説明

合成樹脂製のスラスト滑り軸受

【課題】過酷な条件下でも、塵埃、泥水等の侵入を効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を低減できる合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】合成樹脂製のスラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース12と、合成樹脂製の下部ケース22と、上部ケース12及び下部ケース22間に配されている合成樹脂製のスラスト滑り軸受片33と、内側の弾性変形自在なリップ部43及び外側の弾性変形自在なリップ部46を有した外側弾性シール部材47と、外側の弾性変形自在なリップ部50及び内側の弾性変形自在なリップ部53を有した内側弾性シール部材54とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のスラスト滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪自動車の前輪に用いられるストラット型サスペンションは、一般に、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組合せた構造をもっている。斯かるサスぺンションにおいては、ステアリング操作においてストラットアッセンブリがコイルばねと共に回る際に、ストラットアッセンブリのピストンロッドが回る形式のものと、ピストンロッドが回らない形式のものとがあるが、いずれの形式においてもストラットアッセンブリの円滑な回動を許容するべく、ストラットアッセンブリの車体への取付機構とコイルばねの上部ばね座部材との間に、ころがり軸受に代えて、合成樹脂製のスラスト滑り軸受が使用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−53908号公報
【特許文献2】特開2010−31949号公報
【特許文献3】特開2009−257516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製の上部ケースと、この上部ケースに当該上部ケースの軸心回りで回転自在となるように重ね合わされている合成樹脂製の下部ケースと、上部ケース及び下部ケース間に配されている合成樹脂製のスラスト滑り軸受片とを具備している斯かる合成樹脂製のスラスト滑り軸受においては、上部ケース及び下部ケース間への塵埃、泥水等の侵入を阻止するために、上部ケース及び下部ケース間の内周側及び外周側に、突部間の隙間を利用したラビリンス手段が設けられている。
【0005】
しかしながら、斯かるラビリンス手段では、過酷な条件下では、十分な塵埃、泥水等の侵入の防止効果を得られない場合があり、塵埃、泥水等が上部ケース及び下部ケース間に侵入すると、滑らかな上部ケースに対する下部ケースの相対的な回転が得られなくなって、異常音を発生させる虞がある。
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、過酷な条件下でも、塵埃、泥水等の侵入を効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を低減できる合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の合成樹脂製のスラスト滑り軸受は、上部環状板状部、この上部環状板状部の外側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該外側環状端部から垂下した外側円筒状部及び上部環状板状部の内側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該内側環状端部から垂下した内側円筒状部を有する合成樹脂製の上部ケースと、この上部ケースに当該上部ケースの軸心回りで回転自在となるように重ね合わされていると共に下部環状板状部及びこの下部環状板状部の環状上面に一体的に形成されて当該環状上面から直立した円筒部を有する合成樹脂製の下部ケースと、上部ケース及び下部ケース間に配されていると共に上部環状板状部の環状下面に環状上面で上部ケースの軸心回りで回転自在となるように接触する一方、下部ケースの円筒部の環状上面に環状下面で接触した環状板状部及びこの環状板状部の内側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該内側環状端部から垂下した円筒部を有した合成樹脂製のスラスト滑り軸受片と、下部ケースの円筒部の外面に円筒状内面から斜め上方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で接触している一方、上部ケースの外側円筒状部の内面に円筒状外面から斜め下方外方に突出して当該円筒状外面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で接触している外側弾性シール部材と、下部ケースの円筒部の内面に円筒状外面から斜め上方外方に突出して当該円筒状外面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で接触している一方、上部ケースの内側円筒状部の外面に円筒状内面から斜