説明

合金化アルミめっき鋼板またはアルミ合金層を有するプレス部品のスポット溶接方法

【課題】溶接条件を最適化することによりチリの発生を抑制して安定したスポット溶接継ぎ手を製造可能な合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法方法を提供する。
【解決手段】 鋼板の表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有する合金化アルミめっき鋼板、または、表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有するプレス部品をスポット溶接する方法において、電流の周波数が50Hzもしくは60Hzの単相交流スポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流を漸増させるアップスロープ通電期間を4サイクル以上20サイクル以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、α×(4×t )サイクル以上、α×(10×t+10)サイクル以下、電源の周波数が60Hzの場合はα=1.2、50Hzの場合はα=1とすること、及び、直流インバーター電源を有するスポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を70ms以上340ms以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、100×t ms以上200×t+200ms以下とすることを特徴とする合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車部品に使用されるFe-Al合金層を表面に有する合金化アルミめっき鋼板またはFe-Al合金層を有するプレス部品のスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題に端を発する自動車の軽量化のためには、自動車に使用される鋼板をできるだけ高強度化することが必要となるが、一般に鋼板を高強度化していくと伸びやr値が低下し、成形性が劣化していく。そこで鋼板をオーステナイト単相域に加熱し、その後プレス成形過程にて冷却を施す熱間プレスという技術が非特許文献1(SAE,2001-01-0078)に紹介されている。この技術に用いられる表面処理鋼板としてアルミめっき鋼板を用いる技術が特開2003−34844号公報(下記特許文献1)、特開2003−34845号公報(下記特許文献2)に開示されている。この技術は鋼板をオーステナイト単相域に加熱する際に鋼板の鉄がめっき中に拡散して、Fe-Al合金となり、耐熱性に優れためっき層を形成することが特徴である。この皮膜は一般的に車体部品に使用される合金化溶融亜鉛めっき鋼板に遜色ない耐食性を有することが示されており、高強度で耐食性を有する自動車車体部品が製造することが可能となり、その車体への適用が近年拡大している。
この鋼板をスポット溶接する際にはチリが発生しやすい場合がある。その理由は明確ではないが、以下のような機構が推察される。この鋼板のめっき層であるFe-Al合金層はFeが50%以上含有しており、融点は1150℃程度である。また、非特許文献2(新日鉄技報、第378 号、2003年、p.15)によれば、その合金化後の表面には凹凸が形成されていることが示されている。この状態では鋼板の板-板間での接触状態が凹凸の凸部による点接触となり、融点が高いことにより接触部が軟化しにくいために通電路の拡大が抑制されて、この状態にてナゲットを形成すべき溶接電流が通電した際には、通電点にて過大な電流密度が生じてチリが発生するものと推察される。
そこで鋼板の表面粗度を制御して、スポット溶接性を向上させる技術が特開2004−2932号公報(下記特許文献3)に開示されている。このような特別に管理された条件にて製造された鋼板を用いた場合には良好なスポット溶接性が期待できるが、上記のような製造工程を用いた鋼板を用いると部品コストが上昇してしまう。そこで、特別な鋼板を用いる必要が無い溶接条件を探索する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−34844号公報
【特許文献2】特開2003−34845号公報
【特許文献3】特開2004−2932号公報
【特許文献4】特開2006−212649号公報
【特許文献5】特開2006−224127号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】SAE,2001-01-0078
【非特許文献2】新日鉄技報、第378 号、2003年、p.15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のように溶接条件を最適化することによりチリの発生を抑制して安定したスポット溶接継ぎ手を製造可能な合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために発明者は鋭意研究を重ね、以下の考え方により安定したスポット溶接継ぎ手を製造できることを見出した。すなわち、チリが発生する理由となるめっき表面の凹凸に起因する点接触となった通電点を解消するため、ナゲット形成の通電期間の前に予通電を施してめっき層を軟化・溶解して板-板間の通電路から排出し、ナゲットが形成する前に板-板間を地鉄-地鉄同士の接触とすることである。これよりスポット溶接性に比較的優れる冷延鋼板同士と同様の接触状態を実現することができ、めっき層の表面に起因するチリ発生を抑制することができる。
