説明

吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物

【課題】建物の梁部材を大スパン化でき、また地震応答低減効果に優れた複合構造建物を提供する。
【解決手段】
建物10の外殻を形成する外周フレーム12の頂部に両端部が支持されるとともに、端部近傍に第1の張弦材23の方向転換部22が設けられ、両端が下部定着部から外周フレーム12に沿って張設され、方向転換部22で方向転換された張弦材23が長手方向に沿って張設された第1の上弦梁21と、張弦材23と梁21との間に配置され、張弦材23と梁21とを所定高さ分だけ離隔させる束材24とを備えた頂部張弦梁20と、張弦材23に両端部が定着支持されるとともに、端部近傍に張弦材23の方向転換部32が設けられ、頂部張弦梁20と同様の構成部材からなる中間層張弦梁30,40と、梁間方向に配設された中間張弦梁30,40に支持された吊り床部36,46とを備え、着目する中間張弦梁より下層位置で張弦材を介して吊持された吊り床部の荷重が、各中間張弦梁の引張材の張力として導入されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物に係り、張弦梁に張設された引張材の張力を、下層に構築される床を吊り構造とすることで、床部重量を導入張力として導入するようにした複合構造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の屋根を大スパン化が可能な構造形式として、梁部材の下部に束材を介して引張材を取り付けた構造形式、いわゆる張弦梁構造が知られている。この張弦梁構造は、梁部材が持つアーチ効果や、引張材が持つサスペンション効果が期待できる。そのため、張弦梁構造は、ホールや体育館等の大空間を形成する際に採用されている。
【0003】
一方、地震応答低減効果や、地震エネルギーの吸収効果の向上等を目的として、吊構造からなる種々の構造物が提案されている。例えば、特許文献1には、コンクリート造の高剛度のスーパーウォール上に、高剛度のトラス梁を架設し、このトラス梁が吊り材を介して下層の床スラブを吊持した構造物が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−322827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の張弦梁が組み込まれた構造物では、構造物のフレームに反力を取って引張材に張力を導入していた。そのため、構造物のフレームが剛強なものになりやすく、張弦梁構造を複数層からなる構造物に適用することは難しかった。
【0006】
また、特許文献1に開示された発明は、吊持した下層の床スラブの重量に対して、スーパーウォール上に架設されたスーパートラス(トラス梁)で支持させるため、トラス梁はかなり剛強なものとなっていた。そのため、トラス梁を製作するために多量の鋼材が必要となり、製作コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、複数層からなる建物の梁部材を大スパン化した床部を構築することができ、また、従来の構造形式と比べて梁部材の製作コストを低減することができる、吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、建物の外殻を形成する外周フレームと、該外周フレーム頂部に両端部が支持されるとともに、端部近傍に引張材の方向転換部が設けられ、両端が下部定着部から前記外周フレームに沿って張設され、前記方向転換部で方向転換された引張材が長手方向に沿って張設された梁部材と、前記引張材と前記梁部材との間に配置され、その配置位置で前記引張材と梁部材とを所定高さ分だけ離隔させるように立設された束材とを備えた頂部張弦梁と、前記引張材に両端部が定着支持されるとともに、端部近傍に引張材の方向転換部が設けられ、両端が下部定着部から前記外周フレームに沿って張設され、前記方向転換部で方向転換された他の引張材が長手方向に沿って張設された梁部材と、前記他の引張材と前記梁部材との間に配置され、その配置位置で前記引張材と梁部材とを所定高さ分だけ離隔させるように立設された束材とを備えた中間層張弦梁と、梁間方向に配設された前記中間張弦梁に支持された吊り床部とを備え、前記吊り床部が前記外周フレーム内で所定層を構成するとともに、着目する中間張弦梁より下層位置で前記引張材を介して吊持された前記吊り床部の荷重が、各中間張弦梁の引張材の張力として導入されるようにしたことを特徴とする。
【0009】
前記頂部張弦梁は、前記外周フレームの頂部で単純支持することが好ましい。
