同系または非同系の細胞、組織または器官を含む、外因性免疫原および内因性免疫原に対する免疫応答を改変するための材料および方法
外因性または内因性免疫原(細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)に対する免疫学的に有害な応答を調整するための材料および方法を本明細書中に開示する。生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている細胞(内皮細胞などであるが、これに限定されない)を含む移植可能な材料は、外因性または内因性免疫原に対する負の免疫反応または炎症反応(非同系細胞または同系の細胞、組織または器官、外因性免疫原または刺激に対する応答が含まれる)を調整し、自己免疫容態を改善することができる。移植可能な材料を、免疫応答または炎症反応の発生前、同時、または発生後に提供することができる。移植可能な材料は、移植患者の免疫学的受容を誘導し、移植片拒絶を軽減し、ドナー抗原の免疫原性を軽減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、外因性または内因性免疫原(細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)に対する免疫学的に有害な応答を調整するための材料および方法に関する。例えば、本発明は、外因性または内因性免疫原(非同系細胞または同系の細胞、組織または器官が含まれる)に対する負の免疫反応または炎症反応を調整し、自己免疫容態を改善することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異種移植に関する研究は、ここ数年、器官の欠点の改善を強化している。しかし、宿主免疫応答は、種間の移植を妨げる手強い障壁である。天然の抗体がこのような不一致の移植物(transplant)の即時拒絶を生じるのに対して、内皮細胞(EC)損傷およびECを裏打ちする移植片脈管の活性化は、慢性移植片拒絶の開始において極めて重要な役割を果たす。完全な内皮層の崩壊は、多数の条件下(同系および非同系の組織移植物ならびに感染症、新生物疾患、炎症性疾患、および心血管疾患が含まれる)で重要であることは疑問の余地がない。
【0003】
これまで、免疫調整および移植物受容は、全身投与される免疫抑制薬に依存されていた。このような薬剤はいくらか移植受容される一方で、この受容は制限され、おそらくより重要には、このような薬剤の結果として、患者の免疫系が完全に犠牲になる。したがって、患者の免疫系に対して毒性および悪影響が無い免疫調整を達成することができる治療材料および治療パラダイムが依然として必要とされている。
【0004】
同様に、外因性免疫原または刺激が臨床上の問題を起こしている。これらも、治療を必要とする負の免疫学的事象または炎症反応を引き起こし得る。これまで、このような負の事象の臨床管理は、ほぼ例外無く、免疫系を非特異的に抑制する薬学的作用因子を使用した治療に依存している。
【0005】
自己免疫疾患および他の類似の疾患は、増強された炎症反応または負の免疫応答のさらに別の臨床症状である。今日まで、臨床家はこのような疾患の首尾のよい管理ができていない。
【0006】
本発明の1つの目的は、患者の免疫系を犠牲にする化学物質または医薬品に依存することなく免疫調節するための組織操作による解決法を提供することである。この組織操作による解決法を使用して、臨床的に実用的な様式で、外因性および内因性の免疫原(非同系および同系の細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)に対する免疫応答を変化させることができる。本発明の別の目的は、非同系および同系の細胞、組織、または器官に対する患者の受容を容易にすることである。本発明の別の目的は、この組織操作による解決法を使用して、損傷および種々の疾患などに関連する炎症反応を調整することである。別の目的は、本発明の材料および方法を使用して自己免疫疾患および関連疾患を管理することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、生体適合性マトリックス、好ましくは、三次元立体配置を有する生体適合性マトリックスに結合および/または包埋している細胞が、任意の外因性または内因性の免疫原に対する免疫学的に負の応答または炎症反応を調整することができるという発見を活用する。免疫原には、任意の同系または非同系の免疫原(細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)、損傷、疾患、および環境刺激が含まれる。
【0008】
1つの態様では、本発明は、免疫応答または炎症反応を軽減する方法である。この方法によれば、レシピエントに、生体適合性マトリックスおよび固定および/または包埋した内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を提供する。移植可能な材料を、免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量でレシピエントに提供する。
【0009】
本発明によれば、提供する工程を、1回または複数回用量の同系ドナーまたは非同系ドナー由来の細胞、組織、または器官の前記レシピエントへの投与前、同時、または投与後に行う。別の実施形態によれば、提供する工程を、免疫応答または炎症反応の発生前、同時、または発生後に行う。別の実施形態によれば、本方法は、免疫学的記憶の調整によって免疫応答または炎症応答を軽減する。
【0010】
関連する態様では、本発明は、免疫学的受容を誘導する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、前記患者の受容を誘導するのに十分な量で、前記患者の自家移植片、異種移植片、同種移植片の細胞、組織、または器官の移植前、同時、または移植後に患者に提供する。
【0011】
さらに、本発明は、ドナー抗原の免疫原性を軽減する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、ドナー抗原の免疫原性を軽減するのに十分な量で、レシピエントへの前記ドナー抗原の導入前、同時、または導入後に提供する。別の実施形態によれば、ドナーおよびレシピエントは同一である。さらなる実施形態によれば、レシピエントは自己免疫疾患を有する。さらに別の実施形態によれば、ドナー抗原は、非内皮細胞抗原を含む。
【0012】
種々他の実施形態によれば、提供する工程を、レシピエントへの免疫抑制薬の投与前、同時、または投与後に行う。免疫抑制薬は、同時投与中に前記移植可能な材料中に存在し得る。
【0013】
さらに、本発明はまた、同系または非同系の細胞、組織、または器官の移植物(transplant)をレシピエントに移植する方法に関する。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、移植した前記同系または非同系の細胞、組織、または器官がレシピエントによって拒絶されないように移植前、同時、または移植後にレシピエントに提供する。本方法の1つの実施形態によれば、移植された細胞、組織、または器官は、非内皮細胞を含む。
【0014】
別の態様では、本発明は、生体適合性マトリックスおよび生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている細胞を含む移植可能な材料である。1つの現在のところ好ましい実施形態によれば、細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、および/またはいずれかのアナログである。一定の他の実施形態では、移植可能な材料の内皮様細胞またはアナログは、非内皮細胞である。別の実施形態によれば、移植可能な材料の細胞は、前記細胞型のいずれか1つの自律性改変体(variant)、同種改変体、異種改変体、または遺伝子修飾された改変体である。さらに好ましい実施形態によれば、移植可能な材料の細胞は、血管内皮細胞である。1つの実施形態によれば、移植可能な材料は、固体または非固体である。さらに別の実施形態によれば、移植可能な材料を、移植、注射、または注入によってレシピエントに提供する。
【0015】
本発明はまた、同系ドナーまたは非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対する免疫応答を軽減するための移植可能な材料に関する。本発明のこの態様によれば、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスおよび前記生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、もしくはそのアナログを含む。本発明のこの態様によれば、有効量の移植可能な材料が同系または非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる。本発明のこの態様の1つの実施形態によれば、細胞、組織、または器官は、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである。
【0016】
本発明はまた、移植可能な材料が生体適合性マトリックス内に固定されているか包埋されている細胞、組織、器官、またはそのセグメントを含む、非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させるのに有用な上記移植可能な材料の改変体に関する。有効量の前記移植可能な材料は、前記非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる。非同系の細胞、組織、または器官は、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、本明細書中に記載の本発明のいずれか1つの移植可能な材料との使用に適切な細胞である。1つの実施形態によれば、内皮様細胞またはそのアナログは非内皮細胞である。別の実施形態によれば、アナログは非天然である。さらなる実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、同系ドナーまたは非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対するレシピエントの体液性免疫応答または細胞性免疫応答を軽減させる。
【0018】
別の実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、免疫原性を減少させる。1つの実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、MHC発現の軽減または先天性免疫細胞に結合するか、先天性免疫細胞の成熟を活性化するか促進する能力の軽減によって免疫原性が減少し、先天性免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、単球、およびマクロファージからなる群から選択される。
【0019】
別の実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、同時刺激分子または接着分子の発現を軽減する。さらなる実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋され、且つ樹状細胞と同時培養した場合、樹状細胞によってHLA−DR、IL12、Toll様受容体、またはCD83の発現を阻害するか、樹状細胞によってデキストラン取り込みを促進するか、樹状細胞誘導性リンパ球増殖を遮断するか、適応的免疫細胞と同時培養した場合、細胞の増殖、活性化、または分化を阻害し、ここで、適応的免疫細胞は、Bリンパ球およびTリンパ球からなる群から選択される。
【0020】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の細胞のいずれか1つを含む細胞バンクである。さらなる態様では、本発明は、本明細書中に記載の移植可能な材料のいずれか1つを含むバンクである。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、外因性免疫原への曝露に起因する免疫応答または炎症反応を軽減する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックス、および固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料をレシピエントに提供する。移植可能な材料を、外因性免疫原への曝露に起因するレシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量でレシピエントに提供する。
【0022】
この方法の1つの実施形態によれば、提供する工程を、免疫応答または炎症反応の発生前、同時、または発生後に行う。別の実施形態によれば、外因性免疫原は天然に存在する。さらなる実施形態によれば、外因性免疫原は、薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質からなる群から選択される。別の実施形態によれば、外因性免疫原は、環境ストレス、損傷、および曝露からなる群から選択される外因性刺激である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の詳細な説明
「包埋」または「マトリックス包埋」PAE、HAE、またはECをいう図は、マトリックス固定および/またはマトリックス包埋PAE、HAE、ECを意味する。
【0024】
組織工学は、負の免疫学的成分に付随して起こるか、これに代表される疾患のための細胞療法として内皮細胞、内皮様細胞、またはそのいずれかのアナログを活用するための有望なアプローチである。例えば、一定の疾患(血管疾患などであるが、これに限定されない)は、負の免疫応答および/または炎症反応を引き起こす。本発明は、三次元マトリックスに固定または包埋された内皮細胞などの細胞が負の免疫応答を改善するか調整できる不可欠な調節因子を分泌するという発見に基づく。
【0025】
本発明の移植可能な材料を、組織工学の原理に基づいて開発した。これは、本明細書中に記載の臨床上のニーズに取り組むための新規のアプローチである。本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定されているか生体適合性マトリックス内に包埋されている生存細胞が生理学的フィードバック調節下で、生理学的比率で投与部位に複数の細胞ベースの生成物を供給することができるという点で特殊である。本明細書の他の場所に記載のように、移植可能な材料との使用に適切な細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、またはそのいずれかのアナログである。これらの細胞および生理学的に動的な投与による複数の化合物の局所送達により、免疫応答の調整を担う過程がより有効に調節される。本発明の移植可能な材料は、支持的生理学(supportive physiology)を模倣する環境を提供することができ、これは、免疫応答の調整に貢献する。
【0026】
内皮細胞が負の同種免疫応答および異種免疫応答の開始で極めて重要な役割を果たし得るので、これは予想外の発見である。さらに、内皮細胞は、抗原媒介性過程を介してT細胞を活性化することができ、T細胞活性化は、重大な内皮細胞機能(サイトカインによる活性化による抗原提示が含まれる)を改変し、それにより、負の免疫応答に寄与することができる。そして、内皮細胞は、クラスI腫瘍組織適合遺伝子複合体(MHC)分子を構成性に発現し、IFN−γは、クラスII MHC分子を発現するように内皮細胞を誘導し、直接経路によってCD8+およびCD4+T細胞に抗原依存性シグナルを提供することが可能である。内皮細胞はまた、主にT細胞を同時刺激することができる。さらに、接着分子の内皮発現を介したT細胞を捕捉する能力により、炎症形態で負の免疫応答を促進する接触領域を形成することが可能である。さらに、自己免疫は、特に、抗内皮細胞抗体の形態の血管疾患を悪化させ得る。真性糖尿病、高血圧症、または病状と合わせた心血管疾患の罹患率の増加は、これらの抗体の存在および効力の増加を反映する。
【0027】
対照的に、本明細書中に開示されるように、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞は、宿主中に移植された場合、予想される全身免疫応答および/または局所炎症の有意な減少によって示されるように、免疫系の強力な調節因子として作用する。本明細書中で例示されるように、このような細胞が免疫応答性を改善または調整する能力を、ナイーブマウスおよび内皮細胞免疫反応性が増加したマウスにおける遊離内皮細胞に対する免疫応答とマトリックス固定および/または包埋内皮細胞に対する免疫応答との比較によって示した。本明細書中に開示のように、本明細書中に記載のマトリックス会合内皮細胞は、マトリックスに固定および/または包埋された場合、複数のレベルで免疫防御を提供し、ヒトおよびブタの内皮細胞は、複雑なMHCクラス分子、同時刺激分子、および接着分子が顕著に減少する。
【0028】
本明細書中に例示されるように、内皮細胞のマトリックス固定および/または包埋はまた、免疫学的記憶の系紫衣に影響を及ぼし得る。生理食塩水に懸濁した遊離内皮細胞ペレットのみまたは空のマトリックスに隣接して存在するペレットとしての再移植が体液性および細胞性の異種応答(xenoresponse)を誘導したのに対して、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞でのマウスの再攻撃誘発により、体液性免疫応答を増強することなく脾臓細胞の溶解能力が軽減された。さらに、マトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞を投与したマウスで前者に対するTh1/th2バランスの変動が最も小さいことが明らかであった。
【0029】
したがって、空のマトリックスに隣接する遊離内皮細胞の導入によって宿主免疫応答を減少することができず、マトリックス固定および/または包埋の重要性が示された。固定および/または包埋内皮細胞が刺激時にMHC II分子、同時刺激分子、および接着分子を発現できないことは、移植されたマトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞に応答してエフェクター細胞におけるT細胞の分化が減少したと説明することができる。本明細書中で説明するように、MHCクラスII依存性様式でマトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞に曝露した場合、マウス脾臓細胞の活性化が弱まる。
【0030】
内皮細胞の全等方性が、適切なマトリックスに固定および/または包埋した細胞によって重大な抗原の単離またはマスキングにより免疫防御されるというこの固有の免疫調整形態に寄与する。in vivo内皮細胞機能が固定および密度に依存することが十分に認識される。以前の研究では、内皮基底膜(EBM)が、細胞の接着、拡大、移動、収縮性、分化、増殖、タンパク質合成、および分泌の局面を調節することが示されている。さらに、EBMは、多数のin vivo病状で変化する(糖尿病から糸球体症、アテローム性動脈硬化症まで)。内皮細胞の機能障害は、内皮細胞の付着の程度による基底膜の組成の変化と相関し、基底膜固定の質は内皮細胞の免疫学的性質で役割を果たす。
【0031】
本発明は、適切な生体適合性マトリックス(三次元コラーゲンベースのマトリックスなどであるが、これに限定されない)への内皮細胞の固定および/または包埋が異種内皮細胞を免疫学的に攻撃しない細胞表現型に変換することができるという予想外の発見に基づく。このような発見は、現在、本明細書中に提供したガイダンスに従って当業者が同系または非同系の治療法への寛容誘導アプローチ(本明細書中で例示した同種移植または異種移植などであるが、これらに限定されない)として活用することができる。例えば、本発明の好ましい実施形態では、臨床家は、同種移植片または異種移植片の組織または器官の移植前にマトリックス固定および/または包埋内皮細胞を移植することによって拒絶を減少および/または遅延することができる。本発明の目的のために、血液は、組織の血液型である。
【0032】
前処置によりレシピエントの免疫系を馴化し、それにより、移植片に対する免疫応答を軽減、減衰、および/または遅延することができる。本発明は、移植可能な材料がレシピエントに最終的に移植される細胞と同一または類似の固定および/または包埋細胞を含むことは必要ない。本当に必要なのは、固定および/または包埋細胞を含む移植可能な材料がレシピエントに提供した場合に免疫調整効果を有することである。一定の環境では、移植前または同時に1回投与することで十分であり得る。他の環境では、複数回投与または連続投与が好ましい。当業者は、このような環境を認識している。
【0033】
十分に認識されるように、同種細胞の移植でさえも、しばしば、免疫応答を伴う。非常に興味深い疑問は、これが外来細胞の構成性で不変の性質であるのか、または調節することができるのかどうかである。本明細書中に記載の実験は、マトリックス固定および/または包埋状態で移植した場合に基底膜に正常に固定した細胞の免疫原性を顕著に軽減することができ、これらの細胞を遊離状態で注射した場合に効果が認められなかったことを証明している。本明細書中に記載の他の実験は、種々の自己免疫疾患および内分泌疾患に共通する臨床的特徴である抗内皮細胞免疫の増大の影響を調査している。
【0034】
さらに、本明細書中にまとめた一定の実験は、遊離ブタ大動脈内皮細胞(PAE)の連続注射によって循環抗PAE抗体が誘導され、免疫感受性が上昇することを証明している。その後のPAE注射の応答は、第1の曝露の際に認められた応答よりもさらに高かった。対照的に、PAEをマトリックス固定および/または包埋状態で移植した場合、その後の曝露に対する免疫応答は小さくなり、長期間有意に低下した。また、以下に示すように、内皮細胞に対する最初の応答はIgM媒介性であり、これは、その後のIgG応答よりも低く、連続注射が先行した場合に弱まる。IgM応答は、予備感作した(pre−sensitized)動物よりもナイーブでより顕著であり、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞への曝露後よりも遊離PAE曝露後の方が減少するのに時間がかかる。
【0035】
遊離PAEの懸濁液でのマウスの予備感作は、真性糖尿病、高血圧症、および自己免疫疾患で認められるIgG1駆動抗内皮免疫と類似している。遊離細胞ならびにマトリックス固定および/または包埋細胞に対する細胞性免疫応答は、体液性免疫パターンの後に続いた。抗原への反復曝露により、記憶細胞の形成が増加し、その後に、エフェクターT細胞によるより強い免疫反応が起こった。したがって、ナイーブマウスおよび予備感作マウスへの遊離内皮細胞の移植後に、異種反応性IL−4およびIL−10産生脾臓細胞およびエフェクターT細胞の誘導が長期間上昇し、明らかとなった。全マウスで、サイトカインレベルは、エフェクターT細胞の誘導と直線的且つ正確に相関し、異種反応性におけるTh2駆動細胞応答および適応的免疫機構に対するマトリックス包埋内皮細胞の免疫サイレンシング局面の強調の概念がさらに示唆された。移植した内皮細胞の損傷は、誘発された免疫応答範囲に相関した。移植細胞は、予備感作し、遊離PAEを使用した後に最も顕著に影響を受けた。マトリックス包埋内皮細胞を投与したナイーブマウスにおける体液性免疫応答および細胞性免疫応答の誘導の減少により、宿主免疫細胞による損傷の程度が減少した。
【0036】
これらの実験により、内皮細胞の活性化および損傷が洞察され、細胞−マトリックス接触での極めて重要な役割が示唆される。現在のところ好ましいマトリックス(Gelfoam)のハニカム様構造により、内皮細胞のその三次元立体配置への会合、固定、または包埋が可能になり、一定の実施形態では、静止期の血管の融合性内皮の出現を刺激する様式でこのマトリックスの内側面に並ぶ。したがって、一定の実施形態では、Gelfoamの性質を有するマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞は、インタクトな内皮細胞の生理学的三次元状態に類似する。下記の実験は、マトリックス包埋および/または包埋は内皮細胞を宿主の免疫反応から防御するだけでなく、宿主の内皮細胞の免疫原性の認識も変化させることを証明している。
【0037】
したがって、例えば疾患中に、インタクトなマトリックス接着内因性状態から遊離状態に変化した内皮細胞の表現型の変換は、例えば、血管疾患の開始および永久化に重要である可能性が高い。本明細書中の教示は、内皮細胞の剥離に先立って接着分子、同時刺激分子、およびMHC分子が発現し、その後に免疫細胞の誘引、内皮活性化の永続、および細胞の損傷が起こることを示す。これに関して、内皮細胞の免疫生物学的および免疫反応性の質は、形態および機能と相関する。異なる血管床由来の内皮細胞および分岐した(divergent)基底膜の接続性は、接着分子、同時刺激分子、およびMHC分子の構成性および誘導性発現の顕著な相違を証明する。さらに、フィブロネクチンおよびフィブリノゲンなどの一過性細胞外基質の内皮細胞下基質への沈積および基底膜からの内皮細胞の剥離が内皮細胞内シグナル伝達に影響を及ぼすことが認識されつつある。
【0038】
本発明によって意図されるように、細胞表現型、免疫原性、および機能の操作を使用して、再生目的のためにin vitroで開発された組織操作構築物の性質を調整することができる。特に、現在の細胞ベースの治療法が難解な宿主免疫反応によって制限されるので、本発明のこのような使用は臨床的に有利である。例えば、本発明は、活性化免疫細胞および炎症の存在が重要な病態生理学的成分であるので、アテローム性動脈硬化症の治療に特に有用である。同様に、内皮細胞ベースの治療法(血管構造内部への細胞または組織の播種を含む治療などであるが、これに限定されない)のための極めて重要な律速効果として高い抗内皮免疫が同定される。対照的に、本発明を活用して、例えば、細胞−マトリックス接触の脱配置(dearrangement)を介した血管病変で起こる内皮細胞表現型の変動を管理ことができ、次いで、クリニックにおいて本発明の材料および方法を使用して適切にターゲティングした治療法の選択肢を実施することができる。
【0039】
まとめると、本明細書中に示した教示はまた、マトリックスの特徴(生体適合性、空隙率、三次元性などであるが、これらに限定されない)が内皮細胞集団の成長を支持し、このような細胞の免疫原性を調整することができることを証明する。三次元マトリックスに固定および/または包埋された内皮細胞は、宿主免疫機構の活性化の誘発がはるかに小さく、宿主免疫細胞から受ける攻撃および損傷がはるかに低かった。天然マウスにおける所見を、抗内皮免疫が増強した宿主に拡大した。本明細書中に示したin vivo研究は、Th2駆動細胞応答において遊離内皮細胞を注射した動物と比較して固定および/または包埋内皮細胞を含むGelfoamなどのマトリックスを移植した動物で顕著に減少することを示す。内皮細胞がナイーブ宿主T細胞を活性化するために、以下の2つのシグナルが必要である:1)ドナー内皮細胞上で発現したMHC分子における抗原提示、および2)ドナー内皮細胞表面上でも発現する同時刺激分子によって得られた第2のシグナル。したがって、理論に拘束されることを望まないが、認められた結果についての1つの可能な説明は、生体適合性マトリックスと包埋内皮細胞との間の相互作用によってドナー内皮細胞上での重大な同時刺激分子、MHC分子、および/または接着分子の表面発現が減少することである。実際、PAEおよびHAE(ヒト大動脈内皮細胞)上での重要な接着分子、MHC−II分子、および同時刺激分子の発現のin vitro分析は、マトリックス固定および/または包埋依存プロフィールを示す。接着分子(E−セレクチン、P−セレクチン、ICAM−1、VCAM−1、およびCD58)、同時刺激分子(CD40、CD80、CD86)、およびMHC−II分子の発現プロフィールは全て、標準的な組織培養プレート上で成長した同一の内皮細胞と比較して、Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞で減少した。P−セレクチン、E−セレクチン、およびVCAM−1は、免疫炎症部位でのT細胞動員と密接に関連する。MHCクラスII分子を介したCD4+T細胞への抗原提示が非血管化異種インプラント環境での宿主免疫認識に不可欠であるので、マトリックスに固定および/または包埋内皮細胞上での認められたMHC−II発現の減少は、宿主脾臓細胞の増殖応答の減少と解釈された。さらに、細胞培養プレート上で成長した内皮細胞への同一の脾臓細胞の反復in vitro曝露によってより強い二次応答が誘発されたのに対して、二次応答の増加は認められず、したがって、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞への以前の曝露の記憶はなかった。本明細書中で例示されるように、これらのin vitro所見は、マトリックス固定および/または包埋細胞の移植および再攻撃誘発後のラットおよびマウスで認められる免疫応答の有意な減少と相関する。
【0040】
同様に、生体適合性マトリックス(Gelfoamなどであるが、これに限定されない)中での内皮細胞の培養がMHCクラスII分子の発現およびその後のin vitroでの内皮免疫原性に影響を及ぼす機構を、細胞内シグナル伝達経路の調査によってさらに解明した。MHCクラスII分子の内皮発現は、活性化免疫細胞(例えば、T細胞)によって分泌される炎症誘発性サイトカイン(例えば、インターフェロン(IFN)−γ)によって誘導される。炎症誘発性サイトカインの内皮細胞上でのその受容体への結合により、細胞内シグナル伝達カスケードが開始され、それにより、ヤヌスタンパク質チロシンキナーゼ(JAK−1および2)、シグナルトランスデューサー、および転写活性因子(STAT−1)がリン酸化される。JAKおよびSTATの活性化は、通常、標的細胞内で強く調節される。下記のように、詳細なin vitro分析により、Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋された内皮細胞と比較した場合、組織培養プレート上でコンフルエンスまで成長した内皮細胞の間のIFN−γ誘導性細胞内シグナル伝達経路の相違が証明された。Gelfoam包埋HAEは、表面IFN−γ受容体発煙を変化させることなくSTATリン酸化速度をより低速にし、重大なインターフェロン調節因子−1(IRF−1)を活性化した。JAK活性化速度の低下はまた、IFN−γでのGelfoam中のHAEの刺激の際に認められた。
【0041】
さらなる調査の際に、Gelfoamマトリックス上で成長した非IFN−γ刺激HAEが、反作用阻害分子、サイトカインシグナル抑制因子(SOCS)−1および3を組織培養プレート上で成長したHAEよりも有意により高いレベルで発現させることが認められた。したがって、Gelfoam包埋HAEにおけるIFN−γ誘導性細胞内シグナル伝達の減少についての1つの説明は、SOCS−1および3レベルの増加によって内皮細胞のサイトカイン誘導性活性化の閾値が増加するということである。
【0042】
現在のところ好ましい実施形態では、固定および/または包埋内皮細胞を含む本発明の移植可能な材料を、任意の非管腔部位に移植する。したがって、宿主の循環にドナー細胞を直接曝露する必要はない。免疫細胞(すなわち、ナチュラルキラー細胞)の誘引のための可溶性内皮因子CX3CL1(フラクタルカイン)および免疫細胞の接着のためのフラクタルカインの表面発現形態の重要性が最近証明された。異種および同種のマトリックス固定および/または包埋内皮細胞の移植部位中および移植部位周囲で少しの細胞浸潤しか認められないならば、HAE上のフラクタルカインの可溶性および表面発現の放出を定量した。下記の実験で例証される様に、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞は、組織培養プレート上で成長したHAEと比較した場合、サイトカイン刺激の際にフラクタルカインの分泌が減少し、表面発現が下方制御された。これにより、in vitroでのマトリックス固定および/または包埋HAEへのヒトナチュラルキラー細胞の接着が有意に減少した。
【0043】
まとめると、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞における細胞内シグナル伝達の変化、SOCS−1および3レベルの増加(それにより、MHC−II分子の発現およびその後のT細胞活性化が減少する)、ならびにフラクタルカインの分泌の減少および表面発現は、組織培養プレート上で成長した細胞と比較して、マトリックス包埋に起因する内皮細胞免疫原性が変化した。
細胞供給源
本明細書中に記載のように、本発明の移植可能な材料は、同系、同種、異種、または自系であり得る細胞を含む。一定の実施形態では、生きている細胞の供給源は、適切なドナーに由来し得る。一定の他の実施形態では、細胞供給源は、死体または細胞バンクに由来し得る。
【0044】
1つの現在のところ好ましい実施形態では、細胞は内皮細胞である。特に好ましい実施形態では、このような内皮細胞は、血管組織、好ましくは、動脈組織(これに限定されない)から得る。以下に例示するように、使用に適切な1つの血管内皮細胞型は、大動脈内皮細胞である。使用に適切な別の血管内皮細胞型は、臍帯静脈内皮細胞である。そして、使用に適切な別の血管内皮細胞型は、冠状動脈内皮細胞である。本発明との使用に適切なさらに別の血管内皮細胞型には、肺動脈内皮細胞および腸骨動脈内皮細胞が含まれる。
【0045】
別の現在のところ好ましい実施形態では、適切な内皮細胞を、非血管組織から得ることができる。非血管組織は、本明細書の他の場所に記載の任意の管状解剖学的構造に由来し得るか、任意の非血管組織または器官に由来し得る。
【0046】
さらに別の実施形態では、内皮細胞は、内皮前駆細胞または幹細胞に由来し得る。さらに別の実施形態では、内皮細胞は、一般に、前駆細胞または幹細胞に由来し得る。好ましい実施形態では、細胞は、前駆細胞または幹細胞であり得る。他の好ましい実施形態では、細胞は、血管または非血管組織または器官由来の同系、同種、異種、または自系の非内皮細胞であり得る。本発明はまた、遺伝子が変化しているか、修飾されているか、操作されている任意の上記細胞を意図する。
【0047】
さらなる実施形態では、2つまたはそれを超える細胞型を同時培養して、本発明の移植可能な材料を調製する。例えば、第1の細胞を、生体適合性マトリックスに導入し、コンフルエントまで培養することができる。第1の細胞型には、内皮細胞成長を助長する環境をつくるための平滑筋細胞、線維芽細胞、幹細胞、内皮前駆細胞、平滑筋細胞と線維芽細胞との組み合わせ、任意の他の所望の細胞型、または所望の細胞型の組み合わせが含まれ得る。一旦第1の細胞型がコンフルエンスに到達すると、第2の細胞型を、生体適合性マトリックス中、生体適合性マトリックス上、または生体適合性マトリックス内の第1のコンフルエントな細胞型の上に播種し、第1の細胞型および第2の細胞型の両方がコンフルエンスに到達するまで培養する。第2の細胞型には、例えば、内皮細胞、任意の他の所望の細胞型、または細胞型の組み合わせが含まれ得る。第1および第2の細胞型を段階的に導入するか、1つの混合物として導入することができることが意図される。細胞密度を改変して、内皮細胞に対する平滑筋細胞の比を変化させることができることも意図される。同様に、マトリックスを、意図する適用または臨床レジメンに適切な異なる細胞の混合物と共に最初に播種することができる。
【0048】
本発明の固定および/または包埋細胞に本当に必要なのは、これらが1つまたは複数の好ましい表現型または機能的性質を示すことである。本発明は、好ましいマトリックスと会合した場合に容易に同定可能な表現型(本明細書の他の場所に記載)を有する細胞が全身および/または局所効果を介して免疫応答または炎症反応を軽減、改善、および/または調整することができるという発見に基づく。
【0049】
本発明の目的のために、本発明の細胞に特有の1つのこのような容易に同定可能な表現型は、本明細書の別の場所に記載のin vitroアッセイによって測定される変化した免疫原性表現型である。本発明の細胞に特有の別の容易に同定可能な表現型は、本明細書の別の場所に記載のin vitroアッセイによって測定される樹状細胞の成熟を阻害または妨害する能力である。各表現型を、本明細書中で、免疫調整表現型という。
【0050】
免疫調整機能性の評価:本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料を、移植前の免疫調整機能性の特徴について試験することができる。例えば、移植可能な材料のサンプルを評価して、MHCクラスII分子の発現を減少する能力、同時刺激分子の発現を軽減する能力、同時培養した樹状細胞の成熟を阻害する能力、およびT細胞の増殖を軽減する能力を確認する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、この材料がMHCクラスII分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時刺激分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時培養した樹状細胞の成熟を少なくとも約25〜95%、好ましくは50〜95%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができ、そして/またはリンパ球の増殖を少なくとも約25〜90%、好ましくは50〜90%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができる場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。
【0051】
MHCクラスII分子および同時刺激分子の発現レベルを、以下に詳述した日常的なフローサイトメトリー分析を使用して定量することができる。リンパ球の増殖を、以下に詳述したシンチレーションカウンティングによる3[H]−チミジン標識CD3+−リンパ球の移植可能な組成物とのin vitro同時培養によって定量することができる。樹状細胞成熟の阻害を、移植可能な材料の樹状細胞との同時培養およびフローサイトメトリーおよびFACS分析による樹状細胞上の種々のマーカーの表面発現の評価またはフローサイトメトリーによるFITC抱合デキストランの樹状細胞取り込みの測定によって定量することができる。これらの各方法を、以下に詳述する。
【0052】
本発明の典型的な操作実施形態では、細胞は、1つを超える上記表現型を示す必要はない。一定の実施形態では、細胞は、1つを超える上記表現型を示すことができる。
【0053】
上記表現型がそれぞれ機能的内皮細胞(血管内皮細胞などであるが、これに限定されない)を代表する一方で、このような表現型を示す非血管内皮細胞は、本発明の目的のために内皮様と見なされるので、本発明との使用に適切である。内皮様である細胞を、本明細書中で、内皮細胞の機能的アナログまたは内皮細胞の機能的模倣物ともいう。したがって、例示のみを目的として、本明細書中に開示の材料および方法との使用に適切な細胞には、内皮様細胞を生じる幹細胞または前駆細胞、元は非内皮細胞であるが、上記のパラメーターを使用して内皮細胞のように機能する細胞、上記のパラメーターを使用して内皮細胞様機能性を有するように操作または改変された任意の起源の細胞も含まれる。
【0054】
典型的には、本発明の細胞は、コンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の集団中に存在し、且つ本明細書の別の場所などに記載の好ましい生体適合性マトリックスと会合する場合、1つまたは複数の上記表現型を示す。当業者に認識されるように、コンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の細胞集団を、種々の技術によって容易に同定することができ、その最も一般的で広く受け入れられている技術は、直接顕微鏡試験である。他の技術には、標準的な細胞計数技術(血球計またはコールターカウンターなどであるが、これらに限定されない)を使用した表面積あたりの細胞数の評価が含まれる。
【0055】
さらに、本発明の目的のために、内皮様細胞には、機能的および表現型をまねるか模倣する細胞、上記パラメーターによって測定されるコンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の内皮細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
したがって、下記の詳細な説明およびガイダンスを使用して、当業者は、どのようにして本明細書中に開示の移植可能な材料の操作的実施形態を作製、使用、試験、および同定するのかを認識している。すなわち、本明細書中に提供されている技術は、本発明の移植可能な材料を作製および使用することが本当に必要であることを開示している。さらに、本明細書中に提供されている技術は、操作的に等価な細胞含有組成物を作製および使用することが本当に必要であることを開示している。基本的に、本当に必要なのは、等価な細胞含有組成物が本明細書中に開示の方法にしたがって免疫応答を調整するのに有効なことである。当業者に認識されるように、本発明の等価な組成物を、本明細書中に提供した教示と共に日常的な実験のみを使用して同定することができる。
【0057】
一定の好ましい実施形態では、本発明の移植可能な材料中で使用される内皮細胞を、ヒト死体ドナーの大動脈から単離する。各細胞ロットは、内皮細胞の純度、生物学的機能、細菌、真菌、公知のヒト病原体、および他の外来因子の存在について広範に試験された1つまたは複数のドナーに由来する。生体適合性の移植可能な材料のその後の形成のための培養でのその後の拡大のために、周知の技術を使用して細胞を低温保存し、集める。他の実施形態では、生きている細胞を移植可能な材料の対象となるドナーまたは患者から採取することができる。
【0058】
細胞の調製。上述のように、適切な細胞を、種々の組織型および細胞型から得ることができる。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料中で使用されるヒト大動脈内皮細胞を、死体ドナーの大動脈から単離する。他の実施形態では、ブタ大動脈内皮細胞(Cell Applications,San Diego,CA)を、ヒト大動脈内皮細胞を単離するために使用される類似の手順によって正常なブタ大動脈から単離する。各細胞ロットは、内皮細胞の生存度、純度、生物学的機能、マイコプラズマ、細菌、真菌、酵母、公知のヒト病原体、および他の外来因子の存在について広範に試験された1つまたは複数のドナーに由来する。培養でのその後の拡大および生体適合性の移植可能な材料としてのその後の形成のために、周知の技術を使用して、細胞を、さらに、拡大し、特徴付け、低温保存して、第3〜第6継代で作業細胞バンクを形成する。
【0059】
以下は、本発明との使用に適切な内皮細胞の調製のための例示的プロトコールである。ヒトまたはブタ大動脈内皮細胞を、フラスコあたり約15mlの内皮細胞成長培地の添加によって前処理したT−75フラスコ中で調製する。ヒト大動脈内皮細胞を、内皮成長培地(EGM−2,Cambrex Biosciences,East Rutherford,NJ)中で調製する。EGM−2は、2%FBSを含むEGM−2を補足した内皮細胞基本培地(EBM−2,Cambrex Biosciences)からなる。ブタ細胞を、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2中で調製する。フラスコを、約37℃、5%CO2/95%大気、湿度90%に最短で30分間維持したインキュベーター中にいれる。1つまたは2つの細胞バイアルを、−160℃〜−140℃の冷凍庫から取り出し、約37℃で解凍する。解糖した各細胞バイアルを、約3×103細胞/cm3であるが、好ましくは1.0×103以上7.0×103未満の密度で2つのT−75フラスコに播種し、細胞を含むフラスコをインキュベーターに戻す。約8〜24時間後、使用済み培地を除去し、新鮮な培地と交換する。細胞が約85〜100%コンフルエンスであるが、好ましくは、60%以上100%未満に到達するまで、2〜3日毎に培地を交換する。移植可能な材料が臨床適用を意図する場合、ヒト大動脈内皮細胞の解凍後培養および本発明の移植可能な材料の製造で無抗生物質培地のみを使用する。
