説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】Siを比較的多量に含有する鋼板をめっき基材として溶融亜鉛めっきや合金化溶融亜鉛めっきが施される溶融亜鉛系めっき鋼板を、めっきの濡れ性を改善しながら低コストで製造する。
【解決手段】C:0.01%以上0.25%以下、Si:0.3%以上2.0%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.5%以下を含有する化学組成を有する鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.15%以上0.50%以下を含有するめっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。めっき層と鋼板母材との界面から深さ2μm以内の鋼板母材中に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらの複合酸化物が存在する。この酸化物の最大粒径が0.1μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関し、より具体的には、Si、Mn、Alを比較的多量に含有する鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施して製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、燃費性能および衝突安全性の向上が自動車に求められる。このため、自動車用鋼板として用いられるめっき鋼板には、高い機械的特性および優れた耐食性を有するとともに、原料価格、設備投資さらには原単位を抑制するため、母材の合金元素が少なく、現行の設備により少ない工程で、かつ少ないエネルギー消費で製造可能なことが求められる。
【0003】
高い機械的特性、つまり高い引張強度および全伸びを兼ね備えることは、母材におけるC、SiさらにはMn等の強化元素の含有量を最適化することにより、達成される。これらの元素のうち特にSiは易酸化性を有する。このため、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)において、Si含有量が概ね0.3%以上(本明細書では特に断りがない限り組成に関する「%」は「質量%」を意味する)であるといったようにSiを比較的多量に含有する鋼板を、普通鋼のめっき条件と同じ条件でめっきすると、めっき直前のめっき母材である鋼板の表層に形成されるSiの酸化物がめっきとの濡れ性を阻害するため、不めっき欠陥が発生し易い。そこで、これまでにも、この問題を解決するために様々な発明が提案されている。
【0004】
特許文献1には、CGLにおける焼鈍工程の前で鋼板にプレめっきを行う発明が開示され、また、特許文献2には、CGLにおける焼鈍工程の前で鋼板の表面を研削する発明が開示されている。しかし、これらの発明を実施するには、プレめっき工程や研削工程を設けるための新たな設備投資が必要になるとともに、工程が増加するという問題がある。
【0005】
特許文献3には、鋼中の合金元素としてSiに加えてNiおよびCuを0.001〜0.4%含有する鋼板を用いる発明が開示されている。しかし、この発明には、合金元素の含有量が増加するためにコストの上昇が避けられないという問題がある。
【0006】
特許文献4には、CGLにおける酸化帯で鋼板の表面に火炎を照射して酸化することによって鋼板の表面に厚い酸化膜を形成してから、還元焼鈍してめっきする発明が開示されている。Siは上記酸化膜(ほぼ鉄の酸化物)中にほとんど拡散してこないため、このような厚い酸化膜を還元することでSi(の酸化物)がほとんど存在しない鋼材表面を得ることができ、これによりめっき性が改善される。しかし、厚く形成された酸化膜は、比較的脱落し易いため、例えばCGLの焼鈍炉を通板中に炉内のロールに付着し、後続の鋼板の表面に影響して製品の表面欠陥を生じる恐れがある。
【0007】
また、Siを鋼板母材の表面から少し内側で酸化させること(これをSiの「内部酸化」と呼ばれることがあり、本明細書でも同様の趣旨でこの語を用いる)により母材表面でのSi酸化物の形成を抑制してめっき性を向上させるという、特許文献3、4により開示された発明とは異なる技術思想に基づく発明も知られている。内部酸化を利用する発明として、例えば特許文献5には、Si、Mn、Crを合計で0.7%以上含有する鋼板に溶融亜鉛めっきする場合に、この鋼板の製造工程における熱間圧延後の鋼板の巻き取り温度を、780×(Si[%]+Mn[%]/10+Cr[%]/10)0.148(℃)以上と高く設定する発明が開示されている。しかし、熱間圧延における巻取温度を高く設定すると、母材の結晶粒の粗大化や粒界酸化に起因した問題を生じ易い。例えば、粒界酸化された熱延鋼板は後続の酸洗工程で粒界が優先的に侵食されて深い凹凸が形成され、その後の冷間圧延によって、いわばノッチが入ったようなかさぶた上の表面が形成される。この鋼板表面(めっき後のめっき−母材界面)は、めっきの濡れ性には有利に働くものの、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をプレス成形する際にノッチの入った結晶粒が脱落し易いため、耐パウダリング性に劣る。なお、「パウダリング」とは、通常、めっき層自体の粉化による脱落を意味し、上記のめっき層の脱落とは脱落の機構が相違するが、実際の成型品の評価では区別されない。
【0008】
