説明

同じ属に属する菌またはウイルスの同定方法

【課題】 迅速、高感度かつ特異的に、同じ属に属する2種類以上の菌またはウイルスを同定する方法を提供すること。
【解決手段】 同じ属に属するn種類(nは2以上)の菌またはウイルスに由来する特定核酸中のそれぞれ一部の配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、同じ属に属するn種類の菌またはウイルスを同定する方法であって、前記特定核酸の配列は同定する菌またはウイルス間で相同性の高い配列であり、前記オリゴヌクレオチドプローブは前記特定核酸中の一部の配列と相補的2本鎖を形成すると形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量は前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌またはウイルスにより異なる、同定方法により前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速、高感度かつ特異的に、同じ属に属する2種類以上の菌またはウイルスを同定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌は、抗酸性の性質を持つグラム陽性桿菌であり、抗酸菌とも呼ばれる。抗酸菌には重篤な病変を引き起こす病原菌が多く、その中でもMycobacterium tuberculosis(結核菌)はヒトに結核を引き起こす病原体であり、その検査は臨床上極めて重要である。また結核菌の他にも、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansasiiなどの非結核性抗酸菌が、ヒトに病原性を示すことが知られている。
【0003】
非結核性抗酸菌は結核菌と同様、ヒトの肺、リンパ節、皮膚などを冒し、特に肺に感染する症例が多い。非結核性抗酸菌は、結核菌のようにヒトからヒトへの感染は起こらないが、結核菌に対する薬剤に耐性を有しており、有効な薬剤はほとんどない。このように抗酸菌感染に対する治療法は菌種の違いにより異なることから、抗酸菌の検査では菌種を迅速に同定することが不可欠となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2985446号公報
【特許文献2】特開2000−014400号公報
【特許文献3】特開2005−218317号公報
【特許文献4】米国特許5925517号公報
【特許文献5】米国特許6103476号公報
【特許文献6】米国特許5210015号公報
【特許文献7】米国特許5487972号公報
【特許文献8】特許3437816号公報
【特許文献9】米国特許5011769号公報
【特許文献10】米国特許5403711号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ishiguro T.et al.,Anal.Biochem.,314,77−86(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、抗酸菌の検査では、感染した抗酸菌の菌種により治療法が異なるため、菌種を迅速に同定することが不可欠である。抗酸菌の検査において、ヒトに結核を引き起こすMycobacterium tuberculosis(結核菌)の同定が重要なのはいうまでもないが、非結核性抗酸菌の中でも、出現頻度の高いMycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansasiiの同定は重要であり、特に出現頻度の高いMycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareの同定が重要である。
【0007】
感染した抗酸菌の菌種を同定する際、臨床症状から同定するのは極めて困難である。また一般に抗酸菌は発育が遅く、培養を用いた検査法ではかなりの時間を要する。したがって抗酸菌の菌種を迅速に同定するには、抗酸菌に由来する特定領域の核酸(特定核酸)を増幅させて検出する方法が有効である。
【0008】
本出願人は以前、試料に含まれる特定領域の核酸(特定核酸)を、核酸と反応することにより蛍光特性が変化する蛍光色素の存在下で、PCR法による増幅を行ない、前記蛍光特性の変化を測定することで、試料中の核酸を検出する方法を発明している(特許文献1)。また本出願人は以前、標的RNAに対して、プライマーセット(そのうちの一方はプロモーター配列を含む)、逆転写酵素および必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNase H)により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、RNAポリメラーゼによって標的となるRNAの特定塩基配列を含むRNAを合成し、当該RNAを引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型とする連鎖反応により、簡便にRNAを増幅する方法を発明している(特許文献2および非特許文献1)。さらに、特許文献2および非特許文献1では、前述の方法で増幅したRNAの検出に、インターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的RNAと相補的2本鎖を形成すると、当該相補的2本鎖部分に前記蛍光色素がインターカレートして蛍光特性が変化(蛍光強度が増加)するよう設計されたオリゴヌクレオチドプローブ(以下、INAFプローブとする)を用いており、前述したRNA増幅方法および前記プローブにより、簡便、一定温度、かつ一段階でのRNA増幅および検出を可能にしている。
【0009】
