説明

吐出条件調整装置、液滴吐出装置、吐出条件調整方法及びプログラム

【課題】複数個の小ヘッドで構成される大ヘッドは、高い組み立て精度が要求される。このため、歩留まりが低く、製造コストが高くなる。
【解決手段】発明者は、駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分が隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、1つの大ヘッドを構成する各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングを小ヘッド毎に設定する手法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書で説明する発明は、インクその他の液体を吐出する吐出部が配列された複数個の小ヘッドで構成される大ヘッドの吐出条件を調整する技術に関する。なお、本明細書で説明する発明は、吐出条件調整装置、液滴吐出装置、吐出条件調整方法及びプログラムとしての側面を有する。
【背景技術】
【0002】
以下では、インクジェットヘッドを例に、従来技術を説明する。図1は、多数の吐出部3を一列に配置したヘッド(以下、この明細書では「小ヘッド」という。)1の外観構成例を示す。
【0003】
図2は、複数個の小ヘッド1を大ヘッド5の長手方向に千鳥配置したラインヘッド(以下、この明細書では「大ヘッド」という。)5の外観構成例を示す。なお、図2の場合、隣接する小ヘッド同士は、吐出部の並び方向と直交する方向にN画素だけずれて配置される。
【0004】
この他、大ヘッド5の構成には、図3(B)及び(C)に示すような構成が考えられる。すなわち、複数個の小ヘッド1を階段状に配置した構造や階段状の構造を複数回繰り返す構造も考えられる。因みに図3(A)は、図2に示す大ヘッド5に対応する。
【0005】
図4及び図5に、大ヘッド5を用いた印刷手法を説明する。図4は単色による印刷手法を示し、図5は複数色による印刷手法を示す。この種の印刷では、1つ又は複数の大ヘッド5に対して被記録媒体7を相対的に移動させながら印画動作を実行する。
【0006】
ところで、単色画像データをそのまま大ヘッド5に入力すると、図6に示すように、隣り合う記録パターンの形成位置が隣接する小ヘッド1の段差分(N画素分)だけ被記録媒体7の移動方向にずれてしまう。そこで、一般には、N画素分だけ単色印刷データの読み出しアドレスや駆動タイミングをずらす手法が採用される。図7に、この印画動作に対応する記録パターン例を示す。結果的に、段差を解消できる。
【0007】
その一方で、各小ヘッドに対応する記録パターンの形成位置が被記録媒体7の移動方向とは垂直の方向にずれが生じると、小ヘッド同士の境界部分に隙間(チップ間白スジ)や濃線(チップ間黒スジ)が発生してしまう。
また、組み立て時に小ヘッド間の距離が設計値であるN画素からずれると、図8に示すような段差が記録パターンに発生してしまう。
【0008】
更に加えて、図5に示すように複数個の大ヘッド5を被記録媒体7の移動方向に並べて複数の色を重ね印刷する場合、各色に対応する記録パターンのズレが組み合わさって小ヘッド1の印刷範囲単位で様々な色ずれを発生させてしまう。
また、小ヘッド毎に印画特性が異なると、小ヘッド毎に濃度のバラツキが発生してしまう。例えば図9に示すように、濃度のバラツキにより小ヘッドの境界部分にハッキリした境目が見えてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した現象を抑えるには、小ヘッド1の位置ズレがなるべく発生しないようにする方法、すなわち可能な限り精度良く小ヘッドを組み立てる方法や吐出特性のバラツキが少ない小ヘッドを選択的に用いる方法が効果的である。これらが確実に実行できれば、境界部分のズレをできる限り分からないようにできる。
【0010】
因みに、現在の製造技術では、数ミクロンから数十ミクロン程度の位置ズレにより小ヘッドを組み立てることができる。位置ズレのレベルがこの程度になると、吐出部3の並び方向の段差についてはさほど気にならずに済む。しかし、印画物上の濃度については図7に示したように、小ヘッド1の境界部分に白スジや黒スジが現れる可能性がある。
【0011】
そこで、例えば図10に示すように、小ヘッド同士の境界部分に対応する記録パターンの形成に使用する吐出部の割合を隣接する一方の小ヘッドから他方の小ヘッド1に徐々に移行させることで境界部分を目立たなくする方法が提案されている。組み立て精度が高い限り、この方法は有効に機能する。
以下に、境界部分を目立たなくするための他の方法を例示する。
【0012】
【特許文献1】特開2002−254649号公報 この特許文献1には、吐出部3の配置間隔が端部に近づくほど狭くなる小ヘッド1と吐出部3の配置間隔が端部に近づくほど広くなる小ヘッド1を用意し、ちょうど間隔が設計値の近辺になるところで小ヘッド1の使用範囲を切り替える手法が開示されている。この方法の場合、境界部分に白筋や黒筋が発生しないようにできる。
【0013】
【特許文献2】特開2005−1346号公報 この特許文献2には、液滴を複数の方向に吐出できるヘッドについて、複数の吐出部から吐出された液滴により1つの画素を印画することにより、吐出部の吐出特性のバラツキを平均化して境界部分を見え難くする手法が開示されている。
【0014】
【特許文献3】特開2005−246861号公報 この特許文献3には、境界部分の近辺についてのみ濃度を補正する手法が開示されている。例えば隣接する2つの小ヘッドの境界部分に白スジが発生する場合には、その部分だけを濃く印画し、隣接する2つの小ヘッドの境界部分に黒スジが発生する場合には、その部分だけ薄く印画してスジを見え難くする方法が開示されている。
【0015】
しかし、いずれの方法も、その本来の効果が認められるためには、小ヘッド間の着弾位置のズレが数ミクロンから数十ミクロン以内に収まることが必要である。すなわち、小ヘッドの組み立て装置や部品の精度を上げる必要がある。また、この場合、許容されるズレ量を超える全ての小ヘッドは全て不良品(NG)とされてしまう。このため、歩留まりが悪くなるのを避け得ず、非常にコストが高くなってしまう。
【0016】
しかも、印画幅の広い長尺の大ヘッドを作ろうとするほど、多くの小ヘッドを使用する必要がある。このため、長尺の大ヘッドほど歩留まりが低下し、製造コストが増加する問題がある。
【0017】
また、大ヘッドを構成する小ヘッドの数を減らしてこの問題を回避しようとすると(すなわち、1つの小ヘッドを構成する吐出部の数を増やすそうとすると)、今度は小ヘッドの歩留まりが下がることになり、やはりコストが高くなる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、発明者は、信号処理技術を用いて小ヘッドや大ヘッドに要求される精度を緩和する方法を提案する。
