説明

同種拒絶反応の特異的阻害

本発明は、同種抗原に対する細胞性および体液性免疫応答の両方を特異的に阻害するための方法および組成物を提供し、これにより、移植用同種移植片の生存時間を伸ばし、移植レシピエントにおいて移植片対宿主疾患を処置する際の使用を見出した。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2003年3月19日に提出した仮出願番号60/456378の利益を請求するものである。
【0002】
本発明の分野
本発明は、免疫抑制治療、より具体的には、ドナーの臓器、組織および細胞のレシピエントにおいてドナーまたは宿主抗原に対する免疫応答を特異的に阻害することにより、移植方法の結果を改善するための方法および組成物に関する。
【0003】
本発明の背景
同種臓器、組織および細胞の移植は、広く多様な変性および悪性疾患の処置のために重要性が増してきた。しかし、このような同種移植片の使用は、主要組織適合性複合体(「MHC」)の抗原に本来関連しているドナーとレシピエント間の抗原の相違によって引き起こされる移植拒絶反応および/または移植片対宿主疾患(GVHD)により制限される。そのため、非リンパ様ドナー組織および固体臓器の移植に関する成功は、ドナー抗原に対する宿主免疫応答の予防に依存する。逆に、ドナーリンパ球細胞および組織の移植、例えば骨髄移植(「BMT」)方法において、宿主細胞および組織に対するドナー免疫応答の予防は、GVHDを避けるために必要である。
【0004】
同種反応性T細胞のプライミングは、ドナーMHC分子だけでなく、ドナー抗原がレシピエント抗原提示細胞(APC)により自己MHCの関係において処理され、提示され、されに利用される直接的な自己・非自己認識経路、さらに間接的な自己・非自己認識経路から起こる(Heeger, Am J. Transpl. 3: 525-533 (2003))。CD4ヘルパーT細胞に加えてCD8細胞毒性T細胞(CTL)の双方は、同種抗原免疫応答において重要な役割を担う。直接的および間接的にプライミングされたCD4T細胞は、同種抗体の生成を助け、CD8CTLの誘導に必要とされるシグナルを提供し、この両方が移植片を損傷し得る。同種抗原に対する免疫応答の細胞性および体液性成分の両方を媒介する中心的な役割を考慮して、数人のコメンテーターは、CD8CTLというよりむしろCD4ヘルパーT細胞が同種拒絶反応について重要であることを示唆している。Krieger et al., J. Exp. Med. 184:2013-2018 (1996)。いずれにしても、同種拒絶反応に対するあらゆる免疫抑制的ストラテジーの成功は、T細胞のサブセット、特にCD4T細胞の両方の活性を阻害するその能力に依存する。
【0005】
現在の治療方法は、T細胞の両クラスの活性を減少させるために、宿主免疫系の包括的な免疫抑制を使用する。多数の方法は、通常、移植時の包括的な誘導期を包含し、強力なT細胞枯渇物(depleters)、例えば抗-CD3抗体(例えば、OKT3)の組合せ物、または高用量ステロイドと組み合わせた抗-胸腺リンパ球グロブリンを包含しており、レシピエントが死ぬまで、一般的な免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンA(CsA)、タクロリムス(FK−506)、シロリムス (ラパマイシン)、アザチオプリン(Imuran(登録商標))およびミコフェノール酸モフェチル(CellCept(登録商標))を、慢性的に投与する。レシピエントの一般的な免疫応答を永続的に抑制することにより、移植片の生存時間が強められ得る。
【0006】
この一般的な免疫抑制方法の包括的性質として、レシピエントの健康が外来感染により厳しく影響されることが非常に多いわけではないが、移植片拒絶反応を抑制するために十分な免疫抑制を達成するために、一生涯、レシピエントとその担当医による一定のバランスをとる行為を必要とする。不幸にも、免疫抑制の正しいバランスであっても、レシピエントの感染リスクを増加させ、ウイルス感染および永続的なT細胞抑制のコンフルエンスが、移植レシピエントに対して特異的な非常に多くの血液悪性腫瘍、例えば移植後のリンパ組織増殖不全(PTLD)へと導くこともあり得る。明らかに、レシピエント免疫系の包括的抑制に対する必要性を上手く回避する、より特異的な免疫抑制ストラテジーが強く必要とされている。
【0007】
現在の治療方法の永続的性質は、経済的かつ生理学的両方に関する、また別の大きな問題である。免疫抑制治療を継続するための年間の費用は、10000ドル程度かかる。さらに重要なことは、維持療法に利用される現在の免疫抑制薬物全てが、その長期使用により悪化をもたらす非常に有害な副作用を有する。例えば、現在免疫抑制を維持するために利用されている2つの主な薬物であるCsAおよびFK506は、長期になると強い腎毒性と密接に結びつく。このように、逆に、幾つかの例においては、移植レシピエントの長期免疫抑制は、維持療法からおこるレシピエントの腎臓破壊によって、数年後にはさらなる臓器移植を必要となる。これらの型の一般的な免疫抑制剤を慢性投与する必要性を軽減するか、より良いのはその必要性を排除する免疫抑制ストラテジーが強く必要とされていることは明白である。
【0008】
すなわち、移植免疫生物学において、未だ対処されていない必要性は、同種抗原応答に対してより特異的な免疫阻害ストラテジーの開発である。かかるストラテジーは、一般的な薬理学的免疫抑制剤やそれに伴う合併症および費用継続の必要性がなく、同種拒絶反応を阻害するのが理想的である。かかる同種抗原に対する特異的免疫学的寛容を達成することにより、レシピエントに対する移植長生性およびクオリティー・オブ・ライフを改善すると同時に、移植治療の費用効果も十分に改善し得る。本発明は、これまではとらえどころのなかったゴールを達成する。
【0009】
関連文献の要約
MHCクラスI−制限T細胞(例えば、CD8CTL)の活性が、そのT細胞受容体複合体からのシグナルを受けたCTLが、そのクラスIMHC分子のα3ドメインからのシグナルも受ける場合に、抑制され得ることが知られている。このいわゆる、ベト・シグナル(veto signal)は、刺激物質または「ベト(veto)」細胞によって発現されたCD8分子によって送達され得る。Sambhara and Miller, Science 252:1424-1427 (1991)。得られる免疫抑制は、抗原特異的およびMHC制限の両方であり、応答性CTLによるベト細胞の一方向性の認識から生じ、また逆も同様である; Rammensee et al., Eur. J. Immunol. 12:930-934 (1982); Fink et al., J. Exp. Med. 157:141-154 (1983); Rammensee et al., J. Immunol. 132:668-672 (1984)。ベト活性は、CD8の発現が削除されるとベト機能が失われ、CD8α鎖が発現される場合に、確立されたCD8α鎖の存在と結合している;Hambor et al., J. Immunol. 145:1646-1652 (1990); Hambor et al., Intern. Immunol. 2:8856-8879 (1990); Kaplan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:8512-8515(1989)。
【0010】
多くのストラテジーが、望ましくない細胞毒性T細胞応答を排除するための抗原特異的抑制経路を開発するために提案されてきた。このようなストラテジーの1つは、特定の標的細胞に対して、CD8のベト活性に関する二次リガンドにCD8またはその機能的ドメインと共有的に結合しているポリペプチド結合体の使用を包含する。例えば、米国特許番号5,242,687、5,601,828および5,623,056を参照されたい。一方、ハイブリッド抗体分子は、CD8α鎖の細胞外ドメインと結合したMHCクラスI分子に対する特異性を有するモノクローナル抗体結合部位を用いて調査されてきた。Qi et al., J. Exp. Med. 183:1973-1980(1996)。しかし、このような分子は、いくつかの欠点を有し、実際の臨床使用はいまだ明らかになっていない。
【0011】
最近、PCT国際公開パンフレット番号WO02/102852では、MHCクラスIについて親和性を増加するよう設計されたアミノ酸修飾を有する可溶性C8α鎖変異体を用いたCTLの阻害が記述されている。重要なことは、上記文献に矛盾なく、その文献では、目的とするCD8α組成物がクラスIMHC分子に特異的であるため、CD8CTLの応答のみを阻害すると期待されるということが教示されている;Id. at p.27。さらに、他の免疫抑制剤との組合せは、細胞性および体液性免疫応答、例えばCD4T細胞のようなMHCクラスII制限T細胞;Id. p.28の他の要素を考慮する状況において、必要とされると考えられる。
【0012】
本発明の要約
本発明は、標的とされたCD8αの発現によって媒介されたベト効果が、応答性CD4T細胞(MHCクラスII制限)、さらにCD8T細胞(MHCクラスI制限)を効果的かつ特異的に抑制するという驚くべき発見と、その結果、同種抗原に対する免疫応答の細胞性および体液性成分の両方が阻害され得るという決断にもとづくものである。すなわち、本明細書で述べられた組成物および方法を用いると、一般的な免疫抑制剤の慢性投与を必要とせずに、ドナーまたは宿主抗原のいずれかに関する同種拒絶反応活性を選択的に阻害し、ドナー組織、臓器および/または細胞に対する特異的免疫学的寛容を有効にし得る。
【0013】
本発明に従って、方法および組成物は、同種移植片の性質により、同種移植片の生存時間を延長するため、また移植レシピエントの健康を保護するために、ドナーおよび/または宿主抗原に対する同種抗原応答を特異的に阻害するために提供される。好ましくは、対象組成物および方法は、かかる同種抗原に対して体液性および細胞性免疫応答の両方を阻害し得る。さらにより好ましくは、対象の組成物および方法は、慢性的免疫抑制治療を必要としないで、かかる同種抗原に対する安定かつ特異的な免疫学的寛容を誘導し得る。
【0014】
一つの態様において、少なくとも1つのかかる同種抗原を発現する標的細胞と、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖の全長または機能部分をコードする発現ベクターとを接触させ、これによって、CD8ポリペプチドが標的細胞により発現され、また同種抗原に対する同種免疫応答が特異的に阻害されることを含む。ある実施態様において、同種抗原はドナー同種抗原を含み、標的細胞は同種移植片細胞を含む。別の実施態様において、同種抗原はレシピエント同種抗原を含み、標的細胞はレシピエント細胞を含む。別の実施態様において、同種免疫応答は、体液性成分および細胞性成分の両方を包含する。好ましい実施態様において、同種免疫応答は、一般的な免疫抑制剤を必要とせずに効果的に阻害される。
【0015】
別の態様において、ドナー同種移植片細胞を、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖の全てまたは機能的部分を発現するように、イン・ビボまたはエクス・ビボで調節(conditioning)することを含む、ドナー同種抗原に対する免疫応答を特異的に阻害する方法が提供される。ある実施態様において、調節ステップは、イン・ビボまたはエクス・ビボで、CD8ポリペプチドの全てまたは機能的部分をコードしている発現ベクターと同種移植片細胞とを接触させることを含み、これにより、CD8ポリペプチドが同種移植片細胞によって発現させ、ドナー同種抗原に対するレシピエント免疫応答が特異的に阻害される。好ましくは、レシピエント同種免疫応答の細胞性および体液性成分の両方は、一般的な免疫抑制剤を必要とせずに効果的かつ特異的に阻害される。
【0016】
別の態様において、レシピエント細胞をCD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖の全てまたは機能的部分を発現するように、イン・ビボで調節することを含む、レシピエント同種抗原に対する免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供される。本発明の調節ステップのための好ましいレシピエント細胞は、GVHD免疫応答のリスク時に、レシピエント組織および臓器の大部分、例えば、肝臓、皮膚および腸管で見出されたものを包含する。ある実施態様において、調節ステップは、かかるレシピエント細胞を、CD8ポリペプチドの全てまたは機能的部分をコードしている発現ベクターとイン・ビボで接触させることを含み、該CD8ポリペプチドが該細胞によって発現され、これによってレシピエント同種抗原に対するドナー免疫応答が特異的に阻害される。好ましくは、ドナー同種免疫応答は、一般的な免疫抑制剤を必要とせずに効果的かつ特異的に阻害される。
【0017】
また、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖の全てまたは機能的部分を発現するように、イン・ビボまたはエクス・ビボで同種移植片細胞を調節することを含み、レシピエント中の同種移植片の生存時間を延長するための方法も提供される。ある実施態様において、調節ステップは、イン・ビボまたはエクス・ビボで同種移植片細胞を、CD8ポリペプチドの全てまたは機能的部分をコードする発現ベクターと接触させることを含み、CD8ポリペプチドが同種移植片細胞によって発現され、レシピエント中の同種移植片の生存時間が延長される。好ましくは、調節ステップは、同種移植片の移植前または同時に実施される。さらにより好ましくは、調節ステップは、同種移植片の移植前にエクス・ビボで実施されるか、または同種移植片の移植前または同時にドナーにおいてイン・ビボで実施される。もっとも好ましくは、本発明の方法の使用は、一般的な免疫抑制剤の慢性投与を必要とせずに、同種移植片に対する安定な免疫学的寛容を誘導するのに効果的である。
【0018】
また、CD8ポリペプチド、好ましくはヒト CD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖の全てのまたは機能的部分を発現するように、GVHD免疫応答のリスク時にイン・ビボでレシピエント細胞を調節することを含む、レシピエントにおいてGVHDを抑制するための方法が提供されている。ある実施態様において、調節ステップは、CD8ポリペプチドの全てのまたは機能的部分をコードしている発現ベクターと、レシピエント細胞とをイン・ビボで接触させることを含み、これにより、CD8ポリペプチドは、該細胞によって発現され、移植されたドナーT細胞によってレシピエント細胞に対して生じるGVHD免疫応答が抑制される。好ましくは、調節ステップは、同種移植片の移植と同時または後に実施される。さらにより好ましくは、調節ステップは、同種移植片の移植後にレシピエントにおいてイン・ビボで行われる。もっとも好ましくは、目的の方法の使用は、レシピエント同種抗原に対して移植されたドナーT細胞の免疫学的寛容を安定して誘導するのに有効であるために、一般的な免疫抑制剤の慢性投与が必要でないことである。
【0019】
本発明の方法および組成物に使用するための好ましいCD8ポリペプチドは、一般的に、CD8α鎖、より好ましくはCD8α鎖の細胞外ドメイン、さらにより好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインを含む。別の好ましい実施態様において、CD8ポリペプチドは、CD8α鎖の細胞外ドメインおよびトランスメンブレン・ドメイン、より好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインを含むか、または主にそれらから構成され得る。特に好ましい実施態様において、トランスメンブレン・ドメインは、CD8α鎖のトランスメンブレン・ドメインである。本発明の発現方法の性質、さらに上記のCD8α鎖の従来の可溶性形態に関する明らかな欠点が提供されるので、CD8α鎖トランスメンブレン・ドメインまたは適切な別の膜貫通領域の存在が重要であると考えられる。
【0020】
本発明の方法および組成物に使用すると意図される適当な発現ベクターは、組換え体および非組換え体ベクター、およびウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ関連ウイルスベクターおよび類似物)さらに非ウイルスベクター(例えば、細菌プラスミド、ファージ、リポソームおよび類似物)を包含する。
【0021】
別の態様において、本発明は、それらに対して生じたレシピエント免疫応答を特異的かつ効果的に阻害し得る改良された移植用同種移植片を提供する。ある実施態様において、改良された移植用同種移植片は、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはヒトCD8α鎖を発現するように修飾された同種移植片細胞を含む。本明細書で述べているとおり、CD8ポリペプチドは、CD8α鎖の細胞外ドメインおよびトランスメンブレン・ドメイン、またはCD8α鎖のIg様ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインを含むか、または主にそれらから構成され得る。該トランスメンブレン・ドメインは、CD8α鎖のものであり得るか、または別の有利に選択され得るトランスメンブレン・ドメインであり得る。同種移植片細胞の修飾は、本明細書中で開示したリポソーム媒介核酸トランスファー・ビヒクル、ウイルス媒介核酸トランスファー・ビヒクルおよび類似物によって達成され得る。
【0022】
さらに別の態様において、CD8ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む改良された臓器保存溶液が提供されている。このように、好ましい実施態様において、本発明は、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、およびもっとも好ましくはヒトCD8α鎖をコードする核酸を含む発現ベクターを含む改良された臓器保存溶液を提供する。他の好ましい実施態様において、改良された臓器保存溶液は、CD8α鎖の細胞外ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインをコードする核酸、あるいはCD8α鎖のIg様ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインを含む発現ベクターを含む。特に好ましい実施態様において、トランスメンブレン・ドメインは、CD8α鎖トランスメンブレン・ドメインである。別の実施態様において、ベクターは抗炎症性分子をコードする核酸、例えばヘモオキシゲナーゼをさらに含み得る。
【0023】
広範な態様において標的細胞特異的抗原に対する宿主免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供されており、それにはイン・ビボまたはエクス・ビボで、CD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8ポリペプチド、またより好ましくはヒトCD8α鎖の全てまたは機能的部分を発現するように、標的細胞を調節することを含み、そこでCD8ポリペプチドが標的細胞によって発現され、これにより、かかる抗原に対する免疫応答が特異的に阻害される。ある実施態様において、該標的細胞特異的抗原は同種抗原である。他の実施態様において、標的細胞特異的抗原は自己抗原である。好ましい実施態様において、調節ステップは、CD8ポリペプチドをコードしている発現ベクターと標的細胞とをイン・ビボまたはエクス・ビボで接触させることを含む。
【0024】
さらに別の態様において、自己免疫疾患の進行を予防し、処置する方法であって、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、またより好ましくはCD8α鎖の全てまたは機能的部分をコードしている発現ベクターを含む治療用組成物を、それを必要とする患者に投与することを含み、接触した標的細胞によってCD8ポリペプチドの発現により、標的細胞特異的自己抗原に対する自己反応性免疫応答が特異的に阻害される、方法が提供される。
【0025】
複数の実施態様が開示されるが、本発明の他の実施態様は、例証的に本発明の実施態様を提示し、説明した下記の詳細な説明から当業者には明らかであろう。理解され得るであろうが、本発明は、本発明の意図および範囲を逸脱しない様々な明らかな態様において修飾し得る。従って、図面および詳細な説明は、実質的な説明として考えられ、これにより制限されるものではない。
【0026】
(本発明の詳細な説明)
