説明

同軸型真空アーク蒸着源を用いた排ガス触媒の製造方法

【課題】排ガス触媒用ナノ粒子担持方法及び排ガス触媒製造方法の提供。
【解決手段】同軸型真空アーク蒸着源1を用い、真空雰囲気中で、トリガ電極13とカソード12との間にパルス電圧を印加してトリガ放電を発生させ、カソード12とアノード11との間にコンデンサと直流電源とを接続し、360μF以上1080μF以下のコンデンサ容量にて、60〜100Vの直流放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、生成される触媒金属の荷電粒子を、担体としてのアルミナ粉、ジルコニウム、又はランタノイドからなる金属の酸化物が混入されているアルミナ粉の表面に供給、蒸着せしめ、触媒金属ナノ粒子の担持された担体からなる触媒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸型真空アーク蒸着源を用いた排ガス触媒の製造方法に関し、特に自動車やオートバイ、ボイラ等の内燃機関からの排ガスを処理することができる触媒を提供する排ガス触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染の観点から、自動車等の排ガスは大きな社会問題化しており、この排ガスの処理に関する多くの技術が提案されている。自動車の排ガスには、CH系ガス、CO系ガス、NO系ガスの3種類のガスがあり、各種の排ガス触媒を用いてこれらのガスを分解処理し、無毒化することが行われている。
【0003】
従来の排ガス触媒は、主として湿式法により製作される。例えば、図1に示すように、まず地金の白金を粉砕して粉末にし、この粉末を溶媒(例えば、塩酸)に溶解せしめて白金の水溶性塩(例えば、塩化白金酸)とする。この塩化白金酸にアルミナ(Al)粉を添加して攪拌し、白金担持アルミナ粉の懸濁されているスラリーを調製し、得られたスラリーをハニカム形状基体(担体本体)に塗布し、焼成し、基体に白金が担持された排ガス触媒を製造している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、乾式成膜法であるレーザーアブレーション法を用いて、有毒ガスに対する分解触媒及び/又は吸着剤として機能するガス浄化材料を製造することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−141092号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2005−125259号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した湿式法により、アルミナ粉に白金を担持せしめる工程では、白金地金を粉砕して粉末にする際に白金の損失が発生し、また、白金粉末を溶媒に溶解せしめて水溶性塩である塩化白金酸にする際にも白金の損失が発生する。さらに、この塩化白金酸にアルミナ粉を添加してアルミナ粉に白金を担持させ、白金担持アルミナ粉の懸濁されているスラリーを調製する際にも白金の損失が発生する。このように白金の損失が大きい上、得られた触媒の機能が必ずしも満足できるものではないという問題がある。また、湿式法で担持せしめた触媒は、高温領域での分解反応の機能が低下するという問題もある。
【0007】
また、乾式法であるレーザーアブレーション法により得られた浄化材料は、高温領域(400℃以上)での分解反応の機能が必ずしも満足するものではないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、同軸型真空アーク蒸着源を用いた排ガス触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の排ガス触媒の製造方法は、円筒状のトリガ電極と、触媒金属材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、前記トリガ電極とカソードとの間にパルス電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続し、360μF以上1080μF以下のコンデンサ容量にて、60〜100Vの直流放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、この荷電粒子を、前記真空チャンバ内に載置した容器内に入れられた担体としてのアルミナ粉、ジルコニウム、又はランタノイドからなる金属の酸化物が混入されているアルミナ粉の表面に供給して蒸着せしめ、触媒金属ナノ粒子の担持された担体からなる触媒を形成することを特徴とする。
【0010】
コンデンサ容量が360μF未満であるとナノ粒子が形成されにくく、1080μFを超えるとナノ粒子の粒径が不均一になってしまう。放電電圧が60V未満であると放電がたちにくくなり、100Vを超えると、ナノ粒子の粒径が不均一になってしまう。
【0011】
同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、高温領域で高活性な金属ナノ粒子担持触媒を製造することが可能となる。
【0012】
