説明

吐水装置

【課題】水力を利用して吐水位置を反復的に変化させることができる吐水装置であって、反復運動の往路と復路とで移動速度を異ならせることができる吐水装置を提供する。
【解決手段】吐水装置10にハウジング2を設け、ハウジング2の内部を中子20によって2つの圧力室16、18に分割する。中子20の内部には中子内流路24を形成する。そして、中子20の片側に、その内部に吐水流路82が形成された吐水筐体80を連結する。吐水筐体80には、圧力室18内を通過させ、ハウジング2の外部まで延出させる。これにより、中子20の圧力室16側の受圧面積を圧力室18側の受圧面積よりも大きくし、反復運動の往路と復路の移動速度を異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐水装置に関し、特に、シャワーノズルや散水ノズルなどの吐水位置を反復的に変化させる自動往復動作を可能とした吐水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リラクゼーションや美容健康増進などを目的としたシャワーシステムや吐水・噴霧システムのニーズが高まっている。これらの用途においては、例えば、旋回流などを利用して数10ヘルツ以上の比較的高速で水流を変調させることにより、マッサージ効果などを促進するアプローチがある。また一方、例えば数ヘルツ以下の比較的ゆっくりとした速度でシャワーノズルなどの吐水位置や吐水方向を反復的に変化させると、例えば人体の所定範囲に均一に吐水を噴射してリラクゼーション効果などを促進することが可能である。
【0003】
同様のニーズは、民生用機器、産業用途あるいは農林用途などにおいても広く存在し、洗浄、リンス、冷却、加湿、前処理、育成などの多種多様な目的のために、ゆっくりとした往復動作が必要とされている。
【0004】
往復動作のために、モータやソレノイドなどの電動手段を用いることも可能であるが、浴室などで吐水させるシステムに搭載するためには、電源の確保や、感電や漏電などに対する対策が必要とされ、コストや信頼性の点でも解決すべき課題が多い。
【0005】
これに対して、往復動作を水力により実現できれば、電気や潤滑オイルなどが不要となり、初期コスト、ランニングコスト、信頼性、メンテナンス性などの多くの観点で、改善が期待できる。
【0006】
上下往復動作を可能としたシャワー装置として、ピストンと4方弁とを組み合わせたものが開示されている(特許文献1)。このシャワー装置は、シリンダー内に設けられたピストンを水圧により上下動作させ、ワイヤーを介してシャワーヘッドを上下に移動させる。ピストンの上下動作の切替は、シリンダーに対する給水流路を4方弁により切り替えることにより実施される。
【0007】
【特許文献1】特開平2−134119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来のシャワー装置の場合、シリンダーと4方弁とが別体として設けられ、システムが大型且つ複雑である。また、流路が長くなるために、圧力損失が大きく、吐水力が低下するという点でも改善の余地がある。
【0009】
また、このように反復的な直線運動を可能にした吐水装置の実際の使用態様を考えると、例えば、往復動作において、往路と復路とで移動速度を異ならせることができると、更に便利である。例えば、この吐水装置を人体を洗浄するためのシャワーとして使用する場合、吐水位置を、汚れを落とす方向、即ち下方にはゆっくりと移動させ、上方には速やかに移動させることにより、全体として効率的な洗浄が可能となる。
【0010】
本発明はかかる課題の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、水力を利用して吐水位置を反復的に変化させることができる吐水装置であって、反復運動の往路と復路とで移動速度を異ならせることができる吐水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、
内部に空間を有するハウジングと、
前記空間を第1及び第2の圧力室に分割しつつ前記空間内を移動可能とされ、内部に中子内流路を有する中子と、
前記中子内流路に連通し前記ハウジングの外側に至る吐水流路を有する吐水筒体と、
前記第1の圧力室に流体を導入する第1の入水口と、
前記第2の圧力室に流体を導入する第2の入水口と、
前記第1の圧力室から前記中子内流路に流体を導入する第1の導入口と、
前記第2の圧力室から前記中子内流路に流体を導入する第2の導入口と、
前記第1及び第2の導入口の開度を変化させる弁体と、
前記中子がその移動域における前記第1の圧力室側の端部に到達したときに、前記第1の圧力室内の圧力と、前記中子の前記第1の圧力室に面した部分を前記中子の移動方向に直交する平面上に投影した第1の面積との積を、前記第2の圧力室内の圧力と、前記中子の前記第2の圧力室に面した部分を前記平面上に投影した第2の面積との積よりも大きくし、前記中子がその移動域における前記第2の圧力室側の端部に到達したときに、前記第2の圧力室内の圧力と前記第2の面積との積を、前記第1の圧力室内の圧力と前記第1の面積との積よりも大きくするように、前記弁体を作動させて前記第1及び第2の導入口の開度を変更する制御手段と、
を備え、
前記第1の面積と、前記第2の面積と、が異なることを特徴とする吐水装置が提供される。
なお、中子の移動域とは、吐水装置を作動させたときに中子が実際に移動する空間をいい、移動域の端部とは、中子の移動方向における端部をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水力を利用して吐水位置を反復的に変化させることができる吐水装置であって、反復運動の往路と復路とで移動速度を異ならせることができる吐水装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0014】
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る吐水装置の全体構成を示す模式図であり、図2乃至図5は、この吐水装置の動作メカニズムを示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る吐水装置10は、ハウジング2と、ハウジング2から突出した吐水筒体80と、を有する。そして、吐水筒体80の中には吐水流路82(図2参照)が形成されており、その先端にシャワーノズルなどの吐水ノズル800を接続することにより、吐水W2が得られる。
【0015】
ハウジング2には、2つの入水口12、14が接続されている。入水口12及び14は、二叉に分岐された給水配管700の分岐端にそれぞれ設けられており、水又は湯等の流体W1が相互に同じ圧力で供給されるようになっている。例えば、入水口12及び14の内径及び形状は相互に同一であり、従って、流路抵抗も相互に等しい。
【0016】
このように、入水口12、14を並列に接続し、水やお湯などの流体W1をこれら入水口12、14にほぼ同圧に供給すると、後述の原理により、吐水筒体80が矢印Mで表したように、左右に往復運動をしながら、吐水ノズル800から流体W2を吐水する。従って、ハウジング2を固定すれば、吐水位置が反復的に変化する吐水装置として利用できる。また一方、吐水ノズル800を固定すれば、ハウジング2が反復運動することとなり、この運動を、例えばマッサージなどに利用することもできる。
【0017】
図2乃至図5に示すように、本実施形態に係る吐水装置10は、ハウジング2の中に移動可能に設けられた中子(なかご)20を有する。ハウジング2の内部は、中子20によって2つの圧力室16、18に分割されている。中子20は中空構造を有し、その中空空間は、吐水筒体80に設けられた吐水流路82と連通した中子内流路24を構成している。また、中子内流路24は、導入口32、34を介してそれぞれ圧力室16、18と連通している。
【0018】
そして、中子20において、圧力室18に面した部分を中子20の移動方向に直交する平面上に投影した面積(以下、「受圧面積」という)は、圧力室16側の受圧面積に比べて、吐水筒体80の断面積の分だけ小さい。これにより、吐水筒体80が入水口12から入水口14に向かう方向、即ち、図示の向かって右側に向かう方向(以下、単に「右方向」という)に移動する際の移動速度は相対的に遅く、吐水筒体80が入水口14から入水口12に向かう方向、即ち、図示の向かって左側に向かう方向(以下、単に「左方向」という)に移動する際の移動速度は相対的に速くなる。この理由については後に詳述する。
【0019】
また、中子20には、導入口32、34の開度を変化させる弁体42、44が設けられている。更に、中子20には、これら弁体42、44を制御する制御手段(図2乃至図5においては図示せず)が設けられている。制御手段は、圧力室16内の圧力と圧力室16側の受圧面積との積が、圧力室18内の圧力と圧力室18側の受圧面積との積に等しくなる状態(以下、「中立状態」という)を挟んで、一方の積が他方の積よりも大きい状態と、他方の積が一方の積よりも大きい状態と、を切替えるように、導入口32及び34の開度を変更させるものである。
【0020】
