説明

同軸型半導体光モジュール

【課題】温度調節手段を用いることなく比較的長波長帯でも長距離伝送が可能な半導体レーザモジュールを提供すること。
【解決手段】半導体レーザ部と、該半導体レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調部と、が形成されるレーザ素子と、該レーザ素子を内部に収容する筒状の筐体と、を含む半導体光モジュールであって、前記電界吸収型変調部は、光導波路層を含むとともに上下に電極が配置されるメサ構造と、該光導波路の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記埋め込み層は、鉄が不純物として添加されたインジウム燐により構成され、リン酸トリブチルを燐の原料とした埋め込み成長法により形成されたり、不純物としてルテニウムが添加されたりする。或いは、前記メサ構造の最上層は、炭素が不純物として添加された半導体により構成され、上側の前記電極に接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸型半導体光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術1]
従来の技術について、40km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.55μm帯半導体電界吸収型変調器集積レーザ(以下、EA(Electro-Absorption)変調器集積レーザ)モジュールの例を用いて説明する。
【0003】
従来技術1に係るレーザモジュールには、10Gbit/sEA変調器集積レーザが搭載されている。EA変調器集積レーザは、一定電流により駆動させるDFBレーザ(Distributedfeedback laser)部と、変調電圧により動作させるEA変調器部により構成されている。当該EA変調器集積レーザの鳥瞰図を図1Aに、該図に示すEA変調器部メサ垂直方向A―A断面を図1Bに、それぞれ示す。
【0004】
当該EA変調器集積レーザでは、例えば、使用する最高温度であるTLD =35℃において、所望のレーザ発振波長を1545nmとし、デチューニング量が50〜60nmになるようにEA変調器部102のフォトルミネッセンス波長を1490nmに設定する。
【0005】
ここで、デチューニング量とは、レーザ発振波長とEA変調器部102のフォトルミネッセンス波長との差で定義され、所望のレーザ発振波長を決めた場合、設計パラメータであるデチューニング量から逆算して、EA変調器部102のフォトルミネッセンス波長が決まる。デチューニング量は、EA変調器の消光比特性やファイバ伝送特性の指標であるチャープ特性に影響を与えるパラメータである。
【0006】
EA変調器集積レーザのEA変調器部102は、p側電極112bとn側電極113の電極の間に、アンドープ歪量子井戸活性層104を含み、メサ構造をしている。当該EA変調器部において、この両側部分に、フォスフィン(PH3(リン化水素))をV族元素原料とした鉄(Fe)ドープインジウム燐(InP) を用いて、有機金属気相法を用いた公知の埋め込み成長法にて埋め込み層110を形成する。この時の成長温度はV族元素原料であるフォスフィンの分解を考慮して、約600℃程度である。
【0007】
図2に示す通り、当該EA変調器集積レーザ201を、50Ω終端抵抗が付いた窒化アルミ二ウム(AlN)製のチップキャリア202にAuSnはんだで搭載する。このチップキャリア202を温度調整手段であるペルチェ203の上に搭載し、サーミスタ204、モニタフォトダイオード205、光アイソレータ206、及びファイバー207に光を集光するためのレンズ208を、金属素材をボックス型に加工したパッケージ209へ組み込むことにより、EA変調器集積レーザモジュールが完成する。
【0008】
図2では省略しているが、ボックス型パッケージについて以下に補足する。ボックス型パッケージは、熱伝導率が高いCuW合金の底板、FeNi合金からなるフレーム、電気信号をパッケージ内部に伝達するために配線パターンを形成したセラミックフィードスルー、リード端子、キャップをシーム溶接するためのシームリング、光を取り出す窓を気密封止するためのサファイヤガラス、レンズホルダや光ファイバを溶接固定するためのパイプ部材などの部品より構成されており、ロー材やAuSnはんだなどの接合材を用いて組み立てられている。
【0009】
このレーザモジュールを、ペルチェ203によりレーザ温度TLD =35℃に設定すると、この設定温度近傍において、しきい値が15mA、発振波長が1545nmである。また、10Gbit/s変調動作時においては、ファイバ光出力が+1dBm、消光比が10.5dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.5dBであり、実際の40km光伝送用としては十分な特性である。さらに、このEA変調器集積レーザモジュールを、駆動ドライバ、受信モジュール、や様々な電子部品を搭載することにより、10Gbit/s送受信モジュールが完成する。一般に送受信モジュールの動作温度範囲は、送受信モジュールのケース温度で-5℃〜70℃、あるいは85℃等で規定されているが、従来の1.55μm帯40km光ファイバ伝送用EA変調器集積レーザモジュールに、温度調整手段であるペルチェに搭載して、例えば25℃から50℃程度の一定温度に制御して使用しなければ、所望の特性が得られない。
【0010】
[従来技術2]
従来技術2について、10km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.3μm帯直接変調レーザ同軸型半導体光モジュールの例を用いて説明する。1.3μm帯直接変調レーザとは、以下の参考文献に代表される半導体レーザであり、-5℃から85℃の温度に対し、高速変調動作が可能なデバイスである(下記非特許文献1参照)。
【0011】
温度制御が不要であるため、同軸型半導体光モジュールであるTO-CANパッケージに搭載することが可能であり、ボックス型パッケージと比較して、パッケージ材料単価が安く、且つペルチェが不要であるため、低消費電力化が可能である。
【0012】
[従来技術3]
従来技術3について、伝送速度10Gbit/s波長1.3μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例について説明する(下記非特許文献2)。非特許文献2に記載の、1.3μm帯EA変調器集積レーザは、0℃から85℃までの温度に対し、高速変調動作が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K. Uomi, et.al. , "10Gbit/s InGaAlAs uncooled directlymodulatedMQW-DFB lasers for SONET and Ethernet applications," 17th IndiumPhosphideand Related Materials Conference, , May 2005,ThB1-5.
