説明

合成石英ガラス基板用研磨剤及び合成石英ガラス基板の製造方法

【解決手段】(i)−[バリン-プロリン−グリシン−バリン−グリシン]−で示されるペンタペプチドを繰り返し単位として有し、分子量が800〜150,000である、オリゴペプチド又は上記ペンタペプチドとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体、
(ii)コロイド溶液
を含む合成石英ガラス基板用研磨剤。
【効果】本発明によれば、特にフォトマスク、ナノインプリント、磁気ディスク等の半導体関連材料において重要な光リソグラフィー法に使用される合成石英ガラス基板等の合成石英ガラスの製造において、基板表面の高感度欠陥検査装置で検出される欠陥を少なくすることができ、しかも長い研磨ライフで使用することができるため、製造の品質の向上だけではなく、環境への負荷やコストの観点からも有益になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体関連電子材料に用いられる合成石英ガラス基板、特に最先端用途の合成石英ガラス基板に用いられる合成石英ガラス基板用研磨剤及びその研磨剤を用いた合成石英ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラス基板の品質に関して、光リソグラフィーによるパターンの微細化等の理由から、基板上の欠陥サイズ、欠陥密度、面粗さ等の向上が求められている。このうち、例えばIC等の分野においては、パターンの高精細化や容量拡大のトレンドに伴って、基板上の欠陥等に関しては厳しいスペックが要求されている。
【0003】
このような背景の中、基板表面の欠陥サイズの微小化、欠陥密度の減少、更には無欠陥化を実現するために、研磨剤に添加剤を用いて分散度等を向上させて、目標を達成しようとする研究が進んでいる。特許文献1(特開昭64−40267号公報)では、ガラス基板上をコロイダルシリカで研磨することによって、精密に研磨していく方法が記載されているが、高感度欠陥測定装置を用いてガラスの表面欠陥検査を実施すると、微細な凹凸欠陥の存在が確認され、微小欠陥抑制方法としては十分でない。
【0004】
特許文献2(特開2009−131947号公報)では、研磨砥粒に(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体等の水溶性の高分子を混ぜることによって、研磨剤中のシリカの凝集を抑えて磁気ディスク基板表面のスクラッチ発生を抑制する方法が記載されているが、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体のような高分子は、研磨熱によって長鎖の分子鎖が切断されていくために、連続研磨していくうえでは研磨ライフの観点からみて安定的に使用することができない。
【0005】
従って、前記方法では、研磨剤を循環、繰り返し使用していく上で品質を安定させたまま連続研磨していくことが困難であり、研磨剤の入れ替え等で、経済的、環境的に好ましくないという問題点が存在する。更に、研磨条件等により、研磨剤中における高分子のライフの見極めが難しいという欠点もあった。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、上記文献に加え、下記の非特許文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−40267号公報
【特許文献2】特開2009−131947号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.W.Urry et al,Prog.Biophys.Molec.Biol.,1992,57,23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、主にフォトマスク、ナノインプリント、磁気ディスク等の半導体デバイスの製造時において使用される合成石英ガラス基板に用いられ、欠陥の生成を抑制し、研磨ライフを延長した合成石英ガラス基板用研磨剤、及びこの研磨剤を用いた合成石英ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討し、研磨剤の性能が劣化していく機構に関して、以下のような仮説を立てた上で研究を進めた。
すなわち、研磨剤に含まれる水分が、研磨工程において発生する研磨熱によって大気中へ拡散していき、研磨剤中の水分濃度が減少する。添加剤としてアルコール類やグリコール類等有機溶剤を入れている場合も同様のことがいえる。研磨剤中の水分濃度が下がった結果、研磨剤が濃縮されてしまうことにより、研磨剤中に含まれている研磨砥粒同士が縮合する、被研磨物であるガラス表面から除去されたガラス分と砥粒の間で縮合を起こす等の理由から、研磨する際の異物となる大粒子が生成する。本発明者らは、この縮合した大粒子が、研磨作用によってガラス表面上に縮合付着したり、表面上のキズを生成していると考え、このような大粒子化を起こす要因の一つである研磨剤の水分濃度低下の制御、すなわち、濃度変化を起こす原因となる研磨熱が研磨剤に与える影響を緩和することが重要であるとの認識を持った。
