説明

同一又は近傍の検出波長を有する蛍光色素で修飾された複数のオリゴヌクレオチドを用いて、1種類の波長で複数の遺伝子多型を検出する方法

【課題】測定装置が検出できる蛍光波長の種類に限りがある場合、または、プローブに修飾できる蛍光分子の種類に限りがある場合であっても、一度で、多数の異なる遺伝子変異を測定する方法を提供。
【解決手段】蛍光色素で標識され、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを複数用いて複数の遺伝子多型を同時に検出する方法であって、前記複数のオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素は互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素であり、前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されており、一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一又は近傍の検出波長を有する蛍光色素で修飾された複数のオリゴヌクレオチドを用いて、1種類の波長で複数の遺伝子多型を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素で標識したプローブを用いて標的核酸の変異を解析する方法は多数存在する。
特許文献1には、変異を含む領域をPCRで増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を解析する方法が記載されている。特許文献1では、請求項13に「核酸測定用の新規核酸プローブの種の数と少なくとも同数の種の数の波長で測定する」と記載されるとおり、複数のプローブを用いる場合、それぞれが異なる波長の蛍光色素で標識したプローブを用いている。
特許文献2では、固相化したプローブで遺伝子変異を検出する方法が記載されており、請求項8に「異なる波長の蛍光を発する複数種の蛍光物質が結合している」と記載されているとおり、複数のプローブを用いる場合、それぞれが異なる波長の蛍光色素で標識したプローブを用いている。
このように特許文献1,2では、複数のプローブを用いる場合、それぞれが異なる波長の蛍光色素で標識したプローブを用いている。
【0003】
特許文献1,2では、プローブの数(すなわち、検出したい変異の数)と同数以上の異なる蛍光波長が必要である、とされている。しかしながら、測定装置が検出できる蛍光波長の種類に限りがある場合、または、プローブに修飾できる蛍光分子の種類に限りがある場合は、測定できる変異の数も限られてしまう。また、そのような場合は異なる試薬を用いて、数回に渡って異なる遺伝子変異を測定する必要があり、手間やコストを要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−355084号公報
【特許文献2】特開2006−166808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、測定装置が検出できる蛍光波長の種類に限りがある場合、または、プローブに修飾できる蛍光分子の種類に限りがある場合であっても、一度で、多数の異なる遺伝子多型を測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識され、かつ、Tm値が互いに近傍の温度になるように設計された、複数のプローブを1つの反応系に添加することにより、1種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)蛍光色素で標識され、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを複数用いて複数の遺伝子多型を同時に検出する方法であって、
前記複数のオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素は互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素であり、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、
前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されており、
一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出することを特徴とする方法。
(2)前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜4℃である(1)記載の方法。
(3)前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜2℃である(1)記載の方法。
(4)前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜1℃である(1)記載の方法。
(5)(1)〜(4)のいずれか一項記載の遺伝子多型の検出方法と、前記同一又は近傍波長以外の1種類以上の蛍光色素検出波長を用いた遺伝子多型の検出方法を同時に又は連続して行う、遺伝子多型の検出方法。
(6)(1)〜(4)のいずれか一項記載の遺伝子多型の検出方法と、前記同一又は近傍波長以外の2種類以上の蛍光色素検出波長を用いた遺伝子多型の検出方法を同時に又は連続して行う、遺伝子多型検出方法。
(7)前記第一の遺伝子型を含む配列が野生型配列であり、前記第二の遺伝子型を含む配列が、野生型配列に対して、1塩基以上の置換変異、挿入変異、欠失変異を有する配列である、(1)〜(6)のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法。
(8)前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、多型検出用プローブである、(1)〜(7)のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法。
(9)前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、多型検出用プローブである、(8)記載の遺伝子多型検出方法。