ドナーおよび/または宿主抗原に対する同種免疫応答は、移植方法の成功への医薬的な挑戦の継続を示す。上記のように、本発明の成功は、免疫モジュレーター分子、例えばCD8、特にCD8α鎖を発現するための同種移植片の修飾が、標的細胞特異的抗原に対する免疫応答の体液性および細胞性成分両方を効果的かつ特異的に阻害するという、驚くべき発見から由来する。
【0027】
従って、本発明は、免疫モジュレーター分子、好ましくはCD8ポリペプチド、さらにより好ましくはCD8α鎖の全てまたは機能的部分を発現する細胞を調節することを含む、同種抗原を発現する標的細胞に対する同種免疫応答を阻害および/または抑制するための組成物および方法を提供する。好ましい実施態様において、調節ステップは、本明細書に記載のようなCD8ポリペプチドの全てまたは機能的部分をコードしている発現ベクターと接触させることを含む。本発明は、標的細胞中のCD8の発現レベルを調節するため、例えばCD8発現を増加させる転写アクチベーターを提供すること、標的細胞に対する免疫応答を効果的かつ特異的に阻害するように標的細胞中のCD8の発現レベルを調節するための別の調節方法を考える(例えば、Mortlock et al., Nuc. Acids. Res. 31:152 (2003);Mizuguchi et al., Hum. Gene Ther. 14:1265-77(2003)を参照されたい)。本発明の方法および組成物によって達成された免疫阻害の特異性および選択性は、免疫系の一般的かつ非特異的阻害を与えて、外来的感染、ある症例において変異原性や癌に対して宿主の感受性を高めるという、従来の免疫抑制ストラテジーよりも意義深い改善を提供する。
【0028】
本明細書に記載の方法は、単独または、他の活性剤の投与などの別の方法、例えば、例えば、治療または予防薬剤および/または一般的な免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、FK506)、当業者に既知の様々な抗体などの他の活性剤の投与と組み合わせて使用され得る。好ましくは、このような薬剤の使用は、本発明の組成物および方法を用いて得られる同種抗原-特異的免疫抑制という観点から、不要である。
【0029】
「阻害すること」は、細胞性(例えば、白血球リクルートメント)または体液性であろうと、細胞-特異的抗原を標的とする先天的または獲得免疫応答の、直接的または間接的、部分的または完全な阻害および/または低下を意味する標的細胞特異的抗原は、例えば、移植された臓器、組織および細胞(開散性のHLA分子など)によって発現された同種抗原を包含する特定の標的細胞と関連するあらゆる特異な抗原、または自己免疫性不全(自己抗原)に関連する自己抗原、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリン乏突起神経膠細胞糖タンパク質、プロ-インスリン/インスリン、グルタミン酸脱炭素酵素(GAD)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP−1)、II型コラーゲン、チログロブリンなどを包含する。
【0030】
「免疫応答」は、好ましくは獲得免疫応答、例えば細胞性または体液性免疫応答を意味する。
【0031】
「特異的免疫性阻害」または「抗原特異的免疫性阻害」は、抗原特異性でない一般的な免疫性阻害に対して防御するような、抗原、例えば同種抗原に対する免疫応答の阻害を意味する。すなわち、実施態様の方法により、ドナー抗原に対するレシピエント細胞性および/または体液性免疫応答の不在は、他の外来抗原に対するイン・ビボ免疫性反応能(適格)の証拠と組み合わせて、ドナー同種抗原の特異的免疫性阻害を示す。
【0032】
「安定な免疫学的耐性」は、一般的な免疫抑制剤を使用せずに、少なくとも1年間の安定的、長期的な同種移植片の生存時間および/または機能を意味する。
【0033】
「発現ベクター」は、標的細胞に核酸を送達するためのあらゆるビヒクルを意味する。発現ベクターは、一般的にウイルスベクターおよび非ウイルスベクターに分けられ得る。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ関連ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどを意味するが、これらに限定するものではない。非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、ネイキッドDNA、別の担体と結合するかまたはリポソームまたは他の脂質調製物と関連したネイキッドDNA、を意味する。一般的には、発現ベクターは、組換え体であるが、いくつかの実施態様において、リポソームまたは細胞切断などのバイオロスティック(biolostic)技術が用いられる場合は、それらは組み換え体ではない。本明細書中で使用するための好ましい組換え体ベクターは、プラスミドベクター、さらに、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターからなる群から選択されるウイルスベクターである。組換え体ウイルスベクター、特にアデノウイルスベクターを利用する実施態様において、キャプシド例えばアデノウイルスキャプシドのヘキソンタンパク質の免疫原性は、当業者には既知の方法に従って減らし得るが、このような修飾は本明細書で詳細な改善という点では必要ではない。
【0034】
「接触」は、ベクターと細胞との物理的接触が有効となるような方法および量で、遺伝子治療発現ベクターを細胞に投与することを意味する。該ベクターが組換え体ウイルス粒子であるなら、所望により、ウイルスベクターと細胞の結合および感染は、このような物理的接触によって果たされる。ウイルスベクターが、組換え体ウイルス粒子以外の、例えば非被包性ウイルス核酸または他の核酸である場合、所望により、核酸による細胞への導入が有効である。
【0035】
このような「接触」は、当業者には既知の本明細書に記載のあらゆる手段でなされ得るし、これにより明白な接触またはベクターと標的細胞との相互接触が有効とされ得る。所望により、アデノウイルスベクターなどのベクターは、二重特異性または多重特異性分子(例えば、抗体またはそれらのフラグメント)とさらに複合体化(complexed)され、その場合「接触」は、ベクターおよび二重特異性または多重特異性分子と、標的細胞との明らかな接触または相互接触を包含する。例えば、ベクターおよび二重特異性(多重特異的)分子は、例えば、当業者には既知の化学手段または他の手段によって共有結合し得る。好ましくは、ベクターおよび二重特異性(多重特異性)分子は、非共有相互作用(例えば、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、および/または無極性相互作用)によって結合され得る。ベクターと二重特異性(多重特異性)分子は、少量の同溶液中で混合することによって接触され得るが、例えば、複合体が宿主(例えば、ヒト)に投与され、該複合体が血流によって選択的に結合する標的細胞へと移動するような場合には、該標的細胞と該複合体は、少容量で接触させる必要性はない。ベクターの複合体と二重特異性(多重特異性)分子との接触は、標的細胞がベクターと二重特異性(多重特異的)分子複合体との接触前になされるのが好ましい。
【0036】
別の実施態様において、該発現ベクターは、所望により、目的の治療分子をコードする核酸、例えばヘモオキシゲナーゼなどの抗炎症性分子を、自己抗原および免疫モジュレーターCD8ポリペプチドをコードする核酸と共に、さらに包含し得る。あるいは、異なる発現ベクターは、標的細胞への治療用分子およびCD8分子の提示の時期を別々に至適化するために利用し得る。虚血/再灌流障害を低下させるヘモオキシゲナーゼ発現の価値ある効果が十分実証された。例えば、国際公開パンフレットWO00/36113を参照されたい、これらの引例は出典明示により本明細書の一部とする。
【0037】
「標的細胞」は、単一として存在し得るか、または比較的大きな細胞の集合体(collection)の一部として存在し得る。かかる「細胞の大きな集合体」は、例えば、細胞培養物(混合物または純粋物のいずれか)、組織(例えば、上皮または他の組織)、臓器(例えば、心臓、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼または他の器官)、臓器系(例えば、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、外衣系または他の臓器系)、または生物体(例えば、鳥類、哺乳動物、特にヒトなど)を包含し得る。好ましくは、標的とされる臓器/組織/細胞は、循環器系(例えば、心臓、血管および血液を包含するが、これに限定するものではない)、呼吸器系(例えば、鼻、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺および類似物)、消化器系(例えば、口、咽頭、食道、胃、腸、唾液腺、膵臓、肝臓、胆嚢およびその他のもの)、泌尿器系(例えば、腎臓、輸尿管、膀胱、尿道など)、神経系(例えば、脳および脊髄、特定の感覚臓器、例えば目を包含するが、これに限定するものではない)および外皮系(例えば、皮膚)のものである。さらにより好ましくは、該細胞は、心臓、血管、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼細胞および幹細胞からなる群から選択される。幹細胞を培養するおよび使用する方法は、米国特許番号5,672,346、6,143,292および6,534,052により詳細に記載されており、これらの引例を出典明示により本明細書の一部とする。
【0038】
特に、ウイルスベクターまたはプラスミドなどの発現ベクターと接触する標的細胞は、接触される標的細胞は、発現ベクターによって標的化され得る特定の細胞表面結合部位を含むという点で、他の細胞とは異なる。「特定の細胞表面結合部位」とは、ベクター、例えばアデノウイルスベクターが、細胞に結合し、そうして細胞に侵入するために接触し得る細胞表面に存在する全ての部位を意味する(すなわち、分子または分子の組合せ物)。そのため、特定の細胞表面結合部位は細胞表面受容体を含んでおり、好ましくは、タンパク質(修飾されたタンパク質を包含する)、炭水化物、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質、ムチン分子またはムコタンパク質および類似物である。潜在的細胞-表面結合部位の例には、次のものが包含されるが、これに限定するものではない:グリコサミノグリカンで見出されたヘパリンおよびコンドロイチン硫酸成分;ムチン、糖タンパク質およびガングリオシドで見出されたシアル酸成分;主要組織適合性複合体I(MHC I)糖タンパク質;マンノース、N−アセチル-ガラクトサミン、N−アセチル-グルコサミン、フコースおよびガラクトースを包含する膜タンパク質で見出された共通の炭水化物分子;糖タンパク質、例えば、ICAM−1、VCAM、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチンおよびインテグリン分子など;および癌性細胞、例えばMUC−1、腫瘍特異的エピトープなどに存在する腫瘍特異的抗原。しかし、アデノウイルスなどの発現ベクターを細胞に対する標的とすることは、細胞性相互作用のあらゆる特異的メカニズム(すなわち、特定の細胞表面結合部位との相互作用)を包含するが、これに限定するものではない。
【0039】
本明細書中で使用し、さらに下記に定義されるとおりに、ここで用いられる「ポリヌクレオチド」「核酸」は、DNAもしくはRNAのいずれを意味してもよく、もしくはデオキシおよびリボヌクレオチドの両者を含む分子を意味してもよい。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、センスおよびアンチセンス核酸を含むオリゴヌクレオチドを含む。このような核酸はまた、生理的環境におけるそのような分子の安全性および半減期を増加させるためにリボース‐リン酸バックボーンに修飾を含んでいてもよい。
【0040】
核酸は、二本鎖、単鎖であってもよく、または二本鎖もしくは単鎖の配列の両方の部分を含んでいてもよい。当業者により認識されるであろうように、単鎖(「ワトソン」)の描写によりもう一つの鎖(「クリック」)の配列が規定される;そのため、図に示された配列は配列の相補対をも含む。ここで「組換え核酸」という用語は、元々一般的に核酸のエンドヌクレアーゼによる操作によりイン・ビトロで自然界には存在しない形で生成した核酸を意味する。かくして、単離された核酸は、線状のものも、もしくは通常は結合していないDNA分子を結合することによりイン・ビトロで生成された発現ベクターも、共にこの発明の目的について組換え体核酸と考える。一旦組換え体核酸が作成され、宿主細胞もしくは生物に再導入されれば、それは非組換え的に、即ちイン・ビトロの操作ではなく宿主のイン・ビボの細胞機構を用いて複製し得ると理解される;しかし、そのような核酸は一旦組換え的に生産されれば、以後は非組換え的に複製しても本発明の目的では依然組換え体と考えられる。
【0041】
ここで「ポリペプチド」および「タンパク質」は、共有結合で結合された少なくとも二個のアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを含む。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合、もしくは合成ペプチドミメティック構造で作成され得る。このように、ここで「アミノ酸」もしくは「ペプチド残基」は、天然および合成のアミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明の目的においてアミノ酸と考えられる。「アミノ酸」はまた、プロリンおよびヒドロキシプロリンのようなイミノ酸残基を含む。該側鎖は、(R)もしくは(S)立体配置のいずれであってもよい。好ましい実施態様では、アミノ酸は(S)もしくはL型立体配置である。もし非天然型側鎖を使用するなら、非アミノ酸置換基は、例えばイン・ビボでの溶解を防ぎもしくは遅らせるために使用され得る。天然アミノ酸配列変更は、導入遺伝子として標的または発現するための変異体タンパク質およびペプチドを産生するために、例えば当業者には既知の多様な方法によってなされ得る。変異体ペプチドは、ペプチドを提供するために実質的に相同なペプチドであるが、これは、そのペプチドとは異なるアミノ酸配列を有する。相同性の程度(すなわち、同一性%)は、例えば、この比較を至適化したコンピュータープログラム[例えば、Devereux et al. (Nucleic Acids Res., 12, 387 (1984)に記載の、GAPコンピュータープログラムの6.0バージョンまたはそれ以上のバージョンを用いる]を用いて配列情報を比較すること、またはthe University of Wisconsin Genes Computer Group (UWGCG))から自由に利用し得ることによって決定され得る。変異体タンパク質および/またはペプチドの活性を、当業者には既知の他の方法を用いて評価され得る。
【0042】
変異体タンパク質(ペプチド)および参照タンパク質(ペプチド)との間で同一でないアミノ酸残基に関して、変異体タンパク質(ペプチド)は、好ましくは、特定のアミノ酸が、サイズ、電荷密度、疎水性/親水性および/または立体配置(例えば、Pheに対してVal)に関して類似の他のアミノ酸によって置換されるような、保存的アミノ酸置換を含む。変異体部位特異的変異導入は、発現ベクター中に修飾部位を含む合成オリゴヌクレオチドを結合することによって導入され得る。一方、オリゴヌクレオチド特異的部位特異的変異体生成法は、例えばWalder et al.,Gene, 42:133 (1986); Bauer et al., Gene, 37:73 (1985); Craik, Biotechniques, January 1995, pp. 12-19; and U.S. Patent Nos. 4,518,584 and 4,737,462に開示された方法も使用され得る。
【0043】
免疫モジュレーター分子
本明細書において、「免疫モジュレーター分子」は、抗原特異的様式に関する細胞性および/または体液性宿主免疫応答を修飾する、すなわち増加または低下させるポリペプチド分子であり、宿主免疫応答を低下するものが好ましい。一般的には、本発明の教示に従って、免疫モジュレーター分子は、本明細書に記載のベクターからの発現後に、標的細胞表面膜と結合し、例えば細胞表面膜に挿入されるか、またはそこに共有結合するかまたは非共有結合する。
【0044】
好ましい実施態様において、免疫モジュレーター分子は、CD8タンパク質の全てまたは機能的部分、またより好ましくはCD8α鎖の全てまたは機能的部分を含む。ヒトCD8コード化配列については、Leahy, Faseb J. 9:17-25(1995); Leahy et all., 68:1145-62(1992); Nakayama et al., Immunogenes 30:393-7 (1989)を参照されたい。CD8タンパク質およびポリペプチド分子に関する「機能的部分」は、本明細書に記載のベト活性を保持するCD8α鎖の部分、より具体的にはCD8α鎖のHLA−結合活性を保持する部分、特にCD8α鎖の細胞外領域中のIg様ドメインを意味する。例示的な変異体CD8ポリペプチドは、Gao and Jakobsen, Immunology Today 21:630-636 (2000)に記載され、出典明示により本明細書の一部とする。いくつつかの実施態様において、完全長CD8α鎖が用いられる。しかし、いくつかの実施態様において、細胞質ドメインは除去される。好ましくは、トランスメンブレン・ドメインおよび細胞外ドメインは保持されている。
【0045】
当業者には認識されるように、CD8α鎖のトランスメンブレン・ドメインは、必要であれば、他の分子のトランスメンブレン・ドメインと交換して、標的細胞表面による細胞外ドメインの会合を修飾し得る。この実施態様において、CD8α鎖の細胞外ドメインをコードしている核酸は、トランスメンブレン・ドメインをコードしている核酸と操作可能に結合される。あらゆるトランスメンブレンタンパク質のトランスメンブレン・ドメインは、本発明において使用され得る。あるいは、トランスメンブレンは、トランスメンブレンタンパク質で見出されることが知られている。この実施態様において、「合成トランスメンブレン・ドメイン」は、約20〜25個の疎水性アミノ酸に続いて、少なくとも1つ、および好ましくは2つの荷電アミノ酸を含有する。いくつかの実施態様において、CD8細胞外ドメインは、当分野では従来技術によって標的細胞膜に結合される。好ましいCD8α鎖配列は、図1に記載され、ヒト、マウス、ラット、オランウータン、クモザル、モルモット、ウシ、コットン・ラット(Hispid cotton rat)、ブタおよびネコを包含する種由来の完全長CD8α鎖をコードするアミノ酸配列または核酸配列のいずれかの完全長配列を包含する。
【0046】
好ましい実施態様において、CD8α鎖は、融合タンパク質ではなく、むしろ該細胞内ドメインが除去されたトランケーションタンパク質である。図2に記載した、ヒトCD8α鎖遺伝子は、235個のアミノ酸のタンパク質を発現する。該タンパク質は、下記ドメイン(アミノ末端で開始し、ポリペプチドのカルボキシ末端で終了する)に分配されると考えられる:シグナルペプチド(アミノ酸1〜21位置);イムノグロブリン(Ig)様ドメイン(アミノ酸約22〜136位置);膜近位スターク(stalk)領域(アミノ酸137〜181位置);トランスメンブレン・ドメイン(アミノ酸183〜210位置)および細胞質ドメイン(アミノ酸211〜235位置)。これらの異なるドメインをコードするコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードしている1〜63位、細胞外ドメインをコードしている64〜546位、細胞内ドメインをコードしている約547〜621および細胞内ドメインをコードしている約622〜708を包含する。同様に、マウス配列は、下記のドメインに分配されうる。該ポリペプチドは、アミノ酸1〜27位置を包含するシグナル配列、アミノ酸約28〜194位置を包含する細胞外ドメイン、アミノ酸約195〜222位置を包含するトランスメンブレン・ドメインおよび約アミノ酸223〜310位置を包含する細胞内ドメインに分配されうる。同様に、これらのドメインをコードしているコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードしている核酸約1〜81位置、細胞外ドメインをコードしている核酸約82〜582位置、トランスメンブレン・ドメインをコードしている核酸約583〜666位置および細胞外ドメインをコードしている核酸約667〜923位置を包含する。
【0047】
