説明

合成樹脂水性エマルジョン組成物およびそれを含むセメント組成物

【課題】モルタル、セメントペースト、コンクリート等のセメント組成物の流動性を改善するとともに、炭酸ガスおよび塩化物イオンのセメント組成物への浸入を抑制し、かつセメント組成物の吸水性を低減することのできる合成樹脂水性エマルジョン組成物を提供すること。
【解決手段】アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物を重合してカチオン性水溶性重合体とし、これを保護コロイドとして不飽和モノマーをエマルジョン重合して得られるカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させた合成樹脂水性エマルジョン組成物である。また、この合成樹脂水性エマルジョン組成物が、セメントに対して固形分基準で0.05〜100質量%添加されていることを特徴とするセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤としての合成樹脂水性エマルジョン組成物およびそれを含むセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モルタル、コンクリート、セメントペースト等のセメント組成物の作製において、より少ない水の使用量でセメントを混和することによってコンクリート等の密度の向上と強度の改善が図られている。少ない水量でセメント組成物の流動性を確保するために、一般的に減水剤が配合されている。このような減水剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリカルボン酸等が実用的に用いられているが、セメント組成物の流動性を上げるためにその使用量が多くなる傾向があった。
【0003】
また、コンクリート等は、気象条件、海水等の外的因子に長期間さらされることによって、劣化することが知られている。特に、鉄筋コンクリートにおいては、建造直後ではセメント中に含まれる水酸化カルシウムによってpH12〜13の強塩基性を呈しているが、常にその表面より大気中の炭酸ガスの浸入を受けている。そして、時間の経過に従い浸入する炭酸ガスによりその表面部から鉄筋周辺部まで次第に中性化されることで、コンクリート自身の膨張収縮およびコンクリート内部の鉄筋に錆が発生し、鉄筋コンクリートの寿命を短くしている。また、海水等に含まれる塩化物イオンも炭酸ガスと同じように鉄筋コンクリートの表面部から鉄筋周辺部まで次第に浸入することで、鉄筋に錆が発生し、鉄筋コンクリートの寿命を短くしている。そこで、セメント組成物への炭酸ガスおよび塩化物イオンの浸入を抑制させるための添加剤として、フェノールまたはアルキルフェノールに酸化エチレンおよび酸化プロピレンのモノマーまたは重合物を反応させて得られるモノアリールエーテルが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平6−78185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記添加剤を配合したセメント組成物も炭酸ガスおよび塩化物イオンの浸入抑制効果が未だ十分とは言えず、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さを余分に確保したり、定期点検を実施したりする等の対策が採られているのが実情である。
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、モルタル、セメントペースト、コンクリート等のセメント組成物の流動性を改善するとともに、炭酸ガスおよび塩化物イオンのセメント組成物への浸入を抑制し、かつセメント組成物の吸水性を低減することのできる合成樹脂水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、炭酸ガスおよび塩化物イオンの浸入が抑制され、より少ないW/C(水/セメント)値領域において流動性および耐久性に優れたセメント組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記のような従来の課題を解決すべく鋭意研究、開発を遂行した結果、特定のカチオン性水溶性重合体を保護コロイドとして、不飽和モノマーのエマルジョン重合を行って得られるカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させた合成樹脂水性エマルジョン組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物を重合してカチオン性水溶性重合体とし、これを保護コロイドとして不飽和モノマーをエマルジョン重合して得られるカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させたことを特徴とする合成樹脂水性エマルジョン組成物である。
上記合成樹脂水性エマルジョン組成物において、アミノ基含有不飽和モノマーは、ジアルキルアミノ基含有不飽和モノマーであることが好ましい。
上記合成樹脂水性エマルジョン組成物において、カチオン性合成樹脂水性エマルジョンは、固形分基準で10〜95質量%のカチオン性水溶性重合体を含むことも好ましい。
上記合成樹脂水性エマルジョン組成物において、アミノ基含有不飽和モノマーは、アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物中に5〜50質量%含まれることが望ましい。
また、本発明は、上記合成樹脂水性エマルジョン組成物が、セメントに対して固形分基準で0.05〜100質量%添加されていることを特徴とするセメント組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モルタル、セメントペースト、コンクリート等のセメント組成物の流動性を改善するとともに、炭酸ガスおよび塩化物イオンのセメント組成物への浸入を抑制し、かつセメント組成物の吸水性を低減することのできる合成樹脂水性エマルジョン組成物を提供することができる。また、本発明によれば、炭酸ガスおよび塩化物イオンの浸入が抑制され、より少ない水/セメント(W/C)値領域において流動性および耐久性に優れたセメント組成物を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による合成樹脂水性エマルジョン組成物は、アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物を重合してカチオン性水溶性重合体とし、これを保護コロイドとして不飽和モノマーをエマルジョン重合して得られるカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させたことを特徴とする。
