説明

同軸コネクタ及び同軸コネクタの製造方法

【課題】低コストの高周波用同軸コネクタを実現する。
【解決手段】
側面に段差部が設けられた円柱状の領域を有する中心導体と、段差部を覆うようにインサート成形された円筒形の固定樹脂部と、固定樹脂部の側面を包囲する外部導体とを備える同軸コネクタを提供する。段差部は、例えば、中心導体の側面に凹状に形成されている。一例として、固定樹脂部は、0℃以上150℃以下の温度範囲及び22GHz以下の周波数範囲における比誘電率が1.9以上2.1以下であり、かつ、320℃以上400℃以下におけるJISK7210による溶融粘度が、2.0×10Pa・s以上6.0×10Pa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸コネクタ及び同軸コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中心導体と、中心導体を包囲する絶縁性の樹脂部とを有する同軸コネクタにおいて、中心導体をインサート成形することにより樹脂部を形成する方法が知られている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3を参照)。また、特許文献4には、同軸コネクタの中心導体と樹脂部とを接着材で接着する構成が開示されている。
【特許文献1】特開平6−76907号公報
【特許文献2】特開平9−102342号公報
【特許文献3】特開2005−158656号公報
【特許文献4】特開平6−275345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、樹脂部をインサート成形した従来の同軸コネクタにおいては、中心導体を回転軸とする樹脂部の回転及び中心導体の軸方向における樹脂部の移動を防止することが考慮されていなかった。同軸コネクタが伝送する信号の周波数が高くなり、同軸コネクタが小型化すると、中心導体の側面と樹脂部との間の接触面の面積が小さくなる。その結果、中心導体と樹脂部との間の接着力が弱まり、樹脂部が回転又は移動するという問題が生じる。
【0004】
特に、樹脂材料として、フッ素系樹脂のように摩擦係数が比較的小さい材料が用いられる場合には、摩擦係数が大きい他の材料が樹脂部として用いられる場合に比べて、中心導体と樹脂部との間の摩擦力が小さくなる。その結果、樹脂部が、中心導体を回転軸として回転したり中心導体の軸方向に移動したりしやすい。樹脂部が回転したり移動したりすると、同軸コネクタの電気的特性が劣化するという問題が生じる。
【0005】
樹脂部の回転を防ぐ方法として、特許文献4には、中心導体の中央部付近に設けた小径部に接着剤を注入し、中心導体と中心導体を包囲する誘電体層とを接着する方法が開示されている。しかし、接着剤が使用される構成によれば、半田付け時の熱により接着剤が溶融するという問題が生じるとともに、製造コストが大きくなるという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、中心導体に段差部を設けることにより、樹脂部の回転及び移動を防止することを目的とする。さらに、本発明の一実施形態は、中心導体に、同軸コネクタの電気的特性への影響を最小限に留める形状の凹状の段差部を形成するとともに、当該凹状の段差部の充填に適したフッ素系樹脂により上記の樹脂部を形成することにより、同軸コネクタの電気的特性を良好に保ちつつ、樹脂部が中心導体に対して回転及び移動を防止することを目的とする。
【0007】
具体的には、本発明の第1の態様においては、側面に段差部が設けられた円柱状の領域を有する中心導体と、段差部を覆うようにインサート成形されて前記中心導体に固定された円筒形の固定樹脂部と、固定樹脂部の側面を包囲する外部導体とを備える同軸コネクタを提供する。段差部は、例えば、中心導体の側面に凹状に形成されている。
【0008】
一例として、固定樹脂部の形成材料は、0℃以上150℃以下の温度範囲及び22GHz以下の周波数範囲における比誘電率が1.9以上2.1以下であり、かつ、320℃以上400℃以下におけるJISK7210による溶融粘度が、2.0×10Pa・s以上6.0×10Pa・s以下である。
【0009】
上記の同軸コネクタは、中心導体に圧入された、底面が固定樹脂部の底面に接する円筒形の圧入樹脂部をさらに備え、外部導体は、固定樹脂部及び圧入樹脂部の側面を包囲してもよい。例えば、固定樹脂部及び圧入樹脂部は同一組成を有する。固定樹脂部の外径と圧入樹脂部の外径とが同一であってもよい。一例として、固定樹脂部の線膨張率が8×10−5/℃以上15×10−5/℃未満である。
【0010】