【0060】
次いで、内皮細胞成長培地を除去し、細胞の単層を、10mlのHEPES緩衝化生理食塩水(HEPES)でリンスする。HEPESを除去し、2mlのトリプシンを添加して、T−75フラスコ表面から細胞を剥離する。一旦剥離されると、3mllのトリプシン中和液(TNS)を添加して、酵素反応を停止させる。さらなる5mlのHEPESを添加し、血球計を使用して細胞を計数する。細胞懸濁液を遠心分離し、抗生物質を含まないEGM−2を使用して、ヒト細胞の場合、約1.75×106細胞/mlの密度に調整するか、ブタ細胞の場合、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2を使用して、約1.50×106細胞/mlの密度に調整することができる。
【0061】
生体適合性マトリックス。本発明によれば、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスを含む。マトリックスは、細胞成長ならびにマトリックスに固定および/または包埋された細胞に許容される。特に好ましいマトリックスは、固定および/または包埋細胞が多次元環境を作製してこれを占めることができるような三次元立体配置によって特徴づけられるマトリックスである。多孔質マトリックスが好ましい。マトリックスは、固体または非固体であり得る。一定の非固体マトリックスは、流動性があり、注射型または注入型の方法による投与に適切である。一定の実施形態では、マトリックスは可動性および適合性がある。マトリックスはまた、可動性の平面形態であり得る。マトリックスはまた、ゲル、泡、懸濁液、粒子、マイクロキャリア、マイクロカプセル、または繊維状構造の形態出あり得る。一定の好ましい実施形態では、細胞が固定され、そして/または細胞が包埋された非固体形態のマトリックスを、投与時に注射または注入することができる。
【0062】
1つの現在のところ好ましいマトリックスは、Gelfoam(登録商標)(Pfizer,New York,NY)(吸収性ゼラチンスポンジ)である(以後、「Gelfoamマトリックス」)。Gelfoamマトリックスは、特別に処理、精製されたブタ皮膚ゼラチン溶液から調製された多孔質で可動性のあるスポンジ様マトリックスである。
【0063】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックス材料は、修飾マトリックス材料であり得る。細胞がマトリックスと会合する場合、マトリックス材料の修飾法を、本明細書の他の場所に記載の細胞の機能(細胞の表現型(例えば、免疫調整表現型)が含まれる)を至適化および/または調節するように選択することができる。1つの実施形態によれば、マトリックス材料の修飾には、付着因子または接着ペプチドでのマトリックスのコーティングが含まれる。例示的付着因子には、例えば、フィブロネクチン、フィブリンゲル、および標準的なカルボジイミドの水中での化学的性質を使用した共有結合した細胞接着リガンド(例えば、RGDが含まれる)が含まれる。さらなる細胞接着リガンドには、細胞接着認識配列を有するペプチド(RGDY、REDVY、GRGDF、GPDSGR、GRGDY、およびREDVが含まれるが、これらに限定されない)が含まれる。
【0064】
別の実施形態によれば、マトリックスは、Gelfoam以外のマトリックスである。さらなる例示的マトリックス材料には、例えば、フィブリンゲル、アルギン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムマイクロキャリア、コラーゲンコーティングデキストランマイクロキャリア、セルロース、PLA/PGA、およびpHEMA/MMAコポリマー(各ポリマーについて1〜100%の範囲のポリマー比を有する)が含まれる。好ましい実施形態によれば、引用および上記のように、これらのさらなるマトリックスを、付着因子を含むように修飾する。
【0065】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックス材料を、マトリックスへの細胞の付着を改善するように物理的に修飾する。1つの実施形態によれば、マトリックスを、その機械的性質を増強し、細胞付着および成長特性を改良するように架橋する。好ましい実施形態によれば、アルギン酸マトリックスを、硫酸カルシウムを使用して最初に架橋し、その後、塩化カルシウムおよび日常的プロトコールを使用した第2の架橋工程を行う。
【0066】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックスの孔サイズを修飾する。現在のところ好ましいマトリックス孔サイズは、約25μm〜約100μm、好ましくは約25μm〜約50μm、より好ましくは約50μm〜約75μm、さらにより好ましくは約75μm〜約100μmである。他の好ましい孔サイズには、約25μm未満および約100μm超が含まれる。1つの実施形態によれば、塩浸出技術を使用して孔サイズを修飾する。塩化ナトリウムをマトリックス材料の溶媒溶液に混合し、溶液を鋳型に注ぎ、溶媒を蒸発させる。次いで、マトリックス/塩ブロックを水に浸して塩を浸出させ、多孔質構造を残す。マトリックスが溶液中に存在するが、塩は存在しないような溶媒を選択する。1つの例示的溶液には、PLAおよび塩化メチレンが含まれる。
【0067】
別の実施形態によれば、二酸化炭素の気泡を、非固体形態のマトリックスに組み込み、次いで、適切な界面活性剤を使用して安定化する。その後、真空にして気泡を除去し、多孔質構造を残す。
【0068】
別の実施形態によれば、氷微粒子が異なるサイズの孔を形成する凍結速度を使用して、凍結乾燥技術によってマトリックスの孔サイズを調節する。例えば、約0.1〜2%のブタまたはウシのゼラチン溶液を鋳型または皿に注ぎ、種々の異なる温度で予備凍結し、一定時間凍結乾燥させることができる。次いで、材料を、好ましくは、紫外線(254nm)の使用またはグルタルアルデヒド(ホルムアルデヒド)の添加によって架橋することができる。予備凍結温度(例えば、−20℃、−80℃、または−180℃)、凍結乾燥温度(約−50℃での凍結乾燥)、およびゼラチン濃度(0.1%〜2.0%、孔サイズは、一般に、溶液中のゼラチン濃度に反比例する)の変化は全て得られるマトリックス材料の抗サイズに影響を及ぼし得、好ましい材料を作製するために改変することができる。当業者は、適切な孔サイズは、本明細書の他の場所に記載の表現型を有する至適な細胞集団を促進および維持するサイズであるということを認識する。
【0069】
生体適合性マトリックスの細胞播種。以下は、生体適合性マトリックスの1つの例示的立体配置の説明である。他の場所で述べているように、好ましいマトリックスは固体または非固体であり、移植、注射、または注入のために処方することができる。
【0070】
適切な生体適合性マトリックスの予め切断した小片または生体適合性流動性マトリックスのアリコートを、約37℃および5%CO2/95%大気で12〜24時間の抗生物質を含まないEGM−2の添加によって再水和する。次いで、移植可能な材料をその再水和容器から取り出し、各組織培養皿に入れる。生体適合性マトリックスを、好ましくは、1.5〜2.0×105細胞(1.25〜1.66×105細胞/cm3マトリックス)の密度で播種し、約37℃、5%CO2/95%大気、および湿度90%で3〜4時間インキュベーター中に維持して細胞付着を容易にする。次いで、播種したマトリックスを、各容器(Evergreen,Los Angels,CA)(それぞれEGM−2と共に0.2μmフィルターを含むキャップを取り付けた管)に入れ、約37℃および5%CO2/95%大気でインキュベートする。細胞がコンフルエンスに到達するまで、2〜3日毎に培地を交換する。1つの好ましい実施形態では、細胞は、好ましくは第6継代であるが、より前または後の継代の細胞を使用することができる。
【0071】
細胞成長。移植可能な材料のサンプルを、3または4日目、6または7日目、9または10日目、および12または13日目またはその付近で除去し、細胞を計数し、生存度を評価し、成長曲線を構築し、成長の特徴を見極めてコンフルエンス、ほぼコンフルエンス、またはコンフルエンス後を達成したかどうかを決定するために評価する。一般に、当業者は、初期、中期、および後期の測定点での許容可能な細胞成長の特徴(初期測定点(例えば、ブタ大動脈内皮細胞を使用した場合、約2〜6日)での細胞数の指数関数的増加、その後のほぼコンフルエント期(例えば、約6〜8日)、その後の一旦細胞がコンフルエンスに到達した場合の細胞数のプラトー(例えば、約8〜10日)、および細胞がコンフルエント後(例えば、約10〜14日)の場合の細胞数の維持の所見など)を認識するであろう。
【0072】
0.5mg/mlコラゲナーゼ溶液を含むHEPES/Ca++溶液での移植可能な材料のアリコートの完全な消化によって細胞数が達成される。移植可能な材料の消化体積の測定後、既知の体積の細胞懸濁液を0.4%トリパンブルー(4:1の細胞:トリパンブルー)で希釈し、トリパンブルー排除によって生存度を評価する。血球計を使用して、生存細胞、非生存細胞、および総細胞を計数する。培養日数に対する生存細胞数のプロッティングによって成長曲線を構築する。
【0073】
本発明の目的のために、コンフルエンスを、移植可能な材料が例示的な可動性の平面形態である場合、少なくとも約4×105細胞/cm3個存在すること、注射可能または注入可能な組成物である場合、好ましくは、アリコート(50〜70mg)あたりの総細胞数が約7×105〜1×106個と定義する。両方について、細胞生存度は、少なくとも約90%であり、好ましくは80%以上である。
【0074】
本発明の例示的実施形態は、生体適合性マトリックスおよび本明細書中に記載の種々の臨床適応または治療パラダイムのいずれか1つとの使用に適切な細胞を含む。具体的には、1つの好ましい実施形態では、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスおよび内皮細胞、内皮様細胞、または前記のいずれかのアナログを含む。1つの現在のところ好ましい実施形態では、移植可能な材料は、可動性平面形態であり、内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞(ヒト大動脈内皮細胞などであるが、これに限定されない)、および生体適合性マトリックスであるGelfoam(登録商標)ゼラチンスポンジ(Pfizer,New York,NY、以後「Gelfoamマトリックス」)を含む。
【0075】
本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定および/または包埋した細胞を含む。固定および/または包埋は、細胞が本明細書中に開示の予備操作の厳しさに耐えるような細胞相互作用および/または細胞−マトリックス相互作用による強い付着を意味する。本明細書の他の場所で説明するように、移植可能な材料の操作実施形態は、好ましい表現型を有するほぼコンフルエント、コンフルエント、またはコンフルエント後の細胞集団を含む。移植可能な材料の実施形態は予備操作中に細胞を減少させる可能性が高く、そして/または一定の細胞が他の作用ほど強く付着していないと理解される。本当に必要なのは、移植可能な材料が本明細書の他の場所に記載の機能的基準または表現型基準を満たす細胞を含むことである。
【0076】
本発明の移植可能な材料を、組織工学の原理に基づいて開発した。これは、本明細書中に記載の臨床上のニーズに取り組むための新規のアプローチである。本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定されているか生体適合性マトリックス内に包埋されている生存細胞が生理学的フィードバック調節下で、生理学的比率で投与部位に複数の細胞ベースの生成物を供給することができるという点で特殊である。本明細書の他の場所に記載のように、移植可能な材料との使用に適切な細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、またはそのそれぞれのアナログである。これらの細胞および生理学的に動的な投与による複数の化合物の局所送達により、免疫応答の調整を担う過程がより有効に調節される。本発明の移植可能な材料は、支持的生理学を模倣する環境を提供することができ、これは、免疫応答の調整に貢献する。
【0077】
機能性の評価。本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料を、レシピエントへの送達前の能性の特徴について試験する。例えば、培養内皮細胞によって産生されるヘパラン硫酸、トランスフォーミング増殖因子−β1(TGF−β1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)、または一酸化窒素のレベルを確認するために、培養期間中に馴化培地を回収する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、総細胞数が少なくとも約1×105細胞/cm3、好ましくは約2×105細胞/cm3、より好ましくは少なくとも約4×105細胞/cm3の可動性平面形態である場合、生存細胞の比率が少なくとも約80〜90%、好ましくは90%以上、より好ましくは少なくとも約90%である場合、馴化培地中のヘパラン硫酸が少なくとも約0.1〜0.5μg/mL/日、好ましくは少なくとも約0.23μg/mL/日である場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。他の特徴が望ましい場合、馴化培地中のTGF−β1は少なくとも約200〜300、好ましくは少なくとも約300pg/ml/日であり、馴化培地中のb−FGFは約200pg/ml未満、好ましくは約400pg/ml以下である。
【0078】
ヘパラン硫酸レベルを、日常的なジメチルメチレンブルー−コンドロイチナーゼABC消化分光学的アッセイを使用して定量することができる。総硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)レベルを、ジメチルメチレンブルー(DMB)色素結合アッセイを使用して決定する。このアッセイは、未知のサンプルを回収培地で希釈した既知量の精製コンドロイチン硫酸を使用して作成した検量線と比較する。さらなる馴化培地サンプルを、コンドロイチナーゼABCと混合してコンドロイチンおよびデルマタン硫酸を消化し、その後にDMB呈色試薬を添加する。GAG標準と混合したDMB色素の極大吸収波長(一般に、約515〜525nm)での全吸収を決定する。1日あたりのヘパラン硫酸濃度を、馴化培地サンプル中の硫酸化グリコサミノグリカン濃度からコンドロイチンおよびデルマタン硫酸の濃度を引くことによって計算する。コンドロイチナーゼABC活性を、精製コンドロイチン硫酸サンプルの消化によって確認する。100%未満の精製コンドロイチン硫酸が消化される場合、馴化培地サンプルを適切に補正する。ヘパラン硫酸レベルを、モノクローナル抗体を使用したELISAアッセイを使用して定量することもできる。
【0079】
必要に応じて、TGF−β1およびb−FGFレベルを、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(好ましくは、ポリクローナル抗体)を使用したELISAアッセイを使用して定量することができる。コントロール回収培地を、ELISAアッセイを使用して定量し、サンプルを、コントロール培地中に存在するTGF−β1レベルおよびb−FGFレベルについて適切に補正することもできる。一酸化窒素(NO)レベルを、標準的なグリース反応アッセイを使用して定量することができる。一酸化窒素の一過性および揮発性のために、ほとんどの検出方法には不適切である。しかし、一酸化窒素、硝酸塩(NO3)、および亜硝酸塩(NO2)の2つの安定な分解生成物を、日常的な測光法を使用して検出することができる。グリース反応アッセイは、硝酸還元酵素の存在下で硝酸塩を亜硝酸塩に酵素的に変換する。亜硝酸塩を、約540nmの範囲で可視光を吸収する有色アゾ色素生成物として比色分析によって検出する。系に存在する一酸化窒素レベルを、全硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、未知のサンプル中の総亜硝酸塩濃度を決定し、亜硝酸塩濃度を亜硝酸塩に変換された既知量の硝酸塩を使用して作成した検量線と比較することによって決定する。
【0080】
また、任意の1つまたは複数の上記アッセイを、本発明の移植可能な材料との使用に適切な細胞の同定のためのスクリーニングアッセイとして、単独または組み合わせて使用することができる。
【0081】
上記の1つまたは複数の任意選択的な定量的ヘパリン硫酸、TGF−β1、NO、および/またはb−FGF機能アッセイを使用して前述の好ましい免疫調整表現型をアッセイすることができる一方で、移植可能な材料を、以下のように1つまたは複数の好ましい免疫調整表現型の存在について評価することができる。本発明の目的のために、本発明の細胞に特有の1つのこのような好ましい容易に同定可能な表現型は、下記のin vitroアッセイによって測定したところ、変化した免疫原性表現型である。本発明の細胞に特有の別の容易に同定可能な表現型は、下記のin vitroアッセイによって測定したところ、樹状細胞の成熟を遮断または妨害する能力である。各表現型を、本明細書中で、免疫調整表現型といい、このような表現型を示す細胞は、免疫調整機能性を有する。
【0082】
免疫調整機能性の評価:本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料の免疫調整機能性を、以下のように試験することができる。例えば、移植可能な材料のサンプルを評価して、MHCクラスII分子の発現を減少する能力、同時刺激分子の発現を軽減する能力、同時培養した樹状細胞の成熟を阻害する能力、およびT細胞の増殖を軽減する能力を確認する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、この材料がMHCクラスII分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時刺激分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時培養した樹状細胞の成熟を少なくとも約25〜95%、好ましくは50〜95%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができ、そして/またはリンパ球の増殖を少なくとも約25〜90%、好ましくは50〜90%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができる場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。
【0083】
MHCクラスII分子および同時刺激分子の発現レベルを、以下に詳述した日常的なフローサイトメトリーおよびFACS分析を使用して定量することができる。リンパ球の増殖を、以下に詳述したシンチレーションカウンティングによる3[H]−チミジン標識CD3+−リンパ球の移植可能な組成物とのin vitro同時培養によって定量することができる。樹状細胞成熟の阻害を、移植可能な材料の樹状細胞との同時培養およびフローサイトメトリーおよびFACS分析による樹状細胞上の種々のマーカーの表面発現の評価またはフローサイトメトリーによるFITC抱合デキストランの樹状細胞取り込みの測定によって定量することができる。これらの各方法を、以下に詳述する。
【0084】
また、任意の1つまたは複数の上記アッセイを、本発明の移植可能な材料との使用に適切な細胞の同定のためのスクリーニングアッセイとして、単独または組み合わせて使用することができる。
【0085】
使用方法および臨床適応:本発明は、一般に、外因性免疫原または刺激および内因性免疫原または刺激に対する免疫学的に負の応答(炎症反応が含まれる)を調整するための材料および方法に関する。本発明はまた、細胞、組織、または器官関連免疫原に関する。例えば、本発明は、非同系または同系の細胞、組織、または器官に対する負の免疫応答を調整し、そして/または既存の免疫容態(自己免疫容態などであるが、これに限定されない)を改善することができる。適切な臨床適応のための移植可能な材料および使用方法のこの考察は、以下の用語および概念を参照する。
【0086】
初期免疫応答は、先天性免疫に依存する。先天性免疫応答中に、種々の先天性免疫機構は、免疫原の存在を認識して応答する。先天性免疫は、常に全ての個体に存在し、主に、自己、変化した自己、および非自己を識別する。例えば、先天性免疫細胞型は、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞、および単球である。先天性免疫応答後に適応的免疫応答が起こり、これは特定のリンパ球のクローン選択によって媒介され、それにより、認識された抗原に対してより場合に応じた持続的免疫応答が得られる。
【0087】
適応的免疫応答(すなわち、適応的免疫)は、抗原に対する抗原特異的リンパ球の応答(免疫学的記憶の発生が含まれる)である。適応的免疫応答は、リンパ球のクローン選択によって生じる。適応的免疫応答は、先天性および非適応的免疫期と異なり、抗原特異的リンパ球のクローン選択によって媒介されない。適応的免疫応答には、細胞性免疫および体液性免疫の両方が含まれる。例えば、適応的免疫細胞は、B細胞リンパ球およびT細胞リンパ球である。
【0088】
適応的免疫応答の顕著な特徴の1つは、免疫学的記憶の確立である。免疫学的記憶は、以前に遭遇した免疫原に対してより迅速且つ効率的に応答する免疫系の能力であり、抗原特異的リンパ球のクローン的に拡大した集団の先在を反映する。
【0089】
防御免疫は、細胞性免疫または体液性免疫のいずれかであり得る。体液性免疫は、体液性免疫応答で生成された抗体によって媒介される特異的免疫である。細胞性免疫は、抗原特異的T細胞が主な役割を果たす任意の適応的免疫応答と説明される。
【0090】
自己免疫疾患は、自己抗原に特異的な持続された適応的免疫応答によって媒介される。抗原が身体の固有の成分であり、それにより、免疫系のエフェクター機能が自己組織に向けられるので、組織が損傷する。また、自己抗原の攻撃を身体から除去することができないので、免疫応答は持続し、新規の自己抗原の供給が持続され、応答が増幅する。
【0091】
いくつかの同系移植片または移植物を長期間受容することができるにもかかわらず、同系移植片でさえもレシピエントには問題があり得る。実際、自家細胞を採取し、ex vivoで操作し、元のドナーに戻す場合でさえ、いくらかの範囲で非受容が起こり得る。典型的には、MHCまたは他の遺伝子座が異なる移植片は、レシピエントT細胞応答によって短期間で拒絶される。ドナーおよびレシピエントのMHCが異なる場合、例えば、免疫応答は移植片によって発現される非MHC分子または他の表面分子に向かう。移植片または移植物の受容または拒絶によって免疫事象(抗原認識、T細胞の活性化、Tヘルパー細胞の動員、および最終的な移植片破壊など)が誘発される。
【0092】
炎症反応は、局所免疫応答によって開始される。急性炎症は、初期の一過性エピソードである一方で、慢性炎症は、自己免疫応答中などで持続する。炎症は、局所血管に及ぼすサイトカインの影響を反映する。サイトカインは、血管内皮の接着性に重要な影響を及ぼし、それにより、循環白血球が血管壁の内皮細胞に貼り付き、血管壁を介して移動する。後期炎症反応はまた、免疫原によって活性化された適応的免疫応答の白血球を誘発する。
【0093】
例示的な治療法および臨床適応を、以下で考察する。これは、完全な考察であることを意図しない。本発明は、本発明を使用した治療に適切な任意の臨床適応(患者に負の臨床結果をもたらす免疫学的事象に代表されるかこれに関連する任意の臨床適応が含まれる)を意図する。
【0094】
同系および非同系の移植物:本発明を使用して、同系移植物であるか非同系移植物であるかを問わず、細胞、組織、および/または器官の移植物に対するレシピエントの負の応答を軽減または減少させることができる。本発明を使用して、同系移植物であるか非同系移植物であるかを問わず、細胞、組織、または器官の移植物に対するレシピエントの移植物受容を安定化または維持することもできる。本明細書中に教示するように、移植可能な材料を移植前処置、同時処置、または移植後処置として使用する場合、負の免疫応答が調整される。例えば、前処置は、レシピエントの免疫系を馴化し、移植物のその後の受容を容易にすることができることを意図する。同様に、同時処置は、生理学的事象の経時変化を軽減し、最終的に受容し、処置によって引き起こされる任意の負の免疫学的事象を改善することができる。移植後処置は、単回であるか複数回であるかを問わず、受容状態を持続し、負の免疫学的事象が起こった場合に負の免疫学的事象を抑制しながら維持することができる。臨床的に、本発明の移植可能な材料を使用した治療に適切な典型的適応には、移植組織または器官に関連する同種拒絶、異種拒絶、虚血−再潅流損傷、および反復処置の経過(course)が含まれるが、これらに限定されない。反復処置の経過には、膵臓島細胞の反復介入および反復補充注射を必要とする異なる血管部位での再発性アテローム性動脈硬化症が含まれるが、これらに限定されない。本発明の目的のために、血液は組織の血液型であり、輸血レシピエントは、前述の理由のために本発明を使用した処置から恩恵を受け得る。同様に、細胞、組織、および/または器官の移植物に関連する免疫学ベースの疾患は、上記治療パラダイムから恩恵を受ける。
【0095】
補体依存細胞傷害性:上記で概説した先天性免疫応答および/または適応的免疫応答の軽減、調整、または消失に加えて、本発明の移植可能な材料はまた、補体カスケードの重症度および補体活性化の炎症性副作用を軽減、調整、または消失することができる。例えば、移植可能な材料または本発明を使用した補体カスケードの弱化により、移植組織または器官の補体媒介性細胞溶解が軽減され、それにより、移植物の機能障害が改善され、首尾のよい処置の持続時間が延長される。
【0096】
介入療法:本明細書中に教示するように、本発明は、既存の免疫応答およびその後の免疫原への初期曝露によって引き起こされる未来の応答の重症度または強さを調整することができる。このような環境下では、移植可能な材料は、それぞれ負の免疫応答の増大の遮断または過敏症の発症の減少によって介入することができる。記憶応答の抑制により、例えば、患者の器官の健康を脅かし得るさらなる生理学的発作を回避することができる。既存の容態(自己免疫容態などなど)の場合、本発明は、患者の組織または器官に対する衰えない免疫学的攻撃の破壊効果を抑制することができる。本質的に、このような患者は、攻撃免疫原に継続的に曝されており、その免疫応答が制御不能を段階的に増大させ、それにより、重篤な、しばしば致命的な疾患の続発症を発症する。
【0097】
自己免疫容態が攻撃免疫原での連続攻撃誘発に例えることができる一方で、他の臨床適応を同様に見なすことができる。例えば、上記に示唆されるように、同系または非同系移植物のレシピエントは、連続攻撃誘発に供される。長期間悪化させる移植物(腎臓島細胞など)の補充は、連続攻撃誘発を較正する。続発性梗塞または続発性血管損傷を、連続攻撃誘発と見なすことができる。別の例は、脈管炎など(これに限定されない)の疾患である。上記のいずれかを、本発明の材料および方法を使用して有効に管理することができる。
【0098】
代替免疫抑制薬:本明細書中の他の場所で説明するように、本発明の移植可能な材料の投与により、有害な免疫抑制薬の投与の必要性が排除されるか有意に軽減されるように少なくともT細胞の活性かが十分に阻害されることが意図される。しかし、一定の患者クラス(免疫応答を高度に悪化させる傾向がある患者など)を移植可能な材料および免疫抑制薬の両方で処置することができることも意図される。本発明の移植可能な材料は、同系または非同系組織の移植前または同時に投与した場合、免疫抑制薬の投薬量を軽減し、必要に応じて、潜在的な移植片拒絶応答を管理することができる。
【0099】
強い免疫抑制薬(例えば、シクロ巣ポリンA、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、ミコフェノレートモフェチル、レフルノミド、糖質コルチコイド、細胞増殖薬、アザチオプリン、およびプレドニゾン)を、移植物レシピエントに投与して、T細胞活性化を阻害し、移植片生存の確率を増加させる。しかし、強い免疫抑制薬の投与は癌および感染症のリスクを増加させ、他の副作用(高血圧症、異常脂質血症、高血糖症、消化性潰瘍、ならびに肝臓および腎臓の損傷が含まれる)のリスクの一因となる。本発明により、このような薬剤のより慎重且つリスクの低い投与レジメンを得ることができる。さらに、典型的には器官レシピエントに投与される免疫抑制薬を、本発明の移植可能な材料の投与前、同時、および/または投与後に投与することができる。例えば、移植可能な材料は、免疫抑制薬の有利な効果を増幅する一方で、免疫系が過剰刺激または過剰感作され、おそらく免疫調整が実際に達成される時間が軽減されるというこのような薬剤のリスクを最初にすることができる。一定の実施形態では、免疫抑制薬の投薬量は、移植可能な材料の存在下で典型的に投与される投薬量よりも少なく、それにより、レシピエントが低毒性用量の免疫抑制薬に曝露されることがさらに意図される。
【0100】
免疫応答の経時変化の変化:本発明の好ましい実施形態では、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞を投与して、免疫応答または炎症応答を減少または遅延させる。移植可能な材料が有効と見なされるべき免疫応答または炎症応答を完全に排除することは必要ない。むしろ、材料は、免疫応答もしくは炎症応答の持続時間の軽減または急性免疫応答から慢性免疫応答への軽減などによって応答の経時変化を変化させることのみを必要とする。免疫応答または炎症応答の遅延により、同時またはその後に投与した治療薬が免疫応答または炎症応答の非存在下でレシピエントを有効に治療可能であり、そして/または移植物受容の持続時間を増大可能である。したがって、負の免疫応答の重症度の任意の遅延または軽減は、患者にとって臨床的に有利である。
【0101】
さらに、本発明の移植可能な材料を使用して、患者に導入された任意の外因性異物もしくは外来物質または任意の形態の外因性刺激に関連する免疫応答および炎症反応を管理または軽減することもできる。本発明は、天然に存在する外因性免疫原を意図する。本発明はまた、外因性免疫原(薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質が含まれるが、これらに限定されない)を意図する。本発明の目的のために、外因性免疫原は、外因性刺激(負の免疫応答または炎症反応を引き起こす環境ストレス、損傷、曝露、または任意の刺激などであるが、これらに限定されない)であり得る。
【0102】
例えば、合成移植片材料(合成PTFE(登録商標)動静脈移植片または他の合成外科用材料もしくは人工器官)は、宿主において異物反応を誘導し得る。この免疫応答型または炎症応答型を、合成材料の移植前または移植時の患者への本発明の移植可能な材料の投与によって軽減または消失することができる。移植後の投与も有効である。宿主における任意の異物反応の軽減により、治療の全機能および/または結果が改善される。
【0103】
全般的な考察。本発明の一定の実施形態では、さらなる治療薬を、移植可能な材料の投与前、同時、および/または投与後に投与する。例えば、サイトカインまたは成長因子(免疫関連体液性もしくは細胞性事象または組織関連生化学的カスケードを弱める薬剤が含まれる)を、インプラント(implant)を必要とする臨床適応に応じて移植可能な材料に組み込むこともできる。他の治療薬型には、移植可能な材料に固定および/または包埋された細胞の寿命を促進することができる治療薬および/または移植後の侵食性生体適合性マトリックスの生体侵食を遅延させることができる治療薬が含まれる。上記のいずれかを、局所または全身に投与することができる。局所の場合、一定の薬剤を、移植可能な材料内に含めるか、細胞自体によって付与することができる。
【0104】
投与の検討。本明細書中で意図されように、本発明の移植可能な材料を、任意の適合可能な解剖学的部位に送達または配置することができる。但し、この部位における容態が、移植可能な材料の機械型もしくは物理型の破壊または最終的な崩壊を引き起こさないか、移植可能な材料の物理的完全性または機能性を犠牲にしないものとする。例えば、本発明を、皮下、血管周囲、または腹腔内で行うことができる。1つの好ましい部位は、皮膚嚢(skin pouch)である。他の好ましい部位は、血管周囲または非血管周囲であり得る。移植可能な材料を、器官または管状解剖学的構造(血管または非血管構造であり得る)に隣接するか接触させて配置することができる。本発明を、体液性または細胞性免疫応答の全身的調整の目的または炎症反応の局所的調整の目的またはその両方のための任意の適合可能な部位に送達することができる。移植可能な材料の一定の好ましい実施形態は、生体侵食される前に少なくとも約56〜84日間、好ましくは少なくとも約7日間、より好ましくは少なくとも約14日間、さらにより好ましくは少なくとも約28日間移植部位に存在し得る。
【0105】
レシピエントへの送達の準備が整った場合、移植可能な材料(例えば、可動性平面形態)は、1×4×0.3cm(1.2cm3)の滅菌片である。この滅菌片は、好ましくは約5〜8×105、好ましくは少なくとも約4×105細胞/cm3の細胞を含み、1cm3あたりの生存細胞(例えば、1つの死体ドナー供給源由来のヒト大動脈内皮細胞)が少なくとも約90%であり、約45〜60ml、好ましくは約50mlの内皮成長培地(例えば、フェノールレッドおよび抗生物質を含まない内皮成長培地(EGM−2))を含む。ブタ大動脈内皮細胞を使用する場合、成長培地はまた、フェノールレッドを含まないが、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2である。
【0106】
本明細書中で意図され一定の実施形態では、本発明の移植可能な材料は、ゲル、泡、懸濁液、粒子、マイクロキャリア、マイクロカプセル、または他の流動性材料の形態であり得る粒子生体適合性マトリックスを含む流動性組成物である。注射型または注入型送達デバイスとの使用のための任意の非固体流動性組成物を本明細書中で意図する。一定の実施形態では、流動性組成物は、好ましくは、形状持続組成物である。本明細書中で意図され流動型粒子マトリックス中、上、または内に細胞を含む移植可能な材料を、内径範囲が約22ゲージ〜約26ゲージであり、好ましくは、約1〜約3ml中に約100万個の細胞を含む粒子材料を含む約50mgの流動性組成物を送達することができる任意の注射型送達デバイスとの使用のための処方することができる。
【0107】
好ましい実施形態によれば、流動性組成物は、生体適合性粒子マトリックス(Gelfoam(登録商標)粒子、Gelfoam(登録商標)粉末、または微粉Gelfoam(登録商標)(Pfizer,New York,NY)(以後、「Gelfoam粒子」)(ブタ皮膚ゼラチン由来の製品)など)を含む。別の実施形態によれば、架橋デキストランマトリックスにカップリングした変性コラーゲンから構成される粒子マトリックスは、Cytodex−3(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)マイクロキャリアである。
【0108】
血管内投与。流動性組成物を、最終沈積部位が管腔内でないにもかかわらず、管腔内または血管内経路を介して投与することもできる。例えば、組成物を、血管内に挿入することができる任意のデバイスによって送達することができる。内視鏡誘導システムを使用して、投与部位に当該分野で公知のステントおよび/または他の内視鏡誘導システムの位置を同定するための送達デバイス(例えば、血管内超音波(IVUS)、カラードップラー超音波、複式超音波、他の日常的な超音波、血管造影法、磁気共鳴血管造影法(MRA)、磁気共鳴映像法(MRI)、CTスキャニング、蛍光透視検査が含まれるが、これらに限定されない)を配置することができる。さらに、触診を使用して投与部位に配置することができる。
【0109】
1つの例では、管腔内送達デバイスは、血管の管腔壁を貫通して血管の非管腔表面に到達するための横断または貫通デバイスを備えている。次いで、流動性組成物を、非管腔表面に沈積させる。管腔外とも呼ばれる非管腔表面には、血管の外側の任意の部位または血管の任意の血管周囲表面が含まれ得るか、例えば、血管の外膜、中膜、または内膜内に存在し得ることが本明細書中で意図される。本発明の目的のために、非管腔または管腔外は、管腔の内面以外の任意の表面を意味する。管腔内送達デバイスによって血管周囲腔内に沈積することができ、横断した血管の管腔外表面と接触する必要はないことも意図される。
【0110】
本明細書中で意図される貫通デバイスは、例えば、損傷しているか罹患している標的部位を破壊することなく血管の非管腔表面に流動性組成物を送達するための所望の幾何学的立体配置で配置された単一の送達点または複数の送達点を得ることが可能である。複数の送達点を、例えば、2〜3例を挙げると、環状、ブルズアイ(bulls−eye)、または直線配列の配置で配置することができる。貫通デバイスはまた、ステント穿孔機(複数の送達点を含むバルーンステントなどであるが、これに限定されない)の形態であり得る。
【0111】
経皮投与。流動性組成物を、ニードル、カテーテル、または他の適切な送達デバイスを使用して、経皮経路を介して送達させることができる。流動性組成物を、治療を必要とする部位への送達を容易にする誘導方法の使用と同時に経皮に送達させることができる。誘導工程は任意である。内視鏡誘導システムを使用して、管腔外投与部位に血管内超音波(IVUS)、カラードップラー超音波、複式超音波、他の日常的な超音波、血管造影法、磁気共鳴血管造影法(MRA)、磁気共鳴映像法(MRI)、CTスキャニング、蛍光透視検査を配置することができる。さらに、触診を使用して投与部位に配置することができる。血管周囲腔または腹膜腔への侵入の際に、例えば、臨床家は、任意の非管腔表面または任意の非管腔部位上に流動性組成物を沈積することができる。誘導工程または同定工程を任意選択的に行い、本発明の方法を実施する必要はない。別の実施形態によれば、移植可能な流動性組成物を、外科的に露呈させた管腔外部位に局所的に送達させる。
【0112】
注入による投与も意図される。ボーラス型投与またはより遅い型の段階的投与として注入を行うことができる。当業者は、各利点を認識し、どれか一方の投与様式を使用する環境を認識するであろう。本当に必要なのは、日常的な臨床的注入である。
【0113】
実験材料および手順
材料の調製および評価。本明細書中の他の場所により詳細に記載するように、ブタ大動脈内皮細胞およびヒト大動脈内皮細胞を、個別に単離し、培養した。次いで、培養細胞を、三次元生体適合性マトリックス(Gelfoamなど)に播種し、細胞がコンフルエンスに到達するまでインキュベートした。マトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞の機能性を、前に記載のプロトコールにしたがって評価した。
【0114】
ラットにおける内皮細胞誘導性免疫反応。54匹のSprague−Dawleyラットの皮下背側腔に、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして5×105個のブタ大動脈内皮細胞移植物を投与した。背側切開後、ブラント技術(blunt technique)で小さな皮下空洞を構築し、Gelfoam包埋細胞を慎重に挿入するか細胞を注射した。空のコントロールGelfoamマトリックスを、移植前に完全DMEM中でインキュベートした。血清を、0〜56日目に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。
【0115】
マウスにおける内皮細胞誘導性免疫反応。36匹のB6マウスの皮下背側腔に、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして5×105個のブタ大動脈内皮細胞移植物を投与した。空のコントロールGelfoamマトリックスを、移植前に完全DMEM中でインキュベートした。免疫学的記憶に及ぼすマトリックス包埋の影響を評価するために、100日目に同一群のマウスに、同一の処置を使用して再攻撃誘発した。血清を、各移植手順から0〜90日後に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。各群の4匹のマウスを、脾臓単離のために28日目および128日目にそれぞれ屠殺した。
【0116】
連続攻撃誘発マウスにおける内皮細胞誘導性免疫反応。LargeWhiteブタ大動脈から単離したブタ大動脈内皮細胞(PAE)を、前述のようにGelfoam上に播種するか、ポリスチレンプレート上にコンフルエンスまで成長させた。0、21、35日目に、B6マウスの皮下背側腔に、5×105個のPAE(n=24、予備感作マウス)または生理食塩水(n=24、ナイーブマウス)を注射した。42日目に、各群由来の12匹のマウスに、5×105個のマトリックス包埋PAEまたは遊離PAEを投与した。その後の90日間で内皮細胞の宿主免疫反応および溶解損傷を研究した。血清を、42〜132日後に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。脾臓単離のために、各群の6匹のマウスを70日目に屠殺し、残りを132日目に屠殺した。
【実施例】
【0117】
実験
三次元マトリックス中に包埋した内皮細胞は、三元パターンで成長する
生体適合性マトリックス内で成長した内皮細胞の成長パターンを評価するために、走査電子顕微鏡法を行った。Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞を含む移植可能な材料を、PBSでリンスし、0.5cmの標本lに分割し、3%グルタルアルデヒド(Sigma Chemicals;St.Louis,MO)で90分間固定し、蒸留水に移した。1%OsO4中でのインキュベーション後、標本を蒸留水でリンスし、エタノールの連続希釈物(30、50、75、80、85、90、95、および100%)中にて15分間隔で脱水し、ヘキサメテイルジシラザン(Sigma)(50%、100%)中にて30分間隔で脱水した。標本を、100%HMDS中で一晩蒸発させ、その後、プラズマコーター(Edwards Coating System,U.K.)を使用して金でコーティングした。5kV加速電圧で(Streoscan 240,Cambridge Instruments,U.K.)、走査電子顕微鏡写真を得た。
【0118】
走査電子顕微鏡法により、Gelfoam−マトリックスの隙間に沿ったブタ大動脈内皮細胞の三次元成長パターンが明らかとなった。細胞生存度は、2週間の培養期間にわたって95%で維持された。
【0119】
実験データは、Gelfoam包埋細胞のin−vivo免疫受容が生体適合性マトリックスのみの存在よりもむしろマトリックス中の内皮細胞の三次元成長パターンに影響を及ぼすことを示す。典型的には、組織操作生体材料内に組み合わせた移植細胞またはタンパク質は、抗原免疫刺激の供給源として役立つ。さらに、Gelfoamマトリックスのみに隣接したブタ大動脈内皮細胞の注射によって遊離の注射内皮細胞と同一の免疫応答を誘発したので、Gelfoamマトリックスは、免疫中性であり、それ自体が免疫防御効果を持たない。内皮細胞の性質は、マトリックス包埋細胞調製物を使用して認められたこの固有の免疫調整形態に寄与する。特に、これらの細胞は以下に片寄っている:基底膜と相互作用する基底面および流れている血液要素および細胞要素と相互作用する上面。データから、内皮細胞の機能は、固定および密度に依存することが示唆される。高血圧のような全身疾患、脂質およびグルコース代謝の変化、または毒素への曝露により、固定依存性調節ならびに内皮に対する免疫応答の大きさおよび性質が変化し、マトリックス接着性から遊離へのインタクトな内皮細胞の表現型の変換が血管疾患に寄与する。
