート、鎖伸長剤から構成された、いわゆるソフトセグメントとハードセグメントからなるポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が好ましく使用できる。これらはショアA硬度で65〜90の樹脂硬度、特に70〜80の樹脂硬度を有するものが好ましい。なお、個々で示すショアA硬度は、ASTM D 2240で測定した値(測定温度23℃)である。
【0019】
熱可塑性ポリウレタンを合成するためのジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソイアネートなどが用いられる。
【0020】
また、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物としては、アジピン酸、フタル酸等の二塩基酸とエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコールとの縮合反応物であるポリエステル系ポリオール;エチレンカーボネート等のカーボネートとグリコールとの反応物であるポリカーボネート系ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系ポリオール等が用いられる。本発明の実施形態に係る合成樹脂レザー1においては、その物性からポリエーテル系ポリオールを用いるのが好ましい。また、ポリエーテル系ポリオールを原料とする熱可塑性ポリウレタンは、耐老化性、カレンダー加工性が良いので、この観点からも好ましい。
【0021】
鎖伸長剤としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ブタン1,2ジオール、ブタン1,3ジオール、ブタン1,4ジオール、ブタン2,3ジオール、ヘキサンジオールなどの低分子多価アルコール、或いはジアミン、水が用いられる。
【0022】
前述したように皮膜を熱可塑性ポリウレタンと他の樹脂成分との混合樹脂で形成する場合は、混合する一つの成分としてアクリル系軟質樹脂を選択することができる。アクリル系軟質樹脂は、常温で軟質ポリ塩化ビニルの如く柔軟性を示す樹脂である。このアクリル系軟質樹脂には、硬度がショアAで50〜80のもの、特に55〜65のものが好ましく用いられる。このアクリル系軟質樹脂は、多層構造重合体、すなわち2種以上のアクリル系重合体がコア−シェル型の多層構造を形成している粒子状の重合体が好ましい。これらのアクリル系軟質樹脂は、常温で良好な柔軟性を示し、屈曲耐久性を有し、耐光性に優れている。
【0023】
皮膜10の成分として用いるアクリル系軟質樹脂の一例を示す。炭素数1〜12のアルキル基を持つ少なくとも一種のアクリル酸アルキルエステル30〜99.9重量%、炭素数1〜8のアルキル基を持つ少なくとも一種のメタクリル酸アルキルエステル0〜70重量%、共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%、多官能架橋性単量体及び/又は多官能性グラフト単量体0.1〜10重量%からなる単量体混合物を重合してなるTgが30℃以下である少なくとも1層の重合体層[A]10〜90重量部と、炭素数1〜12のアルキル基を持つ少なくとも一種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、炭素数1〜8のアルキル基を持つ少なくとも一種のメタクリル酸アルキルエステル1〜70重量%、共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%からなる単量体混合物を重合してなるTgが−20〜50℃である少なくとも1層の重合体層[B]90〜10重量部との組合せからなる多層構造重合体であり、且つ最外層が重合体層[B]であるアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0024】
アクリル系軟質樹脂の他の例を示す。炭素数1〜8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル60〜99.5重量%、共重合可能ビニル基を1個有する単官能性単量体0〜39.5重量%、及びビニル基又はビニリデン基を少なくとも2個有する多官能性単量体0.5〜5重量%を重合して得られるゴム層30〜80重量部と、メタアクリル酸メチル40〜100重量%、炭素数1〜8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル0〜60重量%、及び共重合可能なビニル基又はビニリデン基を有する単量体0〜20重量%を重合して得られる硬質樹脂層20〜70重量部とから構成され、且つ最外層が硬質樹脂層であるアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0025】
更に、アクリル系軟質樹脂の他の例を示す。(A)メチルメタクリレート80〜98.99重量%、炭素数1〜8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル1〜20重量%、多官能性グラフト剤0.01〜1重量%及び多官能性架橋剤0〜0.5重量%からなる単量体混合物を重合してなる最内層の硬質重合体層5〜30重量部;(B)炭素数1〜8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル70〜99.5重量%、メチルメタクリレート0〜30重量%、多官能性グラフト剤0.5〜5重量%及び多官能性架橋剤0〜5重量%からなる単量体混合物を重合してなる中間層の硬質重合体層20〜45重量部;(C)メチルメタクリレート90〜99重量%及び炭素数1〜8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル10〜1重量%からなる単量体混合物を重合してなる最外層の硬質重合体層50〜75重量部からなり、平均粒度が0.01〜0.3μmのアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0026】
