説明

合成繊維用処理剤およびその利用

【課題】 本発明の目的は、処理剤を付与した合成繊維フィラメント糸条を製造する際、および/または該合成繊維フィラメント糸条を含む繊維構造物を製造する際に、制電性が劣ることによる静電気の発生、ガイドやローラーとの擦過やラビング特性が劣ることにより生じる毛羽・断糸、染色性不良といった問題を低減する合成繊維用処理剤を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、一般式(1)で示される有機亜鉛化合物(A)と、ポリオキシアルキレン基を有しないエステル化合物、ポリエーテル化合物および鉱物油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(B)とを必須に含有し、処理剤の不揮発分に占める該有機亜鉛化合物(A)の重量割合が0.5〜6重量%である、合成繊維用処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤およびその利用に関するものである。さらに詳しくは、制電性、ラビング特性に優れた合成繊維用処理剤、該処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条および該糸条を含む繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、その紡糸工程において処理剤を付与し、その後、加熱延伸し得られる。得られた合成繊維は、織物や編み物といった繊維構造物に加工される。合成繊維フィラメント糸条を生産する工程では、静電気発生の問題、ガイドやローラーとの擦過による毛羽・断糸といった問題がある。また、得られた合成繊維フィラメント糸条を加工する工程では、静電気発生の問題、ガイドやローラーとの擦過による毛羽・断糸の問題に加えて、染色性不良といった問題が発生する。従来、これらの問題を防止するために、処理剤中にアルキルホスフェート塩やアルキルスルホネート塩を添加して静電気の発生を抑制したり、高分子量の界面活性剤を配合して油膜強化を図り、ラビング特性を向上させたりしていた。しかしながら、近年、生産の高速化や加工の高速化、単糸フィラメントの細デニール化や異型断面化により、ますます合成繊維フィラメント糸条の生産、およびそれを用いた繊維構造物の生産が困難となり、従来使用していた処理剤では充分な対応が取れなくなってきた。
【0003】
従来、合成繊維の静電気発生や毛羽・断糸を抑える合成繊維用処理剤として提案されているものとしては、1)分子量2000〜20000の高分子量アマイド化合物を含有する合成繊維用処理剤(特許文献1)、2)ジアルキルアミンに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドをランダム又はブロック状に付加した分子量1000〜20000のポリエーテル化合物を含有する合成繊維用処理剤(特許文献2)、3)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60〜20/80(重量比)の割合で共重合した分子量5000〜7000のポリオキシアルキレングリコールと、炭素数8〜14のモノカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミン塩又は第4級アンモニウム塩とを含有する合成繊維用処理剤(特許文献3)等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の合成繊維用処理剤では、糸条の動摩擦増大が避けられず、近年のよりいっそう高速化された生産条件や加工条件では、毛羽・断糸の抑制が不充分である。さらに、特許文献3に記載の合成繊維用処理剤では、静電気の発生を充分に抑えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−162078号公報
【特許文献2】特開平6−228885号公報
【特許文献3】特開平10−245729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、処理剤を付与した合成繊維フィラメント糸条を製造する際、および/または該合成繊維フィラメント糸条を含む繊維構造物を製造する際に、制電性が劣ることによる静電気の発生、ガイドやローラーとの擦過やラビング特性が劣ることにより生じる毛羽・断糸、染色性不良といった問題を低減する合成繊維用処理剤、該処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条と該糸条を含む繊維構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、特定の有機亜鉛化合物を特定量含有する合成繊維用処理剤であれば、静電気の発生、毛羽・断糸、染色性不良といった上記の問題を低減できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の合成繊維用処理剤は、一般式(1)で示される有機亜鉛化合物(A)と、(ポリ)オキシアルキレン基を有しないエステル化合物、ポリエーテル化合物および鉱物油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(B)とを必須に含有し、処理剤の不揮発分に占める該有機亜鉛化合物(A)の重量割合が0.5〜6重量%である。
【0009】
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭化水素基を示す。)
【0010】
処理剤の不揮発分に占める前記ベース成分(B)の重量割合が30〜98重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明の合成繊維用処理剤は、さらに、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル、該多価アルコールエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル、該多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物および該縮合物の少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルから選ばれる少なくとも1種の成分(C)を含有し、処理剤の不揮発分に占める成分(C)の重量割合が1〜30重量%であることが好ましい。また、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの重量平均分子量は1000〜8000であることが好ましい。