【0120】
表面分子(同時刺激分子および接着分子が含まれる)の調整
in vitroでの内皮細胞上での同時刺激分子および接着分子の発現レベルを、フローサイトメトリーによって定量した。FITCおよびPE標識抗体を使用し、これらには、マウス抗ブタP−セレクチン抗体、マウス抗ブタCD31(クローンLCI−4)、抗ヒトCD54(クローン15.2)、抗ヒトCD62E(クローン1.2B6)、抗ヒトCD58(クローン1C3)、抗ヒトCD80(クローンBB1)、抗ヒトCD86(クローン2331)、抗ヒト4−1BB−リガンド(PE標識クローンC65−485)、ラット抗マウスIgG1(クローンA85−1)、および抗マウスIgM(クローンR6−60.2)、ウサギ抗ラットIgG、ウサギ抗ヒトCD40、ヤギ抗ウサギIgG、マウス抗ヒトCD106(クローン1.G11B1)、マウス抗ヒトHLA−DP、DQ、DR(クローンCR3/43)、マウス抗クラスI MHC(IgG2a)、ラット抗マウスIgG2a、マウス抗意図ox40−リガンド、マウス抗ヒトプログラム死リガンド1(PD−L、クローンMIH1)、抗ヒトPD−L2(クローンMIH18)、および抗ヒト誘導性同時刺激因子リガンド(ICOS−リガンド、クローンMIH12)が含まれていた。
【0121】
内皮細胞単層またはGelfoam中に包埋された内皮細胞を、100U/ml TNF−α(CD54、CD80、CD86、CD106、E−セレクチン、P−セレクチン)または200U/ml TNF−α(ICOS−L)で24時間、10μg/ml LPSで24時間(4−1BB−リガンド)、1000U/ml IFN−γ(MHC−II、CD40)または100U/ml IFN−γおよび25ng/ml TNF−α(PD−Ll)で48時間刺激した完全培地(CD31、CD58、PD−L2、ox40−リガンド、MHC−I)中での培養後に採取した。培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄した。単層を、1.0mM PBS/EDTA中で5分間インキュベートし、穏やかな震盪によって破壊した。GelfoamをコラゲナーゼI型で消化し、表面分子の発現に影響を及ぼさないことが示された。細胞懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、FACS緩衝液(0.1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS、Sigma Chemicals;St.Louis,MO)に再懸濁した。内皮細胞を、一次抗体と4℃で30分間インキュベートした。必要に応じて、細胞をFACS緩衝液に再懸濁し、二次抗体にて4℃で30分間染色した。次いで、細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson,San Diego,CA)を使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0122】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、表面分子の発現を変化させた。組織培養ポリスチレンプレート上で成長させたブタ大動脈内皮細胞のCD58発現と比較して、Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞でのCD58の構成性発現は有意に軽減した(−60.4%、p<0.002)。FACS分析によってポリスチレンプレート上で成長させたブタ大動脈内皮細胞と比較して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞上の同時刺激分子、接着分子、およびMHCクラスIIの上方制御も有意に軽減した(CD80:−64.9%、p<0.002;CD86:−65.4%、p<0.001;CD40:−53.8%、p<0.005;ICAM−1:−68.7%、p<0.001;VCAM−1:−53.9%、p<0.005;E−セレクチン:−71.8%、p<0.0005;P−セレクチン:−79.9%、p<0.0002;MHC II:−78.3%、p<0.0002)。MHCクラスIおよびCD31の表面発現の有意な相違は認められなかった。
【0123】
同様に、三次元生体適合性マトリックス中に包埋したヒト大動脈内皮細胞は、表面分子の発現を変化させた。三次元マトリックス中で成長したヒト大動脈内皮細胞は、CD58の発現プロフィールを有意に軽減し、同時刺激分子および接着分子の上方制御は有意に欠如していた。しかし、Gelfoam中に包埋したヒト大動脈内皮細胞と組織培養ポリスチレンプレート上で成長したヒト大動脈内皮細胞との間のICAM−1、E−セレクチン、MHC I、およびCD31の発現レベルの有意な相違は認められなかった。さらに、PD−L2の構成性発現(100%、p=0.73)およびPD−L1の上方制御(86%、p=0.09)の有意な相違は認められなかった。
【0124】
したがって、三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、同時刺激分子および接着分子を軽減する。マトリックス包埋したブタ大動脈内皮細胞およびヒト大動脈内皮細胞は、活性化内皮細胞上の同時刺激分子および接着分子の発現レベルを有意により低下させた。
【0125】
共焦点顕微鏡法によるin vitroでのインプラント中および免疫組織化学分析によるin vivoでのラット中でのCD31、MHC−II、CD58、ICAM−1、およびE−セレクチンの発現も分析した。内皮細胞をカバースリップに播種するか、Gelfoam−マトリックスに包埋した。PBSでの洗浄および3%パラホルムアルデヒドでの20分間(カバースリップ)または一晩(Gelfoam)の固定前に、内皮細胞を、ラット血清(Bethyl Laboratories,TX)で30分間ブロッキングした。抗体での染色後、Gelfoamマトリックスを、厚さ2mmmのスライスに切断した。内皮細胞を、適量の抗体で1時間(カバースリップ)または2時間(Gelfoam)染色し、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡で分析した。染色強度を、ImageJソフトウェア(National Institute of Health,Bethesda,MD)で定量し、CD31発現に対して正規化した。
【0126】
共焦点顕微鏡法により、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞上のCD58、ICAM−1、E−セレクチン、およびMHC−IIの発現レベルが減少したのに対して、CD31発現は変化しないままであることが明らかとなった(p<0.02)。細胞−基質固定は、MHC−I発現に影響を及ぼさなかったが、MHC−II分子の予想される上方制御を顕著に弱めた。Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、in vitroでの異種CD4+T細胞の増殖を少ししか誘発せず、これは、遊離ブタ大動脈内皮細胞におけるMHC−II結合のブロッキングで認められた応答に類似していた。
【0127】
in vivoでの免疫応答の調整
マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞は、P−セレクチンおよびE−セレクチンが関与する白血球動員に置ける初期事象および免疫炎症部位でのT細胞動員に密接に関連するVCAM−1の刺激を低下させた。一般的および種特異的な同時刺激分子の全パネルは、マトリックス包埋によって下方制御された(内皮細胞発現および4−1BB−リガンドの抑制についての最初の報告が含まれる)。同時に、PD−L1およびPD−L2(相殺阻害分子として作用するB7ファミリーのメンバー)の発現および上方制御は、マトリックス包埋後にインタクトなままであった。これらのin vitro所見は、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植後のラットにおいて免疫応答が有意に弱化したと解釈された。
【0128】
移植28日後の各群由来の6匹のラットにおける移植に対する細胞性応答も免疫組織化学的に評価した。5μmパラフィン切片を切断し、0.01mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)中で10分間のマイクロ波加熱によって抗原回復(retrieval)を行った。白血球、Tリンパ球、およびBリンパ球を、アビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体法によって同定した。一次抗体は、白血球を同定するためのマウス抗ラットCD45R0(Research Diagnostics;50倍希釈)、CD4+−T細胞を同定するためのマウス抗ラットCD4(Pharmingen;10倍希釈)、およびCD8+−T細胞を同定するためのマウス抗ラットCD8(Pharmingen;50倍希釈)であった。ポジティブコントロールとしてラット脾臓を使用し、ネガティブコントロールとしてマウスIgGを使用した。一次抗体を室温で1時間適用し、全切片を、メイイヤーヘマトキシリン液(Sigma)で対比染色した。6つの非重複野(×600)を試験した。各群の結果を平均した。
【0129】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAE注射または三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのラットにおける免疫応答も軽減させた。Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、in vivoでブタ大動脈内皮細胞特異的IgGの形成を有意に減少させた。遊離ブタ大動脈内皮細胞の投与およびGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を注射したラットにおいて、血清サイトカイン(MCP−1、IL−6、TNF−α)が上昇し、移植5日後にピークに達した。対照的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を使用した動物では、サイトカインレベルはバックグラウンドレベルを超えて増加なかった。
【0130】
免疫組織学的研究により、28日目のインプラント/注射内およびその周囲への細胞の浸潤が示された。遊離ブタ大動脈内皮細胞の注射およびGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞の注射後、T細胞はインプラント/注射側で豊富であったのに対して、移植片の周囲に多数のCD45R0陽性白血球も見出された。対照的に、インプラントおよびGelfoam−ブタ大動脈内皮細胞自体の周囲の組織は、他の細胞移植群よりも白血球およびCD4+−T細胞の浸潤が1/4.5であり、CD8+T細胞の浸潤が1/3.3であった。
【0131】
移植されたブタ大動脈内皮細胞に特異的な循環ラット免疫グロブリンも、フローサイトメトリーによって測定した。2×105個のブタ大動脈内皮細胞を、0.25%トリプシン/0.04%EDTAを使用して組織培養ポリスチレンプレートから剥離し、ペレット化し、洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁し、レシピエントラット由来の血清(FACS緩衝液で10倍希釈)と4℃で30分間インキュベートした。冷FACS緩衝液での2回の洗浄後、細胞を、FITC抱合抗ラットIgGとインキュベートした。4℃の暗所で30分間のインキュベーション後、サンプルを、冷FACS緩衝液で2回再度洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。ラットIL−6(R&D Systems,MN、検出限度21pg/ml)、ラットTNF−α(R&D Systems、検出限度5pg/ml未満)、およびラットMCP−1(Amersham、検出限度5pg/ml未満)の血清濃度を、移植から0、5、12、および28日後にELISAによって定量した。アッセイ条件のばらつきを回避するために、同一のELISAによって測定を同時に行った。
【0132】
実験マウスの血清中の移植されたブタ大動脈内皮細胞に特異的なラット免疫グロブリンレベルも、フローサイトメトリーによって測定した。2×105個の移植細胞と同株由来のブタ大動脈内皮細胞を、0.25%トリプシン/0.04%EDTAを使用して組織培養プレートから剥離し、ペレット化し、洗浄し、FACS緩衝液(PBS、1%FCS、0.1%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。次いで、これらの細胞を、レシピエントラット由来の血清(FACS緩衝液で10倍希釈)と4℃で60分間インキュベートした。FACS緩衝液での2回の洗浄後、細胞を、FITC抱合抗ラットIgG2a(Southern biotechnology,AL)、IgG1(クローンA85−1)、またはIgM(クローンR6−60.2、BD Pharmingen,CA)とそれぞれインキュベートした。4℃の暗所で30分間のインキュベーション後、サンプルを、冷FACS緩衝液で2回再度洗浄し、0.25mlの1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0133】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋された内皮細胞は、遊離PAEおよび三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射されたPAEと比較した場合、in vivoでのTh2駆動免疫応答を軽減させた。ブタ大動脈内皮細胞特異的抗体応答の規模および性質を特徴づけるために、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして皮下背側腔にブタ大動脈内皮細胞を移植した後に、マウスから血清を回収した。移植後、Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞のレシピエントと比較して、ブタ大動脈内皮細胞ペレットまたは空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞ペレットを投与したマウスで抗ブタ大動脈内皮細胞のIgG1およびIgMレベルは類似しており、有意に高かった(図1Aおよび1B)。マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植から12日後(p<0.005)に、抗ブタ大動脈内皮細胞のIgG2aが一過性且つ小さく上昇したが、ペレット化ブタ大動脈内皮細胞またはペレット化ブタ大動脈内皮細胞を注射した空のGelfoamのインプラントを投与したマウスでは認められなかった(図1C)。
【0134】
図1A、1B、および1Cは、フローサイトメトリーによる遊離PAE、Gelfoam成長内皮細胞の皮下注射後またはGelfoamに隣接するPAEのみの同時注射後のマウスにおける循環PAE特異的IgGをグラフで示している。全マウス由来の結果のグラフ(移植から28日後についてはn=18/群、56〜100日後についてはn=12/群)は、IgG1(図1A)およびIgM(図1B)についてのマトリックス包埋PAEと他のPAE移植形態との間の統計的有意差を証明している。マトリックス包埋PAEの移植から12日後に、抗PAEのIgG2aが一過性且つ小さく上昇した(図1C)。
【0135】
組織培養プレート上で成長させた非刺激HAEと比較して、マトリックス包埋HAEは、より高いレベルの阻害シグナル伝達分子(サイトカインシグナル抑制因子(SOCS)3)を有意に発現した(0.007±0.001対0.003±0.0003RU、p<0.001)。したがって、IFN−γでの刺激により、マトリックス包埋HAE上でMHC IIが有意により低く発現した(37±5対68±4%、p<0.001)。IFN−γ受容体発現レベルが変化しないにも関わらず(p=0.39)、基質接着により、ヤヌスキナーゼ1および2ならびにシグナル伝達性転写因子1のIFN−γ誘導性リン酸化は軽減した。この後に、マトリックス包埋HAE中でのインターフェロン調節因子1(CIITA)(0.01±0.004対0.03±0.004RU、p<0.005)、およびHLA−DR(0.17±0.04対0.27±0.05RU、p<0.02)の発現が減少した。マトリックス包埋HAE上のMHC II発現の軽減により、同種T細胞の増殖を誘導する能力が弱まった(4152±225対19619±327cpm、p<0.001)。
【0136】
興味深いことに、三次元マトリックスに包埋した内皮細胞は、認められたTh2駆動免疫応答をほぼ完全に減少させ、溶解活性を弱くし、ナイーブT細胞のエフェクター細胞への分化を弱化する。前の結果によれば、これらのデータから、細胞のGelfoam包埋により、MHCクラスII分子ならびに同時刺激分子および接着分子の発現レベルの低下を介したT細胞レベルでの免疫活性化によって免疫防御が得られることが示唆される。
【0137】
リンパ球増殖および溶解活性の調整
ポリスチレンウェル上で成長したか、Gelfoam中に包埋されたブタ大動脈内皮細胞を、96ウェルプレート中に5×104細胞/ウェルで播種し、40ng/mlブタIFN−γで48時間刺激し、その後にマイトマイシンC(Sigma、50μg/mlで30分間)で処置して、バックグラウンド増殖を防止した。ヒトCD4+リンパ球を、製造者の説明書にしたがってCD4+T細胞単離キットII(Milenyi Biotec,Germany)を使用した負の選択によって精製し、2×105細胞/ウェルで添加した。いくつかの実験では、HLA−DP、DQ、DRに指向するマウス抗体は、MHCクラスII分子を介して活性化を遮断した。6日目に、16時間のパルス(1μCi/ml、Amersham)によって3[H]−チミジン組み込みを測定した。マイトマイシン処置ブタ大動脈内皮細胞、培地、またはT細胞のみのチミジン取り込みを、ネガティブコントロールとして使用した。
【0138】
in vivoでのマウスのリンパ球溶解活性を評価するために、脾臓の単離および評価を行った。各群由来の4匹のマウスの脾臓を、ブタ大動脈内皮細胞移植から28日後に層流フード中で無菌的に単離した。器官をいくつかの小片に切断した。19ゲージの針を備えた滅菌シリンジでの懸濁液の数回の引き抜きおよび放出によって、塊をさらに分散させた。その後、200μmメッシュのナイロン篩によって懸濁液を放出した。細胞を、RPMI(2mM L−グルタミン、0.1M HEPES、200U/mlペニシリンG、200μg/mlストレプトマイシン、および5%加熱不活化ウシ血清、Life Technologiesを含む)で2回洗浄し、直ちに使用した。
【0139】
in vivoでのマウスにおけるリンパ球溶解活性をさらに評価するために、カルセイン−AM放出アッセイを行った。注射細胞と同種由来のブタ大動脈内皮細胞を、最終濃度2×104/ウェルで完全培地中に再懸濁し、15μMカルセイン−AM(Molecular Probes)と37℃で40分間時々撹拌しながらインキュベートした。完全培地で2回の洗浄後、エフェクター細胞としての脾臓細胞を、最終濃度5×105/ウェルで添加した。自発的放出および最大放出を、コントロールとしての完全培地中に標的細胞のみを含む6つの複製ウェルおよび最後の20分間の培地+2%TritonX−100中に標的細胞を有する6つのウェルを試験した。37℃/5%CO2で3時間のインキュベーション後、サンプルを、Fluoroskan Ascent FLデュアルスキャニングマイクロプレート蛍光光度計(Thermo Electron Corparation,TX)を使用して測定した。データを、任意蛍光単位(AFU)として示した。比溶解(specific lysis)を、式[(試験放出−自発放出)/(最大放出−自発放出)]×100にしたがって計算した。
【0140】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞により、リンパ球増殖が軽減された。組織培養プレート中で成長させたかGelfoam中に包埋した未処置およびINF−γ処置ブタ大動脈内皮細胞(40ng/ml、48時間)に対する単離ヒトCD4+T細胞の増殖応答を、チミジン組み込みによってアッセイした。IFN−γで予め処置したブタ大動脈内皮細胞への曝露後に認められた強いCD4+T細胞増殖は、ブタ大動脈内皮細胞がマトリックス包埋された場合にほぼ消失した(17087.2±3749.75対5367.8±1976.3cpm、p<0.01)。MHCII抗体の存在により、IFN−γ処置ブタ大動脈内皮細胞に応答したリンパ球増殖が65%まで遮断され、これは、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞に匹敵するレベルであった。マイトマイシン処置ブタ大動脈内皮細胞は、培養6日後に有意な増殖は認められず(61±13cpm)、単離CD4+T細胞のみも同様であった(83±27cpm)。
【0141】
同様に、三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAEの注射および三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのマウスのリンパ球溶解活性を軽減させた。3つの異なる処置群由来にマウス脾臓由来のリンパ球を、ブタ大動脈内皮細胞移植から28日後に単離した。ドナーブタ大動脈内皮細胞をカルセイン−AMで標識し、内皮細胞溶解を、リンパ球との同時インキュベーション後のカルセイン蛍光放出によって測定した。純粋なブタ大動脈内皮細胞の注射後(36.8±3.9%)および同時ブタ大動脈内皮細胞注射後(33.9±4.7%)のマウス由来のリンパ球は、ブタ大動脈内皮細胞−Gelfoam構築物の移植後(22.4±4.2%、p<0.05;図2)のマウスから単離したリンパ球と比較して、最も高い溶解活性を示した。
【0142】
図2は、遊離PAEを投与したマウス由来の脾臓細胞をグラフで示し、マトリックス包埋PAEと比較した場合、溶解活性が有意に増加している。遊離PAEでのマウスの再攻撃誘発により、単離脾臓細胞の異種溶解活性が有意に増加した。
【0143】
Th2サイトカイン産生細胞およびサイトカインの調整
免疫スポットプレート(Millipore,Bedford,MA)を、5μg/mlの抗マウスインターフェロン(IFN−γ)、抗マウスインターロイキン(IL)−2、抗マウスIL−4、または抗マウスIL−10mAb(全てBD Pharmingen)を含む滅菌PBSで一晩コーティングした。次いで、プレートを、フェノールレッドを含まないが、10%加熱不活化ウシ血清を含む完全RPMI培地で2時間ブロッキングした。次いで、脾臓細胞(0.5×106個を含む100μl完全RPMI培地)および移植のために使用したブタ大動脈内皮細胞と同一の株(0.5×106個を含む100μl完全RPMI培地)を、各ウェルに入れ、5%CO2中にて37℃で48時間培養した。脱イオン水およびその後の0.05%Tweenを含むPBS(PBST)での洗浄後、2μg/mlのビオチン化抗マウスIFN−γ、抗マウスIL−2、抗マウスIL−4、または抗マウスIL−10mAb(全てBD Pharmingen)を、それぞれ一晩添加した。次いで、プレートを、PBSTで3回洗浄し、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合ストレプトアビジン(BD Pharmingen)と1時間インキュベートした。PBSTおよびその後にPBSで4回洗浄後、3−アミノ−9−エチル−カルバゾール(BD Pharmingen)を使用してプレートを発色させた。得られたスポットを、コンピュータ支援酵素結合免疫スポット画像分析器(Cellular Technology Ltd.,ORT)にて計数した。培地、脾臓細胞、またはブタ大動脈内皮細胞のみを含むウェル中のスポット数を、異種応答から引いて、データ分析におけるバックグラウンドを明らかにした。
【0144】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAEの注射および三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのマウスのTh2サイトカイン産生細胞を軽減させた。Th1サイトカイン(IFN−γ、IL−2)産生細胞およびTh2サイトカイン(IL−4、IL−10)産生細胞の頻度を、異なる形態のブタ大動脈内皮細胞の移植後の動物から回収した脾臓細胞におけるELISPOTアッセイによって測定した。移植後28日目に、Th2サイトカイン産生細胞の頻度は、遊離ブタ大動脈内皮細胞または空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスから単離した脾臓細胞と比較して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスから単離した脾臓細胞で有意に低かった(IL−4:p<0.0001、IL−10<0.001;図3A)。対照的に、3つの群から単離した脾臓細胞におけるTh1サイトカイン産生細胞の頻度に有意差は認められなかった(図3B)。
【0145】
図3Aは、遊離PAE、マトリックス包埋PAE、または空のGelfoamに隣接したPAE注射を使用したマウス移植後のレシピエントにおける異種抗原特異的サイトカイン酸生細胞の頻度をグラフで示す。28日目の3つの群で、IFN−γおよびIL−2産生T細胞の頻度に有意差は認められなかった。しかし、マトリックス包埋PAEでの再攻撃誘発により、異種抗原特異的IFN−γおよびIL−2産生T細胞の有意な増加が誘発される。
【0146】
図3Bは、それぞれ第1の移植および第2の移植から28日後の各処置群の1匹のマウスの代表的なELISPOTウェルを示す。PAEに応答したIL−4産生を測定した。各ウェル中のIL−4スポット数を、コンピュータ支援画像分析によって決定した。
【0147】
図3Cは、遊離PAEのレシピエントが28日目にマトリックス包埋PAEのレシピエントと比較して異種反応性IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度を減少させたことをグラフで示す。遊離PAEまたは空のGelfoamマトリックスに隣接したPAEでの再攻撃誘発により、128日目に異種抗原特異的IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度が有意に増加した。
【0148】
エフェクター細胞の調整
レシピエントから回収した脾臓細胞を、FACS緩衝液で2×106/mlの濃度に再懸濁した。細胞を、抗CD4FITC(クローンL3T4)、抗CD8FITC(クローンLy−2)、抗CD44 R−PE(クローンLy−24)、抗CD62Lアロフィコシアニン(クローンLy−22)、およびアイソタイプコントロール(全てBD PharMingen)で染色した。前述のように、CD44highおよびCD62Llowを発現するCD4+およびCD8+エフェクター細胞を列挙した。
【0149】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、in vivoでのマウスの異種拒絶を防止した。異種反応性CD4+およびCD8+T細胞の生成および機能に及ぼすマトリックス包埋の影響を決定するために、本発明者らは、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植後、生理食塩水懸濁細胞ペレットの移植後、または移植から28日後に空のGelfoamに隣接したペレットとして処置したマウス脾臓中に見出されるCD62LlowCD44high数を測定した(図4)。CD4+およびCD8+エフェクター細胞は、CD62LlowCD44high細胞と確実に同定された。CD62LlowCD44highの比率は、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスと比較して、遊離ブタ大動脈内皮細胞−レシピエントおよび空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスで有意に増加した。CD4+CD62LlowCD44highT細胞の頻度は、全群におけるCD8+エフェクター細胞より多い(1.7〜2.3の比)。
【0150】
図4Aは、遊離PAEを投与したマウスにおけるCD4+およびCD8+エフェクター細胞が有意に増加したプロットのグラフである。CD4+エフェクター細胞は、28日目および128日目でCD8+T細胞よりも多い。マウスから回収したCD4+脾臓細胞を、エフェクターT細胞のマーカーとしてCD62LおよびCD44を使用したフローサイトメトリーによって分析した。移植から28日後の遊離(a)、マトリックス包埋(b)、またはGelfoamに隣接したPAE(c)を投与したマウス由来の代表的なプロット。
【0151】
図4Bは、エフェクター細胞の拡大が遊離PAEを投与したマウスにおける再攻撃誘発後に増加するが、マトリックス包埋PAEでは増加しないことをグラフで示す。
【0152】
異種拒絶および免疫学的記憶の調整
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、非血管化異種組織の移植後に免疫学的記憶を生じた。Th1サイトカインは、Th2駆動体液性応答の下方制御による異種拒絶の防止において重要な役割を果たす。これに関して、データは、再攻撃誘発後に組織操作内皮細胞がブタ大動脈内皮細胞特異的IgG2a抗体の有意な増加および異種反応性Th1産生脾臓細胞の有意な増加を誘発することを証明する。
【0153】
第1の移植から100日後に、各群の残りのマウスに、その最初に遭遇したものと同一のブタ大動脈内皮細胞で再攻撃誘発した。生理食塩水懸濁細胞ペレットまたは空のGelfoamに隣接したペレットを投与したマウスは、第1の一連の移植後に認められた応答を超える有意なIgG1駆動ブタ大動脈内皮細胞特異的抗体応答を示した(図5A)。たった1週間で、IgM抗体放出が認められた(図5B)。非常に対照的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスは、ブタ大動脈内皮細胞特異的抗IgG1およびIgMレベルの増加は認められず、他の2つのマウス群で存在しなかったブタ大動脈内皮細胞特異的IgG2a抗体の有意な放出が示された(図5C)。
【0154】
図5A、5B、および5Cは、遊離PAEまたはGelfoamに隣接したPAEでの再攻撃誘発マウス(移植から128日後についてはn=12/群、156〜190日後についてはn=6/群)が、マトリックス包埋PAEでの再攻撃誘発と比較して、PAE特異的IgG1抗体の形成を有意に増加したことをグラフで示す(図5A)。再攻撃誘発は、PAE特異的IgM形成に影響を及ぼさず(図5B)、3群間にPAE特異的IgG2a抗体の有意差は認められなかった(図5C)。
【0155】
これらの結果と一致して、遊離ブタ大動脈内皮細胞または空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞注射を投与したマウス由来の単離脾臓細胞は、再攻撃誘発から28日後にブタ大動脈内皮細胞を溶解する能力の有意な増加を示したのに対して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の第2のインプラントを投与したマウス由来の脾臓細胞の溶解能力は、第1の移植後よりも有意に低かった(図6)。異種反応性IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度は、遊離ブタ大動脈内皮細胞の再移植後のマウスで有意に増加し、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発後のTh2産生脾臓細胞の頻度は変わらなかった。しかし、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発により、第1の一連の移植後よりも高い頻度で異種反応性IFN−γおよびIL−2産生脾臓細胞が誘導された。
【0156】
図6は、マトリックス包埋またはMHCII遮断がPAEに曝露したマウス脾臓細胞の増殖を非刺激レベルに修復することをグラフで示す。IFN−γに応答したマウス脾臓細胞増殖は、PAEを刺激した。マトリックス包埋内皮細胞またはMHCII抗体の存在は、IFN−γ処置PAEに応答した脾臓増殖を約79%まで遮断した。各値を、平均±SDを示す。
【0157】
さらに、再攻撃誘発から28日後に、CD4+エフェクター細胞の比率は、遊離ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスでさらに増加し、空のGelfoamインプラントに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスで有意に増加するか、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスでは不変のままであった。CD8+エフェクターT細胞についても同一パターンが明らかであった。
【0158】
PAEを使用したナイーブマウス脾臓細胞のin vitro刺激により、遊離内皮細胞と比較して、IFN−γ刺激マトリックス包埋内皮細胞とインキュベートした場合に脾臓細胞の有意に弱化した増殖応答が明らかとなった。MHC II抗体の存在により、IFN−γ処置PAEに応答した脾臓細胞増殖が79%まで遮断され、これは、マトリックス包埋PAEに匹敵するレベルであった。
【0159】
全体的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスの脾臓サイズは、研究期間の終了時の他の群よりも小さいようであった(62.9±9.6、112.7±16.9、102.5±18.8mm3;p<0.005)。
【0160】
したがって、ナイーブT細胞と残りの内皮細胞との間の同族相互作用により、in vitroおよびin vivoで耐性を示すことができる。これらのデータは、非血管化異種組織の移植後の免疫学的記憶の形成を報告している。免疫学的記憶を、抗原特異的IgG1およびIgMレベル、脾臓細胞の溶解活性、およびエフェクターT細胞への分化の増加傾向の有意な増加によって特徴づけた。対照的に、内皮細胞のマトリックス包埋でのマウスの再攻撃誘発により、脾臓細胞の溶解能力が軽減し、エフェクターCD4+およびCD8+細胞の頻度は変わらなかった。マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発が抗PAE IgG1およびIgMの生成に影響を及ぼさなかったのに対して、IgG2aレベルは有意に増加した。
【0161】
フラクタルキン発現の調整
ケモカインおよび接着分子は、血管壁への循環免疫細胞の動員で重要である。フラクタルキンは、走化性および接着機能の両方を有し、アテローム性動脈硬化症、心臓同種移植片拒絶、糸球体腎炎、および関節リウマチの病理発生に関与する。本発明者らは、RT−PCR、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、およびELISAによって遊離およびマトリックス包埋ヒト大動脈内皮細胞(HAE)の間のフラクタルキンの発現および分泌を比較した。サイトカイン刺激HAEおよび51Cr標識ナチュラルキラー(NK)細胞を使用して接着アッセイを行った。
【0162】
HAEを、37℃の5%CO2を含む加湿大気中にて100U TNFα/ml(Sigma)および100U IFN−γ/ml(Roche)で刺激し、この条件により、培養内皮細胞中で最大レベルのフラクタルキンが得られることが証明された。
【0163】
フローサイトメトリー:内皮細胞の単層またはGelfoam中にマトリックス包埋した内皮細胞を、表示の期間でTNFαおよびIFN−γでの刺激後に採取した。培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄した。単層を、1mM PBS/EDTA中で5分間インキュベートし、穏やかな震盪によって破壊した。Gelfoam成長細胞をコラゲナーゼI型(Worthington Biochemical,NJ)で消化し、CX3CL1発現に影響を及ぼさないことが示された。細胞懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定した。2回の洗浄工程後、細胞を、サポニン緩衝液(0.1%サポニン、0.05%NaN3を含むハンクス平衡塩溶液)に再懸濁し、遠心分離し、上清を破棄した。次いで、HAEを、FITC抱合マウス抗ヒトCX3CL1(IgG1、クローン51637、R&DSystems,Minneapolis,MN)または適合したアイソタイプコントロール(クローンMOPC−31、Pharmingen)と4℃で45分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0164】
ウェスタンブロット分析:細胞の単層またはコラゲナーゼ処理によってGelfoamマトリックスから消化した細胞を、PBS緩衝液で洗浄し、細胞溶解物を、溶解緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl(pH7.5)、1%TritonX−100、1%デオキシコレート、0.1%SDS、およびプロテアーゼインヒビター;Roche)とのインキュベーションによって調製した。サンプルを、4〜20%調製済みTris−HClゲル(BioRad Laborataories,Hercules,CA)にて分離した。フラクタルキン検出のためのポジティブコントロールを使用し、これは、85〜90kDaの形態のカルボキシ末端の57アミノ酸を欠く組換えヒトフラクタルキン(R&D Systems)からなる。次いで、タンパク質を、グリシン−Trisトランスファー緩衝液の使用によってPVDF膜(Millipore,Billerica,MA)に移した。ブロット膜を、StartingBlockのブロッキング緩衝液(Pierce,Rockford,IL)で1時間ブロッキングした。フラクタルキン検出のために、ブロッキングした膜を、ブロッキング緩衝液で200倍希釈したヤギ抗ヒトフラクタルキンポリクローナル抗体(R&D Systems)と4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜を、洗浄緩衝液(0.05%Tween20を含むPBSからなる)にて室温で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で3000倍希釈した二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したウサギ抗ヤギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA))と室温で2時間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液を5回交換して洗浄した。フラクタルキンバンドの検出のために、ブロットを、製造者の説明書にしたがって化学発光基質(Western Lighting Chemiluminescence Reagent Plusキット、Perkin−Elmer,Boston,MA)とインキュベートし、その後、X線フィルム(Kodak X−Omat Blue XB−1)に露光した。
【0165】
ELISA:サイトカイン刺激後の内皮細胞単層またはGelfoam中に包埋した内細胞由来の馴化培地を、表示の期間で採取した。分泌されたフラクタルキンを、市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)検出キット(R&D Systems)を使用して検出した。簡潔に述べれば、96ウェルImmulonプレート(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)に、100μlの4μg/mlのマウス抗ヒトフラクタルキン捕捉抗体を含むPBSを室温で一晩コーティングした。洗浄緩衝液(PBS−0.05%Tween20)で3回の洗浄後、プレートを、1%ウシ血清アルブミン−5%スクロースを含むPBS中で3時間ブロッキングした。100μlの標準(420ng/mlの組換えヒトフラクタルキン(キットに含まれる)を希釈緩衝液での2倍連続希釈物として希釈して使用した)または馴化培地を添加し、その後、室温で一晩インキュベートした。3回の洗浄工程後、プレートを、100μlの500ng/mlマウス抗ヒトフラクタルキン検出抗体を含むPBSと室温で2時間インキュベートし、その後、100μlの西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したストレプトアビジンと室温で30分間インキュベートした。次いで、テトラメチルベンジジン(R&D Systems)と混合した100μl過酸化水素溶液の添加によって発色させた。次いで、450nmの波長の光学密度を読み取った。
【0166】
NK細胞−内皮細胞結合アッセイ:HAEを、6ウェルプレート(6×105細胞/ウェル)中でコンフルエンスまで成長させるかGelfoamマトリックス中に包埋し、5%CO2を含む大気中で100U TNFα/mlおよび100U IFN−γ/mlにて37℃で20時間活性化し、PBSで1回洗浄した。Gelfoamマトリックスを、コラゲナーゼI型で消化し、細胞を計数し、6×105細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレート中に1時間プレートして接着させた。単離したNK細胞を、10μCiの51Cr/106NK細胞とインキュベートし、PBSで洗浄し、400μlの培地のみまたは20μg/mlの抗CX3CR1抗体を含む培地に20分間再懸濁した(5×105/ウェル)。NK細胞懸濁液を、穏やかに震盪する条件下で(10サイクル/分)内皮細胞の単層に添加した。30分後、培地を破棄し、ウェルを穏やかに洗浄した。接着性細胞を、1%Tritonを含むPBSでの処理によって溶解した。総結合を、ガンマカウンターを使用した1分あたりの個別のウェル会合数の測定によって決定した。示した分析は、少なくとも3回の独立した実験の代表であった。
【0167】
マトリックス包埋は、フラクタルキンmRNAの誘導を抑制した。組織培養ポリスチレンプレート上または三次元マトリックス内で成長した休止期の内皮細胞は、フラクタルキンを発現しなかったのに対して、TNFαおよびIFN−γでの組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAEの刺激により、時間依存様式でフラクタルキンmRNA発現が誘導された。組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAE中のフラクタルキンmRNAは、12時間の刺激で発現がピークに達し、細胞は、24時間の刺激後に有意な量のmRNAを依然として発現した。対照的に、フラクタルキンmRNA発現の誘導は、全試験時点で、マトリックス包埋内皮細胞で有意に減少した。12時間のサイトカイン刺激後にも最大に到達したが、組織培養ポリスチレンプレート上でコンフルエンスまで成長した内皮細胞の発現レベルはわずか約10%であった(p<0.0001)。
【0168】
