説明

合成siRNA検出方法

【課題】合成siRNA、例えば3’末端がDNAであるsiRNAを精度よく簡便に検出する方法及びこの方法に使用するキットを提供すること。
【解決手段】3’末端がDNAであるsiRNAを検出する方法において、以下の工程(a)〜(c)を含む方法:
(a)検出しようとするsiRNAの少なくとも一方の鎖の3’DNA末端にポリデオキシアデノシン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加RNAを生成する工程、
(b)工程(a)によって生成されたポリdA付加RNAにタグ配列を5’側に有するポリデオキシチミジン(ポリdT)プライマーをアニーリングさせ、当該プライマーからの逆転写反応を行ってDNAを合成する工程、及び
(c)工程(b)によって合成されたDNAを検出する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3’末端がDNAであるsiRNAの検出方法、当該方法に使用するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低分子二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)を利用する遺伝子工学的手法が報告されている。
その代表的技術であるRNA干渉(RNAi:RNA interference)は、dsRNAによってその塩基配列特異的にmRNAが分解され、当該mRNAにコードされるポリペプチドの発現が抑制される現象である。このようにdsRNAによって遺伝子のサイレンシングができることがわかった発端は、線虫におけるアンチセンスを用いた研究からであった。1998年にFireらは、dsRNAが遺伝子サイレンシングの本体であり、アンチセンスRNA及びセンスRNAは遺伝子の発現を抑制できないこと、またアンチセンスRNAとセンスRNAをアニールさせたdsRNAが効率よく遺伝子の発現を抑制できることを明らかにした。前記RNA干渉においては、Dicerと呼ばれる酵素がdsRNAから小分子のRNA(siRNA:small interfering RNA)を生成させる。
【0003】
細胞の細胞質内で起こるこの生物現象は、分子生物学的な研究ツールとして、また、医薬品の標的タンパクを探索する創薬研究などの目的のために広く使われている。一方、細胞内に人為的に送り込まれたdsRNAは、たとえ低濃度であっても、厳密に特定するタンパク質のコピー数を抑えることができることから、合成したdsRNAを核酸医薬品として利用しようとする医薬品開発が進められている。
上記の合成dsRNAとしては、哺乳類動物細胞におけるインターフェロン応答抑制の観点から、通常15〜25塩基対の鎖長の一本鎖RNAからなるdsRNA(siRNA)が選択される。また、各鎖の3’末端側が2〜4塩基突出したdsRNAが使用されることが多く、さらにこの突出末端部分をT(チミン)特にdT(デオキシチミジン)としたものがよく使用されている。
dsRNAを医薬として開発するためには、生体内動態(組織への分布の状況、代謝速度等)の解明等も行われなければならない。しかしながら、特定分子種の低分子RNAを対象とした検出、測定技術は確立されていないのが現状である。
【0004】
突出末端部分がDNAで構成された、すなわち3’末端がDNAであるsiRNAを検出する方法として、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TDT)を使用してsiRNAの3’末端DNAにポリデオキシグアノシン(ポリdG)を付加させ、生じたポリdG部分にアニールするポリデオキシシチジン(ポリdC)プライマーを使用する逆転写反応によりcDNA合成を行い、この後PCRを行う方法が開発されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、siRNAの3’末端へ付加するヌクレオチドは、内因性のmRNAのポリAテイルと区別できることからポリdGが望ましいとされている。このように、細胞など生体試料中に大量に存在するmRNAから微量のsiRNAを検出するためには、siRNAの3’末端へのポリデオキシアデノシン(ポリdA)の付加は避けるべきことが知られている。さらに、同文献にはsiRNAの3’末端へのポリdC及びポリデオキシチミジン(ポリdT)の付加はテイリングされる鎖長の制御が困難であるため、ポリdGが望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/098988号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、合成siRNA、例えば3’末端がDNAであるsiRNAを精度よく簡便に検出する方法及びこの方法に使用するキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。本発明者らは、3’末端がDNAであるsiRNAの検出において、siRNAの3’末端にポリdAを付加させることにより、大量のmRNAの存在下においても、更にsiRNAを特異的に精度よく簡便に検出する方法を開発することに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明を概説すれば、