本発明の第2の態様においては、円柱形の中心導体に側面に段差部を形成する工程と、段差部を覆うように円筒形の固定樹脂部をインサート成形して中心導体に固定する工程と、固定樹脂部の側面を包囲する外部導体を形成する工程とを備える同軸コネクタの製造方法を提供する。
【0011】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る同軸コネクタ100の断面を示す。
【図2】図1に示した同軸コネクタ100のA−A線断面を示す。
【図3】他の実施形態に係る同軸コネクタ200の断面を示す。
【図4】他の実施形態に係る同軸コネクタ400の断面を示す。
【図5】他の実施形態に係る同軸コネクタ500の断面を示す。
【図6】他の実施形態に係る同軸コネクタ600の断面を示す。
【図7】他の実施形態に係る同軸コネクタ700の断面を示す。
【図8】同軸コネクタ400のリターンロスの周波数特性を測定した結果を示す。
【図9】同軸コネクタBのリターンロスの周波数特性を測定した結果を示す。
【図10】6GHz以下の周波数における同軸コネクタ400のリターンロスと同軸コネクタBのリターンロスとを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る同軸コネクタ100の断面を示す。図2は、図1に示した同軸コネクタ100のA−A線断面を示す。同軸コネクタ100は、中心導体102、固定樹脂部104及び外部導体106を備える。図2に示すように、本明細書においては、中心導体102の外径をd、固定樹脂部104の外径をDと表す。
【0015】
中心導体102は、例えば導電性を有する金属である。中心導体102は、導電性を有する金属以外の材料であってもよい。中心導体102は、一例として円柱状の領域を有する。中心導体102は、外径がそれぞれ異なる複数の円柱状の領域を有してもよい。一例として、中心導体102における外径が小さい円柱状の領域は、基板に接続される。中心導体102における外径が大きい円柱状の領域は、中空部110及びすり割り部112を有してもよい。
【0016】
中空部110には、オス型同軸コネクタのプラグ端子が挿入される。中空部110は、例えば、中心導体102の端部から円柱状に金属が除去された領域である。中心導体102は、中空部110が形成された領域において円筒形状である。すり割り部112は、中心導体102における中空部110が形成された円筒形状の領域の一部に形成されている。中心導体102にすり割り部112が形成されていることにより、中心導体102の円筒形状の領域が可動性を有するので、中空部110に挿入されるオス型同軸コネクタとの密着性が高まる。
【0017】
中心導体102は、円柱状の領域の側面に段差部108を有する。中心導体102は、複数の段差部108を有してもよい。段差部108は、例えば凹状に形成されている。段差部108は、中心導体102の側面に凸状に形成されていてもよい。凹状の段差部108は、中心導体102を切削することにより形成できるので、凸状の段差部108に比べて低コストで形成することができる。
【0018】
図2に示すように、段差部108は、例えば直方体状に切削されている。段差部108は、Dカットされることにより形成されていてもよく、ローレット加工により形成されていてもよい。段差部108は、半球状、楕円球状及びその他の任意の形状に切削されていてもよい。
【0019】
固定樹脂部104は、中心導体102を包囲する。固定樹脂部104は、段差部108を覆うようにインサート成形されている。具体的には、固定樹脂部104は、中心導体102が装填された金型内に樹脂が注入されることにより成形されるインサート成形により製造されている。固定樹脂部104は略円筒形であり、固定樹脂部104の筒状部分に中心導体102が設けられている。
【0020】
固定樹脂部104は、段差部108を含む中心導体102の側面の少なくとも一部の領域を包囲する。固定樹脂部104は、中心導体102の一部の領域を包囲しないでもよい。例えば、中心導体102が外径の異なる複数の円柱状の領域を有している場合、固定樹脂部104は、外径が大きい円柱状の領域を包囲し、外部基板に接続される、外径が小さい円柱状の領域を包囲しない。
【0021】
固定樹脂部104は、中心導体102に形成された段差部108にも充填されている。固定樹脂部104が段差部108に充填されていることにより、固定樹脂部104が中心導体102の軸を中心にして回転することが防止される。具体的には、固定樹脂部104を回転させようとする力が加えられた場合、段差部108に充填された固定樹脂部104は、段差部108における中心導体102の軸方向の内壁面により移動が阻止される。