【非特許文献2】"A S I P 1 3 1 0 n m E M L T O S A "、[ o n l i n e ]、A S I P、[2008年8月17日検索]、インターネット<U R L : ht t p : / / w w w . a s i p i n c . c o m /dynContentFolder/A150007.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術1に係るレーザモジュールには、温度調節手段が必須である。これは、レーザ発振波長とEA変調器部のフォトルミネッセンス波長との差で定義したデチューニング量の温度依存性と、高温でのEA変調器集積レーザ埋め込み界面での電流、及び電界の漏れの増加という、主に2つの原因による。
【0015】
まず、第1の原因であるデチューニングの温度依存性について、以下に説明する。レーザの発振波長の温度特性が、約0.1nm/℃であるのに対し、EA変調器の多重量子井戸活性層のバンドギャップエネルギーであるフォトルミネッセンス波長の温度特性が、約0.5nm/℃であるため、その差であるデチューニング量の温度特性が0.4nm/℃となる。デチューニング量が変わると、素子の消光特性、およびチャープ特性が変動する。例えばデチューニング量が大きくなると、消光比、およびチャープ特性が劣化し、小さくなると、EA変調器への光吸収量が過大となり、帯域含めた高速特性が劣化することが知られている。ただし、このデチューニング量の温度依存性による特性の変動は、EA変調器を駆動するバイアス条件を低温と高温で適切に設定することで、補償できることが、以下の参考文献でも示されている。(N. Sasada, et.al., " Un-cooled operation (10℃ to 85℃) of a 10.7-Gbit/s 1.55-μm electroabsorption modulator integrated DFB laser for 40-km transmission," 33rd European Conference on Optical Communication, We8.1.5 (2007)).
【0016】
次に、第2の原因である、高温におけるEA変調器活性層部の電界強度の低下について説明する。EA変調器集積レーザの光導波路は、FeドープInP を用いて約600℃程度で埋め込み成長を行う。この際に、クラッド層を形成するp型InPクラッド層107、および、コンタクト層を形成するp型InGaAsP層108とp型InGaAs層109のドーパントである亜鉛(Zn)が、埋め込み層110のドーパントであるFeとの相互拡散により、埋め込み界面を越えて埋め込み層110へ拡散する。Znが埋め込み層110に拡散している領域を110aとして、模式的に図1Bに示している。特にコンタクト層を形成するp型InGaAs層109は2e19 atm/cm3という高い濃度にドーピングしているため、ここからのZn拡散が大きい。したがって、Fe埋め込みによる高抵抗化が設計上望まれるにもかかわらず、埋め込み再成長界面、及び埋め込み層における光導波路の両側部分において、Zn拡散により抵抗が低下する。この抵抗の低下により、EA変調器集積レーザのレーザ部分においては、順方向電流注入時の埋め込み界面でのリーク電流の増加が特に高温で顕著に発生するが、レーザ発振は可能であり本質的な問題ではない。ところがEA変調器部分では、逆バイアス印加時に、埋め込み層110へ電界漏れにより、EA変調器部アンドープ歪量子井戸活性層104における電界強度の低下が生じる。この電界強度の低下は、EA変調器を駆動するバイアスが大きい場合、及び高温でフォトカレントの発生が大きい場合にデバイス特性に影響する。具体的には、1.55μm帯の波長を一般的なシングルモードファイバーに40km伝送する場合、約800ps/nmというファイバ分散に対する低分散(低チャープ)な特性が必要であり、且つ、10Gbit/sという高速での消光動作がデバイス特性として必要であるため、EA変調器部での電界強度の低下はチャープ、消光特性、および帯域特性の劣化を生じさせる。さらに、EA変調器活性層への電界強度低下により、EA変調器内部活性層のキャリアが量子井戸内などに溜まる、いわゆるパイルアップ現象が発生し、高速変調時にキャリア蓄積による応答遅延が生じることにより、変調器をOFFからON動作させた場合の光応答である光波形の立ち上がりが著しく劣化する。この波形劣化のため、光波形のアイ開口でデジタル伝送を行う光伝送特性が劣化してしまう。
【0017】
したがって、従来技術1に係るEA変調器集積レーザは、光モジュールにペルチェを内蔵して、温度一定にて使用することが必須である。このため、レーザモジュールの小型化やコストダウンが困難という問題がある。
【0018】
また、従来技術2に係る直接変調レーザは、上記従来技術1に係るEA変調器集積レーザに比べて、光ファイバへの分散耐力の指標であるチャープが大きいため、ファイバ分散が大きい1.55μm帯での40km光伝送は不可能である。実際、前記参考文献のものは、波長帯は1.3μm帯であり、ファイバ伝送距離は10kmであり、1.55μm帯の直接変調型レーザ同軸型半導体光モジュールの場合、波長帯によるファイバ分散に対して、素子のチャープ特性が大きいため、一般に伝送距離が2km以下に制限される。
【0019】
同様に、従来技術3に係るレーザモジュールは、波長帯がファイバ分散が小さい1.3μm帯であり、変調時の光出力が-4dBmから-1.5dBm と比較的小さいこともあって、ファイバ伝送距離は10km程度である。しかし、ファイバ分散が大きい1.55μm帯での40km光伝送を可能とするものではない。
【0020】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、温度調節手段を用いることなく、1.55μm帯などの比較的長い波長帯でも例えば40km程度の長距離伝送が可能である半導体レーザモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)本発明に係る半導体光モジュールは、半導体レーザ部と、該半導体レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調部と、が形成されるレーザ素子と、該レーザ素子を内部に収容する筒状の筐体と、を含む半導体光モジュールであって、前記電界吸収型変調部は、光導波路層を含むとともに上下に電極が配置されるメサ構造と、該光導波路の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記埋め込み層は、鉄が不純物として添加されたインジウム燐により構成され、リン酸トリブチルを燐の原料とした埋め込み成長法により形成されることを特徴とする。
【0022】