【0012】
前記合成繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維またはポリオレフィン繊維であることが好ましい。
【0013】
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、原料合成繊維フィラメント糸条に対して、上記の合成繊維用処理剤が付与されたものである。本発明の繊維構造物は、上記の合成繊維フィラメント糸条を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の合成繊維用処理剤は、該処理剤を付与した合成繊維フィラメント糸条を製造する際、および/または該合成繊維フィラメント糸条を含む繊維構造物を製造する際に、制電性が劣ることによる静電気の発生、ガイドやローラーとの擦過やラビング特性が劣ることにより生じる毛羽・断糸、染色性不良といった問題を低減することができる。
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、該合成繊維フィラメント糸条を含む繊維構造物を製造する際に、静電気の発生、毛羽・断糸、染色性不良といった問題を低減することができる。本発明の繊維構造物は、静電気の発生を低減して製造することができ、毛羽・断糸、染色性不良が低減されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラビング特性の測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、特定の有機亜鉛化合物(A)とベース成分(B)とを必須に含有し、該有機亜鉛化合物(A)を特定量含む合成繊維用処理剤である。以下詳細に説明する。
【0017】
(有機亜鉛化合物(A))
有機亜鉛化合物(A)は、本発明の合成繊維用処理剤の必須成分であり、上記一般式(1)で示される化合物である。処理剤が有機亜鉛化合物(A)を必須に含有することにより、合成繊維フィラメント糸条を製造する際や繊維構造物を製造する際の静電気の発生、毛羽・断糸、染色不良を低減することができる。有機亜鉛化合物(A)は、1種または2種以上を使用してもよい。
【0018】
上記一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立して、炭化水素基を示す。R〜Rは、1価の炭化水素基であり、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基等を挙げることができる。これらの中でも、平滑性の点から、アルキル基、アルケニル基が好ましく、さらにはアルキル基が好ましい。
アルキル基、アルケニル基は、分岐型であっても直鎖型であってもよい。アルキル基、アルケニル基の炭素数としては、3〜18が好ましく、3〜12がより好ましく、4〜10がさらに好ましく、4〜8が特に好ましい。炭素数が3未満の場合、処理剤に対する有機亜鉛化合物(A)の相溶性が悪くなることがある。一方、炭素数が18超の場合、制電性およびラビング特性が不充分となることがある。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−オクテニル基、1−デセニル基、1−オクタデセニル基等が挙げられる。
【0019】
〜Rがアリール基、アラルキル基の場合、それぞれの基の炭素数としては、次の範囲が好ましい。アリール基の炭素数としては、6〜22が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜10がさらに好ましい。このようなアリール基としては、たとえば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数としては、7〜22が好ましく、7〜16がより好ましく、6〜10がさらに好ましい。このようなアラルキル基としては、たとえば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
なお、上記アリール基およびアラルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基の炭素数は、通常1〜30、好ましくは2〜26、さらに好ましくは3〜24である。このような置換基としては、メチル基、エチル基、t−ブチル基、オクチル基、ノニル基、ラウリル基、デシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、セチル基、ステアリル基、オレイル基、ベヘニル基、スチリル基等が挙げられる。このような置換基の数は1つであっても複数であってもよく、複数の場合に複数種の置換基が混在していてもよい。
【0020】
また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロオクタデシル基といった炭素数3〜18のシクロアルキル基が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)で示される有機亜鉛化合物(A)としては、市販されているものを使用でき、また公知の手法で製造することもできる。
【0022】
(ベース成分(B))
本発明の合成繊維用処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン基を有しないエステル化合物(B1)、ポリエーテル化合物(B2)および鉱物油(B3)から選ばれる少なくとも1種のベース成分(B)を必須に含有するものである。ベース成分(B)は、処理剤の基本的な耐熱性、平滑性を発揮する成分である。
【0023】
(ポリ)オキシアルキレン基を有しないエステル化合物(B1)とは、エステル化合物の分子中に(ポリ)オキシエチレン基、(ポリ)オキシプロピレン基、(ポリ)オキシブチレン基といった(ポリ)オキシアルキレン基を有しないものをいう。
エステル化合物(B1)としては、一価アルコールと一価カルボン酸との一価エステル(B1−1)、多価アルコールと一価カルボン酸との多価エステル(B1−2)、一価アルコールと多価カルボン酸との多価エステル(B1−3)等が挙げられる。エステル化合物(B1)は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0024】