(10)互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識された複数のオリゴヌクレオチドからなる多型検出用プローブを含む、一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出するためのキットであって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、
前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されている、キット。
(11)(1)〜(9)のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法を用いて薬効や体質に関連する遺伝子多型の有無を測定することを含む、個体における薬効や体質を予測する方法。
(12)遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応部、
前記反応部に試料および/または反応液を供給する送液部、
前記反応部に蛍光を励起させるための光を照射する光源部、
前記反応部の温度を制御する制御部、および
蛍光を検出する検出部
を含む、遺伝子多型検出装置であって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする、遺伝子多型検出装置。
(13)遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応系、
前記反応系に試料および/または反応液を供給する送液系、
前記反応系に蛍光を励起させるための光を照射する光源系、
前記反応系の温度を制御する制御系、
蛍光を検出する検出系、および
検出結果に基づき多型を判定する判定系
を含む、遺伝子多型判定システムであって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする、遺伝子多型判定システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、検出可能な波長の種類が少ない装置を用いた場合や、プローブを修飾可能な蛍光分子の種類が少ない場合でも、多数の多型を1度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】実施例1の、プローブに3PB−EGFR−insWT−R5(配列番号9)、3PB−EGFR−insWT−F4(配列番号10)、および3FL−EGFR−ins7−F1(配列番号11)を用い、鋳型にEGFR−e20−ins−WT−F(配列番号1)を用い、蛍光色素はPacific BlueおよびBODIPY FLを用いた場合の、Tm解析における単位時間当たりのPacific BlueおよびBODIPY FLの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)と温度との関係を示す(左図;Pacific Blueの変化量、右図;BODIPY FLの変化量を示す)。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。以下の図においては、異なる鋳型の組み合わせにて同様の実験がなされた結果を示している。
【図1B】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−ins9−F(配列番号2)を用いた場合の結果を示している。
【図1C】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insCAC−R3(配列番号14)を用いた場合の結果を示している。
【図1D】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insTGCGTG−F(配列番号4)を用いた場合の結果を示している。
【図1E】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insAACCCC−R6(配列番号16)を用いた場合の結果を示している。
【図1F】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insCCCCAC−R7(配列番号17)を用いた場合の結果を示している。
【図1G】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insAACCCCCAC−R8(配列番号18)を用いた場合の結果を示している。
【図1H】実施例1の、鋳型にEGFR−e20−insCACGTG−R9(配列番号19)を用いた場合の結果を示している。
【図2A】実施例2の、プローブに3PB−858−G−PM(配列番号20)および3PB−3A4−G−PM(配列番号21)を用い、鋳型に858−mm(配列番号22)100%および3A4−mm(配列番号24)100%を用い、蛍光色素はPacific Blueを用いた場合の、Tm解析における単位時間当たりのPacific Blueの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)と温度との関係を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。以下の図においては、異なる鋳型との組み合わせにて同様の実験がなされた結果を示している。
【図2B】実施例2の、鋳型に858−mm(配列番号22)50%、858−PM(配列番号23)50%および3A4−mm(配列番号24)100%を用いた場合の結果を示している。
【図2C】実施例2の、鋳型に858−mm(配列番号22)90%、858−PM(配列番号23)10%および3A4−mm(配列番号24)100%を用いた場合の結果を示している。
【図2D】実施例2の、鋳型に858−mm(配列番号22)100%、3A4−mm(配列番号24)50%および3A4−PM(配列番号25)50%を用いた場合の結果を示している。
【図2E】実施例2の、鋳型に858−mm(配列番号22)100%、3A4−mm(配列番号24)90%および3A4−PM(配列番号25)10%を用いた場合の結果を示している。
【図3A】実施例3の、プローブに3T−719−G−PM(配列番号26)、3T−858−G−PM(配列番号27)、および3T−790−T−PM(配列番号28)を用い、鋳型に719−G(配列番号29)100%、858−G(配列番号31)100%および790−T(配列番号33)100%を用い、蛍光色素はTAMRAを用いた場合の、Tm解析における単位時間当たりのTAMRAの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)と温度との関係を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。以下の図においては、異なる鋳型の組み合わせにて同様の実験がなされた結果を示している。
