説明

同位体比質量分析計および同位体比の決定方法

本発明は、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための方法に関する。該方法は、試料をイオン化して、少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって:多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成すること、少なくとも1種の元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること、および前工程で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含む。本発明はまた、上記方法を実施するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同位体比質量分析計および同位体比の決定におけるその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
既存の同位体比質量分析計は、種々の試料中の炭素、窒素、酸素および硫黄の同位体比を評価でき、そして、種々の試料種に合わせて試料加工ユニットで得ることができる。しかし、このような分光計は多くの不都合に遭う。第1に、既存の分光計は同位体分析のために分子イオン種を使用し、これが原子ピークおよび分子ピークの重複を招来する。この干渉によって、困難で時間がかかる作業課題であり、時には異なる分子イオンから同重体の干渉が分離不能であるスペクトルのデコンボリューションを行うことが必要となる。
【0003】
加えて、殆どの既存の分光計は17Oを評価できず、よってこれらでは評価を行うことを可能にするために試料を高度に純粋な酸素ガスに変換しなければならない。例えば、現在の方法を用い、17OをCO2試料中で直接に評価することは、既存の分光計が分子イオンを測定し、これにより質量45ではこれらは131616Oを121617Oから分離できないという理由で実用的ではない。質量45での17Oによる想定される小さい寄与のために13Cの測定を較正しなければならないというさらなる問題もまた浮上する。さらに、水試料中の18Oの評価が所望される場合、既存の分光計は少なくとも0.1mlの水を必要とし、そして18Oのために必要な試料加工ユニットは極めて高価である。現存の分光計のさらに他の問題は、これらが水を直接評価できないことである。水試料はまず、多い試料を必要とする複雑な方法でCO2に変換しなければならない。
【0004】
従って、この背景に対し、公知の分光計の上記の不都合の少なくとも幾つかに対処する同位体比質量分析計に対する要求が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
A1.第1の側面において、本発明は、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための方法を提供し、前記方法は:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって該イオンが多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成すること;
(ii)前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること、および
(iii)工程(ii)で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること、
を含む。
【0006】
A2.A1の方法は、試料中の単一元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含むことができ、前記方法は:
(i)試料をイオン化して、該元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)該元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;および
(iii)工程(ii)で分離された元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む。
【0007】
A3.A1の方法は、試料中の少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含むことができ、前記方法は:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体のイオンであって、多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷の比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;
(iii)工程(ii)で分離された前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む。
【0008】
A4.A1からA3のいずれかの方法において、少なくとも1種の元素、または単一元素は、水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウラン、およびこれらの組合せからなる群から選択されることができる。
【0009】
A5.A1,A2またはA3の方法においては、イオンが多価原子正イオンであることができる。
【0010】
A6.A1,A2,A3,A4またはA5の方法においては、多価原子正イオンが、+2または+3の電荷を有することができる。
【0011】
A7.A1,A2,A3,A4,A5またはA6の方法においては、少なくとも1種の元素または単一元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択されることができる。
【0012】
A8.A1,A2,A3,A4,A5,A6またはA7の方法においては、試料が以下の化合物:水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、硫化水素、六フッ化硫黄、クロロメタン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロシラン、酸素、オゾンおよび窒素の1種以上を含むことができる。
【0013】
A9.A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7またはA8の方法においては、該方法が、単一元素の1から6の間の同位体比で決定することを含むことができる。
【0014】
A10.A9の方法においては、単一元素が:水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウラン、およびこれらの組合せからなる群から選択されることができる。
【0015】
A11.A9の方法においては、イオンが多価原子正イオンであることができる。
【0016】
A12.A11の方法においては、多価原子正イオンが、+2または+3の電荷を有することができる。
【0017】
A13.A11またはA12の方法においては、少なくとも1種の元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択されることができる。
【0018】
A14.A11,A12またはA13の方法においては、該方法が、18O/16O、18O/17O、17O/16O、13C/12C、15N/14N、33S/32S、34S/32S、36S/32S、33S/34S、33S/36Sおよび34S/36Sからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含むことができる。
【0019】
A15.A11,A12,A13またはA14の方法は、18O/16O、18O/17O、17O/16O、13C/12Cおよび15N/14Nからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含むことができる。
【0020】
A16.A11,A12,A13,A14またはA15の方法は、18O/16O、18O/17Oおよび17O/16Oからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含むことができる。
【0021】
A17.A9からA16のいずれかの方法においては、試料が、以下の化合物:水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、硫化水素、六フッ化硫黄、クロロメタン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロシラン、酸素、オゾンおよび窒素の1種以上を含むことができる。
【0022】
A18.A1からA17のいずれかの方法においては、該方法が、2,3または4種の異なる元素の異なる同位体の2つまたは3つの比を決定することを含むことができる。
【0023】
