同一平面上にマイクロ流体回路および電気スプレーノズルを有するラボオンチップ
【課題】電気スプレーソース部分(またはノズル)を修正することにより、より高い流量を得ること。
【解決手段】支持プレート46、支持プレート上に接合した流体プレート51に形成した少なくとも1個の流体回路、及び流体プレート上に接合し、流体回路を覆うカバープレート41を有するラボオンチップに関する。流体回路は、第1端部において、噴霧すべき液体が流入することができる流入オリフィスに接続し、第2端部において、液体を噴霧するよう、流体プレート51に形成した出口チャネル53の第1端部に接続する。流体プレート51は、鋭い突端部を有する電気スプレーノズル54まで延在し、この電気スプレーノズルにおいて、出口チャネルの第2端部はラボオンチップの電気スプレー出口を形成する。カバープレート41は、電気スプレーノズルに位置するチャネル53の屋根部分を形成する鋭い突端部45を有する。
【解決手段】支持プレート46、支持プレート上に接合した流体プレート51に形成した少なくとも1個の流体回路、及び流体プレート上に接合し、流体回路を覆うカバープレート41を有するラボオンチップに関する。流体回路は、第1端部において、噴霧すべき液体が流入することができる流入オリフィスに接続し、第2端部において、液体を噴霧するよう、流体プレート51に形成した出口チャネル53の第1端部に接続する。流体プレート51は、鋭い突端部を有する電気スプレーノズル54まで延在し、この電気スプレーノズルにおいて、出口チャネルの第2端部はラボオンチップの電気スプレー出口を形成する。カバープレート41は、電気スプレーノズルに位置するチャネル53の屋根部分を形成する鋭い突端部45を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一平面上のマイクロ流体回路および同一平面状の電気スプレーノズルを有するラボオンチップに関する。特に、ラボオンチップを質量分析計に接続することに関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間、様々なマイクロ流体装置を質量分析計に接続するために、多数の手法が研究されてきた。光学検出方法、例えば、分光光度法や蛍光法は、タンパク質やペプチドのような生物学的分子の検出に適しており、この検出は、プロテオミクスの分野では特に関心を持たれている。これら光学検出方法の限界は、その感度と、例えば酵素消化後にタンパク質を識別するために試料(蛍光タギング)を調製する必要があることであり、この試料調製は、得られるペプチドが理論的に未知であるがゆえに問題を生ずる。従って、質量分析法がしばしば選択される。なぜなら、それは分析試料(電荷質量比による強度スペクトル)の性質に関する情報を非常に良好な感度(フェムトモル/μl)で得られ、また分子の複合混合物の分析もまた可能であるからである。この目的のために、しばしば分析の前に試料を予め処理することが必要である。例えばこの前処理には、化合物または生物学的化合物の分離、そして分離の前か後に種の濃縮がある。
【0003】
分析に続くこの前処理を最短時間内で行い、そして使用する試薬の量を最小限にするために、マイクロ流体の分野における最近の開発成果を利用することができる。その例としては、例えばマイクロ流体酵素消化装置(非特許文献1)、キャピラリー電気泳動(非特許文献2)、または2D分離(非特許文献3または非特許文献4)などのようにすでに開示されているものがある。
【0004】
マイクロ流体/質量分析法の組み合わせは、電気スプレーによる試料のイオン化(電気スプレーイオン化‐ESI)に基づくことができる。大気圧で、そして非常に強い電界下で、マイクロ流体チップから出る前処理済みの液体試料は、イオンガスまたは多数の帯電液滴として霧化され、分析のために質量分析計(MS)に入ることができる。この霧化は、出て行く液体と環境ガス(液体メニスカス/ガス)の間に形成される界面(インタフェース)の変形を引き起こし、そして液体の「滴」は「テイラーコーン」と呼ばれる円錐体の形状を取る。この円錐体の容積は出て行く液体のための死容積(化合物が混じり合うことができる幾何学的空間)を形成し、それは特に全処理の最終段階がまさに試料の化学混合物の分離から成るときに望ましくない。そういうわけで、この円錐体のサイズを最小化することが常に求められ、そしてとりわけここのとはマイクロ流体チップの排出チャネルの内外寸法を減らすことに関わる。
【0005】
従来、質量分析法による分析の間、試料はESI装置の外で前処理し、そして(ピペットを用いて)手動でその先端が電気伝導性である中空針(例えば、
ニュー・オブジェクティブ(New Objective)社
による「PicoTip emitter」」)内に配置する。電界をPicoTipの導電性部分とMS注入口との間に加えることにより、テイラーコーンをPicoTipの排出口および試料の霧化の際に形成することができる。PicoTipの「鋭い」円筒形状は、小さいテイラーコーンの形成に理想的である。しかし、それらのサイズ(従来は360μmの外径と10μmの内径)の最小化に関する限界、使用する加工技術(引き抜き技術)によって得られる良好な再現性と、使用する際の脆性に関する限界は、他の型のスプレー装置(デバイス)の探求を促す根本的な理由である。
【0006】
文献において、これらデバイスを平面シリコン技術のようなマイクロ技術(厚みと比較して非常に大きい横方向寸法を有する基板上の様々な物質のエッチング加工、機械加工、薄層堆積、そしてフォトリソグラフィ)を用いて製造するとき、しばしば「質量分析溶のMEMS電気スプレーノズル」(特許文献1)を参照する。この製造には、2つの重要ポイントがある。
【0007】
第1に、マイクロ技術を使用して、(PicoTipのような)鋭い先端型であり、しかも(テイラーコーンの容積を制限するために)サイズがより小さく、より再現可能であり、より脆性がないという構体を画定することにより、ESIインタフェースを製造することができる。これはそれ自体有利である(特許文献2参照)。
【0008】
第2に、マイクロ技術を使用して、試料およびESI型のインタフェースの前処理を確実にするために流体回路を統合するデバイスを製造することができる。上述の利点(出て行く死空間の減少、再現性、ESIインタフェースの堅牢性)に加え、統合した前処理デバイスに関連する利点(分析に続く前処理手順、全分析時間の減少、試薬体積の最小化)からもまた利益を得る。
【0009】
それにもかかわらず、これら集積(統合)は3点の重大な技術的設計課題を引き起こす。
・第1に、デバイスに用いる加工技術は、前処理流体回路(リザーバ、マイクロチャネル、反応器)およびESIインタフェース(先端形状、最小排出口寸法など)に用いる加工技術と互換性を持たなければならず、したがって、2個の統合した集積体に共通の技術的順序を有する1個の同一支持体または1個の支持体の同一組立体上に、完全なデバイスを加工することができるようにしなければならない。
・第2に、前処理流体回路内および別に得られるESIインタフェース内に存在しうる死空間に、さらなる死空間が加わらないように設計しなければならない。
・最後に、システムに死容積を加えることなしに、ESIインタフェースにスプレー電極を設けなければならない。このスプレー電極は、先端構造の外側(非特許文献5)または装置の排出口付近における排出チャネルの内側に位置することができる。第1ケースでは、電界を単に装置の外側、先端の端とMS注入口との間に位置する空気(または他のガス)部分に加える。第2ケースでは、電界はまた装置の内側、電極と先端の端との間に位置する液体部分に存在する。外部電極を挿入するために、一つの大きな難題はその十分な堅牢性を確実にすることであるとしばしば報告される。(非特許文献6)この目的のために形成される導電性堆積物は、強い電界の作用下であまりにも急速に劣化することがよくある。
【0010】
カバー基板は導電性とすることができる。
【0011】
この分野における1つの大きな前進は、試料の様々な処理を可能とし、ESI型の質量分析計を備える良好なインタフェースを有するマイクロ流体装置を開示する特許文献3(国際公開第2005/076,311号)において提案された。そして特許文献3は、以下を必要とする。
・前処理流体システム(リザーバ、マイクロチャネル、反応器など)の加工技術および排出ESIインタフェース(先端形状、最小排出口寸法など)の加工技術と互換性を持ち、2個の統合した集積体に共通の技術的順序を有する1個の同一支持体または1個の支持体の同一組立体上に、完全デバイスを製造することができる製造技術
・死空間のない統合設計
・デバイスの排出口付近における排出チャネルの内側におけるスプレー電極の統合
【0012】
このラボオンチップは、支持体、少なくとも1個の流体回路、流体回路に連結した少なくとも1個の流体注入口、そして流体回路に接続した少なくとも1個の流体排出口を有する。それは、支持体上に装着した薄層を有し、そこに流体回路と電気スプレーノズルを加工する。電気スプレーノズルは、支持体上に突き出し、その一方の端部を流体回路に接続し、他方の端部は前記流体排出口を形成するチャネルを有する。チャネルは、少なくとも1個の電極を形成する導電手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第98/35376号
【特許文献2】国際公開第00/30167号
【特許文献3】国際公開第2005/076,311号
【特許文献4】仏国特許第2,818,662号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ライアン・ジ・ジン氏の,「電気浸透ポンプによって稼動するマイクロチップに基づいたタンパク質分解システム」,Lab Chip,2003年3月,p.11〜18
【非特許文献2】B.ザーン氏らの,「キャピラリー電気泳動電気スプレー質量分析のための微細加工装置」,Anal. Chem., 71号,n°15,1999年,p.3259〜3264
