説明

吐水装置

【課題】複数の吐水口を有する散水部材の回転始動性と回転安定性とを両立させることが可能な吐水装置を提供すること。
【解決手段】この吐水装置FCは、筒体20及びヘッド40(散水部材)からなる回転体は、ヘッド40のバッファ室43に水が供給されていない状態では、その重心が、筒体20が首振り公転で傾いた際の中心軸C1と流入室3の中心軸C2との交点である首振り中心近傍となる開口部4近傍に位置するように構成される一方で、ヘッド40のバッファ室43に水が供給された状態では、その重心がヘッド40側に移動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置として、ノズルが組み込まれた流入室内に形成される旋回流によって、ノズルを首振り公転させたり自転させたりしながら吐水を行わせる吐水装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、流入室に洗浄水を導くことにより、流入室に流入した洗浄水が流入室の内周壁面に沿って旋回流を起こすと共に、その旋回流に基づいて生じる力をノズルに及ぼして、ノズルを傾斜させた姿勢で旋回流の旋回方向回りに首振り公転させるものである。下記特許文献1に記載されている吐水装置は、ノズルを駆動するための装置を別途設けることなく広範囲に吐水を行うことが可能であって、省エネルギー化やコスト低減に資するものである。
【0003】
下記特許文献1に記載されている吐水装置よりも更に広範囲に吐水を行わせることを意図して、複数の吐水口を有する散水部材をノズルの先端に設け、ノズルの先端側から散水部材内部の貯留室に水を供給し、複数の吐水口から吐水する吐水装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3518542号公報
【特許文献2】特開2009−106930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されている吐水装置も上記特許文献2に記載されている吐水装置も、共に流入室内に形成される旋回流によってノズルを首振り公転させたり自転させたりといった回転運動をさせるものである。尚、首振り公転とは、首振り公転をする回転体(例えばノズル)の中心軸と首振り公転の中心軸(例えば流入室の中心軸)との交点である首振り中心を枢支点として旋回する回転運動であって、首振り公転の中心軸方向から見た場合に、回転体(例えばノズル)の一端と他端とがその中心軸を挟んで反対側に位置する回転運動である。
【0006】
上記特許文献2に記載されている吐水装置は、上記特許文献1に記載されている吐水装置に比較して、ノズルの先端にノズルよりも大径の散水部材を設けていることから、ノズル及び散水部材によって構成される回転体の質量は大きくなり、慣性モーメントも大きくなる傾向にある。従って、上記特許文献1に記載されている吐水装置と上記特許文献2に記載されている吐水装置とにおいて、上述したような同様の回転メカニズムを採用する限り、上記特許文献2に記載されているような散水部材を設けた吐水装置は、特にその始動時において十分な回転始動性を確保することは困難である。
【0007】
一方、回転始動性のみを改善しようとすれば、首振り公転の中心軸周りの慣性モーメントや自転の中心軸周りの慣性モーメントを小さくすることが考えられる。しかしながら、首振り公転の中心軸周りの慣性モーメントや自転の中心軸周りの慣性モーメントを小さくすれば、首振り公転や自転といった回転運動が開始された後には遠心力が大きくならない方向に作用し、回転安定性を阻害する要因となり得る。また、回転運動のエネルギーを増やすために流入室に導入する水量を増やすことも考えられるけれども、そのような対応は節水の観点から好ましくなく、また始動時において十分な水量を確保することはそもそも困難であるから根本的な解決策が望まれるものである。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置であって、複数の吐水口を有する散水部材の回転始動性と回転安定性とを両立させることが可能な吐水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る吐水装置は、吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置であって、(a)水が流入する流入室がその内部に形成され、前記流入室の内部と前記流入室の外部とを連通する開口部を有するガイド部材と、(b)前記開口部より小径な小径部と前記開口部より大径な大径部とを有し、前記小径部の先端は前記開口部から前記ガイド部材の外部に突出させる一方で、少なくとも前記大径部は前記流入室の内部に収容され、前記流入室に流入した水を前記小径部の先端から流出可能なように構成されてなる筒体と、(c)前記ガイド部材の外部に位置するように前記小径部の先端に繋げて設けられ、複数の吐水口が設けられると共に、これら複数の吐水口それぞれに連通する貯水室がその内部に形成された散水部材と、を備え、前記筒体は、前記流入室へ流入した水により、少なくとも前記小径部の一部が前記開口部に接触された状態で前記流入室の中心軸に対して傾きながら前記流入室の中心軸回りに首振り公転し、且つ自身の中心軸回りに自転するように構成されており、更に前記筒体及び前記散水部材からなる回転体は、前記散水部材の貯水室に水が供給されていない状態では、その重心が、前記筒体が首振り公転で傾いた際の中心軸と前記流入室の中心軸との交点である首振り中心近傍となる前記開口部近傍に位置するように構成される一方で、前記散水部材の貯水室に水が供給された状態では、その重心が前記散水部材側に移動するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、散水部材の貯水室に水が供給されていない状態、すなわち始動時には筒体及び散水部材からなる回転体の重心が首振り中心近傍に位置するように構成される。従って、流入室へ流入した水によって行われる回転体の首振り公転の始動の際に回転体の慣性モーメントを小さくすることができ、回転体の首振り公転の始動が円滑に行われ、回転始動性を良好に確保することができる。
