説明

吊下げ具、吊下げ装置及び建物の開口部構造

【課題】窓枠の斜め上方の景色を眺める者の視界に占める領域を可及的減じ、建物の外観意匠を保全する。
【解決手段】吊下げ具1は、長尺状に形成されるアーム2aと、該アーム2aの先端に設けられて被吊下げ物を吊り下げるフック部2bとを備えるフック部材2と、該フック部材2のアーム2aを水平とした状態で軒22に支持する支持部材3とを備える。支持部材3には、フック部2bを建物の開口部から離隔させた使用姿勢と、フック部2bを開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材2の姿勢を変形させる姿勢変形機構8が設けられている。また、支持部材3に、筒体5と軒22の底板22aとの間に介在してフック部材2のフック部2bに被吊下げ物30を吊り下げることで筒体5から底板22aに作用する荷重を緩衝させる荷重分散部材6が設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の窓前に簾(すだれ)や緑化用ネット等を吊り下げるための吊下げ具、吊下げ装置及び建物の開口部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の窓等の開口部を簾や日除け等のスクリーンによって覆うために、当該開口部よりも室外側にこれらスクリーンを吊り下げ可能な吊下げ装置を設ける構成が知られている。この種の吊下げ装置は、開口部から所定間隔離隔した位置に設けられており、これによって、スクリーンを開口部からやや離した位置に設けて該スクリーンと開口部との間に通風空間を設けることができると共に、該スクリーンをロール状に巻き上げる場合にも開口部との干渉を防止することができるものとなっている。例えば特許文献1には、窓枠の化粧枠を形成する左右の縦部材の上端部にタッピングビスを介してそれぞれ留め付けられるフックを備える吊下げ装置が開示されている。該フックは窓面よりも僅かに室外側に突出している構成であるが、当該フックを縦部材から突出するアーム先端に設けることにより、上述の如く窓との間にある程度の間隔を空けてスクリーンを吊り下げることができるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−218566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フックを上述のごとくアームの先端に設ける構成においては、該アームの基端部をタッピングビスを介して窓枠の左右の縦部材に留め付ける態様となっているため、スクリーン等を吊り下げない降雨時や冬季等の時期においてもアームが窓枠から突出した状態が維持されることとなり、これによって、空模様や夜景等といった窓枠の斜め上方の景色を室内から見上げる者の視界の一領域を占めることとなって当該景色を充分に楽しむことができないという問題があるばかりでなく、建物の外観のノイズとなって当該建物の意匠性を損なう虞もあった。
【0005】
そこで、本発明は、窓枠の斜め上方の景色を眺める者の視界に占める領域を可及的減じることができると共に、建物の外観意匠を保全することができる吊下げ具及び吊下げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。従来、開口部前に簾等のスクリーンを吊り下げる装置として提案されている発明においては、簾等のスクリーンを開口部前に設置するために開口部から外側に離隔させた使用姿勢を持つ装置を必要とする、という原則的な共通点を見出すことができる。また、離隔距離としては、スクリーンを巻き上げたとき、ロール状となった当該スクリーンが開口部に緩衝しない程度の距離が必要である。特許文献1のごとく窓横の窓の縦枠や化粧カバーにアームを取り付けるという構成はこのような課題を解決しうる基本的な手段ではあるものの、上記した問題があり、さらに、1)その装置の取り付けは工具を必要とし、専門家でなければ難しい 2)開口部の両サイドにアームが設置されるため、必ず簾やスクリーン等と他に棹を掛ける必要がある といった問題もある。これらの問題に着目しつつ、開口部前面に一定の離隔を確保しながら簾等のスクリーンを覆うことができ、取り付けが容易で、不要な時に意匠上好ましい状態に容易に変更できる構造について検討を重ねた本発明者は、課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0007】
