合金化度と分散性を制御したPtRu/C触媒及びその製造方法
【課題】従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を有する燃料電池アノード用触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程を備え、熱処理工程において、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程を備え、熱処理工程において、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池のアノードに使用される触媒に関し、より詳しくは炭素材料からなる担体と、これに担持された白金及びルテニウムとを含有し、優れた一酸化炭素耐性を有するPtRu/C触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、従来の発電技術と比較して高いエネルギー効率を達成し得ることから、環境負荷の少ない電力発生源としてその実用化が期待されている。固体高分子形燃料電池のアノード(燃料極)に対して水素を供給し、カソード(空気極)に対して空気を供給すると、下記の反応が生じる。すなわち、アノード触媒の働きにより燃料極において水素イオン(プロトン)が生じ、電解質膜を通過したプロトンと酸素が結合して空気極において水が生じる。
燃料極:H2→2H++2e−
空気極:1/2O2+2H++2e−→H2O
【0003】
燃料となる水素は、天然ガスを水蒸気改質して生成されることが多い。この方法で作られた水素は微量の一酸化炭素(CO)を含んでおり、COがアノード触媒に吸着して触媒活性を下げることが知られている。そのため、CO耐性の高いアノード触媒の開発に向けて様々な取り組みがなされている。
【0004】
これまでに開発された触媒の中では、カーボン微粒子に白金及びルテニウムを担持した触媒(PtRu/C触媒)が最も優れたCO耐性を有するものとして知られている(特許文献1−4及び非特許文献1を参照)。特許文献1には熱処理によりPtとRuを合金化させる合金触媒の製造方法が記載されている。特許文献2,3では金属粒子のサイズとCO耐性との関係が検討され、特許文献4及び非特許文献1ではPtとRuの組成比とCO耐性との関係が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3839961号公報
【特許文献2】米国特許第6066410号明細書
【特許文献3】米国特許第6007934号明細書
【特許文献4】米国特許第6339038号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】多田ら、「熱拡散白金ルテニウム合金触媒の組成比が耐一酸化炭素被毒特性へ与える影響」、電気化学会誌、2008年、76,No.11、p.813−823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のPtRu/C触媒は、CO耐性が未だ十分ではなく、固体高分子形燃料電池の実用化に向け、より一層のCO耐性の向上が求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を有するPtRu/C触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程とを備え、熱処理工程において、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とする。
【0009】
上記製造方法によれば、熱処理工程における最高温度を750〜1000℃に調整することで、PtとRuの合金化度を制御することができる。また、被処理物の温度が750℃以上となる時間を15〜300秒に制限することで、Pt粒子、Ru粒子及びこれらの合金粒子が凝集して大きくなることを十分に抑制できる。これにより、金属粒子の高い分散性を達成できる。本発明においては、金属粒子の高い分散性が優れたCO耐性に寄与しているものと推察される。
【0010】
上記熱処理工程は、より優れたCO耐性を実現する観点から、次のような(1)昇温ステップ、(2)最高温度保持ステップ及び(3)降温ステップを少なくとも一つ有することが好ましい。これらのステップを適宜組み合せて被処理物の熱処理を実施することがより好ましい。
(1)30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップ。
(2)被処理物の温度を最高温度に一定時間にわたって保持するステップ。
(3)5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップ。
上記(2)最高温度保持ステップは60秒未満であることが好ましい。この時間を60秒未満とすることによって、金属粒子の小さい粒子径を維持することができ、より一層高いCO耐性が達成される。
【0011】
本発明に係るPtRu/C触媒は、炭素材料からなる担体と、この担体に担持された白金及びルテニウムとを含むものであって、当該触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法で測定したとき、電位0.2Vにおいて測定される赤外スペクトルが二酸化炭素の生成を示す吸収ピークを有することを特徴とする。
【0012】
上記PtRu/C触媒によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を達成できる。これは当該触媒の優れた酸化性能によるものと推察される。すなわち、本発明に係るPtRu/C触媒は、赤外吸収法によってメタノール酸化特性を測定すると、電位0.2Vにおいてメタノールから一酸化炭素のみならず二酸化炭素も生成する。これに対し、従来のPtRu/C触媒には電位0.2Vにおいてメタノールを一酸化炭素に酸化できても、二酸化炭素にまで酸化できるものは存在しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を有するPtRu/C触媒を製造できる。このPtRu/C触媒は固体高分子形燃料電池のアノード触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】触媒のメタノール酸化特性を測定するための装置の構成を示す図である。
【図2】図1の装置が備える試料電極の先端部及びプリズムの構成を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例2〜4に係る触媒のX線回折スペクトルである。
【図4】実施例1,2及び比較例1に係る触媒のX線回折スペクトルである。
