説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】高いMn量を含む鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOの生成量とFe−Al−O合金層の形成量を抑制することで、合金化むらが少なく、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】Mnを2.0〜3.5質量%含有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、溶融亜鉛めっき層2と鋼板1の界面の直線上に、MnO粒子が10個/μm以下生成されていると共に、MnO粒子列と鋼板1間の界面に、Fe−Al−O合金層が形成されており、そのFe−Al−O合金層の長さが、界面全長の10%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、建築材料等の用途に使用される表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板と、その合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家電製品、建築材料等の広範な用途に用いられており、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、スポット溶接性に優れることから、自動車用鋼板として広く使用されている。近年、自動車においては、車体の軽量化による燃費の向上、衝突安全性を高めるといったニーズから、この合金化溶融亜鉛めっき鋼板にも高強度化、薄物化のニーズが高まっている。
【0003】
これらの現状を踏まえ、更には強度延性バランスの確保という観点もあり、現在使用されている合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、SiやMnといった易酸化元素を添加したものが多くなっている。しかしながら、これら易酸化元素は、鋼板にめっきを行う前の焼鈍時に選択酸化されて、めっき濡れ性や合金化処理性を著しく阻害することが知られており、その制御を行うのは非常に難しい。以上の実情もあって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造するのは非常に難しいのが現状である。
【0004】
このような実情が勘案され、近年、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、種々の提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、焼鈍工程で、鋼板表層に鋼板添加元素と焼鈍雰囲気の成分との反応物を形成させる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法と合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。また、特許文献2には、Mnを含む高張力鋼板の表面に、Sを含有するアンモニウム塩を付着させたのち、熱処理を施し、ついでめっき処理を施す溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法と溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0006】
特許文献3には、めっき溶に鋼板を浸漬させる前に、鋼板の表層をドライエッチングするという合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、焼鈍後の鋼板を冷却制御することにより粒界偏析を減らそうという合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性改善方法が開示されている。
【0007】
更には、特許文献5には、焼鈍後に、Si、Mn、Alを含有する表面濃化層の70%以上を酸洗により除去し、その後に溶融亜鉛めっきを施す高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、その何れもが工程が複雑であり、容易に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することはできない。また、特に高いMn量を含む鋼板において、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法として提案されたものでもなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−200711号公報
【特許文献2】特開2001−279410号公報
【特許文献3】特開平6−88193号公報
【特許文献4】特開2003−328036号公報