(1)本発明はかかる知見に基づくもので、建物の外壁に形成される開口部上部に設けられる軒に取付けられて該開口部の前に設けられる被吊下げ物を吊り下げ可能な吊下げ具であって、長尺状に形成されるアームと、該アームの先端に設けられて前記被吊下げ物を吊り下げるフック部とを備えるフック部材と、該フック部材のアームを水平とした状態で前記軒下に支持する支持部材とを備え、前記支持部材には、前記フック部を前記開口部から離隔させた使用姿勢と、前記フック部を前記開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材の姿勢を変形させる姿勢変形機構が設けられていることを特徴としている。
【0008】
これによれば、姿勢変形機構によりフック部材の姿勢を変形させることができるため、フック部に被吊下げ物を吊下げる場合にはフック部材を使用姿勢に設定することで、フック部を開口部から離隔させた状態にすることができ、当該フック部に被吊下げ物を吊下げることができる。また、フック部材を収容姿勢とすることで、フック部を開口部に近接させた状態(軒に沿った状態)とすることができ、フック部材の開口部から外側への突出量を著しく減じることができる。これによって、室内から見上げるようにして開口部よりも斜め上方の景色を眺める者の視界の一領域をフック部材が占めないようにすることができる。
【0009】
(2)また、前記姿勢変形機構は、前記軒の底板に対し垂直状に突出する軸部材と、前記フック部材の基端部を支持すると共に前記軸部材に回転可能に嵌合する筒体とを備えていることが好ましい。
【0010】
これによれば、筒体を軸部材の軸廻りに回転させることができ、該筒体に取付けられているフック部材も軸部材の軸廻りに回転させることができる。このため、該フック部材を回転させるだけで、容易に当該フック部材を使用姿勢と収容姿勢の間でその姿勢を変更することができるものとなる。
【0011】
(3)また、前記支持部材に、前記筒体と軒の底板との間に介在して前記フック部材のフック部に前記被吊下げ物を吊り下げることで前記筒体から底板に作用する荷重を分散させて当該底板に伝える荷重分散部材が設けられていることが好ましい。
【0012】
これによれば、フック部に被吊下げ物が吊り下げられることにより、筒体に大きなモーメントが作用することとなるが、当該モーメントに起因して底板を押圧する押圧力は荷重分散部材を介して底板に伝達されることとなり、該押圧力が軒の局部に集中するのを回避して当該圧力を著しく分散させることができる。この結果、フック部に被吊下げ物を吊下げることに起因する軒の損傷を防止することができる。
【0013】
(4)また、上記課題解決のための他の具体的手段として、本発明に係る吊下げ装置は、建物の外壁に形成される開口部上部に設けられる軒と、該軒に取付けられて該開口部の前に設けられる被吊下げ物を吊り下げ可能な吊下げ具とを備え、前記吊下げ具は、長尺状に形成されるアームと、該アームの先端に設けられて前記被吊下げ物を吊り下げるフック部とを備えるフック部材と、該フック部材のアームを水平とした状態で前記軒下に支持する支持部材とを備え、前記支持部材には、前記フック部を前記開口部から離隔させた使用姿勢と、前記フック部を前記開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材の姿勢を変形させる姿勢変形機構が設けられ、前記支持部材と軒には、前記開口部に沿ってフック部材をスライド可能なスライド機構が設けられていることを特徴としている。
【0014】
これによれば、フック部材の突出量を調節することができることはもちろん、当該フック部の開口部に対する相対位置を変更することができる。これによって、吊下げ具が視界の妨げになる場合には当該吊下げ具をスライドさせて視界から外すことができるばかりでなく、被吊下げ物を吊下げる場合であっても当該被吊下げ物の開口部に対する位置を任意に設定することができる。また、被吊下げ物が簾等の開口部を覆うスクリーンである場合、当該スクリーン側にフック部を引っ掛け可能な引っ掛け部が設けられる場合があるが、当該引っ掛け部の位置はスクリーンの種類によって様々である。本発明によれば、フック部材を開口部に沿って平行移動させることができるため、このような夫々異なる位置に引っ掛け部を有する多様な被吊下げ物のいずれにも対応することができる。