A19.A1からA18のいずれかの方法においては、該方法が、2種の異なる元素の異なる同位体の1つの比を決定することを含むことができる。
【0024】
A20.A18またはA19の方法においては、少なくとも2種または3種の異なる元素が、水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウランおよびこれらの組合せからなる群から選択されることができる。
【0025】
A21.A18またはA19の方法においては、イオンが多価正イオンであることができる。
【0026】
A22.A18,A19,A20またはA21の方法においては、少なくとも2種の異なる元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択されることができる。
【0027】
A23.第2の側面において、本発明は、
(i)多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;
(ii)前記荷電正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離するために適合させた一次分析計;
(iii)前記分離された荷電正イオンを検出するための、少なくとも1つのイオン検出器
を含む同位体比質量分析計装置を提供する。
【0028】
A24.A23の装置においては、イオン源が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源であることができる。
【0029】
A25.A23またはA24の装置においては、荷電正イオンが多価原子正イオンであることができる。
【0030】
A26.A23,A24またはA25の装置においては、一次分析器が、セクターフィールド磁石、ウィーンフィルター、四重極マスフィルターおよび飛行時間測定システムからなる群から選択されることができる。
【0031】
A27.A23,A24,A25またはA26の装置は追加の分析器を含むことができる。
【0032】
A28.A23,A24,A25,A26またはA27の装置においては、少なくとも1つの検出器がファラデーカップであることができる。
【0033】
A29.第3の側面において、本発明は、
(i)多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;
(ii)前記荷電正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離するために適合させた一次分析計;
(iii)前記分離された荷電正イオンを検出するための、少なくとも2つのイオン検出器
を含む同位体比質量分析計装置を提供する。
【0034】
A30.A29の装置においては、イオン源が電子サイクロトロン共鳴(ECR)源であることができる。
【0035】
A31.A29またはA30の装置においては、荷電正イオンが多価原子正イオンであることができる。
【0036】
A32.A29からA31のいずれかの装置においては、一次分析器が、セクターフィールド磁石、ウィーンフィルター、四重極マスフィルターおよび飛行時間測定システムからなる群から選択されることができる。
【0037】
A33.A29からA32のいずれかの装置は、追加の分析器を含むことができる。
【0038】
A34.A29からA33のいずれかの装置においては、少なくとも2つの検出器がファラデーカップであることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための方法を提供し、該方法は:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成すること;
(ii)前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること
を含み、そして、該方法は、工程(ii)で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含むことができる。
【0040】
該方法は、試料をイオン化して前記少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオンであるものを生成することを含むことができる。
【0041】
該方法は、多価原子正イオンを検出することを含むことができる。
【0042】
正イオンは、水素および重水素の同位体の比(例えば2H/1H)を決定することが所望される場合、一価であることができる。少なくとも1つの同位体が水素または重水素である同位体の比(例えば18O/2Hまたは13C/1H)を決定することが所望される場合、荷電正イオンは一価および多価であることができる。
【0043】
該方法は、工程(ii)で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を、前記イオン化によって生成した一価正イオンおよび多価原子イオンから決定することを含むことができる。
【0044】
該方法は、2種,3種,4種,5種,6種,7種,8種,9種,10種またはそれ以上の元素の異なる同位体の比を決定することを含むことができる。
【0045】
該方法は、同一元素の異なる同位体の比、例えば18O/16Oの比を決定することを含むことができ、またはこれに代えて、該方法は、同一試料中の異なる元素の同位体の対の比、例えば二酸化炭素中の13C/12C、17O/16Oおよび18O/16Oの比を同時に決定することを含むことができる。
【0046】
該方法は、同一元素の異なる同位体の2つの比、例えば18O/16Oおよび18O/17Oを決定することを含むことができ、またはこれに代えて、該方法は、異なる元素の異なる同位体の2つの比、例えば18O/14Nおよび17O/13Cを決定することを含むことができる。
【0047】
異なる同位体の少なくとも1つの比は、試料中に存在する少なくとも1種の元素の異なる同位体の相対量に比例する、測定されるパラメータの比を算出することによって決定できる。例えば、測定されるパラメータは、単位時間当たりに検出される電流またはイオン数であることができる。一態様において、測定されるパラメータは異なる質量対電荷の比を有する多価原子正イオンの検出によって発生する電流である。
【0048】
該方法は、以下の同位体比:18O/16O、18O/17O、17O/16O、13C/12C、15N/14N、33S/32S、34S/32S、36S/32S、33S/34S、33S/36Sおよび34S/36Sの任意の1つ以上を決定することを含むことができる。
【0049】
少なくとも1種の元素は、多価正イオンを形成可能な任意の元素であることができる。例えば、少なくとも1種の元素は:炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択されることができる。該方法は、以下の同位体比:3He/4He、21Ne/20Ne、22Ne/20Ne、36Ar/40Ar、38Ar/40Ar、37Cl/35Cl、29Si/28Si、30Si/28Si、234U/238U、235U/238Uまたは他の同位体比の任意の1つ以上を決定することを含むことができる。
【0050】
工程(i)は、多価正イオンを生成可能なイオン源、例えばペニングイオンゲージ(PIG)源またはデュオプラズマトロン等のガス放電イオン源、レーザープラズマまたはMEVVA源等の高密度プラズマ源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源等の高周波(RF)イオン源、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源等のマイクロ波イオン源で試料をイオン化することを含むことができる。好適なイオン源の他の具体的な例は、電子ビームイオン源(EBIS)、電子衝突(EI)源、二次イオン(スパッタ)源、またはバーナス(Bernas)源、フリーマン(Freeman)源またはカルトロン(Calutron)等のアーク系源である。
【0051】
多価原子正イオンは、+2,+3,+4,+5,+6,+7またはそれ以上の電荷を有することができる。
【0052】
荷電正イオンは、電磁石または永久磁石のいずれかの形状のセクターフィールド磁石、四重極マスフィルター、ウィーンフィルターまたは飛行時間分光計を使用することにより分離できる。
【0053】
試料は、化学成分、有機化合物、無機化合物またはこれらの混合物を、気体、液体、プラズマ、固体または混合相の形態で含むことができる。一態様において、試料は化合物の混合物を含まない場合がある。一態様において、化合物は、カーボネート、スルフェート、ナイトレート、オキサイド、および含水鉱物からなる群から選択できる。より具体的な例としては:水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、硫化水素、六フッ化硫黄、クロロメタン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロシラン、酸素、オゾンおよび窒素を挙げることができる。
【0054】
工程(ii)で分離される多価原子正イオンの質量対電荷比は、1から約120、約2から約80、約2から約35、約2から約18、約3から約16、約4から約12、約5から約11または約6から約10の間であることができる。
