説明

同軸ケーブル及びその製造方法

【課題】中心導体の周囲に配置された絶縁層の外周にテープ層を介して外部導体が配置された同軸ケーブルにおいて、絶縁体の収縮を小さく抑える。
【解決手段】本発明の同軸ケーブル1は、中心導体2と、中心導体2の外周に配置された絶縁層4と、絶縁層4の外周に縦添えに配置された金属樹脂複合テープ層5と、金属樹脂複合テープ層5の外周に配置された外部導体6と、外部導体6の外周に配置された外被7と、を備え、金属樹脂複合テープは、樹脂層の両面に金属層を有するとともに厚さが24μm以上40μm以下であり、縦添えにされた重なり幅が絶縁層4の外周の0.19倍以上0.38倍以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心導体の周囲に絶縁層とテープ層と外部導体と外被とを内側から順に備えた同軸ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用や電子機器用の内部配線等に用いられるケーブルとして、同軸ケーブルが広く用いられている。同軸ケーブルは、中央に配置された中心導体の周囲に絶縁体が被覆され、さらにその絶縁体の周囲に、編組あるいは横巻きされた外部導体(シールド層とも呼ばれる)が設けられているものである。中心導体や外部導体には、軟銅線等の導電性金属が用いられ、絶縁体には、ポリエチレン等の樹脂が用いられている。また、外部導体及びその内側の絶縁体等を保護するために、通常、配線される際の同軸ケーブルの形態は、外部導体の周囲にポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂で構成される外被が形成されたものである。
【0003】
このような同軸ケーブルは、外部の回路などから発生するノイズに対するシールド性を高めるために種々の対策が採られており、例えば、絶縁層と外部導体の間に金属テープ層を設けたケーブルが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
特許文献1には、誘電体層(絶縁層)と外部導体層との間に、増大したシールド効果及び形状維持性を付与するために銅箔あるいはアルミニウム箔からなる金属箔を設けた同軸ケーブルが記載されている。また、この同軸ケーブルでは金属箔の厚みが誘導体層の外径の1%〜5%の範囲に設定されている。
また、特許文献2には、中心導体の上に設けられた絶縁体の上に外部導体を設け、その外部導体は、絶縁体の上に形成された金属テープ薄層とその上に施された導体編組とからなり、導体編組は、金属テープ薄層に融着されている同軸ケーブルが記載されている。また、その金属テープ薄層は、金属テープとその内側に積層されたプラスチックテープとの複合テープを金属テープを外側にして縦添えして形成されているものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−158415号公報
【特許文献2】特開平7−326230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、絶縁層の周囲に外部導体を有する同軸ケーブルの場合には、配線後に温度変化や経時変化などにより絶縁層の収縮が発生すると、ケーブルの端末において中心導体と外部導体とが接触してショートしてしまうことが考えられる。また、絶縁層が収縮すると中心導体が断線する虞もある。特に、自動車用に使用される同軸ケーブルでは、その温度変化の厳しい環境に適合するために厳しいヒートショック試験が設定されており、例えば、−30℃〜+80℃の急激な温度変化に耐えうる基準が規定されている。このような厳しい条件下では絶縁層が収縮してしまう問題があった。
【0006】
また、テープ層として金属のみからなる金属箔を使用すると、同軸ケーブルに張力や曲げ、振動などの外力が加わった際に、金属箔は伸びずに切れやすい。また、テープ層、金属テープとその内側に積層されたプラスチックテープとの複合テープを金属テープを外側にして使用した場合には、絶縁層に接触する面がプラスチックテープであるためテープ層と絶縁層とが融着してしまうことがあり、同軸ケーブルの端末加工時に各層を段々に剥がす(所謂段剥き)ときに、うまく剥がすことができず作業性が悪くなってしまう。
【0007】
