説明

合流式下水道における越流水の処理システム

【課題】省スペースで設置可能であり、且つ、メンテナンスが容易で目詰まりによりろ過不能になることがない、合流式下水越流水の処理システムを提供する。
【解決手段】第1の縦穴110と、合流下水管11と第1の縦穴110とを接続する越流水流路120と、ろ材からなるろ材層132と、ろ材を支持するスクリーン131と、ろ材層132より下部に設置された集水装置133と、ろ材層132より上部に設けられたろ過水放流管134とを備える第2の縦穴130と、第1の縦穴110と第2の縦穴130とを接続する連結流路140と、集水装置133に接続した逆洗用ポンプ160とを具え、合流下水管11と越流水流路120との接続部および第1の縦穴110と越流水流路120との接続部の少なくとも一方がろ過水放流管134より上方に位置し、第2の縦穴130と連結流路140との接続部がろ材層132より下方に位置している、越流水処理システム100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合流式下水道の越流水を処理するためのシステムに関し、特には、高速ろ過により合流式下水越流水(CSO)の水質改善を可能とする越流水処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道の方式としては、雨水と汚水とを別々の管路で流す分流式下水道と、雨水と汚水とを同一の管路で流す合流式下水道とが知られており、特に都市部においては合流式下水道が多く採用されている。
【0003】
そして、合流式下水道では、通常、下水処理場の処理能力に応じて遮集管の計画遮集量nQ(ここで、「n」は都市により異なる数値であり、例えば東京都はn=3、大阪市はn=2.2である。また、「Q」は晴天時時間最大汚水量である。)を設計しており、計画遮集量を超えた、下水処理場にて処理しきれない越流水分は、何ら処理をされることなく河川等の公共用水域へと放流されている。具体的には、図5に示すように、合流下水管51に流入する雨水および汚水の量が計画遮集量nQ(「雨天時時間最大汚水量」と呼ぶこともある)を超えた場合、越流水分(nQ超過分)が、合流下水管51と遮集管53との間に設置された雨水吐き52の越流堰(図示せず)を超えて河川54等へと流れるようにされている。
【0004】
ここで、上述したように、合流式下水道では下水処理場にて処理しきれない越流水分が未処理のまま河川等へ放流されているところ、越流水中には汚水が含まれているため、河川等が越流水の放流により汚染される恐れがあった。そのため、河川等へと放流する越流水の水質(BOD、SS等)を改善する技術が求められていた。
【0005】
これに対し、回転自在に設けられたフィルタと、高温流体を該フィルタに噴射する洗浄装置とを備える濾過機を用いて合流式下水道の越流水を濾過する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような濾過機では、繰り返し使用した場合に高温流体で洗浄しても最終的にはフィルタが目詰まりしてしまう恐れがあると共に、フィルタ洗浄用の高温流体を常に準備しておく必要があるという問題があった。
【0006】
また、下水処理場において用いられているような、浮上ろ材を用いた高速ろ過技術では、ろ材充填層の上部に貯留したろ過水を自然流下させることでろ材の洗浄を行っていたため、設計上、水槽の高さが所望の逆洗線速度(逆洗時に流すろ過水の線速度)を得られる高さに制限されてしまい、ろ材の洗浄に必要なろ過水の量を十分に確保するためには、複数のろ過槽を並設して共通の処理水(ろ過水)槽を設ける必要があり、広大な設置面積が必要であった(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。そのため、上記高速ろ過技術を適用したろ過装置は雨水吐きと河川等との間に設置することが困難であり、合流式下水越流水(CSO)の水質改善手段としては適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−305902号公報
【特許文献2】特許第3853738号公報
