説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】高Mn、Cr含有高強度鋼鈑を下地鋼板とする場合においても、不めっきのない美麗な表面外観を有し、さらにめっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき皮膜を有してなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。そして、めっき層中には、Alを含有するスピネル型酸化物が存在する。さらに、スピネル型酸化物として、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下でかつAlを含有したスピネル型酸化物が存在することが好ましい。スピネル型酸化物はAlとの反応性が高いため、めっき浸漬時にAlを含む溶融亜鉛との濡れ性に優れることになり、不めっきが防止される。また、スピネル型酸化物中のAlを介して、合金めっきとスピネル型酸化物との密着性が増し、全体としてのめっき密着性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の分野において好適に用いることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に高Mn含有鋼を素材とした場合においても、不めっきのない美麗な表面外観を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車、家電および建材等の分野においては、素材(下地)鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性、溶接性、成形性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多用されている。
【0003】
一般的に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延した後に冷間圧延あるいは熱処理が施された薄鋼板を下地として用い、非酸化性雰囲気中または還元性雰囲気中にて再結晶焼鈍を施した後、次いで、大気に触れることなく微量のAl(0.1〜0.2 %程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、引き続き合金化炉内で熱処理することによって製造される。
【0004】
近年、下地鋼板の高強度化が求められており、かような下地鋼板に溶融亜鉛めっきを施して防錆性を兼備させた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の使用量が増加している。下地鋼板の高強度化手段としては、Mn等の固溶強化元素の添加が行われる。しかし、Mnを多く含有する鋼板を下地として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した場合には、以下のような問題がある。
Mnは易酸化元素であるため、めっき前の再結晶焼鈍時に、鋼板表面に濃化して酸化物を形成する。このような酸化物は、溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせ、また不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性の劣化を招く。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1には、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成(プレ酸化)し、次いで還元焼鈍を行うことにより、易酸化元素の表面濃化を抑制し、めっき性を改善する技術が開示されている。
また、特許文献2には、めっき前の再結晶焼鈍を高露点で行うことで、鋼中の易酸化元素を内部酸化させ、表面濃化を抑制しめっき性を改善する技術が開示されている。
【特許文献1】特許第2587724号公報
【特許文献2】特開2004-315960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2は、事前酸化処理もしくは高露点焼鈍など手法は異なるものの、鋼中の易酸化元素を内部酸化させることにより、鋼板表面への易酸化元素酸化物の露出量を減らすという考え方に基づいたものである。このような考えに基づいた方法では、実際の操業では板厚や板幅、ライン速度、原板表面状態などが一定ではないため、最適な処理条件がそれらに依存することから安定的に有効に易酸化元素の表面濃化を抑制するには限界がある。その結果、酸化物に起因した溶融めっき時の不めっきの発生および密着性の劣化という問題を十分に解決することができない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、高Mn含有高強度鋼板を下地鋼板とする場合においても、不めっきのない美麗な表面外観を有し、さらにはめっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
