説明

同期タイミング検出装置および受信機

【課題】感度の低下および処理量の増大を回避しつつ同期捕捉精度を向上させる同期タイミング検出装置を得ること。
【解決手段】本発明にかかる同期タイミング検出装置は、時間領域信号である受信信号および予め保持している受信信号レプリカを周波数領域信号に変換する信号変換手段(最大値正規化部18、FFT部19)と、周波数領域信号に変換後のレプリカを、検出可能な最大遅延時間に相当する範囲内で位相回転することにより得られたレプリカデータと前記周波数領域信号に変換後の受信信号との位相差を抽出し、当該位相差に対して受信帯域幅に相当する区間の積分を実行する演算手段(乗算処理部20、演算処理部21、乗算処理部22、積分処理部23)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信信号の同期タイミングを検出する同期タイミング検出装置に関するものであり、特に、マルチパスの影響を低減して同期タイミングを検出する同期タイミング検出装置および当該同期タイミング検出装置を備える受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陸上移動体の測位に広く使用されているGPS(Global Positioning System)において、GPS受信機は、GPS衛星からの信号に同期することでGPS衛星との間の距離を計測し、その計測結果に基づいて測位を実施する。
【0003】
具体的には、GPSは、スペクトル拡散通信方式を採用しており、GPS衛星より送信される電波は拡散コードにより拡散処理が実施されている。また、GPS受信機は、GPS衛星が拡散処理に用いた拡散コードのレプリカを生成し、受信信号と生成したレプリカとの相互相関演算を実行することにより相関ピークを検出して同期捕捉を行う。その同期タイミングは、GPS受信機と衛星との間の距離に対応しており、測距に使用する。そして、GPS受信機は、4衛星以上のGPS衛星との間で測距を実行し、それらの実行結果に基づいて測位を行う。なお、一般的なGPS受信機は、同期捕捉から追尾動作に移行した後に測距を実行し、追尾動作にはDLL(Delay Lock Loop)を使用する。
【0004】
ここで、市街地環境においてGPSを使用する場合、GPS受信機は、マルチパス(遅延波)が直接波に重畳した電波を受信するため同期検出が困難となり、その結果、測距誤差を生じるという問題がある。この問題に対する改善方法として、たとえば、GPS受信機内の同期追尾用の相関器であるDLLにマルチパス誤差の低減機能を付加することにより測距誤差を低減する“Narrow Correlator”、“Strobe Correlator”等が提案されている。また、相関演算結果(遅延プロファイル)を用い、最尤推定に基づいて遅延波パラメータ(遅延波チップ遅延量、振幅、位相)を抽出し、マルチパス誤差を補正する技術であるMMT(Multipath Mitigation Technology,下記特許文献1参照)等が提案されている。また、フーリエ変換等の時間−周波数領域変換を相互相関演算結果に対して実行することにより、上記問題を改善して測位精度を向上する方法が下記特許文献2に開示されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6031881号明細書
【特許文献2】特表2003−518806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記“Narrow Correlator”および“Strobe Correlator”を使用してマルチパス誤差を低減する場合、受信信号帯域を広帯域にする必要がある。しかしながら、GPS受信機における測距の高精度化と高感度化は相反するものであるため、これらの方法を使用してマルチパス誤差を低減するGPS受信機は、一般のGPS受信機と比較して、感度が低くなる、という問題があった。
【0007】