【特許文献3】特許第3824583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、省スペースでオンサイトに設置可能であり、且つ、メンテナンスが容易で目詰まりによりろ過不能になることがない、合流式下水越流水の処理システムが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の越流水処理システムは、合流式下水道の越流水を処理するためのシステムであって、第1の縦穴と、合流下水管と前記第1の縦穴とを接続して当該合流下水管からの越流水を当該第1の縦穴へと流すための越流水流路と、ろ材からなるろ材層と、当該ろ材を支持するスクリーンと、当該ろ材層より下部に設置された集水装置と、当該ろ材層より上部に設けられたろ過水放流管とを備える第2の縦穴と、前記第1の縦穴と、前記第2の縦穴とを接続する連結流路と、前記集水装置に接続した逆洗用ポンプとを具え、前記合流下水管と前記越流水流路との接続部および前記第1の縦穴と前記越流水流路との接続部の少なくとも一方が前記ろ過水放流管より上方に位置しており、且つ、前記第2の縦穴と前記連結流路との接続部が前記ろ材層より下方に位置していることを特徴とする。
このような越流水処理システムによれば、合流下水管と越流水流路との接続部および第1の縦穴と越流水流路との接続部の少なくとも一方がろ過水放流管より上方に位置しており、且つ、第2の縦穴と連結流路との接続部がろ材層より下方に位置しているので、第1の縦穴内の越流水の水頭圧を推進力として利用してろ材層で越流水のろ過(夾雑物、BOD、SS等の除去)を行うことができる。また、本発明の越流水処理システムは、越流水のろ過にフィルタではなくろ材層を使用しているので、逆洗用ポンプを用いて下向流でろ材を容易に洗浄(逆洗)することができ、目詰まりの心配がない。更に、縦穴は水槽と比較して深度方向への設計自由度が高いため、本発明の越流水処理システムでは、縦穴の深さを調整することでろ材の洗浄に必要なろ過水の量を容易に確保することができ、設置に必要な面積を低減することができる。即ち、本発明の越流水処理システムは、オンサイトに設置することができる。なお、本発明の越流水処理システムは、逆洗用ポンプを用いてろ材の洗浄を行うので、ろ過水の自然流下によりろ材を洗浄する上述した従来のろ過装置と異なり、縦穴の深さに制限を受けることなく逆洗線速度を一定に保つことができると共に、洗浄に使用した水(逆洗水)を自然流下させるための逆洗水槽を越流水処理システムの下部に設ける必要がない。
【0010】
ここで、本発明の越流水処理システムは、前記ろ過水放流管下部から前記ろ材層上部までの距離aと、前記ろ材層の厚みbと、前記ろ材層下部から前記第2の縦穴の底部までの距離cとが、a≧b+cの関係を満たすことが好ましい。距離aが厚みbと距離cの和以上の場合、ろ材の洗浄に必要なろ過水量を十分に確保することができるからである。なお、本発明において、a,b,cは、越流水処理システムにおいて越流水のろ過を行っている状態での距離および厚みを指す。
【0011】
また、本発明の越流水処理システムは、前記ろ過水放流管下部から前記ろ材層上部までの距離aと、前記ろ材層の厚みbと、当該ろ材層のみかけの空隙率αと、前記ろ材層下部から前記第2の縦穴の底部までの距離cとが、a≧α×b+cの関係を満たすことが好ましい。aと、bに空隙率αを乗じたb’と、cとがa≧b’+cの関係を満たす場合、ろ材の洗浄をより確実に行うことができるからである。ここで、ろ材層のみかけの空隙率α(0<α<1)とは、越流水のろ過を開始した状態においてろ材層中の空隙部が占める割合(体積比)を指す。即ち、ろ材層中でろ材が占める割合(体積比)βを用いて表現すると、α=1−βとなる。なお、ろ材が多孔体の場合など、ろ材自体が空隙を有している場合には、空隙率αの算出においては当該空隙の存在は考慮しない(即ち、ろ材中に存在する空隙はろ材層の空隙部とはみなさない)。
【0012】
更に、本発明の越流水処理システムは、前記ろ材層の逆洗時に前記第2の縦穴への前記越流水の流入を止めることが可能な連結流路弁を前記連結流路に設けることが好ましい。このようにすれば、連結流路弁を閉じた状態で逆洗を行うことができ、逆洗時に逆洗用ポンプが第1の縦穴中の越流水を吸い込むことがないので、逆洗用ポンプとして大吐出量のポンプを用いることなく所望の逆洗線速度を得ることができるからである。
【0013】
また、本発明の越流水処理システムは、前記第1の縦穴への前記越流水の流入量を調整することが可能な流量調整弁を前記越流水流路に設けることが好ましい。このようにすれば、合流下水管の水位の高低(雨量の大小)にかかわらず、ろ材層のろ過能力に応じた越流水の流入量に調整することができると共に、逆洗時に第1の縦穴への越流水の不要な流入を止めることができるからである。
【0014】
ここで、本発明の越流水処理システムは、前記ろ材が浮上ろ材であり、前記スクリーンが前記ろ材層の上部に設けられていることが好ましい。ろ材として浮上ろ材を使用すれば、ろ材層の下部にスクリーンを設置する必要がないので、洗浄およびメンテナンスが困難な下部スクリーンの目詰まりが生じる恐れがなくなるからである。