すなわち、駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に設定する手法を提案する。
【発明の効果】
【0019】
発明者の提案する手法の場合、従来より小ヘッドや大ヘッドの製造精度が低くても、各小ヘッドが形成する記録パターン間のつなぎ目部分のズレや乱れを目立たなくできる。
かくして、短尺の小ヘッドは勿論のこと長尺の大ヘッドに関しても、歩留まりを改善して製造コストを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、複数の小ヘッドで構成されるインクジェット方式の大ヘッドについて、発明技術の適用例を説明する。
なお、本明細書で特に図示又は記載されない部分には、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。
また以下に説明する形態例は、発明の一つの形態例であって、これらに限定されるものではない。
【0021】
(A)吐出条件の調整方法
(A−1)単色用のインクジェットヘッドに適した調整方法
以下では、大ヘッドが単色印刷用である場合について説明する。図11に、単色印刷用の大ヘッド11の構造例を示す。図11に示すように、大ヘッド11は、多数の吐出部3(小ヘッド上の黒丸)を一列に配列した小ヘッド13を長手方向に千鳥配置した構造を有するものとする。
【0022】
図12に、隣接する2つの小ヘッドの境目部分に記録パターンのズレが発生する理由を示す。図12(A)は、印刷に使用する吐出部の範囲が固定されている小ヘッド13が吐出部の並び方向に誤差なく取り付けられている場合の各小ヘッド13と印刷に使用する吐出部の使用範囲との関係を示す。
【0023】
この場合、図12(A)に示すように、印刷に使用する吐出部の範囲は重複や隙間なく配置される。
しかし現実には、組み立て上のバラツキ等を原因として、小ヘッド13の位置が吐出部の並び方向にずれるのを避け得ない。図12(B)や図12(C)には、隣接する小ヘッド間で印刷に使用する吐出部の使用範囲に重複や隙間が生じていることが分かる。
【0024】
従来技術では、このような状態で印刷すると図7で説明した白スジや黒スジが発生してしまうので印刷には使用できない。
【0025】
図13に、発明者の提案する技術を適用した場合における小ヘッド13と印刷に使用する吐出部の使用範囲との関係を示す。勿論、図13(A)、(B)、(C)における小ヘッド13の取り付け状態は図12(A)、(B)、(C)と同じである。
【0026】
しかし、図13(B)及び(C)を見て分かるように、各小ヘッド13の使用範囲(黒丸の部分)をずらすことにより、隣接する2つの小ヘッドがそれぞれ形成する記録パターンの境界部分に隙間や重複を生じさせずに済む。
【0027】
なお、印刷に使用する吐出部の範囲(位置及び幅)の設定に必要な各小ヘッドの取り付け位置に関するズレ量は、大ヘッド11の取り付け状態から直接測定しても良いし、大ヘッド11を用いてテストパターンを印画し、テストパターンからズレ量を読み取る方法を用いても良い。なお、印画物上における記録パターンの印画位置は、必ずしも吐出部の位置通りにないことが多々あるので、印刷結果から読み取った方が高い精度が期待できる。
【0028】
(b)調整例2
以下では、図4で説明したように、ヘッド(小ヘッド及び大ヘッド)に対して被記録媒体7が相対的に移動する方向(以下、副走査方向と呼ぶ。)に、小ヘッドの取り付け位置がずれている場合についての調整方法を説明する。勿論、インクジェットヘッドは、複数個の小ヘッドを長手方向に千鳥配置した図11に示す大ヘッド11である。
【0029】
図14に、大ヘッド11を構成する小ヘッドの取り付け位置が副走査方向にずれている例を示す。なお、図14(A)は、取り付け状態が理想的な場合に対応する。すなわち、小ヘッドaと小ヘッドcは副走査方向の同じ位置に設置され、小ヘッドbと小ヘッドdは小ヘッドaと小ヘッドcに対してN画素分だけ吐出部の距離が離れている状態を示している。
【0030】
このように小ヘッド13が理想的な状態に組み立てられた大ヘッド11を用い、図4に示すように被記録媒体7を大ヘッド11に対して相対移動させながら印画すると、単色印画の場合には画像データをそのまま印画に使用した際に図6に示すように小ヘッド間でN画素分だけ記録パターンが被記録媒体の移動方向にずれてしまう。
【0031】
そこで、印刷データのアドレスや駆動タイミングをN画素分だけずらすことにより、図7に示すように段差のない印刷結果が生成されるように駆動する。
しかし、図14(B)に示すように、小ヘッドa,b,c,dの取り付け位置がそれぞれ本来の設計値よりもずれてしまうと(図の場合、ズレ量がN1画素、N2画素、N3画素の3種類である。)、N画素分だけ印刷データの読み出しアドレスや駆動タイミングをずらしても、N画素とN1画素、N2画素、N3画素との差分が印刷結果に段差として現れることになる。
【0032】
そこで、発明者は、取り付け誤差等による着弾位置のズレを考慮して、副走査方向の基準位置に定めた小ヘッドに対するズレ量を小ヘッド13毎に求めて印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを最適化する方法を提案する。
【0033】
このように、理想的又は許容範囲内での組み立てを想定して固定的に1種類のズレ量を与えるのではなく、個々の小ヘッド毎に実際のズレ量を求めて吐出条件の調整に使用することにより、各小ヘッドのつなぎ目部分に段差のない印刷結果を実現することができる。
【0034】
勿論、副走査方向に対する取り付け位置のズレ量は、大ヘッド11の取り付け状態から直接測定しても良いし、大ヘッド11を用いてテストパターンを印画し、テストパターンからズレ量を読み取る方法を用いても良い。なお、印画物上における記録パターンの印画位置は、必ずしも吐出部の位置通りにないことが多々あるので、印刷結果から読み取った方が高い精度が期待できる。
【0035】
(c)調整例3
前述した2つの調整手法を組み合わせれば、小ヘッドの取り付け位置が吐出部の並び方向にずれている場合も副走査方向にずれている場合にも、取り付け時のずれを補正して印刷品質を高めることができる。
ここでは、更に小ヘッド毎に濃度補正を行なうことにより、小ヘッド間のつなぎ目を目立たなくすることを考える。
【0036】
勿論、濃度の補正は、吐出されるインク滴の量やインク滴により形成される画素サイズその他を印刷データ値の補正等を通じて実行する。
ここで、濃度補正の単位は、小ヘッド間の境界付近だけでも良いし、大ヘッド全体でも良いし、画素列毎に補正しても良いし、吐出部毎でも良い。