【0015】
(5)また、前記スライド機構は、前記軒の底板に形成されて前記開口部に沿うレールと、前記支持部材に設けられて前記レールに嵌合する嵌合部材とを備えていることが好ましい。
【0016】
これによれば、支持部材をレールに沿って移動させることができ、容易にフック部材の位置を変更することができる。
【0017】
(6)前記レールは、少なくとも前記支持部材の軸体の幅よりも大きい隙間を有して互いに対向する一対のレール片を備えると共に、当該隙間よりも大きい幅を有して設けられる導入部を備え、前記嵌合部材は、前記軸体に係合した状態で一対のレール片の表面に当接する当接部と、該当接部との間に少なくとも前記一対のレール片の厚さに等しい間隔を設けて前記軸体に係合する係合片を備え、該係合片は、前記導入部よりも小さい幅を有すると共に前記一対のレール片の隙間よりも大きい幅を有して形成されていることが好ましい。
【0018】
これによれば、当該係合片を導入部に差し入れた状態で当接部をレールに向けて移動させることで、当接部が一対のレール片の表面に当接し、且つ、係合片が一対のレール片の裏面に当接した状態で、軸体が一対のレール片の間に位置することとなる。この結果、支持部材の軸体は、一対のレール片を狭持する当接部と係合片とによって姿勢を維持されると共に一対のレール片によって移動を案内されることとなり、当該一対のレール片に沿って軸体を移動させることで筒体及びフック部材を移動させることができるのである。
【0019】
(7)さらに、前記軸体の外周面には雄螺子が形成され、前記係合片には、内周に雌螺子を備えた螺合部が形成されていることが好ましい。
【0020】
これによれば、軸体に係合片を螺合させることができる。したがって、上記一対のレール片の間に軸体を位置付けた状態で係合片に軸体を締め付けることにより、当接部と係合片との間の間隔を狭めて一対のレール片をこれら当接部と係合片とできつく挟み込んで支持部材全体を当該位置で固定することができる。同様に、係合片と軸体とを緩めることにより、支持部材の固定状態を緩め、再びレールに沿って支持部材を移動させることができることとなる。
【0021】
(8)さらに、上記課題解決のための他の具体的手段としては、建物の開口部構造において、上述の如き吊下げ装置を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、窓枠の斜め上方の景色を眺める者の視界に占める領域を可及的減じることができると共に、建物の外観意匠を保全することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示す図で、軒の底板および当該底板に取り付けられた吊下げ具の下方から見上げた斜視図である。
【図2】吊下げ具の上方からの斜視図である。
【図3】吊下げ具の嵌合部材およびその付近を拡大して示す図である。
【図4】軒(アルミサッシ外枠上方の小庇部材)および当該軒の底板に取り付けられた使用姿勢時の吊下げ具の側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す、別形状の軒(シャッターボックス)の底板および当該底板に取り付けられた吊下げ具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1〜図5に本発明にかかる吊下げ具及び吊下げ装置の実施形態を示す。本発明にかかる吊下げ具1は、建物20の外壁にアルミサッシ外枠により形成される窓等の開口部21の上部に設けられる軒22がある場合に、当該軒22に取付けられて該開口部21の前に設けられる被吊下げ物30を吊り下げ可能な器具である。被吊下げ物30には、例えば簾や日除け等のスクリーンのような巻き上げ可能なものや、窓前を緑化すべく当該窓前に設けられる緑化用ネット等がある。本実施形態の吊下げ具1は、フック部材2と、支持部材とを備えており、さらに、フック部材2の姿勢を変形させるための姿勢変形機構8が設けられた構成となっている。
【0026】
なお、本実施形態において、「軒」とは、窓等の開口部の上方に庇状に突出するものであて、屋根により形成される軒はもちろん、窓前に突出する小庇部材やシャッターボックスを含む。
