説明

合成繊維とそれからなる捲縮糸、およびカーペット

【課題】環境を配慮し、非石油系樹脂であるポリ乳酸樹脂を使用した繊維であり、ポリ乳酸の弱点である耐摩耗性及び耐熱性を改善した繊維を提供することにある。また、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を改善したカーペット用途に適した捲縮糸を提供することにある。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有することを特徴とする合成繊維、さらに、合成繊維中の、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の重量比が((A)+(B))/(C)=5/95〜55/45、(A)/(B)=10/90〜90/10である合成繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂の弱点である耐摩耗性と耐熱性を改善したポリ乳酸樹脂とメタクリル樹脂、ポリアミド樹脂をブレンドさせてなるポリ乳酸系合成繊維に関するものである。また、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を改善したポリ乳酸系捲縮糸およびそれからなるカーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、自然環境の中で分解する繊維素材の開発が切望されている。例えば、従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
このため近年では二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化しており、植物資源を出発点とするプラスチック、つまりバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0004】
これまで、バイオマス利用のプラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低いプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0005】
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0006】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用も期待されている。しかしながら、衣料用途や産業資材用途に適用する場合には、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸の耐摩耗性や耐熱性の低さが大きな問題となる。
【0007】
例えば、ポリ乳酸繊維を衣料用途に用いた場合には、擦過等により容易に色移りが生じたり、酷い場合には繊維がフィブリル化して白ぼけし、皮膚に過度の刺激を与える等、実用上の耐久性に乏しいことがわかってきている。
【0008】
また、産業資材用途については、強度が低く使用することが困難である。
【0009】
加えて、自動車内装用、特に強い擦過を受けるカーペット等に用いた場合には、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸の耐摩耗性や捲縮率の低さが大きな問題となる。例えば、ポリ乳酸繊維をカーペット用途に用いた場合には、擦過等により容易に繊維がフィブリル化し、実用上の耐久性に乏しく、酷い場合には穴が開くことがわかってきている。また、ポリ乳酸樹脂での繊維は、十分な捲縮を得ることができないため、パイルの毛倒れが容易に生じ、カーペットがへたり易く、長期使用に耐えることができないことがわかっている。
【0010】
ポリ乳酸の耐摩耗性、強度を改善する手法として、加水分解の抑制や滑剤といった様々な各種添加剤を含有する手法がとられるが、ポリ乳酸自体のポテンシャルが大きく変わっていないため、耐摩耗性や強度に対して、飛躍的な効果を得るには至っていない。
【0011】
具体的な解決法として、ポリアミドとポリ乳酸とのブレンドにより、樹脂組成物の力学的特性を向上させる技術が開示されている(特許文献1及び2)。特許文献1には、ポリアミドの補強効果により強度等の力学特性や耐熱性、耐摩耗性が向上することが記載されているが、この方法ではポリ乳酸単独に比べれば耐摩耗性等は向上するが、ポリアミドのブレンド比が5〜40%と少量成分であるために、ポリ乳酸が海成分を形成しやすく、繊維表面にポリ乳酸が露出するため擦過性の摩耗に弱いという問題があった。また、ポリ乳酸とポリアミドが非相溶であるため、これらの相の界面の接着性が劣り、外力により容易に界面で剥離し、フィブリル化して白ぼけする問題があった。また、製糸工程においては、ポリアミドとポリ乳酸が非相溶であることに加えて、ポリ乳酸の融点がポリアミドに比べて低いことから、延伸温度を上げると繊維表面に存在するポリ乳酸が容易に剥離し、延伸ローラーに融着して製糸性が著しく低下したり、毛羽やフィブリルによって製品品位が低下するといった問題があった。よって、安定生産や品位を保つためには、延伸温度を上げることができず、満足する延伸倍率及び強度を得ることができていなかった。また、捲縮加工によって捲縮糸を得る際にも、同様の問題から捲縮加工温度を上げることができず、カーペット用途で十分に満足する捲縮率を得ることができなかった。
【0012】
特許文献2においても、ポリアミドとポリエステルのブレンドによる繊維の技術が開示されている。しかし、ポリエステルとしてポリ乳酸の記載があるものの、ポリアミドとポリ乳酸の融点差における製糸性の難しさについては、なんら考慮されておらず、現在ポリ乳酸を使用した繊維に求められている耐摩耗性、耐熱性の問題をなんら解決するものではなかった。加えて、捲縮糸における捲縮性の問題をなんら解決するものではなかった。
