説明

同軸ケーブル及びその製造方法

【課題】細径かつケーブルの変形に強い同軸ケーブル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電気導体の外周に内部絶縁層が形成され、さらに前記内部絶縁層の外周に導電層が形成されている同軸ケーブルにおいて、前記導電層は、金属ナノ粒子ペーストを光照射により焼結した金属ナノ粒子ペースト焼結体からなり、前記導電層の外周には、外部絶縁層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、同軸ケーブル及びその製造方法に関するものであり、特に、金属ナノ粒子ペースト焼結体を導電層に用いた細径同軸ケーブル及びその製造方法に関するものである。
【0002】
一般的な同軸ケーブルにおいては、中心にある電気導体の外周に、低誘電率の絶縁層が形成されている。さらに、前記絶縁層の外周には、金属線や金属フィルムを巻き付けることにより導電層が形成されている。前記導電層はシールド層としての役割を果たしている。
【0003】
一方、前記絶縁層の外周に金属線や金属フィルムを巻き付けることによって導電層を形成する方法だと、ケーブル線径が小さくなるに従って、長尺の同軸ケーブルの製造が難しくなる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、ケーブル線径を細径化するため、前記絶縁層の外周に前記金属線や金属フィルムを巻き付ける代わりに、フッ素樹脂で構成される絶縁層上に導電ナノペーストを塗布し、通電加熱焼結によって金属ナノ粒子焼結体からなるシールド層としての金属薄膜を設ける技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
なお、関連技術として、前記フッ素樹脂に各種の官能基を導入して接着性を改質する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。また、基板上に電流配線を作製する際に、通電加熱焼結の代わりに、レーザによる焼結を行うことにより、配線部分の金属微粒子のみを焼結させ、それ以外の部分の金属微粒子は除去する技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。さらに、このレーザによる焼結においては、金微粒子インクにおいて焼結温度を低下させる技術についても知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−187847号公報
【特許文献2】特開2006−294528号公報
【特許文献3】特開平7−18035号公報
【特許文献4】特開2006−38999号公報
【非特許文献1】Tae Y.Choi and Dimos Poulikakos,Applied Physics Letters,85,p.13−15,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ケーブル線径を細径化することにより形成された細径ケーブルに外部から力を加えたとき、容易に曲げなどの外部変形が起きるおそれがある。前記細径ケーブルが曲げなどの外部変形をわずかに起こしたとしても、ケーブル内の絶縁層と金属薄膜からなるシールド層との間の密着性が低下するおそれがある。絶縁層と金属薄膜との密着性の低下により、金属薄膜が絶縁層から剥がれるとともに、金属薄膜が破断するおそれがある。その結果、導電層であるシールド層の導通が不十分になり、シールド特性が低下するおそれがある。
なお、フッ素樹脂の密着性を向上させるために、フッ素樹脂に対して化学及び物理エッチングを行う方法も考えられる。しかしながら、この方法では作業工程が複雑になること、設備費がアップすること、廃液処理が発生することから、量産性の点で難がある。
【0008】
また、特許文献2では、ケーブル線径を細径化するため、通電加熱焼結によって金属ナ
ノ粒子焼結体からなる金属薄膜を、絶縁層上に設けている。しかしながら、通電加熱焼結を行うと、焼結すべき導電ナノペーストのみならず、その下地である絶縁層まで加熱を行うことになる。絶縁層まで加熱を行うと、絶縁層が変形、変質することにより、絶縁層と金属薄膜との密着性が低下するおそれがある。そのため、前記細径ケーブルが曲げなどの外部変形をわずかに起こしたとしても、金属薄膜が絶縁層から剥がれるとともに、金属薄膜が破断するおそれがある。