【0022】
固定樹脂部104が段差部108に充填されていることにより、固定樹脂部104が中心導体102の軸方向に移動することも防止される。具体的には、固定樹脂部104を中心導体102の軸方向に移動させようとする力が加えられた場合、段差部108に充填された固定樹脂部104は、段差部108における中心導体102の軸方向に垂直な方向の内壁面により移動が阻止される。
【0023】
固定樹脂部104の回転又は移動を阻止する効果を高めるべく、段差部108の内壁面は、中心導体102の側面に対して略垂直な方向に形成されることが好ましい。段差部108の対向する2つの内壁面は、中心導体102の側面から離れるにつれて互いに距離が大きくなる方向に形成されることがさらに好ましい。
【0024】
固定樹脂部104は、一例として、0℃以上150℃以下の温度及び100GHz以下の周波数における比誘電率が1.9以上2.1以下である。固定樹脂部104は、22GHz以下の周波数における比誘電率が1.9以上2.1以下であってもよい。固定樹脂部104の比誘電率が1.9以上2.1以下であることにより、同軸コネクタ100がSMA規格に適合する場合には、同軸コネクタ100の特性インピーダンスは48Ω以上52Ω以下になる。特性インピーダンスが48Ω以上52Ω以下の範囲にない場合には、同軸コネクタ100と外部デバイスとの結合におけるリターンロスのリプル特性などの周波数特性が悪化する。
【0025】
具体的には、外部導体106の内径をD、中心導体102の外径をd、固定樹脂部104の比誘電率をεとするとき、同軸コネクタ100の特性インピーダンスZは、Z=138/ε0.5×Log(D/d)により定まる。D=4.11mm、d=1.27mm、ε=1.9の場合には、Z=51.06Ωである。D=4.11mm、d=1.27mm、ε=2.0の場合には、Z=49.77Ωである。D=4.11mm、d=1.27mm、ε=2.1の場合には、Z=48.57Ωである。
【0026】
すなわち、固定樹脂部104の比誘電率が1.9以上2.1以下である場合には、比誘電率が2.1より大きな樹脂を用いる場合のように、樹脂に穴を形成して特性インピーダンスを調整する必要がない。したがって、比誘電率が1.9以上2.1以下の樹脂をインサート成形して固定樹脂部104を形成することにより、低コストで同軸コネクタ100を製造することができる。
【0027】
固定樹脂部104の形成材料は、例えばフッ素系樹脂である。固定樹脂部104は、フッ素系樹脂と同等の圧縮弾性率、摩擦係数、線膨張係数を有する他の樹脂であってもよい。固定樹脂部104は、接着性を有することが好ましい。固定樹脂部104は、例えばテトラフルオロエチレン及びバーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体である。固定樹脂部104は、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)であってよい。
【0028】
固定樹脂部104の形成材料は、例えば、磨き銅に対する静摩擦係数が0.04以上0.05未満である。フッ素系樹脂は、他の多くの樹脂に比べて静摩擦係数が低い。したがって、固定樹脂部104にフッ素系樹脂が用いられる場合には、固定樹脂部104は回転又は移動をしやすい。そこで、段差部108に固定樹脂部104が充填されることにより、固定樹脂部104の回転又は移動を防ぐという効果が顕著に表れる。
【0029】
固定樹脂部104の形成材料は、JIS K7210により測定された320℃以上400℃以下における溶融粘度が、2.0×10Pa・s以上6.0×10Pa・s以下であることが好ましい。固定樹脂部104の形成材料は、JIS K7210により測定された380℃における溶融粘度が、2.0×10Pa・s以上2.5×10Pa・s以下であることがさらに好ましく、2.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下であることがさらに好ましい。固定樹脂部104の溶融粘度は、2.0×10Pa・s以上2.5×10Pa・s以下であることがさらに好ましい。固定樹脂部104が当該範囲の溶融粘度を有することにより、固定樹脂部104をインサート成形することができる。
【0030】
特に、固定樹脂部104の形成材料の溶融粘度が小さければ小さいほど、より小さな凹状の段差部108に固定樹脂部104が充填される。上記の特性インピーダンスの算出式から明らかなとおり、段差部108が小さい方が同軸コネクタ100の特性インピーダンスに与える影響が小さい。したがって、固定樹脂部104の形成材料が上記の溶融粘度を有することにより、固定樹脂部104の回転又は移動を防止しつつ、特性インピーダンスに与える影響を最小限にすることができる。
