説明

同種異系細胞治療:ミラー効果

【課題】関連するGVH病毒性なしに、少なくともGVT効果と同じくらい有効な抗腫瘍効果を誘発する、同種異系細胞治療方法を記載すること。
【解決手段】同種異系細胞治療プロトコールに用いるための同種異系細胞を操作する方法を記載する。その方法は、高度に活性化された同種異系T細胞の組成物を提供し、それを免疫適格癌患者に注入して「ミラー効果」と呼ばれる新規の抗腫瘍免疫メカニズムを誘発する。移植片中のT細胞が有用な移植片対腫瘍(GVT)および有害な対宿主性移植片(GVH)効果を媒介する、現在の同種異系細胞治療プロトコールと対照的に、本発明の同種異系細胞は、宿主T細胞を刺激してこれら効果の「ミラー」を媒介する。GVT効果のミラーは、宿主対腫瘍(HVT)効果である。GVH効果の「ミラー」は、宿主対移植片(HVG)効果である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、疾患を治療するための、同種細胞注入の使用に関連する。より具体的には、本発明は、対宿主性移植片(GVH)病の毒性なしに、抗腫瘍効果を産生することを可能にする、同種細胞治療方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
同種異系細胞治療は、いくつかの型の悪性腫瘍およびウイルス性疾患の重要な治療法である。同種異系細胞治療は、患者に対する細胞の注入または移植を含み、ここで注入または移植された細胞は患者以外のドナーから得る。同種異系細胞治療プロトコールのために利用されてきた同種異系ドナーのタイプは、HLAのマッチした同胞、マッチした非血縁のドナー、部分的にマッチした家族メンバーのドナー、血縁の臍帯血ドナー、および非血縁の臍帯血ドナーを含む。同種異系ドナー細胞を、通常骨髄の採取、末梢血の採取、または出生時の臍帯血の採取によって得る。このマッチしたドナーの必要性が、同種異系細胞治療プロトコールの大きな制限である。HLAのマッチングの必要性なしに有効である、同種異系細胞治療の方法を提供することが、本発明の目的である。
【0003】
同種異系細胞治療方法は、骨髄移植(BMT)環境において30年以上行われてきた(KaiおよびHara 2003)。これらの方法は、高用量の(骨髄破壊的な)化学療法および/または照射による患者の治療を含む。この骨髄破壊的なコンディショニングは、骨髄の破壊を引き起こし、機能する免疫系の喪失を引き起こす。従って、これらの患者は、破壊された骨髄を置換し、そして免疫を修復するために、同種異系細胞移植によって「救われ」なければならない。
【0004】
骨髄破壊的なコンディショニング、続く同種異系BMTまたは幹細胞移植(SCT)の、ある血液の悪性腫瘍を治療する能力は、広く認められている。同種異系細胞移植によって媒介される抗腫瘍効果は、移植片対腫瘍(GVT)効果として知られる(移植片対白血病効果および移植片対悪性腫瘍効果および移植片対骨髄腫効果とも呼ばれる)。同種異系細胞治療後のGVT活性は、骨髄性白血病(GaleおよびChamplin 1984)、リンパ性白血病(Rondon、Giraltら 1996)、多発性骨髄腫(Tricot 1996 番号2730)、および乳癌(Eibl、Schwaighoferら 1996)を含むいくつかの癌を治療するのに有効であることが知られている。
【0005】
しかし、同種異系BMTは、治療に関連する死亡率が30−35%である(Frassoni、Labopinら 1996)。移植関連死亡率の高いリスクは、この治療の使用をほとんど、血液の悪性腫瘍を有する他は健康な患者に制限してきた。その治療をより広い範囲の患者および疾患適応症に利用可能にするために、同種異系細胞治療の治療に関連する死亡率を有意に抑制、またはなくすことが、本発明の目的である。
【0006】
自己由来BMTを受けた患者と比較して、同種異系BMTを受けた患者において再発率が有意に低いことが観察された時に、GVT効果が発見された。これは、抑制された再発率は、同種異系移植片に含まれるリンパ球の抗腫瘍反応によって媒介される(GVT効果)という発見に導いた(Weiden、Sullivanら 1981)。
【0007】
同種異系BMT後に再発した慢性骨髄性白血病(CML)を有する患者が、同種異系リンパ球の注入(ドナーリンパ球注入またはDLIとして知られる手順)後に、完全な寛解に至った時に、初めてGVT効果の力の直接的な証拠が提供された。DLI治療は、それ以来同種異系BMT後の再発癌患者において、そのような腫瘍細胞の最大耐容量の化学療法/照射に対する完全な抵抗性にもかかわらず、しばしば完全な寛解を引き起こすことが示された(Slavin、Naparstekら 1995;Slavin、Naparstekら 1996;Slavin、Naparstekら 1996)(Slavin 米国特許第5,843,435および6,143,292号も参照のこと)。
【0008】
DLI治療単独で、化学療法なしに、抗腫瘍効果を有し得るという観察は、悪性腫瘍の治療においてパラダイムシフトを引き起こした。中心が化学療法/照射の細胞毒性効果よりもGVT効果にある、新しい世代の治療が生まれた。この新しい世代の同種異系細胞治療プロトコールは、「ミニ移植」として知られる(例えば、Slavinに発行された米国特許第6,544,787号、およびSykesらに発行された米国特許第6,558,662号を参照のこと)。
【0009】
ミニ移植手順は、初回の低用量、非骨髄破壊的な患者の化学療法コンディショニングを含む。低用量化学療法コンディショニングは、腫瘍抑制の目的のために提供されるのではなく、同種異系ドナー細胞注入の拒絶を予防するのに充分免疫系を弱めるためだけに設計される。コンディショニングした患者に、操作していない同種異系リンパ球または幹細胞を注入し、それが患者に定着し、そして続いてGVT効果を媒介する。
【0010】
うまく定着した同種異系細胞を有する患者は、部分的には自己由来であり、そして部分的には同種異系移植片由来である免疫系を発達させる。この免疫学的状態の患者は、「キメラ」として知られる。キメラの形成を可能にするコンディショニングレジメは、通常1つまたはそれ以上の、フルダラビンのようなプリンアナログ、ブスルファンのようなアルキル化剤、および/またはシクロホスファミド、および/または抗白血球グロブリンのような、化学療法コンディショニング薬剤の投与を含む(Slavinに発行された米国特許第6,544,787号を参照のこと)。
【0011】
これらのミニ移植プロトコールは、血液学的な悪性腫瘍の治療に非常に有効であることが証明され、そして高用量の骨髄破壊的レジメより毒性が弱い(Champlin、Khouriら 1999;Champlin、van Besienら 2000);(Grigg、Bardyら 1999);(Slavin、Naglerら 2001;Slavin、Orら 2001)。ミニ移植はまた、化学療法抵抗性の転移疾患に有効であることも示された(Childs、Chernoffら 2000;Childs 2000;ChildsおよびBarrett 2002;Childs 2002)。
【0012】
GVT効果は、ヒト悪性腫瘍の治療において今まで観察された最も強力および有効な抗腫瘍メカニズムであると記載されたが(van Besien、Thallら 1997)(Eibl、Schwaighoferら 1996)(Ueno、Rondonら 1998)、GVTの臨床適用は、同種異系細胞注入に伴う毒性のために、依然として非常に制限されている。同種異系細胞治療の主な合併症は、対宿主性移植片(GVH)病として知られる状態である。GVH病は、ドナーT細胞が正常宿主細胞の抗原に対して反応し、標的臓器の損傷を引き起こす場合に起こり、それは多くの場合死に至る。GVH病の主な標的臓器は、免疫系、皮膚、肝臓および腸である。
【0013】
同種異系細胞治療において、有用なGVT効果を有害なGVH効果から分離する方法を開発する緊急の必要性が存在する。しかし、同じドナーT細胞が両方の効果の原因であり、GVTおよびGVHは密接に関連した過程であるようなので、これは非常に困難であることが判明した。GVH病に伴う毒性なしに抗腫瘍効果を提供する、同種異系細胞治療方法を記載することが、本発明の目的である。
【0014】
GVH病は、ドナーおよびレシピエントの間の組織適合性抗原(HLA)のミスマッチに対して2次的に起こる。強力なHLAミスマッチのドナー−レシピエントペア間の同種異系BMTを行う試みは、重篤なGVH病の非常に高い発生および同種異系細胞注入の定着の失敗を伴った。従って、同種異系細胞治療は、通常ドナーおよびレシピエント間のHLA抗原のマッチングを必要とする。しかし、HLAアイデンティティーのマッチングにも関わらず、おそらくマイナーHLA抗原の違いのために、かなりの数の患者が依然としてGVH病を発症する。
【0015】
HLAがマッチしたドナーの必要性が、同種異系細胞治療の適用を厳しく制限する。およそ3人に1人の患者のみが、HLAがマッチした同胞を有するか、または表現型のマッチした非血縁のドナーを見つけることができ、そして従って大部分の患者は、同種異系細胞治療の選択肢を有さない。さらに、白血病およびリンパ腫を含む大部分の癌は、若い人よりもGVHを発症しやすい、そして従って他の治療選択肢がないにもかかわらず、一般的には同種異系細胞治療の候補とは考えられない、より高齢の患者を悩ます。それに加えて、GVH病の予防のために使用される免疫抑制剤も、2次感染の危険性を高め、そしてある型の白血病の再発率を高める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
よって、その治療をより多くの患者集団のために利用し得るために、同種異系細胞治療プロトコールにおいてGVH病に伴う毒性を抑制またはなくし、一方GVT効果を維持または高める大きな必要性が存在する。
【0017】
関連するGVH病毒性なしに、少なくともGVT効果と同じくらい有効な抗腫瘍効果を誘発する、同種異系細胞治療方法を記載することが、本発明の目的である。
【0018】
その治療から利益を得るために、以前の同種異系BMTまたは化学療法コンディショニングレジメの必要性を排除することによって、治療に関連する毒性が抑制された同種異系細胞治療方法を記載することが、本発明のさらなる目的である。
【0019】
HLAがマッチしたドナーを必要としない同種異系細胞治療の方法を記載することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(本発明の概要)
本明細書中で開示される発明は、同種異系細胞で構成される製品に関連し、少なくともその一部はT細胞であり、ここで同種異系T細胞はエキソビボで増殖および分化され、そしてヒトにおいてGVH毒性なしに宿主免疫系を刺激するための同種異系細胞治療として使用され、そしてここで当該同種異系細胞は続いて宿主免疫系によって拒絶される。
【0021】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載された製品に関連し、ここで同種異系細胞はレシピエントとのHLAマッチングを考慮せずに、または意図される患者集団とのHLAハプロタイプの最大限のミスマッチを可能にするよう選択され、それによって最大限の同種異系潜在性および続く製品に対する宿主免疫反応を保証する。