いくつかの実施態様において、完全長タンパク質をコードしている核酸は、遺伝子送達ビヒクルに包含され得る。他の実施態様において、細胞内ドメインをコードする核酸は、細胞内ドメインを欠いた膜アンカータンパク質で生じる遺伝子送達ビヒクル中のポリヌクレオチドに包含されない。対応するドメインは、他の種においても同定され、好ましい実施態様においてマウスを包含し得る。
【0048】
また、当業者は、前記のポリペプチドに対して実質的に相同性を有する免疫モジュレーター分子が本発明の有利な用途を見出し得ると解され得るであろう。従って、例えば、「CD8ポリペプチド」に包含されるものは、図2に示されたヌクレオチドによってコードされたポリペプチドと、少なくとも約80%の配列同一性、通常少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、もっとも好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有する相同なポリペプチドである。
【0049】
「CD8をコードしている核酸分子」およびその文法的等価な語は、図2に示したヒトCD8のヌクレオチド配列、ならびに図2に示した核酸配列と少なくとも約80%の配列同一性、通常少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性およびもっとも好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、そして図2に示した核酸配列を有するポリペプチドをコードし、図1に示したようなヌクレオチド配列を意味する。
【0050】
前記のとおりに、タンパク質または核酸が既知配列と配列同一性もしくは類似性を有しているか否かを同定するために多数の異なるプログラムを使用することができる。配列同一性および/もしくは類似性は、当業者には既知の標準的技法を用いて測定される。その技術には、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math., 2: 482 (1981)の局所配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol., 48: 443 (1970)の配列同一性アラインメント、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85: 2444 (1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, WIにおけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、Devereux et al., Nucl. Acid Res., 12: 387-395 (1984)に記載のBest Fit配列プログラム、好ましくはデフォルトセッティングを用い、もしくは検定による使用を包含するが、これに限定するものではない。好ましくは、FstDBにより以下のパラメータに基づいてパーセント同一性を計算する:ミスマッチペナルティー1;ギャップペナルティー1;ギャップサイズペナルティー0.33;結合ペナルティー30、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis,」Macromolecule Sequencing and Synthesis, Selected Methods and Applications, pp 127-149 (1988), Alan R. Liss, Inc.である。
【0051】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、漸進的、ペアワイズアラインメントを用いて関連配列のグループから多重配列アラインメントを創成する。それはまた、アラインメント創成に使用されるクラスタリングの関係を示す系統図を描くことができる。PILEUPは、Feng & Doolittle, J. Mol. Evol. 35: 351-360 (1987)の漸進的アラインメント法の簡略化したものを用いる;この方法はHiggins & Sharp CABIOS 5: 151-153 (1989)記載の方法と類似している。有用なPILEUPパラメーターは、デフォルトギャップウェイト3.00、デフォルトギャップ長ウェイト0.10、および偏りエンドギャップを含む。
【0052】
有用なアルゴリズムのもう一つの例は、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410, (1990); Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402 (1997);およびKarlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 5873-5787 (1993)に記載のBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al., Methods in Enzymology, 266: 460-480 (1996); http://blast.wustl/edu/blast/ README.html]から得られるWU−BLAST−2である。WU−BLAST−2はいくつかの検索パラメーターを使用するが、その殆どはデフォルト値に設定されている。調整可能なパラメータは以下の値で設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード域値(T)=11である。HSP SおよびHSP S2パラメータは動的数値であり、特定の配列の組成に依存してプログラム自身により確立され、特定のデータベースの組成物に対して目的の配列を検索する;しかし、この値は感度を上げるように調整することができる。
【0053】
これに加えて有用なアルゴリズムは、Altschul et al., Nucl. Acids Res., 25: 3389-3402に報告されているギャップドBLASTである。ギャップドBLASTはBLOSUM−62代替スコアを使用する。ここで域値Tパラメータは9に設定し;2−ヒット法によりギャップのない伸長を開始し;ギャップ長kにコスト10+kを課し;Xを16に設定し;Xをデータベース検索ステージでは40そしてアルゴリズムのアウトプットステージでは67に設定する。ギャップドアラインメントは約22ビットに相当するスコアで開始される。
【0054】
アミノ酸配列同一性パーセント(%)は、マッチする同一残基の数を、アラインメントを行った領域において「より長い」配列の総残基数で割った値により決定される。「より長い」配列は、アラインメントを行った領域中の実際の残基を最も多く有する配列である(アラインメントスコアを最大化するためにWU−Blast−2により導入されたギャップを無視する)。
【0055】
アラインメントはアラインメントを行う配列中にギャップ導入を含んでもよい。加えて、図2で示したヌクレオチドによってコードされたポリペプチドのアミノ酸配列より多いもしくは少ないアミノ酸を含有する配列については、ある実施態様では、配列同一性のパーセンテージはアミノ酸総数に対する同一アミノ酸数に基づいて決定されると理解される。このため、例えば、図2のヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの配列より短い配列の配列同一性は、下記で説明するとおり、ある実施態様ではより短い配列中のアミノ酸数を用いて決定される。パーセント同一性の計算においては、相対重量は挿入、欠失、置換その他のような配列変化の種々の明示には割り当てない。
【0056】
ある実施態様では、同一性のみが、プラスのスコア(+1)を与えられ、ギャプを含む全ての配列変異の形には「0」値が割り当てられ、これにより配列類似性計算のために、以下に記述するような偏りのあるスケールやパラメーターについての必要性がなくなる。パーセント配列同一性は、例えば、マッチする同一残基数を、アラインメントを行った領域中の「より短い」配列の総残基数で割り、100倍することにより計算することができる。「より長い」配列はアラインメントを行った領域中に実際の残基を最も多く有する配列である。
【0057】
図2中のヌクレオチドによってコードされたポリペプチドとの配列同一性が100%以下のCD8は、一般的に、ヒト以外の種からの天然CD8ヌクレオチド配列、およびヒトまたは非ヒト起源からの天然CD8ヌクレオチド配列の変異体から産生される。このことに関して、注目すべきは、当業者には既知の多くの技術を用いて天然CD8配列のヌクレオチド配列変異体を得、天然CD8ポリペプチドと通常関連する少なくとも1つの活性の存在についてそれらの変異体のポリペプチド生成物をアッセイする。好ましい実施態様において、CD8α鎖は、ヒト由来のものであるが、図1に示したようなラット、マウスおよび哺乳類由来のCD8α鎖も知られており、本発明において使用が見出された。
【0058】
CD8活性を有するポリペプチドは、図2に示したヌクレオチドによってコードされたポリペプチドよりも、短いかまたは長くてもよい。すなわち、好ましい実施態様において、CD8ポリペプチドの定義内に、図2のヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの部分またはフラグメントも包含される。本明細書のある実施態様において、図2のヌクレオチドによってコードされたポリペプチドのフラグメントがCD8ポリペプチドと考えられるのは、a)それらが少なくとも提示される配列同一性を有する;およびb)好ましくは、上記のような天然CD8の生物学的活性を有する場合である。
【0059】
さらに、下記でさらに十分に概説されるとおりに、CD8α鎖は、図2のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドよりも長く作成し得る;例えば、他の融合配列の添加、または追加のコード化および非コード化配列の解明。
【0060】
CD8ポリペプチドは、組換え体が好ましい。「組換え体ポリペプチド」は、組換え体技術を用いて作成されうるポリペプチドである、すなわち、下記の組換え体核酸の発現による。好ましい実施態様において、本発明のCD8は、図2またはそれらのフラグメントにおいて核酸配列の発現により作られる。組換え体ポリペプチドは、少なくとも1以上の特性によって生じる天然タンパク質とは区別される。例えば、そのポリペプチドは、その野生型の宿主において通常会合しているタンパク質および化合物のいくつかまたは全てのものから単離または精製され得る、そのため実質的に純粋であり得る。例えば、単離ポリペプチドは、記載したその天然状態で通常会合している少なくともいくつかの物質を伴わなず、特定サンプル中の全タンパク質の好ましくは少なくとも約0.5%、より好ましくは少なくとも約5重量%を構成する。実質的に純粋なポリペプチドは、全ポリペプチドの少なくとも約75重量%を含み、少なくとも約80%が好ましく、少なくとも約90%が特に好ましい。該定義には、異なる生物体または宿主細胞において、1つの生物体由来のCD8ポリペプチドの生成物が包含される。
【0061】
あるいは、該ポリペプチドは、ポリペプチドが増加した濃度レベルで作成されうるような誘導プロモーターまたは高発現プロモーターの使用により、通常見られる濃度よりも非常に高い濃度で作成され得る。あるいは、該ポリペプチドは、下記に述べるような、アミノ酸の置換、挿入および削除に加えて、通常天然では見出されない形態で存在し得る。
【0062】
ある実施態様において、本発明は、核酸CD8変異体を提供する。これらの変異体は、3つのクラス:置換、挿入または欠失の変異体のうち1つまたは1以上該当する。これらの変異体は、通常、カセットまたはPCR突然変異誘発または当業者には既知の他の技術を用いて、遺伝子治療ベクター中の変異体とその後に発現するDNAを含めて変異体をコードするDNAを提供するために、図2のヌクレオチドにおけるヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発によって調製した。アミノ酸配列変異体は、変異の予め決定された性質によって特徴付けられており、それらを設定する特徴は、CD8アミノ酸配列の天然の対立性または種間の変異とは異なる。変異体は、通常天然アナログと同質の生物学的活性を示すが、下記に詳細に説明されるような修飾された特性を有する変異体も選択され得る。
【0063】
配列変異を導入するための部位または領域は予め決定されているが、この変異それ自体の必要性は、予め決定する必要はない。例えば、特定の部位での変異の実施を至適化するために、ランダム突然変異誘発は、標的コドンまたは領域でなされる得るし、また該発現変異体を至適な望ましい活性についてスクリーンした。既知の配列を有するDNAにおいて予め決定された部位での置換変異を為すための技術はよく知られている。例えば、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発である。変異体を作成するための方法に関する他の例は、遺伝子シャッフリングの方法であり、これによりヌクレオチド配列の類似変異体のフラグメントを、新規変異体組合せ物を生成するために組合せることが可能である。このような技術の例は、米国特許番号5,605,703;5,811,238;5,873,458;5,830,696;5,939,250; 5,763,239;5,965,408;および5,945,325で見出され、各々引例を出典明示により、本明細明細書の一部とする。
【0064】
アミノ酸置換は、典型的な場合1つの残基である;挿入は、通常約1〜20個オーダーのアミノ酸であるが、非常に大きな挿入も許容され得る。欠失は、約1〜約20残基の範囲であるが、ある場合には、欠失は、それよりも大きなものであってもよく、該細胞性ドメインまたはそれらのフラグメントを包含してもよい。
【0065】
置換、欠失、挿入またはあらゆるそれらの組合せは、最終誘導体にたどりつくまで使用し得る。一般的には、これらの変更は、分子の変更を最小にするために幾つかのアミノ酸で為される。しかし、大きな変化は、特定の環境においては許容され得る。CD8の特性における小さな変更が望まれる場合、置換は一般的に下記の表に従って為される:
【0066】
表I
【表1】

【0067】
機能もしくは免疫学的同一性における実質的な変化は、チャートIに示されたものよりより保存性の低い置換を選択することによって行われる。例えば、次のものにより大きく影響する置換を行うことができる:変化する区域のポリペプチドバックボーンの構造、例えばアルファ-ヘリックス構造もしくはベータ-シート構造;標的部位の分子の電荷もしくは疎水性;または側鎖の大きさ。一般的にポリペプチドの性質に最も大きな変化を生じると考えられる置換は、
(a)親水性残基、例えばセリルもしくはスレオニルを、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、もしくはアラニルに変える(もしくは、それにより)、(b)システインもしくはプロリンを他のいずれかの残基に(もしくは、それにより)変える、(c)正電荷を持つ側鎖、例えばリシル、アルギニルもしくはヒスチジルを、負電荷を持つ側鎖、例えばグルタミル、アスパルチルに(もしくは、それにより)変える、(d)嵩高い側鎖を持つ残基、例えばフェニルアラニンを側鎖に持たない残基、例えばグリシンに(もしくは、それにより)変える置換である。
【0068】
変異体は、必要に応じて、CD8の特性を修飾するために選択もされるが、該変異体は、通常同じ質的な生物学的活性を示し、天然アナログと同じ免疫応答を誘起させる。あるいは、該変異体は、タンパク質の生物学的活性が変わるように設計される。
【0069】
本発明の範囲内に包含されるポリペプチドの共有結合修飾の1つの型は、ポリペプチド天然のグリコシル化パターンの変更を包含する。本明細書において意図される「天然グリコシル化パターンの変更」は、天然配列CD8ポリペプチド中に見出される1以上の炭化水素成分を削除すること、および/または天然配列ポリペプチド中に存在しない1以上のグリコシル化部位を添加することを意味する。
【0070】
グリコシル化部位のポリペプチドへの添加は、そのアミノ酸配列を変えることによって達成され得る。この変更は、例えば、1以上のセリンまたはスレオニン残基の天然配列ポリペプチド(O−結合グリコシル化部位について)の添加によって為され得るか、あるいは置換によってなされ得る。アミノ酸配列は、所望により、DNAレベルでの変化によって、特に所望のアミノ酸に翻訳するコドンが生成されるように、あらかじめ選択された塩基でポリペプチドをコードするDNAを突然変異させることによって、変更され得る。
【0071】
ポリペプチド上に存在する炭水化物成分の除去は、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換によって達成され得る。
【0072】
一旦その天然源、例えばプラスミドまたは他のベクター内に含まれたものから単離されるか、あるいは直線の核酸セグメントとしてそれらから取り出されると、組換え体核酸は、他の核酸を同定および単離するためのプローブとしてさらに使用し得る。修飾された、または変異体の核酸およびタンパク質を作成するために「プレカーサー」核酸として使用され得る。本明細書中で記載された標的T細胞を処置するためにベクターまたは他の送達ビヒクルに組み込まれ得る。
【0073】
発現ベクター
遺伝子治療発現ベクター
本発明の内容において、あらゆる適当な発現ベクターが使用され得る。「ベクター」は、この用語は、当業者には理解されるような遺伝子トランスファー・ビヒクルである。本発明の発現ベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルス、リポソームなどを包含するが、これに限定するものではない。本発明の発現ベクターは、付加配列および変異を含むのが好ましい。特に、本発明の発現ベクターは、本明細書に定義されるような免疫モジュレーター分子、特にCD8α鎖をコードする導入遺伝子を含む核酸は、目的の治療分子をコードする少なくとも1つの別の導入遺伝子を所望によりさらに含む。該核酸は、全体的または部分的コードまたは他の遺伝子配列またはゲノムまたは相補的なDNA(cDNA)配列を合成的に作成されるものを含み得るし、DNAまたはRNAのいずれかの形態で提供され得る。
【0074】
免疫モジュレーターをコードする遺伝子は、ウイルスベクターに、またはウイルスベクターから、またはバキュロウイルス中に、またはmRNAの発現およびタンパク質の産生について、また他の生物特性の評価のために、適当な原核生物または真核生物発現ベクターに移動する。
【0075】
本発明のベクター産生(組換え体アデノウイルスベクターおよびトランスファー・ベクターを包含する)に関して、かかるベクターは、標準的分子および遺伝子技術、例えば、当業者には既知の技術を用いて構築され得る。ビリオンまたはウイルス粒子を含むベクター(例えば、組換え体アデノウイルスベクター)は、適切な細胞系においてウイルスベクターを用いて与えられ得る。同様に、1以上のキメラコートタンパク質を含む粒子は、標準的細胞系、例えばアデノウイルスベクターに現在使用されているもので産生され得る。次いで、これらの得られる粒子は、所望により、特異的細胞に対して標的化され得る。
【0076】
あらゆる適切な発現ベクター(例えば、Pouwels et al., Cloning Vectors:A Laboratory Manual (Elsevior, N.Y.:1985)に記載されているように)および対応する適当な宿主細胞は、宿主細胞において組換え体ペプチドまたはタンパク質の生成に用い得る。発現宿主には、Escherichia属、Bacillus属、Pseudomonas属、Salmonella属内のバクテリア種、バキュロウイルス系(例えば、Luckow et al., Bio/Technology, 6, 47 (1988))および確立された細胞系、例えば、COS−7、C127、3T3、CHO、HeLa、BHKとの類似物を包含する類似した哺乳動物または昆虫宿主細胞系を包含するが、これに限定するものではない。本発明のキメラタンパク質(ペプチド)を製造するために特に好ましい発現系は、バキュロウイルスの発現系である。ここで、Trichoplusia ni, Tn 5B1-4 昆虫細胞または他の適切な昆虫のT細胞は、高レベルの組換え体タンパク質を産生するのに使用される。当業者は、もちろん、発現宿主の選択が、産生されるペプチド型について提供される効果を承知している。例えば、酵母または哺乳動物細胞(例えば、COS−7細胞)中で産生されるペプチドのグリコシル化は、バクテリア細胞、例えば、Escherichia coli中で産生されるペプチドのものとは異なっている。
【0077】
