説明

合成樹脂製手袋及びその製造方法

【課題】 合成樹脂からなる手袋本体内面に、保湿効果や肌荒れ解消に効果がある尿素とビタミンEを含有した樹脂層を形成し、該樹脂層に含有された尿素とビタミンEが、長期にわたり安定して手袋内側に適量浸出する新規な合成樹脂製手袋を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル樹脂からなる手袋本体1の内面に、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンを塗布し乾燥させて、尿素:11〜15重量%、トコフェロール:0.2〜0.5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜2を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂製手袋とその製造方法に関し、詳しくは、手袋本体の内面に、尿素とビタミンE(トコフェロール)を含有する層を備えた、保湿性に優れた合成樹脂製手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家事やその他の水仕事の際などに用いる塩化ビニル製の手袋が広く普及している。この種塩化ビニル製手袋は、可塑剤が配合されているため粘着性が大きく、使用時に手に密着して不快感を与えたり、容易に取り外しができないなどの問題がある。そのため、塩化ビニルブレンドレジン等を手袋内面にコーティングするなどの手段がとられているが(例えば特許文献1参照)、このような場合、塩化ビニルブレンドレジン等により装着者の手肌が荒れるなどの問題があった。
また、従来のこの種手袋は、洗剤や水仕事などによる刺激から手肌を保護することはできるが、手肌の保湿機能を持つものでは無い。よって、手荒れを起こしやすい肌質の人は、水仕事などの後に保湿クリームを塗るなどの対処を余儀なくされていた。
【0003】
このような問題を解消するために、例えば特許文献2には、手肌に対する滑り性などを良くするために形成された手袋の内面層、詳しくは、滑り性の良い樹脂で形成された表面処理層、短繊維の植毛、粉状の表面処理剤などの各種内面層に尿素を保持させるか、若しくは、ゴム又は樹脂からなる手袋自体に尿素を含有させて、内面から尿素が浸出するよう形成した手袋が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−249716号公報
【特許文献2】特開2004−190164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に開示された尿素含有手袋は、手袋内面層の材質によっては、尿素が過剰に浸出し却って手肌が荒れたり短期間で保湿効果が失われる虞れや、尿素の浸出が不十分で十分な保湿効果が得られない虞れがある。
また、ゴムや樹脂などからなる手袋自体に尿素を含有させた場合、尿素が入った分だけ手袋自体の強度が低下すると共に、手袋の外側にも尿素が浸出してしまう虞れがある。
【0006】
本発明はこのような従来事情に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、合成樹脂からなる手袋本体の内面側に、保湿効果や肌荒れ解消に効果がある尿素とビタミンE(トコフェロール)を含有した樹脂層(内面層)を別途形成すると共に、該内面層に含有された尿素とビタミンEが、長期にわたり安定して手袋内側に適量浸出する新規な合成樹脂製手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明に係る合成樹脂製手袋は、合成樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素:3〜20重量%、トコフェロール:0.1〜5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜を形成してなることを特徴とする。
【0008】
アクリルウレタン系樹脂は、アクリル(メタクリルを含む)構造部分とウレタン構造部分の結合を基本構造とする樹脂で、少量であれば、それ以外の樹脂の単量体が共重合されていてもよい。
尿素は水溶性であり、アクリルウレタン系樹脂に含有するには、アクリルウレタン系水性エマルジョンを用いることが好ましい。
また尿素は、尿素と相溶性の低い樹脂に含有させるとベタツキが発生するため、保湿性を得るに十分な量を添加することが難しい。アクリルウレタン系樹脂は、尿素との相溶性は良いが自身がベタツキ易いウレタン樹脂の特性と、尿素との相溶性に劣るアクリル樹脂(メタクリル樹脂)の特性との相乗作用により、長期にわたり安定して適度に浸出する(手袋装着者の手に移行する)量の尿素を添加することができる。特に尿素はウレタンの原料にもなる物質であるため、本願の重要な構成要素である。