【0022】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞は、以前に同種異系BMTを受けたことがない患者に注入された場合に、腫瘍に対して有効な宿主免疫反応を刺激し得る。
【0023】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞は、以前に免疫抑制コンディショニングレジメを受けたことがない患者に注入された場合に、腫瘍に対して有効な宿主免疫反応を刺激し得る。
【0024】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞治療は、宿主における炎症性「1型」モノカインおよびリンホカインの産生を刺激することによって、患者において免疫反応を刺激する。
【0025】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞治療は、宿主自然免疫および/またはTh1適応免疫の構成成分を活性化することによって、患者において免疫反応を刺激する。
【0026】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞治療は、腫瘍の免疫原性を増強するサイトカインの産生を刺激する。
【0027】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品に関連し、ここで同種異系細胞は腫瘍を直接破壊して、腫瘍関連抗原を、宿主1型適応免疫を刺激するために利用可能にする。
【0028】
本明細書中で開示される発明はまた、上記で記載される製品を産生する方法に関連し、ここで製品に含まれる同種異系T細胞は増強された活性化の状態である。
【0029】
本明細書中で開示される発明はまた、非血縁のドナーから単核細胞を回収すること、単核細胞集団中のT細胞を活性化すること、および宿主免疫系を有する宿主に活性化T細胞を投与することによって、宿主免疫系を刺激する方法に関連し、ここで活性化T細胞は宿主免疫系によって拒絶されるが、宿主免疫系を刺激して内在する疾患に対する有効な免疫反応を媒介する。宿主は、血液学的悪性腫瘍、固形腫瘍、転移した固形腫瘍またはウイルス感染のような、内在する疾患を有し得る。ドナーを、宿主に対する組織適合性を考慮せずに選択し、そして最大限の組織適合性ミスマッチが好ましい。宿主はまた、好ましくは以前に骨髄移植を受けていない、および好ましくは同種異系ドナー細胞注入の定着を可能にするために設計された、免疫抑制的化学療法および/または照射コンディショニングレジメを受けていない。
【0030】
その方法はさらに、T細胞は好ましくはCD4+T細胞であり、そして大部分のCD4+T細胞は、エキソビボにおける活性化の後にCD45RA+、CD62Lhiナイーブ細胞からCD45RO+、CD62Llo記憶細胞に分化することを含み、そしてここでそのような細胞はIL−2、IFN−ガンマ、TNF−アルファのような1型サイトカインを産生し、そしてIL−4、IL−10、およびTGF−ベータのような2型サイトカインを産生しない。
【0031】
本明細書中で開示される発明はまた、エキソビボ活性化の後に、細胞表面にCD40Lおよび/またはTRAILを発現する、そのようなCD4+T細胞を含む。
【0032】
好ましくは、T細胞の細胞表面に適用された抗CD3および抗CD28mAbの架橋によって、T細胞が活性化される。好ましくは、当該T細胞の表面に適用される抗CD3および抗CD28mAbは、当該mAbに対して反応性の薬剤で覆われた生物分解性のマイクロスフィアと会合することによって架橋される。
【0033】
本明細書中で開示される発明はまた、90%より多くのT細胞が、宿主免疫系との接触直前およびその時に活性化状態にある場合を含み、そして好ましい実施態様においては95%より多くのT細胞が、宿主への投与時および宿主との接触直前に活性化されている。
【0034】
本方法はまた、T細胞が、宿主への注入前に少なくとも6日間活性化刺激に連続的にさらされる場合を含む。好ましくは、T細胞は、細胞対細胞の接触を最大限にするために、少なくとも10細胞/mlの細胞密度で維持される間に活性化される。そのような細胞対細胞の接触は、同種異系T細胞の活性化状態を増強するように作用する。
【0035】
別の実施態様において、本方法は、同種異系T細胞の表面に適用された抗CD3および抗CD28mAbと共にT細胞が投与され、そしてそのmAbは、mAbに対して反応性の薬剤で覆われた生物分解性マイクロスフィアとの会合および含有によって架橋される場合を含む。
【0036】
本方法はまた、T細胞の投与が、1型サイトカインの産生を刺激する場合を含み、そしてそのようなサイトカインは、少なくとも1つの以下のものを含む:IL−1、IL−2、IL−12、IL−15、IFN−ガンマ、IFN−アルファ、IFN−ベータ、TNF−アルファ、およびTNF−ベータ。そのようなサイトカインは、宿主自然免疫機能を含む免疫を刺激する。本方法はまた、活性化T細胞の投与が、宿主樹状および/またはマクロファージ細胞を活性化する場合を含む。
【0037】
本発明はまた、活性化された同種異系T細胞の投与および続く活性化T細胞の拒絶が、宿主の内在する疾患に対する免疫反応を刺激する場合を含む。
【0038】
本発明はまた、エキソビボで活性化された同種異系T細胞を、処方および宿主への投与の前に低温保存する方法を含む。
【0039】
本発明はまた、当該mAbに対して反応性の薬剤で覆われた生物分解性マイクロスフィアで架橋された、抗CD3および抗CD28mAbで標識された同種異系T細胞の組成物を含む。標識された同種異系T細胞および会合した生物分解性マイクロスフィアを、静脈内注入のために適当な媒体に懸濁する。そのようなT細胞および会合した生物分解性マイクロスフィアを、10細胞/mlまたはそれより高い細胞密度で、そして好ましくは柔軟な容器またはシリンジ内で懸濁する。抗CD3および抗CD28で標識したT細胞をまた、処方および投与の前に低温保存し得る。
【0040】
本発明はまた、腫瘍を有する宿主免疫系と接触した場合に、毒性の対宿主性移植片(GVH)反応を誘発することなく、宿主対腫瘍(HVT)および宿主対移植片(HVG)反応を誘発する、同種異系細胞材料を含む。同種異系細胞材料は、エキソビボで活性化したT細胞を含み、そしてここで当該活性化T細胞は、好ましくはCD4+T細胞である。
【0041】
本発明はまた、腫瘍を有する宿主に投与した場合に、腫瘍のアポトーシスを引き起こす同種異系細胞材料を含む。同種異系細胞材料は、活性化同種異系T細胞を含み、そしてそのようなT細胞は、好ましくはCD4+細胞である。そのようなCD4+細胞は、好ましくは高密度で、細胞表面にFasLおよび/またはTRAILを発現する。そのような活性化T細胞は、好ましくはエキソビボ活性化の後に、CD45ROおよびCD63Lloを発現する記憶細胞へ分化する。そのような同種異系T細胞は、1つまたはそれ以上の以下のサイトカインを発現する:IL−2、IL−15、IFN−ガンマ、およびTNF−アルファ、そして宿主への投与時に表面FasLおよび/またはTRAILを発現する。
【0042】
本発明はまた、治療に有効な量の同種異系細胞集団を含む組成物を含み、そのうち少なくとも一部はT細胞であり、そしてここで当該T細胞は活性化に有効な量の1つまたはそれ以上のモノクローナル抗体またはその一部、および架橋に有効な量のモノクローナル抗体に対して反応性の薬剤で標識される。そのような組成物のT細胞は、好ましくは抗CD3および抗CD28mAbで標識される。mAbに対して反応性の薬剤は、好ましくは生物分解性マイクロスフィアをコートする。同種異系T細胞および会合した生物分解性マイクロスフィアを、静脈内注入に適当な媒体に懸濁する。そのような標識T細胞および会合した架橋生物分解性マイクロスフィアを、10細胞/mlまたはそれより高い細胞密度で、柔軟な容器またはシリンジ内で懸濁する。組成物を、注入前に低温保存し得る。
【0043】
好ましい実施態様において、本発明において使用される同種異系細胞は、エキソビボで活性化された精製T細胞、好ましくはCD4+T細胞、より好ましくはエフェクターまたは記憶細胞へ分化し、そして高レベルのIL−2、IL−15、IFN−ガンマ、TNF−アルファのような1型サイトカインを産生し、そして好ましくは高密度でCD40L、TRAIL、およびFasLのようなエフェクター分子も細胞表面に発現するCD4+T細胞である。
【0044】
別の好ましい実施態様において、注入のための同種異系T細胞は、T細胞活性化薬剤と連続的に接触して、高い細胞密度(10細胞/mlまたはより高い)で細胞を維持する方法によって、エキソビボで処理される。
【0045】
別の好ましい実施態様において、注入のための同種異系T細胞を、採取から注入までT細胞を活性化状態に維持する手段として、活性化薬剤を含む注入のために適当な媒体中で処方する。
【0046】
別の好ましい実施態様において、90%より多い、または好ましくは95%より多い、注入される同種異系T細胞は、患者への注入時に、増強された活性化状態であり続ける。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
同種異系細胞の集団およびモノクローナル抗体に対して反応性の、架橋有効量の薬剤を含有する組成物であって、該細胞の少なくとも一部は、T細胞であって、該T細胞は、活性化有効量の一種以上の該モノクローナル抗体またはその一部で標識される、組成物。
(項目2)
前記T細胞が、抗CD3 mAbおよび抗CD28 mAbで標識される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記mAbに対して反応性の薬剤が、生分解性のミクロスフェアにコーティングされる、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記T細胞および結合した生分解性ミクロスフェアが、静脈内注入に適した培地中に懸濁される、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記T細胞および結合した生分解性ミクロスフェアが、10細胞/ml以上の細胞密度で懸濁される、項目4に記載の組成物。
(項目6)
前記T細胞および結合した生分解性ミクロスフェアが、10細胞/ml以上の細胞密度で、可撓性容器中に懸濁される、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記T細胞および結合した生分解性ミクロスフェアが、10細胞/ml以上の細胞密度で、シリンジ中に懸濁される、項目5に記載の組成物。
(項目8)
前記組成物が、凍結保存される、項目1に記載の組成物。
(項目9)
腫瘍が保有する宿主免疫系と接触する場合に、対宿主性移植片応答を誘発せずに、対腫瘍性宿主応答および対移植片性宿主応答を誘発する同種異系細胞物質。
(項目10)
前記同種異系細胞物質が、エキソビボで活性化されたT細胞を含む、項目9に記載の同種異系細胞物質。