[1]3’末端がDNAであるsiRNAを検出する方法において、以下の工程(a)〜(c)を含む方法:
(a)検出しようとするsiRNAの少なくとも一方の鎖の3’DNA末端にポリデオキシアデノシン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加RNAを生成する工程、
(b)工程(a)によって生成されたポリdA付加RNAにタグ配列を5’側に有するポリデオキシチミジン(ポリdT)プライマーをアニーリングさせ、当該プライマーからの逆転写反応を行ってDNAを合成する工程、及び
(c)工程(b)によって合成されたDNAを検出する工程、
[2]工程(c)において、合成されたDNAの検出が核酸増幅法により実施される[1]記載の方法、
[3]工程(c)において、合成されたDNAを定量し、工程(a)におけるsiRNAの量が算出される[1]又は[2]記載の方法、
[4]前記ポリdAの付加が、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TDT)によって行われる、[1]〜[3]いずれか1項に記載の方法、
[5]前記工程(c)が、前記DNAを鋳型とし、タグ配列と相同な配列を含むプライマー及び前記siRNAのポリdAが付加された鎖と相同な配列を含むプライマーを使用してPCRを実施する工程である、[2]記載の方法、
[6]前記5’側にタグ配列を有するポリdTプライマーが、3’末端から5’末端方向に、siRNAのDNA配列に相補的な配列、ポリdT配列、タグ配列を含むプライマーである、[1]記載の方法、
[7]dATP、TDT、逆転写酵素、5’側にタグ配列を有するポリdTプライマー、タグ配列と相同な配列を含むプライマーを含む、3’末端がDNAであるsiRNAを検出するためのキット、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、合成された3’末端がDNAであるsiRNAを特異的かつ簡便に検出し、さらにその量を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法と従来の方法により3’末端がDNAであるsiRNAを定量し、得られたCt値より作成した検量線を示す図である。
【図2】本発明の方法により3’末端がDNAであるsiRNAを定量し、得られたCt値より作成した検量線を示す図である。
【図3】本発明の方法により3’末端がDNAであるsiRNAをトータルRNA存在下で定量し、得られたCt値より作成した検量線を示す図である。
【図4】本発明の3’末端がDNAであるsiRNAの検出方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「siRNA」とは、10〜50塩基対の二本鎖領域を有するRNAをいい、通常、その5’末端にリン酸、3’末端に水酸基を有している。末端は平滑末端を形成するか、もしくは1〜4塩基突出した3’末端を有している。一般に化学合成されたsiRNAは、3’末端にDNAが突出(オーバーハング)した構造であることが多く、この突出部分のDNAはdT(デオキシチミン残基)であることが多い。前記siRNAはその製法により限定されることはなく、化学合成又は生化学的手法で人工的合成されたもの、生物体内で生成したもののいずれであってもよい。
【0012】
本明細書において「5’側に有する」とは、ある特定の配列領域が配列全体の中央より5’末端に偏って存在することを意味する。「3’側に有する」はその逆である。
【0013】
本明細書において「タグ配列」とは、様々なアッセイにおいてタグ配列を有する分子を、タグ配列を有しない分子から選別しやすくするために、独自に設定される配列を意味する。タグ配列は、前記の目的に適した鎖長、配列であれば特に限定はなく、任意の配列を使用することができる。例えば、シーケンスプライマーやこれらのプライマー配列を含むベクターが多数製品化されており、これらのプライマーの標的配列をタグ配列として使用することができる。
【0014】
(1)本発明のsiRNAを検出する方法
本発明は、3’末端がDNAであるsiRNAを検出する方法において、以下の工程(a)〜(c)を含む方法である。
(a)検出しようとするsiRNAの少なくとも一方の鎖の3’DNA末端にポリデオキシアデノシン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加RNAを生成する工程、
(b)工程(a)によって生成されたポリdA付加RNAにタグ配列を5’側に有するポリデオキシチミジン(ポリdT)プライマーをアニーリングさせ、当該プライマーからの逆転写反応を行ってDNAを合成する工程、
(c)工程(b)によって合成されたDNAを検出する工程。
【0015】