すなわち、制御手段は、中子20がその移動域における圧力室16側(左側)の端部に到達したときに、圧力室16内の圧力と、中子20の圧力室16に面した部分を中子20の移動方向に直交する平面上に投影した面積(圧力室16側の受圧面積)との積を、圧力室18内の圧力と、中子20の圧力室18に面した部分を前記平面上に投影した面積(圧力室18側の受圧面積)との積よりも大きくし、中子20がその移動域における圧力室18側(右側)の端部に到達したときに、圧力室18内の圧力と圧力室18側の受圧面積との積を、圧力室16内の圧力と圧力室16側の受圧面積との積よりも大きくするように、弁体42及び44を作動させて導入口32及び34の開度を変更する。
【0021】
なお、本願明細書において、導入口の「開度」とは、導入口を流れる流体の流路抵抗を決定するパラメータであるものとする。例えば、図2に表した状態においては、導入口32に形成される流路の流路抵抗は、導入口34に形成される流路の流路抵抗よりも高い。この場合、導入口32の開度は、導入口34の開度よりも小さいものとする。また、前述の「中立状態」を実現するような導入口32及び34の開度を「中立開度」という。更に、中子20の移動域とは、吐水装置10を作動させたときに中子20が実際に移動する空間をいう。また、移動域の端部とは、中子20の移動方向における端部をいう。
【0022】
前述の如く、中立状態においては、圧力室16内の圧力と圧力室16側の受圧面積との積が、圧力室18内の圧力と圧力室18側の受圧面積との積に等しい。従って、圧力室16内の圧力と圧力室18内の圧力との比の値(以下、「圧力比」という)は、圧力室16側の受圧面積と圧力室18側の受圧面積との比の値(以下、「受圧面積比」という)の逆数となる。また、中立状態においては、圧力室16内の圧力と圧力室16側の受圧面積との積、すなわち、中子20が圧力室16内の流体から受ける右向きの力(以下、単に「右向きの力」ともいう)と、圧力室18内の圧力と圧力室18側の受圧面積との積、すなわち、中子20が圧力室18内の流体から受ける左向きの力(以下、単に「左向きの力」ともいう)と、が相互に等しい。このため、中子20は静止している。
【0023】
この中立状態から、導入口32及び34の開度を中立開度からずらしてどちらか一方に偏った開度とすることにより、圧力室16内の圧力と圧力室18内の圧力との間に差を生じさせ、これにより、「右向きの力」と「左向きの力」との間に差を形成し、この力の差を利用して中子20を移動させる。
【0024】
図2に表した状態においては、制御手段は弁体42、44をそれぞれ右端に付勢した状態とし、中子20の右側に流体の導入口34が開かれている。従って、入水口14から供給された水などの流体は、圧力室18から矢印Cで表した経路で中子20の中子内流路24に流入し、吐水筒体80に設けられた吐水流路82を通って矢印Eで表したように吐水装置10の外部に流出する。一方、ハウジングの入水口12から供給された流体は流出経路がなく流出することができない。このため、後述の理由により、圧力室16内の圧力と圧力室16側の受圧面積との積である右向きの力が、圧力室18内の圧力と圧力室18側の受圧面積との積である左向きの力よりも大きくなり、中子20は矢印Mの方向に動く。
【0025】
なお、図1乃至図5には、吐水筒体80がハウジング2の片側のみから延出した吐水装置を表したが、本発明はこれに限定されず、中子において、圧力室16側の受圧面積と、圧力室18側の受圧面積とが異なりさえすれば、吐水筒体80はハウジング2の両側に延出させてもよい。
【0026】
図6は、導入口32、34の開度を中立開度から変化させることの作用効果を説明するための模式図である。図6において、中心線1000は中子20の中心位置を示し、中立線1001は導入口32、34の開度が中立開度となるときの弁体42と弁体44との境界面の位置を示す。図6(a)に例示したように、弁体42と弁体44との境界面が中立線1001の位置にあるときは、前述の「圧力比」が「受圧面積比」の逆数である中立状態となり、中子20に作用する右向きの力と左向きの力とが等しくなる。従って、何らかの外力が作用しないと中子20は動かない。
【0027】
これに対して、図6(b)に例示したように、弁体42、44の境界面の位置が中立線1001から外れると、導入口32及び34の開度が中立開度から外れ、導入口32及び34の流路抵抗が変化し、圧力室16内の圧力及び圧力室18内の圧力が変化する。これにより、中子20の左右で力の差が生ずる。図6(b)に表した状態においては、導入口34の開度は、図6(a)に表す状態(中立状態)における導入口34の開度よりも大きく、導入口32の開度は、図6(a)に表す状態における導入口32の開度よりも小さいため、導入口32を介した流路のほうが導入口34を介した流路よりも流路抵抗が高くなる。この結果、圧力室16内の圧力は中立状態よりも高くなり、圧力室18内の圧力は中立状態よりも低くなる。これにより、中子20に作用する右向きの力が左向きの力よりも大きくなり、この力の差が、中子20並びに弁体42及び44の移動力として働く。
【0028】
従って、中子20にかかる力が摺動抵抗を上回る時には、中子20は右側に動くこととなる。また一方、弁体42も中子20に対して移動可動であるので、弁体42にかかる力が弁体42の摺動抵抗を上回る時には、弁体42が中子20に対して相対的に右側に移動する。弁体42が右側に移動すると導入口32を介する流路抵抗がますます高くなるために圧力差が拡大する。つまり、中子20及び弁42にかかるそれぞれの力は増加することとなり、中子20と弁体42の移動が促進される。
【0029】
そして遂には、図6(c)に表したように、導入口32が全閉状態となる。この時、左右の流路抵抗の差がこの向きにおいて最も大きい状態となり、中子20及び弁体42には、最大の圧力差に対応した力がそれぞれ作用する。
【0030】
以上説明したように、本発明において中子20を動かすためには、導入口32、34の開度を中立開度からずらして移動に必要な力の差を生じさせればよい。このとき、導入口の一方を開状態、他方を閉状態とすることで最大の力の差が得られ、最も確実且つ安定的な移動力が得られる。
【0031】
再び図3に戻って説明を続けると、同図に表したように中子20がハウジング2内をその移動ストロークの右端または右端近傍まで動くと、制御手段の制御によって、弁体42、44が左側に移動する。すると、中子20の右側の導入口34は閉じられ、左側の導入口32が開かれる。この状態においては、入水口12から供給された流体は矢印Cで表したように圧力室16から導入口32を介して中子20の中子内流路24に流入し、矢印Eで表したように吐水筒体80から流出する。一方、入水口14から供給された流体は流出経路がないため、流出することができない。よって、圧力室18内の圧力は中立状態時の圧力よりも高くなり、圧力室16内の圧力は中立状態時の圧力よりも低くなる。この結果、左向きの力が右向きの力よりも大きくなり、中子20は、図3及び図4に矢印Mで表したように左方向に動く。
【0032】
中子20が左側に動き続け、図5に表したように、ハウジング2の左端または左端近傍に至ると、制御手段の制御によって、弁体42、44が右側に移動する。すると、図2に関して前述したように、中子20の左側の導入口32が閉じて右側の導入口34が開く。その結果として、圧力室18の圧力が低下し、圧力室16の圧力が上昇して、中子20は矢印Mで表したように右側に動く。この後、図2乃至図5に関して前述した動作を繰り返すことにより、中子20は、ハウジング2の中を左右に反復して動き続ける。
【0033】
このとき、吐水筒体80が中子20の圧力室18側のみに設けられているため、中子20における圧力室18側の受圧面積は、圧力室16側の受圧面積よりも小さい。圧力室に流入する流体の単位時間当たりの流量が一定である場合は、受圧面積が小さい程、中子の移動速度が早くなるため、中子が左方向に移動する速度は、右方向に移動する速度よりも大きくなる。
【0034】
以下、この動作を定量的に説明する。導入口の開度がより小さい側の圧力室(止水室)について、この圧力室に流入する流体の流量をQinとし、中子の表面のうち、この圧力室内に露出している領域を中子の移動方向に直交する平面上に投影した領域の面積(受圧面積)をSとし、中子の移動速度をVとすると、下記数式(1)が成立する。

V=Qin/S (1)

本実施形態においては、2つの圧力室間で受圧面積Sの大きさを異ならせることにより、右方向と左方向とで移動速度Vを異ならせている。
【0035】
また、前述の如く、中子20がハウジング2の中で反転する際には、制御手段によって弁体42、44が制御される。このような制御は、例えば、磁石を利用して実現できる。
【0036】
図7は、磁石によって中子の反転動作を制御するメカニズムを説明するための模式図である。すなわち、図7(a)は、中子20が向かって左側から右側に向けて移動し、ハウジング本体2の内壁に弁体44が当接した状態を表す。なお、この例の場合、中子20には磁石70が設けられ、ハウジング2には磁石(または強磁性体)74が設けられている。図7(a)の状態においては、中子20に対して圧力差による力が働くので、中子20はさらに右側に移動する。すなわち、弁体44をハウジング2に当接させ移動方向に対して固定した状態で、中子20はさらに右側に移動する。
【0037】
すると遂には図7(b)に表した状態になる。この状態においては、導入口32、34の開度は中立開度となるため、流路抵抗の差による圧力差は生じない。しかしこの時、磁石70と磁石(または強磁性体)74との間に作用する引力によって中子20をさらに右側に引き寄せることが可能である。
【0038】
なおこの場合、中子20の摺動抵抗の値によっては、図7(b)に表した状態になる前に中子20が停止することもあり得る。このような場合には、図7(a)と図7(b)の間の状態において磁石70と磁石(または強磁性体)74との間に作用する引力により中子20を引き寄せることが望ましい。