その結果、導電層であるシールド層の導通が不十分になり、シールド特性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、細径かつケーブルの変形に強い同軸ケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、電気導体の外周に内部絶縁層が形成され、さらに前記内部絶縁層の外周に導電層が形成されている同軸ケーブルにおいて、前記導電層は、金属ナノ粒子ペーストを光照射により焼結した金属ナノ粒子ペースト焼結体からなり、前記導電層の外周には、外部絶縁層が形成されたことを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載の発明において、前記金属ナノ粒子ペーストの金属微粒子が銀粒子または銅粒子であり、前記金属微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第三の態様は、第一または第二の態様に記載の発明において、前記光照射の光源が波長1μm以下のレーザであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第四の態様は、第一ないし第三のいずれかの態様に記載の発明において、前記内部絶縁層には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられることを特徴とする。
【0014】
本発明の第五の態様は、第一ないし第四のいずれかの態様に記載の発明において、前記内部絶縁層には、前記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられることを特徴とする。
【0015】
本発明の第六の態様は、第一ないし第五のいずれかの態様に記載の発明において、前記外部絶縁層には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられることを特徴とする。
【0016】
本発明の第七の態様は、第一ないし第三のいずれかの態様に記載の発明において、前記内部絶縁層が、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる第1内部絶縁層と、前記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられる第2内部絶縁層と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第八の態様は、電気導体の外周に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる第1内部絶縁層を形成し、前記第1内部絶縁層の外周に、前記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられる第2内部絶縁層を形成し、前記第2内部絶縁層の外周に、銀または銅ナノ粒子ペーストを塗布し、光照射して焼結することによ
り導電層を形成し、前記導電層の外周に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる外部絶縁層を形成することを特徴とする同軸ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細径かつケーブルの変形に強い同軸ケーブルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1に、本発明が適用される、同軸ケーブルの一実施形態の断面構造を示す。
図1に示すように、前記同軸ケーブルにおいては、電気導体1の外周に内部絶縁層2が形成され、前記内部絶縁層2の外周に導電層3が形成され、さらには前記導電層3の外周に外部絶縁層4が形成されている。
【0020】
まず、前記電気導体1は、断面が丸形状で長尺な中心導体11(以降、芯線11ともいう)を撚り合わせたものからなる。前記中心導体11には金属が用いられ、例えば銅合金が用いられる。前記中心導体11は、例えば、銅線を単線で用いても複数からなる撚り線や編み線として用いても良く、銅線に溶融メッキや電解による錫メッキが施されていても良い。
【0021】
次に、前記内部絶縁層2には、低誘電率の絶縁層樹脂が用いられるが、好ましくはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマ(以降、PFAともいう)が用いられる。前記PFAは、耐久性や電気特性に優れるためである。
さらに好ましくは、前記PFAに対して不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された、含ふっ素ポリマ(以降、グラフトPFAともいう)が用いられる。前記グラフトPFAは、前記PFAに比べて、他の樹脂や金属などとの密着性が良好であるためである。その結果、前記グラフトPFAを、後で詳述する金属ナノ粒子ペーストの焼結体と密着させることで前記導電層3の強度を確保することができる。
【0022】
前記PFAに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物をグラフト化する方法としては、ラジカル開始剤の存在下で両者を反応させる方法や、前記PFAを重合する際に共重合する方法等が採用可能である。このグラフト化反応は、有機溶媒などを用いて溶液状態で行ってもよいし、また、押出し機等の中で、溶融状態で行ってもよい。
