説明

吐出装置および吐出方法

【課題】所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる吐出装置および吐出方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る吐出装置は、複数の細胞20を含有する溶液を保持し、当該溶液の液滴21を吐出する吐出手段3と、溶液に含まれる細胞の含有量を計測する計測手段4と、計測された細胞の含有量に基づいて、吐出手段3から吐出された液滴21の進行方向を異ならせる偏向手段5と、進行方向が異なる液滴21の少なくとも一部を回収する回収手段6と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出装置および吐出方法に関し、特に、細胞等の吐出対象物を被吐出対象体に配置する吐出装置および吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚や角膜等の組織を細胞培養により増殖し、患者に移植する再生医療が広く行われるようになっている。しかしながら、現在の再生医療は、酸素や栄養を補給しやすい層状で、単一種類の細胞からなる単純な組織に限られている。
【0003】
臓器、例えば肝臓は、肝細胞や血管内皮細胞等、多種の細胞からなり厚みもある。このような臓器を作るためには、任意の空間に細胞を配置することが必要となる。細胞を所望の位置に配置する手段として、例えば、細胞を含む溶液の液滴を任意の位置に吐出するインクジェット技術が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−140631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶液中に均一に細胞を分散させることは困難である。このため、液滴に含まれる細胞数を制御することができず、適切に細胞を配置することが困難であった。例えば、液滴に細胞が含まれていない場合、その部分の組織は欠損するという不利益がある。液滴に細胞が過剰に含まれている場合、酸素や栄養が欠乏し、細胞の定着率が低下するという不利益がある。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる吐出装置および吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の吐出装置は、複数の吐出対象物を含有する溶液を保持し、当該溶液の液滴を吐出する吐出手段と、前記溶液に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測する計測手段と、計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記吐出手段から吐出された前記液滴の進行方向を異ならせる偏向手段と、進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を回収する回収手段と、を有する。
【0007】
上記の本発明では、計測手段により、溶液に含まれる吐出対象物の含有量が計測される。吐出手段のノズルから溶液の液滴が吐出されると、計測された吐出対象物の含有量に基づいて、偏向手段により液滴の進行方向が変えられる。進行方向が異なる液滴の少なくとも一部が回収手段により回収される。
上記の本発明により、含有量に応じて液滴を打ち分けることができることから、吐出対象物の含有量が適正でない液滴については回収することができる。この結果、所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる。また、本発明では、吐出前に吐出対象物の含有量を計測することにより、計測から偏向制御までの時間が確保されることから、液滴の進行方向を確実に制御することができる。
【0008】
前記吐出手段に保持される前記溶液を帯電させる帯電手段をさらに有し、前記偏向手段は、帯電した前記溶液の一部である前記液滴を偏向させる電界を生じさせる。液滴の帯電量および電界の強度を制御することにより、液滴の偏向量を制御することができる。
【0009】
前記計測手段は、前記計測手段は、前記溶液の静電容量を計測して、前記吐出対象物の含有量を計測する。これにより、静電容量を測定するのみで、簡易に測定対象物の含有量を計測することができる。
【0010】
前記吐出手段は、前記液滴として吐出される前記溶液の部分を収容する待機部を有し、
前記計測手段は、前記待機部を挟んで対向する1対の電極板を有する。これにより、吐出後の液滴に相当する部分の溶液の静電容量を正確に計測することができる。
【0011】
前記液滴は被吐出対象体に吐出され、当該被吐出対象体に付着した前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を光学的に計測するモニタ手段をさらに有する。未だ液滴となる前の溶液の一部の被吐出対象物の含有量を計測しているため、計測値と、実際の液滴に含まれる被吐出対象物の含有量がずれる可能性がある。このため、モニタ手段により、吐出対象物の含有量を確認することは有効である。例えば、被吐出対象体に計測された含有量の被吐出対象物が付着していない場合には、再度同じ位置に吐出動作を行えばよい。