【図5】(a),(b)は実施例1に係る触媒のSTEM画像であり、(c)はその金属粒子径の分布を示すグラフである。
【図6】(a),(b)は比較例1に係る触媒のSTEM画像であり、(c)はその金属粒子径の分布を示すグラフである。
【図7】実施例3に係る触媒のメタノール酸化特性を示す赤外スペクトルである。
【図8】市販触媒のメタノール酸化特性を示す赤外スペクトルである。
【図9】実施例3に係る触媒及び市販触媒のメタノール酸化特性(電圧0.2V)を示す赤外スペクトルである。
【図10】純水素を燃料として使用した場合の燃料電池のIV特性を示すグラフである。
【図11】一酸化炭素を含有する水素を燃料として使用した場合の燃料電池のIV特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<PtRu/C触媒の製造方法>
本実施形態に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒(Pt/C触媒)にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程とを備える。
【0016】
Ru担持工程は、Pt/C触媒にルテニウムを更に担持する工程である。Pt/C触媒は、例えば白金化合物水溶液にカーボン微粒子を加えて混合するとともに、アルコール等の還元剤を用いて白金化合物を還元することによって得ることができる。なお、市販のPt/C触媒を購入してそのまま用いてもよい。
【0017】
白金化合物水溶液としては、例えばジニトロジアミン白金硝酸水溶液や塩化白金酸水溶液などを用いることができる。担体としては、例えばカーボンブラックを用いることができる。Pt/C触媒において、担体の質量を基準としたPt担持量は20〜60質量%が好ましく、より好ましくは30〜50質量%である。白金化合物水溶液の濃度は上述の好ましいPt担持量となるように調整すればよい。
【0018】
上記Pt/C触媒をルテニウム化合物水溶液に加えて混合するとともに、アルコール等の還元剤を用いてルテニウム化合物を還元することによってPt/C触媒上にルテニウムを担持する。ルテニウム化合物水溶液は、例えば塩化ルテニウム(RuCl3)などのルテニウム塩化物やルテニウム硝酸物、ルテニウム錯体の水溶液を用いることができる。還元剤としてはアルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどを用いることができる。
【0019】
上記ルテニウム化合物水溶液の濃度は、担持されるPtとRuのモル比に応じて調整することができる。Ptの担持量をAモル、Ruの担持量をBモルとすると、PtとRuの担持量のモル比(A/B)は2/10〜10/10が好ましく、3/10〜8/10がより好ましく、5/10〜7/10がさらに好ましい。
【0020】
熱処理工程は、上述のRu担持工程を経て得られた被処理物を、水素ガスの存在下にて熱処理してPtRu/C触媒を得る工程である。熱処理工程は、炉内の空気を他のガスに置換可能な加熱炉を用いて実施でき、アルゴンなどの不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気下にて行うことが好ましい。水素ガスの濃度は3〜20体積%程度とすればよい。水素ガスの存在下で熱処理を行うことで、Pt及びRuの酸化を抑制できる。
【0021】
熱処理工程においては、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃となるように加熱炉内の温度を調整する。熱処理工程における最高温度を750〜1000℃に調整することで、PtとRuの合金化度を制御することができる。最高温度が750℃未満であると、PtとRuの合金化が不十分となる。他方、最高温度が1000℃を越えると、Pt粒子、Ru粒子及びこれらの合金粒子(以下、単に「金属粒子」という。)が凝集して粒径が大きくなり、触媒活性が不十分となる。被処理物が到達する最高温度は、好ましくは800〜950℃であり、より好ましくは850〜920℃であり、さらに好ましくは880〜910℃である。
【0022】
また、熱処理工程においては、被処理物が750℃以上の温度で加熱される時間が15〜300秒となるように加熱炉内の温度条件を設定する。被処理物の温度が750℃以上となる時間を制限することで、金属粒子が凝集して大きくなることを十分に抑制できるとともに、金属粒子が高度に分散した触媒を得ることができる。750℃以上の熱処理時間が15秒未満であると、PtとRuの合金化が不十分となる。他方、この時間が300秒を超えると、金属粒子が凝集して粒径が大きくなり、触媒活性が不十分となる。被処理物が750℃以上の温度で加熱される時間は好ましくは15〜120秒であり、より好ましくは15〜60秒であり、もっとも好ましくは20〜40秒である。
【0023】
上記熱処理工程は、より優れたCO耐性を実現する観点から、以下の(1)昇温ステップ、(2)最高温度保持ステップ及び(3)降温ステップを少なくとも一つ有することが好ましい。これらのステップを適宜組み合せて被処理物の熱処理を実施することがより好ましい。
【0024】
(1)昇温ステップ
室温から最高温度までの加熱は、急速加熱が好ましく、上記熱処理工程は30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップを備えることが好ましい。このような上記昇温ステップを備えることにより、金属粒子が凝集して粒径が大きくなることをより確実に抑制できる。加熱速度が30℃/分未満であると、金属粒子の凝集が生じやすくなる。他方、加熱速度が90℃/分を超えると、炉内の温度が不均一となりやすい。加熱速度は45〜90℃/分がより好ましく、さらに好ましくは60〜90℃/分であり、もっとも好ましくは75〜90℃/分である。
【0025】
(2)最高温度保持ステップ
熱処理工程は、被処理物の温度を最高温度に一定時間にわたって保持するステップを備えたものであってもよい。保持時間は60秒未満であることが好ましく、40秒未満がより好ましく、20秒未満がさらに好ましい。この時間を60秒未満とすることによって、金属粒子の小さい粒子径を維持することができ、より一層高いCO耐性が達成される。なお、加熱炉の設定温度が最高温度に到達すると同時に昇温ステップから降温ステップに移行してもよい。このように被処理物が最高温度にて熱処理される時間を短くすることで、担体上の金属粒子の凝集が抑制され、高い分散性を維持できる。これにより、優れた一酸化炭素耐性を有するPtRu/C触媒を得ることができる。
【0026】
(3)降温ステップ