【0023】
なお、前記内部絶縁層2に、必要に応じて難燃剤、酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、発泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、充填剤、補強剤等の添加物を加えることができる。
【0024】
次に、前記内部絶縁層2の外周に形成される導電層3は、金属ナノ粒子ペーストを前記内部絶縁層2に塗布し、それを光照射により焼結することによって得られる金属ナノ粒子ペースト焼結体により形成される。
【0025】
前記金属ナノ粒子ペーストは、ナノオーダーの金属微粒子が溶媒(デカノールなど)中に分散されたものである。
【0026】
前記金属微粒子は、焼結後に導電性を呈する微粒子であることが必要であり、金、銀、銅、ニッケル、白金などの金属、或いはこれらの金属を含む合金が挙げられるが、銅または銀からなることが好ましい。導電性に優れるためである。
また、前記金属微粒子の平均粒子径は、100nm以下であることが好ましい。粒子径が100nmを越えるサイズ、または100nmを越えるサイズの凝縮体を形成している金属微粒子を含むものを前記内部絶縁層2に塗布すると、例えば前記内部絶縁層2に5μm程度の厚さの塗膜を塗布する場合、塗膜内に100nm以上の大きさの粒子が存在することにより、塗膜に凹凸やムラを発生しやすくなり、良好な導電薄膜を形成することは難しくなるためである。
なお、前記平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡により測定した粒子径の粒度分布から求めた平均径のことであって、平均径は、粒度分布を小粒子径側から積算した積算値50%の粒度のことである。
【0027】
前記金属微粒子が溶媒中に分散された前記金属ナノ粒子ペーストは、ペースト状ないし液体状であって塗布に適するものが良く、必要に応じて溶媒量を加減して粘度を調整するのが良い。
また、前記溶媒中における金属微粒子の分散性・塗布均一性を高めるために、前記金属微粒子には、界面活性剤などの適当な有機凝縮防止層が設けられることが好ましい。例えば、金属微粒子の表面が脂肪族アミンなどからなる分散剤で覆われているものが好ましい。なぜなら、一般に微粒子は、表面が活性であり凝縮体を形成しやすく、その結果、ミクロンオーダー以上の大きさの凝縮体によって塗布工程で塗膜に凹凸やムラが発生しやすくなるためである。そこで、前記金属微粒子に有機凝縮防止層を設けることにより、金属ナノ粒子ペースト中の金属微粒子同士が結合し、凝集してしまうのを防ぐことができる。これにより、金属微粒子が金属ナノ粒子ペースト中に均一に分散し易くなり、凝集による金属ナノ粒子ペーストの塗厚のバラツキを低減することができるため、前記内部絶縁層2の外周に均一な厚さの導電層3を形成することが可能となる。
【0028】
前記金属ナノ粒子ペーストを前記内部絶縁層2の外周に塗布した後、電線やケーブルに従来から用いられる電気炉などによる加熱焼結を行うのではなく、本実施形態においてはケーブルに用いられていなかった光照射による焼結を行う。
【0029】
前記光照射の光源としては、前記金属ナノ粒子に吸収される波長であることが必要であり、波長1μm以下のレーザであることが望ましい。なお、波長1μmを越えるレーザ照射では、前記金属ナノ粒子に与える熱が少ない一方、前記下地の材料に吸収される熱が多く、前記下地の材料に熱ダメージを与えてしまう。
【0030】
この光照射により、内部絶縁層2の外周に、光照射により焼結した金属ナノ粒子ペースト焼結体からなる導電層3を形成する。この導電層3は、本実施形態の同軸ケーブルにおいて、シールド層の役割を果たす。
【0031】
前記光照射による焼結にて導電層3を形成することにより、以下のような効果を奏する。
従来、長尺ケーブルを焼結処理する場合、通電加熱焼結だと処理に手間がかかっていたが、前記光照射を行うことにより、長尺ケーブルであっても焼結の処理を早く行うことができる。
前記光照射により、光をミラーやレンズなどで集めることで、必要な部位のみ焼結することが可能になる。また、焼結の強弱を、集光度合いや、光パワーを調整することで制御することが可能になる。
このように、エネルギーが照射された部分のみを集中して焼結できるため、前記金属ナノ粒子ペーストにおける金属ナノ粒子のみを加熱することが可能となり、前記内部絶縁層2などの下地の材料に余分な熱が伝わり難く、前記下地の材料へのダメージを少なくして前記金属ナノ粒子ペーストを焼結させることができる。
さらに、必要に応じて、熱処理と組み合わせることで、前記内部絶縁層2と前記導電層
3の密着性を高めることができる可能性がある。
【0032】