特許文献6には、熱間圧延後または冷間圧延後に、鋼板を焼鈍設備で加熱及び冷却してから、さらにCGLにおいて焼鈍及びめっきを行う際に、焼鈍設備やCGLでの加熱冷却時の温度や雰囲気等を制御する発明が開示されており、好ましい形態として、巻取温度を600℃以上850℃以下とするとともに、巻取り後の冷却速度を3℃/min以下とすることが開示されている。しかし、この方法は、CGLの前にもう一段階の熱処理工程を追加する必要があり、工程的に煩雑でコスト的にも不利となる。
【0009】
特許文献7には、連続溶融亜鉛めっき設備の還元炉における温度および雰囲気(水蒸気分圧および水素分圧)を制御することによって、C、Si、Mnを含有する鋼板を基材とし、めっき層との界面から2μm以下の鋼板内部に、平均直径が1μm以下のSi等の内部酸化物が形成された溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−279409号公報
【特許文献2】特許第2555821号明細書
【特許文献3】特開2004−211157号号公報
【特許文献4】特開2006−176806号公報
【特許文献5】特開平10−017936号公報
【特許文献6】特開2000−290730号公報
【特許文献7】特開2004−323970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献7により開示された発明では、内部酸化物が粗大であるためにめっき鋼板の表面に凹凸が形成され、製品特性に好ましくない問題(例えば部材の鮮映性が劣ること)を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、Siの内部酸化という機構を参考にしながら、特許文献6により開示された発明のように合金化溶融亜鉛めっき鋼板の通常の製造プロセスにない工程を追加する方法ではなく、プロセス自体は通常のものであるものの、例えば特許文献7により開示された発明とは異なる製造条件でめっき性(濡れ性および合金化処理性)の改善を図ることができることを知見した。さらに、このような方法により製造される鋼板は、前述した特許文献7により開示された発明にはない特徴を有することを知見した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
本発明は、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.5%以下、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、Fe:8.0〜15%、およびAl:0.15〜0.50%を含有するめっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、このめっき層と鋼板母材との界面から深さ2μm以内の鋼板母材中に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらとFeのうち二種以上を含む複合酸化物が存在し、この酸化物の最大粒径が0.10μm以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0014】
また、本発明は、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.01%未満、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、Fe:8.0〜15%、およびAl:0.15〜0.50%を含有するめっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、このめっき層と鋼板母材との界面から深さ2μm以内の鋼板母材中に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらとFeのうち二種以上を含む複合酸化物が存在し、この酸化物の最大粒径が0.10μm以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0015】
別の観点からは、本発明は、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.5%以下を有する化学組成の鋼スラブに熱間圧延を行い、得られた熱延鋼板を650℃以下の巻き取り温度で巻き取る熱間圧延工程と、この熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と、この酸洗工程で酸洗された熱延鋼板を圧下率50%以上で冷間圧延する冷間圧延工程と、この冷間圧延工程を経た冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインでの還元焼鈍炉で鋼板表面を還元する際に700℃以上の温度域では水素濃度:1〜30体積%および露点:−30℃〜10℃の窒素―水素雰囲気で焼鈍を行ってから、溶融亜鉛めっきを行い、ついで合金化処理を行う溶融亜鉛めっき工程とを備えることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。この本発明に係る製造方法により、上述した本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0016】
