説明

合成開口レーダ装置

【課題】 航空機や衛星等の移動プラットフォームに送信アンテナを搭載し、地上に受信アンテナを設置し、GPS受信機で受信したGPS信号を用いて、送信アンテナと受信アンテナの時刻同期を行うバイスタティック合成開口レーダ装置において、GPS信号の精度が劣化した場合にも、ぼけのない合成開口レーダ画像を得る。
【解決手段】 送信側レーダとは異なる位置に設けられて離間配置された第1、第2の受信用アンテナを設け、第1、第2の受信用アンテナから受信した高周波パルス信号の位相差の観測値から、送信側レーダの時刻同期用信号と受信側レーダの時刻同期用信号の時刻同期誤差を求め、求めた時刻誤差によって第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号の位相補正を行い、合成開口処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機や衛星等に搭載する合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)装置に係り、特に、地表や海面を観測し、画像化する合成開口レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダは、航空機や衛星等の移動プラットフォームに搭載され、移動しつつ進行方向の側方に電波を送受信して地表や海面の観測を行うことにより、二次元の高分解能画像を得るレーダである(例えば、特許文献1参照)。また、バイスタティックレーダは、電波の送信アンテナと受信アンテナを異なる位置に設置するレーダである(例えば、非特許文献1参照)。これらを組み合わせたレーダは、バイスタティック合成開口レーダと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−188084号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Alvin S. Goh 他、“The Ingara Bistatic SAR Upgrade: First Results”、IEEE Radar Conference Sep. 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイスタティック合成開口レーダ装置の運用形態として、送信アンテナを航空機あるいは衛星に搭載し、受信アンテナを地上に設置することがある。その際、別々に運用される送信側と受信側とで両者の時刻を同期させる。この時刻を同期させる手段としては、GPS受信機を用いる方法がある。精度の良いGPS受信機を用いることにより、数ns〜数十nsの時刻同期精度が期待できる。
【0006】
ただし、GPS信号の受信状況があまり期待できない環境で運用する場合や、GPS衛星が老朽化した場合等、GPSの時刻精度が劣化してしまった場合には、上記時刻同期の精度が劣化する。この劣化は、合成開口レーダ画像に誤差を生じ、画像をぼけさせてしまうという問題があった。
【0007】
この発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、送信アンテナと受信アンテナを異なる位置に設置する際、GPS受信機による送信側と受信側の時刻同期精度の劣化を抑えることのできる合成開口レーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る合成開口レーダ装置は、移動プラットフォームに搭載され、高周波パルス信号を空間に放射する送信用アンテナと、移動プラットフォームに搭載され、送信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて高周波パルス信号を生成し、上記送信用アンテナに出力する励振機及び信号処理器と、移動プラットフォームに搭載され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記送信側時刻同期用信号を生成し、上記励振機及び信号処理器に上記送信側時刻同期用信号を出力する送信側GPS受信機とを有した送信側レーダと、上記送信側レーダとは異なる位置に設けられ、上記送信用アンテナで送信されてターゲットで反射した高周波パルス信号を受信する第1の受信用アンテナと、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、上記送信用アンテナで送信され、ターゲットで反射した高周波パルス信号を受信し、上記第1の受信用アンテナに対して上記移動体プラットフォームの移動方向に離間配置された第2の受信アンテナと、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、受信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号を受信する受信機及び信号処理器と、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記受信側時刻同期用信号を生成し、上記受信機及び信号処理器に上記受信側時刻同期用信号を出力する受信側GPS受信機とを有した受信側レーダと、を備え、上記受信機及び信号処理器は、上記第1、第2の受信用アンテナから受信した高周波パルス信号の位相差の観測値から、上記送信側時刻同期用信号と上記受信側時刻同期用信号との時刻同期誤差を求め、求めた時刻誤差によって上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号の位相補正を行い、合成開口処理を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る合成開口レーダ装置は、GPS受信機による送信側レーダと受信側レーダの時刻同期誤差による、合成開口レーダ画像の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明に係る実施の形態1による合成開口レーダ装置の構成を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による合成開口レーダ装置の信号処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1による合成開口レーダ装置の構成を示す図である。図において、実施の形態1の合成開口レーダ装置は、航空機や衛星等の移動プラットフォームに搭載された送信用アンテナ1と、上記移動プラットフォームに搭載された励振機及び信号処理器2と、上記移動プラットフォームに搭載されたGPS受信機3からなる送信側レーダと、地上に設けられた第1の受信用アンテナ5と、地上に設けられた第2の受信用アンテナ6と、地上に設けられた受信機及び信号処理器7と、地上に設けられたGPS受信機8からなる受信側レーダによって構成されて、バイスタティック合成開口レーダを構成する。第1の受信用アンテナ5と第2の受信用アンテナ6は、一定距離だけ離して設置される。