本発明の方法が検出するsiRNAは、3’末端がDNAであるsiRNAである。siRNAに含まれるDNAの塩基種及び塩基数は特に制限されず、dA、dT、dC、dG、dUの任意の塩基であり、その塩基数は1〜4塩基、好ましくは2塩基である。siRNAの3’末端のDNA部分は突出部を形成していてもよく、平滑末端を形成していてもよい。いずれのsiRNAであっても、3’末端がDNAであれば本発明の方法を用いて検出することが可能である。本発明の方法は、検出しようとするsiRNAの鎖の長さに特に限定はないが、例えば10〜100塩基、好ましくは15〜50塩基、特に好ましくは19〜30塩基のsiRNAを検出することができる。
【0016】
一般に化学合成されたsiRNAは、3’末端にdTが突出した構造であることが多く、本発明の方法においては、このようなsiRNAを好適に検出することができる。また、オーバーハングを構成する塩基の長さも特に制限されないが、通常は、1〜4塩基であり、好ましくは2塩基である。オーバーハングを構成する塩基は、全てDNAであってもよく、3’末端がDNAであれば3’末端以外の塩基がRNAであってもよい。本発明において好ましくは、3’末端にdTが2塩基突出した構造のsiRNAを検出する方法である。
【0017】
本発明の方法によれば、2fM〜200nMのsiRNA、特に20fM〜2nMのsiRNAを精度よく簡便に測定することが可能である。
【0018】
本発明の方法で細胞や生体に由来する試料中のsiRNAを検出することにより、細胞や生体へ投与されたsiRNAの動態を調べることができる。siRNAは短い二本鎖RNAであること、体液中又は臓器中に分布する濃度が低いことから正確な検出が困難であった。本発明の方法は、mRNA、tRNA、rRNAなど大量のRNAが混在する試料であっても、3’末端のDNAを指標としてsiRNAをこれらと区別し、細胞中、組織中、器官中、体液中に分布するsiRNAを定性的に検出し、さらに定量的に検出することが可能である。
【0019】
<工程(a)>
工程(a)において、検出しようとするsiRNAの少なくとも一方の鎖の3’DNA末端にポリdAを付加し、ポリdA付加siRNAを生成させる。siRNAの3’DNA末端へ付加させるポリdAの長さは特に制限されないが、例えば10〜30塩基、好ましくは15〜25塩基の長さである。ポリdAの付加は、DNA末端へdATP(アデノシン三リン酸)を付加させる活性を有する酵素を使用してポリdAテイリング反応により達成される。例えば、TDTとdATPを使用して、テイリング反応を実施することができる。TDTによるポリdAのテイリング反応は、TDTの由来と付加するポリdAの長さに応じて、適宜酵素濃度、反応バッファー組成を調節すればよく、市販されるTDTには推奨される反応条件が示されている。
【0020】
なお、上記工程(a)において、二本鎖の状態のsiRNAにポリdAを付加してもよく、一本鎖の状態に遊離したsiRNAの一方の鎖にポリdAを付加してもよい。
【0021】
<工程(b)>
工程(b)において、工程(a)によって生成されたポリdA付加RNAを鋳型として、タグ配列を5’側に有するポリdTプライマーをアニーリングさせ、当該プライマーからの逆転写反応を行ってDNAを合成する。タグ配列を5’側に有するポリdTプライマーは、3’末端から5’末端の方向に、ポリdT配列領域及びタグ配列領域を有する。前記プライマーは各領域の3’末端及び/又は5’末端に任意の配列をさらに有していても良い。
【0022】
ポリdT配列領域は、デオキシチミジンのホモポリマーであり、ポリdA付加siRNAのポリdA配列領域にアニールする。ポリdT配列領域の全体がポリdAにアニーリングする必要はなく、逆転写反応が可能であればポリdA領域の一部分及び/又はポリdT配列領域の一部分がアニーリングしてもよい。ポリdT配列領域の塩基長は、例えば5〜40塩基、好ましくは10〜30塩基である。本発明の一態様として、ポリdT配列領域の3’末端に、siRNAの3’末端を含むDNA配列に相補的な配列を有するプライマーを使用することができる。すなわち、3’末端から5’末端方向に、検出しようとするsiRNAのDNA配列に相補的な配列、ポリdT配列、タグ配列を含むプライマーを使用することができる。例えば、3’末端にdTが2塩基突出した構造のsiRNAの場合、siRNAのDNA配列に相補的な配列はdA−dAとなる。このようなプライマーは、ポリdA付加siRNAにアニールする位置が定まり、後に続く逆転写反応の特異性が向上する。
【0023】
タグ配列の鎖長及び塩基の並びは特に制限されないが、タグ配列は、工程(b)に続く工程(c)において使用するプライマーの配列と相同な配列となることから、通常、PCR用プライマーとして利用可能な程度の長さであることが好ましい。例えば、タグ配列の塩基長は、約10〜30塩基、好ましくは約15〜25塩基である。通常、検出しようとするsiRNAの配列と類似した配列や自己相補的な配列を含まないタグ配列が好ましい。
【0024】
タグ配列を5’側に有するポリdTプライマーは、ポリdT配列領域が工程(a)のポリdA付加siRNAのdA領域とアニーリングして逆転写反応のプライマーとして機能し、ポリdAが付加したsiRNAの鎖を鋳型として、プライマーの3’末端からDNAが伸長する。タグ配列を5’側に有するポリdTプライマーとポリdA付加siRNAのアニーリングは、一般的な手法によって適宜実施することが可能であるが、例えば、70℃で10分間保持した後に氷冷することにより実施してもよい。