好ましい実施態様では、該タンパク質は哺乳動物細胞で発現される。哺乳動物の発現系はまた技術上公知であり、レトロウイルス系が含まれる。哺乳動物のプロモーターは、哺乳動物のRNAポリメラーゼに結合し、あるタンパク質についてのコード化配列のmRNAへの下流領域(3’)の転写を開始できる、あらゆるDNAである。プロモーターは、転写開始領域を有し、それは、コード化配列の5’末端、およびTATAボックス(転写開始部位の上流に位置づけられた25〜30塩基対を用いる)に通常隣接して位置する。TATAボックスは、RNA合成を正しい部位で開始するようにRNAポリメラーゼIIに指示すると考えられている。哺乳動物のプロモーターはまた、典型的にTATAボックスの100〜200塩基対以内の上流に位置している上流のプロモーターエレメント(エンハンサーエレメント)を含有しているであろう。上流のプロモーターエレメントは転写開始速度を決定し、そしてどちら向きにも作用する。哺乳動物プロモーターとして特定の使用は、哺乳動物ウイルスの遺伝子由来のプロモーターであるが、このウイルスの遺伝子はしばしば高度に発現され、また宿主範囲が広いためである。例としては、SV40の初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスのLTRプロモーター、アデノウイルスの主要後期プロモーター、単純ヘルペスウイルスのプロモーター、およびCMVのプロモーターが挙げられる。
【0078】
典型的には、哺乳動物細胞によって転写終結配列およびポリアデニル化配列は転写終結コドンの3’側に位置する調節領域であり、したがって、プロモーターエレメントと共にコード配列に隣接している。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的な翻訳後切断およびポリアデニル化により形成される。転写ターミネーターおよびポリアデニル化シグナルの例としてはSV40由来のものが含まれる。
【0079】
外来性核酸を哺乳動物宿主およびその他の宿主中に導入する方法は技術上周知であり、用いる宿主により異なるであろう。この手技としては、デキストラン仲介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン仲介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ウイルス感染、ポリヌクレオチド(類)のリポソームへの封入、およびDNAの核内への直接マイクロインジェクションが挙げられる。
【0080】
タンパク質は、当業者には既知の技術を用いて融合タンパク質として作成され得る。すなわち、例えば、タンパク質は、発現を増加させるために、または他の理由のために、融合タンパク質として作成され得る。例えば、該タンパク質がペプチドである場合、そのペプチドをコードする核酸は、発現目的のために他の核酸を結合し得る。
【0081】
CD8を試験するために、該タンパク質は、発現後に精製されるか単離される。タンパク質は、どのような他成分がサンプル中に存在するかによって、当業者には既知の種々の方法で単離もしくは精製し得る。標準的な精製法としては、電気泳動的、分子的、免疫学的技法、ならびにイオン交換、疎水、アフィニティー、および逆相HPLCクロマトグラフィーを含むクロマトグラフィー技法、ならびにクロマトフォーカシングが挙げられる。例えば、CD8タンパク質は、標準的な抗CD8抗体カラムを用いて精製することができる。限外ろ過およびダイアろ過技法とタンパク質濃縮との組合せも有用である。適当な精製技法の一般的手引書としては、Scopes, R., Protein Purification, Springer-Verlag, NY (1982)を参照のこと。必要な精製の程度はCD8タンパク質の用途に依存して変わるであろう。場合によって、精製は不要であろう。ある例において、CD8発現は、例えば、抗体結合、蛍光検出または蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)により、細胞表面上で検出される。
【0082】
CD8をコードする核酸分子だけでなく、CD8核酸分子のコード化または非コード化鎖のいずれかから誘導されるあらゆる核酸分子が、当業者には既知かつ日常的な多様な方法で標的の細胞と接触されうるし、ここで該接触はエクス・ビボまたはイン・ビボであり得る。
【0083】
ウイルスの結合、挿入および遺伝子発現が、特定のタンパク質またはRNAおよびマーカー遺伝子、例えばβ-ガラクトシダーゼを発現する組換え体ウイルスを生成するために目的の挿入物を含有するアデノウイルスベクターを用いて、最初に評価され得る。β-ガラクトシダーゼ遺伝子(Ad−LacZ)を含有するアデノウイルスを用いて感染された細胞におけるβ-ガラクトシダーゼの発現は、Ad−Glucを細胞に添加後、2時間ほどの早さで検出され得る。この方法は、組換え体ウイルスおよび遺伝子発現の細胞挿入の迅速かつ有効な分析を提供し、従来技術を用いて当業者により容易に行い得る。
【0084】
タンパク質をコードする本発明の核酸を用いて、種々の発現ベクターが作られる。発現ベクターは、自己複製的な染色体外ベクターでも宿主ゲノムに組み込まれるベクターでもよい。一般的に、これらの発現ベクターは、該タンパク質をコードする核酸に機能し得るように結合された転写および翻訳の調節核酸を包含する。「制御配列」という用語は、特定の宿主生物内で、機能し得るように結合されたコード配列が発現するのに必要な核酸配列を意味する。原核生物に適した制御配列は、例えば、プロモーター、任意にオペレーター配列、およびリボゾーム結合部位を含む。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを使用することが知られている。
【0085】
核酸は、それが他の核酸配列と機能的な関係に置かれている場合に「機能し得るように結合されて」いる。例えば、前配列もしくは分泌リーダーに対するDNAは、もしそれがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されるならば、ポリペプチドに対するDNAに機能し得るように結合されている;プロモーターまたはエンハンサーは、もしそれが配列の転写に影響を与えるならば、コード配列に機能し得るように結合されている;または、リボゾーム結合部位は、もしそれが翻訳を促進するように位置しているならば、コード配列に機能し得るように結合されている。他の例として、機能し得るように結合されたとは、隣接するように、そして、分泌リーダー配列の場合は、隣接しかつ読みとり段階にあるように結合されたDNA配列を意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。結合は都合のよい制限部位におけるライゲーションにより達成される。もしそのような部位が存在しないならば、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の実施法に従って使用する。転写および翻訳制御核酸は、CD8を発現するのに使用する宿主細胞にとって一般的に適当であろう;例えば、ヒト転写および翻訳の調節核酸配列は、ヒト細胞内でCD8を発現させるために好ましく使用される。適当な発現ベクターの非常にたくさんの型、および適切な調節配列が、様々な宿主細胞に関して技術上公知である。
【0086】
一般的に、転写および翻訳の調節核酸は、プロモーター配列、リボゾーム結合部位、転写開始および終結配列、翻訳開始および終結配列、およびエンハンサーまたはアクチベーター配列を包含するが、これに限定するものではない。好ましい実施態様では、調節配列はプロモーター並びに転写の開始および終結配列を包含する。
【0087】
プロモーター配列は構成的または誘導性プロモーターをコードする。該プロモーターは天然産生のプロモーターでもハイブリッドプロモーターであってもよい。1以上のプロモーターのエレメントを組み合わせたハイブリッドプロモーターも技術上公知であり、本発明において有用である。
【0088】
加えて、発現ベクターは付加的エレメントを含み得る。例えば、発現ベクターは、2つの複製システムを有し、これにより、発現のために、2つの生物、例えば哺乳動物または昆虫の細胞で、そしてクローニングおよび増幅のために原核宿主で、維持することができる。さらに、発現ベクターを組込むために、発現ベクターは宿主細胞のゲノムと相同な配列を少なくとも1個、また好ましくは発現構築体に隣接する2個の相同配列を含む。ベクターに取り入れるのに適当な相同配列を選択することにより、組込みベクターを宿主細胞の特定の座位を目指して組込ませ得る。組込みベクターの構築は技術上周知である。
【0089】
別の実施態様において、該発現ベクターは形質転換した宿主細胞の選択を可能にする選択マーカー遺伝子を含み得る。選択遺伝子は技術上周知であり、用いる宿主により異なる。
【0090】
好ましくは、該ベクターは、ウイルスベクター、例えば、アデノウイルスベクターおよびアデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスベクターまたはレトロウイルスベクター、その他のウイルスベクターである。もっとも好ましくは、ウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、あらゆるアデノウイルスから誘導され得る。「アデノウイルス」は、アデノウイルス科のファミリーのあらゆるウイルスであり、マストアデノウイルス(例えば、哺乳類アデノウイルス)属またはアビ・アデノウイルス(例えば、鳥類アデノウイルス)属のものが好ましい。アデノウイルスは、あらゆるセロタイプのものである。アデノウイルス起源として用いられ得るアデノウイルスのストックは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC, Rockville, Md.)から現在入手し得るアデノウイルスのセロタイプ1〜47、またはあらゆる他の起源から入手し得るアデノウイルスのあらゆる他のセロタイプを増幅され得る。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、セロタイプ12、18および31)、サブグループB(例えば、セロタイプ3、7、11、14、16、21、34および35)、サブグループC(例えば、セロタイプ1、2、5および6)、サブグループD(例えば、セロタイプ8、9、10、13、15、17、19、20、22-30、32、33、36-39、および42-47)、サブグループE(セロタイプ4)、サブグループF(セロタイプ40および41)、またはあらゆる他のアデノウイルスセロタイプのものであってよい。しかし、好ましくは、アデノウイルスは、セロタイプ2、5または9のものである。所望により、アデノウイルスは、同一セロタイプのコートタンパク質(例えば、ペントンベース、ヘキソンおよび/または繊維)を含む。しかし、好ましくは、1以上のコートタンパク質も、キメラであり得るし、ある意味で、例えば、特定のコートタンパク質の全て、または一部は他のセロタイプからのものであり得る。
【0091】
好ましくは、アデノウイルスベクターであるウイルスベクターは、複製能があり得るが、ウイルスベクターは、複製欠陥であるかまたは条件付き複製欠陥であるのが好ましい。例えば、アデノウイルスベクターが好まれるウイルスベクターは、ウイルス複製の欠陥となる少なくとも1つの修飾を有するゲノムを含む。ウイルスゲノムに対する修飾は、DNAセグメントの欠失、DNAセグメントの添加、DNAセグメントの再配列、DNAセグメントの置換、またはDNA損傷の挿入を包含するが、これに限定するものではない。DNAセグメントは、あるヌクレオチドと同じように小さいか、または36キロベース対と同じ大きさであり得る、すなわち、アデノウイルスのゲノムのサイズに近いか、またはアデノウイルスビリオン中にパッケージされ得る最大量である38キロ塩基対である。
【0092】
ウイルス性、特にアデノウイルスのゲノムに対する好ましい修飾には、ウイルス複製欠陥とさせる修飾に加えて、本明細書中で定義された免疫モジュレーター分子をコードする導入遺伝子の挿入、さらに、および好ましくは目的の治療分子をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を包含する。ウイルス、例えばアデノウイルスは、コインテグレート(cointegrate)、すなわち、ウイルス、例えばアデノウイルスのゲノム配列と、プラスミド、ファージまたは他のウイルスなどの配列とライゲーションされ得るのが好ましい。
【0093】
アデノウイルスベクター(特に、複製欠陥アデノウイルスベクター)に関して、かかるベクターは、完全なキャプシド(すなわち、ウイルスのゲノム、例えばアデノウイルスのゲノムを包含する)または空のキャプシド(すなわち、ウイルスゲノムが欠損するか、溶解される、例えば物理的または化学的手段によって)いずれかを包含し得る。好ましくは、ウイルスベクターは、完全なキャプシド、すなわち免疫モジュレーター分子をコードする導入遺伝子を送達するための手段として、所望により好ましくは、阻害手段をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む。あるいは、好ましくは、導入遺伝子は、アデノウイルスのキャプシドの外側の細胞に担持され得る。
【0094】
特定の細胞に対して、アデノウイルスなどのウイルスを標的とすることが、好ましいかまたは望ましい程度に、該ウイルスは、マーカー遺伝子を含有するプラスミドDNAの細胞への送達の際にエンドソマティック(endosomolytic)剤として主に用いられ、トランスフェリンなどの細胞-結合リガンドと共有結合したポリリシンと複合体化し、縮合され得る(Cotten et al., PNAS (USA), 89, 6094-6098 (1992);and Curiel et al., PNAS (USA), 88, 8850-8854 (1991))。トランスフェリン-ポリリシン/DNA複合体およびアデノウイルスのカップリング(例えば、アデノウイルス特定抗体により、トランスグルタミナーゼを用いて、またはビオチン/ストレプトアビジン架橋を介して)は、実質的に遺伝子送達を増強させることを示す(Wagner et al., PNAS (USA), 89, 6099-6103 (1992))。
【0095】
あるいは、アデノウイルスファイバーなどの1以上のウイルスコートタンパク質は、例えば、細胞表面受容体に対するリガンドについての配列または二重特異性抗体(すなわち、ファイバーに対する特異性を有する1つの末端を有する分子、およびもう一方の末端は細胞表面受容体に対する特異性を有する)に結合し得る配列のいずれかの取込みにより修飾され得る(PCT国際特許出願番号WO 95/26412('412出願)およびWatkins et al., "組換え体抗体を用いるアデノウイルス媒介遺伝子送達の標的化" Abst. No.336)。両方の場合において、典型的な繊維/細胞表面受容体相互作用は排除され、アデノウイルスなどのウイルスは、その繊維によって新規の細胞表面受容体に対してリダイレクトする。
【0096】
あるいは、選択された細胞型に対する特異的に結合し得る標的エレメントは、高アフィニティー結合対の第一分子に結合され、宿主細胞(PCT国際出願特許出願番号WO 95/31566)に投与され得る。次いで、高アフィニティー結合対の第二分子と結合した遺伝子送達ビヒクルは宿主細胞に投与され、ここで第二分子は、遺伝子送達ビヒクルが選択された細胞型を標的とするような第一分子に特異的に結合し得る。
【0097】
同一系統に沿って、方法(例えば、エレクトロポーレーション、トランスフォーメーション、3親交配法(triparental mating)の結合、(共)トランスフェクション、(共)感染、膜融合、ミクロプロジェクトの使用、リン酸カルシウムDNA沈降とのインキュベーション、直接的ミクロインジェクション;など)は、その核酸配列(すなわち、RNAまたはDNA)の形態において、ウイルス、プラスミドおよびファージを形質転換するのに使用し得る。ベクター類似性は、キャプシドタンパク質などのあらゆる関連タンパク質の非存在下、および任意のエンベロープ脂質の非存在下で、RNAまたはDNAを含みうる。
【0098】
同様に、リポソームは、細胞膜と融合することによって細胞導入を有効にするので、ベクターはコートタンパク質をコードする構成的核酸とリポソームを含み得る。かかるリポソームは、例えばLife Technologies, Bethesda, Md.,から市販購入でき、製造者の推奨に従って使用され得る。さらに、リポソームは遺伝子送達を有効にし、増大された形質転換能および/または減少されたイン・ビボ毒性を有するリポソームが使用され得る。該可溶性キメラコートタンパク質(本明細書中に記載の方法を用いて提供される)は、リポソームが製造指示書に従って製造された後か、またはリポソームの調製中のいずれかで、リポソームに添加され得る。
【0099】
本発明のベクターは、遺伝子トランスファー・ベクターの構築体に用い得る中間型のベクター(例えば、「トランスファー・ベクター」)を包含するが、本発明の方法に用い得るものに限定するものではない。
【0100】
1以上の核酸配列のイン・ビボ送達に好ましい方法の1つには、アデノウイルス発現ベクターの使用を包含する。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築体のパッケージングを維持するために、または(b)センスまたはアンチセンスのオリエンテーションにおいてその中にクローンされているポリヌクレオチドを発現するように、十分なアデノウイルス配列を含有するそれらの構築体を包含することを意味する。もちろん、アンチセンス構築という意味においては、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0101】
発現ベクターは、アデノウイルスの一般的な設計形態を包含する。アデノウイルスの遺伝子構成、36kbの、直線二本鎖DNAウイルスの知識から、7kbまでの外来配列とアデノウイルスDNAの大きな断片とを置換できる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスに対して、宿主細胞のアデノウイルス感染は、アデノウイルスDNAが潜在的遺伝子毒性のないエピソーム様式で複製し得るため、染色体の組込みは生じない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、広範囲な増幅後にゲノム転位は検出されない。アデノウイルスは、その細胞サイクル段階に関する全ての上皮細胞を事実上感染し得る。今までのところ、アデノウイルスの感染は、ヒトにおいては急性呼吸疾患などの疾患を緩和するためにのみ関連することがわかっている。
【0102】
アデノウイルスは、その中間サイズのゲノム、操作簡易性、高力価、広範な標的細胞および高感染性のために、特に遺伝子トランスファー・ベクターとしての使用に特に適当である。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNA複製およびパッケージングのために必要なcisエレメントである100-200塩基対の逆方向反復配列(ITR)を含有する。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される異なる転写ユニットを含有する。タンパク質をコードするE1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよびいくつかの細胞性遺伝子の転写調節に関与し得る。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製についてのタンパク質の合成を生じる。これらのタンパク質はDNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞シャット・オフ(shut-off)に関連がある(Renan, 1990)。大部分のウイルスキャプシドタンパク質を包含する後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生じる1つの主な翻訳の重要なプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置する)は、感染の後期に特に有効であり、このプロモーターから生じる全てのmRNAのものは、5'-トリパータイト・リーダー(TPL)配列を持ち、翻訳のために好ましいmRNAとなる。
【0103】
現在の系では、組換え体アデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの相同組換えから生じる。2つのプロウイルスベクターの間の起こり得る組換え体により、野生型アデノウイルスは、この過程から生じ得る。それ故に、個々のプラークからウイルスの一つのクローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが重要である。