【0012】
励振機及び信号処理器2は、高周波パルス信号を生成する。送信用アンテナ1は、励振機及び信号処理器2により生成された高周波パルス信号を空間に放射する。励振機及び信号処理器2は、GPS受信機3からの時刻同期用の信号(送信側時刻同期用信号)を用いて地上の受信側との時刻の同期を行う。励振機及び信号処理器2は、当該送信側時刻同期用信号により同期した時刻にあわせて高周波パルス信号を生成し、送信用アンテナ1に出力する。GPS受信機3は、GPS衛星4からのGPS信号を受信し、このGPS信号を元に時刻同期用の信号を励振機及び信号処理器2に出力する。GPS衛星4は、地球の周りを周回し、位置及び時刻の情報を送信する。
【0013】
第1の受信用アンテナ5は、送信用アンテナ1から送信され、ターゲットで反射した高周波パルス信号を受信する。第2の受信用アンテナ6は、第1の受信用アンテナ5と同じく送信用アンテナ1から送信され、ターゲットで反射した高周波パルス信号を受信する。GPS受信機8は、GPS衛星からの信号を受信し、この信号を元に時刻同期用の信号(受信側時刻同期用信号)を受信機及び信号処理器7に出力する。受信機及び信号処理器7は、GPS受信機8からのGPS信号を用いて航空機あるいは衛星の送信側との時刻の同期を行う。また、受信機及び信号処理器7は、当該同期した時刻にあわせて、第1、第の受信用アンテナ5,6で受けた高周波パルス信号をそれぞれ受信するとともに、当該2つのアンテナで受信した各々の高周波パルス信号を用いて時刻の誤差を求め、フォーカスしたSAR画像を得るためのSAR信号処理を行う。
【0014】
次に、受信機及び信号処理器7において、フォーカスしたSAR画像を得るためのSAR信号処理について説明する。第1の受信用アンテナ5と第2の受信用アンテナ6は、合成開口レーダ装置の送信側レーダを搭載した移動プラットフォームの移動方向と平行になるように、互いに離れて設置される。ここでは第1、第2の受信用アンテナ5、6の移動プラットフォームに対する移動方向の設置位置を各々x1、x2とする。好ましくは、第1の受信用アンテナ5と第2の受信用アンテナ6は、移動プラットフォームの移動軌道上の真下にあると良い。なお、第1、第2の受信用アンテナ5、6が移動プラットフォームの移動軌道と平行になるように、第1、第2の受信用アンテナ5、6の設置位置を予め調整しておくと良い。
【0015】
受信機及び信号処理器7は、第1,第2の受信用アンテナ5,6を介してそれぞれ得られた受信信号について、各々SAR画像再生処理を行う。ここで、第1,第2の受信用アンテナ5,6を介してそれぞれ得られる同じターゲットからの現在時刻tにおける受信信号位相φ1、φ2は、次式で表される。
【0016】
【数1】


【0017】
式(1)、(2)において、λは送信用アンテナ1から放射される既知の送信電波の波長(レーダ波長)、vは移動プラットフォームの移動速度、Δtは上記送信側時刻同期用信号と受信側時刻同期用信号との時刻同期誤差、AzはSAR画像におけるターゲットのアジマス方向の位置、Rtは送信側レーダの移動軌道とターゲットの間の距離(レンジ)、Rrは受信側レーダの移動軌道とターゲットの間の距離(レンジ)、cは送信用アンテナ1から放射される送信電波の搬送波速度(光速)である。また、受信位相φ1,φ2の観測値は、第1,第2の受信用アンテナ5,6からの受信信号を位相検波することによって計測される(例えば、IQ分離した受信信号の実部と虚部の逆正接(arctangent)を得ることで求められる)。移動速度vは移動プラットフォームに搭載された速度センサによって計測される。
【0018】
この式(1)、(2)の右辺において、Δt以外の変数t(例えばt=0)、λ、v、x1、x2は既知であり、Az、Rt、RrはSAR画像を求めるターゲットの位置から得ることができる。また、左辺のφ1−φ2の観測値は、SAR画像を得るために第1,第2の受信用アンテナ5,6を介してそれぞれ得られた各受信信号φ1,φ2の観測値の差分から求めることができる。
【0019】
このため、第1,第2の受信用アンテナ5,6を介してそれぞれ得られた受信信号について、各々SAR画像再生処理を行った後、式(1)、(2)を用いてΔtの関数となるφ1−φ2の位相差分を求め、求めたΔtの関数となる位相差分について、φ1−φ2の観測値を代入することで、時刻同期誤差Δtの値を解くことができる。
求めた時刻同期誤差Δtを用いて、第1,第2の受信用アンテナ5,6を介してそれぞれ得られた受信信号の位相を補正し、位相の補正された受信信号について再度SAR画像再生処理を行うことにより、フォーカスさせたSAR画像を得ることが可能となる。
【0020】
なお、SAR画像再生処理の詳細については、例えば、「W.G.Carra et al. ,'Spotlight Synthetic Aperture Radar -Signal Processing Algorithm-',Artech House,London,1995 p.95-132」や、非特許文献2に記載されるので、ここでは説明を割愛する。
【0021】
次に、実施の形態1による合成開口レーダ装置の信号処理動作の流れについて更に説明する。図2は、実施の形態1による合成開口レーダ装置の受信機及び信号処理器で実施される信号処理の流れを示す図である。
【0022】
図において、ステップS1では、第1の受信用アンテナ5で得られた受信信号のRAWデータ(生データ)に対し、SAR画像再生処理を行い、SAR画像1を得る。同じく、第2の受信用アンテナ6で得られた受信信号のRAWデータ(生データ)に対し、SAR画像再生処理を行い、SAR画像2を得る。