これらの本発明では、化学組成が、(a)Ti:0.50%以下、好ましくは0.0040〜0.50%、Nb:0.50%以下、好ましくは0.0040〜0.50%およびB:0.0050%以下、好ましくは0.0001〜0.0050%からなる群から選ばれた一種または二種以上を有すること、(b)Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下およびMo:1.0%以下からなる群から選ばれた一種または二種以上を有すること、または(c)Bi:0.05%以下、及びCa:0.01%以下の一種または二種を有することの少なくとも一つを満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Siを比較的多量に含有する鋼板をめっき基材として合金化溶融亜鉛めっきが施される合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、めっきの濡れ性を改善しながら低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、表2のNo.11のめっき鋼板のSEM画像を示す金属組織写真である。
【図2】図2は、断面STEMを示す写真である。
【図3】図3は、EDS測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、表2のNo.6のめっき鋼板のSEM画像を示す金属組織写真である。
【図5】図5は、表2のNo.1のめっき鋼板のSEM画像を示す金属組織写真である。
【図6】図6は、表2のNo.1のめっき鋼板のEDX点分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明では、熱間圧延工程と、この熱間圧延工程で形成される鋼板の表面のスケールを除去する酸洗工程と、この酸洗工程を経た鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、この冷間圧延された鋼板に連続溶融めっき設備で還元焼鈍及び溶融めっきをこの順で行う連続溶融亜鉛めっき工程とを経て、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0020】
この鋼板の化学組成を限定する理由を説明する。
[C:0.01〜0.25%]
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Cを多く含むことにより強度および延性のバランスを向上させる。C含有量は、狙いとする強度により適宜変更すればよいが、延性を向上させるために、0.01%以上とする。しかし、C含有量が0.25%を超えると局部延性の劣化が著しくなるために0.25%以下とする。
【0021】
[Si:0.3〜2.0%]
Siは、低コストで固溶強化により鋼板を高強度化する有用であるので、強度向上を目的として、0.3%以上含有する。しかし、Si含有量が2.0%を超えるとスケール疵が生じやすくなるので2.0%以下とする。
【0022】
[Mn:0.030〜3.0%]
Mnは、固溶強化により鋼板を高強度化する。Mn含有量が3.0%超では降伏強度が上昇して伸びが劣化し、加工時にしわや割れが生じやすくなるので3.0%以下とする。しかし、Mn含有量が0.030%を下回ると強度を確保することが難しいので、0.030%以上とする。
【0023】
[P:0.050%以下]
Pは、不純物として不可避的に含有するが、積極的に含有することにより鋼板の強度を上昇させる。しかし、Pを過剰に含有すると、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際に合金化処理性が低下するため、P含有量は0.050%以下とする。
【0024】
[S:0.010%以下]
S含有量は、不純物として鋼中に含有されるため、低濃度であるほうが好ましい。S含有量が0.010%を越えると、MnSの析出が目立つようになり、鋼板の延性を阻害するのみならず、オーステナイト安定元素のMnを析出物として消費してしまう。そこで、S含有量は0.010%以下とする。
【0025】
[N:0.0060%以下]
Nは、伸びフランジ性を劣化させる不純物である。そこで、本発明では、N含有量は0.0060%以下とする。
【0026】
[sol.Al:0.5%以下]
Alは、鋼を脱酸させるために含有する元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素でもある。一方で、めっき性の改善にあたって鋼中Siを十分に内部酸化させるためには、Si同様に易酸化元素であるAlは極力少ないのが好ましい。この観点からAlは0.5%以下とする。
【0027】
なお、Siが0.5%以上含有される場合は、機械特性改善目的でAlを多量に含有する必要が薄れるので、めっき性の観点でAl含有量を0.01%以下にさらに低減することが好ましい。
【0028】
次に、任意元素について説明する。
[Ti:0.0040〜0.50%、Nb:0.0040〜0.50%、およびB:0.0050%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上]
Ti、NbまたはBを、単独でまたは2種以上複合して含有することにより、強度、穴広げ性および伸びが向上する。しかし、Ti、Nbは0.50%超、Bにあっては0.0050%超含有しても特性の向上効果が飽和するだけで、コスト高となる。そこで、これらの元素を含有する場合は、Ti、Nbは0.50%以下、Bは0.0050%以下である。さらに、強度、穴広げ性および伸びの向上効果を確実に得るには、Ti、Nbは0.0040%以上含有し、Bにあっては0.0001以上含有することが好ましい。
【0029】
[Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下およびMo:1.0%以下からなる群から選ばれた一種または二種以上]