上記排ガス触媒の製造方法において、触媒金属材料が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、銀(Ag)、及びロジウム(Rh)から選ばれた少なくとも1種の金属、又はこれら金属の2種類以上からなる合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、担体に触媒金属ナノ粒子が担持されてなる、高温領域で高活性な排ガス触媒を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る排ガス触媒の製造方法の実施の形態によれば、円筒状のトリガ電極と、パラジウムからなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、1〜10−5Paの真空雰囲気中で、担体を熱源で加熱することなく、前記トリガ電極とカソードとの間にパルス電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続し、360μF以上1080μF以下のコンデンサ容量にて、60〜100Vの直流放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記パラジウムから生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、この荷電粒子を、前記真空チャンバ内に載置した容器内に入れられた、担体としてのアルミナ粉又はLa等のアルミナ以外の金属酸化物を微量混入してなるアルミナ粉の表面に供給して蒸着せしめ、パラジウムナノ粒子の担持された担体からなる排ガス触媒を形成することができる。
【0015】
かくして得られた排ガス触媒は、高温領域で高活性な金属ナノ粒子担持触媒であり、CH系ガス、CO系ガス、NO系ガスの排ガスを分解処理し、無毒化することができる。
【0016】
上記蒸発材料部材を構成する触媒金属材料としては、Pd以外に、例えば、Pt、Co、Ag、及びRh等から選ばれた少なくとも1種の金属、及びこれら金属の2種類以上からなる合金等を挙げることができる。
【0017】
上記担体としては、アルミナ粉以外に、ジルコニア、マグネシア、チタニア、セリア、及びシリカ等を挙げることができ、また、アルミナ粉等に混入する金属酸化物としては、ZrOやLa以外に、例えば、CeO、及びYb等を挙げることができる。アルミナ粉等に混入する金属酸化物の量は、例えば、アルミナ:97wt%に対して金属酸化物:3wt%であれば、触媒活性の優れた所望の金属ナノ粒子を製造することができる。
【0018】
本発明で使用できる同軸型真空アーク蒸着源としては、特に制限される訳ではない。例えば(株)アルバック製:ARL−300等を使用することができる。
【0019】
本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置の一構成例について、図2を参照して、以下説明する。
【0020】
カソード12は、円柱状であり、全体が上記したような触媒金属材料で構成されていてもよいし、一端がこれらの触媒金属材料で構成され、他端が棒状電極で構成されていてもよい。カソード12は、触媒金属材料が真空チャンバ2内部へ放出され、被処理基体である担体表面に供給され得るように、担体に対向して設置されることが好ましい。このカソード12は、円筒状のトリガ電極13と円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子と称す)14とに密接して挿通されている。
【0021】
かくして、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源は、円筒状のトリガ電極13と円柱状のカソード12とが円筒状のハット型碍子14を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、円柱状のカソード12の周りに同軸状に円筒状のアノード11が離間して配置されるように構成されている。
【0022】
ハット型碍子14は、カソード12とトリガ電極13との間に配置されており、中心からカソード12、ハット型碍子14、トリガ電極13の順序で並んでいる。カソード12とハット型碍子14とトリガ電極13との3つの部品は、密着させ、図示していないが、ネジ等で密着、固定させて取り付けられている。アノード11及びトリガ電極13の材質は、例えばステンレスであり、また、ハット型碍子の材質は、例えばアルミナである。
【0023】
アノード11とトリガ電極13とカソード12とは、相互に絶縁されており、カソード12とアノード11との間には、直流電源15aとコンデンサユニット15bとを有するアーク電源が接続され、トリガ電極13にはトリガ電源16が接続され、各電極11、12には異なる電圧が印加できるように構成されている。このコンデンサユニット15bは、複数のコンデンサを複数並列に接続してなるユニットである。図2には1つのコンデンサを示してあるが、コンデンサの数は、適宜、用途に応じて増減可能である。例えば、1つの容量が360μF(耐圧:400V)のコンデンサを5つ並列に接続すれば容量1800μFとなり、3つ並列に接続すれば容量1080μFとして使用することもできる。また、2200μF(耐圧100V)のコンデンサを4つ並列に接続し、容量8800μFとして使用することもできる。
【0024】
コンデンサユニット15bの各端部は、それぞれがアノード11、カソード12に接続され、コンデンサユニット15bと直流電源15aとは、並列接続されている。直流電源15aは、例えば、100Vで数Aの電流を流す能力を有する電源であり、コンデンサユニット15bに対して、一定の充電時間で充電されるように構成されている。
【0025】