皮膜10を形成するに際して、熱可塑性ポリウレタンとアクリル系軟質樹脂との配合割合は、熱可塑性ポリウレタン50〜95重量%、アクリル系軟質樹脂60〜5重量%、好ましくは熱可塑性ポリウレタン60〜90重量%、アクリル系軟質樹脂40〜10重量%、より好ましくは熱可塑性ポリウレタン70〜90重量%、アクリル系軟質樹脂30〜10重量%である。
【0027】
混合樹脂層に可塑剤を配合すると、製品の柔軟性、手触りを改善できる。また、可塑剤の配合は混合樹脂のカレンダー加工の加工温度を下げることができ、そのため熱可塑性ポリウレタンの加工時の分解を抑制できる。可塑剤としては、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸イソブチル、フタル酸ジイソデシルなどのフタル酸エステル;トリメリット酸トリ−2エチルヘキシルなどのトリメリット酸エステル;ジ−2エチルヘキシルアジペート、ジ−イソノニルアジペート、ジ−2エチルヘキシルセバケートなどの脂肪族二塩基酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチルなどのエポキシ系可塑剤、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル系、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステルなどが用いられる。このうち、可塑化効率が高く、且つブリード等の問題が少ないという観点から、特に、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステルが好ましく用いられる。可塑剤の配合量は、混合樹脂100重量部に対し0〜50重量部、好ましくは3〜20重量部である。
【0028】
混合樹脂層には、更に必要に応じて、通常合成樹脂の配合に使用される滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、抗菌剤などが配合されていてもよい。滑剤としてはステアリン酸のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウムなどの脂肪族金属塩、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、アルキレンビス脂肪酸アミドなどが用いられる。紫外線吸収剤としては2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等が用いられる。光安定剤としてはビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン系光安定剤等が用いられる。抗菌剤としては銀系無機抗菌剤などが用いられる。
【0029】
皮膜10を形成する混合樹脂層としては、ショアA硬度60〜80を有するものが好ましい。この硬度は、ショアA硬度65〜90の熱可塑性ポリウレタンとショアA硬度50〜80のアクリル系軟質樹脂とを使用することによって得ることができる。そして、この硬度にすることによって、ポリ塩化ビニル100重量部に可塑剤(ジノルマルアルキルフタレート)を70〜100重量部配合した軟質ポリ塩化ビニル層を有するレザーと同様な柔軟さ、手触り、感触を有するレザーが得られる。
【0030】
皮膜10の表面に塗布される表面処理剤は、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋したものである。
【0031】
表面処理剤に添加されるカルボジイミド基含有水性架橋剤としては、脂肪族系カルボジイミドを用い、添加量は、水性ポリカーボネート系ポリウレタン100に対して4〜10重量部、好ましくは6重量部とする。
【0032】
基材12としては、織物、編物又は不織布が用いられる。これらの編織物の素材はポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、綿、レーヨン、これらの混紡糸などである。編物としては、両面編物、天竺編物などであり、織物としては、平織物、綾織物、朱子織物などである。
【0033】
接着層11を形成する接着剤としては、二液型ポリウレタン接着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、ポリ塩化ビニルペーストなどが用いられる。この接着剤は、基材12側に塗布しても、皮膜10側に塗布してもよい。
【実施例】
【0034】
熱可塑性ポリウレタン、アクリル系軟質樹脂、メタクリル酸メチル−アクリル酸アルキル共重合体、炭酸カルシウム、抗酸化剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤を表1の割合で配合し、カレンダー成形によって厚さ0.25mmの皮膜10を成形した。
【0035】
実施例1は、その皮膜10の表面に水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤(水性ポリカーボネート系ポリウレタン100重量部に対して架橋剤6重量部)をコンマコート法で100μmの膜厚で塗布し、55℃×24時間のエージング処理を行って表面処理層10Aを形成した。
【0036】
