説明

同位体の分析を用いた癌の診断方法

本発明は、血液または組織中の同位体の定量分析に基づく癌の診断方法を開示するものであり、本方法は、現行の従来技術では小さ過ぎて診断できない癌でさえも正確に診断することができることを要旨とする。
【選択図面】なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、癌診断に関し、特には、従来の技術では小さ過ぎて検出できない癌でさえも正確に検出できることを特徴とする、血液サンプルまたは組織サンプル中の同位体の定量分析に基づく癌の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同位体は、原子番号が同じで、原子質量(質量数)が異なる元素のさまざまな形態である。1913年に英国の化学者フレデリック・ソディが造り出した用語「isotope(同位体)」の語源はギリシャ語isos「等」とtopos「位置」であり、さまざまな形態の元素が、異なる重さの原子を持つにもかかわらず、元素周期表で同じ位置を占めることに由来している。
【0003】
一般に、元素の化学的性質は陽子数、すなわち原子番号に応じて異なる。元素の同位体は、陽子の数は同じ(同じ原子番号)であるが、中性子の数が異なる原子核を持つことから、同一元素の各同位体の質量数、すなわち核子数(陽子と中性子の合計数)も異なっている。
【0004】
例えば、天然の酸素には、それぞれ8個の陽子からなる3種の同位体があって、その最も一般的な同位体は16O(陽子8個、中性子8個)であり、地球上の全酸素原子の99%を超える割合を占めているが、稀な同位体18O(中性子10個)や、さらに稀な同位体17O(中性子9個)も存在する。自然界の窒素は2種の安定同位体、14Nと15Nとして存在する。天然のウランは3種の主要な同位体、ウラン238、ウラン235、およびウラン234からなる。
【0005】
元素中には陽子と同数の電子が含まれているため、同一元素の同位体の電子数も等しくなっている。自然界には約90の元素が存在するとともに、約300もの天然の同位体があり、元素あたりの同位体数は平均で3種である。実際には、スズ(Sn)が最大数の安定同位体(10個)を持つ元素であり、カドミウムが2番目に多い数の同位体(8個)を持つ元素であるが、自然界にはベリリウム、フッ素、ナトリウムおよびビスマスなどの単一の同位体からなる元素も存在する。
【0006】
天然の元素と、その安定同位体数との間の関係には一般的な規則はないが、偶数の原子番号を持つほとんどの元素では同位体が2個以下しか存在せず、奇数の原子番号を持つ元素には相対的に多くの同位体があることが観察されている。天然の元素は同位体の混合物であり、それら同位体相互間の比率は地球上のどこでもほとんど同じである。一般に、元素の原子の重さは、特定の環境で発見されたままの化学元素のすべての同位体の原子質量を同位体の存在量で加重した平均値である。ほとんどの原子の重さは整数または整数に近い値ではなく小数である理由は、ほとんどの元素が同位体の集合体であるためである。異なる同位体の略称(核種とも呼ぶ)では、その質量数(核子数)は、酸素16または16O、窒素14または14N、ウラン235または235Uなどのように化学記号の右位置または左肩に表記される。特に水素の同位体の場合、プロチウムにはH−1、重水素にはH−2、およびトリチウムにはH−3などの特定の名称が与えられている。
【0007】
最近の諸研究により、酸素の同位体18Oが生物に有毒であることが明らかになっており、DOの形態での重水素Hは微生物に対して92%の阻害活性を有し、ラットを5日間以内に99.5%の比率で死滅させることも見出されている。
【0008】
癌の高い有病率が放射能汚染領域で報告されており、過度の放射線照射に曝された人体での同位体濃度が増加して癌を患う可能性を高くしていることを暗示している。
【0009】
本発明に先立って本発明者が行った、癌の治療と診断の集中的かつ徹底的な調査研究によって、血液中の同位体濃度の変化によって癌が発症し得ること、しかも、血液または組織中の同位体の定量分析で癌の発生と癌の種類を診断することができるという知見が得られた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、血液または組織中の同位体含有量の分析による癌診断に関するものである。最新の科学技術をもってしてもサイズが1ミリ未満の腫瘍を正確に診断することは困難であるが、本発明に係る血液分析によれば、初期段階の癌の発生と癌の種類を正確に診断することができる基礎または基準を提供できるため、癌の治療に成功する確率を高めることができる。従って、本発明の目的は、血液または組織中の同位体濃度を分析し、それを健常者のものと比較することで癌の診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、血液サンプルまたは組織サンプル中の元素の同位体濃度を測定することを含む癌の診断方法を提供するものである。