この時点では、SAR画像1、2は、時刻同期の誤差によって、画像がフォーカスしていないアンフォーカス状態となっている。
【0023】
次に、ステップS2では、得られたSAR画像1,2により、同じターゲットからの位相差φ1−φ2を算出する。
ステップS3では、式(1)、式(2)を用いて、時間差Δtを算出する。
【0024】
ステップS4では、算出したΔt及び第1の受信アンテナ5のRAWデータを用いて、再度SAR画像再生処理を行い、フォーカスしたSAR画像1を得る。
【0025】
ここで、第1の受信アンテナ5のRAWデータのかわりに、第2の受信アンテナ6のRAWデータを用いても良い。
【0026】
以上説明した通り、実施の形態1による合成開口レーダ装置は、移動プラットフォームに搭載され、高周波パルス信号を空間に放射する送信用アンテナと、移動プラットフォームに搭載され、送信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて高周波パルス信号を生成し、上記送信用アンテナに出力する励振機及び信号処理器と、移動プラットフォームに搭載され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記送信側時刻同期用信号を生成し、上記励振機及び信号処理器に上記送信側時刻同期用信号を出力する送信側GPS受信機とを有した送信側レーダと、上記送信側レーダとは異なる位置に設けられ、上記送信用アンテナで送信されてターゲットで反射した高周波パルス信号を受信する第1の受信用アンテナと、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、上記送信用アンテナで送信され、ターゲットで反射した高周波パルス信号を受信し、上記第1の受信用アンテナに対して上記移動体プラットフォームの移動方向に離間配置された第2の受信アンテナと、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、受信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号を受信する受信機及び信号処理器と、上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記受信側時刻同期用信号を生成し、上記受信機及び信号処理器に上記受信側時刻同期用信号を出力する受信側GPS受信機と有した受信側レーダと、を備え、上記受信機及び信号処理器は、上記第1、第2の受信用アンテナから受信した高周波パルス信号の位相差の観測値から、上記送信側時刻同期用信号と上記受信側時刻同期用信号との時刻同期誤差を求め、求めた時刻誤差によって上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号の位相補正を行い、合成開口処理を行うように構成する。これによって、GPS受信機による送信側レーダと受信側レーダの時刻同期誤差による、合成開口レーダ画像の劣化を抑えることができる。
なお、実施の形態1による合成開口レーダ装置は、GPS衛星の精度が期待できない場所でも利用可能であるため、汎用性が高い。
【符号の説明】
【0027】
1 送信用アンテナ、2 励振機及び信号処理器、3 GPS受信機、4 GPS衛星、5 第1の受信用アンテナ、6 第2の受信用アンテナ、7 受信機及び信号処理器、8 GPS受信機、9 受信機及び信号処理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動プラットフォームに搭載され、高周波パルス信号を空間に放射する送信用アンテナと、
移動プラットフォームに搭載され、送信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて高周波パルス信号を生成し、上記送信用アンテナに出力する励振機及び信号処理器と、
移動プラットフォームに搭載され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記送信側時刻同期用信号を生成し、上記励振機及び信号処理器に上記送信側時刻同期用信号を出力する送信側GPS受信機と、
を有した送信側レーダと、
上記送信側レーダとは異なる位置に設けられ、上記送信用アンテナで送信されてターゲットで反射した高周波パルス信号を受信する第1の受信用アンテナと、
上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、上記送信用アンテナで送信され、ターゲットで反射した高周波パルス信号を受信し、上記第1の受信用アンテナに対して上記移動体プラットフォームの移動方向に離間配置された第2の受信アンテナと、
上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、受信側時刻同期用信号を用いて時刻の同期を行い、同期した時刻にあわせて上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号を受信する受信機及び信号処理器と、
上記送信側レーダとは異なる位置に配置され、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号を元に上記受信側時刻同期用信号を生成し、上記受信機及び信号処理器に上記受信側時刻同期用信号を出力する受信側GPS受信機と、
を有した受信側レーダと、
を備え、
上記受信機及び信号処理器は、上記第1、第2の受信用アンテナから受信した高周波パルス信号の位相差の観測値から、上記送信側時刻同期用信号と上記受信側時刻同期用信号との時刻同期誤差を求め、求めた時刻誤差によって上記第1、第2の受信用アンテナからの高周波パルス信号の位相補正を行い、合成開口処理を行うことを特徴とした合成開口レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−191099(P2011−191099A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55530(P2010−55530)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】