説明

合成繊維用処理剤

【課題】過酷な条件下で製糸されるエアバッグ用ナイロン繊維に対し長時間毛羽が発生し難く生産性が向上できる処理剤を提供する。
【解決手段】平滑剤成分(A)及び乳化剤成分(B)を含有し、(A)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(A)成分の含有率を乗じた数と、(B)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(B)成分の含有率を乗じた数の合計値が10.0未満である合成繊維用処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤(以下、処理剤と略記する)に関する。さらに詳しくは、エアバッグ用ナイロン繊維の紡糸、延伸工程において使用される処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ用ナイロン繊維の紡糸、延伸工程を円滑に進めるために種々の処理剤が目的に応じて使用されている。近年、生産性及び品質向上のため、ますます紡糸、延伸速度が高速化、かつ延伸ローラー等の加熱体の高温化が進んでいる。このような過酷な条件下で製糸されるため、紡糸、延伸工程において毛羽等が発生し易くなる。特に延伸ローラー等の加熱体の高温化に伴い、処理剤の加熱劣化が促進され短時間で毛羽が発生し易く、そのため掃除周期が短くなり生産性が低下するという問題がある。このことから処理剤には長時間毛羽が発生し難く生産性を向上できるものが望まれている。従来から、生産性を向上させた処理剤として、多価エステル化合物、アニオン界面活性剤及び2種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する処理剤(例えば特許文献1)、チオジプロピオン酸ジアルキル等の含硫黄ジエステル化合物、ホスフェート化合物及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する処理剤(例えば特許文献2)、多価エステル化合物、チオエーテル基を有するエステル化合物、二級スルホネート化合物、有機ホスフェート化合物及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する処理剤(例えば特許文献3)、チオジプロピオン酸ジアルキル等の含硫黄ジエステル化合物、2種類のヒンダードフェノール系酸化防止剤及びホスフェート金属塩を含有する処理剤(例えば特許文献4)、多価エステル化合物及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する処理剤(例えば特許文献5)、芳香族エステル化合物、有機カルボン酸及び各種酸化防止剤を含有する処理剤(例えば特許文献6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−211680号公報
【特許文献2】特開平7−216735号公報
【特許文献3】特開平8−120563号公報
【特許文献4】特開平10−325074号公報
【特許文献5】特開平5−140870号公報
【特許文献6】特開2004−292961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの処理剤を使用しても毛羽が発生し、生産性は十分ではなかった。本発明の目的は、過酷な条件下で製糸されるエアバッグ用ナイロン繊維に対し長時間毛羽が発生し難く生産性が向上できる処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、平滑剤成分(A)及び乳化剤成分(B)を含有し、(A)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(A)成分の含有率を乗じた数と、(B)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(B)成分の含有率を乗じた数の合計値[以下、(IVav)と略記する場合がある]が10.0未満である合成繊維用処理剤;該処理剤を20〜90重量%の鉱物油溶液となし、該溶液を合成繊維に対し処理剤として0.1〜3.0重量%となるよう付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法;及び該処理方法で処理されてなる合成繊維である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の処理剤は、紡糸、延伸工程で必要な平滑性、制電性に優れており、かつ紡糸、延伸速度の高速化、延伸ローラー等の加熱体の高温化においても処理剤加熱劣化物の除去性が優れるため、毛羽が発生し難く長時間生産を継続でき、掃除周期を延長することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の処理剤は、平滑剤成分(A)及び乳化剤成分(B)を含有してなる。
本発明における(A)としては、アルコールの1価脂肪酸エステル(A1)、1価アルコールの2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A2)及び1価アルコールアルキレンオキサイド付加物の2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)等が挙げられる。
【0008】