【特許文献1】特開2003−238775号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−206961号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。詳しくは、環境を配慮し、非石油系樹脂であるポリ乳酸樹脂を使用した繊維であり、ポリ乳酸の弱点である耐摩耗性及び耐熱性を改善した合成繊維を提供することにある。また、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を改善した捲縮糸およびそれからなるカーペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有することを特徴とする合成繊維、およびそれからなる捲縮糸によって達成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に説明するとおり、環境に配慮し非石油系樹脂であるポリ乳酸樹脂を使用した繊維でありながら、ポリ乳酸の弱点である耐摩耗性及び耐熱性を改善でき、一般衣料用途や産業資材用途に適した繊維を提供することができる。また、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を改善したカーペット用途に適した捲縮糸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明の合成繊維は、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有することを特徴とする。
【0018】
本発明で使用するポリ乳酸樹脂(A)とは、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものを言い、ポリマー内の乳酸のL体比率あるいはD体比率は95%以上であると、融点が高く好ましい。L体比率あるいはD体比率は、より好ましくは98.5%以上である。また、L体比率95%以上のポリ乳酸とD体比率95%以上のポリ乳酸を70/30〜30/70の比率でブレンドしたものは融点がさらに向上するため好ましい。ポリ乳酸には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、延伸や仮撚加工、捲縮加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下である。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても良く、また、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、艶消し剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等の添加物を必要に応じて含有させても良い。ポリ乳酸以外のポリマーとして、例えば、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを可塑剤として用いることもできる。ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と成形性のバランスが良く好ましい。さらに好ましい重量平均分子量は、10万〜30万である。上記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0019】
本発明中で用いられるメタクリル樹脂(B)としては、メタクリル酸メチル成分単位を主成分、好ましくは70%以上含むものであればよく、他のビニル系単量体成分単位を好ましくは30%以下共重合した共重合体でもよい。その他のビニル系単量体とは、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリルニトリル、エタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、マレイン酸無水物、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのN−置換マレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメテクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アクリル酸ジシクロペンタニル、ジアクリル酸ブタンジオール、ジアクリル酸ノナンジオール、ジアクリル酸ポリエチレングリコール、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ペンタメチルピペリジル、メタクリル酸テトラメチルピペリジル、メタクリル酸ベンジル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン及び2−スチリル−オキサゾリンなどが挙げられ、これらのビニル系単量体は単独または 2種以上を用いることができる。また、耐熱性、低吸湿性、表面硬度の点で、ラクトン環、マレイン酸無水物、グルタル酸無水物などの環構造単位を主鎖に含有する共重合体が好ましい。さらに、環構造を主鎖に含有する共重合体を用いる場合には、環構造を含有しないメタクリル系樹脂を併用することが好ましい。
【0020】
本発明において、耐熱性および成形性が優れるという点で、メタクリル樹脂(B)は、重量平均分子量5〜45万であることが好ましく、7〜20万がより好ましく、9〜15万がさらに好ましい。上記重量平均分子量は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたGPCで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0021】
