合成物の持続的な放出のためのデンドリマー
黄斑変性症、糖尿病性網膜症、及び網膜色素変性症を含む眼疾患の治療のために、標的とする細胞や組織へ投与する医薬組成物において有用なデンドリマーに基づく組成物と方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄斑変性症を含む疾患状態における神経炎症を抑制するために、医薬品を標的の細胞や組織へ投与するのに有用なデンドリマーに基づく組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのヒトの疾患状態に共通する経路の1つにマイクログリアを介する炎症がある。マイクログリアは、網膜や中枢神経系にみられる組織内在性マクロファージである。マイクログリア細胞は、成人の脳における細胞のおよそ10%から20%を構成する。通常の状態下では、これらマイクログリア細胞は、構造的に、内因性のコルチゾルによって抑制されている。マイクログリア細胞は、様々な刺激存在下で、食細胞や細胞障害性細胞によって活性化される。様々な刺激とは、外傷、感染、炎症、虚血、リポ多糖類、反応性酸素種、及び細胞膜の傷害である。マイクログリアが活性化されると、マイクログリアは移動し、傷害を受けた部位に他のマイクログリアを集める。機能不全の細胞は、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、反応性酸素種(ROS)、プロテアーゼの放出によって殺される。その結果、生じた細胞の壊死組織は、マイクログリア細胞に貪食される。
【0003】
第2の細胞障害は、バイスタンダー溶解といわれる過程において起こる。これは、すぐ近くの正常な細胞が、活性化したマイクログリアによって創り出された傷害性の細胞外環境において破壊されるというものである。これは、根本の病的な事象によって影響される細胞よりも細胞障害を増幅し、活性化されたマイクログリア細胞は、それ自体で、改善しつつある状態を病的な状態へと変えてしまう。
【0004】
初期の病態での連鎖パターンでは、マイクログリア細胞への応答と、それに続いて、眼の疾患を含む多くのヒトの疾患において、2番目の病態がみられる。視覚の必須要素の1つに網膜の機能がある。網膜は、眼のフィルムにたとえられる。網膜は、光線を電気信号に変換し、その電気信号を、視神経を通じて脳に伝達する。網膜の両端は、周辺視野に重要である。黄斑と呼ばれる中央部分は、中心の視野と色覚に用いられる。網膜に多くの問題があると、視覚喪失の発生につながる。失明の3大原因は、網膜色素変性症、黄斑変性症、糖尿病性網膜症という神経炎症に関連する網膜の傷害である。アフリカ系アメリカ人の失明の最大の原因は、神経炎症と、網膜と脳をつなぐ視神経におけるマイクログリア細胞の活性化に伴い、視神経と網膜が変性する緑内障である。神経炎症に関連する他の重要な網膜の疾患には、ブドウ膜炎症、自己免疫性の光受容体変性、及び感染がある。
【0005】
臨床の観点では、網膜色素変性症、遅発性網膜変性症、及び加齢性黄斑変性症が、ヒトの健康と生活の質に大きな影響を与える。900万人のアメリカ人が、網膜の神経変性疾患に起因する進行性の失明に苦しんでいる。4千人に1人は、網膜色素変性症である。網膜色素変性症は、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、緑内障に次いで、アメリカ合衆国における視覚障害の4番目の理由である。
【0006】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、神経変性である黄斑の神経炎症疾患であり、中心の視野喪失の原因となる。AMDは、65歳以上のヒトの失明の最大の原因である。世界で、800万人の人々が黄斑変性症から失明しており、さらに高齢化で、この数は拡がると予想されている。
【0007】
加齢性黄斑変性症の原因には、脈絡膜(網膜の下の血管層)、網膜色素上皮(RPE)、網膜感覚神経の下の細胞層、ブルッフ膜、及び網膜感覚神経における慢性的な神経炎症が関与している。この疾患の初期には、黄白色斑(網膜色素上皮とブルッフ膜において小さな塊を形成する細胞の壊死組織と炎症物質)の蓄積に関与する乾燥型として現れる。黄白色斑は、破壊された細胞膜と他の細胞断片を含み、抗原性が高く、網膜において、局所のマイクログリアやマクロファージを介する炎症反応を活性化する。徐々に、この炎症に関連する毒性の伝達物質は、ブルッフ膜や網膜色素上皮を破壊し、直接、失明につながり得るし、もしくは、脈絡膜の血液循環から網膜下の空間への血管内皮増殖因子の放出につながるかもしれない。言い換えると、これは、脈絡膜血管新生といわれる異常な血管の形成につながる。これらの異常な血管は、しばしば血清を漏出し、網膜滲出物を産生し、時々、出血を引き起こす。これは体液が関係するので、”多湿”加齢性黄斑変性症と呼ばれる。”多湿型”と”乾燥型”の加齢性黄斑変性症は共存でき、どちらも神経炎症が関与している。
【0008】
マイクログリア介在性の病状は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、及び急性脊髄損傷を含む様々な中枢神経系の神経変性疾患にも共通している。脳損傷によっても、生涯にわたる身体障害となる。例えば、周産期における脳損傷は、脳性麻痺につながる可能性があるが、これにも損傷に続く脳室周囲白質軟化症におけるマイクログリア細胞が関与している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記すべての疾患に対する臨床的効果のある治療のための技術において、強力、かつ、緊急の要請がある。そこで、本発明は、マイクログリア介在性の組織破壊における共通の経路を阻害することで、この要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含むことを特徴とする。上記生物活性のある合成物は、コレステロール、プロゲスチンプレグネノロン、17−ヒドロキシプレグネノロン、プロゲステロン、17−ヒドロキシプロゲステロン、アンドロゲン、アンドロステンジオン、4−ヒドロキシ−アンドロステンジオン11β−ヒドロキシアンドロステンジオン、アンドロステンジオール、アンドロステロン、エピアンドロステロン、アドレノステロン、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸塩デヒドロエピアンドロステロン、テストステロン、エピテストステロン、5α−ジハイドロテストステロン、5β−ジハイドロテストステロン、11β−ヒドロキシテストステロン、11−ケトテストステロン、エストロゲン、エストロン、エストラジオール、エストリオール、コルチコステロイド、コルチコステロン、デオキシコルチコステロン、コルチゾル、11−デオキシコルチゾル、コルチゾン、18−ヒドロキシコルチコステロン、1α−ヒドロキシコルチコステロン、アルドステロン、合成ステロイド、抗炎症剤、ビタミン類、ペプチド、成長因子、中枢神経系刺激物、オリゴヌクレオチド、siRNA、マイクロRNA、レゾルビン、神経刺激物、及び神経保護剤のような天然ステロイドから成るグループから選択される。また、上記生物活性のある合成物は、フルオシノロンアセトニド、ラニビズマブ、ミノサイクリン、ラパマイシン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、インシュリン、エストラジオール、毛様体神経栄養因子、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、抗酸化物質、及びオリゴヌクレオチド、または、薬学的に許容される、これらの塩でもよい。
【0011】
本発明に係る組成物においては、ナノ粒子の大きさは、約1000nm以下、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0012】
ナノ粒子の組成物は、デンドリマー様に枝分かれした、または星状に枝分かれした重合体やデンドリマーと重合体の混成物のようなナノ粒子塩であってもよい。デンドリマー様に枝分かれした重合体は、ポリアミドアミン、プリオスター(priostar、登録商標)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシン、またはポリエチレングリコール、ポリペプチドデンドリマーから成る。星状に枝分かれした重合体は、星状のポリエチレングリコールでもよい。軟質のナノ粒子は、直径14.5nmから1.5nmである。また、本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物と、封入、錯体形成、または共有結合によって超分岐製剤に組み込まれた薬を含むことを特徴とする。薬と重合体の結合は、ペプチド、グルタル酸、またはポリエチレングリコールから成るスペーサを含む。
【0013】
ある実施形態において、薬ナノ粒子は、薬−超分岐重合体を取り込んでいるさらに大きい規模の実体に取り込まれていて、さらに大きい規模の実体とは、重合体マトリックス、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、または、放出制御された移植物質から成る。
【0014】
他の実施形態において、デンドリマー−薬ナノ複合体は、単独で、または局所での形成、移植された物質を覆う膜、及び移植された薬輸送システム、注入可能な、または移植可能なヒドロゲル、又はコンタクトレンズに組み込まれて投与される。また、デンドリマー−薬ナノ複合体は、全身の血流へ注射されるし、コンタクトレンズで眼の表面へ投与されるし、点眼薬へ応用されるし、または、角膜基質へ投与される。デンドリマー−薬ナノ複合体は、結膜下腔、テノン嚢下、上強膜下、強膜内へ投与されてもよい。デンドリマー−薬ナノ複合体は、脈絡膜、脈絡膜上、網膜色素上皮下、網膜下、網膜上、硝子体内、または前房へ投与される。
【0015】
他の実施形態において、ナノ規模の薬−超分岐重合体製剤は、移植可能な物質を覆う膜として使用できる。
【0016】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、一定時間の間、生物活性のある合成物を持続的に放出することを特徴とする。この放出は、数分、数時間、数日、数ヶ月、数年にわたって継続する。
【0017】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、生物活性のある合成物を患者の標的部位へ持続的に輸送することを特徴とする。標的部位は、眼の硝子体液であって、持続的な輸送は、数秒、数分、数時間、数日、数週、数ヶ月以上にわたる。
【0018】
本発明に係る組成物は、少なくとも1つの抗炎症剤とデンドリマーとの複合体を含む組成物であって、PLAナノ粒子またはPGLAマイクロ粒子から成る群から選ばれた生物的に分解可能な粒子に封入されたことを特徴とする。デンドリマーはPAMAM−G4−OHで、抗炎症剤は、天然または合成ステロイド、フルオシノロンアセトニドやメチルプレドニゾンやデキサメタゾンなどのステロイド誘導体、抗酸化物質、ミノサイクリンのような抗生物質、免疫調整剤または免疫抑制剤でもよい。
【0019】
神経炎症関連疾患の治療方法は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物の投与を含み、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤が、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、前記神経炎症関連疾患が、網膜、視神経、中枢神経系、脊髄または末梢神経系の疾患であることを特徴とする。前記神経炎症関連疾患は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、脳性麻痺視神経炎、鈍傷、貫通性外傷、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、脳卒中、ブドウ膜炎、光受容体変性症、自己免疫性網膜症、遺伝性光受容体変性症、近視性網膜変性症、網膜色素上皮変性症、糖尿病性網膜症、中心性漿液性網膜症、外側の帯状の肉眼で発見できない網膜症、急性多発性板状色素上皮症、多発消失性白点症候群、癌関連網膜症、網膜血管炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落からなる群から選ばれる。
【0020】
本発明に係るヒトにおいて必要とされるこれら疾患の進行性の視力喪失の治療方法は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物の投与を含み、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤が、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含むことを特徴とする。進行性の視力喪失は、ブドウ膜炎、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症から成る群から選ばれる少なくとも1つの状態に関連している。さらに、本発明は、ヒトにおいて必要とされるこれら疾患の眼球の神経炎症の治療方法を提案する。投与は、数日、数週間か数ヶ月の期間に渡り、1回、または2回以上でもよい。
【0021】
さらに、本発明は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む医療装置であって、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤は、少なくとも1つの生物活性のある合成物と、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を投与する方法を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1はフローサイトメトリーによるマイクログリア細胞へのデンドリマーの取り込み示す図である。対照の細胞が示され、異なる置換基(COOH、NH2、及びOH)を有するデンドリマーの細胞内への取り込みが比較される。
【図2】図2AないしFは、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を示す一連の写真である。硝子体内注射後24時間と10日に実行された網膜の低温切開片由来の落射蛍光組織像は、(A)24時間での正常なSDラットにおけるD−FITCの生体内分布;(B)24時間でのRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCの生体内分布;(C)10日での神経炎症の領域内の持続的なD−FITC;(D)24時間でのSDにおける遊離のFITCの分布;(E)24時間でのRCSラットの網膜における均一な遊離のFITCの分布;(F)注射後10時間でのRCSラットの網膜から消失した遊離のFITCを示す。
【図3】図3AとBは棒グラフである。(A)1μgまたは3μgのデンドリマー−FA(D−FA)、または複合体でない遊離のFAの1μlの単回右眼注射の4週間後の、9週齢のRCSラットにおける網膜電位b−波の振幅の平均である。FAのみによる処理または未処理の対照ラットに比較して、デンドリマー−FAでの処理で、網膜電位(ERG)の振幅の顕著な維持がみられる。(B)0.2μg/日と0.5μg/日のIDDIsからのデータと同じ9週齢のRCSラットにおける外顆粒層細胞の密度。
【図4】図4は、マウスでのG4OH−64Cu複合体の生体内分布を示す。G4NH2及びG4OHデンドリマーが64Cuと複合体にされ、異なる表面電荷を有するデンドリマーの生体内分布を調べるために成体マウスに注射された。様々な器官において興味ある領域が描かれ、注射された量と動物の体重で標準化された放射能が、各器官の標準取り込み値(SUV)として表された。成体マウスは50μCiのデンドリマー−64Cuの複合体IVを注射された。異なる器官において、時間とともにプロットされる。
【図5】図5AないしDは注射後24時間のFITCの組織像を示す。(A)スピローグ−ディウリー(SD)の網膜におけるデンドリマー−FITC(D−FITC)の分布;(B)RCSラット網膜におけるD−FITCの分布;(C)SDにける複合体でないFITCの分布;(D)SDにおけるPLGA−D−FITCマイクロスフィア。
【図6】図6はPAMAM−G4−OHデンドリマーとフルオシノロンアセトニドとの複合体合成の概略図を示す。グルタル酸スペーサがデンドリマー表面の立体障害を取り除き、細胞内での薬の放出を可能にする。結果物のフルオシノロン複合体は、薬が同程度の水に不溶であっても、水に可溶である。
【図7】図7は9週齢の対照ラットと、濃度の異なるフルオシノロンアセトニドを投与されたラットの網膜の外側の壊死領域のマイクログリアの数を示す棒グラフである。
【図8】図8は、3日間、15mg/kgのミノサイクリンを投与された、子宮内で内毒素に曝された生後5日の子犬において、最初の10分から最後の10分(対照の子犬と同様に)までに[11C]PK11195の取り込み減少がみられたことで、活性化されたマイクログリア細胞に減少が示唆されることを示す。PK11195の取り込みの増加が、最初の10分に比較して、最後の10分で、内毒素に曝された未処理の子犬で認められたことは、内毒素に曝された未処理の子犬において活性化されたマイクログリア細胞の存在が持続していることを示唆する。これは、ミノサイクリン投与は内毒素に曝された子犬において、活性化されたマイクログリア細胞を阻害することを示している。
【図9A】図9Aは、非外科的または活性のない薬輸送移植物質群と比較して、右眼に4週間にわたり、0.2μg/日もしくは0.5μg/日のFAの持続的な投与を受けたRCSラットの網膜電位b−波の平均振幅を示す棒グラフである。
【図9B】図9Bは、RCSラットの同じ4つの群における網膜の4分の1に対応する、外顆粒層の細胞数の平均を示す棒グラフである。
【図10】図10AないしFは、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を示す。(A)24時間での通常のSDラットにおけるD−FITCの生体内分布。(B)24時間後のRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCの生体内分布。(C)10日後のRCSにおけるD−FITCの生体内分布;(D)24時間後のSDにおける遊離のFITCの生体内分布;(E)24時間後のRCSにおける遊離のFITCの生体内分布;(F)10日後のRCSにおける遊離のFITCの生体内分布。
【図11】図11AないしDは、D−FITCのマイクログリアへの取り込みを示す。(A)網膜内側のマイクログリア細胞のED−1免疫組織化学標識;(B)網膜内側のマイクログリア細胞へのD−FITCの取り込み(60倍);(C)ED−1標識された網膜外側の活性化されたマイクログリア;及び(D)活性化されたマイクログリアへのD−FITCの取り込み。
【図12】図12Aは、活性化された網膜星状細胞のグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色を示す。図12Bは、活性化された網膜星状細胞によるデンドリマー−FITCの取り込みを示す。
【図13】図13Aは、5週齢のRCSラットにおける活性化された網膜ミューラー細胞のGFAP標識を示す(側面図)。図13Bは、活性化された網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込み(図13Aと同じ視野)、及び網膜毛細血管(矢印)へのD−FITCの取り込みを示す。図13Cは、内顆粒層における網膜ミューラー細胞のGFAP標識(軸方向図)を示す。内顆粒層細胞本体は、特に目立っている(ミューラー細胞過程によって概説される)。図13Dは、網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込みを示す(軸方向図)。
【図14】図14は、5週齢のRCSラットの網膜光受容体によるD−FITCの取り込みを示す写真である。
【図15】図15(AとB)は、網膜毛細血管によるD−FITCの取り込みを示す。(A)側面図と(B)血管断面図の側面図。
【図16】図16(AとB)は、S334−ter−4ラットにける、硝子体内注射72時間後の、網膜内側のナノ粒子の生体内分布を示す写真である。緑はFITC標識されたPSナノ粒子で、赤はローダミンGFAPを示す。(A)星状細胞の体細胞にみられる50nmのFITCナノ粒子。(B)前網膜硝子体内へ閉じこめられたままである200nmのFITCナノ粒子であって、デンドリマーを取り上げた細胞に取り込まれていなかったようである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
別の定義がない限り、本明細書で用いられる技術的用語と科学的用語は、当業者が共通して理解する意味と同じである。当業者は、本明細書に記載され、またはそれらと同等である多くの方法と物質を認識し、実際に本発明に用いることができるであろう。本発明は、本明細書に記載される方法と物質に限定されない。
【0024】
導入
多くの効果的な医薬品や薬は、標的組織に及ばない、または、臨床的な有効性を達成するのに十分な間、標的領域に滞留できない。重症のブドウ膜炎に対する合成コルチコステロイドであるフルオシノロンアセトニドはこの一例である。ブドウ膜炎とは、眼の血液供給を担う構造が炎症を起こす、あるいは、腫れる。それらの構造は、ブドウ膜束として知られ、虹彩、毛様体、コロイドを含む。ブドウ膜は、それが影響を及ぼす構造潜在的な原因、および、それが慢性(6週間より長い)か急性か否かを決定づける構造によって分類される。
【0025】
FDAは、ブドウ膜炎の患者に対して、持続的に硝子体内にフルオシノロンアセトニドを輸送することができる移植物質を認可した。しかし、これらの移植物質には、外科移植のための複数の切開作業が必要であること、50%の確率で緑内障が発生すること、移植物質の非浸食性などの障害がある。典型的な薬は他に、網膜と脳における神経炎症を治療する可能性を有する抗炎症薬ミノサイクリンがある。
【0026】
本明細書に開示する発明の1つの基本的なゴールは、細胞障害及び/または食作用という神経炎症に関連する表現型におけるマイクログリアとグリアの活性化を抑制する新しい物質と方法を提供することである。このような活性化は、様々な疾患に共通しており、抑制することによって、関連する近傍の正常組織の破壊が減少、若しくは解消できる。そうすることによって、組織損傷という病態の兆候を有意に減らすことができ、疾患の臨床的な重症度の抑制、さらには健康と生活の質の向上へつながる。本明細書に記載される治療が効果を出しやすいのは、マイクログリア、グリア、または全身性のマクロファージの浸潤が役割を果たす疾患全てである。加えて、本発明は、神経炎症の疾患における血管が担う役割に対処することができる。本明細書に記載する疾患の実施例は、限定されるものではないし、薬や医薬組成物も限定されない。
【0027】
本発明が適用できる疾患の1つに、加齢性黄斑変性症(AMD)がある。加齢性黄斑変性症は、多湿型(血管新生)あるいは乾燥型(非血管新生)に分類される。黄斑変性症の患者のおよそ10%は多湿型の加齢性黄斑変性症である。この多湿型は、酸素の不足した網膜組織への血液の供給を改善するために新しい血管が形成されるときに発生する。しかし、新しい血管は、とても繊細で、簡単に壊れ、出血や周辺組織の損傷が起こる。乾燥型は、より共通性が高く、網膜の色素消失と黄白色斑によって特徴づけられる。黄白色斑は、小さく、黄色がかった、網膜の層内に形成される沈着物である。これらは、網膜の神経炎症を活性化する抗原性物質を含んでいる。
【0028】
糖尿病の眼への影響である糖尿病性網膜症も本発明が適用される。糖尿病患者は、白内障や緑内障といった眼の問題が発展するかもしれないが、疾患の網膜への影響が失明の大きな原因である。糖尿病は、網膜の循環系へ、徐々に影響する。疾患の最も早期の段階は、糖尿病性網膜症の背景として知られている。この段階では、網膜の動脈は弱まり、漏れ、小さな点状の出血が起こる。このような血管は、網膜の腫れ、または浮腫につながり、視力を失う原因となることがある。
【0029】
増殖性の糖尿病性網膜症は、網膜の領域を酸素不足または虚血にする循環器系の問題につながる。新しく、もろい血管は、網膜内を適切な酸素濃度に維持する循環系として発展する。この段階は、血管新生と呼ばれ、簡単に出血する繊細な血管として特徴づけられる。血液は、網膜と硝子体液に漏出し、斑点あるいは気泡が発生するとともに、視力が減少する。病態が進むにつれて、異常な血管の継続的な成長と損傷した組織が、網膜剥離や緑内障のような問題を悪化させる。したがって、血管新生を調整し、抑制することと、それに伴い、血液の漏出を解消することが重要である。デンドリマーは、その生体内分布という長所によって、治療用の分子を輸送することで、血管の炎症の変化を対象として治療できる。
【0030】
網膜色素変性症は、まれではあるが、網膜の桿体光受容体の緩やかな変性を引き起こす遺伝性の疾患である。この疾患は、X連鎖性(母親からその息子へ受け継がれる)であって、常染色体劣性(両親から遺伝子を要求する)、又は常染色体優性(片親から遺伝子を要求する)という特徴を有する。網膜色素変性症は、しばしば性に連結した疾患であるから、女性よりも男性に影響する。網膜色素変性症の経過は人によって異なる。人によっては、視力への影響が軽い。一方、人によっては、失明まで進展する。
【0031】
本明細書に開示される治療方法の説明をするために、以下の眼構造と機能に関連する用語が用いられる。”網膜”とは、眼底にある多層構造の感覚組織である。網膜は、光線を捕まえて、それらを電気信号に変換する数百万の光受容体を含む。この電気信号は、視神経から脳へ伝わり、そこで像に換えられる。網膜には2つの種類の光受容体がある。桿体と錯体である。網膜は、約600万個の錯体を有している。錯体は、黄斑に含まれており、網膜の部分の中心の視野を担っている。錯体は、窩の中で、黄斑の真の中央部分に最も密に局在している。錯体は明るい光に対して最も機能し、色の認識も行う。
【0032】
”硝子体液”は、眼の中心を満たす、粘性があって、透明な物質である。ほとんどが水でできており、眼の体積の3分の2を占め、眼を形成している。硝子体液の粘性という特徴によって、眼は、圧縮されても通常の形に戻ることができる。小児においては、硝子体液は卵の白身のような堅さである。年齢を重ねる毎に、水っぽくなり液性が増す。硝子体液は、しっかりと、網膜のある領域に付着しており、硝子体液が水っぽくなるにつれて、網膜から分離されて、飛蚊症を引き起こす。
【0033】
眼の後部にある硝子体液は、本明細書で開示されている疾患のいくつかを特徴づける異常な血管の成長を標的とする薬の投与経路の1つである。例えば、ヒト血管内皮増殖因子A(VEGF−A)に直接作用する抗体(ラニビツマブ)は、月に1回、硝子体液に注射される。しかし、注射作業そのものが、眼内部の炎症、網膜剥離、網膜裂傷、及びその他の問題のような深刻な副作用の原因となる。したがって、注射、または投与の回数を少なくすることが、望まれない外傷性の副作用を減らすのに有望であろう
【0034】
”毛様体”は、眼の先端付近で、レンズの上下に位置している。毛様体は緑内障の治療における薬の標的となっている。毛様体は、房水を産生し、房水の産生が低下すると、眼球内の圧力が減少する。
【0035】
したがって、房水の過産生、異常な血管の成長、または網膜での神経炎症細胞の望まれない活性化のような病状の所在に応じて、本発明に係る方法と組成物による薬物投与を特異的な細胞と組織を標的にするように適合させることができる。眼への投与経路は、研究され、開示されており、例えば、Lee, T. W. et al., J. Ocular Pharm. 20:43-53, 55-64 (2004)である。このような投与経路は、本発明の方法と組成物を実行する薬学の専門家の手技の範疇である。
【0036】
本明細書で開示される特定の実施形態で治療できる、他の関連する状態及び/又は疾患は、神経炎症、及び/又は眼の炎症に関連するような状態が含まれ、これに限定されないが、網膜色素変性症、黄斑変性症、脳性麻痺、視神経炎、鈍症、貫通性外傷、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、脳卒中、ブドウ膜炎、光受容体変性症、自己免疫性網膜症、遺伝性光受容体変性症、近視性網膜変性症、網膜色素上皮変性症、糖尿病性網膜症、中心性漿液性網膜症、外側の帯状の肉眼で発見できない網膜症、急性多発性板状色素上皮症、多発消失性白点症候群、癌関連網膜症、網膜血管炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落が含まれる。
【0037】
マイクログリア
マイクログリアは、網膜と中枢神経系の樹状細胞の免疫系のメンバーであって、損傷を受けた脂質膜内にある細菌細胞壁リポ多糖類とガングリオシドを含む多くの刺激物によって活性化される(Jou, I. et al., The American Journal of Pathology 2006; 168:1619-1630; Min, K.J. et al., Glia 2004; 48:197-206; Pyo, H. et al., The Journal of Biological Chemistry 1999; 274:34584-34589.)。
【0038】
眼の疾患の場合、損傷を受けた光受容体細胞の膜は、マイクログリアの活性化に寄与する抗原性刺激物の1つを提供する。活性化されると、マイクログリアは食細胞性の表現型を示し、分解されつつある光受容体のほうへ移動し、そして、壊死組織を取り除く。加えて、活性化されたマイクログリアは、CCL−5(RANTES)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP−1αとMIP−1β)、マクロファージ化学誘因物質タンパク質であるMCP−1とMCP−3のような化学遊走性のサイトカインを介して、他のマイクログリアを集めて、活性化する。
【0039】
活性化された表現型を示した後は、マイクログリアは、一酸化窒素や超酸化物陰イオンなどの細胞傷害性のフリーラジカルと同様に、さらに光受容体細胞を損傷(バイスタンダー溶解)するTNF−α、IL−1、IL−6炎症性のサイトカインを放出する。多湿型でなければ、マイクログリア介在性の光受容体細胞死の正のフィードバックサイクルが誘導され、次々に付加的な光受容体のバイスタンダー溶解を悪化させ、光受容体のアポトーシスと壊死が組み合わさり、病状の進行を早める。
【0040】
マイクログリア細胞は、成人の脳における細胞のおよそ10%から20%を構成し、中枢神経系における通常の監視システムを形成する。マイクログリア細胞は、外傷、感染、炎症、及び虚血のような刺激によって活性化されることが知られている。これらの刺激の結果、さらに神経の傷害を誘導する炎症性物質の分泌、反応性酸素種の発生、ペルオキシ亜硝酸に従って、いくつかの細胞粘着マーカーの上方調節がある(Zeng, H.Y. et al., Invest. Ophthalmol. Vis Sci. 46:2992-2999, 2005; Bell, M.J. et al., J. Neurosci. Res. 70:570-579, 2002.)。
【0041】
眼の神経炎症疾患の治療における1つのゴールは、眼の後部を薬の対象とすることである。年齢を重ねるに伴い、網膜色素上皮(RPE)は、時に、光受容体細胞によって産生された無駄な産物を処理する機能を失う。この黄白斑と呼ばれる無駄な産物の蓄積が網膜を歪め、損傷し、乾燥型の黄斑変性症と呼ばれる眼の状態を誘導する。眼において目的の薬の対象となる可能性のある部分には、この他に、血管、神経炎症細胞、網膜色素上皮、視神経、角膜、虹彩、レンズ、及び毛様体が含まれる。
【0042】
マイクログリア活性化が関連する眼の疾患の継続的なしつこさは、新しい治療の必要性の証拠となり、そして、新しい治療を導入するための重要なパラメータは、既存の治療との比較である。持続的に放出する製剤を用いた薬の導入が試みられたが、大きな成功は達成されていない。
【0043】
ナノ粒子の場合、粒子の大きさが、硝子体内の動力学に影響する。蛍光標識したポリスチレンのマイクロ粒子とナノ粒子(直径2μm、200nm及び50nm)をウサギの硝子体腔で1ヶ月間観察した(Eiji Sakurai, H.O. et al., Ophthalmic Research 33:31-36 (2001))。蛍光顕微鏡を用いた組織染色的研究によって、直径2μmの粒子が硝子体腔と小柱網で見られたが、一方、直径200nmより小さいナノ粒子は、組織と同様に網膜で観察された(Eiji Sakurai, H.O. et al., Ophthalmic Research 33:31-36 (2001))。
【0044】
Bouragesらは、ポリラクチド(PLA)ナノ粒子(NP)を用いて、網膜と網膜色素上皮へ、眼の薬を輸送する研究を報告した(Jean-Louis Bourges, S. E. G. et al., Investigative Opthalmology & Visual Science 44:3562-3569 (2003))。ポリラクチド(PLA)ナノ粒子の、眼球内組織での動力学と局在が調べられた。lewisラットにおいて、Rh−6G(蛍光分子)を封入したナノ粒子懸濁液(2.2mg/ml)を1回硝子体内へ注射(5μl)した。ポリラクチドナノ粒子は、有害な毒性を示さずに、多くが網膜色素上皮細胞に局在した。封入されたRh−6Gは、ナノ粒子から拡散し、神経網膜と網膜色素上皮細胞を染めた。このことは、これらの組織を特異的に標的とすることが実現可能であることを示唆している。ナノ粒子は、注射後4ヶ月後まで網膜色素上皮細胞に存在した(Jean-Louis Bourges, S. E. G. et al., Investigative Opthalmology & Visual Science 44(8):3562-3569 (2003))。この結果は、網膜色素上皮へ安定的に、かつ、継続的に薬を供給することができることを示している。もし、ナノ粒子が小さければ(200nm以下)、網膜色素上皮に取り込まれ、もし、サイズが2μm以上であれば、多くのナノ粒子が硝子体腔に留まるだろう。
【0045】
現在、網膜色素変性症と萎縮性(乾燥型)加齢性黄斑変性症に対する有効な治療はない。経口の抗酸化物質であるビタミンAパルミチン酸塩 15,000IU/dによって、網膜色素変性症患者における網膜電位の低下が改善を示したという臨床研究がある(Berson, E.L. et al. Arch Ophthalmol 111(11):1456-9 (1993))。さらに、ある加齢性眼病研究では、ベータ−カロテン、ビタミンE、ビタミンC、亜鉛、及び銅を経口摂取したら、萎縮性加齢性黄斑変性症への高い危険因子を有する患者が血管新生型へ進展する危険性がおよそ25%減少した(AREDS Study Group, 2001)。加えて、毛様体由来神経栄養因子の第2相臨床試験が報告された。この分子は、強い抗アポトーシス活性を有する。網膜色素変性症モデル動物にこの薬を投与すると、光受容体の変性は遅延したが、網膜電位の振幅は、維持されなかった(Liang, F.Q. et al. Mol Ther 4(5):461-72 (2001); Tao, W. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 43(10):3292-8 (2002); Sieving, P.A. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 103(10):3896-901 (2006); Tao, W., Expert Opin Biol Ther 6(7):717-26 (2006); Zeiss, C.J. et al., Exp Eye Res 82(3):395-404 (2006))。
【0046】
天然の、及び合成したグルココルチコイドを含むステロイドは、いくつかの作用機序で神経保護を示した。1)ステロイドは、力学的に安定化するために脂質膜に入り込む(Ignarro, L.J., J Pharmacol Exp Ther 182(1):179-88 (1972); Horwitz, L.D. et al., Free Radic Biol Med 21(6):743-53 (1996); Wang, Y. et al., J Pharmacol Exp Ther 277(2):714-20 (1996))。2)抗酸化物質のように、ステロイドは脂質のペルオキシ化を阻害する(Eversole, R. R., et al. Circ Shock 40(2):125-31 (1993); Horwitz, L.D., et al. Free Radic Biol Med 21(6):743-53 (1996); Letteron, P., et al. Am J Physiol 272(5 Pt 1):G1141-50 (1997))。3)ステロイドは、AP−1(アポトーシス促進シグナル分子)を阻害する(Gonzalez, M. V., et al. J Cell Biol 150(5):1199-208 (2000); Wenzel, A., et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 42(7):1653-9 (2001))。4)ステロイドの抗炎症作用を通じて、ステロイドはマイクログリアの活性化と、マイクログリアの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原、一酸化窒素、TNF−αの産生能力を抑制する(Kiefer, R., et al., J Neuroimmunol 34(2-3):99-108 (1991); Hall 1993; Lehmann, C., et al. Crit Care Med 27(6):1164-7 (1999); Chang, J., et al. Nuerochem Res 25(7):903-8 (2000); Drew, P. D. et al., Brain Res Bull 52(5):391-6 (2000); Dinkel, K. et al., J Neurochem 84(4):705-16 (2003); Lieb, K. et al., Neurochem Int 42(2):131-7 (2003); Glezer, I. et al., Neuroscientist 10(6):538-52 (2004))。
