説明

合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法及びこれによって得られる合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維

【解決手段】 ポリオールと有機ジイソシアネートとアミン化合物とを反応させて得られるポリウレタン重合体を加熱してポリウレタン重合体の一部を低分子量化し、或いは上記ポリウレタン重合体に特定の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を添加した後、該ポリウレタン重合体溶液を乾式紡糸することを特徴とする合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【効果】 生産性や糸質、糸物性を悪化させることなくフィラメント間の合着性に優れたマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を提供することができる。また、無機添加剤等を加えた場合も、同様に高品質なポリウレタン系弾性繊維を提供できる。更に、ポリウレタン自身に合着性が付与されるため、通常の集束装置を用いて均一なフィラメントを形成でき、高性能、高品質のマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を得ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメント相互は膠着せずに、マルチフィラメントを構成するフィラメント相互の合着性を向上させた合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法及びこれによって得られるポリウレタン弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性体は、産業資材、家庭用品等多くの用途に使用されており、なかでも特にポリウレタン系弾性繊維は、衣料品を主体に広く使用されている。このポリウレタン系弾性繊維は、用途に応じて適切な繊度を有するものであるが、通常、特に乾式紡糸法によって得られる繊維の場合は、単糸繊度を太くすると相対的に表面積が小さくなり、溶剤の蒸発速度が低下する。このため、紡糸速度を落として対応すると、生産性が低下する問題に直面する。一方、単糸繊度を細くすると、紡糸直下でフィラメントの接触が起こり、糸の均斉度が低下する問題が生じる。そのため、単糸繊度は、6〜11デシテックス程度が一般的であり、総繊度17デシテックス以上のポリウレタン系弾性繊維を得るためには、フィラメントを束ねた構造を有するマルチフィラメントが主体となる。
【0003】
このマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を形成する場合、単糸であるフィラメント相互は合着性を持ち、マルチフィラメント相互は合着していないことが要求される。フィラメント相互の合着性に乏しい場合、整経、丸編み、カバリング等の後加工工程でフィラメントが割れ、糸切れにつながる等、工程安定性が悪化する。また、製品でフィラメント割れが起こると、見た目の美観を損なうばかりか、使用中に糸が断糸しやすい等様々な問題が生じる。
【0004】
一方、マルチフィラメント相互が膠着すると、加工工程でポリウレタン系弾性繊維の糸離れが悪化し、チーズ上で糸切れが発生したり、糸が不均一に使用されるので、製品の美観や寸法安定性を損なうといった種々の不具合がある。
【0005】
これらの問題を解決するために、エアノズルによりフィラメントを仮撚し、合着マルチフィラメントを得る方法(特許文献1:特公昭39−29637号公報)や、フィラメントを回転リングに接触させ、仮撚する方法(特許文献2:特公昭47−50005号公報)等が提案されている。しかしながら、これらの方法は何れも弾性糸を形成する過程、即ち、溶剤が完全に蒸発する前の段階で機械的にフィラメントに撚りを掛け、合着させる方法であり、撚りの強度を調整することでフィラメントを合着させるものである。この場合、撚りの強弱はフィラメント相互の合着性のみならず、得られた弾性糸の応力や伸度にも影響することが判っており、物性の変動を招く要因となる。また、撚りの強弱によって紡糸筒内での糸揺れが生じ、その結果、弾性糸の繊度斑を引き起こすこともある。更に、影響を与えると糸切れの原因になる可能性もある。
【0006】
また、別の方法として、マルチフィラメントノズルのピッチを狭くする方法が提案されている。この方法は、ノズルから吐出されたフィラメントをより高い地点で合着させるため、個々のフィラメントはまだ弾性糸化されていない、未完成で柔らかく、強度も低い状態で合着させることになる。従って、合着性は増す反面、ノズルからのドラフト斑を引き起こし易く、その結果、繊度斑や物性変動を招く要因となる。
【0007】
更に、ポリマー自身の粘着性を上げるために、柔らかいポリマー組成としてポリマー溶液の粘度を低下させ、合着性を上げる方法があるが、耐熱性等の物性の低下を招くといった欠点があった。また、溶剤量を高めて粘度を低下させ、合着性を上げる方法もあるが、糸に残留溶剤が残りやすくなり、生産効率の低下を招く等の問題があった。
【0008】
近年、ポリウレタン原料又は原液に、各種無機鉱物粉末を混合した製品が種々提案されており、例えば、特開昭57−29609号公報(特許文献3)では、酸化亜鉛の粉末を混入したポリウレタン系弾性繊維が、また、特開平5−33217号公報(特許文献4)では、無機抗菌剤を混合したポリウレタン系弾性繊維が提案されている。更に、遠赤外線、マイナスイオン等を発する鉱物を含有した合成繊維(特許文献5:特開平6−319807号公報)等も提案されている。
【0009】
しかし、このようにポリウレタン系弾性繊維に新たに別の機能性を付与する目的で、ポリウレタン原料や副原料、或いは原液への溶解性が本来乏しい各種機能剤を添加した場合、これらの添加剤は、繊維表面上に存在するため、フィラメント間の合着性を悪化させることになる。通常、これらの無機物は、ポリウレタン重合体に対して0.1〜10質量%程度添加され、様々な機能をもたらす場合が多いが、ポリウレタン系弾性繊維に各種機能剤を含有させると、フィラメント間の合着性が悪化するという問題があった。この場合は、上述したフィラメント間に撚りを掛ける集束装置を用いた方法のみで、生産性や糸質、糸物性を悪化させることなくフィラメント相互を合着させることは困難である。
【0010】
【特許文献1】特公昭39−29637号公報
【特許文献2】特公昭47−50005号公報
【特許文献3】特開昭57−29609号公報
【特許文献4】特開平5−33217号公報
【特許文献5】特開平6−319807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、生産性や糸質、糸物性を悪化させることなくフィラメント間の合着性に優れたポリウレタン系弾性繊維が得られ、更には、各種無機添加剤を加えた場合であっても効率よく高性能のポリウレタン系弾性繊維を製造できる合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法、及びこれにより得られるポリウレタン系弾性繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ポリオールと有機ジイソシアネートとアミン化合物とを反応させて得られるポリウレタン重合体の溶液を加熱してポリウレタン重合体の一部を低分子量化することで、或いは上記ポリウレタン重合体に特定の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を添加することで、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維のマルチフィラメント相互は膠着せずに、マルチフィラメントを構成するフィラメント相互の合着性を向上させることができることを見出した。
即ち、ポリウレタン系弾性繊維については、耐熱性等の物性改良やコストダウン等の生産性の改良が課題となっており、例えば、ハードセグメント量や窒素含有率を高くして耐熱性の高いポリウレタン系弾性繊維を紡糸しようとすると、フィラメント相互の合着性は低下する。また、生産効率を向上させるために紡糸速度を上げようとすると、紡糸筒内でのフィラメントの滞留時間が低下して合着性が低下する。更に、太繊度糸等フィラメント数が多くなると、フィラメント全体の集束効果が落ちるので、フィラメント相互の合着性が低下する。
【0013】
本発明者は、このような問題に対して、ポリウレタン重合体溶液を加熱し、その一部を低分子量化したり、ポリウレタン重合体に特定のポリウレタン化合物を添加することで、高温下でのフィラメント相互の粘着性を高めることができ、この粘着性向上効果により、フィラメント相互の合着性を向上させることができると共に、マルチフィラメントの巻取段階においては、常温付近まで十分に冷却することにより粘着性の発現が押さえられ、マルチフィラメント相互の膠着が防止できることを見出したものである。
更に、本発明の製造方法は、各種安定剤や無機系金属塩、無機系酸化物、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス等の無機添加剤を含有させた際に発生するフィラメント割れの対策として有効であり、これら添加剤の添加量を制限することなく使用でき、耐NOx性、耐光性、耐塩素性に優れた合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、
(1)〔I〕数平均分子量400〜5,000のポリオールと過剰モル量の有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する工程、
〔II〕前記中間重合体に対して、下記一般式(1)及び(2):
A:H2NR1NH2 (1)
B:NHR23 (2)
(式中、R1は単結合、又はアルキレン基、アリーレン基、若しくはこれらが結合した基であり、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。)
で示されるアミン化合物A及びBを当量比でA/B=99/1〜90/10となるように添加し、有機溶剤中で上記中間重合体と反応させてポリウレタン重合体溶液を得る工程、
〔III〕下記(a)〜(c)より選ばれるいずれか一つの工程、