【0055】
多価原子正イオンは、多価原子正イオンを形成可能な任意の原子の原子イオンであることができる。一態様において、多価原子正イオンは、炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択される元素のイオンであることができる。例えば、原子イオンは、122+132+142+152+162+172+182+323+333+343+および363+からなる群から選択されることができる。
【0056】
本発明の方法は、試料をイオン化して、1種の元素の一価正イオンを、少なくとも1種の他の元素の多価原子正イオンに加えて生成することを含むことができる。
【0057】
本発明の方法は、工程(ii)で分離される同一元素または異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含むことができ、ここで工程(ii)で分離される少なくとも1つの同位体は多価である。例えば、試料が水である場合、該方法は、18O/16O、18O/17O、17O/16O、18O/2H、18O/1H、17O/2H、17O/1H、16O/2Hおよび16O/1Hからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含むことができる。
【0058】
本発明の方法によれば、水素同位体の比および/または他の1種または複数種の元素の同位体の比を、酸素、炭素、硫黄または窒素を含むことができる群から、同時に単一試料のイオン源中への注入によって評価することが可能になる。
【0059】
本発明の態様に従って、試料中の少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するために提供される方法があり、該方法は:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体のイオンであって、多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷の比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;
(iii)工程(ii)で分離された前記少なくとも2つの異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む。
【0060】
荷電正イオンは多価であることができる。これに代えて、荷電正イオンは一価であることができる。他の態様において荷電正イオンは一価および多価であることができる。
【0061】
該方法は、2種,3種,4種,5種,6種,7種,8種,9種,10種またはそれ以上の元素の異なる同位体の比を決定することを含むことができる。
【0062】
少なくとも2種の異なる元素は、多価原子正イオンを形成可能な任意の元素であることができる。例えば、少なくとも2種の異なる元素は:炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、塩素、臭素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択されることができる。
【0063】
該方法は、2種の異なる元素の異なる同位体の1つの比、例えば18O/13Cの比を決定することを含むことができ、またはこれに代えて、該方法は、2種または3種の異なる元素の異なる同位体の2つの比、例えば18O/13Cおよび17O/12C、または18O/13Cおよび16O/14Nを決定することを含むことができる。
【0064】
前記試料から生成する他のイオンは、原子イオン、分子イオンまたはこれらの混合物であることができる。同位体の多価原子正イオンの質量対電荷比は、1から約120、約2から約80、約2から約35、約2から約18、約3から約16、約4から約12、約5から約11、または約6から約10の範囲であることができる。
【0065】
多価原子正イオンは、多価原子正イオンを形成可能な任意の元素の原子イオンであることができる。一態様において、多価原子正イオンは:炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択される元素のイオンであることができる。例えば、多価原子正イオンは:122+132+142+152+162+172+182+323+333+343+および363+からなる群から選択されることができる。
【0066】
本発明の他の態様に従い、試料中の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するために提供される方法があり、該方法は:
(i)試料をイオン化して、該元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)該元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;
(iii)工程(ii)で分離された該元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む。
【0067】
該方法は単一元素の単一同位体比の決定を含むことができ、または該方法は単一元素の2つの同位体の比の決定を含むことができ、または該方法は単一元素の3つの同位体の比の決定を含むことができ、または該方法は単一元素の4つの同位体の比の決定を含むことができる。
【0068】
該方法は単一元素の1から3の間の同位体比、または単一元素の1から4の間の同位体比、または単一元素の1から5の間の同位体比、または単一元素の1から6の間の比、または単一元素の1から7の間の比、または単一元素の1から8の間の比、または単一元素の1から9の間の比、または単一元素の1から10の間の比の決定を含むことができる。
【0069】
荷電正イオンは多価であることができる。これに代えて、荷電正イオンは、水素および重水素の同位体の比の決定が所望される場合一価であることができる。
【0070】
一態様において、元素は多価原子正イオンを形成可能な任意の元素であることができる。例えば、該元素は:炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択されることができる。
【0071】
一態様において、該元素は炭素、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択されることができる。
【0072】
工程(ii)で分離される多価原子正イオンの質量対電荷の比は、約4から約14、約4から約12、約4から約10、約4から約9、約5から約14、約5から約12、約5から約10、または約5から約9の間であることができる。
【0073】
多価原子正イオンは、122+132+142+152+162+172+182+323+333+343+および363+からなる群から選択されることができる。
【0074】
該方法は、該元素の異なる同位体の1つの比、例えば18O/16Oの比を決定することを含むことができ、またはこれに代えて、該方法は、該元素の異なる同位体の2つまたは3つの比、例えば18O/16Oおよび18O/17O、または18O/16O,17O/16Oおよび18O/17Oを決定することを含むことができる。
【0075】
前記試料から生成する他のイオンは原子イオン、分子イオンまたはこれらの混合物であることができる。
【0076】
本発明の方法は、少なくとも1つの比を決定する前記工程の前に多価原子正イオンを一価正イオンに変換する工程を含まない場合がある。
【0077】
該方法は、少なくとも1つの比を決定する前記工程の前に荷電原子正イオンを減速させる工程を含まない場合がある。
【0078】
該方法は、少なくとも1つの比を決定する前記工程の前に、多価原子正イオンを一価正イオンに変換し、荷電原子正イオンを減速させる工程を含まない場合がある。
【0079】
本発明の方法は、以下の工程:
(i)試料をイオン化して多価正イオンのビームを生成すること;
(ii)既定の質量範囲を有する多価正イオンのビームの一部を選択すること;
(iii)多価正イオンを一価正イオンに変換するようにガスセル中にビームを加速すること;
(iv)一価正イオンを減速させること;
(v)既定のエネルギーを有する一価正イオンを選択すること;
(vi)既定質量を有する一価正イオンを選択すること;および
(vii)一価正イオンを検出すること
の組合せを含まない場合がある。
【0080】
本発明はまた:
(i)多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;
(ii)前記荷電正イオンをこれらの質量対電荷比に従って分離するために適合させた一次分析計;
(iii)前記分離された荷電正イオンを検出するための、少なくとも1つのイオン検出器
を含む同位体比質量分析計装置を提供する。
【0081】
荷電正イオンは多価であることができる。または、荷電正イオンは一価であることができる。他の態様において、荷電イオンは多価および一価であることができる。
【0082】