特許文献2および非特許文献1で開示のRNA増幅検出法のうち、増幅したRNAの検出に用いるINAFプローブは、標識するインターカレーター性蛍光色素が同じであっても、標的RNAが異なると、その蛍光特性(蛍光強度の増加率)は異なる(特許文献3)。したがって、特許文献2および非特許文献1で開示のRNA増幅検出法を用いて菌またはウイルスの同定を行なおうとした場合、同定対象の菌またはウイルス由来の標的RNAがそれぞれ異なる(例えば、一方がrRNAで他方がmRNA)のであれば、前記プローブの蛍光特性の違いから同定が可能といえる。しかしながら、リボソームRNA(rRNA)またはリボソームDNA(rDNA)を用いたマイコバクテリウム(Mycobacterium)属菌間の同定、rRNAまたはrDNAを用いたレジオネラ(Legionella)属菌間の同定、構造蛋白領域のRNAを用いたノロウイルス(Norovirus)各遺伝子型間の同定等のように、同じ属に属する菌間またはウイルス間で塩基配列の相同性が極めて高い標的RNA(または標的DNA)を用いた、菌またはウイルスの同定の場合、標的RNA(または標的DNA)の検出に用いるオリゴヌクレオチドプローブの塩基配列も互いに極めて近い配列となるため、前記プローブの蛍光特性の違いによる菌またはウイルスの同定が可能か、不明であった。
【0010】
そこで本発明の目的は、菌またはウイルスの同定に用いる標的核酸の塩基配列が、同定する菌またはウイルス間で相同性が極めて高い場合でも、菌またはウイルスの同定が可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の第一の態様は、
同じ属に属するn種類(nは2以上)の菌またはウイルスに由来する特定核酸のそれぞれ一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、同じ属に属するn種類の菌またはウイルスを同定する方法であって、
前記特定核酸の塩基配列は、同定する菌またはウイルス間で相同性の高い配列であり、
前記オリゴヌクレオチドプローブは、前記特定核酸の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量は、前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌またはウイルスにより異なる、
前記方法である。
【0013】
また本発明の第二の態様は、
マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類(nは2以上)の菌に由来する特定核酸のそれぞれ一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類の菌を同定する方法であって、
前記特定核酸はリボソームRNAまたはリボソームDNAであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブは、前記リボソームRNAまたはリボソームDNAの一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量は、前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌により異なる、
前記方法である。
【0014】
また本発明の第三の態様は、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類の菌が、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)およびマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)から選ばれるn種類の菌である、前記第二の態様に記載の方法である。
【0015】
また本発明の第四の態様は、n種類のオリゴヌクレオチドプローブが、共通のインターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ特定核酸の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成した相補的2本鎖部分に前記蛍光色素がインターカレートすることで、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブである、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の方法である。
【0016】
また本発明の第五の態様は、特定核酸がRNAであり、前記RNAは、
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定核酸の塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定核酸の塩基配列、または特定核酸の塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、および、
(5)当該RNA転写産物が、前記RNA−DNA2本鎖を生成する工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
により増幅されたRNAである、前記第一から第四の態様のいずれかに記載の方法である。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の同定方法で同定するn種類(nは2以上)の菌またはウイルスは、同じ属に属していればよく、一例として、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類の菌、レジオネラ(Legionella)属に属するn種類の菌、ノロウイルス(Norovirus)属に属する遺伝子群/遺伝子型の異なるn種類のウイルス、サポウイルス(Sapovirus)属に属する遺伝子群/遺伝子型の異なるn種類のウイルス、ロタウイルス(Rotavirus)属に属する遺伝子型の異なるn種類のウイルス、パピローマウイルス(Papillomavirus)属に属する遺伝子型の異なるn種類のウイルスがあげられる。
【0019】
