説明

合撚複合糸及びそれを用いた織物

【課題】 伸縮性のある合撚複合糸、及び膨らみ感とドライ感のある風合いと適度な伸縮特性を有する織物を提供することにある。
【解決手段】 熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を接合紡糸したポリエステル複合繊維とアセテート繊維が35%以上80%以下の混率である合撚複合糸及び、該合撚複合糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物であって、該合撚複合糸を用いた方向に伸長率10%以上50%以下、伸長回復率60%以上100%以下を満たす伸縮特性を有する織物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、伸縮性のある合撚複合糸、及び膨らみ感とドライ感のある風合いと適度な伸縮特性を有する織物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来からアセテート繊維は、高光沢でドライな感触、深みのある色調、及び他繊維との優れた親和性等といった特徴を活かして、シルクライクな春夏用衣料素材として幅広く利用されているものの、近年の衣料用繊維素材に関しては、消費者ニーズが多様化、高級化し、より個性的な風合いを有する素材が要求されている。
【0003】例えば、アセテート繊維を織物としたときにアセテート繊維独特のドライ感を維持しつつ、反撥感、張り・腰を有し、且つウールライクな膨らみ感が表現できるとともに、適度な伸縮特性を有する素材に対するニーズが挙げられる。従来、このようなニーズに対して■単一成分からなる熱可塑性繊維、例えばポリエステル等の仮撚加工糸とアセテート繊維を合撚や交絡、混繊した複合糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物、■ウレタン繊維等の伸縮特性を有する繊維にアセテート繊維をカバリング、交絡、混繊した複合糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物が検討されてきた。
【0004】しかしながら、前記■は膨らみ感、適度なドライ感を有する織物が得られるものの、仮撚加工による捲縮形態では伸縮特性が一般的に弱いものである。十分な伸縮特性を得るためには織物規格や織物組織が制限されるとともに、張り・腰、反撥感が不十分な織物しか得られない。また、■は伸縮性は優れるものの、ウレタン繊維は高価格であること、分散染料による堅牢度が悪く、これを改善するための染色加工コストが高くなること等、経済的な問題があり、またウレタン繊維固有の硬さのために風合い面でも問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点を解決し、伸縮性のある合撚複合糸、及び膨らみ感とドライ感のある風合いと適度な伸縮特性を有する織物を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明の第1の要旨は熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を複合紡糸したポリエステル複合繊維とアセテート繊維との合撚糸であり、該アセテート繊維が35%以上80%以下の混率であることを特徴とする合撚複合糸にあり、第2の要旨は該合撚複合糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物であって、該合撚複合糸を用いた方向に伸長率10%以上50%以下、伸長回復率60%以上100%以下を満たす伸縮特性を有する織物にある。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の合撚複合糸で用いられるアセテート繊維は、酢化度53%以上57%以下のセルロースジアセテート繊維又は酢化度60以上62%以下のセルローストリアセテート繊維のいずれも使用することが可能である。また、糸断面形態は特に限定されるものでなく、得られる織物の風合い、光沢等を考慮して、菊型、円形、扁平、Y字等を選択すればよい。