【0011】
始動後においては、流入室から筒体の先端を経由して散水部材の貯水室に水が満たされ、貯水室に設けられた複数の吐水口から吐水される。複数の吐水口から吐水された分の水が順次流入室から筒体の先端を経由して貯水室に供給されるので、貯水室は水で満たされた状態が継続する。このように散水部材の貯水室に水が供給された状態では、筒体及び散水部材からなる回転体の重心が首振り中心近傍から散水部材側に移動するので、首振り公転における回転体の慣性モーメントを大きくすることができる。従って、回転体の首振り公転による遠心力を高めることができ、その遠心力を慣性力として首振り公転の回転安定性を確保することができる。
【0012】
始動後における回転体の重心は、首振り中心近傍となる前記開口部近傍から散水部材側に移動するので、回転体の重心を流入室の外に移動させることができる。始動後においては流入室に水が満たされるので、回転体の重心が流入室側にあれば浮力の影響で遠心力が低下するところ、回転体の重心を流入室の外に移動させることでこのような浮力の影響を受けずに遠心力を高く保つことができ、首振り公転の回転安定性を確保することができる。
【0013】
また本発明に係る吐水装置では、前記貯水室に水が供給されていない状態における前記回転体の重心は、前記開口部より前記散水部材側に位置するように構成されていることも好ましい。
【0014】
この好ましい態様では、貯水室に水が供給されていない状態における回転体の重心は、開口部より散水部材側に位置するように構成されているので、散水部材の貯水室に水が供給された状態で重心が散水部材側に移動しても、回転体の重心が首振り中心を通過しないように構成することができる。回転体の重心が首振り中心を通過するように移動すると、回転体の慣性モーメントが減少した後に増加することになり、回転体の首振り公転の挙動が不安定になる。そこでこの好ましい態様では、回転体の重心が首振り中心を通過しないように構成することで、回転体の慣性モーメントを徐々に安定的に増加させることができ、回転体の回転変動を抑制して首振り公転の回転安定性をより確実に確保することができる。
【0015】
また本発明に係る吐水装置では、前記散水部材には、前記貯水室への水供給が停止された状態で前記貯水室内の水が排出されるように排水口が形成されていることも好ましい。
【0016】
この好ましい態様では、散水部材に排水口を設けることで、貯水室への水供給が停止された状態で貯水室内の水を排出することができる。貯水室内の水を排出することで、回転体の重心を開口部側に確実に移動することができるので、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。
【0017】
また本発明に係る吐水装置では、前記吐水口は前記排水口として機能するように形成され、前記吐水口は前記散水部材の周縁近傍に互いに所定距離をおいて複数形成されていることも好ましい。
【0018】
この好ましい態様では、別途排水口を設ける必要がなく、吐水口を排水口として利用することができる。また、排水口として機能する吐水口を散水部材の周縁近傍に互いに所定距離をおいて複数形成することで、散水部材の停止位置によらずに確実に貯水室内の水を排出することができる。従って、貯水室内の水を確実に排出することで、回転体の重心を開口部側に確実に移動することができるので、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。
【0019】
また本発明に係る吐水装置では、前記ガイド部材には、前記流入室への水供給が停止された状態で前記流入室内の水が排出されるように排水口が形成されていることも好ましい。
【0020】
この好ましい態様では、流入室内の水を排出する排水口を設けることで、流入室への水供給が停止された状態で流入室内の水を排出することができる。流入室内の水を排出することで、回転体を構成する筒体に作用する浮力を解消して、回転体の重心を開口部側に移動することができるので、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。また、浮力の解消を図ることで、回転体を構成する部品を重くすることなく重心移動変化を大きくすることができる。
【0021】
また本発明に係る吐水装置では、前記開口部と前記筒体との間には隙間が形成されており、この隙間に水を供給することでその水が前記筒体の軸受けとして機能すると共に、この隙間を前記排水口として機能するように構成されていることも好ましい。
【0022】
この好ましい態様では、ガイド部材の開口部と筒体との間の軸受けを別途の部材によらずに水によって機能させることで、開口部と筒体との間の隙間を排水口として機能させることができる。従って、よりコンパクトな構成とすることができると共に、流入室内の水を排出することで、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。
【0023】
また本発明に係る吐水装置では、前記筒体及び前記散水部材からなる回転体は、前記開口部近傍に位置する部分で少なくとも2つ以上に分割して形成されており、それら分割された部分を一体化することで前記回転体が形成されることも好ましい。
【0024】
この好ましい態様では、筒体と散水部材からなる回転体を開口部近傍に位置する部分で分割することで、比較的重くなりやすい散水部材側と筒体側とを別部品として、それぞれの材質や肉厚を変えることが容易に可能なものとなり、容易に回転体として重心を開口部近傍に設定することができる。
【0025】
また本発明に係る吐水装置では、前記散水部材は、前記筒体の大径部よりも大径となるように外周が形成されていることも好ましい。
【0026】