【0010】
前述した特許文献2に記載されているような(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体のような高分子を研磨剤に混ぜて研磨する方法は、高分子が研磨熱を反応エネルギーとしてもらって加水分解反応を起こすことによって研磨熱を使用するため、研磨剤の濃度変化を抑えることにある程度有効かもしれない。しかし、高分子の長鎖アルキル鎖が加水分解しきってモノマー状態に近づけば、上述したような効果は見込めない結果、研磨剤の濃度コントロールをすることは不可能となり、研磨砥粒が凝集を起こし出し、基板表面のキズやスクラッチの原因となる。また、長時間の研磨や研磨荷重が大きい等の過酷な条件で実施する研磨では、多くの研磨熱が発生するため、高分子の加水分解反応が促進され、研磨剤の使用が困難になると思われる。仮に、高分子の添加量を増やしたとしても限界があり、濃度が高すぎると高分子が分子間で相互作用してゲル化等の現象を引き起こし、研磨剤としては使用不可能となる。
【0011】
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討を重ねた結果、コロイダルシリカ等のコロイド溶液を含む研磨剤中に、温度応答性を有し、特定温度で分子構造を変化させるオリゴペプチド又はペプチド鎖を含む共重合体を添加することにより、このオリゴペプチド又は共重合体が構造変化する際に研磨熱を吸収するため、研磨剤の水分濃度の低下を抑え、研磨剤濃度の変化を抑制できることを見出した。このことにより、研磨剤の濃縮による研磨砥粒同士の縮合や、被研磨物であるガラス表面から除去されたガラス分と砥粒の縮合を緩和し、基板表面の欠陥やスクラッチの原因となる異物発生を阻止できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は、下記の合成石英ガラス基板用研磨剤及びこれを用いた合成石英ガラス基板の製造方法を提供する。
〈1〉
(i)−[バリン−プロリン−グリシン−バリン−グリシン]−で示されるペンタペプチドを繰り返し単位として有し、分子量が800〜150,000である、オリゴペプチド又は上記ペンタペプチドとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体、
(ii)コロイド溶液
を含むことを特徴とする合成石英ガラス基板用研磨剤。
〈2〉
前記(i)成分中のペンタペプチドの繰り返し単位数が2〜20であることを特徴とする〈1〉に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
〈3〉
コロイド溶液が、コロイダルシリカ水分散液である〈1〉又は〈2〉に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
〈4〉
pH8〜11であることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかにに記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
〈5〉
更に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、塩基性塩、有機アミン、アンモニア及びアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種類の物質を含むことを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
〈6〉
粗研磨及び最終研磨を経て合成石英ガラス基板を製造する工程において、〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載の合成石英ガラス基板用研磨剤を最終研磨工程で使用することを特徴とする合成石英ガラス基板の製造方法。
〈7〉
〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載の研磨剤を上記オリゴペプチド又は共重合体の相転移温度よりも低い温度に調製して最終研磨工程に供給し、該工程での研磨熱を上記オリゴペプチド又は共重合体に吸収させるようにしたことを特徴とする〈6〉に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特にフォトマスク、ナノインプリント、磁気ディスク等の半導体関連材料において重要な光リソグラフィー法に使用される合成石英ガラス基板等の合成石英ガラスの製造において、基板表面の高感度欠陥検査装置で検出される欠陥を少なくすることができ、しかも長い研磨ライフで使用することができるため、製造の品質の向上だけではなく、環境への負荷やコストの観点からも有益になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤は、