Cu、Ni、CrおよびMoは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。980MPa以上の引張強度を確保するには、Cu、Ni、CrおよびMoの1種または2種以上含有することが有効である。上記効果をより確実に得るには、いずれかの元素を0.01%以上含有することが好ましい。ただし、それぞれ1%を超えてCr、Mo、CuおよびNiを含有しても上記効果が飽和し、経済的に無駄であるだけでなく、熱延鋼板が硬質となって冷間圧延を行うことが困難となる。このため、Cr、Mo、CuおよびNiの1種または2種以上を上記の量で含有する。
【0030】
[Bi:0.005%以下、及びCa:0.01%以下の一種または二種]
Mnを多量に含む鋼板では、Mn偏析により鋼板の機械特性が劣化することがあるが、BiまたはCaを単独でまたは複合して含有することによりこれを防止することができる。しかし、Bi含有量が0.05%を超えると熱間加工性が低下し熱間圧延が困難になる。また、Ca含有量が0.01%を超えると、表面性状が劣化する。このため、Bi含有量は0.05%以下とし、Ca含有量は0.01%以下とする。このような効果を確実に得るためには、Bi含有量は0.0001%以上であることが好ましく、Ca含有量は0.0001%以上であることが好ましい。
【0031】
上記以外の残部は、Feおよび不純物である。
次に、本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の化学組成の限定理由を説明する。
【0032】
[Fe:8〜15%]
亜鉛めっき中のFe含有量が8%以上15%以下であることにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の溶接性および塗装後耐食性が向上する。しかし、過少に含有するとプレス成形時にプレス金型とめっきが凝着し、鋼板の割れやめっき層の剥離(フレーキング)の原因となるので、下限を8%とする。また、過剰に含有するとプレス成形時のめっき層が粉状に剥離しプレス疵の原因となるため、上限を15%とする。
【0033】
[Al:0.15〜0.50%]
めっき層中のAl含有量が0.15%未満であると、FeとZnの合金化が過剰となり、一方0.50%を超えると合金化処理の際の反応速度が劣る。そこで、めっき層中のAl含有量は0.15%以上0.50%以下とする。
【0034】
[めっき/母材の界面近傍における母材内部の酸化物]
めっき層と鋼板母材との界面から2μm以内に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらとFeのうち二種以上を含む複合酸化物が存在する。
【0035】
従来の合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、鋼板の表層に形成されるSi酸化物がめっきとの濡れ性を阻害するため、不めっき欠陥が発生し易い。本発明では、Si、Mn、Alを母材のめっき/母材界面から2μm以内の内部で酸化物とすることによって、鋼板表層の酸化物の生成を阻害しめっき性を確保する。
【0036】
[酸化物の最大粒径:0.10μm以下]
上記の酸化物の最大粒径は、0.10μm以下である。この理由は、酸化物のサイズが大きい場合、めっき鋼板の製造時のめっき中に母材のFeを拡散させる合金化工程において、酸化物が存在する領域と存在しない領域とで反応性の差が発生し、めっき厚さの凹凸が発生するためである。めっき厚さの凹凸は、塗装時に気泡が混入して異物の発生起点となったり、プレス成形時に摩擦係数を増加させ、加工性の劣化の原因となったりするため、好ましくない。このため、酸化物のサイズは小さい方が好ましく、具体的には酸化物の最大粒径を0.10μm以下とし、好ましくは0.05μm以下とする。
【0037】
図5は、後述する表2のNo.1のめっき鋼板のSEM画像を示す金属組織写真である。この写真は、鋼板から試験片を採取し、断面を機械研磨し、C蒸着してSEM(加速電圧10kV)で撮影したものである。
【0038】
図5のように、めっき/母材の界面、あるいは母材結晶粒界から2μm以内に複数の白点が観察される。この白点をEDXで元素分析すると、Si、Mn、Alのいずれか1種または2種以上が検出され、これらの単独または複合酸化物であると認められる。これらの酸化物は、非常に細かく、その最大値が0.10μm以下である。
【0039】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、以上のように構成される。次に、本発明にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を説明する。
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、必ずしも限定されないが、特徴とする内部酸化物の存在、及びその最大直径には、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、およびめっき(含む焼鈍)のいずれの工程も影響を及ぼすので、以下に最適な製造条件を説明する。
【0040】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき鋼板の製造の常法のとおり、スラブ作成、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、連続溶融亜鉛めっき設備での脱脂、焼鈍、亜鉛めっきおよび合金化という製造工程により、製造される。
【0041】
スラブ作成は、常法にしたがって行えばよい。
熱間圧延では、巻取温度を650℃以下とすることが好ましい。巻取温度が高すぎると、Siの内部酸化が生じるもののその粒径が成長して大きな酸化物が形成されることがある。また、結晶粒界での酸化が進行して前述したパウダリングの問題も生じ得る。
【0042】