め下方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で接触している内側弾性シール部材とを具備しており、上部ケースの外側円筒状部の環状下端面は、下部ケースの下部環状板状部の環状上面に隙間をもって対面しており、上部ケースの外側円筒状部の内面は、上部環状板状部の下面に連接されていると共に外側弾性シール部材の外側の弾性変形自在なリップ部が接触した截頭円錐状内面を具備しており、下部ケースの円筒部の外面は、外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面と、この小径円筒状外面よりも大径の大径円筒状外面と、小径円筒状外面及び大径円筒状外面間に配していると共に外側弾性シール部材の環状下面が接触した環状段部面とを具備しており、上部ケースの内側円筒状部の外面は、上部環状板状部の下面に連接された大径円筒状外面と、この大径円筒状外面に連接されていると共に当該大径円筒状外面よりも小径であって内側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面とを具備しており、下部ケースの円筒部の内面は、下部ケースの下部環状板状部の環状内面に連接された小径円筒状内面と、この小径円筒状面よりも大径であると共に下部ケースの円筒部の環状上面に連接された大径円筒状内面と、小径円筒状内面よりも大径である一方、大径円筒状内面よりも小径であって内側弾性シール部材の外側の弾性変形自在なリップ部が接触した中間円筒状内面と、小径円筒状内面及び中間円筒状内面間に配されていると共に内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面と、中間円筒状内面及び大径円筒状内面間に配された上方環状段部面とを具備しており、上部ケースの内側円筒状部の小径円筒状外面に連接された当該上部ケースの内側円筒状部の環状下端面は、下部ケースの円筒部の下方環状段部面に隙間をもって対面しており、スラスト滑り軸受片の円筒部は、上部ケースの内側円筒状部の外面の大径円筒状外面と下部ケースの円筒部の内面の大径円筒状内面との間に配されている。
【0008】
本発明による合成樹脂製のスラスト滑り軸受によれば、外側弾性シール部材が、その円筒状内面から斜め上方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で下部ケースの円筒部の外面の小径円筒状外面に接触している一方、その円筒状外面から斜め下方外方に突出して当該円筒状外面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で上部ケースの外側円筒状部の内面の截頭円錐状内面に接触しており、更に、その環状下面で下部ケースの円筒部の外面の環状段部面で接触しており、内側弾性シール部材が、その円筒状外面から斜め上方外方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で下部ケースの円筒部の内面の中間円筒状内面に接触している一方、円筒状内面から斜め下方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で上部ケースの内側円筒状部の外面の小径円筒状外面に接触しており、更に、その環状下面で下部ケースの円筒部の内面の下方環状段部面に接触しているために、過酷な条件下でも、上部ケースの外側円筒状部の環状下端面と下部ケースの下部環状板状部の環状上面との間の環状の隙間と、上部ケースの内側円筒状部の環状下端面と下部ケースの円筒部の下方環状段部面との間の環状の隙間とを介する上部環状板状部の環状下面と下部ケースの円筒部の環状上面との間であってスラスト滑り軸受片の環状板状部を収容する環状空間への塵埃、泥水等の侵入を効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を低減できる。
【0009】
本発明では、上部ケースの外側円筒状部の内面は、截頭円錐状内面の円環状下端に円環状上端で連接していると共に上部ケースの外側円筒状部の環状下端面の環状内縁に環状下端で連接した円筒状内面を具備していても、上部ケースの外側円筒状部の内面は、截頭円錐状内面の円環状下端に大径円環状上端で連接していると共に当該大径円環状上端よりも小径の小径円環状下端を有した上方截頭円錐面と、この上方截頭円錐面の小径環状下端に小径円環状上端で連接していると共に当該小径円環状上端よりも大径の大径円環状下端を有した下方截頭円錐面とを具備していてもよい。
【0010】
本発明ではまた、外側弾性シール部材及び内側弾性シール部材の夫々は、対応の各弾性変形自在なリップ部を有した弾性シール本体と、弾性シール本体に埋め込まれた芯金とを具備していてもよい。
【0011】
好ましい例では、下部ケースは、その円筒部の環状上面に軸心回り方向で互いに離間されて一体的に形成されている複数個の突起部を有しており、スラスト滑り軸受片の環状板状部は、下部ケースの複数個の突起部の夫々を受容する複数個の凹所又は切欠きを有していてもよく、これにより、スラスト滑り軸受片は、軸心回りの回転に関して、下部ケースに対して固定される一方、上部ケースに対して回転自在となる結果、上部ケースは、当該上部ケースの軸心回りで下部ケースに対して回転自在となる。
【0012】