本発明において、耐熱性が優れるという点で、メタクリル樹脂(B)のガラス転移温度は、80℃以上が好ましく、120℃以上が特に好ましい。ここでいうガラス転移点は、示差走査型熱量計(DSC)測定により求めたガラス転移温度の値であり、ガラス転移温度領域における比熱容量変化が半分の値となる温度である。さらに、本発明においては、メタクリル樹脂(B)は、メタクリル樹脂を2種以上含有し、ガラス転移温度110℃以上であるメタクリル樹脂(B)を少なくとも1種含むものであることが好ましい。また、発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種の耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の添加剤を用いても良い。
【0022】
本発明において、耐熱性に優れるという点で、メタクリル樹脂(B)のシンジオタクチシチーは、40%以上が好ましく、70%以上が特に好ましい。また、同様の点で、ヘテロタクチシチーが45%以下であることが好ましく、30%以下であることが特に好ましい。また、同様の点で、アイソタクシチシーが20%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。ここでいうシンジオタクチシチー、ヘテロタクチシチー、アイソタクチシチーとは、溶媒として、重水素化クロロホルムを用いた1H−NMR測定による直鎖分岐のメチル基の積分強度比から算出した値である。
【0023】
本発明で用いるメタクリル樹脂(B)は、230℃の温度でかつ37.3Nの荷重でのメルトフローレート(MFR)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、製糸加工の点で、2〜30g/10分であることが特に好ましい。MFRが0.1g/10分未満では、製糸加工性が低下する傾向にあり、50g/10分を超えると耐熱性向上効果が低下する傾向にある。
【0024】
本発明で用いるポリアミド樹脂(C)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいうが、アミノカルボン酸やそのラクタムから重縮合されるナイロン4、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12や、ジカルボン酸とジアミドの重縮合で得られるポリナイロン4−6、ナイロン6−6、ナイロン6−10等の公知のポリアミド類を用いることができる。また、ポリアミドはホモポリマーであっても共重合ポリマーであっても良い。また、発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種の耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の添加剤を用いても良い。
【0025】
本発明の合成繊維は、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有することが必須である。
【0026】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリアミド樹脂(C)のみのブレンドでは、繊維表面に存在するポリ乳酸樹脂(A)の耐摩耗性が劣っているため、産業用途や自動車内装、カーペット用途等の分野で求められる耐摩耗性の要求を満たすことは不十分である。また、表面にあるポリ乳酸樹脂(A)は低融点であり耐熱性が劣っているため、延伸時の処理温度を上げると、ポリ乳酸樹脂(A)が剥離し、延伸温度処理ローラーへの融着が発生し、糸切れが頻発する。また、延伸時の処理温度をポリアミド樹脂(C)の力学ポテンシャルを十分に発揮するだけの温度に上げることができないため、延伸倍率を上げることができず、ポリ乳酸樹脂(A)とポリアミド樹脂(C)をブレンドした合成繊維では強度がでないばかりか、毛羽が発生し品位の劣る製品となる。熱セット時においても同様で、ポリ乳酸樹脂(A)の耐熱性が劣るため、セット温度を十分に上げることができず、収縮が高く、後加工成型時の寸法安定性にも劣る製品しか得られない。また、捲縮糸の場合は、捲縮加工時の温度を十分に上げることができず、捲縮変形しやすい温度まで糸を加熱することができないため、ポリアミド樹脂(C)のポテンシャルを十分に発揮した捲縮を有する糸を得ることができない。
【0027】
上記問題を抜本的に解決する手段として、発明者らはポリ乳酸樹脂(A)の完全改質を狙い、ポリ乳酸樹脂(A)と完全相溶するメタクリル樹脂(B)に着目し鋭意検討した結果、本発明を得るに至った。即ち、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)が完全相溶したブレンド体は、ポリ乳酸樹脂(A)に比べて耐摩耗性が向上する。加えて、両者は分子レベルで相溶化しているためにポリ乳酸の融点が完全に消失し、耐熱性が向上する。
【0028】
また、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体は、その優れた相溶性により、他の樹脂が加わってもその特性は変わることなく、完全相溶体として存在する。このことにより、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有する本発明の合成繊維においては、繊維表面にポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体が存在した場合でも、優れた耐摩耗性を示すのである。また、製糸工程においては延伸ローラーに融着することなく高温・高倍率延伸、高温セットが可能となり、高強度、低収縮(寸法安定性)といったポリアミド樹脂(C)の優れた力学特性を引き出せるばかりか、毛羽やフィブリルがない高品位な繊維を得ることが可能となるのである。また、捲縮糸の場合は、捲縮変形しやすい温度まで糸を加熱することが可能となり、ポリアミド樹脂(C)のポテンシャルを十分に発揮した、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性に優れた捲縮糸を得ることができる。