(a)前記ポリウレタン重合体溶液を60〜100℃で加熱・撹拌し、上記ポリウレタン重合体の2〜10質量%を重量平均分子量20,000〜80,000の低分子量化ポリウレタン化合物に変性する工程、
(b)第3級アミノ基含有アルコール、有機ジイソシアネート、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤を反応させて得られ、100〜200℃の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を、前記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程、
(c)ポリオール、有機ジイソシアネート、及び鎖延長剤を反応させて得られ、融点又は軟化点が210℃以下のポリウレタン化合物を、前記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程、
及び
〔IV〕低分子量化ポリウレタン化合物又はポリウレタン化合物含有ポリウレタン重合体溶液を乾式紡糸する工程
を含むことを特徴とする合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法、
(2)更に、上記工程〔I〕,〔II〕,〔III〕a,〔III〕b,又は〔III〕cにおいて、ポリウレタン重合体に対し、無機添加剤を0.1〜10質量%添加するようにした(1)記載の製造方法、
(3)無機添加剤が、チタン、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、シリカ、鉄、カルシウム、ジルコニウム及び銀からなる群より選ばれる金属元素の塩若しくは酸化物、又は天然放射性レア・アース鉱物含有セラミックスである(2)記載の製造方法、
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の方法で製造された合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性や糸質、糸物性を悪化させることなく、マルチフィラメント相互は膠着せず、フィラメント間の合着性に優れたマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を提供することができる。また、各種安定剤、無機系金属塩、無機系酸化物、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス等の無機添加剤を添加した場合も、生産性や糸質、糸物性を悪化させることなくフィラメント間の合着性に優れたポリウレタン系弾性繊維を提供できる。更に、従来の集束装置を用いて機械的にフィラメントを合着させる場合は、エアーや水の流速、集束ノズルとフィラメント位置等の微妙な調整が必要であり、均一に合着させることは難しく、細かな調整や配慮が必要であったが、本発明によると、ポリウレタン自身に合着性が付与されるため、通常用いられる集束装置を用いて均一なフィラメントを形成することができ、高性能、高品質のマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るポリウレタン系弾性繊維の製造方法の〔I〕工程は、数平均分子量400〜5,000のポリオールと過剰モル量の有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する工程である。
【0017】
ここで、本発明におけるポリウレタン系弾性繊維の製造原料であるポリオールは、末端にヒドロキシル基をもつ数平均分子量400〜5,000のポリオールであり、好ましくは数平均分子量800〜3,500のポリオールが用いられる。なお、数平均分子量は、JIS K1557に従い、水酸基価より算出できる。水酸基価が280.5mgKOH/gのとき、数平均分子量は400で、水酸基価が22.44mgKOH/gのとき、数平均分子量は5,000となる。
【0018】
このようなポリオールとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、シリコーンジオール等を用いることができる。
【0019】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、テトラヒドロフラン(THF)及び3−メチルテトラヒドロフラン(3−MeTHF)の共重合体である変性PTMG、THF及び2,3−ジメチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG、炭素数1〜8の直鎖状又はランダム状にエーテル結合している共重合ポリアルキレンジオール等のポリエーテルジオール、環状エーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等)の開環重合によって得られるポリエーテルジオール等が挙げられる。
【0020】
ポリエステルジオールとしては、例えば、コハク酸、マロン酸、グルタール酸、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸等の二塩基酸から選ばれる1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチレングリコール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロへキサン、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類から選ばれる1種又は2種以上との重縮合により得られるポリエステルジオール等が例示される。
【0021】
ポリエーテルエステルジオールとしては、例えば、上記したポリエステルジオールに上記した環状エーテルを反応させて製造したものや、上記したポリエステルジオールとポリエーテルジオールを反応させたもの等を挙げることができる。
【0022】
シリコーンジオールとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンジオール、ポリジメチルシロキサンの末端アルキレンオキサイド付加物を挙げることができる。
【0023】
ポリラクトンジオールとしては、例えば、ポリε−カプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等を挙げることができる。
【0024】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート等から選ばれる少なくとも1種の有機カーボネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジオールとのエステル交換反応によって得られるポリカーボネートグリコール等が例示される。
【0025】
上記例示したポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルエステルジオール、シリコーンジオール、ポリラクトンジオール、及びポリカーボネートジオールは、1種単独で又は2種以上を組合わせて用いることができるが、これらのなかでもポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールを全ポリオールの50質量%以上用いるのが好ましく、より好ましくは60〜100質量%用いる。
【0026】
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートの中で、反応条件下で溶解し又は液状を示すものであれば特に制限されずに適用できる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらのなかでもMDIやHMDIが好ましい。
【0027】
有機ジイソシアネートは、ポリオールに対してモル量で1.2〜2.5倍程度過剰に用いることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0倍程度過剰とする。
【0028】
ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する場合、反応方式は、合成釜を使用したバッチ方式でも、静的ミキサーや二軸混練機等を用いた連続方式であってもよく、所定モル比で各成分を仕込んだ後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、50〜120℃、特に55〜100℃で、20〜180分、特に30〜120分の条件下で反応させることが好ましい。
【0029】
次に、〔II〕工程は、〔I〕工程で得られる両末端イソシアネート基中間重合体に対して、下記式(1)及び(2)で示されるアミン化合物A及びBを所定量添加し、これらを上記中間重合体と有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体溶液を得る工程である。
【0030】
上記両末端イソシアネート基中間重合体と反応させて用いるアミン化合物Aは、下記式(1)で示されるイソシアネートと反応し得る活性水素原子を少なくとも2個分子中に有するアミン化合物であって、鎖延長剤として用いられる。また、アミン化合物Bは、下記式(2)で示され、ポリウレタン重合体の末端を封止する末端封鎖剤として用いられる。
A:H2NR1NH2 (1)
B:NHR23 (2)
【0031】
ここで、R1は単結合又は炭素数1〜13、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6のアルキレン基、アリーレン基、若しくはこれらが結合した基であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、フェニレン基、キシリレン基、シクロへキシレン基等が挙げられる。R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは1〜6のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0032】
アミン化合物Aとしては、具体的に、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジンの如きジアミンを挙げることができる。
【0033】