一価エステル(B1−1)を構成する一価アルコールとしては、脂肪族一価アルコールや芳香族一価アルコール等が挙げられる。一価アルコールは、1種または2種以上を併用してもよい。
脂肪族1価アルコールとしては、特に限定はなく、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪族1価アルコールの炭素数は、8〜24が好ましく、14〜24がより好ましく、18〜22がさらに好ましい。脂肪族1価アルコールは、飽和脂肪族1価アルコールと不飽和脂肪族1価アルコールを併用してもよい。
【0025】
脂肪族1価アルコールとしては、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ミリストレイルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、アルギジニルアルコール、イソイコナニルアルコール、エイコセノイルアルコール、ベヘニルアルコール、イソドコサニルアルコール、エルカニルアルコール、リグノセリニルアルコール、イソテトラドコサニルアルコール、ネルボニルアルコール、セロチニルアルコール、モンタニルアルコール、メリシニルアルコール等が挙げられる。
芳香族アルコール1価アルコールとしては、フェノール、アルキルベンゼンアルコール等が挙げられる。
【0026】
一価エステル(B1−1)を構成する一価カルボン酸としては、一価の脂肪族カルボン酸(脂肪酸)、一価の芳香族カルボン酸等が挙げられる。一価カルボン酸は、1種または2種以上を併用してもよい。
脂肪酸としては、特に限定はなく、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪酸の炭素数は、8〜24が好ましく、14〜24がより好ましく、18〜22がさらに好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を併用してもよい。
【0027】
脂肪酸としては、酪酸、クロトン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、イソイコサン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラドコサン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
一価の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、サリチル酸、没食子酸、ケイ皮酸等が挙げられる。
【0028】
一価エステル(B1−1)としては、例えば、メチルオレエート、ブチルステアレート、イソオクチルパルミテート、イソオクチルステアレート、イソオクチルオレエート、イソオクチルパルミテート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート、ヘキサデシルステアレート、イソステアリルオレート、オレイルラウレート、オレイルオレエート等が挙げられる。
【0029】
多価エステル(B1−2)を構成する多価アルコールとしては、二価以上のアルコールであれば、特に限定はない。多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールは1種または2種以上を併用してもよい。
脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ショ糖等が挙げられる。
芳香族多価アルコールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0030】
多価エステル(B1−2)を構成する一価カルボン酸としては、エステル(B1−1)で記載したものと同じものが挙げられる。
【0031】
多価エステル(B1−2)としては、例えば、ジエチレングリコールジオレート、ヘキサメチレングリコールジオレート、ネオペンチルグリコールジラウレート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート、ペンタエリスリトールテトラオレート、ビスフェノールAジラウレートチオジプロパノールジラウレート、ペンタエリスリトールC8・C10カルボン酸混合エステル、1,6−ヘキサンジオールジイソステアレート等が挙げられる。
【0032】
多価エステル(B1−3)を構成する一価アルコールとしては、エステル(B1−1)で記載したものと同じものが挙げられる。
【0033】
多価エステル(B1−3)を構成する多価カルボン酸としては、二価以上であれば、特に限定はない。多価カルボン酸としては、脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。多価カルボン酸は1種または2種以上を併用してもよい。なお、本発明で用いる脂肪族多価カルボン酸は、チオジプロピオン酸等の含硫黄多価カルボン酸を含まない。
脂肪族多価カルボン酸としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アコニット酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メリト酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0034】
多価エステル(B1−3)としては、例えば、ジオレイルマレート、ジイソトリデシルアジペート、ジオレイルアジペート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソステアリルトリメリテート等が挙げられる。
【0035】
これらエステル化合物(B1)の重量平均分子量は、200〜2600が好ましく、400〜2000がより好ましく、600〜1500がさらに好ましい。
上記のエステル化合物(B1)の製造方法としては、特に限定はなく、公知のエステル化の手法を採用できる。
【0036】
ポリエーテル化合物(B2)は、エチレンオキサイド(EO)プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)等のアルキレンオキサイド(AO)を付加重合させたポリアルキレングリコールであり、その中でもプロピレンオキサイド(PO)とエチレンオキサイド(EO)とを付加重合させたポリアルキレングルコール共重合体が好ましい。ポリエーテル化合物(B2)は、1種または2種以上を併用してもよい。ポリアルキレングルコール共重合体は、PO、EOのランダム型またはブロック型の共重合であり、この共重合体の片末端または両末端が、1価以上のアルコール類や塩基酸類等により、エーテル結合やエステル結合を介して封鎖されていてもよい。かかるポリアルキレングルコール共重合体は、公知の方法によりPO、EOを共重合することで得られる。