【0007】
予通電の方法としては下記の3種類の方法が考えられる。ナゲットを形成する電流よりも低い電流を一定期間通電する方法。ナゲットを形成する電流よりも高い電流を数サイクルという短時間通電する方法。ナゲットを形成する電流を通電する前に通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を設ける方法。1サイクルとは交流電流の波形の1サイクル分の時間を指す。
【0008】
まず、ナゲットを形成する電流よりも低い電流を一定期間通電する方法について説明する。この場合はナゲットを形成しない程度の溶接電流を用いることが一般的であり、ナゲット形成する溶接電流の50%程度が用いられることが多い。めっき金属が低融点の場合にはこの程度の溶接電流で溶融して、めっき金属を板-板間から排出することが可能となる。しかし、本発明の課題としているFe-Al合金層は融点が高いため、通常用いられる程度の電流ではめっきが充分溶融せず、めっき金属の板-板間からの排出は期待できない。そこで、Fe-Al合金層を溶融すべく電流を高くしていくと、電流密度が不均一であるスポット溶接の特徴として、めっきが溶融する箇所と、地鉄自体が溶融してナゲットを形成してしまう箇所が生じてしまう。ナゲットが形成してしまった場合には、その部位でのめっき金属の排出が充分でなく、チリを抑制することができない。これより、この方法は適当でないことが分かる。
【0009】
次に、ナゲットを形成する電流よりも高い電流を数サイクルという短時間通電する方法について説明する。この方法はナゲットを形成する電流の10〜30%程度高い電流を短時間通電して、板-板間の接触状態を改善する技術である。この技術をFe-Al合金層を有するめっき鋼板に適用した場合には、めっき層は高い電流が通電されることによりめっき金属の軟化・溶融が生じ始める。しかし、通電時間が短いため、完全なめっき層の溶融には至らず、めっき層の板-板間の排出の時間も不足するため、大きな改善は見られない。そこで、予通電の電流を高くすると、予通電を行なっていない状態と同様に点接触部に過大な電流が通電してチリ発生にいたるものと考えられる。これよりこの方法も適当でないことが分かる。
【0010】
最後にナゲットを形成する電流を通電する前に通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を設ける方法について説明する。この方法では溶接電流が漸増していくため、めっき層の軟化・溶融が上記2つの方法よりも緩やかに生じ、電流密度が高い電極端部、すなわちナゲットとなる部位の外周部からめっきが溶融して排出され、最後には電極直下のめっき層も溶融して排出される。これは漸増しているためにめっき層が移動する時間が確保されているためである。この方法を用いることにより高融点のFe-Alめっき層の予通電による板-板間からの排出が容易に生じ、チリを抑制することが可能となる。
【0011】
アルミめっき鋼板のスポット溶接にアップスロープを用いる技術は特開2006−212649号公報(特許文献4)、特開2006−224127号公報(特許文献5)に開示されている。これらの技術は通常のアルミめっき鋼板をスポット溶接する技術であり、めっき層の融点は高々600℃程度である。解決しようとする課題も前者はめっき金属と電極の反応による電極の損耗防止、後者はアルミめっき鋼板とAl材の接合時のナゲット中の金属間化合物の形成に関するものである。本発明が課題とするのは融点が高いFe-Al合金層のめっき層のスポット溶接である。前者の電極損耗に関しては、本発明が対象とする鋼板の場合は、電極-板間のめっき層は溶融しないため、めっき金属と電極との反応が生じにくく、電極損耗による電極寿命も課題は本発明の鋼板には存在しない。また、後者のアルミめっき鋼板とAl材のスポット溶接ではナゲット中に生じるFe-Al-Siの3元系の金属間化合物を制御して接合強度を向上させる技術であるが、本発明が対象としているFe-Al合金層をめっき層とする鋼板ではナゲット中にこのような金属間化合物は形成しない。これらより、対象とする材料と解決する課題が異なる技術であると言える。
【0012】
発明者はその具体的な方法として、様々な板厚の鋼板を用いて検討を行い、安定したスポット溶接継ぎ手を製造する方法として下記の条件を見出した。すなわち、本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
(1)鋼板の表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有する合金化アルミめっき鋼板、または、表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有するプレス部品をスポット溶接する方法において、電流の周波数が50Hzもしくは60Hzの単相交流スポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流を漸増させるアップスロープ通電期間を4サイクル以上20サイクル以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、α×(4×t )サイクル以上、α×(10×t+10)サイクル以下、電源の周波数が60Hzの場合はα=1.2、50Hzの場合はα=1とすることを特徴とする合金化アルミめっき鋼板スポット溶接方法。