【図3B】実施例3の、鋳型に719−G(配列番号29)50%、719−C(配列番号30)50%、858−G(配列番号31)100%および790−T(配列番号33)100%を用いた場合の結果を示している。
【図3C】実施例3の、鋳型に719−G(配列番号29)100%、858−G(配列番号31)50%、858−T(配列番号32)50%および790−T(配列番号33)100%を用いた場合の結果を示している。
【図3D】実施例3の、鋳型に719−G(配列番号29)100%、858−G(配列番号31)100%、790−T(配列番号33)50%および790−C(配列番号34)50%を用いた場合の結果を示している。
【図4A】実施例4の、プローブに3T−719−G−PM(配列番号26)、5PB−V12M−A−PM(配列番号35)、3PB−UGT−T−PM(配列番号36)、5FL−Q126X−T−PM(配列番号37)および3FL−NAT−C−PM(配列番号38)を用い、鋳型にV12M−PM(配列番号39)100%、UGT−PM(配列番号41)100%、Q126X−PM(配列番号43)100%、NAT−mm(配列番号46)100%および719−mm(配列番号30)100%を用い、蛍光色素はTAMRA、Pacific BlueおよびBODIPY FLを用いた場合の、Tm解析における単位時間当たりのTAMRA、Pacific BlueおよびBODIPY FLの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)と温度との関係を示す(左図;Pacific Blueの変化量、中央図;BODIPY FLの変化量、右図;TAMRAの変化量を示す)。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。以下の図においては、異なる鋳型の組み合わせにて同様の実験がなされた結果を示している。
【図4B】実施例4の、鋳型にV12M−PM(配列番号39)50%、V12M−mm(配列番号40)50%、UGT−PM(配列番号41)100%、Q126X−PM(配列番号43)100%、NAT−mm(配列番号46)100%および719−mm(配列番号30)100%を用いた場合の結果を示している。
【図4C】実施例4の、鋳型にV12M−PM(配列番号39)100%、UGT−PM(配列番号41)50%、UGT−mm(配列番号42)50%、Q126X−PM(配列番号43)100%、NAT−mm(配列番号46)100%および719−mm(配列番号30)100%を用いた場合の結果を示している。
【図4D】実施例4の、鋳型にV12M−PM(配列番号39)100%、UGT−PM(配列番号41)100%、Q126X−PM(配列番号43)50%、Q126X−mm(配列番号44)50%、NAT−mm(配列番号46)100%および719−mm(配列番号30)100%を用いた場合の結果を示している。
【図4E】実施例4の、鋳型にV12M−PM(配列番号39)100%、UGT−PM(配列番号41)100%、Q126X−PM(配列番号43)100%、NAT−PM(配列番号45)50%、NAT−mm(配列番号46)50%および719−mm(配列番号30)100%を用いた場合の結果を示している。
【図4F】実施例4の、鋳型にV12M−PM(配列番号39)100%、UGT−PM(配列番号41)100%、Q126X−PM(配列番号43)50%、Q126X−mm(配列番号44)50%、NAT−mm(配列番号46)100%、719−PM(配列番号29)50%および719−mm(配列番号30)50%を用いた場合の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>本発明の多型検出方法
本発明の多型検出方法は、蛍光色素で標識され、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを複数用いて複数の遺伝子多型を同時に検出する方法であって、
前記複数のオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素は互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素であり、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、
前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されており、
一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出することを特徴とする。
【0011】
本発明における遺伝子多型とは、遺伝子上の特定の位置での塩基の型が複数あることを意味し、多型には塩基置換、一塩基以上の挿入、欠失等が例示される。
【0012】
本発明における「複数の多型」とは、1つの遺伝子での複数の多型を検出する場合、および、複数の遺伝子について各々1つの遺伝子多型を検出する場合の両方が含まれる。
【0013】
本発明の方法では、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識され、それぞれ遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドを用いる。
2種類のオリゴヌクレオチドを用いる場合を例にして説明すると、オリゴヌクレオチド1は第一の多型領域にハイブリダイズし、オリゴヌクレオチド2は第二の多型領域にハイブリダイズし、オリゴヌクレオチド1を標識する蛍光色素とオリゴヌクレオチド2を標識する蛍光色素は互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する。
ここで、近傍とは、蛍光値の検出時に測定結果に影響を与えるような干渉を受けるような波長領域を指す。この近傍な波長領域は蛍光色素の組み合わせによって異なるが、検出波長(極大波長)の差が例えば200nm以内、100nm以内、50nm以内、または30nm以内である。このように検出波長が近傍にある蛍光色素の組み合わせとしては、例えば、BODIPY FLとFAM、BODIPY FLとTRITC、PacificBlueとAlexa Fluor 405、TAMRAとAlexaFluor 670、TAMRAとAlexa Fluor 700、TAMRAとTexas Red等がある。すなわち、本発明の方法においては、必ずしも同一の蛍光色素を使用しなくても、近傍の検出波長を有する蛍光色素で各オリゴヌクレオチドを標識すれば、一種類の波長で複数の多型を同時に検出することもできる。