【0037】
ポリエーテル化合物(B2)のPO/EOのモル比は、20/80〜90/10が好ましく、25/75〜90/10がより好ましい。PO/EOのモル比が20/80未満の場合、油剤への相溶性が悪くなる場合がある。一方、90/10超の場合、集束性が悪くなる場合がある。
ポリエーテル化合物(B2)の重量平均分子量は、1000〜20000が好ましく、1500〜12000がより好ましく、1500〜8000がさらに好ましい。重量平均分子量が200未満の場合、集束性が悪くなる場合がある。一方、重量平均分子量が20000超の場合、処理剤への相溶性が劣り、粘度も高くなり過ぎ、処理剤の糸への均一付着性が劣る場合がある。なお、本発明での重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF−402HQ、KF−403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0038】
鉱物油(B3)としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができる。鉱物油は、1種または2種以上を併用してもよい。
鉱物油の粘度(レッドウッド粘度、25℃)は、耐熱性の点から、150〜500秒が好ましく、150〜300秒がさらに好ましい。
【0039】
(成分(C))
本発明の合成繊維用処理剤は、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル、該ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル、該ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物および該縮合物の少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルから選ばれる少なくとも1種の成分(C)を含有することが好ましい。このような成分(C)を有機亜鉛金属化合物(A)と用いることにより、フィラメント糸条の集束性が向上し、毛羽・断糸を防止する効果、特に高速化での延伸で糸の損傷防止に効果を発揮する。
【0040】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)は、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上(好ましくは全部)の水酸基がエステル化されている。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0041】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、たとえば、炭素数6〜22(好ましくは12〜22)のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。
【0042】
炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸としては、たとえば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸挙げられ、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸が好ましい。多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0043】
アルキレンオキシドの付加モル数は、上記ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの水酸基1モル当量当り、好ましくは5〜80、さらに好ましくは5〜30である。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。アルキレンオキシドの付加は公知の方法により行うことができるが、塩基性触媒の存在下にて行うことが一般的である。
【0044】
ポリヒドロキシエステルは、たとえば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、ひまし油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ひまし油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによっても、好適に製造できる。
ポリヒドロキシエステルを製造する場合、多価アルコールの水酸基1モル当量あたりのヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基モル当量は、0.5〜1の範囲であることが好ましい。
【0045】
成分(C)には、上述のポリヒドロキシエステルの少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルも含まれる。封鎖する脂肪酸の炭素数は10〜50が好ましく、12〜18がさらに好ましい。脂肪酸中の炭化水素基の炭素数は分布があってもよく、炭化水素基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、多環構造を有していてもよい。このような脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。エステル化の方法、反応条件等については特に限定はなく、公知の方法、通常の条件を採用できる。
【0046】
また、成分(C)には、上述のポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物(以下、縮合物ということがある)も含まれる。ジカルボン酸の炭素数については、2〜10が好ましく、2〜8がさらに好ましい。このようなジカルボン酸としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸等が挙げられる。ジカルボン酸と共に、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸等のジカルボン酸以外のカルボン酸を20%以下(好ましくは10%以下)含有してもよい。ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物を製造する場合、ポリヒドロキシエステルの水酸基1モル当量あたりのジカルボン酸のカルボキシル基モル当量は、0.2〜1の範囲であることが好ましく、0.4〜0.8がさらに好ましい。エステル化の方法、反応条件等については特に限定はなく、公知の方法、通常の条件を採用できる。