(2)本発明に係る半導体光モジュールは、半導体レーザ部と、該半導体レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調部と、が形成されるレーザ素子と、該レーザ素子を内部に収容する筒状の筐体と、を含む半導体光モジュールであって、前記電界吸収型変調部は、光導波路層を含むとともに上下に電極が配置されるメサ構造と、該光導波路の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記埋め込み層には不純物としてルテニウムが添加されることを特徴とする。
【0023】
(3)本発明に係る半導体光モジュールは、半導体レーザ部と、該半導体レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調部と、が形成されるレーザ素子と、該レーザ素子を内部に収容する筒状の筐体と、を含む半導体光モジュールであって、前記電界吸収型変調部は、光導波路層を含むとともに上下に電極が配置されるメサ構造と、該光導波路の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記メサ構造の最上層は、炭素が不純物として添加された半導体により構成され、上側の前記電極に接触することを特徴とする。
【0024】
(4)上記のいずれかの半導体光モジュールにおいて、前記半導体レーザ部の出力光の波長は、1.47μm以上、1.61μm以下であってもよい。
【0025】
(5)さらに、上記の半導体光モジュールにおいて、前記半導体レーザ部の出力光の波長は、1.55μm帯に属していてもよい。
【0026】
(6)上記のいずれかの半導体光モジュールにおいて、前記光導波路における前記変調部側の先端は、前記レーザー素子の前記変調部側の素子端面よりも内側に位置し、前記先端と前記素子端面との間は前記埋め込み層の一部が位置していてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、電界吸収型変調器部において、前記埋め込み層への電界漏れを抑制することができる。これにより、活性層における電界強度の低下を抑えることができ、温度調整手段を用いずにレーザ素子が高温となっても特性変動を抑えることができる。こうして、本発明によると、温度調節手段を用いることなく比較的長い波長帯でも長距離伝送を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】従来技術1で示したEA変調器集積レーザ素子の鳥瞰図である。
【図1B】従来技術1で示したEA変調器集積レーザ素子の断面図である。
【図2】従来技術1で示したEA変調器集積レーザモジュールブロック図である。
【図3】実施形態1で示したEA変調器集積レーザ素子の断面図である。
【図4A】実施形態1で示したEA変調器集積レーザ同軸型半導体光モジュール図である。
【図4B】実施形態1で示したEA変調器集積レーザ同軸型半導体光モジュールのEA変調器集積レーザ搭載部の拡大図である。
【図5A】実施形態2で示したEA変調器集積レーザ素子の製造段階で、光導波路エッチング工程後の状態の鳥瞰図である。
【図5B】実施形態2で示したEA変調器集積レーザ素子の鳥瞰図である。
【図5C】実施形態2で示したEA変調器集積レーザ素子の断面図である。
【図5D】実施形態2で示したEA変調器集積レーザ素子の、光導波路先端に位置する窓構造部分を拡大した断面図である。
【図6A】実施形態3で示したEA変調器集積レーザ素子の鳥瞰図である。
【図6B】実施形態3で示したEA変調器集積レーザ素子の断面図である。
【図7】実施形態4で示したEA変調器集積レーザ素子の断面図である。
【図8A】実施形態6で示した40Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザの鳥瞰図である。
【図8B】実施形態6で示した40Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施形態1]
本発明の実施形態1として、40km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。
【0030】
本レーザモジュールに搭載されている、10Gbit/sEA変調器集積レーザは、一定電流により駆動させるDFBレーザ部と、変調電圧により動作させるEA変調器部により構成されている。EA変調器とは、EA変調器部に電圧を印加することにより生じる量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect ; QCSE効果)を利用して、EA変調器部活性層吸収端をシフトさせることにより、DFBレーザの光をオン・オフする変調器である。(参考文献;M.Aoki, et.al. ,”High-speed(10Gbit/s) and low-drive-voltage(1V peak to peak) InGaAs/InGaAsP MQW electro-absorption modulator integrated DFB laser with semi-insulating buried heterostructure,” Electron. Lett., vol.28, pp. 1157-1158, 1992.)
【0031】
このEA変調器集積レーザの作製方法について、以下に説明する。n-InP半導体基板100上にレーザ部101の結晶成長として、有機金属気相法を用いた公知の成長法によりn型InPバッファ層、InGaAsP下側光ガイド層、活性層であるInGaAsP井戸層と障壁層からなるアンドープ歪多重量子井戸層、アンドープInGaAsP上側光ガイド層、p型InPキャップ層、および回折格子層を形成する。このとき、レーザ部量子井戸活性層のフォトルミネッセンス波長が1530nm付近になるように、InGaAsPの組成を調整する。次にプラズマCVDによるSiN膜を形成したのち、レーザ部101となる領域にSiN膜にパターニングを施し、このSiN膜をマスクとして、ドライエッチング、及びウェットエッチングにて、レーザ部101となる領域以外のレーザ多層を除去する。
【0032】
次に第二回目の結晶成長として、レーザ部101領域以外に有機金属気相法を用いて、EA変調器部102の多層構造である、InGaAsP下側光ガイド層103、InGaAsP井戸層と障壁層からなるアンドープ歪量子井戸活性層104、InGaAsP上側光ガイド層105、及びInPスペーサ層を順次形成する。このときEA変調器量子井戸活性層のフォトルミネッセンス波長を1450nm付近になるように、InGaAsPの組成を調整する。
【0033】
発振波長の温度特性が0.1nm/℃、フォトルミネッセンス波長の温度依存性が0.5nm/℃あるので、使用する最高温度における波長を考慮して、作製条件をそれぞれ設定する。本実施形態では、TLD=25℃において、所望のレーザ発振波長を1534nmとし、25℃でのデチューニング量が85nmになるようにEA変調器部102のフォトルミネッセンス波長を1449nmに設定した。
【0034】