【0039】
さて、図7(b)に表した状態から中子20が磁石の引力によって右側に引き寄せられると、図7(c)に表したように導入口32の開度が中立開度よりも大きく、導入口34の開度が中立開度よりも小さい状態が形成される。すると、これら導入口32、34の流路抵抗の状態が中立状態からずれ、中子20の両側に力の差が生ずる。すなわち、左向きの力が右向きの力よりも大きくなり、中子20は向かって左側に動き始める。つまり、導入口32、34の開度差を中立状態を挟んで変更させることにより、中子20の移動方向を反転させることが可能となる。
【0040】
またこの時、図6に関して前述したように、圧力差は弁体44にも作用し、弁体44を閉じる方向の力が働く。その結果として、図7(d)に表したように、弁体44が完全に閉じられ、中子20の左右の圧力差は、この向きにおいて最大値となる。つまり、中子20を反転させた後、左側への最大の駆動力が得られる。
【0041】
以上説明したように、磁石70と磁石(または強磁性体)74との間に作用する引力によって、中子20を図7(c)に表した状態まで引き寄せることができれば、導入口32、34の開度差を中立状態を挟んで変更させることができ、中子20の移動方向を反転させることができる。つまり、中子20をハウジング2の中で往復直線運動させることができる。
【0042】
なお、この場合、反転後に中子20が磁石の引力に打ち勝って移動する必要がある。つまり、圧力差により中子20に作用する力と、磁石により得られる引力とのバランスを適宜設定することが望ましい。
【0043】
また、図7に表した具体例の場合、弁体42、44の表面(ハウジング2との当接面)は曲面状に突出し、ハウジング2に当接した状態でも隙間が生ずるようにしている。このように、ハウジング2への当接面積を小さくすることによって、弁体が受ける圧力差を有効に活用でき、開度差を中立状態を挟んで変更させるという弁体の反転動作を円滑に行うことができる。
【0044】
また、図7に表した具体例の場合、中子20の反転に際して、弁体42、44をハウジング2の内壁に当接させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、弁体42、44に磁石を設け、一方、ハウジング2の内壁にも磁石を設け、これらの間に作用する反発力を利用して弁体42、44をハウジング2に対して相対的に停止させることも可能である。つまりこの場合には、図7(a)乃至(c)に対応する状態において、弁体42、44がハウジング2の内壁に当接せず、磁石(図示せず)の反発力によりハウジング2の内壁から所定の距離だけ離れた状態にあることとなる。このようにすれば、非接触で中子を反転させることができる。これにより、例えば、中子の往復運動を滑らかにしたり、弁体がハウジングに接触して音が発生することを防止できる。なお、この場合、中子の移動域とは、仮に磁石がなければ中子が移動したはずの空間ではなく、磁石の作用を受けて中子が実際に移動する空間をいう。
【0045】
以上説明したように、中子20を動かすためには、導入口32、34の開度に差を設けて移動に必要な圧力差を生じさせればよい。また同様に、中子20の移動方向を反転させる際には、制御手段によって、導入口32、34の開度差を中立状態を挟んで変更させればよい。例えば、導入口32及び34の中立開度の比率が40:60である場合、導入口32及び34の開度の比率を制御手段によって、70:30から30:70に変化させることにより、反転動作が可能である。またさらに、制御手段によって、開度を100:0から0:100に変化させれば、最も確実且つ安定的反転動作が可能となる。
【0046】
本実施形態によれば、ハウジング2に収容した中子20に弁体42、44と制御手段を設け、両側の圧力室に流体を供給することにより、中子20をハウジング2に対して相対的に往復運動させることができる。このとき、中子20の移動方向と弁体42、44の可動方向とを略同一とすることにより、中子20の移動動作と開度制御動作とを連動させ、中子20の反転のための導入口32、34の開度差を中立状態を挟んで変更させるという弁体の反転動作を確実且つ容易なものとし、シンプルでコンパクトな弁体と制御手段を実現している。
【0047】
また、中子20の受圧面積を圧力室16側と圧力室18側とで異ならせることにより、中子20の往復運動において、往路の速度と復路の速度とを相互に異ならせることができる。これにより、例えば、吐水装置10を人体を洗浄するシャワー装置として使用する場合には、シャワーヘッドとなる吐水ノズル800を、汚れを落とす方向である下方向にはゆっくり移動させ、上方向には素早く戻すことで、全体として効率的に洗浄を行うことが可能となる。
【0048】
なお、中子に受圧面積差を形成しなくても、往路と復路とで吐水装置10に供給する入水流量を変えることにより、往路の速度と復路の速度とを異ならせることも可能であるが、この場合には、方向切替の度に一々入水流量を変化させなくてはならない。また、移動方向によって吐出流量が変化してしまうため、使用者に違和感を与えてしまう。
【0049】
これに対して、本実施形態によれば、方向切替の度に入水流量を変化させる必要がない。また、移動方向が変化しても吐水量が変化しないため、使用者に違和感を与えることがない。更に、単位時間当たりの吐水量は一定であるため、下方向に移動する過程で吐出する水の総量が、上方向に移動する過程で吐出する水の総量よりも多くなり、より効率的に洗浄を行うことができる。
【0050】
一方、シャワー装置によりマッサージを行う場合には、吐水ノズル800を使用者の静脈又はリンパ腺に沿って心臓に向かう方向にはゆっくり動かし、逆方向には素早く戻すことで、マッサージ効果をより高めることができる。更に、吐水装置10を食器洗浄機に組み込む場合にも、吐水ノズル800を汚れを除去する方向にはゆっくり移動させ、その反対方向にはさっと戻すことにより、洗浄効率を高め、時間、水、洗剤を節約することができる。
【0051】
更に、本実施形態によれば、電気などの機械動力を必要とせず、水(流体)の供給圧力のみで円滑な往復反転運動が可能となり、電源の設置や感電あるいは漏電など対する対策が不要となる。また、電磁ノイズなどの外乱にも影響されず円滑な動作が可能である。その結果、例えば、浴室や屋外、あるいは各種の産業現場などの様々な環境においても安定して動作させることができる。
【0052】
更にまた、本実施形態に係る吐水装置は、弁体42、44や制御手段が中子20に付属して設けられているので、例えば外付けの4方弁などが不要となり、シンプルな構成で円滑な往復反転運動を実現できる。その結果として、小型化が容易となり、また流路がシンプルになるため、圧力損失を抑えることができ、吐水量や吐水圧を確保できる点でも有利である。また、弁体42、44や制御手段がハウジング2の中に内蔵されている構造であるため、外乱に強く円滑な動作を実現できる。その結果として、例えば、浴室や屋外、あるいは各種の産業現場などの様々な環境においても安定して動作させることができる。
【0053】
更にまた、本実施形態に係る吐水装置は、給水に関し、同一の給水源から分岐して2つの入水口に接続するだけでよく、施工性が優れている。また、移動する中子と吐水筒体の内部に流体の流路が形成されているため、吐水筒体の先端に様々な吐水ノズルを接続するだけで吐水位置や吐水方向を往復運動させることが可能であり、特別な接続部材が不要である点でも、施工性が優れる。
【0054】
以下、本第1の実施形態の具体例について詳細に説明する。先ず、本実施形態の第1の具体例について説明する。本第1の具体例として、磁石と板ばねとを組み合わせた制御手段を有する吐水装置について説明する。
図8乃至図11は、本第1の具体例に係る吐水装置の要部を表す模式図である。すなわち、図8は、本具体例に係る吐水装置の斜視図であり、図9は、その斜視切断図、図10は、断面図、図11は、図10のA−A線断面図である。
【0055】
図8に示すように、本具体例の吐水装置100においては、ハウジング本体102とハウジング蓋104により形成されるハウジングが設けられており、このハウジングから片側に吐水筒体180が突出している。吐水筒体180は、内部に吐水流路182を有する中空構造となっており、先端にて開口している。なお、吐水筒体180は、必ずしも円柱状である必要はなく、角柱状や偏平形状など、各種の例を与えることができる。
【0056】
そして、ハウジング本体102には、入水口112及び114が設けられている。入水口112、114に水などの流体を導入すると、片側に突出した吐水筒体180が矢印Mの方向に往復直線運動をする。このとき、前述の実施形態において説明した原理と同様の原理により、中子及び吐水筒体180が右方向に動く際にはその速度が遅く、左方向に動く際には速度が速くなる。従って、吐水筒体180の先端にシャワーノズルなどの吐水ノズルを設ければ、吐水位置が反復的に移動し、その移動速度が往路と復路とで相互に異なるような吐水装置を構成できる。
【0057】
その内部構造について説明すると、図9乃至図11に表したように、ハウジング本体102及びハウジング蓋104により形成されるシリンダ空間に、中子本体120と中子蓋122とからなる中子が移動可能に収容されている。中子本体120は、ハウジングから右側に突出する吐水筒体180に連結され、ハウジング内を第1の圧力室116と第2の圧力室118とに分割してピストンのように動く。吐水筐体180は圧力室118内を通過し、ハウジング本体102を貫通して、ハウジングの右側に延出している。これにより、中子内流路24は、吐水流路102を介して、吐水装置100の外部に連通されている。