検出されるイオンは多価原子正イオンであることができる。
【0083】
該装置は多価原子正イオンの電荷を+1に変換するための手段を含まない場合がある。
【0084】
該装置は、荷電正イオンを減速させるための手段を含まない場合がある。
【0085】
該装置は、多価イオンの電荷を+1に変換するためのアルゴン等のノックオンガスを含むガスセルを含まない場合がある。
【0086】
該装置は、多価原子正イオンの電荷を+1に変換するための手段を含まない場合があり、そして荷電正イオンを減速させるための手段を含まない場合もある。
【0087】
イオン源は、多価原子正イオンを生成可能な任意のイオン源であることができる。イオン源は:ペニングイオンゲージ(PIG)源またはデュオプラズマトロン等のガス放電イオン源、レーザープラズマまたはMEVVA源等の高密度プラズマ源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源等の高周波(RF)イオン源、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源等のマイクロ波イオン源からなる群から選択されることができる。好適なイオン源の他の具体的な例は、電子ビームイオン源(EBIS)、電子衝突(EI)源、二次イオン(スパッタ)源、またはバーナス源、フリーマン源またはカルトロン等のアーク系源である。
【0088】
代替の態様において、ECR源等のマイクロ波源は、ガス放電イオン源またはRFイオン源等の他のイオン源と併せて使用でき、該ECR源は、荷電状態マルチプライヤーとして作用する。例えば、ICP源を使用して、ECRイオン源中に注入されることにより一価イオンが多価イオンに変換されるような該一価イオンを発生させることができる。
【0089】
多価原子正イオンは、+2,+3,+4,+5,+6,+7またはそれ以上の電荷を有することができる。
【0090】
工程(ii)で分離される多価原子正イオンの質量対電荷の比は、1から約120、約2から約80、約2から約35、約2から約18、約3から約16、約4から約12、約5から約11、または約6から約10の間であることができる。
【0091】
多価原子正イオンは:炭素、窒素、酸素、硫黄、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、塩素、臭素、珪素、ウランおよび他の元素からなる群から選択されることができる。例えば、多価原子正イオンは:122+132+142+152+162+172+182+323+333+343+および363+からなる群から選択されることができる。
【0092】
一次分析器は、電磁石の形状または永久磁石の形状のいずれかのセクターフィールド磁石であることができる。これに代えて、一次分析器は、ウィーンフィルター、四重極マスフィルターおよび飛行時間測定システムからなる群から選択されることができる。
【0093】
一次分析器は、多価原子正イオンを空間または時間で分離するように構成できる。
【0094】
装置は、少なくとも1つの追加の分析器をさらに含むことができる。
【0095】
追加の分析器は:静電分析器またはエネルギーフィルター、例えば遅延レンズ(retarding lens)からなる群から選択されることができる。
【0096】
追加の分析器は、イオン源の下流および一次分析器の上流に配置することができる。これに代えて、追加の分析器は、一次分析器の下流に配置することができる。装置は、複数の追加の分析器を含むことができる。
【0097】
一次および追加の分析器はまた、これを通過するイオンビーム移動の効率を高めるための集光特性を含むことができる。例えば、セクターフィールド磁石は、正イオンのビームの同時の垂直および水平の集光を可能にする設計上の特徴を組み込むことができる。同様に、追加の分析器が静電分析器である場合、ビームの垂直および/または水平の集光を可能にする設計上の特徴を含むことができる。これに代えて、一次のおよび追加の分析器の特定の設計の組合せを使用して、所望のビーム集光特性を実現できる。例えば、静電分析器は、Nier−Johnson配置のセクターフィールド磁石と組合せることができる。
【0098】
該装置は、正イオンのビームを少なくとも1つの検出器に集光および伝送するために適合させたイオンビーム移動手段を追加的に含むことができる。
【0099】
イオンビーム移動手段は:アインツェルレンズ(Einzel lens)、静電多重極、磁気多重極または磁気ソレノイド、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0100】
イオンビーム移動手段はまた、正イオンのビームを導くために適合させた案内器を含むことができる。好適な案内器は静電案内器または磁気案内器であることができる。
【0101】
イオンビーム移動手段は、イオン源の下流に配置できる。
【0102】
少なくとも1つのイオン検出器は:イオン計測モードまたは電流測定モードで動作する二次電子マルチプライヤー検出器、例えばチャネルトロンまたは離散ダイオード電子マルチプライヤーまたはマイクロチャネルプレート、Daly検出器、ファラデーカップ、または上記検出器の組合せからなる群から選択されることができる。
【0103】
少なくとも1つの検出器は、イオン検出システムを備えたMattauch−Herzog配置を有する質量分析計システムでない場合がある。
【0104】
該装置は、2,3,4,5またはそれ以上の配置のイオン検出器を含むことができる。異なる同位体の1つの比(例えば17O/16O)の決定が所望される場合、2つの検出器を使用できる。異なる同位体の2つの比の決定が所望され、1つの同位体が両決定に共通である(例えば17O/16Oおよび18O/16Oで16Oが両決定に共通である)場合、3つの検出器を使用できる。異なる同位体の2つの比の決定が所望され、両決定で同位体が共通しない(例えば、18O/16Oおよび13C/12C)場合、4つの検出器を使用できる。これに代えて、上記の例の全てにおいて単一の検出器を使用できる。
【0105】
少なくとも1つのイオン検出器は、一次分析器の下流、または追加の分析器の下流に配置できる。
【0106】
少なくとも1つのイオン検出器は、プロセッサと連結できる。プロセッサは、試料中に存在する少なくとも1種の元素の異なる同位体の相対量に比例する、測定されたパラメータの比を算出することにより、少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するように構成できる。例えば、測定されるパラメータは単位時間当たりに検出される電流またはイオンの数であることができる。プロセッサはコンピュータであることができる。
【0107】
図面の簡単な説明
ここで本明細書に添付の図面を参照した例により本発明の好ましい形態を説明する。
【0108】
図1および2は、本発明の態様に従った同位体比質量分析計を示す。
【0109】
図3は、荷電状態+1および+2での、水蒸気の試料中の16O、17Oおよび18Oの比の決定の結果を示す。
【0110】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は:多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;前記の荷電正イオンをこれらの質量対電荷比に従って分離するために適合させた一次分析計;前記分離された荷電正イオンを検出するための少なくとも1つのイオン検出器、および前記分離された荷電正イオンを検出するための少なくとも1つのイオン検出器を含む同位体比質量分析計装置を対象とする。
【0111】
図1は、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比の決定のために使用できる、本発明の一態様に従った同位体比質量分析計装置100を示す。装置100は、多価原子正イオンを含む正イオン103のビームを生成可能なイオン源102を含む。装置100はまた、試料の導入のための注入ポート101、および減圧筐体(図示せず)を含む。イオン源102は、典型的にはECRイオン源であり、多価原子正イオン103を含む正イオンのビームを生成する。これに代えて、イオン源102は、ペニングイオンゲージ(PIG)源またはデュオプラズマトロン等のガス放電イオン源、レーザープラズマまたはMEVVA源等の高密度プラズマ源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源等の高周波(RF)イオン源、またはマイクロ波イオン源であることができる。好適なイオン源の他の具体的な例は、電子ビームイオン源(EBIS)、電子衝突(EI)源、二次イオン(スパッタ)源、またはバーナス源、フリーマン源またはカルトロン等のアーク系源である。多価原子正イオンは、典型的には+2の電荷を有するが、+3,+4,+5,+6,+7またはそれ以上の電荷を有することができる。イオン源102は、典型的には荷電状態+2を生成するようにされ、これにより、分子イオンおよび場合により他の原子イオンによる干渉なく原子イオンの分析が可能になるが、比が決定されるべき1種または複数種の元素に応じて代替の荷電状態が必要になる場合がある。