説明

合成樹脂製の簡易自走車

【課題】
サイドシルの高さが多少高くなっても乗降の容易さが失われることがなく、かつ、車両の前面投影面積の増加を可及的に少なくした簡易車両を得ることにある。
【解決手段】
間隔をおいて配置した合成樹脂製のサイドシル22を床部材21の幅方向両側に配置して上方が開く略容器状の車台15を設け、その車台15の前部上方に窓枠部材16を着脱可能に固定するとともに、後部上方に乗降扉17を後方へ退去可能に取り付けることにより、乗降扉を後方へ退去させて乗員が立ち上がることを可能にしたもので、サイドシルの高さが高くても容易に跨いで乗降できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車室の付いた原動機付自転車のように、エンジンや電動機によって駆動され、乗員を乗せて走行する簡易な自走車に関するもので、とくに、車台と車台によって支持される上部構造体(ボディ)を状来の鋼鉄製に代えて繊維強化合成樹脂(以下、FRPという)製としたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の軽量化のため、前後の車輪を支持する車台を鋼管で作り、その上にFRPで作った車室、いわゆるボディを支持した簡易車両が市販されている。しかし、車台を鋼管で作った車両は、軽量とはいえ、動力で走行する車両に近年求められているエネルギー効率を求めることには困難がある。
【0003】
また、車両のエネルギー効率を向上させるには重量の低減だけでなく、車両の走行抵抗の少ない形態を採用することが求められるが、これを達成するには前面投影面積を可及的に減らして空気抵抗を最小にする必要があり、そのため前面の面積を乗員一人分まで削減するのが好ましい(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、車台の材料を鋼材からFRPに代えようとしても、鋼材で作られた車台に匹敵する強度、および剛性を持たせるには荷重を受ける断面積を増したり、断面係数を変更したりする必要があり、必ずしも容易ではない。
【0005】
その理由は、強度を増すべく車台の断面形状を大型にすると、上部に乗せるボディの位置が高くなり重心が高くなって走行が不安定になるからである。従来の鋼製の乗用車でもこのような不具合があるんで、これを解消するべく車台とボディとを一体的に構成して、いわゆる、モノコックボディとし、乗降用のドアの下面に強度の高い前後方法の敷居部材、いわゆるサイドシルを配置している。
【0006】
そこでFRP製の簡易車両にもこの構成を採用し十分な強度を得ようとすると、サイドシルの床面からの高さが大きくなり過ぎて、両足をそろえて乗る通常の椅子形の座席では乗降に不便がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−179129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、サイドシルの高さが多少高くなっても乗降の容易さが失われることがなく、かつ、車両の前面投影面積の増加を可及的に少なくした簡易車両を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両の外面を形成する合成樹脂製の外殻板と車室の内面を形成する内面板とを間隔をおいて向い合わせに配置し、それらの端部を互いに相手側へ向けて折り曲げて床部材の幅方向両側に略筒状をしたサイドシルを形成し、両サイドシルの前後を幅方向に伸びる剛性の高い連結部材によって連結して、上方が開く略容器状の車台を形成し、その車台の前部上方に窓枠部材を着脱可能に固定するとともに、後部上方に乗降扉を後方へ退去可能に取り付けることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る合成樹脂製の簡易車両は、床の上方に配置された乗降扉を後方へ退去させることにより、床上に立ち上がり易い構成になっているので、サイドシルの高さが多少高くても、これを容易に跨いで乗降できる効果がある。また、床上に設置される座席を跨ぎ形にすれば、乗員自体の前後方向の移動が容易なので、乗降が一層容易になる。
【0011】
車台をなすサイドシルが合成樹脂製の外殻板と内面板とを利用して構成されているので、両板に貫通孔を設けて筒状をした車輪支持筒を挿通し固着させれば、サイドシルが合成樹脂で作られているにも拘わらず高い剛性をもって車輪を支持することができる。また、サイドシルが車室や外面の一部となるので、車体下部の部品点数が少なくて足り、車両の軽量化に効果がある。
【0012】
車台は容器内側枠と、その内側枠と略相似形に作られた外側枠とで構成されているので、比較的複雑な形状をしているのも拘わらず製造が容易であり、とくに、内側枠と外側枠との間に発泡材を介装させれば、それら内側枠と外側枠とに形状の誤差があっても相互に干渉を生じることなく接着できる効果がある。また、発泡材が存在するため中空のサイドシル内における騒音の共鳴が阻止される効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例である合成樹脂製簡易車両の外観図である。
【図2】その側面図である。
【図3】その車台部分の一部を破断して示す平面図である。
【図4】図3中のIV−IV断面図である。
【図5】図3中のV−V断面図である。
【図6】図3中の要部を拡大して示す部分平面図である
