説明

合成樹脂繊維織物及びこれを用いた衣服

【課題】流通空気を広範囲に分散させることができるとともに、縦横何れの方向においても容易に撓ませることのできる合成樹脂繊維織物及びこれを用いた衣服を提供する。
【解決手段】互いに交差するように配列された緯糸2及び経糸3を織り上げてなる織地7を熱処理することにより、所定方向に配列された第1の高収縮糸4の熱収縮によって織地7を波状に屈曲させるとともに、第1の高収縮糸4の配列方向所定間隔おきに、織地7の屈曲を部分的に抑制することにより織地7の厚さ方向に凹状をなす絞り部9を設けたので、織地7の屈曲によって形成される空隙部を緯糸2の長手方向に流通する空気に対し、絞り部9によって流通抵抗を付与して他の空隙部に分散させることができる。また、織物1の厚さ方向に凹状をなす絞り部9を基点に容易に撓ませることができるので、縦横何れの方向においても十分な柔軟性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば通気材として用いられる合成樹脂繊維織物及びこれを用いた衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成樹脂繊維織物としては、互いに交差するように配列された合成樹脂繊維を織り上げてなる織地を熱処理することにより、所定方向に配列された一部の合成樹脂繊維の熱収縮によって織地を波状に屈曲させたものが知られている(例えば、特許文献1または2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−321948号公報
【特許文献2】特開平8−226045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記合成樹脂繊維織物では、織地の厚さ方向に屈曲する波状の屈曲部によって繊維間に隙間が形成されるため、例えばシート状に形成して衣服の裏面に設けることにより、衣服を着用した状態で通気性を得ることができる。
【0005】
しかしながら、従来の合成樹脂繊維織物では、図14に示すように織物20の波状の屈曲部によって形成される空隙部21が全て同一方向に直線状に延在しているため、図中破線矢印で示すように織物20内の空気の流通方向が空隙部21の延在方向のみになりやすく、流通空気を広範囲に分散させることができない。このため、衣服の通気材として用いた場合には、外部から侵入した空気が衣服を部分的に素通りして広範囲に行き渡らず、十分な通風効果が得られないという問題点があった。
【0006】
また、従来の合成樹脂繊維織物では、図14に示すように緯糸22と経糸23とを互いに交差するように織り上げているが、例えば経糸23を波状に屈曲させた場合、緯糸22は波状に屈曲していないため、織物20自体は経糸23の長手方向において織地の厚さ方向に容易に撓ませることができる。しかしながら、緯糸22の長手方向においては屈曲部によって織地の厚さ方向に対する曲げ剛性が高くなり、容易に撓ませることができない。このため、衣服の通気材として用いた場合、縦方向及び横方向の何れか一方における柔軟性が損なわれ、着心地が悪くなるという問題点もあった。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、流通空気を広範囲に分散させることができるとともに、縦横何れの方向においても容易に撓ませることのできる合成樹脂繊維織物及びこれを用いた衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、互いに交差するように配列された合成樹脂繊維を織り上げてなる織地を熱処理することにより、所定方向に配列された一部の合成樹脂繊維の熱収縮によって織地を波状に屈曲させた合成樹脂繊維織物において、前記熱収縮する合成樹脂繊維の配列方向所定間隔おきに、織地の屈曲を部分的に抑制することにより織地の厚さ方向に凹状をなす絞り部を設けている。
【0009】
これにより、織地の屈曲によって形成される空隙部を流通する空気に対し、絞り部によって流通抵抗が付与されることから、流通空気が広範囲に分散する。また、絞り部が織地の厚さ方向に凹状をなすように形成されていることから、絞り部を基点に容易に撓ませることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絞り部によって流通空気を広範囲に分散させることができるので、例えば衣服の通気材として用いた場合、外部から侵入した空気が衣服を部分的に素通りすることがなく、広範囲に行き渡らせることができる。これにより、通風効果を十分に得ることができるので、例えば工事現場の作業者への熱中症対策に極めて効果的である。また、絞り部を基点に容易に撓ませることができるので、縦横何れの方向においても十分な柔軟性を得ることができ、衣服に用いた場合でも着心地を損なうことがないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態を示す合成樹脂繊維織物の平面図