【0015】
また、本発明の越流水処理システムは、前記浮上ろ材が、みかけ密度が0.1〜0.4g/cm、且つ、50%圧縮硬さが0.1MPa以上の発泡高分子からなり、前記ろ材層の逆洗を、前記逆洗用ポンプを用いて下向流により1.2〜4.0m/分の逆洗線速度で行うことが好ましい。浮上ろ材のみかけ密度が0.1g/cm未満であると所望の圧縮硬さを得ることができないと共に、1.2〜4.0m/分の逆洗線速度での逆洗時にろ材層を展開させることが不可能だからである。一方、みかけ密度が0.4g/cmを超えると逆洗の際にろ材が流出するおそれがあるからである。また、50%圧縮かたさを0.1MPa以上としたのは、これよりも軟らかいと高速ろ過の際にろ材が圧密されてしまい、多量のSSを捕捉できなくなり、ひいてはろ過継続時間が短くなるためである。更に、逆洗線速度を1.2〜4.0m/分としたのは、浮上ろ材の流出を防止しつつ下向流により下方へろ材を展開してスムーズに捕捉物を排出させることができ、短時間で逆洗を行うことができるからである。ここで、50%圧縮かたさとは、ろ材粒子を形成するための高分子シートを、その高さが半分になるまで押し潰すために必要な圧力を意味するものである。なお、本発明において、みかけ密度および50%圧縮かたさは、JIS K6767に規定されている方法で測定することができる。
【0016】
更に、本発明の越流水処理システムは、前記合流下水管と前記越流水流路との接続部に前処理スクリーンが設けられており、前記前処理スクリーンを逆流洗浄するための前処理スクリーン洗浄ラインを更に備えることが好ましい。このようにすれば、大きな夾雑物、例えばサイズが25mm以上の夾雑物の流入による越流水処理システムの閉塞トラブルや、ろ材層の早期の目詰まりを防止することができると共に、前処理スクリーンの目詰まりによる越流水の越流水処理システムへの流入停止を防止することができるからである。なお、本発明において、夾雑物とはサイズが2mm以上の固形物を指し、懸濁物質とはサイズが2mm未満の固形物を指す。
【0017】
そして、本発明の越流水処理システムは、前記第2の縦穴が円柱形であり、前記集水装置が放射線状に張り巡らされていることが好ましい。このようにすれば、逆洗時に懸濁物質を含む逆洗水の集水を均等に行うことができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、省スペースでオンサイトに設置可能であり、且つ、メンテナンスが容易で目詰まりにより清掃等が必要になることがない、合流式下水越流水の処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の越流水処理システムを適用した合流式下水道の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態の越流水処理システムを示す説明図である。
【図3】本発明の越流水処理システムに使用し得る集水装置の形状を示す上面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の越流水処理システムを示す説明図である。
【図5】従来の合流式下水道を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。ここに図1は、本発明の越流水処理システムを適用した合流式下水道の一例を示す説明図であり、図2は、本発明の第1実施形態の越流水処理システムを示す説明図である。また、図3は、本発明の越流水処理システムに使用し得る集水装置の形状を示す上面図であり、図4は、本発明の第2実施形態の越流水処理システムを示す説明図である。なお、各図において同一の符号を付したものは、同一の構成要素を示すものとする。
【0021】
図1に示すように、本発明の越流水処理システムは、計画遮集量nQを超えた、下水処理場にて処理しきれない越流水分(nQ超過分)を処理するものである。即ち、本発明の越流水処理システムを適用した合流式下水道では、合流下水管11に流入する雨水および汚水の量が計画遮集量を超えた場合に、越流水分が合流下水管11に設けられた越流部15を超えて越流水処理システム100へと流入して処理される。ここで、越流部15は、望ましくは既設の雨水吐き12の上流側に設けられる。但し、雨水吐き12の上流側への設置が困難な場合には、雨水吐き12に設けても良い。そして、越流水処理システム100でろ過されて水質が改善した越流水(ろ過水)は、河川14等に放流されることとなる。なお、ろ過水は、任意に次亜塩素酸などの消毒剤を添加した上で放流しても良く、この場合、消毒剤を添加するろ過水は本発明の越流水処理システムによりSS等が大幅に除去されているので、越流水に直接消毒剤を添加する場合と比較して消毒剤の添加量を低減することができる。