【0058】
これらの圧力室116、118のそれぞれには、入水口112、114からそれぞれ水などの流体が導入される。中子本体120とハウジング本体102の内壁との摺動部には、液密を維持しつつ摺動を円滑にするためのシール126が設けられている。また、吐水筒体180とハウジング本体102との摺動部にも、同様の目的でシール184が設けられている。これらシール126、184の材料としては、例えば、テフロン(登録商標)、NBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)又はPOM(ポリアセタール)などを用いることができる。なお、ここでいう「液密」とは、左右の圧力室に圧力差を生じさせるに足る状態を確保できればよい。
【0059】
次に、中子の構造について説明する。中子本体120に中子蓋122を組合せることにより中子内流路124が形成され、この中子内流路124は、左右の吐水筒体180に設けられた吐水流路182に連通している。中子本体120及び中子蓋122には、中子内流路124と圧力室116、118とを連通させる導入口132、134が設けられている。そして、この中子内流路124を横断するように、弁体352、354が設けられている。
【0060】
左右の弁体352、354は、図11に表したように、板ばね160をはさんで連結され、導入口132、134を貫通して左右に移動可能に設置されている。なお、板ばね160は、その両端が相互に近づく方向に押圧された状態で中子本体120に支持されており、その中央部が右側に凸になるように湾曲した状態及び左側に凸になるように湾曲した状態の2つの状態が安定状態となる。弁体352、354は、板ばね160を介して中子に対して相対的に移動する。弁体352、354は、圧縮された板ばね160により付勢され、導入口132、134を全開状態あるいは全閉状態のいずれかに択一的に制御する。
【0061】
図12は、これら弁体を表す斜視図である。弁体352、354にはリブ353が形成されており、弁体352、354が導入口132、134に対して同軸に移動するように構成されている。弁体352、354がそれぞれ中子蓋122、中子本体120から離れる方向に移動すると、これらリブ353の間に設けられている溝部355が導入口132、134の開口部となり流体の流路を形成する。
【0062】
また一方、中子には、磁石370が埋め込まれている。そして、これに対応して、ハウジング本体102、ハウジング蓋104には、磁石(あるいは強磁性体)374、372がそれぞれ埋め込まれている。なお、図示した具体例において、磁石(あるいは強磁性体)374、372を円環状に設けたのは、中子を吐水筒体180を軸として回転可能とするためである。
【0063】
図9乃至図11に例示したように、弁体354が中子本体120から離れる方向に付勢されている時、導入口134が開かれる。一方、これとは逆に、弁体352が中子蓋122から離れる方向に付勢されている時は、導入口132が開かれる。そして、本具体例においては、磁石370と、磁石(あるいは強磁性体)372、374との引力を付与することより、板ばね160を確実に反転させて弁体352、354を付勢することにより、導入口132、134を全開状態あるいは全閉状態の択一的な状態に制御することができる。
【0064】
以下、本具体例に係る吐水装置の動作について説明する。
図13は、本具体例の吐水装置の往復直線運動を表す模式図である。本具体例においても、図1乃至図5に示す吐水装置と同様に、中子が往復直線運動をする。すなわち、図13(a)に示す状態においては、弁体352、354は板ばね160の付勢力によって右側に付勢され、導入口132は閉じ、導入口134が開いた状態とされている。この状態で入水口112、114にほぼ同圧に水などの流体を供給すると、矢印Bで表したように入水口114から圧力室118に導入された水は、矢印Cで表したように導入口134から中子内流路124に流入し、吐水流路182を介して矢印Eで表したように外部に流出する。
【0065】
これに対して、矢印Aで表したように入水口112から圧力室116に導入された水は、導入口132が閉じており流出することができないため、圧力室116の圧力は圧力室118の圧力よりも高くなる。このように、導入口132、134の開度を中立開度からずらすことにより、圧力室116と圧力室118との間に圧力差が生ずる。これにより、圧力室116内の水が中子に作用する右向きの力が、圧力室118内の水が中子に作用する左向きの力よりも大きくなり、中子は矢印Mの方向に押されて移動する。このとき、圧力室116側の受圧面積は圧力室118側の受圧面積よりも大きいため、中子が右方向に移動する移動速度は相対的に遅い。
【0066】
なお、中子が矢印Mの方向に移動すると、圧力室116の容積が増大し、その分だけ圧力室118の容積が縮小する。このため、矢印Aの経路による圧力室116への流体の流入量の分、圧力室118内の流体も押し出され、流路182から流出する流体の吐水量に含まれることとなる。
【0067】
そしてさらに中子が移動を続けると、弁体354がハウジング本体102の内壁に当接し、中子に対して押される。またこの時、中子に内蔵された磁石370と、ハウジング本体102に設けられた磁石(あるいは強磁性体)374との間に引力が作用し、中子が右側に引き寄せられる。これらの作用の相乗により、中子がハウジング本体102の右端方向に移動し、弁体354が中子に対して相対的に左方向に押されることによって、板ばね160の湾曲方向が反転し、図13(b)に表したように、弁体352、354は、向かって左側に向けて付勢される。すなわち、導入口132が開き、導入口134が閉じる。
【0068】
図13(b)に表した状態においては、矢印Aで表したように入水口112から圧力室116に導入された流体は、導入口132を介して流出する。これに対して、矢印Bで表したように、入水口114から圧力室118に導入された流体は、導入口134が閉じているため、圧力室118から流出することができない。その結果として、圧力室118内の圧力が中立状態よりも高くなると共に圧力室116内の圧力が中立状態よりも低くなり、中子は矢印Mで表したように左側に向けて移動を開始する。このとき、圧力室118側の受圧面積は圧力室116側の受圧面積よりも小さいため、中子が左方向に移動する移動速度は相対的に速い。
【0069】
中子が移動すると、図13(c)に表したように、弁体352がハウジング蓋104の内壁に当接する位置まで移動する。この状態からさらに中子が移動し、板ばね160を押し始める。また同時に、中子に内蔵されている磁石370と、ハウジング蓋104に設けられている磁石(強磁性体)372との間に作用する引力によって中子はさらに左側に引きよせられる。その結果として、弁体352が中子に対して押されて板ばね160の湾曲方向が反転し、弁体352、354が反対方向に付勢される。これにより、中子に右方向の力が働き、中子が右方向に移動し始める。以後、図13(a)〜(c)に示す動作を繰り返す。
【0070】
以上説明したように、本具体例によれば、中子に内蔵した磁石370と、ハウジング本体102、ハウジング蓋104に設けた磁石(あるいは強磁性体)374、372との間に作用する引力を利用することにより、導入口の開度差を中立状態を挟んで変更させて、中子に作用する左向きの力と右向きの力との大小関係を逆転させることにより、圧力差を逆転させて、中子を左右に反復的に動作させることができる。
【0071】
次に、本具体例における制御手段の作用についてさらに詳しく説明する。
図14は、本具体例における制御手段の動作を説明するための模式図である。すなわち、同図(a)は、弁体354がハウジング本体102の内壁に当接した瞬間を表す。この時、板ばね160は向かって右側が凸になるように湾曲しており、これによって弁体352及び354が右側に付勢され、導入口132の開度はその中立開度よりも小さく、導入口134の開度はその中立開度よりも大きい状態にある。従って、導入口132の流路抵抗は中立状態よりも大きく、導入口134の流路抵抗は中立状態よりも小さい。このため、圧力室116内の圧力は中立状態よりも高く、圧力室118内の圧力は中立状態よりも低く、従って、中子に作用する右向きの力は左向きの力よりも強く、中子は右向きに付勢されている。
【0072】
この状態から、板ばね160の付勢力に打ち勝って中子がさらに右側に移動すると、弁体354が中子に対して相対的に左側に押されて、図14(b)に表したように、導入口132の開度が増加し、導入口134の開度が減少する。これにより、導入口132及び134の開度が中立開度に近くなる。この結果、中子に印加される右向きの力が減少する。このとき、板ばね160も相対的に左側に押されて変形するが、この時点ではまだ反転できず、弁体352及び354を右側に付勢したままである。従って、弁体354はハウジング本体102の内壁を右向きに押圧し、これに伴ってハウジング本体102から受ける反作用により、中子は左向きに付勢される。このため、仮に、磁石370及び374が設けられていないと、流体によって中子に印加される右向きの力が、ハウジング本体102から受ける左向きの反作用力とつり合い、中子が停止してしまうことがある。
【0073】