本発明における一種類の波長とは、同一波長のみならず、前記近傍の波長範囲も意味する。
なお、同一の検出波長を有する場合とは、通常は複数のオリゴヌクレオチドが同じ蛍光色素で標識されていることを意味する。
なお、本発明の方法においては、一種類の波長で複数の遺伝子多型の検出が行われる限り、一種類又は二種類以上の他(前記同一又は近傍以外)の検出波長を有する蛍光色素で標識された一種類又は二種類以上のプローブを用いた遺伝子多型(前記複数の遺伝子多型とは異なる遺伝子多型)の検出を同時または連続して行ってもよい。すなわち、一種類の波長で複数の遺伝子多型の検出が行われる限り、他の一種類又は二種類以上の波長での遺伝子多型の検出を同時または連続して行ってもよい。
【0014】
本発明の方法においては、複数のオリゴヌクレオチドの第一の遺伝子型を含む配列へのTm値を近傍領域に集約させておく。ここで、近傍の温度領域とは、複数のオリゴヌクレオチドの、それぞれの第一の遺伝子型を含む配列へのTm値の差が例えば、0℃〜4℃、0℃〜2℃、または0℃〜1℃である。
また、複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが例えば、3℃以上、5℃以上、または10℃以上離れるように設計されている。
【0015】
第一の多型領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド1と、第二の多型領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド2の2種類のオリゴヌクレオチドを用いる場合を例にして説明する(なお、オリゴヌクレオチドは3種類以上用いてもよい)。
第一の多型領域の第一の遺伝子型(例えば野生型)に対するオリゴヌクレオチド1のTm値と、第二の多型領域の第一の遺伝子型(例えば野生型)に対するオリゴヌクレオチド2のTm値との温度差が例えば、0℃〜4℃、0℃〜2℃、または0℃〜1℃である。
そして、第一の多型領域の第一の遺伝子型(例えば野生型)に対するオリゴヌクレオチド1のTm値と、第一の多型領域の第二の遺伝子型(例えば変異型)に対するオリゴヌクレオチド1のTm値との温度差が例えば、3℃以上、5℃以上、または10℃以上である。
さらに、第二の多型領域の第一の遺伝子型(例えば野生型)に対するオリゴヌクレオチド2のTm値と、第二の多型領域の第二の遺伝子型(例えば変異型)に対するオリゴヌクレオチド2のTm値との温度差が例えば、3℃以上、5℃以上、または10℃以上である。
なお、第一の多型領域の第二の遺伝子型(例えば変異型)に対するオリゴヌクレオチド1のTm値と、第二の多型領域の第二の遺伝子型(例えば変異型)に対するオリゴヌクレオチド2のTm値とは温度差が0℃でもよいが、両変異を判別するためには例えば1℃以上である。
【0016】
第一の遺伝子型を含む配列が野生型配列であり、第二の遺伝子型を含む配列が、野生型配列に対して、1塩基以上の置換変異、挿入変異および/または欠失変異を有する変異型配列である場合は、野生型配列についてのピークを一定温度領域に集約させておき、野生型についてのピークを検出することなく、変異型配列を検出することが可能となる。
すなわち、野生型のTm値は一定温度領域に含まれるので、変異型に該当する、野生型のTm値から変動したピークを検出することにより、変異型の有無が検出できる。
【0017】
すなわち、第一の遺伝子型を含む配列について融解曲線解析のピーク(すなわちTm値)をあらかじめ一定の温度領域に集約させておくことにより、第一の遺伝子型を含む配列については融解曲線解析のピークを測定しなくても、第二の遺伝子型を含む配列のピーク(好ましくは、上述のように、第一の遺伝子型を含む配列のピークから3℃以上変動したピーク)を測定することにより、変異を検出することが可能となる。
【0018】
例えば、オリゴヌクレオチドとして、第一の遺伝子型(野生型)を含む配列と100%マッチし、第二の遺伝子型(変異型)を含む配列にミスマッチを含むような配列を選択し、上述のように、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値より例えば3℃以上、5℃以上、10℃以上高くなるようにすることが望ましい。
あるいは、第一の遺伝子型(野生型)を含む配列に対しミスマッチを含み、第二の遺伝子型(変異型)を含む配列に100%マッチするようなプローブ配列を選択し、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値より例えば3℃以上、5℃以上、10℃以上低くなるようにしてもよい。
【0019】
なお、第一の遺伝子型と第二の遺伝子型はいずれも変異型でもよい。第一の遺伝子型を含む配列および第二の遺伝子型を含む配列が共に変異型配列である場合は、第一の遺伝子型を含む配列に対して、第二の遺伝子型を含む配列が、さらなる変異を含むか否かを検出することもできる。
【0020】
本発明の方法において使用される、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドとしては、例えば、特開2001−286300号公報および特開2002−119291号公報などに記載されるような、末端部が蛍光色素により標識された消光プローブを使用することができる。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、例えば、標的配列にハイブリダイゼーションしないときと比較して、標的配列にハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少または増加する。本発明におけるオリゴヌクレオチドプローブは、例えば、ハイブリダイゼーションしないときに蛍光色素の蛍光が発光し、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が消光する、消光プローブである。
【0021】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブの長さとしては、特に制限されないが、第一の遺伝子型を含む配列と第二の遺伝子型を含む配列との間で、Tm値の差を得るために例えば、40塩基長以下であり、例えば、11〜40塩基長、12〜30塩基長、15〜30塩基長、または18〜30塩基長である。