【0029】
かくして、本発明のポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有する合成繊維においては、上記の通りの技術要素により、環境に配慮したバイオチップであるポリ乳酸樹脂(A)を用いた繊維としては、従来にないレベルの耐熱性、強度、耐摩耗性、寸法安定性を達成できるのである。さらに、捲縮糸においては、優れた捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を達成できるのである。
【0030】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)とのブレンド比率(重量%)は特に限定されないが、合成繊維中の、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の重量比が下記式(1)および(2)
((A)+(B))/(C)=5/95〜55/45・・・(1)
(A)/(B)=10/90〜90/10・・・(2)
(式中(A)、(B)、(C)は各々ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の重量%を表す。)
を満足するようにするのが好ましい。
【0031】
すなわち、(ポリ乳酸樹脂(A)+メタクリル樹脂(B))/ポリアミド樹脂(C)=5/95〜55/45であることが好ましく、10/90〜50/50であることがより好ましい。かかる範囲であれば、ポリアミド樹脂(C)の力学ポテンシャルを十分に発揮した耐摩耗性と耐熱性に優れた合成繊維を得ることが可能である。また、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド比率(重量%)についても、特には限定されないが、ポリ乳酸樹脂(A)/メタクリル樹脂(B)=10/90〜90/10であることが好ましく、30/70〜90/10がさらに好ましい。かかる範囲であれば、ポリ乳酸樹脂(A)を十分に含有した状態で、メタクリル樹脂(B)による相溶性を得ることが容易となる。
【0032】
本発明の合成繊維は、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体と、ポリアミド樹脂(C)からなる海島構造を形成する。本発明の効果である耐摩耗性向上と高温・高倍率延伸による高強度化、高温捲縮可能による高捲縮化をさらに引き出すには、耐摩耗性と耐熱性の優れるポリアミド樹脂(C)を海側に、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体を島側に配置させ、ブレンド体を極力繊維表面に存在させないことが重要である。このため、前記の通り、(ポリ乳酸樹脂(A)+メタクリル樹脂(B))/ポリアミド樹脂(C)=5/95〜55/45であることが好ましいが、加えて、紡糸温度において、ポリ乳酸樹脂(A)+メタクリル樹脂(B)の溶融粘度をポリアミド樹脂(C)の溶融粘度より高くすれば良い。また、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体からなる島成分のドメインサイズを制御することで、耐摩耗性をさらに向上させることができる。ドメインサイズは0.001〜10μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmがさらに好ましい。かかる範囲であれば、ポリ乳酸樹脂(A)とメタクリル樹脂(B)のブレンド体とポリアミド樹脂(C)の界面剥離を完全に抑制できる。ドメインサイズは、溶融紡糸プロセスにおいて、ハイメッシュの濾層(#100〜#200)や、濾過径の小さい不織布フィルター(濾過径5〜40μm)の使用、また、パック内や配管内にブレンドミキサー(スタティックミキサーやハイミキサー)を組み込む方法等により、制御可能となる。
【0033】
本発明の合成繊維の繊維物性は、特に限定されないが、一般衣料用に加えて、産業資材用途にも幅広く使用するため、強度は4cN/dtex以上であることが好ましく、6cN/dtex以上がより好ましい。さらに好ましくは8cN/dtex以上である。強度の上限値は通常20cN/dtexである。
【0034】
捲縮糸の場合、工程通過性や製品の力学的強度を高く保つために強度は1.0cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上がより好ましい。さらに好ましくは3.0cN/dtex以上である。
【0035】
本発明においては、前述の通り、延伸工程にて高温処理が可能であり、よって高倍率延伸が可能となることから、ポリアミド樹脂(C)単独使いの合成繊維レベルの高強度化が可能である。伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。また、沸騰水収縮率は0〜15%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良好であり好ましい。
【0036】
また、捲縮糸の場合は、後述する沸騰水中で処理したときの捲縮の発現率を示す伸長率、つまり沸騰水処理後の捲縮伸長率が3〜35%、さらに8〜30%であることが好ましい。かかる範囲であれば、捲縮の発現が十分で、カーペットにしたときのボリューム感に優れ、耐へたり性が改善されると共に、捲縮加工時に過剰の熱処理をする必要がないため、安易な製造が容易になる。また、捲縮が高すぎる場合、撚糸カットカーペットで構成する際に、撚り糸工程で糸が膨らみ撚り戻りが発生するため、ペンシルポイント性の低く、マットの審美性が悪化するという好ましくない傾向となる。
【0037】