【0022】
そして、図2に示すように、本発明の第1実施形態の越流水処理システム100は、第1の縦穴110と、合流下水管11と第1の縦穴110とを接続する越流水流路120と、第2の縦穴130と、第1の縦穴110と第2の縦穴130とを接続する連結流路140および越流バイパス路150と、逆洗用ポンプ160とを具える。
【0023】
ここで、合流下水管11と越流水流路120との接続部には、例えば4mmメッシュの自動掻き取り式スクリーン121が設置されており、越流水中に存在するゴミ等の夾雑物を除去できるようにされている。なお、自動掻き取り式スクリーン121には、スクリーンの閉塞を防止するスクリーン掻き取り装置が付いた既知の自動掻き取り式スクリーンを使用することができる。また、越流水流路120には、合流下水管11からの越流水の流入量を調整するための流量調整弁122が設けられている。
【0024】
第1の縦穴110には、新設のマンホール等の構造物を利用することができ、本実施形態では、マンホール170に隔壁111を設けて第1の縦穴110を形成している。また、第1の縦穴110には図示しないレベルスイッチが設けられており、第1の縦穴110内の越流水の水位上昇を検知することができるようにされている。
【0025】
第2の縦穴130は、既存のマンホールを利用したものであり、この第2の縦穴130は、スクリーン131と、スクリーン131で支持された分散型ろ材からなるろ材層132と、ろ材層132より下部に設置された集水装置133と、ろ材層132より上部に設けられたろ過水放流管134とを備える。そして、この第2の縦穴130では、例えば、ろ過水放流管134の下部からろ材層132の上部までの距離aが2mであり、ろ材層132の厚みbが0.8mであり、ろ材層132の下部から第2の縦穴の底部までの距離cが1.2mである。また、ろ材層132の空隙率αは0.5である。なお、第2の縦穴130は、任意に、ろ材層132の逆洗時にろ材の流動性を向上させるためのブロア(図示せず)を備えていても良い。
【0026】
ここで、分散型ろ材とは、逆洗時に展開して流動する粒子状のろ材を意味する。そして、分散型ろ材としては既知のろ材を使用することができ、例えば、みかけ密度が0.1〜0.4g/cmで0.1MPa以上の50%圧縮かたさを持つ発泡高分子からなる浮上ろ材を使用することができる。ここで、このような物性を持つ発泡高分子としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン等を挙げることができ、特に、発泡度を制御された独立気泡型の発泡ポリエチレンを発泡高分子として用いることが好ましい。独立気泡型の発泡ポリエチレンは耐熱性、耐薬品性、耐候性が優れているからである。なお、みかけ密度および50%圧縮かたさは、JIS K6767に規定されている方法で測定することができる。そして、上述の浮上ろ材は、サイズが4〜10mmであることが好ましく、また、形状が凹凸状(外表面に何らかの凹凸を備えた異形状)または筒状であることが好ましい。
【0027】
なお、スクリーン131には、ろ材の流出を防止し得るスクリーンを用いることができ、ろ材層132は、第2の縦穴130に所定の高さまで水を入れた後に上述した浮上ろ材を投入し、投入した浮上ろ材の上側にスクリーン131を設置することにより第2の縦穴130内に設けることができる。
【0028】
また、集水装置133としては、ろ材層132の逆洗時に懸濁物質を含む逆洗水を集水できるもの、具体的には逆洗時における集水部の線速度が0.5m/s以上、好ましくは1.0m/s以上となるように設計したものであれば既知のものを使用することができるが、図3に示すような放射線状に延びる配管を有する集水装置を用いることが好ましい。そして、この集水装置133と、マンホール170内の第1の縦穴110とは反対側の空間(ポンプ室171)に設置された逆洗用ポンプ160とは、集水装置ライン136を介して接続されており、この逆洗用ポンプ160を用いて、図1に示すように、ろ材層132の逆洗時に生じる逆洗水を遮水管13または合流下水管11に送る。逆洗水は懸濁物質を含むため、そのまま河川14に放流すると水質汚染の原因となるからである。なお、逆洗水の送り先としては遮水管13が好ましい。
【0029】
ここで、逆洗用ポンプ160としては既知のマンホールポンプを用いることができる。なお、ポンプの設置位置は、別途掘削した第3の縦穴内や、地上としても良いが、省スペース化および配管設置の容易性の観点からマンホール170内が好ましい。