また、上記最尤推定法に基づいて遅延波パラメータを抽出し、マルチパス誤差を補正する技術は、感度の低下を防止して測距を高精度化することができるが、処理量が大きい、という問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、感度の低下および処理量の増大を回避しつつ同期捕捉精度を向上させる同期タイミング検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるタイミング検出装置は、受信信号と受信信号レプリカとの相互相関演算を実行することにより相関ピークを検出して同期捕捉を行う同期タイミング検出装置であって、前記時間領域信号である受信信号および予め保持している前記受信信号レプリカを周波数領域信号に変換する信号変換手段と、前記周波数領域信号に変換後のレプリカを、検出可能な最大遅延時間に相当する範囲内で位相回転することにより得られたレプリカデータと、前記周波数領域信号に変換後の受信信号と、の位相差を抽出し、当該位相差に対して受信帯域幅に相当する区間の積分を実行する演算手段と、を備え、前記演算手段が、前記位相回転量を前記範囲内で変更しながら前記位相回転処理、位相差抽出処理および積分処理を規定回数にわたって繰り返し実行し、前記複数の積分処理の中で最大の値が得られた処理において使用した回転量を、所望の同期タイミングとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、周波数領域信号に変換後の受信信号に含まれる先行波のタイミングを推定することにより、詳細な同期タイミング検出を行うこととした。これにより、先行波のタイミング唯一つのみを推定して同期タイミングを検出できるので、たとえば、最尤推定を使用して3つのパラメータを推定し、同期タイミングを検出していた従来の同期タイミング検出処理と比較して処理量を削減できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる同期タイミング検出装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、一例として同期タイミング検出装置をGPS受信機に応用した場合について以下に説明する。
【0012】
また、説明の簡易化のため、後述する各実施の形態において、本発明にかかる同期タイミング検出装置を使用したGPS受信機は、GPS衛星からの受信信号のタイミング検出用に図1に示すような相関演算結果が得られ、この結果を用いて相関ピーク位置の検出を行うことにより同期タイミングを検出するものと仮定する。なお、図1は、本発明にかかる同期タイミング検出装置が行う相関演算結果の一例を示す図である。
【0013】
上述したように、一般的なGPS受信機はDLLを搭載しており、図2に示すゼロクロス点が所望の同期タイミングに相当する。なお、図2は、一般的なGPS受信機が備えるDLLが行う相関演算結果の一例を示す図である。DLLは、たとえば図1に示すような相関演算を実施する相関器を2つ用意し、一方の相関器においてレプリカ生成タイミングを0.5チップ(chip)早めて相互演算を実行し、もう一方の相関器においてレプリカ生成タイミングを0.5チップ遅延させて相互演算を実行する。そして、前者の相関演算結果から後者の演算結果を減算することにより図2に示した波形を得る。また、原理的に一つの相関器を使用して図1に示す相関演算結果のピークを検出してもタイミング検出は可能であり、このときのタイミング検出性能は、上記のように二つの相関器のレプリカ生成タイミングの差が1チップのDLLと同等である。したがって、上記のように仮定してもGPS受信機としての動作上問題ない。
【0014】
実施の形態1.
図3は、本発明にかかる同期タイミング検出装置の実施の形態1の構成例を示す図である。この同期タイミング検出装置は、コードレプリカ保持部11と、相関演算部12と、電力換算部13と、最大値検出部14と、データ抽出部15と、補間処理部16と、レプリカ保持部17と、最大値正規化部18と、FFT(Fast Fourier Transfer)部19と、乗算処理部20および22と、演算処理部21と、積分処理部23と、同期タイミング選択部24と、を備える。また、この同期タイミング検出装置は、受信機内の局部発振器(図示せず)および直交復調器(図示せず)により搬送波周波数成分を除去してベースバンド帯域に周波数変換された受信ベースバンド信号を入力信号とする。以下、各部の動作について説明する。
【0015】
コードレプリカ保持部11は、C/Aコード(Coarse/Acquisition code,1周期1023チップ)のレプリカを保持している。相関演算部12は、コードレプリカ保持部11が保持しているコードレプリカと受信ベースバンド信号との相関演算を行うことにより複素遅延プロファイル(受信信号)を生成出力する。なお、受信ベースバンド信号が複素信号である場合、実部成分(I成分)および虚部成分(Q成分)それぞれに対して相関演算を行う。相関演算部12は、たとえばマッチトフィルタにより実現できる。