他の好ましい例では、外側弾性シール部材の環状下面は、少なくとも一つの弾性変形自在な環状突面を有しており、内側弾性シール部材の環状下面は、少なくとも一つの弾性変形自在な環状突面を有しており、斯かる弾性変形自在な環状突面を有していると、当該環状突面の弾性変形で、外側弾性シール部材の環状下面及び内側弾性シール部材の環状下面でのシール性を向上でき、スラスト滑り軸受片の環状板状部を収容する環状空間への塵埃、泥水等の侵入をより効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を更に好ましく低減できる。
【0013】
また、本発明では、下部ケースの円筒部の外面は、環状上縁で当該円筒部の環状上面に連接されていると共に外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面よりも大径の径方向突状円筒状外面を有しており、外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面は、軸方向において径方向突状円筒状外面と外側弾性シール部材の環状下面が接触した環状段部面との間に配されていてもよく、下部ケースの円筒部の内面は、環状内縁で当該円筒部の大径円筒状内面の環状上縁に連接されていると共に内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面よりも軸方向において上部ケースの内側円筒状部の環状下端面により近接した軸方向突状環状段部面を有しており、内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面は、径方向において軸方向突状環状段部面と中間円筒状内面との間に配されていてもよく、斯かる径方向突状円筒状外面及び軸方向突状環状段部面を有していると、外側弾性シール部材及び内側弾性シール部材の位置決めを好ましく行い得る。
【0014】
上部ケース及び下部ケースは、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよく、スラスト滑り軸受片は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよく、上部ケース及び下部ケースの夫々には、スラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂と同様の合成樹脂が使用され得るが、特にスラスト滑り軸受片に使用される合成樹脂と摩擦特性の良好な組合せの合成樹脂が使用され、スラスト滑り軸受片と上部ケース及び下部ケースとに対して、ポリアセタール樹脂とポリアミド樹脂との組合せ、ポリオレフィン樹脂、特にポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合せ、ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂との組合せ及びポリアセタール樹脂とポリアセタール樹脂との組合せを例示し得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、過酷な条件下でも、塵埃、泥水等の侵入を効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を低減できる合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の一例の正面断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す下部ケースの図3に示すII−II線矢視断面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す下部ケースの平面説明図である
【図4】図4は、図1に示す例の右部拡大正面断面説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例の左部拡大正面断面説明図である。
【図6】図6は、図1に示すスラスト滑り軸受片の平面説明図である。
【図7】図7は、図1に示すスラスト滑り軸受片の図6に示すVII−VII線矢視断面説明図である。
【図8】図8は、図1に示す外側弾性シール部材の一部断面説明図である。
【図9】図9は、図1に示す内側弾性シール部材の一部断面説明図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態の他の例の図4に相当する右部拡大正面断面説明図である。
【図11】図11は、図10に示す他の例の図5に相当する左部拡大正面断面説明図である。
【図12】図12は、図10に示す他の例の図3に相当する下部ケースの平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0018】