酸洗では、熱間圧延での巻取温度が高い場合はもちろん、低めとしてもなお形成される比較的大きな酸化物について、これを除去するために、常法よりも強めの酸洗条件とするのが好ましい。具体的には酸洗液の温度を85℃以上とし、塩酸濃度を12%以上とすることが好ましい。塩酸濃度を20%以上にするのがより好ましい。過酸洗を抑制するようなインヒビターを添加してもよい。
【0043】
冷間圧延では、圧下率を50%以上とすることが好ましく、より好ましくは65%以上である。もちろん、圧下率は、所定の機械特性が得られるように設定される必要があるが、冷間圧延率を高く設定するほうが、酸洗までで除去されなかった大きな酸化物が機械的に破壊され易いことに加え、鋼板に転移が多数導入され焼鈍時の酸化物生成起点が増えて酸化物が微細化する。
【0044】
次に、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)での各段階について説明する。
CGLの入側では、鋼板の汚れを除去するアルカリ洗浄や必要に応じ酸洗が行われ、また洗浄に先だって鋼板表面の研削が行われてもよい。
【0045】
さらに、無酸化炉(NOF)等の設備を備えるCGLにおいては、空燃比を1以下程度とし500〜600℃程度に加熱することが好ましい。前酸化では、鋼板表面を十分に酸化させるほうがめっきの濡れ性のためには有利であり、そのためには、逆に空燃比が高いほうが有利であるが、還元炉内での酸化膜の脱落による問題が生じやすくなる。なお、近年のCGLでは、無酸化炉等が無い(焼鈍前の前酸化も還元雰囲気で行われる)ことも多く、このCGLでは特に限定されない。
【0046】
還元焼鈍の条件は、鋼にとって還元雰囲気である限り、還元性が小さい(典型的には水素濃度が低い、露点が高い)ほうが、Siの内部酸化が生じやすい。ただし、この方向は、鋼板表面(めっき後はめっき界面)の脱炭も生じ易くなる。好適な条件は、700℃以上の範囲(最高温度は鋼成分や要求される機械特性によって異なる)において窒素−水素混合雰囲気を用いる場合は水素濃度を1体積%以上30体積%以下とし、露点を−30℃超±10℃未満とすることが好ましい。
【0047】
このようにして還元焼鈍を行った後に合金化溶融亜鉛めっきを行う。例えば、めっき浴温は440℃以上470℃以下とし、浴中Al濃度は0.10%以上0.50%以下とし、さらに、侵入材温の下限は浴温安定の観点から浴温と同等温度とすることが、例示される。合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造における合金化処理の条件も、所定の合金化度やめっきの組織が得られるように適宜決定すればよい。
【実施例】
【0048】
本発明を、実施例を参照しながら具体的に説明する。
表1に示す化学組成(単位:質量%、表1に示す以外の残部:Feおよび不純物)を有するスラブを数本ずつ準備した。
【0049】
【表1】

【0050】
これらを、熱間圧延ラインで2.8mm厚にまで熱間圧延した後、コイルに巻き取った。続いて、この熱間圧延された鋼帯を、酸洗ラインに通板して表面のスケールを除去した。酸洗条件は2種類行い、液温85℃および塩酸濃度13%の酸洗を「1」とし、液温85℃および塩酸濃度20%の酸洗を「2」とした。
【0051】
さらに酸洗された鋼帯を冷間圧延ラインで0.8mm厚(冷間圧延率70%)、1.4mm厚(冷間圧延率50%)、2.0mm(冷間圧延率30%)に冷間圧延した。
さらに連続溶融亜鉛めっき設備により、還元焼鈍、亜鉛めっきおよび合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作成した。
【0052】
還元時の雰囲気(窒素−20%水素)の水蒸気濃度の実績は露点に換算し、本発明の製造の際には−30℃〜+5℃の範囲、比較例の製造の際には−50〜−20℃とした。露点範囲は成分と巻取温度との条件の組み合わせの相違のため一部重複する(実施例:本発明と比較例の露点実績範囲をそれぞれ記載)。
【0053】
作成した亜鉛めっき板を、500℃塩浴中で20秒間から120秒間保持し、めっき中のFe%が8〜15%となるよう合金化した。
作成した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の機械特性は、JIS Z 2201により評価し、引張強さ(MPa)と伸び(%)の値の積(MPa×%)が17500以上を○と判定し、それ未満を×と判定した。
【0054】
この合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき濡れ性は、不めっき欠陥(めっきが存在せず母材が露出している部分)で評価した。不めっき欠陥が全く存在しなければ○とし、不めっき欠陥が存在し最大サイズが5mm以下ならば△とし、不めっき欠陥が存在し最大サイズが5mmを超えるものを×とした。
【0055】
めっき厚さの凹凸の大小は、めっき表面の粗さRaにより評価した。Raは、東京精密製の表面粗さ・輪郭形状測定器SURFCOM1900DXを用いて測定した。Raが1.5μm以下であるものを○とし、1.5μm超2.0μm以下であるものを△とし、2.5μm超のものを×とした。
【0056】
この合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、SEM−EDX測定と、FIB−STEM測定とを行った。
SEM−EDX測定時には、鋼板から試験片を採取し、断面を機械研磨し、C蒸着してSEM観察−EDX(加速電圧10kV)測定し、酸化物の有無、酸化物の直径の最大値を評価した。薄片化せず、加速電圧10kVで測定したことから、測定範囲はおよそ直径1μmの領域であり、検出したFeは酸化物ではなく周辺の母材のFeの可能性が高い。