【0027】
ここで、本実施形態では、軒22の一例として、開口部21としてのアルミサッシ外枠製の窓の上方に設置される小庇部材が採用されている。該小庇部材に軒22は、軒裏を形成する底板22aを有し、上述の開口部に沿うレール23が当該底板22aに形成されている。このような軒22は例えば押出し成形によって製造されるもので、当該レール23には、所定の幅を有する隙間を有して互いに対向する一対のレール片24が形成されている(図1参照)。一対のレール片24は、互いを向くように内側に折れた断面形状となっている(図4参照)。また、レール23の途中には、一対のレール片24の間隔よりも大きい幅を有する導入部25が形成されている(図1参照)。本実施形態の吊下げ装置10においては、吊下げ具1の一部(具体的には後述する嵌合部材7の係合片7b)をこの導入部25に差し入れ、レール23に沿って移動させることによって当該吊下げ具1を軒22に引っ掛けた状態とすることが可能な構造となっている。
【0028】
フック部材2は、アーム2aとフック部2bとを備えている(図2等参照)。アーム2aは例えば断面が縦長矩形の板状の長尺部材からなるが、例えば上下方向に湾曲しているなど、直線的でない形状のアーム2aとすることもできる。また、アーム2aの先端付近には、被吊下げ物の一部を直接、または紐等を介して間接的に吊り下げるための切り込みからなるフック部2bが形成されている。フック部2bの下端付近は、丸めた形状とされる等、鋭利にならないような処理が施されている。なお、図4では先端に向かって斜めに切り込まれた形状のフック部2bを示しているがこれは一例にすぎず、必要に応じてフック部2bの切り込み形状を適宜変更することができる。
【0029】
支持部材3は、フック部材2のアーム2aを水平とした状態で軒下に支持する部材である。この支持部材3には、フック部2bを開口部21から離隔させた使用姿勢と、フック部を開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材2の姿勢を変形させるための姿勢変形機構8が設けられている。例えば本実施形態では、ボルトとナットとを螺合させたときの締結力を利用した機構によって姿勢変形機構8を構成している。
【0030】
具体的に説明すると、本実施形態の姿勢変形機構8は、軒22の底板22aに対して略垂直状に突出する軸部材4と、例えば溶接によって一体化されたフック部材2の基端部2cを支持する筒体5とを備えた機構として構成されている。軸部材4は、例えば雄螺子(軸体)4aと頭部(つまみ)とを一体化したボルト等で構成することができる(図4等参照)。雄螺子(軸体)4aの径は、レール23のレール片24の隙間よりも小さい。また、この軸部材4の雄螺子(軸体)4aは筒体5に挿通され、当該筒体5を回転可能な状態で支持している(図2等参照)。これら軸部材4や筒体5はその外観に美的処理が施されたものであることが好ましい。例えば本実施形態では、軸部材4の頭部の径と筒体5の径とを等しくし、さらに同じ表面仕上げとすることによって、使用姿勢と収容姿勢のいずれにおいても一体感が感じられる外観としている。
【0031】
また、軸部材4の頭部(つまみ)に座を設け、当該頭部と筒体5の間にワッシャー4bを介在させることも好ましい(図4参照)。本実施形態においては、スプリングワッシャー(ばね座金)をこのワッシャー4bとして用い、軸部材4の頭部(つまみ)の緩み止めとして機能させている。さらに、当該ワッシャー4bが外部から見えなくなる構造とし、軸部材4の頭部と筒体5との一体感を向上させるようにしてもよい。本実施形態では、軸部材4の頭部(つまみ)に、ワッシャー4bを収容可能な程度の深さの環状凹部4cを形成している(図4参照)。もちろん、この凹部4bは筒体5にのみ形成されていてもよいし、ワッシャー4bの厚みの半分程度の深さの溝が軸部材4の頭部と筒体5のそれぞれに設けられることによって形成されていてもよい。
【0032】