(項目11)
前記活性化されたT細胞が、CD4+T細胞である、項目10に記載の同種異系細胞物質。
(項目12)
腫瘍を保有する宿主に投与される場合、腫瘍のアポトーシスを引き起こす同種異系細胞物質。
(項目13)
活性化されたT細胞を含む、項目12に記載の同種異系細胞物質。
(項目14)
前記活性化されたT細胞が、CD4+細胞である、項目13に記載の同種異系細胞物質。
(項目15)
前記CD4+細胞が、FasLおよび/またはTRAILを発現する、項目14に記載の同種異系細胞物質。
(項目16)
前記活性化されたT細胞が、CD45ROおよびCD62Lloを発現する記憶細胞に分化する、項目12に記載の同種異系細胞物質。
(項目17)
前記活性化されたCD4+細胞が、以下のサイトカイン:IL−2、IL−15、IFN−γ、TNF−αのうちの一種以上を発現する、項目12に記載の同種異系細胞物質。
(項目18)
前記活性化されたT細胞がFasLを発現する、項目12に記載の同種異系細胞物質。
(項目19)
前記活性化されたT細胞がTRAILを発現する、項目12に記載の同種異系細胞物質。
【0047】
(「ミラー効果」)
従来技術の同種細胞治療プロトコールにおいて、移植片中のT細胞が、治療の有用なGVT効果および有害なGVH効果を媒介する原因である。本発明の目的を達成するために、新規メカニズムが記載され、ここで移植片中のT細胞は免疫効果を直接媒介せず、その代わりに宿主免疫系を刺激して、内在する疾患に対する有効な免疫反応を媒介するよう作用する。
【0048】
本発明の方法によって誘発された宿主免疫反応は、従来技術の同種異系細胞治療プロトコールのGVT/GVH効果の「ミラー」である。同種異系細胞治療において通常観察されるGVT効果の「ミラー」は、宿主対腫瘍(HVT)効果である。同種異系細胞治療において通常観察されるGVH効果の「ミラー」は、宿主対移植片(HVG)効果である。HVT/HVG効果は、下で集合的に「ミラー効果」と呼ばれる。
【0049】
従来技術の同種異系細胞治療プロトコールの非常に毒性なGVH構成要素と違い、ミラー効果のHVG構成要素は、移植片細胞の非毒性な拒絶を引き起こすのみである。従って本発明において、ミラー効果のHVT抗腫瘍構成要素は、GVHの毒性なしに起こる。当該分野において、有効な抗腫瘍免疫反応はまた、ウイルスを含む様々な病原体に対して有効であり得ることが理解される。
【0050】
本発明において、移植片の拒絶(HVG)は、ミラー効果の望ましい構成要素である。従って、従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおいて必要であるような、移植片の拒絶を予防するために、免疫抑制的コンディショニングレジメによってレシピエント患者を治療することは必要でない。それに加えて、従来技術の同種異系細胞治療のGVH構成要素と違い、ミラー効果のHVG構成要素は、非毒性の免疫学的イベントである。従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおいて、GVH効果の毒性効果を抑制するために、HLAのマッチしたドナーを選択することが必要である。ミラー効果のHVG構成要素は非毒性であるので、本発明において効果を制限する手段としてHLAのマッチしたドナーを使用する必要はない。実際、本発明の実施において、宿主と完全なHLAの不一致を有する同種異系ドナーを使用することが好ましい。HLAの不一致が大きいほど、宿主免疫反応の刺激が強い。
【0051】
従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおいて、有用なGVT効果および有害なGVH効果は、密接にそして比例して関係している。これら従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおいてGVT効果の程度を制限するよう作用する少なくとも2つの力が存在するが、それはミラー効果の抗腫瘍HVT構成要素を制限するために存在しない。これらの因子は:(1)定着およびキメラ化を可能にする、ドナー細胞に対する宿主寛容性の発達;および(2)免疫抑制薬剤によるGVH予防。
【0052】
宿主寛容は、宿主免疫系が移植片細胞に対して反応しなくなり、そして移植片細胞が宿主細胞に対して反応しなくなる免疫メカニズムである。寛容のメカニズムは、GVT効果の望ましくない抑制を引き起こす、免疫抑制メカニズムと相関する。GVH病の程度を抑制するために、従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおいてはGVH予防が必要である。GVTおよびGVH間の比例関係のために、予防によるGVH構成要素の制限は、GVT構成要素を比例して制限する。
【0053】
ミラー効果において、HVTおよびHVG構成要素もまた密接におよび比例して関連している。HVT構成要素は、GVT効果より強力な抗腫瘍効果を提供する。これは、HVG効果は、拒絶反応の程度を制限するために免疫抑制治療を必要としないからである。この方法において、GVH効果と違い、HVG効果はその自然な結果(完全な拒絶)に至ることを許され得る。HVG効果の抗腫瘍HVT効果との比例的性質は、拒絶反応と同時に、および比例して起こるより強力な抗腫瘍構成要素を生ずる。従って、完全にミスマッチの同種異系細胞を使用することによって、拒絶反応が制限ではなくむしろ増強されることが好ましい。GVT効果と違い、HVT効果は寛容誘発の制限環境で起こるのではないため、増強されたHVT抗腫瘍効果も起こる。本発明において、免疫抑制的寛容効果よりも、強力なTh1による同種異系拒絶反応が媒介される。このTh1同種異系拒絶反応は、HVT効果を維持および増幅するのを助ける、傍観者効果を有する。
【0054】
よって、本発明の同種異系細胞治療は、従来技術の方法に対して、悪性腫瘍の治療のために有意な利点を提供する:(1)GVT効果と比較して増強された抗腫瘍効果(HVT);(2)致死的な毒性なしに潜在的に治癒力のある抗腫瘍効果;(3)マッチしたドナーの必要性の排除;(4)治療前の免疫抑制コンディショニングの必要性の排除;および(5)以前の同種異系BMT(DLIプロトコールにおいて必要であるような)の必要性の排除。
【0055】
(エキソビボ操作の必要条件)
同種異系細胞集団がミラー効果を誘発するために、その集団はT細胞を含まなければならない。有効であるために、同種異系T細胞を、活性化を引き起こす方法で、エキソビボで操作しなければならない。T細胞は特定の抗原で活性化される必要はないが、好ましくはポリクローナルに活性化される。好ましくは、活性化T細胞は少なくとも4世代増殖し、そして分化してエフェクター機能を得る。エフェクター機能を発現するT細胞は、IL−2、IFN−ガンマ、およびTNF−アルファを含む1型サイトカインを産生し、CD25およびHLA−DRのような活性化マーカーを発現し、そしてTRAIL、LIGHT、CD40L、およびFasLのようなTNFスーパーファミリー分子のようなエフェクター分子を発現する。別の好ましい実施態様において、エキソビボで活性化された同種異系T細胞は、さらにCD45ROおよびCD62Lloを発現する記憶細胞へ分化する。
【0056】
T細胞は一般的に、活性化されるために2つのシグナルを必要とする。活性化に必要な最初のシグナルは、CD3複合体と会合し、そして抗原提示細胞(APC)の表面の主要組織適合性複合体(MHC)クラスI(CD8+T細胞)およびクラスII(CD4+T細胞)タンパク質によって提示されたペプチドに結合する、マルチサブユニット免疫認識受容体であるT細胞抗原受容体(TCR)の刺激によって起こる。最初のシグナルを、固定化抗CD3mAbによって与え得る。2番目のシグナルは、典型的には補助刺激分子によって伝達される。主な補助刺激シグナルは、活性化抗原提示細胞(APC)上のB7ファミリーリガンドCD80またはCD86のメンバーが、T細胞上のCD28に結合する時に起こる。2番目のシグナルを、可溶性または固定化抗CD28mAbによって与え得る。本明細書中における目的のために、1mlあたり10細胞より少ない細胞密度で、そして抗CD3および抗CD28で活性化されたT細胞を「標準条件」と呼ぶ。
【0057】
本発明において、T細胞は、注入前に「増強された活性化」の状態に入り、そして維持するべきである。本発明の目的のために、「増強された活性化」は、増強された増殖特徴(すなわち、標準条件下で活性化された集団よりも高い増殖)を引き起こし、そして最終的に分化して、標準条件下で活性化されたT細胞と比較した場合に、増強されたサイトカイン産生および増強されたエフェクター分子の発現を含む、増強されたエフェクター機能を発揮する方法で活性化されたT細胞を意味する。
【0058】
好ましい実施態様において、増強された活性化特徴を有する同種異系T細胞の集団を、以下のものを含む処理によって産生する:(1)白血球除去血輸血による単核細胞の採取;(2)単核細胞からのCD4+細胞の精製;(3)CD4細胞の架橋抗CD3および抗CD28mAbとの接触;(4)少なくとも6日間、CD4細胞上の架橋CD3/CD28mAbとの連続的な接触の維持;(5)同じ最低6日間以上増強された細胞対細胞の接触の維持;および(6)架橋CD3/CD28mAbとの連続的な接触を維持しながら、増殖およびサイトカイン産生のピークにおけるCD4細胞の処方および次いで注入。
【0059】
従来技術の同種異系細胞治療は、一般的に未操作の同種異系細胞の、化学療法および/または照射コンディショニングレジメによって免疫系が抑制された宿主への注入を含む。これらの従来技術の手順は、同種異系細胞の定着を引き起こし、それが今度はGVT/GVH効果を媒介する。この環境における移植細胞のエキソビボ操作は、GVT効果を増加させ得るが、毒性のGVH効果の悪化も引き起こす。未操作同種異系細胞の、自然免疫系を有する宿主への注入は、いかなる抗腫瘍効果もなしに、単に同種異系細胞の拒絶を引き起こすのみである(HVG)。従って、同種異系移植細胞の操作は、ミラー効果を誘発するために必要な実施態様である。
【0060】
本発明は、有効、適切および標的化適応免疫反応の開始における自然免疫系の重要な役割、および自然免疫および適応免疫の橋渡しにおいて有する1型サイトカインの役割を含む、従来技術の同種異系細胞治療プロトコールにおけるGVT効果の公知のメカニズムを利用するよう設計される。本発明の方法は、(移植片中よりも)宿主中におけるGVT効果を媒介する公知のメカニズムを反映するよう設計される。
【0061】
腫瘍を有する患者は、腫瘍に対して保護できなかった免疫反応を有する。これは、腫瘍に対する2型免疫反応の最初のインプリンティングおよび/または腫瘍免疫回避(immunoavoidance)メカニズムのためを含む、多くの理由により得る。従来技術の同種異系細胞治療プロトコールのGVT効果は、いくつかの環境においてこれらの制限を克服し得る。これらの制限を克服するための解答は、コンディショニングレジメにより起こる腫瘍抗原の新規分断の状況における、炎症性1型サイトカインストーム(下記でより詳細に記載する)の刺激、および移植片における自然免疫の構成要素の活性化および続く腫瘍に対する新規の移植片による1型適応免疫反応のインプリンティングである。
