説明

合成樹脂増量剤、及びセルロース系炭化物の製造方法

【課題】
リグノセルロース資源からの合成樹脂増量剤、又はセルロース系炭化物を簡便に、且つ、低コストで得ることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】
リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留処理を施す水蒸気蒸留工程と、水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程において得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程と、微粉末化工程において得られた微粉末に対して150℃〜250℃の温度で過熱水蒸気処理を施す過熱水蒸気処理工程とを備えることを特徴とする合成樹脂増量剤の製造方法、又は当該微粉末対して200℃〜400℃の温度で加熱処理を施す加熱処理工程とを備えることを特徴とするセルロース系炭化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース資源を原料とした合成樹脂増量剤、及びセルロース系炭化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、二酸化炭素の排出削減や、環境ホルモンの生成抑制等の環境問題に対する関心が高まるにつれて、これら二酸化炭素や環境ホルモンの発生要因たる化石燃料資源からリグノセルロース資源へと資源供給源がシフトする傾向にある。
【0003】
リグノセルロース資源としては、例えば、ブナ、ユーカリ、米松、檜、杉等の木材類、竹や笹等の竹類、イナワラ、ムギワラ、バガス、パルプ等を挙げることができ、そして、これらの材料から生成された古紙、又は再生紙等もその範疇に含めることができる。
【0004】
これまでに、本願の発明者等は、上記リグノセルロース資源からエタノールの製造方法(特許文献1)を基本発明とし、エタノールの製造中途の糖化工程において得られる未糖化の残渣物からセルロース系炭化物を製造する方法(特許出願済み:特願2008−028892)や、同残渣物に対して過熱水蒸気処理を施すことによって得られる過熱水蒸気処理物と合成樹脂とを混錬することで、得られる高分子組成物の耐熱性を向上させる、等といった、リグノセルロース資源の資源供給源としての有用性について鋭意研究を行ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−065870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記エタノールの製造方法の糖化工程で得られる残渣物は、当該糖化工程での酵素糖化反応において、添加されるセルラーゼ等の加水分解酵素が作用することにより、ある程度の分子量にまで低分子化されている。特に、リグノセルロース資源に豊富に含まれるセルロース等は、もともとは、分子量が10万程度の高分子であり、上記酵素消化処理によって、分子量が約1万程度にまで低分子化する。そして、糖化液として回収されない不溶成分が残渣物として得られることになる。
【0007】
酵素消化処理によって低分子化された残留物は、過熱水蒸気処理を施すことにより、水分、又は油分が除去されることで、分子量1万程度の合成樹脂との混錬が可能な合成樹脂増量剤として利用することができる。このようにして得られる高分子組成物は耐熱性に優れたものであり、例えば、調理用の耐熱性容器、灰皿、又は自動車のエンジンルーム内の耐熱性部品等に用いることができる。
【0008】
しかしながら、積極的に上記合成樹脂増量剤や、セルロース系炭化物を製造する場合に、エタノールの製造方法の糖化工程で得られる残渣物を利用することは、製造工程の煩雑化や、得られる残渣物の収量が少量であった場合などには、ランニングコストの高騰を招く要因となる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、リグノセルロース資源からの合成樹脂増量剤、又はセルロース系炭化物を簡便に、且つ、低コストで得ることが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る合成樹脂増量剤の製造方法は、リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留処理を施す水蒸気蒸留工程と、水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程において得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程と、微粉末化工程において得られた微粉末に対して150℃〜250℃の温度で過熱水蒸気処理を施す過熱水蒸気処理工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る合成樹脂増量剤の製造方法は、上記合成樹脂増量剤の製造方法において、上記微粉末化工程は、粉末のサイズが1000μmから20μmへと逐次的に小さくなるよう微粉末化する複数の工程を含むことを特徴とする。
【0012】