本発明は、中心導体の周囲に配置された絶縁層の外周にテープ層を介して外部導体が配置された同軸ケーブルにおいて、絶縁体の収縮を小さく抑えることのできる同軸ケーブル及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる同軸ケーブルは、中心導体と、前記中心導体の外周に配置された絶縁層と、前記絶縁層の外周に縦添えに配置された金属樹脂複合テープのテープ層と、前記テープ層の外周に配置された外部導体と、前記外部導体の外周に配置された外被と、を備えた同軸ケーブルであって、前記金属樹脂複合テープは、樹脂層の両面に金属層を有するとともに厚さが24μm以上40μm以下であり、縦添えにされた重なり幅が前記絶縁層の外周の0.19倍以上0.38倍以下である。
【0009】
また、上記課題を解決することのできる同軸ケーブルの製造方法は、中心導体の外周に絶縁樹脂を押し出し被覆して絶縁層を形成し、前記絶縁層の外周に金属樹脂複合テープを縦添えしてテープ層を形成し、前記テープ層の外周を外部導体で覆い、前記外部導体の外周に樹脂を押し出し被覆して外被を形成する同軸ケーブルの製造方法であって、前記金属樹脂複合テープは、樹脂層の両面に金属層を有するとともに厚さが24μm以上40μm以下であり、前記テープ層を、前記金属樹脂複合テープ同士の重なり幅が前記絶縁層の外周の0.19倍以上0.38倍以下であるように前記絶縁層の外周に縦添えして形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁層と外部導体との間に配置されたテープ層を構成する金属樹脂複合テープの厚さが、24μm以上40μm以下となっていて、外部導体が絶縁層を固定する力を十分に作用できる程度に薄い。そして、金属樹脂複合テープを縦添えした状態のテープ同士の重なり幅が絶縁層の外周の0.19倍以上であるため、温度上昇等で絶縁層が膨張しても絶縁層の外周を隙間なく覆うことができ、絶縁層の保持力を維持できる。また、重なり幅が0.38倍以下であるため、重なり幅が大きすぎることによる製造性の低下を生じさせない。
【0011】
また、金属樹脂複合テープは樹脂層の両面に金属層を有する構造であるため、外力が作用しても樹脂層が適度に伸びてテープの破断が防がれる。また、絶縁層や外部導体に接触する面は金属であるため金属樹脂複合テープがそれらと融着してしまうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る同軸ケーブル及びその製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態の同軸ケーブルの斜視図を示す。なお、この図では、ケーブルの構成を明確に示すために、ケーブルを構成する各部材を段階的に露呈させた状態を示している。
【0013】
図1に示すように、同軸ケーブル1は、中央に中心導体2が配置され、この中心導体2の周囲に絶縁層4が形成され、さらに絶縁層4の周囲に金属樹脂複合テープ層5を介して外部導体6が配置されている。外部導体6の周囲には、外被7が被覆されている。
【0014】
中心導体2は、導電性金属の細径線材を1本または複数本用いて構成されるものである。本実施形態では、極細径の軟銅線3を7本用いて、1本の軟銅線3の周囲に6本の軟銅線3が撚られたものが用いられている。中心導体2には、錫や銀のメッキが施されていても良い。
絶縁層4は、ポリエチレンやフッ素樹脂等の樹脂が用いられ、例えば好適には、耐熱プラスチックを使用できる。絶縁層4の樹脂は発泡したものよりも充実体の方が好ましい。
【0015】
金属樹脂複合テープ層5は、厚さが24μm以上40μm以下の金属樹脂複合テープを絶縁層4の周囲に縦添えして配置したものである。この金属樹脂複合テープは、PET等の樹脂からなる樹脂層の両面に、アルミニウム等の金属からなる金属層を有する構造である。各金属層は接着層を介して樹脂層と接着されて一体化されている。この金属層により、外部導体6とともに同軸ケーブル1のノイズ遮蔽作用を高めている。
また、絶縁層4の外周に沿う金属樹脂複合テープの幅は、常温において絶縁層4の外周より1.19倍以上1.38倍以下であり、縦添えした金属樹脂複合テープ同士の重なり幅が絶縁層4の外周の0.19倍以上0.38倍以下となっている。
【0016】
外部導体6は、導電性金属の細径線材(例えば軟銅線)を複数本用いて編組あるいは横巻きされて、金属樹脂複合テープ層5の周囲を覆うように設けられている。本実施形態の外部導体6は、軟銅線が編組されたものである。
【0017】