これに対して、本具体例においては、中子に内蔵した磁石370と、ハウジング本体102に設けた磁石(または強磁性体)374との間に働く引力によって、仮に磁石370及び374が設けられていなければ停止してしまう位置を越えて、中子を右側に引き寄せることができる。つまり、図14(b)に表したように、弁体352の動作により導入口132が開き始めた段階で、磁力を作用させることにより中子を右側に引き寄せることができる。
【0074】
中子が右側に引き寄せられていくと、板ばね160が略S字状の準安定な状態(以下、「板ばねの中位状態」という)に達し、さらにそれを越えて、図14(c)に表したように左側への反転を開始する。そして、図14(d)に表したように左側が凸になるように湾曲した状態に反転すると、弁体352の動作により導入口132が全開し、弁体354の動作により導入口134が閉じた状態が形成される。これにより、導入口132の開度が増加すると共に導入口134の開度が減少し、従って、導入口132の流路抵抗が減少すると共に導入口134の流路抵抗が増加し、圧力室116内の圧力が減少すると共に圧力室118内の圧力が増加し、右向きの力が左向きの力よりも小さくなる。
なお、このとき、磁石370と磁石374との引力は、弁体352が壁面102に衝突した後の中立状態から板バネの中位状態を越えるまで、中子を引き寄せつづけられるだけの力を有している必要がある。
【0075】
この後は、中子の両側に圧力差が生ずるので、中子は左側に向けて動く。なお、この時に、圧力差による駆動力が磁石370と磁石374との引力を上回るように設定する必要がある。
上述の動作と同様に、弁体352がハウジング蓋104の内壁に当接したときは、板ばね160の作用により、右向きの力が左向きの力よりも大きくなる。
【0076】
以上説明したように、本具体例によれば、磁石370及び磁石(あるいは強磁性体)372、374の引力を利用して、中子を引き寄せることにより、弁体352、354を中子に対して押して板ばね160を確実に反転させることができる。つまり、磁石の引力を利用して弁体352、354の状態を制御し、導入口132、134の開度差を中立状態を挟んで変更させ、中子に作用する右向きの力と左向きの力との大小関係を逆転させることにより、円滑な往復直線運動を実現できる。
【0077】
また、中子の移動方向と、弁体352、354の可動方向、板ばね160の付勢方向、さらに磁石370、372、374の引力の作用方向を略同一とすることにより、力の働き方に無駄がなく、受圧面積の大きな中子の移動力を有効に活用でき、円滑かつ安定した動作が可能となる。つまり、中子の移動動作と開度制御動作とを連動させ、中子を反転させるための導入口132、134の開度の制御動作を確実且つ容易なものとし、シンプルでコンパクトな弁体と制御手段を実現している。
【0078】
このとき、板ばね160が安定状態にあるときのたわみ量、即ち、板ばね160の両端部を結ぶ仮想的な平面と板ばね160の中央部における弁体352及び354が連結された部分との間の距離を、中心線1000と中立線1001との間の距離よりも大きくする必要がある。また、このたわみ量を、中立状態における中子と中子から遠い方の弁体との間の距離よりも大きくすることにより、それぞれの導入口を完全に閉じることができる。これにより、中子に印加する駆動力を大きくすることができる。
【0079】
また、このようにすると、中子がその移動ストロークの中間付近などに停止している状態から吐水を開始させるような場合においても、吐水開始時に板ばね160により弁体352、354を制御して導入口132、134のいずれかが択一的に開かれた状態にあり、中子の両側に圧力差を形成させて安定した初期動作を開始させることができる。つまり、導入口132の開度がその中立開度よりも大であり導入口134の開度がその中立開度よりも小である状態と、導入口134の開度がその中立開度よりも大であり導入口132の開度がその中立開度よりも小である状態と、を択一的に保持可能とすることができる。
【0080】
なお、本具体例の吐水装置の場合、図9などに表したように、吐水筒体180とハウジング本体102との間のシール184をハウジング本体102の側に設けているので、ストローク方向のサイズを短くでき、小型化できる。
【0081】
また、本具体例の場合、中子の反転に際して、弁体352、354をハウジングの内壁に当接させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、弁体352、354に磁石を設け、一方、ハウジングの内壁にも磁石を設け、これらの間に作用する反発力を利用して弁体352、354をハウジングに対して相対的に停止させることも可能である。つまりこの場合には、図14(a)乃至(c)に対応する状態において、弁体354がハウジング102の内壁に当接せず、磁石(図示せず)の反発力によりハウジング102の内壁から所定の距離だけ離れた状態にあることとなる。このようにすれば、非接触で中子の反転が可能となる。なお、この場合、中子の移動域とは、仮に磁石がなければ中子が移動したはずの空間ではなく、磁石の作用を受けて中子が実際に移動する空間をいう。
【0082】
また一方、本具体例においては、往復直線動作において得られる推力は、中子に負荷される流体の圧力と中子の受圧面積との積により決定される。従って、中子の受圧面積を増加させれば、それに応じた大きな推力を得ることが可能となる。
【0083】
また、図9乃至図11及び図14においては、ハウジング内に設けられた略円筒状の空間に円形の中子を収容した具体例を表したが、本発明はこれには限定されない。例えば、ハウジング本体102の内部空間は、角柱状でも偏平柱状でもよく、中子もこれら形状に合わせて各種の形状とすることができる。
【0084】
また、吐水筒体180の外周形状も円形である必要はなく、多角形状や偏平形状であってもよい。またさらに、吐水筒体180は中子の中心に設ける必要はなく、中子の中心から偏心させて設けてもよい。このようにすれば、中子の小型化が容易であり、吐水装置を小型化できる。
【0085】
なお、本具体例の如くハウジング内空間を円柱状とし、吐水筒体180を円筒状の中子の中心に設けた場合には、吐水筒体180を回転できる。つまり、吐水筒体180の先端に吐水ノズルを設けた場合に、中子の往復直線運動によってその吐水位置を反復的に変化させることができると同時に、吐水筒体180を回転させることにより、その吐水方向を変化させることも可能である。例えば、突起と溝とからなるカム構造などを設けることにより、中子の移動に伴って中子及び吐水筒体をその中心軸の回りに回転させることも可能となる。このようにすれば、使用者の好みに応じた多種多様な吐水態様を実現できる。
【0086】
次に、第1の実施形態の第2の具体例として、板ばねとスライドバーとを組み合わせた制御手段を有する吐水装置について説明する。
図15乃至図18は、第1の実施形態の第2の具体例に係る吐水装置の要部を表す模式図である。すなわち、図15は、本具体例に係る吐水装置の斜視図であり、図16は、その斜視切断図、図17は、断面図、図18は、図17のA−A線断面図である。図15乃至図18に示すように、本具体例に係る吐水装置300は、第1の具体例と類似した構造を有する。そこで、図8乃至図14に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0087】
本具体例の吐水装置300においては、ハウジング本体102とハウジング蓋104により形成されるハウジングが設けられており、このハウジングから片側に吐水筒体180が突出している。そして、ハウジング本体102に設けられた入水口112、114に水などの流体を導入すると、片側に突出した吐水筒体180が矢印Mの方向に反復運動をする。このとき、中子における圧力室118側の受圧面積は圧力室116側の受圧面積より小さいため、中子が入水口114から入水口112に向かって移動する際の移動速度は、中子が入水口112から入水口114に向かって移動する際の移動速度よりも大きくなる。
【0088】
そして、本具体例においては、制御手段として板ばねとスライドバーとが中子に設けられている。すなわち、中子本体120に中子蓋122を組合せることにより中子内流路124が形成され、この中子内流路124は、吐水筒体180に設けられた吐水流路182に連通している。吐水筐体180は、その一端が中子本体120に連結され、その中央部が圧力室180内及びハウジング本体102内を貫通しており、その他端がハウジングの外部に延出している。これにより、中子内流路124は吐水流路182を介して外部に連通されている。中子本体120及び中子蓋122には、中子内流路124と圧力室116、118とを連通させる導入口132、134が設けられている。そして、この中子内流路124を横断するように、主弁142、144、スライドバー146、148が設けられている。
【0089】
図19は、これら主弁及びスライドバーを表す斜視図である。図19に示すように、左右の主弁142、144は連結棒149により連結され、中子本体120及び中子蓋122に設けられた導入口132、134を貫通して左右に移動可能に設置されている。つまり、弁体としての主弁142、144は、中子本体120に対して、所定のストロークで左右に移動可能に設置されている。主弁142、144にはリブ143が形成されており、主弁142、144が導入口132、134に対して同軸に移動するように構成されている。主弁142、144がそれぞれ中子蓋122、120から離れる方向に移動すると、これらリブ143の間に設けられている溝部145が導入口132、134の開口部となり流体の流路を形成する。そして、これら主弁142、144を同軸状に貫通するスライドバー146、148が、やはり左右に移動可能に設置されている。つまり、スライドバー146、148は、主弁142、144の動作ストロークよりも長いストロークで左右に移動可能に設置されている。