【0009】
保護コロイドとしてのカチオン性水溶性重合体は、アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる。
ここで、モノマー組成物に含まれるアミノ基含有不飽和モノマーとしては、主にモノアルキルアミノ基含有不飽和モノマー、ジアルキルアミノ基含有不飽和モノマー、トリアルキルアミノ基含有不飽和モノマーが挙げられる。より具体的には、アクリル酸モノメチルアミノエチル、メタクリル酸モノメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、アリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、1−ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド塩、ジメチルアミノエチルメタクリレートベンジルクロライド塩、N,N,N−トリメチル−N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジアルキルアミノ基含有不飽和モノマーを用いることで、セメント組成物に添加した際に流動性をより向上させることのできる合成樹脂水性エマルジョン組成物が得られる。
【0010】
また、このアミノ基含有不飽和モノマーは、アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物中に好ましくは5〜50質量%、より好ましくは7〜37質量%含まれる、即ち、カチオン性水溶性重合体を構成する全モノマー量に対して好ましくは5〜50質量%、より好ましくは7〜37質量%であることが好ましい。アミノ基含有不飽和モノマーが5質量%未満では、得られるカチオン性水溶性重合体の親水性が低くなることがあり、保護コロイドとしてエマルジョン重合して最終的に得られる合成樹脂水性エマルジョン組成物の分散安定性が低くなり、エマルジョン粒子の沈降を生じることがあるため好ましくない。一方、50質量%を越えると、エマルジョンとしての粘度が極めて高くなり、作業性が悪くなることがあるため好ましくない。
【0011】
モノマー組成物に含まれる他の不飽和モノマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素数1〜20の側鎖を持った(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸β−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ヘプチル等が挙げられる。
【0012】
カチオン性水溶性重合体の重合に用いる溶剤としては、水溶性または親水性の溶剤であれば制限されるものではないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの溶剤は単独で、または2種以上を混合して用いることが可能である。この重合反応は、例えば、60〜130℃の温度で油溶性重合開始剤を用いて行うことができる。このような油溶性重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチル)アゾ]ホルムアミド、1,1'−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、キュメンハイドロパーオキシド、ジブチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート等が挙げられる。
【0013】
アミノ基含有不飽和モノマーとしてモノ(ジ)アルキルアミノ基含有不飽和モノマーを用いて重合されたカチオン性水溶性重合体の場合には、モノ(ジ)アルキルアミノ基に対して0.1〜2.5当量の酸で中和し、水に溶解または分散し易くするのがよい。このような酸としては、例えば、炭酸、燐酸、酢酸、蟻酸、乳酸、酪酸、塩酸等が挙げられる。
【0014】
次に、上記重合で得られたカチオン性水溶性重合体を水に溶解または分散して保護コロイドとし、水を媒体として、1種以上の不飽和モノマーをエマルジョン重合することにより、カチオン性合成樹脂水性エマルジョンが得られる。このエマルジョン重合に用いる不飽和モノマーは、特に制限されるものではないが、例えば、炭素数1〜20の側鎖を持った(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸β−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ヘプチル等が挙げられる。
【0015】
このエマルジョン重合で用いられる触媒については、水溶性重合開始剤を用いる。好ましくはカチオン性の水溶性触媒がよい。このような水溶性重合開始剤としては、例えば、アゾビス−2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス−2−アミノプロパンジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]2塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]硫酸塩一水和物、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物等が挙げられる。また、エマルジョン重合反応は70℃〜100℃の温度で行うことができる。
【0016】