外被7となる樹脂は、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等を用いることができる。本実施形態の同軸ケーブル1は、ポリオレフィン系樹脂の耐熱プラスチックにより外被7が形成されている。この外被7は、ダイスによる押し出し成形により形成されており、外部導体6に対して密着している。外被7が外部導体6に対して密着して締め付けている力は、外被7を長手方向に50mm引き抜くための引き抜き力が5.0kgf/50mm程度(3.5〜6.5kgf/50mm)となるように設定されている。この外被7からの締め付け力によって、外部導体6が絶縁層4を締め付けるようにして絶縁層4の収縮を抑えている。
【0018】
このような構成の同軸ケーブル1は、金属樹脂複合テープ層5を構成する金属樹脂複合テープの厚さが24μm以上40μm以下であり、これは外部導体6が絶縁層4を固定する力を十分に作用できる程度の薄さである。そのため、ノイズ遮蔽性を向上させるために金属樹脂複合テープ層5を設けた構成であっても、温度変化や経時変化による絶縁層4の収縮力に抗して外部導体6の剛性が作用し、絶縁層4の収縮を外部導体6による締め付け力で確実に抑えることができる。
金属樹脂複合テープの厚さが24μm未満であると、金属樹脂複合テープの成形性やノイズ遮蔽性が低下し、金属樹脂複合テープの厚さが40μmを超えると、外部導体6の締め付け力を絶縁層4に伝えにくくなる。
【0019】
また、金属樹脂複合テープ層5は、縦添えした金属樹脂複合テープ同士の重なり幅が絶縁層4の外周の0.19倍以上であるため、温度上昇等で絶縁層4が膨張しても絶縁層4の外周を金属樹脂複合テープが隙間なく覆う状態が維持されるため、外部導体6から金属樹脂複合テープを介して絶縁層4に伝わる締め付け力を維持できる。重なり幅が絶縁層4の外周の0.19倍以下であると、絶縁層4が膨張すると絶縁層4の外周上に金属樹脂複合テープの隙間ができるおそれがあり、隙間がある場合は低温になったときに収縮する絶縁層4を締め付けて抑える力が不十分となってしまう。また、金属樹脂複合テープ同士の重なり幅が絶縁層4の外周の0.38倍を超えると、重なり幅が必要以上に大きすぎて、縦添えする際の製造性の低下を招いてしまう。
【0020】
また、金属樹脂複合テープは樹脂層の両面に金属層を有する構造であるため、同軸ケーブル1に張力や曲げ、振動などの外力が加わった際にも、樹脂層が適度に伸びて金属樹脂複合テープの破断が防がれる。また、金属樹脂複合テープが絶縁層4や外部導体6に接触する面が金属となるため、絶縁層4や外部導体6に対して金属樹脂複合テープが融着してしまうことも防止される。
【0021】
以上、図1に示した同軸ケーブル1は、車載用のケーブルとして好適に用いられ、例えば、車載用のラジオやテレビ等のオーディオ機器や、ETC、衛星ラジオ、タイヤ空気圧センサ等のアンテナ配線に使用可能である。
【0022】
次に、上記の同軸ケーブル1を製造する方法について説明する。
まず、中心導体2は、所定の径に伸線された複数の軟銅線3を撚り合わせて形成される。そして、中心導体2の外側に絶縁層4となるポリエチレン等の樹脂を押し出し被覆する。この絶縁層4は、電子線を照射することにより電子線架橋耐熱プラスチックとすることができる。
【0023】
次いで、絶縁層4の外周に上記の金属樹脂複合テープをその重なり幅が絶縁層4の外周より1.19倍以上1.38倍以下となるように長手方向に沿って縦添えして配置し、金属樹脂複合テープ層5を形成しつつ、その外周に外部導体6を設ける。編組した外部導体6を設ける場合には、絶縁層4をその長手方向に送りつつ、編組する半数の軟銅線6を右撚りに、残りの半数を左撚りにして交差させ、絶縁層4の周囲に編組する。これにより、中心導体2、絶縁層4、金属樹脂複合テープ層5、外部導体5からなる編組コアが形成される。
【0024】
編組コアは、押し出し工程でクロスヘッド内に送られ、編組コアの周囲に外被7が押し出し被覆される。その際、外被7は、外部導体6に密着して形成されるとともに、外部導体6を金属樹脂複合テープ層5に対して加圧してさらに密着させるように作用する。これにより、絶縁層4は、金属樹脂複合テープ層5を介して外部導体6により締め付けられる。
【0025】
外被7が形成された同軸ケーブル1は、水槽内を通過させることにより冷却され、その形状が安定する。その後、同軸ケーブル1はコブ検出器やスパークテスタ等により品質チェックが行われ、巻き取り機に巻き取られる。
以上の工程により、製品として出荷される同軸ケーブル1が製造される。
【実施例】
【0026】
上記の実施形態で説明した製造方法により、本発明に係る同軸ケーブル1を製造し、ヒートショック試験による絶縁層収縮の評価を行った。なお、評価の比較対象として、金属樹脂複合テープの厚さや重なり幅を変えたものを各種用意し、それらの同軸ケーブルについても同様に試験を行った。