マトリックス包埋は、HAE中のフラクタルキンタンパク質発現を阻害した。ウェスタンブロット分析により、組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞と比較して、Gelfoamマトリックス内に包埋したHAE中でフラクタルキンのより低いタンパク質発現レベルが明らかとなった。非刺激内皮細胞および4時間刺激した内皮細胞で検出可能なフラクタルキン特異的タンパク質バンドは認められなかった。組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞は、8時間の刺激後にフラクタルキンを発現し、TNFαおよびIFN−γでの16〜24時間の刺激によって最大発現を示した。マトリックス包埋HAE中のタンパク質発現は、後に(12時間)検出することができ、サイトカイン刺激から24時間以内により弱くなり、消滅した。
【0169】
ウェスタンブロットの結果と同様に、フローサイトメトリー分析により、組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAE中で有意により高いフラクタルキンタンパク質発現レベルが明らかとなった。マトリックス包埋内皮細胞上の最大発現がサイトカイン刺激から16時間後に到達したのに対して(22.8±5.7%)、組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞は、TNFαおよびIFN−γでの刺激から20時間後にフラクタルキン発現が最大に到達し、有意に増加した(76.5±8.6%;p<0.0001)。
【0170】
実験データは、サイトカイン刺激したマトリックス包埋内皮細胞からのフラクタルキン分泌の減少を示す。フラクタルキンレベルを、ELISAあによる内皮培養上清に放出された可溶性フラクタルキンの蓄積レベルとしても測定した。可溶性フラクタルキンレベルは、ウェスタンブロットおよびフローサイトメトリー分析でのレベルと同等であった。組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAEから分泌されたフラクタルキンは、マトリックス包埋HAEによって分泌されたレベルを有意に超えた(培養24時間後で32.2±2.4対13.8±1.7pg/ml;p<0.0002)。
【0171】
実験データは、マトリックス包埋内皮細胞へのNK細胞の接着の減少を示す。本発明者らの所見の機能的妥当性を研究するために、51Cr標識NK細胞および組織培養ポリスチレンプレート上で成長したサイトカイン刺激HAEまたはマトリックス包埋を使用した接着アッセイを次に行った。ガンマカウンティングによって明らかなように、Gelfoam内包埋HAEよりも有意により多数のNK細胞が組織培養ポリスチレンプレート上で成長した同種HAEに接着した(6335±420対1735±135cpm;p<0.0002;図5)。20μg/mlの抗CX3CL1の添加によってサイトカイン刺激HAEへのNK細胞の接着が約74%まで有意に増加したので(p<0.005対抗CX3CL1なし)、活性化内皮細胞へのNK細胞接着についてのフラクタルキン発現の重要性を証明することができる。NK細胞は、組織培養ポリスチレンプレートやGelfoamのみに接着しなかった。
【0172】
増強された免疫反応性マウスにおける免疫応答の調整
内皮細胞注射によって、マウスの抗体形成が誘導された。ナイーブB6マウスでは、5×105個のPAEの3回の連続皮下注射により、生理食塩水注射と比較して、循環内皮細胞特異的IgG1(2210±341対53±12の平均蛍光強度(MFI)およびIgM抗体(136±39対49±14MFI;p<0.02)が上昇した。第1のPAE注射から42日後のいずれかのマウス群の血清中に検出可能なPAE特異的IgG2a抗体は認められなかった(データ示さず)。
【0173】
マトリックス包埋内皮細胞は、体液性免疫反応を防止した。マトリックス包埋異種内皮細胞の移植は、遊離細胞の移植と非常に対照的に、ナイーブマウスにおいて有意な体液性免疫反応を誘導することができなかった(42日目、IgG1:210±102対735±327MFI;p<0.001;IgM:60±11対299±51 MFI;p<0.001;図7Aおよび7B)。予備感作した連続攻撃誘発マウスへの遊離PAEの注射により、体液性免疫反応が上昇し、IgG1抗体レベルが顕著に増加し(3795±448 MFI;p<0.0002対ナイーブマウス)、PAE特異的IgMがわずかに増加した(164±28MFI)。非常に対照的に、予備感作した連続攻撃誘発マウスへのマトリックス包埋PAEの移植は、PAE特異的抗体を増加させなかった。さらに、注射PAEに特異的な抗体レベルは経時的にゆっくり減少した(IgG1:1578±334 MFI;p<0.0005対遊離PAE;IgM:69±5 MFI;p<0.01対遊離PAE;図7Aおよび7B)。4つの処置群においてPAE特異的IgG2a抗体の増加は認められず(データ示さず)、異種移植でのTh2応答が優勢であるという依然の報告が支持された。
【0174】
図7Aおよび7Bは、非包埋PAEまたはマトリックス包埋PAEの皮下移植後のナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウス中の循環PAE特異的IgG1(図7A)およびIgM(図7B)をグラフで示す。全マウス由来の結果のグラフ(移植から70日後についてはn=12/群、71〜132日後についてはN=6/群)は、マトリックス包埋PAE移植と遊離PAE移植との間の有意差を証明する。マトリックス包埋PAE移植後の抗体レベルはゆっくり減少した。データを、平均値±SDとして示す。
【0175】
マトリックス包埋内皮細胞は、細胞性免疫の弱い誘導因子である。ELISPOT分析により、遊離PAEの移植から90日後にナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスで高頻度での異種Tヘルパー細胞(Th)2−サイトカイン(IL−4、IL−10)産生脾臓細胞が明らかとなったが、マトリックス包埋PAEの移植後はそうではなかった。予備感作した連続攻撃誘発マウスにおける異種反応性脾臓細胞の頻度は、遊離PAEを投与したナイーブマウスにおける異種反応性脾臓細胞の活性化および分化を超えた(IL−4:907±59対680±129;p<0.02;IL−10:1096±94対888±151スポット数;p<0.02;図8Aおよび8B)。さらに、ナイーブマウスにおけるマトリックス包埋PAEの移植と比較して、予備感作した連続攻撃誘発マウスへのマトリックス包埋PAEの移植により、IL−4はわずかしか誘発されなかったが(322±75対199±99スポット数;p<0.05;p<0.0005対遊離PAE;図8A)、IL−10産生異種反応性脾臓細胞ではそうではなかった(403±142対451±135スポット数;p=0.27;p<0.001対遊離PAE;図8B)。遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較して、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作した連続攻撃誘発マウス中のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞の存在が有意により少なかった(p<0.001)。Th1−サイトカイン(IFN−γおよびIL−2)産生脾臓細胞の頻度は、4つの処置群の間で有意に異ならならなかった。このことは、異種反応性におけるTh2の役割が優勢であることをさらに支持している(データ示さず)。
【0176】
図8Aおよび8Bは、ナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスにおける遊離PAEまたはマトリックス包埋PAEの移植後のレシピエント中の異種反応性サイトカイン産生細胞の頻度をグラフで示す。データを、平均値±SDとして示す。ナイーブレシピエントおよび遊離PAEの予備感作した連続攻撃誘発レシピエントは、マトリックス包埋PAEレシピエントと比較して、IL−4(図8A)およびIL−10(図8B)産生脾臓細胞の頻度が有意に増加した。
【0177】
非包埋PAEを投与したマウス中のサイトカイン産生脾臓細胞の増加は、長期にわたってCD4+およびCD8+エフェクターT細胞の増加と同等であった(CD4+:44±2ナイーブマウス、54±4%予備感作マウス、p<0.05;CD8+:20±2;21±2%;図9Aおよび9B)。したがって、マトリックス包埋PAEに曝露したナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスにおけるCD44high/CD62LlowT細胞へのT細胞の分化が有意に弱まった(CD4+:22±2ナイーブマウス、21±3%予備感作マウス、p<0.01対遊離PAE;CD8+:12±2;14±3%:p<0.02対遊離PAE;図9Aおよび9B)。全処置群において、CD4+は、CD8+エフェクターT細胞より1.7〜2.6倍多かった。132日目の全処置群を通して、Th2サイトカイン産生脾臓細胞の頻度とCD4+CD44high/CD62Llow(IL−4:r=0.81;p<0.0001;IL−10 r=0.88;p<0.0001;図10)およびCD8+CD44high/CD62Llowエフェクター細胞(IL−4:r=0.79;p<0.0001;IL−10 r=0.86;p<0.0001)へのT細胞分解の範囲との間に強い相関関係が認められた。
【0178】
図9Aおよび9Bは、遊離PAEを投与したマウスにおける有意に増加したCD4+(図9A)およびCD8+(図9B)エフェクター細胞をグラフで示す。マウスから回収した脾臓細胞を、エフェクターT細胞のマーカーとしてCD62LおよびCD44を使用したフローサイトメトリーによって分析した。内皮細胞をマトリックス包埋した場合、ナイーブマウスと予備感作した連続攻撃誘発マウスとので相違は認められなかった。データを、平均値±SDとして示す。
【0179】
図10Aおよび10Bは、Th2−サイトカイン産生脾臓細胞の頻度とエフェクター細胞へのT細胞の分化の範囲との間のスピアマン相関である。図10Aは、IL−2サイトカインの頻度をグラフで示す。図10Bは、IL−10サイトカインの頻度をグラフで示す。相関により、サイトカインレベルがエフェクターT細胞誘導と直線的に相関することが示唆される。密度の楕円領域は、95%信頼区間を示す。
【0180】
マトリックス包埋内皮細胞を、溶解損傷から保護する。宿主リンパ球が異種内皮細胞を損傷する能力を、70日目および132日目に特徴づけた。カルセイン放出は、25:1のエフェクター:標的比で横這いになった。この比について、内皮細胞の損傷は、70日目にマトリックス包埋PAEの代わりに非包埋PAEを投与した場合、ナイーブマウスの1.6倍であり、予備感作マウスの1.7倍であった(p<0.001)。これらの比は、132日後にそれぞれ1.9および2.3に増加した(p<0.0005;図11)。注目すべきは、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作マウスにおける内皮損傷範囲が、遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較した場合、有意に低かったことである(20.9±2.3対37.1±3.4%AFU;p<0.001;図11)。
【0181】
宿主リンパ球が異種内皮細胞を損傷する能力を、70日目および132日目に特徴づけた。図11は、内皮細胞が遊離またはマトリックス包埋である場合のナイーブマウスおよび予備感作マウスにおける内皮細胞の損傷度をグラフで示す。溶解を介した内皮損傷は、遊離PAEと比較して、マトリックス包埋PAEを投与したナイーブマウスおよび予備感作マウスで有に減少する。2×104個のPAEをカルセインで標識し、70日後および132日後にそれぞれ単離した5×105個の脾臓細胞とインキュベートした。
【0182】
カルセイン放出は、25:1のエフェクター:標的比で横這いになった。この比について、内皮細胞の損傷は、70日目にマトリックス包埋PAEの代わりに非包埋PAEを投与した場合、ナイーブマウスの1.6倍であり、予備感作マウスの1.7倍であった(p<0.001)。これらの比は、132日後にそれぞれ1.9および2.3に増加した(p<0.0005;図11)。注目すべきは、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作マウスにおける内皮損傷範囲が、遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較した場合、有意に低かったことである(20.9±2.3対37.1±3.4%AFU;p<0.001;図11)。
【0183】
樹状細胞成熟の調整
樹状細胞は、免疫応答の開始および調節を共に行う固有の能力を有する抗原提示細胞である。成熟樹状細胞は、エフェクターおよび記憶細胞へのT細胞の分化を促進するのに対して、未成熟樹状細胞は、寛容原性様式で(自己)抗原を提示する。樹状細胞は、種々の内皮媒介性疾患を意図し、内皮細胞の活性化によってその成熟を誘導する。樹状細胞は免疫反応で重要であるので、内皮細胞駆動樹状細胞成熟は内皮細胞−マトリックス接触に依存するということになる。
【0184】
樹状細胞の調製、培養、および成熟:標準的な手順によって健康なボランティアから末梢血を回収し、Ficoll−Paque(Sigma Chemicals,St.Louis,MO)にて分画した。樹状細胞を駆動するために、総末梢血単球(PBMC)を、2×106細胞/mlで、完全培地(Life Technologies)を含む組織培養フラスコ中で1.5時間培養した。インキュベーション後、非接着性細胞を、1×HBSS溶液(Life Technologies)での十分な洗浄によって除去した。次いで、残存する接着性細胞を、20ng/mlインターロイキン(IL)−4および20ng/ml GM−CSFを含む完全培地(Peprotech,Rocky Hill,NJ)中で、CO2インキュベーターにて37℃で5日間培養した。得られた細胞は、半接着から非接着のMHCIIlow/CD14−/low/CD83−であった(データ示さず)。
【0185】
さらなる成熟のために、接着および非接着樹状細胞を採取し、強く洗浄し、計数し、5×105個の樹状細胞を、サイトカインカクテル(10ng/ml IL−1β、1000U/ml IL−6、20ng/ml IL−4、GM−CSF、およびTNF−α;全てPreprotech)、1.5×105個のHAE、または1.5×105個のPAEで48時間刺激した。内皮細胞は、組織培養プレート上でコンフルエントまで成長した後の懸濁液またはGelfoamマトリックス内に包埋された表面接着物のいずれかとして存在した。各アッセイを、少なくとも4回繰り返した。成熟後、樹状細胞を、磁性ビーズ標識CD1a抗体(Miltenyi,Bergisch−Gladbach,Germany)を使用して、任意の夾雑内皮細胞から単離した。フローサイトメトリー分析により、単離DCの純度が98%であることが明らかとなった(データ示さず)。
【0186】
リアルタイムPCR:製造者に説明書にしたがってRNeasy Mini Kit(Qiagen,Valencia,CA)を使用して、単離樹状細胞および残存内皮細胞から総RNAを抽出した。相補DNAを、Applied Biosystems(Foster City,CA)のTaqMan逆転写試薬を使用して合成した。SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)および選択プライマーを使用したOpticonリアルタイムPCR装置(MJ Research,Waltham,MA)にてリアルタイムPCR分析を行った。反応由来のデータを収集し、相補Opticonコンピュータソフトウェアによって分析した。遺伝子発現の相対量を検量線を使用して計算し、GAPDHに対して正規化した。
【0187】
フローサイトメトリー:樹状細胞または内皮細胞の懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、FACS緩衝液(0.1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS、Sigma Chemicals;St.Louis,MO)に再懸濁した。標準的なフローサイトメトリー分析は、種々のマーカーの表面発現を評価した。以下のフィコエリトリン(PE)またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)と直接抱合したモノクローナル抗体を、淡色フローサイトメトリー分析で使用した:PE−CD1a(クローンHI149、IgG1)、FITC−CD3(クローンUCHT1、IgG1)、PE−CD14(クローンTUK4、IgG2a)、PE−CD31(クローンWM59、IgG1)、FITC−CD40(クローン5C3、IgG1)、FITC−CD54(クローン15.2、IgG1)、FITC−CD80(クローンBB1、IgM)、FITC−CD83(クローンHB15e、IgG1)、FITC−CD86(クローン2331、IgG1)、FITC−CD106(クローン51−10C9、IgG1)、FITC−HLA−DP、DQ、DR(クローンCR3/43、IgG1)、FITC−Toll様受容体(TLR)2(クローンTL2.3、IgG2a)、およびFITC−TLR4(クローンHTA125、IgG2a)。適切なアイソタイプコントロール抗体(マウスPE−IgG1、PE−IgG2a、FITC−IgG1、FITC−IgG2a、FITC−IgM)をそれぞれ使用した。抗体を、DakoCytomation(Carpinteria,CA)、Serotec(Raleigh,NC)、またはPharMingen(San Diego,CA)から購入した。染色後、細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、その後にFACScalibur装置およびCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson,Mountain View,CA)にて分析した。
【0188】
エンドサイトーシス活性:樹状細胞のエンドサイトーシス活性を、前に記載のように、FITC抱合デキストラン(分子量40.000;Molecular Probes,Eugene,OR)の取り込みによって測定した。簡潔に述べれば、種々の成熟状態の樹状細胞を、1mg/ml FITC抱合デキストランを含む完全培地中にて、特異的取り込みを測定するためには37℃で、非特異的結合を測定するためには4℃で1時間インキュベートした。次いで、上記のように細胞を強く洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0189】
混合リンパ球反応のアッセイ:非関連ドナー由来のCD3+T細胞を、製造者(Dynal Biotech,Lake Success,NY)の説明書にしたがって抗体枯渇および磁性ビーズを使用した負の選択によって総PBMCから調製した。フローサイトメトリーによって評価したところ、非磁性画分は、95%を超えるCD3+T細胞を含んでいた。2×105個CD3+T細胞/ウェルを、96ウェルの丸底プレート中に播種した。精製されたサイトカインまたは内皮細胞成熟樹状細胞を、γ照射し(137Cs源からの3000rad)、1×104、4×103、または2×103細胞/ウェルでT細胞に添加して、DC:T細胞の最終比を1:20、1:50、または1:100にした。5日目に、1μCiの3H−チミジン(Perkin−Elmer,Boston,MA)を、各ウェルに添加した。18時間後に細胞を採取し、3H−チミジン取り込みを、Packard TopCountγカウンター(GMI,Ramsey MI)を使用して定量した。
【0190】
ウェスタンブロット:樹状細胞からの分離後、内皮細胞をPBS緩衝液で洗浄し、細胞溶解物を、溶解緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl(pH 7.5)、1%Triton X−100、1%デオキシコレート0.1%SDS、およびプロテアーゼインヒビター;Roche,Indianapolis,IN)とのインキュベーションによって調製した。サンプルを、4〜20%調製済みTris−HClゲル(BioRad Laborataories,Hercules,CA)にて分離した。次いで、タンパク質を、グリシン−Trisトランスファー緩衝液の使用によってPVDF膜(Millipore,Billerica,MA)に移した。Jurkat(TLR2)またはHL−60ホールセル溶解物(TLR4、共にSanta Cruz Biotechnologies,Santa Cruz,CA)を、コントロールとして使用した。膜を、StartingBlockのブロッキング緩衝液(Pierce,Rockford,IL)で1時間ブロッキングした。ブロッキングした膜を、ウサギ抗ヒトTLR2(ブロッキング緩衝液で250倍希釈)またはTLR4抗体(200倍希釈、共にSanta Cruz Biotechnologies)と4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜を、洗浄緩衝液(0.05%Tween20を含むPBSからなる)にて室温で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で1000倍希釈した二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA))と室温で2時間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液を5回交換して洗浄した。TLRバンドの検出のために、ブロットを、製造者の説明書にしたがって化学発光基質(Western Lighting Chemiluminescence Reagent Plusキット、Perkin−Elmer,Boston,MA)とインキュベートし、その後、露光し、FluorChem SP(Alpha Innotech,San Leandro,CA)にて分析した。
【0191】
非接着性内皮細胞は、単球由来樹状細胞の成熟を指示した。前の所見と一致して、単球は、GM−CSFおよびIL−4中での5日間の培養後に成熟樹状細胞に分化した(データ示さず)。IL−1β、TNF−α、およびIL−6での48時間の長期サイトカイン刺激により、確立された樹状細胞成熟マーカーとしてのCD83の発現(2.2倍)と共に、同時刺激分子(CD40:成熟樹状細胞と比較して2.3倍、CD80:1.9倍、CD86:1.6倍)およびHLA−DR分子(1.5倍)が上方制御された。組織培養プレート中でのコンフルエンスまでの成長後の同種および異種内皮細胞の生理食塩水懸濁液への曝露により、サイトカインカクテルでの長期処置と類似の程度に単球由来樹状細胞の全成熟が誘導された。HAEまたはPAEのみで樹状細胞同時刺激分子発現が誘導され、これには、CD40(未熟樹状と比較して、HAE:2.1倍、PAE:2.5倍)、CD80(2.1倍、2.3倍;p<0.05対;サイトカイン刺激)、CD86(1.6倍、1.7)、HLA−DR(1.7倍、2.2倍;p<0.05対HAE、p<0.002対サイトカイン刺激)、およびCD83(2.6倍;p<0.05対サイトカイン刺激、3.2倍;p<0.02倍HAE、p<0.001対サイトカイン刺激)の増加を伴う。
【0192】
類似の様式で、樹状細胞TLR2およびTLR4の発現は、HAEの生理食塩水懸濁液(それぞれ、1.5倍および2.5倍)への曝露の際にサイトカイン刺激と同様またはそれを超える範囲(成熟樹状細胞と比較して、両TLRの1.5倍)に上方制御された。この効果は、非接着異種PAEとの樹状細胞の同維インキュベーション後にさらにより顕著になった(TLR2:2.4倍;p<0.05対サイトカインおよびHAE刺激、TLR4:3.0倍;p<0.05対HAE、p<0.001対サイトカイン刺激)。mRNA転写レベルについて類似の結果を得ることができる。さらに、サイトカインまたは非接着性内皮細胞で成熟させた樹状細胞は、IL 12 p40mRNAの有意な上方制御を示した(未成熟:0.03+0.02相対単位(RU)、サイトカイン刺激:0.23+0.03 RU、p<0.002、HAE刺激:0.31+0.05 RU、p<0.001、PAE刺激:0.28±0.03、p<0.002)。
【0193】
基質接着性内皮細胞とのインキュベーションにより、樹状細胞が不完全に成熟し、エンドサイトーシス活性が維持される。非接着性内皮細胞との同時培養と非常に対照的に、三次元マトリックス内に包埋された基質接着性HAEおよびPAEとの樹状細胞の同時細胞は、樹状細胞成熟が制限され、これらの受容細胞は、CD40(基質接着性HAE:未成熟DCと比較して1.5倍、p<0.02対非接着性HAE、基質接着性PAE:1.3倍、p<0.002対非接着性PAE)、CD80(基質接着性HAEおよびPAE:1.3倍、p<0.005対非接着性EC)、CD86(基質接着性HAE:1.1倍、PAE:1.2倍、共にp<0.005対非接着性EC)、CD83(基質接着性HAE:1.5倍、p<0.001対非接着性HAE、PAE:1.4倍、p<0.0002対非接着性PAE)、およびTLR4(基質接着性HAE:1.5倍、PAE:1.3倍、共にp<0.005対非接着性内皮細胞)の弱い上方制御しか示さなかった。基質−接着性内皮細胞は、樹状細胞上のHLA−DRおよびTLR2発現を全く誘導できなかった(p<0.005)。空のGelfoamマトリックスのみとのインキュベーションは、単球由来樹状細胞の成熟に効果がなかった(データ示さず)。リアルタイムPCR分析により、樹状細胞基質接着性同種および異種内皮細胞に曝露した場合に同一の不完全成熟パターンが明らかとなった。IL12 p40のインキュベーションは、樹状細胞が基質接着性内皮細胞で成熟されている場合に同様にわずかにより弱かった(HAE刺激:0.06±0.01、p<0.005、PAE刺激0.07±0.02、p<0.02)。
【0194】
未熟樹状細胞は、有効に抗原を捕捉し、高レベルのエンドサイトーシスを示した。単球をGM−CSFおよびIL−4中で培養した場合、FITC抱合デキストラン取り込みが増加した(423.3±121.8平均蛍光強度(MFI)、239.8±42.8 MFI、p<0.0001)。成熟は、典型的には、同時の抗原提示機能の増加およびエンドサイトーシス活性による抗原捕捉能力の減少によって達成される。デキストラン取り込みは、典型的には、サイトカイン刺激の継続(89.7±14.7 MFI、p<0.0001対5日目)および非接着性HAE(92±20.3MFI)またはPAE(82.4±16.5MFI)との同時インキュベーションによって減少する。非常に対照的に、内皮細胞が基質接着性三次元状態で存在する場合、樹状細胞はそのエンドサイトーシス活性を保持し、デキストラン取り込みが顕著に減少した(基質接着性HAE:203.2±11.3MFI、p<0.05対5日目、p<0.0001対非接着性HAE;基質接着性PAE:254.3±32 MFI、p<0.0001対非接着性PAE)。
【0195】
樹状細胞は、基質接着性内皮細胞との培養後にT細胞増殖活性が減少した。エフェクター細胞および記憶細胞へのT細胞分化を促進する能力は、樹状細胞の成熟度の重要な機能的マーカーである。サイトカイン処置された非接着性内皮細胞曝露樹状細胞が試験した全範囲の樹状細胞:T細胞比にわたってT細胞増殖を誘導するのに対して(74789±1777、HAE:97522±1630、およびPAE:101616±4302cpm)、この能力は、基質接着性HAE(18320±1000 cpm、p<0.002)およびPAE(20080±683cpm、p<0.0001)と同時インキュベートした樹状細胞で有意に弱まった。
【0196】
樹状細胞と同時培養した場合、基質接着性内皮細胞の活性化が減少した。リアルタイムPCR、フローサイトメトリー、およびウェスタンブロット分析により、樹状細胞との2日間の同時培養後にHAEおよびPAEの活性化の減少が明らかとなった。樹状細胞の磁性ビーズベースの単離後、残存細胞は、内皮細胞特異的マーカーCD31について純度が95%超であった(データ示さず)。リアルタイムPCRは、その非接着性対応物と比較した場合、基質接着性HAE上での接着分子、CD58、HLA−DR、およびTLR分子のmRNA発現レベルの減少を証明した。mRNA発現レベルの減少は表面および細胞内発現の減少と解釈され、非接着性HAEと比較した場合の基質接着性についてのICAM−1の発現は1/3.6であり(PAEについては1/1.3)、HAEについてのVCAM−1は1/4.9(PAE:2.7倍)であり、HAEについてのHLA−DRは1/16(PAE:1/23)であった。ウェスタンブロットの密度測定分析により、樹状細胞との48時間の同時培養後の基質接着性内皮細胞と比較した場合、非接着性内皮細胞において、TLR2発現(HAE:1.5倍、PAE:1.6倍;p<0.05)およびTLR4発現(HAE:2.3倍、PAE:2倍;p<0.01)の増加が明らかとなった。
【0197】
したがって、非接着性内皮細胞がサイトカインカクテルで認められた範囲と類似の範囲に単球由来樹状細胞の成熟を誘導したのに対して、基質接着性内皮細胞との同時インキュベーションにより、樹状細胞上の接着分子、同時刺激分子、およびHLA−DR分子のmRNA転写物およびタンパク質レベルの少しの上方制御しか誘導しなかった。基質接着性内皮細胞と同時インキュベートした樹状細胞はまた、直接成熟マーカーとして役立つIL12mRNAおよびCD83発現の上方制御を欠いた。基質接着性内皮細胞との同時培養後の未熟状態の樹状細胞は、デキストラン取り込み能力の維持によって映し出された。機能的に、非接着性内皮細胞に曝露された樹状細胞は、混合リンパ球ハンオウにおいて増強されたT細胞刺激活性を示し、基質接着性内皮細胞−成熟樹状細胞への曝露後のT細胞増殖は有意に弱かった。
【0198】
さらなる実験:免疫応答に及ぼす影響
移植拒絶の処置:正常な(免疫が犠牲になっていない)器官移植物レシピエント集団を同定する。集団を3群に分け、そのうちの1群に移植器官を受ける前に有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。第2の群に、移植器官を受けるのと同時に有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。第3の群は本発明の移植可能な材料を受けないが、移植物器官を受ける。免疫応答および/または炎症応答の軽減および/または改善を、血清サンプル中のT細胞リンパ球およびB細胞リンパ球の増殖の評価ならびに移植器官の許容の持続時間のモニタリングによって長期間モニタリングする。有効量の本発明の移植可能な材料を投与した候補は、リンパ球増殖の軽減および/または移植器官許容の持続時間の増加を示すと予想される。
【0199】
自己免疫疾患の処置:自己免疫疾患と診断された患者集団を同定する。集団を2群に分け、そのうちの1群に、有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。自己免疫応答および/または炎症応答の軽減および/または改善を、血清サンプル中のT細胞リンパ球およびB細胞リンパ球の増殖の評価ならびに自己免疫疾患に関連する症状の強度および持続時間のモニタリングによって長期間モニタリングする。有効量の本発明の移植可能な材料を投与した候補は、リンパ球増殖の軽減ならびに/または症状の頻度および/もしくは強度の軽減を示すと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1A】図1Aは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図1B】図1Bは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図1C】図1Cは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の例示的実施形態の脾臓細胞の溶解作用を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図3B】図3Bは、本発明の例示的実施形態の代表的なELISPOTウェルを示す。
【図3C】図3Cは、本発明の例示的実施形態のT細胞の頻度を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図4B】図4Bは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図5A】図5Aは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図5B】図5Bは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図5C】図5Cは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の例示的実施形態の脾臓細胞レベルを示すグラフである。
【図7A】図7Aは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図7B】図7Bは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図8B】図8Bは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図9B】図9Bは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図10A】図10Aは、本発明の例示的実施形態のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞とエフェクター細胞へのT細胞の分化範囲との間の相関関係を示す。
【図10B】図10Bは、本発明の例示的実施形態のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞とエフェクター細胞へのT細胞の分化範囲との間の相関関係を示す。
【図11】図11は、本発明の例示的実施形態の内皮細胞の損傷の程度を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、外因性または内因性免疫原(細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)に対する免疫学的に有害な応答を調整するための材料および方法に関する。例えば、本発明は、外因性または内因性免疫原(非同系細胞または同系の細胞、組織または器官が含まれる)に対する負の免疫反応または炎症反応を調整し、自己免疫容態を改善することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異種移植に関する研究は、ここ数年、器官の欠点の改善を強化している。しかし、宿主免疫応答は、種間の移植を妨げる手強い障壁である。天然の抗体がこのような不一致の移植物(transplant)の即時拒絶を生じるのに対して、内皮細胞(EC)損傷およびECを裏打ちする移植片脈管の活性化は、慢性移植片拒絶の開始において極めて重要な役割を果たす。完全な内皮層の崩壊は、多数の条件下(同系および非同系の組織移植物ならびに感染症、新生物疾患、炎症性疾患、および心血管疾患が含まれる)で重要であることは疑問の余地がない。
【0003】
これまで、免疫調整および移植物受容は、全身投与される免疫抑制薬に依存されていた。このような薬剤はいくらか移植受容される一方で、この受容は制限され、おそらくより重要には、このような薬剤の結果として、患者の免疫系が完全に犠牲になる。したがって、患者の免疫系に対して毒性および悪影響が無い免疫調整を達成することができる治療材料および治療パラダイムが依然として必要とされている。
【0004】
同様に、外因性免疫原または刺激が臨床上の問題を起こしている。これらも、治療を必要とする負の免疫学的事象または炎症反応を引き起こし得る。これまで、このような負の事象の臨床管理は、ほぼ例外無く、免疫系を非特異的に抑制する薬学的作用因子を使用した治療に依存している。
【0005】
自己免疫疾患および他の類似の疾患は、増強された炎症反応または負の免疫応答のさらに別の臨床症状である。今日まで、臨床家はこのような疾患の首尾のよい管理ができていない。
【0006】
本発明の1つの目的は、患者の免疫系を犠牲にする化学物質または医薬品に依存することなく免疫調節するための組織操作による解決法を提供することである。この組織操作による解決法を使用して、臨床的に実用的な様式で、外因性および内因性の免疫原(非同系および同系の細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)に対する免疫応答を変化させることができる。本発明の別の目的は、非同系および同系の細胞、組織、または器官に対する患者の受容を容易にすることである。本発明の別の目的は、この組織操作による解決法を使用して、損傷および種々の疾患などに関連する炎症反応を調整することである。別の目的は、本発明の材料および方法を使用して自己免疫疾患および関連疾患を管理することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、生体適合性マトリックス、好ましくは、三次元立体配置を有する生体適合性マトリックスに結合および/または包埋している細胞が、任意の外因性または内因性の免疫原に対する免疫学的に負の応答または炎症反応を調整することができるという発見を活用する。免疫原には、任意の同系または非同系の免疫原(細胞、組織、または器官関連免疫原が含まれる)、損傷、疾患、および環境刺激が含まれる。
【0008】
1つの態様では、本発明は、免疫応答または炎症反応を軽減する方法である。この方法によれば、レシピエントに、生体適合性マトリックスおよび固定および/または包埋した内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を提供する。移植可能な材料を、免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量でレシピエントに提供する。
【0009】
本発明によれば、提供する工程を、1回または複数回用量の同系ドナーまたは非同系ドナー由来の細胞、組織、または器官の前記レシピエントへの投与前、同時、または投与後に行う。別の実施形態によれば、提供する工程を、免疫応答または炎症反応の発生前、同時、または発生後に行う。別の実施形態によれば、本方法は、免疫学的記憶の調整によって免疫応答または炎症応答を軽減する。
【0010】
関連する態様では、本発明は、免疫学的受容を誘導する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、前記患者の受容を誘導するのに十分な量で、前記患者の自家移植片、異種移植片、同種移植片の細胞、組織、または器官の移植前、同時、または移植後に患者に提供する。
【0011】
さらに、本発明は、ドナー抗原の免疫原性を軽減する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、ドナー抗原の免疫原性を軽減するのに十分な量で、レシピエントへの前記ドナー抗原の導入前、同時、または導入後に提供する。別の実施形態によれば、ドナーおよびレシピエントは同一である。さらなる実施形態によれば、レシピエントは自己免疫疾患を有する。さらに別の実施形態によれば、ドナー抗原は、非内皮細胞抗原を含む。
【0012】
種々他の実施形態によれば、提供する工程を、レシピエントへの免疫抑制薬の投与前、同時、または投与後に行う。免疫抑制薬は、同時投与中に前記移植可能な材料中に存在し得る。
【0013】
さらに、本発明はまた、同系または非同系の細胞、組織、または器官の移植物(transplant)をレシピエントに移植する方法に関する。この方法によれば、生体適合性マトリックスおよび固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、移植した前記同系または非同系の細胞、組織、または器官がレシピエントによって拒絶されないように移植前、同時、または移植後にレシピエントに提供する。本方法の1つの実施形態によれば、移植された細胞、組織、または器官は、非内皮細胞を含む。
【0014】
別の態様では、本発明は、生体適合性マトリックスおよび生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている細胞を含む移植可能な材料である。1つの現在のところ好ましい実施形態によれば、細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、および/またはいずれかのアナログである。一定の他の実施形態では、移植可能な材料の内皮様細胞またはアナログは、非内皮細胞である。別の実施形態によれば、移植可能な材料の細胞は、前記細胞型のいずれか1つの自律性改変体(variant)、同種改変体、異種改変体、または遺伝子修飾された改変体である。さらに好ましい実施形態によれば、移植可能な材料の細胞は、血管内皮細胞である。1つの実施形態によれば、移植可能な材料は、固体または非固体である。さらに別の実施形態によれば、移植可能な材料を、移植、注射、または注入によってレシピエントに提供する。
【0015】
本発明はまた、同系ドナーまたは非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対する免疫応答を軽減するための移植可能な材料に関する。本発明のこの態様によれば、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスおよび前記生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、もしくはそのアナログを含む。本発明のこの態様によれば、有効量の移植可能な材料が同系または非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる。本発明のこの態様の1つの実施形態によれば、細胞、組織、または器官は、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである。
【0016】
本発明はまた、移植可能な材料が生体適合性マトリックス内に固定されているか包埋されている細胞、組織、器官、またはそのセグメントを含む、非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させるのに有用な上記移植可能な材料の改変体に関する。有効量の前記移植可能な材料は、前記非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる。非同系の細胞、組織、または器官は、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、本明細書中に記載の本発明のいずれか1つの移植可能な材料との使用に適切な細胞である。1つの実施形態によれば、内皮様細胞またはそのアナログは非内皮細胞である。別の実施形態によれば、アナログは非天然である。さらなる実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、同系ドナーまたは非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対するレシピエントの体液性免疫応答または細胞性免疫応答を軽減させる。
【0018】
別の実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、免疫原性を減少させる。1つの実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、MHC発現の軽減または先天性免疫細胞に結合するか、先天性免疫細胞の成熟を活性化するか促進する能力の軽減によって免疫原性が減少し、先天性免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、単球、およびマクロファージからなる群から選択される。
【0019】