軸部材4の先端には、軒22のレール23に嵌合した状態となる嵌合部材7が設けられている(図3等参照)。例えば本実施形態の嵌合部材7は、軸体4aに係合した状態で一対のレール片24の表面に当接する当接部7aと、該当接部7aとの間に少なくともレール片24の厚さに等しい間隔を設けて軸体4aに係合する係合片7bとを備えた構成となっている(図3参照)。当接部7aは、例えば矩形状に形成された板状部材からなる。係合片7bは、レール23の導入部25よりも小さい幅を有すると共に、レール23から抜け落ちないように当該レール片24の隙間よりも大きい幅を有するように例えば矩形状に形成されている。また、係合片7bには、当接部7aとは逆側に突出するボス7dが形成され、このボス7dおよび当該係合片7bの内側には、軸体4aの雄螺子との螺合部(雌螺子)7cが形成されている(図3参照)。
【0033】
このように、レール23と、該レール23に嵌合する嵌合部材7とで、吊下げ具1をスライドさせて位置変更を可能とするためのスライド機構9が構成されている。このような嵌合部材7を備えた吊下げ装置10においては、係合片7bを導入部25に差し入れた状態で当該嵌合部材7をレール23へ向けて移動させることで、当接部7aが一対のレール片24の表面に当接し、さらに、係合片7bが一対のレール片24の裏面に当接した状態で、軸体4aが一対のレール片24の間に位置する(図4等参照)。こうした場合、支持部材3の軸体4aは、一対のレール片24を狭持する当接部7aと係合片7bとによってその姿勢が維持され、さらに、一対のレール片24によってレール溝方向に案内される。したがって、当該一対のレール片24に沿って軸体4aを移動させることにより、筒体5およびフック部材2を任意の位置までスライドさせることができ、フック部材2の位置を容易に変更することができる。
【0034】
また、支持部材3は、フック部材2のフック部2bに被吊下げ物30を吊り下げた際に筒体5から底板22aに作用する荷重の集中を分散させる荷重分散部材6を備えていることが好ましい。例えば本実施形態では、上述した当接部7aを長手方向に延長した平板形状とし、当該延長部分をアーム2aとは逆向き(開口部21がある方の向き)に突出させ、筒体5と底板22aとの間に介在する荷重分散部材6として機能させるようにしている(図3、図4等参照)。フック部2bに被吊下げ物30を吊り下げると支持部材3の付近においてモーメントが作用し、当該支持部材3との接触部分を通じて軒22の底板22aに集中的・局所的に当該モーメントに起因する押圧力が作用する。この際、本実施形態の荷重分散部材6は、底板22aに作用する押圧力を分散させて局部集中を回避する。これによれば、軒22の底板22aが部分的に変形ないし損傷したり、軒22の底板22aに吊下げ具1を安定した状態で設置することが難しくなったりといった事態を抑えることができる。このため、荷重分散部材たる当接部7aは、軒22の底板22aとの接触面積を可及的大として形成されることが好ましい。
【0035】
以上説明した本実施形態の吊下げ具1および吊下げ装置10によれば、当該吊下げ具1の軒22への取付作業が容易なものとなる。すなわち、工具がなくとも軒22に対して吊下げ具1を取り付けることができ、また、取付作業に従事する者のような専門家でなくても容易に取り付けることができる。加えて、軒22から吊下げ具1を取り外すための作業も容易である。
【0036】
また、本実施形態の吊下げ具1および吊下げ装置10によれば、スクリーン等の被吊下げ物30に付帯しているフック(例えば、簾に付帯しているS字状金物)を直接吊り下げることができる。すなわち、フック部2bの位置や向きを変えることができない固定式の吊下げ具であれば、左右のフック部2bの間隔と被吊下げ物30のフックの間隔とが一致していないことが一般的であり、やむなく吊下げ具に竿を引っ掛け、この竿に被吊下げ物30を吊るすといったことが行われているが、本実施形態の吊下げ装置10によれば、被吊下げ具30のフック間隔に合わせて吊下げ具1をスライドさせることが可能であるため竿などを用いる必要がないし、竿などを用意する手間もない。
【0037】
しかも、本実施形態の吊下げ具1によれば、筒体5が軸部材4の軸(軸体4)廻りで回転可能であり、該筒体5に取り付けられているフック部材2も軸部材4の軸廻りに回転させることができる。このため、該フック部材2を回転させるだけで、当該フック部材2を使用姿勢と収容姿勢の間で容易に、かつ無段階に姿勢を変更することができる。例えば、簾といった被吊下げ物30が不要となる冬季においては、フック部材2が開口部(例えば窓)21と平行となるように筒体5を回転させ、軒22からの突出をなくして当該吊下げ具1の存在が目立たないようにした収容姿勢とすることができる。これによれば、吊下げ具1が取り付けられている場合にも、当該吊下げ具1のフック部材2の開口部21からの突出量を著しく減じることができ、建物20の開口部21や軒22における外観意匠を吊下げ具1を取り付けていないような好ましい状態に保全することができる。
