説明

合成樹脂複合体

【課題】高速成膜ができ、多品種少量生産においても生産性に優れた成膜方法の採用によって、竿素材の外周面との密着性の高い装飾薄膜層を形成した竿体を提供する。
【解決手段】強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の竿素材1を載置し、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下においても、作動ガスに圧縮空気を使用し、陽極5、陰極6に直流パルス波を印加することで非平衡プラズマ状態を現出し、作動ガスをプラズマ化する。現出したプラズマ中に原料としての反応性ガスを投入することで、化学反応を促進し、化学反応によって生成された反応化合物を竿素材外周面に堆積させて装飾薄膜層2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材の外周面に装飾薄膜層を形成した合成樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂複合体としての竿素材の外周面に、絶縁性合成樹脂層を被覆し、この絶縁性合成樹脂層の外周面に金属を物理蒸着した装飾薄膜層を形成していた(特許文献1)。
【特許文献1】特許3159592号公報(段落〔0008〕,図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した装飾薄膜層は、金属を物理蒸着するいわゆるPVD法を利用した層であるので、次のような欠点がある。
(1) 不純物や酸化物等の異物をできるだけ混在しないように物理蒸着を行うためには、大規模な真空設備を要するところから、設備コスト等に掛かる製造負担が大きい。また、釣り竿のような多品種少量生産は、真空設備を用いた生産方法では生産性が悪い。
(2) 成膜速度が遅く、竿素材のように長尺の筒状部材に成膜するには、作業能率が低下することとなる。
(3)竿素材のように表面に強化繊維等が表出しており、凹凸がある場合には、物理蒸着では均一な成膜を形成することに困難性があり、竿素材との密着性に劣る面がある。そこで、上記した従来技術におけるように、直接竿素材に物理蒸着面を形成するのではなく、中間層として合成樹脂被膜層を介在させることも行われている。
【0004】
本発明の目的は、上記した欠点を解消し、素材の外周面との密着性の高い装飾薄膜層を形成した合成樹脂複合体を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の素材外周面に、局所的に高エネルギーを付与する手段によって、原料の化学反応を促進させて、生成された反応化合物を堆積させて装飾薄膜層を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0006】
〔作用〕
装飾薄膜層を形成するに、素材の外周面上に、原料を化学反応させて形成した反応化合物を堆積させる、いわゆる、CVD製法を用いて行っている。
(1) 素材外周面に堆積される反応化合物は、局所的に高エネルギーを付与する手段によって、化学反応を促進された原料から作成されたものである。それによって、素材のように、表面に強化繊維が表出しかなりの凹凸が見られる表面であっても、均一な成膜が可能である。
(2) 原料に対して高エネルギーを付与する手段が局所的に高エネルギーを付与するものであるために、素材に対する熱的負荷が小さく、かつ、その素材が低温状態で製造されるので、素材の硬化剤等の劣化が少ない。
【0007】
〔効果〕
日中の陽光に晒されかつ塩水等を被ることが多い過酷な環境下で使用されるところから、表面が元来傷み易い竿体において、竿素材との密着性が高くかつ緻密な装飾薄膜層が形成された。これによって、過酷な環境下においても十分耐候性を発揮する竿体を安価な製造コストによって提供することができた。
【0008】
〔構成〕
請求項2に係る発明の特徴構成は、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の竿素材外周面に、局所的に高エネルギーを付与する手段によって、原料の化学反応を促進させて、生成された反応化合物を堆積させて装飾薄膜層を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0009】
〔作用効果〕
(1) CVD製法を用いてはいるが、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において行うものであるので、大規模な真空設備が必要ではなく、製造コストを抑制できる。
(2) CVD製法を用いてはいるが、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において行うものであるので、真空中で行うものと比べ、原料が高エネルギー状態のイオン、ラジカル、励起種等の粒子となり易く多数生成されるので、装飾薄膜層の形成が迅速に行われ多品種少量生産においても生産性に優れる。
【0010】
〔構成〕
請求項3に係る発明の特徴構成は、請求項1又は2記載の発明において、前記局所的に高エネルギーを付与する手段が、作動ガスを、電極間に高周波もしくは直流パルス電圧を印加してプラズマ化する手段である点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0011】