【0025】
逆転写反応は、当業者であれば、逆転写酵素を利用した一般的な手法によって適宜実施することが可能であり、その種類は特に限定されない。逆転写酵素は逆転写活性、すなわちRNAを鋳型としてこれに相補的なDNAを合成する活性を有するものであれば本発明に使用でき、このような逆転写酵素としては、モロニーマウス白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV由来逆転写酵素)やトリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMV由来逆転写酵素)等のウイルス由来の逆転写酵素、サーマス(Thermus)属細菌由来DNAポリメラーゼ(Tth DNAポリメラーゼ等)や好熱性バチルス(Bacillus)属細菌由来DNAポリメラーゼ(Bca DNAポリメラーゼ等)等の真正細菌由来の耐熱性の逆転写酵素が例示される。逆転写反応のための市販の試薬又はキット等も適宜利用することができる。
【0026】
逆転写反応の反応条件は使用する逆転写酵素に応じて適宜設定することができる。例えば、MMLV由来逆転写酵素を使用する場合は、42℃で60分間保持する反応条件で実施することができる。また、逆転写反応後、逆転写酵素を失活させても良い。逆転写酵素の失活は熱処理又は化学的処理により実施される。熱処理は熱感受性逆転写酵素を使用する場合に実施することができ、例えば85℃で5分間処理する。化学的処理は、例えばフェノール−クロロホルム処理等、公知の方法が挙げられる。
【0027】
以上の逆転写反応により、3’末端から5’末端方向に、siRNAの一方の鎖に対応するcDNA、ポリdT、タグ配列を含む構造のDNAが合成される。
【0028】
<工程(c)>
本発明の工程(c)は、工程(b)によって合成されたDNAを検出する工程である。当該DNAを検出する方法は当技術分野の一般的な手法が使用できる。本工程においてsiRNAに由来するDNAが検出された場合、本発明が適用された試料中にsiRNAが存在することが示される。更にDNAを検出・定量することにより、前記試料中に存在するsiRNAの量を知ることができる。例えば、合成されたDNAの検出を核酸増幅法により実施することができる。前記DNAを鋳型とした核酸増幅反応を実施し、増幅産物の有無を調べることにより、siRNAを検出することができる。さらに、例えば前記増幅産物の量と増幅効率に基づいて工程(a)に供されたsiRNAの量を算出することができる。すなわち、本発明により試料中のsiRNAの定性的及び定量的検出方法が提供される。
【0029】
核酸増幅法は公知の技術、例えば、Polymerase chain reaction(PCR)、Isothermal and chimeric primer−initiated amplification of nucleic acids(ICAN)、Loop mediated isothermal amplification(LAMP)、Nucleic acid sequence−based amplification(NASBA)、Strand displacement amplification(SDA)、Ligase chain reaction(LCR)、Rolling Circle Amplification法(RCA法)、Transcription Mediated Amplification(TMA)などの方法を用いることができる。
【0030】
以下、PCRを例に説明する。一般に、PCRは鋳型となるDNAの末端領域にアニーリングするプライマー対を用いて実施される。鋳型となるDNAは一本鎖であっても二本鎖であっても実施することが可能である。DNAを増幅するためのプライマーは、当業者であれば鋳型となるDNAの配列情報に基づいて容易に設計及び合成することが可能である。本発明の一態様として、例えばタグ配列と相同な配列を含むプライマー及びsiRNAのポリAが付加された鎖と相同な配列を含むプライマーからなるプライマー対を使用することができる。siRNAのポリAが付加された鎖と相同な配列とは、siRNAのポリAが付加された鎖の全長に相同な配列及びその一部分に相同な配列を含む。例えば、siRNAのセンス鎖を検出する場合は、3’突出部のDNA配列を除き、センス鎖の配列のrAはdA、rGはdG、rCはdC、rUはdTに置き換えた配列又はその一部を有するセンス鎖特異的プライマーが使用できる。同様に、siRNAのアンチセンス鎖を検出する場合は、3’突出部のDNA配列を除き、アンチセンス鎖の配列のrAはdA、rGはdG、rCはdC、rUはdTに置き換えた配列又はその一部を有するアンチセンス鎖特異的プライマーが使用できる。これらのsiRNAに特異的プライマーを使用することにより、配列特異的にsiRNAを検出することが可能となる。また、これらのセンス鎖及びアンチセンス鎖特異的プライマーは、いずれか一方を使用してもよく、両方を使用してもよい。本明細書において「相同な配列」とは、同一又は類似の配列を有することを意味する。