さらに、同様の手順にて、EA変調器部102とレーザ部101との間に、パッシブな光導波路となるInGaAsP層を結晶成長する。この時も、EA変調器部102とパッシブ導波路、及びレーザ部101は公知のバットジョイント技術により光学的に接続されている。次に、レーザ部101となる領域の回折格子層に、フォトリソグラフを用いた干渉露光法により、半導体回折格子層に発振波長が1534nmとなるように回折格子を形成し、さらに、EA変調器多層とパッシブ導波路多層、及びレーザ部多層上にわたり、クラッド層となる6e17 atm/cm3程度のp型InPクラッド層107、コンタクト層である2e18 atm/cm3程度のp型InGaAsP層108と2e19 atm/cm3程度のp型InGaAs層109、及びp型InPキャップ層を再度結晶成長する。このときp型のドーパントはZnである。このp型InPキャップ層は途中工程で除去されるものであり、最終構造には残らない。その後、EA変調器部102からパッシブ導波路、及びレーザ部101に渡って、ストライプ状の光導波路をシリコン酸化膜をマスクとしたドライエッチングを施し、光導波路部分以外は多重量子井戸層を含む活性層を除去する、いわゆるハイメサ構造を形成する。
【0035】
その後、ドライエッチングで除去された光導波路の両側部分を、上記の従来技術1とは異なり、リン酸トリブチル(Tributyl phosphate)をV族元素原料としたFeドープInP を用いて、有機金属気相法を用いた公知の埋め込み成長法にて埋め込み層301を形成する。この時の成長温度はV族元素原料であるリン酸トリブチルの分解を考慮して、約450℃程度である。上記従来技術1で述べた通り、クラッド層を形成するp型InPクラッド層107、およびコンタクト層を形成するp型InGaAsP層108とp型InGaAs層109のZnが埋め込み界面を越えて埋め込み層301へ拡散する。拡散係数Dは一般的に、D=D0 exp (-Em/kT) で表される。ここで D0;拡散定数、Em;活性化エネルギー、T;温度、k;ボルツマン定数であり、温度の上昇とともに拡散係数が増大する。したがって、埋め込み温度が450℃の場合は、従来技術の600℃の場合と比較して、埋め込み層へのZn拡散を抑制することが可能となる。
【0036】
続いて、EA変調器とレーザ部分を電気的に分離するため、EA変調器とレーザとの間に幅50μm、深さ2〜3μmのアイソレーション溝106をウェットエッチングにて形成する。その後、レーザ部101及びEA変調器部102に、パッシベーション膜形成111a及び111b、p側電極112a及び112bを、EB(Electron Beam)蒸着法、及びイオンミリングにより、それぞれ形成する。そして、裏面研磨工程にて、n型InP基板を約100μm程度まで研磨し、n側電極113を形成、電極アロイ処理を施し、ウエハ工程が完了する。続いてウエハを分割して、素子前端面に無反射コート114、後端面に高反射率コートを施す。
【0037】
こうして作製されたEA変調器集積レーザの鳥瞰図は、図1Aと同様であるが、該図に示すEA変調器部メサ垂直方向A-A断面を表している図3が示すように、埋め込み層301が、上記の従来技術1とは異なっている。
【0038】
こうして作製したEA変調器集積レーザ400を、50Ω終端抵抗が付いた窒化アルミ二ウム(AlN)製でチップキャリア401にAuSnはんだで搭載する。さらに、CANパッケージである同軸型半導体光モジュールに搭載した図を図4A及び図4Bに示す。図4Aは同軸型半導体光モジュールを横から見た図であり、図4BはEA変調器集積レーザ搭載部分の拡大図である。
【0039】
同軸型半導体光モジュールは、図4Aに示すように、アイソレータ(図示せず)を内蔵したレセプタクル402、EA変調器レーザを搭載するCANステム403で構成されている。レセプタクル402の先端部は概略有底円筒状に形成されており、一方、CANステム403はレセプタクル402の先端部の開口を閉塞するよう円盤状に形成されている。CANステム403には高周波信号端子404、共通導体端子406及びレーザ駆動端子405がこの順で軸方向から見て一列に並ぶよう立設されている。CANステム403の表面にはフレキシブル基板407が添設されており、各端子は、フレキシブル基板407に形成された小孔に通され、その周囲の電極部分にはんだにより電気的に接続されている。なお、フレキシブル基板407には、高周波信号端子404、レーザ駆動端子405及び共通導体端子406を含めて、合計6端子が接続される。
【0040】
図4Bに、EA変調器集積レーザ搭載部分の拡大図を示す。前述のチップキャリア401に搭載されたEA変調器集積レーザ400は、CANステム402の裏面側にはんだ付けされ、EA変調器の電極パットと高周波信号端子404を、半導体レーザ部の電極パットとレーザ駆動端子405を、それぞれワイヤボンディングにて電気的に接続する。このとき、高周波信号端子404を伝播する高周波が、アンテナ効果によりDC端子であるレーザ駆動端子405に伝播しないよう、図4Aに示すように両端子は距離を置いて配置されている。共通導体端子406は、CANステム402にロウ付けされており、EA変調器部102とレーザ部101とを共通のn側電極113と接続することで、当該EA変調器集積レーザを接地している。このとき、上記の従来技術1とは異なり、温度調整手段であるペルチェが搭載されていない。次に、モニタ用フォトダイオードをチップキャリア401上に配置し、電気的に制御回路側と接続等を行う。続いて、EA変調器集積レーザ400を覆うように、非球面レンズキャップ408をCANステム402の裏面側に溶接にて接続する。さらに、レセプタクル402に内蔵されるアイソレータ内に非球面レンズキャップ408やチップキャリア401を収容し、アイソレータの開口縁部とCANステム402の裏面周縁とをYAGレーザにより溶接する。このとき、レーザ光を光らせながら光軸調芯を行うアクティブアライメント技術にて、結合損が3〜4dB程度になるように両者の相対位置を調整する。
【0041】
当該同軸型半導体光モジュールの特性は、-5℃において、しきい値が10mA、発振波長が1531nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−2.5V、振幅電圧2Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+3dBm、消光比が10.0dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.5dBであった。さらに、素子温度85℃においては、しきい値が35mA、発振波長が1540nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−1.5V、振幅電圧2Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+1dBm、消光比が12dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.6dBであった。CANに実装する際に、結合効率の良い非球面レンズを用い、アクティブアライメントを行ったため、変調時ファイバー光出力は+1dBmから+3dBm と、40km伝送を十分に満たす光出力が得られた。