【非特許文献3】J.D.ラムゼイ氏の,「マイクロ流体装置におけるタンパク質消化物の高効率二次元分離」,Anal. Chem., 2003年,75号,p.3758〜3764
【非特許文献4】N.ゴッシュリッヒ氏らの,「マイクロチップにおける二次元電気クロマトグラフィ/キャピラリー電気泳動」,Anal. Chem., 2001年,73号,p.2669〜2674
【非特許文献5】M.スフェデルベルグ氏らの他,「ポリマーマイクロチップからの覆いのない電気スプレー」, Anal. Chem., 2003年,75,p.3934〜3940
【非特許文献6】R.B.コール氏の,「電気スプレーイオン化質量分析法:原理、器具そして応用」,John Wiley & Sons: New York, 1997年
【非特許文献7】ビン・ヘ氏らの他:「液体クロマトグラフィのためのナノ支柱の加工」,Anal. Chem., 1998年,70,p.3790〜3797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載の装置において、電気スプレー国際公開第2005/076,311号ソースの流量が0.3μl/分に制限されることが分かった。この流量では、ソースの根元、つまり外気内にある排出チャネルの開始部においてオーバーフローが起こる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者は、この制限された流量の考えられる原因と、考えられるその改善策を探求した。本発明者は、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載のデバイスの様々な改良型の電気スプレーソース部分(またはノズル)を修正することにより、より高い流量を得ることが可能であることを発見した。電気スプレーソースまたはノズルのこの修正は、「屋根部」でソースを覆うことによって、またはソースに「屋根部」および「床部」の両方を設けることによってソースを「閉じる」ことを含む。
【0017】
従って本発明の目的は、支持プレート、支持プレート上に接合した流体プレートと称されるプレートに形成した少なくとも1個の流体回路、および流体プレート上に接合し、流体回路を覆うカバープレートと称されるプレートを有するラボオンチップであって、流体回路は、第1端部で、噴霧する液体を注入することができる入口に製造し、第2端部で、液体を噴霧するために、流体プレートに形成した排出チャネルの第1端部に製造し、流体プレートは、鋭い突端部を有する電気スプレーノズルまで延在させ、排出チャネルの第2端部がラボオンチップの電気スプレー排出口をなすよう形成し、カバープレートは、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための屋根部を形成する鋭い突端部を有する構成とする。
【0018】
ある特定の実施形態によれば、支持プレートは、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための床部を形成する鋭い突端部を有する。実施形態のある変更した実施形態によれば、電気スプレー排出口を形成する排出チャネルの第2端部を、屋根部および床部を形成する鋭い突端部よりも引っ込んだ状態に形成する。
【0019】
入口は、カバープレートまたは支持プレートに形成した穴とすることができる。
【0020】
カバープレートは、シリコン製とすることができる。
【0021】
支持プレートは、流体プレート側の側面に、流体プレートに流体回路を形成する間に支持プレートの残りを保護することができる保護層を有するものとすることができる。流体プレートはシリコン製とすることができる。この場合、この実施形態のある変更例によれば、流体プレート、保護層、および支持プレートの残りの部分は、それぞれ、同一のシリコン・オン・インシュレータにおける薄層、埋設酸化物層、および支持体に由来するものとする。
【0022】
カバープレートは導電性とすることができる。
【0023】
添付図面につき非限定的な実施形態として説明する以下の記載を読むことにより、本発明をより良く理解でき、他の利点および特徴が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるラボオンチップの線図的説明図である。
【図2】図1のラボオンチップにおいて用いる酵素消化反応器のCOMOSS構造を示す。
【図2A】図2の詳細を示す。
【図3】図1のラボオンチップにおいて用いる予濃縮反応器のCOMOSS構造を示す。
【図3A】図3の詳細を示す。
【図4】図1のラボオンチップにおいて用いるクロマトグラフィ反応器のCOMOSS構造を示す。
【図4A】図4の詳細を示す。
【図5A】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5B】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5C】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5D】5Dは、製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図であり、5D′は、製造過程における段階のカバープレートの斜視図である。
【図5E】製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図である。
【図5F】5Fは、製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図であり、5F´は、製造過程における段階の支持プレートの斜視図である。
【図5G】製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図である。
【図5H】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5I】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5J】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5K】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5L】支持プレート上に流体プレートを有する組立体上に、カバープレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5M】支持プレート上に流体プレートを有する組立体上に、カバープレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5N】本発明の実施形態によるラボオンチップの最終製造ステップの段階を示す縦断面図である。
【図5O】本発明の実施形態によるラボオンチップの最終製造ステップの段階を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第1変更例によるラボオンチップの部分斜視図である。
【図7】本発明の第2変更例によるラボオンチップの部分斜視図である。
【図8A】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8B】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8C】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8D】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8E】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明が適用するラボオンチップ1の線図的説明図である。この装置は、18mmの長さと5mmの幅を有するものとすることができる。
【0026】
流体回路
まず、タンパク質含有を同定するために複合生物学的試料を準備することを意図する流体回路(ネットワーク)を説明する。この流体回路は、リザーバおよびチャネルの組立体、酵素消化反応器、予濃縮反応器、ならびに液体電気クロマトグラフィによる分離反応器により構成する。これら全ての反応器の基本構造は、正方形または六角形断面を有する多数の支柱を設けた深い空洞である。このタイプの構造はCOMOSS(Collocated Monolith Support Structure:配列モノリス支持構造)として知られている。この点に関して、非特許文献7による記事を参照することができる。全ての反応器にとって、これらCOMOSS構造によって実現する大きい面積/体積比から利益を得る。これら比率は、移動相(例えば酵素消化反応器のためのタンパク質)における分子と固定相(例えば酵素消化反応器のためのトリプシン)との間の「出会う」確率を増加させる。
【0027】
緩衝液で流体回路を完全に予充填した後、生物学的試料(タンパク質)をリザーバR1に投入し、つぎに酵素消化反応器2を経てリザーバR1からリザーバR2に電気浸透下で送給する。大容積リザーバを流体回路の様々な反応器間に配置し、手順の2つの連続的なステップ間で緩衝液を変更することができる。したがって、R1は重炭酸アンモニウム([NH4HCO3]=25mM;pH=7.8)を含み、R2,R3およびR4は水/アセトニトリルACN/ギ酸TFA(95%;5%;0.1%)の混合物を含む。一方、R5は水/アセトニトリル/ギ酸(20%;80%;0.1%)の混合物を含む。リザーバR2に集積した消化物は分離前に濃縮しなければならない。この目的のために、集積した消化物を電気浸透下でリザーバR3(ビン)に送給する。このとき酵素消化から生じる全てのペプチドを、小容量予濃縮反応器3によって「捕獲」し、ついで濃縮する。この後、「蛇行」型の構体4(長さ2cm)においてR4緩衝液とR5緩衝液の混合物によって形成されるアセトニトリル勾配培養を、予濃縮反応器3において固定相(例えばC18)との親和性に基づいて選択的にペプチドを分離する。これらを、クロマトグラフィカラム5によって再び「捕獲」し、このクロマトグラフィカラム5は予濃縮反応器3より密度が高いものとする。ACNとの混合物を濃縮することにより、クロマトグラフィカラム5からこれらペプチドを選択的に分離し、また分離したペプチドをチップ1の出口6に向けて転移させることが可能となり、出口6において、液体は質量分析計(図示せず)の入口に向けて噴霧される。