最高温度から室温までの冷却は、急速冷却が好ましく、上記熱処理工程は5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップを備えることが好ましい。このような上記降温ステップを備えることにより、金属粒子が凝集して粒径が大きくなることをより確実に抑制できる。降温速度が5℃/分未満であると、金属粒子の凝集が生じやすくなる。他方、降温速度が80℃/分を超えると、加熱炉が損傷するおそれがある。降温速度は10〜80℃/分がより好ましく、さらに好ましくは15〜80℃/分であり、もっとも好ましくは20〜80℃/分である。
【0027】
<PtRu/C触媒>
上記の製造方法によって調製されたPtRu/C触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法(IR)によって評価したところ、当該触媒は従来のPtRu/C触媒と比較して優れた酸化能力を有することが判明した。すなわち、PtRu/C触媒を含有する試料薄膜を先端に塗布した試料電極をHClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液中に設置し、参照電極に電位をかけるとメタノールが酸化され二酸化炭素等が発生する。この二酸化炭素等に赤外線を照射することによって吸収スペクトルを測定する。赤外吸収法に用いる分光装置としては、フーリエ変換型赤外分光(FTIR)装置を使用できる。本発明でいうメタノール酸化特性とは、FTIR装置の試料測定チャンバー内に図1に示す構成の装置を組み入れたシステムで測定したものを意味する。
【0028】
図1の装置は、金からなる試料電極1、参照電極2及び対電極3が挿入されたセル4並びにCaF2からなるプリズム5を有する。セル4にはガス導入管7及び排気管8が形成され、その内部に液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)9を収容できるようになっている。測定装置は、3枚の金平面ミラー12a,12b,12c及び1枚の金球面鏡11(R=100mm)を備える。赤外光20は光源部(図示せず)から照射され、試料電極1の先端部で反射し、金平面ミラー12a,12b,12c及び金球面鏡11の表面で反射を繰り返し検出部(図示せず)にて検出される。なお、測定はFTIR装置のチャンバー内をN2ガスで充填した状態で行う。
【0029】
図2は試料電極1の先端部を示す図である。試料電極1の先端部とプリズム5の底面との間に厚さ数μmの試料薄膜6を配置する。試料薄膜6は次のようにして形成する。すなわち、エタノールにナフィオンを少量加えたものにPtRu/C触媒を加え、この液を試料電極1の上面上に注射器を用いて滴下し、その後1時間程度乾燥させる。乾燥後、セル内の液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)を挟んでプリズム5を押し付けて試料薄膜6を形成する。
【0030】
試料電極1の上面の法線に対して60°の角度で赤外光20を入射させる。赤外光20の一部は、試料薄膜6に含まれる触媒の酸化能によって生じる二酸化炭素、一酸化炭素等によって吸収される。赤外光の波数を横軸に、吸光度を縦軸にとった吸収スペクトルにより対象物質を特定することができる。波数2300〜2400cm−1の範囲に現れるピークはメタノールから二酸化炭素が生成したことを示すものであり、波数2000〜2100cm−1の範囲に現れるピークはメタノールから一酸化炭素が生成したことを示すものである(図7〜9参照)。
【0031】
PtRu/C触媒に担持された金属粒子の粒径は、走査透過電子顕微鏡(STEM)により測定することができる。粒径が小さいほど担体上で金属粒子が高分散するので触媒活性を向上させることができる。本実施形態に係るPtRu/C触媒は、金属粒子の粒径が2〜6nmが好ましく、より好ましくは2〜5nmであり、さらに好ましくは2〜4nmである(図5参照)。
【0032】
上記実施形態に係る製造方法によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して金属粒子が高度に分散したPtRu/C触媒を製造することができる。このPtRu/C触媒は優れたCO耐性を有するため、固体高分子形燃料電池のアノード触媒として有用である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
本発明に係るPtRu/C触媒を製造するため、まず市販のPt/C触媒(Pt担持量40質量%)を1.25g、RuCl3・nH2Oを2g、メタノール50cc及び水200ccを準備した。これらを混合し、80〜90℃で8時間保持し還流させRuをPt/C触媒上に担持させ、洗浄し乾燥させた(Ru担持工程)。本実施例においては、PtとRuの比率(モル比)が1:3となるように調整した。
【0035】
上記Ru担持工程で得られた被処理物を、水素とアルゴンの混合ガス(水素濃度5体積%)が60SCCM(cc/min)の流量で流れる室温環境下に1時間おいた。その後、被処理物を100V用管状炉内に設置しスライダック(可変電圧器)でAC100Vを120Vに上げ、100V用管状炉に120Vかけ室温から900℃まで14分で急速加熱した。温度が900℃に到達した瞬間に管状炉の電源を切り、約18分で500℃まで温度を下げ、500℃で管状炉の蓋を開け約1時間で500℃から40℃にまで温度を下げた(熱処理工程)。このようにして、PtRu/C触媒を得た。
【0036】
(実施例2)
室温から900℃まで昇温する時間を14分とする代わりに30分としたことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0037】
(実施例3)
RuCl3・nH2Oを2g使用する代わりに1g使用して、PtとRuの比率(モル比)が2:3となるように調整したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0038】
(比較例1)
急速加熱及び急速冷却をしなかったことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。すなわち、本比較例においては、Ru担持工程を経て得た被処理物を9時間かけて900℃まで加熱し1時間900℃に保ち、その後電源を切り炉の蓋を開けずに約5時間かけて自然冷却した。
【0039】
(比較例2)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに450℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0040】