〔作用効果〕
(1) CVD製法を用いてはいるが、プラズマによって局所的に原料を高エネルギー化するので、素材に与える熱的影響が熱CVD製法に比べ少なく、素材に含まれる硬化剤等の劣化を抑制できる。
(2) しかも、高周波もしくは直流パルス電圧が印加され安定した放電が維持されるので、原子等のイオン化が継続して行われることとなり、反応化合物の連続した生成が可能になっており、この面からも装飾薄膜層の形成が迅速に行われる。
【0012】
〔構成〕
請求項4に係る発明の特徴構成は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の素材を載置し、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において、一対の電極間に高周波もしくは直流パルス波を印加して、前記電極間に導入した作動ガスから非平衡プラズマを現出し、前記非平衡プラズマによって原料に対して局所的で高エネルギーを付与して化学反応を促進し、化学反応によって生成された反応化合物を前記素材外周面に堆積させて前記装飾薄膜層を形成する点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0013】
〔作用効果〕
請求項1〜3に記載した作用効果に加えて、次のような作用効果を奏する。
原料に対して局所的でかつ高エネルギーを付与して化学反応を促進する手段として、非平衡プラズマを採用している。これによって、電離した電子は高温であっても、ラジカルや励起種等の粒子は低温であるために、竿素材上の成膜の温度も低温であり竿素材に対する熱的影響が少ない。
【0014】
〔構成〕
請求項5に係る発明の特徴構成は、前記素材が筒状の竿素材である点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0015】
〔作用効果〕
請求項1〜4に記載した作用効果に加えて、次のような作用効果を奏する。
つまり、CVDによる製法を用いることができるので、筒状を呈する三次元物体である竿素材であっても、成膜を短時間で行うことができ、竿素材の外周面に均一な薄膜層を形成し易く、多品種少量生産品である釣り竿であっても、能率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
この実施形態においては、プラズマCVD法を用いた装飾薄膜層2の形成について説明する。
まず、図示してはいないが、処理対象となる合成樹脂複合体としての釣り竿用の竿体の構造について説明する。
炭素繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えたものに、エポキシ等の熱硬化性樹脂を含浸させて、プリプレグシートを構成する。このプリプレグシートを所定形状に裁断して、メインパターンを形成する。この他、図示していないが、竿尻端等の補強を図る為に、メインパターンより軸芯長の短い補強パターン等が使用される。
【0017】
メインパターンとして、強化繊維を周方向に引き揃えた第1層と、強化繊維を軸線方向に沿って引き揃えた第2層と、強化繊維を周方向に引き揃えたものを第3層とを揃える。これらを重ね合わせてマンドレルに巻回し、または、順次マンドレルに巻回して積層していくことによって、筒状体を構成する。筒状体をマンドレルと一体で焼成し、マンドレルを脱芯後所定長さに裁断し研磨処理等を行って竿素材1を構成する。
竿素材1の外周面には、樹脂塗料を施して塗装膜層3が形成されて、釣り竿用の竿体が形成される。
【0018】
次に、塗装膜層3が形成される前の竿素材1の表面に形成される装飾薄膜層2を形成する大気圧プラズマ処理装置4について説明する。図1に示すように、大気圧プラズマ処理装置4は、カバーケース4Aの内側に円筒状の陽極5が設置され、カバーケース4Aの中心部に棒状の陰極6が配置され、陽極5と陰極6とが結線され、上面に作動ガスを投入する作動ガス投入口7、カバーケース4Aの下部に原料を投入する原料投入口8を備えて、構成されている。
【0019】
なお、大気圧プラズマ処理装置4は、上方側のプラズマ発生領域9と、下方側の原料を投入して化学反応によって成膜形成を促進させる反応領域10とに区分けされる。このように、原料の反応領域10を、反応化合物の竿素材1に向かう出口付近に設けることによって、プラズマの発生が安定して行えるようにしてある。
【0020】
カバーケース4Aの材質としては、真鍮、銅などの放熱性に優れた金属、合金等を用いるのが望ましい。陽極5については、カバーケース4Aと同等な材料を用いるのが望ましい。陰極6については、真鍮や銅、チタン、タングステン等の導電性を有する金属、合金等が採用される。
【0021】
上記したように、プラズマ発生領域9と反応領域10とは分離されており、大気圧でプラズマを発生させるプラズマ発生領域9内では高密度なプラズマを安定させて発生させることができ、その高密度なプラズマを用いて反応領域10で原料の化学反応が促進される。
また、安定した高密度なプラズマを用いるため、作動ガスとしては特に不活性ガスを用いる必要はなく、圧縮空気等を使用しても、プラズマを発生させることができる。
【0022】
次に、運転方法について説明する。
プラズマを発生するために用いる作動ガスは窒素、酸素、圧縮空気などを用いる。