(i)−[バリン−プロリン−グリシン−バリン−グリシン]−で示されるペンタペプチドを繰り返し単位として有し、分子量が800〜150,000である、オリゴペプチド又は上記ペンタペプチドとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体、
(ii)コロイド溶液
を含むものである。
【0015】
[(i)オリゴペプチド又は共重合体]
本発明のオリゴペプチド又は共重合体は、分子量が800〜150,000であって、その分子構造中に、−[バリン−プロリン−グリシン−バリン−グリシン]−のシーケンスで示されるペンタペプチドを繰り返し単位として有するポリマーもしくはオリゴマー(−[Val−Pro−Gly−Val−Gly]n−(以下、このシーケンスは「VPGVG」と表す。nは重合度又は繰り返し単位数を示す。))である。ここで、V、P、Gはアミノ酸の一文字表記であり、V:バリン(Val)、P:プロリン(Pro)、G:グリシン(Gly)を表す。
【0016】
また、分子量は1,500〜60,000が好ましく、小さすぎると分子が吸収する熱量が少ないため、期待する量の研磨熱を吸収しきれない可能性があり、大きすぎると分子間での相互作用が強くなり凝集してしまう可能性がある。なお、本発明において、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりテトラヒドロフランを用いて測定したポリスチレン換算による値である。
【0017】
VPGVGの繰り返し単位を有するオリゴペプチドは、水中で温度応答性を有し、相転移温度の前後で異なる構造をとる。具体的には、前記オリゴペプチドは、分子内で構造変化を起こし、相転移温度以下で親水性、相転移温度を超えると疎水性となる。例えば、合成されたpoly−(VPGVG)は、水中で温度応答性を示し、Inverse Temperature Transition(ITT)と呼ばれる可逆的な相転移を示す(非特許文献1:D.W.Urry et al,Prog.Biophys.Molec.Biol.,1992,57,23)。これは可逆的反応であり、熱エネルギーを与えたり、奪ったりすることによって繰り返し変化を起こすことが可能である。この現象を利用すれば、研磨工程において発生する研磨熱の大部分は、前記ペプチドの構造変化に使用されるため、研磨剤の温度が上がり、研磨剤中の水分濃度低下に伴う研磨砥粒濃度上昇を抑制することに有効であるといえる。
【0018】
ペンタペプチドVPGVGの繰り返し単位数nは、2〜20が好ましく、より好ましくは4〜10、更に好ましくは4〜8である。繰り返し単位数が大きすぎると、相転移する温度が高くなってしまい、研磨工程において発生する研磨熱によって得られる温度が相転移温度に達しない場合がある。例えば、VPGVGの繰り返し単位を多く含む巨大分子(n=40〜80程度)である天然のエラスチンは、40℃以上の条件下において相転移をすることが知られているが、40℃以上の温度を研磨熱だけで作り出すのは困難である。一方、繰り返し単位が少なすぎると、相転移が見られない又は繰り返し単位のペンタペプチドVPGVG以外の部分の影響が大きくなり、期待するVPGVGの繰り返し単位による相転移を起こせない場合がある。例えば、繰り返し単位が4で、エラスチン類似の(VPGVG)4の分子式で示されるオリゴペプチドを分子構造に含むものは、相転移温度が20℃付近と研磨熱によって実現可能な温度であり、研磨スラリーの流動性等の観点から見ても有用である。
【0019】
(i)成分としては、ペンタペプチドVPGVGの繰り返しのみからなるペプチドを用いてもよいし、ペンタペプチドと、これと共重合可能な他の単量体とを共重合させて得られる共重合体を用いてもよい。このような単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、N−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0020】
共重合体の構造としては、VPGVG鎖が温度応答性を有する点から、ポリマーにランダムに組み込むのではなく、ブロック共重合体やグラフト共重合体の形が好ましい。
ブロック共重合体の場合は、オリゴペプチド以外のポリマー部分のブロックの分子量が3,000〜12,000であるジブロック型のものが好ましい。ポリマーの分子量が小さすぎると、オリゴペプチドとの相乗効果が期待しにくくなる場合があり、大きすぎるとポリマー自体の分子間相互作用が強くなりすぎ、オリゴペプチドの相転移に伴う構造変化の障害になる場合が考えられる。
グラフト共重合体の場合は、ポリマーに対するオリゴペプチドのグラフト率が3〜10%、好ましくは5〜10%のものが適切である。このとき、ポリマー部分の分子量は3,000〜12,000のものが好ましい。グラフト率が小さすぎると、グラフト鎖として入っているオリゴペプチドの温度応答性の効果が十分に得られない場合があり、逆にグラフト率が大きいものは、グラフトポリマー分子内での相互作用が大きくなってしまい、期待する効果が薄れること及び合成面からもグラフト率を大きくすることは、立体障害の影響などから難しい場合があると考えられる。
