説明

吐出装置

【課題】吐出された液滴または粉体の吸入流路への付着量を低減させ、適切な吸入量を確保することができる吐出装置を提供する。
【解決手段】吐出手段11により液滴または粉体を吸入流路20内に吐出して、利用者に吸い口部26から吸入させる吐出装置である。吐出装置は、正及び負のイオンを発生するイオン発生手段13を有し、吸い口部26に繋がる吸入流路20内に向けて、必要に応じて、イオン発生手段13からイオンを発生させる構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出装置に関し、特に薬剤などの液剤を液滴として吐出したり或いは薬などの粉体を吐出したりして利用者に吸入させる吐出装置ないし吸入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医学及び科学の進歩により、平均寿命が延びて高齢化社会となりつつある。その反面、食生活や生活環境の変化や環境汚染が進み、またウイルスや菌などによる新たな病気や感染症が見つかり、人々の健康に対する不安は増えている。特に、先進国と呼ばれる国々においては、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の患者の増加が問題となっている。
【0003】
一方、医療機関の数はこの様な患者の増加に対応できるほど増えておらず、通院可能な医療機関がない地域もあるため、政策を含めた今後の対応が懸念されている。
【0004】
具体的な例を挙げて説明すると、現在増加傾向にある糖尿病の患者のうち、I型と呼ばれるインスリン依存型糖尿病の患者は、膵臓からインスリンが分泌されないため、定期的にインスリンを投与する必要がある。インスリンの投与は、現在、皮下注射によって行われているため、利用者の肉体的・精神的負担は大きい。
【0005】
この様な利用者の負担を軽減するために、針が細くあまり痛みを感じないペン型の注射器も開発されている。しかし、I型糖尿病の患者は、インスリンを定期的に投与する必要がある以外は健常者と同様の生活を送っている場合が多い。したがって、ペン型であっても人前で注射を打つことには精神的に抵抗があるため、適切な時間に投与を行うのが困難となる。結果として、この様な方法では利用者への適切な処置がなされない可能性があった。
【0006】
一方、利用者に吸入して薬剤を摂取させる薬剤吐出装置により、電子カルテなどの情報データベースを活用できる利用者への処置が具現化しつつある。こうした薬剤吐出装置は、利用者のカルテ及び処方箋の情報を含む利用者個人に関する情報を格納する記憶手段と、薬剤を微小液滴として吐出して利用者に吸入させる吸入器を兼ね備えた携帯端末でもある。そして、前記処方箋の情報にしたがって利用者が薬剤を吸入できる様に、吸気プロファイルに応じて吸入器を制御して薬剤を吐出させる吐出制御手段を有するものである(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
この様な薬剤吐出装置は、薬剤の投与量や投与インターバルを処方箋にしたがって正確に管理できると共に、個々の利用者の吸気プロファイルに従った適切な吐出制御を行い、効率良く薬剤を投与できなければならない。
【特許文献1】国際公開WO95/01137号公報
【特許文献2】国際公開WO02/04043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の如き吐出装置では、マウスピース等から吸入される空気流の中に、吐出ヘッドに設けた気泡発生用ヒータや圧電素子の力によって排出オリフィスから適正な小滴として所定数吐出させる方法が考案され、粒径の均一化が、可能となってきている。しかしながら、排出オリフィスから吐出される液滴は、径が1ミクロンから6ミクロンと非常に微小である場合がしばしばで、液滴吐出後の流路を形成しているマウスピース内壁に付着しやすい。
【0009】