【特許文献5】特開2004−263271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、高いMn量を含む鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOの生成量と、Fe−Al−O合金層の形成量を抑制することで、溶融亜鉛めっき鋼板の合金化を促進することができ、合金化むらが少なく、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することと、その表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.02〜0.2%、Mn:2.0〜3.5%、Cr:0.03〜0.5%、Al:0.01〜0.15%、Si:0.04%以下(0%を含む)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼板に、溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理して成る合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記溶融亜鉛めっき層と前記鋼板の界面の任意の直線上に、MnO粒子が平均10個/μm以下生成されていると共に、前記MnO粒子の列と前記鋼板の間の前記界面上に、Fe−Al−O合金層が形成されており、前記任意の直線上において、前記Fe−Al−O合金層の長さが、前記界面全長の10%未満であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%、Ti:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を、合計で0.003〜1.0%含有することを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%、B:0.0002〜0.1%、Mo:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%からなる群から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≧20を満たす条件で前記鋼板の焼鈍を行う焼鈍工程と、焼鈍された前記鋼板の表面に前記溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、前記溶融亜鉛めっきが形成された前記鋼板を合金化処理する合金化処理工程を含むことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板によると、Mnの含有量が2.0〜3.5質量%と高いにもかかわらず、合金化むらの原因となるMnOの生成量と、Fe−Al−O合金層の形成量を抑制することで、合金化むらが少なく、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板とすることができる。
【0017】
また、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によると、Mnの含有量が2.0〜3.5質量%と高い鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOの生成量と、Fe−Al−O合金層の形成量を抑制することで、溶融亜鉛めっき鋼板の合金化を促進することができ、合金化むらが少なく、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程において実施される焼鈍においては、鋼板の主成分であるFeが酸化されることはないが、SiやMnといった易酸化元素が添加されている場合、これらの易酸化元素が選択的に酸化されて鋼板表面への拡散が発生する。そのため、鋼板の表面には、これら易酸化元素単独の酸化物や複合酸化物が生成される。
【0019】
易酸化元素のうちでも、Siは表面に濃化すると、鋼板最表面に薄い酸化層や粒界酸化を形成し、めっき性や合金化処理性を著しく劣化させるという問題を生じる。そのため、本発明では、易酸化元素のうちMnは添加するが、Siについては、不可避的不純物として混入することは容認するものの積極的には添加することはしない。
【0020】
一方、Mnも鋼板の表層に濃化するが、Siのように酸化層や粒界酸化を形成するのではなく、粒状の酸化物(MnO)として成長するため、合金化処理時のFeの外方拡散の障害になることは少なくバリア効果はSiより小さい。また、添加量が少量であれば、合金化速度が速くなる傾向さえある。しかしながら、Mnは強化能力が低いことから、大量に添加する必要がある。大量に添加すると、MnOが鋼板の表面に発生しやすくなるので、合金化挙動を複雑化し、制御を困難にしている。
【0021】
以上のような前提条件を勘案し、本発明者らは、MnOの生成形態と合金化の関係に着目し、検討した結果、合金化むらの詳細な発生メカニズムを突き止めることに成功した。
【0022】
その詳細メカニズムを、図1に基づき説明する。まず、図1(a)に示すように、大量のMnが添加された鋼板1を高い酸素分圧下で焼鈍すると、鋼板1の最表面に粒状酸化物であるMnOが大量に生成する。その状態で、鋼板1を溶融亜鉛めっきの亜鉛めっき浴に浸漬すると、図1(b)に示すように、亜鉛めっき浴中に含まれるAlが、鋼板1表面に生成したMnOの酸素、および鋼板内部から拡散するFeと瞬時に反応し、鋼板1と亜鉛めっき層2の界面にFe−Al−O合金層が形成される。図1(c)に示すように、このFe−Al−O合金層が合金化処理時の鋼板1からのFeの拡散障壁となり、鋼板1の合金化が阻害されることで、合金化むらを引き起こし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面外観を悪化させていることが分かった。
【0023】
本発明者らは、MnOの存在形態と合金化挙動の関係を詳細に調べた結果、内部酸化で分散したMnOを鋼板内部に生成させるか、Mnの表面酸化を抑制することができれば、合金化むらが低減でき、良好なめっき表面外観が得られるものと考えた。
【0024】