アミン化合物Bとしては、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−イソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン等のジアルキルアミン等を例示することができる。
【0034】
アミン化合物A,Bの使用量は、当量比でA/B=99/1〜90/10、好ましくは99/1〜93/7の範囲となるように用いる。アミン化合物の当量比が99/1を超えると、ポリウレタン重合体中のハードセグメントが多くなるので、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性が低下したり、重合中に局部反応が生じやすくなる結果、ポリウレタン重合体溶液中にゲル物が増加する傾向になり、紡糸の際にノズルからゲル物が通過することで断糸したり、溶液のろ過性により操業安定性を低下させる。逆に、90/10より低くなると、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性は良いが、ポリウレタン重合体の重合度が低下し、糸物性が悪化する。
【0035】
また、アミン化合物AとBの総添加量については、中間重合体中に含まれるイソシアネート基に対して当量以上が好ましく、より好ましくは当量比で1.0以上1.1未満である。アミン化合物AとBの総添加量が当量より低くなると、系内に残るイソシアネート基が経時的に反応することになり、分子量の増大や溶液粘度の著しい上昇を招く場合があり、多すぎると、過剰なアミンによりポリウレタン重合体溶液の黄変が生じたり、溶液粘度の経時的低下が起こる場合がある。
【0036】
アミン化合物A,Bは、有機溶剤中でアミン化合物の混合物とすることが、ポリウレタン中間重合体と反応させやすいので好ましい。アミン化合物をポリウレタン中間重合体に添加する際は、通常、有機溶剤に溶解した溶液としてポリウレタン中間重合体溶液に滴下して反応させるが、ポリウレタン中間重合体溶液に残るイソシアネート基濃度を事前に測定してアミン化合物の滴下量を決定する方法や、アミン化合物が添加されポリウレタン重合体溶液の粘度が上昇する状態から、イソシアネート基が無くなり、実質反応が終了し、該溶液粘度の上昇がなくなる状態への変化をモニタリングすることで滴下量を制御することが可能である。
【0037】
なお、鎖延長剤としては、必要に応じてアミン化合物A以外に、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの如きジオール類や、水、ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、β−アミノプロピオン酸ヒドラジドの如きヒドロキシド類等の多官能性活性水素化合物を併用してもよい。また、末端封止剤としては、必要に応じてアミン化合物B以外に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルキルアルコール等を使用してもよい。
【0038】
ポリウレタン重合反応の際には、不活性な有機溶剤が使用される。この有機溶剤としては、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド等、ポリウレタン重合体の溶解度が高く、かつイソシアネート基やイソシアネート基と反応する活性水素化合物と反応せず、更にポリウレタン重合体溶液中への添加物に対して反応しない有機溶剤が好ましいことは言うまでもない。なかでもポリウレタン重合体との相溶性、紡糸性、溶剤回収性の点でジメチルアセトアミド又はジメチルフォルムアミドが好ましく使用される。
【0039】
有機溶剤の使用量は、ポリウレタン重合体の固形分が全体の10〜50質量%となるように調整して使用することが好ましく、10質量%未満又は50質量%を超えると紡糸性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0040】
また、上記重合反応には、必要に応じ、反応を促進するための触媒を用いてもよく、イソシアネートとポリオールやジアミン(アミン化合物A)、ジオールとの反応を活性化させる傾向の強いものや、イソシアネートと水等の鎖延長剤との反応を活性化させる傾向の強いもの、及び両方の性質を有するもの等、適宜使用することができる。このような触媒の代表的なものとして、第3級アミン化合物及び有機金属化合物が挙げられる。
【0041】
第3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン類、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン等のジアミン類、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン等のトリアミン類、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、N−メチルモルホリン等の環状アミン、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール等のアルコールアミン類、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−ジメチル)−アミノプロピルエーテル等のエーテルアミン類が挙げられる。
【0042】
有機金属化合物としては、酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリン酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、オクタン酸コバルト等が挙げられる。
【0043】
これらの触媒は単独使用してもよく、例えば第3級アミン化合物と有機金属化合物の組み合せ等、2種類以上を併用することもできる。触媒の濃度は、ポリウレタン重合体に対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.0005〜5質量%で通常使用するが、反応挙動をみながら適宜添加量を調整すればよい。
【0044】
両末端イソシアネート基中間重合体とアミン化合物A,Bとの反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、0〜50℃、特に5〜30℃で、0.5〜7時間、特に1〜5時間の反応条件とすることが好ましく、反応方式は合成釜を使用したバッチ方式でも、二軸混練機や静的ミキサーを用いた連続方式であっても構わない。
【0045】
このようにして得られるポリウレタン重合体の重量平均分子量は、塩化リチウムを溶解したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)溶液に完全溶解した可溶分を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて測定することができる。ポリウレタン重合体の重量平均分子量は、100,000〜1,500,000が好ましく、より好ましくは150,000〜1,200,000である(ポリスチレン換算)。ポリウレタン重合体の分子量が小さすぎると、耐熱性等の糸物性が低下したり紡糸の曳糸性が乏しく糸切れが多くなったりする場合があり、高すぎると粘度が高くポリウレタン重合体の保存安定性が乏しくなったり、使用する溶剤量を増やす必要が生じ、結果として経済的な生産方法とは言えない場合がある。
【0046】
本発明においては、上記反応が進行してイソシアネート基が実質的に認められなくなった後に、〔III〕工程として、下記(a)〜(c)のうち少なくとも一つの工程を採用することで、合着性に優れたマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を得ることが可能となる。
(a)上記ポリウレタン重合体溶液を60〜100℃で加熱・撹拌し、上記ポリウレタン重合体の2〜10質量%を重量平均分子量20,000〜80,000の低分子量化ポリウレタン化合物に変性する工程。
(b)第3級アミノ基含有アルコール、有機ジイソシアネート、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤を反応させて得られ、100〜200℃の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を、前記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程。
(c)ポリオール、有機ジイソシアネート、及び鎖延長剤を反応させて得られ、融点又は軟化点が210℃以下のポリウレタン化合物を、上記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程。
【0047】
(a)工程の加熱・撹拌の方法は特に制限されず、例えば、ポリウレタン重合体溶液を剪断速度係数が10〜30の撹拌翼を用いて剪断速度5〜90(1/s)で剪断をかけつつ、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、温度60〜100℃、好ましくは60〜95℃で好ましくは30分〜20時間、より好ましくは60分〜15時間加熱・撹拌することにより、ポリウレタン重合体の一部が低分子量化し、ポリウレタン重合体溶液の粘度が低下して安定化する。この場合、加熱・撹拌時の温度が60℃未満では、低分子量化されたポリウレタン化合物の生成が遅くなり、100℃を超えると実質的なポリウレタン重合体の解重合が起こり、物性の低下を招くことになる。また、加熱時間が短すぎると低分子量化されたポリウレタンが得られにくく、重合毎に重合体溶液の粘度にバラツキが大きくなる場合があり、長すぎると、1回の合成時間が長くなることで経済的な生産方法とは言えない場合がある。
【0048】
上記操作によって低分子量化されたポリウレタン化合物が発生する理由の詳細は不明であるが、反応中に生じた微量の架橋結合や、反応中に形成される分子内水素結合、分子末端等が溶液中で熱解離と再結合することが関与しているものと思われる。また、ポリウレタン重合体溶液を加熱することにより未反応イソシアネート基が完全に消失するため、ポリウレタン重合体溶液の粘度が安定化し、ポリウレタン重合体の黄変防止にも寄与するものと考えられる。更に、加熱により生成した低分子量化ポリウレタン化合物は、変性前の重合体と化学構造が類似しており、安定剤使用の点でも、加熱前のポリウレタン重合体に効果のある組成をそのまま使用することができ、合着性に優れ、かつ耐NOx性、耐塩素性、耐候性等、黄変に対しても優れた効果を有するポリウレタン系弾性繊維を得ることができる。