加えて、本発明の捲縮糸では、単糸繊度が3〜35dtexであることが好ましく、10〜20dtexであることがより好ましい。3dtex未満の場合、毛倒れや擦過がしやすい傾向になり、35dtexを超えると耐摩耗性は向上するものの、風合いが堅く、紡糸時の冷却不足により製糸性が悪化や毛羽が発生する傾向となる。
【0038】
本発明の繊維の断面形状は丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面等の多葉断面、扁平断面、W断面、X断面その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は、長繊維、短繊維等特に制限は無く、長繊維の場合はマルチフィラメントであってもモノフィラメントでもよい。
【0039】
捲縮糸の場合、カーペット特性のバルキー性を十分に満たすのは、単糸断面の外接円の直径(D)と内接円の直径(d)の比(D/d)で表した横断面変形度が1.1〜8であることが好ましく、2〜5の異形断面形状であることがより好ましい。変形度が1.1未満の場合は、バルキー性が劣り、カーペットとしての品位が低下し、また、8を超えた場合は、断面が壊れやすく、カーペット使用中にフィブリル化し、審美性が劣るという好ましくない傾向となる。
【0040】
また、本発明の繊維の繊維を繊維構造体として用いる場合には、織物、編物、不織布、パイル、綿等に適用でき、他の繊維を含んでいてもよい。また、捲縮糸の場合、他の繊維を含んでカーペットを形成してもよい。例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維との引き揃え、撚糸、混繊であってもよい。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアクリロニトルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などが適用できる。
【0041】
また、本発明の繊維を用いた繊維構造体の用途としては、耐摩耗性や強度が要求される衣料、例えばアウトドアウェアやゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェア及びそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウターがある。また、長時間使用による耐久性や湿老化特性に優れたものが要求される用途として、ユニフォーム、掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の側地やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等の寝装資材用途があり、これらにも好ましく用いることができる。また、家庭用やオフィス向けのカーペットはもちろんのこと、自動車用の内装資材にも好適に用いることができ、その中でも、高い耐摩耗性と耐ヘタリ性、湿老化特性が要求される自動車用カーペット(ラインマットやオプションマット等)に用いることが最適である。なお、これら用途に限定されるものではなく、例えば農業用の防草シートや建築資材用の防水シート等に用いてもよい。
【0042】
本発明の繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の様な方法を採用することができる。
【0043】
ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の混合は、合成繊維が紡糸口金から紡出されるまでの任意の段階で混合すれば良い。例えば、各樹脂を計量しながら紡糸機に投入しても良いし、予めチップブレンドした3者混合チップを紡糸機に投入しても良い。また、別工程で予め3者を溶融混練したチップを作製し、これを紡糸機に投入しても良い。紡糸温度は、使用する樹脂に応じて適宜変更することができるが、例えばポリアミド樹脂(C)としてナイロン6を使用する場合には、220〜250℃が好ましい。このとき、島ドメインサイズを制御する方法としては前記3成分(ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、およびポリアミド樹脂(C))の溶融粘度の比とブレンド比、選定する相溶化剤と添加量を前記した範囲で調整し、剪断速度200〜20,000sec-1、滞留時間0.5〜30分の範囲で混練することで制御できる。島ドメインサイズを小さくする方法としては、上記範囲で混練温度が低い方がよく、剪断速度が高い方がよく、滞留時間が短い方がよい。この得られたポリマーブレンド樹脂を、さらに溶融紡糸法により繊維化するが、この場合も島ドメイン(ポリ乳酸樹脂+メタクリル樹脂)の再凝集を抑制するために、ハイメッシュの濾層(#100〜#200)やポーラスメタル、濾過径の小さい不織布フィルター(濾過径5〜30μm)、パック内ブレンドミキサー(スタティックミキサーやハイミキサー)を組み込むことが好ましい。
【0044】
本発明に用いる溶融紡糸装置は、エクストルーダー型紡糸機およびプレッシャー型紡糸機のどちらも使用可能であるが、製品の均一性および製糸工程における収率の点から前者が好ましい。
【0045】
さらに(ポリ乳酸樹脂(A)+メタクリル樹脂(B))とポリアミド樹脂(C)とのポリマーブレンド物は非相溶系であり、溶融体は弾性項の強い挙動を示すため、紡出後にバラスと呼ばれる膨らみが発生し、細化・変形を不安定にさせる傾向がある。これを抑制する方法としては、紡糸温度を高くして伸長粘度を下げたり、紡糸口金の吐出孔径を大きくし、吐出線速度(吐出孔の最終絞り部のポリマー流速)を低下せしめたり、吐出孔長/孔径の比を長くする方法、吐出糸条を急冷する方法等が有効である。紡糸温度はポリアミド樹脂(C)の融点により決めることが好ましく、最適な範囲はポリアミド樹脂(C)の融点Tmb+10℃〜Tmb+40℃(例えば、ポリアミド樹脂(C)の融点Tmbが200℃の場合は210〜240℃)である。また、前記吐出糸条のバラスによる膨らみを抑制し、細化・変形を安定させるための吐出線速度は好ましくは1〜20m/分であり、より好ましくは2〜15m/分、さらに好ましくは3〜12m/分である。また、L/Dは好ましくは0.6〜10であり、より好ましくは0.8〜7であり、さらに好ましくは1〜5である。また、冷却開始位置は口金面からの距離が0.01〜0.2mであることが好ましく、0.015〜0.15mがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.1mである。