従来技術のように易酸化元素酸化物の表面への露出を減らすのではない新しい方法を鋭意検討した。その結果、鋼板表面に溶融亜鉛めっき浴中に添加したAlと反応しやすいスピネル型酸化物を形成しておくことでめっき濡れ性が向上すること、そして、Alと反応した酸化物はAlを含有し、それによりめっき密着性が向上すること、さらには、これらの効果は、表面酸化物を適正な組成のMnCr系スピネル型酸化物とすることで、有効に得られることを見出した。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき皮膜を有してなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、該めっき皮膜により形成されるめっき層中には、Alを含有するスピネル型酸化物が存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]前記[1]において、前記酸化物として、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下でかつAlを含有したスピネル型酸化物が存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[3]質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下、Cr:0.2%以上1.0%未満を含有する下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき皮膜を有してなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、該めっき皮膜により形成されるめっき層中には、AlとCrとMnを含有するスピネル型酸化物が存在し、前記酸化物中のCrとMnが、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[4]質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面に、スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面に、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のMnCr系スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下、Cr:0.2%以上1.0%未満を含有する下地鋼板を焼鈍して、表面に、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のMnCr系スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0010】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高Mn含有の高強度鋼板においても、不めっきのない美麗な表面外観を有し、めっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
また、特にプレ酸化等の前処理を必要とせずに、不めっきのない美麗な表面外観を有し、めっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ、産業上有益な発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層中にAlを含んだスピネル型酸化物を有することを特徴とする。このように、めっき層中にAlを含んだスピネル型酸化物を存在させることで、まず第1に、不めっきのない美麗な外観が得られる。Alを含むことのできるスピネル型酸化物はAlとの反応性が高いため、めっき浴浸漬時にAlを含む溶融亜鉛との濡れ性に優れることになる。従って、酸化物中のAlは、めっき前より元々含まれていても良いが、めっき浴中のAlが鋼板表面酸化物と反応して取り込まれ易くするようにすることがより好ましいといえる。
【0013】
めっき層中にAlを含んだスピネル型酸化物を存在させることによる第2の効果は、めっき密着性の向上である。一般的に、酸化物がめっき層中に存在する場合、酸化物と合金めっきとの界面が皮膜破壊の起点になり得ると考えられる。しかし、酸化物がAlを含有する場合、界面のAlを介して合金めっきと酸化物の密着性が増すため、全体としてのめっき密着性が向上する。また、このような酸化物はめっき/母材界面よりも、めっき層中に存在する方が密着性が優れているのでより好ましく、界面の酸化物(地鉄と接点を有する酸化物)量は酸化物全体の10質量%以下とすることが好ましい。
上記Alを含んだスピネル型酸化物をめっき層中に存在させるためには、めっき浴中にあらかじめスピネル型酸化物を分散させておくか、もしくは、めっき処理前に形成した下地鋼板表面のスピネル型酸化物を合金化により皮膜中へ取り込ませる方法などが考えられる。いずれの方法でも、本発明の効果は得られるため、その方法は問わない。ただし、スピネル型酸化物を皮膜中に取り込ませるための制御性や、上述のめっき濡れ性との両立との観点から、下地鋼板表面のスピネル型酸化物を合金化により皮膜中へ取り込ませる方法が現実的である。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明のめっき処理を施す下地鋼板について説明する。
本発明は、下地鋼板の高強度化手段として含有されるMnによってめっき性が阻害されるのを解決することを主旨とする。そのため、下地鋼中にMnが含有されていることを前提とする。但し、Mnの含有量が低い鋼では、本発明を適用するまでもなく良好にめっきができるため、本発明の効果を十分に発揮できる範囲としてMnは0.5%以上である。一方、3.0%を超えて含有しても、材質向上への効果が飽和する。よって、Mnは0.5%以上3.0%以下とする。
【0016】
上述のようなMnを含有する下地鋼板の表面には、Fe-Zn合金めっき層が形成され、本発明では前記めっき層中に、Alを含有するスピネル型酸化物が存在する。このような形態であるので、鋼中にMnを含有していても、優れためっき密着性を有する。
【0017】
めっき層中にAlを含有するスピネル型酸化物が存在していればよく、スピネル型酸化物の種類は問わないが、Al、Mn、Crを含んだスピネル型酸化物は好適である。また、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下であることがさらに好ましい。