そして、本発明に係るセルロース系炭化物の製造方法は、リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留処理を施す水蒸気蒸留工程と、水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程において得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程と、微粉末工程において得られた微粉末に対して200℃〜400℃の温度で加熱処理を施す加熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るセルロース系炭化物の製造方法は、上記セルロース系炭化物の製造方法において、上記微粉末化工程は、粉末のサイズが1000μmから20μmへと逐次的に小さくなるよう微粉末化する複数の工程を含むことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係るセルロース系炭化物の製造方法は、上記加熱工程では、上記粉砕物は250℃〜350℃の温度に加熱されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リグノセルロース資源からの合成樹脂増量剤、又はセルロース系炭化物を簡便に、且つ、低コストで得ることが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかる合成樹脂増量剤、及び炭化物の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図2】従来の合成樹脂増量剤、及び炭化物の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0018】
まず、本発明の実施の形態の説明に先だって、従来のエタノールの製造方法にかかる糖化工程での酵素消化処理において得られた残渣物から合成樹脂増量剤、及びセルロース系炭化物(以下、炭化物と称す)の製造方法について図2を用いて説明する。
【0019】
図2は、上記合成樹脂増量剤、又は炭化物の製造方法の一例を説明するフローチャートである。本製造方法では、原料となるリグノセルロース資源100に対して水蒸気蒸留を施す水蒸気蒸留工程10’と、水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程20’と、粉砕工程20’により得られた粉砕物と液体媒体とを混合する混合工程70と、所定の酵素を添加することにより酵素糖化反応を促す糖化工程80と、糖化工程80で生成された未分解のセルロース、キシラン等や、リグニン成分等の残渣物104と糖化液105とを分離する分離工程90と、分離工程90において分離された残渣物104に対して150℃〜250℃の温度で過熱水蒸気処理を施す過熱水蒸気工程40’と、同残渣物104に対して200〜400℃の温度に加熱する加熱工程60’との工程が行われる。なお、分離工程90において分離された糖化液105には、酵母又は細菌110が添加され、エタノール106が生成される。
【0020】
まず、リグノセルロース資源100の代表的なものとしては、ブナ、ユーカリ、米松、檜、杉等の木材、竹、笹、イナワラ、ムギワラ、バガス、パルプ、海藻類や、これらの資源から生じる農業・産業廃棄物等を挙げることができる。
【0021】
水蒸気蒸留工程10’は、所定の大きさとしたリグノセルロース資源100を水蒸気蒸留処理し、当該リグノセルロース資源100中に含まれる精油、又は親水性成分を流出成分107として外部に流出させる工程である。
【0022】
上記水蒸気蒸留工程10’において使用されるリグノセルロース資源100の大きさは、水蒸気蒸留処理を行うことができればどのような大きさであってもよい。なお、当該水蒸気蒸留工程10’の前段階において、予め所定の形状、大きさとするための予備粉砕処理を行ってもよいし、所定のチップ形状とするためのチップ化工程を行ってもかまわない。この場合、リグノセルロース資源100を所定の形状、大きさに均一化することができるため、リグノセルロース資源100に対して効率良く水蒸気蒸留処理を施すことができる。
【0023】
前述したように、リグノセルロース資源100には、その細胞中に、水に対して不溶な新油性の精油と、水に対して可溶な親水性成分と、が含まれている。精油は、油状から半固体状で得られる揮発性物質であり、親水性成分は、有機酸類や糖類である。そして、水蒸気蒸留工程10’では、当該精油や沸点の低い親水性成分が蒸気と共に流出し、沸点の高い親水性成分が蒸気中の水滴に溶解して発生する加熱水蒸気として系外に流出する。この水蒸気蒸留処理によって発生する加熱水蒸気により、リグノセルロース資源100から精油と親水性成分とを流出させることができる。また、精油と親水性成分とをリグノセルロース資源100から流出させることで、リグノセルロース資源100中に含まれるセルロース、キシラン等の露出面を増加させることができ、その結果、後に続く糖化工程80において、当該セルロース、キシラン等と酵素とが接触し易くなり、セルロース、キシラン等の糖化を促進させることができる。
【0024】
また、水蒸気蒸留工程10’では、例えば、泥、砂、カビ、又は細菌等の不純物が付着したリグノセルロース資源100であっても、その付着した不純物を洗い流すことができ、後に続く糖化工程80における酵素糖化反応を阻害するような不純物を除去するための前処理を行う必要がない。
【0025】