【0028】
ある所定のタンパク質(図示せず)との親和性を有する反応器を使用して、この反応器を経て移送された多タンパク質混合物内のこの所定タンパク質を捕獲することができる。この目的のために、上述した流体回路の上流域に、リザーバ/親和性反応器/濃縮反応器の組立体を、上述したのと同一の流体原理に基づいて動作するよう統合することができる。親和性反応器は、抗体によって機能化することができ、また溶離緩衝液は、多タンパク質複合体における「捕獲」したいものと共働する(抗体に対して)タンパク質により構成することができる。
【0029】
上流域親和性反応器
COMOSS構造は、複合生物学的試料内のタンパク質、タンパク質ファミリーまたは多プロテイン複合体の特別な捕獲を目的とする。このステップのために使用するツールは抗体とすることができるが、例えば所望のタンパク質との特別な相互作用を有する小分子とすることもできる。
【0030】
酵素消化反応器
図2に示した酵素消化反応器のCOMOSS構造は、チャネル回路は、約5μmに画定することができる10μm六角形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅aは一定(640μm)であるが、その実際幅bは892μmである。反応器の活性部分の長さcは15mmである。図2から読み取ることができる、他の幾何学的特徴を以下の表1に記載する。
【0031】
【表1】
【0032】
この構造は、随意的にシリカの「ビーズ」または数マイクロメートルの微小球(例えば、Serotec社によってフランスで配布されたBangs研究室による微小球)を配置することができ、それらは反応器にその酵素的特性を与える、またはこのような特性を増強するよう機能化される(例えばトリプシン)。
【0033】
例えば、支柱に接合する酵素はトリプシンとすることができる。その後の手順は特許文献4(仏国特許出願公開第2,818,662号)に記載されている。
【0034】
図2Aは、図2で参照符号11を付した反応器部分の詳細を示す。六角形断面の支柱12はこの図に見ることができ、この支柱12はチャネル13の回路を画定する。参照符号14は随意的に用いることができるシリカ微小球を示す。
【0035】
予濃縮反応器
図3に示す予濃縮反応器のCOMOSS構造は、約2μmのチャネル回路を画定する10μm正方形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅dは一定(160μm)であるが、その実際幅eは310μmである。反応器の活性部分の長さfは170μmである。図3を参照して読み取ることができる他の幾何学的特徴を、以下の表2に記載する。
【0036】
【表2】
【0037】
この構造は、シリカのビーズを随意的に組み込むことができ、それらは反応器にその親和性特性を付与する、またはそのような特性を増強するよう機能化する(例えばC18の接合)。
【0038】
図3Aは、図3で参照符号21を付した反応器部分の詳細を示す。正方形断面の支柱22を見ることができ、これら支柱22はチャネル23の回路を画定することができる。
【0039】
液体電気クロマトグラフィによる分離反応器
図4に示す分離反応器のCOMOSS構造は、チャネル回路を約2μmと画定することができる10μm正方形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅gは一定(160μm)であるが、その実際幅hは310μmである。反応器の活性部分の長さiは12mmである。図4を参照して読み取ることができる他の幾何学的特徴を、以下の表3に記載する。
【0040】
【表3】
【0041】
スペースを節約するために、反応器は3部分において製造することができ、各部分は図1に示すような12mmの長さを有する。
【0042】
この構造は、随意的にシリカビーズを組み込むことができ、それらは反応器にその親和性特性を付与する、またはそのような特性を増強するよう機能化する(例えばC18の接合)。
【0043】
図4Aは図4で参照符号31を付した反応器部分の詳細を示す。それは正方形断面の支柱32を示し、これら支柱32はチャネル33の回路を画定することができる。
【0044】
電気スプレー源(ソース)
本発明の一実施形態を、以下に詳しく説明する。
【0045】
好適な実施形態は、電気浸透によってではなく高圧ポンプによって噴霧される液体を動かすために、流体力学を用いることに基づく。これにより、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載された装置に必要な電極のうちいくつかを省略することができる。ある所定電位で噴霧すべき液体を配置するのに必要な電極は、例えば導電性材料として選択したカバーにより構成する。1つの変更した実施形態においては、電気絶縁カバー、流体プレートおよび支持プレートを選択することを含む。ここのとは、これらプレートをシリコン製とする場合、熱酸化によって得ることができる。この場合、電位は、入口毛細管との接続部において装置への入口に配置した市販の液界によって加えることができる。
【0046】
本発明の1つの好適な実施形態は、シリコン製の3個のプレート(支持プレート、液体プレートおよびカバープレート)の構築および組み立てにあり、これらプレートは物理化学的研磨そしてDRIEエッチング(乾燥反応イオンエッチング)により薄層化する。プレートの組み立ては、分子結合またはウエハー接合によって有利に得ることができる。
【0047】
流体プレートにおける流体回路の形成は、以下では詳述しない。この形成については、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)を参照できる。後述する実施形態の実施例において、流体回路は、死容積には結合することのない(曲折部なし,断面の制限なし等)ESI源(ソース)のチャネルと同一平面上にある。流体回路は、主に正方形断面および15μm×15μmの寸法のチャネルで構成することができる。
【0048】
さらに、複数のデバイスを形成するために、直径200mmのシリコン製のプレートを使用する。3個のプレートの諸元は例として提示するが、諸元としては厚さおよび特性がある。
【0049】
図5A〜5Dは、製造過程の順次の加工段階におけるカバープレートの縦断面図であり、この縦断面はプレートの長手方向軸線に沿って得られる。図5D′は、この加工段階におけるカバープレートの斜視図である。
【0050】
図5Aは、200mmの直径を有するシリコン製のプレート41(デバイスのカバーに対応する)の一部を示し、このプレートは一方の側面が研磨され、0.01〜0.02Ω.cm.の範囲における電気伝導率を有する。プレート41の研磨面は、PECVD(物理化学気相成長法)によって形成した厚さ2.5μmの酸化ケイ素層42で被覆する。この酸化物層はエッチングマスクとして作用する。
【0051】
この後、エッチングマスクをフォトリソグラフィによって構築する。この目的のために、樹脂層43を施し、それからフォトリソグラフィを行う(図5B参照)。リソグラフィは樹脂層43に酸化物層42を露出させるパターンを画定する。この樹脂をつぎに除去する。この後、デバイスの入口を形成するための止まり穴44を、DRIEエッチングによりプレート41に形成する。同一マスクおよび同一エッチングにより、カバープレート41の上方部分に長手方向軸線に沿ってカバープレートの直線的部分を画定およびエッチングし、鋭い突端部45を形成する。エッチングの深さは、例えば170μmとする。
【0052】
この後、酸化物層を除去する。これにより(図5D参照)、流体入口44およびESIソースの一部である鋭い突端部45を有し、部分的にエッチングしたプレートを得る。
【0053】
図5D′は、図5Dの縦断面図に対応し、鋭い突端部45をよりよく理解できる斜視図である。
【0054】
図5E〜5Gは、製造過程中の順次の段階における支持プレートの縦断面図であり、縦断面はプレートの長手方向軸線に沿って得られる。図5F′は、支持プレートの斜視図である。
【0055】
図5Eは200mmの直径を有するシリコン製のプレート46(デバイスの支持体に対応する)の一部を示し、このプレートは両側側面を研磨し、550μmの厚さを有する。プレート46の一方の側面を、PECVDによって形成した厚さ2.5μmの酸化ケイ素層47で被覆する。この酸化物層はエッチングマスクとして作用する。
【0056】
つぎに、エッチングマスクをフォトリソグラフィによって構成する。この目的のために、樹脂層を堆積し、それからフォトリソグラフィを行う。樹脂の除去および長手方向軸線に沿う支持プレート46の直線的部分におけるDRIEエッチングの後、リソグラフィは鋭い先端形状の突端部48を画定する。この突端部は図5F′からよく分かる。
【0057】
この後、プレート46を熱的に酸化し、プレート46の各側面上に酸化物層49および50を設ける。酸化物層49は、当然のことながら、鋭い突端部48(図5F′参照)の下方に位置するプレート46のエッチング済みの部分上にも形成する。これら酸化物層49および50の厚さは1.5μmとすることができる。これら酸化物層は、流体プレートの次のエッチング段階におけるエッチング停止層として作用する(図5G参照)。
【0058】
図5Hは支持プレートおよび流体プレート(実際は流体プレートを形成する目的のプレート)の組立体の縦断面図であり、この縦断面はこれらプレートの長手方向軸線に沿って得られる。この図は組立てたプレート(デバイスに対応する)の一部を示す。直径200mm、厚さ550μmのシリコン製のいわゆる流体プレート51は、側面のうち研磨した一方の側面で支持プレート46上に接合する。この接合は分子結合によって行い、鋭い突端部48側の側面で行う。