(A1)としては、例えば、炭素数8〜26の直鎖若しくは分岐の1価アルコールまたは炭素数3〜6の多価アルコールと、炭素数8〜18の直鎖または分岐の1価脂肪酸から得られるエステルなどが挙げられる。(A2)としては、例えば、炭素数8〜26の直鎖または分岐の1価アルコールと炭素数4〜10の2価脂肪酸から得られるエステル及び炭素数8〜26の直鎖または分岐の1価アルコールとチオジプロピオン酸などの含硫黄2価脂肪酸から得られるエステルなどが挙げられる。(A3)としては、例えば、炭素数8〜26の直鎖または分岐の1価アルコールアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する)付加物と炭素数4〜10の2価脂肪酸から得られるエステル、炭素数8〜26の直鎖または分岐の1価アルコールAO付加物とチオジプロピオン酸などの含硫黄2価脂肪酸から得られるエステルなどが挙げられる。
【0009】
(A1)を構成する炭素数3〜6の多価アルコールとしては、2価アルコール(1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコールなど)及び3〜6価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びソルビタンなど)などが挙げられる。
【0010】
(A1)を構成する炭素数8〜18の直鎖または分岐の1価脂肪酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸及び硬化牛脂脂肪酸などが挙げられる。
【0011】
(A1)、(A2)及び(A3)を構成する直鎖または分岐の炭素数8〜26の1価アルコールとしては、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソデカノール、分岐デカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、分岐ウンデカノール、ドデカノール、イソドデカノール、分岐ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、分岐トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、イソオクタデカノール、分岐オクタデカノール、2−オクチルデカノール、2−オクチルドデカノール、2−デシルドデカノール、2−デシルテトラデカノール、2−デシルペンタデカノール、2−ウンデシルテトラデカノール及び2−ウンデシルペンタデカノールなどが挙げられる。
【0012】
(A2)及び(A3)を構成する炭素数4〜10の2価脂肪酸としては、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸などが挙げられる。
【0013】
(A3)を構成するAOとしては、例えば、炭素数2〜12のAOが挙げられ、具体的にはエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記する)、ブチレンオキサイド(以下、BOと略記する)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記する)及びスチレンオキサイド(以下、SOと略記する)などが挙げられる。これらAOの1価アルコールまたは多価アルコールへの付加は、公知の方法が適用できる。例えば、1価アルコールまたは多価アルコールに触媒の存在下でAOを付加させることによりAO付加物を得ることができる。反応温度は、通常10〜180℃であり、反応時間は、1〜48時間である。AOは単独でも2種以上を混合して使用しても良い。2種以上のAOを付加させる場合、その付加様式は特に限定されず、ランダム付加でもブロック付加でも良い。AOを付加させる際に用いられる触媒としては、アルカリ触媒(水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムなど)、酸性触媒(過ハロゲン酸(塩)、硫酸(塩)、リン酸(塩)及び硝酸(塩)など)、金属アルコラート触媒(ナトリウムメチラート及びカリウムブチラートなど)などが挙げられる。
【0014】
(A1)の具体例としては、2−オクチルデカノールのステアリン酸エステル、2−オクチルドデカノールのパルミチン酸エステル、2−オクチルドデカノールのステアリン酸エステル、2−デシルテトラデカノールのステアリン酸エステル、ネオペンチルグリコールの硬化牛脂脂肪酸エステル、グリセリンのパーム油脂肪酸エステル、トリメチロールプロパンのラウリン酸エステル、トリメチロールプロパンのヤシ油脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールのペラルゴン酸エステル、ペンタエリスリトールの2−エチルヘキサン酸エステル及びソルビタンのヤシ油脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
(A2)の具体例としては、オクタノールのセバシン酸エステル、デカノールのセバシン酸エステル、ドデカノールのアジピン酸エステル、トリデカノールのアジピン酸エステル、ドデカノールのチオジプロピオン酸エステル、分岐ドデカノールのチオジプロピオン酸エステル、トリデカノールのチオジプロピオン酸エステル、分岐トリデカノールのチオジプロピオン酸エステル、2−オクチルデカノールのチオジプロピオン酸エステル、2−デシルテトラデカノールのチオジプロピオン酸エステル、2−デシルペンタデカノールのチオジプロピオン酸エステル、2−ウンデシルテトラデカノールのチオジプロピオン酸エステル及び2−ウンデシルペンタデカノールのチオジプロピオン酸エステルなどが挙げられる。