が、これらを含んでいても、スピネル型酸化物が含まれていればよい。
【0018】
また、Alを含有するスピネル型酸化物の量は、10mg/m2以上1000mg/m2以下が好ましい。10mg/m2未満であると、効果が小さく、1000mg/m2超であると、皮膜強度、耐食性等が劣化傾向となるためである。また、スピネル型酸化物中のAl含有量は、酸化物中の酸素を除く金属の合計量に対して原子割合で1%以上含有していればよい。
【0019】
めっき中にAlを含有するスピネル型酸化物を存在させる方法については特に限定されないが、以下に、めっき層中にAlを含有するスピネル型酸化物を形成させる方法について記載する。
【0020】
まずは、めっき前の鋼板表面にスピネル型酸化物を形成する。または、溶融亜鉛めっき浴中にスピネル型酸化物を存在させておいて、めっき層中にスピネル型酸化物を取り込ませる。ただし、めっき前の鋼板表面にあらかじめスピネル型酸化物を形成しておいた方が確実である。
【0021】
形成させるスピネル型酸化物の量は、10mg/m2以上1000mg/m2以下が好ましい。10mg/m2未満であると、効果が小さく、1000mg/m2超であると、皮膜強度、耐食性等が劣化傾向となるためである。
【0022】
めっき前表面へのスピネル型酸化物の形成方法についても特に限定されるものではなく、スピネル型酸化物を塗布してもよいし、鋼中成分を制御し、めっき前の焼鈍で表層にスピネル型酸化物を形成させてもよい。すなわち、焼鈍でスピネル型酸化物が形成するような鋼中成分を添加してもよい。また、スピネル型酸化物であることが本発明で最も重要なのであり、スピネル型酸化物の種類は特に限定するものではないが、Mn、Crのスピネル型酸化物は好適である。
【0023】
さらに、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下であることがさらに好ましい。また、このようなCr、Mn系スピネル型酸化物は、めっき前の鋼板に塗布してもよいが、鋼中成分を制御することにより、めっき前の焼鈍により表層に形成させてもよい。
【0024】
ここで、鋼中にCrを0.2%以上1.0%未満を添加することで、めっき前の焼鈍により、Mn、Cr系スピネル型酸化物を形成できる。Mn鋼にCrを添加することで形成されるようになるMnCr系酸化物は、浴中Alと反応し易い傾向があり、本発明の目的に合致する。好適な鋼中Cr添加量は、0.2 %以上1.0%未満である。0.2%未満では、めっきを行う前の焼鈍時に、原板表層にMn濃度の高い酸化物が形成され、本発明の要件であるMnCr系スピネル型酸化物が有効に形成されなくなる。一方、1.0%以上では、酸化物のCr濃度が高くなり、溶融めっき後の適正なAl,Cr,Mnを含むスピネル型酸化物量が不足し、溶融めっき性及びめっき密着性の改善が不十分となる。また、Mn、Crの原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下であることが好ましい。
【0025】
このようにして表面にスピネル型酸化物を形成したMnを含む鋼板を、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施す。
【0026】
本発明では、上述のMnに加え、下地鋼板にCr、Mg等の焼鈍によりスピネル型酸化物を表面に形成する成分を添加してもよい。
【0027】
また、下地鋼板に含まれるAlは5%未満が好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。5%以上になると、鋼中の介在物量を増加させる点で好ましくない。また、本発明は下地鋼板表面のスピネル型酸化物と浴中Alの反応を利用しているため、下地鋼板中にもともとAlが多く含まれている場合には、その効果を弱める方向に働く。従って、下地鋼板中のAlは0.05 %以下であることが、本発明の効果を最大限に得る上で好ましい。
【0028】
以上の添加元素で本発明鋼は目的とする特性が得られるが、その他性能を確保するために、上記の添加元素に加えて、他の成分を含む従来から公知の成分系に適用することが出来るが、他の成分の好ましい範囲と理由は以下の通りである。
【0029】
Si添加は0.2%以下が好ましい。Si添加は、材質特性の向上には有利であるが、下地鋼板に0.2 %を超えて添加した場合、めっき前焼鈍時に多量のSi系表面酸化物を生成するため、本発明の効果を有効に得ることができない恐れがある。
【0030】
Cは、鋼板の高強度化に有効な元素であり、さらに残留オーステナイトや低温変態相の生成に効果があり、機械特性(TS×El)の向上を確保するために有効な元素である。しかし、C含有量が0.01%未満では所望の機械特性(TS×El)が得られにくい。一方、2.0%を超えると、溶接性の劣化を招く。以上より、Cは0.01%以上2.0%以下の範囲が好ましい。
【0031】
一般的な添加元素として、P、S、Nが挙げられる。これら元素から選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲とすることが好ましい。
【0032】
P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に添加すると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させ、また0.1%越えだと合金化速度を大幅に遅延させるためである。
【0033】
S:0.07%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストとの兼ね合いから、0.07%以下が好ましい。
【0034】
N:0.008%以下