【0059】
流体プレート51は支持プレート46上に接合し、ついで設計上の厚さが得られるまで(例えば15μm)物理化学的研磨によって薄層化する。このことを図5Iに示す。
【0060】
この後、薄層化した流体プレートを構築する。この段階(ステップ)を図5Jに示す。この目的のために、樹脂マスク(厚さ1.5μm)を薄層化した流体プレート51上に堆積し、適切なパターンを用いてフォトリソグラフィを行う。次に、流体プレート51において、ESIソースの流体回路52およびチャネル53を、DRIEエッチングを用いて同時に加工する。サポートの酸化物層49はエッチング停止層として作用する。流体プレート51の直線的部分における長手方向軸線に沿う同様のエッチングにより、鋭い突端部54を得ることができ、この突端部は、例えば支持プレート46の鋭い突端部48上に重ね合わせることができ、また排出チャネル53を生ずる。
【0061】
次に、酸化ケイ素層55を、構築した流体プレート51上に形成する(図5K参照)。形成する酸化物層の厚さは0.1〜数μmの範囲とすることができる。
【0062】
図5Lと5Mは、流体プレート上にカバープレートを組み付ける状況を示す。カバープレート41(図5D参照)、すでに支持プレート46に接合した流体プレート51を、図5Lに示すように上下に整列させる。このとき、カバープレート41の鋭い突端部45を、流体プレートの突端部54およびサポートプレートの突端部48に整列させる。この後、カバープレート41を分子結合によって流体プレート51上に取り付ける(図5M参照)。このようにして、鋭い突端部48,54および45が重なり合う。
【0063】
つぎに、鋭い突端部48を露出させるために、支持プレート46を物理化学的研磨によって薄層化する。このことを図5Nに示す。
【0064】
この後、鋭い突端部45を露出させるためおよび穴44にアクセスするために、カバープレート41を薄層化する。この段階(ステップ)は物理化学的研磨を用いて行うことができ、カバープレート41の自由側面から開始する。DRIEエッチングは穴44の開口部を良好に仕上げるために用いることができる。図5Oは、このようにして得られた結果を示す。
【0065】
デバイスの個別チップへの分離は、切断、割裂、または破断によって得ることができる。
【0066】
図6は本発明によるラボオンチップの部分斜視図であり、まさに上述の方法を用いて得られる。実施形態のこの例において、カバープレート41の鋭い突端部45、流体プレート51の突端部54、そしてサポートプレート46の突端部48は同じ形状である。したがって、ESIソースのチャネル53はソース出口である限り、突端部48で構成した床面、および突端部45で構成した屋根面を備える。
【0067】
図7は本発明による他の実施形態のラボオンチップにおける部分斜視図であり、上述の方法を用いて得られる。本発明による実施形態のこの実施例においては、流体プレート51の鋭い突端部54の先端を截頭し、カバープレート41の鋭い突端部45およびサポートプレート46の突端部48よりも引っ込んでいる。この電気スプレーノズル形状は、テイラーコーンにおけるより良好な安定性を可能にする。
【0068】
図6および図7に示したもの以外の変更例は、カバープレートの鋭い突端部が排出チャネルのための屋根として機能し続ける場合に可能である。例えば、支持プレートの鋭い突端部の先端を、流体プレートの鋭い突端部の先端よりも引っ込ませることができ、流体プレート自体をカバープレートの鋭い突端部の先端とよりも引っ込ませることができる。
【0069】
本発明の他の実施形態として、市販のSOI基板を用いて、以下に説明する。
【0070】
図8AはSOI基板の縦断面図である。この基板の処理は、説明を簡略化するため、単一のラボオンチップの場合に制限する。このSOI基板60は、埋設した酸化ケイ素層62および薄シリコン層63を順次に支持するシリコン支持体61を有する。基板60の直径は200mmとすることができる。薄いシリコン層63の厚さは、数μm〜数十μmの範囲とする。その自由側面を研磨する。酸化物層の厚さは0.1μm〜3μmの範囲とする。支持体61の厚さは、数百μm、例えば670μmとすることができる。
【0071】
最上部のシリコン層63を流体プレートとして用いる。図8Bは流体プレートの構築段階(ステップ)を示す。樹脂マスク(例えば1.5μmの厚さ)を薄いシリコン層63上に堆積し、所望の流体回路パターンに従ってフォトリソグラフィを行う。それから、同時に薄いシリコン層63に、ESIソースの流体回路64およびチャネル65を、DRIEエッチングを用いて加工する。埋設した酸化物層62はエッチング停止層として作用する。同様のエッチングにより、鋭い突端部66を薄いシリコン層63の直線的部分に長手方向軸線に沿って得ることができる。
【0072】
次に、酸化ケイ素層67を、構築した薄いシリコン層63上に形成する(図8C参照)。形成した酸化物層の厚さは0.1〜数μmの範囲とする。
【0073】
カバープレートは、上述の実施形態のように加工する(図5A〜5D参照)。この後、図8Cに示す要素上に流体回路を被覆して接合する。構築したカバープレートは、参照符号68を付して図8Dで示す。カバープレート68は、デバイスの入口を形成するための止まり穴70と鋭い突端部71を有する。次に、SiO2 層を支持体(支持プレート)の下面に堆積する。
【0074】
この後、フォトリソグラフィを支持プレートの下面から開始する。支持体の下面に堆積した酸化物層はマスクとして作用するようにエッチングする。そしてこのフォトリソグラフィのために用いた樹脂層を除去する。それから、ESIソースの下側先端を画定するために支持プレート61のシリコン上にDRIEエッチングを行う。つぎに物理化学的研磨によって支持プレート61を薄層化する。図8Eは、こうして得られた結果を示す。図8Eは、支持プレート61の鋭い突端部72を示す。この後、酸化物層62を、ESIソースにおいてエッチングし、ソースの下面を最終的な外観に仕上げる。
【0075】
つぎに、鋭い突端部71を露出させるためおよび穴70にアクセスするために、カバープレート68を薄層化する。この段階は物理化学的研磨によって行うことができ、カバープレート68の自由側面から開始し、随意的に仕上げのためにDRIEエッチングを行う。このようにして得られたデバイスは、図5Oに示したものと類似する。
【0076】
SOI基板の使用は、支持体および流体プレートが接合された状態で納入されるという利点がある。パターンなしで接合しているプレート全体は、より良好な接合状態の生成物を保証する。他の利点としては、流体回路のエッチングにとって実行するのが最も困難である1対の段階(ステップ)対である、リソグラフィ/DRIEエッチングを製造の初期に行うことである。これにより、欠陥プレートをできるだけ早く廃棄し、それ故に最終収量を増加させることができる。SOI基板の使用は、また、必要なDRIEエッチングによる薄層化作業が1回少なくて済む。
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一平面上のマイクロ流体回路および同一平面状の電気スプレーノズルを有するラボオンチップに関する。特に、ラボオンチップを質量分析計に接続することに関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間、様々なマイクロ流体装置を質量分析計に接続するために、多数の手法が研究されてきた。光学検出方法、例えば、分光光度法や蛍光法は、タンパク質やペプチドのような生物学的分子の検出に適しており、この検出は、プロテオミクスの分野では特に関心を持たれている。これら光学検出方法の限界は、その感度と、例えば酵素消化後にタンパク質を識別するために試料(蛍光タギング)を調製する必要があることであり、この試料調製は、得られるペプチドが理論的に未知であるがゆえに問題を生ずる。従って、質量分析法がしばしば選択される。なぜなら、それは分析試料(電荷質量比による強度スペクトル)の性質に関する情報を非常に良好な感度(フェムトモル/μl)で得られ、また分子の複合混合物の分析もまた可能であるからである。この目的のために、しばしば分析の前に試料を予め処理することが必要である。例えばこの前処理には、化合物または生物学的化合物の分離、そして分離の前か後に種の濃縮がある。
【0003】
分析に続くこの前処理を最短時間内で行い、そして使用する試薬の量を最小限にするために、マイクロ流体の分野における最近の開発成果を利用することができる。その例としては、例えばマイクロ流体酵素消化装置(非特許文献1)、キャピラリー電気泳動(非特許文献2)、または2D分離(非特許文献3または非特許文献4)などのようにすでに開示されているものがある。
【0004】
マイクロ流体/質量分析法の組み合わせは、電気スプレーによる試料のイオン化(電気スプレーイオン化‐ESI)に基づくことができる。大気圧で、そして非常に強い電界下で、マイクロ流体チップから出る前処理済みの液体試料は、イオンガスまたは多数の帯電液滴として霧化され、分析のために質量分析計(MS)に入ることができる。この霧化は、出て行く液体と環境ガス(液体メニスカス/ガス)の間に形成される界面(インタフェース)の変形を引き起こし、そして液体の「滴」は「テイラーコーン」と呼ばれる円錐体の形状を取る。この円錐体の容積は出て行く液体のための死容積(化合物が混じり合うことができる幾何学的空間)を形成し、それは特に全処理の最終段階がまさに試料の化学混合物の分離から成るときに望ましくない。そういうわけで、この円錐体のサイズを最小化することが常に求められ、そしてとりわけここのとはマイクロ流体チップの排出チャネルの内外寸法を減らすことに関わる。
【0005】
従来、質量分析法による分析の間、試料はESI装置の外で前処理し、そして(ピペットを用いて)手動でその先端が電気伝導性である中空針(例えば、