イオン源102がECRイオン源である場合、該源は、イオン源中の圧力またはマイクロ波電力の調整によってより高いまたはより低い荷電状態を増進するようにすることができる。より高いまたはより低い荷電状態を増進するために調整できるECRイオン源の他のパラメータは:荷電状態分布に影響する、磁界強度、マイクロ波振動数、ビーム取出システムに対するマグネットの位置、またはバイアス電極の組込みである。荷電状態の制御との関連でのECRイオン源の操作は当業者にはよく知られている(例えば、R.Geller,Electron Cyclotron Resonance Ion Sources and ECR Plasmas,IOP Publishing,Bristol,1996を参照のこと)。イオンビーム103は、前記イオン源102の下流に配置されるイオンビーム移動手段104に付帯する。イオンビーム移動手段104は、正イオンビーム105を一次分析器106に集光および伝送する。一次分析器106は、多価原子正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離し、これにより、質量対電荷比が異なる多価原子正イオンを各々が含む複数のイオンビーム107を発生させるように適合される。分離は、セクターフィールド磁石、例えば電磁石を使用し、これにより、構成要素であるイオンビームの多価原子正イオンが、電磁石により発生する磁界によって多価原子正イオンの質量対電荷の比に依存する量で屈折することによって実現できる。セレクター106によって分離される多価原子正イオンの質量対電荷比は、約2から約18、約3から約16、約4から約12、約5から約11、または約6から約10の間であることができる。分離される多価原子正イオンは:122+132+142+152+162+172+182+323+333+343+および363+からなる群から選択されることができる。セレクター106から現れる、分離される多価原子正イオン107は、イオン検出器108から110によって検出される。検出器108から110は:イオン計測モードまたは電流測定モードで動作する二次電子マルチプライヤー検出器、例えばチャネルトロンまたは離散ダイオード電子マルチプライヤーまたはマイクロチャネルプレート、Daly検出器、ファラデーカップまたは上記検出器の組合せからなる群から選択されることができる。典型的なファラデーカップは、カップ内への入口を規定する剃刀様構造を有するメタルカップである。検出器108から110は、分離された多価原子正イオンを検出して情報をプロセッサ111に伝送する。プロセッサ111は、少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を算出および出力またはスクリーン上に表示するために構成できる。
【0112】
図1の装置を用いて試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための使用においては、気体状の試料を注入ポート101経由でイオン源102内に導入する。ガス状の試料は、元素、有機化合物、無機化合物またはこれらの混合物であることができる。気体状の試料中の、同位体比が測定されるべき少なくとも1種または複数種の元素は、イオン源によってイオン化されて、少なくとも1種の元素の異なる同位体の多価正原子イオンを形成する。正イオンビーム103は源102から出射される。イオンビーム103は、集光、および続いて一次分析器106に伝送され、該一次分析器はセクターフィールド電磁石であることができ、例えば源102の下流に配置される。セレクター106は、少なくとも1種の元素の異なる同位体の多価原子正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離し、そして次いで、分離された多価正原子イオンビーム107は、典型的にはファラデーカップであるイオン検出器108から110に伝送される。検出器108から110は、情報をプロセッサ111に伝送する。検出器内で収集された多価原子正イオンは、各検出器から流れる電流として測定される。電流の大きさは、検出器によって検出される多価原子正イオンの相対量に比例する。電流は、電流を読み取るプロセッサ111を有する検出器と連通した高感度電流計で測定される。次いで、異なる同位体の少なくとも1つの比は、プロセッサ111により、各電流計からの電流の比から、またはこれに代えて、単一の検出器を使用する場合には、同一電流計による電流の順次の読み値の比から算出される。これに代えて、検出器108から110が、二次電子マルチプライヤー、例えばDaly検出器、チャネルトロンまたはマイクロチャネルプレートである場合、検出器108から110内で収集される多価原子正イオンは、イオン計測量、すなわち単位時間当たりに検出されるイオンの数により測定できる。これは、検出器108から110からの計測パルスを含み、各パルスは1個の個別のイオンが達したことに対応する。
【0113】
図2は、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するために使用できる、本発明に従った同位体比質量分析計200の代替の態様を示す。装置200はイオン源202を含み、多価原子正イオンを含む正イオン203のビームを生成可能である。イオン源202は、試料の導入用の注入ポート201を含む。装置200はまた、減圧筐体(図示せず)を含む。イオン源202は、典型的にはECRイオン源であるが、ペニングイオンゲージ(PIG)源またはデュオプラズマトロン等のガス放電イオン源、レーザープラズマまたはMEVVA源等の高密度プラズマ源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源等の高周波(RF)イオン源、電子ビームイオン源(EBIS)、電子衝突(EI)源、二次イオン(スパッタ)源、またはバーナス源、フリーマン源またはカルトロン等のアーク系源であることができ、前記イオン源102の下流に配置されるイオンビーム移動手段204に付帯する多価原子正イオン203を含む正イオンのビームを生成する。イオンビーム移動手段204は、正イオンビーム205を追加の分析器206に集光および伝送し、該追加の分析器は、典型的には、これらのエネルギー対電荷の比に従って正イオンを選択する静電分析器である。追加の分析器206は、一次分析器208の上流に配置される。イオンビーム207は、追加の分析器206から出て、多価原子正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離するように適合させた一次分析器208に入射する。一次分析器208から出射した分離された多価原子正イオン209は、イオン検出器210から212によって検出され、これらは情報をプロセッサ213に伝送する。次いで、図1に示す装置に関して上記したのと同一の方法で、プロセッサ213により同位体比を決定する。
【0114】
図2の装置を用いて試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための使用においては、ガス状の試料を注入ポート201経由でイオン源202内に導入する。ガス状の試料は、元素、有機化合物、無機化合物またはこれらの混合物であることができる。ガス状の試料中の、同位体比が測定されるべき少なくとも1種または複数種の元素は、イオン源によってイオン化されて、少なくとも1種の元素の異なる同位体の多価原子正イオンを形成する。イオンビーム203は源202から出射される。イオンビーム203は、集光、および続いて追加の分析器206に伝送され、該追加の分析器は静電分析器であることができ、例えば源202の下流に配置される。イオンビーム207は、追加の分析器206から出て、少なくとも1種の元素の異なる同位体の多価正原子イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離する一次分析器208に入射し、そして次いで、分離された原子イオンビーム209は、イオン検出器210から212に伝送され、これらは情報をプロセッサ213に伝送する。次いで、図1に示す装置の使用に関して上記したのと同一の方法で、プロセッサ213により同位体比を決定する。
【0115】
本発明はまた、試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための方法を対象とし、前記方法は:試料をイオン化して、前記少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成すること;前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;および上記で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含む。
【0116】
同位体の1つが水素または重水素である場合の同位体比の決定が所望される場合、水素および重水素の一価正イオンを使用する。
【0117】