【0047】
また、成分(C)には、上述の縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルも含まれる。脂肪酸としては、「ポリヒドロキシエステルの少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル」で記載したものと同様なものを挙げることができる。
【0048】
成分(C)の重量平均分子量は、1000〜8000が好ましい。重量平均分子量が1000未満の場合は、糸条の集束性が低下し、操業性が悪化することがある。一方、重量平均分子量が8000超の場合は、糸条の動摩擦が高くなり、毛羽、断糸の原因となることがある。
【0049】
成分(C)におけるアルキレンオキサイドの付加量は、30〜60重量%が好ましい。30重量%未満の場合は、糸条の集束性が低下し、操業性が悪化することがある。一方、60重量%を超えると、処理剤の相溶性が悪化し、処理剤の機能が低下することがある。
【0050】
成分(C)としては、例えば、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリオレエート、ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリステアレート、ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリステアレート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物とマレイン酸との縮合物、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物とマレイン酸との縮合物の水酸基をステアリン酸で封鎖したエステルなどが挙げられる。これらのなかでも処理剤の耐熱性と相溶性の点で、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物トリステアレート、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物とマレイン酸との縮合物の水酸基をステアリン酸で封鎖したエステルが好ましい。
【0051】
(合成繊維用処理剤)
本発明の合成繊維用処理剤は、前述の有機亜鉛化合物(A)とベース成分(B)とを必須に含有し、有機亜鉛化合物(A)を特定量含むものである。処理剤の不揮発分に占める有機亜鉛化合物(A)の重量割合は、0.5〜6重量%であり、0.5〜5重量%が好ましく、1.0〜4.5重量%がより好ましく、1.5〜4重量%がさらに好ましい。有機亜鉛化合物(A)の重量割合が0.5重量%未満の場合、制電性およびラビング特性が不充分となり、製糸速度や後加工速度を上げた場合、発生静電気量および毛羽・断糸や染色不良の発生が増加する。また、6重量%より多くなると、糸条の動摩擦が高くなり、毛羽・断糸の原因となる。
なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0052】
処理剤の不揮発分に占めるベース成分(B)の重量割合は、30〜98重量%が好ましく、35〜95重量%がより好ましく、40〜90重量%がさらに好ましく、45〜85重量%が特に好ましい。ベース成分(B)がエステル化合物(B1)を含む場合、処理剤の不揮発分に占めるエステル化合物(B1)の重量割合は、30〜80重量%が好ましく、35〜75重量%がより好ましく、40〜60重量%がさらに好ましい。ベース成分(B)がポリエーテル化合物(B2)を含む場合、処理剤の不揮発分に占めるポリエーテル化合物(B2)の重量割合は、30〜98重量%が好ましく35〜95重量%がより好ましく、40〜90重量%がさらに好ましく、45〜85重量%が特に好ましい。ベース成分(B)が鉱物油(B3)を含む場合、処理剤の不揮発分に占める鉱物油(B3)の重量割合は、30〜80重量%が好ましく、35〜75重量%がより好ましく、40〜60重量%がさらに好ましい。
【0053】
成分(C)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める成分(C)の重量割合は、1〜30重量%が好ましく、5〜25重量%がより好ましく、8〜20重量%がさらに好ましい。重量割合が1重量%未満の場合、糸条の集束性が低下し、操業性が悪化することがある。一方、30重量%を超える場合、糸条の動摩擦が高くなり、毛羽、断糸の原因となることがある。
【0054】
本発明の合成繊維用処理剤は、処理剤のエマルション化、繊維への付着性補助、繊維からの処理剤の水洗、繊維への制電性、潤滑性、集束性の付与等のために、さらに界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニールエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリエチレングリコールジオレート、ポリオキシエチレングリセリンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等の非イオン性界面活性剤;アルキルホスフェートの金属塩/またはアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルホスフェートの金属塩/またはアミン塩、アルカンスルホン酸塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキルイミダゾリニウム塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これら界面活性剤は、1種又は2種以上で併用してもよい。界面活性剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める界面活性剤の重量割合は、特に限定はないが、0.1〜50重量%が好ましく、0.1〜30重量%がより好ましい。なお、ここでいう界面活性剤は、重量平均分子量が1000未満のものをいう。