【0062】
本発明は、移植片よりも宿主において、これらのメカニズムを誘発するよう設計される。よって、本発明の同種異系細胞は、1型サイトカインストーム、腫瘍抗原の新規分断、腫瘍に対する宿主1型適応免疫反応を引き起こす宿主自然免疫の構成要素の活性化を誘発するよう設計される。
【0063】
自然免疫系の主な細胞構成要素は、マクロファージ、NK細胞、好中球、ガンマ−デルタT細胞、アルファ−ベータ中間T細胞およびNKT細胞から成る。腫瘍に対する宿主自然免疫反応の活性化は、腫瘍の死滅、腫瘍関連抗原(TAA)の流入領域リンパ節への分断、TAAのナイーブT細胞への増強された提示を引き起こし、そして続く1型適応免疫反応の広がりに指示的な役割も果たす。
【0064】
適応免疫反応の構成要素は、協力して腫瘍を特異的に除去する。適応免疫反応は、その腫瘍に対する特異性および自己および非自己間を区別する能力によって特徴付けられる。適応抗腫瘍免疫反応の主な細胞構成要素は、CD4+T細胞およびCD8+T細胞から成る。活性化樹状細胞、プラズマ細胞様の樹状細胞、およびマクロファージのような抗原提示細胞(APC)は、TAAを適応免疫系の構成要素に提示することによって、自然免疫部分および適応免疫部分間の橋渡しをするよう作用する。
【0065】
ミラー効果の利点を全て誘発するために、同種異系細胞注入を、細胞が注入時に免疫学的メカニズムのカスケードを誘発し得るように、エキソビボで操作しなければならない。同種異系細胞が誘発すべき最初のメカニズムは、モノカインおよびリンホカイン両方から成る、1型サイトカインストームである。このサイトカインストームの存在下で、以下のメカニズムも誘発される:(1)樹状細胞の活性化;(2)TAAの分断;および(3)1型適応免疫反応の発達。
【0066】
(1型サイトカインストーム)
2つのヘルパー(CD4)T細胞のサブセット、Th1およびTh2が定義され、それらは別々の、そして相互に排他的なサイトカイン産生のパターンによって特徴付けられる。Th1細胞はIL−2、IFN−ガンマおよびTNF−アルファを産生し、そして炎症性の、細胞による免疫反応の誘発の原因であり、それは腫瘍、細胞内細菌、およびウイルス感染に対して保護性である。Th2細胞は、IL−4およびIL−10を産生し、そして体液性免疫反応を増強し、それは一般的に特定の細胞外細菌および寄生虫感染に対して有効である。
【0067】
CD8T細胞、NKT細胞、NK細胞および樹状細胞を含む、他の型の免疫細胞が、区別できるサイトカイン極性を示すことも発見された。従って、典型的な免疫反応は、エフェクター細胞およびサイトカインの複雑な混合物を有する。サイトカインは、あらゆる免疫反応の重要な構成要素であり、そして腫瘍または病原体に対する反応におけるサイトカインのバランスが、通常生成される免疫反応の型を決定する。生成される免疫反応の型が、腫瘍または病原体が、根絶されるか、または存続を許されるかを決定する。
【0068】
免疫反応の分類を助けるために、支配的なサイトカインプロファイルに依存して、「1型」または「2型」としてそれらを特徴付け得る。1型反応は、炎症性サイトカインによって支配され、そして2型反応は、細胞性免疫を抑制するサイトカインによって支配される。サイトカインは、1型または2型免疫反応に特徴的であるとして分類されてきた。サイトカインはその細胞性免疫を維持し、そして体液性免疫を抑制する(1型)、または体液性免疫を維持し、そして細胞性免疫を抑制する(2型)能力に対応して、1型または2型として機能的に定義される。1型サイトカインは、IL−2、IL−12、IL−15、IFN−ガンマ、IFN−アルファ、およびIFN−ベータを含む。2型サイトカインは、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13、およびTGF−ベータを含む(BelardelliおよびFerrantini 2002)。腫瘍の場合、1型免疫反応が、保護的免疫のために決定的である(Nishimura、Nakuiら 2000)。
【0069】
従来技術のGVTおよびGVH効果の共通メカニズムは、1型サイトカインの「サイトカインストーム」である(Fowler、Breglioら 1996;Das、Imotoら 2001);(Carayol、Bourhisら 1997;Tanaka、Imamuraら 1997;Blazar、Taylorら 1998;Flanagan、Jenningsら 1999;FowlerおよびGress 2000)。1型サイトカインストームは、ドナーリンパ球集団における自然免疫反応および適応免疫反応両方の構成要素を活性化する(AntinおよびFerrara 1992;Blazar、Korngoldら 1997;Tanaka、Imamuraら 1997)。本発明において、同種異系細胞の注入を、同じ1型サイトカインストームを誘発するよう設計する。しかし、サイトカインストームが、ドナーリンパ球集団よりも、宿主リンパ球集団の自然免疫反応および適応免疫反応の構成要素を活性化するよう本発明を設計する。宿主の構成要素のみが活性化されることを保証するために、宿主が免疫応答性であり、そして注入される同種異系細胞集団が自然免疫細胞を欠き、そしてT細胞が濃縮されている、好ましくはCD4+T細胞が濃縮されていることが好ましい。
【0070】
好ましい実施態様において、注入される同種異系T細胞は、IL−2、IL−15、TNF−アルファ、TNF−ベータ、およびIFN−ガンマを含む大量の1型サイトカインを産生し、そしてIL−4、IL−10、またはTGF−ベータは産生しない。注入された細胞は、注入時および患者の血液を循環中に、1つまたはそれ以上の1型サイトカインを産生する。同種異系T細胞が注入時および循環中に1型サイトカインを産生することを保証するために、T細胞は注入時に活性化しており、そして循環中に活性化状態を維持するべきである。
【0071】
T細胞が活性化していることを保証するために、活性化シグナルを伝達する薬剤と共にそれらを処方するべきである。例えば、T細胞を最初に、マウス抗ヒトCD3およびマウス抗ヒトCD28mAbのような活性化薬剤と接触させ得る。T細胞の表面上のmAbを次いで架橋して、T細胞に活性化シグナルを伝達し得る。好ましい実施態様において、架橋を、処方媒体中にコートされた生物分解性マイクロスフィアまたはナノスフィアを含むことによって達成する。生物分解性スフィアを、T細胞上の活性化薬剤と反応し、それらを架橋させ、そして活性化シグナルを伝達する薬剤でコートする。マウスmAbと使用するために適当なコーティング薬剤は、ポリクローナル抗マウス抗体またはモノクローナル抗FcmAbを含む。
【0072】
本発明の方法は、充分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主に導入して、宿主単核細胞を刺激して1型サイトカイン、特にIL−1、IL−12、IL−15、IL−18、TNF−アルファ、GM−CSF、IFN−アルファ、およびIFN−ガンマを産生させ、そしてIL−4、IL−10、IL−13、およびTGF−ベータの宿主細胞からの有意な産生を誘発しないことを含む。
【0073】
1型サイトカインストームの産生は、抗腫瘍免疫において、最初の自然免疫活性化および続く適応免疫反応の間の連結において重要であることが公知である(BelardelliおよびFerrantini 2002;KadowakiおよびLiu 2002;LeBonおよびTough 2002)。
【0074】
(樹状細胞の活性化)
自然免疫と適応免疫をつなぐ重要な細胞型は、樹状細胞(DC)である。従って、同種異系ミラー効果の完全な有効性を誘発するために、同種異系細胞注入が宿主DC細胞を活性化することが重要である。本発明の方法は、宿主DCの活性化および成熟を刺激するために、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主に導入することを含む。
【0075】
活性化後、DCは成熟過程を経て、そこでそれらは自然免疫および次いで適応免疫反応の開始および調節に決定的な、サイトカインおよび細胞表面分子を発現する(Langenkamp、Messiら 2000;Granucci、Vizzardelliら 2001)。特に、TNF−アルファ、マクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)、IL−12、およびSLAMのような炎症性1型サイトカインが、活性化後に強力にアップレギュレートされる。IL−12は、活性化後に単球由来のDCによって産生される。活性化されたIL−12産生DCは、次いで1型免疫反応を刺激し得る(Langenkamp、Messiら 2000)。
【0076】
本発明の処理によって調製された同種異系T細胞は、細胞表面にCD40L(CD154)を発現する。これらのCD40L発現T細胞は、宿主DCを活性化する。CD40のDCへの連結は、補助刺激/アクセサリー分子(MHCクラスII、CD58、CD80/CD86)の発現をアップレギュレートし、それはDCによる抗原提示を増強する。この相互作用は、今度はそのIL−2受容体発現をアップレギュレートすることによって、CD40L+ヘルパー(CD4)および細胞毒性(CD8)T細胞を「刺激」することが公知であり、そしてクラスIIおよびクラスI両方に依存性の腫瘍反応性T細胞プールの拡大を引き起こすことも公知である。
【0077】
(腫瘍関連抗原(TAA)の分断)
流入領域リンパ節へのTAAの分断、およびこれら抗原の活性化DCによる提示が、適応免疫反応を刺激する。TAAの分断は、免疫エフェクター細胞による腫瘍細胞の死滅によって起こる。本発明において、TAAの分断を引き起こす腫瘍の死滅は、直接的および間接的両方のメカニズムによって媒介される。腫瘍死滅の直接的メカニズムは、腫瘍細胞の、FasLおよびTRAILのような注入同種異系細胞および/または活性化宿主T細胞の表面分子との相互作用によって媒介され、それは腫瘍細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)を刺激する。間接的メカニズムは、NK細胞および食細胞マクロファージのような、宿主自然免疫エフェクター細胞の活性化を含む。
【0078】
本発明の方法は、NK細胞のような自然免疫系の要素による腫瘍溶解を刺激するために、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主へ導入することを含む。本発明のさらなる方法は、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主に導入することを含み、それがFasLおよびTRAILのようなTNFRエフェクター分子の発現によって腫瘍のアポトーシスを媒介する。本発明のさらなる方法は、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主に導入することを含み、それは宿主T細胞の活性化を引き起こし、ここでそのような活性化された宿主T細胞は、FasLおよび/またはTRAILのようなTNFRリガンドを発現し、そして腫瘍細胞のアポトーシスを媒介する。