上記したように、多価原子正イオンを生成可能な任意のイオン源の使用により試料をイオン化できる。イオン源は:ペニングイオンゲージ(PIG)源またはデュオプラズマトロン等のガス放電イオン源、レーザープラズマまたはMEVVA源等の高密度プラズマ源、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源等の高周波(RF)イオン源、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源等のマイクロ波イオン源からなる群から選択されることができる。好適なイオン源の他の具体的な例は、電子ビームイオン源(EBIS)、電子衝突(EI)源、二次イオン(スパッタ)源、またはバーナス源、フリーマン源またはカルトロン等のアーク系源である。
【0118】
典型的には、イオン源はECR源である。これらのイオン源は高いイオン化効率を有するからであり、これは第1の側面の方法が、試料量が1〜100ngと少ない場合にうまく使用できることを意味する。
【0119】
多価原子正イオンは、+2,+3,+4,+5,+6,+7またはそれ以上の電荷を有することができる。典型的には、多価原子イオンは、+2の電荷を有する。典型的には、該元素は:炭素、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される。
【0120】
同位体の多価原子イオンを発生させることによって、第1の側面の方法は、分子干渉または多義性を伴わない原子イオンの検出を可能にする。該方法は、分子干渉の排除が必要な場合、任意の元素の任意の同位体、さらに放射性同位体の比を決定するために有用である。
【0121】
第1の側面の方法において、同位体の比は、典型的には、1つ以上の検出器と動作可能に関連付けられたプロセッサ、例えばコンピュータによって決定される。典型的には、少なくとも1つの比は、パラメータ、例えばイオン電流(これは試料中に存在する異なる同位体の多価原子正イオンの相対量に比例する)の比の算出によって決定できる。
【0122】
複数のファラデーカップを検出器として使用する場合、各ファラデーカップ中に収集されるイオンは、電流計により、検出器から流れる電流として測定される。電流の大きさはファラデーカップによって検出されるイオンの相対量に比例する。次いで、異なる同位体の少なくとも1つの比を、各電流計からの電流の比からプロセッサによって算出する。単一ファラデーカップを検出器として使用する場合、電流は、順に目的の各異なる同位体について一定の時間にわたって測定する。次いで、異なる同位体の少なくとも1つの比を、順に各時間の間測定したときに電流計から得られる電流からプロセッサによって算出する。電流測定を数回繰り返すことによって、プロセッサが平均比を算出することを可能にすることができる。逐次検出が採用される場合に同位体比に作用する場合があるイオン源出力のばらつきを平均化するために、複数の電流測定を行うことができる。
【0123】
第1の側面の一態様においては、該方法を、図1または図2に描かれる装置のいずれかを用いて行い、17Oの比を決定するために現在使用されている方法で必要な純酸素ガスへの試料の変換等の何らの試料準備もなく、試料中の17O/16Oおよび18O/16Oの比を決定することができる。本発明の方法はまた、酸素同位体を測定する場合に典型的に必要とされる高価な試料加工設備の必要性を排除する。公知技術のこれらの欠陥(上記の分子の干渉の問題に加え)は、+2の荷電状態の選択によって解決される。
【0124】
示されるように、第1の側面の方法においては、試料準備が何も必要ない。必要なのは、イオン源中への導入前に試料が蒸発可能であることのみである。試料は水、CO2、または蒸発可能な任意の他の有機または無機の化合物であることができる。
【0125】
図3は、荷電状態+1およびまた+2での、水蒸気の試料中の16O,17Oおよび18Oの比の決定の結果を示す。+1の荷電状態が選択される場合、質量17は、分子種16OH+、およびまた原子種17Oによる寄与を含む。同様に、質量18は、H216+および18Oによる寄与を含む。17Oおよび18Oの天然の存在量は極めて低いために、そして分子種による干渉を考慮すると、17Oおよび18Oは正確には決定できない。
【0126】
しかし、本発明の方法に関し、+2の荷電状態が選択される場合、図3から分かるように、質量17および18で分子種によりもたらされる干渉は完全に排除され、18O/16Oおよび17O/16Oの比の正確な決定が、酸素および水素を含む分子種による干渉なしで可能になっている。本発明の方法は以下の利点を与える:
17O/16Oの同位体比を、純酸素ガスへの試料の変換を必要とすることなく高精度で決定できる。
18O/16Oおよび17O/16Oの同位体比を、試料のCO2への変換を必要とすることなく水試料中で直接決定できる。
18O/16Oおよび17O/16Oの同位体比を、CO2試料中で直接決定できる。
・試料準備の必要性を排除することにより、そして高イオン化効率のイオン源を使用することにより、必要な試料体積が大幅により小さくなる(約1〜100ng)。
【0127】
+2の荷電状態を選択することにより、炭素および窒素の同位体比もまた、131616Oおよび121617O等の分子種による干渉なしで決定できる。例えば、13C/12CはCO2ならびに他の炭素含有ガスおよび蒸気の中で決定できる。加えて、該方法は、窒素ガスならびに他の窒素含有ガスおよび蒸気、例えば窒素の酸化物、の中での15N/14Nの決定のために有用である。
【0128】
炭素、窒素および酸素の同位体比の決定については、+2の荷電状態の選択により、約6から約9の間の質量対電荷の比を有して生成する原子イオンの全てがもたらされ、これらは、+2荷電状態においては観察されない、例えば12CH,13CH,14NH,15NH,16OH等の種による分子干渉がない状態になる。任意の有機化合物(そしてさらには無機化合物)は、このような化合物が蒸発できる限りにおいて、提供される方法に適合する。固体中のまたはサスペンション中に存在する固体中の、少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比の決定が所望される場合、イオン源内への導入前に試料を蒸発させることができる。これは、種々の炉型でレーザー切断または加熱によって固体またはサスペンションを誘導結合プラズマ中に導入することによって実現できる。
【0129】
本発明の方法はまた、原子イオンの検出により、幾つかの同位体による重複する寄与を含む分子イオン質量ピークを検出するという理由で本発明の方法で現在必要とされている較正因子の適用の必要性が排除されるという利点を与える。
【0130】
他の態様においては、32Sの(162+によるもの、および322+16+によるもの等の干渉を排除する+3の荷電状態を選択することにより、本発明の方法を用いて、硫黄、例えばSO2ガスの形態の硫黄の異なる同位体の比を決定することができる。硫黄の+3の荷電状態が選択される場合、32S、33S、34Sおよび36Sの質量対電荷の比は、酸素イオンによる干渉の可能性を排除する、約10.67から12である。
【0131】
他の元素の比を決定するために本発明の方法を用いる場合、1種または複数種の元素であってその同位体比を決定すべきものとの分子干渉または原子干渉をもたらさないと考えられる荷電状態を選択することが必要である。採用すべき荷電状態の選択は、当業者によりルーチンの試行および実験により容易に明らかにされよう。しかし+2の荷電状態ではしばしば殆どの元素について好適となる。
【0132】
荷電状態の選択をどのように行うかの例を、珪素について以下に与える。珪素には3つの同位体、28Si,29Siおよび30Siが存在し、28Siは最も存在量が多い(92%)。試料が水素を含む形態であった場合、SiHは29Siの決定に干渉することになる。また、空気由来の窒素ガスが存在した場合、28Si2+14+との間および30Si2+15+との間の干渉が予想される。しかし、+3の荷電状態の選択により、質量対電荷の比の9.33,9.67および10を有する珪素同位体がもたらされ、これにより原子干渉および分子干渉の両者が排除される。
【0133】
本発明の方法を使用して、同一試料中の少なくとも2つの異なる元素の少なくとも2つの同位体比も決定できる。例えばCO2の場合、炭素および酸素の同位体の比(13C/12C、17O/16Oおよび18O/16O)は、同一試料において一斉に決定できる。同様に、比15N/14N、17O/16Oおよび18O/16Oは、一酸化窒素ガス中で決定できる。比17O/16O、18O/16O、33S/32S、34S/32Sおよび36S/32Sは、二酸化硫黄ガス中で決定できる。さらなる例において、比13C/12C,15N/14N,17O/16Oおよび18O/16Oは、ニトロベンゼンまたは他の有機化合物等の炭素、窒素および酸素を含む物質中で同時に決定できる。
【0134】
本発明の方法はまた、同一試料中の少なくとも2種の異なる元素の相対存在量、例えば有機材料中の炭素−窒素比を決定するために使用できる。
【0135】
上記で示したように、多価原子正イオンの決定の目的のために、多数の異なる検出器および検出器配置を用いることができる。本発明の方法においては、どの程度多くの比の決定が所望されるかに関わらず、全ての同位体比の決定において単一の検出器を用いることができる。これに代えて、目的の各々の異なる同位体に1つの検出器が与えられてもよい。