【0037】
補正単位としていずれを採用するかは、印刷結果の品質を劣化させる原因により異なる。例えば小ヘッド間の位置ずれを最小限にしても残ってしまう細かい筋を消すためには、一般に小ヘッドの境界部分だけ補正すれば十分である。しかし、実際には図9に示したように小ヘッドごとの濃度差も問題になるので、全ての画素列毎について補正をかければ境界部以外の欠陥も補正できるので望ましい。
【0038】
以下、濃度の補正方法について説明する。なお、濃度の補正方法には幾つかの方法があるが、ここでは2つの方法について説明する。また。ここで説明する補正方法は、他の調整例についても適用できる。
一つ目の方法として、各吐出部が印画する画素列ごとに、その画素列の階調特性に応じて入力データを補正する方法を説明する。
【0039】
この補正方法では、画素列毎に階調補正データを用意し、その階調補正データに応じて入力データを補正する手法を採用する。
図15に、一般的な印刷処理部21の構成例を示す。印刷処理部21は、集積回路等のハードウェアとしても、CPU上で実行されるプログラムの処理機能としても実現される。
【0040】
印刷処理部21には、入力データとして例えばRGB形式のデジタルデータが与えられる。図15の場合、各色に対応する入力データのビット長は8ビットである。従って、各色のデジタルデータは、0〜255までの256階調の情報を有している。なお、3色全体のビット長は計24ビットになる。
【0041】
色変換部23は、入力データをインク色に対応する4色(すなわち、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック))データ(それぞれ0〜255の8ビット)に変換する処理を実行する。
ハーフトーニング部25は、色変換後データを各色に対応する印刷ヘッド27の駆動データに変換する処理を実行する。
【0042】
印刷ヘッド27(大ヘッドに対応する)は、駆動データに基づいてインク滴を吐出し、被印刷媒体上に印刷像を形成する。
ところで、色変換部23から出力される色変換後データの値0〜255に対する各色の出力結果の濃度は、理想的な値(例えば図16のような関係)になっていれば良いが、実際には図17に示すように、理想的な値になっていないのが通常である。
【0043】
そこで一般には、図18に示す構成の印刷処理部21を用い、各色の出力結果を理想的な値に補正する方法を採用する。すなわち、図19に示すような階調補正曲線を有する階調補正部29を色変換部23の後段に設けて入力信号(色変換後データ)の階調特性(図17)を補正し、出力結果が図16の線上にのるようにしている。
【0044】
ところで、2つの小ヘッドの境界部の印画結果を考えてみると、図20に示すように使用する吐出部同士がわずかに重なった場合は、画素列Aや画素列Dに比べて画素列Bや画素列Cの濃度が濃くなってしまう。
【0045】
一方、小ヘッドの境界がわずかに開いている場合には、図21に示すように、画素列Eや画素列Hに比べて画素列Fや画素列Gの濃度が薄くなってしまう。
【0046】
この結果、各画素列の入力信号に対する濃度の関係は図22のようになる。
そこで、画素列毎に図23に示すような階調特性補正カーブを用意し、画素列毎に入力信号(色変換後データ)を補正して出力特性が理想的な値(例えば図16に示すような関係)になるようにする。
【0047】
このようにすると、印刷画面上における濃淡の違いは解消あるいは軽減される。因みに図23では、画素列Fの場合、濃い部分に関して本来欲しい濃度が出ないので、あるところから変換後の出力データは上限に張り付くようになっている。
【0048】
各画素列の階調補正データは、テストパターンの印画結果をスキャナで読み取る等の方法で予めデータ化し、図24に示す補正情報保管部31に保管しておき、印画時には階調補正部29で各画素列ごとに異なる階調補正データに応じた変換を行なう。
【0049】
なお、階調補正データは、画素列毎に持つことが理想ではあるが、代表的な曲線データを何種類か用意しておき、それを選ぶようにしても良い。
【0050】
次に、二つ目の補正方法を説明する。この方法は、1画素について数レベルの濃度変調ができる印画装置に対して有効である。
ここでは、1画素について5レベルの濃度変調ができる印画装置を考える。
【0051】
濃度変調の方法には、例えば1画素を構成する液滴の数を可変する方法(すなわち、レベル0のときは打たない、レベル1のときは「1滴」、レベル2のときは「2滴」、レベル3の時は「3滴」、レベル4のときは「4滴」といった具合に印刷することで、1画素内の濃度変調する方法)がある。
【0052】
この他、濃度変調の方法には、例えば1画素を構成する液滴の大きさを変える方法(すなわち、レベル0のときは打たない、レベル1のときは一番小さな大きさの液滴で打つ、レベル2のときは2番目に小さい液滴で打つ、レベル3のときは3番目に小さい液滴で打つ、レベル4のときは一番大きな液滴で打つ方法)がある。
【0053】
ここでは、ある画素列の出力データが3,3,3,3,3,3,3,3,3,3のときを考える。この場合、このままヘッドを駆動すると、前述したように図20の画素列Bや画素列Cの場合は濃くなってしまうし、図21の画素列Fや画素列Gの場合は薄くなってしまう。
【0054】
そこで、画素列Bや画素列Cについては出力データの値を小さく補正し、画素列Fや画素列Gについては出力データの値を大きく補正することが必要になる。
そこで、どの画素列はどの程度出力値を大きくすれば良いのか、又は小さくすれば良いのかを補正情報として図25の補正情報保管部33に保管しておく。
【0055】
図25の場合、出力補正部35が補正情報に基づいてヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’の補正処理を実行し、補正後のヘッド駆動信号Yout 、Mout 、Cout 、Kout を出力する。この補正処理により、画素列毎の濃淡を解消あるいは軽減する。
【0056】
この補正動作を具体的に説明すると次のようになる。ある画素列の補正情報が
1.2(大きくも小さくもしなくて良い場合を1とする)とすると、いったん仮出力値=f(補正前出力値,補正情報)の関数で変換する。
【0057】
例えばf(補正前出力値,補正情報)=補正前出力値×補正情報とすると、仮出力値は
3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6、 3.6となる。実際には、出力は整数値しか取れないとすると、例えば 3.5を閾値として最初のデータ
3.6は 3.5より大きいので「4」に変換される。
【0058】
次のデータを計算する際は、直前のデータの値とその出力値の差分(ここでは、