竿素材の外周面に形成される薄膜を形成するために使用される原料としての反応性ガスは、錫化合物、珪素化合物、チタン化合物のハロゲン系の弗素化合物や水素化合物、水酸化物等のガスを用いる。もしくは、錫化合物、珪素化合物、チタン化合物の有機金属を用いる場合には、気化、霧化して用いる。
反応性ガスと作動ガスとを混合した反応ガスに対する作動ガスの体積割合は90〜99atm%である。作動ガスのガス流量は5リットル/min〜100リットル/minである。
(2) 使用する電源として、1.5KW程度の直流パルス電源を用いる。パルス周波数は1KHz程度でよい。デューティ比は10〜50%である。高周波電源を用いてもよい。
(3) 放電状態はグロープラズマである。
【0023】
(4) 以上のような大気圧プラズマ処理装置4によって、次のような表面処理が行われる。
圧縮空気等を作動ガスとして作動ガス投入口7より投入し、陽極5、陰極6間に直流パルスを印加することで高密度なプラズマが発生する。
(5) 高密度なプラズマは作動ガスによって反応領域10に運ばれ、原料投入口8から珪素化合物などが投入される。非平衡プラズマ中での原料はプラズマ化され、分解、結合、重合など化学反応が促進される。
(6) 化学反応が促進されることで反応化合物を形成する。反応化合物は作動ガスによって、カバーケース4Aの下端出口より、竿素材1の表面に至り、堆積して装飾薄膜層2を形成する。あるいは、反応領域では反応化合物が形成されず、原料ガスの状態で竿素材1の表面に至り、竿素材1の表面で反応し、その反応化合物が堆積して装飾薄膜層2を形成する。
【0024】
塗装膜層3について説明する。図2に示すように、塗装膜層3は、透明又は半透明のクリア塗料を使用して、装飾薄膜層2の外周面に施されて保護層を形成する。装飾薄膜層2を保護する機能を発揮させるために、装飾薄膜層2に比べて厚くすることが望ましい。クリア塗料としては、エポキシ系塗料、アクリル系塗料、ウレタン系塗料を吹き付け塗装装置等で塗布を行う。
【0025】
〔別実施形態〕
(1) 上記した実施形態においては、プラズマを用いて化学反応を促進されるプラズマCVDについて記載したが、MOCVD、Cat−CVD、レーザCVD、光CVD等の薄膜成形技術、及び、これらの薄膜成形技術を組み合わせた薄膜成形技術を駆使して装飾薄膜層2の形成が可能である。これらは、竿素材1への熱影響が少ない低温状態においても、成膜が可能な薄膜成形技術である。
(2) プラズマCVDを含め上記した薄膜成形技術においては、通常真空中で行われるが、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下においても、薄膜成形が可能である。高真空とは、10-6Pa又は略10-6Paを示すものとする。
(3) 合成樹脂複合体としては、上記した釣り竿用の竿体以外に、リールシート、釣り糸ガイド、リール等に使用されている樹脂成形品、または、自転車のフレーム、クランクアーム、ゴルフシャフト等の樹脂成形品をいう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】プラズマ処理装置で竿素材に装飾薄膜層を形成する状態を示す構成図
【図2】竿素材に装飾薄膜層と塗装層とを形成した状態を示す縦断側面図
【符号の説明】
【0027】
1 竿素材
2 装飾薄膜層
3 塗装膜層
4 プラズマ処理装置
5 陽極
6 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の素材外周面に、局所的に高エネルギーを付与する手段によって、原料の化学反応を促進させて、生成された反応化合物を堆積させて装飾薄膜層を形成してある合成樹脂複合体。
【請求項2】
大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の素材外周面に、局所的に高エネルギーを付与する手段によって、原料の化学反応を促進させて、生成された反応化合物を堆積させて装飾薄膜層を形成してある合成樹脂複合体。
【請求項3】
前記局所的に高エネルギーを付与する手段が、電極間に高周波もしくは直流パルス電圧を印加してプラズマ化する手段である請求項1又は2記載の合成樹脂複合体。
【請求項4】
強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグ製の素材を載置し、大気圧または大気圧より減圧されて高真空に至らない減圧下において、一対の電極間に高周波もしくは直流パルス電圧を印加して、前記電極間に導入した作動ガスから非平衡プラズマを現出し、前記非平衡プラズマによって原料に対して局所的で高エネルギーを付与して化学反応を促進し、化学反応によって生成された反応化合物を前記素材外周面に堆積させて前記装飾薄膜層を形成する合成樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記素材が筒状の竿素材である請求項1から4のうちのいずれか一つに記載の合成樹脂複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75140(P2010−75140A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249761(P2008−249761)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】