【0090】
図16乃至図18に例示したように、主弁144が中子本体120から離れる方向に移動すると導入口134が開かれる。一方、これとは逆に、主弁142が中子蓋122から離れる方向に移動すると導入口132が開かれる。これら導入口132、134は、いずれも中子内流路124に連通している。つまり、導入口132は、ハウジング内の圧力室116と中子内流路124とを連通させ、導入口134は、圧力室118と中子内流路124とを連通させる。
【0091】
そして、これら導入口132、134の開度を変化させる主弁142、144の動作は、同軸に設置されたスライドバー146、148により決定される。すなわち、図18に表したように、左右のスライドバー146、148は圧縮された板ばね160をはさんで連結され、板ばね160の湾曲方向に応じて右端あるいは左端に向けた付勢力を受ける。なお、板ばね160は、その両端が中子本体120に支持されており、スライドバー146、148は、板ばね160を介して中子本体120に対して相対的に移動する。主弁142、144は、スライドバー146、148からこの付勢力を受けて、導入口132、134を全開状態あるいは全閉状態の択一的な状態にする。すなわち、スライドバー146、148と板ばね160が制御手段として作用し、弁体である主弁142、144を制御する。
【0092】
以下、本具体例の吐水装置の動作について説明する。
図20は、本具体例の吐水装置の動作を説明するための模式図である。すなわち、同図は、スライドバー146、148が板ばね160の作用により向かって右側に向けて付勢された状態を表す。この時、主弁142、144もスライドバー146により右側に向けて付勢されるので、導入口132は閉じ、導入口134が開いた状態が形成される。
【0093】
この状態で入水口112、114にほぼ同圧に水などの流体を供給すると、矢印Bで表したように入水口114から圧力室118に導入された水は、矢印Cで表したように導入口134から中子内流路124に流入し、右側に連通する吐水流路182を介して矢印Eで表したように流出する。
【0094】
これに対して、矢印Aで表したように入水口112から圧力室116に導入された水は、導入口132が閉じているために流出経路がなく、圧力室116から流出することができない。このため、図6に関して説明した理由と同様な理由により、圧力室116の圧力が圧力室118の圧力よりも高くなる。つまり、導入口132、134の開度を中立開度からずらすことにより、圧力室118よりも圧力室116の圧力のほうが高くなり、中子は矢印Mの方向に押されて移動する。
【0095】
なお、中子が矢印Mの方向に移動すると、圧力室116の容積が増大し、その分だけ圧力室118の容積が縮小する。このため、矢印Aの経路による圧力室116への流体の流入量の分、圧力室118内の流体も押し出され、流路182から流出する流体の吐水量に含まれることとなる。
【0096】
図21は、本具体例の吐水装置の往復動作を表す模式図である。すなわち、同図(a)は、図20に関して前述した状態と同様であり、中子は矢印Mで表したように、向かって右側に移動する。そしてさらに移動を続け、スライドバー148がハウジング本体102の内壁に当接し、中子に対して押されると、板ばね160の湾曲方向が反転し、図21(b)に表したように、スライドバー146、148は、向かって左側に向けて付勢される。すると、スライドバー148が主弁144を押すことにより、主弁142、144も左側に移動する。すなわち、導入口132が開き、導入口134が閉じる。
【0097】
図21(b)に表した状態においては、矢印Aで表したように入水口112から圧力室116に導入された流体(例えば水)は、矢印Cで表したように、導入口132から中子内流路124に流入し、吐水流路182を介して矢印Eで表したように流出する。これに対して、矢印Bで表したように、入水口114から圧力室118に導入された流体は、導入口134が閉じているために流出することができない。この結果、圧力室118の圧力が圧力室116の圧力よりも高くなり、ついには中立状態を越え、左向きの力(圧力室118内の圧力と圧力室118側の受圧面積との積)が、右向きの力(圧力室116内の圧力と圧力室116側の受圧面積との積)よりも大きくなり、中子は矢印Mで表したように左側に向けて移動を開始する。
【0098】
中子が移動を続けると、図21(c)に表したように、スライドバー146がハウジング蓋104の内壁に当接する位置まで移動する。この状態からさらに中子が移動し、スライドバー146が中子に対して押されることにより、板ばね160の湾曲方向が反転して、右側に付勢される。すると、図21(a)に表した状態と同様に、導入口132が閉じて導入口134が開いた状態となり、中子は右側に向けて移動を開始する。
【0099】
以上説明したように、本具体例によれば、中子に弁体としての主弁142、144と、スライドバー146、148及び板ばね160からなる制御手段を設けることにより、中子本体120の移動に応じて導入口132、134の開度差を中立状態を挟んで適宜変更させ、中子を左右に反復的に動作させることができる。本具体例の吐水装置における中子の往復運動のストロークは、ハウジング本体102の長さと、中子の厚み(幅)とにより適宜設定できる。
【0100】
図22は、中子の移動方向による移動速度の違いを示す図であり、(a)は中子がハウジングに対して相対的に右方向に移動している状態を示し、(b)は左方向に移動している状態を示す。前述の如く、図21(a)に示す状態では、導入口132が主弁142によって閉じられるため、中子に働く右向きの力が左向きの力よりも大きくなり、中子は右方向に移動する。一方、図21(b)に示す状態では、導入口134が主弁144によって閉じられるため、中子に働く左向きの力が右向きの力よりも大きくなり、中子は左方向に移動する。このとき、圧力室116側の受圧面積は圧力室118側の受圧面積よりも大きいため、図22(a)に示すように、中子が右方向に移動する際の移動速度は相対的に遅く、図22(b)に示すように、中子が左方向に移動する際の移動速度は相対的に速くなる。
【0101】
次に、本具体例における制御手段の作用についてさらに詳しく説明する。図23は、本具体例における制御手段の動作を説明するための模式図である。すなわち、同図(a)は、板ばね160が向かって右側が凸になるように湾曲してスライドバー146、148をこの方向に付勢している状態を表す。この時、主弁142により導入口132は閉じ、主弁144により導入口134は開いた状態とされる。
【0102】
この状態で中子が向かって右側に移動していくと、同図に表したようにハウジングの内壁にスライドバー148が当接する。中子には圧力差が働いているため、スライドバー148をハウジング内壁に当接した状態で、中子はさらに右に移動し、図23(b)に表した状態になる。すなわち、板ばね160の付勢力に打ち勝って中子とスライドバー148との相対位置を変化させ、中子に対してスライドバー148が押される。この結果、板ばね160も左側に押されて変形し、同図に例示したような略S字状の状態となる。このとき、主弁142、144には中子と同様に圧力差が働いており、導入口132、134の開閉状態を図23(a)に示す状態から変化させない。
【0103】
この後、中子がさらに移動することにより、中子に対してスライドバー148がさらに押されると、図23(c)に表したように、板ばね160の湾曲方向が左側が凸になるように反転を開始し、スライドバー146、148を左側に付勢する。すると、図23(d)に表したように、板ばね160の付勢力によって主弁142、144が左側に移動し、導入口132が全開となり導入口134が全閉の状態となる。
【0104】
以上説明したように、本具体例においては、圧縮した板ばね160の湾曲方向をスライドバー146、148により適宜反転させ、その付勢力を利用して主弁142、144を動作させることにより導入口132、134を全開及び全閉のいずれかの状態に択一的に制御する。つまり、板ばね160の付勢力を利用することで、中子の反転のために左右の導入口132、134の開度差を確実に形成している。
【0105】
スライドバー146、148を介して主弁142、144を制御する本具体例の機構は、本具体例の吐水装置の円滑な動作に対して極めて重要な役割を有する。すなわち、圧縮された板ばね160は、中央部が右側あるいは左側に凸になるように湾曲した状態が安定状態であるが、図28(b)に表したように、これらの安定状態の中間付近において、板ばね160の中位状態となる場合がある。この中位状態においては、板ばね160には、左あるいは右への付勢力があまり発生しない。従って、この状態において、仮に導入口132、134の開度が中立開度となると、中子に作用する右向きの力と左向きの力の差が無くなり、中子の移動が停止してしまう。つまり、主弁142、144の動作開始のタイミングが板ばね160が中位状態を越えて反転するタイミングよりも早いと、中子の動作が停止してしまうことがある。
【0106】