本発明において使用される遺伝子多型を検出するためのプローブの塩基配列の例としては、例えば、配列番号9〜11、配列番号20〜21、配列番号26〜28、配列番号35〜38で示されるプローブが挙げられる。
蛍光色素としては、特開2001−286300号公報および特開2002−119291号公報などに記載されたものが使用できるが、具体例としては、Pacific Blue、FAM、TAMRA、BODIPY FL等が挙げられる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合方法は、通常の方法、例えば特開2001−286300号公報および特開2002−119291号公報に記載の方法に従って行うことができる。
【0022】
本発明の方法は上記オリゴヌクレオチドプローブを用いる方法であれば特に制限されないが、例えば、融解曲線分析により、遺伝子多型を解析することができる。
本発明方法は、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識した複数のオリゴヌクレオチドプローブを用いること、そして、該複数のオリゴヌクレオチドプローブがそれぞれ、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計され、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値が3℃以上離れるように設計されていることの他は、通常の融解曲線分析(Tm解析)の方法に従って行うことができる。融解曲線分析は、例えば特開2001−286300号公報および特開2002−119291号公報に記載の方法に従って行うことができる。
融解曲線分析において、変異型のピークが検出されたときに、変異が存在すると結論付けることができる。
【0023】
また、本発明の方法は、遺伝子多型を検出する前または遺伝子多型を検出するのと同時に核酸を増幅することを含んでいてもよい。
核酸増幅の方法としては、例えばポリメラーゼを用いる方法であり、その例としては、PCR、ICAN、LAMP等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、例えば、本発明プローブの存在下で増幅を行う。用いるプローブに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTm値を解析するだけなので、反応終了後増幅産物を精製などする必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要すらない。よって、自動化も容易である。
【0024】
本発明において、試料中のDNAは、一本鎖DNAでもよいし二本鎖DNAであってもよい。前記DNAが二本鎖DNAの場合は、例えば、前記ハイブリダイズ工程に先立って、加熱により前記試料中の二本鎖DNAを解離させる工程を含む。二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離することによって、次のハイブリダイズ工程において、検出用プローブとのハイブリダイズが可能となる。
【0025】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸としては、核酸を含んでいればよく、特に制限されないが、例えば、血液、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものである。鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、または該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。
【0026】
Tm解析は、本発明プローブの蛍光色素の蛍光を測定する他は通常の方法に従って行うことができる。蛍光の測定は、蛍光色素に応じた波長の励起光を用い発光波長の光を測定することにより行うことができる。Tm解析における昇温速度は、通常には、0.1〜1℃/秒である。Tm解析を行うときの反応液の組成は、プローブとその塩基配列に相補的な配列を有する核酸とのハイブリダイゼーションが可能であれば特に制限されないが、通常には、一価の陽イオン濃度が1.5〜5 mM、pHが7〜9である。PCR等のDNAポリメラーゼを用いる増幅方法の反応液は、通常、この条件を満たすので、増幅後の反応液をそのままTm解析に用いることができる。
【0027】
Tm解析の結果に基づく遺伝子多型の検出は通常の方法に従って行うことができる。本発明における検出とは、変異の有無の検出や変異の量の検出を包含する。
なお、本発明の多型検出方法により、遺伝子多型を検出することができ、検出された多型の有無に基づいて、薬効や体質に関連する多型の有無を判断し、個体における薬効や体質を予測することができる。例えば、EGFR exon20 insertionの遺伝子多型の場合、抗癌剤であるゲフィチニブの奏効率を判定することができる。
【0028】
<2>本発明キット
本発明キットは、本発明の多型検出方法に用いるためのキットである。
すなわち、本発明のキットは、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識された複数のオリゴヌクレオチドからなる多型検出用プローブを含む、一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出するためのキットであって、前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計され、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されてていることを特徴とする。
【0029】
本発明検出キットは、上記プローブの他に、核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類、特にDNAポリメラーゼを用いる増幅のためのプライマーをさらに含んでいてもよい。
本発明検出キットにおいてプローブ、プライマーおよびその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
【0030】
<3>本発明装置