【0079】
新規のTAAの分断は、腫瘍の増殖を許すもの(2型)から腫瘍を死滅させそしてそれに対して保護するもの(1型)への、適応免疫反応のリプログラミングを可能にするので、GVT効果の重要な構成要素である。移植片中のNK細胞が、新規TAA分断を媒介し得るGVT反応における主要なエフェクター細胞を構成する(Voutsadakis 2003)。
【0080】
同様に、宿主NK細胞の活性化は、ミラー効果のHVT構成要素の重要な部分である。本発明の活性化同種異系T細胞に対する宿主の反応により起こる1型サイトカインストームは、宿主NK細胞を活性化し、そしてその細胞毒性能力を強力にアップレギュレートし得る。
【0081】
活性化宿主NK細胞は、正常細胞を残しながら、広く多様な腫瘍細胞を自然に死滅させる能力を有する(Smyth、Hayakawaら 2002)。重要なことに、NK細胞は、最初に抗原提示細胞による教育を必要とするT細胞と比較して、免疫または前活性化の必要がなく、潜在的な標的細胞を認識する。さらに、NK細胞は、主な腫瘍の免疫回避メカニズムであるMHC I分子のダウンレギュレーションによってT細胞死滅を回避し得る腫瘍を認識し得る。
【0082】
従って、本発明の方法は、宿主NK細胞の活性化および細胞毒性活性のアップレギュレーションによって、TAAの分断を引き起こす。本発明の方法によってTAAの分断を誘発する別のメカニズムは、腫瘍においてアポトーシスを誘発することである。腫瘍においてアポトーシスを誘発する1つのメカニズムは、Fas(CD95)と呼ばれる細胞死受容体を介したシグナル伝達による。FasのそのFasリガンド(FasL/CD154)との結合は、プログラム細胞死(アポトーシス)を誘発する。別のメカニズムは、その対の受容体TRAIL−RによるTRAILリガンドを介したシグナル伝達による。本発明の方法によって産生された同種異系T細胞は、高レベルのFasLおよびTRAILを発現する。しかし、多くの腫瘍は、腫瘍進行の過程でFasの発現を失い、そして多くの腫瘍はまたアポトーシスに対する防御としてFasLを発現する。結腸、肺、乳房、皮膚、腎臓および脳腫瘍を代表する腫瘍細胞系統の約80%が、TRAIL誘発アポトーシスに対して感受性である。
【0083】
本発明の方法によって誘発される1型サイトカインストームは、腫瘍細胞におけるFasの発現をアップレギュレートし、それらを注入同種異系T細胞によるFasLが媒介するアポトーシスに感受性にし、そしてFasL発現腫瘍細胞におけるFasのアップレギュレーションによって引き起こされる、他の腫瘍細胞に対する同胞殺し型反応(fratricide type response)に感受性にする。それに加えて、同じサイトカインストームが、宿主T細胞を活性化してFasLを発現させ、それは次いで腫瘍細胞のアポトーシスを媒介し得る。同じ1型サイトカインストームがまた、腫瘍細胞におけるMHC I、MHC II、および補助刺激分子CD80およびCD86をアップレギュレートし、腫瘍を続く適応免疫反応においてCTLが媒介する死滅に感受性にする。
【0084】
(1型適応免疫反応)
本発明の方法は、宿主DCの活性化および1型サイトカインストームの状況におけるTAAの新規分断を誘発する。これらは、腫瘍に対する宿主の1型適応免疫反応の新規発達に必要な条件である。
【0085】
本発明の方法は、宿主腫瘍に対して向けられた宿主1型適応免疫反応を刺激するために、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を、宿主に導入することを含む。このメカニズムは、腫瘍ワクチンに類似しており、ここで抗原はインサイチュの腫瘍死滅によって分断され、そして1型サイトカインストームが続く適応免疫反応の発達のアジュバントとして作用する。宿主におけるTAAの分断および本発明のワクチン効果を、不活性化同種異系または自己腫瘍、特異的TAAペプチド、TAAをコードするDNAまたはTAAを発現するよう遺伝的に操作した細胞のような、TAAを含む薬剤の混注によって増強し得る。
【0086】
ある癌患者は、腫瘍に対する1型適応免疫反応を生じ、それは保護に失敗する。これは、ある進行腫瘍の単核細胞浸潤物におけるTh1細胞の検出によって知られる。従って、1型適応免疫反応の発生のみでは、治療効果を有するために不十分であり得る。1型適応免疫反応が保護に失敗する1つの理由は、強力な腫瘍による免疫回避メカニズムのためである。
【0087】
腫瘍の免疫回避の1つの方法は、腫瘍由来の抑制的サイトカイン産生による。悪性腫瘍によるTGF−ベータ1産生は、腫瘍の進行に不可欠であり、そして腫瘍によって分泌される最も重要な免疫抑制サイトカインの1つである。別の免疫抑制的腫瘍由来サイトカインはIL−10である。TGF−ベータ1およびIL−10は、様々な腫瘍型由来の組織標本において検出されている。TGF−ベータ1およびIL−10は、細胞性免疫機能の強力な阻害剤であり、それは腫瘍が免疫監視およびCTLによる破壊から逃れることを可能にする。
【0088】
本発明の方法によって産生される1型サイトカインストームは、腫瘍細胞のTGF−ベータ1およびIL−10産生のダウンレギュレーションを引き起こす。従って、本発明のさらなる方法は、腫瘍のTGF−ベータ1およびIL−10のような免疫抑制サイトカインの産生をダウンレギュレートするために、十分な量の活性化同種異系T細胞、好ましくはCD4+T細胞を宿主に導入することを含む。
【0089】
他に規定されなければ、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で記載されたものと同様なまたは等価な方法および材料を、本発明の実施または試験において使用し得るが、適当な方法および材料を下記で記載する。本明細書中で言及された全ての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参考として援用される。対立する場合、定義を含む特許明細書が統制する。それに加えて、材料、方法および実施例は実例となるだけであり、そして制限することを意図しない。本発明の他の特徴および利点が、以下の詳細な説明より明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0090】
(特定の実施態様の説明)
本発明のミラー効果メカニズムを刺激するために、増強された性質を有する同種異系細胞を産生する好ましい方法は、以下のものを含む:(1)正常なスクリーニングされたドナーから、白血球除去血輸血によって単核細胞原材料を採取する;(2)原材料からCD4T細胞を単離する;(3)CD4+細胞を抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体(mAb)で標識する;(4)標識したCD4+細胞を、CD4+細胞上のmAbを架橋し得る薬剤でコートした生物分解性マイクロスフィアまたはナノスフィアと混合する;(5)遠心分離によって生物分解性スフィアおよび標識CD4+細胞を濃縮する;(6)混合物を、10細胞/mlを超える細胞密度で、外来性のサイトカインなしに、血清を含まない培地で培養する;(7)インキュベーター中で2日間妨害せずに細胞を培養する;(8)さらなる標識薬剤およびコートした生物分解性スフィアを加える;(9)新しい培養混合物を遠心分離し、続いて細胞を含まない培養液体積の50−90%を除去する;(10)透析フィルターを通して細胞を含まない馴化培養液の90%を透過させる;(11)残る10%の馴化培養液を新しい培養液でもとの体積に戻し、そしてこの補充した馴化培養液を細胞混合物に戻し加える;(12)工程8から11を少なくとも毎日、少なくとも6日間の全体培養期間で繰り返す。
【0091】
(工程1)
本明細書中で提供される好ましい方法の実施において、単核細胞の開始集団(原材料)を、ドナーから、好ましくは白血球除去血輸血手順によって採取する。原材料を提供するためにリクルートされたドナーは、健康であり、そして外来性の病原体からフリーでなければならない。ドナーは、好ましくは意図されるレシピエントに対して完全にミスマッチのHLAを有する。望ましくはないが、部分的にHLAのマッチしたドナー(意図されるレシピエントの同胞のような)からの原材料も、本発明の方法において使用し得る。部分的にマッチした原材料は、レシピエントの免疫系が非常に弱体化しており、ミスマッチドナーの細胞の注入がGVH病反応を引き起こし得る場合にのみ使用する必要がある。免疫系が弱体化した個人の場合でさえ、依然としてミスマッチ細胞を使用することが好ましい。これらの患者においてGVH病の危険性を最小限にするために、ミスマッチドナー細胞の投与量を抑制し得るか、またはミスマッチ細胞を注入の直前に照射し得る。
【0092】
一般的に、ドナーを注意深くスクリーニングするべきであり、そしてドナーが輸血のために血液を提供する資格を得るような、外来性病原体に関する試験を行う。外来性病原体に関するそのような試験の例は、最低でも、抗HIV−1、抗HIV−2、抗HCV(C型肝炎)、抗HTLV−1、および抗HTLV−2抗体、HbsAg(B型肝炎表面抗原)、および梅毒(RPR)に関するスクリーニングを含むべきである。関連する実施態様において、CMV、および/またはマラリアおよび/またはG型肝炎に関してさらにスクリーニングすることも好ましい。外来性病原体に関して試験が陽性である、いかなるドナー由来の血液も、原材料として使用すべきでない。
【0093】
ドナーは、一般的に、許容される場合、8−12リットルの白血球除去血輸血の手順を受ける。ドナーは、移動性を有する必要はない。原材料を、後の日に処理するために、採取後低温保存し得るが、好ましくはすぐにまたは採取から24時間以内に材料を処理する。採取された白血球除去血輸血原材料を、最初に洗浄して血漿タンパク質、抗凝固剤を除去し、そして血小板の数を減らすことによって処理すべきである。適当な洗浄媒体は、1−5%のヒト血清アルブミン(HSA)を添加したPBS(カルシウムまたはマグネシウムなしで)を含む。洗浄工程を、細胞を遠心分離し、そして上清液を除去することによって行い得、それを次いでPBSで置換する。その処理は、半自動化「貫流(flow through)」遠心分離(COBE 2991 System、BaxterまたはCytoMate、Baxter)を用いて最も良く達成し得る。細胞を、処理する際に閉鎖系で維持する。洗浄を、必要な場合に3回まで反復し得る。洗浄の後、WBCの回収は、85%より多く、そして血小板の回収は40%より少なくあるべきである。
【0094】
(工程2)
洗浄した原材料を、次に処理して純粋なCD4+細胞の集団をポジティブ選択する。ポジティブ選択は公知の最終産物を生じ、そしてより少ない試薬を必要とするので、ポジティブ選択がネガティブ選択技術より好ましい。ポジティブ選択の好ましい方法は、Dynal(Norway)またはMiltenyi(Germany)から入手可能な免疫磁気技術の使用である。原材料からCD4+細胞をポジティブ選択する1つの好ましい方法は、磁気微粒子およびMiltenyi(Germany)によって製造されたCliniMACS細胞分離装置の使用である。細胞を最初に抗CD4−ビオチンでコートしたモノクローナル抗体で標識し、そして次いで抗ビオチン磁気粒子(Miltenyiによって供給され、そして製造会社の指示に従って使用する)でタグ化する。標識細胞の溶液を、次いでCD4細胞の保持のために磁気フィルターを通す。