一般に、PCRにおいてプライマーとして機能するオリゴヌクレオチドは、鋳型にアニーリングしてその3’末端からDNAが伸長可能なものであり、プライマーの3’末端と鋳型がアニーリングすることが重要である。つまり、プライマーと鋳型は必ずしも完全にアニーリングする必要が無いことが当技術分野で知られている。本明細書において、ある配列に相同な配列は、当該ある配列の相補的な配列にアニーリング可能な配列であり、例えば20塩基の配列に数個の相補的ではない塩基を含む配列同士であっても、アニーリングすれば相同な配列と言える。ある配列同士がアニーリングするかどうかを確認する方法は、当技術分野において一般的な方法である。プライマーを設計するためのプログラムソフトウエアが多数開発されており、配列同士がアニーリングするか容易に予測することが可能である。また、実際にオリゴヌクレオチドを合成してアニーリングを確認することも容易である。
上記のPCRによりDNA断片(増幅産物)の生成が検出された場合に、被検試料中に目的のsiRNAが存在するものと判定される。公知の方法によりPCR、ならびに増幅産物の検出を実施することができ、市販されている試薬及びキット等を適宜利用することができる。
【0031】
前記PCRには定量PCR、特にリアルタイムPCRを利用することができる。例えば、既知量のsiRNAに本発明の方法を適用し、増幅されるDNA量やCt値をもとに作成した検量線に基づいて、試料中の検出しようとするsiRNAの量を定量することが可能である。リアルタイムPCRにはインターカレーターを使用する方法、プローブ(Taqmanプローブ、サイクリングプローブ等)を使用する方法等が知られているが、いずれの方法も本発明に使用することができる。これらのPCRは、当技術分野において良く知られている技術であり、市販の試薬又はキット等も適宜利用することができる。
【0032】
工程(c)におけるDNAを検出する方法として、前記核酸増幅法の他に、検出プローブによる測定(ドットブロットハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法等)、アレイ解析法等による検出が挙げられる。また、タグ配列を利用して工程(b)で合成されたDNAを一般的な核酸検出方法、例えば電気泳動法によって検出することができる。
【0033】
(2)本発明のsiRNAを検出するためのキット
本発明は、前記(1)の検出方法を実施するためのキットを提供する。当該キットには、dATP、TDT、逆転写酵素、5’側にタグ配列を有するポリdTプライマー、タグ配列と相同な配列を含むプライマーが含まれる。
【0034】
本発明のキットは、さらに本発明の検出方法に使用する試薬類を含むことができる。例えば、TDTの反応バッファー、逆転写酵素の反応バッファー、RNase Inhibitorを含むキットが挙げられる。TDTの反応バッファーはdATPを含有するものが好適である。以上の試薬の他、対照となるsiRNA、対照となるsiRNAの一方の鎖と相同な配列を含むプライマー、取扱説明書等をさらに含むことができる。
【0035】
本発明のキットは、さらに前記(1)の工程(c)で使用するDNAの検出のための試薬を含むことができる。前記試薬としては、例えば核酸増幅法に使用可能なDNAポリメラーゼやその反応バッファーが例示される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1 ポリdG付加反応を利用した合成siRNA定量法との比較
合成siRNAの定量法として報告のあるポリdG付加反応を利用した人工合成siRNAの定量法と本発明の方法を比較した。
(1)siRNAの調製
それぞれ配列番号1及び配列番号2に示される配列からなる2つのRNA鎖で構成されるGL3−siRNA(タカラバイオ社製)の溶液を200nMとなるように調製した。なお、このsiRNAは、3’末端の2塩基はdTであり、それ以外はリボヌクレオチドである。このsiRNA溶液を10倍ずつ希釈し、2fMまで段階的に希釈した。
【0038】
(2)DNA付加反応
TDTによる合成siRNAの3’末端へのデオキシヌクレオチド付加反応を行った。この反応の基質にdATPを使用することで、ポリdA付加を行うことができ、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)を使用することでポリdG付加を行うことができる。
【0039】
実施例1−(1)で調製した各濃度siRNA溶液5μL、14U/μL TDT(タカラバイオ社製)1μL、添付の5×TDT Bufferを5μL、10mM dATP又はdGTP(タカラバイオ社製)5μL、40U/μL Recombinant RNase Inhibitor(タカラバイオ社製)1μLを含む反応溶液25μLを調製し、37℃で30分間保温した。
【0040】
(3)逆転写反応
実施例1−(2)でポリdA付加反応を行った反応液5μLに、6μM オリゴdTプライマー(配列番号3)5μL添加し、全量を10μLにした上で、70℃、5分の熱処理後、氷上で急冷してアニーリングさせた。前記オリゴdTプライマーは3’末端に24塩基のポリdT配列領域、5’末端にPCR増幅を行うためのタグ配列を有する。
【0041】