粉砕工程20’においては、リグノセルロース資源100を大凡1000μmのサイズとなるように粉砕するのが好ましい。なお、当該リグノセルロース資源100の粉砕は、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星型ボールミル、ロールミル、ディスクミル、ビーズミル、高速回転羽根型ミキサー、又はホモミキサー等を用いることができる。
【0026】
粉砕工程20’により、リグノセルロース資源100の主構成成分である、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニン等から成るネットワーク構造が破壊され、セルロース、キシラン等が結晶化したものによって形成されるミクロフィブリルの一部を露出させることができる。これにより、後に続く糖化工程80において、セルロース、キシラン等が酵素と接触し易い状態となり、セルロース、キシラン等の糖化を促進させることができる。
【0027】
混合工程70は、水蒸気蒸留処理、及び粉砕処理が施されたリグノセルロース資源100を液体媒体108と混合する工程である。このとき、糖化工程80で用いられる酵素の至適pHの範囲内となるように、リグノセルロース資源100と液体媒体108との混合液のpHを調整する。
【0028】
この混合工程70において、液体媒体108と混合されるリグノセルロース資源100の混合量は、40%以下であることが望ましい。ここで、例えば、リグノセルロース資源100の混合量が50%以上である場合、粉末状のリグノセルロース資源100が湿り気を帯びるだけで混合液とはならない。このような状態で酵素を投入したとしても、円滑な酵素糖化反応は進行しない。
【0029】
この混合工程70で使用される液体媒体108としては、酵素糖化反応を阻害しないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水やpH緩衝溶液等を用いることができる。ここで、例えば、液体媒体108として、pH緩衝溶液を用いる場合、酵素糖化反応に用いられる酵素の至適pHに合わせたpH緩衝溶液を選択し、リグノセルロース資源100と混合する。これにより、糖化工程80において、酵素の至適pHの範囲から外れにくくなり、円滑に酵素糖化反応を行うことができる。
【0030】
また、例えば、液体媒体108として、水を用いる場合、リグノセルロース資源100と混合した後で、当該混合液に酸、又はアルカリを投入して、酵素の至適pHの範囲内となるように、混合液のpHを調整する。なお、本製造方法においては、水蒸気蒸留工程10’において、リグノセルロース資源100から精油と親水成分とを流出成分107として流出させているため、酵素糖化反応中に流出して混合液中のpHを変化させるような有機酸等の量は少なくなっている。そのため、少量の酸、又は少量のアルカリで混合液のpHを酵素の至適pHの範囲内に調整することができる。また、上記のように、リグノセルロース資源100から流出する有機酸等の量は少量であるため、酵素糖化反応中にpHが酵素の至適pHの範囲から外れ難くなり、円滑に酵素糖化反応を行うことができる。
【0031】
糖化工程80は、例えば、セルラーゼ等の酵素109を用い、セルロース、キシラン等をグルコース、キシロースに分解する方法において用いられる条件下で行うことができる。一般的に、セルラーゼを用いた加水分解反応における混合液の至適pHの範囲は、4.0〜7.5であり、至適温度範囲は、20.0〜40.0℃である。そのため、糖化工程80では、前工程の混合工程70における混合液のpHを4.0〜7.5の範囲となるよう調整する。そして、糖化工程80においては、酵素糖化反応を円滑に進行させるために、酵素109の至適pH,及び至適温度の範囲内となるように、反応系中のpH、及び温度を調整する。
【0032】
分離工程90は、糖化工程80で生成された糖化液105と、未分解のセルロース、キシラン等や、リグニン成分等の不溶性の残留する残渣物104と、を分離する工程である。ここで用いられる分離手段としては、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等のろ過膜を用いることができる。
【0033】
過熱水蒸気工程40’は、分離工程90において分離された残渣物104を、蒸発した飽和水蒸気を常圧のままさらに150℃〜250℃の温度で加熱することで、合成樹脂増量剤101’を得る工程である。、飽和水蒸気雰囲気下においては、無酸素状態であり熱伝導性が高いため、残渣物104’から残留する水分や、油分等の不純物を効率良く除去することができる。なお、過熱水蒸気は間接加熱方式、又は直接加熱方式の何れの方式で生成させてよく、その生成方法に制限はない。
【0034】
そして、過熱水蒸気工程40’で得られた合成樹脂増量剤101’と、例えば、ポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等といった所望の合成樹脂111と、を所定の温度で混錬することにより(混錬工程50’)、耐熱性を向上させた高分子組成物102’を得ることができる。
【0035】
加熱工程60’は、分離工程90において分離された残渣物104を、例えば、電気炉等を用い、空気雰囲気下で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度に加熱することで、低温炭化させる工程である。一般的に、トドマツ材等のリグノセルロース資源の空気雰囲気下での炭化反応は、加熱温度200℃〜300℃において、カルボキシル基等の含酸素官能基の生成が顕著になることが、元素分析、又はフーリエ変換赤外吸収スペクトル測定等によって明らかにされている(本間等、林産試験場報、第15巻、第1号)。したがって、分離工程90において分離された残渣物104を、空気雰囲気下で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度に加熱することで、リグノセルロース資源から含酸素官能基を有する炭化物103’を得ることができる。
