説明

同軸ケーブル及び絶縁ケーブル

【課題】 本発明は、絶縁体と銅導体との接触により生じる銅害を防止するようにした同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】 かゝる本発明は、中心の内部導体11、ポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂(その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体)の絶縁体12、外部導体13、シース14からなる同軸ケーブル10において、少なくとも内部導体11と絶縁体12との間、絶縁体12と外部導体13との間に銅害防止層を介在させてあるため、基本的には、銅害防止層により絶縁体と銅導体とが分離されて、良好な銅害防止効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体と銅導体との接触により生じる銅害を防止するようにした同軸ケーブル及び絶縁ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば同軸ケーブルにおいて、絶縁体にポリプロピレンを用いたものが従来から提案されている。このような同軸ケーブルを図示すると、図3の如くで、銅撚線導体などからなる中心の内部導体1、ポリプロピレンの被覆層からなる絶縁体2、銅撚線編組からなる外部導体3、最外層のPVCなどからなるシース4などにより構成されている。
【0003】
このポリプロピレンや、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体(以下ポリプロピレン系樹脂と略記する)の場合、ポリエチレンやポリエチレン系樹脂(ポリエチレンの重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体など)に比較して、軽く、耐熱性、強度、剛性が大きいため、用途によっては、優れたケーブルが得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このようなポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂を絶縁体としたケーブルの場合、絶縁体と導体即ち銅導体とが触れると、特に高温になると、絶縁体樹脂が銅と反応して錯体を形成し、分解する劣化現象(以下銅害と略記する)が起こることが知られている。
【0005】
このため、従来から、ポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂の樹脂を絶縁体として用いる場合、これらの樹脂中に銅害防止剤を添加したり(特許文献1)、或いは、銅導体側をめっき(錫めっき)を施すなどのことが行われている。
【特許文献1】特開2003−020372号
【0006】
しかしながら、絶縁体樹脂中に銅害防止剤を添加する場合、その添加量があまり少ないと、有効な銅害防止効果が得られないため、当然ある程度の量を添加する必要がある。この必要添加量が必ずしも少ない量ではないので、通常絶縁体の特性、例えば誘電正接(tanδ)が大きくなるという問題が生じる。
【0007】
絶縁体のtanδが大きくなると、同軸ケーブルなどにおいて、高周波数領域、例えばGHz領域で用いると、伝送損失が大きくなるという問題が起こる。
【0008】
一方、銅導体にめっき(錫めっき)を施した場合、導体表面の抵抗が大きくなるため、やはりケーブルの伝送損失が大きくなるという問題が起こる。
【0009】
そこで、本発明者等は、絶縁体としてポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂を用いる一方、これらの絶縁体と触れる部分に銅害防止層、即ち、銅害に強い樹脂である、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、ポリエチレン系樹脂層、又はこれらの発泡層を設けることを着想し、実施したところ、良好な銅害防止効果が得られることを見い出した。
【0010】
本発明は、このような着想によりなされたものであり、基本的には、銅害防止層により絶縁体と銅導体とを分離して、良好な銅害防止効果が得られるようにした同軸ケーブル及び絶縁ケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の内側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブルにある。
【0012】
請求項2記載の本発明は、絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の外側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブルにある。
【0013】
請求項3記載の本発明は、絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の内側及び外側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブルにある。
【0014】
請求項4記載の本発明は、前記銅害防止層が、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、又はこれらの発泡層であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の同軸ケーブルにある。
【0015】
請求項5記載の本発明は、絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた絶縁ケーブルにおいて、前記絶縁体と接触する側に銅害防止層を設けたことを特徴とする絶縁ケーブルにある。
【0016】
請求項6記載の本発明は、前記銅害防止層が、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、又はこれらの発泡層であることを特徴とする請求項5記載の絶縁ケーブルにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る同軸ケーブル又は絶縁ケーブルでは、絶縁体としてポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂を用いていても、これらの絶縁体と銅導体と触れる部分に銅害防止層を設けてあるため、この銅害防止層により絶縁体と銅導体とは分離されて、良好な銅害防止効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係る同軸ケーブルの一態様を示したものである。
この同軸ケーブル10において、11は銅撚線導体などからなる中心の内部導体、12はポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂(その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体)の被覆層からなる絶縁体、13は銅撚線編組からなる外部導体、14は最外層のPVCなどからなるシースである。そして、15は内部導体11と絶縁体12との間に介在させた銅害防止層、16は絶縁体12と外部導体13との間に介在させた銅害防止層である。