【0042】
本実施形態では、従来技術と比較して、FeドープInP埋め込み層301の成長温度を450℃程度に低減したことにより、埋め込み層へのpドーパントであるZn拡散を抑制することができ、埋め込み層への電界の漏れが低減される。これにともなってEA変調器部分での電界強度の低下が抑制されて十分な電界強度となっているため、EA変調器集積レーザの温度が-5℃におけるEA変調器のバイアス電圧Vea=−2.5Vというバイアスが大きい条件下においても、所望の特性が得られる。さらに、EA変調器集積レーザの温度が85℃という、光の吸収量が増加してフォトカレントが大きい動作温度においても、シングルモードファイバーでの40km伝送が可能であり、且つ、所望の消光特性を得ることが可能である。
【0043】
[実施形態2]
本発明の実施形態2として、40km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。
【0044】
上記の実施形態1と同様の工程により、p型InPクラッド層107まで形成を行う。この際に、EA変調器集積レーザの最高動作温度を考慮して、25℃でのレーザ発振波長を1534nmとし、25℃でのデチューニング量が85nmになるように25℃でのEA変調器部のフォトルミネッセンス波長を1449nmに、作製条件をそれぞれ設定した。
【0045】
その後、図5Aに示すように、シリコン酸化膜マスク500によるドライエッチング技術を用いて、ストライプ状の光導波路を形成する。この時、光射側の光導波路先端部506が、レーザー素子の素子端面507よりも内側に位置するように形成し、窓構造部505となる。さらにこの光導波路上にシリコン酸化膜マスク500をつけたまま、光導波路の両側部分を、ルテニウム(Ru)をドーパントとしたInP を用いて、埋め込み層501を形成する。この時の成長温度はRuドープInPの抵抗率、及び、埋め込み形状が最適となるように550℃から600℃の間で設定した。埋め込み形状に関しては、光導波路ストライプ両脇から光導波路上へ不均一に成長する異常成長や、光導波路先端での異常成長が発生しないように埋め込み条件とともに、シリコン酸化膜マスク500のサイドエッチング量を最適化した。
【0046】
Ruというドーパント材料は、実施形態1で述べたドーパントであるFeと比較して、Znとの相互拡散が少ない、という性質を備えている。(A.Dadgar, et.al., J. Crystal Growth 195 (1998) 69-73、及び特開2003-114407)。したがって、クラッド層を形成するp型InPクラッド層107、および、コンタクト層を形成するp型InGaAsP層108とp-InGaAs層109のZnが埋め込み界面を越えて埋め込み層501へ拡散を抑制することが可能となり、埋め込み再成長界面、及び埋め込み層の光導波路の両側において、高抵抗な物性を保つことが可能である。
【0047】
続いて、EA変調器部503とレーザ部504を電気的に分離するため、EA変調器とレーザとの間に幅50μm、深さ2〜3μmのアイソレーション溝502を形成するが、この際にRu埋め込みの突起形状に合わせて、エッチング時のレジスト厚、およびエッチング条件を最適化した。
【0048】
これ以降は、上記の実施形態1と同様の工程により、EA変調器集積レーザが形成される。こうして作製されたEA変調器集積レーザの鳥瞰図を図5Bに、該図に示すEA変調器部メサ垂直方向A―A断面を図5Cに示す。また、図5Bの光導波路方向と平行なB―B断面で、光導波路先端の窓構造部分近傍を拡大した図を、図5Dに示す。
【0049】
図5Dに示すように、EA変調器集積レーザ出射側において、光導波路先端部506が、レーザー素子の素子端面507より内側に位置し、埋め込み層501の一部により窓構造部505が形成されている。これは、出射端面からの戻り光が、光導波路に再度結合して、レーザまで戻り光が入ることを避けるためである。レーザに変調した光が戻り光として入射すると、レーザ発振波長が揺らぎ、光ファイバ伝送の特性にチャープとして悪影響することが知られているため、本素子はこうした構造としている。
【0050】
こうして作製したEA変調器集積レーザを、実施形態1と同様に、同軸型半導体光モジュールに搭載し特性を評価したところ、-5℃において、しきい値が10mA、発振波長が1531nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−2.5V、振幅電圧2Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+4.0dBm、消光比が10.1dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.5dBであった。さらに、素子温度85℃においては、しきい値が35mA、発振波長が1540nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−1.4V、振幅電圧2Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+1dBm、消光比が12.5dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.2dBであった。
【0051】
本実施形態では、光導波路の埋め込みにRuドープInPを使用することにより、FeドープInPの場合よりも高抵抗な埋め込み層が形成でき、順方向の漏れ電流の減少、及びEA変調器部分での電界強度の低下抑制が顕著に特性に表れた。例えば、高温において、レーザのしきい値電流の低下、消光比向上、及び変調時光出力向上である。消光比の向上は、埋め込み層への電界の漏れが抑制されたため、EA変調器活性層への電界強度が高まり、QCSE効果が強くなったことに起因している。また、変調時光出力の向上は、EA変調器活性層への電界強度向上により、EA変調器内部活性層のキャリアが量子井戸内などに溜まる、いわゆるパイルアップ現象が、EA変調器活性層への電界強度向上により逆バイアス引加時にキャリアが排出されやすくなった効果により抑制されたため、高速変調時でも変調時損失が小さいためである。
【0052】
尚、本実施形態では、窓構造部505を有しているが、レーザの戻り光耐性が許容されれば、この構造を施さなくても、同様の効果が得られることは、言うまでもない。
【0053】
[実施形態3]
本発明の実施形態3として、InGaAlAsを多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)層に用いた40km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。
【0054】