【0049】
ここで、低分子量化されたポリウレタン化合物の生成度合いは、加熱工程におけるポリウレタン重合体溶液の粘度推移で確認でき、これは、反応槽の撹拌電動機の消費電力を連続的に測定することにより把握できる。また、生成した低分子量化ポリウレタン化合物の重量平均分子量及び含有率は、テトラヒドロフラン(THF)溶液に抽出した可溶分をGPCを用いて測定することができる。生成した低分子量化ポリウレタン化合物の重量平均分子量は20,000〜80,000、好ましくは40,000〜70,000の範囲である(ポリスチレン換算)。低分子量化ポリウレタン化合物の重量平均分子量が20,000より小さいと、加熱時間を長くとる必要があり経済的に不利であり、80,000を超えると合着効果が弱くなる。
【0050】
またポリウレタン重合体中の低分子量化ポリウレタン化合物の含有量は2〜10質量%であり、好ましくは2〜8質量%である。2質量%未満では合着効果が少なく、10質量%を超えるとポリウレタン重合体溶液の粘度が低下しすぎるので、紡糸が不安定になったり、糸物性の低下を招くことになる。
【0051】
(b)の工程は、第3級アミノ基を含有し、更に水酸基を2個以上有するアルコール、有機ジイソシアネート、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤を反応させて得られるポリウレタン化合物を〔II〕工程で得られるポリウレタン重合体に添加する工程である。この反応は、〔II〕工程で説明した溶剤と同様な不活性な有機溶剤中で行なうこともでき、このようにして得られた100〜200℃の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を、ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加するものである。
【0052】
このポリウレタン化合物の融点又は軟化点は100〜200℃であり、合着効果を充分に発揮し、かつマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を後加工で安定に使用するためには、130〜190℃であることが好ましい。ポリウレタン化合物の融点又は軟化点が100℃未満では、紡糸筒内での熱安定性が悪くなり、糸切れが起こったり、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を含む複合糸又は織編物の生産加工段階で、金属面での接着が強くなったり、特に加熱された金属面においては、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維からポリウレタン化合物がマイグレーションするせいか、金属面に該弾性繊維が巻き込まれる等して断糸する問題があり好ましくない。また、融点又は軟化点が200℃を超えると、ポリウレタン化合物のハードセグメント量が高くなるためか、硬い化合物となるので、得られるフィラメント相互の合着性効果が低くなってしまう。
【0053】
なお、ポリウレタン化合物の融点及び軟化点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定される融解ピーク温度(℃)を表す。
【0054】
(b)工程で用いられるポリウレタン化合物の重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)溶液に完全溶解した可溶分をGPCを用いて測定することができる。ポリウレタン化合物の重量平均分子量は800〜50,000が好ましく、より好ましくは1,000〜35,000である(ポリスチレン換算)。分子量が800より低いと、紡糸筒内での熱安定性が悪くなり、糸切れが起こったり、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を含む複合糸又は織編物の生産加工段階で、金属面での接着が強くなったり、特に加熱された金属面においては、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維からポリウレタン化合物がマイグレーションするせいか、金属面に該弾性繊維が巻き込まれる等して断糸する問題が生じる場合がある。分子量が50,000を超えると、溶剤への溶解度が低下し、未溶解ポリウレタン化合物がノズルから吐出される段階で糸切れが生じたり、糸物性が低下したり大きくばらつく等不安定になる場合がある。
【0055】
また、(b)工程で用いられるポリウレタン化合物の窒素含有率は、融点制御の点から4〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは8〜15質量%である。窒素含有率が低すぎると融点が低くなる場合があり、高すぎると融点が高すぎる場合がある。
【0056】
ここで、第3級アミノ基含有アルコールとしては、分子中に水酸基を2個以上有するものであれば特に制限されないが、例えば、N−メチル−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン、N−ブチル−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン、N−ブチル−ビス(2−ヒドロキシプロピル)アミン、N−ブチル−ビス(2−ヒドロキシブチル)アミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−イソブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−イソブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−イソブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−t−ブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−t−ブチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,1−ジメチルプロピルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−1,1−ジメチルプロピルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−1,1−ジメチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0057】
有機ジイソシアネートは、ポリウレタン重合体の原料として挙げたものと同様のものを使用することができる。
【0058】
また、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤として2個以上の活性水素原子を分子中に有する化合物を添加することもできる。鎖延長剤としては、エチレンジアミン、ブタンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジンのようなアミン化合物、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの如きジオール類や水、ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、β−アミノプロピオン酸ヒドラジドの如きヒドロキシド類等の多官能性活性水素化合物を用いることができる。
【0059】
末端封鎖剤としては、イソプロピルアミン、n−ジブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−イソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン等のジアルキルアミン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルキルアルコール等を用いることができる。
【0060】
(b)工程で用いられるポリウレタン化合物のポリウレタン重合体に対する添加量は1〜15質量%であり、2〜14質量%とすることが好ましい。添加量は効果の目標設定によって変わるほか、ポリウレタン重合体を形成する鎖延長剤の種類等によっても異なる。例えば、鎖延長剤として、エチレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミンを各々使用した場合、通常この順番でハードセグメントの熱流動性が高くなり、加えて、アミン窒素原子の電子密度もこの順番で高くなるので、添加した該ポリウレタン化合物との水素結合も強くなる結果、ハードセグメントの熱流動性は一層高くなる。このようにハードセグメントの熱流動性が高くなると、高温下で粘着し易くなり、フィラメント相互の合着性は強くなるので、該ポリウレタン化合物の添加効果はこの順で相乗的に高くなる傾向にある。なお、該ポリウレタン化合物の添加量が1質量%より少ないと合着効果に乏しく、15質量%を超えると糸の強度、伸度、耐熱性等の諸物性が低下するので好ましくない。
【0061】
また、(b)工程においては、上記融点範囲を有する公知の第3級アミン含有ポリウレタンや、市販の第3級アミン含有ポリウレタン重合体を添加してもよい。具体的には、窒素含有率が8〜15質量%で融点が130〜190℃である第3級アミン含有ポリウレタンが好ましく使用される。
【0062】
当該ポリウレタン化合物の重合方法としては、〔II〕の工程で説明したポリウレタン重合体の合成に用いられる溶剤と同じ溶剤中で反応させる、或いはポリウレタン重合体の合成に用いた溶剤とは異なる〔II〕の工程で説明した溶剤を使用して反応させた後、溶剤除去し、ポリウレタン重合体と同じ溶剤で溶解させる方法がある。また、溶剤を使用しないで反応させた後、ポリウレタン重合体と同じ溶剤で溶解させる方法もある。反応の再現性、反応物の操作性等を考慮すると、ポリウレタン重合体と同じ溶剤中で反応させると良い。反応条件については、発熱が強ければ冷やしながら滴下反応させ、反応が遅ければ加温したり触媒を添加する等、通常のウレタン反応条件をそのまま適用して合成できる。
【0063】