一方、実施例1−(2)でポリdG付加反応を行った反応液にも6μM オリゴdCプライマー(配列番号6)5μL添加し、同様にアニーリングさせた。前記オリゴdCプライマーは3’末端に17塩基のポリdC領域、5’末端にPCR増幅を行うためのタグ配列を有する。
アニーリングさせた反応液を、PrimeScript(登録商標) RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を使用して42℃、15分で逆転写反応を行った後、85℃、5秒で逆転写酵素を失活させる条件で、一本鎖のDNAを合成した。
【0042】
(4)siRNAの増幅及び検出
実施例1−(3)で調製したDNAを鋳型にSYBR Premix Ex Taq(商標)(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を使用してリアルタイムPCRを行った。このPCR増幅にはタグ配列プライマー(配列番号4)とsiRNAのアンチセンス鎖由来プライマー(配列番号5)を使用した。
【0043】
図1にリアルタイムPCRにより得られたCt値(核酸増幅量がある一定量に達する時の温度サイクル数)とsiRNAの量から作成した検量線を示す。実線はポリdA付加反応を利用して定量した結果を示し、破線はポリdG付加反応を利用して定量した結果を示す。PCR増幅効率はそれぞれの検量線の傾きより求めた。ポリdG付加反応を利用したsiRNAの定量法と比較して、ポリdA付加反応を利用したsiRNA定量法の方が小さいCt値が得られ、またPCR増幅効率も100パーセントに近い値が得られ、理想的なPCR増幅が行われていることが示された。このことは、ポリdA付加反応を利用したsiRNA定量法、すなわち本発明の方法はより広い範囲である6×1011コピー(200nM)から6×10コピー(2fM)のsiRNAを検出可能であることを示し、著しい検出感度の向上を達成した。理想的なPCR増幅さらには幅広い濃度範囲で検出が可能なことから、本発明の方法は検出精度が高く、信頼性の高いsiRNAの検出方法であることが示された。
【0044】
実施例2 ポリdA付加による合成siRNAの定量例
配列番号7及び配列番号8に示される配列を有するPLK1−siRNA、並びに配列番号9及び配列番号10に示される配列を有するMetLuc2−siRNAを合成し、実施例1−(1)のsiRNA溶液の調製及び(2)のDNA付加反応と同様の方法によりポリdA付加反応を行った。
【0045】
続いてポリdA付加反応を行った反応液5μLに、6μM オリゴdTプライマー(AA)(配列番号13)5μL添加し、全量を10μLにした上で、70℃、5分の熱処理後、氷上で急冷しアニーリングさせた。本実験例で使用したsiRNAは3’末端にdTが2塩基突出した構造を有するため、3’末端にdTの2塩基突出に相補的な配列dA−dAを有する前記オリゴdTプライマー(AA)は1つの定められた位置にアニーリングすることができる。前記オリゴdTプライマー(AA)は、さらに24塩基のポリdT領域、5’末端にPCR増幅を行うためのタグ配列領域を有する。
アニーリングさせた反応液を、BluePrint(登録商標) RT reagent Kit(for Real Time)(タカラバイオ社製)を使用して42℃、15分で逆転写反応を行った後、85℃、5秒で逆転写酵素失活させる条件で、一本鎖のDNAを合成した。
【0046】
調製したDNAを鋳型として、実施例1−(4)と同様にリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRに使用したsiRNAのアンチセンス鎖由来プライマーを配列番号11(PLK1−siRNA)及び配列番号12(MetLuc2−siRNA)に示す。得られたCt値より検量線を作成した。この検量線を図2に示す。図2より、これらのsiRNAを使用した場合でも6×10(2nM)から6×10コピー(20fM)のsiRNAを検出可能であり、実施例1と同様に幅広い定量範囲であった。
【0047】
実施例3 トータルRNA含有サンプルにおけるsiRNAの定量例
トータルRNA中に存在する低分子RNAやmRNAなどポリAを有するRNAによる反応系へ影響を確認するため、一定量のトータルRNAが含まれる条件で人工合成siRNAを定量した。
【0048】
実施例1−(1)のsiRNA調製と同様の方法でGL3−siRNAの希釈系列を作成した。なお、希釈には40ng/μL NIH3T3細胞由来のトータルRNA溶液を使用し、DNA付加反応に使用するsiRNA溶液5μLあたり200ngのトータルRNAを加えた。
その後、実施例2と同様の方法で一本鎖のDNAを合成し、続いて実施例1−(4)のsiRNAの増幅及び検出と同様の方法でリアルタイムPCRを行った。