トリガ電源16は、パルストランスからなり、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して3.4kV(数μA)、極性:プラスにして出力できるように構成されており、変圧された電圧を、カソード12に対して正の極性となるトリガ電極13に印加できるように接続されている。すなわち、トリガ電源16のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、そのマイナス端子は、アーク電源(直流電源15a)のマイナス出力側端子と同じ電位に接続されて、カソード12に接続されている。直流電源15aのプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード11に接続されている。また、コンデンサユニットの両端子は、直流電源15aのプラス及びマイナス端子間に接続されている。
【0026】
上記したように構成されている同軸型真空アーク蒸着源1は、所定の真空排気系(例えば、ターボ分子ポンプとロータリーポンプとで構成されている。)を有する真空チャンバ2の壁面に取り付けられ、本発明の排ガス触媒を形成するために用いられる。この同軸型真空アーク蒸着源1は、1つでも複数でも、適宜、設置することが可能である。また、アノード11と真空チャンバ2とは接地電位に接続されている。
【0027】
真空チャンバ2内には、同軸型真空アーク蒸着源1に対向して、担体の粉末21を収容する攪拌容器22を載置するためのステージ23が設置されている。この攪拌容器22は収容された担体の粉末21を均一に攪拌するための手段を備えている。すなわち、図2では、攪拌容器22は攪拌用の固定羽根24を備え、ステージ23の下面中心にステージ、ひいては攪拌容器を回転自在にするための回転機構25が接続されている。この回転機構25により攪拌容器22を回転させ、固定羽根24により、担体の粉末21を均一に攪拌できるように構成されている。この場合、攪拌容器22内の担体の粉末21が均一に攪拌される手段を設けてあればよく、例えば、攪拌容器22を固定し、攪拌手段により攪拌できるように構成してもよい。
【0028】
また、真空チャンバ2の壁面には、バルブ26a、ターボ分子ポンプ26b、バルブ26c及びロータリーポンプ26dからなる真空排気系がこの順序で金属製配管により接続されている。この真空排気系により、真空チャンバ2内を真空排気し、このチャンバ内を10−5Pa以下に保つことができるように構成されている。
【0029】
上記した同軸型真空アーク蒸着源は、スパッタ法に比べて粒子の持つエネルギーが高いことが知られており、また、真空雰囲気中での蒸着処理であるため、不純物が少ないという特徴をもっている。
【0030】
本発明によれば、真空排気し、所定の真空雰囲気が形成されている真空チャンバ2内へ、同軸型真空アーク蒸着源1の作動により生成した触媒金属材料の荷電粒子を放出して、真空チャンバ2内に載置されている担体表面へ供給し、担体表面上に触媒金属ナノ粒子を蒸着形成する。
以下、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源1の動作例について説明する。
【0031】
先ず、コンデンサユニット15bの容量を360μF以上1080μF以下に設定し、直流電源15aから60〜100Vの電圧を出力し、その電圧でコンデンサユニット15bを充電し、アノード11とカソード12との間にコンデンサユニット15bの充電電圧を印加する。触媒金属材料からなる蒸発材料部材に、コンデンサユニット15bが出力する負電圧を印加する。
【0032】
上記したような電圧印加の状態で、トリガ電源16から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力し、カソード12とトリガ電極13との間に印加すると、ハット型碍子14の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。カソード12とハット型碍子14のつなぎ目からは電子が放出される。
【0033】
このトリガ放電によってアノード11とカソード12との間の耐電圧が低下し、アノード11の内周面とカソード12の外周面(側面)との間にアーク放電が誘起される。
【0034】
コンデンサユニット15bに充電された電荷の放電により、尖頭電流が1800A以上であるアーク電流が200μ秒程度の時間流れ、カソード12(すなわち、蒸発材料部材である触媒金属材料)の中心軸線上に多量の電流(2000A〜5000A)が200μs〜550μsの間流れるので、カソード近傍に磁場が形成されると共に、その側面から真空チャンバ2内に放出された金属蒸気により、金属のプラズマが形成される。この時発生したプラズマ中の電子(この電子は、カソードからアノードの円筒内面を飛行する)は、自己形成した磁場によって電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受け、前方に飛行し、真空チャンバ2内へ放出され、一方、プラズマ中のカソードを構成する触媒金属のイオンは、前記したように電子が飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、ステージ23に対向するアノード11の放出口11aから真空チャンバ2内に放出される。
【0035】
1回のトリガ放電でアーク放電が一回誘起され、アーク電流が300μs流れる。上記コンデンサユニット15bの充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を誘起させることができる。アーク放電を所定の回数誘起させて、所定のショット数(発数)で担体表面に触媒金属ナノ粒子を担持せしめる。
【0036】