これに対して、本具体例によれば、スライドバー146、148を設け、そのストロークを適宜調整することにより、図28(b)のような中位状態においては、主弁142、144がまだ移動せず、中子に圧力がかかって動き続ける状態を維持できる。そして、この中位状態を越えて板ばね160が反転を開始した時に主弁142、144が移動を始めるようにすることができる。つまり、主弁142、142の動作開始のタイミングを、板ばね160の反転のタイミングに同期させることができる。
【0107】
言い換えれば、中子を移動させるに足る開度差がなくなる前に板ばね160を反転させ、その反転力(付勢力)によりスライドバー146、148を介して主弁142、144を移動させ、導入口132、134の開度差を、中子を逆方向に移動させるに足る開度差に変更させることができる。このようにすれば、板ばね160が中立状態の時に導入口132、134の開度が中立開度となり中子が停止してしまう、という問題を解消して、円滑な反復運動を実現できる。
【0108】
また、このようにすると、中子がその移動ストロークの中間付近などに停止している状態から吐水を開始させるような場合においても、吐水開始時に板ばね160により主弁142、144を制御して導入口132、134のいずれかが択一的に開かれた状態にあり、中子の両側に圧力差を形成させて安定した初期動作を開始させることができる。つまり、導入口132の開度がその中立開度よりも大であり導入口134の開度がその中立開度よりも小である状態と、導入口134の開度がその中立開度よりも大であり導入口132の開度がその中立開度よりも小である状態と、を択一的に保持することができる。なお、この際、板ばね160のたわみ量は、中心線1000と中立線1001との間の距離よりも大きく設定しなければならない。
【0109】
以上説明したように、本具体例においても、中子の移動方向と、主弁142、144の可動方向、スライドバー146、148の可動方向、板ばね160の付勢方向を略同一とすることにより、力の働き方に無駄がなく、受圧面積の大きな中子の移動力を有効に活用でき、円滑かつ安定した動作が可能となる。つまり、中子の移動動作と開度制御動作とを連動させることにより、中子の反転のための導入口132、134の開度差を中立状態を挟んで変更させる制御動作を確実且つ容易なものとし、シンプルでコンパクトな弁体と制御手段を実現している。
【0110】
なお、図15乃至図23に表した具体例の場合、中子の反転に際して、スライドバー146、148をハウジングの内壁に当接させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、スライドバー146、148に磁石を設け、一方、ハウジングの内壁にも磁石を設け、これらの間に作用する反発力を利用してスライドバー146、148をハウジングに対して相対的に停止させることも可能である。つまりこの場合には、図23(a)乃至(c)に対応する状態において、スライドバー146、148がハウジング102の内壁に当接せず、磁石(図示せず)の反発力によりハウジング102の内壁から所定の距離だけ離れた状態にあることとなる。このようにすれば、非接触で中子の反転が可能となる。なお、この場合、中子の移動域とは、仮に磁石がなければ中子が移動したはずの空間ではなく、磁石の作用を受けて中子が実際に移動する空間をいう。
【0111】
また一方、本具体例においては、往復直線動作において得られる推力は、中子に負荷される流体の圧力と中子の受圧面積との積により決定される。従って、中子の受圧面積を増加させれば、それに応じた大きな推力を得ることが可能となる。
【0112】
また、図8乃至図13及び図15乃至図23においては、ハウジング内に設けられた略円筒状の空間に円形の中子を収容した具体例を表したが、本発明はこれには限定されない。例えば、ハウジング本体102の内部空間は、角柱状でも偏平柱状でもよく、中子もこれら形状に合わせて各種の形状とすることができる。
【0113】
また、吐水筒体180の外周形状も円形である必要はなく、多角形状や偏平形状であってもよい。またさらに、吐水筒体180は中子の中心に設ける必要はなく、中子の中心から偏心させて設けてもよい。このようにすれば、中子の小型化が容易であり、吐水装置を小型化できる。
【0114】
更に、上述の各具体例においては、ハウジングの片側のみに吐水筐体を延出させて、受圧面積に差を生じさせる例のみを示したが、本発明はこの形態に限られず、例えば、中子の両側から太さが異なる吐水筐体を延出させることにより、受圧面積差を生じさせてもよい。これにより、中子の往復運動において往路と復路とで速度差を設けつつ、ハウジングの両側からの吐水態様を実現できる。
【0115】
なお、本具体例の如くハウジング内空間を円柱状とし、吐水筒体180を円筒状の中子の中心に設けた場合には、吐水筒体180を回転させることができる。つまり、吐水筒体180の先端に吐水ノズルを設けた場合に、中子の往復直線運動によってその吐水位置を反復的に変化させることができると同時に、吐水筒体180を回転させることにより、その吐水方向を変化させることも可能である。例えば、突起と溝とからなるカム構造などを設けることにより、中子の移動に伴って中子及び吐水筒体をその中心軸の回りに回転させることも可能となる。このようにすれば、使用者の好みに応じた多種多様な吐水態様を実現できる。
【0116】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、前述の第1の実施形態の第1の具体例に係る吐水装置(図8乃至図14参照)を、人体を洗浄するシャワー装置に適用した実施形態である。
図24は、本実施形態におけるシャワー装置を示す斜視図である。図24に示すように、シャワールームの壁901には、給水配管902が埋め込まれており、止水栓903及び温度調節バルブ904を介して、分岐部905に接続されている。そして、給水配管902はこの分岐部905により2本に分岐されて、壁901に取り付けられた2ヶ所の支持部906a及び906bにそれぞれ接続されている。支持部906a及び906bは、吐水装置907のハウジング本体908を支持すると共に、ハウジング本体908に対して水を供給するものである。
【0117】
また、ハウジング本体908は、その中心軸が上下方向に延びる円筒形状をなしており、シャワーバーシリンダとなっている。そして、ハウジング本体908から下方向に円筒形の吐水筐体909が延出しており、吐水筐体909の先端部には吐水部910が設けられており、シャワーヘッドとなっている。ハウジング本体908内には、中子911が設けられている。中子911は、ハウジング本体908内を上下方向に移動可能となっている。そして、ハウジング本体908内において、中子911の下側の受圧面積は、吐水筐体909の断面積の分だけ、上側の受圧面積よりも小さくなっている。
【0118】
次に、本実施形態の動作について説明する。前述した吐水装置の動作により、中子911はハウジング本体908に対して、上下方向に往復運動する。そして、これに伴い、吐水筐体909及び吐水部910も上下方向に往復運動する。このとき、中子911の下側の受圧面積が上側の受圧面積よりも小さいため、吐水部910の移動速度は、下方向には遅く、上方向には速い。これにより、吐水部910は、汚れを落とす効果が大きい下方向へはゆっくり移動し、汚れを落とす効果が小さい上方向へは素早く移動してシャワーヘッドを上部位置に速やかに戻す。この結果、広い範囲に吐水しながら、人体を効率よく洗浄することができる。
【0119】
なお、本実施形態においては、吐水装置として第1の実施形態の第1の具体例に係る吐水装置を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1の実施形態の第2の具体例(図15乃至図23参照)に係る吐水装置又は第1の実施形態と同様な原理に基づく他の態様の吐水装置を使用してもよい。
【0120】
また、本実施形態においては、吐水装置を人体全体を洗浄するシャワー装置として使用する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、食器予洗い機、食器洗浄機及び手洗い機に使用することもできる。この場合にも、吐水部を、洗浄効果が高い方向にはゆっくり移動させ、その反対の方向には素早く移動させることにより、水を被洗浄物(例えば、食器又は手)の全体に吐出しながら、高い洗浄効率を得ることができる。
【0121】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、前述の第1の実施形態の第2の具体例に係る吐水装置(図15乃至図19参照)を、人体の足部へのマッサージシャワー装置に適用した実施形態である。
図24は、本実施形態におけるマッサージシャワー装置を示す斜視図である。図24に示すように、本実施形態に係るマッサージシャワー装置921は、浴槽922、給水部923及びバスカウンタ924等を備えたシャワールーム925内に設置されるものである。
【0122】
このマッサージシャワー装置921は、例えばシャワールーム925内に後付けされたものであり、バスカウンタ924の下方に設置されている。そして、給水部923まで供給された水は、給水部923から引き出されたシャワーホース926及びシャワー接続部927を介して、マッサージシャワー装置921内に供給されるようになっている。即ち、シャワー接続部927が、マッサージシャワー装置921の入水口となっている。また、給水部923には、温度調節バルブ928、切替バルブ929及びスパウト930が設けられており、切替バルブ929により、水をスパウト930から出すか、マッサージシャワー装置921に供給するか、止めるかを選択できるようになっている。