【0016】
電力換算部13は、相関演算部12が出力する実部成分の相関演算結果(I)および虚部成分の相関演算結果(Q)を使用して、I2+Q2を計算し、相関ピーク位置が同期タイミングを示す電力遅延プロファイルを生成する。そして、この電力換算部13が出力した電力遅延プロファイルを次式(1)で除算することにより図1に示すような波形を得る。
【0017】
【数1】

…(1)
【0018】
最大値検出部14は、電力換算部13が出力する電力遅延プロファイルデータのピーク位置を検出することにより粗い精度で同期タイミング(第1段階の同期タイミング)を検出する。データ抽出部15は、相関演算部12が出力した受信信号(複素遅延プロファイル)から、最大値検出部14が検出した電力遅延プロファイルデータのピーク位置付近に対応する区間(たとえばピーク位置の前後3チップの区間)のデータを抽出する。
【0019】
補間処理部16は、さらに詳細な相関ピーク位置検出(同期タイミング検出)が可能となるように、データ抽出部15が抽出したデータに対してデータ間を補間する処理を実行する。GPS受信機では、同期タイミングを測距に使用するが、1チップ時間のずれが約300mのずれに相当するため(C/Aコードの周波数=1.023MHz)、測距に使用するためには1チップの1/128〜1/1024程度の精度で同期タイミングを検出する必要がある。そのため、本実施の形態の補間処理部16は、たとえばオーバサンプリングフィルタを使用して上記分解能(精度)が得られるように補間処理を実行する。以上の各構成部が行う処理は、一般的なGSP受信機が行う処理と同様であり、これ以降に説明する各構成部が行う相関ピーク位置検出処理(より高い精度で同期タイミングを検出するための第2段階の同期タイミング検出処理)が本発明の特徴的な動作となる。
【0020】
レプリカ保持部17は、補間処理部16からの出力データを模擬して作成されたレプリカを保持しており、当該レプリカは、相関ピーク位置検出処理の実行時に最大正規化部18に対して出力される。なお、このレプリカは、ノイズおよび遅延波を含まないものであるため、送信フィルタと受信フィルタの特性を反映させることで生成することができる。また、GPS受信機では、所望の信号(C/Aコード)のメインローブ2MHzに対して20MHz程度の帯域が制限されるだけであるため、受信フィルタの特性のみを反映させることにより生成可能である。
【0021】
最大値正規化部18は、入力信号(補間処理部16から出力されたデータおよびレプリカ保持部17から出力されたレプリカ)の最大値を検出し、最大値による正規化を実行する。なお、レプリカ保持部17が最大値正規化後の値を保存している場合、レプリカに対する最大値正規化処理は不要となる。FFT部19は、最大値正規化部18から出力された、最大値正規化後の受信信号および最大値正規化後のレプリカに対してFFTを実行して周波数領域信号に変換する。ただし、レプリカ保持部17がFFT後のレプリカを保持している場合、FFT部19は、レプリカに対するFFT処理は不要となる。なお、最大値正規化部18およびFFT部19が信号変換手段を構成する。
【0022】
乗算処理部20は、同期タイミングを調整するために使用する位相回転量kを、周波数領域のレプリカに対して乗算し、位相回転を与える。ここで、周波数領域のレプリカに対して位相回転を与えることは、図4に示すように、時間領域におけるレプリカを時間シフトすることに相当する。なお、図4は、時間領域における受信信号とレプリカとの関係の一例を示す図であり、f(t)が最大値正規化部18から出力された受信信号、fR(t)が最大値正規化部18から出力されたレプリカである。このとき、同期タイミングの検出処理は、受信信号f(t)に対してレプリカfR(t)の遅延量kTを変更しながらf(t)に最もフィッティングするタイミング(遅延量)kTを推定する処理に相当する。本発明にかかる同期タイミング検出装置は、以下に示すように、この同期タイミングの検出処理を周波数領域において実行する。
【0023】
以降、上記f(t)およびfR(t)にFFTを実行して得られたデータをF(f)およびFR(f)と表現し、さらに、レプリカFR(f)に対して位相回転量k(時間領域における遅延量kTに相当)を乗算後のレプリカをFR[k](f)と表現する。なお、これらのデータは複素信号である。また、‖・‖は複素信号の大きさ(絶対値)を示し、たとえば次式(2)が成立する。以下、同期タイミングの検出動作について詳しく説明する。