【0036】
なお、糖化工程80において得られた糖化液105に対して酵母、又は細菌110を投入し、糖化液105中のグルコースや、キシロース等を発酵させる。ここで用いられる酵母、又は細菌110は、糖化液105中のグルコースや、キシロース等を発酵させることができれば、特に限定はなく、例えば、パン酵母等を用いることができる。なお、発酵条件は、用いられる酵母、又は細菌に応じて適宜変更するとよい。また、一種類の酵母、又は細菌を単独で用いてもよいが、複数種類の酵母、又は細菌を組み合わせて用いてもよい。そして、得られた発酵液を適当な蒸留装置を用いて蒸留することにより、エタノール106を製造することができる。
【0037】
このように、エタノールの製造方法の糖化工程で得られる残渣物から合成樹脂増量剤、又は炭化物を製造することは可能であるが、上述したように、当該製造方法では、製造工程の煩雑化や、得られる残渣物の収量が少量であった場合などには、ランニングコストの高騰を招く要因となる。
【0038】
次に、上記課題を解決することが可能な本発明に係る合成樹脂増量剤、又は炭化物の製造方法について説明する。
【0039】
図1は、本発明に係る合成樹脂増量剤、又は炭化物の製造方法の一例を説明するフローチャートである。本製造方法では、原料となるリグノセルロース資源100に対して水蒸気蒸留を施す水蒸気蒸留工程10と、水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程20と、粉砕工程20により得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程30と、微粉末化工程30において得られた微粉末に対して150℃〜250℃の温度で過熱水蒸気処理を施す過熱水蒸気工程40と、同微粉末に対して200〜400℃の温度に加熱する加熱工程60との工程が行われる。
【0040】
まず、リグノセルロース資源100の代表的なものとしては、ブナ、ユーカリ、米松、檜、杉等の木材、竹、笹、イナワラ、ムギワラ、バガス、パルプ、海藻類や、これらの資源から生じる農業・産業廃棄物等を挙げることができる。
【0041】
水蒸気蒸留工程10は、所定の大きさとしたリグノセルロース資源100を水蒸気蒸留処理し、当該リグノセルロース資源100中に含まれる精油、又は親水性成分を流出成分として外部に流出させる工程である。
【0042】
上記水蒸気蒸留工程10において使用されるリグノセルロース資源100の大きさは、水蒸気蒸留処理の容易さ、及び後の粉砕工程20、又は微粉末化工程30において処理が簡便となるように、おおよそ5cm程度となるように調整する。なお、当該水蒸気蒸留工程10の前段階において、予め所定の形状、大きさとするための予備粉砕処理を行ってもよいし、所定のチップ形状とするためのチップ化工程を行ってもかまわない。
【0043】
前述したように、リグノセルロース資源100には、その細胞中に、水に対して不溶な新油性の精油と、水に対して可溶な親水性成分と、が含まれている。精油は、油状から半固体状で得られる揮発性物質であり、親水性成分は、有機酸類や糖類である。そして、水蒸気蒸留工程10では、当該精油や沸点の低い親水性成分が蒸気と共に流出し、沸点の高い親水性成分が蒸気中の水滴に溶解して発生する加熱水蒸気として系外に流出する。この水蒸気蒸留処理によって発生する加熱水蒸気により、リグノセルロース資源100から精油と親水性成分とを流出させることができる。なお、精油と親水性成分とを可能な限り流出させるために、本水蒸気蒸留工程10は、8時間以上継続して行うことが望ましい。
【0044】
また、水蒸気蒸留工程10では、例えば、泥、砂、カビ、又は細菌等の不純物が付着したリグノセルロース資源100であっても、その付着した不純物を洗い流すことができる。
【0045】
粉砕工程20においては、リグノセルロース資源100を大凡1000μmのサイズとなるように粉砕し、例えば、ロータリーキルン等で乾燥させる。なお、当該リグノセルロース資源100の粉砕は、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星型ボールミル、ロールミル、ディスクミル、ビーズミル、高速回転羽根型ミキサー、又はホモミキサー等を用いることができる。
【0046】
微粉砕化工程30では、粉砕工程20において粉砕した大凡1000μmのサイズの粉砕物をさらに、500μm、200μm、100μm、60μmと、逐次的に小さくなるように複数の工程を経て微粉末化する。最終的には、例えば、ボールミル、又はロットミル等を用いて20μm程度のサイズまで微粉末化する。
【0047】
過熱水蒸気工程40は、微粉末化工程30において得られた大凡20μmのサイズの微粉末を、蒸発した飽和水蒸気を常圧のままさらに150℃〜250℃の温度で加熱することで、合成樹脂増量剤101を得る工程である。、飽和水蒸気雰囲気下においては、無酸素状態であり熱伝導性が高いため、当該微粉末から残留する水分や、油分等の不純物を効率良く除去することができる。なお、過熱水蒸気は間接加熱方式、又は直接加熱方式の何れの方式で生成させてよく、その生成方法に制限はない。