(比較例3)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに250℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0041】
(比較例4)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに25℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0042】
(比較例5)
現時点でCO耐性が最も高いとされる市販のPtRu/C触媒(Pt:Ru=2:3(モル比))を用意した。
【0043】
<XRDによる分析>
熱処理工程における最高温度と合金化度の関係をX線回折法(XRD)によって評価した。実施例1(最高温度900℃)及び比較例2〜4(最高温度:450℃、250℃、25℃)で調製したPtRu/C触媒のX線回折スペクトルを図3に示す。図3に示す通り、熱処理工程における最高温度が高いほどピークの位置が高角にずれ、合金化が進行する。すなわち、熱処理工程の最高温度を調整することによって合金化度を制御することが可能である。
【0044】
また、熱処理工程における急加熱・急冷却が金属粒子の粒径に与える影響をXRDによって評価した。実施例1,2及び比較例1で調製したPtRu/C触媒のX線回折スペクトルを図4に示す。図4に示す通り、加熱・冷却時間が短いほどピークがブロードであり、これは金属粒子の粒径が小さいことを示す。すなわち、昇温・降温速度を調整することによって金属粒子の粒径を制御することが可能である。なお、昇温・降温速度を変更しても合金化度はあまり変化がなかった。
【0045】
<STEMによる分析>
実施例1及び比較例1で調製したPtRu/C触媒の金属粒子の粒径をSTEMによって評価した結果を図5及び図6にそれぞれ示す。図5に示す通り、高温かつ短時間で熱処理された実施例1のPtRu/C触媒は平均粒子径が3.42nmと小さく、微細な金属粒子がカーボン担体上に高分散している。一方、比較例1のPtRu/C触媒は平均粒子径が9.55nmと大きい(図6参照)。
【0046】
<IR分析によるメタノール酸化特性の評価>
実施例3で調製したPtRu/C触媒及び比較例5の市販PtRu/C触媒のメタノール酸化特性のIR分析結果を図7及び図8にそれぞれ示す。図7に示す通り、実施例3に係るPtRu/C触媒は、電位を0.2Vにしたときの赤外線スペクトルが2300〜2400cm−1の間に吸収ピークを有することから、電位0.2Vでもメタノールを酸化しCO2が生成する酸化能を有することが確認できた。
【0047】
一方、図8に示す通り、市販のPtRu/C触媒は、電位を0.2Vにしたときの赤外線スペクトルが2300〜2400cm−1の間に吸収ピークが存在せず、電位0.2VではメタノールからCO2を生成させるまでの酸化能を有していない。図9は実施例3で調製した触媒及び市販触媒の電圧0.2Vにおけるメタノール酸化特性のスペクトルを対比しやすく示したものである。図9に示す通り、これら二つの触媒はメタノール酸化能の点において明確に相違する。
【0048】
<CO耐性評価>
本発明に係るPtRu/C触媒のCO耐性を評価するため、実施例及び比較例で調製した触媒をアノード触媒として用いて固体高分子形燃料電池を製造した。具体的には、実施例1,3及び比較例1,5の触媒をそれぞれ用いて4種類の燃料電池を組み立てた。
【0049】
(作動試験1)
上記4種類の燃料電池の燃料極にCOを含有しない純水素をそれぞれ供給して燃料電池を作動させた。各燃料電池のIV特性を図10に示す。図10に示す通り、純水素を燃料として燃料電池を作動させた場合のIV特性は、実施例1,3及び比較例1,5の触媒に大きな差はなかった。
【0050】
(作動試験2)
上記4種類の燃料電池の燃料極にCOを含有する水素(CO濃度2040ppm)をそれぞれ供給して燃料電池を作動させた。各燃料電池のIV特性を図11に示す。図11に示す通り、実施例1,3の触媒を用いた燃料電池は、純水素を供給した場合と比較すれば電圧低下が認められるものの、比較例1,5の触媒と比べて高い電圧が得られCO耐性に優れていることが確認できた。
【0051】
<COによる電圧降下の評価>
燃料として純水素を使用した場合を基準にして、水素燃料に含まれる一酸化炭素によって電圧がどの程度降下するか評価した。表1にアノード触媒として実施例1,3及び比較例1,5の触媒をそれぞれ用いた燃料電池の電流密度0.2A/cm2における電圧の測定結果を示す。
【0052】
表1に示す通り、実施例1,3の触媒を用いた燃料電池では2040ppmという高濃度のCOを含む水素燃料を使用した場合であっても、比較例1,5の触媒と比較して電圧の降下が小さく、優れたCO耐性を有する。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1…試料電極、2…参照電極、3…対電極、4…セル、5…プリズム、6…試料薄膜、7…ガス導入管、8…排気管、9…液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)、11…金球面鏡、12a〜12c…金平面ミラー、20…赤外光
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池のアノードに使用される触媒に関し、より詳しくは炭素材料からなる担体と、これに担持された白金及びルテニウムとを含有し、優れた一酸化炭素耐性を有するPtRu/C触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、従来の発電技術と比較して高いエネルギー効率を達成し得ることから、環境負荷の少ない電力発生源としてその実用化が期待されている。固体高分子形燃料電池のアノード(燃料極)に対して水素を供給し、カソード(空気極)に対して空気を供給すると、下記の反応が生じる。すなわち、アノード触媒の働きにより燃料極において水素イオン(プロトン)が生じ、電解質膜を通過したプロトンと酸素が結合して空気極において水が生じる。
燃料極:H2→2H++2e−
空気極:1/2O2+2H++2e−→H2O
【0003】
燃料となる水素は、天然ガスを水蒸気改質して生成されることが多い。この方法で作られた水素は微量の一酸化炭素(CO)を含んでおり、COがアノード触媒に吸着して触媒活性を下げることが知られている。そのため、CO耐性の高いアノード触媒の開発に向けて様々な取り組みがなされている。
【0004】