3.6−4=− 0.4)を加えたものを閾値と比較する。すなわち、3.2(=3.6+(−0.4))と3.5を比較し、出力データを「3」とする。
このように、出力データを決定する際の誤差分を、順次次の出力データの決定処理に繰り越す動作を繰り返す。すなわち、誤差拡散法を用いて整数化する。
【0059】
この例の場合、ヘッド駆動信号列は、4,3,4,3,4,4,3,4,3,4に変換される。
このような補正動作により、画素列の濃度をあげることができる。なお、この説明では、誤差を次のデータに100%振り分けたが、次のデータに2/3を振り分け、次の次のデータに1/3を振り分けても良い。すなわち、誤差分を重み付け拡散しても良い。
【0060】
また、本例では画素列方向に誤差を拡散させているので隣の列との相関をとっていない。このため、同じような周期で濃淡が生じ、それが濃淡ムラになる可能性がある。これを防ぐには、初期の誤差を乱数で与えたり、隣の画素列の補正状況を考慮して補正値を決定する仕組みを入れるなどすれば良い。
【0061】
(d)調整例4
前述の例では、インクジェットヘッドが1つの大ヘッドで構成される場合について説明した。
しかし、インクジェットヘッドが長手方向に配列される複数個の大ヘッドで構成される場合にも勿論応用できる。すなわち、2つ以上の大ヘッド11を吐出部の並び方向に段違いに並べて1つの印刷ヘッドを構成する場合にも応用できる。
【0062】
図26に、この種の印刷ヘッド例を示す。因みに、図26は、複数個の小ヘッドで構成される大ヘッドを2つ並べた印刷ヘッドの例である。
この場合、大ヘッドの違いにかかわらず、隣接する小ヘッド間で印刷に使用する吐出部の範囲を個別に設定し、小ヘッド間の隙間や重なりをできる限り小さくする。また、印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを小ヘッド毎に変えることで、小ヘッド間の段差を少なくする。さらに、小ヘッド毎に隣接する小ヘッドが形成する記録パターンとのつなぎ目が目立たないように濃度補正を行なう。
【0063】
(A−2)複数色用のインクジェットヘッドに適した調整方法
今までは、1つ又は複数の大ヘッドを用いた1色インクでの印画の実行を前提として、小ヘッドの取り付け誤差に伴う印刷品質の低下を改善する吐出条件の調整方法について説明した。
【0064】
ここでは、図27に示すように、それぞれ使用するインクの色が異なる場合(同色異濃度を含む。)の調整方法について説明する。図27の場合、インクの色は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色である。また、4つの大ヘッドは、いずれも副走査方向に規定のオフセット値だけ離れて配置される。
【0065】
この場合、各大ヘッドを構成する小ヘッドの取り付け誤差だけでなく、異なる大ヘッドの長手方向で同じ位置の小ヘッドとの間でも取り付け誤差を考える必要がある。各大ヘッドでは取り付け誤差を信号処理によりキャンセルできても、他色との間で着弾位置のズレが補正されていなければ、色ズレやこれに伴う境界部分のスジが出現してしまう。
【0066】
図27は、このずれ関係を考慮した調整方法の原理を説明した図である。もっとも、図27の場合には図面の複雑さを避けるため、副走査方向に小ヘッドの取り付け誤差があるものとして表している。このため、基準とする小ヘッドに対するズレ量が小ヘッド数−1個分で定義される。
【0067】
このように、複数個の大ヘッド11が副走査方向に配列される複数色印刷用のインクジェットヘッドに対しても、単色印刷用のインクジェットヘッドで説明した調整技術を応用することができる。
【0068】
これにより、複数色印刷用のインクジェットヘッドの場合にも、印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを小ヘッド毎に最適化することにより、記録パターンのつなぎ部分の段差、隙間、重なり、色ずれを最小化できる。勿論、濃度補正も組み合わせることにより、小ヘッド間のつなぎ目及び各色間の色ずれを目立たなくすることができる。
【0069】
勿論、この場合も、吐出部の並び方向のズレ量や副走査方向のズレ量は、各大ヘッド11の取り付け状態から直接測定しても良いし、大ヘッド11を用いたテスト印刷結果からズレ量を読み取っても良い。なお、印画物上における記録パターンの印画位置は、必ずしも吐出部の位置通りにないことが多々あるので、印刷結果から読み取った方が高い精度が期待できる。
【0070】
(A−3)小ヘッドがインクジェットヘッドの長手方向に対して傾いている場合の調整方法
前項までの説明では、小ヘッドの取り付け位置は長手方向や副走査方向にずれてはいるものの、各小ヘッド間で吐出部の並び方向が平行である場合についての調整方法を説明した。
【0071】
しかし、実際には、図28に示すように、大ヘッド11の長手方向に対して小ヘッド13が斜めに組み立てられてしまう場合がある。なお図28は、小ヘッドの取り付けが極端に傾いているように表しているが、実際には小ヘッド13の左右の高さ違いは多くて数十から百数十ミクロン程度である。
【0072】
図28に示すように、小ヘッド13が大ヘッド11の並び方向に対して斜めにずれている場合、取り付け時のズレ量に応じて印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを少し変えたとしても、形成される記録パターンは決して副走査方向に垂直な直線にはならない。
【0073】
因みに、各小ヘッドの中央付近に対応する記録パターンが副走査方向に対して垂直になるように並べると、図29(A)に示すように、小ヘッド13に対応する記録パターンの境界部に段差が生じてしまう。
そこで、発明者は、図29(B)に示すように、副走査方向に垂直であることにこだわらず、左右の小ヘッドとの段差が最小になるように補正する方法を提案する。
【0074】
この場合、厳密な意味では、副走査方向に対して垂直な直線は印画できなくなるが、小ヘッド間につなぎ目がないほぼ直線状の記録パターンを形成できるので、使用上の問題はほとんど起こらない。
【0075】
特に正確な位置に印画したい場合には、図29(C)に示すように、小ヘッド内で複数の区間に分割し、区間毎に印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを最適化することにより、ほぼ副走査方向に垂直な直線を形成することができる。
【0076】
次に、小ヘッドが斜めに組み立てられた大ヘッドを複数用いる多色印刷用のインクジェットヘッドの調整方法を説明する。
図30(A)に、大ヘッド1及び2で構成されるインクジェットヘッドを示す。なお、大ヘッドの数は3つ以上でも良いことは言うまでもない。
【0077】