【0136】
単一の検出器を用いる場合、一次分析器を構成し、空間よりも時間で多価原子正イオンを分離することができる(複数の検出器が用いられる場合と同様)。セクターフィールド磁石および単一の検出器を伴うシステムを構成して、検出器中の各々の異なる同位体を配置するのに必要な設定間での磁界の切り替えにより、またはこれに代わり、正イオンのビームのエネルギーを調節(通常、イオン源ビーム引出電圧を経て)して異なる質量の同位体を同一検出器に交代に伝送することにより、2つの可能な方法を行うことができる。図1に示す装置においては、単一のファラデーカップを1つのコントローラーのみおよびより狭いセクターフィールド磁石とともに使用できる。
【0137】
ウィーンフィルターを一次分析器として使用する場合、フィルターの磁界もしくは静電界を切り替えるか、または正イオンのビームのエネルギーを調節することができる。四重極マスフィルターを一次分析器として使用する場合、これらのフィルターはこれらの本質上単一同位体を1度に伝送するのみであり、そして従って、常に単一の検出器と併せて使用される。さらに、飛行時間システムを採用する場合、同位体の全てを単一タイミング検出器において測定する。
【0138】
これも上記で既に示しそして例示したように、各検出器が目的の単一の同位体を検出するような複数の検出器もまた使用できる。例えば、ニトロベンゼン中での全同位体の比の決定が所望される場合、7つの検出器(例えばファラデーカップ)全部を使用できる。
【0139】
複数の検出器を採用する場合には異なる検出器の組合せも包含できる。例えばファラデーカップはDaly検出器とともに使用できる。検出器の組合せは、正イオンのビームの強度が低い際に有用である場合がある。幾つかの同位体の組合せについて、ある同位体が高強度でかつ他が低強度である場合があることは、検出器をその感度という基準で選択できることを意味する。しかし、最も重要と予想される同位体(C,N,OおよびS)について、電流計に接続されたファラデーカップは良好な結果を与える。
【0140】
本発明の方法では、これらに限定するものではないが:
・ガス試料中の炭素、窒素、酸素および硫黄の同位体の以下の同位体比:13C/12C,15N/14N,17O/16O,18O/16O,33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定
・二酸化炭素試料中の13C/12Cの決定
・二酸化炭素試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの決定
・水試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの決定
・酸素ガス試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの決定
・窒素ガス試料中の15N/14Nの決定
・窒素酸化物からなるガスの試料中の15N/14Nの決定
・窒素酸化物からなるガスの試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの決定
・二酸化硫黄ガス試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの決定
・二酸化硫黄ガス試料中の33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定
・水文学および気候変動の研究のための、水試料中の17O/16Oおよび/または18O/16Oの値の決定、ここで水試料は地下水、地表水、降雨、環境中の蒸気、氷、雪、土壌水分等に由来することができる
・水文学および気候変動の研究のための、水試料中の2H/1H、17O/16Oおよび18O/16Oの値の決定、ここで水試料は地下水、地表水、降雨、環境中の蒸気、氷、雪、土壌水分等に由来することができる
・気候変動研究のための、サンゴまたは洞窟生成物等の炭酸物質に由来する固体の炭酸カルシウム中または二酸化炭素中の13C/12C、17O/16Oおよび/または18O/16Oの値の決定
・表面上に閉じ込められた太陽風試料中の17O/16Oおよび18O/16Oの値の決定
・隕石試料中または他の地球外物質中の17O/16Oおよび18O/16Oの値の決定
・水の生物生産力を決定するための、海中または淡水中の溶解酸素中の17O/16Oおよび18O/16Oの値の決定
・硝酸塩物質の起源を決定するための、硝酸塩に由来する窒素酸化物からなるガス試料中の15N/14N,17O/16O,18O/16Oの決定
・硫酸塩物質の起源を決定するための、硫酸塩に由来する固体の硫酸バリウムまたは二酸化硫黄ガスの試料中の17O/16O,18O/16O、33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定
・試料物質の起源を立証する法医学調査ための、目的の試料中の13C/12C、15N/14N,17O/16O,18O/16O、33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定
・食品試料中の13C/12C、15N/14N,17O/16O,18O/16O、33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定であって、これらの試料の起源を立証するためのもの、例えば、食物の混ぜ物を特定するためのもの、
・炭素、窒素、酸素および/または硫黄の1種または複数種の人工同位体トレーサーが導入された、生物系中の炭素、窒素、酸素および/または硫黄の同位体比の決定
・1種または複数種の人工同位体トレーサーが導入された物質についての、生物系中での吸収、分配、代謝および/または排泄の経路を決定するためのもの
・上記したもの等の用途のための、ガスクロマトグラフィまたは液体クロマトグラフィ等によって分離された、有機または他の物質の特定抽出物中の13C/12C、15N/14N,17O/16O,18O/16O、33S/32Sおよび/または34S/32Sの決定
等の非常に多くの用途および適用が可能である。
【0141】
本発明の方法を用いた水中の酸素同位体比の決定のためには試料準備が必要ないため、該方法はまた氷の試料を蒸発させることが可能な装置と併せて使用でき、蒸気は続いてイオン源中に導入される。
【0142】

ここで、以下の例を参照し、例示のみで本発明をさらに詳細に説明する。例は、本発明の説明を与えることを意図し、本明細書を通じた説明の開示の一般性を制限するものと解釈すべきでない。
【0143】
以下に示す同位体決定例のために、装置は、ECRイオン源、アインツェルレンズ、一次分析器としてのセクターフィールドマグネット、および検出器としての単一のファラデーカップを含んだ。各同位体のビーム電流は、電流計において連続して測定し、測定サイクルを3回または4回のいずれか繰り返した。次いで、電流の平均比を評価して既知天然存在量から予想した比と比較した。測定された値は、天然存在量に近接すると予想されるが、これはその値とは厳密には一致しない場合がある。
【0144】
例1−水蒸気中の酸素の同位体比の決定
【0145】
【表1】

【0146】
例2−CO2ガス中の酸素および炭素の同位体比の決定
+2荷電状態における酸素イオン:
【0147】
【表2】

【0148】
+2荷電状態における炭素イオン:
【0149】
【表3】

【0150】
例3−N2ガス中の窒素の同位体比の決定
【0151】
【表4】

【0152】
例4−有機化合物中の同位体比の決定
以下の表は、ニトロベンゼン(C65NO2)の試料の蒸気により測定された、+1荷電状態(表の上半分)および+2荷電状態(表の下半分)における目的のイオンについてのイオンビーム電流を列挙する。+1イオンの場合では、いずれの精度でも目的の同位体比の測定を不可能にする水素化物イオンによる顕著な干渉が存在する。+2荷電状態を用いると、データにより、合理的に正確な同位体比が決定可能であることが示される。
【0153】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】図1は、本発明の態様に従った同位体比質量分析計を示す。
【図2】図2は、本発明の態様に従った同位体比質量分析計を示す。
【図3】図3は、荷電状態+1および+2での、水蒸気の試料中の16O、17Oおよび18Oの比の決定の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定するための方法であって:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも1種の元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成すること;
(ii)前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること、および
(iii)工程(ii)で分離された前記少なくとも1種の元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること、
を含む、方法。
【請求項2】