そこで、本発明者らは、焼鈍後の鋼板表面のMnOの存在形態に着目し、種々のMn量を含有する鋼板を、種々の酸素分圧下で焼鈍することにより製造し、合金化むらが発生した鋼板と合金化むらが発生していない鋼板の断面を、夫々走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すること、めっき後の鋼板の断面構造を観察すること、めっき層中のFe%の分析を行うことで、焼鈍後の鋼板表面のMnOの存在形態と合金化むらの発生の関係を明らかにすることに成功した。
【0025】
まず、本発明に用いる鋼材の成分限定理由について説明する。以下、各元素の含有量を%と記載するが、断りのない限り全て質量%を示す。
【0026】
C:0.02〜0.2%
Cは鋼の強度に大きく作用し、低温変態生成物の量や形態を変えることで、伸びや伸びフランジ性にも影響を与える。含有量が0.02%未満では自動車用の高強度の鋼板とすることができず、一方、0.2%を超えて添加すると溶接性の低下を招く。従って、Cの含有量は、その下限を0.02%、好ましくは0.04%とし、その上限を0.2%、好ましくは0.15%とする。
【0027】
Mn:2.0〜3.5%
Mnは強化元素であり、高強度を得るためと、加工性が非常に優れた高強度鋼板としての特性を得るためには、少なくとも2.0%以上添加することが必要である。一方、その含有量が多すぎると、伸びの低下、或いは炭素当量の増大があり、溶接性に悪影響を及ぼすため、3.5%以下とする必要がある。従って、Mnの含有量は2.0〜3.5%とする。
【0028】
Cr:0.03〜0.5%
Crは焼き入れ性を高め、組織強化を図る上で有効な元素である。また、Crはオーステナイト中にCを濃化させ、その安定度を高め、マルテンサイトを生成させやすくするだけでなく、酸化物を鋼板表面に形成することによって、めっき性にも影響を与える。その含有量が0.03%未満では、焼き入れ性の向上効果が期待できないので、その下限を0.03%とする。一方、0.5%を超えて添加しても焼き入れ性の向上効果が飽和し、コスト面では不利になるので、その上限を0.5%とする。また、0.3%を超えて添加した場合、めっき性を損ねるので、その上限は0.3%とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.15%
Alは製鋼段階での脱酸剤として有効な元素であるので、0.01%以上は添加する必要がある。しかしながら、その含有量が0.15%を超えると、表面性状を悪化させるばかりか、製造コストの上昇を招く。従って、Alの含有量は0.01〜0.15%とする。
【0030】
Si:0.04%以下(0%を含む)
Siはα層中の固溶C量を減少させることにより、伸びなどの加工性を向上させる元素である。但し、Siは鋼板表面に酸化皮膜を形成し、めっきの濡れ性を極端に劣化させる元素であるため、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的に不純物として混入することがある元素であるため、その上限を、悪影響を及ぼす最低限の0.04%とする。好ましくは、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0031】
P:0.03%以下(0%を含む)
Pは高強度鋼板を得るために有効な元素であるが、0.03%を超えるとめっきむらが生じやすくなり、また、合金化処理が困難になるので、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的不純物として混入することがある元素であるため、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0032】
S:0.03%以下(0%を含む)
Sは熱間圧延時の熱間割れの原因になるほか、スポット割れ性を著しく損なう元素である。鋼中で析出物として固定されるが、その含有量が増加すると、伸びや伸びフランジ性の劣化を招くので、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的不純物として混入することがある元素であるため、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0033】
また、本発明に用いる鋼材は、以上の元素のほかはFeと不可避的不純物で構成されるが、必要に応じて更に以下の元素を含有しても良い。
【0034】
Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%
CuとNiは鋼材自体の強度を向上させたり、めっき性を向上させたりすることができる有効な元素である。CuやNiは鋼材の主成分であるFeより酸化しにくいため、CuやNiが鋼材表面に濃化することにより、SiやMnの酸化物形態を変化させてめっき性の低下を防止することが可能になる。そのような効果を得ることを考慮すると0.003%以上の添加は必要ではあるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト高をもたらすため、Cuの場合、上限は0.5%、Niの場合、上限は1.0%とする。
【0035】
Ti:0.003〜1.0%
Tiは炭化物を形成し、鋼を高強度化するために有効な元素である。また、CやNを固定し、鋼板のr値を上昇させる効果もある。その効果を奏するためには、0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト上昇をもたらすため、その上限を1.0%とする。
【0036】