【0010】
前記中間張弦梁は、前記外周フレームと制震部材を介して連結することが好ましい。
【0011】
前記頂部張弦梁または中間張弦梁は、前記外周フレームに方杖部材を介して支持することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、複数層からなる建物の梁部材を大スパン化した吊り床部を構築することができ、また、従来の構造形式と比べて梁部材の製作コストを低減することができるようにした吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物を示した、地上3階、地下1階建の立面図である。また、図2は、図1中の矢視II−IIで示した断面図である。
【0014】
図1には、建物10のうち、建物10を地盤に支持させた基礎盤11と、基礎盤11に立設され建物10の外殻を形成する外周フレーム12と、外周フレーム12の頂部に、奥行き方向に所定間隔で配置され単純支持され、屋根部26を支持する第1の張弦梁20と、建物10の各層(本実施例では2階、3階)の床部36,46を支持する第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40と、建物10の1階床56を支持する下層梁50とが示されている。
【0015】
基礎盤11は、例えば、直接基礎構造からなり、建物10全体の荷重は、下方の支持地盤に直接伝達される。外周フレーム12は、図2に示すように、所定間隔で配置された柱12aと、柱12a間を塞ぐ壁体12bとで構成され、主構造として建物10の外殻を形成している。また、図1に示すように、外周フレーム12の頂部には、頂部張弦梁としての、複数本の第1の張弦梁20が架設され、梁の各支持点となる位置に、相対して固定支承13と可動支承14とが配設されている。これらの支承により、各第1の張弦梁20は単純支持されている。このように、各第1の張弦梁20は単純支持されることで、第1の張弦梁20には地震荷重によるモーメントが発生しないようになっている。
【0016】
第1の張弦梁20は、図1に示すように、第1の上弦梁21と、第1の方向転換部22と、第1の張弦材23と、第1の束材24とで構成されている。
【0017】
第1の上弦梁21は、例えば、鉄筋コンクリート造で、建物10の骨組の頂部を構成し、屋根面を支持するとともに、後述するように、第2の張弦梁30、第3の張弦梁40、及び下層梁50を吊持した第1の張弦材23から受ける鉛直力を負担する。
【0018】
第1の方向転換部22は、第1の張弦材23の張設方向を転換するためのもので、第1の上弦梁21の下方の両端近傍に取り付けられている。第1の方向転換部22は、例えば、円柱形状ピンや回転ローラ等のように、第1の方向転換部22に第1の張弦材23が掛け渡された際に、張弦材23の滑らかな方向転換及び移動を実現する部材からなる。
【0019】
第1の張弦材23は、例えば、鋼線の素線を束ねてなる所定引張強度を有する断面を有するワイヤロープ、ストランド等の柔軟なケーブル状部材から構成されている。第1の張弦材23は、図1に示すように、第1の張弦梁20に形成された第1の方向転換部22に掛け渡され、第1の方向転換部22の形成位置でその張設方向が下方に切り替えられている。第1の張弦梁20の下方に形成されている第2の張弦梁30、第3の張弦梁40、及び下層梁50が、それぞれの構築位置で、下方に向けて張設された第1の張弦材23に定着具15を介して吊持されている。これにより、第1の張弦材23には、第2の張弦梁30、第3の張弦梁40、及び下層梁50が負担する各層の床重量の負担荷重が作用し、張弦材に軸方向の所定の張力として導入される。第1の張弦材23が吊持する梁の本数は、各層の吊り床重量と、第1の張弦材23に導入すべき張力等を配慮して適切に設計することが重量である。
【0020】
第1の束材24は、両側の第1の方向転換部22間の梁スパン内において所定間隔をあけて、第1の上弦梁21と第1の張弦材23との間に配設されている。第1の束材24は、圧縮力に対して所定の座屈強度が確保された型鋼等が用いられ、図に示すように第1の上弦梁21と第1の張弦材23との所定高さを確保するように配設されている。これにより、方向転換部22から最初の第1の束材24配置位置までの間で、第1の張弦材23は所定高さ分だけ下方に向くため、導入された張力の鉛直方向分力が生じ、その鉛直方向分力が束材24に第1の上弦梁21を押し上げる上方向き圧縮力として作用する。このように、第1の張弦材23は、図1において、支承13,14に加えて、さらに3箇所の束材24位置で支持されることとなる。これにより、第1の張弦材23は、支承13,14間を大きくとった大スパン梁として設計することができる。