【図7】合成樹脂製の部品を分解して示す各部品の外観図である。
【図8】変形例を示す図3相当の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図示した本発明の実施例を説明する。図1、図2中、10はこの発明に係る簡易車両であり、簡易車両10は前輪11と後輪12とを支持するための車台15を有する。簡易車両10は前記車台15の前部上方に窓枠部材16が着脱可能に取り付けられ、後部上方に乗降扉17が後方へ退去可能に取り付けてある。
【0015】
よって、車台15と窓枠部材16、および乗降扉17によって囲まれた空間が乗員の着座する車室18となり、乗員の乗降は乗降扉17を後方へ移動させたとき窓枠部材16との間に生じる乗降用の空間から行うものである。
【0016】
窓枠部材16はFRPを成形して作られており、保守を容易にするため車台15に対して着脱可能に固定されている。窓枠部材16には透明窓16aが取り付けてあり、その透明窓はアクリル、ポリカーボネートなどの透明な合成樹脂によって薄肉で軽量に作られている。16bは前照灯の支持枠、16cは方向指示灯である。
【0017】
車台15は図3、図4で示すように、床部材21の幅方向両側に設けたサイドシル22、22と、両サイドシル22、22の間を連結する後部の後部連結部材23、および前部の前部連結部材24とによって平面形状がおおむね四角形の容器状に構成されている。
【0018】
それらは図7で示すように、外殻板22aを対向する2辺に設けた外壁部材Aと、床部材21の対向する2辺に設けた内面板22bを有する床板部材Bとの、車両の床面に近い大きさの2個の部材を内外に重ね合わせ、それらの間が発泡材22eを介して分離不能に接着されている。
【0019】
接着はそれだけに留まらず、図5で示すように、前記2個の部材A、Bは外殻板22aの下端部が車両の中心方向へ折り曲げられて端部22cで前記床部材21の下面に接着されており、内面板22bの上端は外方へ向けて折り曲げられ、糊代22dの部分で前記外殻板22aの裏面に接着されている。
【0020】
このようにして得られた両サイドシル22、22の断面形状は、車両の下部外面をなす外殻板22aと車室18の内面をなす内面板22bとが所定の間隔をもって対向し、それら外殻板22aと内面板22bとの縁部が互いに相手側へ向けて折り曲げられ、両板22a、22bの間に断面形状が上下方向に長い略長方形の空間が形成されている。
【0021】
なお、前記前部連結部材24は車台15に必須の構成でなく、図8で示すようにサイドシル22、22の前部を内向きに、すなわち、車両の中心側へ弧状に湾曲させて直接に連結することによって省略することも可能である。また、図6で示すように、車輪支持筒25が両側のサイドシル22、22に亘って橋架されているときには、前部連結部材24を並設する必要はなく、車輪支持筒25のみ使用すれば足りる。
【0022】
そして、両連結部材23、24の断面は図4で示すように、前部連結部材24が前記外殻板22aの一部をなす前面板24aと前側の内面板22bとによって、また、後部連結部材23が外殻板22aの一部をなす後面板23aと後側の内面板22bとによって、それぞれ、縦方向に長い略四辺形の柱状に形成され、サイドシル22、22とともに上下方向に作用する力に対して十分な強度を有する。
【0023】
前記サイドシル22、22と後部連結部材23には、車輪支持腕26を枢軸27によって支持するための、車輪支持筒25が設けられている。車輪支持筒25はサイドシル22、あるいは後部連結部材23を厚さ方向に貫通し、それらの2個の壁面に接着されて両端支持梁の構造で強固に支えられるとともに、少なくともその一方の端部を壁面から外側へ突出させてあり、その突出した部分に枢軸27を介して回動可能に支持された車輪支持腕26が支持されている。
【0024】
この実施例で車輪支持腕26は2例が示されており、その一は図3、図4で示すように、車輪支持腕26が電動機14と後車軸26aとを連結するチェーンを保護するためのチェーンケースになっている場合である。この例で車輪支持筒25はフランジのついた断面が略四角形の筒状をしており外端が閉じている。そして、外端の近傍に幅方向に、かつ水平に支持した枢軸27によって前記チェーンケースが揺動自在に支持されており、前記電動機14の駆動時には、枢軸27を介して車両が前進する推力が車台15へ伝達される。
【0025】
その二は図6で示すように、車輪支持腕26が車両の幅方向外方へ伸びる周知の揺動腕である場合である。この例で車輪支持筒25は両側のサイドシル22、22の間に橋架されたており、断面が略四角形で両端部が開放状態の筒状をなしている。車輪支持筒25の両端部はサイドシル22、22から外方へ突出しており、その突出端近傍で枢軸27により一端で車輪を支持した車輪支持腕26を上下揺動可能に支持している。なお、車輪支持腕26は他端部が車輪支持筒25の内側に配置したゴム状のクッション材30、31によって弾性的に挟持されている。
【0026】
車室18をなす床部材21には、後部中央に跨り式の座席28が着脱自在に配置され、その下面がバッテリの収容空間29となっている。よって、座席28を取り外すことによってバッテリの着脱や保守を行うことができる。
【0027】
また、跨り式の座席28は乗員が座った姿勢で身体を前後に移動することを可能にしている。19は操向軸であり下端部で図示しないリンク機構を介して前輪11へ連結されるとともに、上端部に棒式の操向ハンドルが設けられ、操向ハンドルを操作することによって車輪の進行方向を転向する。