これまでに開発された触媒の中では、カーボン微粒子に白金及びルテニウムを担持した触媒(PtRu/C触媒)が最も優れたCO耐性を有するものとして知られている(特許文献1−4及び非特許文献1を参照)。特許文献1には熱処理によりPtとRuを合金化させる合金触媒の製造方法が記載されている。特許文献2,3では金属粒子のサイズとCO耐性との関係が検討され、特許文献4及び非特許文献1ではPtとRuの組成比とCO耐性との関係が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3839961号公報
【特許文献2】米国特許第6066410号明細書
【特許文献3】米国特許第6007934号明細書
【特許文献4】米国特許第6339038号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】多田ら、「熱拡散白金ルテニウム合金触媒の組成比が耐一酸化炭素被毒特性へ与える影響」、電気化学会誌、2008年、76,No.11、p.813−823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のPtRu/C触媒は、CO耐性が未だ十分ではなく、固体高分子形燃料電池の実用化に向け、より一層のCO耐性の向上が求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を有するPtRu/C触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程とを備え、熱処理工程において、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とする。
【0009】
上記製造方法によれば、熱処理工程における最高温度を750〜1000℃に調整することで、PtとRuの合金化度を制御することができる。また、被処理物の温度が750℃以上となる時間を15〜300秒に制限することで、Pt粒子、Ru粒子及びこれらの合金粒子が凝集して大きくなることを十分に抑制できる。これにより、金属粒子の高い分散性を達成できる。本発明においては、金属粒子の高い分散性が優れたCO耐性に寄与しているものと推察される。
【0010】
上記熱処理工程は、より優れたCO耐性を実現する観点から、次のような(1)昇温ステップ、(2)最高温度保持ステップ及び(3)降温ステップを少なくとも一つ有することが好ましい。これらのステップを適宜組み合せて被処理物の熱処理を実施することがより好ましい。
(1)30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップ。
(2)被処理物の温度を最高温度に一定時間にわたって保持するステップ。
(3)5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップ。
上記(2)最高温度保持ステップは60秒未満であることが好ましい。この時間を60秒未満とすることによって、金属粒子の小さい粒子径を維持することができ、より一層高いCO耐性が達成される。
【0011】
本発明に係るPtRu/C触媒は、炭素材料からなる担体と、この担体に担持された白金及びルテニウムとを含むものであって、当該触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法で測定したとき、電位0.2Vにおいて測定される赤外スペクトルが二酸化炭素の生成を示す吸収ピークを有することを特徴とする。
【0012】
上記PtRu/C触媒によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を達成できる。これは当該触媒の優れた酸化性能によるものと推察される。すなわち、本発明に係るPtRu/C触媒は、赤外吸収法によってメタノール酸化特性を測定すると、電位0.2Vにおいてメタノールから一酸化炭素のみならず二酸化炭素も生成する。これに対し、従来のPtRu/C触媒には電位0.2Vにおいてメタノールを一酸化炭素に酸化できても、二酸化炭素にまで酸化できるものは存在しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して優れたCO耐性を有するPtRu/C触媒を製造できる。このPtRu/C触媒は固体高分子形燃料電池のアノード触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】触媒のメタノール酸化特性を測定するための装置の構成を示す図である。
【図2】図1の装置が備える試料電極の先端部及びプリズムの構成を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例2〜4に係る触媒のX線回折スペクトルである。
【図4】実施例1,2及び比較例1に係る触媒のX線回折スペクトルである。
【図5】(a),(b)は実施例1に係る触媒のSTEM画像であり、(c)はその金属粒子径の分布を示すグラフである。
【図6】(a),(b)は比較例1に係る触媒のSTEM画像であり、(c)はその金属粒子径の分布を示すグラフである。
【図7】実施例3に係る触媒のメタノール酸化特性を示す赤外スペクトルである。
【図8】市販触媒のメタノール酸化特性を示す赤外スペクトルである。
【図9】実施例3に係る触媒及び市販触媒のメタノール酸化特性(電圧0.2V)を示す赤外スペクトルである。
【図10】純水素を燃料として使用した場合の燃料電池のIV特性を示すグラフである。
【図11】一酸化炭素を含有する水素を燃料として使用した場合の燃料電池のIV特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<PtRu/C触媒の製造方法>
本実施形態に係るPtRu/C触媒の製造方法は、炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒(Pt/C触媒)にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、水素ガスの存在下、Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程とを備える。
【0016】
Ru担持工程は、Pt/C触媒にルテニウムを更に担持する工程である。Pt/C触媒は、例えば白金化合物水溶液にカーボン微粒子を加えて混合するとともに、アルコール等の還元剤を用いて白金化合物を還元することによって得ることができる。なお、市販のPt/C触媒を購入してそのまま用いてもよい。
【0017】
白金化合物水溶液としては、例えばジニトロジアミン白金硝酸水溶液や塩化白金酸水溶液などを用いることができる。担体としては、例えばカーボンブラックを用いることができる。Pt/C触媒において、担体の質量を基準としたPt担持量は20〜60質量%が好ましく、より好ましくは30〜50質量%である。白金化合物水溶液の濃度は上述の好ましいPt担持量となるように調整すればよい。