図1から図9において、本例の合成樹脂製のスラスト滑り軸受1は、上部環状板状部2、上部環状板状部2の外側環状端部3に上部環状端部4で一体的に形成されて当該外側環状端部3から垂下した外側円筒状部5、上部環状板状部2の内側環状端部6に上部環状端部7で一体的に形成されて当該内側環状端部6から垂下した内側円筒状部8及び上部環状板状部2の環状上面9に一体的に形成された平坦な上面10をもった環状突起部11を有する合成樹脂製の上部ケース12と、上部ケース12に当該上部ケース12の軸心O回りでR方向に回転自在となるように重ね合わされていると共に下部環状板状部15、下部環状板状部15の環状上面16に一体的に形成されて当該環状上面16から直立した円筒部17、下部環状板状部15の環状下面18の径方向内方側に一体的に形成されて当該環状下面18から垂下した垂下円筒状部19及び円筒部17の環状上面20の径方向外縁部に軸心O回り方向であるR方向で互いに離間されて一体的に形成されている複数個の突起部21を有する合成樹脂製の下部ケース22と、上部ケース12及び下部ケース22間に配されていると共に上部環状板状部2の環状下面25に環状上面26で上部ケース12の軸心O回りでR方向に回転自在となるように接触する一方、下部ケース22の円筒部17の環状上面20に環状下面27で接触した環状板状部28及び環状板状部28の内側環状端部29に上部環状端部30で一体的に形成されて当該内側環状端部29から垂下した円筒部31を有した合成樹脂製のスラスト滑り軸受片33と、下部ケース22の円筒部17の外面41に円筒状内面42から斜め上方内方に突出して当該円筒状内面42に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部43で接触している一方、上部ケース12の外側円筒状部5の内面44に円筒状外面45から斜め下方外方に突出して当該円筒状外面45に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部46で接触している外側弾性シール部材47と、下部ケース22の円筒部17の内面48に円筒状外面49から斜め上方外方に突出して当該円筒状外面49に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部50で接触している一方、上部ケース12の内側円筒状部8の外面51に円筒状内面52から斜め下方内方に突出して当該円筒状内面52に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部53で接触している内側弾性シール部材54とを具備している。
【0019】
上部ケース12において、その外側円筒状部5の環状下端面61は、下部ケース22の下部環状板状部15の環状上面16に環状の隙間62をもって対面しており、その外側円筒状部5の内面44は、上部環状板状部2の下面25に連接されていると共に外側弾性シール部材47の外側の弾性変形自在なリップ部46が接触した截頭円錐状内面65と、截頭円錐状内面65の円環状下端に円環状上端で連接していると共に環状下端面61の環状内縁に環状下端で連接した円筒状内面66とを具備しており、当該円筒状内面66は、円筒部17の外面41の大径円筒状外面67に円筒状の隙間64をもって対面しており、その内側円筒状部8の外面51は、上部環状板状部2の下面25に連接された大径円筒状外面69と、大径円筒状外面69に連接されていると共に当該大径円筒状外面69よりも小径であって内側弾性シール部材54の内側の弾性変形自在なリップ部53が接触した小径円筒状外面70とを具備している。
【0020】
下部ケース22において、その円筒部17の外面41は、外側弾性シール部材47の内側の弾性変形自在なリップ部43が接触した小径円筒状外面75と、小径円筒状外面75よりも大径の大径円筒状外面67と、小径円筒状外面75及び大径円筒状外面67間に配されていると共に外側弾性シール部材47の環状下面68が接触した環状段部面76と、環状上縁で円筒部17の環状上面20に連接されていると共に外側弾性シール部材47の内側の弾性変形自在なリップ部43が接触した小径円筒状外面75よりも大径の径方向突状円筒状外面77とを具備しており、その円筒部17の内面48は、下部環状板状部15の環状内面78に連接された小径円筒状内面79と、小径円筒状面79よりも大径であると共に円筒部17の環状上面20に連接された大径円筒状内面80と、小径円筒状内面79よりも大径である一方、大径円筒状内面80よりも小径であって内側弾性シール部材54の外側の弾性変形自在なリップ部50が接触した中間円筒状内面81と、小径円筒状内面79及び中間円筒状内面81間に配されていると共に内側弾性シール部材54の環状下面82が接触した下方環状段部面83と、中間円筒状内面81及び大径円筒状内面80間に配された上方環状段部面84と、環状内縁で円筒部17の小径円筒状内面79の環状上縁に連接されていると共に内側弾性シール部材54の環状下面82が接触した下方環状段部面83よりも軸方向において上部ケース12の内側円筒状部8の環状下端面85により近接した軸方向突状環状段部面86とを具備している。
【0021】
上部ケース12の内側円筒状部8の小径円筒状外面70に連接された当該上部ケース12の内側円筒状部8の環状下端面85は、下部ケース22の円筒部17の下方環状段部面83及び軸方向突状環状段部面86に環状の隙間87をもって対面している。
【0022】
外側弾性シール部材47の内側の弾性変形自在なリップ部43が接触した小径円筒状外面75は、軸方向において径方向突状円筒状外面77と外側弾性シール部材47の環状下面68が接触した環状段部面76との間に配されており、内側弾性シール部材54の環状下面82が接触した下方環状段部面83は、径方向において軸方向突状環状段部面86と中間円筒状内面81との間に配されている。
【0023】