ニュー・オブジェクティブ(New Objective)社
による「PicoTip emitter」」)内に配置する。電界をPicoTipの導電性部分とMS注入口との間に加えることにより、テイラーコーンをPicoTipの排出口および試料の霧化の際に形成することができる。PicoTipの「鋭い」円筒形状は、小さいテイラーコーンの形成に理想的である。しかし、それらのサイズ(従来は360μmの外径と10μmの内径)の最小化に関する限界、使用する加工技術(引き抜き技術)によって得られる良好な再現性と、使用する際の脆性に関する限界は、他の型のスプレー装置(デバイス)の探求を促す根本的な理由である。
【0006】
文献において、これらデバイスを平面シリコン技術のようなマイクロ技術(厚みと比較して非常に大きい横方向寸法を有する基板上の様々な物質のエッチング加工、機械加工、薄層堆積、そしてフォトリソグラフィ)を用いて製造するとき、しばしば「質量分析溶のMEMS電気スプレーノズル」(特許文献1)を参照する。この製造には、2つの重要ポイントがある。
【0007】
第1に、マイクロ技術を使用して、(PicoTipのような)鋭い先端型であり、しかも(テイラーコーンの容積を制限するために)サイズがより小さく、より再現可能であり、より脆性がないという構体を画定することにより、ESIインタフェースを製造することができる。これはそれ自体有利である(特許文献2参照)。
【0008】
第2に、マイクロ技術を使用して、試料およびESI型のインタフェースの前処理を確実にするために流体回路を統合するデバイスを製造することができる。上述の利点(出て行く死空間の減少、再現性、ESIインタフェースの堅牢性)に加え、統合した前処理デバイスに関連する利点(分析に続く前処理手順、全分析時間の減少、試薬体積の最小化)からもまた利益を得る。
【0009】
それにもかかわらず、これら集積(統合)は3点の重大な技術的設計課題を引き起こす。
・第1に、デバイスに用いる加工技術は、前処理流体回路(リザーバ、マイクロチャネル、反応器)およびESIインタフェース(先端形状、最小排出口寸法など)に用いる加工技術と互換性を持たなければならず、したがって、2個の統合した集積体に共通の技術的順序を有する1個の同一支持体または1個の支持体の同一組立体上に、完全なデバイスを加工することができるようにしなければならない。
・第2に、前処理流体回路内および別に得られるESIインタフェース内に存在しうる死空間に、さらなる死空間が加わらないように設計しなければならない。
・最後に、システムに死容積を加えることなしに、ESIインタフェースにスプレー電極を設けなければならない。このスプレー電極は、先端構造の外側(非特許文献5)または装置の排出口付近における排出チャネルの内側に位置することができる。第1ケースでは、電界を単に装置の外側、先端の端とMS注入口との間に位置する空気(または他のガス)部分に加える。第2ケースでは、電界はまた装置の内側、電極と先端の端との間に位置する液体部分に存在する。外部電極を挿入するために、一つの大きな難題はその十分な堅牢性を確実にすることであるとしばしば報告される。(非特許文献6)この目的のために形成される導電性堆積物は、強い電界の作用下であまりにも急速に劣化することがよくある。
【0010】
カバー基板は導電性とすることができる。
【0011】
この分野における1つの大きな前進は、試料の様々な処理を可能とし、ESI型の質量分析計を備える良好なインタフェースを有するマイクロ流体装置を開示する特許文献3(国際公開第2005/076,311号)において提案された。そして特許文献3は、以下を必要とする。
・前処理流体システム(リザーバ、マイクロチャネル、反応器など)の加工技術および排出ESIインタフェース(先端形状、最小排出口寸法など)の加工技術と互換性を持ち、2個の統合した集積体に共通の技術的順序を有する1個の同一支持体または1個の支持体の同一組立体上に、完全デバイスを製造することができる製造技術
・死空間のない統合設計
・デバイスの排出口付近における排出チャネルの内側におけるスプレー電極の統合
【0012】
このラボオンチップは、支持体、少なくとも1個の流体回路、流体回路に連結した少なくとも1個の流体注入口、そして流体回路に接続した少なくとも1個の流体排出口を有する。それは、支持体上に装着した薄層を有し、そこに流体回路と電気スプレーノズルを加工する。電気スプレーノズルは、支持体上に突き出し、その一方の端部を流体回路に接続し、他方の端部は前記流体排出口を形成するチャネルを有する。チャネルは、少なくとも1個の電極を形成する導電手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第98/35376号
【特許文献2】国際公開第00/30167号
【特許文献3】国際公開第2005/076,311号
【特許文献4】仏国特許第2,818,662号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ライアン・ジ・ジン氏の,「電気浸透ポンプによって稼動するマイクロチップに基づいたタンパク質分解システム」,Lab Chip,2003年3月,p.11〜18
【非特許文献2】B.ザーン氏らの,「キャピラリー電気泳動電気スプレー質量分析のための微細加工装置」,Anal. Chem., 71号,n°15,1999年,p.3259〜3264
【非特許文献3】J.D.ラムゼイ氏の,「マイクロ流体装置におけるタンパク質消化物の高効率二次元分離」,Anal. Chem., 2003年,75号,p.3758〜3764
【非特許文献4】N.ゴッシュリッヒ氏らの,「マイクロチップにおける二次元電気クロマトグラフィ/キャピラリー電気泳動」,Anal. Chem., 2001年,73号,p.2669〜2674
【非特許文献5】M.スフェデルベルグ氏らの他,「ポリマーマイクロチップからの覆いのない電気スプレー」, Anal. Chem., 2003年,75,p.3934〜3940
【非特許文献6】R.B.コール氏の,「電気スプレーイオン化質量分析法:原理、器具そして応用」,John Wiley & Sons: New York, 1997年
【非特許文献7】ビン・ヘ氏らの他:「液体クロマトグラフィのためのナノ支柱の加工」,Anal. Chem., 1998年,70,p.3790〜3797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載の装置において、電気スプレー国際公開第2005/076,311号ソースの流量が0.3μl/分に制限されることが分かった。この流量では、ソースの根元、つまり外気内にある排出チャネルの開始部においてオーバーフローが起こる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者は、この制限された流量の考えられる原因と、考えられるその改善策を探求した。本発明者は、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載のデバイスの様々な改良型の電気スプレーソース部分(またはノズル)を修正することにより、より高い流量を得ることが可能であることを発見した。電気スプレーソースまたはノズルのこの修正は、「屋根部」でソースを覆うことによって、またはソースに「屋根部」および「床部」の両方を設けることによってソースを「閉じる」ことを含む。
【0017】
従って本発明の目的は、支持プレート、支持プレート上に接合した流体プレートと称されるプレートに形成した少なくとも1個の流体回路、および流体プレート上に接合し、流体回路を覆うカバープレートと称されるプレートを有するラボオンチップであって、流体回路は、第1端部で、噴霧する液体を注入することができる入口に製造し、第2端部で、液体を噴霧するために、流体プレートに形成した排出チャネルの第1端部に製造し、流体プレートは、鋭い突端部を有する電気スプレーノズルまで延在させ、排出チャネルの第2端部がラボオンチップの電気スプレー排出口をなすよう形成し、カバープレートは、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための屋根部を形成する鋭い突端部を有する構成とする。
【0018】
ある特定の実施形態によれば、支持プレートは、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための床部を形成する鋭い突端部を有する。実施形態のある変更した実施形態によれば、電気スプレー排出口を形成する排出チャネルの第2端部を、屋根部および床部を形成する鋭い突端部よりも引っ込んだ状態に形成する。
【0019】
入口は、カバープレートまたは支持プレートに形成した穴とすることができる。
【0020】
カバープレートは、シリコン製とすることができる。
【0021】
支持プレートは、流体プレート側の側面に、流体プレートに流体回路を形成する間に支持プレートの残りを保護することができる保護層を有するものとすることができる。流体プレートはシリコン製とすることができる。この場合、この実施形態のある変更例によれば、流体プレート、保護層、および支持プレートの残りの部分は、それぞれ、同一のシリコン・オン・インシュレータにおける薄層、埋設酸化物層、および支持体に由来するものとする。
【0022】
カバープレートは導電性とすることができる。
【0023】
添付図面につき非限定的な実施形態として説明する以下の記載を読むことにより、本発明をより良く理解でき、他の利点および特徴が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるラボオンチップの線図的説明図である。
【図2】図1のラボオンチップにおいて用いる酵素消化反応器のCOMOSS構造を示す。
【図2A】図2の詳細を示す。
【図3】図1のラボオンチップにおいて用いる予濃縮反応器のCOMOSS構造を示す。
【図3A】図3の詳細を示す。
【図4】図1のラボオンチップにおいて用いるクロマトグラフィ反応器のCOMOSS構造を示す。