【0024】
【数2】

…(2)
【0025】
演算処理部21は、乗算処理部22がF(f)とFR[k](f)の位相差を抽出するために使用する信号を生成出力する。具体的には、次式(3)を使用して入力信号FR[k](f)に対する演算処理を実行し、その結果を出力する。
1/(‖FR[k](f)‖・FR[k](f)) …(3)
【0026】
乗算処理部22は、FFT部19の出力信号F(f)に対して演算処理部21の出力信号を乗算することによりF(f)とFR[k](f)の位相差を抽出する。なお、この処理は、F(f)からFR[k](f)を除算することに相当する。積分処理部23は、乗算処理部22の出力信号に対して受信帯域幅Bに相当する区間の積分を実行する。
【0027】
なお、乗算処理部20、演算処理部21、乗算処理部22および積分処理部23が請求項1の演算手段を構成する。また、本発明にかかる同期タイミング検出装置は、上述した乗算処理部20から積分処理部23までの一連の処理を所定の区間において位相回転量kを変更しながら繰り返し実行する。そして、上記一連の処理の繰り返しが終了後、同期タイミング選択部24は、当該繰り返し処理において積分処理部23から出力された信号の中で最大の値が得られた際に使用した位相回転量kを同期タイミングとして選択して出力する。なお、上記位相回転量kは、検出可能な最大遅延時間に相当する範囲、たとえば、遅延波を含まない理想的な同期タイミングの前後1チップ時間に相当する範囲、とする。また、変更量は、同期タイミング検出装置を適用するシステムが要求する分解能(同期タイミング検出精度)を満足するように決定する。
【0028】
つづいて、上述したような処理を実行することにより同期タイミングが選択できる理由を図5〜10に基づいて説明する。なお、図5は、受信ベースバンド信号に基づいて生成された受信信号の一例を示す図である。図6は、レプリカ保持部17が保持するレプリカの一例を示す図である。図7は、FTT後の受信信号の一例を示す図である。図8は、FFT後のレプリカの一例を示す図である。図9は、FTT後の受信信号に含まれる先行波成分の位相回転を解いて得られた信号の一例を示す図である。図10は、受信タイミングk(横軸)と積分処理部23の処理結果(縦軸)との関係の一例を示す図である。
【0029】
たとえば、受信ベースバンド信号が先行波と遅延波1波が合成されたものであるとすると、f(t)は、図5に示したような波形となる。これに対してレプリカfR(t)は、遅延波およびノイズを含んでいないために図6に示したような波形となる。そしてこれらの信号に対してFFTを実行して得られた受信信号F(f)およびレプリカFR(f)は、それぞれ図7および図8に示したような波形となる。
【0030】
kのタイミングが先行波のタイミングに一致する場合、F(f)に対して演算処理部21の出力信号を乗算して得られた信号(乗算処理部22の出力信号)は、先行波のタイミングに対応する位相回転のみが解かれ、図9に示したような波形の信号となる。この処理結果(乗算処理部22の出力信号)に対して積分処理部23が受信帯域幅B区間の積分を実行することにより受信波に含まれる遅延波成分が0となり、先行波成分が取り出される。これに対して、kのタイミングが先行波のタイミングに一致しない場合、F(f)と演算処理部21の出力信号との乗算結果(乗算処理部22の出力信号)に含まれる先行波成分には位相回転が残留しているため、この信号の積分結果は0となり先行波成分を取り出すことができない。したがって、図10に示すように、先行波のタイミングに一致したkの値において、積分処理部23の出力信号はピークを形成する。そのため、積分処理部23の出力信号が最大となるkを選択することにより、所望のタイミング対して最も誤差の少ない最適な同期タイミングを選択(検出)することができる。
【0031】
このように、本実施の形態においては、受信信号およびそのレプリカをそれぞれ周波数領域信号に変換し、当該変換後の受信信号に含まれる先行波のタイミングを推定することにより詳細な同期タイミング検出を行うこととした。すなわち、先行波のタイミングという唯一つのパラメータを推定して同期タイミング検出を行うこととした。これにより、たとえば、従来使用されていた、最尤推定を使用して3つのパラメータ(遅延波のタイミング、振幅、位相)を推定し、同期タイミング検出を行う方法と比較して処理量を削減できる。また、本実施の形態の構成は、受信機内の相関器特性に大きく依存しないため容易に組み込むことができる。
【0032】
実施の形態2.