この好ましい態様では、散水部材を筒体の大径部よりも大径となるように構成することで貯水室も大径に構成することが可能となり、貯水室に水が満たされた場合の慣性モーメントをより大きなものとすることができる。従って、回転体が自転する際に、散水部材がフライホイールの役割を果たすことになり、回転安定性を確保することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置であって、複数の吐水口を有する散水部材の回転始動性と回転安定性とを両立させることが可能な吐水装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る吐水装置の模式断面図。
【図2】図1と同様の模式断面図であり、筒体及びヘッドが流入室の中心軸に対して傾いた状態を示す図。
【図3】図2のAA−AA断面に相当し、流入室及びこの内部に収容された筒体(大径部)を平面方向から見た模式図。
【図4】図1に示す吐水装置から吐水されるシャワー流の挙動を説明するための模式図。
【図5】本実施形態の変形例にかかる吐水装置を例示する模式図である。
【図6】本変形例の吐水装置が有する筒体を表す模式図である。
【図7】本実施形態の他の変形例にかかる吐水装置を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る吐水装置の模式断面図を示す。図1に示されるように、本実施形態に係る吐水装置FCは、主として、ガイド部材1と、筒体20と、ヘッド40(散水部材)とを備えている。
【0031】
ガイド部材1は、球体部2の内部に貫通孔が形成された構造を有する。球体部2の内部には、球体部2の直径方向に延びる旋回室としての流入室3が形成されている。流入室3の軸方向の一端部には、流入室3の内部及び外部に通じる開口部4が設けられている。開口部4の内径寸法は流入室3の内径寸法より小さく、開口部4はその中心軸を流入室3の中心軸と一致させている。
【0032】
流入室3の軸方向の他端部側の径外方には流入孔5が形成されている。流入孔5は、流入室3の内部及び球体部2の外部に通じている。ガイド部材1の外部から流入孔5に導かれた水は、流入孔5を介して流入室3に対して接線方向から流入し、流入室3の内部には水の旋回流が形成される。開口部4はガイド部材1の外部に対して開放され、流入室3の他端側の開口は封止部材6によって閉塞されている。
【0033】
筒体20は、小径部21と大径部22とを有する概略ボトル形状に形成されている。大径部22の外径寸法は流入室3の内径寸法より小さく、大径部22は流入室3の内部に収容されている。その大径部22に一体に設けられた小径部21の外径寸法は開口部4の内径寸法より小さく、小径部21は開口部4を貫通して、その先端が球体部2の外部に突出している。
【0034】
図1に示すように、筒体20と流入室3とが互いの中心軸を一致させた状態では、小径部21の外周面と開口部4の内壁面との間に隙間が形成され、さらに大径部22の外周面と流入室3の内壁面との間にも隙間が形成される。筒体20は、ガイド部材1に対して固定されておらず、自由に自転したり、揺動を伴う首振り公転したりすることが可能となっている。
【0035】
筒体20の軸方向の両端は開口され、大径部22側の開口24から筒体20内部に流入した水は、筒体20内部を軸方向に流れて、小径部21側の開口25から筒体20の外部に流出可能なように構成されている。また、筒体20の大径部22の周面(側面)には、周方向に等間隔で間欠的に配置された複数の貫通孔23が形成され、流入室3内に流入した水は、それら貫通孔23を介しても筒体20の内部に導かれて小径部21の先端の開口25から流出可能なように構成されている。
【0036】
ヘッド40は、ガイド部材1の外部に位置するように筒体20の小径部21の先端に繋げて設けられている。ヘッド40は筒体20よりも径方向寸法が大きな扁平状に形成され、その径方向の中心を筒体20の中心軸C1に一致させている。ヘッド40は、漏斗状のバッファ部材41と散水板44とを有する。バッファ部材41の細管部42の内部に筒体20の小径部21の先端が嵌合固定され、これにより、筒体20及びヘッド40は両者一体の回転体となって、自由に自転したり、揺動を伴う首振り公転したりすることができる。
【0037】
バッファ部材41の内部にはバッファ室43(貯水室)が形成され、筒体20の小径部21の先端の開口25はバッファ室43に臨んでいる。バッファ室43の径方向寸法は筒体20の径方向寸法より大きく、バッファ室43には小径部21の先端から流出した水が一時的に貯留可能となっている。尚、バッファ室43には、小径部21の先端から流出した水の方向を調整する機構を備えることも好ましい態様である。
【0038】
散水板44は、バッファ室43における細管部42とは反対側の開口を塞ぐ蓋状に設けられている。散水板44は筒体20よりも径方向寸法が大きな円盤状に形成され、散水板44にはその厚さ方向を貫通する複数の吐水孔45(吐水口)が形成されている。吐水孔45の一端はバッファ室43に連通し、他端はヘッド40の外部に臨んでいる。
【0039】
複数の吐水孔45は、散水板44における少なくとも外周側部分に周方向に沿って形成されている。各々の吐水孔45は、その軸方向が筒体20の中心軸C1に対して平行ではなく傾いている。本実施形態では、すべての吐水孔45が同じ方向に傾斜している。したがって、各々の吐水孔45は、筒体20の中心軸C1に対して非対称な関係で傾斜している。すなわち、筒体20の中心軸C1を中心にしてその中心軸C1まわりに散水板44を180度回転させたときと、180度回転させる前とで吐水孔45の傾斜方向が一致しない関係となっている。
【0040】
筒体20とヘッド40は、組み合わせることで一体に形成されている。筒体20の小径部21と大径部22とも、一体に形成されている。筒体20とヘッド40とは、別部材で形成され、組み立てて一体的なものとなされている。筒体20の小径部21と大径部22とは、別部材で形成され、組み立てて一体としても良い。筒体20及びヘッド40からなる回転体の重心は、回転体を流入室3に入れた場合に、流入室3の外部に配置される位置とすることが好ましい。
【0041】