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の吐出装置は、複数の吐出対象物を含有する溶液を保持し、当該溶液の液滴を吐出する吐出手段と、吐出された前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測する計測手段と、計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせる偏向手段と、進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を回収する回収手段とを有する。
【0013】
上記の本発明では、吐出手段により溶液の液滴が吐出されると、計測手段により液滴に含まれる吐出対象物の含有量が計測される。そして、計測された含有量に基づいて、偏向手段により液滴の進行方向が変えられる。進行方向が異なる液滴の少なくとも一部が回収手段により回収される。
上記の本発明により、含有量に応じて液滴を打ち分けることができることから、吐出対象物の含有量が適正でない液滴については回収することができる。この結果、所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる。本発明では、吐出後の液滴に含まれる吐出対象物の含有量を直接計測するため、計測値と、被吐出対象体に配置後の吐出対象物の含有量とのずれもない。
【0014】
前記吐出手段に保持されている前記溶液を帯電させる帯電手段をさらに有し、前記偏向手段は、帯電した前記溶液の一部である前記液滴を偏向させる電界を生じさせる。液滴の帯電量および電界の強度を制御することにより、液滴の偏向量を制御することができる。
【0015】
前記吐出手段と前記偏光手段との間に、前記吐出手段により吐出された液滴を帯電させる帯電手段をさらに有し、前記偏向手段は、帯電した前記液滴を偏向させる電界を生じさせる。液滴の帯電量および電界の強度を制御することにより、液滴の偏向量を制御することができる。
【0016】
前記計測手段は、前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を光学的に計測する。これにより、吐出対象物の含有量を計測することができる。溶液中の吐出対象物を光学的に検出し難い場合には、吐出対象物を染色させればよい。
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明は、被吐出対象体に対して吐出対象物を含む溶液の液滴を吐出する吐出方法であって、前記溶液に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測するステップと、前記被吐出対象体へ向けて前記溶液の液滴を吐出するステップと、計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせるステップと、進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を、前記被吐出対象体へ到達する前に回収するステップと、を有する。
【0018】
上記の本発明では、溶液に含まれる吐出対象物の含有量が計測される。溶液の液滴が吐出されると、計測された吐出対象物の含有量に基づいて、液滴の進行方向が変えられる。進行方向が異なる液滴の少なくとも一部が、被吐出対象体へ到達する前に回収される。
上記の本発明により、含有量に応じて液滴を打ち分けることができることから、吐出対象物の含有量が適正でない液滴については回収することができる。この結果、所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる。また、本発明では、吐出前に吐出対象物の含有量を計測することにより、計測から偏向制御までの時間が確保されることから、液滴の進行方向を確実に制御することができる。
【0019】
上記の目的を達成するため、本発明は、被吐出対象体に対して吐出対象物を含む溶液の液滴を吐出する吐出方法であって、前記被吐出対象体へ向けて前記溶液の液滴を吐出するステップと、前記液滴に含まれる吐出対象物の含有量を計測するステップと、計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせるステップと、進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を、前記吐出対象体へ到達する前に回収する回収ステップと、を有する。
【0020】
上記の本発明では、溶液の液滴が吐出されると、液滴に含まれる吐出対象物の含有量が計測される。そして、計測された含有量に基づいて、液滴の進行方向が変えられる。進行方向が異なる液滴の少なくとも一部が回収手段により回収される。
上記の本発明により、含有量に応じて液滴を打ち分けることができることから、吐出対象物の含有量が適正でない液滴については回収することができる。この結果、所望の位置に吐出対象物を適切に配置することができる。本発明では、吐出後の液滴に含まれる吐出対象物の含有量を直接計測するため、計測値と、被吐出対象体に配置後の吐出対象物の含有量とのずれもない。
【0021】