【0016】
(A3)の具体例としては、オクタノールEO3モル付加物のセバシン酸エステル、デカノールEO2モル付加物のセバシン酸エステル、ドデカノールEO3モル付加物のアジピン酸エステル、トリデカノールEO3モル付加物のアジピン酸エステル、ドデカノールEO3モル付加物のチオジプロピオン酸エステル、分岐ドデカノールEO3モル付加物のチオジプロピオン酸エステル、トリデカノールEO3モル付加物のチオジプロピオン酸エステル、及び分岐トリデカノールEO3モル付加物のチオジプロピオン酸エステルなどが挙げられる。
【0017】
(A)は所望により2種以上のものを適宜併用してもよい。
(A)のうち好ましいものは、アルコールの1価脂肪酸酸エステル(A1)及び1価アルコールAO付加物の2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)からなる群から選ばれる1種以上であり、さらに好ましいものは、アルコールの1価脂肪酸エステル(A1)と1価アルコールAO付加物の2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)との併用である。特に好ましいものはトリメチロールプロパンの1価脂肪酸エステル及び1価アルコールAO付加物の2価脂肪酸エステル又は含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)である。
【0018】
本発明における(B)としては、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(B1)、多価アルコールアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステル(B2)、1価アルコールアルキレンオキサイド付加物(B3)及び水酸基を有する動植物油のアルキレンオキサイド付加物(B4)等が挙げられる。
【0019】
(B1)としては、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(以下、Mwと略記する)が200〜1,000のポリアルキレングリコールの炭素数8〜18の脂肪族カルボン酸[脂肪族飽和カルボン酸(カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸など)、動植物油脂肪酸(ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸及び硬化牛脂脂肪酸など)]エステルなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール(Mw:200)のヤシ油脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(Mw:400)のラウリン酸エステル、ポリエチレングリコール(Mw:600)のカプリン酸エステル、ポリエチレングリコール(Mw:1000)の2−エチルヘキサン酸エステル及びポリプロピレングリコール(Mw:400)のヤシ油脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0020】
前記(B1)のMwは、GPCを用いて以下の条件で測定することができる。
<Mwの測定条件>
機種:HLC−8120[東ソー(株)製]
カラム:TSK gel SuperH4000
TSK gel SuperH3000
TSK gel SuperH2000
[いずれも東ソー(株)製]
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6ml/分
試料濃度:0.25重量%
注入量:10μl
標準:ポリオキシエチレングリコール
[東ソー(株)製;TSK STANDARD
POLYETHYLENE OXIDE]
データ処理装置:SC−8020[東ソー(株)製]
【0021】
(B2)としては、炭素数3〜6の脂肪族多価(2〜6価)アルコール[脂肪族2価アルコール(1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコールなど)、脂肪族3〜6価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びソルビタンなど)]の炭素数2〜12のAO付加物の炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸[脂肪族飽和カルボン酸(カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸など)、動植物油脂肪酸(ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸及び硬化牛脂脂肪酸など)]エステルなどが挙げられる。具体的には、1,4−ブタンジオールEO20モル付加物のステアリン酸エステル、ネオペンチルグリコールEO25モル付加物の硬化牛脂脂肪酸エステル、トリメチロールプロパンEO24モル付加物のラウリン酸エステル、トリメチロールプロパンEO24モル付加物のステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールEO20モル付加物のヤシ油脂肪酸エステル及びソルビタンEO20モル付加物のパーム油脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