その際、ヘッド40は筒体20より大径に形成されており、径方向にヘッド40を大きくすることで、筒体20の質量よりヘッド40の質量を大きくし、重心位置を流入室3の外部に配置させるようにすることも好ましい。一方、ヘッド40を樹脂といった比重の小さい材料で形成し、筒体20を金属といった比重の大きい材料で形成することも好ましい。このようにヘッド40と筒体20とを別部材とすることで、それぞれの材質や肉厚を変えることが容易に可能なものとなり、容易に回転体として重心を開口部4の近傍に設定することができる。
【0042】
大径部22は小径部21より軽量とし、重心位置を流入室の外部に配置することも好ましい。よって、大径部22を形成する材料は小径部21を形成する材料より密度の低い材料を使用すると良い。例えば、大径部22には樹脂を使用し、小径部21には金属を使用することが好ましい。一体に形成されている場合、筒体20の大径部22の通水路は、小径部21の通水路の断面積より大きくし、大径部22の肉厚を薄くすることで、大径部22の質量を小径部21の質量より軽量とし、重心位置を流入室の外部に配置させてもよい。
【0043】
本実施形態では、筒体20及びヘッド40からなる回転体は、流入室3の中心軸に対して傾きながら首振り公転を行うことができるように構成されている。筒体20及びヘッド40からなる回転体が傾斜した状態を図2に示す。また、図2におけるAA−AA断面に対応した図であって、流入室3及びこの内部に収容された筒体20(大径部22)を平面方向から見た模式図を図3に示す。
【0044】
図示しない配管等から導かれた水は、ガイド部材1に形成された流入孔5を介して、断面形状略円形状の流入室3に対して接線方向からその内部に流入し、これにより、流入室3の中心軸C2のまわりに旋回した洗浄水の流れが流入室3の内部に形成される。
【0045】
流入室3の内部に収容された筒体20(大径部22)は、上記旋回流の力を受けることで、図2に示すように流入室3の中心軸C2に対して傾きながら、例えば図3において矢印Aで示す方向に流入室3の中心軸C2のまわりに首振り公転する。筒体20の小径部21の一部が開口部4に接触し、且つ大径部22の側面(周面)の一部が流入室3のガイド面3aに接触することで、旋回室(流入室)3の中心軸C2に対する筒体20のそれ以上の傾きが規制される。
【0046】
本明細書において、流入室3の中心軸C2に対して筒体20が傾きながら中心軸C2のまわりに公転することを「首振り公転」と称する。すなわち、流入室3の中心軸C2に対して筒体20が傾きながら中心軸C2のまわりに首振り公転すると、筒体20は、小径部21が開口部4と接触する部分近傍を中心にして小径部21の先端が首を振っているように揺動する。このように、首振り公転とは、首振り公転をする回転体(本実施形態の場合は、筒体20及びヘッド40)の中心軸C1と首振り公転の中心軸である流入室3の中心軸C2との交点である首振り中心を枢支点として旋回する回転運動であって、首振り公転の中心軸C2方向から見た場合に、筒体20及びヘッド40からなる回転体の一端(散水板44の中心)と他端(大径部22の中心)とがその中心軸C2を挟んで反対側に位置する回転運動である。
【0047】
筒体20が首振り公転しているとき、小径部21の外周面の一部が開口部4の内壁面に接触し、且つ大径部22の側面(周面)の一部が流入室3のガイド面3aに接触しているため、それら接触部分に生じる動摩擦力が筒体20に作用する。この動摩擦力により、筒体20は開口部4やガイド面3aとの接触部位を変えずにそのまま接触した状態で流入室3内をすべって移動していくのではなく、開口部4の内壁面やガイド面3aを転がりながら首振り公転をする。筒体20が開口部4の内壁面やガイド面3aを転がるということは、筒体20が自身の中心軸C1のまわりに自転するということである。
【0048】
すなわち、筒体20は自身の中心軸C1のまわりに自転しつつ、流入室3の中心軸C2のまわりに首振り公転する。流入室3の中心軸C2のまわりの筒体20の公転方向(図3において矢印A方向)は、流入室3に形成される旋回流の旋回方向と同方向であり、筒体20の自身の中心軸C1のまわりの自転方向(図3において矢印B方向)は公転方向Aとは逆方向である。尚、この自転に関しては、接触面の動摩擦係数や、筒体20の大径部22の材質、形状や、流入孔5からの流入速度や、流入室3と大径部22との隙間、などで自転方向や自転数を制御することができる。
【0049】
更に、少ない洗浄水の量で筒体20を自転させるには、動摩擦力に影響を与える公転による遠心力を効率良く得る必要がある。但し、洗浄水の量に比例して大きくなる公転数は、少ない洗浄水の量で低下してしまう。少ない洗浄水の量で効率良く遠心力を得るためには、筒体20の重心位置を流入室3の外すなわち空気中にすることが望ましい。これにより、筒体20は浮力の影響を受けずに、効率的に遠心力を得ることができる。さらに、流入室3の外すなわち空気中に配置する筒体20の重心位置側は、浮力の影響を受けないため、形状を拡大しなくても効率的に遠心力を得ることができる。
【0050】
更に、本実施形態では、筒体20及びヘッド40からなる回転体の重心を、ヘッド40のバッファ室43に水が供給されていない状態では、筒体20が首振り公転で傾いた際の中心軸C1と流入室3の中心軸C1との交点である首振り中心近傍となる開口部4近傍に位置するように構成している。一方、ヘッド40のバッファ室43に水が供給された状態では、筒体20及びヘッド40からなる回転体の重心がヘッド40側に移動するように構成している。
【0051】
ヘッド40のバッファ室43に水が供給されていない状態、すなわち始動時には筒体20及びヘッド40からなる回転体の重心が首振り中心近傍に位置するように構成されることで、回転体の首振り公転の始動の際に回転体の慣性モーメントを小さくすることができ、回転体の首振り公転の始動が円滑に行われ、回転始動性を良好に確保することができる。
【0052】