n-InP半導体基板100上にEA変調器部分の結晶成長として、有機金属気相法を用いた公知の成長法によりn型InPバッファ層601、n型InGaAsP下側光ガイド層602、InGaAlAs井戸層と障壁層からなるアンドープ量子井戸活性層603、アンドープInGaAsP上側光ガイド層604、6e17 atm/cm3にpドープした組成波長1.15μmのp型InGaAlAs拡散防止層605、及び6e17 atm/cm3にドーピングしたp型InPキャップ層を形成する。次にプラズマCVDによるSiN膜を形成したのち、EA変調器部となる領域にSiN膜にパターニングを施し、このSiN膜をマスクとして、ウェットエッチング等にて、EA変調器部となる領域以外のEA変調器多層構造を除去する。このエッチング方法は、ドライエッチングであっても、本発明の効果を損なうものではない。
【0055】
次に第二回目の結晶成長として、EA変調器領域以外に有機金属気相法を用いて、レーザの多層成長である、InGaAsP下側光ガイド層、InGaAsP井戸層と障壁層からなる量子井戸活性層、InGaAsP上側光ガイド層、InPスペーサ層、及び回折格子層を順次形成する。このとき、EA変調器とレーザ部は公知のバットジョイント技術により光学的に接続されている。さらに、EA変調器領域以外のEA変調器多層を除去した手順と同様のプロセスにて、EA変調器領域とレーザ領域との間に、パッシブな光導波路部となるInGaAsP層を結晶成長する。この時も、EA変調器部606とパッシブ導波路部、及びレーザ部608は公知のバットジョイント技術により光学的に接続されている。 次に、レーザ部608となる領域の回折格子層に、フォトリソグラフを用いた干渉露光法により、半導体回折格子層に回折格子を形成し、さらに、EA変調器部606とパッシブ導波路、及びレーザ部608上に、クラッド層となる8e17 atm/cm3程度のp型InPクラッド層609、コンタクト層となる2e18 atm/cm3程度のp型InGaAsP層610と2e19 atm/cm3程度のp型InGaAs層611、及びp型InPキャップ層を結晶成長する。このときp型のドーパントはZnである。このp型InPキャップ層は途中工程で除去されるものであり、最終構造には残らない。この際に、EA変調器集積レーザの最高動作温度を考慮して、25℃でのレーザ発振波長を1534nmとし、25℃でのデチューニング量が85nmになるように25℃でのEA変調器部のフォトルミネッセンス波長を1449nmに作製条件を設定した。
【0056】
その後、EA変調器部606からパッシブ導波路、及びレーザ部608に渡って、ストライプ状の光導波路をシリコン酸化膜をマスクとしたBr系のエッチャントによるウェットエッチングを施し、光導波路部分以外は多重量子井戸層を含む活性層を除去する、いわゆるハイメサ構造を形成する。本実施形態ではウェットエッチングで説明をしているが、EA変調器部606の活性層にAlを含むInGaAlAs層での適正なドライエッチング条件とすれば、ドライエッチングでも可能である。続いて、光導波路の両側部分を、RuをドーパントとしたInPを用いて、埋め込み層612を形成する。この時、光導波路側壁のアルミニウム(Al)を含むInGaAlAs層が、大気中にさらされて自然酸化膜を形成するため、埋め込み層612を成長する際に、同時に塩化メチル(CH3Cl)ガスを流し、表面の半導体層ごと自然酸化膜をエッチングしつつ、RuドープInP層の埋め込みを行った。埋め込み工程以降は、実施形態1で示した工程であり、こうして作製されたEA変調器集積レーザの鳥瞰図を図6Aに、該図に示すEA変調器部メサ垂直方向A―A断面を図6Bに示す。
【0057】
こうして作製したEA変調器集積レーザを、実施形態1と同様に、同軸型半導体光モジュールに搭載し、特性を評価したところ、-5℃において、しきい値が8mA、発振波長が1531nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−2.5V、振幅電圧2Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+4.3dBm、消光比が10.2dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.0dBであった。さらに、素子温度85℃においては、しきい値が35mA、発振波長が1540nmであり、EA変調器のバイアス電圧Vea=−1.4V、振幅電圧1.5Vppにおける10Gbit/s変調動作時特性は、ファイバ光出力が+3.5dBm、消光比が12.9dB、40kmファイバ伝送時のパワーペナルティは、1.1dBであった。これは、実施形態2と同様の効果により、高抵抗な埋め込み層が形成でき、EA変調器部分での電界強度が十分に保たれることに起因している。さらに本実施形態では、EA変調器の量子井戸層にInGaAlAs材料を使用している。このため量子井戸層がInGaAsP材料の場合と比較して、電子の閉じ込めが強いため、高温や高バイアス下においても、十分な消光特性が得られる、というのが特徴である。
【0058】
なお、レーザ部分に関しては、InGaAsP材料での例を説明したが、Alを含む材料でも同様な効果が得られる。
【0059】
[実施形態4]
本発明の実施形態4として、40km光伝送用の伝送速度10Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。
【0060】
上記の実施形態1と同様に、EA変調器部多層とパッシブ導波路部多層、及びレーザ部多層を、有機金属気相法を用いた結晶成長とエッチングを組み合わせた公知のバットジョイント技術により順次形成する。次に、実施形態3と同様に干渉露光法により回折格子を形成する。続いて、EA変調器とパッシブ導波路、及びレーザ部上に、クラッド層となる8e17 atm/cm3程度のp型InPクラッド層107、コンタクト層である2e18 atm/cm3程度のp型InGaAsP層108及び2e19 atm/cm3程度のp型InGaAs層701、及びp型InPキャップ層を再度結晶成長する。このとき、p型InPクラッド層107とInGaAsP層108のドーパントは、実施形態3と同様にZnを用いるが、InGaAs層については炭素(C)をp型のドーパントとして添加する。ドーパントがCの場合、Znを添加した場合と比較して熱による拡散係数が小さいことが知られている。(R.A. Hamm, et.al., Carbon doping of GaInAs using carbontetrabromide by metalorganic molecular beam epitaxy for InP-based heterostructure bipolar transistor devices, Appl. Phys. Lett. Vol. 67, No. 15, 9 October 1995 )したがって、従来技術で問題であった高濃度層であるコンタクト層p-InGaAs層からZnドーパントが、埋め込み層のドーパントであるFeと相互拡散する現象が、ドーパントをCにすることにより低減され、埋め込み再成長界面、及び埋め込み層の光導波路の両側において、高抵抗な物性を保つことが実現できる。埋め込み工程以降は、実施形態1で示した工程であり、こうして作製されたEA変調器集積レーザのEA変調器部メサ垂直方向断面を図7に示す。