【0030】
そして、この第1実施形態の越流水処理システム100では、第1の縦穴110と第2の縦穴130とは、その下部同士が連結流路140により接続しており、その上部同士が越流バイパス路150により接続している。また、合流下水管11と越流水流路120との接続部は、ろ過水放流管134より上方に位置しており、第1の縦穴110と越流水流路120との接続部は、ろ過水放流管134と略水平な位置にあり、第2の縦穴130と連結流路140との接続部はろ材層132より下方に位置している。更に、越流バイパス路150は、越流水処理システム100の設計最大ろ過損失水頭時の水位よりも上方にある。なお、本実施形態以外にも、第1の縦穴110と越流水流路120との接続部は、ろ過水放流管134と略水平な位置よりも上方に位置していても良い。
【0031】
この第1実施形態の越流水処理システム100によれば、第1の縦穴110内の越流水の水頭圧を推進力として利用して、第2の縦穴130のろ材層132で越流水をろ過することができる。従って、越流水分を、夾雑物、生物化学的酸素要求量(BOD)および懸濁物質量(SS)を低減して水質を改善したろ過水として河川14へ放流することができる。なお、ろ材層132への通水量は、流量調整弁122の開度を図示しない制御装置で制御することにより調整することができ、例えば1500m/日以下とすることができる。また、この第1実施形態の越流水処理システム100では、一定量以上の越流水が入ってきた場合には、流量調整弁122を閉じて越流水の処理を一時的に停止することもできる。
【0032】
そして、この越流水処理システム100では、入口部に自動掻き取り式スクリーン121を設置し、大きな夾雑物の流入による越流水処理システム100の故障を防止する。また、継続的なろ過によりろ材層132の閉塞が生じた場合には、ろ材層132を逆洗して越流水処理システム100のろ過性能を回復させることができる。具体的には、越流水処理システム100は、第1の縦穴110に設置したレベルスイッチ(図示せず)を用いて、第1の縦穴110内の越流水の水位が第1の縦穴110と越流水流路120との接続部より、例えば60cm〜1m高くなった時、即ちろ過差圧が上昇して第1の縦穴110の水位と第2の縦穴130の水位との差が一定以上になった時に、後に詳述するろ材層132の逆洗を行うように制御することができる。なお、越流水処理システム100におけるろ材層132の逆洗は、合流下水管11に流れる雨水および汚水の量がnQ以下となった場合や、降雨が終了した場合に、自動的に行われるように制御しても良いし、手動で逆洗を開始するようにしても良い。
【0033】
ここで、越流水処理システム100におけるろ材層132の逆洗手順の一例を以下に説明する。まず、第1の縦穴110のレベルスイッチが第1の縦穴110内の越流水の水位上昇を検出すると、図示しない制御装置が流量調整弁122を閉じて越流水の流入を止める。そして、必要に応じて図示しないブロアで空気をパルス的に曝気しながら逆洗用ポンプ160でろ材層132の下部の水を引き抜き、第1の縦穴110および第2の縦穴130の越流水およびろ過水を遮集管13へと送出し、例えば線速度(逆洗線速度)1.2〜4.0m/分の下向流でろ過水を浮上ろ材に接触させて逆洗を開始する。これにより、浮上ろ材に捕捉されていたSS等が浮上ろ材から分離し、集水装置133、逆洗用ポンプ160を介して遮集管13へと送られるので、ろ材層132が清浄化され、ろ過損失水頭が回復する。なお、逆洗時間は任意の時間としてタイマーで設定することができるが、例えば第2の縦穴130の水位がスクリーン131の位置となるまでの時間とすることもできる。具体的には、逆洗作業の終了は、第2の縦穴130にレベルスイッチ(図示せず)を設置して、第2の縦穴130の水位がスクリーン131の位置となったことを該レベルスイッチが検知した場合に図示しない制御装置が逆洗用ポンプ160を停止し、流量調整弁122を開くようにすることでも制御できる。
【0034】
なお、本実施形態の越流水処理システム100には、越流バイパス路150が設けられているので、制御装置の故障などにより第1の縦穴110の水位が急上昇したとしても、流入した越流水を越流バイパス路150およびろ過水放流管134を介して河川14へと放流することができる。
【0035】