また、本発明において、カチオン性合成樹脂水性エマルジョンは、固形分基準で好ましくは10〜95質量%、より好ましくは25〜80質量%のカチオン性水溶性重合体を含むことが望ましい。保護コロイドとしてのカチオン性水溶性重合体が少な過ぎる場合、エマルジョン粒子の分散安定性が得難くなり、沈降を生じることがあるため好ましくない。一方、カチオン性水溶性重合体が多過ぎる場合、粘度が高くなり、作業性が悪くなることがあるため好ましくない。なお、エマルジョン重合後、カチオン性水溶性重合体の固形分が10〜95質量%の比率の範囲内であれば、この合成樹脂水性エマルジョンにカチオン性水溶性重合体を後添加してもよい。
【0017】
次に、上記エマルジョン重合で得られたカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させることにより、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物が得られる。
ここで、カチオン性合成樹脂水性エマルジョンに添加するエポキシ基含有化合物は、アミノ基含有不飽和モノマーのアミノ基に対して0.1〜5.0当量が好ましく、0.4〜3.0当量がより好ましい。この反応は20〜100℃で行うことができる。これにより、アミノ基とエポキシ基とが反応することで、セメント組成物の流動性および耐久性アップに寄与する。
【0018】
ここで用いるエポキシ基含有化合物としては、水溶性あるいは油溶性のどちらでもよく、1分子当たり含有しているエポキシ基の数は、1個、2個、あるいは2個以上の多官能基数を含んでいてもかまわず、また、他にエポキシ基含有不飽和モノマーであってもかまわない。
このような1個のエポキシ基を含有する化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルフタルイミド、クレジルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、スチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
また、エポキシ基を2個以上含有する化合物としては、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、カテコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフロロアセトンジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル化合物等の脂環式ジグリシジルエーテル化合物、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族ジグリシジルエーテル化合物、ポリサルファイドジグリシジルエーテル等のポリサルファイド型ジグリシジルエーテル化合物、ジグリシジルアニリン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリフェニルグリシジルエーテルメタン、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、3、4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3、4エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、ノボラックグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0019】
本発明によるセメント組成物は、上記で得られた合成樹脂水性エマルジョン組成物が、セメントに対して固形分基準で0.05〜100質量%、好ましくは0.2〜30質量%添加されているものである。
本発明のセメント組成物は、基本的にはセメント、骨材および合成樹脂水性エマルジョン組成物よりなるが、本発明の性能を損なわない範囲で、他の反応性モノマー、分散剤、遅延剤、早強剤、促進剤、起泡剤、発泡剤、増粘剤、防水剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等の公知慣用の添加剤を添加することも可能である。また、他の減水剤、AE剤、高性能AE減水剤等を併用することも可能である。
【0020】
ここで用いるセメントとしては、ポルトランドセメント、アルミナセメント、天然セメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。骨材としては、例えば、珪砂、珪砂石、シラスバルーン、軽量骨材、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、カオリン、石英、ジルコニア、フライアッシュ、パーライト粒子、ガラス球粒子、粗骨材等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに説明する。なお、例中、部とあるのは質量部を意味する。
【0022】
<製造実施例1>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、水4.0部およびエタノール2.8部を入れて加熱、85〜90℃で還流させ、下記表1に示される成分Aを1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1部およびエタノール0.8部を加え、還流下でさらに1時間放置した。撹拌下で蟻酸1.7部および水57.0部を加え、固形分33質量%の保護コロイド水溶液(カチオン性水溶性重合体)を得た。
次に、温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、上記で得られた保護コロイド水溶液100部および水50部を入れて75〜80℃まで昇温し、下記表1に示される成分Bを1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤としてアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水2部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、さらにアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水10部に溶解した溶液を、モノマー溶液滴下に並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、さらに80℃で下記表1に示される成分Cを添加し、80℃で2時間熟成反応を行い、室温に冷却して水11部を添加し、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