実施例2は、前述した皮膜10の表面に水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤とイソシアネート系架橋剤(配合割合1/1)で架橋した表面処理剤(水性ポリカーボネート系ポリウレタン100重量部に対して架橋剤6重量部)をコンマコート法で100μmの膜厚で塗布し、55℃×24時間のエージング処理を行って表面処理層10Aを形成した。
【0037】
一方、皮膜10に対して非架橋の水性ポリカーボネート系ポリウレタンをコンマコート法で100μmの膜厚で塗布して比較例とした。
【0038】
実施例と比較例は、共に、皮膜10を160℃に加熱し、絞ロールとゴムロールとで加圧して絞付けを行い、ポリエステル繊維の両面メリヤス編み物による基材12に二液ポリウレタン接着剤を塗布して接着層11を形成し、接着剤塗布面に皮膜10を重ね多少加熱加圧して接着させて、絞模様が付いた合成樹脂レザーを得た。
【0039】
これらの実施例1,2と比較例について、耐摩耗性、耐寒屈曲性、柔軟性、耐薬品性の各試験を行って、表1の結果を得た。ここで、耐摩耗性試験は、JIS L0823(染色堅牢度試験用摩擦試験機)に規定する学振形摩擦試験機を用い、荷重1kgでJIS L3102の6号綿帆布による摩擦試験を実施し、30000回往復での破れの有無を評価した(幅10mmで3mmのウレタンフォームを貼り付けたものを試験片した。○:皮膜の破れがない、×:皮膜の破れがある)。耐寒屈曲性は、デマッチャ屈曲試験機を使用し、JIS K6260に準拠した、一定のストロークで試験片(70mm×40mm)に繰り返し屈曲の負荷を与え、−30℃×30000回の繰り返しで割れの有無を評価した(○:割れなし、×:割れ有り)。柔軟性の評価は、試験片を手で触り、その感触を軟質ポリ塩化ビニルレザーと対比して同等の柔軟性が得られるか否かで評価した(○:同等の感触を有する。×:感触が硬く、軟質ポリ塩化ビニルレザーの代替え不可)。耐薬品性の評価は、任意の大きさに採取した試験片上にろ紙を4枚重ね、オレイン酸を1.2ml滴下した。これをアルミホイルで密閉し、80℃環境下で24時間放置後取り出し、表面を叩くように拭き取り、試験片の浮き、破れ、処理層の剥がれを目視にて観察した(○:良好、△:やや不良、×:不良)。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、実施例1,2と比較例との比較では、皮膜の樹脂成分の共通性から、共に耐寒屈曲性と柔軟性で良好な評価を得ているが、表面処理層の違いによって、比較例の耐摩耗性が劣るのに対して、実施例1,2では耐摩耗性でも良好な評価が得られた。また、耐薬品性においては、実施例1でよい結果が得られたのに対して、実施例2ではそれほどの良い結果が得られず、比較例では悪い結果が得られた。
【0042】
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーは、良好な柔軟性と屈曲性に加えて、良好な耐摩耗性を備えている。特に、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜10の表面に水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤を塗布することによって、耐薬品性(耐オレイン酸性)の高い表面処理層10Aを形成することができ、人体の一部が頻繁に接触するようなところでの使用に対しても良好な耐摩耗性を維持することができる。本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーは、その利点を生かした各種の用途に用いることができる。例えば、自動車などの車両内装(座席、ヘッドレストなど)などに用いられる。
【符号の説明】
【0043】
1:合成樹脂レザー,
10:皮膜,
10A:表面処理層,
11:接着層,
12:基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜の裏面側に接着層を介して基材を接着した合成樹脂レザーであって、
前記皮膜は、その表面に表面処理層を有し、該表面処理層は、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤の塗布によって形成されていることを特徴とする合成樹脂レザー。
【請求項2】
前記皮膜が、ショアA硬度65〜90の熱可塑性ポリウレタン50〜95重量%とショアA硬度50〜80のアクリル系軟質樹脂50〜5重量%との混合樹脂層であることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂レザー。
【請求項3】
熱可塑性ポリウレタンを主成分とする皮膜を成形する皮膜成形工程と、
成形された前記皮膜の表面に、水性ポリカーボネート系ポリウレタンをカルボジイミド基含有水性架橋剤で架橋した表面処理剤を塗布して表面処理層を形成する表面処理工程と、
前記皮膜の裏面側に接着層を介して基材を接着する基材接着工程とを有することを特徴とする合成樹脂レザーの製造方法。
【請求項4】
前記皮膜成形工程はカレンダー成形によってなされることを特徴とする請求項3に記載された合成樹脂レザーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−214192(P2011−214192A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83702(P2010−83702)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】