始動後においては、流入室3から筒体20の先端に設けられた開口25を経由してヘッド40のバッファ室43に水が満たされ、バッファ室43に設けられた複数の吐水孔45から吐水される。複数の吐水孔45から吐水された分の水が順次流入室3から筒体20の開口25を経由してバッファ室43に供給されるので、バッファ室43は水で満たされた状態が継続する。このようにヘッド40のバッファ室43に水が供給された状態では、筒体20及びヘッド40からなる回転体の重心が首振り中心近傍からヘッド40側に移動するので、首振り公転における回転体の慣性モーメントを大きくすることができる。従って、回転体の首振り公転による遠心力を高めることができ、その遠心力を慣性力として首振り公転の回転安定性を確保することができる。
また、始動後においてヘッドのバッファ室43に水が満たされると、回転体の重量が増えるため、自転の中心軸回りの慣性モーメントが大きくなる。従って、始動後においては自転の回転安定性も高くなる。
【0053】
始動後における回転体の重心は、首振り中心近傍となる開口部4近傍からヘッド40側に移動するので、回転体の重心を流入室3の外に移動させることができる。始動後においては流入室3に水が満たされるので、回転体の重心が流入室3側にあれば浮力の影響で遠心力が低下するところ、回転体の重心を流入室3の外に移動させることでこのような浮力の影響を受けずに遠心力を高く保つことができ、首振り公転の回転安定性を確保することができる。
【0054】
また本実施形態に係る吐水装置FCでは、バッファ室43に水が供給されていない状態における回転体の重心は、開口部4よりヘッド40側に位置するように構成されていることも好ましい。このように構成することでバッファ室43に水が供給された状態で重心がヘッド40側に移動しても、回転体の重心が首振り中心を通過しないように構成することができる。回転体の重心が首振り中心を通過するように移動すると、回転体の慣性モーメントが減少した後に増加することになり、回転体の首振り公転の挙動が不安定になる。そこで、回転体の重心が首振り中心を通過しないように構成することで、回転体の慣性モーメントを徐々に安定的に増加させることができ、回転体の回転変動を抑制して首振り公転の回転安定性をより確実に確保することができる。
【0055】
更に、本実施形態に係る吐水装置FCでは、吐水孔45はバッファ室43内の水を排出するための排水口として機能するように形成され、吐水孔45はヘッド40の周縁近傍に互いに所定距離をおいて複数形成されている。この排水口としての吐水孔45は、バッファ室43への水供給が停止された状態でバッファ室43内の水が排出されるように形成されている。
【0056】
バッファ室43内の水を排出することで、回転体の重心を開口部4側に確実に移動することができるので、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。また、排水口として機能する吐水孔45をヘッド40の周縁近傍に互いに所定距離をおいて複数形成することで、ヘッド40の停止位置によらずに確実にバッファ室43内の水を排出することができる。
【0057】
更に、本実施形態に係る吐水装置FCでは、開口部4と筒体20との間には隙間が形成されており、この隙間に水を供給することでその水が筒体20の軸受けとして機能している。この筒体20と開口部4との間の隙間は、流入室3内の水を排出するための排水口として機能するように構成されている。この排水口としての筒体20と開口部4との間の隙間からは、流入室3への水供給が停止された状態で流入室3内の水が排出されるように形成されている。
【0058】
流入室3内の水を排出する排水口を設けることで、流入室3への水供給が停止された状態で流入室3内の水を排出することができる。流入室3内の水を排出することで、回転体を構成する筒体20に作用する浮力を解消して、回転体の重心を開口部4側に移動することができるので、次に吐水する際の回転始動性を確実に良好に確保することができる。また、浮力の解消を図ることで、回転体としての筒体20及びヘッド40を構成する部品を重くすることなく重心移動変化を大きくすることができる。更に、ガイド部材1の開口部4と筒体20との間の軸受けを別途の部材によらずに水によって機能させることで、開口部4と筒体20との間の隙間を排水口として機能させることができる。従って、よりコンパクトな構成とすることができる。
【0059】
また本実施形態に係る吐水装置FCでは、ヘッド40は、筒体20の大径部22よりも大径となるように外周が形成されている。このように構成することでバッファ室43も大径に構成することが可能となり、バッファ室43に水が満たされた場合の慣性モーメントをより大きなものとすることができる。従って、回転体としての筒体20及びヘッド40が自転する際に、ヘッド40がフライホイールの役割を果たすことになり、回転安定性を確保することができる。
【0060】
続いて、本実施形態に係る吐水装置FCのシャワー流の動き(軌跡)について説明する。
【0061】
流入室3に流入した洗浄水の一部は、筒体20の大径部22側の端部の開口24および側面に形成された貫通孔23から筒体20の内部に流入して、筒体20の軸方向を小径部21の先端に向かって流れる。そして、小径部21の開口25から流出した水は、ヘッド40内部のバッファ室43に流入する。流入室3内の水が筒体20の内部に流入して筒体20の内部を流れるときには、まだ旋回成分を持っている。また、小径部21という比較的狭い流路を流れる際には流速が速くなる。
【0062】
バッファ室43は、流入室3及び筒体20に比べて径方向寸法が大きな扁平状の空間であるので、小径部21の開口25から流れ込んでくる水の勢いを減少させることができる。すなわち、特別な機構や部品を追加することなくバッファ室43に水を一時的に貯留することのみで、水の流速を大きく落とすことができ、また旋回成分も失わせることができる。このようにしてバッファ室43で整流された水は、バッファ室43に連通する複数の吐水孔45からシャワー状に外部に吐水される。
【0063】
筒体20及びヘッド40は、前述したように首振り公転と自転とを組み合わせた動きをするため、本実施形態に係る吐水装置FCによって得られるシャワー状のシャワー流の吐水軌跡(例えば人体等に対するシャワー流の衝突部位の人体表面上における移動軌跡)は、自転に起因する軌跡と、首振り公転に起因する軌跡とを組み合わせたものとなる。