【0057】
FIB−STEM観察は、FIBで厚さ100nm以下に薄片化した後、FE−STEM/EDS(加速電圧300kV)測定を行った。
表2に、作成した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の、母材中の酸化物の有無、および酸化物の最大直径をまとめて示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、めっき/母材界面または母材結晶粒界から2μm以内にSi、Mn、Al酸化物を有するものはめっき性が良好であったが、そうでないものはめっき性が不芳であった。
【0060】
表2のNo.11のめっき鋼板のSEM画像、EDX点分析結果を図1と表3に示し、FIB加工した断面STEM、EDS測定結果を、図2および図3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
図1〜3および表3より、No.11のめっき鋼板には、めっき/母材界面の母材側の界面近傍に、主成分をSi,Mn,Alとする内部酸化物が存在しているものの、その粒径が大きかった。これは巻取温度が高いことが影響していると考えられる。
【0063】
また、表2のNo.6のめっき鋼板のSEM画像、EDX点分析結果を図4と表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
図4および表4より、No.6のめっき鋼板には、めっき/母材界面の母材側の界面近傍に、Siと主成分をする内部酸化物が存在しているものの、その粒径が大きかった。これは冷間圧延率が小さいことが影響していると考えられる。
【0066】
また、表2のNo.1のめっき鋼板のSEM画像、EDX点分析結果を図5、図6に示す。
図5および図6より、No.1のめっき鋼板には、めっき/母材界面の母材側の界面近傍に、Si、Al、Mnと主成分をする、微細な内部酸化物が存在していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.5%以下、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:8.0〜15%、およびAl:0.15〜0.50%を含有するめっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該めっき層と前記鋼板母材との界面から深さ2μm以内の鋼板母材中に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらとFeのうち二種以上を含む複合酸化物が存在し、該酸化物の最大粒径が0.10μm以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.01%未満、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:8.0〜15%、およびAl:0.15〜0.50%を含有するめっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該めっき層と前記鋼板母材との界面から深さ2μm以内の鋼板母材中に、Si、MnまたはAlの単独酸化物、これらの二種以上を含む酸化物、又はこれらとFeのうち二種以上を含む複合酸化物が存在し、該酸化物の最大粒径が0.10μm以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記化学組成は、質量%で、Ti:0.50%以下、Nb:0.50%以下およびB:0.0050%以下からなる群から選ばれた一種または二種以上を有する請求項1または請求項2に記載された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記化学組成は、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下およびMo:1.0%以下からなる群から選ばれた一種または二種以上を有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記化学組成は、質量%で、Bi:0.005%以下、及びCa:0.01%以下の一種または二種を有する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、およびsol.Al:0.5%以下を有する化学組成の鋼スラブに熱間圧延を行い、得られた熱延鋼板を650℃以下の巻き取り温度で巻き取る熱間圧延工程と、
該熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と
該酸洗工程で酸洗された熱延鋼板を圧下率50%以上で冷間圧延する冷間圧延工程と、
該冷間圧延工程を経た冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインでの還元焼鈍炉で鋼板表面を還元する際に700℃以上の温度域では水素濃度:1〜30体積%および露点:−30℃〜10℃の窒素―水素雰囲気で焼鈍を行ってから、溶融亜鉛めっきを行い、ついで合金化処理を行う溶融亜鉛めっき工程と
を備えることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−117040(P2011−117040A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275630(P2009−275630)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】