【0018】
上記Pt/C触媒をルテニウム化合物水溶液に加えて混合するとともに、アルコール等の還元剤を用いてルテニウム化合物を還元することによってPt/C触媒上にルテニウムを担持する。ルテニウム化合物水溶液は、例えば塩化ルテニウム(RuCl3)などのルテニウム塩化物やルテニウム硝酸物、ルテニウム錯体の水溶液を用いることができる。還元剤としてはアルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどを用いることができる。
【0019】
上記ルテニウム化合物水溶液の濃度は、担持されるPtとRuのモル比に応じて調整することができる。Ptの担持量をAモル、Ruの担持量をBモルとすると、PtとRuの担持量のモル比(A/B)は2/10〜10/10が好ましく、3/10〜8/10がより好ましく、5/10〜7/10がさらに好ましい。
【0020】
熱処理工程は、上述のRu担持工程を経て得られた被処理物を、水素ガスの存在下にて熱処理してPtRu/C触媒を得る工程である。熱処理工程は、炉内の空気を他のガスに置換可能な加熱炉を用いて実施でき、アルゴンなどの不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気下にて行うことが好ましい。水素ガスの濃度は3〜20体積%程度とすればよい。水素ガスの存在下で熱処理を行うことで、Pt及びRuの酸化を抑制できる。
【0021】
熱処理工程においては、被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃となるように加熱炉内の温度を調整する。熱処理工程における最高温度を750〜1000℃に調整することで、PtとRuの合金化度を制御することができる。最高温度が750℃未満であると、PtとRuの合金化が不十分となる。他方、最高温度が1000℃を越えると、Pt粒子、Ru粒子及びこれらの合金粒子(以下、単に「金属粒子」という。)が凝集して粒径が大きくなり、触媒活性が不十分となる。被処理物が到達する最高温度は、好ましくは800〜950℃であり、より好ましくは850〜920℃であり、さらに好ましくは880〜910℃である。
【0022】
また、熱処理工程においては、被処理物が750℃以上の温度で加熱される時間が15〜300秒となるように加熱炉内の温度条件を設定する。被処理物の温度が750℃以上となる時間を制限することで、金属粒子が凝集して大きくなることを十分に抑制できるとともに、金属粒子が高度に分散した触媒を得ることができる。750℃以上の熱処理時間が15秒未満であると、PtとRuの合金化が不十分となる。他方、この時間が300秒を超えると、金属粒子が凝集して粒径が大きくなり、触媒活性が不十分となる。被処理物が750℃以上の温度で加熱される時間は好ましくは15〜120秒であり、より好ましくは15〜60秒であり、もっとも好ましくは20〜40秒である。
【0023】
上記熱処理工程は、より優れたCO耐性を実現する観点から、以下の(1)昇温ステップ、(2)最高温度保持ステップ及び(3)降温ステップを少なくとも一つ有することが好ましい。これらのステップを適宜組み合せて被処理物の熱処理を実施することがより好ましい。
【0024】
(1)昇温ステップ
室温から最高温度までの加熱は、急速加熱が好ましく、上記熱処理工程は30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップを備えることが好ましい。このような上記昇温ステップを備えることにより、金属粒子が凝集して粒径が大きくなることをより確実に抑制できる。加熱速度が30℃/分未満であると、金属粒子の凝集が生じやすくなる。他方、加熱速度が90℃/分を超えると、炉内の温度が不均一となりやすい。加熱速度は45〜90℃/分がより好ましく、さらに好ましくは60〜90℃/分であり、もっとも好ましくは75〜90℃/分である。
【0025】
(2)最高温度保持ステップ
熱処理工程は、被処理物の温度を最高温度に一定時間にわたって保持するステップを備えたものであってもよい。保持時間は60秒未満であることが好ましく、40秒未満がより好ましく、20秒未満がさらに好ましい。この時間を60秒未満とすることによって、金属粒子の小さい粒子径を維持することができ、より一層高いCO耐性が達成される。なお、加熱炉の設定温度が最高温度に到達すると同時に昇温ステップから降温ステップに移行してもよい。このように被処理物が最高温度にて熱処理される時間を短くすることで、担体上の金属粒子の凝集が抑制され、高い分散性を維持できる。これにより、優れた一酸化炭素耐性を有するPtRu/C触媒を得ることができる。
【0026】
(3)降温ステップ
最高温度から室温までの冷却は、急速冷却が好ましく、上記熱処理工程は5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップを備えることが好ましい。このような上記降温ステップを備えることにより、金属粒子が凝集して粒径が大きくなることをより確実に抑制できる。降温速度が5℃/分未満であると、金属粒子の凝集が生じやすくなる。他方、降温速度が80℃/分を超えると、加熱炉が損傷するおそれがある。降温速度は10〜80℃/分がより好ましく、さらに好ましくは15〜80℃/分であり、もっとも好ましくは20〜80℃/分である。
【0027】
<PtRu/C触媒>
上記の製造方法によって調製されたPtRu/C触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法(IR)によって評価したところ、当該触媒は従来のPtRu/C触媒と比較して優れた酸化能力を有することが判明した。すなわち、PtRu/C触媒を含有する試料薄膜を先端に塗布した試料電極をHClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液中に設置し、参照電極に電位をかけるとメタノールが酸化され二酸化炭素等が発生する。この二酸化炭素等に赤外線を照射することによって吸収スペクトルを測定する。赤外吸収法に用いる分光装置としては、フーリエ変換型赤外分光(FTIR)装置を使用できる。本発明でいうメタノール酸化特性とは、FTIR装置の試料測定チャンバー内に図1に示す構成の装置を組み入れたシステムで測定したものを意味する。
【0028】