【0064】
その吐水軌跡を図4に模式的に示す。なお、図4において、吐水装置は、可動部分である筒体20とヘッド40のみを示し、流入室3が形成されたガイド部材1は図示を省略している。
【0065】
筒体20及びヘッド40の自らの中心軸C1のまわりの一体となった自転により、その自転方向と同じb方向に、図4において実線で示されるような円状の軌跡を描いて移動するシャワー流が形成される。ここで、吐水孔45が筒体20の中心軸C1に対して傾いていることから、吐水孔45が形成された散水板44の径よりも大きな円を描くようにシャワー流は移動する。
【0066】
本実施形態では、複数の吐水孔45が中心軸C1に対して非対称な関係で傾斜しているため、中心軸C1に対して非対称的な広がりを有するシャワー流が吐水され、筒体20及びヘッド40の中心軸C1のまわりの自転に伴って、シャワー流が人体等に対して当たる部位が中心軸C1のまわりを移動し、比較的広範囲にわたってシャワー流を浴びせることができる。
【0067】
複数の吐水孔45が中心軸C1に対して非対称な関係で傾斜しているという表現には、すべての吐水孔45が同じ方向に傾斜していることに限らず、少なくとも1つの吐水孔45が他の吐水孔45とは異なる方向に傾斜した構造も含まれる。ただし、複数の吐水孔45間で傾斜方向が異なると、シャワー流の到達箇所が分散しやすく、ある面内で均一にシャワー流が当たるような感じ(シャワー流のまとまり感)は得にくい。
【0068】
これに対して、すべての吐水孔45が同じ方向に傾斜していると、各吐水孔45からのシャワー流は同じ方向に進むため、分散することなく、面内分布が均一でまとまり感のあるシャワー流を浴びることができ、そのシャワー流を受ける部分をむら無く洗浄したり温めたりすることができる。また、シャワー流の分散を抑えることは、シャワー流の熱が空気中に逃げるのを抑制してシャワー流の飛翔中における温度低下を抑制することにもつながる。
【0069】
流入室3内に流入した水は旋回して筒体20を自転及び首振り公転させる役割を担うだけでなく、その水自体が筒体20及びヘッド40を通過して吐水孔45から吐水されるシャワー流となる。ここで、その洗浄水が旋回成分を持ったまま吐水孔45に至ってしまうと、吐水孔45の傾斜方向以外の方向にも分散して吐水され、面内分布が不均一なまとまり感の感じられないシャワー流になりやすい。
【0070】
そこで、本実施形態では、筒体20と散水板44との間にバッファ室43を設け、そのバッファ室43に水を一時的に貯留することで、水の流速を大きく落とすことができ、また旋回成分も失わせることができる。吐水孔45を通過する水が旋回成分を失うことで、吐水孔45の傾斜方向に確実に吐水させることができ、シャワー流の分散を抑えて、面内分布が均一でまとまり感のあるシャワー流が得られる。
【0071】
例えば、吐水孔45が散水板44の中心部近傍に形成されていると、筒体20の開口25から流出した洗浄水がバッファ室43で十分な整流作用を受けずに、旋回成分を持ったまま吐水孔45に流れ込んでしまうことが懸念される。したがって、吐水孔45は、なるべく散水板44の外周側部分に形成するのが望ましい。また、散水板44の外周側部分に吐水孔45を形成した場合には、前述した自転及び首振り公転によって生じる遠心力によって、より広範囲にシャワー流を吐水することができる。
【0072】
また、本実施形態では、筒体20及びヘッド40の、流入室3の中心軸C2のまわりの首振り公転により、図4において点線で示すように比較的狭い範囲を移動するシャワー流が形成される。筒体20とガイド面3aによって規制される公転角より、吐水孔45の傾斜で決定される自転角の方が大きく設定されており、これにより、この首振り公転により形成されるシャワー流は、自転により形成されるシャワー流の移動範囲より狭い範囲を、自転により形成されるシャワー流の移動方向bとは反対方向のa方向に、b方向の移動よりも高速に移動する。したがって、シャワー流は全体として、比較的狭い範囲を図4において矢印a方向に高速に移動しつつ、その移動範囲よりも大きな範囲をa方向とは逆方向のb方向にゆっくりと移動する。
【0073】
首振り公転によって形成されるシャワー流によって、自転によって形成されるシャワー流だけではカバーしきれない、より内側の範囲をカバーすることができ、シャワー流がいわゆる中抜けせずに、むらの無い面状のシャワー流を得ることができる。このように、本実施形態によれば、中抜けなく、より広範囲を面状にカバーするシャワー状のシャワー流を実現できる。このような本実施形態に係る吐水装置を複数個、例えば浴室やシャワーブースの壁に取り付け、それら各吐水装置からのシャワー流を浴びれば、フリーハンドの状態で体の広範囲をむら無く一度に温めることができ、シャワー流及び吐水流だけで十分な入浴感を得ることが可能となる。このようなシャワー浴は、浴槽に浸かっての入浴と異なり、体への水圧の圧迫感(心肺への負担)やおぼれる心配がなく、特に小さな子供や高齢者にとって安心である。
【0074】
図5は、本実施形態の変形例にかかる吐水装置を例示する模式図である。また、図6は、本変形例の吐水装置が有する筒体を表す模式図である。なお、図6(a)は、本変形例の吐水装置が有する筒体を側面から眺めた側面模式図であり、図6(b)は、図6(a)における筒体を矢視Xの方向に眺めた平面模式図である。
【0075】
本変形例にかかる吐水装置は、筒体の首振り公転と自転とを起こすエネルギーを、流体(水)から筒体に直接与える。そこで、本変形例にかかる吐水装置では、ガイド部材101の内部に、水が流入する円筒状に形成された流入室103が形成されている。水は、封止部材106に形成された流入路109を経て流入室103に流入する。そのため、流入室103には、図1に表した流入室3のようには、流入孔5は形成されていない。流入路109は、流入室103の中心に接続されている。そして、流入路109の通路断面積は、流入室103へと流体を導く通路108の通路断面積より小さい。よって、流入室103に流入する水の流速を高めることができる。