以上では、同軸型真空アーク蒸着源を用いれば、ヒーターなどの加熱手段である熱源で担体を加熱することなく、触媒金属ナノ粒子を形成できるということについて説明したが、熱源により所定の温度に加熱した担体を用いる場合でも、加熱することなく実施した場合と同様に、触媒金属ナノ粒子を担持せしめることはできる。
【0037】
図2において、マスフローメータ27a、バルブ27b、ガスボンベ27cは、真空チャンバ2内へガスを導入することが必要になる場合のために設けられている。
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について詳細に説明する。以下の実施例及び比較例では、触媒金属材料としてPtを用い、担体としてアルミナ粉+La粉を用い、この担体粒子の表面上にPtナノ粒子を蒸着せしめた。上記した他の触媒金属材料でも他の担体/担体配合量でも、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、同様に触媒活性に優れた排ガス触媒を形成できる。実施例に挙げたものに限定されず、また、放電条件も、同軸型真空アーク蒸着源を用いて同様に金属ナノ粒子が形成できる条件範囲であればよく、以下の実施例記載の条件に限定されない。
【実施例1】
【0039】
同軸型真空アーク蒸着源((株)アルバック製:ARL−300)を備えた蒸着装置として、図2に模式的に示す装置を用い、アルミナ(Al)粉97wt%にLa粉3wt%を添加した担体を4g用い、以下記載するようにして、この担体の粒子の表面上にPtナノ粒子を0.2wt%担持せしめた。
【0040】
すなわち、パラメータとして、コンデンサユニット15bの容量:1080μF、放電電圧:100V、周波数:4Hzの条件で、トリガ電源16から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力して、トリガ放電を発生せしめ、このトリガ放電によって誘起されたアーク放電を所定の回数行い、所定のショット数(4850発)で、攪拌容器22内に収容された担体の粉末21を均一に攪拌しながら、担体の表面上にPtナノ粒子(粒径2〜3nm)を蒸着形成せしめた。かくして得られた排ガス触媒は、担体表面にPtナノ粒子が0.2wt%担持されている0.2Pt/La−Alの組成を有していた。
【0041】
次に、流通反応装置を用いて、この装置内に上記のようにして製造されたPtの担持された排ガス触媒を0.05g載置し、この触媒に対して、0.05%NO、0.51%CO、0.0394%C、0.4%O、残部Heからなるガス(ガソリン自動車用三元触媒評価用ガス)を流速100mL/minで流し(W/F=5.00×10−4g・min・cm−3)、触媒温度を600℃まで昇温させながら(10℃/min)、昇温反応特性である各温度における反応率(%)から触媒活性を評価した。この場合、上記のようにして製造したままのPt担持触媒自体(高温水蒸気未処理)と、担持後に高温水蒸気処理(900℃、25時間、10%HO/air)を行って得たPt担持触媒とについて評価した。
【0042】
得られた結果を、横軸に反応温度(℃)、縦軸に反応率(%)をとり、図3(a)及び図4(a)にプロットした。図3(a)は高温水蒸気未処理の場合の結果であり、図4(a)は高温水蒸気処理した場合の結果である。なお、図3(a)及び図4(a)において、APG(アークプラズマガン)は、同軸型真空アーク蒸着を用いてPtを担持させた場合を示す。
【実施例2】
【0043】
実施例1におけるPtの代わりにPdを用い、実施例1記載の方法を繰り返した。その結果、0.2Pd/La−Alの組成を有する触媒が得られ、触媒活性は実施例1の場合とほぼ同様であった。
【0044】
(比較例1)
担持触媒原料としてPt(NH(NOを使用し、La−Al担体にPtを湿式含浸担持させた。すなわち、La−Al担体粉末に所定濃度のPt(NH(NOの水溶液を所定量含浸させ、次いで蒸発乾固させた後に600℃で所定の時間焼成し、Ptを担持せしめ、0.2Pt/La−Alの組成を有するPt担持触媒を調製した。かくして得られたままのPt担持触媒及び担持後に実施例1と同様に高温水蒸気処理を行って得たPt担持触媒について、触媒活性を実施例1記載の方法に従って評価した。
【0045】
得られた結果を、横軸に反応温度(℃)、縦軸に反応率(%)をとり、図3(b)及び図4(b)にプロットした。図3(b)は高温水蒸気未処理の場合の結果であり、図4(b)は高温水蒸気処理した場合の結果である。
【0046】
図3(a)及び(b)の結果を比較すると、Pt担持後に高温水蒸気処理を行わなかった場合、同軸型真空アーク蒸着源で担持させた方が、湿式法で担持させた方より低温で反応し易く、高活性であることがわかる。例えば、同軸型真空アーク蒸着源で担持させた場合、全てのガス成分に対して、300℃では反応率が10%前後、高温領域である400℃では反応率が80%前後、さらに500℃では反応率がほぼ100%であるのに対して、湿式法で担持させた場合、全てのガス成分に対して、300℃では反応率が0%、高温領域である400℃では反応率が20%前後と低く、500℃でも反応率はほぼ80%であることがわかる。
【0047】
また、図4(a)及び(b)の結果を比較すると、Pt担持後に高温水蒸気処理を行った場合、同軸型真空アーク蒸着源で担持させた方が、湿式法で担持させた方より低温で反応し易いことがわかる。同軸型真空アーク蒸着源で担持させた場合、高温水蒸気処理を行わなかった場合と比べて触媒活性は劣化しているが、全てのガス成分に対して、湿式法で担持させた場合よりも高温領域(400℃以上)でも高活性である。一方、湿式法で担持させた場合、高温水蒸気処理によって反応開始温度が上昇し、触媒活性が劣化しており、全てのガス成分に対して、400℃でも反応率が10%前後と低く、同軸型真空アーク蒸着源で担持させた場合と比べて同じ反応率を得るのに高温である必要があり、600℃でも反応率は80%以下であった。