(B3)としては、例えば、炭素数4〜26の直鎖または分岐の1価アルコール(ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソデカノール、分岐デカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、分岐ウンデカノール、ドデカノール、イソドデカノール、分岐ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、分岐トリデカノール、テトラデカノール、分岐テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、イソオクタデカノール、分岐オクタデカノール、2−オクチルデカノール、2−デシルドデカノール、2−デシルテトラデカノール、2−デシルペンタデカノール、2−ウンデシルテトラデカノール及び2−ウンデシルペンタデカノール)のAO付加物が挙げられる。具体的には、n−ブタノールのEO11モル付加物、n−ヘキサノールのEO9モル付加物、n−オクタノールのEO11モル付加物、2−エチルヘキサノールのEO12モル付加物、イソデシルアルコールのEO8モル付加物、n−ブタノールのEO42モル付加物、2−エチルヘキサノールのEO40モル付加物、イソデシルアルコールのEO38モル付加物、ドデカノールのEO12モル付加物、分岐ドデカノールのEO5モル付加物、トリデカノールのEO13モル付加物、分岐トリデカノールのEO5モル付加物、テトラデカノールのEO12モル付加物、分岐テトラデカノールのEO5モル付加物、オクタデカノールのEO13モル付加物、分岐オクタデカノールのEO12モル付加物、2−オクチルデカノールのEO15モル付加物、2−デシルテトラデカノールのEO13モル付加物、2−デシルペンタデカノールのEO13モル付加物、2−ウンデシルテトラデカノールのEO13モル付加物、2−ウンデシルペンタデカノールのEO13モル付加物、n−ブタノールのEO11モル・PO8モルランダム付加物、n−ヘキサノールのEO9モル・PO7モルランダム付加物、n−オクタノールのEO11モル・PO9モルランダム付加物、2−エチルヘキサノールのEO12モル・BO9モルランダム付加物、イソデシルアルコールのEO8モル・THF6モルランダム付加物、n−ブタノールのEO42モル・PO32モルランダム付加物、2−エチルヘキサノールのEO40モル・PO30モルランダム付加物、イソデシルアルコールのEO38モル・PO28モルランダム付加物、ドデカノールのEO12モル・PO8モルランダム付加物、トリデカノールのEO13モル・PO7モルランダム付加物、分岐トリデカノールのEO12モル・PO9モルランダム付加物、オクタデカノールのEO13モル・PO9モルランダム付加物、分岐オクタデカノールのEO12モル・PO7モルランダム付加物、2−オクチルデカノールのEO15モル・PO10モルランダム付加物、2−デシルテトラデカノールのEO13モル・PO9モルランダム付加物、2−デシルペンタデカノールのEO13モル・PO9モルランダム付加物、2−ウンデシルテトラデカノールのEO13モル・PO9モルランダム付加物、2−ウンデシルペンタデカノールのEO13モル・PO9モルランダム付加物、n−ブタノールのPO17モル・EO15モルブロック付加物、n−ヘキサノールのPO16モル・EO14モルブロック付加物、n−オクタノールのPO15モル・EO13モルブロック付加物、2−エチルヘキサノールのPO15モル・EO13モルブロック付加物、2−エチルヘキサノールのPO20モル・EO9モルブロック付加物、デシルアルコールのPO15モル・EO12モルブロック付加物、イソデシルアルコールのPO18モル・EO7モルブロック付加物、ドデカノールのEO12モル・PO8モルブロック付加物、トリデカノールのEO13モル・PO7モルブロック付加物、分岐トリデカノールのEO12モル・PO9モルブロック付加物、オクタデカノールのEO13モル・PO9モルブロック付加物、分岐オクタデカノールのEO12モル・PO7モルブロック付加物、2−オクチルデカノールのEO15モル・PO10モルブロック付加物、2−デシルテトラデカノールのEO13モル・PO9モルブロック付加物、2−デシルペンタデカノールのEO13モル・PO9モルブロック付加物、2−ウンデシルテトラデカノールのEO13モル・PO9モルブロック付加物及び2−ウンデシルペンタデカノールのEO13モル・PO9モルブロック付加物などが挙げられる。
【0023】
(B4)としては、水酸基を有する動植物油(硬化ヒマシ油など)の炭素数2〜12のAO付加物などが挙げられる。具体的には、硬化ヒマシ油のEO10モル付加物及び硬化ヒマシ油のEO25モル付加物などが挙げられる。
【0024】
(B)は所望により2種以上のものを適宜併用してもよい。
(B)のうち好ましいものは、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(B1)、1価アルコールAO付加物(B3)、水酸基を有する動植物油のAO付加物(B4)であり、さらに好ましいものは、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(B1)、1価アルコールAO付加物(B3)であり、特に好ましいものは、Mwが500〜1,500のポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(B1)である。