(2)鋼板の表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有する合金化アルミめっき鋼板、または、表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有するプレス部品をスポット溶接する方法において、直流インバーター電源を有するスポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流を漸増させるアップスロープ通電期間を70ms以上340ms以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、100×t ms以上200×t+200ms以下とすることを特徴とする合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の技術を用いることによりFe-Al合金層を表面に有する耐食性に優れためっき鋼板で構成された高強度車体部品に対して安定的にスポット溶接を施すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記課題を解決する手段として、発明者は通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を最適化し、その後の一定溶接電流の通電期間を、接合する鋼板の板厚を用いた関係式にて定義した。この技術においてアップスロープは表面に存在するFe-Al合金層を排出する目的で用いられるため、単相交流電源を用いた場合と直流インバーター電源を用いた場合のそれぞれについて、有効な通電時間を設定した。また、その後の一定溶接電流の通電期間は、ナゲットが適当な溶け込み深さを有するたけの時間が必要となるため、板厚を基準とした関係式によりその範囲を定義した。この方法を用いることによりFe-Al合金層をめっき層として有する鋼板に安定的にスポット溶接を施すことができる。
【0015】
以下に具体的な溶接条件について説明する。電流の周波数が50Hzもしくは60Hzの単相交流スポット溶接機を用いる場合に、通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を4サイクル以上20サイクル以下設けることとした。アップスロープ通電期間が4サイクル未満であるとめっき金属の溶融と排出に要する時間が不足するため、下限を4サイクルとした。これは電源の周波数が50Hzもしくは60Hzの場合でも同様である。アップスロープ通電期間を20サイクル以下としたのは、このサイクル数でめっき金属の溶融と排出する効果が飽和するためであり、これ以上の長いアップスロープは不必要であり生産性を低下させるためである。その後の一定溶接電流の通電期間は、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、α×(4×t )サイクル以上、α×(10×t+10)サイクル以下、電源の周波数は60Hzの場合はα=1.2、50Hzの場合はα=1とした。この値がα×(4×t )サイクル未満の場合はナゲットが充分成長しないためである。またα×(10×t+10)サイクル以下としたのはこれ以上の通電時間を用いてもナゲットの成長が生じずに、かえって付与する熱量が高くなるためインデンテーションが大きくなり、溶接強度が低下するためである。
【0016】
直流インバーター式スポット溶接機を用いる場合に、通電開始後に溶接電流の漸増させるアップスロープ通電期間を70ms以上340ms以下設けることとした。アップスロープ通電期間が70ms未満であるとめっき金属の溶融と排出に要する時間が不足するため、下限を70msとした。アップスロープ通電期間を340ms以下としたのは、このサイクル数でめっき金属の溶融と排出する効果が飽和するためであり、これ以上の長いアップスロープは不必要であり生産性を低下させるためである。その後の一定溶接電流の通電期間は、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、100×t ms以上200×t+200ms以下とした。この値が100×t ms未満の場合はナゲットが充分成長しないためである。また200×t+200ms以下としたのはこれ以上の通電時間を用いてもナゲットの成長が生じずに、かえって付与する熱量が高くなるためインデンテーションが大きくなり、溶接強度が低下するためである。
【0017】
めっき層の組成をFeが原子比で50%以上含有した80%以下Fe-Al合金層とした。その理由は、Feが原子比で50%以下の場合には合金化していない金属Alが存在し、金属Alが残存すると耐食性に悪影響を及ぼすためである。さらに、金属Alが残存した場合にはスポット溶接時に板-電極間で溶融して電極の銅合金を反応して、電極損耗を引き起こすため、電極寿命が著しく低下する。そこためFe%の下限を50%とした。またFe%が80%超となった場合には、Fe-Al合金層自体の耐食性が低下するためその上限を80%とした。めっき層の厚さを5〜50μmとしたのは5μm未満の場合には、耐食性が不足するためであり、50μm以下としたのはこの厚みにて耐食性の向上が飽和し、これ以上のめっき付着量は不必要で材料のコストが増加するためである。