【0048】
(比較例2)
特開2005−125259号公報記載のレーザーアブレーション法に準じて、担体表面にPtを担持せしめ、ガス浄化材料を製造した。
【0049】
すなわち、特開2005−125259号公報記載の実施例の方法に準じ、La−Al担体、蒸留水からスラリーを調製した。得られたスラリーをハニカムプレートの表面に塗布した後、120℃で3時間乾燥し、更に空気気流中において450℃で2時間焼成し、金属酸化物担体を得た。このようにして得られた金属酸化物担体を用いて、YAGレーザー光源、ターゲットとして白金板を用い、真空度下で、ターゲット及び担体を所定の回転数で回転させた状態で、レーザー光源から所定の条件でパルスレーザー光をターゲットに60秒間照射した。その結果、担体の表面に白金微粒子からなる白金薄膜が形成された。この白金担持担体に対して、水素と窒素との混合ガス(水素含有量:5容量%)中において500℃で2時間の水素還元処理を施し、Pt担持触媒を製造した。
【0050】
かくして得られたPt担持触媒に対して、触媒活性を実施例1記載の方法に従って評価した。得られた結果は、比較例1の湿式法の場合とほぼ同様であった。
【実施例3】
【0051】
本実施例では、コンデンサユニット15bの容量を360μF、720μF、1440μFに設定し、放電電圧を60V、150Vとしたことを除いて、実施例1記載の方法を繰り返し、Pt担持触媒を調製した。
【0052】
かくして得られたPt担持触媒について、触媒活性を実施例1記載の方法に従って評価した。その結果、360μF、720μF、60Vの場合は実施例1の場合と同様な傾向が得られたが、1440μF、150Vの場合は、実施例1の場合より触媒活性は劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、高温領域で高活性な金属ナノ粒子担持触媒を提供できるので、本発明は、特に自動車やオートバイ、ボイラ等の内燃機関からの排ガスを処理するための触媒技術分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】湿式法により排ガス触媒を調製するプロセスを説明するための工程図。
【図2】本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えた蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図3】実施例1及び比較例1に従って製造されたPt担持触媒自体(高温水蒸気未処理)の触媒活性を示すグラフであり、(a)は同軸型真空アーク蒸着源でPtを担持させた場合を示し、(b)は湿式法でPtを担持させた場合を示す。
【図4】実施例1及び比較例1に従って製造されたPt担持触媒(高温水蒸気処理)の触媒活性を示すグラフであり、(a)は同軸型真空アーク蒸着源でPtを担持させた場合を示し、(b)は湿式法でPtを担持させた場合を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 同軸型真空アーク蒸着源 2 真空チャンバ
11 アノード 11a 放出口
12 カソード 13 トリガ電極
14 ハット型碍子 15a 直流電源
15b コンデンサユニット 16 トリガ電源
21 担体の粉末 22 攪拌容器
23 ステージ 24 固定羽根
25 回転機構 26a、26c バルブ
26b ターボ分子ポンプ 26d ロータリーポンプ
27a マスフローメータ 27b バルブ
27c ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のトリガ電極と、触媒金属材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、前記トリガ電極とカソードとの間にパルス電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続し、360μF以上1080μF以下のコンデンサ容量にて、60〜100Vの直流放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、この荷電粒子を、前記真空チャンバ内に載置した容器内に入れられた担体としてのアルミナ粉、ジルコニウム、又はランタノイドからなる金属の酸化物が混入されているアルミナ粉の表面に供給して蒸着せしめ、触媒金属ナノ粒子の担持された担体からなる触媒を形成することを特徴とする排ガス触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の排ガス触媒の製造方法において、触媒金属材料が、Pd、Pt、Co、Ag、及びRhから選ばれた少なくとも1種の金属、又はこれら金属の2種以上からなる合金であることを特徴とする排ガス触媒の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−142699(P2010−142699A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320327(P2008−320327)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)触媒学会、第102回触媒討論会 討論会A予稿集、平成20年9月23日
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】