【0025】
本発明の処理剤は、(A)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(A)成分の含有率を乗じた数と、(B)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(B)成分の含有率を乗じた数の合計値(IVav)が10.0未満であることを構成要件とする。例えば、本発明の処理剤が、(A)成分(ヨウ素価=10.0)を80重量部、及び(B)成分(ヨウ素価=8.5)を20重量部含有してなる場合、(IVav)=[(10.0×0.8)+(8.5×0.2)]=9.7となる。また、本発明の処理剤が、(A−1)成分(ヨウ素価=9.0)を40重量部、(A−2)成分(ヨウ素価=11.0)を40重量部、(B−1)成分(ヨウ素価=10.0)を10重量部、及び(B−2)成分(ヨウ素価=8.0)を10重量部含有してなる場合、(IVav)=[(9.0×0.4)+(11.0×0.4)+(10.0×0.1)+(8.0×0.1)]=9.8となる。
【0026】
清掃周期は、処理剤の加熱劣化により発生する処理剤加熱劣化物の量および硬さに相関があると考えられている。しかし、そのメカニズムについては何も明確にされていなかった。今回、本発明者等が鋭意検討した結果、処理剤の加熱劣化によって生じる処理剤加熱劣化物の平均粒子径および粒子個数が清掃周期と相関があることを突き止め、それは処理剤成分のヨウ素価比率のバランスに依存していることを新たに発見した。
(IVav)が10.0以上では、高温下の延伸ローラー等の加熱体上に堆積する処理剤加熱劣化物の除去性が悪くなり劣化物堆積量が増加することで紡糸、延伸工程においてその劣化物に繊維糸条が引っ掛かり易くなり、短時間で毛羽が発生、掃除周期が短くなり生産性が低下する。
【0027】
ヨウ素価は、以下の方法で測定することができる。
<操作方法>
試料1gを三角フラスコに正しく秤取り、クロロホルム10mlを加えて溶かし(※-1)、これにウィイス液25mlを正しく加え、ヨウ素および塩素の飛散を防ぐため、10%ヨウ化カリウム溶液で潤した栓で密栓して静かに振り混ぜる。溶液が透明にならない時は、更にクロロホルムを追加して透明な溶液とする。
(※-1)溶解しにくい時は、水浴中にて加熱溶解した後20℃〜30℃まで冷却する。
これを1時間、20〜30℃の暗所に置き、時々振り混ぜる。
これに10%ヨウ化カリウム溶液20mlおよび水100mlを加えて振り混ぜる。
次に、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定し、溶液が微黄色になった時(※-2)、でんぷん指示薬を約1ml加え、更に三角フラスコをよく振り混ぜながら0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定し、ヨウ素ででんぷんの青色が消失する点を終点とする。
(※-2)微黄色になってから、でんぷん溶液を加えないと変色が不明確となり、誤差の原因となる。
以上の操作を2個の試料について行うとともに空試験を行う。
<計算式>
IV =(Y−X)× f × 1.269/S
<記号の説明>
IV : ヨウ素価(略号、IV)。
X : 本試験に要した0.1mol/lチオ硫酸ナトリウム標準溶液のml数。
Y : 空試験に要した0.1mol/lチオ硫酸ナトリウム標準溶液のml数。
f : 0.1mol/lチオ硫酸ナトリウム標準溶液の力価。
S : 試料採取量(g)。
【0028】
(A)と(B)の重量比(A)/(B)は2.0〜4.0であることが好ましい。2.0以上では平滑性の点で好ましく、4.0未満であると制電性の点で好ましい。
【0029】
本発明の処理剤には、その性能を損なわない範囲でその他の任意の公知成分(C)を配合することができる。
(C)としては、例えば、酸化防止剤、柔軟剤(水酸基を有する動植物油のAO付加物と2価脂肪酸と1価脂肪酸のポリエステルなど)、pH調整剤(水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなどのアルカリ類、アルキルアミン及びアルキルアミンのAO付加物などのアミン類、オレイン酸などの有機酸類など)、制電剤(ホスフェート及び脂肪酸石鹸など)、シリコーン類(ポリジメチルシロキサン及びアルキル変性シリコーンなど)、紫外線吸収剤、粘度調整剤及び外観調整剤などが挙げられる。これらの(C)の含有量は、処理剤全体に対し、0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。0.5重量%以上5重量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明の合成繊維の処理方法は、本発明の処理剤を20〜90重量%の鉱物油溶液となし、該溶液を合成繊維に対し合成繊維用処理剤として0.1〜3.0重量%となるよう付着させることを特徴とする。
処理剤の合成繊維への付着方法としては、公知の方法等が使用でき、ローラー又はガイド給油装置等を用いて、紡糸工程、延伸工程又は巻取り前に付与することができる。本発明の処理剤の合成繊維に対する付着量は、通常、処理前の合成繊維の重量に基づいて0.1〜3重量%である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、表中の数値は重量部(有効成分)を表す。