この場合、図30(B)に示すように個々の大ヘッドについてのみ小ヘッド間の段差が最小になるように印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを調整すると、図30(C)に示すように、各色の小ヘッド間の段差はなくなるものの、色間のズレが大きくなってしまう可能性がある。
【0078】
そこで、発明者は、ある1色については大ヘッド内の小ヘッド間で段差が最小になるように印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを調整する一方で、他色用の大ヘッドについては基準に定めた大ヘッド側の各小ヘッドとの段差が最小になるように調整量を設定する手法を提案する。
【0079】
図30(D)が、発明者の提案する方法で直線を印画した場合の記録パターンである。図30(C)と比べて色ズレが大幅に縮小している。これにより、小ヘッド間の段差は残るものの色ずれを極力小さくすることができる。
【0080】
例えば、カラー印刷を行う上で特に図表の罫線を印画するのに多用される黒は段差が少なくなるように補正し、他の色は色ずれが少なくなるように補正してやれば、印画物上で段差が目立つことはほとんどなく、かつ色ずれの少ない印画物を得ることができる。
【0081】
(A−4)各小ヘッドで印刷に使用する吐出部数の調整
前述した各調整方法では、図31(A)に示すように、どの小ヘッドでも同じ数の吐出部を用いて画像を印刷する場合を想定した。
しかし、図31(B)に示すように、各小ヘッドで印刷に使用する吐出部の数を小ヘッド毎に異なる数にしても良い。
【0082】
特に、取り付け誤差が大きく小ヘッド同士が大きく離れたり、近づき過ぎたりしている場合には、小ヘッドで用いる吐出部の数を限定すると補正可能なズレ量に大きな制限が加わってしまうため、限定しないほうが有効である。
また、カラー印刷時には、図27に示すように、各色に対応する小ヘッドごとの境界を同じ位置にすると1色だけではほとんど目立たない境界部が複数色分重なることではっきりと目立ってくることがある。
【0083】
そこで、図32に示すように、各色に対応する大ヘッド毎に小ヘッドの印刷範囲の境界位置(印刷領域の切り替え位置)を可変することにより、境界部をさらに目立ち難くすることができる。
【0084】
ところで、前述のように、小ヘッドを構成する吐出部のうち一部の吐出部だけを印刷に使用する場合に、印刷用に選択されなかった吐出部のメンテナンスを怠ると、インクが乾燥して小ヘッドの境界部付近で使用する吐出部の吐出に悪影響を与える可能性がある。そこで、発明者は、空吐出その他のメンテナンス動作については、印刷に使用されるか否かにかかわらず小ヘッドを構成する全ての吐出部について実行することを提案する。
【0085】
(A−5)境界部分の印刷方法
前述した説明では、形成される記録パターンと小ヘッドとが1対1に対応する場合を前提とした。
しかし、図33に示すように、隣接する2つの小ヘッドの間で印刷に使用する吐出部の範囲の両端部分にオーバーラップ領域を設定しても良い。
【0086】
この場合、小ヘッドと小ヘッドの境界部分を中心とする数画素の範囲を2つの小ヘッドを用いて印画し、境界部分から離れるのに従って当該領域の印刷に使用する一方の小ヘッドの割合を減らし、他方の小ヘッドの割合を増やすように制御する。
【0087】
これに加えて、小ヘッドの境界がハッキリと見えないように濃度を補正すれば、境界を目立たなくすることができる。
勿論この場合も、印刷に使用する範囲の個別設定、印刷タイミングの制御、濃度補正等を組み合わせることで、小ヘッドの取り付け誤差が従来より大きくても良質な印刷結果を得ることができる。
【0088】
(A−6)インクジェットヘッドが偏向吐出に対応する場合
インクジェット方式のラインヘッドを用いた印画装置や一定幅を1パスで印画するインクジェット方式のシリアルヘッド印画装置においては、個々の吐出部の吐出方向のばらつきが印画方向に沿って並ぶことになる。
【0089】
このため、各吐出部の吐出方向に本来は図34に示すように印画したいところが、図35に示すようにスジムラの入った印画物になってしまうという問題があった。
この問題を解決するため、発明者や出願人は、吐出角度の偏向により印画を実行する印刷方式を提唱する。
【0090】
この方法を用いて、各吐出部の吐出方向を吐出の度に同じ列の画素内で振ってやると、図36に示すようになり、吐出部Aや吐出部Bのような吐出方向が多少まがった吐出部が存在しても、スジを目立たなくすることができる。
【0091】
また、各吐出部から左右数画素を印画できるようにして、同じ列の画素を他の吐出部を用いて印画すると、図37に示すように、吐出部Aや吐出部Bの吐出方向が多少まがった吐出部があっても、スジを目立たなくすることができる。更に、個々の吐出部から吐出量にバラツキがあったとしても、平均化されることで濃度ムラを目立たなくすることができる。
【0092】
また、各吐出部から左右数画素を印画できるようにして、同じ列の画素を他の吐出部を用いて印画するようにすると共に、各同じ列の画素内で吐出方向を偏向すると、図38に示すように、吐出部Aのような吐出方向が多少まがった吐出部があったとしても、更に細かい修正が可能となり、スジを目立たなくすることができる。
【0093】
更に、この方法は、個々の吐出部から吐出されるインク量に差があったとしても、各画素列の形成に使用されるインク量を平均化させることができ、濃度ムラを目立たなくすることができる。
この方法を小ヘッドの境界部に適用すると、それだけでも境界部のスジの低減を減らすことができる。
【0094】
本例では、1画素に対してインク液滴の吐出回数をかえることで、形成するドットの
大きさを変化させるPNM(PULSE
NUMBER MODULATION)方式を用いる。図39に、PNM方式のイメージ図を示す。
【0095】
図40は、最大PNM数を4とし、3つの異なる吐出部からインク滴を順番に吐出するイメージを表している。
図40の場合、1画素目の1番目のタイミングで印画するときは吐出部Aからの印刷となる。
【0096】
また、1画素目の2番目のタイミングで印画するときは吐出部Bからの印刷となる。また、1画素目の3番目のタイミングで印画するときは吐出部Cからの印刷となる。
また、1画素目の4番目のタイミングで印画するときは吐出部Aからの印刷となる。
【0097】
また、2画素目の1番目のタイミングで印画するときは吐出部Bからの印刷となる。また、2画素目の2番目のタイミングで印画するときは吐出部Cからの印刷となる。また、2画素目の3番目のタイミングで印画するときは吐出部Aからの印刷となる。また、2画素目の4番目のタイミングで印画するときは吐出部Bからの印刷となる。
【0098】