前記液滴は、前記吐出対象物として細胞を含む。本発明の吐出装置は、溶液内に均一に分散させることが難しい細胞を用いた場合に、特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、吐出対象物として細胞を用い、当該細胞をガラス基板等の被吐出対象体に配置する例について説明する。なお、吐出対象物としては、細胞以外にも、細菌、ウイルス、生体組織などの他、金属微粒子等の無機物質を用いることができる。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る吐出装置1の構成を示す図である。
図1に示す吐出装置1は、細胞を含む培養液を収容するタンク2と、培養液の液滴21を吐出する吐出手段3と、液滴を偏向させる偏向手段5と、不要な液滴を回収する回収手段6と、装置全体を制御する制御手段7とを有する。液滴21は、被吐出対象体8に向けて吐出される。
【0024】
タンク2は、細胞を含む培養液(溶液)を収容する。タンク2には、培養液中に細胞を均一に分散させるための攪拌手段を設けても良い。タンク2には、帯電手段9が設けられている。帯電手段9は、タンク2内部に設けられた、例えば正あるいは負に帯電した帯電電極板を有する。帯電手段9の帯電電極板には外部の直流電圧を印加可能となっており、帯電電極板の電位を任意に設定可能となっている。帯電手段9により、タンク2内に収容された培養液は電荷を帯びることとなる。
【0025】
吐出手段3は、いわゆる液滴吐出ヘッドである。吐出手段3は、タンク2から供給される細胞20を含む培養液が充填されたキャビティ(収容部)31と、細胞を含む培養液を液滴として吐出するノズル33と、キャビティ31とノズル33とを繋ぐ待機部32とを有する。
【0026】
キャビティ31は、タンク2に連結しており、タンク2から供給される細胞20を含む培養液を保持する。キャビティ31の側面には、圧電素子30が設けられている。圧電素子30は、強誘電体セラミックス等の圧電体膜を薄膜電極で狭持した構造を有している。制御手段7から圧電素子30の薄膜電極間に駆動電圧が印加されることにより、圧電素子30が変形し、キャビティ31の側面が振動板として機能する。キャビティ31の内部が変形することにより、ノズル33から細胞20を含む液滴21が吐出される。
【0027】
待機部32には、1回に吐出される液滴量以上の体積を有している。待機部32の側壁には、待機部32内の培養液の静電容量を計測する一対の検出電極4が設けられている。培養液の静電容量に応じて一対の検出電極4間の電圧が変化し、この電圧が制御手段7により検出されることにより、待機部32内の1滴分に対応した溶液の静電容量が検出される。本発明の計測手段は、検出電極4および制御手段7に相当する。
【0028】
図2は、液滴に含まれる細胞数と静電容量との関係を示す図である。
図2に示すように、細胞数(吐出対象物の含有量)が増えるにしたがって静電容量が増加することがわかる。従って、静電容量を測定することにより、液滴中に含まれる細胞数が測定できる。なお、図2に示す細胞数と静電容量との関係を予め測定しておき、このデータを制御手段7に記憶させておけばよい。これにより、制御手段7では、測定された静電容量に応じて細胞数を特定することができる。
【0029】
ノズル33からは、圧電素子30に駆動電圧が印加されると、待機部32内の培養液が液滴として吐出される。ノズル33から吐出された液滴21は、偏向手段5を通って、回収手段6あるいは被吐出対象体8に到達する。
【0030】
偏向手段5は、一対の偏向電極5a,5bを有する。制御手段7により偏向電極5a,5b間に偏向電圧が印加されると、偏向電極5a,5b間に電界が生じ、帯電した液滴21の進行方向が調整される。例えば、細胞20の数が適切な液滴21aに対しては、偏向電圧を印加させずに、液滴21aを被吐出対象体8へ向けて直進させる。また、細胞20の数が適切でない液滴21bに対しては、液滴21を偏向して、回収手段6へ回収させる。なお、適切でない液滴21bのみを偏向させても、適切な液滴21aのみを偏向させても、双方(21a,21b)とも偏向させてもよい。
【0031】
回収手段6は、図示しない回収用ポンプを備えており、回収した液滴21を再びタンク2へ戻す。被吐出対象体8は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、合成樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)等が挙げられる。
【0032】
制御手段7は、装置全体の動作を制御する。例えば、制御手段7は、帯電手段9に帯電電圧を印加し、圧電素子30に駆動電圧を印加し、偏向手段5に偏向電圧を印加する。また、制御手段7は、検出電極4の電圧に基づいて待機部32における静電容量を測定し、測定された静電容量に基づいて細胞数を算出する。
【0033】
制御手段7は、所定の基準数と比較して、待機部32内の細胞数が基準数内にあるか否かを判別する。例えば、基準数を1とした場合には、1つの細胞を含む場合のみを適切と判別し、0あるいは2以上の細胞を含む場合を不良と判別する。なお、基準数は、例えば1以上3以内といったように幅をもっていてもよい。ただし、以降の例では基準数を1とした場合について説明する。
【0034】
図示はしないが、被吐出対象体8はステージ上に搭載されている。ステージはXY方向に移動可能に構成される。あるいは、吐出手段3をXあるいはY方向に移動可能とし、ステージをYあるいはX方向に移動可能に構成してもよい。これにより、被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置をXY方向に調整することができ、被吐出対象体8の所望の位置に細胞20を配置することが可能となる。