【0104】
複製欠失であるアデノウイルスベクターの生成および伝搬は、独自のヘルパー細胞系に依存する。当然、アデノウイルスは、約105%の野生型ゲノム(Ghosh-Choudhury et al., 1987)を梱包し、約2kB以上のDNAに対するキャパシティーを提供する。E1およびE3領域で置換し得る約5.5kBのDNAと組合たものは、現在のアデノウイルスベクターの最大能力が、7.5kB以下であるか、またはベクター全長の約15%である。80%以上のアデノウイルスウイルスゲノムは、ベクターバックボーン中に残っており、ベクターボーン細胞毒性の源である。また、E1削除ウイルスの複製欠失(replication deficiency)は不完全である。例えば、ウイルス遺伝子発現の漏出は、高い多重感染度(MOI)を有する現在利用し得るベクターを用いて観察された(Mulligan, 1993)。
【0105】
ヘルパー細胞系は、ヒト細胞、例えばヒト胚腎細胞、筋肉細胞、造血細胞、またはヒト以外の胚の間充織または上皮細胞から誘導され得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容性のある他の哺乳動物種の細胞から誘導される。かかる細胞は、例えば、Vero細胞または他のサルの胚の間充織または上皮細胞を包含する。上記のとおり、好ましいヘルパー細胞系は293である。
【0106】
近年、Racherら(1995)によって、293細胞を培養し、アデノウイルスを増殖するための改良方法が開示された。ある形式において、天然の細胞凝集体は、100-200mlの培地を含有する1リットルのシリコン処理したスピナーフラスコ中に個々の細胞を接種することによって成長させた(Techne, Cambridge, UK)。40rpmで攪拌した後、トリパンブルーにより細胞生存性が判断された。別の形式において、Fibra-Celミクロ担体(Bibby Sterlin, Stone, UK)(5g/l)を下記のとおりに用いた。細胞接種原を培地(5ml)に懸濁し、左側に固定したエーレンマイヤーフラスコ(250ml)中に担体(50ml)を加えて、1〜4時間、時折攪拌する。次いで、該培地を、新しい培地(50ml)に置き換えて、攪拌を開始した。ウイルス産生のために、細胞を約80%のコンフルエンスまで増殖させて、その後培地を置き換え(25%の最終容積まで)、アデノウイルスは0.05のMOIで添加される。培養は、終夜静置して、体積が100%まで増加した後、さらに72時間攪拌した。
【0107】
好ましい実施態様において、アデノウイルスは、当業者には既知であるように「ガットレス:弱い(gutless)」アデノウイルスである。「ガットレス」アデノウイルス ベクターは、アデノウイルス遺伝子送達のために近年開発された系である。アデノウイルスの複製は、天然環境に存在しない条件で、ヘルパーウイルスおよびE1aおよびCreの両方を発現する特定のヒト293細胞系を必要とする。最近の最も有効な系において、E1が削除されたヘルパーウイルスは、バクテリオファージP1loxP部位(「フロックス(floxed)」)が隣接するパッケージングシグナルと共に用いられる。フロックスパッケージングシグナルを有するヘルパーウイルスと共にガットレスウイルスによってCreリコンビナーゼを発現するヘルパー細胞の感染は、パッケージングシグナルがヘルパーウイルスのDNAから削除されるので、ガットレスrAVを産生するだけである。しかし、293塩基ヘルパー細胞が使用されるなら、ヘルパーウイルスDNAは、ヘルパー細胞DNAに取り込まれたAd5DNAと再び結合し得る。結果として、野生型パケージングシグナル、ならびにE1領域は回復される。すなわち、ヘルパー細胞を基にした293(または911)に対するガットレスrAVの生成は、E1を削除したヘルパーウイルスが使用されるなら、RCAの産生を生じ得る。
【0108】
ベクターは、全てのウイルス遺伝子から除かれる。そのため、ベクターは、非免疫性であり、もし必要なら、繰り返して使用され得る。「ガットレス」アデノウイルスベクターは、導入遺伝子を収容するための36kbのスペースも含有し、それにより細胞中の多数の遺伝子の同時送達を可能にした。特異的配列モチーフ、例えばRGDモチーフは、アデノウイルスベクターのH−Iループに挿入され、その感染性を増強させ得る。アデノウイルス組換え体は、あらゆるアデノウイルスベクター、例えば本明細書に記載のもの、また当業者には既知のものに特異的導入遺伝子または導入遺伝子のフラグメントをクローニングすることによって構築される。アデノウイルス組換え体は、免疫剤として使用するための侵襲性様式において脊椎動物の表皮細胞を形質導入するために使用され得る。
【0109】
「ガットレス」アデノウイルスの使用は、異種DNAの大きな挿入部分の挿入に特に有利である(Yeh. and Perricaudet, FASEB J. 11:615(1997)を参照されたい)、これを出典明示により本明細書の一部とする。さらに、ガットレスアデノウイルスベクター、それらの作成および使用方法は、米国特許番号6,156,497および6,228,646両方に詳細に記載されており、これら文献は出典明示により本明細書の一部とする。
【0110】
アデノウイルスベクターが複製欠点または少なくとも条件的欠点である要件以外は、アデノウイルスベクターの性質が、本発明の上手い実施に対して決定的であるとは考えられない。アデノウイルスは、既知のセロタイプまたはサブグループA−Fとは異なる42の内のいずれかであり得る。アデノウイルスのタイプ5が、ヒトアデノウイルスであり、大量の生物化学的および遺伝子情報がわかっており、歴史的にも、ベクターとしてアデノウイルスを用いるほとんどの構築体に使用されているので、サブグループCのアデノウイルスタイプ5は、本発明で使用するための調節性複製欠点のアデノウイルスベクターを得るための好ましい開始物質である。
【0111】
上記のように、典型的な本発明のベクターは、複製欠点であり、アデノウイルスE1領域を有さない。そのため、E1コード配列が除去された位置に、免疫モジュレーター分子および/または目的のさらなる治療タンパク質をコードする導入遺伝子を導入することは、最も都合がよい。しかし、アデノウイルス配列内の発現構築体の挿入位置は本発明に重要でない。目的の該導入遺伝子は、Karlsson et al. (1986)に記載のように、E3置換ベクターにおいて削除されたE3領域の所、またはヘルパー細胞系またはヘルパーウイルス捕体のE4が欠失するE4領域の代わりに、挿入され得る。
【0112】
アデノウイルスは、増殖や操作が簡単であり、イン・ビトロおよびイン・ビボで広い宿主範囲を示す。ウイルスのこの群は、高力価、例えば109-1011プラーク形成ユニット/mlを獲得し得、それらは感染性が高い。アデノウイルスのライフサイクルは、宿主細胞ゲノム中への同化は必要でない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子は、エピソームであり、それ故に宿主細胞に対して遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスによる予防的接種の試験において、イン・ビボでの遺伝子トランスファー・ベクターとして、副作用は報告されておらず(Couch et al., 1963; Top et al., 1971)、それらの安全性および治療有効性を示している。
【0113】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al.,1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992; Graham and Prevec, 1992)において使用されている。近年、動物試験により、組換え体アデノウイルスが遺伝子治療に使用され得ることが示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990; Rich et al., 1993)。組換え体アデノウイルスを様々な組織に投与する試験は、気管点滴注射(Rosenfeld et al., 1991; Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈注射 (Herz and Gerard, 1993)および脳中への定位接種(Le Gal La Salle et al., 1993)を包含する。
【0114】
従って、好ましい実施態様において、本明細書で使用される発現ベクターは、アデノウイルスベクターである。適当なアデノウイルスベクターは、Ad2またはAd5などのヒトアデノウイルスの修飾を包含する(イン・ビボでの複製するためにウイルスに必要な遺伝子エレメントウイルスが除去される;例えば、E1領域、そしてアデノウイルスゲノム中に挿入された目的の外来遺伝子をコードする発現カセット)。
【0115】
さらに、上記記載のように、好ましい発現ベクター系は、レトロウイルスのベクター系であり、例えばPCT/US97/01019およびPCT/US97/01048に一般的に記載され、この両出願に記載の引例を出典明示により本明細書の一部とする。
【0116】
レトロウイルスは、逆転写の過程(Coffin, 1990)によって、感染細胞においてそれらのRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする1本鎖RNAウイルスの1群である。次いで、得られるDNAは、プロウイルスとして細胞染色体に導入され、ウイルスタンパク質の合成をめざす。この同化は、レシピエント細胞およびその子孫においてウイルス遺伝子配列を保持させる。レトロウイルスゲノムは、キャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロップ成分を各々コードする3つの遺伝子、gag、polおよびenvを含有する。gag 遺伝子から上流に見出された配列は、ビリオン中のゲノムのパッケージについてのシグナルを含有する。2つの長い末端の反復(LTR)配列は、ウイルスゲノムの5’および3'末端に存在する。これらは、強力なプロモーターおよびエンハンサー配列を含有し、宿主細胞ゲノム中の組込みにも必要とされる(Coffin, 1990)。
【0117】
レトロウイルスベクターを構築するために、目的の1以上のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列をコードする核酸が、複製欠損性であるウイルスを生成するために特定のウイルス配列の場所でウイルスゲノムに挿入される。ビリオンを生成するために、LTRおよびパッケージング成分ではないgag、polおよびenv遺伝子を含有するパッケージング細胞系が構築体される(Mann et al., 1983)。レトロウイルスのLTRおよびパッケージング配列と共に、cDNAを含有する組換え体プラスミドが、この細胞系に導入される場合(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)、パッケージング配列は、ウイルス粒子中でパッケージされた組換え体プラスミドのRNA翻訳を可能にし、次いで培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986; Mann et al., 1983)。次いで、組換え体レトロウイルスを含有する培地を回収し、所望により濃縮し、遺伝子送達に使用した。レトロウイルスベクターは、広範囲で多様な細胞型を感染することが可能である。しかし、組込みおよび安定な発現は、宿主細胞の分配を必要とする(Paskind et al., 1975)。
【0118】
レトロウイルスベクターの特異的標的化を可能にするために設計された新規アプローチは、ウイルスエンベロープに、ラクトース残基の化学添加によってレトロウイルスの化学修飾を基にして、近年開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介する肝細胞の特異的感染を許容し得る。
【0119】
組換え体レトロウイルスの標的化への様々なアプローチが設計され、ここではレトロウイルスのエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するこのビオチン化抗体を用いられた。該抗体を、ストレプトアビジンを用いてビオチン成分を介して結合した(Roux et al., 1989)。主な組織適合性複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いると、それらはイン・ビトロ自己特定ウイルスでそれらの表面抗原を運ぶ様々なヒト細胞の感染を示した(Roux et al., 1989)。適当なレトロウイルスのベクターは、LNL6、LXSNおよびLNCXを包含する(Byun et al., Gene Ther. 3(9):780-8 (1996 、を参照されたい)。.
【0120】
AAV(Ridgeway, 1988; Hermonat and Muzycska, 1984)はパルボウイルスであり、これはアデノウイルスストックの混在物として発見された。任意の疾患と関連のない偏在性ウイルス(抗体は、米国の人口の85%に存在する)である。また、その複製はヘルパーウイルス、例えばアデノウイルスの存在によるために、それはディペンドウイルス属に分類される。5つのセロタイプが単離され、そのなかのAAV−2は最も特徴的であった。AAVは、直径20〜24nmの20面体ビリオンを形成するためにキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3中でキャプシドに包まれた1本鎖の直線DNAである(Muzyczka and McLaughlin, 1988)。
【0121】
AAVDNAは約4.7キロベース長である。それは、2つのオープンリーディングフレームを含有し、2つのITRによってフランキングされる。AAVゲノム内に2つの主な遺伝子:repおよびcapがある。rep遺伝子はウイルス複製に関連のあるタンパク質をコードするが、capはキャプシドタンパク質VP1-3をコードする。ITR各々はT形状のヘアピン構造を形成する。これらの末端反復は、染色体組込みのためにAAVの唯一の主要なcis成分である。それ故に、AAVは、送達のために遺伝子カセットによって除かれ、そして置換された全てのウイルスコード配列を有するベクターとして使用され得る。3つのウイルスのプロモーターは同定され、それらのマップ位置でp5、p19およびp40と名付けられた。p5とp19からの転写により、repタンパク質を生成させ、p40からの転写によりキャプシドタンパク質を生成する(Hermonat and Muzyczka, 1984)。
【0122】
また、AAVは、その安全性のための送達ビヒクルの良好な選択である。相対的に複雑なレスキューメカニズムである:野生型アデノウイルスだけでなくAAV遺伝子は、rAAVを起動させるために必要とされる。同様に、AAVは病原性ではなく、全ての疾患とは関連しなかった。ウイルスのコード配列の除去は、ウイルス遺伝子発現に対する免疫反応性を最小にし、従ってrAAVは炎症性応答を誘起しない。AAVに関連のある他の開示は、米国特許番号6,531,456に示されており、この引例は出典明示により本明細書の一部とする。
【0123】
他のウイルスベクターは、宿主細胞への免疫モジュレーター分子の送達のために、本発明の発現ベクターとして用い得る。ウイルス、例えばワクチンウイルス、レンチウイルス、ポリオウイルスおよびヘルペスウイルスから誘導されたベクターを用い得る(Ridgeway, 1988; Coupar et al., 1988)。それらは、様々な哺乳動物細胞についていくつかの魅力的な特徴を提供する(Friedmann, 1989; Ridgeway,1988; Coupar et al., 1988; Horwich et al., 1990)。
【0124】
発現ベクターの送達
免疫モジュレーター分子(例えば、CD8α鎖)および/または別の治療タンパク質の発現を有効にするために、発現ベクターは細胞に送達されねばならない。この送達は、細胞系を形質転換するための研究方法でされるように、イン・ビトロで達成されるか、または特定疾患の処置症状においてイン・ビボまたはエクス・ビボで達成され得る。上記のように、送達のための1つの好ましいメカニズムは、核酸が組換え体ウイルス粒子中に包まれた場合の感染を介するものである。
【0125】
発現ベクターが細胞に送達されてから、所望のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列をコードする核酸は、異なる部位で配置され、そして発現され得る。特定の実施態様において、構築体をコードする核酸は、細胞のゲノム中に安定に組込まれる。この組込みは、相同な組み換え(遺伝子置換)を介して特定の位置およびオリエンテーションで存在し得るか、またはランダムに非特異的位置(遺伝子増大)に組込まれ得る。さらに、そして好ましい実施態様において、核酸は、別々の、DNAのエピソームセグメントとして、該細胞中で安定に維持され得る。かかる核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞サイクルとは独立するか、同調して、維持および複製を許容するのに十分な配列をコードする。どのように発現構築体が細胞に送達されるか、核酸が細胞中のどの場所に残っているかは、用いる発現ベクターのタイプに依存する。
【0126】
本発明のある実施態様において、発現ベクターは、単にネイキッド組換え体DNAまたはプラスミドからなり得る。ベクターの送達は、細胞膜を物理的または化学的に透過し得る上記のあらゆる方法によって行われ得る。これは、特にイン・ビトロの送達に利用し得るが、同様にイン・ビボの使用にも適用され得る。Dubensky(1984)らは、活性なウイルス複製および急性感染を示す成人および新生児マウスの肝臓および脾臓中にリン酸カルシウム沈殿物の形態でポリオーマウイルスDNAを注入に成功した。BenvenistyおよびReshef(1986)もまた、リン酸カルシウム沈殿プラスミドの直接的腹膜内注射によりトランスフェクトした遺伝子を発現させることを示した。目的の遺伝子をコードするDNAがイン・ビボと類似した方法で伝達され、遺伝子産物を発現し得るということが想像される。
【0127】
細胞中でネイキッドDNA発現構築体を形質転換するための本発明の別の実施態様は、粒子衝撃(particle bombardment)を包含し得る。この方法は、DNA被覆したミクロ発射体を高速度に加速させて、細胞膜を突き破らせて、それらを殺傷せずに細胞に入ることを可能にすることによるものである(Klein et al., 1987)。小粒子を加速させるためにいくつかの装置が開発された。一つの装置は、高電圧放電により電流を発生させ、徐々に原動力を提供する(Yang et al., 1990)。一般的に、使用されるミクロ発射体は、生物学的に不活性物質、例えばタングステンまたは金ビーズを含むと考えられる。
【0128】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉組織を包含する選択された臓器は、イン・ビボで衝撃される(Yang et al., 1990; Zelenin et al., 1991)。これは、銃および標的器官の間に介在するあらゆる組織を排除するために組織または細胞の外科的暴露、すなわちエクス・ビボ処置を必要とする。また、特定の遺伝子をコードするDNAは、この方法を介して送達され得る、これもまた本明細書の一部とする。
【0129】
本発明のある実施態様において、該核酸分子は、リポソーム介在核酸送達によって標的細胞に導入され得る。これに関して、多くのリポソームベースの試薬は当業者にはよく知られ、市販購入でき、核酸分子を標的細胞中に導入するために通常用い得る。本発明の特定の実施態様は、例えばリポフェクタミンまたはリポフェクチン(Life Technologies)などのカチオン脂質トランスファー・ビヒクル、カチオン性コレステロール誘導体(DCコレステロール)と共にジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、N[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩化物(DOTMA)(Sioud et al., J. Mol. Biol. 242:831-835(1991))、DOSPA:DOPE、DOTAP、DMRIE:コレステロール、DDAB:DOPEおよび類似物を用いる。リポソーム埋包核酸の生成物は、当業者にはよく知られており、約1:1の比で脂質および核酸の組合せ物を通常包含する。
【0130】
本発明の使用