例えば1画素に付き1発のインク滴を吐出する場合には必ず1番目のタイミングで印画すると、このPNM印刷方式では図41に示すように着弾インクと吐出部との関係が変化する。
【0099】
すなわち、1画素目は吐出部A、2画素目は吐出部B、3画素目は吐出部C、4画素目は吐出部A・・・というように、同じ画素列でもインク滴の出力元が順番に切り替わることになる。
【0100】
以下では、前述した偏向吐出機能を用いて小ヘッドの境界部分を目立たなくする調整方法について2つ例を示す。
【0101】
(a)境界部分をいずれか一方の小ヘッドで印画する方法
偏向吐出機能に対応した各小ヘッドを用いれば、一つの画素列を同じ小ヘッドに位置する複数の吐出部から吐出されるインク滴により印画することができる。
【0102】
この印画方法のイメージを図42及び図43に示す。図に示すように、小ヘッドの切り替え位置を与える境界領域の内側は、それぞれが担当する小ヘッドの吐出部だけで画素列を印画する。
このため、各小ヘッドについて規定される吐出部の使用範囲は、各小ヘッドの切り替え位置よりも広く設定される。
【0103】
例えば図43には、境界位置の画素列は、境界位置より1個だけ外側に位置する同じヘッド上の吐出部から偏向吐出されたインク滴で形成される様子が描かれている。
このように、偏向吐出方式を用いれば、1つの画素列を複数の吐出部を用いて描画することができるので、小ヘッドの切り替え部に多少の隙間や重なりがあってもスジを目立たなくすることができる。
【0104】
(b)境界部を2つの小ヘッドで印画する方法
偏向吐出機能に対応した各小ヘッドを用いれば、一つの画素列を異なる小ヘッドに位置する複数の吐出部から吐出されるインク滴により印画することができる。
この印画方法のイメージを図44及び図45に示す。
【0105】
図45及び図46に示すように、各小ヘッドは境界位置を跨ぐようにインク滴を偏向吐出する。これにより、境界部分の両側に位置する各画素列は、異なる小ヘッドから吐出されたインク滴により印画される。
なおこの場合は、各小ヘッドについて規定される吐出部の使用範囲は、各小ヘッドの切り替え位置で挟まれた範囲と一致する。
【0106】
このように、偏向吐出方式を用いれば、1つの画素列を複数の吐出部を用いて描画することができるので、小ヘッドの切り替え部に多少の隙間や重なりがあってもスジを目立たなくすることができる。また、小ヘッド間で濃度差があっても濃度差を緩和することができる。
【0107】
なお、異なる小ヘッドで印画する画素列は、境界線の外側の2つ以上の画素列でも良い。図46は、異なる小ヘッドで境界線の外側の2つの画素列を印画する様子を示す。図に示すように、この場合、1つの吐出部は5つの方向にインク滴を偏向吐出できる。
【0108】
図45や図46より分かるように、各吐出部からの印画割合が同じだとすると、切り替え部分では、一方の小ヘッドから他方の小ヘッドに徐々に切り替わることになるので切り替え部分が目立ち難くなる。
【0109】
なお、画素列の印画に使用するヘッドの割合を2つの小ヘッド間で徐々に切り替える点は、前述した図33の方法と同じである。ただし、図33に示す方法の場合には、複数のヘッドで印画する範囲分の吐出部が必要であり、小ヘッドの位置ずれ補正に使える吐出部の数を減らすことになってしまう。
【0110】
一方、図45及び図46に示す方法では、位置ずれ補正に使える吐出部の数を減らすことがなく、除々に小ヘッドを切り替えることができる。
また、偏向吐出機能は、境界部だけでなくそれ以外の吐出部の吐出性能の乱れに起因する細かい筋も見え難くするので、全画素に対して用いるのが好ましい。もっとも、境界部にだけ偏向吐出機能を適用しても良い。
【0111】
(A−7)小ヘッドの他の構成
前述の説明では、各小ヘッドがある1色のインク滴の吐出専用である場合について説明した。
しかし、図47に示すように、複数色のインク滴を吐出できるように、1つの小ヘッド上には複数列の吐出部が形成されていても良い。
【0112】
この多色用の小ヘッド41には、イエロー吐出列、マゼンタ吐出列、シアン吐出列、ブラック吐出列の4つの吐出列が配置される。
勿論、複数個の小ヘッド41を用いて大ヘッドを構成することも可能であり、大ヘッドに対して前述した技術を応用することができる。
【0113】
図48に、吐出部の並び方向に各小ヘッド41の印画位置の一部分が重なるように千鳥配置して構成した大ヘッド43の外観例を示す。
この大ヘッド43の場合にも、各小ヘッド41で使用する吐出部とそこに与える印刷データのアドレスや吐出タイミングを制御すれば、各ヘッドの境界部分における隙間、重なり、段差を少なくすることができる。また、濃度補正を行なうことで各ヘッド間の境界が目立たないように印画できる。
【0114】
(B)各調整方法の利用による効果
前述したように、1つの大ヘッドを構成する小ヘッドの組み立て時に多少の位置ズレが生じたとしても、印刷データの読み出しアドレス及び印画タイミングの調整により、被記録媒体上に形成される記録パターンの位置ズレを最小化することができる。
【0115】
更に、この調整技術に濃度補正や偏向吐出機能を組み合わせれば、小ヘッド間の境目をより分かり難くできる。
この結果、小ヘッド間の境目の目立たない高品質の印刷結果を得られる大ヘッドを低コストで実現できる。
【0116】
(C)印刷システム例
以下では、前述した調整技術に対応する印刷システム例の幾つかを説明する。
【0117】
(a)システム例1
図49は、吐出条件調整装置51とインクジェットプリンタ53とを別々に用意する印刷システム例である。
【0118】
この例の場合、吐出条件調整装置51は、テストパターンを印刷した被記録媒体7のスキャンデータを取り込み(すなわち、各吐出部が描画したインク滴の着弾位置データを取り込み)、各小ヘッドの吐出部の並び方向の位置ズレ、傾き、小ヘッド間の段差その他を実測し、その測定結果を印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングの調整値としてインクジェットプリンタ53に与える処理を実行する。
【0119】
一方、インクジェットプリンタ53には、吐出条件の調整値を格納するメモリ(吐出条件メモリ)55が格納されており、この調整値に基づいて印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングを調整する。
図50に、インクジェットプリンタ53の内部構成例を示す。
【0120】
図50に示すインクジェットプリンタ53は、色変換部61、ガンマ補正部63、ハーフトーニング部65、濃度補正部67、ヘッド駆動部69、吐出条件メモリ55で構成される。各処理ユニットは既知の処理機能であるので、ここでは簡単に各処理機能を説明する。
【0121】