【0047】
いくつかの研究で、抗酸化物質の神経保護的な抗アポトーシス活性が光受容体において示された(Carmody, R. J. et al., Exp Cell Res 248(2):520-30 (1999); Sanvicens, N. et al., J Biol Chem 279(38) :39268-78 (2004); Tanito, M. et al. J Neurosci 25(9) :2396-404 (2005))。急性及び慢性網膜神経変性モデルで、いくつかのグルココルチコイドと非グルココルチコイドステロイドが抗酸化活性を発揮し、神経保護的であった(Behl, C. et al., Mol Pharmacol 51(4):535-41 (1997); Wenzel, A. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 42(7):1653-9 (2001); Dykens, J. A. et al., Biochem Pharmacol 68(10) :1971-84 (2004)). Estrogens have been shown to be neuroprotective against oxidative stressors in vitro and in vivo in transgenic RP animal models (Dykens, J. A. et al., Biochem Pharmacol 68(10) :1971-84 (2004); Sanvicens, N. et al., J Biol Chem 279(38) :39268-78 (2004))。
【0048】
グルココルチコイドが、Fas遺伝子の発現の特異的な抑制によって、Tリンパ球や好中球のような全身性の免疫細胞におけるアポトーシスの仲介因子であるFasを阻害することが見いだされた(Cox, G. J. Immunol. 154(9):4719-25.1995; Yang, Y. et al., J. Exp. Med. 181:1673-82, 1995; Chang, L.C. et al., J. Endocrinol. 183:569-83.2004)。ステロイドがフリーラジカルに結合する能力が、外傷関連の脊髄神経系細胞の変性(Hall 1993)と、慢性ブドウ膜炎であるウィスター・ラットモデルにおける酸化ストレス傷害性ブドウ膜組織において示された(Augustin, A.J. et al., Br J Ophthalmol 80(5):451-7, 1996)。アルビノ・ウサギにおけるトリアミノクロンの硝子体内への注射によって、網膜電位の閾値が増強され、網膜の形態の改善に関連があった(Dierks, Lei et al., Arch. Ophthalmol. 123(11):1563-9 2005)。
【0049】
グルココルチコイド受容体は、マウスの、変性している網膜のアポトーシスを起こしている光受容体にも局在していて、デキサメタゾンの眼球内注射に応答して活性化される。活性化されると、グルココルチコイド受容体は、活性化タンパク質(AP)−1を阻害し、アポトーシス反応を抑制する。デキサメタゾンを投与した眼には、網膜の外側の核細胞の層が維持されていることが観察された(Wenzel, A. et al., Invest Ophthalmol Vis. Sci. 42(7):1653-9 (2001))。
【0050】
上記報告において、これらの疾患や状態には、より効果的な治療が必要であることが確認された。本明細書に開示する組成物と方法はそのような治療を提供する。
【0051】
ナノ物質とナノシステム
本明細書で用いられる”ナノ物質”及び/または”ナノシステム”は、相互に交換可能に、デンドリマーと少なくとも1つの他の治療薬を含むマイクロ粒子またはナノ粒子として用いられる。
【0052】
本明細書で用いられる”マイクロ粒子”または”マイクロ粒子システム”という用語は、一般的に、直径約1nmから約2,000nm、好ましくは、直径100nmから500nmのマイクロ粒子またはマイクロカプセルとして用いられる。さらに”ナノ粒子”は、一般的に、1nmから1000nmの直径範囲である。本明細書では、本発明のある実施形態が、ナノ物質の形成に用いられる一組の生体適合性のあるナノ粒子製剤と関連する。例えば、薬または他の治療薬をより長い期間、維持及び/または輸送するためにデザインされた薬輸送手段としてである。これらの製剤は、望みの大きさに調整でき、適度の構造的強度を有し、優れた透過性と表面特性を示す。したがって、この製剤は、重合体マトリクス、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、放出制御できる移植物質のようなものを含んでいる。望ましいナノ粒子は、軟質のナノ粒子である。
【0053】
ある特定の実施形態において、本明細書で記載されるナノ物質は、1つの治療薬の濃度で対象に使用できるし、他の実施形態では、ナノ物質は、複数の濃度で対象へ投与でき、より長い期間使用できるのが望ましい。ある実施形態では、ナノ物質は、少なくとも1つの治療薬の放出を、少なくとも数時間、数日、数週間、または数ヶ月にわたって、制御できる。
【0054】
本発明によって与えられる利点のひとつは、粒子の透過性と、薬複合体の放出速度、またはナノ粒子周辺への吸収の改善された制御に関係する。一般的に、ナノ物質は、合成重合体、生物重合体(例えば、タンパク質や多糖類)などを含む様々な物質から調製されるデンドリマーを含み、他の薬や、成長因子や遺伝子のような生物工学の産物のキャリアとして用いられ、または、造影剤の運搬に使われる。これらのナノ物質は、重合体のコアシェルを含み、コアシェルの中に調合薬または治療薬が、吸着または化学的結合によって化学的及び/または物理的に結合または付着している。あるいは、治療薬は、ナノ粒子コアに重合体として結合してもよい。電荷のない低分子薬は、巨大分子に結合してもよく、電荷を有する重合体に結合するのがより好ましい。
【0055】
ナノ粒子(デンドリマーを含む)を使用するにあたり、ナノ粒子の治療できる期間を伸ばすために、粒子を抗凍結処理または凍結乾燥する。安定化を伴う、ナノ粒子の抗凍結処理は、凍結乾燥の方法によって行う。洗浄した粒子が、抗凍結溶液に懸濁され、懸濁液の凍結乾燥が適切な凍結乾燥装置で行われる。
【0056】
デンドリマー
本開示によれば、調合薬は、薬が関連するか、または薬と複合体となった重合体物質を含むナノ物質として眼に投与される。実施形態において、重合体物質は、高度に均一化された分子、狭い分子量分布、特異的な大きさと形態的特徴、および、高機能性の末端表面を有するように製造されたデンドリマーの形で含まれる。例えば、エチレンジアミン−コア・ポリ(アミドアミン)(以下、PAMAM)デンドリマーは、”デンス・スター”重合体といわれる巨大分子構造のクラスの代表である。一部の実施形態では、デンドリマーが、部分的に世代4または世代5(それぞれG4またはG5)がアセチル化されたポリアミドアミン(PAMAM)、またはポリプロピルアミン(POPAM)デンドリマーである。
【0057】
従来の重合体と違って、これらデンドリマーは、中心の初期コアで始まる一連の繰り返されるステップで製造される。後に続く各成長ステップは、より大きい分子の直径を有する重合体の新しい”世代”を意味し、新しい世代は、2倍の数の反応性表面部位と、前の世代のおよそ2倍の分子量を有する。デンドリマー−薬ナノ物質は、持続的な放出を高めるために、さらにそれら自身を包含されることができる。例えば、ここと実施例でより詳細に説明される生物分解性のポリ(ラクチド−グリコリド共重合)(PLGA)マイクロスフェアに封入され得る。
【0058】
一般的に、デンドリマー分子は、直径1.5nmから14.5nmの範囲であって、3nmから10nmが小さなタンパク質の大きさに匹敵する。デンドリマー分子は、多くの枝分かれをもち、その立体構造は、高度な機能と、とても小さい多分散性(重合体の1つの枝の分子量の分布として定義される)を有する。このような特徴を鑑みると、デンドリマー分子は、医薬品などの多くの分子を運搬することができ、均一の大きさにすることができ、そして、眼球内のような特別な投与方法に対して、適切に調製することができる。
【0059】
永続的なまたは開裂可能な結合によって、若しくはデンドリマーミセルのコア内に物理的に包み込むことによって、所望の医薬品を、デンドリマーに結合させることができる。デンドリマーの骨格は、望みの生物的部位への輸送が促進されるために、標的部分を組み入れるための機能性部位も有している。この機能性部位によって、デンドリマーの骨格を修飾することもでき、例えば、親水性を増加させて、水溶媒への溶解性を上げる、または、脂質領域への溶解性を上げることである。
【0060】
デンドリマーの利点には、治療に適した薬の濃度を維持、望まない副作用の抑制または最小化、薬の投与量の抑制、投薬回数の抑制、及び眼球への投与の場合は、侵襲性の少ない形での投薬と短い半減期を有する薬の投与の強化が含まれる。いくつか、またはすべてのこれら利点は、本明細書で開示される様々な組成物と方法に関わる。
【0061】
デンドリマーは、既知の方法に従って調製する。例えば、米国特許第5,714,166号には、様々な大きさと組成物を有するデンドリマーの調製方法が開示されている。Yangらは、PAMAM組成物であるデンドリマーと治療薬を結合する方法を検討した(Yang, H. et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 17:3-19 (2006))。その物質は、デンドリマーの表面上に密に詰めたシェルから成る樹木状の”箱”に封入された。ポリエチレングリコール化されたデンドリマーが疎水性コアに物質を保持するのに有用であって、疎水性の物質の水溶性が増加した。デンドリマー−薬複合体は、薬をデンドリマーの表面、またはそれ自身がデンドリマーの表面に結合するPEGに接合させることで調製される。
【0062】
本明細書に記載される実施例では、眼に注射するために、PAMAM−G4−OHデンドリマーがフルオシノロンアセトニド(FA)と結合された。薬のデンドリマー投与は、薬単独より有利な点を示した。6倍低いFAの濃度で、持続的に放出される単独のFAより高い機能と神経保護活性を示したことにより、デンドリマーと結合させることによって、より少ない薬の投与で同等かそれ以上の治療効果が達成できる可能性を確認した。デンドリマー−FAが細胞に取り込まれると、短い期間で全身の循環に入ることができず、遊離の薬より利点がある。他眼クロスオーバー効果は、遊離のFAよりもデンドリマー−FAを投与した眼でのほうが小さかった。これは、デンドリマー−FA複合体の細胞への取り込みが強化された結果であると考えられた。
【0063】
本発明に係る方法と組成物に適したデンドリマーは市販されている。例えば、PAMAMデンドリマーは、アルドリッチ(Aldrich)から入手可能で、世代に依存して、特異的な分子量、直径、及び表面の置換基を有している。ある実施例では、PAMAM−G4−OH(−OH末端置換基を有する第4世代デンドリマー)は、アルドリッチから得た。デンドリマーの選択は、投与経路、標的の組織、利用される調合薬のタイプ、治療する疾患または状態、対象の全身の健康状態、調合薬の剤形、その他などのいくつかの因子に依存するがこれに限定されない。
【0064】
”結合する”とは、薬または医薬品、または造影剤または標的物質(正しくは”物質”として用いられる)が物理的にデンドリマーのコアに封入され、または取り込まれ、部分的に、若しくは全体的にデンドリマーへ分散され、またはデンドリマーへ付着し、または、つながり、若しくは、これらの組み合わせである。付着またはつながりとは、共有結合、水素結合、吸着、吸収、金属結合、ファンデルワールス力、またはイオン結合、またはこれらの組み合わせである。
【0065】
物質とデンドリマーの結合は、随意に結合させるもの、連結するもの、及び/またはスペーサをデンドリマー複合体の調製と使用を促進するために用いることができる。適した連結置換基とは、対象となる物の効果、またはデンドリマー複合体にある他の物質の効果を、大きく損なうことなしに、対象となる物をデンドリマーへつなぐ置換基である。これらの連結置換基は、開裂可能、または開裂不可能であて、一般には、対象となる物とデンドリマーとの間の立体障害を避けるために用いられる。デンドリマーの大きさ、形、官能基の密度が、厳格に制御されているから、被運搬物質をデンドリマーに結合させる方法が多数ある。
【0066】
例えば、(a)物質と実体の間には、共有結合性の、クーロン力の、疎水性の、またはキレート化の結合があり得て、一般に、官能基は、デンドリマーの表面に、または近くにある。(b)物質とデンドリマーの内部の部分の間には、共有結合性の、クーロン力の、疎水性の、またはキレート化の結合があり得る。(c)デンドリマーは、物質を内部(空隙容量)(例えば、磁性または常磁性のコア、または、キレート化と、デンドリマー内でゼロバランス状態をとるための金属イオンの減少によって形成されたドメイン)に取り込みやすいように(例えば、物理的に内部またはデンドリマーの内部部分への結合による)、主に中に隙間がある内部に調製される。
【0067】
内部に磁性を含むデンドリマーは、磁力などを利用して、様々なデンドリマー表面において、多様な生物活性を有し、かつ、複合体を形成できる物質を取り入れるために用いられ、そこでは、拡散律速に寄与する部分でデンドリマーの表面を満たすことによって、運ばれた物質の放出が随意に制御される。または、(d)前述の選択肢の様々な組み合わせが用いられる。本発明に係る方法と組成物において有用なデンドリマーは、米国特許第4,507,466号、米国特許第4,558,120号、米国特許第4,568.737号、米国特許第4,587,329号に開示されているデンス・スター重合体である。
【0068】
デンドリマー複合体に用いるのに適している医薬品には、in vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて、哺乳動物を診断または治療対処するために用いられ、デンドリマーの物理的な完全性を大きく乱すことなく、デンドリマーと結合できる物質の全てが含まれる。例えば、これに限定されないが、フルシノロンアセトニド、ミノサイクリン、化学療法の物質、抗発癌性物質、抗血管形成物質、腫瘍抑制物質、抗微生物物質、核酸(RNA、DNA、cDNA、siRNA、microRNA、及び化学合成された核酸誘導体を含む)、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸(自然発生及び/または人工的なアミノ酸または誘導体)、ビタミン、ミネラル、成長因子(上皮細胞増殖因子、毛様体神経栄養因子、形質転換成長因子ベータ、骨形成タンパク質、線維芽細胞増殖因子、神経栄養因子(神経成長因子、脳由来神経成長因子、ニュートロフィン−3など)、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、血小板由来成長因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ミオスタチン、増殖分化因子−9、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子など、血管新生因子(マトリクス・メタロプロテイナーゼ、血管内皮増殖因子、アンジオポエチン、ノッチ・ファミリー・メンバー、デルタ様リガンドなど)、インテグリン、アポトーシス因子、サイトカイン、治療のタンパク質をコードする核酸を含む発現コンストラクトである。しかし、本発明は治療薬そのものに限定されない。当業者であれば、活性化因子が抗活性化因子(siRNA、microRNA、アンチセンス、阻害抗体など)によって無効化され、そして、それら因子がただちに開示されたと見なされることを理解するだろう。
【0069】
さらなる実施形態では、治療薬は、光に不安定な、放射線に不安定な、及び酵素に不安定な保護基から選ばれる保護基で保護される。一部の実施形態では、化学療法物質が、これに限定されないが、白金錯体、ベラパミル、ポドフィルトキシン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロロエタミン、シクロフォスファミド、カンプトセシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロスレア、アドリアマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、エトポシド、タモキシフェン、パクリタキセル、タキソール、トランスプラチナム、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサートを含むグループから選ばれた。一部の実施形態では、抗発癌性物質は、アンチセンス核酸(例えば、RNA、分子)を含む。特定の実施形態では、アンチセンス核酸は、癌遺伝子のRNAに相補的な配列を含む。好ましい実施形態では、癌遺伝子は、これには限定されないが、abl、Bcl−2、Bcl−xL、erb、fms、gsp、hst、jun、myc、neu、raf、ras、ret、src、またはtrkを含む。一部の実施形態では、治療タンパク質をコードする核酸は、これに限定されないが、腫瘍抑制因子、サイトカイン、受容体、アポトーシス誘導因子、または分化物質をコードする。好ましい実施形態では、腫瘍抑制因子は、これに限定されないが、BRCA1、BRCA2、C−CAM、p16、p21、p53、p73,Rb、及びp27を含む。好ましい実施形態では、サイトカインは、これには限定されないが、GMCSF、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、インターフェロン−ベータ、インターフェロン−ガンマ、腫瘍壊死因子を含む。特定の実施形態では、アポトーシス誘導因子は、これに限定されないが、AdE1B、Bad、Bak、Bax、Bid、Bik、Bim、Harakid、及びICE−CED3プロテアーゼを含む。一部の実施形態では、治療薬は、短い半減期の放射性同位体を含む。
【0070】
本発明に係る一部の実施形態では、さらに、ナノ物質は、これには限定されないが、14C、36Cl、57Co、58Co、51Cr、125I、131I、111Ln、152Eu、59Fe、67Ga、32P、186Re、35S、75Se、175Ybを含む放射能標識を含む造影剤を含む。一部の実施形態では、造影剤は、蛍光性物質を含む。好ましい実施形態では、造影剤は、フルオレセインイソチオシアネートを含む。
【0071】
多湿型の黄斑変性症の治療において、マキュジェン(登録商標)(ペガプタニブナトリウムの注射剤)、ラニビツマブ、ベバシツマブ、VEGF−トラップ、レタアン(登録商標)(アネコルタブ酢酸塩)、及びコンブレタスタチン A4のプロドラッグを含む、現在の利用可能な治療薬は、デンドリマー複合体を用いた投与に適している。光活性化治療法との組み合わせによる1つの先行する治療(例えば、光凝固術、または光力学療法)や、ビスジン(登録商標)、ビタミン(特にビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなど)、ミネラル(特に亜鉛)のような他の加齢性黄斑変性症の治療との組み合わせも適している。特定の実施形態は、放射線治療、温熱療法、外科手術などとも組み合わせられる。
【0072】
デンドリマーの表面の電荷は、細胞内輸送とデンドリマーからの薬の放出に大きな影響がある(Kannan, S. et al., J of Biomaterials Science: Polymers Edition. 2004; 15(3):311; Khandare, J. et al., Bioconjugate Chem. 2005; 60:330-337; Perumal et al., Biomaterials.2008; 29:3469-3476)。局所へ薬を輸送し、局所での薬を延長するための、このようなデンドリマーの使用は、in vitroとin vivoのどちらにおいてもマイクログリア細胞にデンドリマーが取り込まれることの認識によって、さらに支持され、実施例1で詳細に説明されている。OH末端置換基を有する第4世代デンドリマーPAMAM(PAMAM−G4−OH)は、ラットモデルでの測定において、マイクログリア細胞への取り込みと、細胞内での薬の放出に効果があった。
【0073】
in vitroで、マイクログリア細胞が、異なる官能基をもつFITC標識したPAMAM−G4デンドリマー存在下、非存在下で処理され、フローサイトメーターを用いて、取り込み能を決定された。ヒドロキシ基を有するデンドリマーは、アミノ基やカルボキシル基を有するデンドリマーより高い取り込みを示した。ヒドロキシ基を有するデンドリマーは、迅速にマイクログリア細胞に取り込まれた。
【0074】
アミノ酸デンドリマーも提案された。例えば、Maranoらは、レーザー誘導性の脈絡膜新生血管(CNV)を阻害するために、ラットの眼に、脂溶性アミノ酸デンドリマーによって抗血管内皮増殖因子オリゴヌクレオチド(ODN−1)が輸送されるか調べた(Marano, R.J. et al., Nature Gene Therapy 12:1544-1550 (2005))。ナノ物質は、悪い影響を示さず、長期間寛容であった。デンドリマー−ODN−1複合体は、網膜細胞層へ移行し、網膜色素上皮へ達したことが観察された。この複合体は、4ヶ月から6ヶ月以上の期間にわたって、遊離のヌクレオチドと比較してかなりの効果を示した。複合体は、顕著な効果を示し、はじめの2ヶ月より後に、高い濃度で網膜色素上皮に存在した。ODN−1の輸送に関して、治療効果は、28日ごとに注射が必要な他の輸送方法に匹敵した。しかし、これらの治療は、医師に受け入れられなかったことや、多くの患者に使用できなかったという欠点がある。
【0075】
したがって、本明細書で説明されるデンドリマー−薬複合体は、細胞への薬の取り込みが望まれる眼の疾患を治療するのに適している。薬は、他の要素の中でも、治療する疾患に基づいて選ばれる。デンドリマーの大きさと組成は、本明細書で試されたものに限定されない。眼への導入に適したデンドリマーの大きさは、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0076】
眼に使用するデンドリマーは、調合薬を組み込む重合体ミセルを含む。重合体ミセルは、シェルとしての親水性重合体鎖とコアとしての疎水性重合体鎖を含むナノ粒子でもよい。本明細書で、”ナノ規模”という用語は、”マイクロ粒子”の範囲の下、若しくは直径1マイクロン(1マイクロメートル)の下のあらゆる大きさを意味する。特定の大きさの範囲には限定されず、本明細書で示される大きさの範囲は例である。ミセルの粒子の大きさは、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0077】
そのような実施形態で用いられる親水性の重合体の一部の非限定的な実施例は、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸などのようなポリアルキリンオキシドを含む。使用される疎水性重合体の例は、ポリラクトン、疎水性ポリアミノ酸、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステルなどを含む。ブロック共重合体は、親水性重合体鎖と疎水性重合体鎖の間に形成される。ポリペプチド(ポリアスパラギン酸のような)、ポリアミン、ポリカルボン酸のような陰イオン性または陽イオン性の重合体が疎水性のコアの形成に用いられる。また、ポリペプチド、アミノ酸、またはポリ偽ペプチドのような電荷をもつ重合体鎖や重合体電解質を含むコアを有するコア−シェル型のポリイオン複合体も用いられる。
【0078】
一般に、非生物分解性または生物分解性重合体がマイクロ粒子に用いられる。好ましい実施形態では、マイクロ粒子は生物分解性の重合体で形成される。非生物分解性重合体は、経口投与で用いられる。一般には、合成重合体が好ましいが、天然重合体も使用され、同等かそれ以上の特性を有しており、特にいくつかの加水分解によって分解される、ポリヒドロキシアルカノアートのような天然生物重合体のことである。代表的な合成重合体は、ポリ(ヒドロキシ酸)であって、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、及びポリ(乳酸−グリコール酸共重合体)のようなもの、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)、ポリ無水物、ポリオルソエステル、ポリアミド、ポリ炭酸塩、ポリアルキレンであって、ポリエチレンやポリプロピレンのようなもの、ポリ(エチレングリコール)のようなポリアルキレングリコール、ポリ(エチレン酸化物)のようなポリアルキレン酸化物、ポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリ(ビニル塩化物)のようなポリビニルハロゲン化物、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリスチレン、ポリウレタン、及びこれらの共重合重合体、セルロース誘導体であって、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸塩セルロース、ブチル化酢酸セルロース、フタレート化酢酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、セルローストリアセテート、及びセルロース硫酸ナトリウムのようなもの(本明細書では、総称して”合成セルロース”とする)、アクリル酸、メタクリル酸の重合体、または共重合重合体、またはエステルを含むこれらの誘導体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、及びポリ(アクリル酸オクタデシル)(本明細書では、総称して、”ポリアクリル酸”とする)、ポリ(ブチル酸)、ポリ(バレリアン酸)、及びポリ(ラクチド−カプロラクトン共重合体)、及びこれらの共重合重合体及び混合物である。本明細書で用いられる”誘導体”とは、当業者によって、普通に実施される化学基の置換、付加及び他の修飾がなされた重合体を含む。
【0079】
好ましい天然重合体の実施例には、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、プロラミン、であって、例えばゼインのようなタンパク質、及びアルギン酸、セルロース誘導体、ポリヒドロキシアルカノアートであって、例えばブチル化ポリヒドロキシのような多糖類が含まれる。マイクロ粒子の生体内での安定性は、ポリエチレングリコール(PEG)が共重合されたポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)のような重合体を用いることで、製造の際に調節できる。もしPEGが外部表面にさらされると、PEGが外部表面の親水性のために、これらの物質が循環する時間が長くなる。
【0080】
デンドリマーの輸送物質は、数日から数週間かけて、封入若しくは結合された分子を放出するようにデザインされる。放出期間に影響する因子には、周囲の媒体のpH(pH5において、より早い放出で、それより下では、酸がポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)の加水分解を触媒する)と重合体の組成がある。脂肪族ポリエステル疎水性において異なり、これは分解速度に影響する。特に、疎水性のポリ(乳酸)(PLA)、より疎水性のポリ(グリコール酸)PGAとそれらの共重合重合体、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)(PLGA)は様々な放出速度を示す。これら重合体の分解速度、そして、これにしばしば一致する薬の放出速度は、数日(PGA)から数ヶ月(PLA)に変化でき、PLAとPGAの比を変えることによって、簡単に操作できる。
【0081】
動物モデル
治療に適した疾患は、加齢性黄斑変性症(ARMD)、網膜色素変性症(RP)が含まれ、これらは、臨床試験に先立って、動物で検討できる共通の根本的な病状を共有している。どちらの疾患も、網膜色素上皮の機能が低下する結果、直接的及び/または間接的に光受容体が損傷を受けるという生化学的な異常を示す。光受容体の損傷は、最終的に、細胞またはミトコンドリア膜のレベルで起きる。ミトコンドリア外膜が脂質過酸化反応を介して損傷を受けると(通常、状態異常の網膜内での酸化ストレスの結果として)、ミトコンドリアマトリクスへの過度のカルシウムと超酸化物陰イオンの流入が起こる(Marchetti, P., et al. J Exp Med 184(3):1155-60 (1996); Green, D.R., et al. Science 305(5684):626-9 (2004); Spierings, D., et al. Science 310(5745):66-7 (2005))。この超酸化物及び/またはカルシウムの過負荷(カルパイン誘導アポトーシス)への応答において、ミトコンドリアはチトクロムcを細胞質ゾルへ放出し、ここで、チトクロムcは、APAF−1とカスパーゼ−9にアポトソームを形成するために相互作用する。このアポトーシスへの過程によって、DNA修復、複製、及び形質導入が停止し、細胞死につながる。結果として、ミトコンドリア外膜を安定化する抗酸化物質や薬は、アポトーシスによる細胞死に拮抗する作用で神経保護的である。
【0082】
光受容体表面または網膜の他の細胞表面膜が損傷を受けると、健康状態では通常休眠しているのに、マイクログリア細胞は、網膜の樹状細胞介在の免疫系の一部となって、活性化されて、損傷を受けた細胞を殺したり、貧食したりする。活性化されたマイクログリア細胞は、網膜神経炎症のメディエータであって、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のような細胞傷害性タンパク質、一酸化窒素(NO)のような反応性酸素種(ROS)、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼ、及び補体を放出する。これらの結果、網膜外部における光受容体の細胞傷害が起こり得る。
【0083】
英国外科医師会(RCS)ラット網膜神経変性モデルが、上記で説明した加齢性黄斑変性症と網膜色素変性症の機序に対する治療の試験に適している。このモデルは、マイクログリアの活性化の結果、顕著なアポトーシス(Tso, M. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 35(6):2693-9 (1994); Katai, N. et al., Invest Opthalmol Vis Sci 40(8):1802-7 (1999))と壊死による細胞死を示す(Thanos, S., Brain Res 588(1):21-8 (1992); Thanos, S. et al., Int J Dev Neurosci 11(5):671-80 (1993); de Kozak, Y. et al., Ocul Immunol Inflamm 5(2) :85-94 (1997); Akaishi, K. et al. Jpn J Ophthalmol 42(5) :357-62 (1998); Srinivasan, B. et al., Science 310(5745):66-7 (2004); Zeng, H.Y. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 46(8) :2992-9 (2005))。RCSラットにおける神経感覚の網膜は、生化学的には正常である。このマウスは、網膜色素上皮に、MERTKチロシンキナーゼの変異を有している。これは、ヒトにおける網膜色素変性症の原因であると同定された(Gal, A. et al., Nat Genet 26(3):270-1 (2000))。
【0084】
MERTK変異は、脱落した光受容体外側部分の桿体を貧食するという網膜色素上皮の機能を損なう。年齢を重ねた結果、生化学的には、加齢性黄斑変性症の患者における黄白色斑に似た網膜周辺の空間(外側の壊死組織領域と呼ばれる)において、過酸化され、損傷を受けた細胞膜は網膜のマイクログリア活性化への大きな刺激となる。マイクログリアのトール様受容体は、損傷を受けた脂質膜に結合して、マイクログリアの活性化が起きる。このモデルでは、活性化されたマイクログリアによって放出された細胞傷害性のタンパク質、一酸化窒素、プロテアーゼ及び補体に曝されたときに、無害な傍にある正常な光受容体が死ぬ、または膜損傷を受ける。このように損傷を受けた、または死んだ光受容体は、大量の光受容体の変性、視力低下、及び網膜電位の消失(ERG)につながる神経炎症の増幅過程において、さらにマイクログリア細胞の活性化を励起する。食細胞であって、ロドプシンを含む活性化されたマイクログリアは、免疫組織化学的に、網膜色素変性症と加齢性黄斑変性症を伴う患者の死後の網膜内にみられる(Gupta, N. et al., Exp Eye Res 76(4):463-71 (2003))。
【0085】
上記のRCSラットモデルは、本開示の目的において、動物モデルとして適しており、さらに、デンドリマー製剤と、混成ナノ物質と、マイクロ物質であって、デンドリマー−薬複合体とナノ粒子、または、複合体を封入したマイクロ粒子を含むマイクロ物質の試験に用いられる。当業者は、本明細書における実施例から誘導されるものの、適切な対照を用いることを知っている。
【0086】
生体内における効果を試験するために、正常なラットと、強い神経炎症を有するラット(網膜変性モデル)が遊離したFITCとデンドリマーと複合体となったFITCで処理された。疾患モデルでは、デンドリマー−FITCの網膜外部への取り込みが増加し、特に、外顆粒層(ONL)、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死組織領域で、及びこれらの間で増加した。この取り込み様式は、正常な網膜ではみられなかった。これらのデータによって、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症と他の神経変性過程において、網膜の周辺層への取り込みが増加するという、本発明に係るデンドリマー−薬のナノ物質の利点のひとつが支持される。
【0087】
この実験の結果は、デンドリマー複合体が、遊離したFITCと同様にすぐに網膜から消えなかったことも示した。この結果によって、デンドリマー−薬の複合体は、グリア、マイクログリア、網膜色素上皮、及び血管のような強い神経炎症の領域における薬の滞留時間を延長することができ、薬力学的効果を強め、特異的な網膜の周辺層を対象とし、輸送しなければならない総量を抑制し、そして、薬の副作用を減ずる可能性をもつ、という本発明に係るデンドリマー−薬のナノ物質の第2の利点が支持される。
【0088】
FITCは、デンドリマーの輸送パラメータを決定するための試験分子であった。フルオシノロンアセトニフルオシノロンアセトニド薬は、生物学的活性を有する分子の輸送の試験に用いられ、そして、ミノサイクリンの投与によって、生体内でのマイクログリア細胞の活性化の抑制がみられた。簡潔に言うと、マイクログリア特異的リガンド[11C]PK11195を用いたマイクロPET画像によって調べたところ、ミノサイクリンの生後投与によって、マイクログリアの活性化の経時変化が減少した(実施例6)。
【0089】
例示する薬及び治療薬
薬または医薬組成物の選択は、第一に、治療対象の疾患、あるいは抑制対象の状態に依存する。例えば、合成コルチコステロイドであるフルオシノロンアセトニド(FA)は、重症のブドウ膜炎患者に対して長期の硝子体内投与が可能な、持続的放出製剤としてFDAの承認を受けた(Jaffe, G.J. et al., Ophthalmology 2000;107:2024-2033; Jaffe, G.J. et al., Ophthalmology 2006;113:1020-1027; Jaffe, G.J. et al., Investigative Ophthalmology & Visual Science 2000;41:3569-3575)。ミノサイクリンは、その抗炎症効果が知られており、神経炎症状態の治療に用いられる。
【0090】
ミノサイクリンとドキシサイクリンは、脳傷害後の炎症を減じることが示された。本明細書でのデンドリマーを基にした方法に従って、ミノサイクリンのような抗炎症物質の、マイクログリア細胞への輸送によって、神経炎症が減少し、それ故に傷害が減少する。実施例6は、ミノサイクリンが、マイクログリア細胞の活性化を抑制することで、神経炎症を減じることを示している。
【0091】
実施例は、マイクログリア細胞による優先の細胞内取り込みによって、ナノ物質が強化された薬輸送を提供できることを示すために行われ、そして、細胞内で薬が持続的に放出された結果、治療効果に顕著な改善が得られた。この実験は、上記黄斑変性症のラットモデルの生体内で実行された。結果は顕著であって、デンドリマーに基づいたナノ物質は、現在、様々な眼の病状における神経炎症の治療での強力な基盤として開発できるため、実用性と産業上の適用性を有している。