【0012】
本発明の変更形態によれば、前記元素は水素、酸素、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硫黄、塩化物、シリコン、鉄、銅、およびその組み合わせからなる群から選択される。別の変更形態によれば、前記方法は通常標準よりも10%以上高い重水素(H)濃度の増加に基づくものである。
【0013】
また別の変更形態によれば、前記方法は通常標準よりも10%以上高い18O濃度の増加に基づくものである。
【0014】
さらに別の変更形態によれば、前記方法は通常標準よりも高い重同位体濃度の増加に基づくものである。
【0015】
またさらに別の変更形態によれば、前記方法は通常標準前記サンプルからの40Kないしは36Sの減少(枯渇)に基づくものである。
【発明の効果】
【0016】
血液または組織中の同位体の定量分析を利用する本発明は、現行の従来技術では小さ過ぎて診断できない癌でさえも正確に診断することができることから、本発明は癌の治療に多大な貢献をすることができ、癌患者が疾患から回復して健康な生活を送れる新しい可能性を提供することができる。癌は初期段階で診断されると、高い成功率で治癒できることは公知であるが、小さな癌でさえも確実に検出できる診断方法は現在までに開発されていない。前記従来技術方法の限界を克服する本発明は、癌を初期段階で検出できるため、癌の治癒を成功させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明に入る前に、本明細書では本発明に関連する公知の機能または構成の説明は、本発明の要旨を明確にさせるために省略されていることに留意されたい。
【0018】
本発明では、蒸留水、無機質水、電界水、および健常者と癌患者から採取した血液と組織中の同位体が定性的・定量的に分析される。同位体の分析用に使用される機器の一例としては、二重収束型の質量分光光度計であるEMAL−2(エネルギー質量分析器)が挙げられ、個々のイオンは原子のイオン化と蒸発のレーザ−源として使用される。
【0019】
標準サンプルが前記分析結果の補正に使用され、この関連から、マグネシウム、シリコン、硫黄、塩化物、カリウム、カルシウム、クロム、鉄、銅、水素、および酸素を含む10種の元素が、さまざまなサンプル中の組成分析に利用される。本発明で分析される安定同位体は、マグネシウム元素では質量数24、25および26を、シリコン元素では質量数28、29および30を、硫黄元素では質量数32、33、34および36を、塩化物元素では質量数35および37を、カリウム元素では質量数39、40および41を、カルシウム元素では質量数40、42、43、44、46および48を、クロム元素では質量数50、52、53および54を、鉄元素では質量数54、56、57および58を、さらに、銅元素では質量数63および65を、それぞれ持つ。同位体の分析に先立って、水を除くすべてのサンプルを真空オーブン内で1時間360℃にて乾燥する。
【0020】
主に水のサンプルでは、水素・酸素の同位体比の比較参照標準としての役割を果たすSMOW(標準平均海水)も本発明で使用されており、サンプル中の酸素と水素の同位体の組成は、SMOWに対するパーミル(同位体比の千分率偏差)で表し、4〜5mlの水を10-5〜10-6ミリ水銀柱の真空度で800℃にてウランと反応させて、前記測定に使用する水素原子を生成する。
【0021】
水素の同位体の組成分析に好適な機器には、バリアン社のGD150同位体比測定用の質量分光器が含まれるが、水相サンプルと気相サンプルに含まれる酸素の同位体の組成は電子分光器(ウクライナ国Sumi社製)で分析される。これらの分光器は個々の元素の同位体の組成における非常に小さな変化を検出することができ、サンプルと標準とを同時に分析することもできる。前記質量分光器は2または3個のイオンコレクタを装備し、2〜3個のイオン電流を同時に測定して、その相互関係を分析することができ、血液サンプルに含まれる元素の同位体の組成はEMAL−2で分析される。
【0022】
以下の本発明を例示するために記載した実施例は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明を限定するものとみなされるべきではない。
【0023】
(実施例1)血液中の重水素濃度
重水素含有量をプロチウム(水素)含有量に対するppmで表した。表1に記載したのは1,000,000HあたりのD数である。
【0024】
【表1】