Nは、鋼の耐時効性を最も大きく劣化させる元素であり、少ないほどよく、0.008%を超えると耐時効性の劣化が顕著となるため、N量を0.008%以下が好ましい。
【0035】
また、上記に加え、さらにTi、Nb、V、Mo、Cu、Ni、B、Ca、Sbの1種または2種以上を、合計含有量が5mass%以下の範囲であれば含有されていてもよい。残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0036】
以上の成分組成からなる下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき層が形成され、本発明では前記めっき層中に、上述したようにAlを含有するスピネル型酸化物が存在する。そして、好ましくは、上記スピネル型酸化物として、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下でかつAlを含有するMnCr系スピネル型酸化物が存在することである。
スピネル型酸化物はAlが置換固溶することで内部に取り込まれやすいため、酸化物の一部を上記スピネル型酸化物とすることで、酸化物中にAlを含有させてめっき濡れ性およびめっき密着性を向上させる目的を効率的に実施できる。
スピネル型酸化物の種類は特に限定するものではないが、CrとMnのスピネル型酸化物はAlとの反応性が優れており、好適であり、CrとMnの添加量の割合を適切な範囲内にすることが好ましく、その具体的な範囲は、後述するように還元焼鈍条件と関係する。
MnCr系スピネル型以外の酸化物としては、通常、NaCl型、コランダム型または非晶質のMnおよび/またはCrを含む酸化物が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一例について説明する。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常の方法により上記の成分組成を有するスラブを熱間圧延した後、冷間圧延あるいは熱処理が施された薄鋼板を下地鋼板とし、上記下地鋼板を、Alを0.1 %以上0.2 %以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬し、次いで、合金化処理を施すことにより得られる。この時、溶融亜鉛浴に浸漬する前に、下地鋼板の表面に、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のMnCr系のスピネル型酸化物を形成する。
【0038】
以下に詳細に説明する。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造では、めっき前に還元雰囲気中で再結晶焼鈍を行う。焼鈍炉の形式は特に限定するものではなく、例えば、放射加熱方式の焼鈍炉が一般的である。焼鈍条件は、水素を含む還元性雰囲気中で700〜900℃程度の温度で加熱するのが一般的である。また、還元焼鈍の前に鋼板表面を酸化するプレ酸化過程がある製造ラインもあるが、本発明はプレ酸化の有無は問わない。一般にプレ酸化はめっき性向上に有利であるが、本発明によれば、特にプレ酸化をする必要はない。
【0039】
この還元焼鈍時に、本発明においては、鋼板表面に所望のMnCr系のスピネル型酸化物を形成させることが重要であり好ましい。そのための方法は問わないが、例えば、水素を含む還元性雰囲気の焼鈍炉内の平均的な露点を-60℃以上-10℃以下の範囲とし、下地鋼板に添加するCrとMnの比と、焼鈍炉内の平均的な露点が、以下の関係を満たすように調整するとよい。
-0.006 × 露点(℃) < Cr(質量%)/Mn(質量%) < -0.006 × 露点(℃)+ 0.3
以上のような還元処理後の鋼板を、非酸化性あるいは還元性雰囲気中でめっきに適した温度まで冷却し、Alを含む溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施す。めっき条件は、めっき浴温:440〜500℃程度、浸漬時の鋼板温度はめっき浴温とほぼ等しいか若干高目とすることが一般的であり、それに従えばよい。本発明では、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度は0.1 %以上0.2%以下程度とするのが好ましい。
【0040】
めっき後のめっき層の厚さは、一般的には、ガスワイピングにより3〜15μm程度に調整される。3μm未満では十分な防錆性が得られず、一方15μm超えでは防錆性が飽和するだけでなく、加工性や経済性が損なわれる可能性がある。但し、めっき層の厚さ、および厚さを調整する方法の違いは本発明の効果を妨げるものではなく、特に限定するものではない。
【0041】
次いで、溶融亜鉛めっき後に合金化処理を施す。合金化処理方法としては、ガス加熱、インダクション加熱および通電加熱など、従来から用いられている一般的なものが使用でき、その方法は特に限定されるものではない。合金化温度は460〜600℃程度、合金化保持時間は5〜60秒程度とするのが一般的である。ただし、本発明の実施において、めっき皮膜中に酸化物を取り込ませるためには、520℃以下で皮膜中Fe濃度が10±1質量%となるように処理時間を調整して合金化を施すことが好ましい。
【実施例1】
【0042】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0043】
表1に示す成分組成からなる冷延鋼板を供試材として、再結晶焼鈍、溶融亜鉛めっき処理を施した。再結晶焼鈍は、5vol %水素+窒素雰囲気中で、表2に示す露点(-50℃〜-20℃)、板温:770〜820℃、保持時間:20秒の条件で行った。めっき処理は、Alを0.14質量%含む(Fe飽和)460℃の亜鉛めっき浴を用い、侵入板温:460℃および浸漬時間:1秒であり、めっき後、窒素ガスワイパーで付着量を片面45±5g/m2に調整した。引き続き、インダクション加熱炉で合金化温度:500℃で、めっき層中Fe含有率が10±0.5質量%となるよう、処理時間:10〜20秒の合金化処理を行った。