【0008】また、熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を複合紡糸したポリエステル複合繊維は、加熱収縮させるとコイル状等の立体捲縮を生じるものをいう。特にJIS L−1090A法により測定される沸水収縮率が3%以上から25%好ましくは6%以上20%以下のものがよい。
【0009】この様な熱収縮性の異なる2成分からなるポリエステル複合繊維は、粘度の異なる2種のポリエステルポリマーが接合されたものである。2種のポリエステルポリマーは、固有粘度差で0.100以上あることが望ましく、各ポリエステルポリマーは、エチレンテレフタレート単位或いはテトラメチレンテレフタレート単位主体のポリエステルポリマーであればよいが、本発明に用いるポリエステル複合繊維としては、ポリエチレンテレフタレートを低粘度ポリマー及び高粘度ポリマー、或いはポリエチレンテレフタレートを低粘度ポリマー、第三成分を5〜15モル%共重合したエチレンテレフタレート単位主体の共重合ポリエステルを高粘度ポリマー、とする2種のポリエステルポリマーが接合されることが好ましい。
【0010】ポリエステル複合繊維の接合成分としての好ましい共重合ポリエステルの第三成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。より好ましい共重合ポリエステルとしては、イソフタル酸、アジピン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を単独或いは組み合わせて共重合したエチレンテレフタレート単位主体の共重合ポリエステルが挙げられる。
【0011】ポリエステル複合繊維を構成する2成分のポリマーの染色特性に関して、特に限定されることなく、同染色特性のポリマーの組み合わせ、或いは、異染特性を有するポリマー(例えば、分散染料可染ポリエステル成分とカチオン染料可染ポリエステル成分)の組み合わせ等、目的に応じて、且つ、上述のポリマー粘度又は共重合ポリエステルの第三成分等に準じて、選択すればよい。
【0012】ポリエステル複合繊維は、2種のポリエステルポリマが接合比(重量)で30/70〜70/30、より好ましくは40/60〜60/40に接合されていることが望ましい。また、ポリエステル複合繊維は、その単繊維繊度が4デニール以上であり、単繊維繊度が4デニール未満では、織物としたときハリ・腰感に欠ける織物になる。
【0013】ポリエステル複合繊維は、粘度の異なる2種のポリエステルポリマーのそれぞれの溶融流を紡糸口金の上流部でほぼ面対称に合流させて複合流とし、該複合流を4.5〜14cm/秒の吐出線速度で細孔部に続く先端部が円錐状に末広に開口した形状の吐出孔より吐出させることにより安定性よく得ることができる。
【0014】また、ポリエステル複合繊維は糸断面形態は特に限定されるものでなく、得られる織物の風合いや光沢等を考慮して、円形、扁平等を選択すればよい。
【0015】本発明の合撚複合糸におけるアセテート繊維の混率は35%以上80%以下、好ましくは40%以上65%以下である。該混率が35%未満であると、ポリエステル複合繊維の割合が多くなり、ポリエステル繊維独特のヌメリ感が強く影響し、アセテート繊維のドライ感が低下してしまい、目的の織物風合いが得られ難くなる。一方、該混率が80%を越えると合撚複合糸において捲縮特性を発揮するポリエステル複合繊維の割合が減少し、織物としたときに収縮特性、即ち伸長率、伸長回復率が不十分なものとなる。
【0016】本発明の合撚複合糸とは、いわゆる引き揃え撚糸、カバリング撚糸等の、同量又はフィード差をつけて該アセテート繊維と該ポリエステル複合繊維を供給して撚糸を施した合撚複合糸のことである。合撚条件は加工安定性や該合撚複合糸の風合いを考慮し、又合撚複合糸のトータル繊度等から適宜設定されるものであり、特に限定されるものではないが、トータル繊度をDとした場合、合撚数の好ましい範囲は、4500/D1/2T/m以上26000/D1/2T/m以下、更に好ましくは7000/D1/2T/m以上21000/D1/2T/m以下が良い。合撚数が4500/D1/2T/m未満の場合には糸の自由度が大きいために伸縮特性は十分に得られるものの撚糸効果による反撥感や張り腰等の風合いが不十分なものとなり易く、一方、合撚数が26000/D1/2T/mを越えると撚糸効果により糸の自由度が小さくなり、十分な伸縮特性が得られ難くなる。