外側弾性シール部材47は、弾性変形自在なリップ部43及び46を有した弾性シール本体91と、弾性シール本体91に埋め込まれた芯金92とを具備しており、外側弾性シール部材47の環状下面68は、同心に配された弾性変形自在な環状突面93及び94を有しており、環状突面93及び94を介して環状段部面76に弾性的に接触しており、
内側弾性シール部材54は、同じく、弾性変形自在なリップ部50及び53を有した弾性シール本体95と、弾性シール本体93に埋め込まれた芯金96とを具備しており、内側弾性シール部材54の環状下面82は、同心に配された弾性変形自在な環状突面97及び98を有しており、環状突面97及び98を介して下方環状段部面83に弾性的に接触している。
【0024】
スラスト滑り軸受片33の環状板状部28は、環状上面26を有した環状板状部本体110と、環状板状部本体110の円筒状外面111に一体的にR方向に互いに離間して当該円筒状外面111から径方向に突出して形成されていると共に下部ケース22の突起部21の夫々を受容するR方向に離間した複数個の凹所112を規定する複数個の径方向突部113とを具備しており、環状上面26には、環状溝114と、一端では環状溝114に開口しており、他端では円筒状外面111に開口してR方向に互いに離間して配された複数個の径方向溝115とが形成されており、環状溝114及び径方向溝115は、グリース等の潤滑剤溜まりとなっており、スラスト滑り軸受片33の円筒部31は、大径円筒状内面80に接触する円筒状外周面116と、上方では内側環状端部29で開口する一方、下方では環状下面117で開口した軸方向溝118がR方向に互いに等間隔に離間して形成された円筒状内周面119とを具備しており、大径円筒状外面69と円筒状内周面119との間に円筒状の隙間をもって、上部ケース12の内側円筒状部8の外面51の大径円筒状外面69と下部ケース22の円筒部17の内面48の大径円筒状内面80との間に配されており、軸方向溝118は、環状溝114及び径方向溝115と同様に、グリース等の潤滑剤溜まりとなっている。
【0025】
以上のスラスト滑り軸受1は、内側円筒状部8の円筒状の内面121で規定される貫通孔122と、貫通孔122と同心であって下部環状板状部15の環状内面78、円筒部17の小径円筒状内面79及び垂下円筒状部19の円筒状内面123で規定される貫通孔124とを通ってストラットアッセンブリのピストンロッドが配されて、ストラットアッセンブリの車体への取付機構とコイルばねの上部ばね座部材との間に装着されるようになっており、斯かるスラスト滑り軸受1では、ステアリング操作によりコイルばねが軸心Oの周りでR方向に回動されると、下部ケース22に対して上部ケース12が同様にR方向に相対的に回転され、上部ケース12のこのR方向の回転が、上部ケース12及び下部ケース22間に配されたスラスト滑り軸受片33の環状板状部28の環状上面26に対する上部ケース12の上部環状板状部2の環状下面25の回転を介して滑らかになされ、したがってステアリング操作も抵抗なく行われる。
【0026】
スラスト滑り軸受1によれば、外側弾性シール部材47が、その円筒状内面42から斜め上方内方に突出して当該円筒状内面42に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部43で下部ケース22の円筒部17の外面41の小径円筒状外面75に接触している一方、その円筒状外面45から斜め下方外方に突出して当該円筒状外面45に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部46で上部ケース12の外側円筒状部5の内面の截頭円錐状内面65に接触しており、更に、その環状下面68で下部ケース22の円筒部17の外面の環状段部面76に接触しており、内側弾性シール部材54が、その円筒状外面49から斜め上方外方に突出して当該円筒状外面49に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部50で下部ケース22の円筒部17の内面48の中間円筒状内面81に接触している一方、円筒状内面52から斜め下方内方に突出して当該円筒状内面52に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部53で上部ケース12の内側円筒状部8の外面51の小径円筒状外面70に接触しており、更に、その環状下面82で下部ケース22の円筒部17の内面48の下方環状段部面83に接触しているために、過酷な条件下でも、上部ケース12の外側円筒状部5の環状下端面61と下部ケース22の下部環状板状部15の環状上面16との間の環状の隙間62と、上部ケース12の内側円筒状部8の環状下端面85と下部ケース22の円筒部17の下方環状段部面83及び軸方向突状環状段部面86との間の環状の隙間87とを介する上部環状板状部2の環状下面25と下部ケース22の円筒部17の環状上面20との間であってスラスト滑り軸受片33の環状板状部28を収容する環状空間131への塵埃、泥水等の侵入を効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を低減できる。
【0027】