別の実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋されている場合、同時刺激分子または接着分子の発現を軽減する。さらなる実施形態によれば、細胞は、生体適合性マトリックスに固定されているか包埋され、且つ樹状細胞と同時培養した場合、樹状細胞によってHLA−DR、IL12、Toll様受容体、またはCD83の発現を阻害するか、樹状細胞によってデキストラン取り込みを促進するか、樹状細胞誘導性リンパ球増殖を遮断するか、適応的免疫細胞と同時培養した場合、細胞の増殖、活性化、または分化を阻害し、ここで、適応的免疫細胞は、Bリンパ球およびTリンパ球からなる群から選択される。
【0020】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の細胞のいずれか1つを含む細胞バンクである。さらなる態様では、本発明は、本明細書中に記載の移植可能な材料のいずれか1つを含むバンクである。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、外因性免疫原への曝露に起因する免疫応答または炎症反応を軽減する方法である。この方法によれば、生体適合性マトリックス、および固定されているか包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料をレシピエントに提供する。移植可能な材料を、外因性免疫原への曝露に起因するレシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量でレシピエントに提供する。
【0022】
この方法の1つの実施形態によれば、提供する工程を、免疫応答または炎症反応の発生前、同時、または発生後に行う。別の実施形態によれば、外因性免疫原は天然に存在する。さらなる実施形態によれば、外因性免疫原は、薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質からなる群から選択される。別の実施形態によれば、外因性免疫原は、環境ストレス、損傷、および曝露からなる群から選択される外因性刺激である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の詳細な説明
「包埋」または「マトリックス包埋」PAE、HAE、またはECをいう図は、マトリックス固定および/またはマトリックス包埋PAE、HAE、ECを意味する。
【0024】
組織工学は、負の免疫学的成分に付随して起こるか、これに代表される疾患のための細胞療法として内皮細胞、内皮様細胞、またはそのいずれかのアナログを活用するための有望なアプローチである。例えば、一定の疾患(血管疾患などであるが、これに限定されない)は、負の免疫応答および/または炎症反応を引き起こす。本発明は、三次元マトリックスに固定または包埋された内皮細胞などの細胞が負の免疫応答を改善するか調整できる不可欠な調節因子を分泌するという発見に基づく。
【0025】
本発明の移植可能な材料を、組織工学の原理に基づいて開発した。これは、本明細書中に記載の臨床上のニーズに取り組むための新規のアプローチである。本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定されているか生体適合性マトリックス内に包埋されている生存細胞が生理学的フィードバック調節下で、生理学的比率で投与部位に複数の細胞ベースの生成物を供給することができるという点で特殊である。本明細書の他の場所に記載のように、移植可能な材料との使用に適切な細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、またはそのいずれかのアナログである。これらの細胞および生理学的に動的な投与による複数の化合物の局所送達により、免疫応答の調整を担う過程がより有効に調節される。本発明の移植可能な材料は、支持的生理学(supportive physiology)を模倣する環境を提供することができ、これは、免疫応答の調整に貢献する。
【0026】
内皮細胞が負の同種免疫応答および異種免疫応答の開始で極めて重要な役割を果たし得るので、これは予想外の発見である。さらに、内皮細胞は、抗原媒介性過程を介してT細胞を活性化することができ、T細胞活性化は、重大な内皮細胞機能(サイトカインによる活性化による抗原提示が含まれる)を改変し、それにより、負の免疫応答に寄与することができる。そして、内皮細胞は、クラスI腫瘍組織適合遺伝子複合体(MHC)分子を構成性に発現し、IFN−γは、クラスII MHC分子を発現するように内皮細胞を誘導し、直接経路によってCD8+およびCD4+T細胞に抗原依存性シグナルを提供することが可能である。内皮細胞はまた、主にT細胞を同時刺激することができる。さらに、接着分子の内皮発現を介したT細胞を捕捉する能力により、炎症形態で負の免疫応答を促進する接触領域を形成することが可能である。さらに、自己免疫は、特に、抗内皮細胞抗体の形態の血管疾患を悪化させ得る。真性糖尿病、高血圧症、または病状と合わせた心血管疾患の罹患率の増加は、これらの抗体の存在および効力の増加を反映する。
【0027】
対照的に、本明細書中に開示されるように、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞は、宿主中に移植された場合、予想される全身免疫応答および/または局所炎症の有意な減少によって示されるように、免疫系の強力な調節因子として作用する。本明細書中で例示されるように、このような細胞が免疫応答性を改善または調整する能力を、ナイーブマウスおよび内皮細胞免疫反応性が増加したマウスにおける遊離内皮細胞に対する免疫応答とマトリックス固定および/または包埋内皮細胞に対する免疫応答との比較によって示した。本明細書中に開示のように、本明細書中に記載のマトリックス会合内皮細胞は、マトリックスに固定および/または包埋された場合、複数のレベルで免疫防御を提供し、ヒトおよびブタの内皮細胞は、複雑なMHCクラス分子、同時刺激分子、および接着分子が顕著に減少する。
【0028】
本明細書中に例示されるように、内皮細胞のマトリックス固定および/または包埋はまた、免疫学的記憶の系紫衣に影響を及ぼし得る。生理食塩水に懸濁した遊離内皮細胞ペレットのみまたは空のマトリックスに隣接して存在するペレットとしての再移植が体液性および細胞性の異種応答(xenoresponse)を誘導したのに対して、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞でのマウスの再攻撃誘発により、体液性免疫応答を増強することなく脾臓細胞の溶解能力が軽減された。さらに、マトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞を投与したマウスで前者に対するTh1/th2バランスの変動が最も小さいことが明らかであった。
【0029】
したがって、空のマトリックスに隣接する遊離内皮細胞の導入によって宿主免疫応答を減少することができず、マトリックス固定および/または包埋の重要性が示された。固定および/または包埋内皮細胞が刺激時にMHC II分子、同時刺激分子、および接着分子を発現できないことは、移植されたマトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞に応答してエフェクター細胞におけるT細胞の分化が減少したと説明することができる。本明細書中で説明するように、MHCクラスII依存性様式でマトリックス固定および/または包埋異種内皮細胞に曝露した場合、マウス脾臓細胞の活性化が弱まる。
【0030】
内皮細胞の全等方性が、適切なマトリックスに固定および/または包埋した細胞によって重大な抗原の単離またはマスキングにより免疫防御されるというこの固有の免疫調整形態に寄与する。in vivo内皮細胞機能が固定および密度に依存することが十分に認識される。以前の研究では、内皮基底膜(EBM)が、細胞の接着、拡大、移動、収縮性、分化、増殖、タンパク質合成、および分泌の局面を調節することが示されている。さらに、EBMは、多数のin vivo病状で変化する(糖尿病から糸球体症、アテローム性動脈硬化症まで)。内皮細胞の機能障害は、内皮細胞の付着の程度による基底膜の組成の変化と相関し、基底膜固定の質は内皮細胞の免疫学的性質で役割を果たす。
【0031】
本発明は、適切な生体適合性マトリックス(三次元コラーゲンベースのマトリックスなどであるが、これに限定されない)への内皮細胞の固定および/または包埋が異種内皮細胞を免疫学的に攻撃しない細胞表現型に変換することができるという予想外の発見に基づく。このような発見は、現在、本明細書中に提供したガイダンスに従って当業者が同系または非同系の治療法への寛容誘導アプローチ(本明細書中で例示した同種移植または異種移植などであるが、これらに限定されない)として活用することができる。例えば、本発明の好ましい実施形態では、臨床家は、同種移植片または異種移植片の組織または器官の移植前にマトリックス固定および/または包埋内皮細胞を移植することによって拒絶を減少および/または遅延することができる。本発明の目的のために、血液は、組織の血液型である。
【0032】
前処置によりレシピエントの免疫系を馴化し、それにより、移植片に対する免疫応答を軽減、減衰、および/または遅延することができる。本発明は、移植可能な材料がレシピエントに最終的に移植される細胞と同一または類似の固定および/または包埋細胞を含むことは必要ない。本当に必要なのは、固定および/または包埋細胞を含む移植可能な材料がレシピエントに提供した場合に免疫調整効果を有することである。一定の環境では、移植前または同時に1回投与することで十分であり得る。他の環境では、複数回投与または連続投与が好ましい。当業者は、このような環境を認識している。
【0033】
十分に認識されるように、同種細胞の移植でさえも、しばしば、免疫応答を伴う。非常に興味深い疑問は、これが外来細胞の構成性で不変の性質であるのか、または調節することができるのかどうかである。本明細書中に記載の実験は、マトリックス固定および/または包埋状態で移植した場合に基底膜に正常に固定した細胞の免疫原性を顕著に軽減することができ、これらの細胞を遊離状態で注射した場合に効果が認められなかったことを証明している。本明細書中に記載の他の実験は、種々の自己免疫疾患および内分泌疾患に共通する臨床的特徴である抗内皮細胞免疫の増大の影響を調査している。
【0034】
さらに、本明細書中にまとめた一定の実験は、遊離ブタ大動脈内皮細胞(PAE)の連続注射によって循環抗PAE抗体が誘導され、免疫感受性が上昇することを証明している。その後のPAE注射の応答は、第1の曝露の際に認められた応答よりもさらに高かった。対照的に、PAEをマトリックス固定および/または包埋状態で移植した場合、その後の曝露に対する免疫応答は小さくなり、長期間有意に低下した。また、以下に示すように、内皮細胞に対する最初の応答はIgM媒介性であり、これは、その後のIgG応答よりも低く、連続注射が先行した場合に弱まる。IgM応答は、予備感作した(pre−sensitized)動物よりもナイーブでより顕著であり、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞への曝露後よりも遊離PAE曝露後の方が減少するのに時間がかかる。
【0035】
遊離PAEの懸濁液でのマウスの予備感作は、真性糖尿病、高血圧症、および自己免疫疾患で認められるIgG1駆動抗内皮免疫と類似している。遊離細胞ならびにマトリックス固定および/または包埋細胞に対する細胞性免疫応答は、体液性免疫パターンの後に続いた。抗原への反復曝露により、記憶細胞の形成が増加し、その後に、エフェクターT細胞によるより強い免疫反応が起こった。したがって、ナイーブマウスおよび予備感作マウスへの遊離内皮細胞の移植後に、異種反応性IL−4およびIL−10産生脾臓細胞およびエフェクターT細胞の誘導が長期間上昇し、明らかとなった。全マウスで、サイトカインレベルは、エフェクターT細胞の誘導と直線的且つ正確に相関し、異種反応性におけるTh2駆動細胞応答および適応的免疫機構に対するマトリックス包埋内皮細胞の免疫サイレンシング局面の強調の概念がさらに示唆された。移植した内皮細胞の損傷は、誘発された免疫応答範囲に相関した。移植細胞は、予備感作し、遊離PAEを使用した後に最も顕著に影響を受けた。マトリックス包埋内皮細胞を投与したナイーブマウスにおける体液性免疫応答および細胞性免疫応答の誘導の減少により、宿主免疫細胞による損傷の程度が減少した。
【0036】
これらの実験により、内皮細胞の活性化および損傷が洞察され、細胞−マトリックス接触での極めて重要な役割が示唆される。現在のところ好ましいマトリックス(Gelfoam)のハニカム様構造により、内皮細胞のその三次元立体配置への会合、固定、または包埋が可能になり、一定の実施形態では、静止期の血管の融合性内皮の出現を刺激する様式でこのマトリックスの内側面に並ぶ。したがって、一定の実施形態では、Gelfoamの性質を有するマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞は、インタクトな内皮細胞の生理学的三次元状態に類似する。下記の実験は、マトリックス包埋および/または包埋は内皮細胞を宿主の免疫反応から防御するだけでなく、宿主の内皮細胞の免疫原性の認識も変化させることを証明している。
【0037】
したがって、例えば疾患中に、インタクトなマトリックス接着内因性状態から遊離状態に変化した内皮細胞の表現型の変換は、例えば、血管疾患の開始および永久化に重要である可能性が高い。本明細書中の教示は、内皮細胞の剥離に先立って接着分子、同時刺激分子、およびMHC分子が発現し、その後に免疫細胞の誘引、内皮活性化の永続、および細胞の損傷が起こることを示す。これに関して、内皮細胞の免疫生物学的および免疫反応性の質は、形態および機能と相関する。異なる血管床由来の内皮細胞および分岐した(divergent)基底膜の接続性は、接着分子、同時刺激分子、およびMHC分子の構成性および誘導性発現の顕著な相違を証明する。さらに、フィブロネクチンおよびフィブリノゲンなどの一過性細胞外基質の内皮細胞下基質への沈積および基底膜からの内皮細胞の剥離が内皮細胞内シグナル伝達に影響を及ぼすことが認識されつつある。
【0038】
本発明によって意図されるように、細胞表現型、免疫原性、および機能の操作を使用して、再生目的のためにin vitroで開発された組織操作構築物の性質を調整することができる。特に、現在の細胞ベースの治療法が難解な宿主免疫反応によって制限されるので、本発明のこのような使用は臨床的に有利である。例えば、本発明は、活性化免疫細胞および炎症の存在が重要な病態生理学的成分であるので、アテローム性動脈硬化症の治療に特に有用である。同様に、内皮細胞ベースの治療法(血管構造内部への細胞または組織の播種を含む治療などであるが、これに限定されない)のための極めて重要な律速効果として高い抗内皮免疫が同定される。対照的に、本発明を活用して、例えば、細胞−マトリックス接触の脱配置(dearrangement)を介した血管病変で起こる内皮細胞表現型の変動を管理ことができ、次いで、クリニックにおいて本発明の材料および方法を使用して適切にターゲティングした治療法の選択肢を実施することができる。
【0039】
まとめると、本明細書中に示した教示はまた、マトリックスの特徴(生体適合性、空隙率、三次元性などであるが、これらに限定されない)が内皮細胞集団の成長を支持し、このような細胞の免疫原性を調整することができることを証明する。三次元マトリックスに固定および/または包埋された内皮細胞は、宿主免疫機構の活性化の誘発がはるかに小さく、宿主免疫細胞から受ける攻撃および損傷がはるかに低かった。天然マウスにおける所見を、抗内皮免疫が増強した宿主に拡大した。本明細書中に示したin vivo研究は、Th2駆動細胞応答において遊離内皮細胞を注射した動物と比較して固定および/または包埋内皮細胞を含むGelfoamなどのマトリックスを移植した動物で顕著に減少することを示す。内皮細胞がナイーブ宿主T細胞を活性化するために、以下の2つのシグナルが必要である:1)ドナー内皮細胞上で発現したMHC分子における抗原提示、および2)ドナー内皮細胞表面上でも発現する同時刺激分子によって得られた第2のシグナル。したがって、理論に拘束されることを望まないが、認められた結果についての1つの可能な説明は、生体適合性マトリックスと包埋内皮細胞との間の相互作用によってドナー内皮細胞上での重大な同時刺激分子、MHC分子、および/または接着分子の表面発現が減少することである。実際、PAEおよびHAE(ヒト大動脈内皮細胞)上での重要な接着分子、MHC−II分子、および同時刺激分子の発現のin vitro分析は、マトリックス固定および/または包埋依存プロフィールを示す。接着分子(E−セレクチン、P−セレクチン、ICAM−1、VCAM−1、およびCD58)、同時刺激分子(CD40、CD80、CD86)、およびMHC−II分子の発現プロフィールは全て、標準的な組織培養プレート上で成長した同一の内皮細胞と比較して、Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞で減少した。P−セレクチン、E−セレクチン、およびVCAM−1は、免疫炎症部位でのT細胞動員と密接に関連する。MHCクラスII分子を介したCD4+T細胞への抗原提示が非血管化異種インプラント環境での宿主免疫認識に不可欠であるので、マトリックスに固定および/または包埋内皮細胞上での認められたMHC−II発現の減少は、宿主脾臓細胞の増殖応答の減少と解釈された。さらに、細胞培養プレート上で成長した内皮細胞への同一の脾臓細胞の反復in vitro曝露によってより強い二次応答が誘発されたのに対して、二次応答の増加は認められず、したがって、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞への以前の曝露の記憶はなかった。本明細書中で例示されるように、これらのin vitro所見は、マトリックス固定および/または包埋細胞の移植および再攻撃誘発後のラットおよびマウスで認められる免疫応答の有意な減少と相関する。
【0040】
同様に、生体適合性マトリックス(Gelfoamなどであるが、これに限定されない)中での内皮細胞の培養がMHCクラスII分子の発現およびその後のin vitroでの内皮免疫原性に影響を及ぼす機構を、細胞内シグナル伝達経路の調査によってさらに解明した。MHCクラスII分子の内皮発現は、活性化免疫細胞(例えば、T細胞)によって分泌される炎症誘発性サイトカイン(例えば、インターフェロン(IFN)−γ)によって誘導される。炎症誘発性サイトカインの内皮細胞上でのその受容体への結合により、細胞内シグナル伝達カスケードが開始され、それにより、ヤヌスタンパク質チロシンキナーゼ(JAK−1および2)、シグナルトランスデューサー、および転写活性因子(STAT−1)がリン酸化される。JAKおよびSTATの活性化は、通常、標的細胞内で強く調節される。下記のように、詳細なin vitro分析により、Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋された内皮細胞と比較した場合、組織培養プレート上でコンフルエンスまで成長した内皮細胞の間のIFN−γ誘導性細胞内シグナル伝達経路の相違が証明された。Gelfoam包埋HAEは、表面IFN−γ受容体発煙を変化させることなくSTATリン酸化速度をより低速にし、重大なインターフェロン調節因子−1(IRF−1)を活性化した。JAK活性化速度の低下はまた、IFN−γでのGelfoam中のHAEの刺激の際に認められた。
【0041】
さらなる調査の際に、Gelfoamマトリックス上で成長した非IFN−γ刺激HAEが、反作用阻害分子、サイトカインシグナル抑制因子(SOCS)−1および3を組織培養プレート上で成長したHAEよりも有意により高いレベルで発現させることが認められた。したがって、Gelfoam包埋HAEにおけるIFN−γ誘導性細胞内シグナル伝達の減少についての1つの説明は、SOCS−1および3レベルの増加によって内皮細胞のサイトカイン誘導性活性化の閾値が増加するということである。
【0042】
現在のところ好ましい実施形態では、固定および/または包埋内皮細胞を含む本発明の移植可能な材料を、任意の非管腔部位に移植する。したがって、宿主の循環にドナー細胞を直接曝露する必要はない。免疫細胞(すなわち、ナチュラルキラー細胞)の誘引のための可溶性内皮因子CX3CL1(フラクタルカイン)および免疫細胞の接着のためのフラクタルカインの表面発現形態の重要性が最近証明された。異種および同種のマトリックス固定および/または包埋内皮細胞の移植部位中および移植部位周囲で少しの細胞浸潤しか認められないならば、HAE上のフラクタルカインの可溶性および表面発現の放出を定量した。下記の実験で例証される様に、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞は、組織培養プレート上で成長したHAEと比較した場合、サイトカイン刺激の際にフラクタルカインの分泌が減少し、表面発現が下方制御された。これにより、in vitroでのマトリックス固定および/または包埋HAEへのヒトナチュラルキラー細胞の接着が有意に減少した。
【0043】
まとめると、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞における細胞内シグナル伝達の変化、SOCS−1および3レベルの増加(それにより、MHC−II分子の発現およびその後のT細胞活性化が減少する)、ならびにフラクタルカインの分泌の減少および表面発現は、組織培養プレート上で成長した細胞と比較して、マトリックス包埋に起因する内皮細胞免疫原性が変化した。
細胞供給源
本明細書中に記載のように、本発明の移植可能な材料は、同系、同種、異種、または自系であり得る細胞を含む。一定の実施形態では、生きている細胞の供給源は、適切なドナーに由来し得る。一定の他の実施形態では、細胞供給源は、死体または細胞バンクに由来し得る。
【0044】
1つの現在のところ好ましい実施形態では、細胞は内皮細胞である。特に好ましい実施形態では、このような内皮細胞は、血管組織、好ましくは、動脈組織(これに限定されない)から得る。以下に例示するように、使用に適切な1つの血管内皮細胞型は、大動脈内皮細胞である。使用に適切な別の血管内皮細胞型は、臍帯静脈内皮細胞である。そして、使用に適切な別の血管内皮細胞型は、冠状動脈内皮細胞である。本発明との使用に適切なさらに別の血管内皮細胞型には、肺動脈内皮細胞および腸骨動脈内皮細胞が含まれる。
【0045】
別の現在のところ好ましい実施形態では、適切な内皮細胞を、非血管組織から得ることができる。非血管組織は、本明細書の他の場所に記載の任意の管状解剖学的構造に由来し得るか、任意の非血管組織または器官に由来し得る。
【0046】
さらに別の実施形態では、内皮細胞は、内皮前駆細胞または幹細胞に由来し得る。さらに別の実施形態では、内皮細胞は、一般に、前駆細胞または幹細胞に由来し得る。好ましい実施形態では、細胞は、前駆細胞または幹細胞であり得る。他の好ましい実施形態では、細胞は、血管または非血管組織または器官由来の同系、同種、異種、または自系の非内皮細胞であり得る。本発明はまた、遺伝子が変化しているか、修飾されているか、操作されている任意の上記細胞を意図する。
【0047】
さらなる実施形態では、2つまたはそれを超える細胞型を同時培養して、本発明の移植可能な材料を調製する。例えば、第1の細胞を、生体適合性マトリックスに導入し、コンフルエントまで培養することができる。第1の細胞型には、内皮細胞成長を助長する環境をつくるための平滑筋細胞、線維芽細胞、幹細胞、内皮前駆細胞、平滑筋細胞と線維芽細胞との組み合わせ、任意の他の所望の細胞型、または所望の細胞型の組み合わせが含まれ得る。一旦第1の細胞型がコンフルエンスに到達すると、第2の細胞型を、生体適合性マトリックス中、生体適合性マトリックス上、または生体適合性マトリックス内の第1のコンフルエントな細胞型の上に播種し、第1の細胞型および第2の細胞型の両方がコンフルエンスに到達するまで培養する。第2の細胞型には、例えば、内皮細胞、任意の他の所望の細胞型、または細胞型の組み合わせが含まれ得る。第1および第2の細胞型を段階的に導入するか、1つの混合物として導入することができることが意図される。細胞密度を改変して、内皮細胞に対する平滑筋細胞の比を変化させることができることも意図される。同様に、マトリックスを、意図する適用または臨床レジメンに適切な異なる細胞の混合物と共に最初に播種することができる。
【0048】
本発明の固定および/または包埋細胞に本当に必要なのは、これらが1つまたは複数の好ましい表現型または機能的性質を示すことである。本発明は、好ましいマトリックスと会合した場合に容易に同定可能な表現型(本明細書の他の場所に記載)を有する細胞が全身および/または局所効果を介して免疫応答または炎症反応を軽減、改善、および/または調整することができるという発見に基づく。
【0049】
本発明の目的のために、本発明の細胞に特有の1つのこのような容易に同定可能な表現型は、本明細書の別の場所に記載のin vitroアッセイによって測定される変化した免疫原性表現型である。本発明の細胞に特有の別の容易に同定可能な表現型は、本明細書の別の場所に記載のin vitroアッセイによって測定される樹状細胞の成熟を阻害または妨害する能力である。各表現型を、本明細書中で、免疫調整表現型という。
【0050】
免疫調整機能性の評価:本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料を、移植前の免疫調整機能性の特徴について試験することができる。例えば、移植可能な材料のサンプルを評価して、MHCクラスII分子の発現を減少する能力、同時刺激分子の発現を軽減する能力、同時培養した樹状細胞の成熟を阻害する能力、およびT細胞の増殖を軽減する能力を確認する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、この材料がMHCクラスII分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時刺激分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時培養した樹状細胞の成熟を少なくとも約25〜95%、好ましくは50〜95%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができ、そして/またはリンパ球の増殖を少なくとも約25〜90%、好ましくは50〜90%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができる場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。
【0051】
MHCクラスII分子および同時刺激分子の発現レベルを、以下に詳述した日常的なフローサイトメトリー分析を使用して定量することができる。リンパ球の増殖を、以下に詳述したシンチレーションカウンティングによる3[H]−チミジン標識CD3+−リンパ球の移植可能な組成物とのin vitro同時培養によって定量することができる。樹状細胞成熟の阻害を、移植可能な材料の樹状細胞との同時培養およびフローサイトメトリーおよびFACS分析による樹状細胞上の種々のマーカーの表面発現の評価またはフローサイトメトリーによるFITC抱合デキストランの樹状細胞取り込みの測定によって定量することができる。これらの各方法を、以下に詳述する。
【0052】
本発明の典型的な操作実施形態では、細胞は、1つを超える上記表現型を示す必要はない。一定の実施形態では、細胞は、1つを超える上記表現型を示すことができる。
【0053】
上記表現型がそれぞれ機能的内皮細胞(血管内皮細胞などであるが、これに限定されない)を代表する一方で、このような表現型を示す非血管内皮細胞は、本発明の目的のために内皮様と見なされるので、本発明との使用に適切である。内皮様である細胞を、本明細書中で、内皮細胞の機能的アナログまたは内皮細胞の機能的模倣物ともいう。したがって、例示のみを目的として、本明細書中に開示の材料および方法との使用に適切な細胞には、内皮様細胞を生じる幹細胞または前駆細胞、元は非内皮細胞であるが、上記のパラメーターを使用して内皮細胞のように機能する細胞、上記のパラメーターを使用して内皮細胞様機能性を有するように操作または改変された任意の起源の細胞も含まれる。
【0054】
典型的には、本発明の細胞は、コンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の集団中に存在し、且つ本明細書の別の場所などに記載の好ましい生体適合性マトリックスと会合する場合、1つまたは複数の上記表現型を示す。当業者に認識されるように、コンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の細胞集団を、種々の技術によって容易に同定することができ、その最も一般的で広く受け入れられている技術は、直接顕微鏡試験である。他の技術には、標準的な細胞計数技術(血球計またはコールターカウンターなどであるが、これらに限定されない)を使用した表面積あたりの細胞数の評価が含まれる。
【0055】
さらに、本発明の目的のために、内皮様細胞には、機能的および表現型をまねるか模倣する細胞、上記パラメーターによって測定されるコンフルエント、ほぼコンフルエント、またはコンフルエント後の内皮細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
したがって、下記の詳細な説明およびガイダンスを使用して、当業者は、どのようにして本明細書中に開示の移植可能な材料の操作的実施形態を作製、使用、試験、および同定するのかを認識している。すなわち、本明細書中に提供されている技術は、本発明の移植可能な材料を作製および使用することが本当に必要であることを開示している。さらに、本明細書中に提供されている技術は、操作的に等価な細胞含有組成物を作製および使用することが本当に必要であることを開示している。基本的に、本当に必要なのは、等価な細胞含有組成物が本明細書中に開示の方法にしたがって免疫応答を調整するのに有効なことである。当業者に認識されるように、本発明の等価な組成物を、本明細書中に提供した教示と共に日常的な実験のみを使用して同定することができる。
【0057】
一定の好ましい実施形態では、本発明の移植可能な材料中で使用される内皮細胞を、ヒト死体ドナーの大動脈から単離する。各細胞ロットは、内皮細胞の純度、生物学的機能、細菌、真菌、公知のヒト病原体、および他の外来因子の存在について広範に試験された1つまたは複数のドナーに由来する。生体適合性の移植可能な材料のその後の形成のための培養でのその後の拡大のために、周知の技術を使用して細胞を低温保存し、集める。他の実施形態では、生きている細胞を移植可能な材料の対象となるドナーまたは患者から採取することができる。
【0058】
細胞の調製。上述のように、適切な細胞を、種々の組織型および細胞型から得ることができる。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料中で使用されるヒト大動脈内皮細胞を、死体ドナーの大動脈から単離する。他の実施形態では、ブタ大動脈内皮細胞(Cell Applications,San Diego,CA)を、ヒト大動脈内皮細胞を単離するために使用される類似の手順によって正常なブタ大動脈から単離する。各細胞ロットは、内皮細胞の生存度、純度、生物学的機能、マイコプラズマ、細菌、真菌、酵母、公知のヒト病原体、および他の外来因子の存在について広範に試験された1つまたは複数のドナーに由来する。培養でのその後の拡大および生体適合性の移植可能な材料としてのその後の形成のために、周知の技術を使用して、細胞を、さらに、拡大し、特徴付け、低温保存して、第3〜第6継代で作業細胞バンクを形成する。
【0059】
以下は、本発明との使用に適切な内皮細胞の調製のための例示的プロトコールである。ヒトまたはブタ大動脈内皮細胞を、フラスコあたり約15mlの内皮細胞成長培地の添加によって前処理したT−75フラスコ中で調製する。ヒト大動脈内皮細胞を、内皮成長培地(EGM−2,Cambrex Biosciences,East Rutherford,NJ)中で調製する。EGM−2は、2%FBSを含むEGM−2を補足した内皮細胞基本培地(EBM−2,Cambrex Biosciences)からなる。ブタ細胞を、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2中で調製する。フラスコを、約37℃、5%CO2/95%大気、湿度90%に最短で30分間維持したインキュベーター中にいれる。1つまたは2つの細胞バイアルを、−160℃〜−140℃の冷凍庫から取り出し、約37℃で解凍する。解糖した各細胞バイアルを、約3×103細胞/cm3であるが、好ましくは1.0×103以上7.0×103未満の密度で2つのT−75フラスコに播種し、細胞を含むフラスコをインキュベーターに戻す。約8〜24時間後、使用済み培地を除去し、新鮮な培地と交換する。細胞が約85〜100%コンフルエンスであるが、好ましくは、60%以上100%未満に到達するまで、2〜3日毎に培地を交換する。移植可能な材料が臨床適用を意図する場合、ヒト大動脈内皮細胞の解凍後培養および本発明の移植可能な材料の製造で無抗生物質培地のみを使用する。
【0060】
次いで、内皮細胞成長培地を除去し、細胞の単層を、10mlのHEPES緩衝化生理食塩水(HEPES)でリンスする。HEPESを除去し、2mlのトリプシンを添加して、T−75フラスコ表面から細胞を剥離する。一旦剥離されると、3mllのトリプシン中和液(TNS)を添加して、酵素反応を停止させる。さらなる5mlのHEPESを添加し、血球計を使用して細胞を計数する。細胞懸濁液を遠心分離し、抗生物質を含まないEGM−2を使用して、ヒト細胞の場合、約1.75×106細胞/mlの密度に調整するか、ブタ細胞の場合、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2を使用して、約1.50×106細胞/mlの密度に調整することができる。
【0061】
生体適合性マトリックス。本発明によれば、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスを含む。マトリックスは、細胞成長ならびにマトリックスに固定および/または包埋された細胞に許容される。特に好ましいマトリックスは、固定および/または包埋細胞が多次元環境を作製してこれを占めることができるような三次元立体配置によって特徴づけられるマトリックスである。多孔質マトリックスが好ましい。マトリックスは、固体または非固体であり得る。一定の非固体マトリックスは、流動性があり、注射型または注入型の方法による投与に適切である。一定の実施形態では、マトリックスは可動性および適合性がある。マトリックスはまた、可動性の平面形態であり得る。マトリックスはまた、ゲル、泡、懸濁液、粒子、マイクロキャリア、マイクロカプセル、または繊維状構造の形態出あり得る。一定の好ましい実施形態では、細胞が固定され、そして/または細胞が包埋された非固体形態のマトリックスを、投与時に注射または注入することができる。
【0062】
1つの現在のところ好ましいマトリックスは、Gelfoam(登録商標)(Pfizer,New York,NY)(吸収性ゼラチンスポンジ)である(以後、「Gelfoamマトリックス」)。Gelfoamマトリックスは、特別に処理、精製されたブタ皮膚ゼラチン溶液から調製された多孔質で可動性のあるスポンジ様マトリックスである。
【0063】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックス材料は、修飾マトリックス材料であり得る。細胞がマトリックスと会合する場合、マトリックス材料の修飾法を、本明細書の他の場所に記載の細胞の機能(細胞の表現型(例えば、免疫調整表現型)が含まれる)を至適化および/または調節するように選択することができる。1つの実施形態によれば、マトリックス材料の修飾には、付着因子または接着ペプチドでのマトリックスのコーティングが含まれる。例示的付着因子には、例えば、フィブロネクチン、フィブリンゲル、および標準的なカルボジイミドの水中での化学的性質を使用した共有結合した細胞接着リガンド(例えば、RGDが含まれる)が含まれる。さらなる細胞接着リガンドには、細胞接着認識配列を有するペプチド(RGDY、REDVY、GRGDF、GPDSGR、GRGDY、およびREDVが含まれるが、これらに限定されない)が含まれる。
【0064】
別の実施形態によれば、マトリックスは、Gelfoam以外のマトリックスである。さらなる例示的マトリックス材料には、例えば、フィブリンゲル、アルギン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムマイクロキャリア、コラーゲンコーティングデキストランマイクロキャリア、セルロース、PLA/PGA、およびpHEMA/MMAコポリマー(各ポリマーについて1〜100%の範囲のポリマー比を有する)が含まれる。好ましい実施形態によれば、引用および上記のように、これらのさらなるマトリックスを、付着因子を含むように修飾する。
【0065】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックス材料を、マトリックスへの細胞の付着を改善するように物理的に修飾する。1つの実施形態によれば、マトリックスを、その機械的性質を増強し、細胞付着および成長特性を改良するように架橋する。好ましい実施形態によれば、アルギン酸マトリックスを、硫酸カルシウムを使用して最初に架橋し、その後、塩化カルシウムおよび日常的プロトコールを使用した第2の架橋工程を行う。
【0066】
別の実施形態によれば、生体適合性マトリックスの孔サイズを修飾する。現在のところ好ましいマトリックス孔サイズは、約25μm〜約100μm、好ましくは約25μm〜約50μm、より好ましくは約50μm〜約75μm、さらにより好ましくは約75μm〜約100μmである。他の好ましい孔サイズには、約25μm未満および約100μm超が含まれる。1つの実施形態によれば、塩浸出技術を使用して孔サイズを修飾する。塩化ナトリウムをマトリックス材料の溶媒溶液に混合し、溶液を鋳型に注ぎ、溶媒を蒸発させる。次いで、マトリックス/塩ブロックを水に浸して塩を浸出させ、多孔質構造を残す。マトリックスが溶液中に存在するが、塩は存在しないような溶媒を選択する。1つの例示的溶液には、PLAおよび塩化メチレンが含まれる。
【0067】
別の実施形態によれば、二酸化炭素の気泡を、非固体形態のマトリックスに組み込み、次いで、適切な界面活性剤を使用して安定化する。その後、真空にして気泡を除去し、多孔質構造を残す。
【0068】
別の実施形態によれば、氷微粒子が異なるサイズの孔を形成する凍結速度を使用して、凍結乾燥技術によってマトリックスの孔サイズを調節する。例えば、約0.1〜2%のブタまたはウシのゼラチン溶液を鋳型または皿に注ぎ、種々の異なる温度で予備凍結し、一定時間凍結乾燥させることができる。次いで、材料を、好ましくは、紫外線(254nm)の使用またはグルタルアルデヒド(ホルムアルデヒド)の添加によって架橋することができる。予備凍結温度(例えば、−20℃、−80℃、または−180℃)、凍結乾燥温度(約−50℃での凍結乾燥)、およびゼラチン濃度(0.1%〜2.0%、孔サイズは、一般に、溶液中のゼラチン濃度に反比例する)の変化は全て得られるマトリックス材料の抗サイズに影響を及ぼし得、好ましい材料を作製するために改変することができる。当業者は、適切な孔サイズは、本明細書の他の場所に記載の表現型を有する至適な細胞集団を促進および維持するサイズであるということを認識する。
【0069】
生体適合性マトリックスの細胞播種。以下は、生体適合性マトリックスの1つの例示的立体配置の説明である。他の場所で述べているように、好ましいマトリックスは固体または非固体であり、移植、注射、または注入のために処方することができる。
【0070】
適切な生体適合性マトリックスの予め切断した小片または生体適合性流動性マトリックスのアリコートを、約37℃および5%CO2/95%大気で12〜24時間の抗生物質を含まないEGM−2の添加によって再水和する。次いで、移植可能な材料をその再水和容器から取り出し、各組織培養皿に入れる。生体適合性マトリックスを、好ましくは、1.5〜2.0×105細胞(1.25〜1.66×105細胞/cm3マトリックス)の密度で播種し、約37℃、5%CO2/95%大気、および湿度90%で3〜4時間インキュベーター中に維持して細胞付着を容易にする。次いで、播種したマトリックスを、各容器(Evergreen,Los Angels,CA)(それぞれEGM−2と共に0.2μmフィルターを含むキャップを取り付けた管)に入れ、約37℃および5%CO2/95%大気でインキュベートする。細胞がコンフルエンスに到達するまで、2〜3日毎に培地を交換する。1つの好ましい実施形態では、細胞は、好ましくは第6継代であるが、より前または後の継代の細胞を使用することができる。
【0071】
細胞成長。移植可能な材料のサンプルを、3または4日目、6または7日目、9または10日目、および12または13日目またはその付近で除去し、細胞を計数し、生存度を評価し、成長曲線を構築し、成長の特徴を見極めてコンフルエンス、ほぼコンフルエンス、またはコンフルエンス後を達成したかどうかを決定するために評価する。一般に、当業者は、初期、中期、および後期の測定点での許容可能な細胞成長の特徴(初期測定点(例えば、ブタ大動脈内皮細胞を使用した場合、約2〜6日)での細胞数の指数関数的増加、その後のほぼコンフルエント期(例えば、約6〜8日)、その後の一旦細胞がコンフルエンスに到達した場合の細胞数のプラトー(例えば、約8〜10日)、および細胞がコンフルエント後(例えば、約10〜14日)の場合の細胞数の維持の所見など)を認識するであろう。
【0072】
0.5mg/mlコラゲナーゼ溶液を含むHEPES/Ca++溶液での移植可能な材料のアリコートの完全な消化によって細胞数が達成される。移植可能な材料の消化体積の測定後、既知の体積の細胞懸濁液を0.4%トリパンブルー(4:1の細胞:トリパンブルー)で希釈し、トリパンブルー排除によって生存度を評価する。血球計を使用して、生存細胞、非生存細胞、および総細胞を計数する。培養日数に対する生存細胞数のプロッティングによって成長曲線を構築する。
【0073】
本発明の目的のために、コンフルエンスを、移植可能な材料が例示的な可動性の平面形態である場合、少なくとも約4×105細胞/cm3個存在すること、注射可能または注入可能な組成物である場合、好ましくは、アリコート(50〜70mg)あたりの総細胞数が約7×105〜1×106個と定義する。両方について、細胞生存度は、少なくとも約90%であり、好ましくは80%以上である。
【0074】
本発明の例示的実施形態は、生体適合性マトリックスおよび本明細書中に記載の種々の臨床適応または治療パラダイムのいずれか1つとの使用に適切な細胞を含む。具体的には、1つの好ましい実施形態では、移植可能な材料は、生体適合性マトリックスおよび内皮細胞、内皮様細胞、または前記のいずれかのアナログを含む。1つの現在のところ好ましい実施形態では、移植可能な材料は、可動性平面形態であり、内皮細胞、好ましくは血管内皮細胞(ヒト大動脈内皮細胞などであるが、これに限定されない)、および生体適合性マトリックスであるGelfoam(登録商標)ゼラチンスポンジ(Pfizer,New York,NY、以後「Gelfoamマトリックス」)を含む。
【0075】
本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定および/または包埋した細胞を含む。固定および/または包埋は、細胞が本明細書中に開示の予備操作の厳しさに耐えるような細胞相互作用および/または細胞−マトリックス相互作用による強い付着を意味する。本明細書の他の場所で説明するように、移植可能な材料の操作実施形態は、好ましい表現型を有するほぼコンフルエント、コンフルエント、またはコンフルエント後の細胞集団を含む。移植可能な材料の実施形態は予備操作中に細胞を減少させる可能性が高く、そして/または一定の細胞が他の作用ほど強く付着していないと理解される。本当に必要なのは、移植可能な材料が本明細書の他の場所に記載の機能的基準または表現型基準を満たす細胞を含むことである。