【0046】
口金より紡出した糸条には、冷風等の冷却装置にて冷却固化したのち油剤を付与し、300〜2000m/分で回転する引き取りローラーに捲回して一旦巻き取った後、もしくは連続して好ましくは2段以上の多段で熱延伸を施し、必要に応じて交絡を付与し巻取り機にて巻取る。熱延伸温度はポリアミド樹脂(C)のガラス転移点〜融点−10℃で、延伸倍率は、2.0〜7倍の範囲でそれぞれ行い、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有する本発明の合成繊維を得る。
【0047】
また、捲縮糸の場合には、捲縮は公知の加熱流体加工処理により付与することができ、ジェットノズルタイプ、ジェットスタッファタイプさらにはギヤ方式など各種の捲縮付与方法を採用し得るが、高い捲縮を容易に付与できる点からは、ジェットノズル方式およびジェットスタッファ方式がより好ましくなる。糸条に付与する加熱流体の温度、つまり捲縮加工温度としては、ポリアミド樹脂(C)の特性を十分活かし得る170℃〜250℃が好適である。また、捲縮を固定する目的から、捲縮加工のスタッフィング時に冷却媒体により冷却する方法や、さらにはロータリーフィルタを組み合わせることにも何ら制限はない。捲縮付与においては、延伸糸をそのまま巻き取らずに連続して捲縮付与させてもよいし、未延伸糸あるいは延伸糸段階で一端巻き取ったものを解除して、捲縮工程に供してもよい。
【0048】
捲縮ノズルに導入する糸速度は、通常500〜3500m/minが好ましい。かかる糸速度の範囲とすると、効率的な生産が可能で、またノズル通過後の捲縮の固定が容易であるとともに、安定な走行が容易である。
【0049】
次いで、これに交絡を付与するが、公知の圧空を用いた交絡ノズルを使用することにより付与することができる。引き続いて、捲縮糸は、ワインダーなどの巻き取り装置を用いてチーズ、ボビン、コーンなどに巻き取られる。
【0050】
以上の方法により、本発明の捲縮糸は得ることができる。
【0051】
本発明のカーペットは、上記の通り得られた捲縮糸をフェースヤーンとし、公知のタフティングマシンを用いてカーペットを作成する。一般には、目付を300〜2000g/m、パイル高さを2.0〜10.0mmの範囲とした場合に、タフトが容易で、かつ風合い、ボリューム感にもすぐれたカーペットとなる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値の測定方法は以下の通りである。
【0053】
(1)ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製 GPC−150C)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwを求めた。
【0054】
(2)ポリアミド樹脂の相対粘度
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定をおこない、その平均値を採用した。
【0055】
(3)合成繊維中の島成分のドメインサイズ
合成繊維から繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出し、該切片のポリアミド成分をリンタングステン酸にて金属染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立社製H−7100FA型)にて4万倍でブレンド状態を観察・撮影した。この画像を三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、島ドメイン(非染色部)を円と仮定し、その面積から直径(直径概算)を算出した。測定数は1試料あたり100個とし、その分布を島成分のドメインサイズとした。
【0056】
(4)繊度
JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては90mで測定した。
【0057】
(5)単糸繊度
JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては90mで測定した繊度を、ポリ乳酸繊維を構成する単繊維数で割り返した値を採用した。
【0058】
(6)強度、伸度
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0059】
(7)沸騰水収縮率(沸収)(捲縮糸以外)
JIS L1013 8.18.1 a)かせ収縮率(A法)に従って測定した。試料を枠周1.125mの検尺機を用い、所定荷重として5mN/tex×表示テックス数をかけ120min−1の速度で巻き返し、巻き数20回の小かせを作り、初荷重の40倍の荷重をかけてかせ長を測った。次に荷重を外し、収縮が妨げられないような方法で、98℃の熱水中に30分間浸せきした後取り出して吸取紙又は布で水を切り、水平状態で自然乾燥し、再び初荷重の40倍の荷重をかけてかせ長を測って算出した。測定回数は5回とした。
【0060】
(8)沸騰水収縮率(沸収)(捲縮糸)
捲縮糸を巻き取り後、チーズ形状で20℃、相対湿度65%の雰囲気中に、20時間放置した後、2つのかせを取り、24時間放置し、沸騰水処理有無の差での収縮率を示した。具体的には以下の方法で測定した値をいう。
【0061】