【0092】
本明細書で開示された方法のような適切な薬輸送システムは、マイクログリア介在、及び他の眼の炎症疾患の治療のために開発されている他のものと同様に、薬の効果を強め、そして持続することができる。実施例における結果は、デンドリマー−薬の複合体が単独の薬または薬を持続的に放出する移植物質と比較して、網膜の神経保護においてよりよい治療効果を示す。投与の改善された経路の一例として、網膜変性のラットモデルが、注射されたデンドリマーフルオシノロンアセトニド(D−FA)ナノ物質と、単独で注射されたFAと、持続的に放出する硝子体内の薬輸送移植物質(IDDIs)とを、1日の持続速度について比較するために用いられた。
【0093】
現在、FAは、例えば無菌移植物質としての、眼球投与が承認されている。移植物質は、眼の後部へ局所的に、0.6μg/日の名目初期速度で放出され、最初の1ヶ月を超えると、0.3μg/日から0.4μg/日の定常速度に減じ、およそ30ヶ月以上放出されるように設計される。この組成物によって、移植の必要性が排除され、移植は侵襲性の低いデンドリマー−FAの複合体の注射に置き替えられるので、既存の治療法が改善される。
【0094】
単独のFAあるいは対照群である未処理ラットと比較して、デンドリマー−FAの複合体による処理によって、網膜電位の振幅が有意に維持された。9週齢のRCSラットの外顆粒層の細胞密度が、0.2μ/日と0.5μ/日のIDDIsでのデータと比較された。D−FA処理されたラットでみられた細胞密度の増加は、IDDIs処理、遊離のFA処理されたラット対して有意な神経保護の増加を示している(1μ/gと3μ/gのD−FAに対してp<0.001)。他眼クロスオーバー効果は、IDDIsを含む複合体でないFAで処理した全ての動物よりも、D−FA処理の動物のほうが低かった。
【0095】
ひとつの機序にこだわらなければ、これは、RCSラットでD−FITCナノ物質の細胞への取り込みが増加したためだと思われる。D−FAが細胞に取り込まれると、そのD−FAは、非複合体薬で観察されるのとは異なり、全身循環への再分布ができない。その結果として、低濃度での薬力学の効果が強められた。D−FAの注射は、総FA濃度が6倍低いのに、より大きな機能(ERG)と神経保護効果(ONLカウント)を示した。
【0096】
新しい治療の導入における、もうひとつの重要な点は、標的の薬または物質の取り込みと分布を可視化できることである。本明細書でのデンドリマーナノ物質においては、マイクログリア細胞へのデンドリマーの取り込みは、マイクロPET画像を用いて、即時、可視化できる。これを示すために、マウスでG4OH−64Cu複合体の生体内分布を調べた(図4)。G4NH2とG4OHのデンドリマーが64Cuで複合体とされ、表面電荷の異なるデンドリマーの生体内分布を調べるために成体マウスに注射した。所望の領域が様々な器官において取り出され、注射した濃度と動物の体重で標準化された放射能が標準取り込み値(SUV)として表された。成体マウスは50uCiのデンドリマー−64Cu複合体 IVが注射された。G4OHデンドリマーは、G4NH2よりも脳へより多く取り込まれた。これは、マイクロPETを用いた即時画像が、脳のマイクログリア細胞によるデンドリマー−ミノサイクリン64Cu複合体の取り込みを定量化するために用いられることを示す。
【0097】
デンドリマー複合体組成物は、他の活性成分、添加剤及び/または希釈剤を任意に含んでもよい。注射用組成物は、懸濁液あるいは溶液の形態であってもよい。溶液の形態の場合、複合体は生理的に許容されるキャリアに溶解させられる。キャリアは適切な溶媒と、ベンジルアルコールのような保存料とからなり、もし必要なら、緩衝液を含む。水、水性アルコール、グリコール、ホスホン酸塩または炭酸塩エステルが溶媒として有用である。デンドリマーと薬の複合体は、小胞またはリポソームに組み込まれることができる。
【0098】
複合体は、分解可能な重合体(例えば、乳酸−グリコール酸共重合重合体またはポリ無水物重合体)か、又は分解不能な重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合重合体)のホストシステムに封入され得る。
【0099】
実施例7と実施例11では、デンドリマー−薬複合体を封入するためのマイクロ粒子が開示されている。実施例7によると、PLGA(ポリ(乳酸−グリコール酸共重合体))マイクロスフィアがデンドリマー−FITC複合体を封入した。保護されたコアをもつPAMAMデンドリマーの製造方法は、この技術分野で知られている。本発明では、固有の世代の特定のデンドリマーに限定しない。例えば、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代、第10世代、またはより大きな世代のデンドリマーが用いられる。分子量と末端の置換基の数は、重合体の世代(層の数)に応じて、指数関数的に増加する。異なる型のデンドリマーは、重合体化の過程を始めるコア構造に基づいて合成される。好ましい実施形態では、デンドリマーは第4世代のデンドリマーを含む。
【0100】
デンドリマーのコアの構造が全体の形状、密度、表面の機能性のような分子のいくつかの特性を決める(Tomalia et al., Chem. Int. Ed. Engl. 29:5305 (1990))。球形のデンドリマーは、3価の開始コアとしてアンモニア、または、4価の開始コアとしてエチレンジアミン(EDA)を有することができる。近年開示された棒状のデンドリマー(Yin et al., J. Am. Chem. Soc. 120:2678 (1998))は、ポリエチレンイミンの直線状の長さを変えることができるコアを使用し、コアが長ければ長いほど、デンドリマーが長くなる。樹状マクロファージはキログラムの量で市販されており、生物工学用製品のための適正製造基準(GMP)下で製造される。
【0101】
デンドリマーの特性は、これらには限られる訳ではないが、エレクトロスプレイイオン化質量分析、13C核磁気共鳴分析、1H核磁気共鳴分析、高性能液体クロマトグラフィー、多角度レーザー光線散乱サイズ排除クロマトグラフィー、紫外分光光度計、キャピラリー電気泳動、及びゲル電気泳動などの技術によって測定される。
【0102】
各種の腸溶コーティングを用いれば、デンドリマー薬複合体が胃を通過しやすくできる。デンドリマー薬複合体は、当業者に知られるバインダーを使うことで、錠剤にできる。その剤形は、レミントン・ファーマシューティカル・サイエンス(18版、1990年、マック出版社、ペンシルバニア州イーストン)に記載された。適した錠剤には、圧縮された錠剤、糖衣錠剤、フィルム加工した錠剤、腸溶コーティングされた錠剤、多重圧縮された錠剤、放出制御された錠剤などが含まれる。
【0103】
異常または望ましくない血管の成長を治療するために、治療薬を抗血管新生物質としてもよい。実施例には、アネコルタブ酢酸塩、抗血管内皮増殖因子(VEGF)アプタマー、AMD−FAB、あるいはプロテインキナーゼc阻害剤が含まれる。この分野の当業者が知る他の抗血管新生物質も使われる。例えば、抗血管新生物質は、これに限定される訳ではないが、ステロイド、血管新生抑制ステロイド、メタロプロテイナーゼ阻害剤、インターフェロンがある。
【0104】
非限定的な治療方法のひとつでは、PAMAM−G4−OHデンドリマーが、FAを組み込まれて、早期段階の加齢性黄斑変性症と診断された患者の硝子体液へ注射される。特定の濃度及び/または製剤の、本明細書で開示されるナノ粒子及び/またはデンドリマーが治療する特定の疾患または状態に応じて変えられる。例えば、製剤は、毎日、毎週、毎月、若しくは必要に応じて投与され、薬の濃度は、少なくとも約1ngから、少なくとも約1.5ngから、少なくとも約2.0ngから2000μgまで、少なくとも約2.0μm、少なくとも約2.5μm、少なくとも約3.0μm、少なくとも約5.0μm、少なくとも約8.0μm、少なくとも約10μm、少なくとも約12μm、少なくとも約15μm、少なくとも約20μm、少なくとも約25μm、少なくとも約30μm、少なくとも約35μm、少なくとも約40μm、少なくとも約45μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約100μm、少なくとも約250μm、少なくとも約500μm、少なくとも約750μm、少なくとも約1000μm、少なくとも約1500μm、少なくとも約1800μm、少なくとも約2000μm、あるいは、これらの間の値いずれかである。
【0105】
治療の効果は、業界標準に基づいた従来の測定方法、例えば、これらに限定されるわけではないが、全体の形態、組織学、微生物学、病理学、分子生物学(治療した対象由来のDNA、RNA、またはタンパク質の解析を含む)、及び、可能であれば、治療対象から提供される症状に関する情報などに基づいて評価される。
【0106】
特定の実施形態のひとつでは、デンドリマー−FA複合体はPLGAナノ粒子に封入されて、静脈内に、経口で、口腔で、腹腔に、関節腔に、直腸内に、局所に、経皮で(特に調合物をゆっくり放出するために)、皮下に、筋肉内に、鼻腔内に、硝子体内に、脈絡膜上腔に、網膜周辺に、上強膜に、テノン嚢周辺に、強膜内に、網膜上に、注射で、噴霧器で、または、治療する特定の状態または疾患に、器官に、または他の因子に応じた他の様式で投与される。デンドリマーを含むナノ粒子は、点眼の様式で、眼の周りか中に沈殿を沈着させて、眼腔へ注射して、眼に直接点滴するなどして眼に輸送されると好ましい。別の実施例では、本明細書で開示されるデンドリマーを含むナノ粒子が、好ましくは対象の神経系、さらに好ましくは、中枢神経系に輸送される。これら特定の実施形態では、標的細胞は、ニューロン、星状細胞、乏突起膠細胞、グリア細胞、または、他の細胞、または、患者の神経系に関連のある要素を含むであろう。
【0107】
代わりのナノ粒子製剤は、少なくとも1つの寸法が100nm未満であって、ナノ粉末、ナノクラスター、ナノ結晶、ナノスフィア、ナノロッド、ナノカップ、及びその他顕微鏡でしか見えない粒子を含む。
【0108】
下記実施例は、例示の目的でのみ包含され、本発明に係るデンドリマー組成物の有用性を理解できる技術と方法の限定を意図していないことが、当業者によって理解され、簡単に実施されるであろう。
【0109】
(実施例)
実施例1
in vitroとin vivoでのマイクログリア細胞によるデンドリマーの取り込み
細胞内輸送とデンドリマーからの薬の放出におけるデンドリマーの表面電荷の役割が報告された(Kannan, S. et al., J. Biomaterials Science: Polymers Edition. 2004; 15:311; Khandare, J. et al., Bioconjugate Chem. 2005; 60:330-337)が、治療の試みの対象であるマイクログリア細胞との関係はこれまでに報告されていない。
【0110】
マイクログリア細胞の取り込みにおけるデンドリマー表面の置換基の影響を調べるために、マイクログリア細胞(5×105細胞/ml)を、10μgの、異なる官能基(−OH、−NH2、−COOH)を有する、FITC標識したPAMAM−G4デンドリマー存在下と非存在下(対照とする)で、37℃で1時間処理した。デンドリマーの取り込みは、ベクトン・ディッキンソン・フローサイトメーターを用いて評価した。対照の細胞の蛍光強度が有意に増加したことから、3つのデンドリマーいずれも細胞に速く取り込まれたことを示し、PANAN−G4−OHデンドリマーは他の2つのデンドリマーより速く取り込まれた。この結果を図1に示しており、−OHデンドリマーがマイクログリア細胞に速く取り込まれた。
【0111】
正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を調べた。静脈注射の24時間後と10日後に実行した網膜の低温切開片由来の落射蛍光組織像を、以下の図2Aないし図2Fに示した。図2Aは、24時間後の通常SDラットにおけるD−FITCの分布を示す。図2Bは、24時間後のRCS網膜変性モデルにおけるD−FITCの分布を示す。外顆粒層でのD−FITCの集積が*で示され、強い神経炎症がある壊死組織領域を示す。図2Cは、10日後においてD−FITCが神経炎症領域内に維持されていることを示す。図2Dは、24時間後のSDラットにおける遊離のFITCの分布を示す。図2Eは、24時間後のRCSラットの網膜において遊離のFITCが均一に分布していることを示す。図2Fは、注射10日後のRCSラットの網膜から遊離のFITCが消失していることを示す。
【0112】
図2BのRCSラットの網膜からも明らかなように、D−FITCは、網膜の外側への取り込みが増加し、正確に外顆粒層、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死領域の内やその間に局在されたことが示された。この取り込み様式は、正常なSDラットの網膜では観察されなかった(図2A、図2D)。画像の赤は、TRITCフィルターからの自己蛍光のせいである。網膜色素上皮(RPE)は、D−FITCの注射を受けたマウスの網膜におけるFITC蛍光を強めることを示す。遊離のFITCの注射を受けたマウスの眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光が観察されなかった。この様式は、定性的に、注射後10日においても同様であった。図2Fに示されるFITCシグナルは、外側の壊死組織領域からの自己蛍光である。この画像では、網膜色素上皮は、網膜から分離されており、見えなかった。
【0113】
これらのデータは、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のような高いエンドサイトーシス速度を有する細胞によるD−FITC複合体の取り込みが強まることを示した。結果的に、この結果は、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症と他の神経変性過程を受けている網膜の周辺層への強い取り込みを示すという結論を支持する。さらに、図2Cに示すように、デンドリマー複合体は、図2Fの遊離のFITCのように早くは網膜から消失しないことが示された。
【0114】
本実施例は、デンドリマー−薬の複合体が強い神経炎症の領域での薬の滞留を延長でき、それによって、薬力学的な効果を増強し、特異的な網膜の周辺層を対象とすることができ、そして、薬の総投与量を減じことができ、薬の副作用を減らせる可能性を示している。
【0115】
実施例2
PAMAM−G4−OH−フルオシノロンアセトニド(D−FA)複合体(ナノ物質)と持続的に放出する移植物質との比較
D−FA複合体(ナノ物質)の調製と評価は以下のように実施された。ナノ物質の調製には、PAMAM−G4−OHデンドリマーが選ばれた(Jayanth Khandare, P.K. et al. (2005); P. Kolhe, J.K. et al., Biomaterials 27:660-669 (2006))。デンドリマーは、アルドリッチから入手し、混在するであろう小さな、低い世代の不純物を除去するために透析された。PAMAM−G4−OH(分子量=14,217Da、64−OH末端基、大きさ約5nm)は、2段階ジシクロヘキシル・カルボジイミド(DCC)カップリング反応(図6)を用いて複合体とされた。反応混合液は3日間撹拌し、DCUを取り除くためにフィルターにかけられた。
【0116】
未反応の物質を除くために、1日おきにDMSOを交換しながら、ろ液がDMSOに対して3日間透析された(透析膜のカットオフは1000Da)。複合体を得るために、透析されたものを真空下で乾燥した。1H−NMRが複合体の評価に用いられた。タンパク質統合法で決定したところ、複合体の割合は、デンドリマー1分子に対して、FAが4.5分子であって、複合体は水に溶解する。これは、ナノ物質の分子量が16,700Daであることを示す。
【0117】
これらのナノ物質は、さらにMALDI−TOF質量分析によって評価され、分子量が17,000Daであることが示唆され、これは、NMRのデータと同等である。DMSOにおける複合体の安定性が、透析膜を透過して放出された薬を測定することによって調べられた。24時間を通して集められた、膜の外側へ透過してきた試料をHPLC分析
したところ、複合体由来のごく微量の薬が放出されたことが示唆された。このことは、複合体はとても安定で、そして、遊離の(複合体でない)FAはごくわずかであった。
【0118】
デンドリマー−FA(D−FA)ナノ物質の神経保護効果が以下のように評価された。静脈注射されたD−FAナノ物質の神経保護効果が、遊離のFAの注射、及び1日あたりの放出速度を維持しながら遊離のFAを放出するIDDIsと比較された。図3Bは、D−FAと遊離のFAを、それぞれ1μgと3μgを注射したときの外顆粒層の細胞密度を示し、これに加えて、IDDIsにおけるデータを図9に示した。ここで、1μgと3μgは、D−FAのFA含量を示す。D−FAの外顆粒層の細胞密度は、IDDIsや遊離のFAの注射よりも高かった。外顆粒層の細胞密度は、遊離のFAを1μg注射したときよりも、D−FAを、それぞれ1μgと3μgを注射したとき群のほうが高かった(1μ/gと3μ/gのD−FAに対してp<0.001)。IDDIsは実施例6に、遊離のFAをそれぞれ1μgと3μgを注射したときは図3Bに記載されているが、他眼クロスオーバー効果は、D−FAを注射した眼において、より顕著でなかった。
【0119】
ひとつの機序にこだわらなければ、図5に示されたように、RCSラットでのD−FITCナノ物質の細胞取り込みが増加したからかもしれない。D−FAが細胞内に取り込まれると、非複合体薬で観察される全身への循環系への再分布が生じない。結果として、低濃度での薬力学効果が強められる。D−FAの注射によって、6倍低い総FAの量で、より高い機能(網膜電位)と神経保護(外顆粒層の数)という結果が得られた。
【0120】
実施例3
RCSラットで神経保護的であったフルオシノロンアセトニド
本実施例によると、ステロイドであるフルオシノロンアセトニド(FA)は、持続的に放出する硝子体内への薬輸送移植物質(IDDIs)によって輸送されると、RCSラットのゆっくりした網膜変性に対して、高い神経保護作用を示した。図9Bは、4週間の試験期間で、FAを0.2μg/日、FAを0.5μg/日、活性のない薬を輸送する移植物質(右眼に)、非外科的な対照をそれぞれ受けた4つの、9週齢のRCSラットの群における外顆粒層細胞(光受容体細胞本体)の密度を示す。定量組織解析によって、FAを0.2μg/日で処理された眼の外顆粒層の細胞密度が、非外科的な対照群の2.38±0.12倍大きく(p<0.001)、活性のない薬を輸送する移植物質群の4.85±0.24倍大きい(p<0.001)ことが示された。FAを0.5μg/日で処理された眼の外顆粒層の数が、非外科的な対照群の1.78±0.21倍大きく(p値はクラスカル-ウォリス検定で0.02)、活性のない薬を輸送する移植物質群の3.56±0.17倍大きい(p<0.001)ことが示された。群間で内顆粒層の数における違いはなかった。
【0121】
他の実験では、フルオシノロンアセトニドは、処理された眼の網膜電位b−波の振幅を維持した。外顆粒層のデータは、同じ動物での網膜電位の所見と矛盾がなかった(図9A)。群を比較すると、それぞれ0.2μg/日、及び0.5μg/日のFAで処理された眼から測定した術後4週の網膜電位b−波の平均値の振幅は、手術をしない対照やプラセボ処理した眼よりも有意に大きいことを示した(p<0.001)。この網膜電位の結果は、1日用量が低い群はより大きな神経保護と機能的効果があるという外顆粒層細胞の数のデータを支持した。0.5μg/日のFAで処理した眼におけるb−波の平均値の振幅が、0.2μg/日のFAで処理した眼の値より量的には低いが、これらの間に統計的な有意差はない(p=0.113)。
【0122】
IDDIsはRCSにおいて、濃度相関的にクロスオーバー効果を示した。量的には、4週時点での、0.2μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の振幅は、対照群の右眼と左眼、及びプラセボ群の右眼と左眼のそれらより大きかった。0.5μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の平均値は、その群の右眼及び非外科的な対照群の右眼と左眼のそれらとは、有意に異なっていた(解析能力0.050:0.810でp<0.03、クラスカル-ウォリス検定でp=0.006)。0.2μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の振幅の平均値は、プラセボ群の右眼と左眼、及び対照群の右眼と左眼のそれらとの間に統計的な有意差はなかった。他眼効果は薬のクロスオーバーであった。これは、分布の量が小さい小動物に共通して見られる。濃度に関連した他眼の処理への反応の所見は、遊離の薬は、上強膜及び/または渦静脈系を通って眼から離れ、全身に分布するようになり、その後、他眼で薬力学効果を示すと考えられる。
【0123】
FAはRCSラットにおける神経炎症を抑制した。RCSラットの外顆粒層と網膜電位の維持におけるFAの作用機序の研究において、網膜マイクログリア細胞の定量組織解析がED−1免疫標識で行われた。RCSラットの光受容体層と外側の壊死領域は、食作用を有し、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のような毒性物質を放出する活性化マイクログリアによって光受容体損傷を増幅された被損傷の脂質膜を含む。0.2μg/日のFAで処理した群の眼における、壊死組織層の活性化されたマイクログリア細胞の密度は、非外科的な対照群の眼と比較して5倍の減少(p<0.001)を、活性のないIDDIsを受けた眼と比較して9倍の減少(p<0.001)を示した。0.5μg/日のFAで処理した眼においては、壊死組織層の活性化されたマイクログリア細胞の密度は、非外科的な対照群の眼と比較して4倍の減少(p<0.001)、活性のないIDDIsを受けた眼と比較して7倍の減少(p<0.001)を示した。
【0124】
実施例4
PAMAM−G4−OHデンドリマーは、通常のSDラットではみられないが、RCSラットでは、変性した外顆粒層への取り込みの強化を示した。
図5は、スピローグ−ディウリー(SD)ラットとRCSラットにおける網膜の低温切開片から得た落射蛍光像を示す。これらは、遊離の、複合体でないFITC、デンドリマー複合体であるFITC(D−FITC)、及びPLGAマイクロスフィアに封入されたD−FITC(PLGA−(D−FITC))を硝子体内に注射して、その24時間後に作製された。図5BのRCSラットの網膜において、D−FITCは、網膜の外側への取り込みが強化されることを示し、外顆粒層、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死組織領域の間に、正確に局在したことが明らかである。この取り込み様式は、他のどの正常なSDラットでもみられなかった(図5A、C、D)。画像の赤色は、TRITCフィルターの自己蛍光による。
【0125】
網膜色素上皮はD−FITCの注射を受けた網膜での強化されたFITC蛍光を示した。遊離のFITCの注射を受けた眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光はみられなかった。この様式は、定性的に、注射後10日でも同様であった。これらのデータによって、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のような高いエンドサイトーシス速度を有する細胞では、D−FITC複合体の取り込みが増大されることが示唆される。結果的に、デンドリマー−FA(D−FA)複合体は、強い神経炎症や他の神経変性過程を受けている網膜周辺への取り込みが増大されていると考えられる。
【0126】
実施例5
PLGAマイクロ粒子はデンドリマー−FITC複合体を封入して調製される。
PLGAマイクロ粒子は、次のようにして、デンドリマー−FITC複合体を封入して調製される。FAのような水に溶けない薬に適しているo/w法ではなく、ウォーター・イン・オイル・イン・ウォーター法(w/o/w)が、デンドリマー−薬複合体のような水溶性のナノ物質の封入には適している(Jayanth Panyam, M. M. D. et al., Journal of Controlled Release 92:173-187 (2003); Jayanth Panyam, S. K. S. et al., International Journal of Pharmaceutics 262:1-11 (2003))。妥当なPLGAの量(分子量が90,000から125,000Da、75% PLA/25% PGA)がクロロホルムに溶ける。別々に、2.5%のPVA溶液が、クロロホルムが飽和した冷たい蒸留水で調製された。
【0127】
デンドリマー−薬複合体(10%重量/体積)がPLGA溶液に2回に分けて加えられ、加えるたびに1分間撹拌された。次に、氷槽に5分間置かれ、ウォーター・イン・オイル乳剤を得るために、1分間、FS20・バス・ソニケーター(44−48KHz、フィッシャー・サイエンティフィック)を用いて乳化された。次に、多重w/o/w乳剤を得るために、初期乳剤が2回に分けて、8mlのPVA溶液に、断続的に撹拌しながら加えられた。
【0128】
乳剤は氷漕に5分間置かれ、3分間、超音波で分解された。クロロホルムを蒸発させ、ナノ粒子を形成するために、乳剤は磁気撹拌プレート上で、夜通し撹拌された。懸濁液は、ウルトラ−クリア(urutra−clear、登録商標)遠心分離チューブに移され、超遠心分離機によって、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離された。沈殿物は蒸留水に再懸濁され、すべての凝集体を分散させるため、氷漕上で、30分間、超音波で分解された。走査型電子顕微鏡(SEM)と粒子径解析機を用いて、粒子径を評価した。平均粒子経が5−10μmであっても、いくらかの多分散性があった。蛍光顕微鏡検査において、D−FITC複合体は”均一に”封入されたことが確認された。
【0129】
PLGAマイクロスフィアからの薬の放出は、次のようにして調べられた。同じPLGAマイクロスフィアのために、遊離のフルオシノロンアセトニドに対する薬放出速度が解析された。〜5−10μmのマイクロスフィア(質量で5%のFAを含む)では、最初の30日の放出速度は、〜0.5μg/日(平均)であって、1ヶ月の累積放出は、〜30%であった。最初の3日間で3%の初期破裂があった。デンドリマー−FA複合体では、比較的大きいサイズにすれば、初期破裂を回避できるかもしれない。
【0130】
実施例6
ミノサイクリンの投与は、生体内のマイクログリア細胞の活性化の抑制につながる。
本実施例によると、マイクログリア特異的リガンドである[11C]PK11195を用いたマイクロPETによって、生後のミノサイクリンの投与によるマイクログリアの活性化の経時変化が減少した。ミノサイクリン投与によるミクログリアの阻害を示すために、ミノサイクリン投与をしたときと投与しないときの生後5日の子犬における[11C]PK11195の取り込みをPET画像で評価した。
【0131】
図8に示すように、子宮内で内毒素に曝されている生後5日の子犬に対して、3日間で15mg/kgのミノサイクリンが投与されると、最初の10分から最後の10分までの[11C]PK11195の取り込みの減少がみられた(対照の子犬と同様)ことは、活性化されたマイクログリア細胞が減少することを示唆している。最初の10分間と比べた場合、最後の10分間における、内毒素に曝された未処理の子犬でのPK11159の取り込みの増加がみられ、活性化されたマイクログリア細胞が継続的に存在すると示唆される。これは、ミノサイクリンの投与によって、内毒素に曝された子犬の活性化されたマイクログリア細胞が阻害されることを示唆している。
【0132】
ミノサイクリンの生後投与によって、生後8日における神経行動的な結果が改善されることが、生後8日の子ウサギでの神経行動的な試験によって証明された。次の動物が、生後8日に観察された。(A)対照の子ウサギ、(B)PBSを投与して子宮内で20μg/kgの内毒素に曝された子ウサギ、(C)15mg/kgのミノサイクリンを投与した、20μg/kgの内毒素に曝された子ウサギ。内毒素に曝された子ウサギは、対照の子ウサギAよりふらつき、緊張度の増加と平衡の減少を伴った。対照の子ウサギと15mg/kgのミノサイクリンを投与された子ウサギ(C)では、全ての行動範囲で、後肢を外転させたが、未処理の子ウサギ(B)では外転させなかった。後肢の緊張度は、子ウサギ(B)で大きく、ぎこちない運動と平衡の減少につながった。
【0133】
このモデルにおける遊離のミノサイクリンの用量反応は、15mg/kgのミノサイクリンが、5mg/kgと比較して、より大きな改善が動力不足においてみられたことを示した。マイクログリアの活性化の抑制による動力不足の改善の結果であると思われる。白質傷害の減少が、拡散テンソル画像(DTI)と免疫組織像によって確認された。本実施例の結論として、ミノサイクリンは、子宮内で子ウサギの、内毒素関連性のマイクログリア細胞の活性化を抑制する特異的、そして臨床的に妥当な効果を有する。同様の効果をもつこの薬や他の薬は、本明細書で開示されるデンドリマー組成物を用いてマイクログリア細胞を対象とするのに適している。
【0134】
実施例7
黄斑変性症のラットモデル
光受容体神経保護と網膜の神経炎症の抑制におけるミノサイクリンの投与量が検討された。本実施例の目的は、デンドリマー−ミノサイクリンナノ物質(D−Mino)の効果を評価することである。デンドリマー複合体となったフルオシノロンアセトニドの効果に基づいて、この実施例は、RCSラット神経変性モデルに関連する網膜の神経炎症の抑制におけるD−Mino複合体の効果を評価するために行われた。ミノサイクリンはRCSラット網膜で高い神経保護とマイクログリア抑制を示すので、ミノサイクリンが使用された(Chang, C. J. et al., Ophthalmic Res. 2005;37:202-13; Hughes, E. H. et al., Exp Eye Res. 2004; 78(6): 1077-84; Shimazawa, M. et al., Brain Res. 2005;1053:185-94; Zhang, C. et al,. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004;45:2753-9)。
【0135】
投与量決定試験はRCSラットの網膜神経保護のために、硝子体内へ注射される非複合体ミノサイクリン(遊離のMino)の、最も有効な投与量を同定するために行われた。D−Minoの投与量は、最適な遊離のMinoの投与量とFAのデータに基づいて決定された。実施例8で使われものと同じ5週齢のrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットモデルが使われた。
【0136】
各5匹の動物からなる4つの群が設定された。これらは、1μgの遊離のMinoを受ける硝子体内注射群、10μgの遊離のMinoを受ける硝子体内注射群、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)−(遊離のデンドリマー)、及びPBS注射の対照群を含む。PBS−(遊離のデンドリマー)群はデンドリマーだけによる神経保護効果を排除するために用いられた。確立された方法に従って、動物は両面性の硝子体内注射を受けた。光受容体の定量的組織解析と網膜周辺のマイクログリア細胞の計数のために、1ヶ月の時点で安楽死される。簡単に、光受容体は、6μm H&E網膜部分から数えられる。網膜のマイクログリアはIBA−1とED−1標識した網膜切片と全載から数えられる。
【0137】
RCSラットの網膜電位b−波の振幅が、よく確立された方法に従って、2週間に1度、光受容体の機能の測定として記録される。2回目の4週投与量決定試験は、最適な投与量の測定を改善するために、遊離のMinoで、最初の試験の結果に基づいて実行される。
【0138】
次に、同様の方法で、D−Minoに対する4群投与量決定試験が行われた。実施例2のFAのデータに従って、最初の投与量は、遊離のMinoに対するD−Minoの相対的な有効性に基づく。さらに、D−Minoの投与量は、FAと遊離のMinoの結果を比較して、ミノサイクリンの試験で得られた神経保護の程度とマイクログリアの抑制に基づいて2回目の試験で改善される。
【0139】
図2のFITCの生体内分布のデータは、改善された局在(図2B)とデンドリマー複合体が薬に与える滞留時間(図2F)を示す。D−Minoの再投与によって、網膜電位の振幅が10%減少する(2週間毎に1度の測定)ことに基づいて、D−Minoの最適な投与間隔が、本実施例に概説される方法と同様に3ヶ月試験を行うことによって測定される。この方法では、先のD−Mino注射の効果が消失する最初の2週間の時点を定めるために、網膜の機能の測定が用いられる。再投与によって、網膜の機能に基づいて、網膜電位の安定性が回復されるはずである。3ヶ月試験を終えて、進行性の網膜電位の消失を防ぐ投与間隔も最適なものとなるであろう。加えて、これはD−Minoの単回注射の作用期間を決定する。
【0140】
実施例8
遊離のFITCとD−FITCの生体内分布と滞留時間
本実施例の目的は、遊離のFITCとD−FITCの硝子体内注射を用いて、網膜の神経保護を維持するために必要なデンドリマー−フルオシノロン(D−FA)の投与量を同定することである。この実験は、5週齢、体重150−180グラムのrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットの雌雄双方を用いて行われた。2群が確立された。遊離のFITC群は、それぞれが1μgの遊離のFITCの両面性の硝子体内の注射を受ける6匹の動物から成る。もうひとつの群は、D−FITCの硝子体内への注射を受ける10匹の動物である。
【0141】
注射の前に、動物はケタミン(100mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔される。少量のDMSOに溶かされた、体積1μLである1μgのFITCがハミルトン・シリンジで、両眼の硝子体腔へ注射された。遊離のFITCを注射された動物は、10日後、1ヶ月後、2ヶ月後に安楽死される。眼は核を取り除かれ、分割され、半球がティシュー−テック・オーシーティー培地(サクラ・ファインテック、米国、カリフォルニア州、トランス)に埋め込まれ、そして、液体窒素で速やかに凍結される。切片(14μ)がクライオスタット(レイカ・インスツルメント社、ドイツ、ヌスロッホ)で切られ、ベクタシールド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)とともにスライドに載せられ(凍結したままで)、分離FITCの両面とTRITCフィルターキューブを用いて、落射蛍光デジタル画像によって評価する。
【0142】
写真はマグナファイアー・デジタル・カメラ(オリンパス・アメリカ、米国、ニューヨーク州、メルビル)で撮影される。画像は、各時点の間で標識される網膜周辺について評価される。加えて、発光体とカメラの設定が前もって決定された明るさと露光の設定によって調整された後に、各時点で撮影され、相対的な蛍光密度の量が切片間で比較される。落射蛍光の照明の設定は、標準化された低密度のFITCを用いて、前もって決定されたカメラの絞りと露光の設定で測定したCCD画像に従って調整される。このFITC信号の較正の過程は、組織での相対的なFITCの持続の測定として、各網膜周辺における相対的なFITCの密度の比較を可能にする。同じ手順が体積1μLである1μgのD−FITCを受けた動物に対して実行された。この方法では、CCDカメラは高い線形出力を有するので、遊離のFITCとD−FITCの生体内分布と組織での持続における相対的な違いが比較される。
【0143】
D−FITC群は、10日、1か月、2か月、4ヶ月、6ヶ月の時点における低温切開片落射蛍光像を得るために、安楽死され、除核された10匹の動物から成る。双方の実験群において、遊離のFITCまたはD−FITCの硝子体内注射を受けた各動物由来の他眼は、硝子体内の蛍光の蛍光光度分析及び組織ホモジネートのFITC蛍光に利用される。この方法によって、各時点での、硝子体と各眼組織における遊離のFITCまたはD−FITCの相対量が評価できる。3番目の動物の群には、PLGA−(D−FITC)の生体内分布と組織での持続を同時に調べることが含まれる。4番目の対照群は、各時点について1匹の動物からなり、組織の自己蛍光のレベルの基準値を確立するために、両面性の硝子体内注射を受ける。
【0144】
眼のD−FITCの評価は次のように行う。生体内分布の試験において、1ヶ月間隔で、眼球を収集され、組織が均質化され、水酸化ナトリウムに溶解される。メタノール(D−FITCはメタノールに可溶)での溶媒抽出と、さらにPBSへの再懸濁の組み合わせを用いて、D−FITCが抽出される。UV/Visと、いくつかのD−FITC濃度で事前に作成された蛍光較正曲線を用いて、D−FITCの含有量が定量化される。
【0145】
単回での0.2μgと1μgのD−FA注射の薬力学の効果の持続時間の評価も、生体内でのRCSラットの網膜の機能を維持するために必要な投与間隔の評価も、以下のようにして実行される。できる限り特異的に、最適な対照とともに、D−FAナノ物質の効果を単離することが目的のひとつである。この実験は、5週齢、体重150−180グラムのrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットの雌雄双方における0.2μg及び1μgのD−FAの単回での硝子体内への注射の作用持続時間を調べるために行われる。ここで、0.2μg及び1μgは、D−FA注射でのFA含有量である。