ここで、色変換部61は、原色データを補色データ(Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)に色変換する処理ユニットである。
ガンマ補正部63は、インク滴の濃度表現が補色データの階調値と整合するように補色データをデータ変換する処理ユニットである。
【0122】
ハーフトーニング部65は、補色データをインク滴数の表現に変換する処理ユニットである。
濃度補正部67は、被記録媒体上で再現される濃度を補正するための処理ユニットである。この例の場合、濃度補正部67は、吐出条件メモリ55に格納された調整条件に基づいて補正動作を実行する。
【0123】
ヘッド駆動部69は、不図示のインクジェットヘッド(複数の小ヘッドが千鳥に配置された大ヘッド)を駆動する処理ユニットである。ただし、印刷データの読み出しアドレスや印画タイミングは、吐出条件メモリ55に格納された調整条件に基づいて補正される。
この内部構成により、発明者が提案する各種の調整方法を実行できる。なお、濃度補正はガンマ補正の段階で実行することもできる。
【0124】
(b)システム例2
図51に、吐出条件調整装置51とインクジェットプリンタ53を一体的に搭載する複合型の印刷システム例を示す。
図51に示す複合機71は、印刷機能の他にスキャナ73を搭載する。すなわち、複合機71は、スキャナ73、吐出条件調整装置51、インクジェットプリンタ53で構成される。
【0125】
この例の場合、自機が搭載するスキャナ73を用いて、自機のインクジェットヘッドで印画されたテストパターンを読み取り、調整値を自動的に設定することになる。
なお、調整値は、インクジェットヘッドに付属するメモリに書き込まれている場合、ネットワーク等を通じてメーカーやプロバイダーから提供される場合も考えられる。
【0126】
(D)他の形態例
(D−1)応用装置例
前述の形態例の説明では、発明に係る駆動手法をインクジェットプリンタに応用する場合について説明した。
しかし、液滴をノズルから吐出する装置であれば、その用途は限らない。例えば液滴として有機材料、無機材料、金属系材料を混合した液体等を吐出する装置にも適用できる。
【0127】
(D−2)その他
前述した形態例には、発明の趣旨の範囲内で様々な変形例が考えられる。また、本明細書の記載に基づいて創作される又は組み合わせられる各種の変形例及び応用例も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】小ヘッドの外観構成例を示す図である。
【図2】大ヘッドの外観構成例を示す図である。
【図3】大ヘッドの外観構成例を示す図である。
【図4】大ヘッドを用いた印刷手法を説明する図である。
【図5】大ヘッドを用いた印刷手法を説明する図である。
【図6】タイミング調整のない状態での印画例を示す図である。
【図7】タイミング調整後の印画例を示す図である。
【図8】組み立て時に位置ズレがある場合の印画例を示す図である。
【図9】小ヘッド間で濃度のバラツキがある場合の印画例を示す図である。
【図10】小ヘッド間の境目を目立たなくするための印刷手法の一例を示す図である(従来例)。
【図11】大ヘッドの外観構成例を示す図である。
【図12】小ヘッドの位置ズレと記録パターンの劣化との関係を説明する図である。
【図13】調整方法の一例を説明する図である。
【図14】小ヘッドの取り付けに副走査方向のズレがある状態を説明する図である。
【図15】印刷処理部の一般的な構成例を示す図である。
【図16】理想的な濃度特性を示す図である。
【図17】実際の濃度特性を示す図である。
【図18】濃度補正機能を搭載する印刷処理部の構成例を示す図である。
【図19】階調補正曲線例を示す図である。
【図20】画素列が重なる場合の印刷状態を説明する図である。
【図21】画素列に隙間が発生する場合の印刷状態を説明する図である。
【図22】図20に対応する入力信号と画素濃度との関係を示す図である。
【図23】図21に対応する入力信号と画素濃度との関係を示す図である。
【図24】補正情報保管部を有する印刷処理部の構成例を示す図である。
【図25】補正情報保管部を有する印刷処理部の他の構成例を示す図である。
【図26】複数個の大ヘッドで構成されるプリントヘッドの構造例を示す図である。
【図27】複数個の大ヘッドがそれぞれ異なるインク色に対応する場合の調整方法の一例を説明する図である。
【図28】小ヘッドが大ヘッドの長手方向に対して傾いている状態を説明する図である。
【図29】小ヘッドの取り付けが傾いている場合の調整方法の一例を説明する図である。
【図30】小ヘッドの取り付けに傾きがある2つの大ヘッドで構成されるプリントヘッドと印刷結果の対応関係を示す図である。
【図31】印刷に使用する吐出数の調整手法を説明する図である。
【図32】各色に対応する大ヘッド間で小ヘッドの印刷使用範囲の境界位置を可変する方法を説明する図である。
【図33】隣接する小ヘッド間で印刷に使用する吐出部の両端部分を互いにオーバーラップする例を示す図である。
【図34】吐出方向が設計値通りの場合の印刷結果を示す図である。
【図35】吐出方向にバラツキがある場合の印刷結果を示す図である。
【図36】偏向吐出技術を説明する図である。
【図37】偏向吐出技術の適用による効果を説明する図である。
【図38】偏向吐出可能な方向が多い場合の効果を説明する図である。
【図39】PNM方式を説明する図である。
【図40】最大PNM数を4とし、3つの異なる吐出部からインク滴を順番に吐出するイメージを示す図である。
【図41】1つの画素列の形成に使用する吐出部を順番に入れ替える様子を説明する図である。
【図42】境界位置を同じ小ヘッドの偏向吐出により形成する様子を説明する図である。
【図43】境界位置を同じ小ヘッドの偏向吐出により形成する様子を説明する図である。
【図44】境界位置を異なる小ヘッドの偏向吐出により形成する様子を説明する図である。
【図45】境界位置を異なる小ヘッドの偏向吐出により形成する様子を説明する図である。
【図46】異なる小ヘッドで境界線の外側の2つの画素列を印画する様子を示す図である。
【図47】複数色を同時に印刷できる小ヘッドの構造例を示す図である。
【図48】複数色を同時に印刷できる小ヘッドを複数個組み合わせた大ヘッドの構造例を示す図である。
【図49】印刷システム例を示す図である。
【図50】インクジェットプリンタの構造例を示す図である。
【図51】印刷システム例を示す図である。
【符号の説明】
【0129】
1 小ヘッド
3 大ヘッド
5 大ヘッド
11 大ヘッド
41 小ヘッド
43 大ヘッド
51 吐出条件調整装置
53 インクジェットプリンタ
55 吐出条件メモリ
71 複合機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、