【0017】本発明の織物は、経糸及び/又は緯糸に本発明の合撚複合糸を用いる。経緯糸ともに本発明の合撚複合糸を用いることは本発明の目的を達成するためには最も好ましいが、例えば織物の一方向にのみに伸縮特性が必要な場合等の理由により、経糸又は緯糸の片方のみ本発明の合撚複合糸を用いることもできる。
【0018】又、他の繊維と混用して織物を製造してもよい。混用する他の繊維としては、例えば、天然繊維や合成繊維の原糸や各種加工糸等を混用することが可能であり、目的の織物風合いや伸縮特性を損なわない範囲で適宜選定すればよく、合撚複合糸の混用比率は本発明の目的を損なわない範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくは35%以上、さらに好ましくは50%以上である。
【0019】本発明の織物は、伸縮特性として伸長率10%以上50%以下、伸長回復率60%以上100%以下、好ましくは伸長率20%以上40%未満、伸長回復率75%以上100%以下の特性を有する。伸長率10%未満では織物の伸びが不十分なものであり、着心地を向上させるには至らない。一方、50%を越えると衣料としたときの寸法安定性に問題を生じ且ついわゆるパワーストレッチ性を求めない本発明の織物では不必要な伸縮特性となってしまう。又、伸長回復率60%未満もしくは100%を越えると衣料としたときの寸法安定性に問題が生じ、形態安定性が不十分となる。
【0020】本発明の織物の組織は、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織及びこれらの変化組織による織物製造が可能であり、目的の織物風合い、意匠性等を考慮して選択すればよい。又、織り密度は糸の自由度を決定する因子であり、選択した織物の組織、及び目的の伸縮特性、風合い等を考慮して適宜設定すればよい。
【0021】製織に次いで施される精練リラックス工程及び染色仕上げ工程は、アセテート繊維とポリエステル繊維が混用された通常織物と同様に常法に従って行えばよい。すなわち例えばジアセテート繊維を用いた織物の場合、精錬リラックスは60〜90℃で10〜20分の処理をし、染色はサーキュラー染色の際は85〜100℃で30〜60分で行えばよい。
【0022】
【実施例】以下に本発明を実施例にて説明する。又、伸長率、伸長回復率はJIS L―1096により測定した。
【0023】(実施例1)平均酢化度55.2%のジアセテートをアセトンを主とした混合溶剤に溶解し、ジアセテート紡糸原液を作製した。この紡糸原液を用いて乾式法により紡糸し、84dTex/21fのジアセテート繊維を得た。一方、紡出時の固有粘度が0.504のポリエチレンテレフタレートと5−ナトリウムスルホイソフタル酸1.0モル%及びアジピン酸12モル%をポリエチレンテレフタレートに共重合した紡出時の固有粘度が0.622の共重合ポリエステルとを接合成分とし、各成分の溶融流を紡糸口金の上流部で面対称に合流させ、複合流を細孔部に続く先端部がテーパ角度15゜に円錐状に末広に開口した形状の吐出孔より吐出させて紡糸し、接合比(重量)が50/50の56dTex/12フィラメントの円形断面のポリエステル複合繊維を得た。ジアセテート繊維とポリエステル複合繊維を、合撚数1200T/mで合撚加工し合撚複合糸A(合計繊度140dTex)を得た(S撚方向の合撚複合糸を(S)、Z方向の合撚複合糸を(Z)とする)。次いで表1の条件で、合撚複合糸を経糸及び緯糸に用いた織物を作り、常法に従い精練リラックス、染色仕上げ加工をして、仕上げ幅98cm、緯糸密度99本/2.54cmのアセテート織物を得た。
【0024】得られた織物をハンドリングにより風合い評価した結果、反撥感、膨らみ感、サラッとした適度なドライ感、張り腰を有し、且つ経糸方向の伸縮特性は、伸張率13.5%及び伸張回復率86.0%、緯糸方向の伸縮特性は、伸長率22.5%及び伸長回復率88.4%を有する織物であった。また、染色時の同色性も特に問題ないものであった。
【0025】
【表1】