【0031】
固定樹脂部104の形成材料は、一例として、ASTM D696により測定された線膨張率が、50℃以上100℃以下の温度範囲において8×10−5/℃以上15×10−5/℃未満である。固定樹脂部104の形成材料が、20℃以上100℃以下の温度範囲において11.8×10−5/℃以上12.2×10−5/℃以下の線膨張率を有することがさらに好ましい。固定樹脂部104の形成材料は、例えば、4.00%以上4.06%以下の成形収縮率を有する。固定樹脂部104の形成材料が上記の線膨張率又は成形収縮率を有することにより、固定樹脂部104がインサート成形された後に生じる収縮によって、固定樹脂部104が中心導体102に密着する。
【0032】
固定樹脂部104の形成材料は、一例として、示差走査熱量測定(DSC)された融点が、265℃以上である。固定樹脂部104は、300℃以上の融点を有することがさらに好ましい。固定樹脂部104の形成材料が当該融点を有することにより、同軸コネクタ100を外部基板に半田付けする場合に、固定樹脂部104が溶融しない。
【0033】
固定樹脂部104の形成材料は、ASTM D895により測定された圧縮弾性率が400MPa以上500MPa以下であることが好ましい。固定樹脂部104の形成材料が当該圧縮弾性率を有することにより、固定樹脂部104は、熱収縮によって破断されることなくインサート成形により形成される。さらに、固定樹脂部104の形成材料が上記の圧縮弾性率を有することにより、固定樹脂部104は、段差部108に充填された後に段差部108と密着するので、固定樹脂部104の回転及び移動に対する耐力が高まる。
【0034】
段差部108の深さ及び中心導体102の側面における大きさは、例えば、同軸コネクタ100の特性インピーダンスを始めとする電気的特性、固定樹脂部104の回転及び移動に対する耐力、及び、固定樹脂部104の溶融粘度の関係に基づいて定められる。具体的には、段差部108は、同軸コネクタ100の特性インピーダンスが48Ω以上52Ω以下になる範囲の深さ及び大きさに定められる。
【0035】
段差部108の深さは、中心導体102の外径に基づいて定められてもよい。一例として、段差部108の深さは、中心導体102の外径の16%以下である。段差部108の深さは、中心導体102の外径の10%以下であることがさらに好ましい。段差部108の深さは、固定樹脂部104の内径及び固定樹脂部104の比誘電率にさらに基づいて定められてもよい。
【0036】
段差部108が直方体である場合には、段差部108の対向する内壁面の距離及び段差部108の深さは、固定樹脂部104がインサート成形される温度における固定樹脂部104の溶融粘度において、固定樹脂部104が段差部108内に充填される最小距離及び最小深さ以上の距離及び深さである。段差部108が直方体以外の形状である場合には、当該形状を直方体に近似して、段差部108の内壁面間の距離及び深さを定めてよい。
【0037】
段差部108に上記の溶融粘度の固定樹脂部104が充填されることにより、固定樹脂部104の回転及び移動に対する十分な耐力を得ることができる。例えば、固定樹脂部104の軸方向の引っ張り強度は1Nよりも大きい。固定樹脂部104の軸方向の引っ張り強度は10N以上であることが好ましく、25N以上であることがさらに好ましい。
【0038】
外部導体106は、固定樹脂部104の側面を包囲する。外部導体106は、中心導体102の軸方向と垂直な方向に形成されたフランジを有してもよい。
【0039】
上記のとおり、外部導体106の内径をD、中心導体102の外径をd、固定樹脂部104の比誘電率をεとするとき、同軸コネクタ100の特性インピーダンスZは、Z=138/ε0.5×Log(D/d)により定まる。したがって、中心導体102は、段差部108が形成された領域における内径が、段差部108が形成されていない領域よりも小さい。その結果、同軸コネクタ100の特性インピーダンスは、段差部108が形成されていない場合よりも大きくなる。
【0040】
仮に、同軸コネクタ100が、予め成形された樹脂部が中心導体102に圧入されるという構成を有する場合には、当該樹脂部の回転を防ぐために、中心導体102に凸部が形成される。当該樹脂部を中心導体102に圧入し、かつ、当該樹脂部の回転を防ぐ効果を得るためには、成形された樹脂部の公差及び中心導体102と樹脂部との間の隙間が考慮された高さの凸部を形成する必要がある。したがって、同軸コネクタ100の特性インピーダンスを所望の範囲内にするために、樹脂部の一部の領域の外径、及び、中心導体102の一部の領域の内径を大きくしなければならないという問題が生じる。