このポリウレタン化合物を〔II〕工程で得られるポリウレタン重合体に添加する添加方式は、それぞれ別々に合成又は調製した溶液を混合することが好ましく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、反応温度、時間等の条件を適宜選定して均一に混合することが好ましい。混合する温度は、0〜80℃が好ましく、特に20〜80℃で混合することが好ましい。0℃より低いと混合時の副反応は何等問題ないが、冷却に時間を要したり冷却コストが高くなるので経済的ではない。80℃より高温で処理すると、液の粘度が低下するので混合速度は早くなるが、当該ポリウレタン化合物と溶剤との副反応による品質問題が生じるおそれがあり好ましくない。なお、均一に混合するために少なくとも30分以上撹拌することが好ましい。
【0064】
ポリウレタン重合体に対して上記ポリウレタン化合物を添加する場合、該ポリウレタン化合物をポリウレタン重合体と同じ溶剤で溶解した段階から紡糸を行なう前までの段階で、該ポリウレタン化合物中の未溶解物や不溶物をろ別除去することが好ましい。ろ過目開きサイズは、10μm以下が好ましく、5μm以下でろ過したものが一層好ましい。
【0065】
なお、一般的に、ポリウレタン重合体に第3級アミン含有ポリウレタン化合物を含有させると、紫外線や大気スモッグに曝したときに起こる黄変に対して安定化することや、良好な染色性及び堅牢度を有する等の特徴を示すことは公知である。しかしながら、これらの第3級アミン含有ポリウレタン化合物は、合着性向上に寄与するものではない。即ち、本発明において、第3級アミン含有ポリウレタン化合物の融点又は軟化点範囲を特定することにより、合着性に優れた弾性繊維を得ることができるものである。そして、上記融点又は軟化点範囲の第3級アミン含有ポリウレタン化合物を含有することにより、ハードセグメント量や窒素含有率が高く、耐熱性の高いポリウレタン系弾性繊維を紡糸する際や、生産効率を向上させるために紡糸速度を上げる場合、また太繊度糸等のフィラメント数が増える場合等において、フィラメント相互の合着性に対して、高い効果を発揮するものである。また、各種安定剤や無機系金属塩、無機系酸化物、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス等の無機添加剤をポリウレタン重合体に添加する場合も、これらの添加量を制限することなく使用でき、しかも合着性を向上させることができ、耐NOx性、耐光性、耐塩素性に優れるといった効果を発揮することができるものである。
【0066】
第3級アミノ基含有ポリウレタンを含有すると、ガス、光、塩素等に対する耐変色性と共に、染着性も向上させることが可能となり、これは、特公昭47−48895号公報、特公平2−48585号公報、特公平4−55223号公報により提案されているが、本発明はこれらの特性を損なわずにフィラメント間の合着性に優れた弾性繊維を得ることができるものである。
【0067】
(c)の工程は、ポリオール、有機ジイソシアネート、及び鎖延長剤を反応させて得られ、融点又は軟化点が210℃以下のポリウレタン化合物を〔II〕工程で得られるポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加するものである。
【0068】
このポリウレタン化合物の融点又は軟化点は210℃以下であり、好ましくは200℃以下である。融点又は軟化点が210℃を超えると合着効果が低下する。また、融点の下限値は常温(25℃)以上、特に40℃以上のものが好ましく用いられる。
【0069】
ポリウレタン化合物の融点及び軟化点は、フローテスターCFT−500A形((株)島津製作所製)を使用し、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmとして30kgfの押出荷重を加え、初期設定温度40℃で予熱時間240秒の後、3℃/分の速度で等速昇温したときに描かれるプランジャー移動開始温度とする。
【0070】
このポリウレタン化合物の合成に用いるポリオール、有機ジイソシアネート、及び鎖延長剤としては、上記(a),(b)の工程で説明したものと同様のものを用いることができるが、なかでもポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の高分子ジオールを、有機ジイソシアネートとして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を、鎖延長剤として、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等を用いて得られるポリウレタン化合物を好ましく用いることができる。
【0071】
該ポリウレタン化合物の合成方法については、例えば、全ての原料をワンショットで投入して合成する方法、プレポリマー化反応と鎖延長反応の二段に分けるプレポリマー化反応等が用いられる。また、反応条件については、発熱が強ければ冷やしながら滴下反応させ、反応が遅ければ加温したり触媒を添加する等、通常のウレタン反応条件をそのまま適用することができる。
【0072】
(c)工程で用いられるポリウレタン化合物の重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)溶液に完全溶解した可溶分をGPCを用いて測定することができる。このポリウレタン化合物の重量平均分子量は8,000〜500,000、特に10,000〜400,000が好ましい。このポリウレタン化合物は、ソフトセグメントをもつ重合体であるため、(b)工程で用いられるポリウレタン化合物に比べて高分子量でも溶剤に対する溶解性は高い。分子量が8,000より低いと、紡糸筒内での熱安定性が悪くなり、糸切れが起こったり、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を含む複合糸又は織編物の生産加工段階で、金属面での接着が強くなったり、特に加熱された金属面においては、マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維からポリウレタン化合物がマイグレーションするせいか、金属面に上記弾性繊維が巻き込まれる等して断糸する問題が生じる場合がある。分子量が500,000を超えると合着効果が低下する場合がある。
【0073】
また、(c)工程で用いられるポリウレタン化合物の窒素含有率は、融点又は軟化点制御の点から0.1〜7質量%であることが好ましく、より好ましくは0.15〜4質量%である。窒素含有率が低すぎると融点が低くなる場合があり、高すぎると融点が高すぎる場合がある。
【0074】
上記ポリウレタン化合物のポリウレタン重合体への添加量は、生産性、物性の観点から1〜15質量%であり、特に2〜14質量%とすることが好ましい。添加量が1質量%未満では合着効果に乏しく、15質量%を超えると糸の強度、伸度、耐熱性等の諸物性が低下する。
【0075】
〔II〕工程で得られるポリウレタン重合体に対して上記ポリウレタン化合物を添加する場合、添加方式は、それぞれ別々に合成又は調製した溶液を混合することが好ましく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、反応温度、時間等の条件を適宜選定して均一に混合することが好ましい。混合する温度は、0〜80℃が好ましく、特に20〜80℃で混合することが好ましい。0℃より低いと混合時の副反応は何等問題ないが、冷却に時間を要したり冷却コストが高くなるので経済的ではない。80℃より高温で処理すると、液の粘度が低下するので混合速度は早くなるが、ポリウレタンと溶剤との副反応が生じ、品質問題が生じるおそれがあるので好ましくない。なお、均一に混合するために少なくとも30分以上撹拌することが好ましい。
【0076】
ポリウレタン重合体に対して上記ポリウレタン化合物を添加する場合、該ポリウレタン化合物をポリウレタン重合体の合成に使用する溶剤と同じ溶剤で溶解した段階で、或いは、上記ポリウレタン化合物をポリウレタン重合体溶液と混合した後、紡糸を行う前迄の段階で、該ポリウレタン化合物中の未溶解物や不溶物をろ別除去することが好ましい。ろ過目開きサイズは、10μm以下が好ましく、5μm以下でろ過したものが一層好ましい。
【0077】
(b),(c)工程におけるように、ポリウレタン重合体にポリウレタン化合物を含有させると合着性が向上するが、更に安定剤を使用する場合は、基体ポリマーであるポリウレタン重合体に対して効果を発揮する安定剤の種類・配合量と、添加するポリウレタン化合物に対して効果を発揮する安定剤の種類・配合量が必ずしも一致するとは限らないので、ポリウレタン重合体にポリウレタン化合物を添加する場合は、両者に効果のある安定剤を使用するか、又はそれぞれに効果のある安定剤を組み合わせて使用することで、黄変しにくい安定剤処方を併用することが好ましい。
【0078】
そして、このような融点又は軟化点、及び好ましくは上記範囲の分子量をもつポリウレタン化合物を含有することにより、ハードセグメント量や窒素含有率が高く、耐熱性の高いポリウレタン系弾性繊維を紡糸する際や、生産効率を向上させるために紡糸速度を上げる場合、また太繊度糸等のフィラメント数が増える場合、無機物を添加した場合等のフィラメント相互の合着性に対して優れた効果を発揮するものである。また、上記〔III〕(a)〜(c)の工程を採用することで、フィラメント相互の合着性を高めることができると共に、マルチフィラメント相互が膠着することを防止することができる。この詳細な理由は不明であるが、このような融点又は軟化点、及び好ましくは上記範囲の分子量をもつポリウレタン化合物を含有することにより、170〜230℃程度の雰囲気下において粘着性を高める効果が得られ、フィラメント相互の粘着性向上による合着に寄与しつつ、ベースポリマーのポリウレタン重合体との相溶性が高いので、紡糸段階での糸切れ等のトラブルを起こさず、巻取段階では常温付近まで糸条が冷却されるので、低分子量化ポリウレタン又はポリウレタン化合物の粘着効果は失われ、むしろベースポリマーと水素結合等を通じて充分に混合されており、マルチフィラメント相互の膠着を防止すると共にマルチフィラメント糸そのものの物性も損なわず、良好なマルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維を得ることができるものと推定される。
【0079】