【0038】
また、本実施形態の吊下げ具1は、上述したようなレール23を有する軒22に適用して特に好適である。例えば、押出し成形時、強度を向上させる溝状のリブが底板22aに設けられている軒22であれば、当該リブ状部分に導入部25を形成することによって、吊下げ装置10用のスライド機構9を構成するレール23として機能させることが可能である。あるいは、このような溝状のリブを有する既設の軒22においても、一部に導入部25を形成するといった少ない加工で上述した吊下げ具1を利用することが可能になるという点でも有利である。
【0039】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した各実施形態では、被吊下げ物30の具体例として簾や日除け等のスクリーンのような巻き上げ可能なものを例示したがこれに限られることはなく、この他、ランタン、プランタ、洗濯物掛けなど、吊り下げることが可能なものであれば本発明にかかる吊下げ具1および吊下げ装置10を適用することが可能である。
【0040】
また、本明細書では「水平」と表現を用いて吊下げ具1等を説明したが、ここでいう水平とは完全に水平な場合に限られない。上述の説明から明らかなように、この吊下げ具1においては、フック部材2を使用姿勢とした際、フック部2bを建物20の開口部21から十分に離隔させた姿勢とさせることが重要であり、このときのフック部2bの建物20等に対する相対的な位置は適宜設定されて構わない。要は、被吊下げ物30が直接引っかけられるフック部2bの位置を所定の範囲で適宜変化させることができれば、フック部材2のアーム2aが湾曲していて完全に水平となっていなかったり、意匠的に曲げられていたりしても構わない。
【0041】
また、上述した実施形態では、断面が縦長矩形の板状の長尺部材からなるアーム2aや、該アーム2aの先端付近に切り込まれて形成されたフック部2bを例示したが(図4参照)、これらも好適例にすぎず、例えば断面円形等の鋼線を加工してなる鉤状のフック部2bを有するアーム2aなど(図5参照)、種々の形態とすることが可能である。
【0042】
また、特に図示していないが、フック部材2を伸縮可能とすることも好ましい。こうした場合は、被吊下げ物30の大きさや形に応じてフック部2bを開口部21からさらに離隔させる等、設定可能な当該フック部2bの相対位置の範囲がさらに広がることになる。フック部材2を伸縮可能とする構造は、フック部材2のうちフック部2bを含む部分を分割した滑り対偶によりスライド可能にした機構、あるいは支持部材3に対してフック部材2をスライド可能としてフック部2bを移動可能にした機構などによって構成することができる。
【0043】
また、上述した実施形態では底板22aが平坦となっている軒22に本発明を適用した場合を説明したが、これとは異なる構造の軒22に対しても本発明を適宜適用することが当然に可能である。例えば、巻き上げ式のシャッター26を格納可能なシャッターボックスによる軒22の下端部が断面略クランク形状となっている場合、当該形状を利用しうる構造の吊下げ具1を適用することが好ましい(図6参照)。すなわち、この場合には、クランク形状である底板22aの水平部分に形成されているレール23を利用して吊下げ具1をスライド可能に取り付けるとともに、底板22aの垂直部分22a1を利用してモーメント荷重を分散・緩衝させることができる。つまり、このような場合には、吊下げ具1の筒体5を底板22aの垂直部分22a1で直接受ける構造とすることができるので、上述したような荷重分散部材6を用いずとも、荷重が局所に集中するのを回避することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、新たに建設ないし設計される開口部の軒に適用可能であることはもちろん、既設の一般住宅や建物における開口部の軒にも適用可能である点で好適である。