【0044】
【表1】

【0045】
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板の表面外観およびめっき密着性を、以下に記載する方法、判定基準で、測定し評価した。さらに、後述するように、めっき材の断面TEMにより、めっき皮膜中の酸化物の組成及び結晶構造を評価した。
【0046】
各評価方法および判定基準は以下の通りである。
【0047】
<めっき外観>
得られた溶融亜鉛めっき鋼板を用いて目視および10倍のルーペにて外観観察を行い、不めっきが全くない場合を不めっき無しとし、10倍のルーペにて観察可能な微小の不めっきがある場合を微小不めっき有りとし、目視にて不めっきが観察できる場合を不めっき有りとした。
◎:不めっきなし
○:微小不めっきあり
×:不めっきあり
<めっき密着性>
得られた溶融亜鉛めっき鋼板を用いてボールインパクト試験を行い、テープ剥離した際のめっき剥離状態を評価した。試験条件は、直径1/2インチの半球状突起の上に載せた溶融亜鉛めっき鋼板上に、2.8kgの重りを1mの高さから落下させた後、凸側でテープ剥離を実施した。
◎:めっき剥離なし
○:めっき剥離ほとんどなし
△:めっき剥離若干あり
×:めっき剥離あり
<めっき層中酸化物の解析>
めっき層中の酸化物の調査は、FIB加工で作製したサンプルの断面TEM観察により行った。皮膜(めっき層)中に酸化物が見出された場合は、EDSにより組成分析、TEDで結晶構造解析を実施した。
各供試鋼に対して、任意の皮膜中酸化物を10個分析し、その酸化物がAlを含有するか否か(酸化物を構成する金属元素(酸素除く)の合計量に対するAlの割合が、原子割合で1%以上含有している部分があれば、その酸化物はAl含有していると見なす)、及びCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のスピネル型酸化物であるか否かについて判定した。
Al含有有無
○:2つ以上存在
△:1つ存在
×:なし
MnCr系スピネル型酸化物
◎:Cr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のスピネル型酸化物が2つ以上存在
○:Cr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のスピネル型酸化物が1つ以下、かつ、Cr/(Mn+Cr)が0.1未満または0.67超のスピネル型酸化物が1つ以上存在
△:スピネル型酸化物が1つ存在
×:スピネル型酸化物なし
以上により得られた結果を、処理条件と併せて表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、本発明では、高Mn含有鋼板を下地とする場合であっても、不めっきが無くめっき密着性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
表面外観およびめっき密着性に優れることから、自動車、家電、建材を中心に広範な分野で適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき皮膜を有してなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、該めっき皮膜により形成されるめっき層中には、Alを含有するスピネル型酸化物が存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記酸化物として、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下でかつAlを含有したスピネル型酸化物が存在することを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下、Cr:0.2%以上1.0%未満を含有する下地鋼板の表面にFe-Zn合金めっき皮膜を有してなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、該めっき皮膜により形成されるめっき層中には、AlとCrとMnを含有するスピネル型酸化物が存在し、前記酸化物中のCrとMnが、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面に、スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下を含有する下地鋼板の表面に、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のMnCr系スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
質量%で、Mn:0.5%以上3.0%以下、Cr:0.2%以上1.0%未満を含有する下地鋼板を焼鈍して、表面に、原子比としてのCr/(Mn+Cr)が0.1以上0.67以下のMnCr系スピネル型酸化物を形成し、次いで、Alを0.1質量%以上0.2質量%以下含有する溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを形成し、次いで、合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2009−242870(P2009−242870A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90866(P2008−90866)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】