本発明の同定方法において、オリゴヌクレオチドプローブを用いて検出(同定)する特定核酸は、その塩基配列の相同性が、同定するn種類の菌またはウイルス間で高いことを特徴としている。本発明において相同性が高いとは、同定するn種類の菌またはウイルス間における特定核酸の塩基配列の相同性が80%以上のことをいい、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。なお、同定するn種類の菌またはウイルス間における特定核酸の塩基配列の相同性が100%、すなわち完全一致の場合は、オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量が各菌またはウイルス間で同等となることが予想されるため、好ましくないといえる。同定対象が同じ属に属する菌の場合における好ましい特定核酸の一例として、同定する菌間で相同性が高い、リボソームRNA(5SrRNA、5.8SrRNA、16SrRNA、18SrRNA、23SrRNA、28SrRNA)またはその遺伝子(リボソームDNA)の全領域または部分領域があげられる。なおリボソームRNAは1菌あたりの発現コピー数も多いことから、高感度に菌を同定する点でも、好ましいといえる。同定対象がノロウイルス属に属するウイルスの場合の一例として、ORF1のRNAポリメラーゼ領域の全領域または部分領域、ORF2である構造蛋白(capsid)領域の全領域または部分領域、RNAポリメラーゼ領域と構造蛋白領域とのジャンクション(junction)領域があげられる。同定対象がサポウイルス属に属するウイルスの場合の特定核酸の一例として、構造蛋白領域の全領域または部分領域があげられる。同定対象がロタウイルス属に属するウイルスの場合の特定核酸の一例として、P(protease−cleaved protein)領域の全領域または一部領域があげられる。同定対象がパピローマウイルス属に属するウイルスの場合の特定核酸の一例として、L1遺伝子領域の全領域または一部領域があげられる。
【0020】
本発明の同定方法で用いるオリゴヌクレオチドプローブは、同定する菌またはウイルスに由来する特定核酸の一部の配列と相補的2本鎖を形成可能なプローブであり、同定する菌またはウイルスにそれぞれ対応したプローブを用意すればよい。なお、本発明の同定方法で使用するオリゴヌクレオチドプローブは、ストリンジェントな条件で相補的2本鎖を形成可能なプローブであると好ましい。ストリンジェントな条件の具体例としては、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウムまたは75mMクエン酸ナトリウムが共存する条件があげられる。本発明の同定方法で使用するオリゴヌクレオチドプローブの具体例として、同定する菌が、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属する主要な菌である、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)、Mycobacterium aviumおよびMycobacterium intracellulareから選ばれるn種類(nは2以上)の菌である場合、配列番号1から7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブから選ばれるn種類のプローブがあげられる。
【0021】
本発明の同定方法で使用するオリゴヌクレオチドプローブは、同定する菌またはウイルスに由来する特定核酸の一部の配列と相補的2本鎖を形成すると、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブである。蛍光特性が変化するプローブの一例として、モレキュラービーコン(Molecular beacon)プローブ(特許文献4および5)、TaqManプローブ(特許文献6および7)、Q−Probe(特許文献8)、サイクリングプローブ(特許文献9および10)、インターカレーター性蛍光色素で標識されたプローブ(INAFプローブ、特許文献2および非特許文献1)があげられる。特にINAFプローブは、特定核酸を増幅して菌またはウイルスの同定を行なう場合、当該特定核酸の増幅反応と同時並行で同定が行なえるため、好ましい。
【0022】
本発明の好ましい同定方法で使用するINAFプローブで標識するインターカレーター性蛍光色素は特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイドまたはこれらの誘導体を例示できる。一例として、オキサゾールイエローは、2本鎖核酸にインターカレートすることで510nmの蛍光(励起波長470nm)が顕著に増加する色素である。前記蛍光色素は、同定対象の菌またはウイルスに由来する特定核酸の一部の配列と相補的2本鎖を形成可能なオリゴヌクレオチドの5’末端側、3’末端側、リン酸ジエステル部分、塩基部分のいずれかに、適当なリンカーを介して導入すればよい。なお、特定核酸の増幅反応と同時並行でINAFプローブによる同定を行なう場合は、前記プローブの3’末端側水酸基に修飾処理を施すことで、3’末端側水酸基からの伸長を防止するのが好ましい。また、n種類のオリゴヌクレオチドプローブに導入したインターカレーター性蛍光色素を共通にすると、同一の励起/蛍光波長でn種類の菌またはウイルスを同時に同定でき、蛍光検出装置の装置構成も簡素化できるため好ましい。
【0023】
本発明の同定方法は、n種類のオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量の違いを検出することにより、菌またはウイルスを同定する方法である。蛍光特性の変化量の検出は、蛍光強度の絶対値で行なってもよいし、陰性試料での蛍光強度値に対する相対値(蛍光強度比)で行なってもよいし、特定核酸を増幅して菌またはウイルスの同定を行なう場合は特定核酸増幅前の試料での蛍光強度値に対する相対値(蛍光強度比)で行なってもよい。
【0024】
本発明の同定方法では、喀痰、胃液、血液、尿、便、体腔液、組織、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の生体由来の試料をそのまま特定核酸を含む試料として同定に用いてもよいし、前記生体由来の試料から公知の方法または公知の試薬を用いて核酸を抽出して得られた試料を、特定核酸を含む試料として同定に用いてもよい。なお、いずれの試料を用いた場合でも、特定核酸を適切な方法で増幅させると同時に、または増幅させてから、オリゴヌクレオチドプローブを用いて検出させると、菌またウイルスの同定をより高感度に行なえるため、好ましい。特定核酸を増幅させる方法としては、PCR法、LAMP(Loop−mediated isothermal AMPlification)法、TRC法(Transcription Reverse transcription Concerted Reaction、特許文献2)、NASBA(Nucleic Acid Sequence−Based Amplification)法、TMA(Transcripition Mediated Amplification)法等の公知の方法を例示できるが、一定温度(比較的低温)で簡便かつ迅速に特定核酸の増幅が可能なTRC法、NASBA法、TMA法が好ましい。また、特定核酸を増幅させる際は、増幅のための酵素の活性を妨害する物質等を、あらかじめ除去または不活化させると好ましい。