【0035】
次に、本実施形態に係る吐出装置を用いた吐出方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0036】
待機部32内の培養液の静電容量を測定することにより、待機部32内に含まれる細胞数を測定する(ステップST1)。待機部32内の培養液は、次回にノズル33より吐出される1回分の液滴と同等、あるいはこれより少し量が多い。
【0037】
制御手段7は、測定された細胞数が基準数内にあるか否かを判定する。基準数を1とした場合には、細胞数が1であるか否かを判定する。細胞数が1の場合には、適切であると判別される。細胞数が0あるいは2以上の場合には、不良であると判定される(ステップST2)。
【0038】
細胞数が不良であると判定された場合には、偏向手段5に偏向電圧が印加され(ステップST3)、圧電素子30に駆動電圧が印加される(ステップST4)。これにより、待機部32内の培養液は、ノズル33から液滴として吐出され、吐出した液滴は偏向手段5により偏向されて、回収手段6に回収される。回収用ポンプが作動することにより(ステップST5)、回収された液滴は再びタンク2へ戻される。
【0039】
細胞数が適切であると判定された場合には、圧電素子に駆動電圧が印加される(ステップST6)。これにより、待機部32内の培養液は、ノズル33から液滴として吐出され、吐出した液滴21は被吐出対象体8に到達する。
【0040】
被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置を変えた後、上記のステップST1〜ステップST6を繰り返し行うことにより、被吐出対象体8に対して所望の細胞のパターンを形成することができる。
【0041】
第1実施形態に係る吐出装置および吐出方法によれば、静電容量を測定することにより、1回分の液滴に含まれる細胞数を測定し、細胞数が不適切な液滴を回収手段6へ向けて偏向させることにより、細胞数が適切な液滴のみを被吐出対象体8へ到達させることができる。この結果、被吐出対象体に吐出対象物としての細胞を適切に配置することができる。さらに、第1実施形態では、吐出前に細胞数を計測することができることから、計測から偏向制御までの時間を確保することができ、液滴の進行方向を確実に制御することができる。
【0042】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る吐出装置1の概略構成図である。第1実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付しており、その説明は省略する。
【0043】
第2実施形態では、被吐出対象体8への吐出位置に付着した液滴21を光学的に計測するモニタ手段10が設けられている。モニタ手段10は、例えばCCDカメラである。モニタ手段10により得られた液滴21および細胞20の光学像に基づいて、制御手段7が液滴21および細胞20の有無を判別する。なお、細胞20の光学像を得にくい場合には、細胞20を染色させておくことが好ましい。
【0044】
次に、本実施形態に係る吐出装置を用いた吐出方法について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
ステップST1〜ST6については、第1実施形態と同様である。細胞数が適切であると判定された場合には(ステップST2)、圧電素子に駆動電圧が印加される(ステップST6)。これにより、待機部32内の培養液は、ノズル33から液滴として吐出され、吐出した液滴21は被吐出対象体8に到達する。
【0046】
液滴21の吐出後、モニタ手段10により液滴21および液滴21中の細胞20の有無が観察される(ステップST7)。細胞20が確認されない場合には(ステップST8)、被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置を変えずに、再びステップST1〜ST8までの処理が行われる。
【0047】
細胞20が確認された場合には、被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置を変えた後、上記のステップST1〜ステップST8を繰り返し行うことにより、被吐出対象体8に対して所望の細胞のパターンを形成することができる。
【0048】
待機室32に含まれる細胞数を測定した場合には、計測値と、実際の液滴に含まれる細胞数がずれる可能性がある。このため、モニタ手段10により被吐出対象体8に付着した液滴21に含まれる細胞数を確認し、細胞数が適切でない場合には同じ位置に吐出動作を再び行うことにより、このずれによる誤差をなくすことができる。
【0049】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。本実施形態では、液滴21中の細胞数を計測する計測手段として、検出電極4の代わりに、光源11および受光手段12が設けられている。光源11および受光手段12は、吐出手段3のノズル33と、偏向手段5との間に設けられており、液滴21中の細胞数を計測する。本実施形態において、吐出手段3には待機部32を設けなくても良い。
【0050】