上記のように、本明細書中に記載され、かつ可能とされた方法および組成物は、GVHDの移植および処置などに使用するために、ドナーおよび/またはレシピエント抗原に対する同種免疫応答を阻害する際に広く有用であるとわかる。本発明によれば、CD8ペプチド、より好ましくはCD8α鎖を発現するように、同種移植片細胞を調節することによって、慢性的な一般の免疫抑制剤を必要とせずに、同種移植片の生存時間が延長され得る。本明細書に記載のCD8ポリペプチドの標的化発現により、同種移植片中のドナー抗原に対するレシピエント免疫応答の効果的かつ特異的阻害が生じた。逆に、CD8ポリペプチドを発現するためのGVHDのリスク時にレシピエント細胞の調節は、同種移植片由来のドナーT細胞によってこのようなレシピエント細胞に関するGVHD免疫応答の効果的かつ特異的阻害を生じ、そのためGVHDは、これによって予防および/または処置され得る。
【0131】
理論にしばられずに、標的T細胞でのCD8の発現は、宿主免疫系での「ベト(veto)効果」誘導能を標的T細胞に付与すると考えられる。すなわち、上記のように、CD8を発現する細胞が宿主T細胞と接触する場合、該T細胞はダウンレギュレーションされるか、死滅する。従って、「ベト」または「ベト効果」は、標的細胞に対する免疫応答をダウンレギュレートする標的細胞の能力を意味する。CD8分子、特にCD8α鎖はベト効果の誘導または送達に必要であると考えられる。「ベト効果の送達」とは、該veto効果が、通常veto効果を誘導しない細胞に送達されることを意味する。すなわち、標的細胞に対して免疫応答を減少させるか、またはダウンレギュレートする能力が、CD8の誘導または増加された発現によって標的細胞に対して付与される。本明細書で最初に報告した、本明細書で驚くべき発見は、標的細胞上のCD8α鎖の存在が、CD4T細胞、さらにCD8細胞の活性を「ベト化」し、こうして免疫応答の細胞性および体液性成分の両方が阻害され得る。
【0132】
従って、本発明は、ベト効果を誘導することによって標的T細胞への免疫応答を低下させる際の用途を見出した。これは、ダウンレギュレーションを生じさせ、標的細胞を認識するT細胞の欠失を生じた。標的細胞が自己免疫性抗原を発現する細胞である場合、宿主自己免疫応答に対するベト効果の保護を誘導する。標的細胞が、特定の細胞型を多く占める移植シナリオにおいて使用するための幹細胞である場合、幹細胞に対するベト効果を誘導することによって、幹細胞集団を保護する。標的細胞が、同種移植片細胞、例えば移植組織である場合、ベト効果を誘導して、同種移植片中の存在によって発現された非自己抗原または同種抗原に対する免疫応答を低下またはダウンレギュレーションすることによって、拒絶反応に対して保護する。同様に、本明細書中で提供される方法および組成物は、非ヒト哺乳動物、例えばブタ、ウマ、非ヒト霊長類などから移植された臓器、組織および細胞中の異種抗原に対して生じる免疫応答を阻害することによって、異種移植の分野における有利な使用を見出したと、考えられる。
【0133】
一般的に、CD8の発現が移植シナリオで使用される場合、移植片の生存時間は、本発明の核酸非存在下で通常予測され得る時間以上、より一般的には少なくとも5日、より好ましくは少なくとも約30日、さらにより好ましくは約3ヶ月、もっとも好ましくは約6ヶ月〜1年間の相当な時間延長される。延長された実際の移植した物の生存時間は、この方法の多様な条件、特に移植される臓器種によって変わる。また、CD8核酸を含有する送達ビヒクルによる標的細胞の処置は、標的細胞が宿主免疫応答によって認識されるように、CD8発現が低下するなら、反復され得る。また、これは、異種遺伝子移植片が待機同種移植片を用いた範囲に有用であり、一般的な免疫抑制剤の量を低下させるか、またはこのような免疫抑制剤と一緒に用いることを回避させ得る。
【0134】
それ故に、本発明の発現ベクターは、イン・ビトロでの有用性を示す。このようなベクターは、ウイルスのクリアランスおよび永続性の試験における、また免疫応答を回避する手段の効力を評価する方法における、研究ツールとして使用され得る。同様に、導入遺伝子および免疫モジュレーター分子をコードしている少なくとも1つの遺伝子を含む発現ベクター、好ましくは組換え体発現ベクター、具体的にはウイルスまたはアデノウイルスベクターは、イン・ビボで用い得る。
【0135】
イン・ビボ送達は、臓器中へのカテーテルまたは他の潅流手段による直接的な注射を包含するが、これに限定するものではない。核酸は、移植臓器の近位で血管内投与するか、全身投与され得る。当業者は、各送達様式に関する利点および欠点を認識するであろう。例えば、直接的注射は、臓器内の核酸の最大力価を与え得るが、核酸の分布は該臓器全体に均一ではない傾向がある。移植臓器に最も近位の核酸導入は、臓器細胞との接触が広範となるが、一般的に全身投与はより簡単である。また、ドナーへの投与は、臓器除去前であってもよい。核酸は、ドナーから臓器を除去し始める前に、さらに移植後に単回投与または多回投与で導入され得る。当業者は、過度に実験をせずに満足のいく送達手段および送達方法を決定することができる。
【0136】
核酸は当業者には既知の方法を用いて、エクス・ビボ移植臓器の細胞と接触され得る。本明細書に記載のように、従来の臓器保存溶液は、本明細書で説明した発現ベクターの添加によって十分に改良され得る。臓器を維持し得る温度は、通常、約1℃〜8℃の範囲が典型である。培地中の臓器の滞留時間は、一般的には、約10分〜48時間、より普通には約10分間〜2時間の範囲であり得る。該核酸は、イン・ビボまたエクス・ビボで臓器の細胞と接触され得る。
【0137】
好ましい実施態様において、該核酸は、移植された臓器中に直接的注射によって臓器移植の細胞と接触される。これに関して、当業者には既知であるが、生存細胞は、該細胞が接触して外来核酸分子を内在化および混合化し得る。次いで、この核酸は、核中に導入された細胞によって発現され得る。好ましい実施態様において、該核酸は、移植臓器に最も近い血管内注射によって移植臓器の細胞と接触され得る。別の好ましい実施態様において、核酸は、全身投与によって移植臓器の細胞と接触される。
【0138】
目的の核酸は、広範囲な宿主、特に霊長類、より具体的にはヒトまたは飼育用動物に用いられ得る。目的の核酸は、多様な臓器の移植、腎臓、心臓、肝臓、脾臓、骨髄、膵臓、肺およびランゲルハンス島を包含するが、これに限定するものではない、と関連して使用され得る。本発明の核酸は、同種、異種遺伝子移植片に使用され得る。
【0139】
本発明の発現ベクター、例えば組換え体アデノウイルスベクターは、矯正DNA、例えば非存在か欠損した機能をコードしているDNAを細胞に送達することによって、多くの疾患のうちのいずれか一つを処置するために使用され得る。このような処置の候補対象となる疾患には、例えば、黒色腫または神経膠腫などの癌、嚢胞性線維症、遺伝異常およびHIV感染を包含する病原性感染が包含される。例えば、同時継続中の米国特許出願番号XXを参照されたい;これを出典明示により本明細書の一部とする。さらに好ましい実施態様において、追加の治療分子と共に、または追加の治療分子なしで免疫モジュレーター分子(例えばCD8)を発現し得るベクターは、移植された組織に対する宿主免疫応答を阻害するため、または自身の抗原に対する自己免疫応答を防止するために有利に用いられ得る。本発明の方法および組成物に関するその他の用途は、当業者には明らかであろう。
【0140】
発現ベクターの製剤および用量
当業者には認識し得るであろうが、発現ベクター(特に、アデノウイルスベクター)を動物に投与する多くの適当な方法(例えば、Rosenfeld et al., Science, 252,431-434(1991);Jaffe eタルクlin. Res., 39(2), 302A (1991); Rosenfeld eタルクlin. Res., 39(2), 311A (1991); Berkner, BioTechniques, 6, 616-629(1988))が利用できる、また、1以上のルートが投与に使用され得るが、特定のルートは他のルート以上により迅速かつより効果的な作用を提供する。発現ベクターを投与する際に使用するための医薬的に許容し得る賦形剤および/または免疫応答を阻害する手段は、当分野の技術者にはよく知られており、容易に入手可能である。賦形剤の選択は、発現ベクターを投与するために、および免疫応答を阻害する手段として使用される特定の方法によっていくぶん決定される。従って、本発明は、免疫モジュレーター分子(例えば、CD8α鎖)をコードする発現ベクターを含む組成物単独、または、さらに、適当な担体中で導入遺伝子との組み合わせ物を提供し、本発明の範囲で使用するための広範な適当な組成物を提供する。特に、本発明は、CD8(またはその機能フラグメント)のα鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターおよびさらに担体を含む組成物を提供する。別の実施態様において、発現ベクターは、目的のの治療分子またはタンパク質、例えば抗炎症性分子をコードする導入遺伝子をさらに含む。かかる組成物は、他の活性剤、例えば当業者には既知の治療または予防薬剤および/または免疫抑制剤もさらに含み得る。下記方法および賦形剤は、単に例示的なものであり、限定するものではない。
【0141】
経口投与に適当な製剤は、(a)液体溶液、例えば水、生理食塩水またはオレンジジュースなどの希釈剤に溶解した有効量の化合物;(b)固体または顆粒として予め決定された量の活性成分を各々含有するカプセル、小袋または錠剤;(c)適当な液体中の懸濁液;および(d)適当なエマルジョン、からなり得る。錠剤形成物は、1以上のラクトース、マンニトール、コーンスターチ、ポテトスターチ、微晶質セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状シリコンジオキシド、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色料、希釈剤、緩衝剤、湿化剤、保存剤、香料および医薬的適合性賦形剤を包含し得る。ロゼンジ形成物は、香料、通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に活性成分を含み得、また香剤は不活性基材中、例えばゼラチンおよびグリセリン、エマルジョン、ゲル中に活性成分を含有し、また類似物は、活性成分に加え、当業者には既知の賦形剤を含有する。
【0142】
エーロゾル製剤は、吸入により投与するために製造され得る。これらのエーロゾル製剤は、加圧化した許容し得る噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素および類似物中に入れられ得る。それらは、非加圧調製物、例えば、ネブライザーまたはアトマイザー用医薬剤としても処方され得る。
【0143】
経腸投与に適当な製剤は、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤を含み得る水性および非水性の滅菌注射溶液、目的のレシピエントの血液を等張な製剤とする溶質、および懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および保存剤を包含し得る水性および非水性滅菌懸濁液を包含する。製剤は、単回用量または多回用量の密閉容器内、例えばアンプルおよびバイアル中に存在し、注射のためには、水などの滅菌液体賦形剤を使用直前に添加するのみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥する)で貯蔵され得る。即製注射溶液および懸濁液は、前記した種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。さらに、座薬は、様々な基材、例えば乳化基材または水可溶性基材を使用して調製され得る。膣投与のための適当な製剤は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡沫またはスプレー形状として、活性成分に加えて、適切であることを当業者が知っているかかる担体を含有する製剤として提供され得る。
【0144】
本発明において動物、特にヒトに投与される用量は、本発明の治療用導入遺伝子、ベクターの起源および/または免疫モジュレーター分子の性質、用いた組成物、投与方法、処理される特定部位および臓器によって変化する。しかし、好ましくは、有効量のベクターに対応する用量(例えば、本発明のアデノウイルスベクター)が用いられる。「有効量」は、宿主中で所望の効果を提供するのに十分な量であり、当業者には既知のいくつかのエンドポイントを用いてモニターされ得る。例えば、所望の効果は、宿主細胞への核酸送達である。かかる送達は、多様な手段によりモニターされ得る;この手段には、治療効果(例えば、処置される疾患、症状、異常またはシンドロームと関連するいくつかの症候の緩和)または送達された遺伝子またはコード配列または宿主内でその発現に関する証拠(例えば、ポリメラーゼ鎖反応、ノーザンまたはサザンハイブリダイゼーションまたは宿主細胞中の核酸を検出するための転写アッセイを用いるか、イムノブロット分析、抗体媒介検出、このような送達によって、送達された核酸にコードされたタンパク質またはポリペプチド、または影響をうけたレベルまたは機能を検出するための特定のアッセイを用いる)を包含するが、これに限定するものではない。これら記載された方法は、あらゆる包括的な手段ではないが、特異的な適用に合う別の方法が当業者には明らかであろう。このことに関して注目すべきは、ベクター、例えばウイルスベクター、特にアデノウイルスベクター、さらに免疫応答を阻害する手段をコードしていうるベクターの導入に対する宿主応答が、投与されたウイルスの用量、送達部位およびベクターだけでなく導入遺伝子の遺伝子作成および免疫応答を阻害する手段に依存して変化することである。
【0145】
一般的に、本発明のベクターの効果的な送達を確実にするために、特定の投与経路から接触されるべき細胞数を基にして、約1〜約5000コピーの本発明のベクターが、接触すべき細胞あたりに用いられることが好ましく、約3〜300pfuが各細胞に入ることがさらに好ましい。しかし、これは、単に一般的な指針であり、イン・ビトロまたはイン・ビボのいずれかの特定の適用において、当然認められるような、決して多量またはより少量の使用は排除するものではない。同様に、免疫応答を阻害する量は、タンパク質を含む組成物の形態であるなら、導入遺伝子を含む組換え体ベクターに対する免疫応答を阻害するのに十分でなければならない。例えば、実際の用量およびスケジュールは、該組成物が他の医薬組成物と組合せて投与されるかどうか、または薬物動力学的、薬物素因および代謝の個人差によって変化し得る。同様に、標的とされる特定の細胞型またはベクターが送達される手段によって、イン・ビトロでの適用において、量は変化し得る。当業者は、特定シチュエーションの必要性に従い、あらゆる必要な調整を容易になし得る。
【0146】
本発明は好ましい実施態様を参照して説明されるが、当業者は、本発明の目的から逸脱せずに、形態および詳細を変更し得るとを認識する。本発明で同定された各々の特許、公開および他の引例は、出典明示により本明細書の一部とする。
【0147】
実施例1:ベト(Veto)効果−ベクターを用いる試験
a.ベト細胞として繊維芽細胞を設計するためのプラスミド発現ベクターの使用
繊維芽細胞を、それらの表面上でヒトまたはマウスCD8α鎖のいずれかを発現するように設計した。繊維芽細胞を、pCMVhCD8αプラスミドまたはpCMVmCD8αプラスミドを用いてトランスフェクトし、ここでCD8α鎖の発現をCMV最初期プロモーター/エンハンサー(Invitrogen)により作動させた。CD8α鎖トランスフェクトした繊維芽細胞 (H−2)を、混合リンパ球培養物(Balb/c;H−2抗-C57BL/6;H−2)に添加した場合、CD8α鎖発現系のみがCTL応答を抑制した。図3AおよびBで説明したように、マウスまたはヒトCD8α鎖のいずれかを発現させるMC57T繊維芽細胞の添加は、CTLの誘導を完全に抑制した。対照的に、非形質転換繊維芽細胞の添加により、Tリンパ球活性化に影響しなかった。CD8α鎖の抑制性機能の確立に加えて、これらの実験は、マウスTリンパ球が、ヒトCD8α鎖によってベト化され得ることを示した。それ故に、このマウスモデルは、臨床的使用のために設計されたベトを試験するのに有用であろう。
【0148】
設計されたベト細胞(Veto Cell)のイン・ビボ 機能
設計されたベトが動物において機能したかどうかを決定した。CD8α鎖を発現するようにトランスフェクトしたC57BL/6 (H−2)−誘導された繊維芽細胞を、Balb/c(H−2)マウスに注射した。コントロール動物を、トランスフェクトしていない繊維芽細胞を用いて注射した。脾臓細胞を8〜40日後に回収し、刺激細胞としてC57BL/6(H−2) 脾臓細胞と共にMLC培養物中に導入した。5日後、培養物を回収し、EL4(C57BL/6、H−2)標的細胞を溶解させるそれらの能力について試験した。抗-H−2 CTL応答の誘導を、CD8α鎖発現繊維芽細胞を用いて注射した動物において完全に抑制した(図4)。抗-H−2 T細胞の阻害は高い特異性であった。これらのマウスからのT細胞は、第三番目の部分のH−2k異種-MHC分子に対する応答をすでにそなえていた。これらの実験から、設計されたベト細胞は、従来のベト細胞と同様にイン・ビボでの免疫応答を特異的に抑制し、そして標準的でないベト細胞(non-classical veto cell)は、ベト細胞となるように設計し得ることを確認した。いいかえると、設計された細胞は、これらの細胞上に運んだ抗原に対して動物を負に免疫化した。
【0149】
CD8α鎖の発現が、完全に活性化したT細胞の機能と干渉されるかどうかを試験した。この目的のために、CD8α鎖を発現する標的T細胞を、完全に活性化したCTLにより溶解感受性について試験した。2つの異なるT細胞集団を、これらの試験のために選択した。すなわちMLCで刺激された同種反応性CTLと活性化ペプチド特異的CTL。図5に示したように、CD8α鎖を発現する標的は、抗原特異的T細胞ではなく同種反応性T細胞の集団によって効率的に溶解された。これらの結果から、設計したベトが、進行中の抗原特異的免疫応答物、例えば自己免疫応答物において見出されたものと干渉し得ることが示唆される。
【0150】
b.ベト細胞として繊維芽細胞を設計するウイルス・トランスファー・ベクター
アデノウイルス・トランスファー・ベクターm−CD8のベト機能:マウスCD8α鎖を担持した複製欠陥ベクターアデノウイルス・トランスファー・ベクター(mAdCD8α)を開発した。mAdCDBベト・トランスファー・ベクターを用いて感染させたマウス繊維芽細胞 (MC57)は、2日目にマウスCD8α鎖の高レベルを発現した。これらの最初の増殖細胞において、マウスCD8α鎖の発現は5日までに大きく低下した。mAdCD8も、たとえより低い効率であっても、EL4などの他のマウス細胞系を感染した(データは示していない)。
【0151】
次の実験において、mAdCD8α-感染MC57繊維芽細胞 (H−2)をBalb/c(H−2)抗-C57B1/6(H−2)MLCに添加した。5日後、培養物を回収し、抗H−2CTLの存在について試験した。感染した繊維芽細胞が添加されたMLCは、もはや抗H−2CTLを含有していなかった(図12)。これらの実験は、免疫抑制を媒介するためのベト・トランスファー・ベクターの能力を確立した。
【0152】
さらに、アデノウイルスベクターのヒトCD8-バージョンが作られた。また、マウスCD8α鎖を発現したアデノウイルス関連ウイルスが作製された。これらのウイルスが、各CD8鎖の発現を誘導することを示した。マウスまたはヒトCD8α鎖のいずれかを発現するアデノウイルスのベト・ベクター発現は、キラーT細胞の完全な誘導阻害を媒介した(図7を参照されたい)。
【0153】
mAdCD8ベト・トランスファー・ベクターによる負の免疫化:2つの異なる実験を設定して、mAdCD8がイン・ビボの免疫応答を抑制するかどうかを決定した。最初の実験において、C57Bl/6 マウスを、等用量のmAdCD8ベト・トランスファー・ベクターまたはマウスCD8α鎖のかわりにβガラクトシダーゼをコードする類似のアデノウイルスコントロールベクター(Adβgal)のいずれかを用いて感染させた。免疫化7日後に、これらの動物を屠殺した。その脾臓細胞の1つの細胞懸濁液を、Adβgalウイルスの存在下で5日間培養した。次いで、培養物を回収し、それらの増殖能力を評価した。図7に示したように、高い増殖性のCD4T細胞の存在を暗示するAdβgalを用いて免疫化したマウスから回収したT細胞は、Adβgalに対して勢いよく増殖した。対照的に、mAdCD8を注射した動物から採取したT細胞は増殖できなかった。
【0154】