【0025】
前述した好ましい特定核酸の増幅方法は、RNAを増幅する方法であり、下記の(1)から(5)に示す工程により特定核酸(RNA)の増幅を行なう。
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定核酸の塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定核酸の塩基配列、または特定核酸の塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、および、
(5)当該RNA転写産物が、前記RNA−DNA2本鎖を生成する工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【0026】
前記増幅において、RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、RNase H活性を有する酵素、1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素およびRNAポリメラーゼ活性を有する酵素により進行する。これらの酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用してもよく、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用してもよい。一例として、RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性、RNase H活性および1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性の三つの活性を有する逆転写酵素と、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、を組み合わせて使用することがあげられる。もっとも、前記逆転写酵素とRNAポリメラーゼ活性を有する酵素に、RNase H活性を有する酵素を必要に応じてさらに添加してもよい。前記逆転写酵素の一例として、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの誘導体があげられ、中でもAMV逆転写酵素およびその誘導体が好ましい。RNAポリメラーゼ活性を有する酵素としては、分子生物学実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼおよびこれらの誘導体を例示できる。
【0027】
前記増幅では試料および前記酵素に加え、さらに、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド三リン酸(NTP)およびデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)を添加し、反応効率を調節するために必要に応じ、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)および糖等を添加し、適切な温度条件下で前記酵素による反応を進行させる。適切な温度条件の一例として、AMV逆転写酵素とT7 RNAポリメラーゼとを用いた場合は、35℃から65℃までの範囲で行なえばよく、好ましくは40℃から50℃までの範囲である。
【0028】
前記増幅では、特定核酸の一部の塩基配列と相同的な配列を有する第一のプライマーと、特定核酸の一部の塩基配列と相補的な配列を有する第二のプライマーを使用する(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている)。第一のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合は、特定核酸の塩基配列と相同のRNA転写産物が生成され、第二のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合は、特定核酸の塩基配列と相補的なRNA転写産物が生成される。プライマーに付加するプロモーター配列は、前記増幅で使用するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素に応じた公知のプロモーター配列を使用すればよく、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素がT7 RNAポリメラーゼである場合はT7プロモーターを、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素がSP6 RNAポリメラーゼである場合はSP6プロモーターを、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素がT3 RNAポリメラーゼである場合はT3プロモーターを、それぞれ使用すればよい。なお前記プロモーター配列に加え、さらにエンハンサー配列等の転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。
【0029】