【符号の説明】
【0045】
1…吊下げ具、2…フック部材、2a…アーム、2b…フック部、3…支持部材、4…軸部材、4a…軸体、5…筒体、6…荷重分散部材、7…嵌合部材、7a…当接部、7b…係合片、7c…螺合部、8…姿勢変形機構、9…スライド機構、10…吊下げ装置、20…建物、21…開口部、22…軒、22a…軒の底板、23…レール、24…レール片、25…導入部、30…被吊下げ物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁に形成される開口部上部に設けられる軒に取付けられて該開口部の前に設けられる被吊下げ物を吊り下げ可能な吊下げ具であって、
長尺状に形成されるアームと、該アームの先端に設けられて前記被吊下げ物を吊り下げるフック部とを備えるフック部材と、
該フック部材のアームを水平とした状態で前記軒下に支持する支持部材とを備え、
前記支持部材には、前記フック部を前記開口部から離隔させた使用姿勢と、前記フック部を前記開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材の姿勢を変形させる姿勢変形機構が設けられている
ことを特徴とする吊下げ具。
【請求項2】
前記姿勢変形機構は、前記軒の底板に対し垂直状に突出する軸部材と、前記フック部材の基端部を支持すると共に前記軸部材に回転可能に嵌合する筒体とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の吊下げ具。
【請求項3】
前記支持部材に、前記筒体と軒の底板との間に介在して前記フック部材のフック部に前記被吊下げ物を吊り下げることで前記筒体から底板に作用する荷重を緩衝させる荷重分散部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の吊下げ具。
【請求項4】
建物の外壁に形成される開口部上部に設けられる軒と、
該軒に取付けられて該開口部の前に設けられる被吊下げ物を吊り下げ可能な吊下げ具とを備え、
前記吊下げ具は、長尺状に形成されるアームと、該アームの先端に設けられて前記被吊下げ物を吊り下げるフック部とを備えるフック部材と、
該フック部材のアームを水平とした状態で前記軒下に支持する支持部材とを備え、
前記支持部材には、前記フック部を前記開口部から離隔させた使用姿勢と、前記フック部を前記開口部に近接させた収容姿勢との間でフック部材の姿勢を変形させる姿勢変形機構が設けられ、前記支持部材と軒には、前記開口部に沿ってフック部材をスライドさせるスライド機構が設けられている
ことを特徴とする吊下げ装置。
【請求項5】
前記スライド機構は、前記軒の底板に形成されて前記開口部に沿うレールと、前記支持部材に設けられて前記レールに嵌合する嵌合部材とを備えていることを特徴とする請求項4に記載の吊下げ装置。
【請求項6】
前記レールは、少なくとも前記支持部材の軸体の幅よりも大きい隙間を有して互いに対向する一対のレール片を備えると共に、当該隙間よりも大きい幅を有して設けられる導入部を備え、前記嵌合部材は、前記軸体に係合した状態で一対のレール片の表面に当接する当接部と、該当接部との間に少なくとも前記一対のレール片の厚さに等しい間隔を設けて前記軸体に係合する係合片を備え、該係合片は、前記導入部よりも小さい幅を有すると共に前記一対のレール片の隙間よりも大きい幅を有して形成されていることを特徴とする請求項5に記載の吊下げ装置。
【請求項7】
前記軸体の外周面には雄螺子が形成され、前記係合片には、内周に雌螺子部を備えた螺合部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の吊下げ装置。
【請求項8】
上記請求項4乃至請求項7に記載の吊下げ装置を備えた建物の開口部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−233(P2011−233A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144538(P2009−144538)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【出願人】(000154853)株式会社北浦工業 (21)
【Fターム(参考)】