なお、本発明においてグラフト率は、予め質量をそろえておいたサンプルについて1H−NMRを測定して、グラフト化されるバリン側鎖のプロトンに基づく、0.65〜1.10ppmのピークの積分比をとることによって、下記式に基づき求めることができる。
グラフト率=100×{グラフト化したポリマーのVal側鎖に基づくピークの積分比/
グラフト化処理していない原料ポリマーの側鎖に基づくピークの積分比}
(オリゴペプチドと結合できる官能基部分に基づくピーク)
【0021】
(i)成分のオリゴペプチドは、Fmoc固相合成法等により得ることができる。
【0022】
前記オリゴペプチド又は共重合体の濃度は、コロイド溶液の固形分の質量に対し、0.001〜5質量%が好ましく、特に0.01〜2質量%が好ましい。濃度が低すぎると研磨熱を十分に吸収できず、特に研磨荷重が大きい場合等研磨熱が多く発生する場合に十分な効果が得られない場合がある。逆に、濃度が高すぎるとオリゴペプチド又は共重合体の物質としての粘度の高さにより、研磨剤の研磨機への安定供給が困難となる場合がある。
【0023】
[(ii)コロイド溶液]
本発明のコロイド溶液は、粒径の小さいコロイド粒子が主成分であり、一次粒子径が5〜500nmのものが好ましく、より好ましくは10〜200nm、特に好ましくは20〜150nmである。粒径が小さすぎると、研磨剤としては微小なものを研磨することにはよい反面、コロイド粒子が基板に付着し易いために研磨後に行う基板の洗浄性を悪くする場合がある。また、逆にコロイド粒子の粒径が大きすぎると、研磨した基板の表面粗さが悪くなり、最終精密研磨用の研磨剤としては使いづらい場合がある。なお、この粒子径は、動的光散乱(DLS)によって測定することができる。
【0024】
コロイド分散液中のコロイドの濃度は、20〜50質量%の範囲であることが好ましく、特に40〜50質量%が好ましい。コロイドの濃度が、20質量%よりも低い場合は、研磨剤中における研磨砥粒としてのコロイド粒子の絶対量が不足気味になるため、研磨布と基板が直接接触してしまい、ガラス表面に研磨布由来の微小キズやスクラッチを発生させやすい場合がある。逆に、コロイドの濃度が、50質量%よりも高い場合は、液中のコロイド粒子が多すぎるためにコロイド粒子同士の凝集が起こり易くなり、研磨剤が不安定化して基板にキズが入る場合がある。また、濃度が高すぎるがゆえに増粘してしまい、研磨不能になる場合もある。
【0025】
更に、粒径分布は単分散から多分散のもの、又は複数の粒径ピークを有するものが挙げられる。
コロイド粒子の種類としては、コロイダルシリカ、コロイダルセリア、コロイダルジルコニア等が挙げられるが、合成石英ガラスと同じ成分をもつコロイダルシリカが好ましい。
【0026】
コロイダルシリカは多様な製法で作り出され、例えば、水ガラスからの造粒、アルコキシシラン等の有機シリケート化合物等を加水分解する方法等がある。分散媒のpHは、コロイダルシリカの保存安定性の観点から通常アルカリのものが多いが、中性や酸性側のpHにしておくことも可能である。コロイダルシリカの等電点も考慮すれば、分散媒のpHは、pH3〜5又はpH8〜11の範囲が好ましく、pH9〜10.5の範囲が更に好ましい。pHが中性付近ではコロイダルシリカ粒子の帯電が弱く、研磨剤が不安定化し易く、強アルカリだと研磨したガラスに面粗れが生じる場合がある。
【0027】
コロイダルシリカは、通常は水に分散して使用されるが、有機溶媒、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物等が挙げられる。また、前記有機溶媒の混合溶媒であっても構わない。更に、前記有機溶媒又はその混合溶媒のうち、水溶性のものは、水と任意の割合で混合してもよい。
【0028】
なお、コロイダルシリカの分散液としては、市販品を用いることができ、例えば(株)フジミインコーポレッド製COMPOL−50、COMPOL−80、COMPOL−120、COMPOL−EX III、日産化学工業(株)製ST−XL、ST−YL、ST−ZL、Dupon製SYTON、扶桑化学工業(株)製GPシリーズ等を用いることができる。
【0029】
以上の研磨スラリーを用いて合成石英ガラス基板を研磨するに際して、研磨剤中にオリゴペプチド(VPGVG)4等のエラスチンの類似ペプチド又は共重合体を添加することで、研磨によって発生する研磨熱を吸収し、研磨剤の濃度が高くなることを抑え、その結果、高感度欠陥検査装置で検出される欠陥数を抑制することが可能となる。
【0030】
なお、本発明の研磨剤には、本発明の効果を妨げない範囲でpH調整剤等のその他の添加物を加えても良い。特に、微小欠陥やスクラッチを抑制するには研磨剤のpH調整が重要であり、pHを8〜11、特に9〜10.5の範囲に調整するためにpH調整剤を添加することが望ましい。