【0041】
これに対して、固定樹脂部104がインサート成形により形成されている場合には、予め成形された樹脂部が中心導体102に圧入されて構成される場合に比べて、固定樹脂部104の回転又は移動を防ぐために必要な段差部108の段差を小さくすることができる。したがって、固定樹脂部104をインサート成形することにより、段差部108の深さを、中心導体102の外径、固定樹脂部104の内径及び固定樹脂部104の比誘電率に基づいて、同軸コネクタ100の特性インピーダンスが48Ω以上52Ω以下の範囲になるようにすることができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、固定樹脂部104の回転又は移動が防止されるとともに、インピーダンス特性が優れた同軸コネクタ100をインサート成形により低コストで製造することができる。
【0042】
なお、段差部108の内壁面には、凹凸が形成されていてもよい。段差部108が接着する面積が大きくなるので、固定樹脂部104の回転又は移動を阻止する効果がさらに高まる。
【0043】
以下、同軸コネクタ100の製造方法を説明する。まず、中心導体102の側面の一部の領域を切削することにより段差部108を形成する。次に、段差部108を形成した中心導体102を金型に装填し、段差部108を覆うように固定樹脂部104をインサート成形する。続いて、インサート成形した固定樹脂部104を、予め成形された外部導体106に圧入する。以上のとおり、本実施形態に係る同軸コネクタ100の製造方法によれば、固定樹脂部104を中心導体102に圧入する方法に比べて少ない工程で、固定樹脂部104が回転又は移動しない同軸コネクタ100を低コストで製造することができる。
【0044】
図1に示すように、すり割り部112の周囲の領域においても固定樹脂部104をインサート成形する場合には、すり割り部112の空隙内に固定樹脂部104が充填されることを防ぐために、固定樹脂部104のインサート成形をする工程の前に、すり割り部112への樹脂の流入を防ぐ部材を装着する工程を設けてもよい。この場合には、固定樹脂部104のインサート成形をする工程の終了後に、樹脂の流入を防ぐ部材を除去する。
【0045】
図3は、他の実施形態に係る同軸コネクタ200の断面を示す。同軸コネクタ200は、図1に示した同軸コネクタ100と結合するオス型の同軸コネクタである。同軸コネクタ200は、中心導体202、固定樹脂部204、外部導体206、オス型端子214及び結合部216を備える。
【0046】
中心導体202は、中心導体102と同様に、導電性を有する金属である。中心導体202は、一例として円柱状の領域を有する。中心導体202は、円柱状の領域の側面に段差部208を有する。段差部208は、段差部108と同等の形状及び機能を有する。
【0047】
固定樹脂部204は、固定樹脂部104と同等の機能及び形状を有する。固定樹脂部204は、段差部208を覆うようにインサート成形されて、中心導体202を包囲する。
【0048】
外部導体206は、外部導体106と同等の機能及び形状を有する。外部導体206は、円筒形の領域に凹凸を有し、結合部216と結合されている点で外部導体106と異なる。
【0049】
オス型端子214は、固定樹脂部204の端面aから突出している導体である。オス型端子214は、同軸コネクタ100における中空部110に挿入されることによって、同軸コネクタ100と同軸コネクタ200とを結合する。一例として、オス型端子214は、中心導体202と一体に成形される。オス型端子214は、中心導体202の先端部を切削することにより形成されてもよい。
【0050】
同軸コネクタ200においては、固定樹脂部204は、中心導体202に設けられた段差部208を覆うようにインサート成形されている。したがって、同軸コネクタ200の構成によれば、同軸コネクタ100と同様に、固定樹脂部204の回転又は移動が防止されるとともに、製造コストを増大させることなく同軸コネクタ200の特性インピーダンスを所望の値の範囲内にすることができる。
【0051】
図4は、他の実施形態に係る同軸コネクタ400の断面を示す。同図における同軸コネクタ400は、固定樹脂部404及び圧入樹脂部405を有する点で、図1に示した同軸コネクタ100と異なる。
【0052】
固定樹脂部404は固定樹脂部104に対応し、段差部108を覆うようにインサート成形されている。圧入樹脂部405は、予め成形又は切削により円筒形に形成されている。圧入樹脂部405は、中心導体102に圧入され、かつ、底面が固定樹脂部404の底面に接する。