癌患者では、その血液中の重水素濃度が健常者よりも15〜20%増加することが測定された。
【0025】
(実施例2)18O、血中濃度
酸素の同位体18O含有量は酸素の同位体16O含有量に対するppmで表した。表1に記載したのは、1,000,00016Oあたりの18O数である。
【0026】
【表2】


癌患者では、その血液中の18O濃度が健常者よりも約35〜40%増加することが測定された。
【0027】
(実施例3)血液中のマグネシウム同位体濃度の比較
【0028】
下の表3に、質量分光器を用いた血液中のマグネシウム同位体含有量の測定値を任意単位で表した。
【0029】
【表3】


癌患者では、その血液中の重同位体濃度が健常者よりも有意に増加することが測定された。
【0030】
(実施例4)血液中のマグネシウム同位体濃度の比較
下の表4に、質量分光器を用いた血液中のシリコン同位体含有量の測定値を任意単位で表す。
【0031】
【表4】


癌患者では、その血液中の重同位体濃度が健常者よりも有意に増加することが測定された。
【0032】
(実施例5)血液中の鉄同位体濃度の比較
下の表5に、質量分光器を用いた血液中の鉄同位体含有量の測定値を任意単位で表す。
【0033】
【表5】


癌患者では、その血液中の重同位体濃度が健常者よりも有意に増加することが測定された。
【0034】
(実施例6)血液中の銅同位体濃度の比較
下の表6に、質量分光器を用いた血液中の銅同位体含有量の測定値を任意単位で表す。
【0035】
【表6】


軽同位体濃度では、癌患者と健常者間での有意な差はなかった。
【0036】
(実施例7)血液中の硫黄同位体濃度の比較
下の表7に、質量分光器を用いた血液中の硫黄同位体含有量の測定値を任意単位で表す。
【0037】
【表7】


前記癌患者では、重同位体濃度が健常者よりも高いことが見出されたが、36Sに関しては、そのような現象は癌患者で検出されず、癌に苦しむ患者には同位体が不足していることを指摘した。
【0038】
(実施例8)血液中の塩化物同位体濃度の比較
下の表8に、質量分光器を用いた血液中の塩化物同位体含有量の測定値を任意単位で表す。
【0039】
【表8】


癌患者では、その全体的な血液中の重同位体濃度が健常者よりも高いことが観察された。
【0040】
(実施例9)血液中のカリウム同位体濃度の比較
下の表9に、質量分光器を用いた血液中のカリウム同位体含有量の測定値を任意単位で表した。
【0041】
【表9】


癌患者では、そのカリウム同位体の40Kが零(ゼロ)であることが測定され、それは癌患者を健常者から識別するものであった。癌患者での重同位体濃度は、通常の(非癌)患者よりも高いことが測定された。
【0042】
(実施例10)血液中のカリウム同位体濃度の比較
下の表10に、質量分光器を用いた血液中のカリウム同位体含有量の測定値を任意単位で表した。
【0043】
【表10】


カリウム元素の重同位体濃度では、癌患者が健常者よりも高いことが測定された。
【0044】
総合すれば、上記実施例で得られデータは、血液または組織中の同位体濃度の分析を用いて、具体的には、40Kまたは36Sの同位体濃度の増加または減少(枯渇)に基づいて、癌の発生を確定できることを実証する。
【0045】
本明細書には、本発明の好適な実施形態が例示的目的で開示されているが、さまざまな変更、追加および代替が添付請求項に開示された本発明の範囲と真の趣旨から逸脱することなく可能であることは当業者であれば理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルまたは組織サンプル中の元素の同位体濃度を測定することからなる癌の診断方法。
【請求項2】
前記元素は水素、酸素、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硫黄、塩化物、シリコン、鉄、銅、およびその組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は通常標準よりも10%以上高い重水素(H)濃度の増加に基づくことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は通常標準よりも10%以上高い18O濃度の増加に基づくことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は通常標準よりも高い重同位体濃度の増加に基づくことを特徴とする
請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は通常標準前記サンプルからの40Kないしは36Sの減少(枯渇)に基づくことを特徴とする請求項1に記載の方法。



【公表番号】特表2010−538256(P2010−538256A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522777(P2010−522777)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005088
【国際公開番号】WO2009/028760
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510045139)
【Fターム(参考)】