【0076】
本発明の移植可能な材料を、組織工学の原理に基づいて開発した。これは、本明細書中に記載の臨床上のニーズに取り組むための新規のアプローチである。本発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリックスに固定されているか生体適合性マトリックス内に包埋されている生存細胞が生理学的フィードバック調節下で、生理学的比率で投与部位に複数の細胞ベースの生成物を供給することができるという点で特殊である。本明細書の他の場所に記載のように、移植可能な材料との使用に適切な細胞は、内皮細胞、内皮様細胞、またはそのそれぞれのアナログである。これらの細胞および生理学的に動的な投与による複数の化合物の局所送達により、免疫応答の調整を担う過程がより有効に調節される。本発明の移植可能な材料は、支持的生理学を模倣する環境を提供することができ、これは、免疫応答の調整に貢献する。
【0077】
機能性の評価。本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料を、レシピエントへの送達前の能性の特徴について試験する。例えば、培養内皮細胞によって産生されるヘパラン硫酸、トランスフォーミング増殖因子−β1(TGF−β1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)、または一酸化窒素のレベルを確認するために、培養期間中に馴化培地を回収する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、総細胞数が少なくとも約1×105細胞/cm3、好ましくは約2×105細胞/cm3、より好ましくは少なくとも約4×105細胞/cm3の可動性平面形態である場合、生存細胞の比率が少なくとも約80〜90%、好ましくは90%以上、より好ましくは少なくとも約90%である場合、馴化培地中のヘパラン硫酸が少なくとも約0.1〜0.5μg/mL/日、好ましくは少なくとも約0.23μg/mL/日である場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。他の特徴が望ましい場合、馴化培地中のTGF−β1は少なくとも約200〜300、好ましくは少なくとも約300pg/ml/日であり、馴化培地中のb−FGFは約200pg/ml未満、好ましくは約400pg/ml以下である。
【0078】
ヘパラン硫酸レベルを、日常的なジメチルメチレンブルー−コンドロイチナーゼABC消化分光学的アッセイを使用して定量することができる。総硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)レベルを、ジメチルメチレンブルー(DMB)色素結合アッセイを使用して決定する。このアッセイは、未知のサンプルを回収培地で希釈した既知量の精製コンドロイチン硫酸を使用して作成した検量線と比較する。さらなる馴化培地サンプルを、コンドロイチナーゼABCと混合してコンドロイチンおよびデルマタン硫酸を消化し、その後にDMB呈色試薬を添加する。GAG標準と混合したDMB色素の極大吸収波長(一般に、約515〜525nm)での全吸収を決定する。1日あたりのヘパラン硫酸濃度を、馴化培地サンプル中の硫酸化グリコサミノグリカン濃度からコンドロイチンおよびデルマタン硫酸の濃度を引くことによって計算する。コンドロイチナーゼABC活性を、精製コンドロイチン硫酸サンプルの消化によって確認する。100%未満の精製コンドロイチン硫酸が消化される場合、馴化培地サンプルを適切に補正する。ヘパラン硫酸レベルを、モノクローナル抗体を使用したELISAアッセイを使用して定量することもできる。
【0079】
必要に応じて、TGF−β1およびb−FGFレベルを、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(好ましくは、ポリクローナル抗体)を使用したELISAアッセイを使用して定量することができる。コントロール回収培地を、ELISAアッセイを使用して定量し、サンプルを、コントロール培地中に存在するTGF−β1レベルおよびb−FGFレベルについて適切に補正することもできる。一酸化窒素(NO)レベルを、標準的なグリース反応アッセイを使用して定量することができる。一酸化窒素の一過性および揮発性のために、ほとんどの検出方法には不適切である。しかし、一酸化窒素、硝酸塩(NO3)、および亜硝酸塩(NO2)の2つの安定な分解生成物を、日常的な測光法を使用して検出することができる。グリース反応アッセイは、硝酸還元酵素の存在下で硝酸塩を亜硝酸塩に酵素的に変換する。亜硝酸塩を、約540nmの範囲で可視光を吸収する有色アゾ色素生成物として比色分析によって検出する。系に存在する一酸化窒素レベルを、全硝酸塩を亜硝酸塩に変換し、未知のサンプル中の総亜硝酸塩濃度を決定し、亜硝酸塩濃度を亜硝酸塩に変換された既知量の硝酸塩を使用して作成した検量線と比較することによって決定する。
【0080】
また、任意の1つまたは複数の上記アッセイを、本発明の移植可能な材料との使用に適切な細胞の同定のためのスクリーニングアッセイとして、単独または組み合わせて使用することができる。
【0081】
上記の1つまたは複数の任意選択的な定量的ヘパリン硫酸、TGF−β1、NO、および/またはb−FGF機能アッセイを使用して前述の好ましい免疫調整表現型をアッセイすることができる一方で、移植可能な材料を、以下のように1つまたは複数の好ましい免疫調整表現型の存在について評価することができる。本発明の目的のために、本発明の細胞に特有の1つのこのような好ましい容易に同定可能な表現型は、下記のin vitroアッセイによって測定したところ、変化した免疫原性表現型である。本発明の細胞に特有の別の容易に同定可能な表現型は、下記のin vitroアッセイによって測定したところ、樹状細胞の成熟を遮断または妨害する能力である。各表現型を、本明細書中で、免疫調整表現型といい、このような表現型を示す細胞は、免疫調整機能性を有する。
【0082】
免疫調整機能性の評価:本明細書中に記載の発明の目的のために、移植可能な材料の免疫調整機能性を、以下のように試験することができる。例えば、移植可能な材料のサンプルを評価して、MHCクラスII分子の発現を減少する能力、同時刺激分子の発現を軽減する能力、同時培養した樹状細胞の成熟を阻害する能力、およびT細胞の増殖を軽減する能力を確認する。一定の好ましい実施形態では、移植可能な材料を、この材料がMHCクラスII分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時刺激分子の発現を少なくとも約25〜80%、好ましくは50〜80%、最も好ましくは少なくとも約80%減少させることができ、同時培養した樹状細胞の成熟を少なくとも約25〜95%、好ましくは50〜95%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができ、そして/またはリンパ球の増殖を少なくとも約25〜90%、好ましくは50〜90%、最も好ましくは少なくとも約95%減少させることができる場合、本明細書中に記載の目的のために使用することができる。
【0083】
MHCクラスII分子および同時刺激分子の発現レベルを、以下に詳述した日常的なフローサイトメトリーおよびFACS分析を使用して定量することができる。リンパ球の増殖を、以下に詳述したシンチレーションカウンティングによる3[H]−チミジン標識CD3+−リンパ球の移植可能な組成物とのin vitro同時培養によって定量することができる。樹状細胞成熟の阻害を、移植可能な材料の樹状細胞との同時培養およびフローサイトメトリーおよびFACS分析による樹状細胞上の種々のマーカーの表面発現の評価またはフローサイトメトリーによるFITC抱合デキストランの樹状細胞取り込みの測定によって定量することができる。これらの各方法を、以下に詳述する。
【0084】
また、任意の1つまたは複数の上記アッセイを、本発明の移植可能な材料との使用に適切な細胞の同定のためのスクリーニングアッセイとして、単独または組み合わせて使用することができる。
【0085】
使用方法および臨床適応:本発明は、一般に、外因性免疫原または刺激および内因性免疫原または刺激に対する免疫学的に負の応答(炎症反応が含まれる)を調整するための材料および方法に関する。本発明はまた、細胞、組織、または器官関連免疫原に関する。例えば、本発明は、非同系または同系の細胞、組織、または器官に対する負の免疫応答を調整し、そして/または既存の免疫容態(自己免疫容態などであるが、これに限定されない)を改善することができる。適切な臨床適応のための移植可能な材料および使用方法のこの考察は、以下の用語および概念を参照する。
【0086】
初期免疫応答は、先天性免疫に依存する。先天性免疫応答中に、種々の先天性免疫機構は、免疫原の存在を認識して応答する。先天性免疫は、常に全ての個体に存在し、主に、自己、変化した自己、および非自己を識別する。例えば、先天性免疫細胞型は、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞、および単球である。先天性免疫応答後に適応的免疫応答が起こり、これは特定のリンパ球のクローン選択によって媒介され、それにより、認識された抗原に対してより場合に応じた持続的免疫応答が得られる。
【0087】
適応的免疫応答(すなわち、適応的免疫)は、抗原に対する抗原特異的リンパ球の応答(免疫学的記憶の発生が含まれる)である。適応的免疫応答は、リンパ球のクローン選択によって生じる。適応的免疫応答は、先天性および非適応的免疫期と異なり、抗原特異的リンパ球のクローン選択によって媒介されない。適応的免疫応答には、細胞性免疫および体液性免疫の両方が含まれる。例えば、適応的免疫細胞は、B細胞リンパ球およびT細胞リンパ球である。
【0088】
適応的免疫応答の顕著な特徴の1つは、免疫学的記憶の確立である。免疫学的記憶は、以前に遭遇した免疫原に対してより迅速且つ効率的に応答する免疫系の能力であり、抗原特異的リンパ球のクローン的に拡大した集団の先在を反映する。
【0089】
防御免疫は、細胞性免疫または体液性免疫のいずれかであり得る。体液性免疫は、体液性免疫応答で生成された抗体によって媒介される特異的免疫である。細胞性免疫は、抗原特異的T細胞が主な役割を果たす任意の適応的免疫応答と説明される。
【0090】
自己免疫疾患は、自己抗原に特異的な持続された適応的免疫応答によって媒介される。抗原が身体の固有の成分であり、それにより、免疫系のエフェクター機能が自己組織に向けられるので、組織が損傷する。また、自己抗原の攻撃を身体から除去することができないので、免疫応答は持続し、新規の自己抗原の供給が持続され、応答が増幅する。
【0091】
いくつかの同系移植片または移植物を長期間受容することができるにもかかわらず、同系移植片でさえもレシピエントには問題があり得る。実際、自家細胞を採取し、ex vivoで操作し、元のドナーに戻す場合でさえ、いくらかの範囲で非受容が起こり得る。典型的には、MHCまたは他の遺伝子座が異なる移植片は、レシピエントT細胞応答によって短期間で拒絶される。ドナーおよびレシピエントのMHCが異なる場合、例えば、免疫応答は移植片によって発現される非MHC分子または他の表面分子に向かう。移植片または移植物の受容または拒絶によって免疫事象(抗原認識、T細胞の活性化、Tヘルパー細胞の動員、および最終的な移植片破壊など)が誘発される。
【0092】
炎症反応は、局所免疫応答によって開始される。急性炎症は、初期の一過性エピソードである一方で、慢性炎症は、自己免疫応答中などで持続する。炎症は、局所血管に及ぼすサイトカインの影響を反映する。サイトカインは、血管内皮の接着性に重要な影響を及ぼし、それにより、循環白血球が血管壁の内皮細胞に貼り付き、血管壁を介して移動する。後期炎症反応はまた、免疫原によって活性化された適応的免疫応答の白血球を誘発する。
【0093】
例示的な治療法および臨床適応を、以下で考察する。これは、完全な考察であることを意図しない。本発明は、本発明を使用した治療に適切な任意の臨床適応(患者に負の臨床結果をもたらす免疫学的事象に代表されるかこれに関連する任意の臨床適応が含まれる)を意図する。
【0094】
同系および非同系の移植物:本発明を使用して、同系移植物であるか非同系移植物であるかを問わず、細胞、組織、および/または器官の移植物に対するレシピエントの負の応答を軽減または減少させることができる。本発明を使用して、同系移植物であるか非同系移植物であるかを問わず、細胞、組織、または器官の移植物に対するレシピエントの移植物受容を安定化または維持することもできる。本明細書中に教示するように、移植可能な材料を移植前処置、同時処置、または移植後処置として使用する場合、負の免疫応答が調整される。例えば、前処置は、レシピエントの免疫系を馴化し、移植物のその後の受容を容易にすることができることを意図する。同様に、同時処置は、生理学的事象の経時変化を軽減し、最終的に受容し、処置によって引き起こされる任意の負の免疫学的事象を改善することができる。移植後処置は、単回であるか複数回であるかを問わず、受容状態を持続し、負の免疫学的事象が起こった場合に負の免疫学的事象を抑制しながら維持することができる。臨床的に、本発明の移植可能な材料を使用した治療に適切な典型的適応には、移植組織または器官に関連する同種拒絶、異種拒絶、虚血−再潅流損傷、および反復処置の経過(course)が含まれるが、これらに限定されない。反復処置の経過には、膵臓島細胞の反復介入および反復補充注射を必要とする異なる血管部位での再発性アテローム性動脈硬化症が含まれるが、これらに限定されない。本発明の目的のために、血液は組織の血液型であり、輸血レシピエントは、前述の理由のために本発明を使用した処置から恩恵を受け得る。同様に、細胞、組織、および/または器官の移植物に関連する免疫学ベースの疾患は、上記治療パラダイムから恩恵を受ける。
【0095】
補体依存細胞傷害性:上記で概説した先天性免疫応答および/または適応的免疫応答の軽減、調整、または消失に加えて、本発明の移植可能な材料はまた、補体カスケードの重症度および補体活性化の炎症性副作用を軽減、調整、または消失することができる。例えば、移植可能な材料または本発明を使用した補体カスケードの弱化により、移植組織または器官の補体媒介性細胞溶解が軽減され、それにより、移植物の機能障害が改善され、首尾のよい処置の持続時間が延長される。
【0096】
介入療法:本明細書中に教示するように、本発明は、既存の免疫応答およびその後の免疫原への初期曝露によって引き起こされる未来の応答の重症度または強さを調整することができる。このような環境下では、移植可能な材料は、それぞれ負の免疫応答の増大の遮断または過敏症の発症の減少によって介入することができる。記憶応答の抑制により、例えば、患者の器官の健康を脅かし得るさらなる生理学的発作を回避することができる。既存の容態(自己免疫容態などなど)の場合、本発明は、患者の組織または器官に対する衰えない免疫学的攻撃の破壊効果を抑制することができる。本質的に、このような患者は、攻撃免疫原に継続的に曝されており、その免疫応答が制御不能を段階的に増大させ、それにより、重篤な、しばしば致命的な疾患の続発症を発症する。
【0097】
自己免疫容態が攻撃免疫原での連続攻撃誘発に例えることができる一方で、他の臨床適応を同様に見なすことができる。例えば、上記に示唆されるように、同系または非同系移植物のレシピエントは、連続攻撃誘発に供される。長期間悪化させる移植物(腎臓島細胞など)の補充は、連続攻撃誘発を較正する。続発性梗塞または続発性血管損傷を、連続攻撃誘発と見なすことができる。別の例は、脈管炎など(これに限定されない)の疾患である。上記のいずれかを、本発明の材料および方法を使用して有効に管理することができる。
【0098】
代替免疫抑制薬:本明細書中の他の場所で説明するように、本発明の移植可能な材料の投与により、有害な免疫抑制薬の投与の必要性が排除されるか有意に軽減されるように少なくともT細胞の活性かが十分に阻害されることが意図される。しかし、一定の患者クラス(免疫応答を高度に悪化させる傾向がある患者など)を移植可能な材料および免疫抑制薬の両方で処置することができることも意図される。本発明の移植可能な材料は、同系または非同系組織の移植前または同時に投与した場合、免疫抑制薬の投薬量を軽減し、必要に応じて、潜在的な移植片拒絶応答を管理することができる。
【0099】
強い免疫抑制薬(例えば、シクロ巣ポリンA、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、ミコフェノレートモフェチル、レフルノミド、糖質コルチコイド、細胞増殖薬、アザチオプリン、およびプレドニゾン)を、移植物レシピエントに投与して、T細胞活性化を阻害し、移植片生存の確率を増加させる。しかし、強い免疫抑制薬の投与は癌および感染症のリスクを増加させ、他の副作用(高血圧症、異常脂質血症、高血糖症、消化性潰瘍、ならびに肝臓および腎臓の損傷が含まれる)のリスクの一因となる。本発明により、このような薬剤のより慎重且つリスクの低い投与レジメンを得ることができる。さらに、典型的には器官レシピエントに投与される免疫抑制薬を、本発明の移植可能な材料の投与前、同時、および/または投与後に投与することができる。例えば、移植可能な材料は、免疫抑制薬の有利な効果を増幅する一方で、免疫系が過剰刺激または過剰感作され、おそらく免疫調整が実際に達成される時間が軽減されるというこのような薬剤のリスクを最初にすることができる。一定の実施形態では、免疫抑制薬の投薬量は、移植可能な材料の存在下で典型的に投与される投薬量よりも少なく、それにより、レシピエントが低毒性用量の免疫抑制薬に曝露されることがさらに意図される。
【0100】
免疫応答の経時変化の変化:本発明の好ましい実施形態では、マトリックス固定および/または包埋内皮細胞を投与して、免疫応答または炎症応答を減少または遅延させる。移植可能な材料が有効と見なされるべき免疫応答または炎症応答を完全に排除することは必要ない。むしろ、材料は、免疫応答もしくは炎症応答の持続時間の軽減または急性免疫応答から慢性免疫応答への軽減などによって応答の経時変化を変化させることのみを必要とする。免疫応答または炎症応答の遅延により、同時またはその後に投与した治療薬が免疫応答または炎症応答の非存在下でレシピエントを有効に治療可能であり、そして/または移植物受容の持続時間を増大可能である。したがって、負の免疫応答の重症度の任意の遅延または軽減は、患者にとって臨床的に有利である。
【0101】
さらに、本発明の移植可能な材料を使用して、患者に導入された任意の外因性異物もしくは外来物質または任意の形態の外因性刺激に関連する免疫応答および炎症反応を管理または軽減することもできる。本発明は、天然に存在する外因性免疫原を意図する。本発明はまた、外因性免疫原(薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質が含まれるが、これらに限定されない)を意図する。本発明の目的のために、外因性免疫原は、外因性刺激(負の免疫応答または炎症反応を引き起こす環境ストレス、損傷、曝露、または任意の刺激などであるが、これらに限定されない)であり得る。
【0102】
例えば、合成移植片材料(合成PTFE(登録商標)動静脈移植片または他の合成外科用材料もしくは人工器官)は、宿主において異物反応を誘導し得る。この免疫応答型または炎症応答型を、合成材料の移植前または移植時の患者への本発明の移植可能な材料の投与によって軽減または消失することができる。移植後の投与も有効である。宿主における任意の異物反応の軽減により、治療の全機能および/または結果が改善される。
【0103】
全般的な考察。本発明の一定の実施形態では、さらなる治療薬を、移植可能な材料の投与前、同時、および/または投与後に投与する。例えば、サイトカインまたは成長因子(免疫関連体液性もしくは細胞性事象または組織関連生化学的カスケードを弱める薬剤が含まれる)を、インプラント(implant)を必要とする臨床適応に応じて移植可能な材料に組み込むこともできる。他の治療薬型には、移植可能な材料に固定および/または包埋された細胞の寿命を促進することができる治療薬および/または移植後の侵食性生体適合性マトリックスの生体侵食を遅延させることができる治療薬が含まれる。上記のいずれかを、局所または全身に投与することができる。局所の場合、一定の薬剤を、移植可能な材料内に含めるか、細胞自体によって付与することができる。
【0104】
投与の検討。本明細書中で意図されように、本発明の移植可能な材料を、任意の適合可能な解剖学的部位に送達または配置することができる。但し、この部位における容態が、移植可能な材料の機械型もしくは物理型の破壊または最終的な崩壊を引き起こさないか、移植可能な材料の物理的完全性または機能性を犠牲にしないものとする。例えば、本発明を、皮下、血管周囲、または腹腔内で行うことができる。1つの好ましい部位は、皮膚嚢(skin pouch)である。他の好ましい部位は、血管周囲または非血管周囲であり得る。移植可能な材料を、器官または管状解剖学的構造(血管または非血管構造であり得る)に隣接するか接触させて配置することができる。本発明を、体液性または細胞性免疫応答の全身的調整の目的または炎症反応の局所的調整の目的またはその両方のための任意の適合可能な部位に送達することができる。移植可能な材料の一定の好ましい実施形態は、生体侵食される前に少なくとも約56〜84日間、好ましくは少なくとも約7日間、より好ましくは少なくとも約14日間、さらにより好ましくは少なくとも約28日間移植部位に存在し得る。
【0105】
レシピエントへの送達の準備が整った場合、移植可能な材料(例えば、可動性平面形態)は、1×4×0.3cm(1.2cm3)の滅菌片である。この滅菌片は、好ましくは約5〜8×105、好ましくは少なくとも約4×105細胞/cm3の細胞を含み、1cm3あたりの生存細胞(例えば、1つの死体ドナー供給源由来のヒト大動脈内皮細胞)が少なくとも約90%であり、約45〜60ml、好ましくは約50mlの内皮成長培地(例えば、フェノールレッドおよび抗生物質を含まない内皮成長培地(EGM−2))を含む。ブタ大動脈内皮細胞を使用する場合、成長培地はまた、フェノールレッドを含まないが、5%FBSおよび50μg/mlゲンタマイシンを補足したEBM−2である。
【0106】
本明細書中で意図され一定の実施形態では、本発明の移植可能な材料は、ゲル、泡、懸濁液、粒子、マイクロキャリア、マイクロカプセル、または他の流動性材料の形態であり得る粒子生体適合性マトリックスを含む流動性組成物である。注射型または注入型送達デバイスとの使用のための任意の非固体流動性組成物を本明細書中で意図する。一定の実施形態では、流動性組成物は、好ましくは、形状持続組成物である。本明細書中で意図され流動型粒子マトリックス中、上、または内に細胞を含む移植可能な材料を、内径範囲が約22ゲージ〜約26ゲージであり、好ましくは、約1〜約3ml中に約100万個の細胞を含む粒子材料を含む約50mgの流動性組成物を送達することができる任意の注射型送達デバイスとの使用のための処方することができる。
【0107】
好ましい実施形態によれば、流動性組成物は、生体適合性粒子マトリックス(Gelfoam(登録商標)粒子、Gelfoam(登録商標)粉末、または微粉Gelfoam(登録商標)(Pfizer,New York,NY)(以後、「Gelfoam粒子」)(ブタ皮膚ゼラチン由来の製品)など)を含む。別の実施形態によれば、架橋デキストランマトリックスにカップリングした変性コラーゲンから構成される粒子マトリックスは、Cytodex−3(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)マイクロキャリアである。
【0108】
血管内投与。流動性組成物を、最終沈積部位が管腔内でないにもかかわらず、管腔内または血管内経路を介して投与することもできる。例えば、組成物を、血管内に挿入することができる任意のデバイスによって送達することができる。内視鏡誘導システムを使用して、投与部位に当該分野で公知のステントおよび/または他の内視鏡誘導システムの位置を同定するための送達デバイス(例えば、血管内超音波(IVUS)、カラードップラー超音波、複式超音波、他の日常的な超音波、血管造影法、磁気共鳴血管造影法(MRA)、磁気共鳴映像法(MRI)、CTスキャニング、蛍光透視検査が含まれるが、これらに限定されない)を配置することができる。さらに、触診を使用して投与部位に配置することができる。
【0109】
1つの例では、管腔内送達デバイスは、血管の管腔壁を貫通して血管の非管腔表面に到達するための横断または貫通デバイスを備えている。次いで、流動性組成物を、非管腔表面に沈積させる。管腔外とも呼ばれる非管腔表面には、血管の外側の任意の部位または血管の任意の血管周囲表面が含まれ得るか、例えば、血管の外膜、中膜、または内膜内に存在し得ることが本明細書中で意図される。本発明の目的のために、非管腔または管腔外は、管腔の内面以外の任意の表面を意味する。管腔内送達デバイスによって血管周囲腔内に沈積することができ、横断した血管の管腔外表面と接触する必要はないことも意図される。
【0110】
本明細書中で意図される貫通デバイスは、例えば、損傷しているか罹患している標的部位を破壊することなく血管の非管腔表面に流動性組成物を送達するための所望の幾何学的立体配置で配置された単一の送達点または複数の送達点を得ることが可能である。複数の送達点を、例えば、2〜3例を挙げると、環状、ブルズアイ(bulls−eye)、または直線配列の配置で配置することができる。貫通デバイスはまた、ステント穿孔機(複数の送達点を含むバルーンステントなどであるが、これに限定されない)の形態であり得る。
【0111】
経皮投与。流動性組成物を、ニードル、カテーテル、または他の適切な送達デバイスを使用して、経皮経路を介して送達させることができる。流動性組成物を、治療を必要とする部位への送達を容易にする誘導方法の使用と同時に経皮に送達させることができる。誘導工程は任意である。内視鏡誘導システムを使用して、管腔外投与部位に血管内超音波(IVUS)、カラードップラー超音波、複式超音波、他の日常的な超音波、血管造影法、磁気共鳴血管造影法(MRA)、磁気共鳴映像法(MRI)、CTスキャニング、蛍光透視検査を配置することができる。さらに、触診を使用して投与部位に配置することができる。血管周囲腔または腹膜腔への侵入の際に、例えば、臨床家は、任意の非管腔表面または任意の非管腔部位上に流動性組成物を沈積することができる。誘導工程または同定工程を任意選択的に行い、本発明の方法を実施する必要はない。別の実施形態によれば、移植可能な流動性組成物を、外科的に露呈させた管腔外部位に局所的に送達させる。
【0112】
注入による投与も意図される。ボーラス型投与またはより遅い型の段階的投与として注入を行うことができる。当業者は、各利点を認識し、どれか一方の投与様式を使用する環境を認識するであろう。本当に必要なのは、日常的な臨床的注入である。
【0113】
実験材料および手順
材料の調製および評価。本明細書中の他の場所により詳細に記載するように、ブタ大動脈内皮細胞およびヒト大動脈内皮細胞を、個別に単離し、培養した。次いで、培養細胞を、三次元生体適合性マトリックス(Gelfoamなど)に播種し、細胞がコンフルエンスに到達するまでインキュベートした。マトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞の機能性を、前に記載のプロトコールにしたがって評価した。
【0114】
ラットにおける内皮細胞誘導性免疫反応。54匹のSprague−Dawleyラットの皮下背側腔に、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして5×105個のブタ大動脈内皮細胞移植物を投与した。背側切開後、ブラント技術(blunt technique)で小さな皮下空洞を構築し、Gelfoam包埋細胞を慎重に挿入するか細胞を注射した。空のコントロールGelfoamマトリックスを、移植前に完全DMEM中でインキュベートした。血清を、0〜56日目に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。
【0115】
マウスにおける内皮細胞誘導性免疫反応。36匹のB6マウスの皮下背側腔に、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして5×105個のブタ大動脈内皮細胞移植物を投与した。空のコントロールGelfoamマトリックスを、移植前に完全DMEM中でインキュベートした。免疫学的記憶に及ぼすマトリックス包埋の影響を評価するために、100日目に同一群のマウスに、同一の処置を使用して再攻撃誘発した。血清を、各移植手順から0〜90日後に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。各群の4匹のマウスを、脾臓単離のために28日目および128日目にそれぞれ屠殺した。
【0116】
連続攻撃誘発マウスにおける内皮細胞誘導性免疫反応。LargeWhiteブタ大動脈から単離したブタ大動脈内皮細胞(PAE)を、前述のようにGelfoam上に播種するか、ポリスチレンプレート上にコンフルエンスまで成長させた。0、21、35日目に、B6マウスの皮下背側腔に、5×105個のPAE(n=24、予備感作マウス)または生理食塩水(n=24、ナイーブマウス)を注射した。42日目に、各群由来の12匹のマウスに、5×105個のマトリックス包埋PAEまたは遊離PAEを投与した。その後の90日間で内皮細胞の宿主免疫反応および溶解損傷を研究した。血清を、42〜132日後に連続して採取し、等分し、−70℃で保存した。脾臓単離のために、各群の6匹のマウスを70日目に屠殺し、残りを132日目に屠殺した。
【実施例】
【0117】
実験
三次元マトリックス中に包埋した内皮細胞は、三元パターンで成長する
生体適合性マトリックス内で成長した内皮細胞の成長パターンを評価するために、走査電子顕微鏡法を行った。Gelfoamマトリックスに固定および/または包埋した内皮細胞を含む移植可能な材料を、PBSでリンスし、0.5cmの標本lに分割し、3%グルタルアルデヒド(Sigma Chemicals;St.Louis,MO)で90分間固定し、蒸留水に移した。1%OsO4中でのインキュベーション後、標本を蒸留水でリンスし、エタノールの連続希釈物(30、50、75、80、85、90、95、および100%)中にて15分間隔で脱水し、ヘキサメテイルジシラザン(Sigma)(50%、100%)中にて30分間隔で脱水した。標本を、100%HMDS中で一晩蒸発させ、その後、プラズマコーター(Edwards Coating System,U.K.)を使用して金でコーティングした。5kV加速電圧で(Streoscan 240,Cambridge Instruments,U.K.)、走査電子顕微鏡写真を得た。
【0118】
走査電子顕微鏡法により、Gelfoam−マトリックスの隙間に沿ったブタ大動脈内皮細胞の三次元成長パターンが明らかとなった。細胞生存度は、2週間の培養期間にわたって95%で維持された。
【0119】
実験データは、Gelfoam包埋細胞のin−vivo免疫受容が生体適合性マトリックスのみの存在よりもむしろマトリックス中の内皮細胞の三次元成長パターンに影響を及ぼすことを示す。典型的には、組織操作生体材料内に組み合わせた移植細胞またはタンパク質は、抗原免疫刺激の供給源として役立つ。さらに、Gelfoamマトリックスのみに隣接したブタ大動脈内皮細胞の注射によって遊離の注射内皮細胞と同一の免疫応答を誘発したので、Gelfoamマトリックスは、免疫中性であり、それ自体が免疫防御効果を持たない。内皮細胞の性質は、マトリックス包埋細胞調製物を使用して認められたこの固有の免疫調整形態に寄与する。特に、これらの細胞は以下に片寄っている:基底膜と相互作用する基底面および流れている血液要素および細胞要素と相互作用する上面。データから、内皮細胞の機能は、固定および密度に依存することが示唆される。高血圧のような全身疾患、脂質およびグルコース代謝の変化、または毒素への曝露により、固定依存性調節ならびに内皮に対する免疫応答の大きさおよび性質が変化し、マトリックス接着性から遊離へのインタクトな内皮細胞の表現型の変換が血管疾患に寄与する。
【0120】
表面分子(同時刺激分子および接着分子が含まれる)の調整
in vitroでの内皮細胞上での同時刺激分子および接着分子の発現レベルを、フローサイトメトリーによって定量した。FITCおよびPE標識抗体を使用し、これらには、マウス抗ブタP−セレクチン抗体、マウス抗ブタCD31(クローンLCI−4)、抗ヒトCD54(クローン15.2)、抗ヒトCD62E(クローン1.2B6)、抗ヒトCD58(クローン1C3)、抗ヒトCD80(クローンBB1)、抗ヒトCD86(クローン2331)、抗ヒト4−1BB−リガンド(PE標識クローンC65−485)、ラット抗マウスIgG1(クローンA85−1)、および抗マウスIgM(クローンR6−60.2)、ウサギ抗ラットIgG、ウサギ抗ヒトCD40、ヤギ抗ウサギIgG、マウス抗ヒトCD106(クローン1.G11B1)、マウス抗ヒトHLA−DP、DQ、DR(クローンCR3/43)、マウス抗クラスI MHC(IgG2a)、ラット抗マウスIgG2a、マウス抗意図ox40−リガンド、マウス抗ヒトプログラム死リガンド1(PD−L、クローンMIH1)、抗ヒトPD−L2(クローンMIH18)、および抗ヒト誘導性同時刺激因子リガンド(ICOS−リガンド、クローンMIH12)が含まれていた。
【0121】
内皮細胞単層またはGelfoam中に包埋された内皮細胞を、100U/ml TNF−α(CD54、CD80、CD86、CD106、E−セレクチン、P−セレクチン)または200U/ml TNF−α(ICOS−L)で24時間、10μg/ml LPSで24時間(4−1BB−リガンド)、1000U/ml IFN−γ(MHC−II、CD40)または100U/ml IFN−γおよび25ng/ml TNF−α(PD−Ll)で48時間刺激した完全培地(CD31、CD58、PD−L2、ox40−リガンド、MHC−I)中での培養後に採取した。培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄した。単層を、1.0mM PBS/EDTA中で5分間インキュベートし、穏やかな震盪によって破壊した。GelfoamをコラゲナーゼI型で消化し、表面分子の発現に影響を及ぼさないことが示された。細胞懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、FACS緩衝液(0.1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS、Sigma Chemicals;St.Louis,MO)に再懸濁した。内皮細胞を、一次抗体と4℃で30分間インキュベートした。必要に応じて、細胞をFACS緩衝液に再懸濁し、二次抗体にて4℃で30分間染色した。次いで、細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson,San Diego,CA)を使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0122】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、表面分子の発現を変化させた。組織培養ポリスチレンプレート上で成長させたブタ大動脈内皮細胞のCD58発現と比較して、Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞でのCD58の構成性発現は有意に軽減した(−60.4%、p<0.002)。FACS分析によってポリスチレンプレート上で成長させたブタ大動脈内皮細胞と比較して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞上の同時刺激分子、接着分子、およびMHCクラスIIの上方制御も有意に軽減した(CD80:−64.9%、p<0.002;CD86:−65.4%、p<0.001;CD40:−53.8%、p<0.005;ICAM−1:−68.7%、p<0.001;VCAM−1:−53.9%、p<0.005;E−セレクチン:−71.8%、p<0.0005;P−セレクチン:−79.9%、p<0.0002;MHC II:−78.3%、p<0.0002)。MHCクラスIおよびCD31の表面発現の有意な相違は認められなかった。
【0123】
同様に、三次元生体適合性マトリックス中に包埋したヒト大動脈内皮細胞は、表面分子の発現を変化させた。三次元マトリックス中で成長したヒト大動脈内皮細胞は、CD58の発現プロフィールを有意に軽減し、同時刺激分子および接着分子の上方制御は有意に欠如していた。しかし、Gelfoam中に包埋したヒト大動脈内皮細胞と組織培養ポリスチレンプレート上で成長したヒト大動脈内皮細胞との間のICAM−1、E−セレクチン、MHC I、およびCD31の発現レベルの有意な相違は認められなかった。さらに、PD−L2の構成性発現(100%、p=0.73)およびPD−L1の上方制御(86%、p=0.09)の有意な相違は認められなかった。
【0124】
したがって、三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、同時刺激分子および接着分子を軽減する。マトリックス包埋したブタ大動脈内皮細胞およびヒト大動脈内皮細胞は、活性化内皮細胞上の同時刺激分子および接着分子の発現レベルを有意により低下させた。
【0125】
共焦点顕微鏡法によるin vitroでのインプラント中および免疫組織化学分析によるin vivoでのラット中でのCD31、MHC−II、CD58、ICAM−1、およびE−セレクチンの発現も分析した。内皮細胞をカバースリップに播種するか、Gelfoam−マトリックスに包埋した。PBSでの洗浄および3%パラホルムアルデヒドでの20分間(カバースリップ)または一晩(Gelfoam)の固定前に、内皮細胞を、ラット血清(Bethyl Laboratories,TX)で30分間ブロッキングした。抗体での染色後、Gelfoamマトリックスを、厚さ2mmmのスライスに切断した。内皮細胞を、適量の抗体で1時間(カバースリップ)または2時間(Gelfoam)染色し、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡で分析した。染色強度を、ImageJソフトウェア(National Institute of Health,Bethesda,MD)で定量し、CD31発現に対して正規化した。
【0126】
共焦点顕微鏡法により、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞上のCD58、ICAM−1、E−セレクチン、およびMHC−IIの発現レベルが減少したのに対して、CD31発現は変化しないままであることが明らかとなった(p<0.02)。細胞−基質固定は、MHC−I発現に影響を及ぼさなかったが、MHC−II分子の予想される上方制御を顕著に弱めた。Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、in vitroでの異種CD4+T細胞の増殖を少ししか誘発せず、これは、遊離ブタ大動脈内皮細胞におけるMHC−II結合のブロッキングで認められた応答に類似していた。
【0127】
in vivoでの免疫応答の調整
マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞は、P−セレクチンおよびE−セレクチンが関与する白血球動員に置ける初期事象および免疫炎症部位でのT細胞動員に密接に関連するVCAM−1の刺激を低下させた。一般的および種特異的な同時刺激分子の全パネルは、マトリックス包埋によって下方制御された(内皮細胞発現および4−1BB−リガンドの抑制についての最初の報告が含まれる)。同時に、PD−L1およびPD−L2(相殺阻害分子として作用するB7ファミリーのメンバー)の発現および上方制御は、マトリックス包埋後にインタクトなままであった。これらのin vitro所見は、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植後のラットにおいて免疫応答が有意に弱化したと解釈された。
【0128】
移植28日後の各群由来の6匹のラットにおける移植に対する細胞性応答も免疫組織化学的に評価した。5μmパラフィン切片を切断し、0.01mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)中で10分間のマイクロ波加熱によって抗原回復(retrieval)を行った。白血球、Tリンパ球、およびBリンパ球を、アビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体法によって同定した。一次抗体は、白血球を同定するためのマウス抗ラットCD45R0(Research Diagnostics;50倍希釈)、CD4+−T細胞を同定するためのマウス抗ラットCD4(Pharmingen;10倍希釈)、およびCD8+−T細胞を同定するためのマウス抗ラットCD8(Pharmingen;50倍希釈)であった。ポジティブコントロールとしてラット脾臓を使用し、ネガティブコントロールとしてマウスIgGを使用した。一次抗体を室温で1時間適用し、全切片を、メイイヤーヘマトキシリン液(Sigma)で対比染色した。6つの非重複野(×600)を試験した。各群の結果を平均した。
【0129】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAE注射または三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのラットにおける免疫応答も軽減させた。Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞は、in vivoでブタ大動脈内皮細胞特異的IgGの形成を有意に減少させた。遊離ブタ大動脈内皮細胞の投与およびGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を注射したラットにおいて、血清サイトカイン(MCP−1、IL−6、TNF−α)が上昇し、移植5日後にピークに達した。対照的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を使用した動物では、サイトカインレベルはバックグラウンドレベルを超えて増加なかった。
【0130】
免疫組織学的研究により、28日目のインプラント/注射内およびその周囲への細胞の浸潤が示された。遊離ブタ大動脈内皮細胞の注射およびGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞の注射後、T細胞はインプラント/注射側で豊富であったのに対して、移植片の周囲に多数のCD45R0陽性白血球も見出された。対照的に、インプラントおよびGelfoam−ブタ大動脈内皮細胞自体の周囲の組織は、他の細胞移植群よりも白血球およびCD4+−T細胞の浸潤が1/4.5であり、CD8+T細胞の浸潤が1/3.3であった。
【0131】
移植されたブタ大動脈内皮細胞に特異的な循環ラット免疫グロブリンも、フローサイトメトリーによって測定した。2×105個のブタ大動脈内皮細胞を、0.25%トリプシン/0.04%EDTAを使用して組織培養ポリスチレンプレートから剥離し、ペレット化し、洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁し、レシピエントラット由来の血清(FACS緩衝液で10倍希釈)と4℃で30分間インキュベートした。冷FACS緩衝液での2回の洗浄後、細胞を、FITC抱合抗ラットIgGとインキュベートした。4℃の暗所で30分間のインキュベーション後、サンプルを、冷FACS緩衝液で2回再度洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。ラットIL−6(R&D Systems,MN、検出限度21pg/ml)、ラットTNF−α(R&D Systems、検出限度5pg/ml未満)、およびラットMCP−1(Amersham、検出限度5pg/ml未満)の血清濃度を、移植から0、5、12、および28日後にELISAによって定量した。アッセイ条件のばらつきを回避するために、同一のELISAによって測定を同時に行った。