図1の装置は、金からなる試料電極1、参照電極2及び対電極3が挿入されたセル4並びにCaF2からなるプリズム5を有する。セル4にはガス導入管7及び排気管8が形成され、その内部に液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)9を収容できるようになっている。測定装置は、3枚の金平面ミラー12a,12b,12c及び1枚の金球面鏡11(R=100mm)を備える。赤外光20は光源部(図示せず)から照射され、試料電極1の先端部で反射し、金平面ミラー12a,12b,12c及び金球面鏡11の表面で反射を繰り返し検出部(図示せず)にて検出される。なお、測定はFTIR装置のチャンバー内をN2ガスで充填した状態で行う。
【0029】
図2は試料電極1の先端部を示す図である。試料電極1の先端部とプリズム5の底面との間に厚さ数μmの試料薄膜6を配置する。試料薄膜6は次のようにして形成する。すなわち、エタノールにナフィオンを少量加えたものにPtRu/C触媒を加え、この液を試料電極1の上面上に注射器を用いて滴下し、その後1時間程度乾燥させる。乾燥後、セル内の液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)を挟んでプリズム5を押し付けて試料薄膜6を形成する。
【0030】
試料電極1の上面の法線に対して60°の角度で赤外光20を入射させる。赤外光20の一部は、試料薄膜6に含まれる触媒の酸化能によって生じる二酸化炭素、一酸化炭素等によって吸収される。赤外光の波数を横軸に、吸光度を縦軸にとった吸収スペクトルにより対象物質を特定することができる。波数2300〜2400cm−1の範囲に現れるピークはメタノールから二酸化炭素が生成したことを示すものであり、波数2000〜2100cm−1の範囲に現れるピークはメタノールから一酸化炭素が生成したことを示すものである(図7〜9参照)。
【0031】
PtRu/C触媒に担持された金属粒子の粒径は、走査透過電子顕微鏡(STEM)により測定することができる。粒径が小さいほど担体上で金属粒子が高分散するので触媒活性を向上させることができる。本実施形態に係るPtRu/C触媒は、金属粒子の粒径が2〜6nmが好ましく、より好ましくは2〜5nmであり、さらに好ましくは2〜4nmである(図5参照)。
【0032】
上記実施形態に係る製造方法によれば、従来のPtRu/C触媒と比較して金属粒子が高度に分散したPtRu/C触媒を製造することができる。このPtRu/C触媒は優れたCO耐性を有するため、固体高分子形燃料電池のアノード触媒として有用である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
本発明に係るPtRu/C触媒を製造するため、まず市販のPt/C触媒(Pt担持量40質量%)を1.25g、RuCl3・nH2Oを2g、メタノール50cc及び水200ccを準備した。これらを混合し、80〜90℃で8時間保持し還流させRuをPt/C触媒上に担持させ、洗浄し乾燥させた(Ru担持工程)。本実施例においては、PtとRuの比率(モル比)が1:3となるように調整した。
【0035】
上記Ru担持工程で得られた被処理物を、水素とアルゴンの混合ガス(水素濃度5体積%)が60SCCM(cc/min)の流量で流れる室温環境下に1時間おいた。その後、被処理物を100V用管状炉内に設置しスライダック(可変電圧器)でAC100Vを120Vに上げ、100V用管状炉に120Vかけ室温から900℃まで14分で急速加熱した。温度が900℃に到達した瞬間に管状炉の電源を切り、約18分で500℃まで温度を下げ、500℃で管状炉の蓋を開け約1時間で500℃から40℃にまで温度を下げた(熱処理工程)。このようにして、PtRu/C触媒を得た。
【0036】
(実施例2)
室温から900℃まで昇温する時間を14分とする代わりに30分としたことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0037】
(実施例3)
RuCl3・nH2Oを2g使用する代わりに1g使用して、PtとRuの比率(モル比)が2:3となるように調整したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0038】
(比較例1)
急速加熱及び急速冷却をしなかったことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。すなわち、本比較例においては、Ru担持工程を経て得た被処理物を9時間かけて900℃まで加熱し1時間900℃に保ち、その後電源を切り炉の蓋を開けずに約5時間かけて自然冷却した。
【0039】
(比較例2)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに450℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0040】
(比較例3)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに250℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0041】
(比較例4)
熱処理工程において、最高温度を900℃に設定する代わりに25℃に設定したことの他は、実施例1と同様にしてPtRu/C触媒を得た。
【0042】
(比較例5)
現時点でCO耐性が最も高いとされる市販のPtRu/C触媒(Pt:Ru=2:3(モル比))を用意した。
【0043】
<XRDによる分析>
熱処理工程における最高温度と合金化度の関係をX線回折法(XRD)によって評価した。実施例1(最高温度900℃)及び比較例2〜4(最高温度:450℃、250℃、25℃)で調製したPtRu/C触媒のX線回折スペクトルを図3に示す。図3に示す通り、熱処理工程における最高温度が高いほどピークの位置が高角にずれ、合金化が進行する。すなわち、熱処理工程の最高温度を調整することによって合金化度を制御することが可能である。
【0044】
また、熱処理工程における急加熱・急冷却が金属粒子の粒径に与える影響をXRDによって評価した。実施例1,2及び比較例1で調製したPtRu/C触媒のX線回折スペクトルを図4に示す。図4に示す通り、加熱・冷却時間が短いほどピークがブロードであり、これは金属粒子の粒径が小さいことを示す。すなわち、昇温・降温速度を調整することによって金属粒子の粒径を制御することが可能である。なお、昇温・降温速度を変更しても合金化度はあまり変化がなかった。
【0045】
<STEMによる分析>
実施例1及び比較例1で調製したPtRu/C触媒の金属粒子の粒径をSTEMによって評価した結果を図5及び図6にそれぞれ示す。図5に示す通り、高温かつ短時間で熱処理された実施例1のPtRu/C触媒は平均粒子径が3.42nmと小さく、微細な金属粒子がカーボン担体上に高分散している。一方、比較例1のPtRu/C触媒は平均粒子径が9.55nmと大きい(図6参照)。