【0032】
<実施例1>
酸化防止剤(C−1)0.5重量部、トリメチロールプロパンのヤシ油脂肪酸トリエステル(A1−1)77.5重量部、ポリエチレングリコール(Mw:200)のジヤシ油脂肪酸エステル(B1−1)7.0重量部、分岐トリデカノールのEO5モル付加物(B3−1)2.0重量部及び硬化ヒマシ油のEO10モル付加物(B4−1)10.0重量部を50〜80℃で1時間撹拌混合した。均一化後、30℃に冷却し、pH調整剤(C−3)2.0重量部、制電剤(C−4−2)0.5重量部及びシリコーン類(C−5)0.5重量部を加え、実施例1の処理剤を調製した。
【0033】
<実施例2〜8及び比較例1〜6>
表1記載の配合処方で、実施例1と同様にして各成分を配合し、実施例2〜8及びと比較例1〜6の処理剤を調製した。
【0034】
表1記載の実施例1〜8及び比較例1〜6の処理剤を用い、加熱劣化物の除去性評価、平滑性評価、制電性評価を行った。これらの結果を表1に示す。また、処理剤の(IVav)を併せて表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例及び比較例で調整した処理剤の加熱劣化物の除去性評価法、ナイロンエアバッグ糸を用いた平滑性評価法及び制電性評価法は以下の通りである。
【0037】
<処理剤加熱劣化物の除去性評価法>
調製した処理剤を市販のナイロンエアバッグ糸(462dtx)に処理剤(純分)として10.0重量%となるように付着させた試験糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で摩擦体(表面梨地クロムメッキ、直径5cm)に初期荷重200g、糸速度0.5m/min、接触角180°で5時間接触させ、接触後の摩擦体に堆積した加熱劣化物の粒子径及び個数を走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製JSM−7000F型)にて測定し、次の基準で判定した。なお、測定面積は7mm2とした。値が低い程、処理剤劣化物の除去性が良好であり、紡糸、延伸工程で毛羽が発生し難く、掃除周期が延長でき生産性が向上することを示す。
[判定基準]
◎:平均粒子径が5μm未満かつ個数が99個以下
○:平均粒子径が5μm以上10μm未満かつ個数が99個以下
△:平均粒子径が10μm以上30μm未満かつ個数が99個以下
×:平均粒子径が30μm以上または個数が100個以上
【0038】
<平滑性評価法>
調製した処理剤を市販のナイロンエアバッグ糸(462dtx)に処理剤(純分)として1.0重量%となるように付着させた試験糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で摩擦体(表面梨地クロムメッキ、直径5cm)に初期荷重100g、糸速度100m/min、接触角180°で接触させ、接触後の荷重(g)を測定し、次の基準で判定した。値が低い程、平滑性が良好であることを示す。
[判定基準]
◎:荷重が205g未満
○:荷重が205g以上215g未満
△:荷重が215g以上230g未満
×:荷重が230g以上
【0039】
<制電性評価法>
調製した処理剤を市販のナイロンエアバッグ糸(462dtx)に処理剤(純分)として1.0重量%となるように付着させた試験糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で摩擦体(表面梨地クロムメッキ、直径5cm)に初期荷重10g、糸速度100m/min、接触角360°で接触させ、接触時の摩擦帯電量を集電式電位差測定装置を用い測定し、次の基準で判定した。値が0に近い程、制電性が良好であることを示す。
[判定基準]
◎:摩擦耐電圧が−50V以上
○:摩擦帯電量が−100V以上−50V未満
△:摩擦帯電量が−200V以上−100V未満
×:摩擦帯電量が−200V未満
【0040】
なお、表1における各成分は以下の通りである。
・A1−1:トリメチロールプロパンのヤシ油脂肪酸トリエステル(ヨウ素価:9.8)
・A1−2:ペンタエリスリトールのペラルゴン酸テトラエステル(ヨウ素価:0)
・A1−3:トリメチロールプロパンのオレイン酸トリエステル(ヨウ素価:76.8)
・A1−4:2−オクチルドデカノールのステアリン酸エステル(ヨウ素価:1.6)
・A1−5:2−デシルテトラデカノールのオレイン酸エステル(ヨウ素価:38.4)
・A2−1:2−デシルテトラデカノールのアジピン酸ジエステル(ヨウ素価:0.4)
・A2−2:2−デシルテトラデカノールのチオジプロピオン酸ジエステル(ヨウ素価:0.4)
・A2−3:オレイルアルコールのチオジプロピオン酸ジエステル(ヨウ素価:70.8)
・A3−1:ラウリルアルコールEO3モル付加物のアジピン酸ジエステル(ヨウ素価:0.1)
・A3−2:ラウリルアルコールEO3モル付加物のチオジプロピオン酸ジエステル(ヨウ素価:0.1)
・B1−1:ポリエチレングリコール(Mw:200)のジヤシ油脂肪酸エステル(ヨウ素価:8.0、Mw:582)
・B1−2:ポリエチレングリコール(Mw:400)のジオレイン酸エステル(ヨウ素価:51.0、Mw:926)
・B2−1:トリメチロールプロパンEO24モル付加物のラウリン酸トリエステル(ヨウ素価:0.1)
・B2−2:トリメチロールプロパンEO24モル付加物のオレイン酸トリエステル(ヨウ素価:59.9)