本発明装置は遺伝子多型検出方法に用いるための装置であり、具体的には、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応部、前記反応部に試料および/または反応液を供給する送液部、前記反応系に蛍光を励起させるための光を照射する光源部、前記反応部の温度を制御する制御部、および蛍光を検出する検出部を含み、前記複数のオリゴヌクレオチドは、<1>本発明の多型検出方法で説明した通り、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする。
反応部には前記複数のオリゴヌクレオチドが固定されていてもよいし、使用直前に前記複数のオリゴヌクレオチドが固定された基板をセットするようになっていてもよい。
送液部は遺伝子を含む試料と反応液を同時に送液できるものでもよいし、別々に送液できるものでもよい。さらに、洗浄液などを送液できるようにしてもよい。
光源部はオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素に対応した励起波長を照射できる光源であればよいが、一種類又は二種類以上の他(前記同一又は近傍以外)の検出波長を有する蛍光色素で標識された一種類又は二種類以上のプローブを用いた遺伝子多型(前記複数の遺伝子多型とは異なる遺伝子多型)の検出を同時または連続して行う場合には、他の励起波長を照射できる一種類又は二種類以上の光源を併用してもよい。
制御部は、例えば、反応部の温度を一定の速度で昇温および降温でき、さらに一定の温度に保つことができる。
検出部はオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素に対応した同一または近傍の検出波長で検出できるものであればよいが、一種類又は二種類以上の他(前記同一又は近傍以外)の検出波長を有する蛍光色素で標識された一種類又は二種類以上のプローブを用いた遺伝子多型(前記複数の遺伝子多型とは異なる遺伝子多型)の検出を同時または連続して行う場合には、他の検出波長を検出できるようにしてもよい。また、検出対象を第二の遺伝子型のみとし、第二の遺伝子型を含む配列のピーク(例えば、第一の遺伝子型を含む配列のピークから3℃以上変動したピーク)のみを検出してもよい。
【0031】
<4>本発明システム
本発明システムは遺伝子多型検出方法に用いるためのシステムであり、具体的には、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応系、前記反応系に試料および/または反応液を供給する送液系、前記反応系に蛍光を励起させるための光を照射する光源系、前記反応系の温度を制御する制御系、蛍光を検出する検出系、および検出結果に基づき多型を判定する判定系を含み、前記複数のオリゴヌクレオチドは、<1>本発明の多型検出方法で説明した通り、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする。
反応系、送液系、光源系、制御系、検出系は前記の本発明装置を使用することができる。また、判定系は本発明装置に接続され、入力された検出結果から多型の型の判定や変異の有無などを出力するようなコンピューターのようなものであってもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0033】
実施例1(EGFR exon20 insertionの鋳型オリゴヌクレオチドを、3種類のプローブおよび2波長で検出する場合)
EGFR exon20 insertionには野生型(以下WT)の他に下記7つの広範囲の変異が知られている。EGFR exon20 insertionに変異を持つ患者のゲフィチニブ奏効率は0%と言われていることから、EGFR exon20 insertionの変異型(以下mt)を検出する必要性がある。
配列番号1に示す配列は、NM_005228.3 GENE ID: 1956における塩基番号2530-2579を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
特許文献1に記載の方法を用いて全てのmtタイプをカバーするためには、40bp程度の長いプローブを用いる必要があるが、これではTm値の差が得られず、変異を検出できない可能性が高い。従って、WTにパーフェクトマッチであり、Tm値がWTのTm値と同じであるプローブをいくつか用意し、かつ、その蛍光基を同じ波長とした。
【0036】
EGFR exon20 insertionの遺伝子多型の部位を含む塩基配列(配列番号1(野生型))に基づき、以下の表2に示す、3’末端部にCを有するプローブ(野生型(配列番号9,10)および(変異型(配列番号11))を設計した。表2中、プローブの位置は、配列番号9,10については配列番号1に示す塩基配列における塩基番号を示し、配列番号11については配列番号7に示す塩基配列における塩基番号を示す。Pacific BlueまたはBODIPY FLによる標識は、常法に従って行った。
また、検出対象として使用した鋳型オリゴヌクレオチド(野生型アンチセンス(配列番号12)および変異型アンチセンス(配列番号13〜19))の配列を表2に示す。これらの配列番号12−19に示す配列は、それぞれ配列番号1−8の完全相補鎖である。
【0037】
なお、配列番号9のプローブにより表1のmt1, 3を検出でき、配列番号10のプローブにより表1のmt2, 4, 5, 7を検出でき、配列番号11のプローブにより表1のmt6を検出できる。
【0038】
【表2】

【0039】
全自動SNPs検査装置(商品名i-densy IS-5310、アークレイ社製)を用いてTm解析を行った。尚、以下のTm解析でも、特別に明記しない限り、同装置を使用した。プローブ溶液の組成は下記の通りである。サンプルは、以下の鋳型オリゴヌクレオチドを用いた。Tm解析の条件は、95℃、1秒→40℃、60秒→(40℃→85℃、1℃/3秒)とした。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ365〜415nmおよび445〜480nm(Pacific Blue)、または、それぞれ420〜485nmおよび520〜555nm(BODIPY FL)とした。
【0040】
【表3】

【0041】
表2のプローブおよび表3の鋳型オリゴヌクレオチドを用いてTm解析を行った結果、WT, mt1, mt2, mt3, mt4, mt5, mt7については、Pacific Blueの変異型の明瞭なピークが見られたが(図1A、1B、1C、1D、1E、1F、1Hの左図)、mt6については、Pacific Blueの変異型のピークは見られなかった(図1Gの左図)。また、mt6については、BODIPY FLの変異型のピークが見られたが(図1Gの右図)、WT, mt1, mt2, mt3, mt4,