【0048】
そして、過熱水蒸気工程40で得られた合成樹脂増量剤101と、例えば、ポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等といった所望の合成樹脂111と、を所定の温度で混錬することにより(混錬工程50)、耐熱性を向上させた高分子組成物102’を得ることができる。
【0049】
加熱工程60は、微粉末化工程30において得られた大凡20μmのサイズの微粉末を、例えば、電気炉等を用い、空気雰囲気下で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度に加熱することで、低温炭化させる工程である。一般的に、トドマツ材等のリグノセルロース資源の空気雰囲気下での炭化反応は、加熱温度200℃〜300℃において、カルボキシル基等の含酸素官能基の生成が顕著になることが、元素分析、又はフーリエ変換赤外吸収スペクトル測定等によって明らかにされている(本間等、林産試験場報、第15巻、第1号)。したがって、分離工程90において分離された残渣物104を、空気雰囲気下で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度に加熱することで、リグノセルロース資源から含酸素官能基を有する炭化物103を得ることができる。
【0050】
このように、エタノールの製造方法の糖化工程での酵素糖化反応においては、添加されるセルラーゼ等の加水分解酵素が作用することにより、リグノセルロース資源に豊富に含まれるセルロース等が分解され、リグノセルロース資源を低分子化させていたが、本願発明では、リグノセルロース資源を、例えば、ボールミル、又はロットミル等の物理的切断手段を用いることにより、リグノセルロース資源の低分子化を図っている。このような構成とすることにより、リグノセルロース資源から無駄なく合成樹脂増量剤、又は炭化物を製造することができる。なお、製造された合成樹脂増量剤を用いて、合成樹脂と混錬することで耐熱性が向上した高分子組成物を得ることは無論のこと、炭化物については、例えば、黒色顔料として複写機トナー、印刷インキ、電池電極棒、又はタイヤ等に利用することができる。
【0051】
以上のように、本発明によれば、リグノセルロース資源からの合成樹脂増量剤、又はセルロース系炭化物を簡便に、且つ、低コストで得ることが可能な製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
10、10’ 水蒸気蒸留工程
20、20’ 粉砕工程
30 微粉末化工程
40、40’ 過熱水蒸気工程
50、50’ 混錬工程
60、60’ 加熱工程
70 混合工程
80 糖化工程
90 分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留処理を施す水蒸気蒸留工程と、
前記水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程において得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程と、
前記微粉末化工程において得られた微粉末に対して150℃〜250℃の温度で過熱水蒸気処理を施す過熱水蒸気処理工程とを備えること
を特徴とする合成樹脂増量剤の製造方法。
【請求項2】
前記微粉末化工程は、
粉末のサイズが1000μmから20μmへと逐次的に小さくなるよう微粉末化する複数の工程を含むこと
を特徴とする請求項1に記載の合成樹脂増量剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法により製造された合成樹脂増量剤と合成樹脂とを混錬して得られる高分子組成物。
【請求項4】
リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留処理を施す水蒸気蒸留工程と、
前記水蒸気蒸留処理が施された水蒸気蒸留処理物を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程において得られた粉砕物をさらに微粉末化する微粉末化工程と、
前記微粉末化工程において得られた微粉末に対して200℃〜400℃の温度で加熱処理を施す加熱処理工程とを備えること
を特徴とするセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項5】
前記微粉末化工程は、
粉末のサイズが1000μmから20μmへと逐次的に小さくなるよう微粉末化する複数の工程を含むこと
を特徴とする請求項4に記載のセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程では、
前記粉砕物は250℃〜350℃の温度に加熱されること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載の炭化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−111514(P2011−111514A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268302(P2009−268302)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【Fターム(参考)】