前述したプロモーター配列を付加した第一のプライマーと、第二のプライマーを使用して前記増幅を行なう場合は、RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程(前記(1)の工程)に先立ち、または前記(1)の工程と同時に、第一のプライマーの塩基配列と相同な領域のうち、その5’末端周辺で特定核酸(RNA)を切断するのが好ましい。当該切断により、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、cDNAの3’末端を伸長させることで効率的に合成でき、結果として機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を効率的に形成することができるからである。特定核酸(RNA)の切断方法は、第一のプライマーの塩基配列と相同な領域のうち、その5’末端周辺を特異的に切断できる方法であれば特に限定されない。特定核酸(RNA)の切断方法の一例として、特定核酸(RNA)のうち第一のプライマーの塩基配列と相同な領域の5’末端に重複し、かつ特定核酸(RNA)の5’末端方向に隣接した領域の特定核酸(RNA)と相補的2本鎖を形成可能なオリゴヌクレオチド(以下、「切断用オリゴヌクレオチド」とする)を添加することで、RNA−DNA2本鎖を形成させ、当該2本鎖中のRNA部分をリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素等により切断する方法があげられ、当該切断方法は簡便に切断でき、かつ切断位置も特異性を有していることから好ましい方法といえる。ちなみに、前記切断用オリゴヌクレオチドの3’末端側水酸基は、伸長反応を防止するために、例えばアミノ化等、適当な修飾を行なうとよい。
【0030】
本発明の同定方法の一例である、特定核酸の増幅反応と同時並行でINAFプローブによる検出を行なうことで菌またはウイルスの同定を行なう方法の場合、INAFプローブ、プライマーセット、酵素および酵素基質等を含む試薬類を投入した容器に、特定核酸を含む試料を分注し、適切な温度で反応させることで、特定核酸の増幅反応とINAFプローブによる検出(同定)を同時に行なうことができる。さらに、前記容器の少なくとも一部を透明な材料とし、INAFプローブに導入したインターカレーター性蛍光色素が発する蛍光を外部から検出できるようにすると、特定核酸を含む試料を分注した後は、容器を密閉した状態で特定核酸の増幅反応とINAFプローブによる検出(同定)とが行なえるため、試料間のコンタミネーションを防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、同じ属に属するn種類(nは2以上)の菌またはウイルスに由来する特定核酸のそれぞれ一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、同じ属に属するn種類の菌またはウイルスを同定する方法において、前記特定核酸の塩基配列が同定する菌またはウイルス間で相同性の高い配列であり、前記オリゴヌクレオチドプローブが前記特定核酸の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量が前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌またはウイルスにより異なる、ことを特徴としている。
【0032】
本発明の同定方法は、例えばリボソームRNA(rRNA)といった同じ属に属する菌間で相同性が高い特定核酸を用いても、同じ属に属する菌間の同定が可能となる。そのため、同定の必要性は高いものの、これまで迅速簡便な同定方法がなかった、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属する菌間の同定、特にrRNA塩基配列の相同性が極めて高いマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)とマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)との間の同定も、本発明の同定方法により迅速簡便に行なうことができる。
【実施例】
【0033】
以下、特定核酸をリボソームRNA(rRNA)とし、同じ属に属する菌をマイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属する菌とした場合の例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0034】
実施例1 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
下記(A)から(G)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ(以下、INAFプローブとする)を非特許文献1に記載の方法を参照して作製した。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、5’末端から5番目のグアニンと6番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
(B)配列番号2に記載の塩基配列のうち、5’末端から14番目のチミンと15番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。なお、配列番号2の5’末端から12番目のnは5−ニトロインドールヌクレオチドである。
(C)配列番号3に記載の配列のうち、5’末端から7番目のグアニンと8番目のシトシンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
(D)配列番号4に記載の配列のうち、5’末端から12番目のアデニンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
(E)配列番号5に記載の配列のうち、5’末端から13番目のアデニンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
(F)配列番号6に記載の配列のうち、5’末端から7番目のグアニンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
(G)配列番号7に記載の配列のうち、5’末端から7番目のアデニンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、オリゴヌクレオチドプローブ。
【0035】
実施例2 Mycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareとの同時同定(その1)
実施例1で作製したINAFプローブのうち、(A)および(B)のプローブを用いて、Mycobacterium属に属する菌に由来するrRNAの検出を行ない、検出性能と特異性について評価した。
(1)評価に用いるRNA試料を以下の方法で調製した。
(1−1)M.tuberculosis 16SrRNA、M.avium 16SrRNA、M.intracellulare 16SrRNAおよびM.kansasii 16SrRNA