第二ステップにおいて、我々は、これらの培養物が、Adβgal-感染標的細胞(EL4、H−2)を溶解するそれらの能力について試験し、機能的CD8CTLを含有するかどうかを試験した。CTLは、Adβgalを用いて注射したマウスから確立された培養物においてのみ、明らかになった(図8)。この最初の実験により、AdCD8αが、おそらくCD8α鎖の発現のために、アデノウイルス抗原への応答を誘導しなかったことが示唆される。しかし、AdCD8が様々な理由のために免疫応答を誘導できないことが生じ得る。いくつかの定義されていない方法において、AdCD8は機能的でないか、またはこのマウスは、mAdCD8で見出されないβガラクトシダーゼタンパク質とだけ反応し得る。
【0155】
異なる結果の妥当性を試験するために、C57Bl/6マウスを、mAdCD8またはAdβgalのいずれかで一回、続いて7日後にAdβgalにより二回目の注射を行った。7日後にマウスを屠殺し、5日目に脾臓細胞培養物をAdβgalの存在下で確立した。応答T細胞を、Adβgal感染標的T細胞に対するその溶解能について試験した(図8)。実際に、Adβgalに対する2つ暴露物は、免疫化を改良に導いた。これらの試験が示すことは、AdCD8注射の後、マウスがAdβgalおよびそのAdβgalにもはや応答しないこと、またAdβgalが、両ベクターに共通するアデノウイルスのタンパク質に対するCTL応答を独占的でないとしても誘導する。この対の実験が強く示唆するものは、これらのベクターに担持した遺伝子への応答に対して負に免疫化し得る遺伝子治療ウイルスベクターを提供することが可能であるということである。
【0156】
ベトによるCD4Tリンパ球の阻害:ベト・トランスファー・ベクターがCD4Tリンパ球の誘導を阻害するために使用し得るかどうかを試験するために、次の実験系を確立した。C57Bl/6-誘導繊維芽細胞刺激因子を形質転換して、同種MHCクラスII分子(H−2E) および免疫刺激性CD80を発現させた。完全な刺激能を保存するために、照射のない増殖が遅いこれらの繊維芽細胞を、mAdCD8またはAdβgalトランスファー・ベクターのいずれかを用いて形質導入し、非選択的C57B1/6脾臓細胞に添加した。4日後、これらの培養物を回収し、活性化すなわちブラスティング(blasting)CD4Tリンパ球の存在について表面の免疫蛍光により分析した(図9)。通常またはAdβgal-形質導入された刺激因子細胞と培養した非選択C57B1/6脾臓細胞は、非常に多くのCD4Tリンパ芽球を有することが見出された。対照的に、mAdCD8-感染刺激因子に培養物が添加され、少数のCD4Tリンパ芽球のみが検出された。これらの試験から、ベトはCD4Tリンパ球を阻害し、さらにウイルス・ベト・トランスファー・ベクターがこの目的のために使用され得ることを確認した。
【0157】
様々なウイルス構築体を用いる感染後のマウスおよびヒトCD8α鎖の表面発現
染色プロトコール:
mAdCD8:
MC57Tを、修飾IMDMにおいて、3日間、約10の複数回の感染で、mAdCD8を用いて偽感染または感染させた。該感染細胞を回収し、FITC(Pharmingen)による直接標識による抗-マウスCD8α鎖抗体を用いてCD8α鎖の表面発現を染色した。表面蛍光の程度を、蛍光活性化細胞分析器(FACScan, Beckton-Dickinson)上で計測した(図10)。
【0158】
骨髄細胞を、Balb/cマウスの大腿骨腔から採取した。該細胞を、修飾IMDMでの3日間、培養物に対して、10の複数感染で、アデノウイルスのβ-ガラクトシダーゼ発現コントロールベクター(AdLacZ)またはmAdCD8を用いて感染させた。感染細胞を回収し、FITCで直接標識した抗-マウスCD8α鎖抗体を用いてCD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を計測した(図10C)。さらに、CD34+骨髄細胞、すなわち幹細胞プール内の細胞を包含するいくつかの細胞型が、効率的に形質導入されたということを確定した(表1)。
【0159】
表I
【表2】

【0160】
hAdCD8:
MC57Tを偽感染した。hAdCD8のウイルス力価は知られていない。そのストック溶液(100μl)を使用して、3日間、3x10細胞を感染させた。該感染細胞を回収し、FITC(Pharmingen)で直接標識した抗-ヒトCD8α鎖抗体を用いてCD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を、蛍光性活性化細胞分析器で計測した(図10)。
【0161】
AAVベース・ベト・ベクター
AAVベース・ベト・ベクターを、ストラタジーン(Strategene)/アビジン(Avigen)システムを用いて併行して生成した。これらの構築体において、ヒトおよびマウスCD8α鎖を、同じCMV最初期プロモーター/エンハンサーにより作動した。2つのウイルス、mAAVCD8およびhAAVCD8を、HEK293パーケージング細胞系中にパッケージした。用いたこの系はヘルパーウイルスを含まない。mAAVCD8およびhAAVCD8は、マウス繊維芽細胞(MC57T)を効率よく感染し、マウスまたはヒトCD8α鎖各々の発現を高レベルにした。蛍光の程度を、蛍光性活性化細胞分析器で測定した(図10D)。興味深いことに、高レベルのCD8α鎖発現が形質導入後36時間内で見られることに注目されたい。この知見は、別の人による知見とは対照的であった。彼らは、AAVが作動する遺伝子発現は、有意なレベルに到達するには数日かかることを見出した(PH Schmelck, PrimeBiotech)。AAVベト・ベクターを用いる別の試験で、それらが免疫応答を抑制するために使用され得るという、我々の以前の知見を反復するものであった。ここに、標準的MLCプロトコールを使用した(図6)。
【0162】
実施例2:イン・ビトロの阻害試験−混合リンパ球培養物
脾臓細胞を、Balb/c(H−2)およびC57BL/6(H−2)マウスから採取した。単一細胞の懸濁液を調製した。C57BL/6の脾臓細胞を、3,000rad(Mark 1 Cesium Irradiator)で照射した。4x10のBalb/cの脾臓細胞(レスポンダー/エフェクター細胞)を、10%の子ウシ血清(FCS)(Sigma)、HEPES、ペニシリンG、ストレプトマイシン硫酸塩、ゲンタマイシン硫酸塩、L-グルタミン、2-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸(Sigma)、ピルビン酸ナトリウムおよび二酸化ナトリウムを含有するIMDM(Sigma)(修飾IMDM)中、24ウェルプレート(TPP, Midwest Scientific, Inc.)において、ウェルあたり4x10の照射したC57BL/6 脾臓細胞(刺激因子細胞)と共に培養した。COインキュベーター(Forma Scientific)中で培養5日後、該培養物をそのまま回収し、C57BL/6-誘導標的T細胞(H−2)を溶解する能力を試験した。
【0163】
これらの培養物のいくつかに、12,000radで照射した4x10MC57T繊維芽細胞(H−2)を加えた。阻害培養物には、2日間、約10〜1の複数回の感染でmAdCD8を用いて感染した4x10MC57T細胞が包含されている。
【0164】
細胞毒性Tリンパ球キラーアッセイ
混合リンパ球培養物から採取した細胞を、活性化Tリンパ球のインジケーターとして、胚細胞の数について計測した。これらのエフェクター細胞を、U−ボトムの96ウェルプレート中の1つのウェルに添加した。ウェルあたりエフェクターの数を、ウェルあたり3x10または1x10のエフェクター細胞から開始して3倍の滴定ステップで滴定した。これらのエフェクター細胞に、ウェルあたり、1x10標的細胞EL4(H−2)、MC57T(H−2)またはP815(H−2)を添加した。標的細胞を、51Cr(Na-Chromate, Perkin-Elmer)で先に標識した。1x10標的細胞を、約500μl容量の修飾IMDM中に100μCiと共に90分間インキュベートした。その後、取り込まれていない51Crを、修飾IMDMで複数洗浄して除去した。
【0165】
エフェクターおよび標的細胞を、全容量(200μl)で、4時間、COインキュベーター内でインキュベートした。その後、該プレートを、1,500rpm、3分間、遠心機(Centra CJ35R, International Equipment Company)内で回転させた。培地(100ml)を、各ウェルから取出し、標的細胞から放射された51Cr量をモデル4000ガンマ計測器(Beckman Instruments)で計測した。コントロール培養物をセットし、培養物中のエフェクター細胞を差し引いて、バックグラウンドの放射量を決定した。標的細胞中の全51Cr取込み量をウェルごとに決定し、その1%溶液(w/v)のTriton X100(Sigma)をエフェクター細胞に置換した。
【0166】
特異的溶解物の量を次のように決定した:
%=(特異的放射−バックグラウンド放射)/(総放射−バックグラウンド放射)x100
【0167】
mAdCD8のイン・ビトロ活性
混合リンパ球培養物を調製した(Balb/c抗-C57BL/6)。これらの培養物に、12,000radで照射し、mAdCD8で感染したMC57T繊維芽細胞を添加した(示したとおり)。培養5日後、培養物を回収し、様々なエフェクター対標的(E/T)比で、EL4(H−2)標的細胞を溶解する能力について試験した(図4を参照されたい)。
【0168】
見てわかるように、混合したリンパ球培養でさえ、CD8を発現する細胞は、溶解性Tリンパ球の誘導を阻害した。
【0169】
mAdCD8およびhAdCD8の生成
両方のアデノウイルスベクターを、BiogeneからAdEasy(登録商標)システムの助力により作成した。このマウスおよびヒトCD8α鎖cDNAを、トランスファー・ベクターに導入した(ステップ1)。Ad5ΔE1/ΔE3ベクターを用いる組み換えを、BJ5183 ECバクテリア(ステップ2)で達成した。次いで、組換え体ベクターを、組換え体アデノウイルス中にこの主な領域の欠失を補うE1AおよびE1Bアデノウイルス5ウイルス遺伝子を含有するQBI−HEK293A細胞中にトランスファーした。そのため、これらの細胞において産生したhAdCD8およびmAdCD8は複製欠損である。
【0170】
バクテリアのLacZ 遺伝子(β-ガラクトシダーゼ)を発現するコントロールベクターとして、Qbiogeneにより、QBI感染+ウイルス粒子(Ad5.CMVLacZΔE1/ΔE3)が提供された。マウスCD8α鎖配列を用いた。この配列は、公開されたマウス配列と類似する:
実際の配列:MASPLTRFLS LNLLLMGESI ILGSGEAKPQAPELRIFPKK MDAELGQKVD LVCEVLGSVS QGCSWLFQNS SSKLPQPTFVVYMASSHNKI TWDEKLNSSK LFSAVRDTNN KYVLTLNKFS KENEGYYFCSVISNSVMYFS SVVPVLQKVN STTTKPVLRT PSPVHPTGTS QPQRPEDCRPRGSVKGTGLD FACDIYIWAP LAGICVAPLL SLIITLICYH RSRKRVCKCPRPLVRQEGKP RPSEKIV。
【0171】
ヒトCD8α鎖配列を用いた。この配列は、公開されたヒト配列に匹敵するサイレント変異を有する。
実際の配列:MALPVTALLL PLALLLHAAR PSQFRVSPLDRTWNLGWTVE LKCQVLLSNP TSGCSWLFQP RGAAASPTFL LYLSQNKPKAAEGLDTQRFS GKRLGDTFVL TLSDFRRENE GYYFCSALSN SIMYFSHFVPVFLPAKPTTT PAPRPPTPAP TIASQPLSLR PEACRPAAGG AGNRRRVCKCPRPVVKSGDK PSLARYV
【0172】
pAAV-mCD8およびpAAV-hCD8の生成
これらのベクターを、StratageneのAAVHelper-Free Systemの協力を得て作成した。該システムはpAAV−mCSクローニングベクター中にマウスおよびヒト配列を挿入することによって機能する。次いで、このプラスミドを、ヘルパープラスミド(必要なアデノウイルスのタンパク質を含有する)とpAAV−RCベクター(キャプシド遺伝子を含有する)と共にHEK 293細胞中でコトランスフェクトし、組換え体AAV粒子を生成する。
【0173】
実施例3:動物モデルにおいて設計されたベト
移植試験の前に、我々はどのような動物が大量のmAdCD8の注入に反応するかを調べた。第一組の実験において、Balb/cマウス(各群で2匹のマウス)を、β-ガラクトシダーゼ (AdLacZ)をコードするmAdCD8またはアデノウイルスコントロールベクターの当用量を用いて静脈注射した。7日後に、該動物を屠殺した。それらの脾臓細胞を、AdLacZの存在下で5日間培養した。次いで、それらを、AdLacZ-感染標的細胞(P815、Balb/c誘導)を溶解する能力を試験した。図13に記載のように、特異的溶解能を有するCTLを、mAdCD8を与えたマウスではなく、AdLacZで免疫化したBalb/cマウスから増殖した。この結果は、CD8α鎖の発現により、アデノウイルス抗原に対する免疫応答を誘導しないことを示唆した。
【0174】
二回目のセットアップにおいて、C57BL/6マウスを、等用量のmAdCD8(2匹のマウス)またはAdLacZ(2匹のマウス)により免疫化した。免疫化7日後に、各グループの動物1匹を屠殺した。その脾臓細胞を、細胞懸濁液中で、AdLacZの存在下に5日間培養した。次いで、それらを、AdLacZ-感染標的細胞(EL−4、C57BL/6誘導)を特異的に溶解するその能力について試験した。また、AdLacZの注射により、低い頻度であるが特異的なキラー細胞の発生を誘導したが、しかしmAdCD8はそうすることはできなかった(図14)。
【0175】
この実験の第二段階において、mAdCD8またはAdLacZをいずれかを与えた残っているC57BL/6マウスを、その一回目のウイルス注射7日後に第二回目のAdLacZの用量を投与した。7日後に、マウスを屠殺し、5日目の脾臓細胞培養物をAdLacZの存在下で確立した。応答T細胞を、AdLacZ-感染EL4-標的細胞に対するそれらの溶解能について再度試験した(図14B)。実際に、AdLacZに暴露した2匹は、多少免疫化を改善した。しかし、以前にmAdCD8を与えた動物は、応答を開始することができなかった。これらの実験により、AdCD8は免疫応答を誘導できないだけではなく、自身に対する誘導免疫応答を防御したことを示唆した。すなわち、mAdCD8は免疫系を回避した。
【0176】
皮膚移植
皮膚移植モデルを調製した。第一ステップにおいて、マウスを屠殺し、その皮膚断片を採取した。それらを、β-ガラクトシダーゼを担持したアデノウイルスコントロールウイルス(AdLacZ)を用いて感染させた。形質導入24時間後、これらの皮膚片を、IPTGを含有する培地で培養し、発現したβガラクトシダーゼの酵素反応により青染色物に換えた(データは示さない)。これらの試験と併行して、我々は外科手術を至適化した。ドナー動物を屠殺し、全厚みが約0.5cmの卵形の背中皮膚一片を採取した。脂肪組織を注意深く除去した。同系の移植試験において、Balb/c皮膚を、Balb/cレシピエント上に移植した。この皮膚を、時間をかけて十分に癒合させた(データを示さない)。次いで、我々は、全同種株の組合せに変えて、その中のmAdCD8またはAdLacZのいずれかで感染したBalb/cドナー皮膚を、C57BL/6マウスに移植した。12日目に、全てのAdLacZ感染皮膚が活動性炎症の形跡を示したが、mAdCD8-感染させた皮膚はこの時点では健全であった。しかし、このモデルでは、寛容は誘導されず、最終的にはこの皮膚は拒絶反応に負けたが、主な皮膚細胞はアデノウイルスベクターによる感染に無反応であるという、最近確定された事実によることが明らかなようである。
【0177】
同種心臓移植
下記心臓移植モデルを調製した。新生児マウスの心臓組織を、レシピエントマウスの耳の皮膚下に移植した。移植系を確立することと並行して、我々は、どの心筋細胞が、mAdCD8ベクターにより最良に感染され得るかを試験した。新生児心臓由来の1つの細胞懸濁液を調製し、異なる条件下でAdCD8を用いて感染した。マウスCD8α鎖の表面発現の程度を、免疫蛍光により検出した。図15のように、mAdCD8は、約10のMOIのmAdCD8と共に24時間インキュベーションした後のマウス心筋細胞を非常に効率的に形質導入した。
【0178】
mAdCD8形質導入に対する心筋細胞の感受性を確立したため、我々は免疫系を抑制するために最も適当なウイルス濃度を決定した。C57BlL/6(H−2)新生児心臓を半分に分け、移植片あたりAdCD8を10、5x10または10のPFUで注射し、次いで37℃で4時間インキュベートした。次いで、それらを、全て同種Balb/c(H−2d)マウスの耳の皮膚下に移植した。偽感染心臓組織を、コントロール試験に使用した。移植31日後に、マウスを屠殺し、その脾臓を採取した。MLC(レシピエント抗ドナー(Balb/c抗-C57BL/6))を5日間セットアップし、C57BL/6-誘導EL−4標的細胞を溶解する能力について試験した。図17に示したように、mAdCD8の最高濃度によって偽感染または感染した心臓を与えたマウスから回収したTリンパ球は、ドナー組織型の細胞に対して高い溶解応答を示した。2つの低濃度のmAdCD8によって感染した心臓を与えたマウスから採取したTリンパ球は、厳密に抑制された免疫応答を示した。この試験において、mAdCD8の5x10 PFUによる感染が、最も有効であると証明された。そのため、このウイルス量を次の実験に使用した。さらにBalb/cレシピエントマウスを、5x10 PFUのAdCD8により感染した、または偽感染したC57BL/6心臓を用いて移植した。1群の動物を移植38日に屠殺した。移植物を担持する耳を取り出した。該組織を固定し、ドナー型心臓組織に対して免疫組織学的(抗-H−2-ペルオキシダーゼ/HE)に染色した。AdCD8-感染心臓組織のみが生存していたという所見から明らかであった。該心臓組織は、拒絶反応が防止されたことを示す細胞侵入に関するどのような証拠も示さなかった。偽感染した心臓を与えたマウスでは、我々はインタクトな心臓組織をもはや認識できなかった。
【0179】
また、我々は、これらの動物から脾臓を採取し、照射したドナー型の脾臓細胞に対するMLCを調製した。これらの培養物を、抗C57BL/6CTLの存在について試験した。図17を見ると、mAdCD8-マウスにおけるTリンパ球の溶解活性は、コントロールマウスから採取したTリンパ球に比べて約7%まで減少した。移植されたマウスの二番目の組を52日間保ち、その時点でそれらを屠殺し、それらの移植片および免疫活性を分析した。この試験では、該組織を慣習的に(HE)染色し(データは示していない)、mAdCD8-感染心臓組織は外観的に健全であった。対照的に、偽感染した心臓を与えた動物では、筋肉組織はかろうじて再認識できた。組織破壊は、多数の浸潤細胞を伴っていた。
【0180】
我々は、これらの動物において同種反応性T細胞の機能を再度試験した。Balb/cレシピエントから採取した脾臓細胞をドナー型、すなわちC57BL/6、刺激細胞で刺激し、次いで刺激因子に対するその活性について試験した。図18に示したように、AdCD8処置心臓を与えた動物からのTリンパ球の溶解活性は、コントロールの約9%まで著しく低下した。
【0181】
これらの実験から、mAdCD8が同種心臓の拒絶反応を防止するだけでなく、各々同種反応性Tリンパ球の頻度を有意に減少させるということを示した。それ故に、これらの実験から、治療用ビヒクルとしてmAdCD8を用いて設計されたベトは、全同種臓器の拒絶反応を防止し得ることを示した。
【0182】
脾島移植
同系および同種移植の両方を行った。移植拒絶反応が約7日目で開始するので、移植は、動物がこの開始期間中(図19の適応期間を参照されたい)に血中グルコースレベルが低下するかどうかを評価されただけであった。移植された脾島は、早期血液グルコース低下(すなわち、15μM以下)が見られなかった動物中では機能的ではないと考えられた。図20は、非処理マウス(すなわち正常)およびその脾島を破壊するストレプタビジンを投与したマウスにおいてどのような血糖レベルがどのように作用するかを示す。
【0183】
同系の脾島移植の2つの異なる株の組合せ:C57BL/6中にC57BL/6およびBalb/c中にBalb/c、を実施した。試験では、該脾島を形質導入しなかった。マウスの両群において、正常および安定なグルコースレベルを移植後に達成した。これらの試験中の全観察期間を、6ヶ月以上にのばした(図21)。これらの試験の後に、脾島をmAdCD8を用いて形質導入する実験を行った。感染状態は先に確立しておいた(上記参照)。再び、血糖レベルの正常化が見られた(図21)。興味深いことに、Balb/cドナーの場合には、血糖レベルの遅延低下が観察され、これは形質導入脾島がそれらの新規環境に適応するためにより長く時間がかかるいう可能性を示した。