<製造実施例2>
上記表1に示されるように、製造実施例1における成分AおよびBを変更した以外は製造実施例1と同様の操作により、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0025】
<製造実施例3>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、水4.0部およびエタノール2.8部を入れて加熱、85〜90℃で還流させ、上記表1に示される成分Aを1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1部およびエタノール0.8部を加え、還流下でさらに1時間放置した。撹拌下で蟻酸1.7部および水57.0部を加え、固形分33質量%の保護コロイド水溶液(カチオン性水溶性重合体)を得た。
次に、温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、上記で得られた保護コロイド水溶液100部および水50部を入れて75〜80℃まで昇温し、表1に示される成分Bを1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤としてアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水2部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、さらにアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水10部に溶解した溶液を、モノマー溶液滴下に並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、さらに80℃で上記表1に示される成分Cを添加し、80℃で2時間熟成反応を行い、室温に冷却して水11部を添加し、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0026】
<製造実施例4>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、製造実施例1と同様の操作により得られた保護コロイド水溶液150部および水27.9部を入れて75〜80℃まで昇温し、メタクリル酸メチル9.8部とアクリル酸ブチル6.7部のモノマー混合物を1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤としてアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.1部を水1部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、さらにアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.1部を水5部に溶解した溶液を、モノマー溶液滴下に並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、さらに80℃でエピクロロヒドリン7.8部を添加し、80℃で2時間熟成反応を行い、室温に冷却して水20.8部を添加し、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0027】
<製造実施例5>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、製造実施例1と同様の操作により得られた保護コロイド水溶液50部および水83.7部を入れて75〜80℃まで昇温し、メタクリル酸メチル29.3部とアクリル酸ブチル20.2部のモノマー混合物を1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤としてアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.3部を水3部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、さらにアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.3部を水15部に溶解した溶液を、モノマー溶液滴下に並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、さらに80℃でエピクロロヒドリン2.65部を添加し、80℃で2時間熟成反応を行い、室温に冷却して水20部を添加し、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0028】
<製造比較例1>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、水4.0部およびエタノール2.8部を入れて加熱、85〜90℃で還流させ、下記表2に示される成分Aを1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1部およびエタノール0.8部を加え、還流下でさらに1時間放置した。撹拌下でアンモニア水1.9部および水57.0部を加え、固形分33質量%の保護コロイド水溶液(水溶性重合体)を得た。
次に、温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、上記で得られた保護コロイド水溶液100部および水50部を入れて75〜80℃まで昇温し、下記表2に示される成分Bを1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部を水2部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、過硫酸アンモニウム0.2部を水10部に溶解した溶液を並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、2時間熟成反応を行い、室温に冷却して、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0029】