本発明においては、更に、各種安定剤や無機系金属塩、無機系酸化物、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス等の無機添加剤を添加することができる。これらの添加物の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で特に制限することなく使用できるが、合着性向上効果を低減させないためには、ポリウレタン重合体に対して0.1〜10質量%用いるのが好ましく、より好ましくは0.5〜7質量%である。添加量が少なすぎると添加効果が充分ではなく、多すぎると糸物性の低下を招く場合がある。
【0080】
無機系金属塩、無機系酸化物としては、例えばチタン、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、シリカ、鉄、カルシウム、ジルコニウム及び銀からなる群より選ばれる金属元素の塩又は酸化物が挙げられ、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックスとしては、遠赤外線、マイナスイオン等を発する鉱物のセラミックス、例えば美濃顔料化学(株)製のイオミックス、日本セラム(株)製の遠赤外線放射セラミックス(レゾニウムFC−0045)等が例示される。
【0081】
上記安定剤、添加剤をポリウレタンに配合する方法としては、ポリウレタン重合体を合成する工程〔I〕及び〔II〕、又は上記〔III〕(a)〜(c)の低分子量化ポリウレタン化合物を生成する工程或いはポリウレタン化合物を添加する工程の任意の段階で配合できる。また、添加の際は、直接ポリウレタン重合体に添加しても良く、或いは原料に加えても良く、また、あらかじめ少量の溶剤に分散又は溶解させて加えることもできる。
【0082】
また、本発明においては、ポリウレタン重合体の合成に用いられる公知の有機又は無機化合物を配合することができる。例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物の光安定剤、セミカルバジド系化合物、アミン系化合物等の安定剤、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等のような無機微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、オルガノシロキサン等の粘着防止剤、その他顔料、光沢剤、染色増強剤、ガス変色防止剤、充填剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤、表面処理剤、つや消し剤、着色剤、防カビ剤、軟化剤、離型剤、発泡剤、増量剤、増核剤等を適宜配合することができる。
【0083】
紫外線吸収剤の具体例としては、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール化合物、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート化合物を挙げることができる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0084】
酸化防止剤の具体例としては、6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスルチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス−3(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシ−ベンジル)イソシアネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの重付加体のイソブチレン付加物、p−エチルフェノールとジシクロペンタジエン重縮合体のスチレン化物、p−クレゾールとp−ジビニルベンゼンの重縮合物等が例示される。
【0085】
光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸との重縮合物等を例示することができる。
【0086】
セミカルバジド系化合物、アミン系化合物の具体例としては、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(ヘキサメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレンジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトライソプロピル−4,4’−(メチレンジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−α、α−(β−キシリレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−1,4−(シクロヘキシレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−1,6−(ヘキサメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−ジテトラメチレン−4,4’−(2,5(2,6)−ビシクロ[2.2.1]へプチレン−2,5(2,6)−ジメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−ジテトラメチレン−4,4’−(3−メチレン−3,5,5−トリメチル−1,3−シクロへキシレン)ジセミカルバジド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン等が挙げられる。
【0087】
〔IV〕工程は、〔III〕工程で得られる低分子量化ポリウレタン化合物又はポリウレタン化合物を含有するポリウレタン重合体溶液を紡糸する工程である。
【0088】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、乾式法にて紡糸する。紡糸の際に使用する紡糸装置や紡糸条件は、特に限定されるものではなく、ポリウレタンの組成、目的とする繊維の太さ、糸物性等によって、公知の任意の方法を選択し紡糸することができる。例えば、170〜230℃で紡糸し、フィラメントを集束して合着させる方法は、例えば、エアノズルによりフィラメントを仮撚する方法、フィラメントを回転リングに接触させ、仮撚する方法等公知の方法を併用することができる。
【0089】
このようにして得られる合着マルチフィラメントを構成するフィラメントの数は、2本以上であれば任意の本数とすることができるが、2〜50本が好ましく、より好ましくは2〜32本のフィラメントを集束した合着マルチフィラメントであることが望ましい。また、合着マルチフィラメントの形態は、一列又は二列以上の複数列が平行に並んだ状態でもよいし、中心から放射状に複数層に重なっていてもよく、任意の形態をとることができ、断面の形状も、円形、楕円形、三角形、不定形等のいずれであってもよい。
【0090】
また、合着マルチフィラメントポリウレタン弾性繊維の繊度は、使用用途によっても異なるが、単繊維繊度5〜20デシテックス(dtex)であることが好ましく、より好ましくは6〜15dtexであり、総繊度は10〜1,000dtexであることが好ましく、より好ましくは12〜480dtexである。単繊維繊度が細すぎるとフィラメント相互の合着は充分であっても、他の錘のフィラメントが飛び込み、顕著な糸斑が生じる場合があり、太すぎると溶剤の乾燥不足や糸物性の低下を招く場合がある。
【0091】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、単独で編織されることは殆どなく、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、高強度再生セルロース繊維(例えば、商品名テンセル)等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ乳酸等の化学合成繊維等の繊維を用いた、平織、綾織、朱子織等の織物、天竺編み、ゴム編み、パール編み等の丸編地やその他の緯編地、クサリ編、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編地等の1種又は2種以上を組み合わせた織編地に混用し、編織することができる。
【0092】
本発明の合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維は、例えばパンティーストッキング、靴下、タイツ等のレッグ関連商品、ショーツ、シャツ、キャミソール、スリップ、ボディスーツ、ブリーフ、トランクス、肌着、ガードル、ブラジャー、スパッツ、水着、手袋等肌に直接装着するインナー類、セーター、ベスト、トレーニングウェア、レオタード等の中衣類、スキー、野球等各種スポーツ関連衣類、パジャマ、ガウン、シーツ、布団生地、タオルケット等の寝装類、カーテン類、マット、カーペット、不織布等に有用である。
【実施例】
【0093】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、部は質量部を、%は質量%を示す。また、重量平均分子量、融点及び軟化点の測定は後述する通りであり、粘度測定はR型粘度計(東機産業社製R型粘度計シリーズ500)を用いて測定温度40℃、ずり速度0.32S−1一定として、測定開始から10分後の指示値を用いた。
【0094】
[調製例1]
<ポリウレタンウレア溶液[1]の調製>
数平均分子量1,900のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)1,900部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)450部を窒素ガス気流中で60℃、90分間撹拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成し、これにジメチルアセトアミド(DMAC)4,700部を加えてプレポリマー溶液を調製した。
次に、鎖延長剤としてブタンジアミン71.7部と、末端封鎖剤としてジ−n−ブチルアミン6.5部をDMAC705部に溶解したアミン混合溶液を、前記プレポリマー溶液に滴下しながら加え、固形分を31%含み、40℃の溶液粘度が2,000ポイズであるポリウレタンウレア溶液[1]を7,833部得た。
【0095】
[調製例2]
<ポリウレタンウレア溶液[2]の調製>