【0146】
10匹の動物からなる4群が設定される。これらは、1μgのD−FAを受ける硝子体内注射の群、0.2μgのD−FAを受ける群、1μgのD−FAを受ける群と同等量を含むPBS溶液(1μgの遊離のFAと遊離のデンドリマーを含む2%のDMSO)を受ける群、及び非外科的対照群を含む。PBS−(遊離のFA、遊離のデンドリマー)群は、デンドリマーと複合体となったFA(D−FA)の効果を単離するために用いられる。上記の方法に従って、動物は両面性の硝子体内注射を受ける。光受容体細胞の数と網膜周辺のマイクログリア細胞の数の、定量的組織解析のため、1ヶ月と3ヶ月の時点で、各群からの5匹が安楽死される。これらは、下に記載される方法で行われる。
【0147】
下記の方法に従って、2週毎に1回、光受容体の機能の測定として、RCSラットの網膜電位のb−波の振幅が記録される。2つのD−FAの投与量、0.2μgと1μgが単回で、急速に硝子体内注射によって投与された際の最適な投与間隔と作用持続時間の決定において、現在の注射とその前の注射の時間間隔はひとつの基準として用いられる。加えて、対照注射群は、1μgのD−FA群が注射されるのと同じ時点に、再注射される。これによって、対照群が、1μgのD−FA群と同じ数の注射を受けることを確実にするであろう。
【0148】
網膜電位の解析は次のように、刺激、記録、及びラブビュウ・ソフトウェア(ナショナル・インスツルメンツ、米国、テキサス州、オースチン)を用いて開発したデータ解析の手法で実行される。動物は、夜通し12時間の間、暗順応される。試験の前に、動物はケタミン(67mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔される。両方に、1%トロピカミドと2.5%フェニレフリンで、薬理学性散瞳が誘導される。脱水を防ぐために、外用の0.9%生理食塩水が、定期的に角膜へ投与される。網膜電位の応答は、両眼同時に、白金線からなる輪状の角膜電極で記録される。参照白金線電極は耳に置かれる。発光強度を1000mcdで、白色発光ダイオードのCMD204(UWCシリーズT−1)がフラッシュ刺激に用いられる。1/15ミリ秒のフラッシュ刺激が、10秒間隔で絶え間なく、両眼同時に与えられる。網膜電位の応答は、増幅率5000を用いて増幅され、10Hzと100Hzの間で帯域通過された。
【0149】
網膜電位は平均化され、b−波の振幅の平均値が、各動物について、各時点で決定された。もし網膜電位b−波の振幅が、前2回の記録の平均の10%まで下がると、上記方法に従って、硝子体内への注射で再投与される。
【0150】
組織像を得るために、眼は除核されて、4℃で夜通し、カルノフスキ固定される。18時間の浸水の後、眼は0.01Mのリン酸緩衝液で洗われる。眼を水平の経線に沿って横断することで、切片が調製される。グロッシングの後で、眼は、一連のアルコール溶液で脱水され、プロ−パー(キシレン−置換、アナテック社、米国、ミシガン州、バトルクリーク)で洗われ、DMSO含有のパラフィン(フィッシャー)に埋め込まれる。一連の6μm薄層眼切片が得られる。パラフィン切片がポリ−エル−リジン被覆ガラススライドに載せられ、ハリス・ヘマトキシリンとエオシンで染色される。
【0151】
全体を取り付けた網膜でのマイクログリア染色は次のようにして行われる。ラットの眼が除核され、簡潔には、緩衝化した10%ホルマリンで固定される。さらに、ラットの眼は2つに分割され、さらに4℃で4時間、鼻側の部分が固定される。耳側の部分は、オーシーティー化合物(サクラ・ファインテック、米国、カリフォルニア州、トランス)に埋め込まれ、低温切開切片のために、液体窒素で瞬間凍結される。各部分について、方向も保存される。
【0152】
上記のように固定された後、網膜が慎重に取り除かれ、室温で1時間、1%のトライトン・エックス100を含むPBSに入れられる。そして、網膜は、4℃で、夜通し、200倍希釈のlba−1抗体(ワコウ・ケミカルズ・ユーエスエー社、米国、ヴァージニア州、リッチモンド)と100倍希釈のED−1抗体(セロテック社、英国、オックスフォード)のカクテルと、4%のヤギ血清抗体を含む0.1%のトライトン・エックス100含有PBS溶液で培養される。何回かの洗浄の後、網膜は、室温で、2時間、適当な蛍光で標識された2次抗体(シグマ−アルドリッチ、米国、ミズーリ州、セントルイス)で培養され、ILM側がガラススライドに置かれ、ベクタシールド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)でカバーされる。
【0153】
横断した網膜切片のマイクログリアの染色は、次のように行われる。切片(10ミクロン)は、クライオスタット(レイカ・インスツルメント社、ドイツ、ヌスロッホ)で切られ、ベクタボンド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)で被覆されたスライドに戻され、アセトンで1時間固定される。スライドは空気乾燥され、使用するまで4℃で保存される。そして、切片は、トリス緩衝食塩水(pH7.4)で水和され、5%の標準ヤギ血清で非特異的な染色が防がれる。切片は、上記で詳述したように、lba−1とED−1抗体溶液で培養され、適当な蛍光標識された二次抗体を用いて、蛍光顕微鏡のために調製される。
【0154】
各眼に対して、網膜電位の波形は、各記録期間の15の出力が平均化される。b−波の振幅は、第1の正傾斜(a−波のもっとも小さい点からb−波のもっとも大きい点の最大振幅)の振幅として定義される。これは、平均化された網膜電位波形それぞれで計測される。b−波の振幅の平均と標準偏差が、各時点における各動物の各眼について評価される。群の平均と標準偏差も各時点で、右眼、左眼について計算される。このデータに、パラメトリックとノンパラメトリックな統計解析が実行される。
【0155】
組織学的な細胞数解析では、右眼と左眼両方ついて、40倍の拡大率で、網膜の顕微鏡写真が、オリンパス・マグナファイアーPM30/PM20・デジタル・カメラを備えるオリンパス・ビー・マックス50顕微鏡(日本)でとられた。全ての眼において、4つの4分の1の網膜それぞれについて5枚の顕微鏡写真がとられる(1つの眼で20枚の顕微鏡写真):1)上側頭部、2)上鼻側、3)下側頭部、4)下鼻側である。
【0156】
各顕微鏡写真は、グリッド計数法で解析される。マスクされた計測によって、1つの顕微鏡写真に2つ定義された各グリッド領域の外顆粒層(ONL)と内顆粒層(INL)の細胞数が数えられる。数は、各群について、右眼と左眼の試験された網膜領域の外顆粒層と内顆粒層において平均化される。
【0157】
マイクログリア細胞の計数解析は、適当なフィルター・セットのオリンパス・ビー・マックス50顕微鏡(日本)を用いて、陽性に染まったマイクログリア細胞を数える。網膜を全載したサンプルでは、網膜の3つの定義されたレベルでの6つの標準化された視野で数えられる。3つのレベルは、内境界膜のレベルの層(ILM層)、内網状層のレベルの層(MID層)、及び網膜光受容体のレベルの層(PHR層)である。横断した網膜切片では、活性化したマイクログリアは、2つの上位網膜と2つの下位網膜の視野における光受容体壊死領域で数えられる。
【0158】
妥当なときは、全ての群の、術後4週の網膜電位データと、処理済、及び未処理の眼の平均した外顆粒層及び内顆粒層の細胞数の両方が、対応のあるt検定を伴う1方向性の分散分析ANOVAが実行される。計測されたマイクログリア細胞の数は、群間における全てのミクログリア細胞の層に対する平均と標準偏差を計算するために、平均化される。解析されたデータはグラフ化される。各グループ5匹がパラメトリック統計的な比較において適切な処理が行われる解析能力が確立されている上に、常時、1方向性の分散分析が実行できるノンパラメトリック解析(クラスカル-ウォリスまたはマン−ホイットニー)が用いられる。
【0159】
実施例9
生体内で持続的な硝子体内D−FAの効果の評価
本実施例は、RCSラットで、持続的な網膜の光受容体の神経保護と、網膜電位b−波の振幅を維持するために、適切な投与と適切な投与間隔で、硝子体内への注射を繰り返すことによる持続的なD−FAの輸送を調べるために行われる。RCSラットは、0.2μgまたは1μgのD−FA投与(薬基準で)によって、15匹の2つの群に分けられる。1つの群の動物は、D−FAの硝子体内への注射を受け、もう1つの群は、PBS溶液(遊離のFAと遊離のデンドリマーを含む2%DMSO)を受ける。網膜電位の記録は、1ヶ月に1回行われる。D−FAと対照の再注射は、D−FA群の網膜電位B−波の振幅が、前2回の網膜電位記録の平均と比較して、10%まで下がったときに実行される。
【0160】
各群の5匹の動物は、活性化されたマイクログリアの数や、光受容体の細胞の数、マイクログリア、及びマイクログリアの局在の定量的な組織学的解析のために、3ヶ月、7ヶ月、及び9ヶ月で安楽死される。網膜電位の振幅を維持するために必要なD−FA量の総和し、これを神経保護の持続時間で割ることによって、網膜電位の振幅を維持するために、PLGA−(D−FA)の持続的な放出からの必要とされるD−FAの放出速度が見積もられる。
【0161】
本実施例から、網膜の機能を維持するための濃度と間隔が決定され、網膜電位が10%だけの減少が許容される。対照群によって、ナノ物質の効果が決められる。網膜周辺の細胞内の分布と、硝子体内のデンドリマーの滞留時間が決められる。もし少なくとも2週間から3週間を超えて、網膜の外側にデンドリマーがあれば、ナノ物質の効果は、1ヶ月以上、顕著に持続し、長期間の治療を提供することができる。つまり、この実施例によれば、本明細書で開示される物質の、長期間の臨床効果を評価するための追加データが提供される。
【0162】
実施例10
注射可能な、持続的に放出される、混成[PLGA−(D−FA)ナノ物質]マイクロスフィアに基づく硝子体内への薬輸送基盤
本実施例は、PLGA−(D−FITC)マイクロスフィアの生体内分布と滞留時間を決定するために実行される。10匹の動物からなる1つの群が、実施例8の生体内分布の研究に加えられ、これらの動物は、PLGA−(D−FITC)マイクロ粒子の、両面性の硝子体内注射を受ける。これらの動物は、10日、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、及び6ヶ月の時点で安楽死される。
【0163】
PLGA−D−FAマイクロスフィアは、180日間で、D−FAのFAを〜0.03μg/日で持続的な輸送を達成することを目的として調製される。1.0μgのD−FAの1回の硝子体内への注射は、1ヶ月間有効である(0.03μg/日)。したがって、デンドリマー−FA複合体は、数日で、硝子体腔を通過すると見積もられる。これらの大部分は、外顆粒層に取り込まれ、そこで一定期間、薬が放出され、いわば、薬力学的な効果がおよそ1ヶ月にわたり持続することが示唆される。その結果、適切にデザインされた、D−FAのPLGAマイクロスフィア封入体は、D−FAの制御された放出を提供し、そして、D−FAは網膜の細胞に入り、薬を放出する。
【0164】
D−FA複合体の大きさと分子量(〜7nm、〜20kDa)は小さなタンパク質と同程度である。リン酸緩衝生理食塩水(pH=7.4)では、薬とデンドリマーの間のエステル結合が安定である。この結合の加水分解は、酸性であるリソソーム内のpHでは、たぶん一定期間を超える期間で発生すると考えられる。その結果、PLGAマイクロスフィア内でのデンドリマーからの感知できるほどの薬の放出は、特に、75%のPLAでは予想されない(DD 1990; P. Kolhe 2006)。
【0165】
PLAマイクロスフィアが、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で、60日にわたり持続することが、以前示された。サイズが〜10μmであって、90%のPLAと10%のPGAの共重合体組成物(PLGA(90:10))であるPLGAマイクロスフィアも、延長された期間において、分解に耐性であった(DD 1990)。マイクロスフィアのこの大きさも、硝子体内での滞留時間を顕著に改善する。PLGA(75:25)が眼への薬の持続的な輸送に用いられる。PLGAマイクロスフィアからの大きな分子の拡散係数(〜10−13cm2/秒)に基づいて、D−FAの拡散は、1ヶ月以上と予想され、そのため、6ヶ月を超える持続的な薬輸送がもたらされる(Sandora 2001)。
【0166】
本実施例では、デンドリマー−FITC(生体内分布の研究のため)を含むPLGAマイクロ粒子(組成:75%PLA/25%PGA、分子量〜90−125kDa)とデンドリマー−FA(放出の研究と生体内での効果の研究)が、前述のウォーター・イン・オイル・イン・ウォーター法(w/o/w)を用いて調製される(Sanjeeb K Sahoo, J. P. et al., Journal of Controlled Release 82:105?114 (2002); Jayanth Panyam 2003)。粒子の溶液は粒子の大きさを〜5−10μmにするためにろ過される。粒子の大きさは、SEMとマルバーン・パーティクル・サイザーによって評価される。マイクロ粒子内のナノ物質の存在と分布は、蛍光と共焦点顕微鏡を用いて、封入されたD−FITCナノ物質で評価される。
【0167】
in vitroの放出研究では、PLGA−デンドリマー−FAマイクロスフィアが、250μlの0.1Mのリン酸緩衝液(PBS pH7.4)を含むマイクロ遠心分離チューブに入れられ、37℃で、毎分100回転で回転される。はじめに、薬の解析のために、緩衝液が毎日回収され、新しい緩衝液が入れられる。その後7日間は、1日おきにサンプル回収され、その後は、5日おきまで頻度を減らして回収される。回収されたサンプルは、緩衝液を蒸発させるために、カバーをかけて夜通しで、置かれる。
【0168】
デンドリマー−FA(D−FA)の定量は、C5シリカに基づくHPLC(250mm×4.6mm、300Å)(Mohammad T. Islam, X. S. et al., Anal. Chem. 77:2063-2070 (2005))を用いて実行される。D−FAの溶出のための移動相は、90:10の水/アセトニトリル(ACN)から始まる(流速1mL/分の)直線的な傾きであって、30分後には、50:50に達する。ACNと同様に、水に0.14重量%のトリフルオロ酢酸(TFA)が、デンドリマー複合体の疎水性表面を形成するために、対イオンとして用いられる(Mohammad T. Islam, X. S. et al., Anal. Chem. 77:2063-2070 (2005))。
【0169】
複合体は、移動相(90:10の水/ACN)に溶かされる。溶出サンプル中のD−FAの検出は、PAMAM−G4−OHとFAそれぞれλmaxが210nmと238nmで行われる。較正曲線は複合体型のFAに対する238nmに基づいて作成される。この系におけるD−FAの溶出時間は、8分と予想される。存在し得る遊離のFAを定量するために、ウォーターズのC−18逆相対称性シールドカラム(3.9×150nmのカラム、5μm;W20881A)が用いられる(Glenn J. Jaffe 2000; Glenn J. Jaffe 2000)。アセトニトリルと0.02%酢酸ナトリウム(pH4.0)の1:1混合液が移動相に用いられる。サンプルは1ml/分で注入され、およそ3分で薬−FAを溶出する。溶出されたサンプルの検出は、適切に作成された較正曲線で、238nm(FAのλmax)において実行される。
【0170】
実施例11
RCSラットの網膜電位と光受容体の維持における混成[PLGA−(D−FA)ナノ物質]マイクロスフィアの薬力学的効果
実施例10に記載された実験における6ヶ月間のデータ収集とデータ解析の後で、本実施例は、成体RCSラットの網膜電位b−波の振幅の維持と、光受容体の細胞数の維持におけるPLGA−(D−FA)の単回注射の薬力学的効果を調べるために実行される。この研究では、実施例10に従って、実験的に効果が確認された放出速度でD−FAを放出するように、PLGA−(D−FA)マイクロスフィア構築された。
【0171】
前述された硝子体内への注射を用いて、5週齢RCSラットの1つの群が、PLGA−(D−FA)マイクロスフィアの硝子体内注射を受け、他方の群がD−FAと遊離のPLGAマイクロスフィアを含むリン酸緩衝生理食塩水の硝子体内注射を受ける。2つの実験群は、1群が15匹の動物からなる。網膜電位の記録は、1ヶ月に1回行われる。PLGA−(D−FA)とD−FAに加えて遊離のPLGAマイクロスフィアの再注射は、前2回の網膜電位の記録の平均に対して、網膜電位のb−波の振幅が10%まで減少したときに実行される。1つの群につき5匹の動物が、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月の時点で、活性化されたマイクログリアの数と、光受容体の細胞数、マイクログリア、及びマイクログリアの局在を定量的組織学的解析するために安楽死される。
【0172】
効果が少なくとも6ヶ月維持できるように、PLGAマイクロスフィア(75%PLA/25%PGA)が、4ヶ月から6ヶ月を超えてD−FAを放出するように調製される。遅い放出の段階は、60日から70日の期間と予想され、粒子の侵食がかなり進んだ後期はいくらか放出が早くなる。このナノ物質では、顕著に緩慢に放出される状態が保たれることが予想される。D−FA(17kDa)の初期の破裂はほとんどないと考えられる。生体内分布において、D−FITCに比較して、同程度の時間で、PLGA−D−FITCは、顕著に高い硝子体内の蛍光、及び顕著に低い網膜の外側の蛍光を示すことが予想される。D−FITCは、もっと長い時間、網膜の外側に存在することが考えられる。もしin vitroの実験によって、望まれるよりも早い速度でD−FAが放出されることが示されても、そのときは、PLGAの組成が90%PLA/10%PGA、または純粋なPLAに変えることができる。
【0173】
実施例12
RCSラットにおけるデンドリマー複合体の、及び非複合体のフルオシノロンアセトニドの硝子体内注射に関連する網膜電位の知見
本実施例では、D−FAナノ物質の効果が、遊離の薬と同程度の薬の濃度と比較された。効果は網膜電位(ERG)と組織像を用いて解析された。この結果によって、もっとも低い投与濃度でのデンドリマーナノ物質の単回の硝子体内への注射によって、網膜電位の減少を防ぐだけでなく、網膜電位が十分に強化されることが示唆される。
【0174】
5週齢の30匹のアルビノRCSラットが、6つの群に均等に分けられた。この実験は、9週で終了された。したがって、この効果は、RCSラットの網膜変性が最大4週にわたって評価された。群は以下のとおりであった。
1.3.0μgのデンドリマー複合体化されたフルオシノロンアセトニド(FA)の、1.0μLのリン酸緩衝液(PBS)溶液の硝子体内注射;
2.1.0μgのデンドリマー複合体化されたFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
3.3.0μgのFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
4.1.0μgのFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
5.1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射(対照群);
6.光に曝された未処理群
【0175】
初期(5週齢)の網膜電位の振幅の比較では、実験群の間に統計的な有意差はなかった(p≧1.0)。最終時点(9週齢)の網膜電位の振幅の比較では、D−FA処理された動物の右眼と左眼の間で統計的な有意差がみられた。したがって、D−FAは、濃度依存的に光受容体の応答の大きさを維持した。これは、PBSの注射または遊離のFAの注射ではみられなかった。
【0176】
デンドリマー複合体は、非複合体の薬よりもFAの神経保護的な効果を強めた。この現象は網膜電位b−波の振幅についてもみられた。すべてのFA処理された動物は、網膜電位b−波からa−波の振幅の安定を示した。網膜電位の陰的時間は、FAで処理、対照、または未処理の動物と比較すると、D−FAで処理された動物で大きく減少した。これはデンドリマー複合体化されたFAがその薬学的効果を改善するという知見に一致する。
【0177】
次の表は、実験開始時の網膜電位の振幅と比較して、6つの実験群の実験終了時の網膜電位のa−波とb−波の振幅の変化(平均±標準誤差)を示している(初期の振幅から消失(−)/増幅(+)として表されている)。
【表1】
本実施例で開示されたデータによれば、上記表に示すように、デンドリマー複合体の利益の付加的な証拠を与える。第1に、75%を超える振幅減少が観察された間に、a−波の振幅は増加する。
【0178】
実施例13
デンドリマーの生体内分布と効果及びナノ粒子の生体内分布と効果
本実施例によると、PAMAM−G4−OHデンドリマーは、RCSラットの変性した外顆粒への取り込みの強化を示すが、通常のSDラットでは示さない。このことは、神経炎症を標的にできるということを示唆する。遊離のFITCとデンドリマー複合体FITC(D−FITC)の網膜での生体内分布は、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットで研究された。
【0179】
最初の結果が図10に示され、低温切開切片の落射蛍光組織像解析が、硝子体内注射の24時間後と10日後に実行され、(A)24時間後の通常のSDラットにおけるD−FITCの生体内分布、及び(B)24時間後のRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCを示している。外顆粒層(*で表される)と壊死領域のD−FITCの濃度が重要な知見である。
【0180】
図10Bに示したRCSラットの網膜の試験によれば、D−FITCが網膜の外側へ強く取り込まれていることが明らかである。また、D−FITCが、外顆粒層、活性化されたマイクログリア及び外側の壊死領域に正確に局在していることが明らかである。この取り込み様式は他のどの正常なSDラットの網膜でもみられなかった(図10A、D)。画像の赤は、TRITCフィルター由来の自己蛍光のためである。網膜色素上皮(RPE)は、D−FITCの注射を受けた網膜でのFITC蛍光の強化を示す。遊離のFITCの注射を受けた眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光がみられなかった。この様式は、注射後10日でも定性的に同様であった。図10FにあるFITC信号は、外側の壊死領域の自己蛍光である。この画像では、網膜色素上皮は網膜から分離されており、見えない。
【0181】
これらのデータは、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のように、高いエンドサイトーシス速度を有する細胞がD−FITC複合体を強く取り込むことを示唆する。つまり、この結果は、デンドリマー−薬複合体が、強い神経炎症を他の神経変性過程を受けている網膜周辺へ強く取り込まれたことを示している。さらに、図10Cは、デンドリマー複合体は、図10Fに示す遊離のFITCとデンドリマー複合体FITCのように、網膜から速やかに消失されないことを示す。よって、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症の領域での薬の滞留時間を延長でき、薬力学的な効果を強め、特異的な網膜周辺を対象とすることを可能にし、輸送しなければならない薬の総量を減らし、副作用を減らす可能性がある。
【0182】
外側の網膜でのD−FITCの局在は、さらに、活性化されたマイクログリア、星状細胞、ミューラー細胞、及び光受容体に対する免疫組織化学標識によって解析された(図11ないし図15に示す)。この結果により、デンドリマーは、神経炎症過程に関連するこれらの細胞に選択的に局在することが示唆された。網膜内外の他の細胞への蓄積はごくわずかであった。図11はD−FITCのマイクログリアへの取り込みを示す。(A)網膜内側のマイクログリア細胞のED−1免疫組織化学標識;(B)網膜内側のマイクログリア細胞へのD−FITCの取り込み(60倍);(C)ED−1標識された網膜外側の活性化されたマイクログリア;及び(D)活性化されたマイクログリアへのD−FITCの取り込み。
【0183】
図12は、さらなる結果を与える。(A)活性化された網膜星状細胞のグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色;及び(B)活性化された網膜星状細胞によるデンドリマー−FITCの取り込みである。
【0184】
図13は、D−FITCが活性化された網膜ミューラー・グリア細胞によって取り込まれることを示す。図13Aは、5週齢のRCSラットにおける活性化された網膜ミューラー細胞のGFAP標識を示す(側面図)。図13Bは、活性化された網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込み(図13Aと同じ視野)、及び網膜毛細血管(矢印)へのD−FITCの取り込みを示す。図13Cは、内顆粒層における網膜ミューラー細胞のGFAP標識(軸方向図)を示す。内顆粒層細胞本体は、特に目立っている(ミューラー細胞過程によって概説される)。そして、図13Dは、網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込みを示す(軸方向図)。
【0185】
これらの細胞のGFAP標識は、活性化された表現型に特異的であった(図12A)。同じ顕微鏡図の視野におけるFITC落射蛍光の画像(図12B)はD−FITC複合体の顕著な取り込みを示す。加えて、小さな網膜毛細血管内もD−FITCの取り込みを示している(図13B、矢印でマーク)。GFAPとD−FITC複合体の取り込みの共存が、それらが外顆粒層を通過するので、ミューラー細胞においてもみられる(図13Cと図13D)。図14では、光受容体がD−FITC複合体の取り込みによって標識される。
【0186】
網膜の血管系は、血管壁においてD−FITCの高い程度の取り込みを示した(図15)。これは、網膜の柔組織内の深く細かい毛細血管と同様に、網膜内側の循環にも当てはまった。
【0187】
ナノ粒子の生体内分布も調べられた。粒子の大きさと堅さの役割を調べるために、大きさが50nmと200nmである、単分散のFITC標識されたPSナノ粒子が用いられた。結果は図16に示され、硝子体内注射72時間後のS334−ter−4ラットにおける網膜内側のナノ粒子の生体内分布が示された。緑はFITC標識されたPSナノ粒子で、赤はローダミンGFAPを示す。図16Aは、50nmのFITCナノ粒子が星状細胞の体細胞にみられることを示す。図16Bは、200nmのFITCナノ粒子が前網膜硝子体内へ閉じこめられたままであって、デンドリマーを取り上げた細胞に取り込まれていなかったようである。
【0188】
上記実施例で検討された結果は、(1)硝子体内への注射によって、活性化されたマイクログリア細胞、ミューラー細胞、星状細胞及びマクロファージのような、神経炎症に関連する細胞に選択的にデンドリマーが局在する、(2)1週間後でもデンドリマーはこれらの細胞内に存在する、(3)デンドリマー薬複合体は、複合体化されていた薬を1ヶ月にわたって放出する、(4)硝子体腔へのデンドリマーナノ物質の単回注射の生体内での効果は、1ヶ月を通して、遊離の薬や放出制御される移植物質の双方よりも、顕著に優れている、ことを示す。実際、網膜電位(ERG)の測定によって、デンドリマーナノ物質は、さらなる変性を防ぐのみならず、実際の網膜の健康状態を強化することが示唆される。
【0189】
上記の記載は、本発明に係る特定の実施形態についてであるが、これらの趣旨を逸脱することなくいかなる変更をも実施できることを理解されるであろう。従って、本明細書で開示された実施形態は、限定はされないが、説明に役立つものとして全ての観点が考慮される。参照された全ての特許と出版物は、その内容を本明細書に援用される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄斑変性症を含む疾患状態における神経炎症を抑制するために、医薬品を標的の細胞や組織へ投与するのに有用なデンドリマーに基づく組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのヒトの疾患状態に共通する経路の1つにマイクログリアを介する炎症がある。マイクログリアは、網膜や中枢神経系にみられる組織内在性マクロファージである。マイクログリア細胞は、成人の脳における細胞のおよそ10%から20%を構成する。通常の状態下では、これらマイクログリア細胞は、構造的に、内因性のコルチゾルによって抑制されている。マイクログリア細胞は、様々な刺激存在下で、食細胞や細胞障害性細胞によって活性化される。様々な刺激とは、外傷、感染、炎症、虚血、リポ多糖類、反応性酸素種、及び細胞膜の傷害である。マイクログリアが活性化されると、マイクログリアは移動し、傷害を受けた部位に他のマイクログリアを集める。機能不全の細胞は、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、反応性酸素種(ROS)、プロテアーゼの放出によって殺される。その結果、生じた細胞の壊死組織は、マイクログリア細胞に貪食される。
【0003】
第2の細胞障害は、バイスタンダー溶解といわれる過程において起こる。これは、すぐ近くの正常な細胞が、活性化したマイクログリアによって創り出された傷害性の細胞外環境において破壊されるというものである。これは、根本の病的な事象によって影響される細胞よりも細胞障害を増幅し、活性化されたマイクログリア細胞は、それ自体で、改善しつつある状態を病的な状態へと変えてしまう。
【0004】
初期の病態での連鎖パターンでは、マイクログリア細胞への応答と、それに続いて、眼の疾患を含む多くのヒトの疾患において、2番目の病態がみられる。視覚の必須要素の1つに網膜の機能がある。網膜は、眼のフィルムにたとえられる。網膜は、光線を電気信号に変換し、その電気信号を、視神経を通じて脳に伝達する。網膜の両端は、周辺視野に重要である。黄斑と呼ばれる中央部分は、中心の視野と色覚に用いられる。網膜に多くの問題があると、視覚喪失の発生につながる。失明の3大原因は、網膜色素変性症、黄斑変性症、糖尿病性網膜症という神経炎症に関連する網膜の傷害である。アフリカ系アメリカ人の失明の最大の原因は、神経炎症と、網膜と脳をつなぐ視神経におけるマイクログリア細胞の活性化に伴い、視神経と網膜が変性する緑内障である。神経炎症に関連する他の重要な網膜の疾患には、ブドウ膜炎症、自己免疫性の光受容体変性、及び感染がある。
【0005】
臨床の観点では、網膜色素変性症、遅発性網膜変性症、及び加齢性黄斑変性症が、ヒトの健康と生活の質に大きな影響を与える。900万人のアメリカ人が、網膜の神経変性疾患に起因する進行性の失明に苦しんでいる。4千人に1人は、網膜色素変性症である。網膜色素変性症は、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、緑内障に次いで、アメリカ合衆国における視覚障害の4番目の理由である。
【0006】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、神経変性である黄斑の神経炎症疾患であり、中心の視野喪失の原因となる。AMDは、65歳以上のヒトの失明の最大の原因である。世界で、800万人の人々が黄斑変性症から失明しており、さらに高齢化で、この数は拡がると予想されている。
【0007】
加齢性黄斑変性症の原因には、脈絡膜(網膜の下の血管層)、網膜色素上皮(RPE)、網膜感覚神経の下の細胞層、ブルッフ膜、及び網膜感覚神経における慢性的な神経炎症が関与している。この疾患の初期には、黄白色斑(網膜色素上皮とブルッフ膜において小さな塊を形成する細胞の壊死組織と炎症物質)の蓄積に関与する乾燥型として現れる。黄白色斑は、破壊された細胞膜と他の細胞断片を含み、抗原性が高く、網膜において、局所のマイクログリアやマクロファージを介する炎症反応を活性化する。徐々に、この炎症に関連する毒性の伝達物質は、ブルッフ膜や網膜色素上皮を破壊し、直接、失明につながり得るし、もしくは、脈絡膜の血液循環から網膜下の空間への血管内皮増殖因子の放出につながるかもしれない。言い換えると、これは、脈絡膜血管新生といわれる異常な血管の形成につながる。これらの異常な血管は、しばしば血清を漏出し、網膜滲出物を産生し、時々、出血を引き起こす。これは体液が関係するので、”多湿”加齢性黄斑変性症と呼ばれる。”多湿型”と”乾燥型”の加齢性黄斑変性症は共存でき、どちらも神経炎症が関与している。
【0008】
マイクログリア介在性の病状は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、及び急性脊髄損傷を含む様々な中枢神経系の神経変性疾患にも共通している。脳損傷によっても、生涯にわたる身体障害となる。例えば、周産期における脳損傷は、脳性麻痺につながる可能性があるが、これにも損傷に続く脳室周囲白質軟化症におけるマイクログリア細胞が関与している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記すべての疾患に対する臨床的効果のある治療のための技術において、強力、かつ、緊急の要請がある。そこで、本発明は、マイクログリア介在性の組織破壊における共通の経路を阻害することで、この要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含むことを特徴とする。上記生物活性のある合成物は、コレステロール、プロゲスチンプレグネノロン、17−ヒドロキシプレグネノロン、プロゲステロン、17−ヒドロキシプロゲステロン、アンドロゲン、アンドロステンジオン、4−ヒドロキシ−アンドロステンジオン11β−ヒドロキシアンドロステンジオン、アンドロステンジオール、アンドロステロン、エピアンドロステロン、アドレノステロン、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸塩デヒドロエピアンドロステロン、テストステロン、エピテストステロン、5α−ジハイドロテストステロン、5β−ジハイドロテストステロン、11β−ヒドロキシテストステロン、11−ケトテストステロン、エストロゲン、エストロン、エストラジオール、エストリオール、コルチコステロイド、コルチコステロン、デオキシコルチコステロン、コルチゾル、11−デオキシコルチゾル、コルチゾン、18−ヒドロキシコルチコステロン、1α−ヒドロキシコルチコステロン、アルドステロン、合成ステロイド、抗炎症剤、ビタミン類、ペプチド、成長因子、中枢神経系刺激物、オリゴヌクレオチド、siRNA、マイクロRNA、レゾルビン、神経刺激物、及び神経保護剤のような天然ステロイドから成るグループから選択される。また、上記生物活性のある合成物は、フルオシノロンアセトニド、ラニビズマブ、ミノサイクリン、ラパマイシン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、インシュリン、エストラジオール、毛様体神経栄養因子、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、抗酸化物質、及びオリゴヌクレオチド、または、薬学的に許容される、これらの塩でもよい。
【0011】
本発明に係る組成物においては、ナノ粒子の大きさは、約1000nm以下、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0012】
ナノ粒子の組成物は、デンドリマー様に枝分かれした、または星状に枝分かれした重合体やデンドリマーと重合体の混成物のようなナノ粒子塩であってもよい。デンドリマー様に枝分かれした重合体は、ポリアミドアミン、プリオスター(priostar、登録商標)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシン、またはポリエチレングリコール、ポリペプチドデンドリマーから成る。星状に枝分かれした重合体は、星状のポリエチレングリコールでもよい。軟質のナノ粒子は、直径14.5nmから1.5nmである。また、本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物と、封入、錯体形成、または共有結合によって超分岐製剤に組み込まれた薬を含むことを特徴とする。薬と重合体の結合は、ペプチド、グルタル酸、またはポリエチレングリコールから成るスペーサを含む。
【0013】
ある実施形態において、薬ナノ粒子は、薬−超分岐重合体を取り込んでいるさらに大きい規模の実体に取り込まれていて、さらに大きい規模の実体とは、重合体マトリックス、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、または、放出制御された移植物質から成る。
【0014】
他の実施形態において、デンドリマー−薬ナノ複合体は、単独で、または局所での形成、移植された物質を覆う膜、及び移植された薬輸送システム、注入可能な、または移植可能なヒドロゲル、又はコンタクトレンズに組み込まれて投与される。また、デンドリマー−薬ナノ複合体は、全身の血流へ注射されるし、コンタクトレンズで眼の表面へ投与されるし、点眼薬へ応用されるし、または、角膜基質へ投与される。デンドリマー−薬ナノ複合体は、結膜下腔、テノン嚢下、上強膜下、強膜内へ投与されてもよい。デンドリマー−薬ナノ複合体は、脈絡膜、脈絡膜上、網膜色素上皮下、網膜下、網膜上、硝子体内、または前房へ投与される。
【0015】
他の実施形態において、ナノ規模の薬−超分岐重合体製剤は、移植可能な物質を覆う膜として使用できる。