評価対象の同軸ケーブルの共通の構成は、架橋ポリエチレンからなる絶縁層4の外径が1.68mm、絶縁層4の外周が5.28mm、金属樹脂複合テープがアルミ−PET−アルミの三層構造、外被7の樹脂が非架橋ポリオレフィン系樹脂、外被7の外径が3.0mmである。
【0027】
ヒートショック試験に用いる同軸ケーブルの試験サンプルは、1mの長さに切断したケーブルであって、収縮量を確認しやすいように端末部分で絶縁層を1〜2cm程度露呈させた状態のものである。
【0028】
その試験サンプルを、−30℃の恒温槽に30分入れておき、次いで80℃の恒温槽に30分入れた。これを試験の1サイクルとし、1000サイクルの試験を行った。そして、1000サイクル後の絶縁層4の長さを測定した。そして、次式(1)により、絶縁層4の、試験前の長さに対する1000サイクルの試験後の収縮率を求めた。
収縮率(%)={(L−L1000)/L}×100 ・・・(1)
この式(1)中、Lは試験前の絶縁層4の長さであり、L1000は1000サイクル後の絶縁層4の長さである。
【0029】
このようなヒートショック試験の評価を行った結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
なお、表1に示す金属樹脂複合テープの各層厚の項目では、各層間の接着剤の厚さは表記していない。
また、絶縁層の収縮の項目は、収縮率の評価基準となる0.3%以下に収まるものを記号Aで表し、そうでないものを記号Bで表した。
収縮率の基準を満たすものは、例2,例4〜例7,例9であるが、例9は重なり幅が必要以上に大きいため、金属樹脂複合テープの成形性が不良であった。また、例8は絶縁層の収縮が大きいだけでなく、金属樹脂複合テープが厚いために成形性が不良であった。金属樹脂複合テープの成形性が不良であると、テープにしわが発生したり、重なり部分に折れ曲がりが発生したりすることがある。
例1〜例7を絶縁層の収縮と照らし合わせて比較すると、収縮率の基準を満たす例2,例4〜例7では、金属樹脂複合テープの厚さが24μm以上40μm以下であるとともに、重なり幅が絶縁層の外周の0.19倍以上0.38倍以下である。
【0032】
以上の試験結果から、本発明に係る同軸ケーブルは、金属樹脂複合テープ層の構成が適正な範囲に設定されていることで外部導体による締め付け力を絶縁層に良好に作用させて、絶縁層の収縮を効果的に抑えられることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る同軸ケーブルの一実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 同軸ケーブル
2 中心導体
3 軟銅線
4 絶縁体
5 金属樹脂複合テープ層(テープ層)
6 外部導体
7 外被

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、前記中心導体の外周に配置された絶縁層と、前記絶縁層の外周に縦添えに配置された金属樹脂複合テープのテープ層と、前記テープ層の外周に配置された外部導体と、前記外部導体の外周に配置された外被と、を備えた同軸ケーブルであって、
前記金属樹脂複合テープは、樹脂層の両面に金属層を有するとともに厚さが24μm以上40μm以下であり、縦添えにされた重なり幅が前記絶縁層の外周の0.19倍以上0.38倍以下である同軸ケーブル。
【請求項2】
中心導体の外周に絶縁樹脂を押し出し被覆して絶縁層を形成し、前記絶縁層の外周に金属樹脂複合テープを縦添えしてテープ層を形成し、前記テープ層の外周を外部導体で覆い、前記外部導体の外周に樹脂を押し出し被覆して外被を形成する同軸ケーブルの製造方法であって、
前記金属樹脂複合テープは、樹脂層の両面に金属層を有するとともに厚さが24μm以上40μm以下であり、
前記テープ層を、前記金属樹脂複合テープ同士の重なり幅が前記絶縁層の外周の0.19倍以上0.38倍以下であるように前記絶縁層の外周に縦添えして形成する同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−265797(P2007−265797A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89408(P2006−89408)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】