次に、前記導電層3の外周に、外部絶縁層4が形成される。
前記外部絶縁層4としては、剥離性や、低誘電率特性、成形性などの特性から、PFAを用いることが望ましい。
【0033】
また、図2に示すように、前記外部絶縁層4の外周に、細径化を妨げない程度の外皮5を設けてもよい。変形に強い同軸ケーブルが得られるためである。外皮にはPFA、ポリエチレン、ポリプロピレンなど、低誘電率を有する樹脂を用いることができる。
【0034】
第1の実施形態の同軸ケーブルの製造は、例えば、通常の押出成形ラインを用い、前記グラフトPFA及びその他添加剤を溶融し、単数又は複数の芯線11からなる電気導体1に前記グラフトPFAを含む樹脂組成物を押し出して作製できる。前記押出成形ラインには、例えば二軸押出機が用いられる。この二軸押出機によって、溶融した樹脂組成物を押し出し、このPFAを含む樹脂組成物で前記電気導体1を被覆して内部絶縁層2を形成する。
その後、前記内部絶縁層2に金属ナノ粒子ペーストを塗布する。ここでの塗布手段は特に限定するものではなく、スプレーコータ、シャワーコータ、ダイコータ、バーコータ、ロールコータ、グラビアコ一タ、スクリーン印刷等を、塗布条件に応じて採用することができる。
ここで、前記金属ナノ粒子ペーストをレーザによる光照射によって焼結し、前記内部絶縁層2の外周に、前記金属ナノ粒子ペースト焼結体からなる導電層3を形成する。
最後に、前記通常の押出成形ラインを用い、PFA及びその他添加剤を加えた樹脂組成物を溶融し、前記導電層3の外周に、外部絶縁層4を形成する。
【0035】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、レーザによる光照射を用いることにより、内部絶縁層2が変形、変質するような熱ダメージを与えることなく、接着性に富んだグラフトPFAを用いた内部絶縁層2と、金属ナノ粒子ペーストの焼結体である導電層3との接合強度を向上させることができる。
さらには、細径ケーブルが曲げなどの外部変形を起こしたとしても、ケーブル内の内部絶縁層2と金属薄膜からなる導電層3との間の密着性が向上しているため、前記金属薄膜が内部絶縁層2から剥がれ難くなり、金属薄膜が破断するおそれを軽減することができる。
つまり、導電層3であるシールド層の導通を十分行うことができ、シールド特性の低下を抑える細径ケーブルを得ることができる。
その結果、本実施形態によれば、量産性に優れ、細径化に対しても十分対応が可能であり、工業上有用である同軸ケーブルを得ることができる。
前記同軸ケーブルは、例えば、無線通信用の屋内配線、携帯電話、パソコン内配線、電子機器の内部配線、LANケーブル、医療用超音波プローブ電線などのセンサ用電線に好適である。
【0036】
(第2の実施形態)
図3に、本発明が適用される、同軸ケーブルの別の一実施形態の断面構造を示す。
第1の実施形態との違いは、電気導体1の外周に形成される内部絶縁層2を2層構造にしたことである。即ち、電気導体1の外周に形成される内部絶縁層2において、内層(以降、第1内部絶縁層21ともいう)には、グラフトPFAと比べて密着性が低いPFAを用い、内層の外周に形成される外層(以降、第2内部絶縁層22ともいう)には比較的密着性の高いグラフトPFAを用いている。
【0037】
このような同軸ケーブルを製造することにより、以下の場合に対応できる同軸ケーブルを得ることができる。すなわち、電気導体1の芯線11と内部絶縁層2との密着性を望まないものの、内部絶縁層2と導電層3との密着性を確保したい場合には、接着性に富んだグラフトPFAを用いた内部絶縁層2と、金属ナノ粒子ペーストの焼結体である導電層3との密着性、及び、芯線11と内部絶縁層2との剥離性を兼ね合わせた同軸ケーブルを得ることができる。
【0038】
(第3の実施形態)
図4に、本発明が適用される、同軸ケーブルの別の一実施形態の断面構造を示す。
第1の実施形態との違いは、電気導体1の外周に形成される内部絶縁層2を2層構造にしたことと、導電層3の外周に形成された外部絶縁層4を2層構造にしたことである。即ち、前記導電層3の外周に形成された外部絶縁層4において、内層(以降、第1外部絶縁層41ともいう)には、比較的密着性の高いグラフトPFAを用い、内層の外周に形成される外層(以降、第2外部絶縁層42ともいう)にはグラフトPFAと比べて密着性が低いPFAを用いている。
【0039】
このような同軸ケーブルを製造することにより、以下の効果を得ることができる。すなわち、接着性に富んだグラフトPFAを用いた第2内部絶縁層22及び第1外部絶縁層41によって、金属ナノ粒子ペーストの焼結体である導電層3を挟み込むことにより、接着性に富んだグラフトPFAを用いた内部絶縁層2と、金属ナノ粒子ペーストの焼結体である導電層3との密着性をさらに向上させることができる。ひいては、導電層3である金属薄膜が破断するおそれをさらに軽減することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明について、実施例を用いて説明する。