mt5, mt7については、BODIPY FLの変異型の明瞭なピークは見られなかった(図1A、1B、1C、1D、1E、1F、1Hの右図)。
すなわち、mt1〜mt7のいずれについても野生型のピーク(72℃)とは異なるピークを検出できたことから、mt1〜mt7の変異の検出が可能であると考えられる。
結果を以下の表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
以上より、3PB-EGFR-insWT-R5、3PB-EGFR-insWT-F4という2種類のプローブを用い、445〜480 nmという1種類の波長で複数の変異を検出することができた。そして、3FL-EGFR-ins7-F1と組み合わせることにより、EGFR exon20 insertion変異の全てを検出することができた。
【0044】
実施例2(異なる2種類の遺伝子からなる鋳型オリゴヌクレオチドを、2種類のプローブおよび1波長で検出する場合)
表5に示す通り、配列番号23からなる塩基配列に相補的な配列を有し、末端部にCを有するプローブ(3PB-858-G-PM(配列番号20)に対応)を設計した。表5中、プローブの位置は、配列番号23に示す塩基配列における塩基番号を示す。また、検出対象として使用した鋳型オリゴヌクレオチドであるパーフェクトマッチ型、以下PM型(配列番号23)および非検出対象であるミスマッチ型、以下mm型(配列番号22)を設計した。
さらに表5に示す通り、配列番号25からなる塩基配列に相補的な配列を有し、末端部にCを有するプローブ(3PB-3A4-G-PM(配列番号21)に対応)を設計した。表5中、プローブの位置は、配列番号25に示す塩基配列における塩基番号を示す。また、検出対象として使用した鋳型オリゴヌクレオチドであるPM型(配列番号25)および非検出対象であるmm型(配列番号24)に対応)を設計した。
【0045】
【表5】

【0046】
PCR反応液の組成は下記の通りである。試料は、以下の組み合わせの鋳型オリゴヌクレオチドを用いた。Tm解析の条件は、95℃、1秒→40℃、60秒→(40℃→75℃、3℃/1秒)であった。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ365〜415nmおよび445〜480 nm(Pacific Blue)とした。
【0047】
【表6】

【0048】
表5のプローブを用いてTm解析を行った結果、検出対象である核酸配列(配列番号23,25)を50%含む場合(図2B、D)、10%含む場合(図2C、E)に関わらず、mm型のピークに加えて、PM型の明瞭なピークが見られた。
すなわち、いずれの場合についてもmm型のピーク(55℃)とは異なるピークを検出できたことから、10%の感度で検出対象であるPM型の検出が可能であると考えられる。
【0049】
実施例3(異なる3種類の遺伝子からなる鋳型オリゴヌクレオチドを、3種類のプローブおよび1波長で検出する場合)
表7に示す通り、3種類の塩基配列(配列番号29,31,33)に相補的な配列を有し、末端部にCを有するプローブ(3T-719-G-PM、3T-858-G-PM、3T-790-T-PM(配列番号26−28)に対応)を設計した。表7中、プローブの位置は、それぞれ配列番号29,31,33に示す塩基配列における塩基番号を示す。また、検出対象として使用した鋳型オリゴヌクレオチドであるmm型(配列番号30,32,34)、と非検出対象であるPM型(配列番号29,31,33)を設計した。
【0050】
【表7】

【0051】
PCR反応液の組成は下記の通りである。試料は、以下の組み合わせの鋳型オリゴヌクレオチドを用いた。Tm解析の条件は、95℃、1秒→40℃、60秒→(40℃→75℃、3℃/1秒)であった。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ520〜555nmおよび585〜700nm(TAMRA)とした。
【0052】
【表8】

【0053】
表7のプローブを用いてTm解析を行った結果、検出対象である核酸配列(配列番号30,32,34)を50%含む場合(図3B、C、D)、PM型のピークに加えて、mm型の明瞭なピークが見られた。
すなわち、いずれの場合についても野生型のピーク(65〜66℃)とは異なるピークを検出できたことから、異なる3種類の遺伝子多型の検出が可能であると考えられる。
【0054】
実施例4(異なる5種類の遺伝子からなる鋳型オリゴヌクレオチドを、5種類のプローブおよび3波長で検出する場合)
表9に示す通り、5種類の塩基配列(配列番号29,39,41,43,45)に相補的な配列を有し、末端部にCを有するプローブ(3T-719-G-PM、5PB-V12M-A-PM、3PB-UGT-T-PM、5FL-Q126X-T-PM、3FL-NAT-C-PM((配列番号26,35−38)に対応))を設計した。表9中、プローブの位置は、それぞれ配列番号29,39,41,43,45に示す塩基配列における塩基番号を示す。また、検出対象として使用した鋳型オリゴヌクレオチドであるPM型(配列番号39,41,43)およびmm型(配列番号30,46)、および非検出対象であるmm型(配列番号40,42,44)およびPM型(配列番号29,45)を設計した。
【0055】
【表9】

【0056】
PCR反応液の組成は下記の通りである。試料は、以下の鋳型オリゴヌクレオチドを用いた。Tm解析の条件は、95℃、1秒→40℃、60秒→(40℃→85℃、3℃/1秒)であった。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ 365〜415nmおよび445〜480nm(PacificBlue)、それぞれ420〜485nmおよび520〜555nm(BODIPY FL)、または、それぞれ520〜555nmおよび585〜700 nm(TAMRA)とした。
【0057】
【表10】

【0058】
表9のプローブを用いてTm解析を行った結果、Pacific Blueについては、配列番号40および42のオリゴヌクレオチドを有する場合にのみ新たなピークが検出され(図4B、4Cの左図)、配列番号40および42のオリゴヌクレオチドを有さないサンプルについては2つのピークのみが見られた(図4A、4D、4E、4Fの左図)。
BODIPY FLについては、配列番号44および45のオリゴヌクレオチドを有する場合にのみ新たなピークが検出され(図4D、4Eの中央図)、配列番号44および45のオリゴヌクレオチドを有さないサンプルについては1つのピークのみが見られた(図4A、4B、4C、4Fの中央図)。