【0053】
同軸コネクタ400が固定樹脂部404及び圧入樹脂部405を有することにより、固定樹脂部404をインサート成形する工程に先立ち、すり割り部112に樹脂が流入することを防ぐ部材を設ける必要がないという効果が生じる。また、圧入樹脂部405の長さを変化させることで、同軸コネクタ400の特性インピーダンスを微調整することができるという予測し得ない効果も奏する。
【0054】
圧入樹脂部405は、一例として、中心導体102の軸方向におけるすり割り部112の長さよりも長い。圧入樹脂部405は、中心導体102の軸方向における中空部110の長さより長くてもよい。圧入樹脂部405における固定樹脂部404と接する底面と反対の底面は、中心導体102の端面と同じ平面に位置することが好ましい。
【0055】
固定樹脂部404及び圧入樹脂部405は、同一の組成を有することが好ましい。固定樹脂部404及び圧入樹脂部405が同一の組成を有することにより、同軸コネクタ400は、同軸コネクタ100と同等の特性インピーダンスを有することができる。
【0056】
固定樹脂部404及び圧入樹脂部405は、同一の外径を有することが好ましい。さらに、固定樹脂部404及び圧入樹脂部405は、同一の内径を有することがさらに好ましい。固定樹脂部404及び圧入樹脂部405が同一の外径又は内径を有することにより、外部導体106の内面に凹凸を設ける必要がないので、低コストで同軸コネクタ400を製造することができる。さらに、固定樹脂部404及び圧入樹脂部405の外径が同一である場合には、固定樹脂部404と圧入樹脂部405との接合部における高周波信号の反射を防止できる。したがって、同軸コネクタ400を伝送される信号の伝送特性の劣化を防ぐことができる。
【0057】
固定樹脂部404及び圧入樹脂部405の形成材料は、ASTM D895により測定された圧縮弾性率が400MPa以上500MPa以下であることが好ましい。固定樹脂部104の形成材料が当該圧縮弾性率を有することにより、固定樹脂部404の底面と圧入樹脂部405の底面との間の密着性が向上するとともに、固定樹脂部404及び圧入樹脂部405を外部導体106に圧入しやすいという効果が生じる。その結果、上記の圧縮弾性率よりも小さな圧縮弾性率の樹脂を用いる場合に比べて、圧入樹脂部405の加工精度を低下させることができる。
【0058】
同軸コネクタ400の製造方法は、固定樹脂部404をインサート成形した後に、予め成形又は切削された圧入樹脂部405を中心導体102に圧入する点で、同軸コネクタ100の製造方法と異なる。圧入樹脂部405の圧入に先立ち、固定樹脂部404の底面又は圧入樹脂部405の底面に接着剤を塗布してもよい。固定樹脂部404と圧入樹脂部405との間に接着剤が充填されることにより、固定樹脂部404と圧入樹脂部405との密着性をさらに高めることができる。
【0059】
図5は、他の実施形態に係る同軸コネクタ500の断面を示す。同図における同軸コネクタ500は、固定樹脂部504及び圧入樹脂部505を有する点で、図3に示した同軸コネクタ200と異なる。
【0060】
固定樹脂部504及び圧入樹脂部505は、図4に示した固定樹脂部404及び圧入樹脂部405に対応する。すなわち、固定樹脂部504は、段差部208を覆うようにインサート成形されており、かつ、圧入樹脂部505は、固定樹脂部504に接するように中心導体202に圧入されている。中心導体202の軸方向における圧入樹脂部505の端面の位置は、中心導体202とオス型端子214の境界面の位置と同じであることが好ましい。
【0061】
図6は、他の実施形態に係る同軸コネクタ600の断面を示す。同図における同軸コネクタ600は、中心導体602が、中空部610、中空部611、すり割り部612及びすり割り部613を有し、かつ、中心導体602を包囲する圧入樹脂部614が設けられている点で、図4に示した同軸コネクタ400と異なる。中心導体602は、固定樹脂部504に包囲された段差部608を有する。外部導体606は、固定樹脂部404、圧入樹脂部405及び圧入樹脂部614を包囲する。
【0062】
圧入樹脂部614の底面の1つは、固定樹脂部404の底面と接する。圧入樹脂部614は、例えば、固定樹脂部404及び圧入樹脂部405と同一の材質である。圧入樹脂部614の外径は、固定樹脂部404の外径及び圧入樹脂部405の外径と同一であることが好ましい。
【0063】