【0132】
実験マウスの血清中の移植されたブタ大動脈内皮細胞に特異的なラット免疫グロブリンレベルも、フローサイトメトリーによって測定した。2×105個の移植細胞と同株由来のブタ大動脈内皮細胞を、0.25%トリプシン/0.04%EDTAを使用して組織培養プレートから剥離し、ペレット化し、洗浄し、FACS緩衝液(PBS、1%FCS、0.1%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。次いで、これらの細胞を、レシピエントラット由来の血清(FACS緩衝液で10倍希釈)と4℃で60分間インキュベートした。FACS緩衝液での2回の洗浄後、細胞を、FITC抱合抗ラットIgG2a(Southern biotechnology,AL)、IgG1(クローンA85−1)、またはIgM(クローンR6−60.2、BD Pharmingen,CA)とそれぞれインキュベートした。4℃の暗所で30分間のインキュベーション後、サンプルを、冷FACS緩衝液で2回再度洗浄し、0.25mlの1%パラホルムアルデヒド中で固定し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0133】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋された内皮細胞は、遊離PAEおよび三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射されたPAEと比較した場合、in vivoでのTh2駆動免疫応答を軽減させた。ブタ大動脈内皮細胞特異的抗体応答の規模および性質を特徴づけるために、Gelfoam包埋細胞、生理食塩水懸濁細胞ペレット、または空のGelfoamに隣接したペレットとして皮下背側腔にブタ大動脈内皮細胞を移植した後に、マウスから血清を回収した。移植後、Gelfoam中に包埋したブタ大動脈内皮細胞のレシピエントと比較して、ブタ大動脈内皮細胞ペレットまたは空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞ペレットを投与したマウスで抗ブタ大動脈内皮細胞のIgG1およびIgMレベルは類似しており、有意に高かった(図1Aおよび1B)。マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植から12日後(p<0.005)に、抗ブタ大動脈内皮細胞のIgG2aが一過性且つ小さく上昇したが、ペレット化ブタ大動脈内皮細胞またはペレット化ブタ大動脈内皮細胞を注射した空のGelfoamのインプラントを投与したマウスでは認められなかった(図1C)。
【0134】
図1A、1B、および1Cは、フローサイトメトリーによる遊離PAE、Gelfoam成長内皮細胞の皮下注射後またはGelfoamに隣接するPAEのみの同時注射後のマウスにおける循環PAE特異的IgGをグラフで示している。全マウス由来の結果のグラフ(移植から28日後についてはn=18/群、56〜100日後についてはn=12/群)は、IgG1(図1A)およびIgM(図1B)についてのマトリックス包埋PAEと他のPAE移植形態との間の統計的有意差を証明している。マトリックス包埋PAEの移植から12日後に、抗PAEのIgG2aが一過性且つ小さく上昇した(図1C)。
【0135】
組織培養プレート上で成長させた非刺激HAEと比較して、マトリックス包埋HAEは、より高いレベルの阻害シグナル伝達分子(サイトカインシグナル抑制因子(SOCS)3)を有意に発現した(0.007±0.001対0.003±0.0003RU、p<0.001)。したがって、IFN−γでの刺激により、マトリックス包埋HAE上でMHC IIが有意により低く発現した(37±5対68±4%、p<0.001)。IFN−γ受容体発現レベルが変化しないにも関わらず(p=0.39)、基質接着により、ヤヌスキナーゼ1および2ならびにシグナル伝達性転写因子1のIFN−γ誘導性リン酸化は軽減した。この後に、マトリックス包埋HAE中でのインターフェロン調節因子1(CIITA)(0.01±0.004対0.03±0.004RU、p<0.005)、およびHLA−DR(0.17±0.04対0.27±0.05RU、p<0.02)の発現が減少した。マトリックス包埋HAE上のMHC II発現の軽減により、同種T細胞の増殖を誘導する能力が弱まった(4152±225対19619±327cpm、p<0.001)。
【0136】
興味深いことに、三次元マトリックスに包埋した内皮細胞は、認められたTh2駆動免疫応答をほぼ完全に減少させ、溶解活性を弱くし、ナイーブT細胞のエフェクター細胞への分化を弱化する。前の結果によれば、これらのデータから、細胞のGelfoam包埋により、MHCクラスII分子ならびに同時刺激分子および接着分子の発現レベルの低下を介したT細胞レベルでの免疫活性化によって免疫防御が得られることが示唆される。
【0137】
リンパ球増殖および溶解活性の調整
ポリスチレンウェル上で成長したか、Gelfoam中に包埋されたブタ大動脈内皮細胞を、96ウェルプレート中に5×104細胞/ウェルで播種し、40ng/mlブタIFN−γで48時間刺激し、その後にマイトマイシンC(Sigma、50μg/mlで30分間)で処置して、バックグラウンド増殖を防止した。ヒトCD4+リンパ球を、製造者の説明書にしたがってCD4+T細胞単離キットII(Milenyi Biotec,Germany)を使用した負の選択によって精製し、2×105細胞/ウェルで添加した。いくつかの実験では、HLA−DP、DQ、DRに指向するマウス抗体は、MHCクラスII分子を介して活性化を遮断した。6日目に、16時間のパルス(1μCi/ml、Amersham)によって3[H]−チミジン組み込みを測定した。マイトマイシン処置ブタ大動脈内皮細胞、培地、またはT細胞のみのチミジン取り込みを、ネガティブコントロールとして使用した。
【0138】
in vivoでのマウスのリンパ球溶解活性を評価するために、脾臓の単離および評価を行った。各群由来の4匹のマウスの脾臓を、ブタ大動脈内皮細胞移植から28日後に層流フード中で無菌的に単離した。器官をいくつかの小片に切断した。19ゲージの針を備えた滅菌シリンジでの懸濁液の数回の引き抜きおよび放出によって、塊をさらに分散させた。その後、200μmメッシュのナイロン篩によって懸濁液を放出した。細胞を、RPMI(2mM L−グルタミン、0.1M HEPES、200U/mlペニシリンG、200μg/mlストレプトマイシン、および5%加熱不活化ウシ血清、Life Technologiesを含む)で2回洗浄し、直ちに使用した。
【0139】
in vivoでのマウスにおけるリンパ球溶解活性をさらに評価するために、カルセイン−AM放出アッセイを行った。注射細胞と同種由来のブタ大動脈内皮細胞を、最終濃度2×104/ウェルで完全培地中に再懸濁し、15μMカルセイン−AM(Molecular Probes)と37℃で40分間時々撹拌しながらインキュベートした。完全培地で2回の洗浄後、エフェクター細胞としての脾臓細胞を、最終濃度5×105/ウェルで添加した。自発的放出および最大放出を、コントロールとしての完全培地中に標的細胞のみを含む6つの複製ウェルおよび最後の20分間の培地+2%TritonX−100中に標的細胞を有する6つのウェルを試験した。37℃/5%CO2で3時間のインキュベーション後、サンプルを、Fluoroskan Ascent FLデュアルスキャニングマイクロプレート蛍光光度計(Thermo Electron Corparation,TX)を使用して測定した。データを、任意蛍光単位(AFU)として示した。比溶解(specific lysis)を、式[(試験放出−自発放出)/(最大放出−自発放出)]×100にしたがって計算した。
【0140】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞により、リンパ球増殖が軽減された。組織培養プレート中で成長させたかGelfoam中に包埋した未処置およびINF−γ処置ブタ大動脈内皮細胞(40ng/ml、48時間)に対する単離ヒトCD4+T細胞の増殖応答を、チミジン組み込みによってアッセイした。IFN−γで予め処置したブタ大動脈内皮細胞への曝露後に認められた強いCD4+T細胞増殖は、ブタ大動脈内皮細胞がマトリックス包埋された場合にほぼ消失した(17087.2±3749.75対5367.8±1976.3cpm、p<0.01)。MHCII抗体の存在により、IFN−γ処置ブタ大動脈内皮細胞に応答したリンパ球増殖が65%まで遮断され、これは、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞に匹敵するレベルであった。マイトマイシン処置ブタ大動脈内皮細胞は、培養6日後に有意な増殖は認められず(61±13cpm)、単離CD4+T細胞のみも同様であった(83±27cpm)。
【0141】
同様に、三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAEの注射および三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのマウスのリンパ球溶解活性を軽減させた。3つの異なる処置群由来にマウス脾臓由来のリンパ球を、ブタ大動脈内皮細胞移植から28日後に単離した。ドナーブタ大動脈内皮細胞をカルセイン−AMで標識し、内皮細胞溶解を、リンパ球との同時インキュベーション後のカルセイン蛍光放出によって測定した。純粋なブタ大動脈内皮細胞の注射後(36.8±3.9%)および同時ブタ大動脈内皮細胞注射後(33.9±4.7%)のマウス由来のリンパ球は、ブタ大動脈内皮細胞−Gelfoam構築物の移植後(22.4±4.2%、p<0.05;図2)のマウスから単離したリンパ球と比較して、最も高い溶解活性を示した。
【0142】
図2は、遊離PAEを投与したマウス由来の脾臓細胞をグラフで示し、マトリックス包埋PAEと比較した場合、溶解活性が有意に増加している。遊離PAEでのマウスの再攻撃誘発により、単離脾臓細胞の異種溶解活性が有意に増加した。
【0143】
Th2サイトカイン産生細胞およびサイトカインの調整
免疫スポットプレート(Millipore,Bedford,MA)を、5μg/mlの抗マウスインターフェロン(IFN−γ)、抗マウスインターロイキン(IL)−2、抗マウスIL−4、または抗マウスIL−10mAb(全てBD Pharmingen)を含む滅菌PBSで一晩コーティングした。次いで、プレートを、フェノールレッドを含まないが、10%加熱不活化ウシ血清を含む完全RPMI培地で2時間ブロッキングした。次いで、脾臓細胞(0.5×106個を含む100μl完全RPMI培地)および移植のために使用したブタ大動脈内皮細胞と同一の株(0.5×106個を含む100μl完全RPMI培地)を、各ウェルに入れ、5%CO2中にて37℃で48時間培養した。脱イオン水およびその後の0.05%Tweenを含むPBS(PBST)での洗浄後、2μg/mlのビオチン化抗マウスIFN−γ、抗マウスIL−2、抗マウスIL−4、または抗マウスIL−10mAb(全てBD Pharmingen)を、それぞれ一晩添加した。次いで、プレートを、PBSTで3回洗浄し、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合ストレプトアビジン(BD Pharmingen)と1時間インキュベートした。PBSTおよびその後にPBSで4回洗浄後、3−アミノ−9−エチル−カルバゾール(BD Pharmingen)を使用してプレートを発色させた。得られたスポットを、コンピュータ支援酵素結合免疫スポット画像分析器(Cellular Technology Ltd.,ORT)にて計数した。培地、脾臓細胞、またはブタ大動脈内皮細胞のみを含むウェル中のスポット数を、異種応答から引いて、データ分析におけるバックグラウンドを明らかにした。
【0144】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、遊離PAEの注射および三次元生体適合性マトリックスに隣接して注射したPAEと比較した場合、in vivoでのマウスのTh2サイトカイン産生細胞を軽減させた。Th1サイトカイン(IFN−γ、IL−2)産生細胞およびTh2サイトカイン(IL−4、IL−10)産生細胞の頻度を、異なる形態のブタ大動脈内皮細胞の移植後の動物から回収した脾臓細胞におけるELISPOTアッセイによって測定した。移植後28日目に、Th2サイトカイン産生細胞の頻度は、遊離ブタ大動脈内皮細胞または空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスから単離した脾臓細胞と比較して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスから単離した脾臓細胞で有意に低かった(IL−4:p<0.0001、IL−10<0.001;図3A)。対照的に、3つの群から単離した脾臓細胞におけるTh1サイトカイン産生細胞の頻度に有意差は認められなかった(図3B)。
【0145】
図3Aは、遊離PAE、マトリックス包埋PAE、または空のGelfoamに隣接したPAE注射を使用したマウス移植後のレシピエントにおける異種抗原特異的サイトカイン酸生細胞の頻度をグラフで示す。28日目の3つの群で、IFN−γおよびIL−2産生T細胞の頻度に有意差は認められなかった。しかし、マトリックス包埋PAEでの再攻撃誘発により、異種抗原特異的IFN−γおよびIL−2産生T細胞の有意な増加が誘発される。
【0146】
図3Bは、それぞれ第1の移植および第2の移植から28日後の各処置群の1匹のマウスの代表的なELISPOTウェルを示す。PAEに応答したIL−4産生を測定した。各ウェル中のIL−4スポット数を、コンピュータ支援画像分析によって決定した。
【0147】
図3Cは、遊離PAEのレシピエントが28日目にマトリックス包埋PAEのレシピエントと比較して異種反応性IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度を減少させたことをグラフで示す。遊離PAEまたは空のGelfoamマトリックスに隣接したPAEでの再攻撃誘発により、128日目に異種抗原特異的IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度が有意に増加した。
【0148】
エフェクター細胞の調整
レシピエントから回収した脾臓細胞を、FACS緩衝液で2×106/mlの濃度に再懸濁した。細胞を、抗CD4FITC(クローンL3T4)、抗CD8FITC(クローンLy−2)、抗CD44 R−PE(クローンLy−24)、抗CD62Lアロフィコシアニン(クローンLy−22)、およびアイソタイプコントロール(全てBD PharMingen)で染色した。前述のように、CD44highおよびCD62Llowを発現するCD4+およびCD8+エフェクター細胞を列挙した。
【0149】
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、in vivoでのマウスの異種拒絶を防止した。異種反応性CD4+およびCD8+T細胞の生成および機能に及ぼすマトリックス包埋の影響を決定するために、本発明者らは、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の移植後、生理食塩水懸濁細胞ペレットの移植後、または移植から28日後に空のGelfoamに隣接したペレットとして処置したマウス脾臓中に見出されるCD62LlowCD44high数を測定した(図4)。CD4+およびCD8+エフェクター細胞は、CD62LlowCD44high細胞と確実に同定された。CD62LlowCD44highの比率は、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスと比較して、遊離ブタ大動脈内皮細胞−レシピエントおよび空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスで有意に増加した。CD4+CD62LlowCD44highT細胞の頻度は、全群におけるCD8+エフェクター細胞より多い(1.7〜2.3の比)。
【0150】
図4Aは、遊離PAEを投与したマウスにおけるCD4+およびCD8+エフェクター細胞が有意に増加したプロットのグラフである。CD4+エフェクター細胞は、28日目および128日目でCD8+T細胞よりも多い。マウスから回収したCD4+脾臓細胞を、エフェクターT細胞のマーカーとしてCD62LおよびCD44を使用したフローサイトメトリーによって分析した。移植から28日後の遊離(a)、マトリックス包埋(b)、またはGelfoamに隣接したPAE(c)を投与したマウス由来の代表的なプロット。
【0151】
図4Bは、エフェクター細胞の拡大が遊離PAEを投与したマウスにおける再攻撃誘発後に増加するが、マトリックス包埋PAEでは増加しないことをグラフで示す。
【0152】
異種拒絶および免疫学的記憶の調整
三次元生体適合性マトリックス中に包埋した内皮細胞は、非血管化異種組織の移植後に免疫学的記憶を生じた。Th1サイトカインは、Th2駆動体液性応答の下方制御による異種拒絶の防止において重要な役割を果たす。これに関して、データは、再攻撃誘発後に組織操作内皮細胞がブタ大動脈内皮細胞特異的IgG2a抗体の有意な増加および異種反応性Th1産生脾臓細胞の有意な増加を誘発することを証明する。
【0153】
第1の移植から100日後に、各群の残りのマウスに、その最初に遭遇したものと同一のブタ大動脈内皮細胞で再攻撃誘発した。生理食塩水懸濁細胞ペレットまたは空のGelfoamに隣接したペレットを投与したマウスは、第1の一連の移植後に認められた応答を超える有意なIgG1駆動ブタ大動脈内皮細胞特異的抗体応答を示した(図5A)。たった1週間で、IgM抗体放出が認められた(図5B)。非常に対照的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスは、ブタ大動脈内皮細胞特異的抗IgG1およびIgMレベルの増加は認められず、他の2つのマウス群で存在しなかったブタ大動脈内皮細胞特異的IgG2a抗体の有意な放出が示された(図5C)。
【0154】
図5A、5B、および5Cは、遊離PAEまたはGelfoamに隣接したPAEでの再攻撃誘発マウス(移植から128日後についてはn=12/群、156〜190日後についてはn=6/群)が、マトリックス包埋PAEでの再攻撃誘発と比較して、PAE特異的IgG1抗体の形成を有意に増加したことをグラフで示す(図5A)。再攻撃誘発は、PAE特異的IgM形成に影響を及ぼさず(図5B)、3群間にPAE特異的IgG2a抗体の有意差は認められなかった(図5C)。
【0155】
これらの結果と一致して、遊離ブタ大動脈内皮細胞または空のGelfoamに隣接したブタ大動脈内皮細胞注射を投与したマウス由来の単離脾臓細胞は、再攻撃誘発から28日後にブタ大動脈内皮細胞を溶解する能力の有意な増加を示したのに対して、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞の第2のインプラントを投与したマウス由来の脾臓細胞の溶解能力は、第1の移植後よりも有意に低かった(図6)。異種反応性IL−4およびIL−10産生T細胞の頻度は、遊離ブタ大動脈内皮細胞の再移植後のマウスで有意に増加し、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発後のTh2産生脾臓細胞の頻度は変わらなかった。しかし、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発により、第1の一連の移植後よりも高い頻度で異種反応性IFN−γおよびIL−2産生脾臓細胞が誘導された。
【0156】
図6は、マトリックス包埋またはMHCII遮断がPAEに曝露したマウス脾臓細胞の増殖を非刺激レベルに修復することをグラフで示す。IFN−γに応答したマウス脾臓細胞増殖は、PAEを刺激した。マトリックス包埋内皮細胞またはMHCII抗体の存在は、IFN−γ処置PAEに応答した脾臓増殖を約79%まで遮断した。各値を、平均±SDを示す。
【0157】
さらに、再攻撃誘発から28日後に、CD4+エフェクター細胞の比率は、遊離ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスでさらに増加し、空のGelfoamインプラントに隣接したブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスで有意に増加するか、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスでは不変のままであった。CD8+エフェクターT細胞についても同一パターンが明らかであった。
【0158】
PAEを使用したナイーブマウス脾臓細胞のin vitro刺激により、遊離内皮細胞と比較して、IFN−γ刺激マトリックス包埋内皮細胞とインキュベートした場合に脾臓細胞の有意に弱化した増殖応答が明らかとなった。MHC II抗体の存在により、IFN−γ処置PAEに応答した脾臓細胞増殖が79%まで遮断され、これは、マトリックス包埋PAEに匹敵するレベルであった。
【0159】
全体的に、マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞を投与したマウスの脾臓サイズは、研究期間の終了時の他の群よりも小さいようであった(62.9±9.6、112.7±16.9、102.5±18.8mm3;p<0.005)。
【0160】
したがって、ナイーブT細胞と残りの内皮細胞との間の同族相互作用により、in vitroおよびin vivoで耐性を示すことができる。これらのデータは、非血管化異種組織の移植後の免疫学的記憶の形成を報告している。免疫学的記憶を、抗原特異的IgG1およびIgMレベル、脾臓細胞の溶解活性、およびエフェクターT細胞への分化の増加傾向の有意な増加によって特徴づけた。対照的に、内皮細胞のマトリックス包埋でのマウスの再攻撃誘発により、脾臓細胞の溶解能力が軽減し、エフェクターCD4+およびCD8+細胞の頻度は変わらなかった。マトリックス包埋ブタ大動脈内皮細胞での再攻撃誘発が抗PAE IgG1およびIgMの生成に影響を及ぼさなかったのに対して、IgG2aレベルは有意に増加した。
【0161】
フラクタルキン発現の調整
ケモカインおよび接着分子は、血管壁への循環免疫細胞の動員で重要である。フラクタルキンは、走化性および接着機能の両方を有し、アテローム性動脈硬化症、心臓同種移植片拒絶、糸球体腎炎、および関節リウマチの病理発生に関与する。本発明者らは、RT−PCR、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、およびELISAによって遊離およびマトリックス包埋ヒト大動脈内皮細胞(HAE)の間のフラクタルキンの発現および分泌を比較した。サイトカイン刺激HAEおよび51Cr標識ナチュラルキラー(NK)細胞を使用して接着アッセイを行った。
【0162】
HAEを、37℃の5%CO2を含む加湿大気中にて100U TNFα/ml(Sigma)および100U IFN−γ/ml(Roche)で刺激し、この条件により、培養内皮細胞中で最大レベルのフラクタルキンが得られることが証明された。
【0163】
フローサイトメトリー:内皮細胞の単層またはGelfoam中にマトリックス包埋した内皮細胞を、表示の期間でTNFαおよびIFN−γでの刺激後に採取した。培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄した。単層を、1mM PBS/EDTA中で5分間インキュベートし、穏やかな震盪によって破壊した。Gelfoam成長細胞をコラゲナーゼI型(Worthington Biochemical,NJ)で消化し、CX3CL1発現に影響を及ぼさないことが示された。細胞懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定した。2回の洗浄工程後、細胞を、サポニン緩衝液(0.1%サポニン、0.05%NaN3を含むハンクス平衡塩溶液)に再懸濁し、遠心分離し、上清を破棄した。次いで、HAEを、FITC抱合マウス抗ヒトCX3CL1(IgG1、クローン51637、R&DSystems,Minneapolis,MN)または適合したアイソタイプコントロール(クローンMOPC−31、Pharmingen)と4℃で45分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、104個の細胞を、FACScalibur装置およびCellQuestソフトウェアを使用したフローサイトメトリーによって分析した。
【0164】
ウェスタンブロット分析:細胞の単層またはコラゲナーゼ処理によってGelfoamマトリックスから消化した細胞を、PBS緩衝液で洗浄し、細胞溶解物を、溶解緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl(pH7.5)、1%TritonX−100、1%デオキシコレート、0.1%SDS、およびプロテアーゼインヒビター;Roche)とのインキュベーションによって調製した。サンプルを、4〜20%調製済みTris−HClゲル(BioRad Laborataories,Hercules,CA)にて分離した。フラクタルキン検出のためのポジティブコントロールを使用し、これは、85〜90kDaの形態のカルボキシ末端の57アミノ酸を欠く組換えヒトフラクタルキン(R&D Systems)からなる。次いで、タンパク質を、グリシン−Trisトランスファー緩衝液の使用によってPVDF膜(Millipore,Billerica,MA)に移した。ブロット膜を、StartingBlockのブロッキング緩衝液(Pierce,Rockford,IL)で1時間ブロッキングした。フラクタルキン検出のために、ブロッキングした膜を、ブロッキング緩衝液で200倍希釈したヤギ抗ヒトフラクタルキンポリクローナル抗体(R&D Systems)と4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜を、洗浄緩衝液(0.05%Tween20を含むPBSからなる)にて室温で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で3000倍希釈した二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したウサギ抗ヤギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA))と室温で2時間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液を5回交換して洗浄した。フラクタルキンバンドの検出のために、ブロットを、製造者の説明書にしたがって化学発光基質(Western Lighting Chemiluminescence Reagent Plusキット、Perkin−Elmer,Boston,MA)とインキュベートし、その後、X線フィルム(Kodak X−Omat Blue XB−1)に露光した。
【0165】
ELISA:サイトカイン刺激後の内皮細胞単層またはGelfoam中に包埋した内細胞由来の馴化培地を、表示の期間で採取した。分泌されたフラクタルキンを、市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)検出キット(R&D Systems)を使用して検出した。簡潔に述べれば、96ウェルImmulonプレート(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)に、100μlの4μg/mlのマウス抗ヒトフラクタルキン捕捉抗体を含むPBSを室温で一晩コーティングした。洗浄緩衝液(PBS−0.05%Tween20)で3回の洗浄後、プレートを、1%ウシ血清アルブミン−5%スクロースを含むPBS中で3時間ブロッキングした。100μlの標準(420ng/mlの組換えヒトフラクタルキン(キットに含まれる)を希釈緩衝液での2倍連続希釈物として希釈して使用した)または馴化培地を添加し、その後、室温で一晩インキュベートした。3回の洗浄工程後、プレートを、100μlの500ng/mlマウス抗ヒトフラクタルキン検出抗体を含むPBSと室温で2時間インキュベートし、その後、100μlの西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したストレプトアビジンと室温で30分間インキュベートした。次いで、テトラメチルベンジジン(R&D Systems)と混合した100μl過酸化水素溶液の添加によって発色させた。次いで、450nmの波長の光学密度を読み取った。
【0166】
NK細胞−内皮細胞結合アッセイ:HAEを、6ウェルプレート(6×105細胞/ウェル)中でコンフルエンスまで成長させるかGelfoamマトリックス中に包埋し、5%CO2を含む大気中で100U TNFα/mlおよび100U IFN−γ/mlにて37℃で20時間活性化し、PBSで1回洗浄した。Gelfoamマトリックスを、コラゲナーゼI型で消化し、細胞を計数し、6×105細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレート中に1時間プレートして接着させた。単離したNK細胞を、10μCiの51Cr/106NK細胞とインキュベートし、PBSで洗浄し、400μlの培地のみまたは20μg/mlの抗CX3CR1抗体を含む培地に20分間再懸濁した(5×105/ウェル)。NK細胞懸濁液を、穏やかに震盪する条件下で(10サイクル/分)内皮細胞の単層に添加した。30分後、培地を破棄し、ウェルを穏やかに洗浄した。接着性細胞を、1%Tritonを含むPBSでの処理によって溶解した。総結合を、ガンマカウンターを使用した1分あたりの個別のウェル会合数の測定によって決定した。示した分析は、少なくとも3回の独立した実験の代表であった。
【0167】
マトリックス包埋は、フラクタルキンmRNAの誘導を抑制した。組織培養ポリスチレンプレート上または三次元マトリックス内で成長した休止期の内皮細胞は、フラクタルキンを発現しなかったのに対して、TNFαおよびIFN−γでの組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAEの刺激により、時間依存様式でフラクタルキンmRNA発現が誘導された。組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAE中のフラクタルキンmRNAは、12時間の刺激で発現がピークに達し、細胞は、24時間の刺激後に有意な量のmRNAを依然として発現した。対照的に、フラクタルキンmRNA発現の誘導は、全試験時点で、マトリックス包埋内皮細胞で有意に減少した。12時間のサイトカイン刺激後にも最大に到達したが、組織培養ポリスチレンプレート上でコンフルエンスまで成長した内皮細胞の発現レベルはわずか約10%であった(p<0.0001)。
【0168】
マトリックス包埋は、HAE中のフラクタルキンタンパク質発現を阻害した。ウェスタンブロット分析により、組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞と比較して、Gelfoamマトリックス内に包埋したHAE中でフラクタルキンのより低いタンパク質発現レベルが明らかとなった。非刺激内皮細胞および4時間刺激した内皮細胞で検出可能なフラクタルキン特異的タンパク質バンドは認められなかった。組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞は、8時間の刺激後にフラクタルキンを発現し、TNFαおよびIFN−γでの16〜24時間の刺激によって最大発現を示した。マトリックス包埋HAE中のタンパク質発現は、後に(12時間)検出することができ、サイトカイン刺激から24時間以内により弱くなり、消滅した。
【0169】
ウェスタンブロットの結果と同様に、フローサイトメトリー分析により、組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAE中で有意により高いフラクタルキンタンパク質発現レベルが明らかとなった。マトリックス包埋内皮細胞上の最大発現がサイトカイン刺激から16時間後に到達したのに対して(22.8±5.7%)、組織培養ポリスチレンプレート上で成長した内皮細胞は、TNFαおよびIFN−γでの刺激から20時間後にフラクタルキン発現が最大に到達し、有意に増加した(76.5±8.6%;p<0.0001)。
【0170】
実験データは、サイトカイン刺激したマトリックス包埋内皮細胞からのフラクタルキン分泌の減少を示す。フラクタルキンレベルを、ELISAあによる内皮培養上清に放出された可溶性フラクタルキンの蓄積レベルとしても測定した。可溶性フラクタルキンレベルは、ウェスタンブロットおよびフローサイトメトリー分析でのレベルと同等であった。組織培養ポリスチレンプレート上で成長したHAEから分泌されたフラクタルキンは、マトリックス包埋HAEによって分泌されたレベルを有意に超えた(培養24時間後で32.2±2.4対13.8±1.7pg/ml;p<0.0002)。
【0171】
実験データは、マトリックス包埋内皮細胞へのNK細胞の接着の減少を示す。本発明者らの所見の機能的妥当性を研究するために、51Cr標識NK細胞および組織培養ポリスチレンプレート上で成長したサイトカイン刺激HAEまたはマトリックス包埋を使用した接着アッセイを次に行った。ガンマカウンティングによって明らかなように、Gelfoam内包埋HAEよりも有意により多数のNK細胞が組織培養ポリスチレンプレート上で成長した同種HAEに接着した(6335±420対1735±135cpm;p<0.0002;図5)。20μg/mlの抗CX3CL1の添加によってサイトカイン刺激HAEへのNK細胞の接着が約74%まで有意に増加したので(p<0.005対抗CX3CL1なし)、活性化内皮細胞へのNK細胞接着についてのフラクタルキン発現の重要性を証明することができる。NK細胞は、組織培養ポリスチレンプレートやGelfoamのみに接着しなかった。
【0172】
増強された免疫反応性マウスにおける免疫応答の調整
内皮細胞注射によって、マウスの抗体形成が誘導された。ナイーブB6マウスでは、5×105個のPAEの3回の連続皮下注射により、生理食塩水注射と比較して、循環内皮細胞特異的IgG1(2210±341対53±12の平均蛍光強度(MFI)およびIgM抗体(136±39対49±14MFI;p<0.02)が上昇した。第1のPAE注射から42日後のいずれかのマウス群の血清中に検出可能なPAE特異的IgG2a抗体は認められなかった(データ示さず)。
【0173】
マトリックス包埋内皮細胞は、体液性免疫反応を防止した。マトリックス包埋異種内皮細胞の移植は、遊離細胞の移植と非常に対照的に、ナイーブマウスにおいて有意な体液性免疫反応を誘導することができなかった(42日目、IgG1:210±102対735±327MFI;p<0.001;IgM:60±11対299±51 MFI;p<0.001;図7Aおよび7B)。予備感作した連続攻撃誘発マウスへの遊離PAEの注射により、体液性免疫反応が上昇し、IgG1抗体レベルが顕著に増加し(3795±448 MFI;p<0.0002対ナイーブマウス)、PAE特異的IgMがわずかに増加した(164±28MFI)。非常に対照的に、予備感作した連続攻撃誘発マウスへのマトリックス包埋PAEの移植は、PAE特異的抗体を増加させなかった。さらに、注射PAEに特異的な抗体レベルは経時的にゆっくり減少した(IgG1:1578±334 MFI;p<0.0005対遊離PAE;IgM:69±5 MFI;p<0.01対遊離PAE;図7Aおよび7B)。4つの処置群においてPAE特異的IgG2a抗体の増加は認められず(データ示さず)、異種移植でのTh2応答が優勢であるという依然の報告が支持された。
【0174】
図7Aおよび7Bは、非包埋PAEまたはマトリックス包埋PAEの皮下移植後のナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウス中の循環PAE特異的IgG1(図7A)およびIgM(図7B)をグラフで示す。全マウス由来の結果のグラフ(移植から70日後についてはn=12/群、71〜132日後についてはN=6/群)は、マトリックス包埋PAE移植と遊離PAE移植との間の有意差を証明する。マトリックス包埋PAE移植後の抗体レベルはゆっくり減少した。データを、平均値±SDとして示す。
【0175】
マトリックス包埋内皮細胞は、細胞性免疫の弱い誘導因子である。ELISPOT分析により、遊離PAEの移植から90日後にナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスで高頻度での異種Tヘルパー細胞(Th)2−サイトカイン(IL−4、IL−10)産生脾臓細胞が明らかとなったが、マトリックス包埋PAEの移植後はそうではなかった。予備感作した連続攻撃誘発マウスにおける異種反応性脾臓細胞の頻度は、遊離PAEを投与したナイーブマウスにおける異種反応性脾臓細胞の活性化および分化を超えた(IL−4:907±59対680±129;p<0.02;IL−10:1096±94対888±151スポット数;p<0.02;図8Aおよび8B)。さらに、ナイーブマウスにおけるマトリックス包埋PAEの移植と比較して、予備感作した連続攻撃誘発マウスへのマトリックス包埋PAEの移植により、IL−4はわずかしか誘発されなかったが(322±75対199±99スポット数;p<0.05;p<0.0005対遊離PAE;図8A)、IL−10産生異種反応性脾臓細胞ではそうではなかった(403±142対451±135スポット数;p=0.27;p<0.001対遊離PAE;図8B)。遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較して、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作した連続攻撃誘発マウス中のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞の存在が有意により少なかった(p<0.001)。Th1−サイトカイン(IFN−γおよびIL−2)産生脾臓細胞の頻度は、4つの処置群の間で有意に異ならならなかった。このことは、異種反応性におけるTh2の役割が優勢であることをさらに支持している(データ示さず)。
【0176】
図8Aおよび8Bは、ナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスにおける遊離PAEまたはマトリックス包埋PAEの移植後のレシピエント中の異種反応性サイトカイン産生細胞の頻度をグラフで示す。データを、平均値±SDとして示す。ナイーブレシピエントおよび遊離PAEの予備感作した連続攻撃誘発レシピエントは、マトリックス包埋PAEレシピエントと比較して、IL−4(図8A)およびIL−10(図8B)産生脾臓細胞の頻度が有意に増加した。
【0177】
非包埋PAEを投与したマウス中のサイトカイン産生脾臓細胞の増加は、長期にわたってCD4+およびCD8+エフェクターT細胞の増加と同等であった(CD4+:44±2ナイーブマウス、54±4%予備感作マウス、p<0.05;CD8+:20±2;21±2%;図9Aおよび9B)。したがって、マトリックス包埋PAEに曝露したナイーブマウスおよび予備感作した連続攻撃誘発マウスにおけるCD44high/CD62LlowT細胞へのT細胞の分化が有意に弱まった(CD4+:22±2ナイーブマウス、21±3%予備感作マウス、p<0.01対遊離PAE;CD8+:12±2;14±3%:p<0.02対遊離PAE;図9Aおよび9B)。全処置群において、CD4+は、CD8+エフェクターT細胞より1.7〜2.6倍多かった。132日目の全処置群を通して、Th2サイトカイン産生脾臓細胞の頻度とCD4+CD44high/CD62Llow(IL−4:r=0.81;p<0.0001;IL−10 r=0.88;p<0.0001;図10)およびCD8+CD44high/CD62Llowエフェクター細胞(IL−4:r=0.79;p<0.0001;IL−10 r=0.86;p<0.0001)へのT細胞分解の範囲との間に強い相関関係が認められた。
【0178】
図9Aおよび9Bは、遊離PAEを投与したマウスにおける有意に増加したCD4+(図9A)およびCD8+(図9B)エフェクター細胞をグラフで示す。マウスから回収した脾臓細胞を、エフェクターT細胞のマーカーとしてCD62LおよびCD44を使用したフローサイトメトリーによって分析した。内皮細胞をマトリックス包埋した場合、ナイーブマウスと予備感作した連続攻撃誘発マウスとので相違は認められなかった。データを、平均値±SDとして示す。
【0179】
図10Aおよび10Bは、Th2−サイトカイン産生脾臓細胞の頻度とエフェクター細胞へのT細胞の分化の範囲との間のスピアマン相関である。図10Aは、IL−2サイトカインの頻度をグラフで示す。図10Bは、IL−10サイトカインの頻度をグラフで示す。相関により、サイトカインレベルがエフェクターT細胞誘導と直線的に相関することが示唆される。密度の楕円領域は、95%信頼区間を示す。
【0180】
マトリックス包埋内皮細胞を、溶解損傷から保護する。宿主リンパ球が異種内皮細胞を損傷する能力を、70日目および132日目に特徴づけた。カルセイン放出は、25:1のエフェクター:標的比で横這いになった。この比について、内皮細胞の損傷は、70日目にマトリックス包埋PAEの代わりに非包埋PAEを投与した場合、ナイーブマウスの1.6倍であり、予備感作マウスの1.7倍であった(p<0.001)。これらの比は、132日後にそれぞれ1.9および2.3に増加した(p<0.0005;図11)。注目すべきは、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作マウスにおける内皮損傷範囲が、遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較した場合、有意に低かったことである(20.9±2.3対37.1±3.4%AFU;p<0.001;図11)。
【0181】
宿主リンパ球が異種内皮細胞を損傷する能力を、70日目および132日目に特徴づけた。図11は、内皮細胞が遊離またはマトリックス包埋である場合のナイーブマウスおよび予備感作マウスにおける内皮細胞の損傷度をグラフで示す。溶解を介した内皮損傷は、遊離PAEと比較して、マトリックス包埋PAEを投与したナイーブマウスおよび予備感作マウスで有に減少する。2×104個のPAEをカルセインで標識し、70日後および132日後にそれぞれ単離した5×105個の脾臓細胞とインキュベートした。
【0182】
カルセイン放出は、25:1のエフェクター:標的比で横這いになった。この比について、内皮細胞の損傷は、70日目にマトリックス包埋PAEの代わりに非包埋PAEを投与した場合、ナイーブマウスの1.6倍であり、予備感作マウスの1.7倍であった(p<0.001)。これらの比は、132日後にそれぞれ1.9および2.3に増加した(p<0.0005;図11)。注目すべきは、マトリックス包埋PAEを投与した予備感作マウスにおける内皮損傷範囲が、遊離PAEを投与したナイーブマウスと比較した場合、有意に低かったことである(20.9±2.3対37.1±3.4%AFU;p<0.001;図11)。
【0183】
樹状細胞成熟の調整