試料中の単一元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含み:
(i)試料をイオン化して、該元素の異なる同位体のイオンであって多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷の比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)該元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;および
(iii)工程(ii)で分離された元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料中の少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定することを含み:
(i)試料をイオン化して、前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体のイオンであって、多価原子正イオン、水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンからなる群から選択されるものを生成し、異なる同位体の荷電正イオンの質量対電荷の比が、前記試料から生成する他のイオンの質量対電荷の比と異なる質量対電荷の比の範囲内であること;
(ii)前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の荷電正イオンを、これらの質量対電荷の比に従って分離すること;
(iii)工程(ii)で分離された前記少なくとも2種の異なる元素の異なる同位体の少なくとも1つの比を決定すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種の元素が、水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウラン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
イオンが多価原子正イオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
多価原子正イオンが、+2または+3の電荷を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種の元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
試料が、以下の化合物:水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、硫化水素、六フッ化硫黄、クロロメタン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロシラン、酸素、オゾンおよび窒素の1種以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
単一元素の1から6の間の同位体比で決定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
単一元素が:水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウラン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
イオンが多価原子正イオンである、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
多価原子正イオンが、+2または+3の電荷を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
18O/16O、18O/17O、17O/16O、13C/12C、15N/14N、33S/32S、34S/32S、36S/32S、33S/34S、33S/36Sおよび34S/36Sからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
18O/16O、18O/17O、17O/16O、13C/12Cおよび15N/14Nからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
18O/16O、18O/17Oおよび17O/16Oからなる群から選択される少なくとも1つの比を決定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
試料が、以下の化合物:水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、硫化水素、六フッ化硫黄、クロロメタン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロシラン、酸素、オゾンおよび窒素の1種以上を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
2,3または4種の異なる元素の異なる同位体の2つまたは3つの比を決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
2種の異なる元素の異なる同位体の1つの比を決定することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも2種の異なる元素が、水素、酸素、硫黄、窒素、炭素、珪素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、塩素、ウランおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
イオンが多価正イオンである、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも2種の異なる元素が、酸素、硫黄、窒素および炭素からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(i)多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;
(ii)前記荷電正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離するために適合させた一次分析計;
(iii)前記分離された荷電正イオンを検出するための、少なくとも1つのイオン検出器
を含む、同位体比質量分析計装置。
【請求項24】
イオン源が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源である、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
荷電正イオンが、多価原子正イオンである、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
一次分析器が、セクターフィールド磁石、ウィーンフィルター、四重極マスフィルターおよび飛行時間測定システムからなる群から選択される、請求項23に記載の装置。
【請求項27】
追加の分析器を含む、請求項23に記載の装置。
【請求項28】
少なくとも1つの検出器がファラデーカップである、請求項23に記載の装置。
【請求項29】
(i)多価原子正イオンおよび水素についての一価正イオンおよび重水素についての一価正イオンのビームを生成可能なイオン源;
(ii)前記荷電正イオンをこれらの質量対電荷の比に従って分離するために適合させた一次分析計;
(iii)前記分離された荷電正イオンを検出するための、少なくとも2つのイオン検出器
を含む、同位体比質量分析計装置。
【請求項30】
イオン源が電子サイクロトロン共鳴(ECR)源である、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
荷電正イオンが多価原子正イオンである、請求項29に記載の装置。
【請求項32】
一次分析器が、セクターフィールド磁石、ウィーンフィルター、四重極マスフィルターおよび飛行時間測定システムからなる群から選択される、請求項29に記載の装置。
【請求項33】
追加の分析器を含む、請求項29に記載の装置。
【請求項34】
少なくとも2つの検出器がファラデーカップである、請求項29に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−507212(P2009−507212A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528297(P2008−528297)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001284
【国際公開番号】WO2007/025348
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508064780)オーストラリアン ヌークリア サイエンス アンド テクノロジー オーガニゼイション (2)
【Fターム(参考)】