TAMRAについては、配列番号29のオリゴヌクレオチドを有する場合にのみ新たなピークが検出され(図4Fの右図)、配列番号29のオリゴヌクレオチドを有さないサンプルについては1つのピークのみが見られた(図4A〜Eの右図)。
以上より、5PB-V12M-A-PM、3PB-UGT-T-PMという2種類のプローブを用い、445〜480 nmという1種類の検出波長で2種類のオリゴヌクレオチド(配列番号40および42)を検出することができた。また、5FL-Q126X-T-PM、3FL-NAT-C-PMという2種類のプローブを用い、520〜555 nmという1種類の検出波長で2種類のオリゴヌクレオチド(配列番号44および45)の変異を検出することができた。そして、3T-719-G-PMと組み合わせることにより、5種類の変異の全てを検出することができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、薬効や体質に関連する複数の遺伝子変異を一度で測定することができる方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光色素で標識され、遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを複数用いて複数の遺伝子多型を同時に検出する方法であって、
前記複数のオリゴヌクレオチドを標識する蛍光色素は互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素であり、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、
前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されており、
一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜4℃である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜2℃である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記複数のオリゴヌクレオチドの、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値の差が0℃〜1℃である請求項1記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の遺伝子多型の検出方法と、前記の同一又は近傍波長以外の1種類以上の蛍光色素検出波長を用いた遺伝子多型の検出方法を同時に又は連続して行う、遺伝子多型の検出方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項記載の遺伝子多型の検出方法と、前記の同一又は近傍波長以外の2種類以上の蛍光色素検出波長を用いた遺伝子多型の検出方法を同時に又は連続して行う、遺伝子多型検出方法。
【請求項7】
前記第一の遺伝子型を含む配列が野生型配列であり、前記第二の遺伝子型を含む配列が、野生型配列に対して、1塩基以上の置換変異、挿入変異、欠失変異を有する配列である、請求項1〜6のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、多型検出用プローブである、請求項1〜7のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、多型検出用プローブである、請求項8記載の遺伝子多型検出方法。
【請求項10】
互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識された複数のオリゴヌクレオチドからなる多型検出用プローブを含む、一種類の波長で複数の遺伝子多型を同時に検出するためのキットであって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、
前記複数のオリゴヌクレオチドはそれぞれ、第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されている、キット。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項記載の遺伝子多型検出方法を用いて薬効や体質に関連する多
型の有無を測定することを含む、個体における薬効や体質を予測する方法。
【請求項12】
遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応部、
前記反応部に試料および/または反応液を供給する送液部、
前記反応部に蛍光を励起させるための光を照射する光源部、
前記反応部の温度を制御する制御部、および
蛍光を検出する検出部
を含む、遺伝子多型検出装置であって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする、遺伝子多型検出装置。
【請求項13】
遺伝子多型を含む領域にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドが収容された反応系、
前記反応系に試料および/または反応液を供給する送液系、
前記反応系に蛍光を励起させるための光を照射する光源系、
前記反応系の温度を制御する制御系、
蛍光を検出する検出系、および
検出結果に基づき多型を判定する判定系
を含む、遺伝子多型判定システムであって、
前記複数のオリゴヌクレオチドは、互いに同一であるかまたは近傍の検出波長を有する蛍光色素で標識されており、前記複数の遺伝子多型における第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値が互いに近傍の温度になるように設計されており、それぞれが第一の遺伝子型を含む配列に対するTm値と第二の遺伝子型を含む配列に対するTm値とが3℃以上離れるように設計されていることを特徴とする、遺伝子多型判定システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【公開番号】特開2013−9669(P2013−9669A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−122771(P2012−122771)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】