【0095】
閉鎖、滅菌操作を維持するために、CD4ポジティブ選択の調製における細胞の標識を、CytoMate Cell Washerシステム(Baxter)によって行い得る。この処理を、CytoMate装置上で、閉鎖滅菌使い捨てキット中で行う。ついでCliniMACS Cell Separatorが、閉鎖滅菌使い捨てキットおよびプログラムおよび試薬の組み合わせを使用して、マイクロビーズでタグ化された細胞に対して免疫磁気ポジティブ選択を行うことによって、CD4+細胞の濃縮集団を得る。CliniMACSは、最大で6×1010の全WBC、および5×10の標識(CD4+)細胞を処理し得る。白血球除去血輸血プロトコールは通常、約1010の単核細胞の採取を引き起こし、それから約10の精製CD4細胞が通常採取される。
【0096】
この手順の間可能ならどこでも、Sterile Connecting Device(Terumo)を使用してバッグ間の滅菌接続を行い、そして滅菌閉鎖系を維持する。SCDの使用が不可能な場合、Laminar Flow Biosafety Cabinetにおいて厳格な無菌条件下で接続を行う。
【0097】
CD4+細胞のポジティブ選択において、混入CD8+細胞は本発明の処理における次の工程においてCD4+細胞より早く増加し得るので、原材料からCD8+細胞を除去することが最も重要である。CD4+細胞ポジティブ選択の後のマクロファージの混入は普通である。これは、いくつかのマクロファージ集団はCD4分子を発現するという事実のためであり得る。しかし、マクロファージは処理の次の工程において消え、そして通常重大な問題ではない。同様に、B細胞も続く処理工程を生き延びない。まれな例において、マクロファージの混入がCD4+細胞の溶解またはCD4+細胞増殖の阻害を引き起こす。これらの場合において、CD4+細胞選択前のマクロファージ抑制工程を示し得る。マクロファージ抑制を、プラスチック上でのプレインキュベーション、ナイロンウールカラムの通過または磁気ビーズの摂取および続く磁場における除去によるものを含む、当該分野で認識される様々な方法によって達成し得る。
【0098】
精製CD4細胞は、ほとんどCD4+、CD45RA+、CD62LHiの表現型を有するナイーブ細胞である。CD4+、CD45RO+、CD62Lloの表現型を有する記憶細胞の40%までの混入は、処理に影響を与えない。しかし、もし処理におけるこの工程において記憶細胞が40%を超えると、これは通常ドナーが正常でなく、そして従ってそのバッチは拒絶すべきであり、そして注入のための細胞を発達させるために使用すべきでないことを示す。精製CD4細胞を、24時間まで室温で保存し得る。
【0099】
(工程3)
処理の次の工程は、精製CD4+細胞のエキソビボ培養である。CD4細胞を、少なくとも6日間、持続性および一定の活性化刺激にさらすことが好ましい。細胞を活性化するために、好ましくは最初に抗CD3および抗CD28mAbのような活性化薬剤で標識し、そして活性化薬剤を次いで架橋して活性化シグナルをCD4細胞に伝達する。細胞を標識するために、細胞を最初に、血清を含まない培養液中で1mlあたり10細胞の細胞密度に調整する。正常なバッチは、10mlの培養液中約10のCD4細胞を含む。mAbをそれぞれ、少なくとも1mlあたり1マイクログラム、好ましくは1mlあたり10マイクログラムの最終濃度で細胞に加える。細胞を室温または好ましくは4℃で、15分から30分間回転するか、または端と端を接した混合装置で、mAbと共にインキュベートするべきである。細胞を次いで洗浄して、過剰なmAbを除去し、そして血清を含まない培養液に1mlあたり10細胞で再懸濁するべきである。
【0100】
(工程4)
好ましい架橋方法は、標識細胞を活性化薬剤と反応性の薬剤でコートした生物分解性ナノスフィアまたはマイクロスフィアと混合することである。例えば、生物分解性スフィアを、抗CD3および抗CD28mAbのFc領域に特異的なmAbでコートし得るか、または活性化薬剤がマウス由来である場合には、コートする薬剤はポリクローナル抗マウス抗体であり得る。標識細胞を、少なくとも1:1、好ましくは最低3:1、および最も好ましくは最低5:1のスフィア対細胞比で、コートされた生物分解性マイクロスフィアと混合する。スフィア/細胞混合物を、室温で、または好ましくは4℃で、15から30分間、好ましくは標識細胞とよく混合する。
【0101】
ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、PLAおよびPGAのコポリマー(PLGA)、またはポリ(カルプロラクトン(carprolactone))(PCL)のような脂肪族ポリエステル、およびポリ無水物が、ナノスフィア/マイクロスフィアの生物分解性ポリマーとして使用するために好ましい材料である。生物分解性の組成物を、7日以内に、より好ましくは3日以内に生理学的な媒体中で分解するよう設計するべきである。
【0102】
本発明の好ましい実施態様において、生物分解性のスフィアを、乳酸およびグリコール酸の混合物を含む直線状ポリエステルポリマーから構築する。この種類のポリマーは、ヒト生物学的薬剤調製において使用するために、生体適合性および無害な最終産物への生物分解の必要条件を満たす。以下でPLGAと呼ぶこれらのポリマーは、エステル加水分解によって乳酸およびグリコール酸へ分解し、それらは体内で二酸化炭素および水に代謝される。PLGAは、すぐれた生体適合性を有することが示されている。PLGAの無害の性質は、これらのポリマーに基づくいくつかの非経口徐放性製剤の、米国食品医薬品局を含む、規制当局による認可によって例示され得る。
【0103】
L−乳酸が主な構成要素である場合の半晶質と反対に、DL−乳酸が主な構成要素である場合には不定形であるので、DL−乳酸およびグリコライドのコポリマーが、L−乳酸およびグリコライドよりも好ましい。この性質は、ポリマーの分解時間を減少させる。ポリマーの固有粘性(「I.V.」と省略される;単位はデシリットル/グラム)が、その分子量の基準である。好ましくは、ポリマーの固有粘性は、約0.10dL/gから約1.0dL/g(クロロホルム中で測定した場合)、より好ましくは約0.10dL/gから約0.5dL/g、そして最も好ましくは0.10から0.30dL/gである。
【0104】
適当な生物分解性ポリマー材料は、ポリ(DL−ラクチド コ−グリコライド)の50/50の混合物である。ポリマーを、Birmingham Polymers,Inc(Birmingham、AL)のような市販の供給業者から、Lactel(登録商標)の商品名で購入し得る。0.15から0.25dl/gの固有粘性を有する50/50DL−PLG製品番号50DG020が、本発明において使用するために好ましい材料である。別の好ましい材料は、Resomer(登録商標)RG503の商品名でBoehringer Ingelheim(Ingelheim、Germany)によって製造される、0.32から0.44dl/gの固有粘性を有する50/50DL−PLGである。別の好ましい材料は、0.26から0.54の固有粘性を有する、Lactel(登録商標)50/50DL−PLG製品番号50D040(Birmingham Polymers)である。
【0105】
マイクロスフィアまたはナノスフィアを、溶媒の蒸発、相分離、スプレー乾燥、または低温での溶媒抽出を含む、様々な公知の方法によって調製し得る。選択される処理は、単純、再現性があり、そして大規模に実現可能であるべきである。できたマイクロスフィアは、均一な注射可能な懸濁液を産生するために、よどみなく流れ、そして凝固してはならない。マイクロスフィアはまた、滅菌でなければならない。これを、最終的な滅菌工程および/または無菌処理によって保証し得る。
【0106】
好ましい実施態様において、スフィアを産生するために溶媒蒸発法を利用する。この方法によってマイクロスフィアまたはナノスフィアを産生するために、疎水性の50/50DL−PLGポリマーを水と混合することのできない有機溶媒に溶解して、ポリマー溶液を与える。その溶液を次いで界面活性剤の水性溶液に加え、エマルションシステムを形成しそして攪拌する。攪拌スピードが速いほど、マイクロスフィアのサイズは小さくなる。続いて減圧下または加熱下であり得る連続的な攪拌によって、溶媒を蒸発させることによってマイクロスフィアを得る。
【0107】
水と混合することのできる有機溶媒は、体に対して無毒性である必要がある。有機溶媒の典型的な例は、酢酸、乳酸、蟻酸、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、およびN−メチルピロリドンおよびその混合物からなるグループから選択されるメンバーである。好ましくは、水と混合することのできる有機溶媒は、酢酸、乳酸、N−メチルピロリドン、またはその混合物からなるグループから選択されるメンバーである。水と混合することのできる有機溶媒を、単独で、または水との混合物において使用し得る。
【0108】
水相は、エマルション安定化剤を含み得、それは好ましくは水およびアルコールに可溶性であり、培養液中に溶解した場合に懸濁媒体(水と混合することのできるアルコール)の粘性を増加させ得、そして体に対して無毒性であり、そして環境問題を引き起こさない。エマルション安定化剤溶液の典型的な例は:ポリビニルピロリドン、ポリ(エチレングリコール)、およびポロキサマーのような水溶性合成ポリマー;ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体、および好ましくはポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルセルロースである。水と混合することのできるアルコール中のエマルション安定化剤の含有量は、好ましくは0.1から約50%(w/v)の範囲内であり、そしてより好ましくは0.2から約20%(w/v)の範囲内である。エマルション安定化剤の含有量は、必要な水と混合することのできるアルコールの粘性によって変わり得る。
【0109】
エマルション安定化剤が溶解している、水と混合することのできるアルコールを、10から約80℃の温度で、好ましくは20から約60℃、そして最も好ましくは室温で、200から約20,000rpmのスピードで、好ましくは800から2000rpmのスピードで攪拌する。ポリマー溶液を、エマルション安定化剤が溶解した水と混合することのできるアルコールにゆっくりと加え、そして混合物を5分から約60分攪拌する。攪拌を5時間まで続け、有機溶媒を蒸発させ得る。できたマイクロスフィアを次いで遠心分離によって回収し、そして徹底的に洗浄し得る。洗浄したマイクロスフィアは次いで、架橋材料との結合の準備ができている。
【0110】