各16SrRNA遺伝子(16SrDNA)をクローニングし、インビトロ転写後、精製することで標準RNAを調製し、当該標準RNAをRNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用いて一定の濃度に希釈することで、RNA試料を調製した。
(1−2)M.florentinum RNA
OD600nmが0.1のM.florentinum培養液を市販の抽出試薬(EXTRAGEN MB、東ソー製)で抽出することで、RNA試料を調製した。
(2)下記に示す組成の反応液20μLを市販の0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μL(RNA試料が1種類のとき)または各2.5μL(RNA試料が2種類混合のとき)を添加した。
【0036】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
17mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチドDNA(3’末端の水酸基をアミノ基で
修飾)
1μM 第一のプライマー(5’末端にT7プロモータ配列を付加)
1μM 第二のプライマー
5nM (A)のINAFプローブ
21nM (B)のINAFプローブ
10%から13% DMSO
(4)前記反応液を43℃で5分間保温後、予め43℃で2分間保温した酵素液(組成は下記参照)5μLを添加した。
【0037】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2.0% ソルビトール
0.21U/μL AMV逆転写酵素(ライフサイエンス製)
2.37または4.73U/μL T7 RNAポリメラーゼ
0.12mg/mL 牛血清アルブミン
(5)引き続きPCRチューブを直接検出可能な温調機能付き蛍光分光光度計に供し、43℃から46℃の一定温度でRNA増幅反応させると同時に、反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長520nm)を30分間経時的に検出した。
【0038】
表1に、M.aviumとM.intracellulareに対する検出性能評価およびM.florentinumに対する特異性評価の結果を示す。なお、本実施例で使用したRNA試料は
(i)M.avium 16SrRNA 50コピー/テスト
(ii)M.avium 16SrRNA 5×10コピー/テスト
(iii)M.intracellulare 16SrRNA 100コピー/テスト
(iv)M.intracellulare 16SrRNA 5×10コピー/テスト
(v)M.avium 16SrRNA 50コピー/テストとM.intracellulare 16SrRNA 100コピー/テストとの混合試料
(vi)M.avium 16SrRNA 5×10コピー/テストとM.intracellulare 16SrRNA 5×10コピー/テストとの混合試料
(vii)M.florentinum培養液核酸抽出物
のいずれかであり、蛍光強度比は酵素添加30分後における反応液の蛍光強度値を、酵素添加直後(0分)における蛍光強度値(バックグラウンド)で割った値である。
【0039】
【表1】

【0040】
(A)および(B)のINAFプローブを用いて、増幅したRNAの検出を行なった結果、M.avium 16SrRNA試料((i)および(ii))はその量にかかわらず30分後の蛍光強度比が約1.9であり、M.intracellulare 16SrRNA試料((iii)および(iv))はその量にかかわらず30分後の蛍光強度比が約2.8であり、M.avium 16SrRNAとM.intracellulare 16S rRNAとの混合試料((v)および(vi))はその量にかかわらず30分後の蛍光強度比が約3.3以上であった。一方、M.avium 16SrRNAやM.intracellulare 16SrRNAと塩基配列の相同性が非常に高いM.florentinum試料(vii)は蛍光強度の増加はほとんどなく、(A)および(B)のINAFプローブはM.avium 16SrRNAおよびM.intracellulare 16SrRNAを特異的に検出することがわかる。
【0041】
また表1の結果をまとめると、例えば、
(I)30分後の蛍光強度比が1.2以下の試料をM.aviumおよびM.intracellulare陰性、
(II)30分後の蛍光強度比が1.8から2.3の試料をM.avium陽性、
(III)30分後の蛍光強度比が2.7から3.0の試料をM.intracellulare陽性、
(IV)30分後の蛍光強度比が3.3以上の試料をM.aviumおよびM.intracellulare陽性、
という判定基準を設けることで、(A)および(B)のINAFプローブにより、M.aviumとM.intracellulareとを同時に同定することができることがわかる。また、(A)および(B)のINAFプローブを用いたRNA増幅検出法は、反応開始30分で結果が分かることから迅速性があり、RNA量50から100コピー/テストという低濃度であっても増幅検出可能であることから高感度であり、同属内の非常に相同性の高い菌に対しても蛍光強度がほとんど増加しないことから特異性が非常に高い方法といえる。
【0042】
実施例3 Mycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareの同時同定(その2)
実施例2に記載のRNA増幅検出法(条件[1])のうち、
INAFプローブおよびその濃度を、
(C)のINAFプローブ12.5nMおよび(D)のINAFプローブ12.5nM(条件[2])、
(D)のINAFプローブ12.5nMおよび(E)のINAFプローブ12.5nM(条件[3])、
(C)のINAFプローブ12.5nMのみ(条件[4])、または
(D)のINAFプローブ12.5nMのみ(条件[5])、
とした他は、実施例2と同様にRNA増幅検出反応を実施した。なお、(C)のINAFプローブはM.aviumおよびM.intracellulareを特異的に検出するプローブであり、(D)のINAFプローブはM.intracellulareを特異的に検出するプローブである。
【0043】