【0026】(実施例2)実施例1と同様に、ジアセテート繊維とポリエステル複合繊維を、合撚数1200T/mで合撚加工し合撚複合糸A(合計繊度140dTex)を得た。次いで表2の条件で織物を作り、常法に従い精練リラックス、染色仕上げ加工をして、仕上げ幅98cm、緯糸密度99本/2.54cmのアセテート織物を得た。
【0027】得られた織物をハンドリングにより風合い評価した結果、反撥感、膨らみ感、サラッとした適度なドライ感、張り腰を有し、且つ緯糸方向の伸縮特性は、伸長率21.5%及び伸長回復率84.4%を有する織物であった。また、染色時の同色性も問題ないものであった。
【0028】
【表2】


*沸水収縮率17.3%のポリエステル繊維
【0029】(実施例3〜4、比較例1〜2)実施例2においてジアセテート繊維並びにポリエステル複合繊維を表3に示した組み合わせにして、概ね14000/D1/2T/mで、S方向並びにZ方向で2種の合撚複合糸を得た。次いで実施例1と同様の織物組織、経糸密度、通し巾で、各々の繊維組み合わせにより緯密度を66×(220/D)1/2本/2.54cmとして織物を作り、常法に従って精練リラックス並びに染色仕上げ加工ををして、実施例3〜4並びに比較例1〜2を得た。
【0030】実施例3〜4のものは、実施例2と同様に、反撥感、膨らみ感、サラッとした適度なドライ感、張り・腰を有し、且つ表3で示す通り緯糸方向は伸長率10%以上60%未満、伸長回復率60%以上100%以下を満たす本発明の目的である伸縮特性を有するとともに染色時の同色性にも優れた織物であったが、比較例1はドライ感が不十分でポリエステル繊維独特のヌメリ感が強調された織物となり、一方、比較例2はアセテート繊維独特のドライ感は保持しているものの、共に伸長率8%及び伸長回復率75%であり伸縮特性の劣る織物であった。
【0031】
【表3】


*合撚複合糸のアセテート繊維の混率
【0032】(実施例5)平均酢化度61.6%のトリアセテートを塩化メチレン及びメタノールを主とした混合溶剤に溶解し、トリアセテート紡糸原液を作製した。この紡糸原液を用いて乾式法により紡糸し、110dTex/26fのトリアセテート繊維を得た。一方、実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル成分とカチオン可染型高収縮性共重合ポリエステル成分を各成分の溶融流を紡糸口金の上流部で面対称に合流させ、複合流を細孔部に続く先端部がテーパ角度15゜に円錐状に末広に開口した形状の吐出孔より吐出させて紡糸し、接合比(重量)が50/50の110dTex/24フィラメントの円形断面の異染性ポリエステル複合繊維を得た。トリアセテート繊維と異染性ポリエステル複合繊維を、合撚数800T/mで合撚加工し合撚複合糸B(合計繊度220dTex)を得た。次いで表4の条件で織物を作り、常法に従い精練リラックス、カチオン染色、及び仕上げ加工をして、実施例5のアセテート織物を得た。
【0033】得られた織物をハンドリングにより風合い評価した結果、反撥感、膨らみ感、サラッとした適度なドライ感、張り腰を有し、且つ緯糸方向の伸縮特性は、伸長率27.2%及び伸長回復率90.0%を有する織物であった。また、異染性ポリエステル複合繊維の片側成分のみが染色された、色彩意匠効果に富んだ織物が得られた。
【0034】
【表4】


【0035】
【発明の効果】本発明は、アセテート繊維に熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を接合したポリエステル複合繊維を合撚した合撚複合糸、並びに、該合撚複合糸を用いて織物を得ることで、従来の加工糸を用いた場合には困難であった、反撥感、膨らみ感、サラッとした適度なドライ感、張り腰を有し、且つ適度な伸縮特性を発現するとともに染色時の同色性にも優れた織物、或いは、色彩意匠効果を有する織物等を提供することを可能としたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱収縮性の異なる2成分のポリエステル重合体を複合紡糸したポリエステル複合繊維とアセテート繊維との合撚糸であり、該アセテート繊維が35%以上80%以下の混率であることを特徴とする合撚複合糸。
【請求項2】 請求項1記載の合撚複合糸を経糸及び/又は緯糸に用いた織物であって、該合撚複合糸を用いた方向に伸長率10%以上50%以下、伸長回復率60%以上100%以下を満たす伸縮特性を有する織物。

【公開番号】特開2000−34635(P2000−34635A)
【公開日】平成12年2月2日(2000.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−254767
【出願日】平成10年9月9日(1998.9.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】