調製したマイクロスフィアの直径は、好ましくは0.01から300μmの範囲内、そしてより好ましくは0.1から100μmの範囲内、そして最も好ましくは0.1および10μmの間であるべきである。粒子サイズ(マイクロスフィアの直径)を、処理中の攪拌スピード、水と混合することのできるアルコールの粘性、およびポリマー溶液の粘性を調節することによってコントロールし得る。
【0111】
生物分解性スフィアの、架橋材料による後コーティングを、様々な標準的な方法によって達成し得る。好ましい実施態様において、タンパク質である最初の材料を、標準的な公知の方法による吸着によって生物分解性マイクロスフィアに結合させ得る。タンパク質を生物分解性スフィアに吸着させる好ましい方法は、マイクロスフィアを0.1Mのホウ酸緩衝液pH8.5に懸濁し、2または3回マイクロスフィアを遠心沈殿し、そして再懸濁することである。架橋タンパク質、例えばヤギ抗マウスポリクローナル抗体を次いで10マイクログラム/mlの濃度でホウ酸緩衝液に懸濁し、そしてマイクロスフィアに1mlあたり2×10スフィアの密度で加える。混合物を少なくとも4時間、そして24時間まで端から端まで混合する。混合を、好ましくは4℃で行う。混合後、マイクロスフィアを回転させ、そして上清を除去し、そしてタンパク質決定のために分析する。コートされたマイクロスフィアを次いで1−5%のウシまたはヒト血清アルブミンおよび/または0.05%w/vのTween20のようなブロッキング薬剤を含むリン酸緩衝化生理食塩水のような生理学的緩衝液に再懸濁する。
【0112】
(工程5)
CD4細胞への活性化シグナルを増強するために、よく混合した標識細胞/スフィア混合物を、遠心機で500から800rpm、4℃で2から10分間遠心沈殿する。その力は、細胞を固く「ペレット」にするほど大きくなく、細胞を濃縮するのにちょうど十分な大きさであるべきである。遠心力が細胞およびスフィアを相互作用させ、架橋およびCD4細胞へのシグナル伝達を増加させ、増強された活性化を与える。細胞を、好ましくはガス透過性バッグの培養容器において回転させる。遠心後、柔軟なバッグ容器のマッサージおよび振動によって細胞を静かに再懸濁させ、そして37℃で5%二酸化炭素の環境のインキュベーター内に置く。
【0113】
(工程6)
CD4細胞を、エキソビボ培養処理中に、密接な細胞対細胞の接触を保つことも好ましい。密接な細胞対細胞の接触を、細胞を高い細胞密度で、好ましくは1mlあたり10細胞またはそれより高い密度で培養することによって達成し得る。細胞対細胞の接触および活性化シグナルの伝達を増強するために、細胞を頻繁な遠心分離にかけることも望ましい。
【0114】
コートされた生物分解性スフィアと混合した精製および標識CD4+細胞を、最初に1mlあたり10細胞の細胞密度で、そして1:1より多い、好ましくは3:1より多い、そして最も好ましくは5:1より多いスフィア対細胞比で、培養液に懸濁するべきである。X−VIVO15(Bio Whittaker)が、好ましい培養液である。細胞が培養容器に付着しがちであるなら、培養液に1%のヒト血清アルブミン(HSA)を添加し得る。好ましい培養容器は、LifeCell(Baxter Oncology、Dearfield、IL)のような、ガス透過性のプラスチックバッグである。
【0115】
(工程7)
培養の最初の2日間、細胞をインキュベーター中で妨害しないでおかなくてはならない。
【0116】
(工程8)
3日目に、さらなるマイクロスフィアおよびmAbを培養に加え、そして完全に混合する。100mlの培養に、抗CD3および抗CD28mAbをそれぞれ100マイクログラム、3−5×10のコートした生物分解性マイクロスフィアと共に加える。
【0117】
(工程9)
生物分解性スフィアを含む培養中で細胞を高密度に維持することは、培養液の頻繁な交換を必要とする。高い細胞密度は、高率の代謝廃棄物の蓄積および利用可能な栄養素の消費を引き起こす。それに加えて、生物分解性スフィアの加水分解が、培養液のpHを酸性にする。しかし、早すぎる培養液の交換は、外来性のサイトカインが利用されない培養に有害であり得る。外来性サイトカインはヒトに注入された場合に毒性であり得、そして培養細胞を生存のために外来性サイトカインの存在に依存性にし得るので、細胞治療プロトコールにおいて使用する細胞を処理する場合に、外来性サイトカインを使用しないことが好ましい。従って、本発明の方法は、細胞処理において透析工程を含む。
【0118】
50−90%の培養液を除去し、そして培養細胞の活性化状態を増強するために、細胞を含まない上清を除去するのに十分細胞を濃縮するためにmAbおよびスフィアの新しい混合物を、再び工程5におけるように遠心沈殿させる。培養のpHを7.0および7.2の間に保つために、この処理をもし必要なら1日に数回反復し得る。
【0119】
(工程10)
除去した培養液の、10,000ダルトンまたはそれより小さい孔サイズを有する膜を通した透析は、代謝廃棄物を通過させながら、内因性サイトカインの保持を可能にする。好ましい実施態様において、培養の50−90%の培養液を少なくとも毎日除去し、そして除去した培養液の90%が透析膜を通過する。
【0120】
(工程11)
透析膜を通過した培養液を廃棄し、一方10%の保持された培養液を、新しい培養液でもとの体積まで戻し、そして次いでT細胞/スフィア培養に戻し加える。保持された培養液は、培養液の除去前と同じ濃度で内因性サイトカインを含む。
【0121】
(工程12)
工程8から11を、少なくとも1日1回、最低3日間(培養において全部で6日)反復する。処理の典型的なバッチの流れにおいて、培養を100mlの培養液体積中約10の精製CD4細胞で始める(1日目)。記載した方法によって、細胞は6日目から8日目までに約1−5×10細胞に増殖する。この細胞数に達した時に、細胞をガス透過性バッグ中で1000mlの培養液中に再懸濁し得、そして工程8から11を、さらに3から6日まで少なくとも毎日反復する(培養の9日目から14日目)。この時間に、培養中の全細胞は約1−5×1010細胞に増殖する。
【0122】
(回収)
細胞を、培養の6日目以降いつでも、またはそのバッチ培養で少なくとも10細胞が入手可能である場合に回収し得る。最大限のサイトカイン産生を保証するために、回収のタイミングは、細胞を最後の工程8−11サイクルから24時間後に処方および注入するように起こるべきである。
【0123】
本発明の方法によって産生された細胞を、少なくとも10細胞、好ましくは少なくとも10細胞の複数の1回投与量へアリコートに分け得る。アリコートに分けた細胞の1回投与量を、注入前に保存のために凍結し得る。凍結した1回投与量形式の場合、高い細胞の生存能力を維持するために、準備細胞培養からの馴化培地を添加した凍結保護培地中で凍結させる。凍結した1回投与量を注入の24時間以内に解凍、活性化および処方する。
【0124】
(処方)
回収した細胞を、細胞が注入時および循環中に活性化されたままであることを保証するために、コートされた生物分解性マイクロスフィアで架橋された細胞表面に結合した活性化mAbと共に処方する。
【0125】
CD4細胞およびマイクロスフィアの混合物を、注入媒体(例えば通常生理食塩水のような等張溶液、5%のデキストロース、Plasma−Lyte(Baxter)、またはNormasol(Abbott))に懸濁する。いくつかの実施態様において、注入媒体に、0.5%−10%のヒト血清アルブミン(HSA)を添加する。
【0126】
混合物を、好ましくは注入媒体1mlあたり1×10から1×10細胞の間の最終T細胞濃度に調整する。好ましい実施態様において、10のT細胞を、100mlの注入媒体中に処方する。処方を次いでシリンジ、プラスチック袋、またはプラスチックボトルのような、1つまたはそれ以上の容器に包装する。
【0127】
(注入)
十分な数の処方CD4細胞を、疾患の症状を改善するために、レシピエントに投与する。典型的には、10から1010細胞の1回投与量を、好ましくは10細胞の1回投与量を単回の設定で注入する。注入を、単回の10細胞の投与量として、または好ましくはいくつかの10細胞の1回投与量に分割してのいずれかで投与する。注入の頻度は、3から30日ごと、またはもし望ましいまたは示されるならば、より長い間隔でさえもあり得る。注入の量は一般的に、患者当たり少なくとも1回の注入、および好ましくは許容されるなら少なくとも3回の注入、または疾患の症状が改善されるまでである。細胞を、50−250ml/hrの速度で静脈内に注入し得る。
【0128】
注入された細胞が、高レベルのFasLおよびCD40Lを発現することが重要である。IFN−ガンマに加えて、細胞はまた以下の1型サイトカインを産生するべきである:IL−2、IL−15、TNF−アルファおよびTNF−ベータ。細胞は、CTLA−4をその細胞表面に発現するべきでなく、そしてTGF−ベータ、IL−4またはIL−10を産生するべきでない。同種異系末梢血単核細胞との同時培養時に、細胞は1型サイトカインIL−1、IL−12、TNF−アルファおよびIFN−ガンマのアップレギュレーションおよび自己APCおよび標的細胞上のMHCおよび補助刺激分子のアップレギュレーションを引き起こすべきである。それに加えて、FasL、TRAIL、TWEAKおよび他のTNFRのようなエフェクター分子のアップレギュレーションが、本発明の方法によって産生された同種異系CD4細胞との混合後に、自己細胞において明らかであるべきである。
【0129】
(作用メカニズム)
本発明の方法によってできた細胞は、同時培養した場合に、自然免疫系の細胞を急激に活性化する。この活性化は、本発明の方法によって産生された細胞に発現するCD40Lおよび宿主自然免疫細胞に発現するCD40分子の相互作用によって起こる。宿主PBMCおよび本発明の方法によって産生された同種異系ドナー細胞の同時培養時に、マクロファージおよび樹状細胞は、補助刺激細胞表面分子およびMHCクラスIおよびII分子をアップレギュレートし、IFN−ガンマ、TNF−アルファ、IL−1、IL−12、およびI型インターフェロンのような炎症促進性のサイトカインを産生する。これは「サイトカインストーム」を産生し、これはBMTプロトコールにおいて同種異系ドナーリンパ球の注入によって産生されるサイトカインストーム環境とほとんど同じである。
【0130】
活性化宿主マクロファージおよび樹状細胞の、取り込み(食作用およびエンドサイトーシスによる)および続く腫瘍細胞および病原性生物の破壊能力と組み合わせて、これらの特徴は抗原反応性T細胞へのMHCクラスIおよびII経路によるこれら病原体および腫瘍の抗原性産物の増強された提示を可能にする。さらに、本発明の方法によって産生された細胞の表面表現型(CD45RO+、CD44+、CD62Llo)は、注入細胞が炎症部位へ通行すること、およびその1型サイトカインを微小環境へ伝達することを可能にする。これは、局所の2型サイトカイン産生を抑制し、MHCクラスIおよびIIの発現、補助刺激分子の発現をアップレギュレートし、そして殺腫瘍性のマクロファージを腫瘍床へリクルートし得る。
【0131】