また、Cu、Ni、Tiは複合添加することで、鋼板表面の清浄度を向上させることができ、Feの溶解時に鉄の複合酸化物を形成して、めっき性を向上させる作用もある。従って、これらの元素を複合添加する場合は、単独で含有する場合の上下限も考慮して、合計で0.003〜1.0%とする。
【0037】
V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%
VとNbは共に炭化物を形成し、鋼を高強度化するために有効な元素である。その効果を奏するためには、夫々0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト上昇をもたらすため、夫々その上限を1.0%とする。
【0038】
B:0.0002〜0.1%
Bは溶接性を向上させると共に、焼入性を高める作用がある。その作用を効果的に発現させるには、0.0002%以上添加することが好ましい。しかし、過度に添加すると、これらの作用が飽和するだけではなく、延性が劣化し、加工性が低下するようになるので、その上限を0.1%とする。
【0039】
Mo:0.003〜1.0%
Moはめっき性を損なわずに、固溶強化を図る上で有効な元素である。その効果を奏するためには、0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、製造コストの上昇をもたらすため、その上限を1.0%とする。
【0040】
Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%
Caは介在物の形態を制御して、延性を高め、加工性を向上させる作用がある。その作用を効果的に発現させるには、0.0005%以上添加する必要がある。しかし、過度に添加すると、鋼中の介在物量が増加して延性が劣化し、加工性が低下するようになるので、その上限を0.005%とする。Mgも鋼中でCaと同様の働きをするが、その含有量は、Caと同様の理由で0.0005〜0.001%とする。
【0041】
前記した焼鈍後の鋼板表面のMnOの存在形態と合金化むらの発生の関係を検討結果から、本発明で述べる合金化むらの少ない良好な表面外観を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板とは、例えば、図2に示すように、鋼板1と溶融亜鉛めっき層2の界面の任意の直線上に、MnO粒子が平均10個/μm以下生成されていると共に、そのMnO粒子の列と鋼板1の間の界面上に、Fe−Al−O合金層が形成されており、そのFe−Al−O合金層の前記任意の直線上の長さの割合が、界面全長の10%未満である合金化溶融亜鉛めっき鋼板のことを示す。
【0042】
尚、溶融亜鉛めっき層と鋼板の界面の全てに亘って走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察することは過度の労力と時間を要し、実態に沿わず実質不可能であるので、観察領域は界面の一部であれば良い。しかしながら、観察領域が狭すぎると実際とかけ離れたデータが得られることになるので、最低でも界面の500μmの長さに亘り観察する必要がある。前記した界面全長とは、その界面の観察領域の長さのことを示す。
【0043】
また、図2に示されたFe−Al−O合金層の前記任意の直線上の長さの割合は、界面全長の10%未満ではないが、本発明を理解するために例示した図面であり、実際はFe−Al−O合金層の前記任意の直線上の長さの割合は、界面全長の10%未満である。例えば、この図2に示す領域が観察領域であり、図2の全横幅が界面全長、3箇所に別れたFe−Al−O合金層の合計の長さがFe−Al−O合金層の長さであり、Fe−Al−O合金層の長さ/界面全長×100を求めることにより、前記長さの割合を求めることができる。
【0044】
MnO粒子が鋼板の表面に生成されると、鋼板を亜鉛めっき浴に浸漬した際に、亜鉛めっき浴中のAlが、MnO粒子の酸素、および鋼板内部から拡散されるFeと瞬時に反応し、溶融亜鉛めっき層と鋼板の界面にはFe−Al−O層が形成される。その結果、Fe−Al−O合金層が障壁となり合金化処理時におけるFeの拡散の進行が阻害され、合金化むらを発生することになる。
【0045】
溶融亜鉛めっき層2と鋼板1の界面の任意の直線上に生成されたMnO粒子の平均個数は、10個/μm以下とすることが好ましい。10個/μmを超える場合は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の合金化むらがひどくなり、20個/μmを超える場合には、めっき濡れ性が更に悪化し、亜鉛めっき浴に浸漬した際に不めっきを起こし、溶融亜鉛めっき鋼板の製造そのものが不可能になる。より好ましいMnO粒子の平均個数は、5個/μm以下である。
【0046】
また、MnO粒子の列と鋼板1の間の界面上に形成されたFe−Al−O合金層の長さの割合は、界面全長の10%未満であることが好ましい。このFe−Al−O合金層の長さの割合が、10%以上である場合は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の合金化むらがひどくなり、表面外観が極めて悪くなるため、自動車用外板などの使用には適さない。より好ましいFe−Al−O合金層の長さの界面全長に対する割合は、5%未満である。
【0047】
溶融亜鉛めっき層2と鋼板1の界面の任意の直線上に生成されたMnO粒子の平均個数を10個/μm以下とし、且つ、MnO粒子の列と鋼板1の間の界面上に形成されたFe−Al−O合金層の長さの割合を界面全長に対して10%未満とするためには、焼鈍された鋼板1の表面に溶融亜鉛めっき層2を形成するめっき工程の前の焼鈍工程を、酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≧20を満たす条件下で実施すれば良い。更には、MnO粒子の平均個数を5個/μm以下とするためには、焼鈍工程を、酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≧23を満たす条件下で実施することが必要となる。