【0041】
(実施例1)
本実施例の同軸ケーブルの断面図である図1を用いて説明する。
まず、電気導体1として、1なる直径16μmの銅合金線を7本撚りした芯線11(直径0.048mm)を作製した。
次に、前記芯線11の外周に、グラフトPFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ60μmの内部絶縁層2を形成した。
さらに、前記内部絶縁層2の外周に、ドデシルアミンを還元剤に含む平均粒径10nmの銀ナノ粒子ペーストを、塗装用ダイスを用いて塗布した。
そして、前記銀ナノ粒子ペーストに対し、光源出力10mW、波長532nmのNd:YAGレーザ光を照射することにより、前記銀ナノ粒子ペースト焼結体からなる厚さ7μmの導電層3を形成した。
最後に、この導電層3の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ20μmの外部絶縁層4を形成し、同軸ケーブルを製造した。
なお、前記PFAとしては、旭硝子(株)製フルオンP−62XPTを用いた。
また、前記グラフトPFAとしては、前記旭硝子(株)製フルオンP−62XPTにおいて、無水カルボン酸をグラフトした含ふっ素ポリマを使用した。以降の実施例及び比較例においても同様である。
上述のように製造された同軸ケーブルをR5(半径5mm)で10回巻き付けて使用しても、導電層3はシールド層としての機能を発揮しており、同軸ケーブルは良好な電気特性を有していた。
【0042】
(実施例2)
本実施例を、実施例1と同様に図1を用いて説明する。
まず、電気導体1として、1なる直径16μmの銅合金線を7本撚りした芯線11(直
径0.048mm)を作製した。
次に、前記芯線11の外周に、前記グラフトPFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ60μmの内部絶縁層2を形成した。
さらに、前記内部絶縁層2の外周に、実施例1では銀ナノ粒子ペーストを用いたが、本実施例ではドデシルアミンを還元剤に含む平均粒径10nmの銅ナノ粒子ペーストを、塗装用ダイスを用いて塗布した。
そして、前記銅ナノ粒子ペーストに対し、光源出力10mW、波長532nmのNd:YAGレーザ光を照射することにより、前記銅ナノ粒子ペースト焼結体からなる厚さ7μmの導電層3を形成した。
最後に、この導電層3の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ20μmの外部絶縁層4を形成し、同軸ケーブルを製造した。
前記同軸ケーブルをR5(半径5mm)で10回巻き付けて使用しても、導電層3はシールド層としての機能を発揮しており、同軸ケーブルは良好な電気特性を有していた。
【0043】
(実施例3)
本実施例の同軸ケーブルの断面図である図3を用いて説明する。
まず、電気導体1として、1なる直径16μmの銅合金線を7本撚りした芯線11(直径0.048mm)を作製した。
ここで実施例3においては、前記芯線11の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ30μmの第1内部絶縁層21を形成した。さらに、前記第1内部絶縁層21の外周に、グラフトPFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ30μmの第2内部絶縁層22を形成した。
次に、前記内部絶縁層2の外周に、ドデシルアミンを還元剤に含む平均粒径20nmの銅ナノ粒子ペーストを、塗装用ダイスを用いて塗布した。
そして、前記銅ナノ粒子ペーストに対し、光源出力10mW、波長532nmのNd:YAGレーザ光を照射した。
さらに、実施例3においては、前記レーザ光の照射に加え、電気炉により290℃で10秒間の加熱処理を行った。
これらの処理により、前記銅ナノ粒子ペースト焼結体からなる厚さ7μmの導電層3を形成した。
最後に、この導電層3の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ20μmの外部絶縁層4を形成し、同軸ケーブルを製造した。
前記同軸ケーブルをR5(半径5mm)で10回巻き付けて使用しても、導電層3はシールド層としての機能を発揮しており、同軸ケーブルは良好な電気特性を有していた。
【0044】
(比較例1)
比較例の同軸ケーブルの断面図である図5を用いて説明する。
まず、電気導体100として、1なる直径16μmの銅合金線を7本撚りした芯線101(直径0.048mm)を作製した。
次に、前記芯線101の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ60μmの内部絶縁層102を形成した。