【0076】
本変形例の吐水装置が有する筒体120は、図6に表したように、図1に表した筒体20と同様に小径部21と大径部22とを有する概略ボトル形状に形成されている。この筒体120の大径部22側は、開口されていない。そのため、本変形例においては、流入室103に流入した洗浄水は、貫通孔23を介して筒体120の内部に導かれて小径部21の先端から流出可能である。
【0077】
そして、小径部21の先端から流出した水は、ヘッド40内部のバッファ室43に流入する。バッファ室43は、流入室103及び筒体120に比べて径方向寸法が大きな扁平状の空間であるので、小径部21の先端から流れ込んでくる水の勢いを減少させることができる。すなわち、特別な機構や部品を追加することなくバッファ室43に水を一時的に貯留することのみで、水の流速を大きく落とすことができ、また旋回成分も失わせることができる。このようにしてバッファ室43で整流された水は、バッファ室43に連通する複数の吐水孔45からシャワー状に外部に吐水される。
【0078】
また、筒体120は、大径部22の下端に軸流羽根122を有する。この軸流羽根122は、流入路109から流入室103に入り込んだ水の流れを直接受け、これを筒体120の駆動力に変える。水は、小径の流入路109から流入室103に入り込むので、高い流速で軸流羽根122にうち当たる。よって、筒体120は、大きな駆動力を受けて公転し、筒体120に発生する摩擦力により筒体120自身の中心軸C1のまわりに自転する。なお、その他の構造については、図1〜図4に関して前述した吐水装置の構造と同様である。
【0079】
この筒体120の挙動について、さらに詳細に説明する。流入路109から流入室103に水が供給されると、流入室103の内圧が高まり、小径部21の外周面の一部は開口部4の内壁面に押し付けられ、且つ大径部22の側面(周面)の一部は流入室103のガイド面103aに押し付けられる。そして、軸流羽根122が流入室103への水の流れを駆動力に変えるので、筒体120は、この駆動力を受けて筒体120は流入室103の中心軸C2周りの首振り公転運動を起こす。こうした公転運動を起こすと小径部21と開口部4との接触部分、および大径部22と流入室103との接触部分に摩擦力が発生するので、この摩擦力を受けて、筒体120は、流入室103内で筒体120自身の中心軸C1周りの自転運動を開始する。
【0080】
本変形例の吐水装置のように、旋回流ではなく、軸流羽根122が流入室103への水の流れを駆動力に変える場合であっても、首振り公転によって形成されるシャワー流によって、自転によって形成されるシャワー流だけではカバーしきれない、より内側の範囲をカバーすることができ、シャワー流がいわゆる中抜けせずに、むらの無い面状のシャワー流を得ることができる。このように、本変形例においても、中抜けなく、より広範囲を面状にカバーするシャワー状のシャワー流を実現できる。また、複数の吐水孔45が中心軸C1に対して非対称な関係で傾斜しているため、前述したように、中心軸C1に対して非対称的な広がりを有するシャワー流が吐水され、筒体120及びヘッド40の中心軸C1のまわりの自転に伴って、シャワー流が人体等に対して当たる部位が中心軸C1のまわりを移動し、比較的広範囲にわたってシャワー流を浴びせることができる。
【0081】
図7は、本実施形態のさらに他の変形例にかかる吐水装置を例示する模式図である。本変形例にかかる吐水装置は、水流により水車と歯車とを駆動させることにて、筒体の首振り公転と自転とを起こす。そこで、本変形例の吐水装置は、筒体の首振り公転と自転とを起こすエネルギーを、流体(水)から筒体に直接与える。本変形例にかかる吐水装置では、ガイド部材201の内部に、水が流入する円筒状に形成された流入室203が形成されている。水は、流入室203に形成された流入孔205を経て流入室203に流入する。流入孔205は、図1に表した流入孔5のように、傾斜して形成されていても良い。
【0082】
本変形例の吐水装置が有する筒体220は、図7に表したように、図1に表した筒体20と同様に小径部21と大径部22とを有する概略ボトル形状に形成されている。この筒体220の大径部22側は、開口されていない。そのため、本変形例においては、流入室203に流入した洗浄水は、貫通孔23を介して筒体220の内部に導かれて小径部21の先端から流出可能である。
【0083】
流入室203の下部(封止部材156の上部)には、羽車263が流入室203の中心軸C2から偏心した位置に回転自在に設けられ、この羽車263は流入孔205から流入室203に入り込んだ水の流れで直接回転駆動する。羽車263には軸263aを介して、偏心した位置にある羽車263の中心軸を中心に回転自在とした歯車264が設けられ、この歯車264は羽車263の回転駆動と同期して駆動する。
【0084】
ギヤ歯265が設けられた伝達ディスク225は、ギヤ歯265と歯車264と係合することで、中心軸C2を中心に回転自在に設けられている。さらに、伝達ディスク225には中心軸C2から偏心した位置に支持部235が設けられ、筒体220の大径部22の下端に設けられた伝達シャフト215が回転自在に係合されている。そして、伝達ディスク225は、流入孔205から流入室203に入り込んだ洗浄水の流れを羽車263で受けて駆動する。
【0085】
このように、羽車263が回転すると、流入室203の中心軸C2から偏心してこの中心軸C2周りの回転を筒体220に伝達する。この際、筒体220は、前述したように所定の傾斜角度で中心軸C2から傾斜していることから、この所定の傾斜角度で首振り状に公転することになる。そして、こうした首振り公転を起こしている際に、筒体220は、大きな駆動力を受けて、筒体220とガイド部材201との接触部分に発生する摩擦力により、筒体220自身の中心軸C1のまわりに自転する。
【0086】
よって、本変形例にかかる吐水装置は、筒体220を中心軸C2周りに首振り公転させつつ筒体220自身の中心軸C1周りに自転させ、水を小径部21の先端から流出させることができる。なお、その他の構造については、図1〜図4に関して前述した吐水装置の構造と同様である。