【図4A】図4の詳細を示す。
【図5A】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5B】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5C】製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図である。
【図5D】5Dは、製造過程における順次段階のカバープレートの縦断面図であり、5D′は、製造過程における段階のカバープレートの斜視図である。
【図5E】製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図である。
【図5F】5Fは、製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図であり、5F´は、製造過程における段階の支持プレートの斜視図である。
【図5G】製造過程における順次段階の支持プレートの縦断面図である。
【図5H】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5I】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5J】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5K】支持プレートおよび流体プレートを組み合わせる縦断面図であり、流体プレートを機械加工する過程の順次段階を示す縦断面図である。
【図5L】支持プレート上に流体プレートを有する組立体上に、カバープレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5M】支持プレート上に流体プレートを有する組立体上に、カバープレートを組み合わせる縦断面図である。
【図5N】本発明の実施形態によるラボオンチップの最終製造ステップの段階を示す縦断面図である。
【図5O】本発明の実施形態によるラボオンチップの最終製造ステップの段階を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第1変更例によるラボオンチップの部分斜視図である。
【図7】本発明の第2変更例によるラボオンチップの部分斜視図である。
【図8A】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8B】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8C】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8D】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【図8E】SOI基板を用いる本発明によるラボオンチップの実施形態の変更例における製造段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明が適用するラボオンチップ1の線図的説明図である。この装置は、18mmの長さと5mmの幅を有するものとすることができる。
【0026】
流体回路
まず、タンパク質含有を同定するために複合生物学的試料を準備することを意図する流体回路(ネットワーク)を説明する。この流体回路は、リザーバおよびチャネルの組立体、酵素消化反応器、予濃縮反応器、ならびに液体電気クロマトグラフィによる分離反応器により構成する。これら全ての反応器の基本構造は、正方形または六角形断面を有する多数の支柱を設けた深い空洞である。このタイプの構造はCOMOSS(Collocated Monolith Support Structure:配列モノリス支持構造)として知られている。この点に関して、非特許文献7による記事を参照することができる。全ての反応器にとって、これらCOMOSS構造によって実現する大きい面積/体積比から利益を得る。これら比率は、移動相(例えば酵素消化反応器のためのタンパク質)における分子と固定相(例えば酵素消化反応器のためのトリプシン)との間の「出会う」確率を増加させる。
【0027】
緩衝液で流体回路を完全に予充填した後、生物学的試料(タンパク質)をリザーバR1に投入し、つぎに酵素消化反応器2を経てリザーバR1からリザーバR2に電気浸透下で送給する。大容積リザーバを流体回路の様々な反応器間に配置し、手順の2つの連続的なステップ間で緩衝液を変更することができる。したがって、R1は重炭酸アンモニウム([NH4HCO3]=25mM;pH=7.8)を含み、R2,R3およびR4は水/アセトニトリルACN/ギ酸TFA(95%;5%;0.1%)の混合物を含む。一方、R5は水/アセトニトリル/ギ酸(20%;80%;0.1%)の混合物を含む。リザーバR2に集積した消化物は分離前に濃縮しなければならない。この目的のために、集積した消化物を電気浸透下でリザーバR3(ビン)に送給する。このとき酵素消化から生じる全てのペプチドを、小容量予濃縮反応器3によって「捕獲」し、ついで濃縮する。この後、「蛇行」型の構体4(長さ2cm)においてR4緩衝液とR5緩衝液の混合物によって形成されるアセトニトリル勾配培養を、予濃縮反応器3において固定相(例えばC18)との親和性に基づいて選択的にペプチドを分離する。これらを、クロマトグラフィカラム5によって再び「捕獲」し、このクロマトグラフィカラム5は予濃縮反応器3より密度が高いものとする。ACNとの混合物を濃縮することにより、クロマトグラフィカラム5からこれらペプチドを選択的に分離し、また分離したペプチドをチップ1の出口6に向けて転移させることが可能となり、出口6において、液体は質量分析計(図示せず)の入口に向けて噴霧される。
【0028】
ある所定のタンパク質(図示せず)との親和性を有する反応器を使用して、この反応器を経て移送された多タンパク質混合物内のこの所定タンパク質を捕獲することができる。この目的のために、上述した流体回路の上流域に、リザーバ/親和性反応器/濃縮反応器の組立体を、上述したのと同一の流体原理に基づいて動作するよう統合することができる。親和性反応器は、抗体によって機能化することができ、また溶離緩衝液は、多タンパク質複合体における「捕獲」したいものと共働する(抗体に対して)タンパク質により構成することができる。
【0029】
上流域親和性反応器
COMOSS構造は、複合生物学的試料内のタンパク質、タンパク質ファミリーまたは多プロテイン複合体の特別な捕獲を目的とする。このステップのために使用するツールは抗体とすることができるが、例えば所望のタンパク質との特別な相互作用を有する小分子とすることもできる。
【0030】
酵素消化反応器
図2に示した酵素消化反応器のCOMOSS構造は、チャネル回路は、約5μmに画定することができる10μm六角形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅aは一定(640μm)であるが、その実際幅bは892μmである。反応器の活性部分の長さcは15mmである。図2から読み取ることができる、他の幾何学的特徴を以下の表1に記載する。
【0031】
【表1】
【0032】
この構造は、随意的にシリカの「ビーズ」または数マイクロメートルの微小球(例えば、Serotec社によってフランスで配布されたBangs研究室による微小球)を配置することができ、それらは反応器にその酵素的特性を与える、またはこのような特性を増強するよう機能化される(例えばトリプシン)。
【0033】
例えば、支柱に接合する酵素はトリプシンとすることができる。その後の手順は特許文献4(仏国特許出願公開第2,818,662号)に記載されている。
【0034】
図2Aは、図2で参照符号11を付した反応器部分の詳細を示す。六角形断面の支柱12はこの図に見ることができ、この支柱12はチャネル13の回路を画定する。参照符号14は随意的に用いることができるシリカ微小球を示す。
【0035】
予濃縮反応器
図3に示す予濃縮反応器のCOMOSS構造は、約2μmのチャネル回路を画定する10μm正方形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅dは一定(160μm)であるが、その実際幅eは310μmである。反応器の活性部分の長さfは170μmである。図3を参照して読み取ることができる他の幾何学的特徴を、以下の表2に記載する。
【0036】
【表2】
【0037】
この構造は、シリカのビーズを随意的に組み込むことができ、それらは反応器にその親和性特性を付与する、またはそのような特性を増強するよう機能化する(例えばC18の接合)。
【0038】
図3Aは、図3で参照符号21を付した反応器部分の詳細を示す。正方形断面の支柱22を見ることができ、これら支柱22はチャネル23の回路を画定することができる。
【0039】
液体電気クロマトグラフィによる分離反応器
図4に示す分離反応器のCOMOSS構造は、チャネル回路を約2μmと画定することができる10μm正方形断面の支柱のアレイ(配列)から形成する。有効幅gは一定(160μm)であるが、その実際幅hは310μmである。反応器の活性部分の長さiは12mmである。図4を参照して読み取ることができる他の幾何学的特徴を、以下の表3に記載する。
【0040】
【表3】
【0041】
スペースを節約するために、反応器は3部分において製造することができ、各部分は図1に示すような12mmの長さを有する。
【0042】
この構造は、随意的にシリカビーズを組み込むことができ、それらは反応器にその親和性特性を付与する、またはそのような特性を増強するよう機能化する(例えばC18の接合)。
【0043】
図4Aは図4で参照符号31を付した反応器部分の詳細を示す。それは正方形断面の支柱32を示し、これら支柱32はチャネル33の回路を画定することができる。
【0044】
電気スプレー源(ソース)
本発明の一実施形態を、以下に詳しく説明する。
【0045】