【0018】
なお、その他の溶接条件としては加圧力がある。加圧力は車体組み立てラインの溶接機の能力に依存する場合が多いため、使用する溶接機にあわせて適宜設定すればよい。ただし、高加圧力の方が溶接が安定するため、200kgf以上の加圧力が望ましい。また、溶接条件で設定した板厚はナゲット形成に関するものであるため、板厚が異なる材料を溶接する場合には、板厚が薄い方にあわせて条件を設定すると良い。
【0019】
また、通電条件としてアップロープ後の一定溶接電流通電期間の後に、冷却やダウンスロープ、または一定溶接電流通電の溶接電流よりも低い電流を通電する後熱処理や、同一の電流を1回または複数回繰り返すパルセーション通電を行なっても本発明の技術を損なうものではない。また通電後の保持時間も適宜設定しても本発明の技術を損なうものではない。また通電終了から加圧力を抜くまでの時間であるホールドもいかなる値を用いてもよいが、生産性の観点から長すぎるものは好ましくない。
【0020】
電極形状や材質は特に規定しないが、材質としてはCr-Cuやアルミナ分散銅などを用いるのが実生産では有用である。電極形状は電極先端径が6mmから8mm程度の電極を用いると良い。形状はドームラジアス型やコーンフラット型などを用いると良いが、接合する部品の形状によっては、その形状に適した電極を用いればよい。
【0021】
接合される鋼板としては特開2003−34844号公報(特許文献1)、特開2003−34845号公報(特許文献2)に開示されている鋼板を用いることが多いが、表面が本発明の範囲であれば、特に鋼成分やめっき組成は限定しない。また、鋼板を熱間プレスする際の加熱条件やプレス条件など様々な溶接条件についても特に限定しない。また、鋼板に様々な目的で後処理皮膜、潤滑剤、離型剤などが付与されていた、もしくはプレスの際に用いられて製造された部品に付着していても、その厚みが板厚の1/10を超えなければ、特に問題は無い。厚みが1/10を超えた場合には通電炉形成過程が変化する可能性があり、今回限定した条件では接合が不十分となる可能性が存在する。
【0022】
溶接機についても定置式、ロボット式などの形式には影響を受けない。冷却については溶接機の仕様に従って充分な水量を流して電極を冷却しておく必要がある。冷却が不十分の場合には通電時の発熱状態が変化して、チリが発生しやすくなる場合が考えられる。
以上は、合金化アルミめっき鋼板で説明したが、同様な合金層を有するプレス部品を溶接する場合も全く同じである。
【0023】
本願でいうところの合金層を有する合金化アルミめっき鋼板は、一般的に用いられているAl−10%Si浴で溶融めっきしたアルミめっき鋼板を合金化させたものが最適であるが、浴組成は、純Al浴や微量のMg、Ca、Crなどを含んでいてもよい。合金化の方法は、表面にFeが原子比で50%以上80%以下含有したFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下を有するようにすればよく、バッチ熱処理または連続熱処理のいずれも適用可能であり、温度と時間を適宜調整すればよい。
【0024】
同様な合金層を有するプレス部品を製造するためには、アルミめっき鋼板をオーステナイト領域まで加熱してプレスしながら冷たい金型内で焼き入れする熱間プレスでもよいし、冷間プレス後にプレス部品を加熱してもよいし、それらの組み合わせでもよい。鋼板同様に加熱の際の温度と時間を適宜調整すればよい。
【実施例】
【0025】
(実施例1)表1に示す化学成分のアルミめっき鋼板を電気炉にて900℃に加熱した後、加熱炉から取り出して750℃程度で平板の金型に挟んで10秒間加圧力を付与して冷却した。金型の表面温度は20〜50℃であり、冷却後の鋼板の温度は50〜80℃であった原板のアルミめっき鋼板として、タイプIと呼ばれる10%程度のSiを含有するめっき層を有する鋼板を用いた。この熱処理によりめっき層に地鉄からFeが拡散してFe-Al合金を形成し、地鉄は金型による冷却によりマルテンサイト変態し、焼入れされた。
熱処理後のめっき層の組成についてはめっき層断面を切断して研磨したのち、SEMでのエネルギー分散型X線分光法を用いて各相の分析を行うことにより、めっき層中のFeの原子比を求めた。この方法以外にも、めっき層表権からグロー放電発光分光法による測定や、めっき層断面を切断して研磨したのち、X線マイクロアナライザーを用いて各相の分析を行う方法を用いても良い。めっき層厚さは鋼板断面を切断して研磨し、ナイタール腐食を行なった後に金属顕微鏡で観察した結果を元に測定した。
【0026】
熱処理後の鋼板の特性として塗装後の耐食性を評価した。上記のように焼き入れた試料を70×150mmに剪断し、化成処理、電着塗装を施した。化成処理液は日本パーカライジング(株)製化成処理液PB−3081Mを使用した、電着塗装は日本ペイント(株)製カチオン電着塗料パワーニクス110、厚みは約20μmとした。その後、カッターで塗膜にクロスカットを入れ、自動車技術会で定めた複合腐食試験(JASO−610M)を150サイクル(50日)行ない、クロスカット近傍の腐食深さを測定した。この試験では比較材に目付け量片面45g/m2程度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、この材料を同様の化成処理と電着塗装を施し、同等の試験を行った場合の腐食深さを比較した。このときの腐食の判定基準を下に示す。○:腐食深さが比較材の±10%以内である場合、◎:腐食深さが比較材の値の90%未満である場合、×:腐食深さが比較材の値の110%超であった場合。