なお、上述した実施形態以外にも、本発明の越流水処理システムは、複数の越流水流路を備えていても良い。越流水流路が複数ある場合、一つの流路において自動掻き取り式スクリーンが閉塞しても、他の流路を用いてろ過を継続することができるからである。また、水道水や、中水や、工水を第2の縦穴の上部に供給する手段を設けて、水道水や、中水や、工水を用いてろ材層の逆洗を行うようにしても良い。このようにすれば、雨天時にはろ過水を用いて逆洗すると共に、降雨後には水道水や、中水や、工水を用いてろ材層を逆洗して越流処理システムを次の降雨時まで待機させておくことが可能となる。更に、合流下水管の位置が第1の縦穴より下にある場合には、越流水流路にポンプを設置し、越流水をポンプで揚水して第1の縦穴へと流入させるようにしても良い。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態の越流水処理システムを説明する。図4に示すように、この越流水処理システム100は、合流下水管11と越流水流路120との接続部に、例えば25〜50mmメッシュの前処理スクリーン123を設置している点、連結流路140が、ポンプ室171内を通り且つ連結流路弁141を備えている点、および逆洗用ポンプ160を用いて前処理スクリーン123を洗浄するための前処理スクリーン洗浄ライン180が設けられている点などで先の第1実施形態と異なり、他の点では先の第1実施形態と同様に構成されている。
【0037】
そして、この第2実施形態の越流水処理システム100では、逆洗時に流量調整弁122だけでなく望ましくは連結流路弁141も閉じることにより、ろ材層132の逆洗には直接関係のない第1の縦穴110内の越流水を逆洗用ポンプ160で送出する必要がなくなる。従って、吐出量の小さい逆洗用ポンプ160でも所望の逆洗線速度を得ることができる。なお、メンテナンスの容易性の観点から、連結流路弁141はポンプ室171内に位置していることが好ましい。
【0038】
また、この越流水処理システム100では、前処理スクリーン洗浄ライン180が設けられているので、越流水中に含まれている夾雑物により前処理スクリーン123が閉塞した場合であっても、前処理スクリーン123を洗浄してろ過を継続することができる。なお、前処理スクリーン123の洗浄は、図示しない流量センサーを越流水流路120に設置して、越流水の流量が所定値以下となった場合に自動的に行われるようにしても良い。また、合流下水管11に流れる雨水および汚水の量がnQ以下となった場合や、降雨が終了した場合に自動的に行われるように制御しても良い。ここで、前処理スクリーンの洗浄は、弁182を閉じ、弁181を開いて行う。
【0039】
そして、上述したような第1および第2実施形態の越流水処理システムは、省スペースでオンサイトに設置可能であり、且つ、メンテナンスが容易で目詰まりによりろ過不能になることがない。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
前述した第1実施形態の越流水処理システムと同様の構成を有する越流水処理システムのパイロット試験機を作製した。ここで、パイロット試験機のサイズは、第1の縦穴が底面積4m、高さ5mであり、第2の縦穴が底面積7m、高さ5m(a=2m、b=0.8m、c=1.2m)である。また、第2の縦穴には、メッシュサイズ3mmのスクリーンが設置されており、その下側に、サイズが7.5×7.5×4mm、50%圧縮硬さが0.5MPaである、風車形の浮上ろ材が充填(α=0.5)されている。なお、みかけ密度および50%圧縮かたさは、JIS K6767に規定されている方法に従い測定した。
【0042】
そして、3Q超過の合流下水をパイロット試験機に7000m/日で1年間通水し、年間のBODおよびSSの処理量、並びに、夾雑物除去率を下記の方法で測定して算出した。結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
面積105m、高さ5m、有効容積525mの滞水池を作製し、3Q超過の合流下水を1年間通水し、年間のBODおよびSSの処理量、並びに、夾雑物除去率を下記の方法で測定して算出した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
3Q超過の合流下水を自動掻き取り式スクリーン(4mmバースクリーン、ろ過面積3m)に7000m/日で1年間通水し、年間のBODおよびSSの処理量、並びに、夾雑物除去率を下記の方法で測定して算出した。結果を表1に示す。
【0045】
[BOD処理量]
処理水のBOD濃度をJIS K0102に従い測定し、年間の処理量を算出した。
[SS処理量]
処理水のSS濃度を環告59号(昭和46年12月28日)−付表8に従い測定し、年間の処理量を算出した。
[夾雑物除去率]