好適な実施形態は、電気浸透によってではなく高圧ポンプによって噴霧される液体を動かすために、流体力学を用いることに基づく。これにより、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)に記載された装置に必要な電極のうちいくつかを省略することができる。ある所定電位で噴霧すべき液体を配置するのに必要な電極は、例えば導電性材料として選択したカバーにより構成する。1つの変更した実施形態においては、電気絶縁カバー、流体プレートおよび支持プレートを選択することを含む。ここのとは、これらプレートをシリコン製とする場合、熱酸化によって得ることができる。この場合、電位は、入口毛細管との接続部において装置への入口に配置した市販の液界によって加えることができる。
【0046】
本発明の1つの好適な実施形態は、シリコン製の3個のプレート(支持プレート、液体プレートおよびカバープレート)の構築および組み立てにあり、これらプレートは物理化学的研磨そしてDRIEエッチング(乾燥反応イオンエッチング)により薄層化する。プレートの組み立ては、分子結合またはウエハー接合によって有利に得ることができる。
【0047】
流体プレートにおける流体回路の形成は、以下では詳述しない。この形成については、特許文献3(国際公開第2005/076,311号)を参照できる。後述する実施形態の実施例において、流体回路は、死容積には結合することのない(曲折部なし,断面の制限なし等)ESI源(ソース)のチャネルと同一平面上にある。流体回路は、主に正方形断面および15μm×15μmの寸法のチャネルで構成することができる。
【0048】
さらに、複数のデバイスを形成するために、直径200mmのシリコン製のプレートを使用する。3個のプレートの諸元は例として提示するが、諸元としては厚さおよび特性がある。
【0049】
図5A〜5Dは、製造過程の順次の加工段階におけるカバープレートの縦断面図であり、この縦断面はプレートの長手方向軸線に沿って得られる。図5D′は、この加工段階におけるカバープレートの斜視図である。
【0050】
図5Aは、200mmの直径を有するシリコン製のプレート41(デバイスのカバーに対応する)の一部を示し、このプレートは一方の側面が研磨され、0.01〜0.02Ω.cm.の範囲における電気伝導率を有する。プレート41の研磨面は、PECVD(物理化学気相成長法)によって形成した厚さ2.5μmの酸化ケイ素層42で被覆する。この酸化物層はエッチングマスクとして作用する。
【0051】
この後、エッチングマスクをフォトリソグラフィによって構築する。この目的のために、樹脂層43を施し、それからフォトリソグラフィを行う(図5B参照)。リソグラフィは樹脂層43に酸化物層42を露出させるパターンを画定する。この樹脂をつぎに除去する。この後、デバイスの入口を形成するための止まり穴44を、DRIEエッチングによりプレート41に形成する。同一マスクおよび同一エッチングにより、カバープレート41の上方部分に長手方向軸線に沿ってカバープレートの直線的部分を画定およびエッチングし、鋭い突端部45を形成する。エッチングの深さは、例えば170μmとする。
【0052】
この後、酸化物層を除去する。これにより(図5D参照)、流体入口44およびESIソースの一部である鋭い突端部45を有し、部分的にエッチングしたプレートを得る。
【0053】
図5D′は、図5Dの縦断面図に対応し、鋭い突端部45をよりよく理解できる斜視図である。
【0054】
図5E〜5Gは、製造過程中の順次の段階における支持プレートの縦断面図であり、縦断面はプレートの長手方向軸線に沿って得られる。図5F′は、支持プレートの斜視図である。
【0055】
図5Eは200mmの直径を有するシリコン製のプレート46(デバイスの支持体に対応する)の一部を示し、このプレートは両側側面を研磨し、550μmの厚さを有する。プレート46の一方の側面を、PECVDによって形成した厚さ2.5μmの酸化ケイ素層47で被覆する。この酸化物層はエッチングマスクとして作用する。
【0056】
つぎに、エッチングマスクをフォトリソグラフィによって構成する。この目的のために、樹脂層を堆積し、それからフォトリソグラフィを行う。樹脂の除去および長手方向軸線に沿う支持プレート46の直線的部分におけるDRIEエッチングの後、リソグラフィは鋭い先端形状の突端部48を画定する。この突端部は図5F′からよく分かる。
【0057】
この後、プレート46を熱的に酸化し、プレート46の各側面上に酸化物層49および50を設ける。酸化物層49は、当然のことながら、鋭い突端部48(図5F′参照)の下方に位置するプレート46のエッチング済みの部分上にも形成する。これら酸化物層49および50の厚さは1.5μmとすることができる。これら酸化物層は、流体プレートの次のエッチング段階におけるエッチング停止層として作用する(図5G参照)。
【0058】
図5Hは支持プレートおよび流体プレート(実際は流体プレートを形成する目的のプレート)の組立体の縦断面図であり、この縦断面はこれらプレートの長手方向軸線に沿って得られる。この図は組立てたプレート(デバイスに対応する)の一部を示す。直径200mm、厚さ550μmのシリコン製のいわゆる流体プレート51は、側面のうち研磨した一方の側面で支持プレート46上に接合する。この接合は分子結合によって行い、鋭い突端部48側の側面で行う。
【0059】
流体プレート51は支持プレート46上に接合し、ついで設計上の厚さが得られるまで(例えば15μm)物理化学的研磨によって薄層化する。このことを図5Iに示す。
【0060】
この後、薄層化した流体プレートを構築する。この段階(ステップ)を図5Jに示す。この目的のために、樹脂マスク(厚さ1.5μm)を薄層化した流体プレート51上に堆積し、適切なパターンを用いてフォトリソグラフィを行う。次に、流体プレート51において、ESIソースの流体回路52およびチャネル53を、DRIEエッチングを用いて同時に加工する。サポートの酸化物層49はエッチング停止層として作用する。流体プレート51の直線的部分における長手方向軸線に沿う同様のエッチングにより、鋭い突端部54を得ることができ、この突端部は、例えば支持プレート46の鋭い突端部48上に重ね合わせることができ、また排出チャネル53を生ずる。
【0061】
次に、酸化ケイ素層55を、構築した流体プレート51上に形成する(図5K参照)。形成する酸化物層の厚さは0.1〜数μmの範囲とすることができる。
【0062】
図5Lと5Mは、流体プレート上にカバープレートを組み付ける状況を示す。カバープレート41(図5D参照)、すでに支持プレート46に接合した流体プレート51を、図5Lに示すように上下に整列させる。このとき、カバープレート41の鋭い突端部45を、流体プレートの突端部54およびサポートプレートの突端部48に整列させる。この後、カバープレート41を分子結合によって流体プレート51上に取り付ける(図5M参照)。このようにして、鋭い突端部48,54および45が重なり合う。
【0063】
つぎに、鋭い突端部48を露出させるために、支持プレート46を物理化学的研磨によって薄層化する。このことを図5Nに示す。
【0064】
この後、鋭い突端部45を露出させるためおよび穴44にアクセスするために、カバープレート41を薄層化する。この段階(ステップ)は物理化学的研磨を用いて行うことができ、カバープレート41の自由側面から開始する。DRIEエッチングは穴44の開口部を良好に仕上げるために用いることができる。図5Oは、このようにして得られた結果を示す。
【0065】
デバイスの個別チップへの分離は、切断、割裂、または破断によって得ることができる。
【0066】
図6は本発明によるラボオンチップの部分斜視図であり、まさに上述の方法を用いて得られる。実施形態のこの例において、カバープレート41の鋭い突端部45、流体プレート51の突端部54、そしてサポートプレート46の突端部48は同じ形状である。したがって、ESIソースのチャネル53はソース出口である限り、突端部48で構成した床面、および突端部45で構成した屋根面を備える。
【0067】
図7は本発明による他の実施形態のラボオンチップにおける部分斜視図であり、上述の方法を用いて得られる。本発明による実施形態のこの実施例においては、流体プレート51の鋭い突端部54の先端を截頭し、カバープレート41の鋭い突端部45およびサポートプレート46の突端部48よりも引っ込んでいる。この電気スプレーノズル形状は、テイラーコーンにおけるより良好な安定性を可能にする。
【0068】
図6および図7に示したもの以外の変更例は、カバープレートの鋭い突端部が排出チャネルのための屋根として機能し続ける場合に可能である。例えば、支持プレートの鋭い突端部の先端を、流体プレートの鋭い突端部の先端よりも引っ込ませることができ、流体プレート自体をカバープレートの鋭い突端部の先端とよりも引っ込ませることができる。
【0069】
本発明の他の実施形態として、市販のSOI基板を用いて、以下に説明する。
【0070】
図8AはSOI基板の縦断面図である。この基板の処理は、説明を簡略化するため、単一のラボオンチップの場合に制限する。このSOI基板60は、埋設した酸化ケイ素層62および薄シリコン層63を順次に支持するシリコン支持体61を有する。基板60の直径は200mmとすることができる。薄いシリコン層63の厚さは、数μm〜数十μmの範囲とする。その自由側面を研磨する。酸化物層の厚さは0.1μm〜3μmの範囲とする。支持体61の厚さは、数百μm、例えば670μmとすることができる。
【0071】
最上部のシリコン層63を流体プレートとして用いる。図8Bは流体プレートの構築段階(ステップ)を示す。樹脂マスク(例えば1.5μmの厚さ)を薄いシリコン層63上に堆積し、所望の流体回路パターンに従ってフォトリソグラフィを行う。それから、同時に薄いシリコン層63に、ESIソースの流体回路64およびチャネル65を、DRIEエッチングを用いて加工する。埋設した酸化物層62はエッチング停止層として作用する。同様のエッチングにより、鋭い突端部66を薄いシリコン層63の直線的部分に長手方向軸線に沿って得ることができる。