樹状細胞は、免疫応答の開始および調節を共に行う固有の能力を有する抗原提示細胞である。成熟樹状細胞は、エフェクターおよび記憶細胞へのT細胞の分化を促進するのに対して、未成熟樹状細胞は、寛容原性様式で(自己)抗原を提示する。樹状細胞は、種々の内皮媒介性疾患を意図し、内皮細胞の活性化によってその成熟を誘導する。樹状細胞は免疫反応で重要であるので、内皮細胞駆動樹状細胞成熟は内皮細胞−マトリックス接触に依存するということになる。
【0184】
樹状細胞の調製、培養、および成熟:標準的な手順によって健康なボランティアから末梢血を回収し、Ficoll−Paque(Sigma Chemicals,St.Louis,MO)にて分画した。樹状細胞を駆動するために、総末梢血単球(PBMC)を、2×106細胞/mlで、完全培地(Life Technologies)を含む組織培養フラスコ中で1.5時間培養した。インキュベーション後、非接着性細胞を、1×HBSS溶液(Life Technologies)での十分な洗浄によって除去した。次いで、残存する接着性細胞を、20ng/mlインターロイキン(IL)−4および20ng/ml GM−CSFを含む完全培地(Peprotech,Rocky Hill,NJ)中で、CO2インキュベーターにて37℃で5日間培養した。得られた細胞は、半接着から非接着のMHCIIlow/CD14−/low/CD83−であった(データ示さず)。
【0185】
さらなる成熟のために、接着および非接着樹状細胞を採取し、強く洗浄し、計数し、5×105個の樹状細胞を、サイトカインカクテル(10ng/ml IL−1β、1000U/ml IL−6、20ng/ml IL−4、GM−CSF、およびTNF−α;全てPreprotech)、1.5×105個のHAE、または1.5×105個のPAEで48時間刺激した。内皮細胞は、組織培養プレート上でコンフルエントまで成長した後の懸濁液またはGelfoamマトリックス内に包埋された表面接着物のいずれかとして存在した。各アッセイを、少なくとも4回繰り返した。成熟後、樹状細胞を、磁性ビーズ標識CD1a抗体(Miltenyi,Bergisch−Gladbach,Germany)を使用して、任意の夾雑内皮細胞から単離した。フローサイトメトリー分析により、単離DCの純度が98%であることが明らかとなった(データ示さず)。
【0186】
リアルタイムPCR:製造者に説明書にしたがってRNeasy Mini Kit(Qiagen,Valencia,CA)を使用して、単離樹状細胞および残存内皮細胞から総RNAを抽出した。相補DNAを、Applied Biosystems(Foster City,CA)のTaqMan逆転写試薬を使用して合成した。SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)および選択プライマーを使用したOpticonリアルタイムPCR装置(MJ Research,Waltham,MA)にてリアルタイムPCR分析を行った。反応由来のデータを収集し、相補Opticonコンピュータソフトウェアによって分析した。遺伝子発現の相対量を検量線を使用して計算し、GAPDHに対して正規化した。
【0187】
フローサイトメトリー:樹状細胞または内皮細胞の懸濁液を洗浄し、3×105個の細胞を、FACS緩衝液(0.1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS、Sigma Chemicals;St.Louis,MO)に再懸濁した。標準的なフローサイトメトリー分析は、種々のマーカーの表面発現を評価した。以下のフィコエリトリン(PE)またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)と直接抱合したモノクローナル抗体を、淡色フローサイトメトリー分析で使用した:PE−CD1a(クローンHI149、IgG1)、FITC−CD3(クローンUCHT1、IgG1)、PE−CD14(クローンTUK4、IgG2a)、PE−CD31(クローンWM59、IgG1)、FITC−CD40(クローン5C3、IgG1)、FITC−CD54(クローン15.2、IgG1)、FITC−CD80(クローンBB1、IgM)、FITC−CD83(クローンHB15e、IgG1)、FITC−CD86(クローン2331、IgG1)、FITC−CD106(クローン51−10C9、IgG1)、FITC−HLA−DP、DQ、DR(クローンCR3/43、IgG1)、FITC−Toll様受容体(TLR)2(クローンTL2.3、IgG2a)、およびFITC−TLR4(クローンHTA125、IgG2a)。適切なアイソタイプコントロール抗体(マウスPE−IgG1、PE−IgG2a、FITC−IgG1、FITC−IgG2a、FITC−IgM)をそれぞれ使用した。抗体を、DakoCytomation(Carpinteria,CA)、Serotec(Raleigh,NC)、またはPharMingen(San Diego,CA)から購入した。染色後、細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で固定し、その後にFACScalibur装置およびCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson,Mountain View,CA)にて分析した。
【0188】
エンドサイトーシス活性:樹状細胞のエンドサイトーシス活性を、前に記載のように、FITC抱合デキストラン(分子量40.000;Molecular Probes,Eugene,OR)の取り込みによって測定した。簡潔に述べれば、種々の成熟状態の樹状細胞を、1mg/ml FITC抱合デキストランを含む完全培地中にて、特異的取り込みを測定するためには37℃で、非特異的結合を測定するためには4℃で1時間インキュベートした。次いで、上記のように細胞を強く洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0189】
混合リンパ球反応のアッセイ:非関連ドナー由来のCD3+T細胞を、製造者(Dynal Biotech,Lake Success,NY)の説明書にしたがって抗体枯渇および磁性ビーズを使用した負の選択によって総PBMCから調製した。フローサイトメトリーによって評価したところ、非磁性画分は、95%を超えるCD3+T細胞を含んでいた。2×105個CD3+T細胞/ウェルを、96ウェルの丸底プレート中に播種した。精製されたサイトカインまたは内皮細胞成熟樹状細胞を、γ照射し(137Cs源からの3000rad)、1×104、4×103、または2×103細胞/ウェルでT細胞に添加して、DC:T細胞の最終比を1:20、1:50、または1:100にした。5日目に、1μCiの3H−チミジン(Perkin−Elmer,Boston,MA)を、各ウェルに添加した。18時間後に細胞を採取し、3H−チミジン取り込みを、Packard TopCountγカウンター(GMI,Ramsey MI)を使用して定量した。
【0190】
ウェスタンブロット:樹状細胞からの分離後、内皮細胞をPBS緩衝液で洗浄し、細胞溶解物を、溶解緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl(pH 7.5)、1%Triton X−100、1%デオキシコレート0.1%SDS、およびプロテアーゼインヒビター;Roche,Indianapolis,IN)とのインキュベーションによって調製した。サンプルを、4〜20%調製済みTris−HClゲル(BioRad Laborataories,Hercules,CA)にて分離した。次いで、タンパク質を、グリシン−Trisトランスファー緩衝液の使用によってPVDF膜(Millipore,Billerica,MA)に移した。Jurkat(TLR2)またはHL−60ホールセル溶解物(TLR4、共にSanta Cruz Biotechnologies,Santa Cruz,CA)を、コントロールとして使用した。膜を、StartingBlockのブロッキング緩衝液(Pierce,Rockford,IL)で1時間ブロッキングした。ブロッキングした膜を、ウサギ抗ヒトTLR2(ブロッキング緩衝液で250倍希釈)またはTLR4抗体(200倍希釈、共にSanta Cruz Biotechnologies)と4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜を、洗浄緩衝液(0.05%Tween20を含むPBSからなる)にて室温で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で1000倍希釈した二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合したヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA))と室温で2時間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液を5回交換して洗浄した。TLRバンドの検出のために、ブロットを、製造者の説明書にしたがって化学発光基質(Western Lighting Chemiluminescence Reagent Plusキット、Perkin−Elmer,Boston,MA)とインキュベートし、その後、露光し、FluorChem SP(Alpha Innotech,San Leandro,CA)にて分析した。
【0191】
非接着性内皮細胞は、単球由来樹状細胞の成熟を指示した。前の所見と一致して、単球は、GM−CSFおよびIL−4中での5日間の培養後に成熟樹状細胞に分化した(データ示さず)。IL−1β、TNF−α、およびIL−6での48時間の長期サイトカイン刺激により、確立された樹状細胞成熟マーカーとしてのCD83の発現(2.2倍)と共に、同時刺激分子(CD40:成熟樹状細胞と比較して2.3倍、CD80:1.9倍、CD86:1.6倍)およびHLA−DR分子(1.5倍)が上方制御された。組織培養プレート中でのコンフルエンスまでの成長後の同種および異種内皮細胞の生理食塩水懸濁液への曝露により、サイトカインカクテルでの長期処置と類似の程度に単球由来樹状細胞の全成熟が誘導された。HAEまたはPAEのみで樹状細胞同時刺激分子発現が誘導され、これには、CD40(未熟樹状と比較して、HAE:2.1倍、PAE:2.5倍)、CD80(2.1倍、2.3倍;p<0.05対;サイトカイン刺激)、CD86(1.6倍、1.7)、HLA−DR(1.7倍、2.2倍;p<0.05対HAE、p<0.002対サイトカイン刺激)、およびCD83(2.6倍;p<0.05対サイトカイン刺激、3.2倍;p<0.02倍HAE、p<0.001対サイトカイン刺激)の増加を伴う。
【0192】
類似の様式で、樹状細胞TLR2およびTLR4の発現は、HAEの生理食塩水懸濁液(それぞれ、1.5倍および2.5倍)への曝露の際にサイトカイン刺激と同様またはそれを超える範囲(成熟樹状細胞と比較して、両TLRの1.5倍)に上方制御された。この効果は、非接着異種PAEとの樹状細胞の同維インキュベーション後にさらにより顕著になった(TLR2:2.4倍;p<0.05対サイトカインおよびHAE刺激、TLR4:3.0倍;p<0.05対HAE、p<0.001対サイトカイン刺激)。mRNA転写レベルについて類似の結果を得ることができる。さらに、サイトカインまたは非接着性内皮細胞で成熟させた樹状細胞は、IL 12 p40mRNAの有意な上方制御を示した(未成熟:0.03+0.02相対単位(RU)、サイトカイン刺激:0.23+0.03 RU、p<0.002、HAE刺激:0.31+0.05 RU、p<0.001、PAE刺激:0.28±0.03、p<0.002)。
【0193】
基質接着性内皮細胞とのインキュベーションにより、樹状細胞が不完全に成熟し、エンドサイトーシス活性が維持される。非接着性内皮細胞との同時培養と非常に対照的に、三次元マトリックス内に包埋された基質接着性HAEおよびPAEとの樹状細胞の同時細胞は、樹状細胞成熟が制限され、これらの受容細胞は、CD40(基質接着性HAE:未成熟DCと比較して1.5倍、p<0.02対非接着性HAE、基質接着性PAE:1.3倍、p<0.002対非接着性PAE)、CD80(基質接着性HAEおよびPAE:1.3倍、p<0.005対非接着性EC)、CD86(基質接着性HAE:1.1倍、PAE:1.2倍、共にp<0.005対非接着性EC)、CD83(基質接着性HAE:1.5倍、p<0.001対非接着性HAE、PAE:1.4倍、p<0.0002対非接着性PAE)、およびTLR4(基質接着性HAE:1.5倍、PAE:1.3倍、共にp<0.005対非接着性内皮細胞)の弱い上方制御しか示さなかった。基質−接着性内皮細胞は、樹状細胞上のHLA−DRおよびTLR2発現を全く誘導できなかった(p<0.005)。空のGelfoamマトリックスのみとのインキュベーションは、単球由来樹状細胞の成熟に効果がなかった(データ示さず)。リアルタイムPCR分析により、樹状細胞基質接着性同種および異種内皮細胞に曝露した場合に同一の不完全成熟パターンが明らかとなった。IL12 p40のインキュベーションは、樹状細胞が基質接着性内皮細胞で成熟されている場合に同様にわずかにより弱かった(HAE刺激:0.06±0.01、p<0.005、PAE刺激0.07±0.02、p<0.02)。
【0194】
未熟樹状細胞は、有効に抗原を捕捉し、高レベルのエンドサイトーシスを示した。単球をGM−CSFおよびIL−4中で培養した場合、FITC抱合デキストラン取り込みが増加した(423.3±121.8平均蛍光強度(MFI)、239.8±42.8 MFI、p<0.0001)。成熟は、典型的には、同時の抗原提示機能の増加およびエンドサイトーシス活性による抗原捕捉能力の減少によって達成される。デキストラン取り込みは、典型的には、サイトカイン刺激の継続(89.7±14.7 MFI、p<0.0001対5日目)および非接着性HAE(92±20.3MFI)またはPAE(82.4±16.5MFI)との同時インキュベーションによって減少する。非常に対照的に、内皮細胞が基質接着性三次元状態で存在する場合、樹状細胞はそのエンドサイトーシス活性を保持し、デキストラン取り込みが顕著に減少した(基質接着性HAE:203.2±11.3MFI、p<0.05対5日目、p<0.0001対非接着性HAE;基質接着性PAE:254.3±32 MFI、p<0.0001対非接着性PAE)。
【0195】
樹状細胞は、基質接着性内皮細胞との培養後にT細胞増殖活性が減少した。エフェクター細胞および記憶細胞へのT細胞分化を促進する能力は、樹状細胞の成熟度の重要な機能的マーカーである。サイトカイン処置された非接着性内皮細胞曝露樹状細胞が試験した全範囲の樹状細胞:T細胞比にわたってT細胞増殖を誘導するのに対して(74789±1777、HAE:97522±1630、およびPAE:101616±4302cpm)、この能力は、基質接着性HAE(18320±1000 cpm、p<0.002)およびPAE(20080±683cpm、p<0.0001)と同時インキュベートした樹状細胞で有意に弱まった。
【0196】
樹状細胞と同時培養した場合、基質接着性内皮細胞の活性化が減少した。リアルタイムPCR、フローサイトメトリー、およびウェスタンブロット分析により、樹状細胞との2日間の同時培養後にHAEおよびPAEの活性化の減少が明らかとなった。樹状細胞の磁性ビーズベースの単離後、残存細胞は、内皮細胞特異的マーカーCD31について純度が95%超であった(データ示さず)。リアルタイムPCRは、その非接着性対応物と比較した場合、基質接着性HAE上での接着分子、CD58、HLA−DR、およびTLR分子のmRNA発現レベルの減少を証明した。mRNA発現レベルの減少は表面および細胞内発現の減少と解釈され、非接着性HAEと比較した場合の基質接着性についてのICAM−1の発現は1/3.6であり(PAEについては1/1.3)、HAEについてのVCAM−1は1/4.9(PAE:2.7倍)であり、HAEについてのHLA−DRは1/16(PAE:1/23)であった。ウェスタンブロットの密度測定分析により、樹状細胞との48時間の同時培養後の基質接着性内皮細胞と比較した場合、非接着性内皮細胞において、TLR2発現(HAE:1.5倍、PAE:1.6倍;p<0.05)およびTLR4発現(HAE:2.3倍、PAE:2倍;p<0.01)の増加が明らかとなった。
【0197】
したがって、非接着性内皮細胞がサイトカインカクテルで認められた範囲と類似の範囲に単球由来樹状細胞の成熟を誘導したのに対して、基質接着性内皮細胞との同時インキュベーションにより、樹状細胞上の接着分子、同時刺激分子、およびHLA−DR分子のmRNA転写物およびタンパク質レベルの少しの上方制御しか誘導しなかった。基質接着性内皮細胞と同時インキュベートした樹状細胞はまた、直接成熟マーカーとして役立つIL12mRNAおよびCD83発現の上方制御を欠いた。基質接着性内皮細胞との同時培養後の未熟状態の樹状細胞は、デキストラン取り込み能力の維持によって映し出された。機能的に、非接着性内皮細胞に曝露された樹状細胞は、混合リンパ球ハンオウにおいて増強されたT細胞刺激活性を示し、基質接着性内皮細胞−成熟樹状細胞への曝露後のT細胞増殖は有意に弱かった。
【0198】
さらなる実験:免疫応答に及ぼす影響
移植拒絶の処置:正常な(免疫が犠牲になっていない)器官移植物レシピエント集団を同定する。集団を3群に分け、そのうちの1群に移植器官を受ける前に有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。第2の群に、移植器官を受けるのと同時に有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。第3の群は本発明の移植可能な材料を受けないが、移植物器官を受ける。免疫応答および/または炎症応答の軽減および/または改善を、血清サンプル中のT細胞リンパ球およびB細胞リンパ球の増殖の評価ならびに移植器官の許容の持続時間のモニタリングによって長期間モニタリングする。有効量の本発明の移植可能な材料を投与した候補は、リンパ球増殖の軽減および/または移植器官許容の持続時間の増加を示すと予想される。
【0199】
自己免疫疾患の処置:自己免疫疾患と診断された患者集団を同定する。集団を2群に分け、そのうちの1群に、有効量の本発明の移植可能な材料を投与する。自己免疫応答および/または炎症応答の軽減および/または改善を、血清サンプル中のT細胞リンパ球およびB細胞リンパ球の増殖の評価ならびに自己免疫疾患に関連する症状の強度および持続時間のモニタリングによって長期間モニタリングする。有効量の本発明の移植可能な材料を投与した候補は、リンパ球増殖の軽減ならびに/または症状の頻度および/もしくは強度の軽減を示すと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1A】図1Aは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図1B】図1Bは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図1C】図1Cは、本発明の例示的実施形態の循環PAE特異的抗体レベルを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の例示的実施形態の脾臓細胞の溶解作用を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図3B】図3Bは、本発明の例示的実施形態の代表的なELISPOTウェルを示す。
【図3C】図3Cは、本発明の例示的実施形態のT細胞の頻度を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図4B】図4Bは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図5A】図5Aは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図5B】図5Bは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図5C】図5Cは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の例示的実施形態の脾臓細胞レベルを示すグラフである。
【図7A】図7Aは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図7B】図7Bは、本発明の例示的実施形態の抗体レベルを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図8B】図8Bは、本発明の例示的実施形態のサイトカイン産生細胞の頻度を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図9B】図9Bは、本発明の例示的実施形態のエフェクター細胞のプロットレベルを示すグラフである。
【図10A】図10Aは、本発明の例示的実施形態のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞とエフェクター細胞へのT細胞の分化範囲との間の相関関係を示す。
【図10B】図10Bは、本発明の例示的実施形態のTh2−サイトカイン産生脾臓細胞とエフェクター細胞へのT細胞の分化範囲との間の相関関係を示す。
【図11】図11は、本発明の例示的実施形態の内皮細胞の損傷の程度を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫応答または炎症反応を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および
固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログ
を含む移植可能な材料をレシピエントに提供する工程
を含み、ここで、該移植可能な材料は、該レシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量で、該レシピエントに提供される、方法。
【請求項2】
前記提供する工程は、1回または複数回用量の同系ドナーまたは非同系ドナー由来の細胞、組織、または器官の、前記レシピエントへの投与前、投与と同時、または投与後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記提供する工程は、前記免疫応答または炎症反応の発生前、発生と同時、または発生後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
患者の受容を誘導する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、該患者の受容を誘導するのに十分な量で、該患者の自家移植片、異種移植片、または同種移植片の細胞、組織、または器官の移植前、移植と同時、または移植後に提供する工程を含む、方法。
【請求項5】
ドナー抗原の免疫原性を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、ドナー抗原の免疫原性を軽減するのに十分な量で、レシピエントへの該ドナー抗原の導入前、導入と同時、または導入後に提供する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記提供する工程は、前記レシピエントへの免疫抑制薬の投与前、投与と同時、または投与後に行われる、請求項1、請求項4、または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫抑制薬が、同時投与中に前記移植可能な材料中に存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ドナーとレシピエントとが同一である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記レシピエントが自己免疫疾患を有する、請求項1、請求項4、請求項5、または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項との使用に適切な、移植可能な材料。
【請求項11】
前記内皮様細胞またはアナログが非内皮細胞である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項12】
前記細胞が、前記のいずれか1つの自律性改変体、同種改変体、異種改変体、または遺伝子修飾された改変体である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項13】
前記細胞が血管内皮細胞である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項14】
同系または非同系の細胞、組織、または器官の移植物をレシピエントに移植する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックスおよび固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、移植した該同系または非同系の細胞、組織、または器官が該レシピエントによって拒絶されないように、移植前、移植と同時、または移植後に該レシピエントに提供する工程を含む、工程。
【請求項15】
前記移植された細胞、組織、または器官が非内皮細胞を含む、請求項4または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ドナー抗原が非内皮細胞抗原を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
移植前、移植と同時、または移植後に免疫抑制薬を投与する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の移植可能な材料との使用に適切な、細胞。
【請求項19】
前記内皮様細胞またはそのアナログが非内皮細胞である、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
前記アナログが非天然である、請求項18に記載の細胞。
【請求項21】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対するレシピエントの体液性免疫応答または細胞性免疫応答を軽減させる、請求項18に記載の細胞。
【請求項22】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、免疫原性の減少を示す、請求項18に記載の細胞。
【請求項23】
前記免疫原性の減少が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合の、MHC発現の軽減、または先天性免疫細胞へ結合する能力、先天性免疫細胞を活性化する能力、または先天性免疫細胞の成熟を促進する能力の軽減であり、該先天性免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、単球、およびマクロファージからなる群から選択される、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、MHC、同時刺激分子、または接着分子の発現の軽減を示す、請求項18に記載の細胞。
【請求項25】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋され、かつ樹状細胞と同時培養した場合に、該樹状細胞によるHLA−DR、IL12、Toll様受容体、もしくはCD83の発現を阻害するか;該樹状細胞によるデキストラン取り込みを促進するか;または樹状細胞誘導性リンパ球増殖を遮断するか;あるいは適応的免疫細胞と同時培養した場合、該細胞の増殖、活性化、または分化を阻害し、ここで、該適応的免疫細胞が、Bリンパ球およびTリンパ球からなる群から選択される、請求項18に記載の細胞。
【請求項26】
生体適合性マトリックスと、請求項22に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項27】
生体適合性マトリックスと、請求項24に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項28】
生体適合性マトリックスと、請求項25に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項29】
請求項18または請求項23〜請求項25のいずれか1項に記載の細胞を含む、細胞バンク。
【請求項30】
請求項10に記載の移植可能な材料を含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項31】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項22に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項32】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項24に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項33】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項25に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項34】
前記移植可能な材料が固体または非固体である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項35】
前記移植可能な材料が、移植、注射、または注入によってレシピエントに提供される、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項36】
非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対する免疫応答を軽減するための移植可能な材料であって、該移植可能な材料が、
生体適合性マトリックスと、該生体適合性マトリックスに固定もしくは包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、もしくはそのアナログ;または
その組織、器官、もしくはセグメント
を含み、ここで、有効量の該移植可能な材料が、該非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる、移植可能な材料。
【請求項37】
前記非同系の細胞、組織、または器官が、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである、請求項36に記載の移植可能な材料。
【請求項38】
外因性免疫原への曝露に起因する免疫応答または炎症反応を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および
固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログ
を含む移植可能な材料をレシピエントに提供する工程、
を含み、ここで、該移植可能な材料は、該外因性免疫原への曝露に起因する該レシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量で該レシピエントに提供される、方法。
【請求項39】
前記提供する工程は、免疫応答または炎症反応の発生前、発生と同時、または発生後に行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記外因性免疫原が天然に存在する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記外因性免疫原が、薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記外因性免疫原が、環境ストレス、損傷、および曝露からなる群から選択される外因性刺激である、請求項38に記載の方法。
【請求項1】
免疫応答または炎症反応を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および
固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログ
を含む移植可能な材料をレシピエントに提供する工程
を含み、ここで、該移植可能な材料は、該レシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量で、該レシピエントに提供される、方法。
【請求項2】
前記提供する工程は、1回または複数回用量の同系ドナーまたは非同系ドナー由来の細胞、組織、または器官の、前記レシピエントへの投与前、投与と同時、または投与後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記提供する工程は、前記免疫応答または炎症反応の発生前、発生と同時、または発生後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
患者の受容を誘導する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、該患者の受容を誘導するのに十分な量で、該患者の自家移植片、異種移植片、または同種移植片の細胞、組織、または器官の移植前、移植と同時、または移植後に提供する工程を含む、方法。
【請求項5】
ドナー抗原の免疫原性を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、ドナー抗原の免疫原性を軽減するのに十分な量で、レシピエントへの該ドナー抗原の導入前、導入と同時、または導入後に提供する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記提供する工程は、前記レシピエントへの免疫抑制薬の投与前、投与と同時、または投与後に行われる、請求項1、請求項4、または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫抑制薬が、同時投与中に前記移植可能な材料中に存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ドナーとレシピエントとが同一である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記レシピエントが自己免疫疾患を有する、請求項1、請求項4、請求項5、または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項との使用に適切な、移植可能な材料。
【請求項11】
前記内皮様細胞またはアナログが非内皮細胞である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項12】
前記細胞が、前記のいずれか1つの自律性改変体、同種改変体、異種改変体、または遺伝子修飾された改変体である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項13】
前記細胞が血管内皮細胞である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項14】
同系または非同系の細胞、組織、または器官の移植物をレシピエントに移植する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックスおよび固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログを含む移植可能な材料を、移植した該同系または非同系の細胞、組織、または器官が該レシピエントによって拒絶されないように、移植前、移植と同時、または移植後に該レシピエントに提供する工程を含む、工程。
【請求項15】
前記移植された細胞、組織、または器官が非内皮細胞を含む、請求項4または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ドナー抗原が非内皮細胞抗原を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
移植前、移植と同時、または移植後に免疫抑制薬を投与する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の移植可能な材料との使用に適切な、細胞。
【請求項19】
前記内皮様細胞またはそのアナログが非内皮細胞である、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
前記アナログが非天然である、請求項18に記載の細胞。
【請求項21】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対するレシピエントの体液性免疫応答または細胞性免疫応答を軽減させる、請求項18に記載の細胞。
【請求項22】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、免疫原性の減少を示す、請求項18に記載の細胞。
【請求項23】
前記免疫原性の減少が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合の、MHC発現の軽減、または先天性免疫細胞へ結合する能力、先天性免疫細胞を活性化する能力、または先天性免疫細胞の成熟を促進する能力の軽減であり、該先天性免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、単球、およびマクロファージからなる群から選択される、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋されている場合、MHC、同時刺激分子、または接着分子の発現の軽減を示す、請求項18に記載の細胞。
【請求項25】
前記細胞が、生体適合性マトリックスに固定または包埋され、かつ樹状細胞と同時培養した場合に、該樹状細胞によるHLA−DR、IL12、Toll様受容体、もしくはCD83の発現を阻害するか;該樹状細胞によるデキストラン取り込みを促進するか;または樹状細胞誘導性リンパ球増殖を遮断するか;あるいは適応的免疫細胞と同時培養した場合、該細胞の増殖、活性化、または分化を阻害し、ここで、該適応的免疫細胞が、Bリンパ球およびTリンパ球からなる群から選択される、請求項18に記載の細胞。
【請求項26】
生体適合性マトリックスと、請求項22に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項27】
生体適合性マトリックスと、請求項24に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項28】
生体適合性マトリックスと、請求項25に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料。
【請求項29】
請求項18または請求項23〜請求項25のいずれか1項に記載の細胞を含む、細胞バンク。
【請求項30】
請求項10に記載の移植可能な材料を含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項31】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項22に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項32】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項24に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項33】
移植可能な材料のバンクであって、該移植可能な材料が、生体適合性マトリックスと、請求項25に記載の固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログとを含む、移植可能な材料のバンク。
【請求項34】
前記移植可能な材料が固体または非固体である、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項35】
前記移植可能な材料が、移植、注射、または注入によってレシピエントに提供される、請求項10に記載の移植可能な材料。
【請求項36】
非同系ドナーの細胞、組織、または器官に対する免疫応答を軽減するための移植可能な材料であって、該移植可能な材料が、
生体適合性マトリックスと、該生体適合性マトリックスに固定もしくは包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、もしくはそのアナログ;または
その組織、器官、もしくはセグメント
を含み、ここで、有効量の該移植可能な材料が、該非同系の細胞、組織、または器官に対するレシピエントの免疫応答を軽減させる、移植可能な材料。
【請求項37】
前記非同系の細胞、組織、または器官が、自己免疫疾患を罹患しているレシピエントのものである、請求項36に記載の移植可能な材料。
【請求項38】
外因性免疫原への曝露に起因する免疫応答または炎症反応を軽減する方法であって、以下の工程:
生体適合性マトリックス、および
固定または包埋されている内皮細胞、内皮様細胞、またはそのアナログ
を含む移植可能な材料をレシピエントに提供する工程、
を含み、ここで、該移植可能な材料は、該外因性免疫原への曝露に起因する該レシピエントの免疫応答または炎症反応を軽減するのに十分な量で該レシピエントに提供される、方法。
【請求項39】
前記提供する工程は、免疫応答または炎症反応の発生前、発生と同時、または発生後に行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記外因性免疫原が天然に存在する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記外因性免疫原が、薬学的作用因子、毒素、外科的インプラント、感染因子、および化学物質からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記外因性免疫原が、環境ストレス、損傷、および曝露からなる群から選択される外因性刺激である、請求項38に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【公表番号】特表2008−538587(P2008−538587A)
【公表日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507993(P2008−507993)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/015555
【国際公開番号】WO2006/116357
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(504348998)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (10)
【出願人】(507348791)パーバシス セラピューティクス, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/015555
【国際公開番号】WO2006/116357
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(504348998)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (10)
【出願人】(507348791)パーバシス セラピューティクス, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
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