鎖延長剤としてエチレンジアミン49.3部と、末端封鎖剤としてジ−n−ブチルアミン8.84部をDMAC1,811部に溶解したアミン混合溶液を用いた以外は調製例1と同様にして、固形分を27%含み、40℃の溶液粘度が3,000ポイズであるポリウレタンウレア溶液[2]を8,919部得た。
【0096】
得られたポリウレタンウレア溶液[2]8,919部に1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレンジ−1,4−フェニレン)ジセミカルバジド24.1部(以下A−2とする)、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジルイソシアヌール酸(以下B−2とする)12.0部、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(以下C−1とする)12.0部、2−(2’−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(以下D−2とする)3.61部を添加したポリウレタンウレア溶液[2’]8,971部を得た。
【0097】
[実施例1]
ポリウレタンウレア溶液[1]7,833部を78〜82℃で20時間加熱し、重量平均分子量が50,000の低分子量化ポリウレタン化合物を上記ポリウレタンウレア重合体固形分2,428部に対して72.8部含む重合体溶液を調製した。加熱処理後のこの溶液の粘度は1,600ポイズであった。
なお、加熱前のポリウレタンウレア溶液[1](重量平均分子量270,000)は、溶液を1週間静置すると流動性を失い、粘度も10,000ポイズを超えたが、加熱後の溶液については、1週間静置保存後の粘度は3,400ポイズであり、撹拌せずに静置状態であっても依然流動性を持つ粘度安定性の高い溶液であった。
【0098】
得られた溶液にN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン(以下A−1とする)60.7部、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの重付加体のイソブチレン付加物(以下B−1とする)36.4部、2−(2’−ヒドロキシ−3,5−ジベンジル−フェニル)ベンゾトリアゾール(以下D−1とする)7.3部を添加し紡糸原液となし、2ホールノズルを通じて200℃の不活性ガス中に吐出して脱溶剤、合着後、油剤を付与しながら500m/分の速度で巻取り、22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0099】
[実施例2]
4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)1,179部とN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン805部をジブチル錫ジラウレート10ppm存在下でDMAC中で40℃で10時間反応して得られた重量平均分子量3,900、窒素含有率9.9%、融点170〜180℃のポリウレタン化合物(以下F−1とする)を目開き5μmのフィルターでろ過し、そのろ液を、ポリウレタンウレア溶液[2’]8,971部中のポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して化合物F−1が10%となるように添加し、窒素雰囲気下40℃で1時間充分に混合した。次いで、2ホールノズルを通じて200℃の不活性ガス中に吐出して脱溶剤、合着後、油剤を付与しながら500m/分の速度で巻取り22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0100】
[実施例3]
HMDIと数平均分子量6,000のポリエチレングリコールをジブチル錫ジラウレート100ppm存在下110℃で4時間反応させ、次いでブタンジオールを加え、180℃で10分間鎖延長反応させて得られた、重量平均分子量320,000、窒素含有率が0.8%、軟化温度が56℃のポリウレタン化合物(以下F−4とする)を固形分濃度が27%になるようにDMACを加え40℃で約3時間充分に混合した。次いで該溶液を目開き5μmのフィルターを通過させることにより、DMAC未溶解分や不溶分をろ過分別したろ液を、ポリウレタンウレア溶液[2]8,919部中のポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して化合物F−4が10%となるように添加し、更に化合物A−1を60.2部、化合物B−1を36.1部、化合物D−1を7.2部加え40℃で2時間充分に混合した後、2ホールノズルを通じて200℃の不活性ガス中に吐出して脱溶剤、合着後、油剤を付与しながら500m/分の速度で巻取り、44dtex(4f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0101】
[実施例4]
ポリウレタンウレア溶液[1]7,833部を実施例1と同様に加熱した後、化合物A−2を24.3部、化合物B−2を12.1部、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラピペリジンとの重縮合物(以下C−2とする)12.1部、2−(2’−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール(以下D−3とする)3.6部、酸化チタン(堺化学工業(株)製、STRグレード品)(以下E−1とする)121.4部を添加し、2ホールノズルを通じて200℃の不活性ガス中に吐出して脱溶剤、合着後、油剤を付与しながら500m/分の速度で巻取り、22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0102】
[実施例5]
HMDIを1,048部とN,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン563.5部をジブチル錫ジラウレート50ppm存在下、DMAC中で30℃で8時間反応させた後、更に過剰のイソシアネート基をt−ブチルアミン146部で30℃1時間末端封止反応させて得られた、重量平均分子量3,500、窒素含有率10.8%、融点175〜184℃のポリウレタン化合物(以下F−2とする)を目開き5μmのフィルターでろ過し、そのろ液をポリウレタンウレア溶液[2’]のポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して化合物F−2が10%となるように添加し、更に化合物E−1を24.1部添加した以外は実施例2と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0103】
[実施例6]
化合物F−4を固形分濃度が32%となるようにDMACを加えて40℃で約3時間充分に混合した。次いで該溶液を目開き5μmのフィルターを通過させることにより、DMAC未溶解分や不溶分をろ過分別した。このろ液にDMACを加え固形分濃度を27%に調整した後、ポリウレタンウレア溶液[2’]8,918部中のポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して化合物F−4が6%となるように添加し、更に化合物E−1を24.1部添加する以外は、実施例2と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0104】
[実施例7]
化合物E−1の代わりに天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス(美濃顔料化学(株)製、イオミックス)(以下E−2とする)60.7部を使用し、化合物B−2の代わりに3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5・5)ウンデカン(以下B−3とする)を12.1部に変更する以外は、実施例4と同様にして33dtex(3f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0105】
[実施例8]
化合物E−2を60.2部添加し、化合物F−2の末端封止剤をプロパノール120部に変更し、30℃で5時間末端封止反応させて得られた重量平均分子量3,400、窒素含有率9.3%、融点166〜173℃のポリウレタン化合物(以下F−3とする)を目開き5μmのフィルターでろ過し、そのろ液をポリウレタンウレア溶液[2’]の固形分(2,408部)に対して化合物F−3が5%となるように添加し、更に化合物B−2の代わりに化合物B−3を12.0部使用する以外は、実施例2と同様にして総繊度22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0106】
[実施例9]
化合物F−3の含有量をポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して3%となるように変更し、化合物C−1の代わりに化合物C−2を12.0部使用する以外は、実施例8と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0107】
[実施例10]
ポリウレタンウレア固形分(2,408部)に対して、ろ過後の化合物F−4を3%添加し、化合物E−1の代わりに化合物E−2を60.2部、化合物B−2を化合物B−3に変更する以外は、実施例6と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0108】
[比較例1]
ポリウレタンウレア溶液[1]7,833部を78〜82℃で10分加熱し、重合体固形分2,428部に対して重量平均分子量50,000の低分子量化ポリウレタン化合物を12.1部含むポリウレタンウレア溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
加熱処理後の溶液粘度は2,100ポイズで、加熱前よりむしろ高粘度になり、加熱後の溶液を1週間静置すると、流動性を失い、粘度も10,000ポイズを超え、加熱後の溶液に粘度安定効果は認められなかった。
【0109】
[比較例2]
化合物F−1を添加しない以外は、実施例2と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0110】
[比較例3]