【0027】
上記の試験から鋼板のめっき層の組成とめっき厚さが本発明範囲にあるものを用いて溶接試験を行った。試験は溶接電流を変化させて、チリ発生電流とナゲット径が板厚をt(mm)としたときに5√tとなる場合の溶接電流を求めた。ナゲット径はスポット溶接ナゲットの断面を切断して研磨して、ピクリン酸と界面活性剤を含む水溶液にて腐食し、溶融部を出現させて、その断面を金属顕微鏡で観察することにより測定した。
表2、3には用いた原板の鋼種と板厚、熱処理後のめっき層中のFe%とめっき層厚み、スポット溶接条件と溶接試験結果を示した。表2は単相交流電源を用いた場合、表3には直流インバーター電源を用いた場合について示した。その際、比較として表2、3に示す溶接条件でアップスロープの期間を無くした条件についても溶接も行ない、アップスロープ導入の効果を評価した。
【0028】
試験結果としては下記のデータを示した。(1)チリ発生電流のアップスロープ導入による増加代。この場合、その増加代が0.5kA以上でチリ発生電流が増加したと認めた。(2)ナゲット径が板厚をtとして5√tとなる溶接電流のアップスロープ導入による増加代。(3)チリ発生電流値とナゲット径が5√tを示す電流値の差のアップスロープ導入による増加代。これもその増加代が0.5kA以上でスポット溶接性が改善したものと認めた。
この結果からアップスロープとアップスロープ後の一定電流通電期間(本通電)を本発明の制限内とすることで、チリ発生が抑制されて安定したスポット溶接が可能となることが明らかとなった。
【0029】
(実施例2)実施例1の実験番号3、7、19、32、35、39、51、64で用いた熱処理した材料を用いて、スポット溶接条件の検討を行なった。その溶接条件と評価結果を表4, 5に示す。表4は単相交流電源を用いた場合、表5には直流インバーター電源を用いた場合について示した。実施例1と同様に、比較として表4, 5に示す溶接条件でアップスロープの期間を無くした条件についても溶接も行ない、アップスロープ導入の効果を評価した。スポット溶接性の評価は実施例1と同様の項目を行なった。
【0030】
これらの結果から下記のことが分かった。アップスロープの期間が本発明の範囲外である場合には、チリ発生電流の増加が見られず、スポット溶接性の改善が見られなかった。また、アップスロープ後の一定電流通電期間が本発明の範囲外であると、ナゲットが十分でないことがわかった。アップスロープとアップスロープ後の一定電流通電期間を本発明の制限内とすることで、チリ発生が抑制されて安定したスポット溶接が可能となることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の技術を用いることで、優れた耐食性を示すFe-Al合金層を有する鋼板を有する車体部品を用いて、スポット溶接により安定的に車体の組み立てをすることが可能となる。これにより自動車の軽量化に大きく貢献することが期待でき、産業上の効果は極めて高い。
【0032】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有する合金化アルミめっき鋼板、または、表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有するプレス部品をスポット溶接する方法において、電流の周波数が50Hzもしくは60Hzの単相交流スポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流を漸増させるアップスロープ通電期間を4サイクル以上20サイクル以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、α×(4×t )サイクル以上、α×(10×t+10)サイクル以下、電源の周波数が60Hzの場合はα=1.2、50Hzの場合はα=1とすることを特徴とする合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法。
【請求項2】
鋼板の表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有する合金化アルミめっき鋼板、または、表面にFeを原子比で50%以上80%以下含有するFe-Al合金層を片面の厚さ5μm以上50μm以下有するプレス部品をスポット溶接する方法において、直流インバーター電源を有するスポット溶接機を用い、通電開始後に溶接電流を漸増させるアップスロープ通電期間を70ms以上340ms以下設け、その後に一定溶接電流通電期間を、接合する鋼板の板厚をt(mm)とした場合に、100×t ms以上200×t+200ms以下とすることを特徴とする合金化アルミめっき鋼板のスポット溶接方法。

【公開番号】特開2011−167742(P2011−167742A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35656(P2010−35656)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】