この理由は次の通りである。マウスピースは、使い捨て、軽量であることを考えて、非導電体である樹脂材料で作られることが多い。そのために、マウスピースには摩擦帯電などで発生した静電気が蓄積され、排出オリフィスから吐出された微小液滴と流路を形成するマウスピースとの間に電位差が生じ易い。したがって、体内に吸入されるべき微小液滴は、クーロン力によって引き付けられ、マウスピース内部に付着して残ってしまうことがある。このため、必要薬剤量分の吸入ができない懸念があり、吐出装置実用化の障害となっているのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明の吐出装置ないし吸入装置は、吐出手段により液滴または粉体を吸入流路内に吐出して利用者に吸い口部から吸入させる装置である。そして、正及び負のイオンを発生するイオン発生手段を有し、吸い口部に繋がる吸入流路内に向けて、イオン発生手段からイオンを発生させる構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吐出装置ないし吸入装置によれば、イオン発生手段により電気的な中和が吸入流路内で行われるので、吐出される液滴や粉体の吸入流路への付着量が低減され、利用者は適切な吸入量を吸入できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態を説明する。本実施形態の吐出装置ないし吸入装置は、利用者のカルテ及び処方箋の情報を含む利用者個人に関する情報を格納するための記憶手段を備える。そして、薬剤を粒子サイズの均一性が高い微小液滴として定量吐出することを可能とする吐出手段を備えて、利用者に吸入させる吸入器である。また、使用時に、利用者が、吸入を行う吸い口部を持つマウスピース、及び薬剤を収納するタンクとタンクから供給される薬剤を微小液滴として吐出する吐出ヘッド部(吐出手段)を吸入器本体に装着可能となっている。こうして、処方箋の情報に従って、利用者が薬剤を効率的かつ衛生的に吸入できる様になっている。
【0013】
そして、吸入器全体のエアーフロー(吸入流路)は、上記マウスピースのみにて形成されていて、正及び負のイオンを発生するイオン発生部を備える。この様に、イオン発生部からのイオンをマウスピースのエアーフロー内に向けて発生させる構成とすることにより、マウスピース内壁の静電気を中和して吐出された液滴がマウスピース内壁に付着することを防止する。
【0014】
また、液滴吐出と同期するためのタイミング信号のパルス発生を行うタイミング信号発生部を設け、液滴の吐出の前に、正と負のイオンを発生するイオン発生部を起動させる構成としている。これにより、液滴がマウスピース内を通過する前のマウスピース内壁を静電気的に中和でき、吐出液滴の最初の吐出部分の付着も防げる。こうした理由で、吐出の前であることが好ましいが、後に或いは同時にであっても、一定程度の液滴付着防止効果がある。
【0015】
さらに、マウスピースの途中に、吸入検知機能を持つ負圧センサを配置し、負圧センサより外気取り入れ口側に吐出ヘッド部とイオン発生部を配置している。そして、この負圧センサ値により吸入量を測定し、吐出される薬剤の液滴と吸入量に対応できる正と負のイオンの発生量を記憶装置、演算装置によって決定する構成としている。これにより、吐出された液滴も吐出時に帯電しているが、吐出量と空気吸入量に適応した効率的な除電が行われ、マウスピース内壁への液滴の付着を低減できる。
【0016】
上記説明では、液滴が吐出されるとしたが、粉体でも同様な静電気の問題が起こり得るので、上記構成は、粉体が吐出される場合にも適用できる。また、一般に、吸入流路内が正と負のいずれに帯電しているかは不明である。したがって、イオン発生部から供給される正と負のイオンの量は、吐出される液滴または粉体及び吸入空気に起因する帯電の量に比して、充分多量の電気量を上記正または負のイオンで供給できる様になっているのがよい。
【0017】
以上の実施形態によれば、マウスピースの内壁への付着を低減することで、患者が薬剤を適正量吸入することが可能となり、患者が安心して吐出装置を使用できるようになる。また、マウスピースに付着したものは、捨てることになってしまっていたが、本実施形態によれば薬剤を有効に患者が吸入できるので経済的負担も軽減できる。さらには、正確な吸入量を保証できるので、少量で効果のある薬剤への応用も可能となる効果がある。
【実施例】
【0018】