【0046】
<IR分析によるメタノール酸化特性の評価>
実施例3で調製したPtRu/C触媒及び比較例5の市販PtRu/C触媒のメタノール酸化特性のIR分析結果を図7及び図8にそれぞれ示す。図7に示す通り、実施例3に係るPtRu/C触媒は、電位を0.2Vにしたときの赤外線スペクトルが2300〜2400cm−1の間に吸収ピークを有することから、電位0.2Vでもメタノールを酸化しCO2が生成する酸化能を有することが確認できた。
【0047】
一方、図8に示す通り、市販のPtRu/C触媒は、電位を0.2Vにしたときの赤外線スペクトルが2300〜2400cm−1の間に吸収ピークが存在せず、電位0.2VではメタノールからCO2を生成させるまでの酸化能を有していない。図9は実施例3で調製した触媒及び市販触媒の電圧0.2Vにおけるメタノール酸化特性のスペクトルを対比しやすく示したものである。図9に示す通り、これら二つの触媒はメタノール酸化能の点において明確に相違する。
【0048】
<CO耐性評価>
本発明に係るPtRu/C触媒のCO耐性を評価するため、実施例及び比較例で調製した触媒をアノード触媒として用いて固体高分子形燃料電池を製造した。具体的には、実施例1,3及び比較例1,5の触媒をそれぞれ用いて4種類の燃料電池を組み立てた。
【0049】
(作動試験1)
上記4種類の燃料電池の燃料極にCOを含有しない純水素をそれぞれ供給して燃料電池を作動させた。各燃料電池のIV特性を図10に示す。図10に示す通り、純水素を燃料として燃料電池を作動させた場合のIV特性は、実施例1,3及び比較例1,5の触媒に大きな差はなかった。
【0050】
(作動試験2)
上記4種類の燃料電池の燃料極にCOを含有する水素(CO濃度2040ppm)をそれぞれ供給して燃料電池を作動させた。各燃料電池のIV特性を図11に示す。図11に示す通り、実施例1,3の触媒を用いた燃料電池は、純水素を供給した場合と比較すれば電圧低下が認められるものの、比較例1,5の触媒と比べて高い電圧が得られCO耐性に優れていることが確認できた。
【0051】
<COによる電圧降下の評価>
燃料として純水素を使用した場合を基準にして、水素燃料に含まれる一酸化炭素によって電圧がどの程度降下するか評価した。表1にアノード触媒として実施例1,3及び比較例1,5の触媒をそれぞれ用いた燃料電池の電流密度0.2A/cm2における電圧の測定結果を示す。
【0052】
表1に示す通り、実施例1,3の触媒を用いた燃料電池では2040ppmという高濃度のCOを含む水素燃料を使用した場合であっても、比較例1,5の触媒と比較して電圧の降下が小さく、優れたCO耐性を有する。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1…試料電極、2…参照電極、3…対電極、4…セル、5…プリズム、6…試料薄膜、7…ガス導入管、8…排気管、9…液体(HClO4(0.1mol/L)+メタノール(0.5mol/L)水溶液)、11…金球面鏡、12a〜12c…金平面ミラー、20…赤外光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、
水素ガスの存在下、前記Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程を備え、
前記熱処理工程において、前記被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とするPtRu/C触媒の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップを有することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程において、前記最高温度に保持する時間が60秒未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程は、5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
炭素材料からなる担体と、前記担体に担持された白金及びルテニウムとを含むPtRu/C触媒であって、
当該触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法で測定したとき、電位0.2Vにおいて測定される赤外スペクトルが二酸化炭素の生成を示す吸収ピークを有することを特徴とするPtRu/C触媒。
【請求項1】
炭素材料からなる担体に白金が担持された白金触媒にルテニウムを更に担持するRu担持工程と、
水素ガスの存在下、前記Ru担持工程を経て得られた被処理物を熱処理してPtRu/C触媒を得る熱処理工程を備え、
前記熱処理工程において、前記被処理物が到達する最高温度が750〜1000℃であり且つ当該被処理物の温度が750℃以上となる時間が15〜300秒となるように温度調整をすることを特徴とするPtRu/C触媒の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、30〜90℃/分の加熱速度で昇温するステップを有することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程において、前記最高温度に保持する時間が60秒未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程は、5〜80℃/分の冷却速度で降温するステップを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
炭素材料からなる担体と、前記担体に担持された白金及びルテニウムとを含むPtRu/C触媒であって、
当該触媒のメタノール酸化特性を赤外吸収法で測定したとき、電位0.2Vにおいて測定される赤外スペクトルが二酸化炭素の生成を示す吸収ピークを有することを特徴とするPtRu/C触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−72934(P2011−72934A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228054(P2009−228054)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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