【0072】
次に、酸化ケイ素層67を、構築した薄いシリコン層63上に形成する(図8C参照)。形成した酸化物層の厚さは0.1〜数μmの範囲とする。
【0073】
カバープレートは、上述の実施形態のように加工する(図5A〜5D参照)。この後、図8Cに示す要素上に流体回路を被覆して接合する。構築したカバープレートは、参照符号68を付して図8Dで示す。カバープレート68は、デバイスの入口を形成するための止まり穴70と鋭い突端部71を有する。次に、SiO2 層を支持体(支持プレート)の下面に堆積する。
【0074】
この後、フォトリソグラフィを支持プレートの下面から開始する。支持体の下面に堆積した酸化物層はマスクとして作用するようにエッチングする。そしてこのフォトリソグラフィのために用いた樹脂層を除去する。それから、ESIソースの下側先端を画定するために支持プレート61のシリコン上にDRIEエッチングを行う。つぎに物理化学的研磨によって支持プレート61を薄層化する。図8Eは、こうして得られた結果を示す。図8Eは、支持プレート61の鋭い突端部72を示す。この後、酸化物層62を、ESIソースにおいてエッチングし、ソースの下面を最終的な外観に仕上げる。
【0075】
つぎに、鋭い突端部71を露出させるためおよび穴70にアクセスするために、カバープレート68を薄層化する。この段階は物理化学的研磨によって行うことができ、カバープレート68の自由側面から開始し、随意的に仕上げのためにDRIEエッチングを行う。このようにして得られたデバイスは、図5Oに示したものと類似する。
【0076】
SOI基板の使用は、支持体および流体プレートが接合された状態で納入されるという利点がある。パターンなしで接合しているプレート全体は、より良好な接合状態の生成物を保証する。他の利点としては、流体回路のエッチングにとって実行するのが最も困難である1対の段階(ステップ)対である、リソグラフィ/DRIEエッチングを製造の初期に行うことである。これにより、欠陥プレートをできるだけ早く廃棄し、それ故に最終収量を増加させることができる。SOI基板の使用は、また、必要なDRIEエッチングによる薄層化作業が1回少なくて済む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持プレート(46,61)、支持プレート上に接合したいわゆる流体プレート(51,63)に形成した少なくとも1個の流体回路、および流体プレート上に接合し、流体プレートを覆ういわゆるカバープレート(41,68)を有するラボオンチップであって、前記流体回路は、第1端部で、噴霧すべき液体を注入することができる入口(44,70)に接続し、第2端部で、液体を噴霧するために、流体プレート(51,63)に形成した排出チャネル(53)の第1端部に接続し、流体プレート(51,63)は、鋭い突端部を有する電気スプレーノズルまで延在させ、排出チャネルの第2端部がラボオンチップの電気スプレー排出口をなすよう形成した、該ラボオンチップにおいて、カバープレート(41,68)は、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための屋根部を形成する鋭い突端部(45,71)を有する構成とした、ことを特徴とするラボオンチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のラボオンチップにおいて、前記支持プレート(46)は、前記電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための床部を形成する鋭い突端部(48)を有するものとした、ラボオンチップ。
【請求項3】
請求項2に記載のラボオンチップにおいて、前記電気スプレー排出口を形成する排出チャネルの第2端部を、屋根部(45)および床部(48)を形成する鋭い突端部よりも引っ込んだ状態に形成した、ラボオンチップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記入口(44,70)はカバープレートまたは支持プレートに形成した穴とした、ラボオンチップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記カバープレートをシリコン製とした、ラボオンチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記支持プレート(46)は、流体プレート側の側面に、前記流体プレート(51)に流体回路を形成する間に支持プレートの残りを保護することができる保護層(49)を有するものとした、ラボオンチップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記流体プレート(51)をシリコン製とした、ラボオンチップ。
【請求項8】
請求項6および7に記載のラボオンチップにおいて、前記流体プレート(63)、前記保護層(62)、および前記支持プレートの残りの部分は、それぞれ、同一のシリコン・オン・インシュレータにおける薄層、埋設酸化物層、および支持体に由来するものとした、ラボオンチップ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記カバープレートを導電性とした、ラボオンチップ。
【請求項1】
支持プレート(46,61)、支持プレート上に接合したいわゆる流体プレート(51,63)に形成した少なくとも1個の流体回路、および流体プレート上に接合し、流体プレートを覆ういわゆるカバープレート(41,68)を有するラボオンチップであって、前記流体回路は、第1端部で、噴霧すべき液体を注入することができる入口(44,70)に接続し、第2端部で、液体を噴霧するために、流体プレート(51,63)に形成した排出チャネル(53)の第1端部に接続し、流体プレート(51,63)は、鋭い突端部を有する電気スプレーノズルまで延在させ、排出チャネルの第2端部がラボオンチップの電気スプレー排出口をなすよう形成した、該ラボオンチップにおいて、カバープレート(41,68)は、電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための屋根部を形成する鋭い突端部(45,71)を有する構成とした、ことを特徴とするラボオンチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のラボオンチップにおいて、前記支持プレート(46)は、前記電気スプレーノズルに位置するチャネル部分のための床部を形成する鋭い突端部(48)を有するものとした、ラボオンチップ。
【請求項3】
請求項2に記載のラボオンチップにおいて、前記電気スプレー排出口を形成する排出チャネルの第2端部を、屋根部(45)および床部(48)を形成する鋭い突端部よりも引っ込んだ状態に形成した、ラボオンチップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記入口(44,70)はカバープレートまたは支持プレートに形成した穴とした、ラボオンチップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記カバープレートをシリコン製とした、ラボオンチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記支持プレート(46)は、流体プレート側の側面に、前記流体プレート(51)に流体回路を形成する間に支持プレートの残りを保護することができる保護層(49)を有するものとした、ラボオンチップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記流体プレート(51)をシリコン製とした、ラボオンチップ。
【請求項8】
請求項6および7に記載のラボオンチップにおいて、前記流体プレート(63)、前記保護層(62)、および前記支持プレートの残りの部分は、それぞれ、同一のシリコン・オン・インシュレータにおける薄層、埋設酸化物層、および支持体に由来するものとした、ラボオンチップ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のラボオンチップにおいて、前記カバープレートを導電性とした、ラボオンチップ。
【図1】
【図2】
【図2A】
【図3】
【図3A】
【図4】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図5J】
【図5K】
【図5L】
【図5M】
【図5N】
【図5O】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図2】
【図2A】
【図3】
【図3A】
【図4】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図5J】
【図5K】
【図5L】
【図5M】
【図5N】
【図5O】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【公開番号】特開2010−44066(P2010−44066A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−171595(P2009−171595)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509248165)コミサリア ア レネルジ アトミク (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171595(P2009−171595)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509248165)コミサリア ア レネルジ アトミク (28)
【Fターム(参考)】
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