以下、図1〜図5を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明による一実施例の外観を示す斜視図である。同図において、1は吐出装置本体、2はアクセスカバー、3はフロントカバーであり、これらによりハウジングを形成している。また、5はロックレバーで、アクセスカバー2が使用時において開かない様にアクセスカバー2の先端に設けた突起部に係合する。そのために、ロックレバー5は、バネによって付勢されたロックレバー5の先端に設けた爪形状がひっかかりを持つ様に形成されている。ロックレバー5を下方にスライドさせると、アクセスカバー2を付勢しているアクセスカバー戻しバネ6(図2に示す)の力により、アクセスカバー2はヒンジ軸7(図2に示す)を回転中心として開く。また、31は、表示用LEDで、後述の吐出ユニットあるいはマウスピースが装着されていないとか、吐出ユニットのタンク内の液剤が空であるとか等を表示するためのものである。
【0020】
図2は、アクセスカバー2が開いた状態を図示する。アクセスカバー2が開くと、内部にアクセスできて、薬剤を収納したタンクを含む薬剤吐出ユニット8と利用者が吸入時に使用するマウスピース9を吐出装置1に取り付け可能となる。マウスピース9は吐出ユニット8の下に装着され、これらは交差して装着される。こうして、使用時には薬剤吐出ユニット8とマウスピース9を装着した後にアクセスカバー2を閉じて、利用者が吐出装置を使用する。
【0021】
薬剤吐出ユニット8とマウスピース9は衛生面から鑑み、使い捨てあるいは定期的な交換が望ましいので、両者が一体となった構造でもよい。
【0022】
吐出ユニット8の全体を図3に示す。吐出ユニット8は、液剤を包含するタンク10、液剤を吐出するヘッド部(吐出部)11、ヘッド部11に設けたヒータに、気泡を発生させるための熱エネルギーを付与する電力をバッテリ(不図示)から供給するための電気接続面12などから構成されている。なお、ヘッド部11の構成はこれに限らず、ヒータの代わりに圧電素子を設けた圧電エネルギーを利用する構成などであってもよい。
【0023】
吐出ユニット8の電気接続面12の各端子は、装置本体に吐出ユニット8を装着するとき、装置本体側の電気接続面22の対応する端子(図2参照)と電気的に接続される。バッテリは、例えば、上記ヒータ等にエネルギーを与えるための電力を、吐出装置内部に保持している2次電池として充電可能なものである。吐出ユニット8の前面部はヒンジ部24を中心に開けられる様になっていて、タンク10にアクセスできる。また、吐出ユニット8のヘッド部11は、装着時に、マウスピース9の開口部19(図2参照)を介してマウスピース9内に形成された吸入流路20(図4参照)内に露出する様になっている。これにより、ヘッド部11から吐出される液滴はマウスピース9の吸入流路20内に入ることができる。
【0024】
図4は、本装置を吸入流路20にて断面とした断面図である。マウスピース9は、本体内部の汚れ防止のためにマウスピース9のみで吸入流路20を形成しており、薬剤吐出ユニット8の吐出ヘッド部11に設けられた吐出口から薬剤がマウスピース9内に吐出される。吸入流路20を挟んで、薬剤吐出ユニット8と対向する面側には、オゾンフィルタ14を介して、コロナ放電により空気をイオン化するイオン発生器13が配置されている。オゾンフィルタ14は、イオン発生の際に生じる可能性のあるオゾンを回収するためのものである。イオン発生器としては、空気をイオン化できて比較的小型化できるものであれば、どの様な方式でオゾン発生するものであっても使用可能である。
【0025】
吸入流路20の途中には、吸入流路20内の負圧を測定するための負圧センサ15が配置されている。また、吐出装置の種々の動作の制御を行うためのコントロール基板16上には、演算装置、記憶装置としてのCPU、フラッシュメモリなどが配置されている。
【0026】
さらに、図4において、25は吸入流路20の空気取り入れ口、26は吸入口である。吸入動作を行う際には、薬剤吐出ユニット8から吐出され液滴化した薬剤が、空気取り入れ口25から吸入口26への吸入動作で発生した空気の流れに乗り、マウスピース9の吸入流路20を通じて人体に摂取される。
【0027】
図5に、吐出装置1の使用例をフローチャートにて示す。
まず、利用者によって電源スイッチが押されるなどの動作により使用開始状態となる。使用開始後、アクセスカバー2の開閉チェック、薬剤吐出ユニット8の有無をチェックし(S801)、薬剤吐出ユニット8がなければそのまま終了する。
【0028】