本発明の方法によって産生された細胞上のFasLおよびTRAILの高い発現は、炎症部位または腫瘍床へリクルートされた自然免疫細胞のエフェクター活性と組み合わせて、アポトーシスおよび流入領域リンパ節への抗原分断を引き起こす。リンパ節には、最初のCD40L/CD40相互作用から活性化された樹状細胞が多くあるべきであり、そして1型免疫反応の発達に有利なサイトカイン環境において、適応免疫系の構成要素へ抗原を提示するよう刺激される。樹状細胞のCD40L/CD40活性化は、樹状細胞によるIL−12およびTNF−アルファの産生を引き起こし、それらのサイトカインは活性化されたナイーブT細胞を、Th1および1型適応免疫へと偏向させることが公知である。さらに、IL−12の産生は、さらにT細胞およびNK細胞からのIFN−ガンマの産生を誘発し、それが今度はマクロファージからのIL−12をさらにアップレギュレートしてオートクラインフィードバックループを作り、それはマクロファージの活性化、T細胞の1型免疫への成熟を促進し、そして自然NK活性を増幅する。
【実施例】
【0132】
以下の実施例を、説明目的のためのみに含み、そして本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0133】
(方法:)
(マイクロスフィア調製)
マイクロスフィアを調製するために、溶媒蒸発法を使用した。0.15から0.25dl/gの固有粘性を有する、Lactel(登録商標)(Birmingham Polymers、Birmingham、AL)50/50DL−PLG製品番号50DG020を、ポリマーとして使用した。DL−PLGの粉末を、20mlの塩化メチレンに、最終的にDL−PLGの5%w/v比まで溶解した。5%のDL−PLG溶液を次いで、125mlの0.1Mグリシン/HCl緩衝液pH1.1中2.4%のヒドロキシプロピルメチルセルロースに、室温で(25±2℃)1000rpmで絶えず攪拌しながら1滴ずつ加えた。有機溶媒の完全な蒸発まで(約3時間)攪拌を維持した。マイクロスフィアを、1000rpm、40℃で5分の遠心分離によって回収し、続いて蒸留水によって3サイクル洗浄し、ろ過および一晩乾燥させた。マイクロスフィアのサイズは、<10%の最大CVで、3.0から7.0μmの範囲であった。スフィアを次いで、吸着法を用いてポリクローナルヤギ抗マウス抗体でコートした。抗体を5%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む30mlのPBS溶液に、10μg/mlの濃度で懸濁した。この溶液を使用して、乾燥したマイクロスフィアを1mlあたり約2×10粒子の濃度で再懸濁した。マイクロスフィアおよびポリクローナル抗体を逆さにして、40℃で8時間混合した。マイクロスフィアを次いで、HSAを含むPBSで3回洗浄し、ろ過および乾燥した。乾燥した粒子を、使用の前に70%のイソプロパノールの溶液中で保存した。
【0134】
(同種異系細胞産物の調製)
下記の実施例に関して、同種異系細胞産物を、好ましい実施態様において記載された方法によって調製した。簡単には、1.2×1010の末梢血単核細胞(PBMC)を、白血球除去血輸血によって健康なドナーから採取した。PBMCを洗浄し、そして一晩室温で保存した。PBMCを、ビオチン化抗CD4mAbで標識し、そして2次抗ビオチンmAb磁気粒子(Miltenyi Biotec、Germany)と混合することによって、CD4+細胞に関して濃縮した。CD4+細胞を次いで、磁気化カラム(MACS(登録商標))を通過させることによって選択した。1.3×10のCD4+が選択され、そしてLifeflask(Baxter)ガス透過性バッグにおいて、100mlのXVIVO−15培養液中に置いた。CD4+細胞を5%CO2の雰囲気中で、37℃で一晩インキュベートした。次の日、非接着細胞を洗浄し、そして抗CD3および抗CD28mAbで標識して、そしてヤギ抗マウス抗体でコートした生物分解性マイクロスフィアと3:1の比で懸濁した。懸濁液を、1000rpmで5分間遠心分離し、そして培養バッグを手でマッサージすることによって静かに再懸濁した。懸濁液を72時間インキュベートし、そして細胞を再標識および新しいマイクロスフィアと懸濁した。懸濁液を1600rpmで8分間遠心分離し、上清を除去し、そして体積の90%を透析フィルターに通した。保持された上清を、細胞懸濁液に戻し加え、そして新しい培養液で体積を100mlに戻した。この処理を、培養9日目まで毎日反復した。10日目に、できた細胞を下記で記載する実施例に使用した。
【0135】
(実施例番号1:同種異系細胞産物の表現型分析)
同種異系細胞産物の試料を、表現型分析のために1日目および10日目に取った。細胞の免疫表現型決定のために、ヒトCD4、CD8、CD14、CD19、CD56、CD4/CD25、CD4/DR、CD4/CD45RA、CD4/CD45RO、CD4/CD62L、CD4/CD154(FasL)、CD4/TRAILに対する、モノクローナル抗体(Becton−Dickinson、San Jose、CA、USA)を用いた直接蛍光技術によって、表面の標識を行った。細胞内サイトカインを検出するために、単核細胞をFACS透過処理溶液(Becton−Dickinson)によって透過処理した。フローサイトメトリー分析を、Cellquestソフトウェアを用いて、FACSort装置(Becton−Dickinson)によって行った。その結果を、全ての免疫表現型に関して、10,000回から計算した染色細胞のパーセントとして報告する。
【0136】
【表1】

これらの結果は、同種異系細胞産物は、活性化記憶表現型を有する1型細胞へ分化したことを示す。
【0137】
(実施例番号2:同種異系細胞産物のサイトカイン遺伝子プロファイル)
同種異系細胞産物のサイトカインプロファイルを決定するために、細胞質ゾルRNAをRNeasyキット(Qiagen)を用いて精製し、そしてRoche First Strand cDNA合成キットを用いて逆転写した。プライマーおよびプローブを、Applied Biosystemsから購入したか、またはPrimer Expressソフトウェアを用いてデザインした。リアルタイムPCR増幅および産物の検出を、ABI Prism 7700において、製造会社の推薦する手順によって行った。遺伝子産物を、1日目および10日目に100,000の値に設定したGAPDH発現と相対的に表す。
【0138】
【表2】

(実施例番号3:同種異系細胞産物の宿主PBMC拒絶)
ステージ3の卵巣癌患者由来のPBMCを、密度勾配精製および軟膜の単離によって調製した。宿主PBMCを、同種異系細胞産物と50:50の比で混合し、そして24穴プレートで7日間培養した。同種異系細胞を、緑色細胞追跡色素、5−クロロメチルフルオレセイン二酢酸(CMFDA)で標識した。培養を3組セットアップした。
【0139】
(結果:)
培養7日目の終わりに、各ウェルにおいて2%より少ない生きた細胞が緑色に染まり、それらは宿主PBMCによって拒絶されたことを示す。
【0140】
(実施例番号4:混合した宿主PBMCおよび同種異系産物のサイトカイン分析)
本発明の方法によって産生された同種異系細胞産物の、宿主癌患者PBMCを刺激して1型サイトカインを産生させる能力を決定するために、同種異系細胞を、好ましい実施態様において記載されたように調製し、9日目に回収し、そして24穴培養プレートにおいて癌患者由来の1×10PBMCと混合し、そして5%のCO2を含む加湿雰囲気において、37℃で48時間インキュベートした。
【0141】
乳房切除術前に転移乳癌を有する患者から得た末梢血の密度勾配遠心分離によってヒトPBMCを単離した。同種異系細胞産物を、1:100、1:50、および1:25の比でPBMC培養に加えた。培地単独中のPBMCをネガティブコントロールとして使用し、そしてPHAで活性化したPBMCをポジティブコントロールとした。
【0142】
48時間後に、上清試料を各ウェルから除去し、そしてELISAによって分析した。結果を、3組の培養の平均+/−SEとしてpg/mlで示す。ND=検出されない。
【0143】
【表3】

その結果は、本発明の同種異系細胞産物は、1型サイトカイン産生の強力なアップレギュレーションを誘発し、そして2型サイトカイン産生をダウンレギュレートし得ることを示す。
【0144】
(実施例番号5:同種異系産物と混合した後の宿主細胞の表現型分析)
実施例番号3からの宿主CD3+T細胞およびCD14+単球を、エフェクターおよび補助刺激マーカーに関して表現型を分析した。
【0145】
【表4】

その結果は、宿主細胞が、同種異系細胞産物の拒絶中およびサイトカインストームの存在下で、補助刺激およびエフェクター分子をアップレギュレートしたことを示す。
【0146】
(実施例番号6:NK細胞毒性の刺激)
K562標的細胞に対するNK活性を、生きたK562細胞を染色するためにDIO膜色素(Molecular Probes、Eugene、OR、USA)を、および死んだ細胞を染色するためにヨウ化プロピジウム(Sigma)核色素を用いて、フローサイトメトリーアッセイによって評価した。特異的な溶解のパーセントを、以下の式によって計算した:
【0147】
【数1】

癌患者由来のPBMCを、培地単独、および同種異系産物および自己PBMCを1:100の比で48時間同時培養した上清中でインキュベートした。
【0148】
【表5】

これらの結果は、本発明の方法によって誘発された1型サイトカインストームは、宿主NK活性を有意に増強し得ることを示す。
【0149】
(実施例番号7:サイトカインストーム上清は、腫瘍の免疫原性に影響を与える)
癌細胞株NCI−H23(肺癌)、Caki−1(腎臓細胞癌)およびACHN(腎臓細胞癌)を、MHCI、MHCII、細胞死受容体FasおよびTRAIL−R2および補助刺激分子CD80およびCD86の発現に関して分析した。細胞株を次いでトランスウェル(transwell)プレートの下部で培養した。上部ウェルにおいて、正常ドナー由来の宿主PBMCおよび同種異系細胞産物を100:1の細胞比で混合した。培養を96時間インキュベートした。
【0150】
【表6−1】

【0151】
【表6−2】

これらの結果は、本発明の方法によって誘発されたサイトカインストームは、腫瘍細胞の免疫原性およびそのアポトーシスへの感受性を増加させ得ることを示す。
【0152】
本発明を好ましい実施態様に関して記載するが、当業者は、本発明の意図および範囲から離れることなく、方式および詳細において変化し得ることを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2011−6491(P2011−6491A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232031(P2010−232031)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【分割の表示】特願2006−532922(P2006−532922)の分割
【原出願日】平成16年5月11日(2004.5.11)
【出願人】(505469791)イミュノバティブ セラピーズ, リミテッド (8)
【Fターム(参考)】