加えて、スラスト滑り軸受1によれば、外側弾性シール部材47の環状下面68が、弾性変形自在な環状突面93及び94を有しており、内側弾性シール部材54の環状下面82が、弾性変形自在な環状突面97及び98を有しているために、当該環状突面93及び94並びに97及び98の弾性変形で、外側弾性シール部材47の環状下面68及び内側弾性シール部材54の環状下面82でのシール性を向上でき、スラスト滑り軸受片33の環状板状部28を収容する環状空間131への塵埃、泥水等の侵入をより効果的に防止でき、塵埃、泥水等の侵入による異常音の発生を更に好ましく低減できる。
【0028】
また、スラスト滑り軸受1によれば、径方向突状円筒状外面77及び軸方向突状環状段部面86を有しているために、外側弾性シール部材47及び内側弾性シール部材54の位置決めを好ましく行い得る。
【0029】
以上のスラスト滑り軸受1では、上部ケース12の外側円筒状部5の内面44は、截頭円錐状内面65と円筒状内面66とを具備しているが、円筒状内面66に代えて、図10から図12に示すように、上部ケース12の外側円筒状部5の内面44は、截頭円錐状内面65に加えて、截頭円錐状内面65の円環状下端に大径円環状上端で連接していると共に当該大径円環状上端よりも小径の小径円環状下端を有した上方截頭円錐面141と、上方截頭円錐面141の小径環状下端に小径円環状上端で連接していると共に当該小径円環状上端よりも大径の大径円環状下端を有した下方截頭円錐面142とを具備していてもよく、この場合、下部ケース22の円筒部17の外面41も、大径円筒状外面67に代えて、上方截頭円錐面141及び下方截頭円錐面142に相補的な形状の湾曲凹面143を有して、上方截頭円錐面141及び下方截頭円錐面142が、斯かる湾曲凹面143に隙間144をもって対面しているとよい。
【0030】
また、スラスト滑り軸受1では、軽量化、肉厚均肉化等を図るために、下部ケース22の円筒部17に環状上面20で開口してR方向に互いに等間隔に離間して配された複数個の円柱状又は三角柱状の凹所151を設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 スラスト滑り軸受
2 上部環状板状部
3 外側環状端部
4 上部環状端部
5 外側円筒状部
6 内側環状端部
7 上部環状端部
8 内側円筒状部
9 環状上面
10 上面
11 環状突起部
12 上部ケース
15 下部環状板状部
16 環状上面
17 円筒部
18 環状下面
19 垂下円筒状部
20 環状上面
21 突起部
22 下部ケース
26 環状上面
27 環状下面
28 環状板状部
29 内側環状端部
30 上部環状端部
31 円筒部
33 スラスト滑り軸受片
41 外面
42 円筒状内面
43 リップ部
44 内面
45 円筒状外面
46 リップ部
47 外側弾性シール部材
48 内面
49 円筒状外面
50 リップ部
51 外面
52 円筒状内面
53 リップ部
54 内側弾性シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部環状板状部、この上部環状板状部の外側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該外側環状端部から垂下した外側円筒状部及び上部環状板状部の内側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該内側環状端部から垂下した内側円筒状部を有する合成樹脂製の上部ケースと、
この上部ケースに当該上部ケースの軸心回りで回転自在となるように重ね合わされていると共に下部環状板状部及びこの下部環状板状部の環状上面に一体的に形成されて当該環状上面から直立した円筒部を有する合成樹脂製の下部ケースと、
上部ケース及び下部ケース間に配されていると共に上部環状板状部の環状下面に環状上面で上部ケースの軸心回りで回転自在となるように接触する一方、下部ケースの円筒部の環状上面に環状下面で接触した環状板状部及びこの環状板状部の内側環状端部に上部環状端部で一体的に形成されて当該内側環状端部から垂下した円筒部を有した合成樹脂製のスラスト滑り軸受片と、
下部ケースの円筒部の外面に円筒状内面から斜め上方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で接触している一方、上部ケースの外側円筒状部の内面に円筒状外面から斜め下方外方に突出して当該円筒状外面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で接触している外側弾性シール部材と、
下部ケースの円筒部の内面に円筒状外面から斜め上方外方に突出して当該円筒状外面に一体的に形成された外側の弾性変形自在なリップ部で接触している一方、上部ケースの内側円筒状部の外面に円筒状内面から斜め下方内方に突出して当該円筒状内面に一体的に形成された内側の弾性変形自在なリップ部で接触している内側弾性シール部材と、
を具備しており、
上部ケースの外側円筒状部の環状下端面は、下部ケースの下部環状板状部の環状上面に隙間をもって対面しており、
上部ケースの外側円筒状部の内面は、上部環状板状部の下面に連接されていると共に外側弾性シール部材の外側の弾性変形自在なリップ部が接触した截頭円錐状内面を具備しており、
下部ケースの円筒部の外面は、外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面と、この小径円筒状外面よりも大径の大径円筒状外面と、小径円筒状外面及び大径円筒状外面間に配していると共に外側弾性シール部材の環状下面が接触した環状段部面とを具備しており、