【0184】
アデノウイルスおよびアデノウイルスベクターにより形質導入された組織は、形質導入された組織を破壊へと導く毒性免疫応答を誘導することがよく知られている。なぜ遺伝子治療が元来予言された大きな価値を得られなかったかという主な理由の一つは、この免疫性であった。しかし、我々の実験において、アデノウイルスベクターを用いる脾島の感染は、同系の宿主中でそれらの生存時間に影響しなかった。従って、mAdCD8はアデノウイルスのタンパク質に対する免疫応答を有効に抑制したということが推断されるであろう。
【0185】
我々が、ベト・ベクターmAdCD8をマウスに直接注射した場合に(上記参照)その免疫系を回避したことを見出した時に、この考えは独立して支持された。同系のmAdCD8を形質導入した移植を受けたBalb/cマウスの1匹を、6ヶ月後に屠殺した。移植された脾島は、腎臓被膜下に確認され、マウスCD8α鎖の存在について染色された。興味深いことには、6ヶ月後に検出され得たことに注目すべきである(データは示さない)。この結果は、おそらく脾島で見出された細胞の異常に低いタンオーバー速度のため、mAdCD8はこの時間中では希釈されなかったことを示唆した。
【0186】
次に、mAdCD8が同種脾島の拒絶反応を予防しうるかどうかを調べた。同一実験条件を用いた。約2,000個のC57BL/6の脾島を、mAdCD8を用いて形質導入し、完全な同種Balb/cレシピエント中に移植した。さらなる免疫抑制治療を用いなかった。急性拒絶反応の初期段階が完全に抑制されたということがこれらの結果から明らかである。3匹のマウスは、最初の30日以内で拒絶反応のどのような徴候も示さなかった。しかし、拒絶反応、例えば慢性拒絶反応の後期段階であっても、効果的に阻害された。これらのマウスのうちの一匹は、インスリン生成の低下というどのような証拠もなく4ヶ月以上も観察されている(図5)。それ故に、我々は、ここでアデノウイルス・ベト・ベクターとして判断される設計されたベトは、完全な同種株の組合せにおいて移植片拒絶反応を防止したということを、これらのなお制限的な試験から結論づけた。
【0187】
気管および肺移植モデル
我々は、気管および肺移植のマウスモデルにおいて同種移植の拒絶反応を抑制するためにマウスCD8遺伝子(AdCD8)を担持するアデノウイルスの能力を試験するために一連の試験を設計した。
【0188】
我々の最初の試験において、気管を、C57Bl/6 ドナーマウスから無菌的に除去し、全ての結合組織を除去した。これらのセグメントを、AdCD8(1.2x1011pfu)を用いて、24時間、37℃で感染させた。次いで、これらの感染気管セグメントを、マウス抗-ヒトCD8 FITCと共にインキュベートした(AnCell Corp.)。また、非感染気管セグメントを、これらの抗血清と共にインキュベートした。気管フラグメントを、蛍光下で顕微鏡観察的に試験した。サンプルの相対明度は、ヒトCD8が、気管セグメント上に存在しており、抗体を結合させ得るように暴露されることを示す(表2)。1.8x10pfuのAdLacZとPBSを用いる気管セグメントのインキュベーションにより、AdLacZ処理サンプルのみが、基質IPTGと共にインキュベーションした場合に青くなることを示した。
【表3】

【0189】
AdCD8処理マウス気管フラグメントの移植。
Balb/cマウスからの5つの環状セグメントを、全ての結合組織を除いて、IMDMにおいて1.2x1011pfuのAdCD8または1.2x10pfuのAdLacZを用いて終夜感染させた。次いで、サンプルをC57BAL/6レシピエントの耳の皮膚下に置いた。aにおいては、感染24時間後にサンプルを観察した。bにおいては、移植60日後にサンプルを観察した。
【0190】
PBS処理コントロール組織を、Balb/cマウスの耳の皮膚下に移植した。ベクター処理組織の拒絶反応は現在までに観察されておらず、全ての移植されたセグメントは可視および触知の両方可能であった。移植物は60日間維持された。
【0191】
Balb/cドナーからの肺組織のサンプルを、終夜、37℃でAdCD8を用いて感染させた。次いで、組織を、C57BL/6レシピエントの背中の皮膚下に移植した。コントロール動物は、非処置または感染組織を与えた。動物を、移植後8日、12日、19日、20日および22日に屠殺した。脾臓を、ベト化CD8分子を有する組織存在下で、レシピエントの免疫応答に供するために採取した(図24)。心臓移植モデルにおいて、我々の以前の知見と類似して、AdCD8を用いる移植片の処置により、同種標的を認識するように設計されたアッセイにおいて、移植-特異的CTLの抑制が生じた。
【0192】
移植組織のサンプルを、ホルマリン中に固定し、ヘマトキシン−エオシンにより染色することによって、組織学用に調製した。前処置していないAdCD8(A)を与えたマウス肺からの組織は、細胞またはコラーゲン沈着によって全体的に閉塞された組織および気管支において細胞浸潤の典型的なパターンを示した(Genden, 2003)。
【0193】
終夜ベクターで前処理した組織は、浸潤した気管支が少ししかなかった。移植22日後に、ベクター処置をしていない肺組織は、肺、ならびに気管支や肺胞のいたるところで細胞浸潤を示した。ベクター処理組織は、非常に小さな浸潤面積であった。該スライドを、各サンプル群において、開口または閉口気道の数を計測することによって評価した。非処理肺組織由来の組織は、83%の気道が詰まっており、17%が開いていることを示した。対照的に、AdCD8-処理組織は、30%の組織が細胞沈着により詰まっており、76%の組織が開いていた。
【0194】
結論として、AdCD8による気管および肺組織の前処置により、レシピエントマウス中の気管支または肺胞パッセージにおける炎症細胞の出現が顕著に低下した。これが該ケールとなるとは予測されなかった。OBに関する組織学的徴候における顕著な低下は、肺移植患者のための治療的適用のためのAdCD8を開発する際の大きな進展である。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】図1は、多種のCD8α鎖タンパク質および核酸配列を説明するものである。記載の配列についての受託番号も包含される。
【図2】図2A−Bは、野生型ヒトCD8α鎖についてアミノ酸および核酸配列を記載するものであり、ヒトおよびマウス各々についてタンパク質の異なるドメインの境界を包含する。
【図3】図3は、C57BL/6脾臓細胞によって刺激されたBalb/c脾臓細胞を示す。培養物に、正常な繊維芽細胞、培地、またはマウス(A)またはヒト(B)起源のCD8を有する繊維芽細胞を加えた。培養物を回収し、C57BL/6−誘導標的細胞に対するその溶解能を試験した。
【図4】図4は、コントロール繊維芽細胞(■および▲)またはmCD8-トランスフェクトしたC57BL/6-(H−2)誘導繊維芽細胞(○および●)を用いて注射したBalb/c(H−2d)マウスを示す。2週間後の動物を屠殺した後に、脾臓細胞を採取し、C57BL/6(H−2)(■および○)またはCBA/J(H−2(●および▲)の脾臓細胞を用いて刺激し、EL4(H−2)(■および○)またはS.AKR(H−2)( ●および▲)標的細胞についてその溶解能を試験した。
【図5】図5は、同種反応性T細胞(A)または抗原特異的CTL(B)により溶解するためのそれらの感受性について試験した標的細胞(▲)またはCD8発現標的(■)を示す。
【図6】図6は、正常の繊維芽細胞(●)およびmAdCD8(A、▲)またはHadCD8(B、▲)で形質導入した繊維芽細胞の存在下で調製したMLC(Balb/c抗-C57B/6)を示す。繊維芽細胞はコントロール培養物(■)に添加しない。C57BL/6-誘導性標的に対してこれらの培養物の溶解活性を、培養期間終了時に決定した。
【図7】図7は、アデノウイルスのベト・トランスファー・ベクターであるmAdCD8を用いた免疫化を示す。C57BL/6マウスを、上記したベクターで感染させた。10日後、脾臓細胞を採取し、Adbgalウイルスの存在下で培養した。芽細胞数を示した。
【図8】図8は、mAdCD8のマウスによる負の免疫化を示す。(A)C57BL/6マウスをAdβgalまたはmAdCD8により1回i.v.で免疫化した。(B)(A)で処置された動物を、5日後にAdβgalにより再び免疫化した。最終注射7日後、動物を屠殺し、その脾臓細胞をAdβgalの存在下で培養した。培養5日後、細胞をAdβgal−感染した同系の標的細胞についてその溶解能を試験した。
【図9】図9は、説明のとおり形質導入した1x10(または非)刺激細胞と共にインキュベートした3x10のC7Bl/6脾臓細胞を示す。4日後、CD4Tリンパ芽球の存在について、培養物を免疫蛍光により分析した。
【図10】図10A−Dは、様々なウイルス構築体による感染後のマウスおよびヒトCD8a−鎖の表面発現を示す。A.感染細胞:MC57T繊維芽細胞;パネル1:偽感染;パネル2:hAdCD8による感染。B.感染細胞:MC57T繊維芽細胞;パネル1:偽感染;パネル2:mAdCD8による感染。C.感染細胞:Balbc 非選択骨髄細胞;パネル1:lacZアデノウイルスベクター(AdLacZ)による感染;パネルl2:mAdCD8による感染。D.感染細胞:MC57T繊維芽細胞;パネル1:偽感染;パネル2:PAAV−mCD8による感染;パネル3:pAAV−hCD8による感染。
【図11】図11は、形質導入後0時間または5時間培養したこれらの繊維芽細胞の存在下で、MLCに添加する前に、調製したMLC(Balb/c抗-C57BL/6)を示す。培養終了時に、リンパ芽球の数を蛍光活性化細胞分析器で決定した。
【図12】図12は、ベト・トランスファー・ベクターによるイン・ビトロ阻害を示す。Balb/c抗C57BL/6混合リンパ球培養物(MLC)を、非感染またはmAdCD8感染MC57繊維芽細胞 (H−2)(X)の非存在または存在下で確立した。CTL応答をEL4 (H−2) 標的細胞において測定した。
【図13】図13は、AdLacZ(▲)またはmAdCD8(■)によって免疫化されたBalb/cマウスを示す。それらの脾臓細胞を、AdLacZの存在下で培養し、AdLacZ-感染された同系のP815標的細胞に対する特異的溶解活性について試験した。
【図14】図14A−Bは、AdLacZ(■)またはmAdCD8(▲)により免疫化された(A)C57BL/6動物を示す。同系のAdLacZ EL4標的T細胞に対するそれらの脾臓細胞の溶解活性を試験した。(B)このような動物を、AdLaz−感染EL4標的に対するそれらの溶解活性を試験する前にAdLacZを用いて再び免疫化した。
【図15】図15は、新生児心臓から調製した単細胞懸濁液を示す。心筋細胞は、mAdCD8(B)または偽感染により形質導入し、48時間間培養して、CD8の表面発現について染色した。
【図16】図16は、109(■)、5x107(▲)、107(●)のPFU AdCD8または偽感の(○)によって感染された新生児C57BL/6の心臓を示す。BALB/cレシピエントに移植35日後に、活性化レシピエントT細胞の溶解活性の活性を、ドナー型標的細胞で試験した。
【図17】図17は、AdCD8(■)または偽感染したもの(○)によって感染された新生児C57BL/6の心臓を示す。Balb/cレシピエントへの移植38日後、活性化レシピエントT細胞の溶解活性の活性を、ドナー型標的細胞について試験した。
【図18】図18は、mAdCD8(処置)または偽感染(コントロール)に感染したC57BL/6心臓をBalb/cマウス中に移植したことを示す。52日後、動物を屠殺し、組織を染色し(HE)、レシピエントT細胞の溶解活性をドナー型標的細胞について試験した。
【図19】図19は、脾島の移植プロトコールを示す。
【図20】図20は、正常の(■)およびストレプトゾトシン処理(●)マウスにおける血糖レベルを示す。
【図21】図21は、Balb/c(■)およびC57BL/6(●)マウスで実施された同系の脾島移植を示す。
【図22】図22は、Balb/c(●)またはC57BL/6(■)マウスから採取した同系のmAdCD8-形質導入した脾島の移植を示す。
【図23】図23は移植された島の生存時間を示す。完全に同種mAdCD8形質導入したC57Bl/6脾島の移植を受けた化学的に誘導された糖尿病に罹患したBalb/cマウス中の血糖レベル。
【図24】図24は、肺移植後の同種標的を認識するために設計されたアッセイにおける移植-特異的CTLの抑制を示す。
【図25】図25は、mAdCD8-形質導入されたC57BL/6脾島を用いて移植されたマウス中におけるインスリン生成を示す。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞特異的抗原に対する宿主免疫応答を特異的に阻害する方法であって、該抗原を発現する標的細胞と、CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドをコードする発現ベクターとを接触させることを含み、該CD8ポリペプチドが該標的細胞により発現され、これにより該標的細胞に対する宿主免疫応答が特異的に阻害される、
方法。
【請求項2】
標的細胞特異的抗原が同種抗原である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
同種抗原がドナー同種抗原を含み、標的細胞がドナー同種移植片細胞を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
同種抗原がレシピエント抗原を含み、標的細胞がレシピエント細胞を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
レシピエント中のドナー抗原に対する免疫応答を特異的に阻害する方法であって、該ドナー抗原を有するドナー同種移植片細胞を、該レシピエントへの同種移植片細胞の移植前または同時に、CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドを発現するように調節することを含み、該同種移植片細胞による該CD8ポリペプチドの発現により該ドナー抗原に対するレシピエント同種免疫応答が特異的に阻害される、
方法。
【請求項6】
レシピエント中の同種移植片の生存時間を延長する方法であって、該同種移植片の細胞を、該レシピエントへの該同種移植の移植前または同時に、CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドを発現するように調節することを含み、該CD8ポリペプチドが該同種移植片細胞によって発現され、これにより該同種移植片の生存時間が延長される、
方法。
【請求項7】
調節ステップが、同種移植片細胞を、CD8ポリペプチドをコードしている発現ベクターと接触させることを含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
調節ステップが、レシピエントへの同種移植片細胞の移植前または同時にエクス・ビボで生じる、請求項5または6記載の方法。
【請求項9】
調節ステップが、同種移植片細胞の採取前または同時に、ドナーのイン・ビボで生じる、請求項5または6の方法。
【請求項10】
移植されたドナーT細胞によってレシピエント抗原に対する免疫応答を特異的に阻害する方法であって、該レシピエント細胞を、移植片対宿主疾患のリスク時に、該レシピエントへのドナーT細胞の移植と同時または後に、CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドを発現するように調節することを含み、該レシピエント細胞による該CD8のポリペプチドの発現により、該レシピエント抗原に対する該ドナー同種免疫応答が特異的に阻害される、
方法。
【請求項11】
レシピエントにおいてGVHDを抑制するための方法であって、該レシピエントの細胞を、GVHDに対するリスク時に、該レシピエントへの同種移植片の移植と同時または後に、CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドを発現するように調節することを含み、該CD8ポリペプチドが該レシピエント細胞によって発現され、これにより該同種移植片中のドナーT細胞によって該レシピエント細胞に対して生じるGVHD免疫応答が抑制される、
方法。
【請求項12】
調節ステップが、同種移植片細胞とCD8ポリペプチドをコードする発現ベクターとを接触させることを含む、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
調節ステップが、該ドナーT細胞の移植と同時または後にレシピエントにおいてイン・ビボで生じる、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
CD8ポリペプチドが、ヒトCD8ポリペプチドである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
CD8ポリペプチドが、主にCD8α鎖の細胞外ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインからなる、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
CD8ポリペプチドが、主にCD8α鎖のIg様ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインからなる、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
トランスメンブレン・ドメインが、CD8α鎖トランスメンブレン・ドメインである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
CD8α鎖を含むCD8ポリペプチドを発現するように修飾された同種移植片細胞を含む改良された移植用同種移植片であって、該同種移植片が、同種抗原に対するレシピエント免疫応答を効果的かつ特異的に阻害することができる、改良された移植用同種移植片。
【請求項19】
同種移植片細胞の修飾が、CD8ポリペプチドをコードする核酸のウイルス媒介送達を用いて達成される、請求項18記載の改良された移植用同種移植片。
【請求項20】
CD8ポリペプチドが、ヒトCD8ポリペプチドである、請求項18または19記載の改良された移植用同種移植片。
【請求項21】
CD8ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む改良された臓器保存溶液であって、該CD8ポリペプチドがCD8α鎖を含む、改良された臓器保存溶液。
【請求項22】
CD8ポリペプチドが、ヒトCD8ポリペプチドである、請求項21記載の改良された臓器保存溶液。
【請求項23】
CD8ポリペプチドが、主にCD8α鎖の細胞外ドメインおよびトランスメンブレン・ドメインからなる、請求項21または22記載の改良された臓器保存溶液。
【請求項24】
トランスメンブレン・ドメインが、CD8α鎖トランスメンブレン・ドメインである、請求項21〜23のいずれかに記載の改良された臓器保存溶液。
【請求項25】
CD8ポリペプチドをコードしている核酸が、配列番号:に記載の配列を含む、請求項21記載の改良された臓器保存溶液。
【請求項26】
CD8ポリペプチドが、主に配列番号:に記載の配列を含む、請求項21記載の改良された臓器保存溶液。

【図1】
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【図1】
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【図1】
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【図1】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2007−524591(P2007−524591A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507412(P2006−507412)
【出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/008574
【国際公開番号】WO2004/083244
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(505353250)アイソジェニス・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ISOGENIS, INC.
【Fターム(参考)】