【0048】
以上、説明したように、MnO粒子の生成を抑制することで、亜鉛めっき浴中のAlが、このMnO粒子中の酸素と反応することが少なくなり、溶融亜鉛めっき層2と鋼板1の界面にFe−Al−O合金層が形成されにくくなるため、Fe−Al−O合金層がFeの拡散の障壁となることはなく、合金化処理時のFe拡散が問題なく進行する。その結果、合金化むらを引き起こすことなく、表面外観の優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一例を、その製造条件と共に説明する。
【0050】
まず、上記の成分を含有する鋼のスラブを熱間圧延した後、巻き取り、必要に応じて表面の酸洗を行った後、冷間圧延して下地鋼板(鋼板)を作製する。
【0051】
次に、連続式溶融亜鉛めっきラインにて下地鋼板の焼鈍を行う。例えば、この焼鈍工程での焼鈍温度は750〜900℃とし、焼鈍時間は200秒以内とする。また、この焼鈍工程は、雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)が、が、−log(PO)≧20を満たす条件で行う。
【0052】
焼鈍工程を終えた後、めっき工程での亜鉛めっき処理を行う。めっき浴としては、Alを0.05〜0.20質量%含有する溶融亜鉛めっき浴を用いる。本発明では、亜鉛めっき浴に浸漬する際の鋼板の板温は、溶融亜鉛めっき浴の温度と同等の440℃以上、480℃未満とする。この鋼板の亜鉛めっき浴への浸漬時間は、例えば5秒以内である。
【0053】
浸漬後の鋼板を亜鉛めっき浴から引き出し、その鋼板の表面に付着した亜鉛めっきの付着量を調整する。その調整は、例えばガスワイパーによって60±5g/mの適正量に調整する。
【0054】
このめっき工程終了後に、続いて、合金化処理工程での合金化処理を行って、溶融亜鉛めっき鋼板を合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。例えば、この合金化処理の処理温度は450〜600℃で、処理時間は60秒以内である。以上の工程を経ることにより、合金化むらが少なく、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
試験では、表1に示す成分組成の各種冷延鋼板を、100×250mmのサイズに加工し、溶融亜鉛めっきシミュレータを用いて、焼鈍、めっき、合金化処理という順を経ることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の試験片を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
まず、表1に示す成分組成の各種冷延鋼板の表面を酸洗することで清浄化した後、N−3%Hの雰囲気で焼鈍を行った。焼鈍条件については表2に示す。この焼鈍での焼鈍温度は750〜900℃の範囲とし、焼鈍時間は120秒とした。−log(PO)は、表2に示すように、焼鈍温度を750〜900℃の範囲とし、露点を−75〜0℃の範囲で変化させることで調整した。
【0059】
【表2】

【0060】
焼鈍後の鋼板を、Alを0.13質量%含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬することで、鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成した。尚、浸漬時の板温は460℃、浸漬時間は2秒間とした。亜鉛めっき層形成後、ガスワイパーにより、その亜鉛付着量を60g/mに調整して、溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。また、溶融亜鉛めっき浴の温度は、鋼板の板温と同一温度とした。
【0061】
合金化処理は、めっき処理の直後、めっきシミュレータ内で赤外線加熱炉を使用することで行った。合金化温度は550℃、合金化時間は10秒間とした。この試験では、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の試験片を用いて、合金化処理後の鋼板性状、合金化特性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
まず、合金化処理後の各試験片の中央より10mm角のサンプルを切り出して断面試料を作製した。亜鉛めっき層のFe含有量(質量%)は、SEM−EDXにより分析した。このFe含有量は、合金化の進行度合いを示し、含有量の多少で合金化むらを推測できる。Fe含有量が少ない場合は、合金化不足を生じ、Fe含有量が過剰な場合は、合金化過剰によるめっき剥離が発生する。
【0064】
合金化むらの発生状況の評価基準は、◎:合金化むらなし、○:合金化むらが面積率で10%未満発生、△:合金化むらが面積率で10%以上30%未満発生、×:合金化むらが面積率で30%以上発生とした。また、亜鉛めっき層が形成できなかった場合は、「不めっき」とした。◎と○を合格とする。
【0065】