【0016】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、一定時間の間、生物活性のある合成物を持続的に放出することを特徴とする。この放出は、数分、数時間、数日、数ヶ月、数年にわたって継続する。
【0017】
本発明に係る組成物は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤であって、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、生物活性のある合成物を患者の標的部位へ持続的に輸送することを特徴とする。標的部位は、眼の硝子体液であって、持続的な輸送は、数秒、数分、数時間、数日、数週、数ヶ月以上にわたる。
【0018】
本発明に係る組成物は、少なくとも1つの抗炎症剤とデンドリマーとの複合体を含む組成物であって、PLAナノ粒子またはPGLAマイクロ粒子から成る群から選ばれた生物的に分解可能な粒子に封入されたことを特徴とする。デンドリマーはPAMAM−G4−OHで、抗炎症剤は、天然または合成ステロイド、フルオシノロンアセトニドやメチルプレドニゾンやデキサメタゾンなどのステロイド誘導体、抗酸化物質、ミノサイクリンのような抗生物質、免疫調整剤または免疫抑制剤でもよい。
【0019】
神経炎症関連疾患の治療方法は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物の投与を含み、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤が、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含み、前記神経炎症関連疾患が、網膜、視神経、中枢神経系、脊髄または末梢神経系の疾患であることを特徴とする。前記神経炎症関連疾患は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、脳性麻痺視神経炎、鈍傷、貫通性外傷、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、脳卒中、ブドウ膜炎、光受容体変性症、自己免疫性網膜症、遺伝性光受容体変性症、近視性網膜変性症、網膜色素上皮変性症、糖尿病性網膜症、中心性漿液性網膜症、外側の帯状の肉眼で発見できない網膜症、急性多発性板状色素上皮症、多発消失性白点症候群、癌関連網膜症、網膜血管炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落からなる群から選ばれる。
【0020】
本発明に係るヒトにおいて必要とされるこれら疾患の進行性の視力喪失の治療方法は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物の投与を含み、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤が、少なくとも1つの生物活性のある合成物を含むことを特徴とする。進行性の視力喪失は、ブドウ膜炎、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症から成る群から選ばれる少なくとも1つの状態に関連している。さらに、本発明は、ヒトにおいて必要とされるこれら疾患の眼球の神経炎症の治療方法を提案する。投与は、数日、数週間か数ヶ月の期間に渡り、1回、または2回以上でもよい。
【0021】
さらに、本発明は、ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む医療装置であって、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤は、少なくとも1つの生物活性のある合成物と、前記ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を投与する方法を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1はフローサイトメトリーによるマイクログリア細胞へのデンドリマーの取り込み示す図である。対照の細胞が示され、異なる置換基(COOH、NH2、及びOH)を有するデンドリマーの細胞内への取り込みが比較される。
【図2】図2AないしFは、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を示す一連の写真である。硝子体内注射後24時間と10日に実行された網膜の低温切開片由来の落射蛍光組織像は、(A)24時間での正常なSDラットにおけるD−FITCの生体内分布;(B)24時間でのRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCの生体内分布;(C)10日での神経炎症の領域内の持続的なD−FITC;(D)24時間でのSDにおける遊離のFITCの分布;(E)24時間でのRCSラットの網膜における均一な遊離のFITCの分布;(F)注射後10時間でのRCSラットの網膜から消失した遊離のFITCを示す。
【図3】図3AとBは棒グラフである。(A)1μgまたは3μgのデンドリマー−FA(D−FA)、または複合体でない遊離のFAの1μlの単回右眼注射の4週間後の、9週齢のRCSラットにおける網膜電位b−波の振幅の平均である。FAのみによる処理または未処理の対照ラットに比較して、デンドリマー−FAでの処理で、網膜電位(ERG)の振幅の顕著な維持がみられる。(B)0.2μg/日と0.5μg/日のIDDIsからのデータと同じ9週齢のRCSラットにおける外顆粒層細胞の密度。
【図4】図4は、マウスでのG4OH−64Cu複合体の生体内分布を示す。G4NH2及びG4OHデンドリマーが64Cuと複合体にされ、異なる表面電荷を有するデンドリマーの生体内分布を調べるために成体マウスに注射された。様々な器官において興味ある領域が描かれ、注射された量と動物の体重で標準化された放射能が、各器官の標準取り込み値(SUV)として表された。成体マウスは50μCiのデンドリマー−64Cuの複合体IVを注射された。異なる器官において、時間とともにプロットされる。
【図5】図5AないしDは注射後24時間のFITCの組織像を示す。(A)スピローグ−ディウリー(SD)の網膜におけるデンドリマー−FITC(D−FITC)の分布;(B)RCSラット網膜におけるD−FITCの分布;(C)SDにける複合体でないFITCの分布;(D)SDにおけるPLGA−D−FITCマイクロスフィア。
【図6】図6はPAMAM−G4−OHデンドリマーとフルオシノロンアセトニドとの複合体合成の概略図を示す。グルタル酸スペーサがデンドリマー表面の立体障害を取り除き、細胞内での薬の放出を可能にする。結果物のフルオシノロン複合体は、薬が同程度の水に不溶であっても、水に可溶である。
【図7】図7は9週齢の対照ラットと、濃度の異なるフルオシノロンアセトニドを投与されたラットの網膜の外側の壊死領域のマイクログリアの数を示す棒グラフである。
【図8】図8は、3日間、15mg/kgのミノサイクリンを投与された、子宮内で内毒素に曝された生後5日の子犬において、最初の10分から最後の10分(対照の子犬と同様に)までに[11C]PK11195の取り込み減少がみられたことで、活性化されたマイクログリア細胞に減少が示唆されることを示す。PK11195の取り込みの増加が、最初の10分に比較して、最後の10分で、内毒素に曝された未処理の子犬で認められたことは、内毒素に曝された未処理の子犬において活性化されたマイクログリア細胞の存在が持続していることを示唆する。これは、ミノサイクリン投与は内毒素に曝された子犬において、活性化されたマイクログリア細胞を阻害することを示している。
【図9A】図9Aは、非外科的または活性のない薬輸送移植物質群と比較して、右眼に4週間にわたり、0.2μg/日もしくは0.5μg/日のFAの持続的な投与を受けたRCSラットの網膜電位b−波の平均振幅を示す棒グラフである。
【図9B】図9Bは、RCSラットの同じ4つの群における網膜の4分の1に対応する、外顆粒層の細胞数の平均を示す棒グラフである。
【図10】図10AないしFは、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を示す。(A)24時間での通常のSDラットにおけるD−FITCの生体内分布。(B)24時間後のRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCの生体内分布。(C)10日後のRCSにおけるD−FITCの生体内分布;(D)24時間後のSDにおける遊離のFITCの生体内分布;(E)24時間後のRCSにおける遊離のFITCの生体内分布;(F)10日後のRCSにおける遊離のFITCの生体内分布。
【図11】図11AないしDは、D−FITCのマイクログリアへの取り込みを示す。(A)網膜内側のマイクログリア細胞のED−1免疫組織化学標識;(B)網膜内側のマイクログリア細胞へのD−FITCの取り込み(60倍);(C)ED−1標識された網膜外側の活性化されたマイクログリア;及び(D)活性化されたマイクログリアへのD−FITCの取り込み。
【図12】図12Aは、活性化された網膜星状細胞のグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色を示す。図12Bは、活性化された網膜星状細胞によるデンドリマー−FITCの取り込みを示す。
【図13】図13Aは、5週齢のRCSラットにおける活性化された網膜ミューラー細胞のGFAP標識を示す(側面図)。図13Bは、活性化された網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込み(図13Aと同じ視野)、及び網膜毛細血管(矢印)へのD−FITCの取り込みを示す。図13Cは、内顆粒層における網膜ミューラー細胞のGFAP標識(軸方向図)を示す。内顆粒層細胞本体は、特に目立っている(ミューラー細胞過程によって概説される)。図13Dは、網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込みを示す(軸方向図)。
【図14】図14は、5週齢のRCSラットの網膜光受容体によるD−FITCの取り込みを示す写真である。
【図15】図15(AとB)は、網膜毛細血管によるD−FITCの取り込みを示す。(A)側面図と(B)血管断面図の側面図。
【図16】図16(AとB)は、S334−ter−4ラットにける、硝子体内注射72時間後の、網膜内側のナノ粒子の生体内分布を示す写真である。緑はFITC標識されたPSナノ粒子で、赤はローダミンGFAPを示す。(A)星状細胞の体細胞にみられる50nmのFITCナノ粒子。(B)前網膜硝子体内へ閉じこめられたままである200nmのFITCナノ粒子であって、デンドリマーを取り上げた細胞に取り込まれていなかったようである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
別の定義がない限り、本明細書で用いられる技術的用語と科学的用語は、当業者が共通して理解する意味と同じである。当業者は、本明細書に記載され、またはそれらと同等である多くの方法と物質を認識し、実際に本発明に用いることができるであろう。本発明は、本明細書に記載される方法と物質に限定されない。
【0024】
導入
多くの効果的な医薬品や薬は、標的組織に及ばない、または、臨床的な有効性を達成するのに十分な間、標的領域に滞留できない。重症のブドウ膜炎に対する合成コルチコステロイドであるフルオシノロンアセトニドはこの一例である。ブドウ膜炎とは、眼の血液供給を担う構造が炎症を起こす、あるいは、腫れる。それらの構造は、ブドウ膜束として知られ、虹彩、毛様体、コロイドを含む。ブドウ膜は、それが影響を及ぼす構造潜在的な原因、および、それが慢性(6週間より長い)か急性か否かを決定づける構造によって分類される。
【0025】
FDAは、ブドウ膜炎の患者に対して、持続的に硝子体内にフルオシノロンアセトニドを輸送することができる移植物質を認可した。しかし、これらの移植物質には、外科移植のための複数の切開作業が必要であること、50%の確率で緑内障が発生すること、移植物質の非浸食性などの障害がある。典型的な薬は他に、網膜と脳における神経炎症を治療する可能性を有する抗炎症薬ミノサイクリンがある。
【0026】
本明細書に開示する発明の1つの基本的なゴールは、細胞障害及び/または食作用という神経炎症に関連する表現型におけるマイクログリアとグリアの活性化を抑制する新しい物質と方法を提供することである。このような活性化は、様々な疾患に共通しており、抑制することによって、関連する近傍の正常組織の破壊が減少、若しくは解消できる。そうすることによって、組織損傷という病態の兆候を有意に減らすことができ、疾患の臨床的な重症度の抑制、さらには健康と生活の質の向上へつながる。本明細書に記載される治療が効果を出しやすいのは、マイクログリア、グリア、または全身性のマクロファージの浸潤が役割を果たす疾患全てである。加えて、本発明は、神経炎症の疾患における血管が担う役割に対処することができる。本明細書に記載する疾患の実施例は、限定されるものではないし、薬や医薬組成物も限定されない。
【0027】
本発明が適用できる疾患の1つに、加齢性黄斑変性症(AMD)がある。加齢性黄斑変性症は、多湿型(血管新生)あるいは乾燥型(非血管新生)に分類される。黄斑変性症の患者のおよそ10%は多湿型の加齢性黄斑変性症である。この多湿型は、酸素の不足した網膜組織への血液の供給を改善するために新しい血管が形成されるときに発生する。しかし、新しい血管は、とても繊細で、簡単に壊れ、出血や周辺組織の損傷が起こる。乾燥型は、より共通性が高く、網膜の色素消失と黄白色斑によって特徴づけられる。黄白色斑は、小さく、黄色がかった、網膜の層内に形成される沈着物である。これらは、網膜の神経炎症を活性化する抗原性物質を含んでいる。
【0028】
糖尿病の眼への影響である糖尿病性網膜症も本発明が適用される。糖尿病患者は、白内障や緑内障といった眼の問題が発展するかもしれないが、疾患の網膜への影響が失明の大きな原因である。糖尿病は、網膜の循環系へ、徐々に影響する。疾患の最も早期の段階は、糖尿病性網膜症の背景として知られている。この段階では、網膜の動脈は弱まり、漏れ、小さな点状の出血が起こる。このような血管は、網膜の腫れ、または浮腫につながり、視力を失う原因となることがある。
【0029】
増殖性の糖尿病性網膜症は、網膜の領域を酸素不足または虚血にする循環器系の問題につながる。新しく、もろい血管は、網膜内を適切な酸素濃度に維持する循環系として発展する。この段階は、血管新生と呼ばれ、簡単に出血する繊細な血管として特徴づけられる。血液は、網膜と硝子体液に漏出し、斑点あるいは気泡が発生するとともに、視力が減少する。病態が進むにつれて、異常な血管の継続的な成長と損傷した組織が、網膜剥離や緑内障のような問題を悪化させる。したがって、血管新生を調整し、抑制することと、それに伴い、血液の漏出を解消することが重要である。デンドリマーは、その生体内分布という長所によって、治療用の分子を輸送することで、血管の炎症の変化を対象として治療できる。
【0030】
網膜色素変性症は、まれではあるが、網膜の桿体光受容体の緩やかな変性を引き起こす遺伝性の疾患である。この疾患は、X連鎖性(母親からその息子へ受け継がれる)であって、常染色体劣性(両親から遺伝子を要求する)、又は常染色体優性(片親から遺伝子を要求する)という特徴を有する。網膜色素変性症は、しばしば性に連結した疾患であるから、女性よりも男性に影響する。網膜色素変性症の経過は人によって異なる。人によっては、視力への影響が軽い。一方、人によっては、失明まで進展する。
【0031】
本明細書に開示される治療方法の説明をするために、以下の眼構造と機能に関連する用語が用いられる。”網膜”とは、眼底にある多層構造の感覚組織である。網膜は、光線を捕まえて、それらを電気信号に変換する数百万の光受容体を含む。この電気信号は、視神経から脳へ伝わり、そこで像に換えられる。網膜には2つの種類の光受容体がある。桿体と錯体である。網膜は、約600万個の錯体を有している。錯体は、黄斑に含まれており、網膜の部分の中心の視野を担っている。錯体は、窩の中で、黄斑の真の中央部分に最も密に局在している。錯体は明るい光に対して最も機能し、色の認識も行う。
【0032】
”硝子体液”は、眼の中心を満たす、粘性があって、透明な物質である。ほとんどが水でできており、眼の体積の3分の2を占め、眼を形成している。硝子体液の粘性という特徴によって、眼は、圧縮されても通常の形に戻ることができる。小児においては、硝子体液は卵の白身のような堅さである。年齢を重ねる毎に、水っぽくなり液性が増す。硝子体液は、しっかりと、網膜のある領域に付着しており、硝子体液が水っぽくなるにつれて、網膜から分離されて、飛蚊症を引き起こす。
【0033】
眼の後部にある硝子体液は、本明細書で開示されている疾患のいくつかを特徴づける異常な血管の成長を標的とする薬の投与経路の1つである。例えば、ヒト血管内皮増殖因子A(VEGF−A)に直接作用する抗体(ラニビツマブ)は、月に1回、硝子体液に注射される。しかし、注射作業そのものが、眼内部の炎症、網膜剥離、網膜裂傷、及びその他の問題のような深刻な副作用の原因となる。したがって、注射、または投与の回数を少なくすることが、望まれない外傷性の副作用を減らすのに有望であろう
【0034】
”毛様体”は、眼の先端付近で、レンズの上下に位置している。毛様体は緑内障の治療における薬の標的となっている。毛様体は、房水を産生し、房水の産生が低下すると、眼球内の圧力が減少する。
【0035】
したがって、房水の過産生、異常な血管の成長、または網膜での神経炎症細胞の望まれない活性化のような病状の所在に応じて、本発明に係る方法と組成物による薬物投与を特異的な細胞と組織を標的にするように適合させることができる。眼への投与経路は、研究され、開示されており、例えば、Lee, T. W. et al., J. Ocular Pharm. 20:43-53, 55-64 (2004)である。このような投与経路は、本発明の方法と組成物を実行する薬学の専門家の手技の範疇である。
【0036】
本明細書で開示される特定の実施形態で治療できる、他の関連する状態及び/又は疾患は、神経炎症、及び/又は眼の炎症に関連するような状態が含まれ、これに限定されないが、網膜色素変性症、黄斑変性症、脳性麻痺、視神経炎、鈍症、貫通性外傷、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、脳卒中、ブドウ膜炎、光受容体変性症、自己免疫性網膜症、遺伝性光受容体変性症、近視性網膜変性症、網膜色素上皮変性症、糖尿病性網膜症、中心性漿液性網膜症、外側の帯状の肉眼で発見できない網膜症、急性多発性板状色素上皮症、多発消失性白点症候群、癌関連網膜症、網膜血管炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落が含まれる。
【0037】
マイクログリア
マイクログリアは、網膜と中枢神経系の樹状細胞の免疫系のメンバーであって、損傷を受けた脂質膜内にある細菌細胞壁リポ多糖類とガングリオシドを含む多くの刺激物によって活性化される(Jou, I. et al., The American Journal of Pathology 2006; 168:1619-1630; Min, K.J. et al., Glia 2004; 48:197-206; Pyo, H. et al., The Journal of Biological Chemistry 1999; 274:34584-34589.)。
【0038】
眼の疾患の場合、損傷を受けた光受容体細胞の膜は、マイクログリアの活性化に寄与する抗原性刺激物の1つを提供する。活性化されると、マイクログリアは食細胞性の表現型を示し、分解されつつある光受容体のほうへ移動し、そして、壊死組織を取り除く。加えて、活性化されたマイクログリアは、CCL−5(RANTES)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP−1αとMIP−1β)、マクロファージ化学誘因物質タンパク質であるMCP−1とMCP−3のような化学遊走性のサイトカインを介して、他のマイクログリアを集めて、活性化する。
【0039】
活性化された表現型を示した後は、マイクログリアは、一酸化窒素や超酸化物陰イオンなどの細胞傷害性のフリーラジカルと同様に、さらに光受容体細胞を損傷(バイスタンダー溶解)するTNF−α、IL−1、IL−6炎症性のサイトカインを放出する。多湿型でなければ、マイクログリア介在性の光受容体細胞死の正のフィードバックサイクルが誘導され、次々に付加的な光受容体のバイスタンダー溶解を悪化させ、光受容体のアポトーシスと壊死が組み合わさり、病状の進行を早める。
【0040】
マイクログリア細胞は、成人の脳における細胞のおよそ10%から20%を構成し、中枢神経系における通常の監視システムを形成する。マイクログリア細胞は、外傷、感染、炎症、及び虚血のような刺激によって活性化されることが知られている。これらの刺激の結果、さらに神経の傷害を誘導する炎症性物質の分泌、反応性酸素種の発生、ペルオキシ亜硝酸に従って、いくつかの細胞粘着マーカーの上方調節がある(Zeng, H.Y. et al., Invest. Ophthalmol. Vis Sci. 46:2992-2999, 2005; Bell, M.J. et al., J. Neurosci. Res. 70:570-579, 2002.)。
【0041】
眼の神経炎症疾患の治療における1つのゴールは、眼の後部を薬の対象とすることである。年齢を重ねるに伴い、網膜色素上皮(RPE)は、時に、光受容体細胞によって産生された無駄な産物を処理する機能を失う。この黄白斑と呼ばれる無駄な産物の蓄積が網膜を歪め、損傷し、乾燥型の黄斑変性症と呼ばれる眼の状態を誘導する。眼において目的の薬の対象となる可能性のある部分には、この他に、血管、神経炎症細胞、網膜色素上皮、視神経、角膜、虹彩、レンズ、及び毛様体が含まれる。
【0042】
マイクログリア活性化が関連する眼の疾患の継続的なしつこさは、新しい治療の必要性の証拠となり、そして、新しい治療を導入するための重要なパラメータは、既存の治療との比較である。持続的に放出する製剤を用いた薬の導入が試みられたが、大きな成功は達成されていない。
【0043】
ナノ粒子の場合、粒子の大きさが、硝子体内の動力学に影響する。蛍光標識したポリスチレンのマイクロ粒子とナノ粒子(直径2μm、200nm及び50nm)をウサギの硝子体腔で1ヶ月間観察した(Eiji Sakurai, H.O. et al., Ophthalmic Research 33:31-36 (2001))。蛍光顕微鏡を用いた組織染色的研究によって、直径2μmの粒子が硝子体腔と小柱網で見られたが、一方、直径200nmより小さいナノ粒子は、組織と同様に網膜で観察された(Eiji Sakurai, H.O. et al., Ophthalmic Research 33:31-36 (2001))。
【0044】
Bouragesらは、ポリラクチド(PLA)ナノ粒子(NP)を用いて、網膜と網膜色素上皮へ、眼の薬を輸送する研究を報告した(Jean-Louis Bourges, S. E. G. et al., Investigative Opthalmology & Visual Science 44:3562-3569 (2003))。ポリラクチド(PLA)ナノ粒子の、眼球内組織での動力学と局在が調べられた。lewisラットにおいて、Rh−6G(蛍光分子)を封入したナノ粒子懸濁液(2.2mg/ml)を1回硝子体内へ注射(5μl)した。ポリラクチドナノ粒子は、有害な毒性を示さずに、多くが網膜色素上皮細胞に局在した。封入されたRh−6Gは、ナノ粒子から拡散し、神経網膜と網膜色素上皮細胞を染めた。このことは、これらの組織を特異的に標的とすることが実現可能であることを示唆している。ナノ粒子は、注射後4ヶ月後まで網膜色素上皮細胞に存在した(Jean-Louis Bourges, S. E. G. et al., Investigative Opthalmology & Visual Science 44(8):3562-3569 (2003))。この結果は、網膜色素上皮へ安定的に、かつ、継続的に薬を供給することができることを示している。もし、ナノ粒子が小さければ(200nm以下)、網膜色素上皮に取り込まれ、もし、サイズが2μm以上であれば、多くのナノ粒子が硝子体腔に留まるだろう。
【0045】
現在、網膜色素変性症と萎縮性(乾燥型)加齢性黄斑変性症に対する有効な治療はない。経口の抗酸化物質であるビタミンAパルミチン酸塩 15,000IU/dによって、網膜色素変性症患者における網膜電位の低下が改善を示したという臨床研究がある(Berson, E.L. et al. Arch Ophthalmol 111(11):1456-9 (1993))。さらに、ある加齢性眼病研究では、ベータ−カロテン、ビタミンE、ビタミンC、亜鉛、及び銅を経口摂取したら、萎縮性加齢性黄斑変性症への高い危険因子を有する患者が血管新生型へ進展する危険性がおよそ25%減少した(AREDS Study Group, 2001)。加えて、毛様体由来神経栄養因子の第2相臨床試験が報告された。この分子は、強い抗アポトーシス活性を有する。網膜色素変性症モデル動物にこの薬を投与すると、光受容体の変性は遅延したが、網膜電位の振幅は、維持されなかった(Liang, F.Q. et al. Mol Ther 4(5):461-72 (2001); Tao, W. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 43(10):3292-8 (2002); Sieving, P.A. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 103(10):3896-901 (2006); Tao, W., Expert Opin Biol Ther 6(7):717-26 (2006); Zeiss, C.J. et al., Exp Eye Res 82(3):395-404 (2006))。
【0046】
天然の、及び合成したグルココルチコイドを含むステロイドは、いくつかの作用機序で神経保護を示した。1)ステロイドは、力学的に安定化するために脂質膜に入り込む(Ignarro, L.J., J Pharmacol Exp Ther 182(1):179-88 (1972); Horwitz, L.D. et al., Free Radic Biol Med 21(6):743-53 (1996); Wang, Y. et al., J Pharmacol Exp Ther 277(2):714-20 (1996))。2)抗酸化物質のように、ステロイドは脂質のペルオキシ化を阻害する(Eversole, R. R., et al. Circ Shock 40(2):125-31 (1993); Horwitz, L.D., et al. Free Radic Biol Med 21(6):743-53 (1996); Letteron, P., et al. Am J Physiol 272(5 Pt 1):G1141-50 (1997))。3)ステロイドは、AP−1(アポトーシス促進シグナル分子)を阻害する(Gonzalez, M. V., et al. J Cell Biol 150(5):1199-208 (2000); Wenzel, A., et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 42(7):1653-9 (2001))。4)ステロイドの抗炎症作用を通じて、ステロイドはマイクログリアの活性化と、マイクログリアの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原、一酸化窒素、TNF−αの産生能力を抑制する(Kiefer, R., et al., J Neuroimmunol 34(2-3):99-108 (1991); Hall 1993; Lehmann, C., et al. Crit Care Med 27(6):1164-7 (1999); Chang, J., et al. Nuerochem Res 25(7):903-8 (2000); Drew, P. D. et al., Brain Res Bull 52(5):391-6 (2000); Dinkel, K. et al., J Neurochem 84(4):705-16 (2003); Lieb, K. et al., Neurochem Int 42(2):131-7 (2003); Glezer, I. et al., Neuroscientist 10(6):538-52 (2004))。
【0047】
いくつかの研究で、抗酸化物質の神経保護的な抗アポトーシス活性が光受容体において示された(Carmody, R. J. et al., Exp Cell Res 248(2):520-30 (1999); Sanvicens, N. et al., J Biol Chem 279(38) :39268-78 (2004); Tanito, M. et al. J Neurosci 25(9) :2396-404 (2005))。急性及び慢性網膜神経変性モデルで、いくつかのグルココルチコイドと非グルココルチコイドステロイドが抗酸化活性を発揮し、神経保護的であった(Behl, C. et al., Mol Pharmacol 51(4):535-41 (1997); Wenzel, A. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 42(7):1653-9 (2001); Dykens, J. A. et al., Biochem Pharmacol 68(10) :1971-84 (2004)). Estrogens have been shown to be neuroprotective against oxidative stressors in vitro and in vivo in transgenic RP animal models (Dykens, J. A. et al., Biochem Pharmacol 68(10) :1971-84 (2004); Sanvicens, N. et al., J Biol Chem 279(38) :39268-78 (2004))。
【0048】
グルココルチコイドが、Fas遺伝子の発現の特異的な抑制によって、Tリンパ球や好中球のような全身性の免疫細胞におけるアポトーシスの仲介因子であるFasを阻害することが見いだされた(Cox, G. J. Immunol. 154(9):4719-25.1995; Yang, Y. et al., J. Exp. Med. 181:1673-82, 1995; Chang, L.C. et al., J. Endocrinol. 183:569-83.2004)。ステロイドがフリーラジカルに結合する能力が、外傷関連の脊髄神経系細胞の変性(Hall 1993)と、慢性ブドウ膜炎であるウィスター・ラットモデルにおける酸化ストレス傷害性ブドウ膜組織において示された(Augustin, A.J. et al., Br J Ophthalmol 80(5):451-7, 1996)。アルビノ・ウサギにおけるトリアミノクロンの硝子体内への注射によって、網膜電位の閾値が増強され、網膜の形態の改善に関連があった(Dierks, Lei et al., Arch. Ophthalmol. 123(11):1563-9 2005)。
【0049】
グルココルチコイド受容体は、マウスの、変性している網膜のアポトーシスを起こしている光受容体にも局在していて、デキサメタゾンの眼球内注射に応答して活性化される。活性化されると、グルココルチコイド受容体は、活性化タンパク質(AP)−1を阻害し、アポトーシス反応を抑制する。デキサメタゾンを投与した眼には、網膜の外側の核細胞の層が維持されていることが観察された(Wenzel, A. et al., Invest Ophthalmol Vis. Sci. 42(7):1653-9 (2001))。
【0050】
上記報告において、これらの疾患や状態には、より効果的な治療が必要であることが確認された。本明細書に開示する組成物と方法はそのような治療を提供する。
【0051】
ナノ物質とナノシステム
本明細書で用いられる”ナノ物質”及び/または”ナノシステム”は、相互に交換可能に、デンドリマーと少なくとも1つの他の治療薬を含むマイクロ粒子またはナノ粒子として用いられる。
【0052】
本明細書で用いられる”マイクロ粒子”または”マイクロ粒子システム”という用語は、一般的に、直径約1nmから約2,000nm、好ましくは、直径100nmから500nmのマイクロ粒子またはマイクロカプセルとして用いられる。さらに”ナノ粒子”は、一般的に、1nmから1000nmの直径範囲である。本明細書では、本発明のある実施形態が、ナノ物質の形成に用いられる一組の生体適合性のあるナノ粒子製剤と関連する。例えば、薬または他の治療薬をより長い期間、維持及び/または輸送するためにデザインされた薬輸送手段としてである。これらの製剤は、望みの大きさに調整でき、適度の構造的強度を有し、優れた透過性と表面特性を示す。したがって、この製剤は、重合体マトリクス、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、放出制御できる移植物質のようなものを含んでいる。望ましいナノ粒子は、軟質のナノ粒子である。
【0053】
ある特定の実施形態において、本明細書で記載されるナノ物質は、1つの治療薬の濃度で対象に使用できるし、他の実施形態では、ナノ物質は、複数の濃度で対象へ投与でき、より長い期間使用できるのが望ましい。ある実施形態では、ナノ物質は、少なくとも1つの治療薬の放出を、少なくとも数時間、数日、数週間、または数ヶ月にわたって、制御できる。
【0054】
本発明によって与えられる利点のひとつは、粒子の透過性と、薬複合体の放出速度、またはナノ粒子周辺への吸収の改善された制御に関係する。一般的に、ナノ物質は、合成重合体、生物重合体(例えば、タンパク質や多糖類)などを含む様々な物質から調製されるデンドリマーを含み、他の薬や、成長因子や遺伝子のような生物工学の産物のキャリアとして用いられ、または、造影剤の運搬に使われる。これらのナノ物質は、重合体のコアシェルを含み、コアシェルの中に調合薬または治療薬が、吸着または化学的結合によって化学的及び/または物理的に結合または付着している。あるいは、治療薬は、ナノ粒子コアに重合体として結合してもよい。電荷のない低分子薬は、巨大分子に結合してもよく、電荷を有する重合体に結合するのがより好ましい。
【0055】
ナノ粒子(デンドリマーを含む)を使用するにあたり、ナノ粒子の治療できる期間を伸ばすために、粒子を抗凍結処理または凍結乾燥する。安定化を伴う、ナノ粒子の抗凍結処理は、凍結乾燥の方法によって行う。洗浄した粒子が、抗凍結溶液に懸濁され、懸濁液の凍結乾燥が適切な凍結乾燥装置で行われる。
【0056】
デンドリマー
本開示によれば、調合薬は、薬が関連するか、または薬と複合体となった重合体物質を含むナノ物質として眼に投与される。実施形態において、重合体物質は、高度に均一化された分子、狭い分子量分布、特異的な大きさと形態的特徴、および、高機能性の末端表面を有するように製造されたデンドリマーの形で含まれる。例えば、エチレンジアミン−コア・ポリ(アミドアミン)(以下、PAMAM)デンドリマーは、”デンス・スター”重合体といわれる巨大分子構造のクラスの代表である。一部の実施形態では、デンドリマーが、部分的に世代4または世代5(それぞれG4またはG5)がアセチル化されたポリアミドアミン(PAMAM)、またはポリプロピルアミン(POPAM)デンドリマーである。
【0057】
従来の重合体と違って、これらデンドリマーは、中心の初期コアで始まる一連の繰り返されるステップで製造される。後に続く各成長ステップは、より大きい分子の直径を有する重合体の新しい”世代”を意味し、新しい世代は、2倍の数の反応性表面部位と、前の世代のおよそ2倍の分子量を有する。デンドリマー−薬ナノ物質は、持続的な放出を高めるために、さらにそれら自身を包含されることができる。例えば、ここと実施例でより詳細に説明される生物分解性のポリ(ラクチド−グリコリド共重合)(PLGA)マイクロスフェアに封入され得る。
【0058】
一般的に、デンドリマー分子は、直径1.5nmから14.5nmの範囲であって、3nmから10nmが小さなタンパク質の大きさに匹敵する。デンドリマー分子は、多くの枝分かれをもち、その立体構造は、高度な機能と、とても小さい多分散性(重合体の1つの枝の分子量の分布として定義される)を有する。このような特徴を鑑みると、デンドリマー分子は、医薬品などの多くの分子を運搬することができ、均一の大きさにすることができ、そして、眼球内のような特別な投与方法に対して、適切に調製することができる。
【0059】
永続的なまたは開裂可能な結合によって、若しくはデンドリマーミセルのコア内に物理的に包み込むことによって、所望の医薬品を、デンドリマーに結合させることができる。デンドリマーの骨格は、望みの生物的部位への輸送が促進されるために、標的部分を組み入れるための機能性部位も有している。この機能性部位によって、デンドリマーの骨格を修飾することもでき、例えば、親水性を増加させて、水溶媒への溶解性を上げる、または、脂質領域への溶解性を上げることである。
【0060】
デンドリマーの利点には、治療に適した薬の濃度を維持、望まない副作用の抑制または最小化、薬の投与量の抑制、投薬回数の抑制、及び眼球への投与の場合は、侵襲性の少ない形での投薬と短い半減期を有する薬の投与の強化が含まれる。いくつか、またはすべてのこれら利点は、本明細書で開示される様々な組成物と方法に関わる。