【図2】合成樹脂繊維織物の拡大正面図
【図3】熱処理前の合成樹脂繊維織物を示す拡大平面図
【図4】熱処理後の合成樹脂繊維織物を示す拡大平面図
【図5】A−A線矢視方向における概略拡大側面図
【図6】B−B線矢視方向における概略拡大側面図
【図7】合成樹脂繊維織物の実物写真を示す平面図
【図8】合成樹脂繊維織物の実物写真を示す斜視図
【図9】合成樹脂繊維織物の実物写真を示す拡大平面図
【図10】合成樹脂繊維織物の実物写真を示す拡大斜視図
【図11】空気の流通状態を示す合成樹脂繊維織物の拡大平面図
【図12】横方向における撓み状態を示す合成樹脂繊維織物の拡大正面図
【図13】使用者への着用状態を示す衣服の側面図
【図14】従来例を示す合成樹脂繊維織物の拡大斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図13は本発明の一実施形態を示すものである。同図に示す合成樹脂繊維織物1は、互いに交差するように配列された合成樹脂繊維を織り上げてなる織地を熱処理することにより、所定方向に配列された一部の合成樹脂繊維の熱収縮によって織地を波状に屈曲させたものである。
【0013】
本実施形態の合成樹脂繊維織物1は、所定方向に延びる緯糸2と、緯糸2に直交する方向に延びる経糸3と、一部の緯糸2に結合され、経糸3と同一方向に延びる第1の高収縮糸4と、全ての緯糸2に結合され、経糸3と同一方向に延びる第2の高収縮糸5と、第2の高収縮糸5に沿うように経糸3と同一方向に延びる第3の高収縮糸6とを織り上げることにより、織地7を形成している。
【0014】
緯糸2及び経糸3は、例えば600デニールのポリエステル製モノフィラメントからなり、所定の温度T1 (例えば200℃)以上で熱収縮するものが用いられる。緯糸2及び経糸3は、互いに所定間隔L1 (例えば2〜3mm)をおいて交差するように配列され、経糸3は緯糸2に搦み織りされている。
【0015】
第1、第2及び第3の高収縮糸4,5,6は、例えば600デニールのポリエステル製モノフィラメントからなり、所定の温度T2 (例えば130℃)以上で熱収縮するものが用いられる。第1及び第2の高収縮糸4,5には、それぞれ合成樹脂繊維が2本ずつ束ねられたものが用いられ、所定間隔L2 (例えば7〜8mm)の間隔で配列されている。この場合、互いに間隔L2 をおいて配置された2本の第1の高収縮糸4に対し、1本の第2の高収縮糸5が間隔L2 をおいて配置されている。第1の高収縮糸4は、図5(a) に示すように織地7の一方の面側に配置され、図3に示すように所定本数N1 (例えば隣り合う2本)ずつの緯糸2に所定本数N2 (例えば隣り合う13本)おきに搦み織りによって結合している(図5(a) 中、緯糸2を丸で囲った箇所が第1の高収縮糸4との結合部分である。)。また、第2の高収縮糸5は、図3及び図6(a) に示すように全ての緯糸2に搦み織りによって結合している(図6(a) 中、緯糸2を丸で囲った箇所が第2の高収縮糸5との結合部分である。)。第3の高収縮糸6は1本ずつの合成樹脂繊維からなり、緯糸2に平織りにより結合している。この場合、第3の高収縮糸6は第2の高収縮糸5の両側に1本ずつ配置されている。
【0016】
次に、前述のように構成された織地7を、緯糸2及び経糸3の熱収縮温度T1 よりも低く、各高収縮糸4,5,6の熱収縮温度T2 よりも高い所定の温度T3 (例えば170℃)で熱処理することにより、織地7を構成する合成樹脂繊維のうち、各高収縮糸4,5,6のみを熱収縮させる。この場合の収縮率は、約45%である。これにより、緯糸2及び経糸3は熱収縮せず、各高収縮糸4,5,6が熱収縮するため、第1の高収縮糸4の熱収縮により、図4及び図5(b) に示すように第1の高収縮糸4における緯糸2との結合部分の間隔が短くなり、その間の緯糸2との非結合部分が織地7の厚さ方向に撓むことにより、緯糸2が波状に凹凸をなすように屈曲する。これにより、織物1の厚さ方向一方の面と他方の面との間に、波状の屈曲部によって緯糸2の長手方向に延びる空隙部8が形成される。この場合、屈曲部の高さHは約9mmである。また、第2の高収縮糸5は全ての緯糸2に結合しているため、図6(b) に示すように第2の高収縮糸5の熱収縮によって緯糸2の屈曲が抑制される。これにより、空隙部8には、緯糸2の長手方向(各高収縮糸4,5,6の配列方向)の所定間隔L3 おきに絞り部9が形成される。この絞り部9は、図2に示すように織地7の厚さ方向両面にそれぞれ凹状をなすように形成される。尚、図7乃至図10には、本実施形態の合成樹脂繊維織物の実物写真を示す。