表2に、M.aviumとM.intracellulareに対する検出性能評価およびM.tuberculosisに対する特異性評価の結果を示す。なお、本実施例で使用したRNA試料は
(viii)M.avium 16SrRNA 10コピー/テスト
(ix)M.intracellulare 16SrRNA 10コピー/テスト
(x)M.tuberculosis 10コピー/テスト
のいずれかであり、蛍光強度比は酵素添加30分後における反応液の蛍光強度値を、酵素添加直後(0分)における蛍光強度値(バックグラウンド)で割った値である。
【0044】
【表2】

【0045】
M.avium 16SrRNAやM.intracellulare 16SrRNAと塩基配列の相同性が非常に高いM.tuberculosis 16SrRNA試料(x)は蛍光強度の増加がほとんどなく、条件[2]および[3]は、M.avium 16SrRNAおよびM.intracellulare 16SrRNAを特異的に検出することがわかる。一方、M.avium 16SrRNAとM.intracellulare 16SrRNAとの同定については、条件[2]では前記(I)から(III)の判定基準で同時に同定できるものの、条件[3]ではM.avium 16SrRNA試料(viii)を測定したときの蛍光強度比とM.intracellulare 16SrRNA試料(ix)を測定したときの蛍光強度比がともに1.66であるため同時同定は困難なことがわかる。
【0046】
なお、条件[2]で使用したINAFプローブをそれぞれ単独で使用すると(条件[4]および[5])、M.avium 16SrRNA試料(viii)を測定したときの蛍光強度比とM.intracellulare 16SrRNA試料(ix)を測定したときの蛍光強度比とにほとんど差が生じないことから、条件[2]は(C)のINAFプローブと(D)のINAFプローブとを組み合わせることで、はじめてM.avium 16SrRNAとM.intracellulare 16SrRNAとの同時同定を可能にしていることがわかる。
【0047】
実施例4 Mycobacterium tuberculosisとMycobacterium intracellulareの同時同定
実施例2に記載のRNA増幅検出法(条件[1])のうち、INAFプローブおよびその濃度を、(D)のINAFプローブ25nMおよび(F)のINAFプローブ50nM(条件[6])、とした他は、実施例2と同様にRNA増幅検出反応を実施した。
【0048】
表3に、M.tuberculosisとM.intracellulareに対する検出性能評価およびM.aviumとに対する特異性評価の結果を示す。なお、本実施例で使用したRNA試料は
(xi)M.tuberculosis 16SrRNA 10コピー/テスト
(ix)M.intracellulare 16SrRNA 10コピー/テスト
(xii)M.avium 16SrRNA 10コピー/テスト
(xiii)M.kansasii 16SrRNA 10コピー/テスト
のいずれかであり、蛍光強度比は酵素添加30分後における反応液の蛍光強度値を、酵素添加直後(0分)における蛍光強度値(バックグラウンド)で割った値である。
【0049】
【表3】

【0050】
(D)および(F)のINAFプローブを用いて、増幅したRNAの検出を行なった結果、M.tuberculosis 16SrRNA試料(xi)は30分後の蛍光強度比が約2.4であり、M.intracellulare 16SrRNA試料(ix)は30分後の蛍光強度比が約1.9である一方、M.tuberculosis 16SrRNAやM.intracellulare 16SrRNAと塩基配列の相同性が非常に高いM.avium 16SrRNA試料(xii)およびM.kansasii 16SrRNA試料(xiii)は蛍光強度の増加がほとんどないことから、(D)および(F)のINAFプローブはM.tuberculosis 16SrRNAおよびM.intracellulare 16SrRNAを特異的に検出することがわかる。
【0051】
また表3の結果をまとめると、例えば、
(V)30分後の蛍光強度比が1.2以下の試料をM.tuberculosisおよびM.intracellulare陰性、
(VI)30分後の蛍光強度比が1.9前後の試料をM.intracellulare陽性、
(VII)30分後の蛍光強度比が2.4前後の試料をM.tuberculosis陽性、
という判定基準を設けることで、(D)および(F)のINAFプローブにより、M.tuberculosisとM.intracellulareとを同時に同定することができることがわかる。
【0052】
実施例5 Mycobacterium tuberculosisとMycobacterium aviumの同時同定
実施例2に記載のRNA増幅検出法(条件[1])のうち、INAFプローブおよびその濃度を、
(E)のINAFプローブ25nMおよび(G)のINAFプローブ10nM(条件[7])
(E)のINAFプローブ25nMのみ(条件[8])、または
(G)のINAFプローブ10nMのみ(条件[9])、
とした他は、実施例2と同様にRNA増幅検出反応を実施した。なお、(E)のINAFプローブはM.tuberculosisを特異的に検出するプローブであり、(G)のINAFプローブはM.aviumを特異的に検出するプローブである。
【0053】
表4に、M.tuberculosisとM.aviumに対する検出性能評価およびM.intracellulareとに対する特異性評価の結果を示す。なお、本実施例で使用したRNA試料は
(xi)M.tuberculosis 16SrRNA 10コピー/テスト
(viii)M.avium 16SrRNA 10コピー/テスト
(xiv)M.intracellulare 16SrRNA 10コピー/テスト
(xiii)M.kansasii 16SrRNA 10コピー/テスト
(xv)M.tuberculosis 16SrRNA 10コピー/テスト
のいずれかであり、蛍光強度比は酵素添加30分後における反応液の蛍光強度値を、酵素添加直後(0分)における蛍光強度値(バックグラウンド)で割った値である。
【0054】
【表4】

【0055】