【0061】
デンドリマーは、既知の方法に従って調製する。例えば、米国特許第5,714,166号には、様々な大きさと組成物を有するデンドリマーの調製方法が開示されている。Yangらは、PAMAM組成物であるデンドリマーと治療薬を結合する方法を検討した(Yang, H. et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 17:3-19 (2006))。その物質は、デンドリマーの表面上に密に詰めたシェルから成る樹木状の”箱”に封入された。ポリエチレングリコール化されたデンドリマーが疎水性コアに物質を保持するのに有用であって、疎水性の物質の水溶性が増加した。デンドリマー−薬複合体は、薬をデンドリマーの表面、またはそれ自身がデンドリマーの表面に結合するPEGに接合させることで調製される。
【0062】
本明細書に記載される実施例では、眼に注射するために、PAMAM−G4−OHデンドリマーがフルオシノロンアセトニド(FA)と結合された。薬のデンドリマー投与は、薬単独より有利な点を示した。6倍低いFAの濃度で、持続的に放出される単独のFAより高い機能と神経保護活性を示したことにより、デンドリマーと結合させることによって、より少ない薬の投与で同等かそれ以上の治療効果が達成できる可能性を確認した。デンドリマー−FAが細胞に取り込まれると、短い期間で全身の循環に入ることができず、遊離の薬より利点がある。他眼クロスオーバー効果は、遊離のFAよりもデンドリマー−FAを投与した眼でのほうが小さかった。これは、デンドリマー−FA複合体の細胞への取り込みが強化された結果であると考えられた。
【0063】
本発明に係る方法と組成物に適したデンドリマーは市販されている。例えば、PAMAMデンドリマーは、アルドリッチ(Aldrich)から入手可能で、世代に依存して、特異的な分子量、直径、及び表面の置換基を有している。ある実施例では、PAMAM−G4−OH(−OH末端置換基を有する第4世代デンドリマー)は、アルドリッチから得た。デンドリマーの選択は、投与経路、標的の組織、利用される調合薬のタイプ、治療する疾患または状態、対象の全身の健康状態、調合薬の剤形、その他などのいくつかの因子に依存するがこれに限定されない。
【0064】
”結合する”とは、薬または医薬品、または造影剤または標的物質(正しくは”物質”として用いられる)が物理的にデンドリマーのコアに封入され、または取り込まれ、部分的に、若しくは全体的にデンドリマーへ分散され、またはデンドリマーへ付着し、または、つながり、若しくは、これらの組み合わせである。付着またはつながりとは、共有結合、水素結合、吸着、吸収、金属結合、ファンデルワールス力、またはイオン結合、またはこれらの組み合わせである。
【0065】
物質とデンドリマーの結合は、随意に結合させるもの、連結するもの、及び/またはスペーサをデンドリマー複合体の調製と使用を促進するために用いることができる。適した連結置換基とは、対象となる物の効果、またはデンドリマー複合体にある他の物質の効果を、大きく損なうことなしに、対象となる物をデンドリマーへつなぐ置換基である。これらの連結置換基は、開裂可能、または開裂不可能であて、一般には、対象となる物とデンドリマーとの間の立体障害を避けるために用いられる。デンドリマーの大きさ、形、官能基の密度が、厳格に制御されているから、被運搬物質をデンドリマーに結合させる方法が多数ある。
【0066】
例えば、(a)物質と実体の間には、共有結合性の、クーロン力の、疎水性の、またはキレート化の結合があり得て、一般に、官能基は、デンドリマーの表面に、または近くにある。(b)物質とデンドリマーの内部の部分の間には、共有結合性の、クーロン力の、疎水性の、またはキレート化の結合があり得る。(c)デンドリマーは、物質を内部(空隙容量)(例えば、磁性または常磁性のコア、または、キレート化と、デンドリマー内でゼロバランス状態をとるための金属イオンの減少によって形成されたドメイン)に取り込みやすいように(例えば、物理的に内部またはデンドリマーの内部部分への結合による)、主に中に隙間がある内部に調製される。
【0067】
内部に磁性を含むデンドリマーは、磁力などを利用して、様々なデンドリマー表面において、多様な生物活性を有し、かつ、複合体を形成できる物質を取り入れるために用いられ、そこでは、拡散律速に寄与する部分でデンドリマーの表面を満たすことによって、運ばれた物質の放出が随意に制御される。または、(d)前述の選択肢の様々な組み合わせが用いられる。本発明に係る方法と組成物において有用なデンドリマーは、米国特許第4,507,466号、米国特許第4,558,120号、米国特許第4,568.737号、米国特許第4,587,329号に開示されているデンス・スター重合体である。
【0068】
デンドリマー複合体に用いるのに適している医薬品には、in vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて、哺乳動物を診断または治療対処するために用いられ、デンドリマーの物理的な完全性を大きく乱すことなく、デンドリマーと結合できる物質の全てが含まれる。例えば、これに限定されないが、フルシノロンアセトニド、ミノサイクリン、化学療法の物質、抗発癌性物質、抗血管形成物質、腫瘍抑制物質、抗微生物物質、核酸(RNA、DNA、cDNA、siRNA、microRNA、及び化学合成された核酸誘導体を含む)、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸(自然発生及び/または人工的なアミノ酸または誘導体)、ビタミン、ミネラル、成長因子(上皮細胞増殖因子、毛様体神経栄養因子、形質転換成長因子ベータ、骨形成タンパク質、線維芽細胞増殖因子、神経栄養因子(神経成長因子、脳由来神経成長因子、ニュートロフィン−3など)、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、血小板由来成長因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ミオスタチン、増殖分化因子−9、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子など、血管新生因子(マトリクス・メタロプロテイナーゼ、血管内皮増殖因子、アンジオポエチン、ノッチ・ファミリー・メンバー、デルタ様リガンドなど)、インテグリン、アポトーシス因子、サイトカイン、治療のタンパク質をコードする核酸を含む発現コンストラクトである。しかし、本発明は治療薬そのものに限定されない。当業者であれば、活性化因子が抗活性化因子(siRNA、microRNA、アンチセンス、阻害抗体など)によって無効化され、そして、それら因子がただちに開示されたと見なされることを理解するだろう。
【0069】
さらなる実施形態では、治療薬は、光に不安定な、放射線に不安定な、及び酵素に不安定な保護基から選ばれる保護基で保護される。一部の実施形態では、化学療法物質が、これに限定されないが、白金錯体、ベラパミル、ポドフィルトキシン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロロエタミン、シクロフォスファミド、カンプトセシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロスレア、アドリアマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、エトポシド、タモキシフェン、パクリタキセル、タキソール、トランスプラチナム、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサートを含むグループから選ばれた。一部の実施形態では、抗発癌性物質は、アンチセンス核酸(例えば、RNA、分子)を含む。特定の実施形態では、アンチセンス核酸は、癌遺伝子のRNAに相補的な配列を含む。好ましい実施形態では、癌遺伝子は、これには限定されないが、abl、Bcl−2、Bcl−xL、erb、fms、gsp、hst、jun、myc、neu、raf、ras、ret、src、またはtrkを含む。一部の実施形態では、治療タンパク質をコードする核酸は、これに限定されないが、腫瘍抑制因子、サイトカイン、受容体、アポトーシス誘導因子、または分化物質をコードする。好ましい実施形態では、腫瘍抑制因子は、これに限定されないが、BRCA1、BRCA2、C−CAM、p16、p21、p53、p73,Rb、及びp27を含む。好ましい実施形態では、サイトカインは、これには限定されないが、GMCSF、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、インターフェロン−ベータ、インターフェロン−ガンマ、腫瘍壊死因子を含む。特定の実施形態では、アポトーシス誘導因子は、これに限定されないが、AdE1B、Bad、Bak、Bax、Bid、Bik、Bim、Harakid、及びICE−CED3プロテアーゼを含む。一部の実施形態では、治療薬は、短い半減期の放射性同位体を含む。
【0070】
本発明に係る一部の実施形態では、さらに、ナノ物質は、これには限定されないが、14C、36Cl、57Co、58Co、51Cr、125I、131I、111Ln、152Eu、59Fe、67Ga、32P、186Re、35S、75Se、175Ybを含む放射能標識を含む造影剤を含む。一部の実施形態では、造影剤は、蛍光性物質を含む。好ましい実施形態では、造影剤は、フルオレセインイソチオシアネートを含む。
【0071】
多湿型の黄斑変性症の治療において、マキュジェン(登録商標)(ペガプタニブナトリウムの注射剤)、ラニビツマブ、ベバシツマブ、VEGF−トラップ、レタアン(登録商標)(アネコルタブ酢酸塩)、及びコンブレタスタチン A4のプロドラッグを含む、現在の利用可能な治療薬は、デンドリマー複合体を用いた投与に適している。光活性化治療法との組み合わせによる1つの先行する治療(例えば、光凝固術、または光力学療法)や、ビスジン(登録商標)、ビタミン(特にビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなど)、ミネラル(特に亜鉛)のような他の加齢性黄斑変性症の治療との組み合わせも適している。特定の実施形態は、放射線治療、温熱療法、外科手術などとも組み合わせられる。
【0072】
デンドリマーの表面の電荷は、細胞内輸送とデンドリマーからの薬の放出に大きな影響がある(Kannan, S. et al., J of Biomaterials Science: Polymers Edition. 2004; 15(3):311; Khandare, J. et al., Bioconjugate Chem. 2005; 60:330-337; Perumal et al., Biomaterials.2008; 29:3469-3476)。局所へ薬を輸送し、局所での薬を延長するための、このようなデンドリマーの使用は、in vitroとin vivoのどちらにおいてもマイクログリア細胞にデンドリマーが取り込まれることの認識によって、さらに支持され、実施例1で詳細に説明されている。OH末端置換基を有する第4世代デンドリマーPAMAM(PAMAM−G4−OH)は、ラットモデルでの測定において、マイクログリア細胞への取り込みと、細胞内での薬の放出に効果があった。
【0073】
in vitroで、マイクログリア細胞が、異なる官能基をもつFITC標識したPAMAM−G4デンドリマー存在下、非存在下で処理され、フローサイトメーターを用いて、取り込み能を決定された。ヒドロキシ基を有するデンドリマーは、アミノ基やカルボキシル基を有するデンドリマーより高い取り込みを示した。ヒドロキシ基を有するデンドリマーは、迅速にマイクログリア細胞に取り込まれた。
【0074】
アミノ酸デンドリマーも提案された。例えば、Maranoらは、レーザー誘導性の脈絡膜新生血管(CNV)を阻害するために、ラットの眼に、脂溶性アミノ酸デンドリマーによって抗血管内皮増殖因子オリゴヌクレオチド(ODN−1)が輸送されるか調べた(Marano, R.J. et al., Nature Gene Therapy 12:1544-1550 (2005))。ナノ物質は、悪い影響を示さず、長期間寛容であった。デンドリマー−ODN−1複合体は、網膜細胞層へ移行し、網膜色素上皮へ達したことが観察された。この複合体は、4ヶ月から6ヶ月以上の期間にわたって、遊離のヌクレオチドと比較してかなりの効果を示した。複合体は、顕著な効果を示し、はじめの2ヶ月より後に、高い濃度で網膜色素上皮に存在した。ODN−1の輸送に関して、治療効果は、28日ごとに注射が必要な他の輸送方法に匹敵した。しかし、これらの治療は、医師に受け入れられなかったことや、多くの患者に使用できなかったという欠点がある。
【0075】
したがって、本明細書で説明されるデンドリマー−薬複合体は、細胞への薬の取り込みが望まれる眼の疾患を治療するのに適している。薬は、他の要素の中でも、治療する疾患に基づいて選ばれる。デンドリマーの大きさと組成は、本明細書で試されたものに限定されない。眼への導入に適したデンドリマーの大きさは、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0076】
眼に使用するデンドリマーは、調合薬を組み込む重合体ミセルを含む。重合体ミセルは、シェルとしての親水性重合体鎖とコアとしての疎水性重合体鎖を含むナノ粒子でもよい。本明細書で、”ナノ規模”という用語は、”マイクロ粒子”の範囲の下、若しくは直径1マイクロン(1マイクロメートル)の下のあらゆる大きさを意味する。特定の大きさの範囲には限定されず、本明細書で示される大きさの範囲は例である。ミセルの粒子の大きさは、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である。
【0077】
そのような実施形態で用いられる親水性の重合体の一部の非限定的な実施例は、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸などのようなポリアルキリンオキシドを含む。使用される疎水性重合体の例は、ポリラクトン、疎水性ポリアミノ酸、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステルなどを含む。ブロック共重合体は、親水性重合体鎖と疎水性重合体鎖の間に形成される。ポリペプチド(ポリアスパラギン酸のような)、ポリアミン、ポリカルボン酸のような陰イオン性または陽イオン性の重合体が疎水性のコアの形成に用いられる。また、ポリペプチド、アミノ酸、またはポリ偽ペプチドのような電荷をもつ重合体鎖や重合体電解質を含むコアを有するコア−シェル型のポリイオン複合体も用いられる。
【0078】
一般に、非生物分解性または生物分解性重合体がマイクロ粒子に用いられる。好ましい実施形態では、マイクロ粒子は生物分解性の重合体で形成される。非生物分解性重合体は、経口投与で用いられる。一般には、合成重合体が好ましいが、天然重合体も使用され、同等かそれ以上の特性を有しており、特にいくつかの加水分解によって分解される、ポリヒドロキシアルカノアートのような天然生物重合体のことである。代表的な合成重合体は、ポリ(ヒドロキシ酸)であって、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、及びポリ(乳酸−グリコール酸共重合体)のようなもの、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)、ポリ無水物、ポリオルソエステル、ポリアミド、ポリ炭酸塩、ポリアルキレンであって、ポリエチレンやポリプロピレンのようなもの、ポリ(エチレングリコール)のようなポリアルキレングリコール、ポリ(エチレン酸化物)のようなポリアルキレン酸化物、ポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリ(ビニル塩化物)のようなポリビニルハロゲン化物、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリスチレン、ポリウレタン、及びこれらの共重合重合体、セルロース誘導体であって、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸塩セルロース、ブチル化酢酸セルロース、フタレート化酢酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、セルローストリアセテート、及びセルロース硫酸ナトリウムのようなもの(本明細書では、総称して”合成セルロース”とする)、アクリル酸、メタクリル酸の重合体、または共重合重合体、またはエステルを含むこれらの誘導体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、及びポリ(アクリル酸オクタデシル)(本明細書では、総称して、”ポリアクリル酸”とする)、ポリ(ブチル酸)、ポリ(バレリアン酸)、及びポリ(ラクチド−カプロラクトン共重合体)、及びこれらの共重合重合体及び混合物である。本明細書で用いられる”誘導体”とは、当業者によって、普通に実施される化学基の置換、付加及び他の修飾がなされた重合体を含む。
【0079】
好ましい天然重合体の実施例には、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、プロラミン、であって、例えばゼインのようなタンパク質、及びアルギン酸、セルロース誘導体、ポリヒドロキシアルカノアートであって、例えばブチル化ポリヒドロキシのような多糖類が含まれる。マイクロ粒子の生体内での安定性は、ポリエチレングリコール(PEG)が共重合されたポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)のような重合体を用いることで、製造の際に調節できる。もしPEGが外部表面にさらされると、PEGが外部表面の親水性のために、これらの物質が循環する時間が長くなる。
【0080】
デンドリマーの輸送物質は、数日から数週間かけて、封入若しくは結合された分子を放出するようにデザインされる。放出期間に影響する因子には、周囲の媒体のpH(pH5において、より早い放出で、それより下では、酸がポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)の加水分解を触媒する)と重合体の組成がある。脂肪族ポリエステル疎水性において異なり、これは分解速度に影響する。特に、疎水性のポリ(乳酸)(PLA)、より疎水性のポリ(グリコール酸)PGAとそれらの共重合重合体、ポリ(ラクチド−グリコリド共重合体)(PLGA)は様々な放出速度を示す。これら重合体の分解速度、そして、これにしばしば一致する薬の放出速度は、数日(PGA)から数ヶ月(PLA)に変化でき、PLAとPGAの比を変えることによって、簡単に操作できる。
【0081】
動物モデル
治療に適した疾患は、加齢性黄斑変性症(ARMD)、網膜色素変性症(RP)が含まれ、これらは、臨床試験に先立って、動物で検討できる共通の根本的な病状を共有している。どちらの疾患も、網膜色素上皮の機能が低下する結果、直接的及び/または間接的に光受容体が損傷を受けるという生化学的な異常を示す。光受容体の損傷は、最終的に、細胞またはミトコンドリア膜のレベルで起きる。ミトコンドリア外膜が脂質過酸化反応を介して損傷を受けると(通常、状態異常の網膜内での酸化ストレスの結果として)、ミトコンドリアマトリクスへの過度のカルシウムと超酸化物陰イオンの流入が起こる(Marchetti, P., et al. J Exp Med 184(3):1155-60 (1996); Green, D.R., et al. Science 305(5684):626-9 (2004); Spierings, D., et al. Science 310(5745):66-7 (2005))。この超酸化物及び/またはカルシウムの過負荷(カルパイン誘導アポトーシス)への応答において、ミトコンドリアはチトクロムcを細胞質ゾルへ放出し、ここで、チトクロムcは、APAF−1とカスパーゼ−9にアポトソームを形成するために相互作用する。このアポトーシスへの過程によって、DNA修復、複製、及び形質導入が停止し、細胞死につながる。結果として、ミトコンドリア外膜を安定化する抗酸化物質や薬は、アポトーシスによる細胞死に拮抗する作用で神経保護的である。
【0082】
光受容体表面または網膜の他の細胞表面膜が損傷を受けると、健康状態では通常休眠しているのに、マイクログリア細胞は、網膜の樹状細胞介在の免疫系の一部となって、活性化されて、損傷を受けた細胞を殺したり、貧食したりする。活性化されたマイクログリア細胞は、網膜神経炎症のメディエータであって、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のような細胞傷害性タンパク質、一酸化窒素(NO)のような反応性酸素種(ROS)、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼ、及び補体を放出する。これらの結果、網膜外部における光受容体の細胞傷害が起こり得る。
【0083】
英国外科医師会(RCS)ラット網膜神経変性モデルが、上記で説明した加齢性黄斑変性症と網膜色素変性症の機序に対する治療の試験に適している。このモデルは、マイクログリアの活性化の結果、顕著なアポトーシス(Tso, M. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 35(6):2693-9 (1994); Katai, N. et al., Invest Opthalmol Vis Sci 40(8):1802-7 (1999))と壊死による細胞死を示す(Thanos, S., Brain Res 588(1):21-8 (1992); Thanos, S. et al., Int J Dev Neurosci 11(5):671-80 (1993); de Kozak, Y. et al., Ocul Immunol Inflamm 5(2) :85-94 (1997); Akaishi, K. et al. Jpn J Ophthalmol 42(5) :357-62 (1998); Srinivasan, B. et al., Science 310(5745):66-7 (2004); Zeng, H.Y. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 46(8) :2992-9 (2005))。RCSラットにおける神経感覚の網膜は、生化学的には正常である。このマウスは、網膜色素上皮に、MERTKチロシンキナーゼの変異を有している。これは、ヒトにおける網膜色素変性症の原因であると同定された(Gal, A. et al., Nat Genet 26(3):270-1 (2000))。
【0084】
MERTK変異は、脱落した光受容体外側部分の桿体を貧食するという網膜色素上皮の機能を損なう。年齢を重ねた結果、生化学的には、加齢性黄斑変性症の患者における黄白色斑に似た網膜周辺の空間(外側の壊死組織領域と呼ばれる)において、過酸化され、損傷を受けた細胞膜は網膜のマイクログリア活性化への大きな刺激となる。マイクログリアのトール様受容体は、損傷を受けた脂質膜に結合して、マイクログリアの活性化が起きる。このモデルでは、活性化されたマイクログリアによって放出された細胞傷害性のタンパク質、一酸化窒素、プロテアーゼ及び補体に曝されたときに、無害な傍にある正常な光受容体が死ぬ、または膜損傷を受ける。このように損傷を受けた、または死んだ光受容体は、大量の光受容体の変性、視力低下、及び網膜電位の消失(ERG)につながる神経炎症の増幅過程において、さらにマイクログリア細胞の活性化を励起する。食細胞であって、ロドプシンを含む活性化されたマイクログリアは、免疫組織化学的に、網膜色素変性症と加齢性黄斑変性症を伴う患者の死後の網膜内にみられる(Gupta, N. et al., Exp Eye Res 76(4):463-71 (2003))。
【0085】
上記のRCSラットモデルは、本開示の目的において、動物モデルとして適しており、さらに、デンドリマー製剤と、混成ナノ物質と、マイクロ物質であって、デンドリマー−薬複合体とナノ粒子、または、複合体を封入したマイクロ粒子を含むマイクロ物質の試験に用いられる。当業者は、本明細書における実施例から誘導されるものの、適切な対照を用いることを知っている。
【0086】
生体内における効果を試験するために、正常なラットと、強い神経炎症を有するラット(網膜変性モデル)が遊離したFITCとデンドリマーと複合体となったFITCで処理された。疾患モデルでは、デンドリマー−FITCの網膜外部への取り込みが増加し、特に、外顆粒層(ONL)、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死組織領域で、及びこれらの間で増加した。この取り込み様式は、正常な網膜ではみられなかった。これらのデータによって、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症と他の神経変性過程において、網膜の周辺層への取り込みが増加するという、本発明に係るデンドリマー−薬のナノ物質の利点のひとつが支持される。
【0087】
この実験の結果は、デンドリマー複合体が、遊離したFITCと同様にすぐに網膜から消えなかったことも示した。この結果によって、デンドリマー−薬の複合体は、グリア、マイクログリア、網膜色素上皮、及び血管のような強い神経炎症の領域における薬の滞留時間を延長することができ、薬力学的効果を強め、特異的な網膜の周辺層を対象とし、輸送しなければならない総量を抑制し、そして、薬の副作用を減ずる可能性をもつ、という本発明に係るデンドリマー−薬のナノ物質の第2の利点が支持される。
【0088】
FITCは、デンドリマーの輸送パラメータを決定するための試験分子であった。フルオシノロンアセトニフルオシノロンアセトニド薬は、生物学的活性を有する分子の輸送の試験に用いられ、そして、ミノサイクリンの投与によって、生体内でのマイクログリア細胞の活性化の抑制がみられた。簡潔に言うと、マイクログリア特異的リガンド[11C]PK11195を用いたマイクロPET画像によって調べたところ、ミノサイクリンの生後投与によって、マイクログリアの活性化の経時変化が減少した(実施例6)。
【0089】
例示する薬及び治療薬
薬または医薬組成物の選択は、第一に、治療対象の疾患、あるいは抑制対象の状態に依存する。例えば、合成コルチコステロイドであるフルオシノロンアセトニド(FA)は、重症のブドウ膜炎患者に対して長期の硝子体内投与が可能な、持続的放出製剤としてFDAの承認を受けた(Jaffe, G.J. et al., Ophthalmology 2000;107:2024-2033; Jaffe, G.J. et al., Ophthalmology 2006;113:1020-1027; Jaffe, G.J. et al., Investigative Ophthalmology & Visual Science 2000;41:3569-3575)。ミノサイクリンは、その抗炎症効果が知られており、神経炎症状態の治療に用いられる。
【0090】
ミノサイクリンとドキシサイクリンは、脳傷害後の炎症を減じることが示された。本明細書でのデンドリマーを基にした方法に従って、ミノサイクリンのような抗炎症物質の、マイクログリア細胞への輸送によって、神経炎症が減少し、それ故に傷害が減少する。実施例6は、ミノサイクリンが、マイクログリア細胞の活性化を抑制することで、神経炎症を減じることを示している。
【0091】
実施例は、マイクログリア細胞による優先の細胞内取り込みによって、ナノ物質が強化された薬輸送を提供できることを示すために行われ、そして、細胞内で薬が持続的に放出された結果、治療効果に顕著な改善が得られた。この実験は、上記黄斑変性症のラットモデルの生体内で実行された。結果は顕著であって、デンドリマーに基づいたナノ物質は、現在、様々な眼の病状における神経炎症の治療での強力な基盤として開発できるため、実用性と産業上の適用性を有している。
【0092】
本明細書で開示された方法のような適切な薬輸送システムは、マイクログリア介在、及び他の眼の炎症疾患の治療のために開発されている他のものと同様に、薬の効果を強め、そして持続することができる。実施例における結果は、デンドリマー−薬の複合体が単独の薬または薬を持続的に放出する移植物質と比較して、網膜の神経保護においてよりよい治療効果を示す。投与の改善された経路の一例として、網膜変性のラットモデルが、注射されたデンドリマーフルオシノロンアセトニド(D−FA)ナノ物質と、単独で注射されたFAと、持続的に放出する硝子体内の薬輸送移植物質(IDDIs)とを、1日の持続速度について比較するために用いられた。
【0093】
現在、FAは、例えば無菌移植物質としての、眼球投与が承認されている。移植物質は、眼の後部へ局所的に、0.6μg/日の名目初期速度で放出され、最初の1ヶ月を超えると、0.3μg/日から0.4μg/日の定常速度に減じ、およそ30ヶ月以上放出されるように設計される。この組成物によって、移植の必要性が排除され、移植は侵襲性の低いデンドリマー−FAの複合体の注射に置き替えられるので、既存の治療法が改善される。
【0094】
単独のFAあるいは対照群である未処理ラットと比較して、デンドリマー−FAの複合体による処理によって、網膜電位の振幅が有意に維持された。9週齢のRCSラットの外顆粒層の細胞密度が、0.2μ/日と0.5μ/日のIDDIsでのデータと比較された。D−FA処理されたラットでみられた細胞密度の増加は、IDDIs処理、遊離のFA処理されたラット対して有意な神経保護の増加を示している(1μ/gと3μ/gのD−FAに対してp<0.001)。他眼クロスオーバー効果は、IDDIsを含む複合体でないFAで処理した全ての動物よりも、D−FA処理の動物のほうが低かった。
【0095】
ひとつの機序にこだわらなければ、これは、RCSラットでD−FITCナノ物質の細胞への取り込みが増加したためだと思われる。D−FAが細胞に取り込まれると、そのD−FAは、非複合体薬で観察されるのとは異なり、全身循環への再分布ができない。その結果として、低濃度での薬力学の効果が強められた。D−FAの注射は、総FA濃度が6倍低いのに、より大きな機能(ERG)と神経保護効果(ONLカウント)を示した。
【0096】
新しい治療の導入における、もうひとつの重要な点は、標的の薬または物質の取り込みと分布を可視化できることである。本明細書でのデンドリマーナノ物質においては、マイクログリア細胞へのデンドリマーの取り込みは、マイクロPET画像を用いて、即時、可視化できる。これを示すために、マウスでG4OH−64Cu複合体の生体内分布を調べた(図4)。G4NH2とG4OHのデンドリマーが64Cuで複合体とされ、表面電荷の異なるデンドリマーの生体内分布を調べるために成体マウスに注射した。所望の領域が様々な器官において取り出され、注射した濃度と動物の体重で標準化された放射能が標準取り込み値(SUV)として表された。成体マウスは50uCiのデンドリマー−64Cu複合体 IVが注射された。G4OHデンドリマーは、G4NH2よりも脳へより多く取り込まれた。これは、マイクロPETを用いた即時画像が、脳のマイクログリア細胞によるデンドリマー−ミノサイクリン64Cu複合体の取り込みを定量化するために用いられることを示す。
【0097】
デンドリマー複合体組成物は、他の活性成分、添加剤及び/または希釈剤を任意に含んでもよい。注射用組成物は、懸濁液あるいは溶液の形態であってもよい。溶液の形態の場合、複合体は生理的に許容されるキャリアに溶解させられる。キャリアは適切な溶媒と、ベンジルアルコールのような保存料とからなり、もし必要なら、緩衝液を含む。水、水性アルコール、グリコール、ホスホン酸塩または炭酸塩エステルが溶媒として有用である。デンドリマーと薬の複合体は、小胞またはリポソームに組み込まれることができる。
【0098】
複合体は、分解可能な重合体(例えば、乳酸−グリコール酸共重合重合体またはポリ無水物重合体)か、又は分解不能な重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合重合体)のホストシステムに封入され得る。
【0099】
実施例7と実施例11では、デンドリマー−薬複合体を封入するためのマイクロ粒子が開示されている。実施例7によると、PLGA(ポリ(乳酸−グリコール酸共重合体))マイクロスフィアがデンドリマー−FITC複合体を封入した。保護されたコアをもつPAMAMデンドリマーの製造方法は、この技術分野で知られている。本発明では、固有の世代の特定のデンドリマーに限定しない。例えば、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代、第10世代、またはより大きな世代のデンドリマーが用いられる。分子量と末端の置換基の数は、重合体の世代(層の数)に応じて、指数関数的に増加する。異なる型のデンドリマーは、重合体化の過程を始めるコア構造に基づいて合成される。好ましい実施形態では、デンドリマーは第4世代のデンドリマーを含む。
【0100】
デンドリマーのコアの構造が全体の形状、密度、表面の機能性のような分子のいくつかの特性を決める(Tomalia et al., Chem. Int. Ed. Engl. 29:5305 (1990))。球形のデンドリマーは、3価の開始コアとしてアンモニア、または、4価の開始コアとしてエチレンジアミン(EDA)を有することができる。近年開示された棒状のデンドリマー(Yin et al., J. Am. Chem. Soc. 120:2678 (1998))は、ポリエチレンイミンの直線状の長さを変えることができるコアを使用し、コアが長ければ長いほど、デンドリマーが長くなる。樹状マクロファージはキログラムの量で市販されており、生物工学用製品のための適正製造基準(GMP)下で製造される。
【0101】
デンドリマーの特性は、これらには限られる訳ではないが、エレクトロスプレイイオン化質量分析、13C核磁気共鳴分析、1H核磁気共鳴分析、高性能液体クロマトグラフィー、多角度レーザー光線散乱サイズ排除クロマトグラフィー、紫外分光光度計、キャピラリー電気泳動、及びゲル電気泳動などの技術によって測定される。
【0102】
各種の腸溶コーティングを用いれば、デンドリマー薬複合体が胃を通過しやすくできる。デンドリマー薬複合体は、当業者に知られるバインダーを使うことで、錠剤にできる。その剤形は、レミントン・ファーマシューティカル・サイエンス(18版、1990年、マック出版社、ペンシルバニア州イーストン)に記載された。適した錠剤には、圧縮された錠剤、糖衣錠剤、フィルム加工した錠剤、腸溶コーティングされた錠剤、多重圧縮された錠剤、放出制御された錠剤などが含まれる。
【0103】
異常または望ましくない血管の成長を治療するために、治療薬を抗血管新生物質としてもよい。実施例には、アネコルタブ酢酸塩、抗血管内皮増殖因子(VEGF)アプタマー、AMD−FAB、あるいはプロテインキナーゼc阻害剤が含まれる。この分野の当業者が知る他の抗血管新生物質も使われる。例えば、抗血管新生物質は、これに限定される訳ではないが、ステロイド、血管新生抑制ステロイド、メタロプロテイナーゼ阻害剤、インターフェロンがある。
【0104】
非限定的な治療方法のひとつでは、PAMAM−G4−OHデンドリマーが、FAを組み込まれて、早期段階の加齢性黄斑変性症と診断された患者の硝子体液へ注射される。特定の濃度及び/または製剤の、本明細書で開示されるナノ粒子及び/またはデンドリマーが治療する特定の疾患または状態に応じて変えられる。例えば、製剤は、毎日、毎週、毎月、若しくは必要に応じて投与され、薬の濃度は、少なくとも約1ngから、少なくとも約1.5ngから、少なくとも約2.0ngから2000μgまで、少なくとも約2.0μm、少なくとも約2.5μm、少なくとも約3.0μm、少なくとも約5.0μm、少なくとも約8.0μm、少なくとも約10μm、少なくとも約12μm、少なくとも約15μm、少なくとも約20μm、少なくとも約25μm、少なくとも約30μm、少なくとも約35μm、少なくとも約40μm、少なくとも約45μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約100μm、少なくとも約250μm、少なくとも約500μm、少なくとも約750μm、少なくとも約1000μm、少なくとも約1500μm、少なくとも約1800μm、少なくとも約2000μm、あるいは、これらの間の値いずれかである。
【0105】
治療の効果は、業界標準に基づいた従来の測定方法、例えば、これらに限定されるわけではないが、全体の形態、組織学、微生物学、病理学、分子生物学(治療した対象由来のDNA、RNA、またはタンパク質の解析を含む)、及び、可能であれば、治療対象から提供される症状に関する情報などに基づいて評価される。
【0106】
特定の実施形態のひとつでは、デンドリマー−FA複合体はPLGAナノ粒子に封入されて、静脈内に、経口で、口腔で、腹腔に、関節腔に、直腸内に、局所に、経皮で(特に調合物をゆっくり放出するために)、皮下に、筋肉内に、鼻腔内に、硝子体内に、脈絡膜上腔に、網膜周辺に、上強膜に、テノン嚢周辺に、強膜内に、網膜上に、注射で、噴霧器で、または、治療する特定の状態または疾患に、器官に、または他の因子に応じた他の様式で投与される。デンドリマーを含むナノ粒子は、点眼の様式で、眼の周りか中に沈殿を沈着させて、眼腔へ注射して、眼に直接点滴するなどして眼に輸送されると好ましい。別の実施例では、本明細書で開示されるデンドリマーを含むナノ粒子が、好ましくは対象の神経系、さらに好ましくは、中枢神経系に輸送される。これら特定の実施形態では、標的細胞は、ニューロン、星状細胞、乏突起膠細胞、グリア細胞、または、他の細胞、または、患者の神経系に関連のある要素を含むであろう。