【0055】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのジエステル化合物や含芳香環シリコーン化合物を含有してもよい。なお、処理剤がこのジエステル化合物を含有する場合、前述のエステル化合物(B1)は、このジエステル化合物を除くものとする。
【0056】
チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのジエステル化合物は、抗酸化能を有する成分である。該ジエステル化合物を使用することで、処理剤の耐熱性を高めることができる。1種または2種以上を使用してもよい。該ジエステル化合物を構成するチオジプロピオン酸の分子量は、400〜1000が好ましく、500〜900がより好ましく、600〜800がさらに好ましい。該ジエステル化合物を構成する脂肪族アルコールは、飽和であっても不飽和であってもよい。また、脂肪族アルコールは、直鎖状であっても分岐構造を有していてもよいが、分岐構造を有するものが好ましい。脂肪族アルコールの炭素数は8〜24が好ましく、12〜24がより好ましく、16〜24がさらに好ましい。脂肪族アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、イソセチルアルコール、オレイルアルコールおよびイソステアリルアルコールなどが挙げられ、これらの中でもオレイルアルコール、イソステアリルアルコールが好ましい。
【0057】
本発明の処理剤が前記ジエステル化合物を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める前記ジエステル化合物の重量割合は、0.1〜40重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、3〜12重量%がさらに好ましい。40重量%を越えると、熱ローラーなどの加熱体の表面の汚れ発生が多くなる場合がある。
【0058】
含芳香環シリコーン化合物とは、ジメチルポリシロキサン等のポリシロキサンの両末端、片末端、側鎖、側鎖両末端の少なくとも1ヶ所において、フェニル基、ナフタレン基等の芳香環を有する基で変性された変性シリコーンをいう。含芳香環シリコーン化合物は1種または2種以上を使用してもよい。
含芳香環シリコーン化合物としては、フェニル変性ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等が用いられる。粘度(25℃)は10〜500mm/sが好ましく、20〜200mm/sがより好ましく、50〜100mm/sがさらに好ましい。ポリシロキサン鎖を構成するメチル基(M)と芳香環を有する基(P)のモル比(M/P)は、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、0が特に好ましい。
【0059】
本発明の処理剤が前記含芳香環シリコーン化合物を含有するとき、処理剤の不揮発分に占めるシリコーン化合物の重量割合は、0.1〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。
【0060】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、耐熱性を付与するため、さらに酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、フェノール系、チオ系、ホスファイト系等の公知のものが挙げられる。酸化防止剤は1種または2種以上を併用してもよい。酸化防止剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める酸化防止剤の重量割合は、特に限定はないが、0.1〜5重量%が好ましく、0.1〜3重量%が好ましい。
【0061】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。処理剤に占める原液安定剤の重量割合は、0.1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。
【0062】
本発明の合成繊維用処理剤は、不揮発分のみからなる前述の成分で構成されていてもよく、不揮発分と原液安定剤とから構成されてもよく、不揮発分を低粘度鉱物油で希釈したものでもよく、水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンであってもよい。本発明の合成繊維用処理剤が水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンの場合、不揮発分の濃度は5〜30重量%が好ましく、6〜20重量%がより好ましい。
【0063】
本発明の合成繊維用処理剤の製造方法については、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。合成繊維用処理剤は、構成する前記の各成分を任意の順番で添加混合することによって製造される。
【0064】
(合成繊維フィラメント糸条)
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、原料合成繊維フィラメント糸条に対して、本発明の合成繊維用処理剤が付与されたものである。合成繊維用処理剤の不揮発分の付与量は、原料フィラメント糸条に対して、0.2〜4重量%が好ましく、0.3〜2重量%がより好ましく、0.35〜1.5重量%がさらに好ましい。0.2重量%未満の場合、繊維を処理剤で充分覆うことができず、毛羽や断糸が発生する場合がある。一方、4重量%超の場合、処理剤付与工程での処理剤飛散が増え、作業環境を悪化させる場合がある。
原料合成繊維フィラメント糸条に本発明の合成繊維用処理剤を付与する方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することできる。通常、原料合成繊維フィラメント糸条の紡糸工程または延伸工程で付与され、原料合成繊維フィラメントに対して、不揮発分のみからなる処理剤、不揮発分を低粘度鉱物油で希釈した処理剤、又は水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョン処理剤をオイリングローラーやガイドオイリング等を用いて付与する方法等が挙げられる。
【0065】