さらに、前記内部絶縁層102の外周に、直径16μmの銅合金線である電線を密巻き(横巻き)し、導電層103を形成した。
最後に、この導電層103の外周に、PFAを溶融押出機によって押出被覆し、樹脂温度350℃で厚さ20μmの外部絶縁層104を形成し、同軸ケーブルを製造した。
前記同軸ケーブルの作製においては、実施例1〜3に比べて、前記横巻き工程が加わっている分、大きな労力が必要となる。さらに、R5(半径5mm)で10回巻き付けて使用した結果、導電層103におけるシールド層としての機能が実施例1〜3に比べて低下しており、電気特性が低下していた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態における同軸ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態における同軸ケーブルの断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態における同軸ケーブルの断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態における同軸ケーブルの断面図である。
【図5】比較例における同軸ケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 電気導体
11 中心導体(芯線)
2 内部絶縁層
21 第1内部絶縁層
22 第2内部絶縁層
3 導電層
4 外部絶縁層
41 第1外部絶縁層
42 第2外部絶縁層
5 外皮
100 電気導体
101 芯線
102 内部絶縁層
103 導電層
104 外部絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導体の外周に内部絶縁層が形成され、さらに前記内部絶縁層の外周に導電層が形成されている同軸ケーブルにおいて、
前記導電層は、金属ナノ粒子ペーストを光照射により焼結した金属ナノ粒子ペースト焼結体からなり、
前記導電層の外周には、外部絶縁層が形成されたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子ペーストの金属微粒子が銀粒子または銅粒子であり、
前記金属微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記光照射の光源が波長1μm以下のレーザであることを特徴とする請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記内部絶縁層には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられることを特徴とする請求項1ないし3のいずいれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
前記内部絶縁層には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
前記外部絶縁層には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項7】
前記内部絶縁層が、
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる第1内部絶縁層と、
前記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられる第2内部絶縁層と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項8】
電気導体の外周に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる第1内部絶縁層を形成し、
前記第1内部絶縁層の外周に、前記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマに、不飽和カルボン酸及びそのエステルから選択された1種類以上の化合物がグラフト化された含ふっ素ポリマが用いられる第2内部絶縁層を形成し、
前記第2内部絶縁層の外周に、銀または銅ナノ粒子ペーストを塗布し、光照射して焼結することにより導電層を形成し、
前記導電層の外周に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合系ポリマが用いられる外部絶縁層を形成することを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−135205(P2010−135205A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310823(P2008−310823)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】