【0123】
マッサージシャワー装置921には、ハウジング本体931が設けられており、このハウジング本体931から上方向に向かって吐水筐体932が延出している。この吐水筐体932は上下方向に往復運動するようになっている。吐水筐体932の上端部には、その長手方向が水平方向に延びる足用ノズル部933が接続されており、足用ノズル933には、その長手方向に沿って複数個の旋回吐水穴934が設けられている。旋回吐水穴934は、その吐出方向を旋回させながら水を吐出するものである。
【0124】
次に、本実施形態の動作について説明する。マッサージシャワー装置921においては、ハウジング本体931の上方側のみに吐水筐体932が設けられているため、ハウジング本体931内に収納されている中子においては、上面側の受圧面積が下面側の受圧面積よりも小さくなっている。このため、第1の実施形態において説明した原理により、吐水筐体932及び足用ノズル部933の移動速度は、上方に移動するときは相対的に遅く、下方に移動するときは相対的に速くなる。これにより、使用者が足用ノズル部933から吐出される水流によって足をマッサージするときに、静脈及びリンパ腺に沿って心臓に向かう方向には足用ノズル部933をゆっくり動かし、その反対方向には素早く戻すことができ、マッサージ効果を高めることができる。
【0125】
なお、本実施形態においては、吐水装置を足部用のマッサージシャワー装置に適用する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1の実施形態に係る吐水装置を使用して脚部用のマッサージシャワー装置及び腕部用のマッサージシャワー装置を構成し、本実施形態に係る足部用のマッサージシャワー装置と組み合わせて全身用のマッサージ装置を構成してもよい。この場合にも、各マッサージシャワー装置においては、シャワーヘッドの移動速度を往路と復路とで異ならせ、使用者の心臓に向かう方向にゆっくり動かすことにより、より高いマッサージ効果を得ることができる。
【0126】
また、前述の第1の実施形態に係る吐水装置は、例えば、水洗便器の人体洗浄装置に適用することもできる。この場合、人体の狭い範囲への吐水において、往路と復路とで吐水ノズルの移動速度を異ならせ、また、これに伴い、往路の全行程における吐出水量と復路の全行程における吐出水量とを異ならせることにより、狭い範囲内にもかかわらず、使用者に与える刺激感に変化を付加することができる。
【0127】
更に、前述の第1の実施形態に係る吐水装置を、噴水又は玩具等に使用してもよい。この場合は、吐水ノズルの往復運動又は回動運動において、往路と復路とで移動速度を異ならせることにより、動きに変化を与えることができる。これにより、鑑賞者にリズム感を感じさせるなど、鑑賞者を視覚的に楽しませることができる。
【0128】
以上、本発明の実施形態及びその具体例を図面を参照しつつ説明した。しかし、本発明は、これらの実施形態及び具体例に限定されるものではない。すなわち、本発明の吐水装置を構成するいずれかの要素について当業者が設計変更を加えたものであっても、本発明の要旨を備えたものであれば、本発明の範囲に包含される。例えば、吐水装置の駆動部若しくは吐水ノズルの外形、構成部品の形状若しくは配置、又は移動のストローク若しくは回動角度などについて当業者が適宜変更を加えたものであっても、本発明の要旨を含む限り、本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る吐水装置の全体構成を例示する模式図である。
【図2】本実施形態に係る吐水装置のメカニズムを説明するための模式図である。
【図3】本実施形態に係る吐水装置のメカニズムを説明するための模式図である。
【図4】本実施形態に係る吐水装置のメカニズムを説明するための模式図である。
【図5】本実施形態に係る吐水装置のメカニズムを説明するための模式図である。
【図6】導入口32、34の開度を中立開度から変化させることの作用効果を説明するための模式図である。
【図7】磁石によって中子の反転動作を制御するメカニズムを説明するための模式図である。
【図8】本実施形態の第1の具体例に係る吐水装置の斜視図である。
【図9】第1の具体例に係る吐水装置の斜視切断図である。
【図10】第1の具体例に係る吐水装置の断面図である。
【図11】図10のA−A線断面図である。
【図12】弁体を表す斜視図である。
【図13】第1の具体例における吐水装置の往復動作を表す模式図である。
【図14】第1の具体例における制御手段の動作を説明するための模式図である。
【図15】本実施形態の第2の具体例に係る吐水装置の斜視図である。
【図16】第2の具体例に係る吐水装置の斜視切断図である。
【図17】第2の具体例に係る吐水装置の断面図である。
【図18】図17のA−A線断面図である。
【図19】主弁及びスライドバーを表す斜視図である。
【図20】第2の具体例に係る吐水装置の動作を説明するための模式図である。
【図21】第2の具体例に係る吐水装置の往復動作を表す模式図である。
【図22】第2の具体例における中子の移動方向による移動速度の違いを示す図であり、(a)は中子がハウジングに対して相対的に右方向に移動している状態を示し、(b)は左方向に移動している状態を示す。
【図23】第2の具体例における制御手段の動作を説明するための模式図である。
【図24】本発明の第2の実施形態におけるシャワー装置を示す斜視図である。
【図25】本発明の第3の実施形態におけるマッサージシャワー装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0130】
2 ハウジング
10、100、300 吐水装置
12、14、112、114 入水口
16、18、116、118 圧力室
20、420 中子
24、124 中子内流路
32、34、132、134 導入口
42、44、352、354 弁体
70、370 磁石
74、372、374 磁石(強磁性体)
80、180 吐水筒体
82、182 吐水流路
102 ハウジング本体
104 ハウジング蓋
120 中子本体
122 中子蓋
126、184 シール
142、142a、144 主弁
143、353 リブ
145、355 溝部
146、148 スライドバー
149 連結棒
151、152、154 隙間
153 貫通孔
160 板ばね
700 給水配管
800 吐水ノズル
901 壁
902 給水配管
903 止水栓
904 温度調節バルブ
905 分岐部
906a、906b 支持部
907 吐水装置
908 ハウジング本体
909 吐水筐体
910 吐水部
911 中子
921 マッサージシャワー装置
922 浴槽
923 給水部
924 バスカウンタ
925 シャワールーム
926 シャワーホース
927 シャワー接続部
928 温度調節バルブ
929 切替バルブ
930 スパウト
931 ハウジング本体
932 吐水筐体
933 足用ノズル部
934 旋回吐水穴
1000 中心線
1001 中立線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するハウジングと、
前記空間を第1及び第2の圧力室に分割しつつ前記空間内を移動可能とされ、内部に中子内流路を有する中子と、
前記中子内流路に連通し前記ハウジングの外側に至る吐水流路を有する吐水筒体と、
前記第1の圧力室に流体を導入する第1の入水口と、
前記第2の圧力室に流体を導入する第2の入水口と、
前記第1の圧力室から前記中子内流路に流体を導入する第1の導入口と、
前記第2の圧力室から前記中子内流路に流体を導入する第2の導入口と、
前記第1及び第2の導入口の開度を変化させる弁体と、
前記中子がその移動域における前記第1の圧力室側の端部に到達したときに、前記第1の圧力室内の圧力と、前記中子の前記第1の圧力室に面した部分を前記中子の移動方向に直交する平面上に投影した第1の面積との積を、前記第2の圧力室内の圧力と、前記中子の前記第2の圧力室に面した部分を前記平面上に投影した第2の面積との積よりも大きくし、前記中子がその移動域における前記第2の圧力室側の端部に到達したときに、前記第2の圧力室内の圧力と前記第2の面積との積を、前記第1の圧力室内の圧力と前記第1の面積との積よりも大きくするように、前記弁体を作動させて前記第1及び第2の導入口の開度を変更する制御手段と、
を備え、
前記第1の面積と、前記第2の面積と、が異なることを特徴とする吐水装置。
【請求項2】
前記吐水筒体は、前記中子から前記第1及び第2の圧力室のいずれか一方のみに延在することを特徴とする請求項1記載の吐水装置。
【請求項3】
前記空間の形状が柱状であり、前記中子は前記柱の中心軸に沿って往復運動するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の吐水装置。
【請求項4】
前記空間の形状が扇状であり、前記中子は前記扇の中心を回動中心として回動運動するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の吐水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2007−229689(P2007−229689A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58228(P2006−58228)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】