化合物F−4を添加しない以外は、実施例3と同様にして44dtex(4f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0111】
[比較例4]
比較例1の低分子量化ポリウレタン化合物を12.1部含むポリウレタンウレア溶液を用いた以外は実施例4と同様の安定剤を含有させて22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0112】
[比較例5]
化合物F−2を添加しない以外は、実施例5と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0113】
[比較例6]
比較例1の溶液を用いた以外は実施例7と同様にして33dtex(3f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0114】
[比較例7]
化合物F−3を添加しない以外は、実施例8と同様にして22dtex(2f)のマルチフィラメントポリウレタン弾性繊維を得た。
【0115】
実施例1〜10及び比較例1〜7で用いた各添加剤の配合割合をポリウレタン重合体に対する質量%に換算した値として表1,2に示した。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
実施例1〜10及び比較例1〜7で得られたポリウレタン弾性繊維について、下記の方法に従って物性を調べた。
〈ポリウレタン弾性繊維の試験〉
合着性試験
ポリウレタン弾性繊維を手で揉み、フィラメント単糸が糸割れするまでに要する回数を求めた。回数が高ければ高いほど、単糸間の合着性は優れている。
耐NOx試験
ポリウレタン弾性繊維をアルミニウム板(5cm×8cm×1mm)に厚さ1mmになるまで巻き付け、JIS L0855試験に準じて、650ppmの酸化窒素ガス雰囲気下で標準染色布の変色が一定に達するまで3回暴露し、暴露前後の黄色度YI値をミノルタ分光測色計CM−3500d(ミノルタ(株)製)により測色し、その変化量(ΔYI)を求めた。
耐塩素試験
ポリウレタン弾性繊維をアルミニウム板(5cm×8cm×1mm)に厚さ1mmになるまで巻き付け、JIS L0884B法に基づいて塩素濃度20ppmの水溶液中で3時間処理した後、上記と同様に黄色度の変化量(ΔYI)を求めた。
耐光性試験
ポリウレタン弾性繊維をアルミニウム板(5cm×8cm×1mm)に厚さ1mmになるまで巻き付け、スガ試験機製紫外線フェードメーターU48Sで16時間照射し、上記と同様に黄色度の変化量(ΔYI)を求めた。
また、島津製作所製AG−1を用いて、把握張2cm、伸長速度300mm/分として破断強度(G1)を求めた。未処理の試料の破断強度(G)を同様にして測定し、下式(I)で強度保持率(%)を求めた。
強度保持率(%)=G1/G×100 ・・・(I)
染着性試験
ポリウレタン弾性繊維を一口編し、弾性繊維の筒編地を得た。更にポリアミド6繊維(東レデュポン(株)製、TDN33T、10フィラ)を同様に編み立てて、ポリアミド6繊維筒編地を得た。これらを同浴にて下記条件で染色、フィックス処理を行った。
(1)染色条件
染料: Nyiosan Red、Nyiosan Blue 2.0%owf
ポリアミド6筒編地質量:6g
弾性繊維筒編地質量 :4g
浴比 :1:20
温度,時間 :95℃×40分
(2)フィックス条件
フィックス剤 :フィックスGM(大日本製薬KK製) 4%owf
ポリアミド6筒編地質量 :6g
弾性繊維筒編地質量 :4g
浴比 :1:20
温度,時間 :80℃×20分
(3)染色測定
染色した弾性繊維一口編地を脱水後室温で12時間風乾後、一口編3つ折り、即ち生地6枚重ねの状態でミノルタ分光測色計にてK/S値を測定した。
K/S=(R−1)2/2R
(式中、Kは吸収係数、Sは散乱係数、Rは反射率を表す。)
【0119】
〈ポリウレタン重合体、低分子量化ポリウレタン化合物及びポリウレタン化合物の分子量の測定方法〉
ポリウレタン重合体の重量平均分子量の測定方法
0.1%塩化リチウムのDMF溶液を用いてポリウレタン重合体の濃度が0.2%になるよう調整し、試料を完全溶解させた。次いで、以下に示した装置及び条件で分子量を求めた。
装置本体:高速液体クロマトグラフ Class−VP((株)島津製作所製)
カラム:Shodex GPC KD−806M(昭和電工(株)製)を
4本接続して使用した
カラムオーブン温度:50℃
検出器:示差屈折計 RID−10A((株)島津製作所製)
移動層:0.1%塩化リチウムのDMF溶液、流速は1mL/分
標準物質:ポリスチレン
【0120】
低分子量化ポリウレタン化合物及びポリウレタン化合物の重量平均分子量の測定方法
低分子量化ポリウレタンの場合は、ポリウレタン重合体0.04gをテトラヒドロフラン(THF)で0.2%に調整し、25℃で3時間振とうさせた。次いで、該溶解分を以下に示した装置及び条件で分子量を求めた。
ポリウレタン化合物の場合は、テトラヒドロフラン(THF)を用いてポリウレタン化合物の濃度が0.2%になるよう調整し、完全溶解させた。次いで、以下に示した装置及び条件で分子量を求めた。
装置本体:島津高速液体クロマトグラフ LC−6A((株)島津製作所製)
カラム:Shodex GPC KF−801、KF−802、KF−803、
KF−804、KF−806(昭和電工(株)製)を接続して使用した
カラムオーブン温度:40℃
検出器:示差屈折計 RID−6A((株)島津製作所製)
移動層:THF、流速は1mL/分
標準物質:ポリスチレン
【0121】
〈ポリウレタン化合物の融点又は軟化点の測定方法〉
第3級アミノ基含有アルコール、有機ジイソシアネート、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤を反応させて得られたポリウレタン化合物の融点又は軟化点の測定方法
該ポリウレタン化合物を、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した時に検出される融解ピーク温度を融点又は軟化点とする。詳細は次の通りである。
測定装置:DSC(示差走査熱量計)(エスアイアイナノテクノロジー(株)製)
サンプル量:5mg
昇温速度:10℃/分
温度範囲:室温〜340℃
【0122】
ポリオール、有機ジイソシアネ−ト、及び鎖延長剤を反応させて得られたポリウレタン化合物の融点又は軟化点の測定方法
該ポリウレタン化合物を、フローテスターCFT−500A形((株)島津製作所製)を用いて、3℃/分の昇温速度で描かれるプランジャー移動開始温度を融点又は軟化点とする。詳細は次の通りである。
測定装置:フローテスターCFT−500A形
サンプル量:5g
ダイ(ノズル)の直径:0.5mm
ノズルの厚み:1.0mm
押出荷重:30kgf
初期設定温度:40℃
昇温速度:3℃/分
【0123】
上記試験の結果について、実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を表3の試験1に示し、実施例4〜6及び比較例4,5の結果を表4の試験2に示し、実施例7〜10及び比較例6,7の結果を表5の試験3に示した。試験1は、ポリウレタン重合体溶液の加熱による低分子量化ポリウレタン化合物を生成させた場合と低分子量ポリウレタン化合物を配合した試験結果であり、試験2は、無機添加剤配合試験結果であり、試験3は、天然放射性レア・アース鉱物配合試験結果である。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔I〕数平均分子量400〜5,000のポリオールと過剰モル量の有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する工程、
〔II〕前記中間重合体に対して、下記一般式(1)及び(2):
A:H2NR1NH2 (1)
B:NHR23 (2)
(式中、R1は単結合、又はアルキレン基、アリーレン基、若しくはこれらが結合した基であり、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。)
で示されるアミン化合物A及びBを当量比でA/B=99/1〜90/10となるように添加し、有機溶剤中で上記中間重合体と反応させてポリウレタン重合体溶液を得る工程、
〔III〕下記(a)〜(c)より選ばれるいずれか一つの工程、
(a)前記ポリウレタン重合体溶液を60〜100℃で加熱・撹拌し、上記ポリウレタン重合体の2〜10質量%を重量平均分子量20,000〜80,000の低分子量化ポリウレタン化合物に変性する工程、
(b)第3級アミノ基含有アルコール、有機ジイソシアネート、必要に応じて鎖延長剤及び/又は末端封鎖剤を反応させて得られ、100〜200℃の融点又は軟化点を有するポリウレタン化合物を、前記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程、
(c)ポリオール、有機ジイソシアネート、及び鎖延長剤を反応させて得られ、融点又は軟化点が210℃以下のポリウレタン化合物を、前記ポリウレタン重合体に対して1〜15質量%添加する工程、
及び
〔IV〕低分子量化ポリウレタン化合物又はポリウレタン化合物含有ポリウレタン重合体溶液を乾式紡糸する工程
を含むことを特徴とする合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【請求項2】
更に、前記ポリウレタン重合体に対し、無機添加剤を0.1〜10質量%添加するようにした請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
無機添加剤が、チタン、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、シリカ、鉄、カルシウム、ジルコニウム及び銀からなる群より選ばれる金属元素の塩若しくは酸化物、又は天然放射性レア・アース鉱物含有セラミックスである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法で製造された合着マルチフィラメントポリウレタン系弾性繊維。

【公開番号】特開2006−118102(P2006−118102A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309130(P2004−309130)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】