光源11として、例えばレーザを用いる。受光手段12は、CCDカメラあるいはフォトダイオードからなる。CCDカメラの場合には、液滴21中の細胞20の光学像に基づいて、制御手段7が細胞20の数を計測する。フォトダイオードの場合には、フォトダイオードにより計測された光量に基づいて、制御手段7が細胞20の数を計測する。細胞20の光学像を得にくい場合には、細胞20を染色させておくことが好ましい。
【0051】
次に、本実施形態に係る吐出装置を用いた吐出方法について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0052】
まず、圧電素子に駆動電圧が印加される(ステップST21)。これにより、ノズル33から液滴が吐出される。
【0053】
吐出手段3から吐出された液滴21の光学像が受光手段12により取得されて、制御手段7により液滴21中の細胞数が計測される(ステップST22)。
【0054】
制御手段7は、測定された細胞数が基準数内にあるか否かを判定する(ステップST23)。基準数を1とした場合には、細胞数が1であるか否かを判定する。細胞数が1の場合には、適切であると判別される。細胞数が0あるいは2以上の場合には、不良であると判定される。
【0055】
細胞数が不良であると判定された場合には、偏向手段5に偏向電圧が印加される(ステップST24)。これにより、液滴21は偏向手段5により偏向されて、回収手段6に回収される。回収用ポンプが作動することにより(ステップST25)、回収された液滴は再びタンク2へ戻される。被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置を変えずに、再び上記のステップST21〜23の処理が行われる。
【0056】
細胞数が適切であると判定された場合には、液滴21は偏向手段5により偏向されることなく直下して、被吐出対象体8に到達する。被吐出対象体8に対する吐出手段3の位置を変えた後、上記のステップST21〜ステップST25を繰り返し行うことにより、被吐出対象体8に対して所望の細胞のパターンを形成することができる。
【0057】
本実施形態に係る吐出装置および吐出方法によれば、液滴21中の細胞数を光学的に計測することにより、1回分の液滴に含まれる細胞数を測定し、細胞数が不適切な液滴を回収手段6へ向けて偏向させることにより、細胞数が適切な液滴のみを被吐出対象体8へ到達させることができる。この結果、被吐出対象体に吐出対象物としての細胞を適切に配置することができる。本実施形態では、吐出後の液滴21に含まれる細胞数を直接計測するため、計測値と、被吐出対象体8に配置後の細胞数とのずれもない。
【0058】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。本実施形態は、第3実施形態における帯電手段の態様を変更したものである。
【0059】
本実施形態では、ノズル33と偏向手段5との間に、帯電手段13が設けられている。
帯電手段13は、液滴21の進路を挟むように設けられた、例えば正あるいは負に帯電した帯電電極板を含む。落下中の液滴21は、帯電手段13を通過することにより、電荷を帯びる。
【0060】
上記の本実施形態に係る吐出装置を用いた吐出方法については、第3実施形態と同様である。以上説明したように、吐出前の培養液を帯電させずに、吐出手段3から吐出後の液滴21を帯電させてもよい。本実施形態によっても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0061】
(第5実施形態)
第1〜第4実施形態では、液滴21中に適切な数、例えば1つの細胞20が含まれているかを測定し、0あるいは2以上の細胞20が含まれている場合には、回収手段6により回収する例について説明した。しかしながら、本実施形態に係る吐出装置の使用方法は、これに限定されるものではない。例えば、1〜3を適切な細胞数として、細胞数の数に応じて偏向量を変えても良い。図9は、この場合の吐出方法のフローチャートを示したものである。
【0062】
待機部32内の培養液の静電容量を測定する(ステップST31)。制御手段7は、静電容量値に基づいて、待機部32内に含まれる細胞の数を測定する(ステップST32)。
【0063】
本実施形態では、細胞の数に応じた偏向電圧を印加する(ステップST33)。この状態で圧電素子30に駆動電圧が印加されると(ステップST34)、ノズル33から吐出した液滴は、偏向手段5により偏向量が制御される。本実施形態では、液滴は、細胞20の数に応じて被吐出対象体8上の異なる位置に配置される。なお、細胞が存在しない、あるいは細胞数が所定値よりも多い場合については、回収手段6に回収させればよい。
【0064】
本実施形態に係る吐出装置および吐出方法によれば、吐出対象物である細胞数に応じて、細胞を含む液滴の滴下位置を制御することができる。
【0065】
本発明は、上記の実施形態の説明に限定されない。
本実施形態では、吐出対象物として細胞を例に説明したが、細胞以外の生体物質、あるいは生体物質以外の無機物質を吐出してもよい。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。
【図2】液滴に含まれる細胞数と静電容量との関係を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る吐出方法のフローチャートを示す図である。