各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、
各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、
吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に設定する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
隣り合う小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分に位置ズレが現れないように、各小ヘッドに読み出すパターンデータの読み出しアドレスと吐出タイミングとを設定する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項3】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
隣り合う小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分に濃度差が現れないように、各小ヘッドに対応する濃度補正値を設定する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項4】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
1つ又は複数の大ヘッドを用いて複数種類の液体を吐出できる場合、
ある1つの種類の液体に関連づけられた1組の小ヘッドについては、各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に設定する一方で、
残る他の種類の液体に関連づけられた各組の小ヘッドについては、前記ある1つの種類の液体に関連づけられた1組の小ヘッドが形成する各記録パターンとの位置ズレが少なくなるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを個別に設定する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項5】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
1つ又は複数の大ヘッドを用いて複数種類の液体を吐出できる場合、
液体の各種類に対応する1組の小ヘッドについて、隣り合う小ヘッドの記録パターン同士のつなぎ目部分が他の種類の液体に対応する記録パターン同士のつなぎ目と同じにならないように、記録パターンの形成に使用する吐出部の範囲と吐出タイミングを小ヘッド毎に設定する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の吐出条件調整装置において、
前記複数種類の液体は、同一成分で濃度の異なる液体を含む
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項7】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
各小ヘッドが有する全ての吐出部のうち使用範囲に設定されていない吐出部に対しても、使用範囲に設定された吐出部と同じメンテナンス動作を適用する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項8】
請求項1に記載の吐出条件調整装置において、
各小ヘッドは偏向吐出機能に対応する
ことを特徴とする吐出条件調整装置。
【請求項9】
多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される大ヘッドと、
前記各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分が隣接する小ヘッド間で互いに重複するように配置される場合、各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に格納する吐出条件記憶部と、
前記吐出部の使用範囲と吐出タイミングとに基づいて、大ヘッドに対応する液体の吐出動作を実行するヘッド駆動部と
を有する液滴吐出装置。
【請求項10】
駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、
各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に設定する処理を有する
ことを特徴とする吐出条件調整方法。
【請求項11】
駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、
各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、
各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように設定された吐出部の使用範囲と吐出タイミングとに基づいて液滴の吐出動作を実行する処理を有する
ことを特徴とする吐出条件調整方法。
【請求項12】
駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、
各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、
各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように、吐出部の使用範囲と吐出タイミングとを小ヘッド毎に設定する処理を
コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
駆動対象とする大ヘッドが、多数の吐出部を有する複数個の小ヘッドで構成される場合、
各小ヘッドに形成された吐出部の配置範囲の一部分を隣接する小ヘッド間で互いに重複するように構成し、
各小ヘッドによって形成される個々の記録パターンのうち隣接する記録パターンのつなぎ目部分の位置ズレが最小になるように設定された吐出部の使用範囲と吐出タイミングとに基づいて、液滴の吐出動作を実行する処理を
コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【公開番号】特開2009−51066(P2009−51066A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219139(P2007−219139)
【出願日】平成19年8月26日(2007.8.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】