【0021】
上述した頂部張弦梁に対して、外周フレーム内には、吊り床構造を支持するための中間張弦梁が設けられている。本実施の形態では、吊り床部36,46が2層設けられ、それぞれの吊り床部は中間張弦梁によって支持されている。本実施の形態では、それぞれの中間張弦梁を第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40と記して、以下の説明を行うが、吊り床部の層数nに応じて第nの張弦梁までを配置できることはいうまでもない。以下、第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40について説明する。
第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40は、頂部張弦梁としての第1の張弦梁20の下方に、同様の構成を備えて設置されている。中間張弦梁としての第2の張弦梁30は、第2の上弦梁31と、第2の方向転換部32と、第2の張弦材33と、第2の束材34とを備えている。同様に、第3の張弦梁40は、第3の上弦梁41と、第3の方向転換部42と、第3の張弦材43と、第3の束材44とを備えている。これにより、第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40においても、第1の張弦梁20と同様に、第2の束材34,第3の束材44の支持機構としての作用を期待できる。
【0022】
すなわち、第2の張弦材33は下層の吊り床部46を支持する第3の張弦梁40を吊持し、また、第3の張弦材43は1階床56を支持する下層梁50を吊持することで、それぞれの張弦材には、吊り床重量が所定の張力として導入されている。これにより、第2の張弦材33は、第2の束材34を介して第2の上弦梁31を押し上げ、また、第3の張弦材43は、第3の束材44を介して第3の上弦梁41を押し上げる作用を奏する。
【0023】
また、第2の張弦梁30及び第3の張弦梁40は、図1及び図2に示すように、制震ダンパ16を介して外周フレーム12に連結されている。制震ダンパ16は、例えば、オイルダンパや低降伏点鋼からなる摩擦ダンパから構成され、建物10に入力された地震力を吸収して建物10の振動の低減する制震機能を果たす。
【0024】
下層梁50は、例えば、鉄筋コンクリート造で、基礎盤11との間に配設された支持柱51により支えられている。支持柱51の一方の端部は基礎盤11とピン結合され、また他方の端部は下層梁50とピン結合されている。そのため、支持柱51には鉛直力のみが作用し、下層梁50に軸力を発生させることはない。また、下層梁50は、制震ダンパ16を介して外周フレーム12に連結されており、建物10に入力された地震力を吸収して、建物10の振動の低減が図られている。
【0025】
ところで、第1の張弦梁20、第2の張弦梁30、及び第3の張弦梁40(本段落では、3種類の張弦材を合わせて記載する場合は単に張弦梁とする。方向転換部、張弦材、及び後述する方杖ブレースの記載も同様とする。)は、それぞれに設けられた方向転換部を介して張弦材から下方に向けて鉛直力を受けることとなる。この張弦梁に作用する鉛直力に対して、別途設置した方杖ブレースに負担させて張弦梁に発生する断面力の低減を図ってもよい。方杖ブレースは、図1に示すように、第1の張弦梁20を支持する第1の方杖ブレース25と、第2の張弦梁30を支持する第2の方杖ブレース35と、第3の張弦梁40を支持する第3の方杖ブレース45とから構成されている。方杖ブレースは、外周フレーム12から突出した斜材で、その先端には、張弦梁を受けるための支承が設置されている。そして方杖ブレースは、張弦梁に設けられたそれぞれの方向転換部の近傍で張弦梁を受けている。これにより、方杖ブレースによる支点間の張弦梁の断面力(特にせん断力)を低減することができ、張弦梁の小断面化を図ることができる。
【0026】
以上のように、本発明の実施形態に係る吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物により、次のような効果を得ることができる。
(1)梁と張弦材との間に設けられた束材が梁を押し上げること(いわゆるサスペンション効果)により、梁に発生する断面力の低減を図ることができる。そのため、構造物を構成する梁の大スパン化が可能となる。