つづいて、実施の形態2について説明する。図11は、本発明にかかる同期タイミング検出装置の実施の形態2の構成例を示す図である。この同期タイミング検出装置は、上述した実施の形態1の同期タイミング検出装置に対して、分散算出部31と、演算処理部32と、乗算処理部33と、が追加された構成をとる。その他の部分については、上述した実施の形態1と同様であるため同一の符号を付してその説明を省略する。以下、実施の形態1の同期タイミング装置と異なる部分について説明する。
【0033】
分散算出部31は、乗算処理部22からの入力信号に基づいてF(f)とFR[k](f)との位相差データの分散V[k]を算出する。演算処理部32は、演算処理部21が使用する演算式(3)に上記分散V[k]を反映させた次式(4)を使用して入力信号FR[k](f)に対する演算処理を実行し、その結果を出力する。
1/((‖FR[k](f)‖+V[k]/‖FR[k](f)‖)・FR[k](f)) …(4)
【0034】
なお、この分散V[k]を反映させた演算処理を実行するのは上記位相差抽出後のスペクトル推定精度を向上させるためであり、F(f)とFR[k](f)の位相差をV[k]に基づいて補正することに相当する。また、式(4)を使用した処理は、FR[k](f)とV[k]とを合成した結果を使用して式(3)の処理を実行することに相当する。
【0035】
乗算処理部33は、F(f)と演算処理部32の出力信号とを乗算した結果を同期タイミング選択部24に対して出力する。同期タイミング検出部24は、上述した実施の形態1と同様の動作を実行して同期タイミングを検出する。なお、乗算処理部20、演算処理部21、乗算処理部22、積分処理部23、分散算出部31、演算処理部32および乗算処理部33が請求項3の演算手段を構成する。
【0036】
つづいて、分散V[k]と位相回転量kとの関係について説明する。図12は、位相回転量k(横軸)と分散算出部31の処理結果(縦軸)との関係の一例を示す図である。図12に示したように、kが先行波のタイミングに一致(k=Kに相当)する場合、V[k]が最小となり、図10の波形を横軸に対して線対称に折り返したような波形になる。これは、kが先行波のタイミングに一致する場合、図9に示したように遅延波の位相回転成分しか存在しないため、先行波成分が一箇所に集中することから分散値が小さくなり、逆に、kが先行波のタイミングに一致していない場合、先行波の位相回転が残留しているため、先行波成分が一箇所に集中せずに分散値が増大する。そして、kに対するV[k]の波形が図12にようになることから、図10の波形を除算することにより、実施の形態1の場合と比較して更にピークを強調することができる。以上により、本実施の形態においては、演算処理部32および乗算処理部33が分散V[k]を考慮した処理を実行することとした。
【0037】
このように、本実施の形態においては、受信ベースバンド信号に基づいて生成した受信信号およびそのレプリカの分散を算出し、算出した分散を考慮して同期タイミングの検出処理を行うこととした。これにより、実施の形態1の同期タイミング検出装置と比較してさらにタイミング検出精度を向上させることができる。また、本実施の形態の構成は、受信機内の相関器特性に大きく依存しないため、実施の形態1と同様に、容易に組み込むことができる。
【0038】
なお、上述した実施の形態1および2において、同期タイミング選択部24をしきい値判定によるパス検出器に差し替えることにより、しきい値以上のピーク値を持つ場合はパスであると判定し、パス数の検出が可能となる。また、その検出したパスの中で最もkが小さいものを先行波として同期タイミングを推定する。これにより、先行波の受信レベルが遅延波の受信レベルより低い場合であっても先行波タイミングを抽出することができる。
【0039】
また、本発明は、相関器(相関演算部)自体に変更は加えないため、GPS受信機のベースバンド信号処理部(図示せず)前段の受信フィルタの帯域を狭めることにより高感度受信動作への移行が容易に実施できる。たとえば、室内等において、通常動作での測位を実行したが感度不足により測位が不可能な場合、利用者の感度変更操作に伴って受信フィルタを高感度対応に切り替えて高感度対応動作へスムーズに移行させることが可能である。また、同期捕捉時に電力遅延プロファイルに対してしきい値判定によるパス検出を実施するGPS受信機においては、同期検出動作中のある一定時間内にしきい値を超えるパスを検出できなかった場合、自動的に高感度対応の受信フィルタを使用した動作に移行することが可能である。