・B2−3:トリメチロールプロパンEO24モル付加物のステアリン酸ジエステル(ヨウ素価:0.3)
・B3−1:分岐トリデカノールのEO5モル付加物(ヨウ素価:0)
・B3−2:オレイルアルコールのEO7モル付加物(ヨウ素価:41.8)
・B3−3:2−エチルヘキサノールのPO15モル・EO13モルブロック付加物(ヨウ素価:0)
・B4−1:硬化ヒマシ油のEO10モル付加物(ヨウ素価:1.1)
・B4−2:ヒマシ油のEO10モル付加物(ヨウ素価:38.0)
・B4−3:硬化ヒマシ油のEO25モル付加物(ヨウ素価:0.6)
・酸化防止剤(C−1):トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
・柔軟剤(C−2):硬化ヒマシ油のEO25モル付加物とマレイン酸とステアリン酸のポリエステル
・pH調整剤(C−3):牛脂アルキルアミンのEO15モル付加物
・制電剤(C−4−1):2−デシルテトラデカノールのリン酸エステルナトリウム塩(モノエステル体/ジエステル体=50/50)
・制電剤(C−4−2):オレイン酸カリウム塩
・シリコーン類(C−5):ポリジメチルシロキサン[粘度20mm2/s(25℃)]
【0041】
表1から明らかなように、本発明の処理剤(実施例1〜8)は、処理剤加熱劣化物の除去性、平滑性及び制電性のすべてにおいて優れていることが判る。
それに対し、処理剤の(IVav)が10.0以上の比較例1〜6は性能項目をすべて満たすものはない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の処理剤は、紡糸、延伸工程で必要な平滑性、制電性に優れ、かつ近年のより紡糸、延伸速度の高速化、延伸ローラー等の加熱体の高温化においても処理剤加熱劣化物の除去性が優れることにより、毛羽が発生し難く長時間生産を継続でき、掃除周期を延長することが可能であり、特にストレート給油方式のエアバッグ用ナイロン繊維の紡糸、延伸工程に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤成分(A)及び乳化剤成分(B)を含有し、(A)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(A)成分の含有率を乗じた数と、(B)が有するヨウ素価に(A)及び(B)の総重量に基づく(B)成分の含有率を乗じた数の合計値が10.0未満である合成繊維用処理剤。
【請求項2】
平滑剤成分(A)が、アルコールの1価脂肪酸酸エステル(A1)、1価アルコールの2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A2)及び1価アルコールアルキレンオキサイド付加物の2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
平滑剤成分(A)が、アルコールの1価脂肪酸エステル(A1)及び1価アルコールアルキレンオキサイド付加物の2価脂肪酸エステルまたは含硫黄2価脂肪酸エステル(A3)である請求項1又は2記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
乳化剤成分(B)が、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(B1)、多価アルコールアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステル(B2)、1価アルコールアルキレンオキサイド付加物(B3)及び水酸基を有する動植物油のアルキレンオキサイド付加物(B4)からなる群から選ばれる1種以上である請求項1〜3いずれか1項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
(A1)がトリメチロールプロパンの炭素数8〜18の直鎖または分岐の1価脂肪酸エステルである請求項2又は3に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
(B1)がポリアルキレングリコールの炭素数8〜18の直鎖または分岐の1価脂肪酸エステルであり、重量平均分子量が500〜1,500である請求項4に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
(A)と(B)の重量比(A)/(B)が2.0〜4.0である請求項1〜6のいずれかに記載の合成繊維用油剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の合成繊維用処理剤を20〜90重量%の鉱物油溶液となし、該溶液を合成繊維に対し合成繊維用処理剤として0.1〜3.0重量%となるよう付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項9】
合成繊維がエアバッグ用ナイロン繊維である請求項8に記載の合成繊維の処理方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の処理方法により処理されてなる合成繊維。

【公開番号】特開2012−92481(P2012−92481A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209579(P2011−209579)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】