薬剤吐出ユニット8の検出手段としては、例えば、薬剤吐出ユニット8がサーマルインクジェット方式によって吐出を行う場合、吐出エネルギー発生手段となるヒータの抵抗値を測定することで実現できる。
【0029】
薬剤吐出ユニット8がある場合、吸入開始を待つ(S802)。負圧センサ15にて、所定の負圧が発生して吸入が検知される(S803)と、イオン発生器13からの比較的多量のイオン発生によりマウスピース内壁の除電を行う(S804)。この際、マウスピース9の内壁の帯電状態が明確でないので、初期設定された正、負のイオン量を発生させる。温度センサ、湿度センサを本装置内に具備して、その測定値によって初期設定値に補正を加えたイオン発生量でもよい。例えば、湿度が高いときは帯電は低めになるので、イオン発生もそれに応じて少なめに補正する。発生した正、負のイオンは、吸入流に乗り、マウスピース内壁の静電気を中和しながらマウスピース内部を通っていく。一定時間後、吐出が開始される(S805)。
【0030】
吸入動作中において、モニターしている負圧センサ15の測定値から吸入量を算出(S806)し、吸入空気量に対して吐出液滴の濃度を一定に保つ様に吐出量を制御するために吐出周波数の調整により吐出液滴数を変化させる。また、気泡発生方式や圧電素子駆動方式で吐出された液滴は、電気的に正に帯電している。したがって、この液滴数に応じて、正と負のイオン発生量とのバランスを演算(S807)し、イオン発生量調整操作を自動的に行う(S804)。イオンバランスが崩れるとマウスピース内壁が、再び、帯電を始めるために、吐出液滴が付着しやすくなる。したがって、イオンバランスの調整は重要である。その後、薬剤吸入量がチェック(S808)され、問題がなければ所定量薬剤の吸入が終了して、電源は自動的にOFFとなる。薬剤吸入量が不足していれば、不足分が演算(S809)され、再度の吸入動作を促す(S802)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の吐出装置の実施例を説明する斜視図である。
【図2】本発明の吐出装置の実施例でアクセスカバーが開いている状態を説明する斜視図である。
【図3】本発明の吐出装置の実施例の吐出ユニットを説明する斜視図である。
【図4】本発明の吐出装置の実施例を説明する断面図である。
【図5】本発明の吐出装置の実施例のフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
8 吐出ユニット
9 マウスピース
11 吐出手段(吐出ヘッド部)
13 イオン発生手段(イオン発生器)
14 オゾンフィルタ
15 負圧センサ
20 吸入流路
26 吸い口部(吸入口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出手段により液滴または粉体を吸入流路内に吐出して利用者に吸い口部から吸入させる吐出装置であって、
正及び負のイオンを発生するイオン発生手段を有し、前記吸い口部に繋がる吸入流路内に向けて、前記イオン発生手段からイオンを発生させる構成としたことを特徴とする吐出装置。
【請求項2】
前記イオン発生手段は、吸入流路内に吐出される液滴または粉体及び吸入空気に起因する帯電の量に比して、充分多量の電気量を正または負のイオンで供給できる様に構成されている請求項1に記載の吐出装置。
【請求項3】
前記吐出手段の吐出に対して所定のタイミングで、前記イオン発生手段からイオンを発生させる請求項1または2に記載の吐出装置。
【請求項4】
前記吸入流路内の流量を検知する流量検知手段を有し、液滴または粉体の吐出量と空気吸入量に応じて前記イオン発生手段のイオン発生量が変化させられることを特徴とする請求項1、2または3に記載の吐出装置。
【請求項5】
前記流量検知手段は、負圧センサであることを特徴とする請求項4に記載の吐出装置。
【請求項6】
前記吐出手段は、熱エネルギーまたは圧電エネルギーを利用して液滴を吐出する吐出ヘッドを備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−75227(P2007−75227A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264536(P2005−264536)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)