【表2】

【0030】
<製造比較例2>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、水4.0部およびエタノール2.8部を入れて加熱、85〜90℃で還流させ、上記表2に示される成分Aを1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1部およびエタノール0.8部を加え、還流下でさらに1時間放置した。撹拌下でアンモニア水1.9部および水57.0部を加え、固形分33質量%の成分Aの保護コロイド水溶液(水溶性重合体)を得た。
次に、温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、上記で得られた保護コロイド水溶液100部および水50部を入れて75〜80℃まで昇温し、上記表2に示される成分Bを1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部を水2部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、過硫酸アンモニウム0.2部を水10部に溶解した溶液を並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、さらに80℃で上記表2に示される成分Cを添加し、80℃で2時間熟成反応を行い、室温に冷却して水11部を添加し、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0031】
<製造比較例3>
温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、水4.0部およびエタノール2.8部を入れて加熱、85〜90℃で還流させ、上記表2に示される成分Aを1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1部およびエタノール0.8部を加え、還流下でさらに1時間放置した。撹拌下で蟻酸1.7部および水57.0部を加え、固形分33質量%の保護コロイド水溶液(カチオン性水溶性重合体)を得た。
次に、温度計、撹拌棒、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、上記で得られた保護コロイド水溶液100部および水50部を入れて75〜80℃まで昇温し、表2に示される成分Bを1.5時間にわたって滴下した。重合開始剤としてアゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水2部に溶解した溶液をモノマー滴下スタート時に添加し、アゾビス2−ジアミノプロパンジヒドロクロライド0.2部を水10部に溶解した溶液を並行して1.5時間で滴下した。滴下終了後、2時間熟成反応を行い、室温に冷却して、固形分33質量%の合成樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0032】
<セメント組成物の流動性試験>
(水/セメント比=60%時のモルタルの練り上げ方法)
製造実施例1〜5および製造比較例1〜3で得られた合成樹脂水性エマルジョン組成物ならびに市販減水剤をセメント混和剤として用い、実施例1〜5および比較例1〜4のセメント組成物を調製した。ここで、水/セメント比=60%、7号珪砂/普通ポルトランドセメント=1/3のセメント組成物において、合成樹脂水性エマルジョン組成物または市販減水剤をセメントに対し、樹脂固形分量が2.4質量%と一定になるように添加した。そして、混合攪拌装置にてセメント組成物を攪拌し、JIS R 5201に準じてセメント組成物の流動性(フロー値)を測定した。なお、セメント組成物中の気泡を消泡させるために消泡剤SNデフォーマー381(サンノプコ株式会社製)を樹脂固形分に対し、2.0%添加した。これらの結果を表3に示した。
【0033】
【表3】

【0034】
(水/セメント比=80%時のモルタルの練り上げ方法)
製造実施例1〜3で得られた合成樹脂水性エマルジョン組成物および市販減水剤をセメント混和剤として用い、実施例6〜9および比較例5のセメント組成物を調製した。ここで、水/セメント比=80%、7号珪砂/普通ポルトランドセメント=1/3のセメント組成物において、合成樹脂水性エマルジョン組成物または市販減水剤を、セメントに対し、表4に示される樹脂固形分(質量%)となるように添加した。そして、混合攪拌装置にてセメント組成物を攪拌し、JIS R 5201に準じてセメント組成物の流動性(フロー値)を測定した。これらの結果を表3に示した。なお、セメント組成物中の気泡を消泡させるために消泡剤SNデフォーマー381(サンノプコ株式会社製)を樹脂固形分に対し、2.0%添加した。これらの結果を表4に示した。
【0035】
【表4】

【0036】
表3の結果から分かるように、水/セメント比=60%時においては、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物は、従来公知の減水剤であるナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物系減水剤に比べ、水の量を少なくしてもその流動性を保持した。一方、市販品であるナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物系減水剤については、流動性を保持するのに水/セメント比=最低70%が必要であった。以上のことから、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物が、従来の市販品より優れた減水作用を有していることが明らかになった。
【0037】