【0061】
こうして作製したEA変調器集積レーザを、実施形態1と同様に同軸型半導体光モジュールへ搭載し、10Gbit/s変調での40kmファイバー伝送特性を評価すると、-5℃〜85℃の温度範囲において、低チャープで消光比と光出力を満たすことができる。これは、InGaAsコンタクト層701のドーパントをCにしたことにより、埋め込み層301への電界の漏れが抑制されたため、EA変調器活性層への電界強度が高まり、QCSE効果が強くなったり、パイルアップ現象が抑制された効果である。本実施形態では、埋め込み層301に従来と同じFeドープInPを用いたが、実施形態2で示したような、RuドープInPを用いて埋め込みをした場合も効果が得られる。
【0062】
[実施形態5]
本発明の実施形態5として、40km光伝送CWDM(Coarse Wavelength Division Multiplexing)用伝送速度10Gbit/sEA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。CWDMとは、波長1470nmから20nm間隔で1610nmまでの8波長にて、波長多重伝送を行う光通信方式である。ところで、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)は、1530nmから1560nmの範囲で、約0.4nm間隔で波長多重伝送を行う通信方式である。一般に、こうした光伝送に用いるDFBレーザは、InP半導体材料の屈折率温度依存性から、0.1nm/℃ 程度の発振波長の温度特性を持つため、DWDMの場合、光送受信器の環境温度である-5℃から70℃においても、光源を一定温度に制御することが必須となる。つまり光送受信器の環境温度が-5℃から70℃となった場合、熱抵抗を考慮してこれに対する素子温度を-5℃から85℃とした場合において、波長変化は、0.1nm/℃ x 90℃=9nm となるためである。これに対し、CWDMでは、波長間隔が20nmと広いため、環境温度による波長変化の9nmは十分小さいため、波長の温度変動という点では、CWDMは光源の温度制御が不要となり、安価なシステム構成が可能となることが特徴である。
【0063】
素子作製においては、実施形態3と同様の手順で行う。この時、発振波長が1470nmから1610nmまで20nm間隔の8波長において、それぞれデバイスパラメータを設定する必要が生じる。例えば1470nmのグリッドのレーザを作成する場合、-5℃から85℃の中心である40℃にてレーザ発振波長を1470nmを狙う設計となる。この場合、85℃の発振波長は、1470nm+ 0.1 nm/℃ x (85℃-40℃)=1474.5 nm となる。したがって、無温調のEA変調器集積レーザの設計としては、85℃において、レーザ部フォトルミネッセンス波長を1484.5nmとし、且つ、デチューニング量が60nmになるようにEA変調器部フォトルミネッセンス波長を1414.5nmに設定した。実際には、25℃でフォトルミネッセンス波長の測定を行うためEA変調器部、及びレーザ部フォトルミネッセンス波長の温度依存性0.5nm/℃を考慮し25℃での値に計算して、作製条件をそれぞれ設定した。したがって、最初のEA変調器部の結晶成長時は、フォトルミネッセンス波長が1384.5nm、レーザ部の結晶成長時はフォトルミネッセンス波長が1424.5nmとなるように、結晶成長を行った。さらに、レーザ発振波長を決定させる回折格子形成においては、85℃での波長が1474.5nmとなるように、回折ピッチを形成した。
【0064】
回折格子形成以降の工程は、実施形態3において示した通りであり、エッチングにより、光導波路を形成後に、光導波路の両側部分を、RuをドーパントとしたInP を用いて、埋め込み層を形成する。以降、実施形態3と同様に素子を作製し、同軸型半導体光モジュールに搭載する。
【0065】
こうして作製された同軸型半導体光モジュールは、10Gbit/s変調での40kmファイバー伝送特性を評価すると、-5℃〜85℃の温度範囲において、低チャープで消光比と光出力を満たすことができる。これは搭載されたEA変調器集積レーザにおいて、Ruにより埋め込みを行っているため、埋め込み再成長界面、及び埋め込み層の光導波路の両側において、高抵抗な物性を保つことができEA変調器活性層への電界強度が高まった効果である。
【0066】
本実施形態では、CWDMの波長が1470nmの場合を述べているが、CWDMの波長帯全域の1470nmから1610nmにおいても、波長の違いによる設計パラメータの調整を行うことで、同様の効果が期待でき、安価なCWDM伝送システム用の光源として用いることができる。
【0067】
[実施形態6]
本発明の実施形態6として、伝送速度40Gbit/s波長1.55μm帯EA変調器集積レーザモジュールの例を用いて説明する。
【0068】
実施形態3と同様に、n-InP半導体基板100上にEA変調器部分の結晶成長として、有機金属気相法を用いた公知の成長法によりn型InPバッファ層801、n型InGaAsP下側光ガイド層802、InGaAlAs井戸層と障壁層からなるアンドープ量子井戸活性層803、アンドープInGaAsP上側光ガイド層804、6e17 atm/cm3にp型ドープした組成波長1.15μmのp型InGaAlAs拡散防止層805、及び6e17 atm/cm3にドーピングしたp型InPキャップ層を形成する。この時に、40Gbit/sの高速動作用として、10Gbit/sの変調器より寄生容量を小さくする必要があるため、量子井戸活性層を含めたアンドープ層厚を、10Gbit/s版より30%程度厚くした。さらに、変調器の長さを伝送速度10Gbit/s版より短い100μmとして、変調器全体での寄生容量が約0.3pFになるように設計した。また、25℃でのレーザ発振波長を1534nmで設計し、25℃でのデチューニング量が85nmになるように25℃でのEA変調器部のフォトルミネッセンス波長を1449nmに作製条件を設定した。
【0069】
次に、実施形態3と同様に、レーザの多層成長、及び、パッシブな光導波路部となるInGaAsP層を結晶成長し、レーザ部に回折格子を形成する。さらに、EA変調器部811とパッシブ導波路、及びレーザ部813上に、クラッド層となる8e17 atm/cm3程度のp型InP層806、コンタクト層である2e18 atm/cm3程度のp型InGaAsP層807及び2e19atm/cm3程度のp型InGaAs層808、及びp型InPキャップ層を結晶成長する。このときp型のドーパントはZnである。その後、ストライプ状の光導波路をウェットエッチングにより形成し、光導波路の両側部分を、RuをドーパントとしたInPを用いて、埋め込み層809を形成する。続いてアイソレーション溝を形成した後、変調器部の電極ボンディングパットの下に、厚さ3μm厚のポリイミド膜をスピナーによる塗布とドライエッチングプロセスにて加工し、ポリイミド膜低容量化層810を形成し、変調器部分の低容量化を図った。これ以降、実施形態1で示した工程により、EA変調器集積レーザが形成される。