(原料)合成繊維フィラメント糸条としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維のフィラメント糸条が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維に適している。ポリエステル繊維としては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PET)、トリメチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PTT)、ブチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PBT)、乳酸を主たる構成単位とするポリエステル(PLA)等が挙げられ、ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられ、ポリオレフィン繊維としては、ポリプロピレン等が挙げられる。また、近年発展を遂げているアラミド繊維や高強度ポリエチレン繊維、芳香族ポリエステル繊維といったスーパー繊維にも好適に用いられる。合成繊維フィラメント糸条の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【0066】
(繊維構造物)
本発明の繊維構造物は、本発明の合成繊維用処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条を含むものである。具体的には、本発明の合成繊維用処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条を用いてウォータージェット織機、エアジェット織機、または、レピア織機で織られた織物、および丸編み機、経編み機、または、緯編み機で編まれた編物である。また繊維構造物の用途としては、タイヤコード、シートベルト、エアバッグ、魚網、ロープ等の産業資材、衣料用等が挙げられる。織物、編物を製造する方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【0067】
本発明の繊維構造物は、本発明の合成繊維用処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条を用いているので、静電気の発生を低減して製造することができ、毛羽・断糸、染色性不良が低減される。
【実施例】
【0068】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、文中および表中の「%」は「重量%」を意味する。
【0069】
(実施例1〜15および比較例1〜6)
表2、3に記載の成分(成分詳細は表1に記載)を混合攪拌して、各実施例・比較例の合成繊維用処理剤を調整した。なお、表2及び表3中の配合表の数字は重量部数で示す。次に、処理剤に占める不揮発分濃度が20重量%になるよう、合成繊維用処理剤を水中油型に分散させた(O/W型エマルション状態にした)処理剤を調製した。
紡糸速度1000m/min、糸条フィラメントへの処理剤の不揮発分の付与量が0.8重量%になる条件で、紡糸直後のポリエステル繊維糸条フィラメントに、メタリングポンプ装置を用いてこの処理剤を付与して一旦捲き取ること無く直接延伸を行い、処理剤が付与された糸条(1100dtex/192f)を得た。このフィラメント糸条を用いて、20℃、65%RHの温湿度条件下で、下記の方法により、平滑性、制電性、ラビング試験、集束性、処理剤相溶性、染色性の評価を行った。その結果を表2、3に示す。
【0070】
(平滑性)
走糸法摩擦測定機(東レエンジニアリング製YF−870)を用い、下記条件で摩擦を測定し、摩擦係数を算出した。
糸速度:100m/min
ホットローラー温度:20℃
摩擦体:φ40mm梨地クロムピン
接触角(θ):π(ラジアン)
荷重(T):500g
摩擦係数=(1/θ)ln(T/T
:測定張力
<判定方法>
平滑性良好:摩擦係数0.190以下
平滑性不良:摩擦係数0.190より大
【0071】
(制電性)
走糸法摩擦測定機を用い、摩擦特性を測定した時に摩擦体で発生する静電気量を集電気(春日式集電器:KS−525)で測定した。
<判定方法>
制電性良好:−0.5〜+0.5kV
制電性不良:−0.5kV以下、+0.5kV以上
【0072】
(ラビング特性)
図1の装置を用い、下記条件で処理剤を付与した糸条が切断するまでのストローク回数を測定した。数値が大きいほど、ラビング特性は良好である。
荷重W:300g
撚り掛け数:2回
繊維−繊維の交差角度:60°
<判定方法>
ラビング性良好:150回以上
ラビング性不良:150回未満
【0073】
(集束性)
フィラメント糸条を水平に設置した棒に固定し、棒からの長さが30cmとなるように調整する。更に、フィラメント糸条下方に荷重(200g)を掛ける。次に、鋏で糸条中央を切断し、その際の切断部分の糸バラケ状態を目視判定した。なお、表では集束性と示す。
<判定方法>
○:殆ど糸はバラケていない
×:切り口から上方向に糸が10cm以上割れた
【0074】
(処理剤相溶性)
各成分を添加混合した時の処理剤の相溶化状態を目視判定した。
<判定方法>
○:透明均一化している
×:2相分離、あるいは、曇りが認められた
【0075】
(染色性)
得られたポリエステルフィラメント糸条を(株)小池機械製作所製の丸編み機で筒編みを作製し、ポリエステル編地の染色処理を行った。染色処理を行ったポリエステル編地をグレースケールに装着し、編地1m当たりの染色欠点数から以下の基準により染色性を評価した。
<判定方法>
染色欠点無し:◎
染色欠点 1個 以上2個未満:○
染色欠点2個以上10個未満:△
染色欠点10個以上:×
【0076】
(実施例16〜21および比較例7〜10)
表4に記載の成分(成分詳細は表1に記載)を混合攪拌して、各実施例・比較例の合成繊維用処理剤を調整した。次に、処理剤に占める不揮発分濃度が13重量%になるよう、合成繊維用処理剤を水中油型に分散させた(O/W型エマルション状態にした)処理剤を調製した。
次いで、エクストルーダーで口金から吐出、冷却固化された、酸化チタンを0.4%含有したポリエステルセミダル糸条フィラメントに対して、メタリングポンプ装置を用いたガイドオイリング方式にて、処理剤の不揮発分の付与量が0.8重量%となるようO/W型エマルションを付与し、一旦捲き取ること無く引続いて延伸を行い、処理剤が付与された糸条(84dtex/36f)を得た。このフィラメント糸条を用いて、20℃、65%RHの温湿度条件下で、制電性、集束性、処理剤相溶性、染色性については実施例1〜15と同じ方法により、平滑性、ラビング特性については下記の方法により評価を行った。その結果を表4に示す。