(E)および(G)のINAFプローブ(条件[7])を用いて、増幅したRNAの検出を行なった結果、M.tuberculosis 16SrRNA試料(xi)は30分後の蛍光強度比が約1.6であり、M.avium 16SrRNA試料(viii)は30分後の蛍光強度比が約2.0である一方、M.tuberculosis 16SrRNAやM.avium 16SrRNAと塩基配列の相同性が非常に高いM.intracellulare 16SrRNA試料(xiv)およびM.kansasii 16SrRNA試料(xiii)は蛍光強度の増加がほとんどないことから、(E)および(G)のINAFプローブはM.tuberculosis 16SrRNAおよびM.avium 16SrRNAを特異的に検出することがわかる。
【0056】
また表4の結果をまとめると、例えば、
(VIII)30分後の蛍光強度比が1.2以下の試料をM.tuberculosisおよびM.avium陰性、
(IX)30分後の蛍光強度比が1.6前後の試料をM.tuberculosis陽性、
(X)30分後の蛍光強度比が2.0前後の試料をM.avium陽性、
という判定基準を設けることで、(E)および(G)のINAFプローブにより、M.tuberculosisとM.aviumとを同時同定することができることがわかる。
【0057】
なお、条件[7]で使用したINAFプローブをそれぞれ単独で使用すると(条件[8]および[9])、M.tuberculosis 16SrRNA試料(xv)を測定したときの蛍光強度比とM.avium 16SrRNA試料(viii)を測定したときの蛍光強度比とにほとんど差が生じないことから、条件[7]は(E)のINAFプローブと(G)のINAFプローブとを組み合わせることで、はじめてM.tuberculosis 16SrRNAとM.avium 16SrRNAとの同時同定を可能にしていることがわかる。
【0058】
以上、実施例2から5の結果より、(A)から(G)のINAFプローブの中から2種類以上組み合わせてRNA増幅検出反応を行なうことで、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属菌間の同時同定が可能なことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ属に属するn種類(nは2以上)の菌またはウイルスに由来する特定核酸のそれぞれ一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、同じ属に属するn種類の菌またはウイルスを同定する方法であって、
前記特定核酸の塩基配列は、同定する菌またはウイルス間で相同性の高い配列であり、
前記オリゴヌクレオチドプローブは、前記特定核酸の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量は、前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌またはウイルスにより異なる、
前記方法。
【請求項2】
マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類(nは2以上)の菌に由来する特定核酸のそれぞれ一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成可能なn種類のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類の菌を同定する方法であって、
前記特定核酸はリボソームRNAまたはリボソームDNAであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブは、前記リボソームRNAの一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブであり、
前記オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光特性の変化量は、前記オリゴヌクレオチドプローブで同定する菌により異なる、
前記方法。
【請求項3】
マイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属するn種類の菌が、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)およびマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)から選ばれるn種類の菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
n種類のオリゴヌクレオチドプローブが、共通のインターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ特定核酸の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると、形成した相補的2本鎖部分に前記蛍光色素がインターカレートすることで、形成前と比較し蛍光特性が変化するプローブである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
特定核酸がRNAであり、前記RNAは、
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定核酸の塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定核酸の塩基配列、または特定核酸の塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、および、
(5)当該RNA転写産物が、前記RNA−DNA2本鎖を生成する工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
により増幅されたRNAである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2013−93(P2013−93A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137174(P2011−137174)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】