(2)構造物の頂部に設けられた張弦梁は、外周フレームの頂部に設置された支承により単純支持されているため、地震荷重によるモーメントが作用しない。そのため、張弦梁に発生する断面力の低減を図ることができる。さらに、上述したサスペンション効果により、従来の吊構造の構造物に採用されていた梁と比べ、梁断面を小断面化することが可能となる。その結果、構造物の頂部に設けられた梁の製作コストを低減することができる。
(3)上述したように張弦材に作用する張力は、この張弦材が張設され、その梁よりも下層の吊り床荷重を負担する梁を吊持することで導入される。そのため、従来の張弦梁構造のように張弦材に導入された張力を処理するための剛強な外周フレームを必要とすることはない。そのため、複数層からなる建物の梁部材にも張弦梁構造を採用することが可能となる。
(4)また、張弦材に吊持された張弦梁は、張弦材へ導入された張力だけ、負担荷重が減少するため、従来の張弦梁構造の梁と比べ、吊持された吊り床を支持する各梁(張弦材や下層梁)の断面寸法を小さくすることが可能となる。
(5)中間層の吊り床部材を支持する各梁(第2、第3の張弦梁、及び下層梁)が、制震ダンパを介して外周フレームに連結されているため、地震による水平方向の振動を吸収する。そのため、耐震効果も十分に発揮可能な構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物の立面図。
【図2】図1中の矢視II−IIで示した断面図。
【符号の説明】
【0028】
10 建物
11 基礎盤
12 外周フレーム
12a 柱
12b 壁体
13 固定支承
14 可動支承
15 定着具
16 制震ダンパ
20 第1の張弦梁(頂部張弦梁)
21 第1の上弦梁
22 方向転換部
23 第1の張弦材(引張材)
24 第1の束材
25 第1の方杖ブレース
26 屋根部
30 第2の張弦梁(中間張弦梁)
31 第2の上弦梁
32 方向転換部
33 第2の張弦材(引張材)
34 第2の束材
35 第2の方杖ブレース
36 吊り床部
40 第3の張弦梁(中間張弦梁)
41 第3の上弦梁
42 方向転換部
43 第3の張弦材(引張材)
44 第3の束材
45 第3の方杖ブレース
46 吊り床部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外殻を形成する外周フレームと、
該外周フレーム頂部に両端部が支持されるとともに、端部近傍に引張材の方向転換部が設けられ、両端が下部定着部から前記外周フレームに沿って張設され、前記方向転換部で方向転換された引張材が長手方向に沿って張設された梁部材と、前記引張材と前記梁部材との間に配置され、その配置位置で前記引張材と梁部材とを所定高さ分だけ離隔させるように立設された束材とを備えた頂部張弦梁と、
前記引張材に両端部が定着支持されるとともに、端部近傍に引張材の方向転換部が設けられ、両端が下部定着部から前記外周フレームに沿って張設され、前記方向転換部で方向転換された他の引張材が長手方向に沿って張設された梁部材と、前記他の引張材と前記梁部材との間に配置され、その配置位置で前記引張材と梁部材とを所定高さ分だけ離隔させるように立設された束材とを備えた中間層張弦梁と、
梁間方向に配設された前記中間張弦梁に支持された吊り床部と、を備え、
前記吊り床部が前記外周フレーム内で所定層を構成するとともに、着目する中間張弦梁より下層位置で前記引張材を介して吊持された前記吊り床部の荷重が、各中間張弦梁の引張材の張力として導入されるようにしたことを特徴とする吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物。
【請求項2】
前記頂部張弦梁は、前記外周フレームの頂部で単純支持されたことを特徴とする請求項1に記載の吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物。
【請求項3】
前記中間張弦梁は、前記外周フレームと制震部材を介して連結されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物。
【請求項4】
前記頂部張弦梁または中間張弦梁は、前記外周フレームに方杖部材を介して支持されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吊り床及び張弦梁とからなる複合構造建物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1602(P2010−1602A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158766(P2008−158766)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】