【0107】
代わりのナノ粒子製剤は、少なくとも1つの寸法が100nm未満であって、ナノ粉末、ナノクラスター、ナノ結晶、ナノスフィア、ナノロッド、ナノカップ、及びその他顕微鏡でしか見えない粒子を含む。
【0108】
下記実施例は、例示の目的でのみ包含され、本発明に係るデンドリマー組成物の有用性を理解できる技術と方法の限定を意図していないことが、当業者によって理解され、簡単に実施されるであろう。
【0109】
(実施例)
実施例1
in vitroとin vivoでのマイクログリア細胞によるデンドリマーの取り込み
細胞内輸送とデンドリマーからの薬の放出におけるデンドリマーの表面電荷の役割が報告された(Kannan, S. et al., J. Biomaterials Science: Polymers Edition. 2004; 15:311; Khandare, J. et al., Bioconjugate Chem. 2005; 60:330-337)が、治療の試みの対象であるマイクログリア細胞との関係はこれまでに報告されていない。
【0110】
マイクログリア細胞の取り込みにおけるデンドリマー表面の置換基の影響を調べるために、マイクログリア細胞(5×105細胞/ml)を、10μgの、異なる官能基(−OH、−NH2、−COOH)を有する、FITC標識したPAMAM−G4デンドリマー存在下と非存在下(対照とする)で、37℃で1時間処理した。デンドリマーの取り込みは、ベクトン・ディッキンソン・フローサイトメーターを用いて評価した。対照の細胞の蛍光強度が有意に増加したことから、3つのデンドリマーいずれも細胞に速く取り込まれたことを示し、PANAN−G4−OHデンドリマーは他の2つのデンドリマーより速く取り込まれた。この結果を図1に示しており、−OHデンドリマーがマイクログリア細胞に速く取り込まれた。
【0111】
正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットにおける、遊離のFITCとデンドリマー複合体のFITC(D−FITC)の網膜における生体内分布を調べた。静脈注射の24時間後と10日後に実行した網膜の低温切開片由来の落射蛍光組織像を、以下の図2Aないし図2Fに示した。図2Aは、24時間後の通常SDラットにおけるD−FITCの分布を示す。図2Bは、24時間後のRCS網膜変性モデルにおけるD−FITCの分布を示す。外顆粒層でのD−FITCの集積が*で示され、強い神経炎症がある壊死組織領域を示す。図2Cは、10日後においてD−FITCが神経炎症領域内に維持されていることを示す。図2Dは、24時間後のSDラットにおける遊離のFITCの分布を示す。図2Eは、24時間後のRCSラットの網膜において遊離のFITCが均一に分布していることを示す。図2Fは、注射10日後のRCSラットの網膜から遊離のFITCが消失していることを示す。
【0112】
図2BのRCSラットの網膜からも明らかなように、D−FITCは、網膜の外側への取り込みが増加し、正確に外顆粒層、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死領域の内やその間に局在されたことが示された。この取り込み様式は、正常なSDラットの網膜では観察されなかった(図2A、図2D)。画像の赤は、TRITCフィルターからの自己蛍光のせいである。網膜色素上皮(RPE)は、D−FITCの注射を受けたマウスの網膜におけるFITC蛍光を強めることを示す。遊離のFITCの注射を受けたマウスの眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光が観察されなかった。この様式は、定性的に、注射後10日においても同様であった。図2Fに示されるFITCシグナルは、外側の壊死組織領域からの自己蛍光である。この画像では、網膜色素上皮は、網膜から分離されており、見えなかった。
【0113】
これらのデータは、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のような高いエンドサイトーシス速度を有する細胞によるD−FITC複合体の取り込みが強まることを示した。結果的に、この結果は、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症と他の神経変性過程を受けている網膜の周辺層への強い取り込みを示すという結論を支持する。さらに、図2Cに示すように、デンドリマー複合体は、図2Fの遊離のFITCのように早くは網膜から消失しないことが示された。
【0114】
本実施例は、デンドリマー−薬の複合体が強い神経炎症の領域での薬の滞留を延長でき、それによって、薬力学的な効果を増強し、特異的な網膜の周辺層を対象とすることができ、そして、薬の総投与量を減じことができ、薬の副作用を減らせる可能性を示している。
【0115】
実施例2
PAMAM−G4−OH−フルオシノロンアセトニド(D−FA)複合体(ナノ物質)と持続的に放出する移植物質との比較
D−FA複合体(ナノ物質)の調製と評価は以下のように実施された。ナノ物質の調製には、PAMAM−G4−OHデンドリマーが選ばれた(Jayanth Khandare, P.K. et al. (2005); P. Kolhe, J.K. et al., Biomaterials 27:660-669 (2006))。デンドリマーは、アルドリッチから入手し、混在するであろう小さな、低い世代の不純物を除去するために透析された。PAMAM−G4−OH(分子量=14,217Da、64−OH末端基、大きさ約5nm)は、2段階ジシクロヘキシル・カルボジイミド(DCC)カップリング反応(図6)を用いて複合体とされた。反応混合液は3日間撹拌し、DCUを取り除くためにフィルターにかけられた。
【0116】
未反応の物質を除くために、1日おきにDMSOを交換しながら、ろ液がDMSOに対して3日間透析された(透析膜のカットオフは1000Da)。複合体を得るために、透析されたものを真空下で乾燥した。1H−NMRが複合体の評価に用いられた。タンパク質統合法で決定したところ、複合体の割合は、デンドリマー1分子に対して、FAが4.5分子であって、複合体は水に溶解する。これは、ナノ物質の分子量が16,700Daであることを示す。
【0117】
これらのナノ物質は、さらにMALDI−TOF質量分析によって評価され、分子量が17,000Daであることが示唆され、これは、NMRのデータと同等である。DMSOにおける複合体の安定性が、透析膜を透過して放出された薬を測定することによって調べられた。24時間を通して集められた、膜の外側へ透過してきた試料をHPLC分析
したところ、複合体由来のごく微量の薬が放出されたことが示唆された。このことは、複合体はとても安定で、そして、遊離の(複合体でない)FAはごくわずかであった。
【0118】
デンドリマー−FA(D−FA)ナノ物質の神経保護効果が以下のように評価された。静脈注射されたD−FAナノ物質の神経保護効果が、遊離のFAの注射、及び1日あたりの放出速度を維持しながら遊離のFAを放出するIDDIsと比較された。図3Bは、D−FAと遊離のFAを、それぞれ1μgと3μgを注射したときの外顆粒層の細胞密度を示し、これに加えて、IDDIsにおけるデータを図9に示した。ここで、1μgと3μgは、D−FAのFA含量を示す。D−FAの外顆粒層の細胞密度は、IDDIsや遊離のFAの注射よりも高かった。外顆粒層の細胞密度は、遊離のFAを1μg注射したときよりも、D−FAを、それぞれ1μgと3μgを注射したとき群のほうが高かった(1μ/gと3μ/gのD−FAに対してp<0.001)。IDDIsは実施例6に、遊離のFAをそれぞれ1μgと3μgを注射したときは図3Bに記載されているが、他眼クロスオーバー効果は、D−FAを注射した眼において、より顕著でなかった。
【0119】
ひとつの機序にこだわらなければ、図5に示されたように、RCSラットでのD−FITCナノ物質の細胞取り込みが増加したからかもしれない。D−FAが細胞内に取り込まれると、非複合体薬で観察される全身への循環系への再分布が生じない。結果として、低濃度での薬力学効果が強められる。D−FAの注射によって、6倍低い総FAの量で、より高い機能(網膜電位)と神経保護(外顆粒層の数)という結果が得られた。
【0120】
実施例3
RCSラットで神経保護的であったフルオシノロンアセトニド
本実施例によると、ステロイドであるフルオシノロンアセトニド(FA)は、持続的に放出する硝子体内への薬輸送移植物質(IDDIs)によって輸送されると、RCSラットのゆっくりした網膜変性に対して、高い神経保護作用を示した。図9Bは、4週間の試験期間で、FAを0.2μg/日、FAを0.5μg/日、活性のない薬を輸送する移植物質(右眼に)、非外科的な対照をそれぞれ受けた4つの、9週齢のRCSラットの群における外顆粒層細胞(光受容体細胞本体)の密度を示す。定量組織解析によって、FAを0.2μg/日で処理された眼の外顆粒層の細胞密度が、非外科的な対照群の2.38±0.12倍大きく(p<0.001)、活性のない薬を輸送する移植物質群の4.85±0.24倍大きい(p<0.001)ことが示された。FAを0.5μg/日で処理された眼の外顆粒層の数が、非外科的な対照群の1.78±0.21倍大きく(p値はクラスカル-ウォリス検定で0.02)、活性のない薬を輸送する移植物質群の3.56±0.17倍大きい(p<0.001)ことが示された。群間で内顆粒層の数における違いはなかった。
【0121】
他の実験では、フルオシノロンアセトニドは、処理された眼の網膜電位b−波の振幅を維持した。外顆粒層のデータは、同じ動物での網膜電位の所見と矛盾がなかった(図9A)。群を比較すると、それぞれ0.2μg/日、及び0.5μg/日のFAで処理された眼から測定した術後4週の網膜電位b−波の平均値の振幅は、手術をしない対照やプラセボ処理した眼よりも有意に大きいことを示した(p<0.001)。この網膜電位の結果は、1日用量が低い群はより大きな神経保護と機能的効果があるという外顆粒層細胞の数のデータを支持した。0.5μg/日のFAで処理した眼におけるb−波の平均値の振幅が、0.2μg/日のFAで処理した眼の値より量的には低いが、これらの間に統計的な有意差はない(p=0.113)。
【0122】
IDDIsはRCSにおいて、濃度相関的にクロスオーバー効果を示した。量的には、4週時点での、0.2μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の振幅は、対照群の右眼と左眼、及びプラセボ群の右眼と左眼のそれらより大きかった。0.5μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の平均値は、その群の右眼及び非外科的な対照群の右眼と左眼のそれらとは、有意に異なっていた(解析能力0.050:0.810でp<0.03、クラスカル-ウォリス検定でp=0.006)。0.2μg/日のFAで処理した群の左眼の網膜電位b−波の振幅の平均値は、プラセボ群の右眼と左眼、及び対照群の右眼と左眼のそれらとの間に統計的な有意差はなかった。他眼効果は薬のクロスオーバーであった。これは、分布の量が小さい小動物に共通して見られる。濃度に関連した他眼の処理への反応の所見は、遊離の薬は、上強膜及び/または渦静脈系を通って眼から離れ、全身に分布するようになり、その後、他眼で薬力学効果を示すと考えられる。
【0123】
FAはRCSラットにおける神経炎症を抑制した。RCSラットの外顆粒層と網膜電位の維持におけるFAの作用機序の研究において、網膜マイクログリア細胞の定量組織解析がED−1免疫標識で行われた。RCSラットの光受容体層と外側の壊死領域は、食作用を有し、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のような毒性物質を放出する活性化マイクログリアによって光受容体損傷を増幅された被損傷の脂質膜を含む。0.2μg/日のFAで処理した群の眼における、壊死組織層の活性化されたマイクログリア細胞の密度は、非外科的な対照群の眼と比較して5倍の減少(p<0.001)を、活性のないIDDIsを受けた眼と比較して9倍の減少(p<0.001)を示した。0.5μg/日のFAで処理した眼においては、壊死組織層の活性化されたマイクログリア細胞の密度は、非外科的な対照群の眼と比較して4倍の減少(p<0.001)、活性のないIDDIsを受けた眼と比較して7倍の減少(p<0.001)を示した。
【0124】
実施例4
PAMAM−G4−OHデンドリマーは、通常のSDラットではみられないが、RCSラットでは、変性した外顆粒層への取り込みの強化を示した。
図5は、スピローグ−ディウリー(SD)ラットとRCSラットにおける網膜の低温切開片から得た落射蛍光像を示す。これらは、遊離の、複合体でないFITC、デンドリマー複合体であるFITC(D−FITC)、及びPLGAマイクロスフィアに封入されたD−FITC(PLGA−(D−FITC))を硝子体内に注射して、その24時間後に作製された。図5BのRCSラットの網膜において、D−FITCは、網膜の外側への取り込みが強化されることを示し、外顆粒層、活性化されたマイクログリア、及び外側の壊死組織領域の間に、正確に局在したことが明らかである。この取り込み様式は、他のどの正常なSDラットでもみられなかった(図5A、C、D)。画像の赤色は、TRITCフィルターの自己蛍光による。
【0125】
網膜色素上皮はD−FITCの注射を受けた網膜での強化されたFITC蛍光を示した。遊離のFITCの注射を受けた眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光はみられなかった。この様式は、定性的に、注射後10日でも同様であった。これらのデータによって、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のような高いエンドサイトーシス速度を有する細胞では、D−FITC複合体の取り込みが増大されることが示唆される。結果的に、デンドリマー−FA(D−FA)複合体は、強い神経炎症や他の神経変性過程を受けている網膜周辺への取り込みが増大されていると考えられる。
【0126】
実施例5
PLGAマイクロ粒子はデンドリマー−FITC複合体を封入して調製される。
PLGAマイクロ粒子は、次のようにして、デンドリマー−FITC複合体を封入して調製される。FAのような水に溶けない薬に適しているo/w法ではなく、ウォーター・イン・オイル・イン・ウォーター法(w/o/w)が、デンドリマー−薬複合体のような水溶性のナノ物質の封入には適している(Jayanth Panyam, M. M. D. et al., Journal of Controlled Release 92:173-187 (2003); Jayanth Panyam, S. K. S. et al., International Journal of Pharmaceutics 262:1-11 (2003))。妥当なPLGAの量(分子量が90,000から125,000Da、75% PLA/25% PGA)がクロロホルムに溶ける。別々に、2.5%のPVA溶液が、クロロホルムが飽和した冷たい蒸留水で調製された。
【0127】
デンドリマー−薬複合体(10%重量/体積)がPLGA溶液に2回に分けて加えられ、加えるたびに1分間撹拌された。次に、氷槽に5分間置かれ、ウォーター・イン・オイル乳剤を得るために、1分間、FS20・バス・ソニケーター(44−48KHz、フィッシャー・サイエンティフィック)を用いて乳化された。次に、多重w/o/w乳剤を得るために、初期乳剤が2回に分けて、8mlのPVA溶液に、断続的に撹拌しながら加えられた。
【0128】
乳剤は氷漕に5分間置かれ、3分間、超音波で分解された。クロロホルムを蒸発させ、ナノ粒子を形成するために、乳剤は磁気撹拌プレート上で、夜通し撹拌された。懸濁液は、ウルトラ−クリア(urutra−clear、登録商標)遠心分離チューブに移され、超遠心分離機によって、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離された。沈殿物は蒸留水に再懸濁され、すべての凝集体を分散させるため、氷漕上で、30分間、超音波で分解された。走査型電子顕微鏡(SEM)と粒子径解析機を用いて、粒子径を評価した。平均粒子経が5−10μmであっても、いくらかの多分散性があった。蛍光顕微鏡検査において、D−FITC複合体は”均一に”封入されたことが確認された。
【0129】
PLGAマイクロスフィアからの薬の放出は、次のようにして調べられた。同じPLGAマイクロスフィアのために、遊離のフルオシノロンアセトニドに対する薬放出速度が解析された。〜5−10μmのマイクロスフィア(質量で5%のFAを含む)では、最初の30日の放出速度は、〜0.5μg/日(平均)であって、1ヶ月の累積放出は、〜30%であった。最初の3日間で3%の初期破裂があった。デンドリマー−FA複合体では、比較的大きいサイズにすれば、初期破裂を回避できるかもしれない。
【0130】
実施例6
ミノサイクリンの投与は、生体内のマイクログリア細胞の活性化の抑制につながる。
本実施例によると、マイクログリア特異的リガンドである[11C]PK11195を用いたマイクロPETによって、生後のミノサイクリンの投与によるマイクログリアの活性化の経時変化が減少した。ミノサイクリン投与によるミクログリアの阻害を示すために、ミノサイクリン投与をしたときと投与しないときの生後5日の子犬における[11C]PK11195の取り込みをPET画像で評価した。
【0131】
図8に示すように、子宮内で内毒素に曝されている生後5日の子犬に対して、3日間で15mg/kgのミノサイクリンが投与されると、最初の10分から最後の10分までの[11C]PK11195の取り込みの減少がみられた(対照の子犬と同様)ことは、活性化されたマイクログリア細胞が減少することを示唆している。最初の10分間と比べた場合、最後の10分間における、内毒素に曝された未処理の子犬でのPK11159の取り込みの増加がみられ、活性化されたマイクログリア細胞が継続的に存在すると示唆される。これは、ミノサイクリンの投与によって、内毒素に曝された子犬の活性化されたマイクログリア細胞が阻害されることを示唆している。
【0132】
ミノサイクリンの生後投与によって、生後8日における神経行動的な結果が改善されることが、生後8日の子ウサギでの神経行動的な試験によって証明された。次の動物が、生後8日に観察された。(A)対照の子ウサギ、(B)PBSを投与して子宮内で20μg/kgの内毒素に曝された子ウサギ、(C)15mg/kgのミノサイクリンを投与した、20μg/kgの内毒素に曝された子ウサギ。内毒素に曝された子ウサギは、対照の子ウサギAよりふらつき、緊張度の増加と平衡の減少を伴った。対照の子ウサギと15mg/kgのミノサイクリンを投与された子ウサギ(C)では、全ての行動範囲で、後肢を外転させたが、未処理の子ウサギ(B)では外転させなかった。後肢の緊張度は、子ウサギ(B)で大きく、ぎこちない運動と平衡の減少につながった。
【0133】
このモデルにおける遊離のミノサイクリンの用量反応は、15mg/kgのミノサイクリンが、5mg/kgと比較して、より大きな改善が動力不足においてみられたことを示した。マイクログリアの活性化の抑制による動力不足の改善の結果であると思われる。白質傷害の減少が、拡散テンソル画像(DTI)と免疫組織像によって確認された。本実施例の結論として、ミノサイクリンは、子宮内で子ウサギの、内毒素関連性のマイクログリア細胞の活性化を抑制する特異的、そして臨床的に妥当な効果を有する。同様の効果をもつこの薬や他の薬は、本明細書で開示されるデンドリマー組成物を用いてマイクログリア細胞を対象とするのに適している。
【0134】
実施例7
黄斑変性症のラットモデル
光受容体神経保護と網膜の神経炎症の抑制におけるミノサイクリンの投与量が検討された。本実施例の目的は、デンドリマー−ミノサイクリンナノ物質(D−Mino)の効果を評価することである。デンドリマー複合体となったフルオシノロンアセトニドの効果に基づいて、この実施例は、RCSラット神経変性モデルに関連する網膜の神経炎症の抑制におけるD−Mino複合体の効果を評価するために行われた。ミノサイクリンはRCSラット網膜で高い神経保護とマイクログリア抑制を示すので、ミノサイクリンが使用された(Chang, C. J. et al., Ophthalmic Res. 2005;37:202-13; Hughes, E. H. et al., Exp Eye Res. 2004; 78(6): 1077-84; Shimazawa, M. et al., Brain Res. 2005;1053:185-94; Zhang, C. et al,. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004;45:2753-9)。
【0135】
投与量決定試験はRCSラットの網膜神経保護のために、硝子体内へ注射される非複合体ミノサイクリン(遊離のMino)の、最も有効な投与量を同定するために行われた。D−Minoの投与量は、最適な遊離のMinoの投与量とFAのデータに基づいて決定された。実施例8で使われものと同じ5週齢のrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットモデルが使われた。
【0136】
各5匹の動物からなる4つの群が設定された。これらは、1μgの遊離のMinoを受ける硝子体内注射群、10μgの遊離のMinoを受ける硝子体内注射群、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)−(遊離のデンドリマー)、及びPBS注射の対照群を含む。PBS−(遊離のデンドリマー)群はデンドリマーだけによる神経保護効果を排除するために用いられた。確立された方法に従って、動物は両面性の硝子体内注射を受けた。光受容体の定量的組織解析と網膜周辺のマイクログリア細胞の計数のために、1ヶ月の時点で安楽死される。簡単に、光受容体は、6μm H&E網膜部分から数えられる。網膜のマイクログリアはIBA−1とED−1標識した網膜切片と全載から数えられる。
【0137】
RCSラットの網膜電位b−波の振幅が、よく確立された方法に従って、2週間に1度、光受容体の機能の測定として記録される。2回目の4週投与量決定試験は、最適な投与量の測定を改善するために、遊離のMinoで、最初の試験の結果に基づいて実行される。
【0138】
次に、同様の方法で、D−Minoに対する4群投与量決定試験が行われた。実施例2のFAのデータに従って、最初の投与量は、遊離のMinoに対するD−Minoの相対的な有効性に基づく。さらに、D−Minoの投与量は、FAと遊離のMinoの結果を比較して、ミノサイクリンの試験で得られた神経保護の程度とマイクログリアの抑制に基づいて2回目の試験で改善される。
【0139】
図2のFITCの生体内分布のデータは、改善された局在(図2B)とデンドリマー複合体が薬に与える滞留時間(図2F)を示す。D−Minoの再投与によって、網膜電位の振幅が10%減少する(2週間毎に1度の測定)ことに基づいて、D−Minoの最適な投与間隔が、本実施例に概説される方法と同様に3ヶ月試験を行うことによって測定される。この方法では、先のD−Mino注射の効果が消失する最初の2週間の時点を定めるために、網膜の機能の測定が用いられる。再投与によって、網膜の機能に基づいて、網膜電位の安定性が回復されるはずである。3ヶ月試験を終えて、進行性の網膜電位の消失を防ぐ投与間隔も最適なものとなるであろう。加えて、これはD−Minoの単回注射の作用期間を決定する。
【0140】
実施例8
遊離のFITCとD−FITCの生体内分布と滞留時間
本実施例の目的は、遊離のFITCとD−FITCの硝子体内注射を用いて、網膜の神経保護を維持するために必要なデンドリマー−フルオシノロン(D−FA)の投与量を同定することである。この実験は、5週齢、体重150−180グラムのrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットの雌雄双方を用いて行われた。2群が確立された。遊離のFITC群は、それぞれが1μgの遊離のFITCの両面性の硝子体内の注射を受ける6匹の動物から成る。もうひとつの群は、D−FITCの硝子体内への注射を受ける10匹の動物である。
【0141】
注射の前に、動物はケタミン(100mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔される。少量のDMSOに溶かされた、体積1μLである1μgのFITCがハミルトン・シリンジで、両眼の硝子体腔へ注射された。遊離のFITCを注射された動物は、10日後、1ヶ月後、2ヶ月後に安楽死される。眼は核を取り除かれ、分割され、半球がティシュー−テック・オーシーティー培地(サクラ・ファインテック、米国、カリフォルニア州、トランス)に埋め込まれ、そして、液体窒素で速やかに凍結される。切片(14μ)がクライオスタット(レイカ・インスツルメント社、ドイツ、ヌスロッホ)で切られ、ベクタシールド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)とともにスライドに載せられ(凍結したままで)、分離FITCの両面とTRITCフィルターキューブを用いて、落射蛍光デジタル画像によって評価する。
【0142】
写真はマグナファイアー・デジタル・カメラ(オリンパス・アメリカ、米国、ニューヨーク州、メルビル)で撮影される。画像は、各時点の間で標識される網膜周辺について評価される。加えて、発光体とカメラの設定が前もって決定された明るさと露光の設定によって調整された後に、各時点で撮影され、相対的な蛍光密度の量が切片間で比較される。落射蛍光の照明の設定は、標準化された低密度のFITCを用いて、前もって決定されたカメラの絞りと露光の設定で測定したCCD画像に従って調整される。このFITC信号の較正の過程は、組織での相対的なFITCの持続の測定として、各網膜周辺における相対的なFITCの密度の比較を可能にする。同じ手順が体積1μLである1μgのD−FITCを受けた動物に対して実行された。この方法では、CCDカメラは高い線形出力を有するので、遊離のFITCとD−FITCの生体内分布と組織での持続における相対的な違いが比較される。
【0143】
D−FITC群は、10日、1か月、2か月、4ヶ月、6ヶ月の時点における低温切開片落射蛍光像を得るために、安楽死され、除核された10匹の動物から成る。双方の実験群において、遊離のFITCまたはD−FITCの硝子体内注射を受けた各動物由来の他眼は、硝子体内の蛍光の蛍光光度分析及び組織ホモジネートのFITC蛍光に利用される。この方法によって、各時点での、硝子体と各眼組織における遊離のFITCまたはD−FITCの相対量が評価できる。3番目の動物の群には、PLGA−(D−FITC)の生体内分布と組織での持続を同時に調べることが含まれる。4番目の対照群は、各時点について1匹の動物からなり、組織の自己蛍光のレベルの基準値を確立するために、両面性の硝子体内注射を受ける。
【0144】
眼のD−FITCの評価は次のように行う。生体内分布の試験において、1ヶ月間隔で、眼球を収集され、組織が均質化され、水酸化ナトリウムに溶解される。メタノール(D−FITCはメタノールに可溶)での溶媒抽出と、さらにPBSへの再懸濁の組み合わせを用いて、D−FITCが抽出される。UV/Visと、いくつかのD−FITC濃度で事前に作成された蛍光較正曲線を用いて、D−FITCの含有量が定量化される。
【0145】
単回での0.2μgと1μgのD−FA注射の薬力学の効果の持続時間の評価も、生体内でのRCSラットの網膜の機能を維持するために必要な投与間隔の評価も、以下のようにして実行される。できる限り特異的に、最適な対照とともに、D−FAナノ物質の効果を単離することが目的のひとつである。この実験は、5週齢、体重150−180グラムのrdy遺伝子ホモ接合型劣性アルビノRCSラットの雌雄双方における0.2μg及び1μgのD−FAの単回での硝子体内への注射の作用持続時間を調べるために行われる。ここで、0.2μg及び1μgは、D−FA注射でのFA含有量である。
【0146】
10匹の動物からなる4群が設定される。これらは、1μgのD−FAを受ける硝子体内注射の群、0.2μgのD−FAを受ける群、1μgのD−FAを受ける群と同等量を含むPBS溶液(1μgの遊離のFAと遊離のデンドリマーを含む2%のDMSO)を受ける群、及び非外科的対照群を含む。PBS−(遊離のFA、遊離のデンドリマー)群は、デンドリマーと複合体となったFA(D−FA)の効果を単離するために用いられる。上記の方法に従って、動物は両面性の硝子体内注射を受ける。光受容体細胞の数と網膜周辺のマイクログリア細胞の数の、定量的組織解析のため、1ヶ月と3ヶ月の時点で、各群からの5匹が安楽死される。これらは、下に記載される方法で行われる。
【0147】
下記の方法に従って、2週毎に1回、光受容体の機能の測定として、RCSラットの網膜電位のb−波の振幅が記録される。2つのD−FAの投与量、0.2μgと1μgが単回で、急速に硝子体内注射によって投与された際の最適な投与間隔と作用持続時間の決定において、現在の注射とその前の注射の時間間隔はひとつの基準として用いられる。加えて、対照注射群は、1μgのD−FA群が注射されるのと同じ時点に、再注射される。これによって、対照群が、1μgのD−FA群と同じ数の注射を受けることを確実にするであろう。
【0148】
網膜電位の解析は次のように、刺激、記録、及びラブビュウ・ソフトウェア(ナショナル・インスツルメンツ、米国、テキサス州、オースチン)を用いて開発したデータ解析の手法で実行される。動物は、夜通し12時間の間、暗順応される。試験の前に、動物はケタミン(67mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔される。両方に、1%トロピカミドと2.5%フェニレフリンで、薬理学性散瞳が誘導される。脱水を防ぐために、外用の0.9%生理食塩水が、定期的に角膜へ投与される。網膜電位の応答は、両眼同時に、白金線からなる輪状の角膜電極で記録される。参照白金線電極は耳に置かれる。発光強度を1000mcdで、白色発光ダイオードのCMD204(UWCシリーズT−1)がフラッシュ刺激に用いられる。1/15ミリ秒のフラッシュ刺激が、10秒間隔で絶え間なく、両眼同時に与えられる。網膜電位の応答は、増幅率5000を用いて増幅され、10Hzと100Hzの間で帯域通過された。
【0149】
網膜電位は平均化され、b−波の振幅の平均値が、各動物について、各時点で決定された。もし網膜電位b−波の振幅が、前2回の記録の平均の10%まで下がると、上記方法に従って、硝子体内への注射で再投与される。
【0150】
組織像を得るために、眼は除核されて、4℃で夜通し、カルノフスキ固定される。18時間の浸水の後、眼は0.01Mのリン酸緩衝液で洗われる。眼を水平の経線に沿って横断することで、切片が調製される。グロッシングの後で、眼は、一連のアルコール溶液で脱水され、プロ−パー(キシレン−置換、アナテック社、米国、ミシガン州、バトルクリーク)で洗われ、DMSO含有のパラフィン(フィッシャー)に埋め込まれる。一連の6μm薄層眼切片が得られる。パラフィン切片がポリ−エル−リジン被覆ガラススライドに載せられ、ハリス・ヘマトキシリンとエオシンで染色される。
【0151】
全体を取り付けた網膜でのマイクログリア染色は次のようにして行われる。ラットの眼が除核され、簡潔には、緩衝化した10%ホルマリンで固定される。さらに、ラットの眼は2つに分割され、さらに4℃で4時間、鼻側の部分が固定される。耳側の部分は、オーシーティー化合物(サクラ・ファインテック、米国、カリフォルニア州、トランス)に埋め込まれ、低温切開切片のために、液体窒素で瞬間凍結される。各部分について、方向も保存される。
【0152】
上記のように固定された後、網膜が慎重に取り除かれ、室温で1時間、1%のトライトン・エックス100を含むPBSに入れられる。そして、網膜は、4℃で、夜通し、200倍希釈のlba−1抗体(ワコウ・ケミカルズ・ユーエスエー社、米国、ヴァージニア州、リッチモンド)と100倍希釈のED−1抗体(セロテック社、英国、オックスフォード)のカクテルと、4%のヤギ血清抗体を含む0.1%のトライトン・エックス100含有PBS溶液で培養される。何回かの洗浄の後、網膜は、室温で、2時間、適当な蛍光で標識された2次抗体(シグマ−アルドリッチ、米国、ミズーリ州、セントルイス)で培養され、ILM側がガラススライドに置かれ、ベクタシールド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)でカバーされる。
【0153】
横断した網膜切片のマイクログリアの染色は、次のように行われる。切片(10ミクロン)は、クライオスタット(レイカ・インスツルメント社、ドイツ、ヌスロッホ)で切られ、ベクタボンド(ベクター・ラボラトリーズ、米国、カリフォルニア州、バーリンガム)で被覆されたスライドに戻され、アセトンで1時間固定される。スライドは空気乾燥され、使用するまで4℃で保存される。そして、切片は、トリス緩衝食塩水(pH7.4)で水和され、5%の標準ヤギ血清で非特異的な染色が防がれる。切片は、上記で詳述したように、lba−1とED−1抗体溶液で培養され、適当な蛍光標識された二次抗体を用いて、蛍光顕微鏡のために調製される。
【0154】
各眼に対して、網膜電位の波形は、各記録期間の15の出力が平均化される。b−波の振幅は、第1の正傾斜(a−波のもっとも小さい点からb−波のもっとも大きい点の最大振幅)の振幅として定義される。これは、平均化された網膜電位波形それぞれで計測される。b−波の振幅の平均と標準偏差が、各時点における各動物の各眼について評価される。群の平均と標準偏差も各時点で、右眼、左眼について計算される。このデータに、パラメトリックとノンパラメトリックな統計解析が実行される。
【0155】
組織学的な細胞数解析では、右眼と左眼両方ついて、40倍の拡大率で、網膜の顕微鏡写真が、オリンパス・マグナファイアーPM30/PM20・デジタル・カメラを備えるオリンパス・ビー・マックス50顕微鏡(日本)でとられた。全ての眼において、4つの4分の1の網膜それぞれについて5枚の顕微鏡写真がとられる(1つの眼で20枚の顕微鏡写真):1)上側頭部、2)上鼻側、3)下側頭部、4)下鼻側である。
【0156】
各顕微鏡写真は、グリッド計数法で解析される。マスクされた計測によって、1つの顕微鏡写真に2つ定義された各グリッド領域の外顆粒層(ONL)と内顆粒層(INL)の細胞数が数えられる。数は、各群について、右眼と左眼の試験された網膜領域の外顆粒層と内顆粒層において平均化される。
【0157】
マイクログリア細胞の計数解析は、適当なフィルター・セットのオリンパス・ビー・マックス50顕微鏡(日本)を用いて、陽性に染まったマイクログリア細胞を数える。網膜を全載したサンプルでは、網膜の3つの定義されたレベルでの6つの標準化された視野で数えられる。3つのレベルは、内境界膜のレベルの層(ILM層)、内網状層のレベルの層(MID層)、及び網膜光受容体のレベルの層(PHR層)である。横断した網膜切片では、活性化したマイクログリアは、2つの上位網膜と2つの下位網膜の視野における光受容体壊死領域で数えられる。
【0158】
妥当なときは、全ての群の、術後4週の網膜電位データと、処理済、及び未処理の眼の平均した外顆粒層及び内顆粒層の細胞数の両方が、対応のあるt検定を伴う1方向性の分散分析ANOVAが実行される。計測されたマイクログリア細胞の数は、群間における全てのミクログリア細胞の層に対する平均と標準偏差を計算するために、平均化される。解析されたデータはグラフ化される。各グループ5匹がパラメトリック統計的な比較において適切な処理が行われる解析能力が確立されている上に、常時、1方向性の分散分析が実行できるノンパラメトリック解析(クラスカル-ウォリスまたはマン−ホイットニー)が用いられる。
【0159】
実施例9
生体内で持続的な硝子体内D−FAの効果の評価
本実施例は、RCSラットで、持続的な網膜の光受容体の神経保護と、網膜電位b−波の振幅を維持するために、適切な投与と適切な投与間隔で、硝子体内への注射を繰り返すことによる持続的なD−FAの輸送を調べるために行われる。RCSラットは、0.2μgまたは1μgのD−FA投与(薬基準で)によって、15匹の2つの群に分けられる。1つの群の動物は、D−FAの硝子体内への注射を受け、もう1つの群は、PBS溶液(遊離のFAと遊離のデンドリマーを含む2%DMSO)を受ける。網膜電位の記録は、1ヶ月に1回行われる。D−FAと対照の再注射は、D−FA群の網膜電位B−波の振幅が、前2回の網膜電位記録の平均と比較して、10%まで下がったときに実行される。
【0160】
各群の5匹の動物は、活性化されたマイクログリアの数や、光受容体の細胞の数、マイクログリア、及びマイクログリアの局在の定量的な組織学的解析のために、3ヶ月、7ヶ月、及び9ヶ月で安楽死される。網膜電位の振幅を維持するために必要なD−FA量の総和し、これを神経保護の持続時間で割ることによって、網膜電位の振幅を維持するために、PLGA−(D−FA)の持続的な放出からの必要とされるD−FAの放出速度が見積もられる。
【0161】
本実施例から、網膜の機能を維持するための濃度と間隔が決定され、網膜電位が10%だけの減少が許容される。対照群によって、ナノ物質の効果が決められる。網膜周辺の細胞内の分布と、硝子体内のデンドリマーの滞留時間が決められる。もし少なくとも2週間から3週間を超えて、網膜の外側にデンドリマーがあれば、ナノ物質の効果は、1ヶ月以上、顕著に持続し、長期間の治療を提供することができる。つまり、この実施例によれば、本明細書で開示される物質の、長期間の臨床効果を評価するための追加データが提供される。
【0162】
実施例10
注射可能な、持続的に放出される、混成[PLGA−(D−FA)ナノ物質]マイクロスフィアに基づく硝子体内への薬輸送基盤