すなわち、測定しようとする捲縮糸の1つのかせ糸に91mg/dtexの定荷重をかけ、30秒経過後の長さ(L1)を測定した。次いで、もう一つのかせ糸を無荷重状態で沸騰水に20分間浸漬処理した後乾燥して平衡水分率となし、次いで同試料に91mg/dtexの定荷重をかけ、30秒経過後の長さ(L2)を測定した。前記(L1)および(L2)の値から、式[(L1−L2)/L1]×100として計算することにより得た値をいう。
【0062】
(9)沸騰水処理後の捲縮伸長率
捲縮糸を巻き取り後、チーズ形状で20℃、相対湿度65%の雰囲気中に、20時間放置した後、かせ取りで24時間放置後、沸騰水中で浸漬処理したときの捲縮伸長率を示し、具体的には以下の方法で測定した値をいう。
【0063】
すなわち、測定しようとする捲縮糸を、無荷重状態で沸騰水に20分間浸漬処理した後乾燥して平衡水分率となし、この試料に1.8mg/dtexの初荷重をかけて30秒経過の後に測定した試料長50cm(L3)にマーキングを施し、次いで同試料に91mg/dtexの定荷重をかけ、30秒経過後の伸び(L4)を測定して、前記(L3)および(L4)の値から、式[(L4−L3)/L3]×100として計算することにより得た値をいう。
【0064】
(10)変形度
フィラメントを繊維軸に垂直な方向に切断し、その断面を光学顕微鏡(キーエンス社製VH−6300型)を用い200倍で撮影した。写真から20点の断面を選び、外接円の直径D、内接円の直径dをそれぞれ測定し次式により算出した、その平均値を変形度とした。
異形度=D/d
【0065】
(11)目付
JIS L1021 8.2に規定の方法で測定した。
【0066】
(12)耐摩耗性
織布またはカーペットから直径120mmの試験片を切り出し、ASTM D1175に規定されるテーバー摩耗試験機に取り付け、摩耗輪CS#10、荷重500gとして、500回転摩耗を行った。その後、この試験片の表面摩耗状態を観察し、次の指標で耐摩耗性を評価した。
◎:全く摩耗していない。
○:殆ど摩耗していない。
△:部分的に摩耗している。
×:全体的に摩耗している。
【0067】
(13)耐熱性
織布を三洋電機社製のスチームアイロンA−1Fを用い、アイロン表面温度が190℃の温度に達したら織布にアイロン自重(面圧約8g/cm2)で5秒間プレスし、プレス後の外観変化を次の指標で評価した。
◎:変化なし。
○:殆ど変化なし。
△:明確なアタリ有り。
×:繊維間で融着が発生している。
【0068】
(14)耐へたり性
カーペットに5kgの荷重(接触面積10cm×10cm)を10分間のせた後のカーペット表面のパイルの耐ヘタリ性を次の指標で評価した。
◎:全く変化なし。
○:殆ど変化なし。
△:窪みあり。
×:大きな窪みあり。
【0069】
(15)製糸性
500kgの製糸試験における糸切れ回数から評価した。
【0070】
[実施例1〜3]
ポリ乳酸樹脂(A)として、L体比率99%、残存ラクチド0.1重量%、重量平均分子量20万のポリ乳酸(NatureWorks社製、6400D)を、メタクリル樹脂(B)として、住友化学社製「スミペックスLG21」を、ポリアミド樹脂(C)として、相対粘度2.15のナイロン6((東レ(株)社製、T−100L)をそれぞれ使用し、表1の重量比にて計量器で連続的に計量しながら、235℃の2軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。溶融ポリマーを230℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1840dtexとなるように計量した後、230℃の紡糸パックに導き、パック内では30ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.5mm、孔長1.1mmの単孔が144個開けられた口金より押し出した(単糸繊度12.8dtex)。
【0071】
紡出糸条を、口金下に設けた長さ20cm、雰囲気温度260℃の加熱筒を通過させ、ユニフロー型チムニーを用いて30℃の冷風を40m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ローラーにて油剤を付与した。油剤を付与した糸条を475m/分の表面速度を有する第1ローラー(非加熱)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0072】
第1ローラーを通過した糸条を速度500m/分の第2ローラー(55℃)、速度1375m/分の第3ローラー(90℃)、速度1800m/分の第4ローラー(155℃)、速度2250m/分の第5ローラー(195℃)、速度2150m/分の第6ローラー(130℃)に連続して供することで延伸を行い、総繊度1840dtexのポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)を含有する繊維を得た。製糸性は良好であり、製糸試験後の延伸ローラーにポリマーの融着はなかった。
【0073】
得られた繊維を織機にて平織りした、織り密度が経:10本/cm、緯:10本/cmの織布を得た。得られた繊維と織布の特性を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
[比較例1,2]
メタクリル樹脂(B)を使用せず、ポリ乳酸樹脂(A)とポリアミド樹脂(C)を表2の重量比にて使用すること以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリアミド樹脂(C)を含有する繊維及び織布を得た。製糸性は悪く、糸切れ後の第4ローラー、第5ローラーにはポリ乳酸が融着していた。
得られた繊維と織布の特性を表2に示す。
【0076】
[比較例3]