一例として、圧入樹脂部614は、固定樹脂部404がインサート成形された後に、中心導体602に圧入されることにより形成される。一例として、圧入樹脂部614は、圧入樹脂部405と同時に中心導体602に圧入される。圧入樹脂部614は、圧入樹脂部405よりも前に中心導体602に圧入されてもよく、圧入樹脂部405よりも後に中心導体602に圧入されてもよい。
【0064】
図7は、他の実施形態に係る同軸コネクタ700の断面を示す。同図における同軸コネクタ700は、中心導体702が中空部711及びすり割り部713を有し、かつ、中心導体702を包囲する圧入樹脂部714が設けられている点で、図5に示した同軸コネクタ500と異なる。中心導体702は、固定樹脂部504に包囲された段差部708を有する。外部導体706は、固定樹脂部504、圧入樹脂部505及び圧入樹脂部714を包囲する。
【0065】
圧入樹脂部714の底面の1つは、固定樹脂部504の底面と接する。圧入樹脂部714は、例えば、固定樹脂部504及び圧入樹脂部505と同一の材質である。圧入樹脂部714の外径は、固定樹脂部504の外径及び圧入樹脂部505の外径と同一であることが好ましい。
【0066】
一例として、圧入樹脂部714は、固定樹脂部504がインサート成形された後に、中心導体702に圧入されることにより形成される。一例として、圧入樹脂部714は、圧入樹脂部505と同時に中心導体702に圧入される。圧入樹脂部714は、圧入樹脂部505よりも前に中心導体702に圧入されてもよく、圧入樹脂部505よりも後に中心導体702に圧入されてもよい。
【0067】
(実施例1)
図4に示した同軸コネクタ400と同等の構成の同軸コネクタを製作した。固定樹脂部404の形成材料としては、テトラフルオロエチレン及びバーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体であるフッ素系樹脂を使用した。
【0068】
本発明で使用したフッ素系樹脂は、静摩擦係数が0.045、22GHz以下の周波数において23℃及び150℃におけるASTM D150による比誘電率がそれぞれ2.03及び2.01、DSCによる融点が300℃以上310℃以下、ASTM D696による線膨張率が12×10−5/℃、ASTM D895による圧縮弾性率が550MPa、380℃におけるJIS K7210による溶融粘度が2.7×10Pa・sである。
【0069】
まず、d=1.27mmの中心導体102を準備した。次に、中心導体102に段差部108を形成した。中心導体102の軸方向における段差部108の長さは1.2mmとした。中心導体102の軸方向と垂直な方向における段差部108の長さは0.93mmとした。段差部108の深さは0.2mmとした。中心導体102の外径に対する段差部108の深さの割合は、15.7%であった。
【0070】
次に、中心導体102を金型に装填した後にフッ素系樹脂を金型に流入させ、固定樹脂部404をインサート成形した。固定樹脂部404の外径Dは4.11mmとした。
【0071】
続いて、予め円筒形に成形した圧入樹脂部405を中心導体102に圧入した。圧入樹脂部405にも、固定樹脂部404と同一のフッ素系樹脂を使用した。圧入樹脂部405の外径も4.11mmとした。最後に、中心導体102と一体化した固定樹脂部404及び圧入樹脂部405を外部導体106に圧入して同軸コネクタ400が完成した。
【0072】
図8は、製作した同軸コネクタ400のリターンロスの周波数特性を測定した結果を示す。図8に示すリターンロスは、同軸コネクタ400をプリント基板に実装した状態で測定された。同軸コネクタ400のリターンロスRLは、電圧定在波比をVSWRとしたときに、RL=20log10(VSWR+1/VSWR−1)(dB)で与えられ、VSWRは、22GHz以下の周波数f(GHz)において、SMA規格の一例として1.05+0.015×fである。
【0073】
製作した同軸コネクタ400における固定樹脂部404を固定した状態で中心導体102を引っ張ることにより、固定樹脂部404の移動のしやすさを測定した。同軸コネクタ400においては、27Nの力で中心導体102を引っ張ることにより、中心導体102が移動した。
【0074】
(比較例)
中心導体102が段差部108を有しない点を除いて上記の実施例1で製作した同軸コネクタ400と同等の同軸コネクタAを製作した。固定樹脂部404を固定した状態で中心導体102を引っ張ると、1Nの力を印加した時点で中心導体102が移動した。この結果から、中心導体102が段差部108を有する効果を確認できた。
【0075】
(参考例)
実施例1で製作した同軸コネクタ400と同等の構造で、固定樹脂部404にポリエステル系樹脂(以下LCP)を使用した同軸コネクタBを製作した。本発明で使用したLCPは、ASTM D150による比誘電率が10GHz以下の周波数範囲で3.8以上4.5以下であり、圧縮弾性率が11700MPaであった。