【0009】
但し、手袋内面層(アクリルウレタン系樹脂皮膜)における尿素の含有量が3重量%未満だと、尿素の浸出量が少なく十分な保湿効果が得られない。一方、尿素の含有量が20重量%を超えると、尿素が過剰に浸出する虞れが生じると共に、手袋本体内面にベタツキが生じるので好ましくない。より好ましい尿素の含有量は11〜15重量%であり、この含有量のとき、アクリルウレタン系樹脂皮膜から手袋内側に向けて、尿素が長期にわたり安定して適量浸出する
【0010】
トコフェロールは所謂ビタミンEであって、保湿効果や肌荒れ解消に特に効果が高い。トコフェロールには、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロールの四種類の同族体があるが、その中でも最も活性が高く、手への移行が効率良くなされ、且つ後述する消臭効果を得られるため、α−トコフェロールを好ましく用いることができる。
トコフェロールは油溶性のため、水性エマルジョンとして尿素と共にアクリルウレタン系樹脂(アクリルウレタン系水性エマルジョン)に含有させる。
また、トコフェロールを単独で含有するとアクリルウレタン系樹脂皮膜から浸出し難くなるが、水性エマルジョンにして尿素と併用しアクリルウレタン系樹脂に含有させることで、少量であっても尿素と共に手袋内側に向けて浸出させることができる。
また、塩化ビニル樹脂製手袋の内側に、尿素とトコフェロールを含有した内面層を形成した場合、尿素とトコフェロールの併用により、可塑剤の臭いが消臭されるという相乗効果がある。
これら効果を得るためのトコフェロールの好ましい含有量は0.1〜5重量%であり、0.2〜0.5重量%であることが特に好ましい。また、トコフェロール中のα−トコフェロールが40%以上であることが好ましい。
【0011】
前述したように、尿素は水溶性であり、トコフェロールは油溶性のため、アクリルウレタン系樹脂皮膜を、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンにより形成することが好ましい。
【0012】
すなわち、本発明に係る合成樹脂製手袋は、合成樹脂、例えば塩化ビニル樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンを塗布し乾燥させてアクリルウレタン系樹脂皮膜を形成する製造方法により容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る合成樹脂製手袋は、合成樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素:3〜20重量%、トコフェロール(ビタミンE):0.1〜5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜を形成したので、尿素とビタミンEが長期にわたり安定して手袋内側に適量浸出する。よって、尿素とビタミンEによる手肌の保湿効果、肌荒れ解消効果を長期にわたり安定して得られる新規な合成樹脂製手袋として提供することができた。
【0014】
尿素の含有量を11〜15重量%とした場合、トコフェロールとしてα−トコフェロールを用いた場合は前述の効果をより実効あるものとし得ると共に、手袋本体が可塑剤としてアルキルスルフォン酸フェニルエステルなどの非フタル酸エステル系可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂からなる場合、可塑剤の臭いを消して、より良好に使用し得る合成樹脂製手袋を提供することができる。
【0015】
本発明に係る手袋は、合成樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンを塗布し乾燥させる方法により、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しながら説明する。
本例の合成樹脂製手袋aは、塩化ビニル樹脂製の手袋本体1の内面に、尿素とトコフェロールを含有したアクリルウレタン系樹脂皮膜2を形成したものである。
【0017】
手袋本体1は、この種分野において周知の形態および構造のもので、例えば、陶磁器又は金属で手型状に形成された手袋製造型を所定温度に加熱し、該手袋製造型を塩化ビニル樹脂溶液に1回または2回浸漬して、該手袋製造型表面に塩化ビニルペーストを附着させ、次いで、該手袋製造型を塩化ビニル樹脂溶液から引き上げてセミキュアー後に冷却することで、前記手袋製造型表面に0.1〜0.3mm厚程度の薄膜状に製膜されるものである。
このようにして製膜された手袋本体1の表面に、アクリルウレタン系樹脂皮膜2を形成し、しかる後、これを手袋製造型から離型反転することで、本例の合成樹脂製手袋aを得ることができる。
【0018】