【0031】
pH調整剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、塩基性塩類、有機アミン類、アンモニア、アンモニウム塩等を使用することができる。例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、塩化アンモニウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。例示した添加物は、1種を単独で用いても、2種以上の複数で使用しても構わない。中でも、ペプチドを安定させるトリエチルアミンや、アルミニウムイオン等の金属不純物をキレート錯体化して除去できるジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
pH調整剤は、研磨剤のpHが8〜11の範囲になるように添加することが好ましい。研磨中の研磨剤が前記pHの範囲から外れないことが重要であるため、pH調整剤は、最後に加えることが好ましい。研磨中に研磨剤のpHが変動するようであれば、適宜pH調整剤を添加することによって前記pHの範囲になるように調整しても良い。水酸化ナトリウム等、強塩基で解離定数の大きなものは、前記pH範囲では少量の添加量の差であってもpHが大きく変化するため、調整することが困難である。この観点から見れば、pH調整剤としては中程度の塩基である、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類が好ましい。pHが中性付近では、コロイダルシリカが不安定化しやすく、連続的な研磨に不都合が生じる場合がある。pHが高すぎると研磨した合成石英ガラスに面粗れが生じる場合がある。
【0033】
pH調整剤以外の添加物としては、カルボン酸又はその塩類を使用することもできる。具体的には、鎖状構造のカルボン酸や芳香族カルボン酸が使用できる。例えば、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、安息香酸、メチル安息香酸、t−ブチル安息香酸、サリチル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フェニル酢酸とそれらの塩類が挙げられる。例示した添加物は1種を単独で用いても、2種以上の複数で組み合わせて使用してもよい。これらの分子は水溶液中においてかさ高いため、コロイド粒子が相互作用するときの外部因子による立体障害となり、結果、コロイド粒子の縮合などを抑え、研磨剤を安定化させる効果がある。その配合量は、5〜20質量%とすることが好ましい。
【0034】
本発明で用いられるガラス基板は、ガラスを粗研磨する工程、最終仕上げ研磨をする工程を経て製造される。
粗研磨は、石英ガラスインゴットを成型、アニール、スライス加工、面取り、ラッピング、基板表面を鏡面化するための研磨工程を経ることで実施される。
そして、最終的な合成石英ガラス基板の表面品質を決定する最終研磨工程において、本発明の合成石英ガラス基板用研磨剤を用いて研磨を実施する。
このとき、研磨剤は適切な冷媒によって、前記オリゴペプチド又は共重合体の相転移温度よりも低い温度(5〜15℃)で調製し、研磨工程における研磨熱によって、研磨時には、相転移温度よりも高い温度(25〜40℃)となるが、研磨によって発生する研磨熱から得られる熱エネルギーをオリゴペプチド又は共重合体が相転移するために消費されるようにする。研磨終了した研磨剤は、回収して再び冷やすことにより、再び温度上昇の場合と逆の相転移が起こり、半永久的に再利用できる。
【0035】
なお、本発明に係わる研磨剤を用いた研磨方法としては、バッチ式の両面研磨が一般的であるが、片面研磨、枚葉式研磨、及びそれらの組み合わせで実施されるものであっても良い。
【0036】
本発明の研磨対象である合成石英ガラス基板は、半導体関連電子材料に用いることができ、特にフォトマスク用、ナノインプリント用、磁気デバイス用として好適に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
スライスされた合成石英ガラス基板原料(6インチ)をラッピング、粗研磨を行った後、最終仕上げ研磨に投入した。軟質のスエード製の研磨布を用い、研磨剤としてSiO2の濃度が40質量%のコロイダルシリカ水分散液(扶桑化学工業(株)製、一次粒径98nm)にFmoc固相合成法により得られた、VPGVGの繰り返し単位が4回のアミノ酸残基が20のオリゴペプチド(分子量:1,657)を上記コロイダルシリカ水分散液の固形分に対して0.020質量%加え、更にジエタノールアミンとトリエチルアミンを添加することによりpH10.4に調整した研磨剤を用いた。
なお、オリゴペプチド(VPGVG)4は、研磨機に供給される前のタンク内の温度10℃では、分子として広がっているコンフォメーションを形成しており、研磨機の定盤温度より測定される研磨中の温度28℃では、凝集していることが濁度測定より確認された。