【0028】
前記乗降扉17は車台15の後部上方に設けられており、下部がFRPで作られ、上部が透明窓17aとなっている。乗降扉17は図示してないリンク機構により、後方へ退去可能となっている。この退去作動は閉止した位置から後方へ200ミリ程度摺動する動作と、その後方へ摺動した位置においてさらに後方へ70度程度回動して前記窓枠部材26との距離を大きく開く動作とからなり、前段の動作によって車室内外を連通させ、換気や車室内外間の会話を容易にするとともに、後段の動作によって乗員が車室18へ入退出するのを容易にしている。
【0029】
この実施例は以上のように構成されているので、車台15は床部材21とサイドシル22、22および前後の連結部材23、24によって強固に形成され、床部材21の上に支持した座席に乗員が着座する構成となっている。よって、車台15に必要な部品を装着するだけで走行可能な強度が確保され、これに窓枠部材16と乗降扉17とを取り付けることによって車両が完成する。
【0030】
かかる構成は車台15の上部に取り付けられる窓枠部材16と乗降扉17とに、車台15を補強する機能が求められないから、窓枠部材16と乗降扉17には軽さだけを考慮した設計が可能となり、車両の軽量化に大きく寄与できる。
【0031】
サイドシル22、22と、前後の連結部材23、24は十分な強さをもつ比較的高さの高い断面形状が採用されているにも拘らず、乗降扉17が後方へ退去して窓枠部材16との間に乗員が乗降動作のために必要な空間が確保できる上、床部材21には乗員の前後方向の移動が容易な跨り式の座席28が取り付けられているので、乗員は前記乗降用の空間の位置に合わせて身体を移動させることができ、乗降が一層容易になる。
【0032】
なお、変形例として図8で示すように、サイドシル22、22の前端部を内側へ円弧状に曲げて一体化するによって前連結部材24を省略すれば、車両の強度を損なうことなく一層の軽量化が可能となるばかりか、車台15の構造が単純になって車室18の面積を大きくすることができる。
【符号の説明】
【0033】
10 簡易車両
11 前輪
12 後輪
14 電動機
15 車台
16 窓枠部材
16a 透明窓
16b 前照灯の支持枠
16c 方向指示灯
17 乗降扉
17a 透明窓
18 車室
19 操向軸
20 操向ハンドル
21 床部材
22 サイドシル
22a 外殻板
22b 内面板
22c 端部
22d 糊代
22e 発泡材
23 後部連結部材
24 前部連結部材
25 車輪支持筒
26 車輪支持腕
26a 後車軸
27 枢軸
28 座席
29 バッテリの収容空間
30、31 クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外面を形成する合成樹脂製の外殻板と車室の内面を形成する内面板とを間隔をおいて向い合わせに配置し、それらの端部を互いに相手側へ向けて折り曲げて床部材の幅方向両側に略筒状をしたサイドシルを形成し、両サイドシルの前後を幅方向に伸びる剛性の高い連結部材によって連結して、上方が開く略容器状の車台を形成し、その車台の前部上方に窓枠部材を着脱可能に固定するとともに、後部上方に乗降扉を後方へ退去可能に取り付けてなる合成樹脂製の簡易自走車。
【請求項2】
間隔をおいて配置した合成樹脂製の外殻板と内面板とによって略筒状に形成されたサイドシルを床部材の幅方向両側に配置し、両サイドシルの前部を内向きに湾曲させて相互に連結するとともに、後部を幅方向に伸びる剛性の高い後部連結部材によって連結して、上方が開く略容器状の車台を形成し、その車台の前部上方に窓枠部材を着脱可能に固定するとともに、後部上方に乗降扉を後方へ退去可能に取り付けてなる合成樹脂製の簡易自走車。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれかにおいて、前記両サイドシルの前部と前記後部連結部材とに外殻板と内面板とを貫いて車輪支持筒を固着し、その車輪支持筒の一端をサイドシルと連結部材とのそれぞれから外方へ突出させ、その突出した部分に車輪支持腕を揺動可能に支持してなる合成樹脂製の簡易自走車。
【請求項4】
請求項1および請求項2のいずれかにおいて、前記床部材には跨ぎ形の座席と棒形の操向ハンドルとが設置されている合成樹脂製の簡易自走車。
【請求項5】
請求項1において、前記車台は床部材の周囲に内面板を結合してなる略四角形の容器内側枠と、その内側枠の外側に外殻板によって略相似形に作られた外側枠とを内外に重合させてなり、それら内面板と外殻板とを発泡材を介して接着して床部材の幅方向両側にサイドシルと、連結部材とを形成してなる合成樹脂製の簡易自走車。
【請求項6】
請求項1において、前記車台は床部材の周囲に内面板を結合してなる略四角形の容器内側枠と、その内側枠の外側に外殻板によって略相似形に作られた外側枠とを内外に重合させ、内面板と外殻板とを発泡材を介して接着して床部材の幅方向両側にサイドシルを形成してなる合成樹脂製の簡易自走車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−110940(P2011−110940A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265792(P2009−265792)
【出願日】平成21年11月22日(2009.11.22)
【出願人】(594044130)
【Fターム(参考)】