【0019】
これらの銅害防止層15、16は、導体側の銅と反応しないものの層であれば、特に限定されない。例えば、ポリプロピレンに比べて銅と反応し難いポリエチレンを中心とした、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、又はこれらの発泡層とすることができる。なお、ポリエチレンは、低密度、高密度、直鎖状低密度などのいずれのものも使用することができる。また、他の樹脂材料としては、ポリアミド系樹脂、PTFE、FEP、PFA、ポリエステルなども挙げることができる。
【0020】
このような材料からなる銅害防止層15、16は、押出被覆層とするか、或いは、これらの材料からなるテープをギャップさせて(重なり部分を設けて)、縦添えするか、又は螺旋巻きしたテープ被覆層とすることにより形成すればよい。
【0021】
これらの銅害防止層15、16が、内部導体11と絶縁体12との間、及び絶縁体12と外部導体13との間に介在されるため、各導体部分の銅が絶縁体材料のポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂と直接触れることがなくなるため、銅害が根本的に防止される。なお、ケーブルの用途によっては、銅害防止層15、16のいずれか一方とすることもできる。勿論、この場合には、銅害防止性能は多少低下することになる。
【0022】
図2は、本発明に係る絶縁ケーブルの一態様を示したものである。
この絶縁ケーブル20において、21は銅撚線導体などからなる中心の導体、22はポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂(その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体)の被覆層からなる絶縁体、24は最外層のPVCなどからなるシース、27は中心の導体21と絶縁体22との間に介在させた銅害防止層である。
【0023】
通常の絶縁ケーブル20にあっても、銅害防止層27を設けることにより、導体部分の銅が絶縁体材料のポリプロピレンやポリプロピレン系樹脂と直接触れることがなくなるため、やはり銅害が根本的に防止される。なお、銅害防止層27の構成、使用材料などは、上記同軸ケーブル10の場合と同様でよい。また、ケーブル構造も、図2の場合に限定されるものではなく、基本的に、絶縁体と銅導体との触れる部分に銅害防止層27を設ける構造であれば、広く他の構造も含むものとする。
【0024】
〈実施例、比較例〉
本願発明に係る同軸ケーブル(実施例)として、図1と同構造のものを、以下の条件により製造した。この同軸ケーブル外径は約3.0mmで、内部導体は外径0.18mm銅線の7本を撚り込んだ銅撚線導体、内側の銅害防止層は厚さ0.05mmのポリエチレン層、絶縁体は厚さ0.43mmのポリプロピレン層、外側の銅害防止層は厚さ0.05mmのポリエチレン層、外部導体は外径0.1mm銅線を編み込んだ銅線編組、シースは厚さ0.4mmのPVC層とした。なお、上記絶縁体のポリプロピレン層、銅害防止層のポリエチレン層にはいずれも酸化防止剤を約1000ppm添加してあるが、銅害防止剤は無添加である。
【0025】
比較のための同軸ケーブル(比較例)として、図3と同構造のものを、以下の条件により製造した。この同軸ケーブル外径は約3.0mmで、内部導体は外径0.18mm錫めっき銅線の7本を撚り込んだ銅撚線導体、絶縁体は厚さ0.53mmのポリプロピレン層、外部導体は外径0.1mm錫めっき銅線を編み込んだ銅線編組、シースは厚さ0.4mmのPVC層とした。なお、上記絶縁体のポリプロピレン層には酸化防止剤を約1000ppm添加してあるが、銅害防止剤は無添加である。
【0026】
これらの実施例、及び比較例の同軸ケーブルにおいて、周波数数3.0GHzにおける伝送試験を行ったところ、実施例の同軸ケーブルでは減衰量が16.2dB/10mで、比較例の同軸ケーブルでは減衰量が16.7dB/10mであった。つまり、10mで0.5dBの差が認めら、本願発明の同軸ケーブルでは、減衰量が小さく、良好な結果が得られることが分かった。
【0027】
また、上記実施例、及び比較例の両同軸ケーブルを、約200℃の雰囲気下に放置し、内部導体に接する絶縁体内側の酸化誘導期(酸化劣化開始までの時間)を測定したところ、実施例の両同軸ケーブルでは、約22分で酸化劣化の開始が認められたが、比較例の両同軸ケーブルでは、約5分で酸化劣化の開始が認められた。
このことから、実施例の同軸ケーブルの場合、比較例の両同軸ケーブルに比べて、酸化誘導期がほぼ4倍も長くなることが分かる。絶縁体内での酸化劣化が開始されると、ケーブル伝送特性の減衰量が急速に増加するため、実施例の同軸ケーブルでは、高温環境下での使用でも、長期に渡り良好なケーブル伝送特性が維持されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る同軸ケーブルの一つの実施の形態になる縦断面図である。
【図2】本発明に係る絶縁ケーブルの一つの実施の形態になる縦断面図である。
【図3】従来の同軸ケーブルの一例になる縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10・・・同軸光ケーブル、11・・・内部導体、12・・・絶縁体、13・・・外部導体、14・・・シース、15、16・・・銅害防止層、20・・・絶縁光ケーブル、21・・・導体、22・・・絶縁体、24・・・シース、27・・・銅害防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の内側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の外側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項3】
絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた同軸ケーブルにおいて、前記絶縁体の内側及び外側に銅害防止層を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項4】
前記銅害防止層が、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、又はこれらの発泡層であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
絶縁体としてポリプロピレン、その重合体、ポリプロピレン含有の樹脂組成物、又はこれらの発泡体を用いた絶縁ケーブルにおいて、前記絶縁体と接触する側に銅害防止層を設けたことを特徴とする絶縁ケーブル。
【請求項6】
前記銅害防止層が、ポリエチレン層、架橋ポリエチレン層、又はこれらの発泡層であることを特徴とする請求項5記載の絶縁ケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−196209(P2006−196209A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3599(P2005−3599)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】