【0017】
以上のように構成された織物1は、例えば図13に示す衣服10の通気材として用いられる。この衣服10は使用者Pの上半身に着用して使用されるベスト状に形成され、布製の衣服本体11の前面及び背面がそれぞれ織物1によって覆われている。この場合、織物1は、緯糸2の長手方向が衣服本体11の幅方向、経糸3の長手方向が衣服本体11の上下方向となるように配置されている。
【0018】
衣服10は、例えば工事現場の作業者が夏場等のように温度の高い場所で作業する場合に着用される。この場合、図13に示すように、衣服本体11が内側となるように着るとともに、その上に作業服を着ることにより、織物1によって作業服と衣服本体11との間に形成される隙間を外部の空気が流通し、作業服を着用した状態で通気性を得ることができる。その際、図11に示すように、織物1内の空気は主に空隙部8の延在方向に流通するが、空隙部8には所定間隔L3 おきに絞り部9が配置されているため、絞り部9で空気の流通抵抗が大きくなる。これにより、図中破線矢印で示すように絞り部9を流通しようとする空気の一部が他の空隙部8に流出し、織物1内の流通空気が広範囲に分散する。
【0019】
また、織物1では、経糸3が波状に屈曲しているため、経糸3の長手方向においては厚さ方向に容易に撓ませることができる。一方、緯糸2の長手方向においては、波状の屈曲部によって厚さ方向に対する曲げ剛性が高くなるが、織物1の厚さ方向に凹状をなす絞り部9が緯糸2の長手方向に所定間隔L3 おきに設けられているため、図12に示すように絞り部9を基点に容易に撓ませることができる。これにより、衣服10を着用した際、縦方向及び横方向の何れの方向においても柔軟性が損なわれることがない。
【0020】
尚、図13では、衣服10を衣服本体11が織物1の内側となるように着用した例を示したが、衣服10を裏返すことにより、衣服本体11が織物1の外側となるように着用することもできる。その際、例えば肌着の上に衣服10を着用すれば、衣服本体11と肌着の間に織物1によって隙間を形成することができる。また、衣服10は、工事現場の作業者用のみならず、スポーツウェア、寝巻等、使用者が着用するものであれば、他の用途に用いることができる。
【0021】
このように、本実施形態の合成樹脂繊維織物1によれば、互いに交差するように配列された緯糸2及び経糸3を織り上げてなる織地7を熱処理することにより、所定方向に配列された第1の高収縮糸4の熱収縮によって織地7を波状に屈曲させるとともに、第1の高収縮糸4の配列方向所定間隔おきに、織地7の屈曲を部分的に抑制することにより織地7の厚さ方向に凹状をなす絞り部9を設けたので、織地7の屈曲によって形成される空隙部8を緯糸2の長手方向に流通する空気に対し、絞り部9によって流通抵抗を付与して他の空隙部8に分散させることができる。これにより、織物1を衣服10の通気材として用いた場合、外部から侵入した空気が衣服10を部分的に素通りすることがなく、広範囲に行き渡らせることができるので、通風効果を十分に得ることができ、例えば工事現場の作業者への熱中症対策に極めて効果的である。
【0022】
更に、織物1は、経糸3が波状に屈曲しているため、経糸3の長手方向において厚さ方向に容易に撓ませることができるとともに、緯糸2の長手方向においても、織物1の厚さ方向に凹状をなす絞り部9を基点に容易に撓ませることができるので、衣服10を着用した際、縦横何れの方向においても十分な柔軟性を得ることができ、衣服10の着心地を損なうことがないという利点がある。
【0023】
また、本実施形態では、一部の緯糸2に所定本数おきに結合する第1の高収縮糸4の熱収縮によって経糸3の第1の高収縮糸4との非結合部を織地7の厚さ方向に撓ませることにより、経糸2を波状に屈曲させるようにしたので、熱処理温度T3 を変えることにより、屈曲部の高さHを任意の寸法にすることができる。更に、全ての緯糸2に結合する第2の高収縮糸5の熱収縮によって経糸3の屈曲を部分的に抑制することにより、絞り部9を形成するようにしたので、第1及び第2の高収縮糸4,5の熱収縮により、経糸2の屈曲と共に絞り部9を形成することができ、絞り部9を容易に形成することができる。
【0024】