3Q超過の合流下水と、処理水との双方について、2mmメッシュの網を通過させた際に網上に残った残留物の乾燥重量を測定した。そして、乾燥重量を流通させた水量で除して夾雑物濃度を算出し、その除去割合を算出した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1および比較例1〜2から、実施例1の越流水処理システムは、比較例1の滞水池と比較して省スペース(同程度のBOD処理性能で所要面積は12%)で設置可能であり、処理に要する電力も1/10以下で済むことが分かる。これは、滞水池は一度貯めた水を再度生物反応により処理(高級処理)する必要があるのに対し、越流水処理システムは単にろ過処理を行うのみで済むからである。また、実施例1の越流水処理システムによれば、BOD、SS、夾雑物の全てを比較例1と同等に低減することができることが分かる。更に、実施例1の越流水処理システムによれば、比較例2の自動掻き取り式スクリーンと比較して夾雑物を確実に除去することができることが分かる。
【符号の説明】
【0048】
11 合流下水管
12 雨水吐き
13 遮集管
14 河川
15 越流部
51 合流下水管
52 雨水吐き
53 遮集管
54 河川
100 越流水処理システム
110 第1の縦穴
111 隔壁
120 越流水流路
121 自動掻き取り式スクリーン
122 流量調整弁
123 前処理スクリーン
130 第2の縦穴
131 スクリーン
132 ろ材層
133 集水装置
134 ろ過水放流管
136 集水装置ライン
140 連結流路
141 連結流路弁
150 越流バイパス路
160 逆洗用ポンプ
170 マンホール
171 ポンプ室
180 前処理スクリーン洗浄ライン
181 弁
182 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合流式下水道の越流水を処理するためのシステムであって、
第1の縦穴と、
合流下水管と前記第1の縦穴とを接続して当該合流下水管からの越流水を当該第1の縦穴へと流すための越流水流路と、
ろ材からなるろ材層と、当該ろ材を支持するスクリーンと、当該ろ材層より下部に設置された集水装置と、当該ろ材層より上部に設けられたろ過水放流管とを備える第2の縦穴と、
前記第1の縦穴と前記第2の縦穴とを接続する連結流路と、
前記集水装置に接続した逆洗用ポンプと、
を具え、
前記合流下水管と前記越流水流路との接続部および前記第1の縦穴と前記越流水流路との接続部の少なくとも一方が前記ろ過水放流管より上方に位置しており、且つ、前記第2の縦穴と前記連結流路との接続部が前記ろ材層より下方に位置している、越流水処理システム。
【請求項2】
前記ろ過水放流管下部から前記ろ材層上部までの距離aと、前記ろ材層の厚みbと、前記ろ材層下部から前記第2の縦穴の底部までの距離cとが、a≧b+cの関係を満たす、請求項1に記載の越流水処理システム。
【請求項3】
前記ろ過水放流管下部から前記ろ材層上部までの距離aと、前記ろ材層の厚みbと、当該ろ材層のみかけの空隙率αと、前記ろ材層下部から前記第2の縦穴の底部までの距離cとが、a≧α×b+cの関係を満たす、請求項1に記載の越流水処理システム。
【請求項4】
前記ろ材層の逆洗時に前記第2の縦穴への前記越流水の流入を止めることが可能な連結流路弁を前記連結流路に設けた、請求項1〜3の何れかに記載の越流水処理システム。
【請求項5】
前記第1の縦穴への前記越流水の流入量を調整することが可能な流量調整弁を前記越流水流路に設けた、請求項1〜4の何れかに記載の越流水処理システム。
【請求項6】
前記ろ材が浮上ろ材であり、
前記スクリーンが前記ろ材層の上部に設けられている、請求項1〜5の何れかに記載の越流水処理システム。
【請求項7】
前記浮上ろ材が、みかけ密度が0.1〜0.4g/cm、且つ、50%圧縮硬さが0.1MPa以上の発泡高分子からなり、
前記ろ材層の逆洗を、前記逆洗用ポンプを用いて下向流により1.2〜4.0m/分の逆洗線速度で行う、請求項6に記載の越流水処理システム。
【請求項8】
前記合流下水管と前記越流水流路との接続部に前処理スクリーンが設けられており、
前記前処理スクリーンを逆流洗浄するための前処理スクリーン洗浄ラインを更に備える、請求項1〜7の何れかに記載の越流水処理システム。
【請求項9】
前記第2の縦穴が円柱形であり、前記集水装置が放射線状に張り巡らされている請求項1〜8の何れかに記載の越流水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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