手袋本体1を形成するために用いる塩化ビニル樹脂溶液は、塩化ビニルペーストレジンに可塑剤、安定剤、ゲル化剤、顔料など通常用いられている各種の添加剤を配合してなる周知の塩化ビニルペーストであり、この中に、場合によってはストレートレジンを配合し、粘度4000〜10000cpsとした塩化ビニルペーストを用いる。
【0019】
アクリルウレタン系樹脂皮膜2は、乾燥後の含有量が後述する範囲となるように尿素とトコフェロール水性エマルジョンを所定割合含有したアクリルウレタン系水性エマルジョン中に、前記手袋本体1の製膜層を有する手袋製造型を浸漬して引き上げ、予備乾燥、キュアー、冷却を順次行って、該手袋本体1の表面に、尿素:3〜20重量%、トコフェロール:0.1〜5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜2として製膜されるものである。
【0020】
次に、具体的な実施例と比較例について説明する。
(実施例1)
下記配合による液温35℃の塩化ビニルペーストに、型温50℃に調整された手袋製造型を浸漬し、引き上げた後に170℃で4分間セミキュアーし、型温まで冷却して、手袋製造型の表面に、手袋本体1となる厚さ0.2mm程度の薄膜を形成した。
(配合)
塩化ビニルペーストレジン(重合度1650):100重量部
可塑剤(アルキルスルフォン酸フェニルエステル:バイエル社製「メザモール」)
:100重量部
安定剤(Ca−Zn):4重量部
ゲル化剤(Ca/Si):4重量部
顔料:1重量部
【0021】
次に、アクリルウレタン系水性エマルジョン(ハニー化成社製「W−213M」)、尿素、α−トコフェロール水性エマルジョン(理研ビタミン社製「理研E乳剤20S」)を混合して、固形分3%、固形分中の尿素11%、トコフェロール0.3%の処理液を作成し、該処理液中に、1双(両手分)での固形分が0.13gになるよう、前記手袋本体1の製膜層を有する手袋製造型を、60cm/分の速度で浸漬し30cm/分の速度で引き上げ、60〜140℃で2分間の予備乾燥を行った後、220℃で8分間のキュアーを行い、次いで型温70℃まで冷却して、前記手袋本体1の表面に、尿素:11重量%、トコフェロール:0.3重量%を含む厚さ0.01mm未満のアクリルウレタン系樹脂皮膜2を製膜し、これを手袋製造型から反転離型して手袋aを得た。
【0022】
(比較例1,2)
前述の処理液中に尿素を含まないこと以外は実施例1と同様にして得た手袋を比較例1とし、前述の処理液中にα−トコフェロール水性エマルジョンを含まないこと以外は実施例1と同様にして得た手袋を比較例2とした。
【0023】
これら実施例及び比較例の手袋を100人の被験者の手に装着して官能試験を行った。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
以上の結果から、本発明に係る合成樹脂製手袋の優位性を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る合成樹脂製手袋の実施形態の一例を示す正面図で、一部切欠して示す。
【符号の説明】
【0027】
1:手袋本体
2:アクリルウレタン系樹脂皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素:3〜20重量%、トコフェロール:0.1〜5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜を形成してなる合成樹脂製手袋。
【請求項2】
前記尿素の含有量が11〜15重量%である請求項1記載の合成樹脂製手袋。
【請求項3】
前記手袋本体が、可塑剤として非フタル酸エステル系可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂からなる請求項1又は2記載の合成樹脂製手袋。
【請求項4】
前記アクリルウレタン系樹脂皮膜が、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンにより形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の合成樹脂製手袋。
【請求項5】
合成樹脂からなる手袋本体の内面に、尿素とトコフェロール水性エマルジョンを含有したアクリルウレタン系水性エマルジョンを塗布し乾燥させて、尿素:3〜20重量%、トコフェロール:0.1〜5重量%を含むアクリルウレタン系樹脂皮膜を形成することを特徴とする合成樹脂製手袋の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249614(P2006−249614A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68308(P2005−68308)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】