【0040】
さらに、本発明は、同期タイミングの検出精度を向上させるものであるため、上述したようなGPS等の測距を行う装置に限らず、それ以外の同期タイミング検出を行う装置に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明にかかる同期タイミング検出装置は、たとえばGPS受信機が備える同期タイミング検出装置に有用であり、特に、マルチパスの影響を低減して受信信号の同期タイミングを検出する同期タイミング検出装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明にかかる同期タイミング検出装置が行う相関演算結果の一例を示す図である。
【図2】一般的なGPS受信機が備えるDLLが行う相関演算結果の一例を示す図である。
【図3】本発明にかかる同期タイミング検出装置の実施の形態1の構成例を示す図である。
【図4】時間領域における受信信号とレプリカとの関係の一例を示す図である。
【図5】受信ベースバンド信号に基づいて生成された受信信号の一例を示す図である。
【図6】レプリカ保持部が保持するレプリカの一例を示す図である。
【図7】FTT後の受信信号の一例を示す図である。
【図8】FFT後のレプリカの一例を示す図である。
【図9】FTT後の受信信号に含まれる先行波成分の位相回転を解いて得られた信号の一例を示す図である。
【図10】受信タイミングkと積分処理部の処理結果との関係の一例を示す図である。
【図11】本発明にかかる同期タイミング検出装置の実施の形態2の構成例を示す図である。
【図12】位相回転量と分散算出部の処理結果との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
11 コードレプリカ保持部
12 相関演算部
13 電力換算部
13 最大値検出部
15 データ抽出部
16 補間処理部
17 レプリカ保持部
18 最大値正規化部
19 FFT部
20、22、33 乗算処理部
21、32 演算処理部
23 積分処理部
24 同期タイミング選択部
31 分散算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号と受信信号レプリカとの相互相関演算を実行することにより相関ピークを検出して同期捕捉を行う同期タイミング検出装置であって、
前記時間領域信号である受信信号および予め保持している前記受信信号レプリカを周波数領域信号に変換する信号変換手段と、
前記周波数領域信号に変換後のレプリカを、検出可能な最大遅延時間に相当する範囲内で位相回転することにより得られたレプリカデータと、前記周波数領域信号に変換後の受信信号と、の位相差を抽出し、当該位相差に対して受信帯域幅に相当する区間の積分を実行する演算手段と、
を備え、
前記演算手段が、前記位相回転量を前記範囲内で変更しながら前記位相回転処理、位相差抽出処理および積分処理を規定回数にわたって繰り返し実行し、前記複数の積分処理の中で最大の値が得られた処理において使用した回転量を、所望の同期タイミングとすることを特徴とする同期タイミング検出装置。
【請求項2】
予め保持している受信信号レプリカが周波数領域信号の場合は、
前記信号変換手段が、時間領域信号である受信信号のみを周波数領域信号に変換し、
前記演算手段は、前記周波数領域信号のレプリカを使用して前記位相回転処理、位相差抽出処理および積分処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の同期タイミング検出装置。
【請求項3】
前記演算手段は、
前記位相差の分散を算出し、前記位相差を当該分散に基づいて補正して得られた補正後の位相差に対して、受信帯域幅に相当する区間の積分を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の同期タイミング検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の同期タイミング検出装置を備える受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−228424(P2007−228424A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49042(P2006−49042)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】