第1ローラーを950m/分、第2ローラーを1000m/分(55℃)、第3ローラーを速度1600m/分(90℃)、第4ローラーを速度1900m/分(145℃)、第5ローラーを速度2250m/分(150℃)、に変更すること以外は比較例1と同様にして、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリアミド樹脂(C)を含有する繊維及び織布を得た。
得られた繊維と織布の特性を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
[実施例4]
実施例1と同様にして、ポリマーを溶融混練した後、ギヤポンプにて総繊度が1450dtexとなるように計量し、スリット長1.4mm、スリット幅0.13mmのY型孔が96個開けられた口金より押し出した(単糸繊度15.1dtex)。
【0079】
紡出糸条を、ユニフロー型チムニーにて冷却固化させた後、油剤ローラにて油剤を付与した。油剤を付与した糸条を674m/分の表面速度を有する第1ローラ(非加熱)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。第1ローラを通過した糸条を速度684m/分の第2ローラ(65℃)、速度1847m/分の第3ローラ(110℃)、速度2158m/分の第4ローラ(190℃)に連続して供することで延伸を行い、引き続いて、捲縮ノズル(ノズル温度230℃、ノズル圧力0.9MPa)にて蒸気による流体捲縮加工を行った。その後63m/分のロータリーフィルタで冷却し、1792m/分で巻き取ることにより捲縮糸を得た。製糸性は良好であり、製糸試験後の延伸ローラにポリマの融着はなかった。
【0080】
得られた捲縮糸を目付400g/m、パイル高さ4.0mmでタフト加工し、カットパイルからなるカーペットを作製した。捲縮糸およびそれを用いたカーペットの特性を表3に示す。
【0081】
[実施例5]
スリット長0.6mm、スリット幅0.3mmのY型孔に変更したこと以外は実施例4と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。捲縮糸およびカーペットの特性を表3に示す。
【0082】
[実施例6]
孔径0.5mmの丸型孔に変更したこと以外は実施例4と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。捲縮糸およびカーペットの特性を表3に示す。
【0083】
[実施例7]
第4ローラーを145℃に変更したこと以外は実施例4と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。捲縮糸およびカーペットの特性を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
[比較例4]
比較例1と同様にして、ポリマーを溶融混練した後、第4ローラーを145℃に変更したこと以外は実施例4と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。捲縮糸およびカーペットの特性を表4に示す。
【0086】
[比較例5]
比較例2と同様にして、ポリマーを溶融混練した後、第4ローラーを145℃に変更したこと以外は実施例4と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。捲縮糸およびカーペットの特性を表4に示す。
【0087】
[比較例6]
第4ローラーを170℃に変更したこと以外は比較例5と同様にして、捲縮糸およびカーペットを作製した。製糸性は悪く、糸切れ後の第4ローラーにはポリ乳酸が融着していた。捲縮糸およびカーペットの特性を表4に示す。
【0088】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、環境を配慮し、非石油系樹脂であるポリ乳酸樹脂を使用した繊維であり、ポリ乳酸の弱点である耐摩耗性及び耐熱性を改善した一般衣料用途や産業資材用途に適した繊維を提供することができる。また、捲縮率、耐摩耗性、耐へたり性を改善したカーペット用途に適した捲縮糸を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)およびポリアミド樹脂(C)を含有することを特徴とする合成繊維。
【請求項2】
合成繊維中の、ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の重量比が下記式(1)および(2)
((A)+(B))/(C)=5/95〜55/45・・・(1)
(A)/(B)=10/90〜90/10・・・(2)
(式中(A)、(B)、(C)は各々ポリ乳酸樹脂(A)、メタクリル樹脂(B)、ポリアミド樹脂(C)の重量%を表す。)
を満足することを特徴とする請求項1に記載の合成繊維。
【請求項3】
合成繊維が海島構造を有する合成繊維であり、島成分のドメインサイズが0.001〜10μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の合成繊維。
【請求項4】
強度が4cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の合成繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の合成繊維からなる捲縮糸。
【請求項6】
沸騰水処理後の捲縮伸長率が3〜35%、単糸繊度が3〜35dtex、かつ横断面変形度が1.1〜8であることを特徴とする請求項5に記載の捲縮糸。
【請求項7】
請求項5または6に記載の捲縮糸を少なくとも一部に使用することを特徴とするカーペット。

【公開番号】特開2007−231501(P2007−231501A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22971(P2007−22971)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】