得られたCt値より検量線を作成した。この検量線を図3に示す。図3より、トータルRNAを加えていないコントロールと比較して、トータルRNAによる反応系への影響はほとんど観察されず、ポリAを有する夾雑RNAを含有するサンプルの場合でも6×10(2nM)から6×10(20fM)コピーのsiRNAを検出可能であり、実施例1と同様に幅広い検出範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、合成siRNA、例えば3’末端がDNAであるsiRNAを精度よく簡便に検出する方法及びこの方法に使用するキットが提供される。本発明は、細胞中や生体中のsiRNAを検出する方法に使用され、基礎研究、医療への応用研究分野において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
SEQ ID NO:1: Synthetic oligonucleotide GL3-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:2: Synthetic oligonucleotide GL3-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:3: poly dA primer with tag sequence.
SEQ ID NO:4: Tag sequence primer.
SEQ ID NO:5: Antisense primer for GL3-siRNA.
SEQ ID NO:6: poly dC primer with tag sequence.
SEQ ID NO:7: Synthetic oligonucleotide PLK1-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:8: Synthetic oligonucleotide PLK1-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:9: Synthetic oligonucleotide MetLuc-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:10: Synthetic oligonucleotide MetLuc-siRNA. Nucleotides 1 to 19 are ribonucleotides-other nucleotides are deoxyribonucleotides.
SEQ ID NO:11: Antisense primer for PLK1-siRNA
SEQ ID NO:12: Antisense primer for MetLuc-siRNA
SEQ ID NO:13: Oligo dT primer(AA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’末端がDNAであるsiRNAを検出する方法において、以下の工程(a)〜(c)を含む方法:
(a)検出しようとするsiRNAの少なくとも一方の鎖の3’DNA末端にポリデオキシアデノシン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加RNAを生成する工程、
(b)工程(a)によって生成されたポリdA付加RNAにタグ配列を5’側に有するポリデオキシチミジン(ポリdT)プライマーをアニーリングさせ、当該プライマーからの逆転写反応を行ってDNAを合成する工程、及び
(c)工程(b)によって合成されたDNAを検出する工程。
【請求項2】
工程(c)において、合成されたDNAの検出が核酸増幅法により実施される請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、合成されたDNAを定量し、工程(a)におけるsiRNAの量が算出される請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリdAの付加が、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TDT)によって行われる、請求項1〜3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(c)が、前記DNAを鋳型とし、タグ配列と相同な配列を含むプライマー及び前記siRNAのポリdAが付加された鎖と相同な配列を含むプライマーを使用してPCRを実施する工程である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記5’側にタグ配列を有するポリdTプライマーが、3’末端から5’末端方向に、siRNAのDNA配列に相補的な配列、ポリdT配列、タグ配列を含むプライマーである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
dATP、TDT、逆転写酵素、5’側にタグ配列を有するポリdTプライマー、タグ配列と相同な配列を含むプライマーを含む、3’末端がDNAであるsiRNAを検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−40004(P2012−40004A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159482(P2011−159482)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】