【0087】
本変形例の吐水装置のように、旋回流ではなく、流入孔205から流入室203に入り込んだ水の流れを直接受ける羽車263の駆動力を歯車264を介して伝達して、筒体220の首振り公転と自転とを起こす場合であっても、図5および図6に関して前述したように、首振り公転によって形成されるシャワー流によって、自転によって形成されるシャワー流だけではカバーしきれない、より内側の範囲をカバーすることができ、シャワー流がいわゆる中抜けせずに、むらの無い面状のシャワー流を得ることができる。また、複数の吐水孔45が中心軸C1に対して非対称な関係で傾斜しているため、図5および図6に関して前述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0088】
更に、流入室203内で、公転する筒体220に水が流入することで、水は旋回成分を持つ。そのため、バッファ室43に水を一時的に貯留することで、水の流速を大きく落とし、旋回成分も失わせることができる。そして、吐水孔45を通過する水が旋回成分を失うことで、吐水孔45の傾斜方向に確実に吐水させることができ、シャワー流の分散を抑えて、面内分布が均一でまとまり感のあるシャワー流が得られる。
【0089】
なお、本実施形態の吐水装置は、浴室やシャワーブースにおけるシャワー装置として用いる以外にも、例えば、洗浄機能付き便器などにも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1:ガイド部材
2:球体部
3:流入室
3a:ガイド面
4:開口部
5:流入孔
6:封止部材
20:筒体
21:小径部
22:大径部
23:貫通孔
24:開口
25:開口
40:ヘッド
41:バッファ部材
42:細管部
43:バッファ室
44:散水板
45:吐水孔
101:ガイド部材
103:流入室
103a:ガイド面
106:封止部材
108:通路
109:流入路
120:筒体
122:軸流羽根
156:封止部材
201:ガイド部材
203:流入室
205:流入孔
215:伝達シャフト
220:筒体
225:伝達ディスク
235:支持部
263:羽車
263a:軸
264:歯車
265:ギヤ歯
FC:吐水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐水方向を変化させながら広範囲に吐水を行うことが可能な吐水装置であって、
水が流入する流入室がその内部に形成され、前記流入室の内部と前記流入室の外部とを連通する開口部を有するガイド部材と、
前記開口部より小径な小径部と前記開口部より大径な大径部とを有し、前記小径部の先端は前記開口部から前記ガイド部材の外部に突出させる一方で、少なくとも前記大径部は前記流入室の内部に収容され、前記流入室に流入した水を前記小径部の先端から流出可能なように構成されてなる筒体と、
前記ガイド部材の外部に位置するように前記小径部の先端に繋げて設けられ、複数の吐水口が設けられると共に、これら複数の吐水口それぞれに連通する貯水室がその内部に形成された散水部材と、を備え、
前記筒体は、前記流入室へ流入した水により、少なくとも前記小径部の一部が前記開口部に接触された状態で前記流入室の中心軸に対して傾きながら前記流入室の中心軸回りに首振り公転し、且つ自身の中心軸回りに自転するように構成されており、
更に前記筒体及び前記散水部材からなる回転体は、前記散水部材の貯水室に水が供給されていない状態では、その重心が、前記筒体が首振り公転で傾いた際の中心軸と前記流入室の中心軸との交点である首振り中心近傍となる前記開口部近傍に位置するように構成される一方で、前記散水部材の貯水室に水が供給された状態では、その重心が前記散水部材側に移動するように構成されていることを特徴とする吐水装置。
【請求項2】
前記貯水室に水が供給されていない状態における前記回転体の重心は、前記開口部より前記散水部材側に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の吐水装置。
【請求項3】
前記散水部材には、前記貯水室への水供給が停止された状態で前記貯水室内の水が排出されるように排水口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吐水装置。
【請求項4】
前記吐水口は前記排水口として機能するように形成され、前記吐水口は前記散水部材の周縁近傍に互いに所定距離をおいて複数形成されていることを特徴とする請求項3に記載の吐水装置。
【請求項5】
前記ガイド部材には、前記流入室への水供給が停止された状態で前記流入室内の水が排出されるように排水口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吐水装置。
【請求項6】
前記開口部と前記筒体との間には隙間が形成されており、この隙間に水を供給することでその水が前記筒体の軸受けとして機能すると共に、この隙間を前記排水口として機能するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の吐水装置。
【請求項7】
前記筒体及び前記散水部材からなる回転体は、前記開口部近傍に位置する部分で少なくとも2つ以上に分割して形成されており、それら分割された部分を一体化することで前記回転体が形成されることを特徴とする請求項1に記載の吐水装置。
【請求項8】
前記散水部材は、前記筒体の大径部よりも大径となるように外周が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吐水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−104982(P2010−104982A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225002(P2009−225002)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】