更に、第1の高収縮糸4と第2の高収縮糸5とを搦み織りによって緯糸2に結合するようにしたので、緯糸2との結合を容易且つ確実に行うことができ、実用化に際して極めて有利である。
【0025】
また、経糸3を搦み織りによって緯糸2に結合するようにしたので、絞り部9を形成によって緯糸2が束ねられても、経糸3に対する緯糸2が位置ずれを生ずることがなく、目崩れの防止に極めて効果的である。この場合、経糸3同士の間隔を確実に保つことができるので、屈曲部が荷重により厚さ方向に弾性変形した場合でも、経糸3同士が互いに干渉することがなく、屈曲部を確実に弾性回復することができる。
【0026】
更に、緯糸2及び経糸3よりも低い温度で熱収縮する第3の高収縮糸6を第2の高収縮糸5の両側に沿って延びるように設けたので、第3の高収縮糸6によって絞り部9を補強することができ、第2の高収縮糸5のみを設けた場合よりも絞り部9を安定した形状に形成することができる。その際、第2の高収縮糸5は搦み織りによって緯糸2に結合しているが、第3の高収縮糸6は平織りによって緯糸2に結合しているので、絞り部9を形成する際の第3の高収縮糸6の締め付け力を第2の高収縮糸5よりも弱くすることができ、第3の高収縮糸6の締め付け力が強すぎて屈曲部が無用に絞られないという利点がある。
【0027】
また、織物1の合成樹脂繊維としてポリエステル製モノフィラメントを用いたので、耐薬品性、耐熱性に優れるという利点がある。
【0028】
尚、前記実施形態では、本発明の合成樹脂繊維織物を衣服10の通気材として用いたものを示したが、例えば各種クッション、寝具用マット等、他の用途にも適用することができる。特に、介護ベットや車椅子の敷きマットとして用いれば、病人の褥瘡や汗疹の予防に効果的である。
【符号の説明】
【0029】
1…合成樹脂繊維織物、2…緯糸、3…経糸、4…第1の高収縮糸、5…第2の高収縮糸、6…第3の高収縮糸、7…織地、8…空隙部、9…絞り部、10…衣服、11…衣服本体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差するように配列された合成樹脂繊維を織り上げてなる織地を熱処理することにより、所定方向に配列された一部の合成樹脂繊維の熱収縮によって織地を波状に屈曲させた合成樹脂繊維織物において、
前記熱収縮する合成樹脂繊維の配列方向所定間隔おきに、織地の屈曲を部分的に抑制することにより織地の厚さ方向に凹状をなす絞り部を設けた
ことを特徴とする合成樹脂繊維織物。
【請求項2】
所定方向に延びる緯糸と、
緯糸に直交する方向に延びる経糸と、
経糸と同一方向に延びるとともに、一部の緯糸に所定本数おきに結合され、緯糸及び経糸よりも低い温度で熱収縮する第1の高収縮糸と、
経糸と同一方向に延びるとともに、全ての緯糸に結合され、緯糸及び経糸よりも低い温度で熱収縮する第2の高収縮糸とを備え、
第1の高収縮糸の熱収縮によって経糸の第1の高収縮糸との非結合部を織地の厚さ方向に撓ませることにより経糸を波状に屈曲させるとともに、
第2の高収縮糸の熱収縮によって経糸の屈曲を部分的に抑制することにより前記絞り部を形成した
ことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂繊維織物。
【請求項3】
前記第1の高収縮糸と第2の高収縮糸とを搦み織りによって緯糸に結合した
ことを特徴とする請求項2記載の合成樹脂繊維織物。
【請求項4】
前記経糸を搦み織りによって緯糸に結合した
ことを特徴とする請求項2または3記載の合成樹脂繊維織物。
【請求項5】
前記第2の高収縮糸に沿って延びるように平織りにより緯糸に結合され、緯糸及び経糸よりも低い温度で熱収縮する第3の高収縮糸を備えた
ことを特徴とする請求項2、3または4記載の合成樹脂繊維織物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の合成樹脂繊維織物を通風材として用いた
ことを特徴とする衣服。
【請求項7】
前記合成樹脂繊維織物を衣服本体の所定部分を覆うように設けた
ことを特徴とする請求項6記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−158855(P2012−158855A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21055(P2011−21055)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(591199741)株式会社プロップ (26)
【Fターム(参考)】