次に、亜鉛めっき層と鋼板の界面に存在するMnO粒子、並びにFe−Al−O合金層の存在を確認するため、EPMAでMnおよびAlの濃化を測定し、MnおよびAlの濃化部の長さを測定した。この測定で、MnおよびAlの濃化を確認した上で、MnO粒子の個数、Fe−Al−O合金層の生成を確認した。その把握のため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の、亜鉛めっき層と鋼板の界面を含む500μmの長さ領域から、5μm×5μmの断面のサンプルをFIBマイクロサンプリング法を用いてランダムに採取した。そのサンプルをFIB加工により約0.1μmの厚さに加工して試験での観察に用いる試料とした。
【0066】
この試料を、TEM(装置名:JEM−2010F)/HAADF(装置名:EM−24015BU)、加速電圧200kVを用いて観察し、MnO粒子の個数、Fe−Al−O合金層の長さの界面全長に対する割合を確認した。
【0067】
試験No.1、2、4、5、9〜12、14、15、17、20〜25、27、30〜40は、溶融亜鉛めっき層と鋼板の界面の任意の直線上に生成されたMnO粒子の平均個数は10個/μm以下であり、MnO粒子の列と鋼板の間の界面上に形成されたFe−Al−O合金層の長さの界面全長に対する割合は10%未満である。従って、これらは全て本発明の実施例である。これらの実施例では、合金化むらの発生は全て10%未満の合格範囲であり、合金化むらが少なく、表面外観に優れたものであった。
【0068】
これに対し、試験No.3、6〜8、13、16、18、19、26は、溶融亜鉛めっき層と鋼板の界面の任意の直線上に生成されたMnO粒子の平均個数は10個/μm超〜20個/μmであり、MnO粒子の列と鋼板の間の界面上に形成されたFe−Al−O合金層の長さの界面全長に対する割合は10%以上である。これらの比較例では、試料を亜鉛めっき浴に浸漬した際に、亜鉛めっき浴中のAlが試料表層のMnO粒子の酸素、および試料内部から拡散したFeと瞬時に反応してFe−Al−O合金層が界面の広い範囲に形成され、合金化処理時のFeの拡散の進行が阻害され、合金化むらを発生したと考えられ、表面外観が悪かった。
【0069】
また、試験No.28、29は、溶融亜鉛めっき層と鋼板の界面の任意の直線上に生成されたMnO粒子の平均個数が20個/μm超であった。これら比較例では、めっき濡れ性が更に悪化し、亜鉛めっき浴に浸漬した際に不めっきを起こし、溶融亜鉛めっき鋼板の製造そのものが不可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造過程で、合金化むらが発生するメカニズムを示す説明図であって、(a)は鋼板の表面にMnOが大量に生成した状態を示す鋼板の縦断面図、(b)は鋼板と亜鉛めっきの界面にFe−Al−O合金層が形成された状態を示す鋼板の縦断面図、(c)はFe−Al−O合金層がFeの拡散障壁となり合金化むらを引き起こす状況を示す鋼板の縦断面図である。
【図2】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の一実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1…鋼板
2…溶融亜鉛めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.02〜0.2%、Mn:2.0〜3.5%、Cr:0.03〜0.5%、Al:0.01〜0.15%、Si:0.04%以下(0%を含む)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼板に、溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理して成る合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記溶融亜鉛めっき層と前記鋼板の界面の任意の直線上に、MnO粒子が平均10個/μm以下生成されていると共に、
前記MnO粒子の列と前記鋼板の間の前記界面上に、Fe−Al−O合金層が形成されており、
前記任意の直線上において、前記Fe−Al−O合金層の長さが、前記界面全長の10%未満であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%、Ti:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を、合計で0.003〜1.0%含有することを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、更に、質量%で、V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%、B:0.0002〜0.1%、Mo:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%からなる群から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≧20を満たす条件で前記鋼板の焼鈍を行う焼鈍工程と、
焼鈍された前記鋼板の表面に前記溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、
前記溶融亜鉛めっきが形成された前記鋼板を合金化処理する合金化処理工程を含むことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18874(P2010−18874A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182910(P2008−182910)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】