【図4】第2実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る吐出方法のフローチャートを示す図である。
【図6】第3実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。
【図7】第3実施形態に係る吐出方法のフローチャートを示す図である。
【図8】第4実施形態に係る吐出装置の構成を示す図である。
【図9】第5実施形態に係る吐出方法のフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1…吐出装置、2…タンク、3…吐出手段、4…検出電極、5…偏向手段、5a,5b…偏向電極、6…回収手段、7…制御手段、8…被吐出対象体、9…帯電手段、10…モニタ手段、11…光源、12…受光手段、13…帯電手段、20…細胞、21,21a,21b…液滴、30…圧電素子、31…キャビティ(収容部)、32…待機部、33…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出対象物を含有する溶液を保持し、当該溶液の液滴を吐出する吐出手段と、
前記溶液に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測する計測手段と、
計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記吐出手段から吐出された前記液滴の進行方向を異ならせる偏向手段と、
進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を回収する回収手段と、
を有する吐出装置。
【請求項2】
前記吐出手段に保持される前記溶液を帯電させる帯電手段をさらに有し、
前記偏向手段は、帯電した前記溶液の一部である前記液滴を偏向させる電界を生じさせる、
請求項1記載の吐出装置。
【請求項3】
前記計測手段は、前記溶液の静電容量を計測して、前記吐出対象物の含有量を計測する、
請求項1記載の吐出装置。
【請求項4】
前記吐出手段は、前記液滴として吐出される前記溶液の部分を収容する待機部を有し、
前記計測手段は、前記待機部を挟んで対向する1対の電極板を有する、
請求項3記載の吐出装置。
【請求項5】
前記液滴は被吐出対象体に吐出され、当該被吐出対象体に付着した前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を光学的に計測するモニタ手段をさらに有する、
請求項1記載の吐出装置。
【請求項6】
複数の吐出対象物を含有する溶液を保持し、当該溶液の液滴を吐出する吐出手段と、
吐出された前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測する計測手段と、
計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせる偏向手段と、
進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を回収する回収手段と、
を有する吐出装置。
【請求項7】
前記吐出手段に保持されている前記溶液を帯電させる帯電手段をさらに有し、
前記偏向手段は、帯電した前記溶液の一部である前記液滴を偏向させる電界を生じさせる、
請求項6記載の吐出装置。
【請求項8】
前記吐出手段と前記偏光手段との間に、前記吐出手段により吐出された液滴を帯電させる帯電手段をさらに有し、
前記偏向手段は、帯電した前記液滴を偏向させる電界を生じさせる、
請求項6記載の吐出装置。
【請求項9】
前記計測手段は、前記液滴に含まれる前記吐出対象物の含有量を光学的に計測する、
請求項6記載の吐出装置。
【請求項10】
被吐出対象体に対して吐出対象物を含む溶液の液滴を吐出する吐出方法であって、
前記溶液に含まれる前記吐出対象物の含有量を計測するステップと、
前記被吐出対象体へ向けて前記溶液の液滴を吐出するステップと、
計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせるステップと、
進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を、前記被吐出対象体へ到達する前に回収するステップと、
を有する吐出方法。
【請求項11】
被吐出対象体に対して吐出対象物を含む溶液の液滴を吐出する吐出方法であって、
前記被吐出対象体へ向けて前記溶液の液滴を吐出するステップと、
前記液滴に含まれる吐出対象物の含有量を計測するステップと、
計測された前記吐出対象物の含有量に基づいて、前記液滴の進行方向を異ならせるステップと、
進行方向が異なる前記液滴の少なくとも一部を、前記吐出対象体へ到達する前に回収する回収ステップと、
を有する吐出方法。
【請求項12】
前記液滴は、前記吐出対象物として細胞を含む、
請求項10、11のいずれかに記載の吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−693(P2008−693A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173148(P2006−173148)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】