また、表4において、実施例8と比較例5との比較から分かるように、水を増量して水/セメント比=80%にしても、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物は、従来公知の減水剤であるナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物系減水剤よりも流動性が優れている。また、表4において、実施例9と比較例5との比較から分かるように、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物は、市販品であるナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物系減水剤の1/4の添加量で同等の減水効果が得られる。
【0038】
<セメント組成物の耐久性試験>
(耐久性試験用サンプルの作製方法)
製造実施例1〜5および製造比較例1〜3で得られた合成樹脂水性エマルジョン組成物をセメント混和剤として用い、実施例10〜14および比較例6〜10の耐久性確認試験用サンプル作製のためのセメント組成物を調製した。ここで、水/セメント比=80%、7号珪砂/普通ポルトランドセメント=1/3のセメント組成物において、合成樹脂水性エマルジョン組成物または市販減水剤をセメントに対し、樹脂固形分量が2.4質量%と一定になるように添加した。そして、JIS R 5201の混合攪拌装置にてセメント組成物を攪拌し、これを4×4×16cmの直方体の型枠に流し入れ、20±2℃、相対湿度90%以上で48時間養生した後、脱型してから、温度20℃±2℃の水中で5日間養生し、更に20±2℃、相対湿度60%で7日間養生して、各試験用サンプルを作製した。
【0039】
(中性化深さ試験)
この試験方法についてはJIS A 1171の7.7を参考にした。上記で得られた試験用サンプルを温度30℃、相対湿度60%、炭酸ガス5%の中性化試験機中に4週間放置した。所定期間炭酸ガス中に入れた後、各サンプルを試験機から取り出し、中央付近で試験サンプルを割った。その割れた断面にフェノールフタレインのアルコール溶液(1%)を吹き付けた。サンプルのアルカリ性を保った領域では赤色に変色し、中性化した領域は変色しない。この方法にてサンプル断面の中性化深さを測定した。結果を表5に示した。
【0040】
(塩化物イオン浸透深さ試験)
この試験方法についてはJIS A 1171の7.8を参考にした。上記で得られた試験サンプルを、塩化ナトリウム水溶液中に4週間浸漬した。浸漬終了後、各試験サンプルを中央付近で割り、その割れた断面に0.1%フルオレセインナトリウム水溶液及び0.1N硝酸銀水溶液を吹き付けた。この方法により塩化物イオンの浸透深さを測定した。結果を表5に示した。
【0041】
(吸水率試験)
試験サンプルを温度80±2℃で48時間乾燥後、デシケータ内で冷却してから各サンプルの質量を測定した。次にこのサンプルを23±2℃の静水中に48時間浸漬した。所定時間浸漬後、試験サンプルを取り出し湿布で手早く拭き、直ちに質量を測定した。水浸漬サンプルの質量より、乾燥サンプルの質量からの増加分を吸水率として計算した。結果を表5に示した。
【0042】
【表5】

【0043】
表5の結果から分かるように、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物をセメント組成物に添加することにより、セメント水硬物の炭酸ガスによる浸透による中性化が大幅に抑制された。また、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物は、塩化物イオンの浸透を抑制する作用と、セメント組成物の吸水率を低減する作用も有している。一般的にコンクリート等のセメント組成物への水の吸水性が大きい場合、大気等の外的因子(炭酸ガス等)のコンクリートへの影響をより大きくするため、耐久性が低下する一因となっている。そのため、その吸水率は小さい方が好ましく、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物を添加したセメント組成物の吸水率が小さいことは耐久性向上に極めて有利である。上記3つの試験結果から、本発明の合成樹脂水性エマルジョン組成物を添加することでセメント組成物の耐久性が顕著に改善されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物を重合してカチオン性水溶性重合体とし、これを保護コロイドとして不飽和モノマーをエマルジョン重合して得られるカチオン性合成樹脂水性エマルジョンにエポキシ基含有化合物を反応させたことを特徴とする合成樹脂水性エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記アミノ基含有不飽和モノマーが、ジアルキルアミノ基含有不飽和モノマーであることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂水性エマルジョン組成物。
【請求項3】
前記カチオン性合成樹脂水性エマルジョンが、固形分基準で10〜95質量%の前記カチオン性水溶性重合体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の合成樹脂水性エマルジョン組成物。
【請求項4】
前記アミノ基含有不飽和モノマーが、前記アミノ基含有不飽和モノマーを含むモノマー組成物中に5〜50質量%含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成樹脂水性エマルジョン組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成樹脂水性エマルジョン組成物が、セメントに対して固形分基準で0.05〜100質量%添加されていることを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2007−2091(P2007−2091A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183532(P2005−183532)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】