上部ケースの内側円筒状部の外面は、上部環状板状部の下面に連接された大径円筒状外面と、この大径円筒状外面に連接されていると共に当該大径円筒状外面よりも小径であって内側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面とを具備しており、
下部ケースの円筒部の内面は、下部ケースの下部環状板状部の環状内面に連接された小径円筒状内面と、この小径円筒状面よりも大径であると共に下部ケースの円筒部の環状上面に連接された大径円筒状内面と、小径円筒状内面よりも大径である一方、大径円筒状内面よりも小径であって内側弾性シール部材の外側の弾性変形自在なリップ部が接触した中間円筒状内面と、小径円筒状内面及び中間円筒状内面間に配されていると共に内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面と、中間円筒状内面及び大径円筒状内面間に配された上方環状段部面とを具備しており、
上部ケースの内側円筒状部の小径円筒状外面に連接された当該上部ケースの内側円筒状部の環状下端面は、下部ケースの円筒部の下方環状段部面に隙間をもって対面しており、
スラスト滑り軸受片の円筒部は、上部ケースの内側円筒状部の外面の大径円筒状外面と下部ケースの円筒部の内面の大径円筒状内面との間に配されている、
合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項2】
上部ケースの外側円筒状部の内面は、截頭円錐状内面の円環状下端に円環状上端で連接していると共に上部ケースの外側円筒状部の環状下端面の環状内縁に環状下端で連接した円筒状内面を具備している請求項1に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
上部ケースの外側円筒状部の内面は、截頭円錐状内面の円環状下端に大径円環状上端で連接していると共に当該大径円環状上端よりも小径の小径円環状下端を有した上方截頭円錐面と、この上方截頭円錐面の小径環状下端に小径円環状上端で連接していると共に当該小径円環状上端よりも大径の大径円環状下端を有した下方截頭円錐面とを具備している請求項1に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
外側弾性シール部材及び内側弾性シール部材の夫々は、対応の各弾性変形自在なリップ部を有した弾性シール本体と、弾性シール本体に埋め込まれた芯金とを具備している請求項1から3のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項5】
下部ケースは、その円筒部の環状上面に軸心回り方向で互いに離間されて一体的に形成されている複数個の突起部を有しており、スラスト滑り軸受片の環状板状部は、下部ケースの複数個の突起部の夫々を受容する複数個の凹所又は切欠きを有している請求項1から4のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項6】
外側弾性シール部材の環状下面は、少なくとも一つの弾性変形自在な環状突面を有している請求項1から5のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項7】
内側弾性シール部材の環状下面は、少なくとも一つの弾性変形自在な環状突面を有している請求項1から6のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項8】
下部ケースの円筒部の外面は、環状上縁で当該円筒部の環状上面に連接されていると共に外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面よりも大径の径方向突状円筒状外面を有しており、外側弾性シール部材の内側の弾性変形自在なリップ部が接触した小径円筒状外面は、軸方向において径方向突状円筒状外面と外側弾性シール部材の環状下面が接触した環状段部面との間に配されている請求項1から7のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。
【請求項9】
下部ケースの円筒部の内面は、環状内縁で当該円筒部の小径円筒状内面の環状上縁に連接されていると共に内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面よりも軸方向において上部ケースの内側円筒状部の環状下端面により近接した軸方向突状環状段部面を有しており、内側弾性シール部材の環状下面が接触した下方環状段部面は、径方向において軸方向突状環状段部面と中間円筒状内面との間に配されている請求項1から8のいずれか一項に記載の合成樹脂製のスラスト滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−172814(P2012−172814A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37682(P2011−37682)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】