研磨圧は100gf/cm2、研磨取代は、粗研磨工程で入ったキズを除去するのに十分な量(2μm以上)を研磨した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してからレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査を実施したところ、50nm以上の欠陥は平均1.5個となった。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1において、最終研磨に使用する研磨剤にオリゴペプチドを添加しないで研磨すること以外、全て実施例1と同じ条件で行った。
その結果、同様にしてレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置を用いて欠陥検査を実施したところ、50nm以上の欠陥は平均54個となった。
【0040】
〔実施例2〕
実施例1において、VPGVGの繰り返し単位が4のアミノ酸残基が20のオリゴペプチド(VPGVG)4を分子量10,000のポリアクリル酸(以下、「PAA」で示す。)側鎖にグラフト率7%で導入したグラフトポリマー(VPGVG)4−g−PAA0.5質量%に添加剤を変更した以外は実施例1と同様にして研磨を実施した。
欠陥検査をしたところ、50nm以上の欠陥は平均1.1個となった。
【0041】
〔実施例3〕
実施例1において、VPGVGの繰り返し単位が8のアミノ酸残基が40のペプチド(VPGVG)8(分子量:3,296)0.025質量%に添加剤を変更した以外は、実施例1と同様にして研磨を実施した。添加したペプチドは、遺伝子工学的に細胞培養を利用して合成したものを用いた。
欠陥検査をしたところ、50nm以上の欠陥は平均1.7個となった。
【0042】
〔実施例4〕
実施例1において、VPGVGの繰り返し単位が4のアミノ酸残基が20のオリゴペプチド(VPGVG)4と分子量10,000のポリメタクリル酸(以下、「PMAA」で示す。)とを共重合したジブロックポリマー(VPGVG)4−b−PMAA0.3質量%に添加剤を変更した以外は、実施例1と同様にして研磨を実施した。添加した(VPGVG)4−b−PMAAは、前記Fmoc固相合成法でペプチド部分を作った後、ATRP法によりPMAAを導入した。
欠陥検査をしたところ、50nm以上の欠陥は平均1.8個となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)−[バリン−プロリン−グリシン−バリン−グリシン]−で示されるペンタペプチドを繰り返し単位として有し、分子量が800〜150,000である、オリゴペプチド又は上記ペンタペプチドとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体、
(ii)コロイド溶液
を含むことを特徴とする合成石英ガラス基板用研磨剤。
【請求項2】
前記(i)成分中のペンタペプチドの繰り返し単位数が2〜20であることを特徴とする請求項1に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
【請求項3】
コロイド溶液が、コロイダルシリカ水分散液である請求項1又は2に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
【請求項4】
pH8〜11であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
【請求項5】
更に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、塩基性塩、有機アミン、アンモニア及びアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種類の物質を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤。
【請求項6】
粗研磨及び最終研磨を経て合成石英ガラス基板を製造する工程において、請求項1〜5のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板用研磨剤を最終研磨工程で使用することを特徴とする合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨剤を上記オリゴペプチド又は共重合体の相転移温度よりも低い温度に調製して最終研磨工程に供給し、該工程での研磨熱を上記オリゴペプチド又は共重合体に吸収させるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。

【公開番号】特開2013−107153(P2013−107153A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252633(P2011−252633)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】