【0076】
図9は、同軸コネクタBのリターンロスの周波数特性を測定した結果を示す。図9に示すリターンロスも、同軸コネクタBをプリント基板に実装した状態で測定された。図9から明らかなように、図8に示した同軸コネクタ400の測定結果に比べて、リターンロスの周波数特性が悪化している。
【0077】
図10は、6GHz以下の周波数における同軸コネクタ400のリターンロスと同軸コネクタBのリターンロスとを示す。図10におけるリターンロスは、同軸コネクタ400及び同軸コネクタBをプリント基板に実装しない状態で測定された。同図から明らかなように、同軸コネクタ400のリターンロスは同軸コネクタBのリターンロスよりも小さく、良好な特性が得られている。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した方法における各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲及び明細書中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0080】
100 同軸コネクタ、102 中心導体、104 固定樹脂部、106 外部導体、108 段差部、110 中空部、112 すり割り部、200 同軸コネクタ、202 中心導体、204 固定樹脂部、206 外部導体、208 段差部、214 オス型端子、216 結合部、400 同軸コネクタ、402 中心導体、408 段差部、414 オス型端子、400 同軸コネクタ、404 固定樹脂部、405 圧入樹脂部、500 同軸コネクタ、504 固定樹脂部、505 圧入樹脂部、600 同軸コネクタ、606 外部導体、602 中心導体、608 段差部、610 中空部、611 中空部、612 すり割り部、613 すり割り部、614 圧入樹脂部、700 同軸コネクタ、702 中心導体、706 外部導体、708 段差部、711 中空部、713 すり割り部、714 圧入樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に段差部が設けられた円柱状の領域を有する中心導体と、
前記段差部を覆うようにインサート成形されて前記中心導体に固定された円筒形の固定樹脂部と、
前記固定樹脂部の側面を包囲する外部導体と
を備える同軸コネクタ。
【請求項2】
前記段差部は、前記中心導体の側面に凹状に形成されている請求項1に記載の同軸コネクタ。
【請求項3】
前記固定樹脂部の形成材料は、0℃以上150℃以下の温度範囲及び22GHz以下の周波数範囲における比誘電率が1.9以上2.1以下であり、かつ、320℃以上400℃以下におけるJIS K7210による溶融粘度が、2.0×10Pa・s以上6.0×10Pa・s以下である請求項1又は2に記載の同軸コネクタ。
【請求項4】
前記中心導体に圧入され、かつ、底面が前記固定樹脂部の底面に接する円筒形の圧入樹脂部をさらに備え、
前記外部導体は、前記固定樹脂部及び前記圧入樹脂部の側面を包囲する請求項1から3のいずれか一項に記載の同軸コネクタ。
【請求項5】
前記固定樹脂部及び前記圧入樹脂部は同一組成を有する請求項4に記載の同軸コネクタ。
【請求項6】
前記固定樹脂部の外径と前記圧入樹脂部の外径とが同一である請求項4又は5に記載の同軸コネクタ。
【請求項7】
前記固定樹脂部の線膨張率が8×10−5/℃以上15×10−5/℃未満である請求項1から6のいずれか一項に記載の同軸コネクタ。
【請求項8】
円柱形の中心導体に側面に段差部を形成する工程と、
前記段差部を覆うように円筒形の固定樹脂部をインサート成形して前記中心導体に固定する工程と、
前記固定樹脂部の側面を包囲する外部導体を形成する工程と
を備える同軸コネクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−98131(P2013−98131A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242527(P2011−242527)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【特許番号】特許第4902018号(P4902018)
【特許公報発行日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(594043063)株式会社木村電気工業 (4)
【Fターム(参考)】