【0077】
(平滑性)
走糸法摩擦測定機(東レエンジニアリング製YF−870)を用い、下記条件で摩擦を測定し、摩擦係数を算出した。
糸速度:100m/min
ホットローラー温度:20℃
摩擦体:φ40mm梨地クロムピン
接触角(θ):π(ラジアン)
荷重(T):10g
摩擦係数=(1/θ)ln(T/T
:測定張力
<判定方法>
平滑性良好:摩擦係数0.230以下
平滑性不良:摩擦係数0.230より大
【0078】
(ラビング特性)
図1の装置を用い、下記条件で処理剤を付与した糸条が切断するまでのストローク回数を測定した。数値が大きいほど、ラビング特性は良好である。
荷重W:150g
撚り掛け数:1.5回
繊維−繊維の交差角度:45°
<判定方法>
ラビング性良好:150回以上
ラビング性不良:150回未満
【0079】
(実施例22〜23および比較例11〜13)
表5に記載の成分(成分詳細は表1に記載)を混合攪拌して、各実施例・比較例の合成繊維用処理剤を調整した。次に、処理剤に占める不揮発分濃度が10重量%になるよう、合成繊維用処理剤を水中油型に分散させた(O/W型エマルション状態にした)処理剤を調製した。
次いで、エクストルーダーで口金から吐出、冷却固化された、酸化チタン含有量0.4重量%のポリエステルセミダル糸条に対して、メタリングポンプ装置を用いたガイドオイリング方式にて、処理剤の不揮発分の付与量が0.4重量%となるようO/W型エマルションを付与し、133dtex/36fの部分配向糸(Partially Oriented Yarn;以下POYと略す)を紡糸し、3000m/minの速度で巻き取ることで、10kg捲きチーズを得た。次に、得られたPOYを用いて、熱板接触加熱方式である仮撚り加工機にて、下記の仮撚り加工条件で、延伸仮撚り加工を行い、84dtex/36fの仮撚り加工糸(Draw Texturing Yarn;以下DTYと略す)を得た。この仮撚り加工糸を用いて、20℃、65%RHの温湿度条件下で、制電性、集束性、処理剤相溶性、染色性については実施例1〜15と同じ方法により、ラビング特性については実施例16〜21と同じ方法により、平滑性については下記の方法により評価を行った。その結果を表5に示す。
【0080】
<仮撚り加工条件>
熱板接触加熱方式である仮撚り加工機の延伸仮撚り条件
仮撚り加工機:帝人精機(株)製 HTS−15V
加工速度:800m/min
延伸比(DR):1.60
撚り掛け装置:3軸ディスク摩擦方式 1−5−1
(ガイドディスク1枚−ワーキング(ポリウレタン)ディスク5枚−ガイドディスク1枚)
ディスク速度/糸速度(D/Y):1.8
オーバーフィード率:3%
第一ヒーター(加撚側)温度:200℃
第二ヒーター(解撚側)温度:室温
【0081】
(平滑性)
走糸法摩擦測定機(東レエンジニアリング製YF−870)を用い、下記条件で摩擦を測定し、摩擦係数を算出した。なお、表では平滑性と示す。
糸速度:100m/min
ホットローラー温度:20℃
摩擦体:φ40mm梨地クロムピン
接触角(θ):π(ラジアン)
荷重(T):10g
摩擦係数=(1/θ)ln(T/T
:測定張力
<判定方法>
平滑性良好:摩擦係数0.300以下
平滑性不良:摩擦係数0.300より大
【0082】
【表1】

「POE30mol硬化ひまし油エーテル、マレイン酸、ステアリン酸縮合物」は、硬化ひまし油エーテルとマレイン酸との縮合物の水酸基をステアリン酸で封鎖したエステルをいう。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される有機亜鉛化合物(A)と、(ポリ)オキシアルキレン基を有しないエステル化合物、ポリエーテル化合物および鉱物油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(B)とを必須に含有し、処理剤の不揮発分に占める該有機亜鉛化合物(A)の重量割合が0.5〜6重量%である、合成繊維用処理剤。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭化水素基を示す。)
【請求項2】
処理剤の不揮発分に占める前記ベース成分(B)の重量割合が30〜98重量%である、請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
さらに、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル、該多価アルコールエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル、該多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物および該縮合物の少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルから選ばれる少なくとも1種の成分(C)を含有し、処理剤の不揮発分に占める成分(C)の重量割合が1〜30重量%である、請求項1または2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの重量平均分子量が1000〜8000である、請求項3に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記合成繊維が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維またはポリオレフィン繊維である、請求項1〜4のいずれかに記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
原料合成繊維フィラメント糸条に対して、請求項1〜5のいずれかに記載の合成繊維用処理剤が付与された、合成繊維フィラメント糸条。
【請求項7】
請求項6に記載の合成繊維フィラメント糸条を含む、繊維構造物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−7141(P2013−7141A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141565(P2011−141565)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】