本実施例は、PLGA−(D−FITC)マイクロスフィアの生体内分布と滞留時間を決定するために実行される。10匹の動物からなる1つの群が、実施例8の生体内分布の研究に加えられ、これらの動物は、PLGA−(D−FITC)マイクロ粒子の、両面性の硝子体内注射を受ける。これらの動物は、10日、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、及び6ヶ月の時点で安楽死される。
【0163】
PLGA−D−FAマイクロスフィアは、180日間で、D−FAのFAを〜0.03μg/日で持続的な輸送を達成することを目的として調製される。1.0μgのD−FAの1回の硝子体内への注射は、1ヶ月間有効である(0.03μg/日)。したがって、デンドリマー−FA複合体は、数日で、硝子体腔を通過すると見積もられる。これらの大部分は、外顆粒層に取り込まれ、そこで一定期間、薬が放出され、いわば、薬力学的な効果がおよそ1ヶ月にわたり持続することが示唆される。その結果、適切にデザインされた、D−FAのPLGAマイクロスフィア封入体は、D−FAの制御された放出を提供し、そして、D−FAは網膜の細胞に入り、薬を放出する。
【0164】
D−FA複合体の大きさと分子量(〜7nm、〜20kDa)は小さなタンパク質と同程度である。リン酸緩衝生理食塩水(pH=7.4)では、薬とデンドリマーの間のエステル結合が安定である。この結合の加水分解は、酸性であるリソソーム内のpHでは、たぶん一定期間を超える期間で発生すると考えられる。その結果、PLGAマイクロスフィア内でのデンドリマーからの感知できるほどの薬の放出は、特に、75%のPLAでは予想されない(DD 1990; P. Kolhe 2006)。
【0165】
PLAマイクロスフィアが、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で、60日にわたり持続することが、以前示された。サイズが〜10μmであって、90%のPLAと10%のPGAの共重合体組成物(PLGA(90:10))であるPLGAマイクロスフィアも、延長された期間において、分解に耐性であった(DD 1990)。マイクロスフィアのこの大きさも、硝子体内での滞留時間を顕著に改善する。PLGA(75:25)が眼への薬の持続的な輸送に用いられる。PLGAマイクロスフィアからの大きな分子の拡散係数(〜10−13cm2/秒)に基づいて、D−FAの拡散は、1ヶ月以上と予想され、そのため、6ヶ月を超える持続的な薬輸送がもたらされる(Sandora 2001)。
【0166】
本実施例では、デンドリマー−FITC(生体内分布の研究のため)を含むPLGAマイクロ粒子(組成:75%PLA/25%PGA、分子量〜90−125kDa)とデンドリマー−FA(放出の研究と生体内での効果の研究)が、前述のウォーター・イン・オイル・イン・ウォーター法(w/o/w)を用いて調製される(Sanjeeb K Sahoo, J. P. et al., Journal of Controlled Release 82:105?114 (2002); Jayanth Panyam 2003)。粒子の溶液は粒子の大きさを〜5−10μmにするためにろ過される。粒子の大きさは、SEMとマルバーン・パーティクル・サイザーによって評価される。マイクロ粒子内のナノ物質の存在と分布は、蛍光と共焦点顕微鏡を用いて、封入されたD−FITCナノ物質で評価される。
【0167】
in vitroの放出研究では、PLGA−デンドリマー−FAマイクロスフィアが、250μlの0.1Mのリン酸緩衝液(PBS pH7.4)を含むマイクロ遠心分離チューブに入れられ、37℃で、毎分100回転で回転される。はじめに、薬の解析のために、緩衝液が毎日回収され、新しい緩衝液が入れられる。その後7日間は、1日おきにサンプル回収され、その後は、5日おきまで頻度を減らして回収される。回収されたサンプルは、緩衝液を蒸発させるために、カバーをかけて夜通しで、置かれる。
【0168】
デンドリマー−FA(D−FA)の定量は、C5シリカに基づくHPLC(250mm×4.6mm、300Å)(Mohammad T. Islam, X. S. et al., Anal. Chem. 77:2063-2070 (2005))を用いて実行される。D−FAの溶出のための移動相は、90:10の水/アセトニトリル(ACN)から始まる(流速1mL/分の)直線的な傾きであって、30分後には、50:50に達する。ACNと同様に、水に0.14重量%のトリフルオロ酢酸(TFA)が、デンドリマー複合体の疎水性表面を形成するために、対イオンとして用いられる(Mohammad T. Islam, X. S. et al., Anal. Chem. 77:2063-2070 (2005))。
【0169】
複合体は、移動相(90:10の水/ACN)に溶かされる。溶出サンプル中のD−FAの検出は、PAMAM−G4−OHとFAそれぞれλmaxが210nmと238nmで行われる。較正曲線は複合体型のFAに対する238nmに基づいて作成される。この系におけるD−FAの溶出時間は、8分と予想される。存在し得る遊離のFAを定量するために、ウォーターズのC−18逆相対称性シールドカラム(3.9×150nmのカラム、5μm;W20881A)が用いられる(Glenn J. Jaffe 2000; Glenn J. Jaffe 2000)。アセトニトリルと0.02%酢酸ナトリウム(pH4.0)の1:1混合液が移動相に用いられる。サンプルは1ml/分で注入され、およそ3分で薬−FAを溶出する。溶出されたサンプルの検出は、適切に作成された較正曲線で、238nm(FAのλmax)において実行される。
【0170】
実施例11
RCSラットの網膜電位と光受容体の維持における混成[PLGA−(D−FA)ナノ物質]マイクロスフィアの薬力学的効果
実施例10に記載された実験における6ヶ月間のデータ収集とデータ解析の後で、本実施例は、成体RCSラットの網膜電位b−波の振幅の維持と、光受容体の細胞数の維持におけるPLGA−(D−FA)の単回注射の薬力学的効果を調べるために実行される。この研究では、実施例10に従って、実験的に効果が確認された放出速度でD−FAを放出するように、PLGA−(D−FA)マイクロスフィア構築された。
【0171】
前述された硝子体内への注射を用いて、5週齢RCSラットの1つの群が、PLGA−(D−FA)マイクロスフィアの硝子体内注射を受け、他方の群がD−FAと遊離のPLGAマイクロスフィアを含むリン酸緩衝生理食塩水の硝子体内注射を受ける。2つの実験群は、1群が15匹の動物からなる。網膜電位の記録は、1ヶ月に1回行われる。PLGA−(D−FA)とD−FAに加えて遊離のPLGAマイクロスフィアの再注射は、前2回の網膜電位の記録の平均に対して、網膜電位のb−波の振幅が10%まで減少したときに実行される。1つの群につき5匹の動物が、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月の時点で、活性化されたマイクログリアの数と、光受容体の細胞数、マイクログリア、及びマイクログリアの局在を定量的組織学的解析するために安楽死される。
【0172】
効果が少なくとも6ヶ月維持できるように、PLGAマイクロスフィア(75%PLA/25%PGA)が、4ヶ月から6ヶ月を超えてD−FAを放出するように調製される。遅い放出の段階は、60日から70日の期間と予想され、粒子の侵食がかなり進んだ後期はいくらか放出が早くなる。このナノ物質では、顕著に緩慢に放出される状態が保たれることが予想される。D−FA(17kDa)の初期の破裂はほとんどないと考えられる。生体内分布において、D−FITCに比較して、同程度の時間で、PLGA−D−FITCは、顕著に高い硝子体内の蛍光、及び顕著に低い網膜の外側の蛍光を示すことが予想される。D−FITCは、もっと長い時間、網膜の外側に存在することが考えられる。もしin vitroの実験によって、望まれるよりも早い速度でD−FAが放出されることが示されても、そのときは、PLGAの組成が90%PLA/10%PGA、または純粋なPLAに変えることができる。
【0173】
実施例12
RCSラットにおけるデンドリマー複合体の、及び非複合体のフルオシノロンアセトニドの硝子体内注射に関連する網膜電位の知見
本実施例では、D−FAナノ物質の効果が、遊離の薬と同程度の薬の濃度と比較された。効果は網膜電位(ERG)と組織像を用いて解析された。この結果によって、もっとも低い投与濃度でのデンドリマーナノ物質の単回の硝子体内への注射によって、網膜電位の減少を防ぐだけでなく、網膜電位が十分に強化されることが示唆される。
【0174】
5週齢の30匹のアルビノRCSラットが、6つの群に均等に分けられた。この実験は、9週で終了された。したがって、この効果は、RCSラットの網膜変性が最大4週にわたって評価された。群は以下のとおりであった。
1.3.0μgのデンドリマー複合体化されたフルオシノロンアセトニド(FA)の、1.0μLのリン酸緩衝液(PBS)溶液の硝子体内注射;
2.1.0μgのデンドリマー複合体化されたFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
3.3.0μgのFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
4.1.0μgのFAの、1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射;
5.1.0μLのPBS溶液の硝子体内注射(対照群);
6.光に曝された未処理群
【0175】
初期(5週齢)の網膜電位の振幅の比較では、実験群の間に統計的な有意差はなかった(p≧1.0)。最終時点(9週齢)の網膜電位の振幅の比較では、D−FA処理された動物の右眼と左眼の間で統計的な有意差がみられた。したがって、D−FAは、濃度依存的に光受容体の応答の大きさを維持した。これは、PBSの注射または遊離のFAの注射ではみられなかった。
【0176】
デンドリマー複合体は、非複合体の薬よりもFAの神経保護的な効果を強めた。この現象は網膜電位b−波の振幅についてもみられた。すべてのFA処理された動物は、網膜電位b−波からa−波の振幅の安定を示した。網膜電位の陰的時間は、FAで処理、対照、または未処理の動物と比較すると、D−FAで処理された動物で大きく減少した。これはデンドリマー複合体化されたFAがその薬学的効果を改善するという知見に一致する。
【0177】
次の表は、実験開始時の網膜電位の振幅と比較して、6つの実験群の実験終了時の網膜電位のa−波とb−波の振幅の変化(平均±標準誤差)を示している(初期の振幅から消失(−)/増幅(+)として表されている)。
【表1】
本実施例で開示されたデータによれば、上記表に示すように、デンドリマー複合体の利益の付加的な証拠を与える。第1に、75%を超える振幅減少が観察された間に、a−波の振幅は増加する。
【0178】
実施例13
デンドリマーの生体内分布と効果及びナノ粒子の生体内分布と効果
本実施例によると、PAMAM−G4−OHデンドリマーは、RCSラットの変性した外顆粒への取り込みの強化を示すが、通常のSDラットでは示さない。このことは、神経炎症を標的にできるということを示唆する。遊離のFITCとデンドリマー複合体FITC(D−FITC)の網膜での生体内分布は、正常なスピローグ−ディウリー(SD)ラットと、強い神経炎症を伴う英国外科医師会網膜変性モデル(RCS)ラットで研究された。
【0179】
最初の結果が図10に示され、低温切開切片の落射蛍光組織像解析が、硝子体内注射の24時間後と10日後に実行され、(A)24時間後の通常のSDラットにおけるD−FITCの生体内分布、及び(B)24時間後のRCS網膜神経変性モデルにおけるD−FITCを示している。外顆粒層(*で表される)と壊死領域のD−FITCの濃度が重要な知見である。
【0180】
図10Bに示したRCSラットの網膜の試験によれば、D−FITCが網膜の外側へ強く取り込まれていることが明らかである。また、D−FITCが、外顆粒層、活性化されたマイクログリア及び外側の壊死領域に正確に局在していることが明らかである。この取り込み様式は他のどの正常なSDラットの網膜でもみられなかった(図10A、D)。画像の赤は、TRITCフィルター由来の自己蛍光のためである。網膜色素上皮(RPE)は、D−FITCの注射を受けた網膜でのFITC蛍光の強化を示す。遊離のFITCの注射を受けた眼の網膜色素上皮では、FITC蛍光がみられなかった。この様式は、注射後10日でも定性的に同様であった。図10FにあるFITC信号は、外側の壊死領域の自己蛍光である。この画像では、網膜色素上皮は網膜から分離されており、見えない。
【0181】
これらのデータは、活性化されたマイクログリアや網膜色素上皮のように、高いエンドサイトーシス速度を有する細胞がD−FITC複合体を強く取り込むことを示唆する。つまり、この結果は、デンドリマー−薬複合体が、強い神経炎症を他の神経変性過程を受けている網膜周辺へ強く取り込まれたことを示している。さらに、図10Cは、デンドリマー複合体は、図10Fに示す遊離のFITCとデンドリマー複合体FITCのように、網膜から速やかに消失されないことを示す。よって、デンドリマー−薬複合体は、強い神経炎症の領域での薬の滞留時間を延長でき、薬力学的な効果を強め、特異的な網膜周辺を対象とすることを可能にし、輸送しなければならない薬の総量を減らし、副作用を減らす可能性がある。
【0182】
外側の網膜でのD−FITCの局在は、さらに、活性化されたマイクログリア、星状細胞、ミューラー細胞、及び光受容体に対する免疫組織化学標識によって解析された(図11ないし図15に示す)。この結果により、デンドリマーは、神経炎症過程に関連するこれらの細胞に選択的に局在することが示唆された。網膜内外の他の細胞への蓄積はごくわずかであった。図11はD−FITCのマイクログリアへの取り込みを示す。(A)網膜内側のマイクログリア細胞のED−1免疫組織化学標識;(B)網膜内側のマイクログリア細胞へのD−FITCの取り込み(60倍);(C)ED−1標識された網膜外側の活性化されたマイクログリア;及び(D)活性化されたマイクログリアへのD−FITCの取り込み。
【0183】
図12は、さらなる結果を与える。(A)活性化された網膜星状細胞のグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色;及び(B)活性化された網膜星状細胞によるデンドリマー−FITCの取り込みである。
【0184】
図13は、D−FITCが活性化された網膜ミューラー・グリア細胞によって取り込まれることを示す。図13Aは、5週齢のRCSラットにおける活性化された網膜ミューラー細胞のGFAP標識を示す(側面図)。図13Bは、活性化された網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込み(図13Aと同じ視野)、及び網膜毛細血管(矢印)へのD−FITCの取り込みを示す。図13Cは、内顆粒層における網膜ミューラー細胞のGFAP標識(軸方向図)を示す。内顆粒層細胞本体は、特に目立っている(ミューラー細胞過程によって概説される)。そして、図13Dは、網膜ミューラー細胞によるD−FITCの取り込みを示す(軸方向図)。
【0185】
これらの細胞のGFAP標識は、活性化された表現型に特異的であった(図12A)。同じ顕微鏡図の視野におけるFITC落射蛍光の画像(図12B)はD−FITC複合体の顕著な取り込みを示す。加えて、小さな網膜毛細血管内もD−FITCの取り込みを示している(図13B、矢印でマーク)。GFAPとD−FITC複合体の取り込みの共存が、それらが外顆粒層を通過するので、ミューラー細胞においてもみられる(図13Cと図13D)。図14では、光受容体がD−FITC複合体の取り込みによって標識される。
【0186】
網膜の血管系は、血管壁においてD−FITCの高い程度の取り込みを示した(図15)。これは、網膜の柔組織内の深く細かい毛細血管と同様に、網膜内側の循環にも当てはまった。
【0187】
ナノ粒子の生体内分布も調べられた。粒子の大きさと堅さの役割を調べるために、大きさが50nmと200nmである、単分散のFITC標識されたPSナノ粒子が用いられた。結果は図16に示され、硝子体内注射72時間後のS334−ter−4ラットにおける網膜内側のナノ粒子の生体内分布が示された。緑はFITC標識されたPSナノ粒子で、赤はローダミンGFAPを示す。図16Aは、50nmのFITCナノ粒子が星状細胞の体細胞にみられることを示す。図16Bは、200nmのFITCナノ粒子が前網膜硝子体内へ閉じこめられたままであって、デンドリマーを取り上げた細胞に取り込まれていなかったようである。
【0188】
上記実施例で検討された結果は、(1)硝子体内への注射によって、活性化されたマイクログリア細胞、ミューラー細胞、星状細胞及びマクロファージのような、神経炎症に関連する細胞に選択的にデンドリマーが局在する、(2)1週間後でもデンドリマーはこれらの細胞内に存在する、(3)デンドリマー薬複合体は、複合体化されていた薬を1ヶ月にわたって放出する、(4)硝子体腔へのデンドリマーナノ物質の単回注射の生体内での効果は、1ヶ月を通して、遊離の薬や放出制御される移植物質の双方よりも、顕著に優れている、ことを示す。実際、網膜電位(ERG)の測定によって、デンドリマーナノ物質は、さらなる変性を防ぐのみならず、実際の網膜の健康状態を強化することが示唆される。
【0189】
上記の記載は、本発明に係る特定の実施形態についてであるが、これらの趣旨を逸脱することなくいかなる変更をも実施できることを理解されるであろう。従って、本明細書で開示された実施形態は、限定はされないが、説明に役立つものとして全ての観点が考慮される。参照された全ての特許と出版物は、その内容を本明細書に援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物であって、
前記薬ナノ粒子製剤は、少なくとも1つの生物学的に活性な合成物を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子の大きさが約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、マイクログリア、星状細胞、ミューラー細胞、マクロファージ、網膜色素上皮細胞、及び血管を含む神経炎症の過程に関連する複数の細胞種を対象として優先的に分布する性質を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記生物学的に活性な合成物は、コルチコステロイド、抗炎症剤、ビタミン類、ペプチド、成長因子、中枢神経系刺激物、オリゴヌクレオチド、siRNA、マイクロRNA、レゾルビン、神経刺激物、及び神経保護物を含むグループから選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記合成物は、フルオシノロンアセトニド、ラニビズマブ、ミノサイクリン、ラパマイシン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、インシュリン、エストラジオール、毛様体神経栄養因子、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、及びオリゴヌクレオチド、または、薬学的に許容されるこれらの塩を含むグループから選択される、
ことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、軟質のナノ粒子である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、デンドリマー様に枝分かれした、または星状に枝分かれした重合体である、
ことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記デンドリマー様に枝分かれした重合体は、ポリアミドアミン(PAMAM)、プリオスター、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシン、またはポリエチレングリコール(PEG)デンドリマーから成って、
前記星状に枝分かれした重合体は、星状ポリエチレングリコールである、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記デンドリマーは、1.5ナノメートルから14.5ナノメートルの直径である、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記デンドリマーは、2ナノメートルから10ナノメートルの直径である、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬は、封入、錯体形成、または共有結合によって超分岐製剤に組み込まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記結合は、前記薬と前記重合体をつなぐための、ペプチド、グルタル酸、またはポリエチレングリコールから成るスペーサを含む、
ことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記薬ナノ粒子は、薬−超分岐重合体を取り込んでいるさらに大きい規模の物質に取り込まれていて、
前記さらに大きい規模の物質は、重合体マトリックス、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、注入可能なヒドロゲル、または放出制御される移植物質から成る、
ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
ナノ規模の薬−超分岐重合体製剤であって、
移植可能な物質の被覆として用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
活性な合成物の持続的な放出が一定期間起こる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記放出は、数分、数時間、数日、数月、または数年の間起こる、
ことを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
患者の対象部位への前記合成物の持続的な輸送をもたらす、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記対象部位は、眼の硝子体液である、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記持続的な輸送は、数時間にわたってである、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記持続的な輸送は、数日にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記持続的な輸送は、数週間にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記持続的な輸送は、数ヶ月にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
少なくとも1つの、デンドリマーへ複合体化された抗炎症合成物を含む組成物であって、
前記組成物は、PLAナノ粒子及びPGLAマイクロ粒子から成るグループから選択される生物分解性の粒子に封入される、
ことを特徴とする組成物。
【請求項24】
前記デンドリマーは、ヒドロキシ基またはカルボキシル基で終端となって、PAMAMまたはプリオスター群に属し、
前記抗炎症合成物は、フルオシノロンアセトニド、ミノサイクリン、メチルプレドニゾン、及びデキサメタゾンから成るグループから選択される、
ことを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1に記載の組成物を投与することを含む、神経炎症関連疾患の治療方法であって、
前記神経炎症関連疾患は、網膜、中枢神経系、脊髄、及び/または末梢神経系の疾患である神経炎症関連疾患の治療方法。
【請求項26】
網膜の疾患の治療方法であって、
組成物は、硝子体内に、適切な用量と間隔において注入され、加齢性黄斑変性症(ARMD)を治療する、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項27】
中枢神経系の疾患の治療方法であって、
組成物は、髄腔内に、適切な用量と間隔において注入され、脳性麻痺を治療する、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項28】
前記疾患は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、視神経炎、眼への、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、及び黄斑浮腫を含む眼疾患のグループから選択される疾患である、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項29】
前記疾患は、脳卒中、脳性麻痺、脳への鈍傷及び貫通性外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、サルコイド、鎌状赤血球病、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落を含む、中枢または末梢神経系の疾患のグループから選択される疾患である、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項30】
ヒトの進行性の失明の治療方法であって、
請求項1に記載の組成物を前記ヒトの眼に投与することを含む方法。
【請求項31】
前記進行性の失明は、ブドウ膜炎、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、及び網膜色素変性症から成るグループから選択される、少なくとも1つの病態と関連する、
ことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ヒトの眼球の神経炎症の治療方法であって、
請求項23に記載の組成物を少なくとも1つを前記ヒトの眼に投与することを含む方法。
【請求項33】
前記投与が1回である、
ことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記投与が、数日間、数週間または数ヶ月にわたって、2回または2回以上である、
ことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
請求項1に記載の組成物及び前記組成物を投与する方法を含む医療機器。
【請求項36】
請求項23に記載の組成物及び前記組成物を投与する方法を含む医療機器。
【請求項1】
ナノ規模の薬ナノ粒子製剤を含む組成物であって、
前記薬ナノ粒子製剤は、少なくとも1つの生物学的に活性な合成物を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子の大きさが約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約90nm以下、約80nm以下、約70nm以下、約60nm以下、約50nm以下、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、約19nm以下、約18nm以下、約17nm以下、約16nm以下、約15nm以下、約14nm以下、約13nm以下、約12nm以下、約11nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約4nm以下、約3nm以下、約2nm以下、約1nm以下のいずれか、これらの間、若しくは、それ以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、マイクログリア、星状細胞、ミューラー細胞、マクロファージ、網膜色素上皮細胞、及び血管を含む神経炎症の過程に関連する複数の細胞種を対象として優先的に分布する性質を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記生物学的に活性な合成物は、コルチコステロイド、抗炎症剤、ビタミン類、ペプチド、成長因子、中枢神経系刺激物、オリゴヌクレオチド、siRNA、マイクロRNA、レゾルビン、神経刺激物、及び神経保護物を含むグループから選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記合成物は、フルオシノロンアセトニド、ラニビズマブ、ミノサイクリン、ラパマイシン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、インシュリン、エストラジオール、毛様体神経栄養因子、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、及びオリゴヌクレオチド、または、薬学的に許容されるこれらの塩を含むグループから選択される、
ことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、軟質のナノ粒子である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、デンドリマー様に枝分かれした、または星状に枝分かれした重合体である、
ことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記デンドリマー様に枝分かれした重合体は、ポリアミドアミン(PAMAM)、プリオスター、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシン、またはポリエチレングリコール(PEG)デンドリマーから成って、
前記星状に枝分かれした重合体は、星状ポリエチレングリコールである、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記デンドリマーは、1.5ナノメートルから14.5ナノメートルの直径である、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記デンドリマーは、2ナノメートルから10ナノメートルの直径である、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬は、封入、錯体形成、または共有結合によって超分岐製剤に組み込まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記結合は、前記薬と前記重合体をつなぐための、ペプチド、グルタル酸、またはポリエチレングリコールから成るスペーサを含む、
ことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記薬ナノ粒子は、薬−超分岐重合体を取り込んでいるさらに大きい規模の物質に取り込まれていて、
前記さらに大きい規模の物質は、重合体マトリックス、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノカプセル、注入可能なヒドロゲル、または放出制御される移植物質から成る、
ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
ナノ規模の薬−超分岐重合体製剤であって、
移植可能な物質の被覆として用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
活性な合成物の持続的な放出が一定期間起こる、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記放出は、数分、数時間、数日、数月、または数年の間起こる、
ことを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
患者の対象部位への前記合成物の持続的な輸送をもたらす、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記対象部位は、眼の硝子体液である、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記持続的な輸送は、数時間にわたってである、
ことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記持続的な輸送は、数日にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記持続的な輸送は、数週間にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記持続的な輸送は、数ヶ月にわたってである、
ことを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
少なくとも1つの、デンドリマーへ複合体化された抗炎症合成物を含む組成物であって、
前記組成物は、PLAナノ粒子及びPGLAマイクロ粒子から成るグループから選択される生物分解性の粒子に封入される、
ことを特徴とする組成物。
【請求項24】
前記デンドリマーは、ヒドロキシ基またはカルボキシル基で終端となって、PAMAMまたはプリオスター群に属し、
前記抗炎症合成物は、フルオシノロンアセトニド、ミノサイクリン、メチルプレドニゾン、及びデキサメタゾンから成るグループから選択される、
ことを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1に記載の組成物を投与することを含む、神経炎症関連疾患の治療方法であって、
前記神経炎症関連疾患は、網膜、中枢神経系、脊髄、及び/または末梢神経系の疾患である神経炎症関連疾患の治療方法。
【請求項26】
網膜の疾患の治療方法であって、
組成物は、硝子体内に、適切な用量と間隔において注入され、加齢性黄斑変性症(ARMD)を治療する、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項27】
中枢神経系の疾患の治療方法であって、
組成物は、髄腔内に、適切な用量と間隔において注入され、脳性麻痺を治療する、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項28】
前記疾患は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、視神経炎、眼への、感染、サルコイド、鎌状赤血球病、網膜剥離、側頭動脈炎、網膜虚血、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈の閉塞、網脈静脈の閉塞、低血圧症、糖尿病性網膜症、及び黄斑浮腫を含む眼疾患のグループから選択される疾患である、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項29】
前記疾患は、脳卒中、脳性麻痺、脳への鈍傷及び貫通性外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳または脊髄の損傷、サルコイド、鎌状赤血球病、エイズ認知症、加齢性認知能力の減少、記憶障害、筋萎縮性側索硬化症、発作性疾患、アルコール依存症、加齢、及び神経細胞の脱落を含む、中枢または末梢神経系の疾患のグループから選択される疾患である、
ことを特徴とする請求項25に記載の治療方法。
【請求項30】
ヒトの進行性の失明の治療方法であって、
請求項1に記載の組成物を前記ヒトの眼に投与することを含む方法。
【請求項31】
前記進行性の失明は、ブドウ膜炎、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、及び網膜色素変性症から成るグループから選択される、少なくとも1つの病態と関連する、
ことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ヒトの眼球の神経炎症の治療方法であって、
請求項23に記載の組成物を少なくとも1つを前記ヒトの眼に投与することを含む方法。
【請求項33】
前記投与が1回である、
ことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記投与が、数日間、数週間または数ヶ月にわたって、2回または2回以上である、
ことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
請求項1に記載の組成物及び前記組成物を投与する方法を含む医療機器。
【請求項36】
請求項23に記載の組成物及び前記組成物を投与する方法を含む医療機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2010−540664(P2010−540664A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528216(P2010−528216)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/078988
【国際公開番号】WO2009/046446
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508020591)ウェイン ステート ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/078988
【国際公開番号】WO2009/046446
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508020591)ウェイン ステート ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】
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