【0070】
こうして作製されたEA変調器集積レーザ鳥瞰図を図8Aに示す。当該EA変調器集積レーザは、EA変調器部811、アイソレーション溝812、レーザ部813から成る。該図に示すEA変調器部メサ垂直方向A―A断面を図6Bに示す。
【0071】
当該EA変調器集積レーザを、実施形態1と同様に、同軸型半導体光モジュールに搭載する。なお、40Gbit/sという高速の信号を高周波信号端子404に通すため、10Gbit版とは異なりインダクタンスが小さくなるように、端子の直径等を最適化した。
【0072】
本実施形態の同軸型半導体光モジュールにおいても、前述のような構造により、埋め込み再成長界面、及び埋め込み層の光導波路の両側において、高抵抗な物性を保つことが可能となる。そのため、EA変調器部分での電界強度が十分に保つことができ、同軸型半導体光モジュールとして温度調整機能をなくし、-5℃から85℃の温度においても、素子のQCSE効果が十分であることから、所望の特性を満たすことが可能となる。
【0073】
[実施形態7]
本発明の実施形態7として、実施形態1から実施形態6で示した、本発明を適用した同軸型半導体光モジュールを、光送受信モジュールに組み込むことにより、小型、低消費電力で特性の安定した光送受信モジュールが実現できる。
【符号の説明】
【0074】
100 n-InP半導体基板、101 レーザ部、102 EA変調器部、103 InGaAsP下側光ガイド層、104 InGaAsP井戸層と障壁層からなるアンドープ歪量子井戸活性層、105 InGaAsP上側光ガイド層、106 アイソレーション溝、107 p型InPクラッド層、108 p型InGaAsP層、109 p型InGaAs層、110 FeドープInP埋め込み層、111a レーザ部パッシベーション膜、111b EA変調器部パッシベーション膜、112a レーザ部p側電極、112b EA変調器部p側電極、113 n側電極、114 無反射コート、201 従来技術で作製したEA変調器集積レーザ、202 チップキャリア、203 ペルチェ、204 サーミスタ、205 モニタフォトダイオード、206 光アイソレータ、207 ファイバー、208 レンズ、301 FeドープInP埋め込み層、400 EA変調器集積レーザ、401 チップキャリア、402 レセプタクル部分、403 CANステム、404 高周波信号端子、405 レーザ駆動端子、406 共通導体端子、407 フレキシブル基板、408 非球面レンズキャップ、500 シリコン酸化膜マスク、501 RuドープInP埋め込み層、502 アイソレーション溝、503 EA変調器部、504 レーザ部、505 窓構造部、506 光導波路先端部、507 レーザー素子の素子端面、601 n型InPバッファ層、602 n型InGaAsP下側光ガイド層、603 InGaAlAs井戸層と障壁層からなるアンドープ量子井戸活性層、604 アンドープInGaAsP上側光ガイド層、605 p型InGaAlAs拡散防止層、606 EA変調器部、607 アイソレーション溝、608 レーザ部、609 p型InPクラッド層、610 p型InGaAsP層、611 p型InGaAs層、612 RuドープInP埋め込み層、701 ドーパントがCであるp型InGaAs層、801 n型InPバッファ層、802 n型InGaAsP下側光ガイド層、803 InGaAlAs井戸層と障壁層からなるアンドープ量子井戸活性層、804 アンドープInGaAsP上側光ガイド層、805 p型InGaAlAs拡散防止層、806 p型InPクラッド層、807 p型InGaAsP層、808 p型InGaAs層、809 RuドープInP埋め込み層、810 ポリイミド膜低容量化層、811 EA変調器部、812 アイソレーション溝、813 レーザ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ部及び該半導体レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調部を有するレーザ素子と、該レーザ素子を内部に収容する筒状の筐体と、を含む半導体光モジュールであって、
前記電界吸収型変調部は、半導体基板上に形成された光導波路層を含むとともに上下に電極が配置されるメサ構造と、該光導波路の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、
前記電界吸収型変調部側の先端は、前記レーザ素子の前記電界吸収型変調部側の素子端面よりも内側に位置し、
前記レーザ素子は、前記先端と前記素子端面との間に、前記半絶縁半導体で埋め込まれた窓構造部を、さらに含み、
前記窓構造部の前記半導体基板からの高さは、前記メサ構造の高さより高く、
前記半絶縁半導体は不純物としてルテニウムが添加され、成長温度が550℃以上600℃以下で前記埋め込み層及び前記窓構造部がともに形成される、
ことを特徴とする半導体光モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体光モジュールにおいて、
前記半導体レーザ部の出力光の波長は、1.47μm以上、1.61μm以下である、
ことを特徴とする半導体光モジュール。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体光モジュールにおいて、
前記半導体レーザ部の出力光の波長は、1.55μm帯に属する、
ことを特徴とする半導体光モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体光モジュールにおいて、
前記光導波路における前記変調部側の先端は、前記レーザ素子の前記変調部側の素子端面よりも内側に位置し、前記先端と前記素子端面との間は前記埋め込み層の一部が位置する、
ことを特徴とする半導体光モジュール。
【請求項5】
請求項1乃到4のいずれかに記載の半導体光モジュールにおいて、
前記半導体光モジュールは前記レーザ素子の温度調整を行うための温度調整手段を含まない、
ことを特徴とする半導体光モジュール。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2013−57984(P2013−57984A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−288887(P2012−288887)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−241835(P2008−241835)の分割
【原出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(301005371)日本オクラロ株式会社 (311)
【Fターム(参考)】