説明

向きを変えられる分岐部を備えた管腔内人工器官

【課題】向きを変えられる分岐部を備えている管腔内人工器官の提供。
【解決手段】 管腔内人工器官は、側壁並びに近位端及び遠位端を備えている管状の主移植片本体を備えている。該主移植片本体の近位端の近くに第一のステントが配置されている。該第一のステントの遠位側に隣接して第二のステントが配置されている。前記側壁に設けられている穴は、前記第一のステントの山部と前記第二のステントの谷部との長手方向での間に配置されている。管状の分岐部が前記の穴内に配置されている。該分岐部は、第一及び第二の端部開口を備えている。該分岐部は、前記第一の端部開口が前記遠位端に向かって配向され且つ前記第二の端部開口が前記近位端に向かって配向される逆行形態と、前記第一の端部開口が前記近位端に向かって配向され且つ前記第二の端部開口が前記遠位端に向かって配向される順行形態との間で柔軟に配向させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内疾患を治療するために人間又は動物の体内に埋め込まれる医療器具に関する。
【0002】
(関連出願)
本願は、2011年9月27日に出願された米国仮特許出願第61/539,700号及び2011年12月29日に出願された米国仮特許出願第61/581,412号に基づく優先権を主張している。これらの出願の各々は、これらに言及することによりその全体が本明細書に参考として組み入れられている。
【背景技術】
【0003】
本発明は概して医療器具に関する。更に特定すると、本発明は向きを変えられる分岐部を備えている管腔内人工器官に関する。
【0004】
大動脈解離及び大動脈瘤のような大動脈の疾患の治療のために血管内治療方法が提案されて来た。動脈瘤を治療するためにステント移植片を使用することは医療分野において一般的である。ステント移植片は、皮膚に設けられた小さな切開部によって血管系へアクセスすること及び給送装置を目標領域に向けてガイドすることによって配備される。この管腔内送り込み方法は、比較的貫入性の高い外科手術よりも侵襲性が低く概ね好ましい。多くのステント移植片が管腔内給送を使用して埋め込まれて連結されたステント移植片システムが提供される。互いに連結されたステント移植片は、開窓されたステント移植片及び分岐した構成要素を含む比較的小さな側方分岐移植片によって作ることができる。
【0005】
このような方法は、特に大動脈の疾患した部分が大動脈分岐部に隣接しているときに提供されて来た。しかしながら、大動脈の疾患した部分が、大動脈内の比較的上方、例えば胸部大動脈弓に隣接している下行大動脈領域内又は上行大動脈内に位置している場合には、これらの疾患を治療するための管腔内技術は、胸部大動脈弓の弓状すなわち湾曲した特性により及びこの領域に主要大動脈が存在することにより及び心臓に近いことにより幾分難しい。
【0006】
スカラップ形状で且つ開窓が設けられた器具を含むカスタムメイドの器具は、弓状の血管が犠牲にされ且つ大動脈弓全体の保護が必要とされない状況において使用されて来た。しかしながら、これらの器具の配備は難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、向きを変えられる分岐部を備えている管腔内人工器官を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの例においては、管腔内人工器官は管状の主移植片本体を備えている。該主移植片本体は、側壁と、近位端と、遠位端とを備えている。第一のステントが該主移植片本体の近位端の近くに配置されている。該第一のステントの遠位側に隣接して第二のステントが配置されている。該第一のステントと第二のステントとの各々は、山部と谷部とを備えている。該主移植片本体は側壁に穴を備えており、該穴は、第一のステントの山部と第二のステントの谷部との長手方向での間に配置されている。該人工器官は管状の分岐部を備えており、該管状の分岐部は、該穴内に配置され且つ主移植片本体に取り付けられている。該分岐部は、第一の端部開口と第二の端部開口とを備えている。該分岐部は、逆行形態と順行形態との間で柔軟に配向させることができる。該逆行形態においては、前記第一の端部開口は前記の主移植片本体の遠位端に向かって配向され、前記第二の端部開口は主移植片本体の近位端に向かって配向される。順行形態においては、前記第一の端部開口は主移植片本体の近位端に向かって配向され、第二の端部開口は主移植片本体の遠位端に向かって配向される。
【0009】
もう一つ別の例においては、管腔内人工器官は主移植片本体を備えている。該主移植片本体は、近位端と遠位端とを備えている。該主移植片本体はスリットを備えており、該スリットは該主移植片本体の外周に沿って少なくとも部分的に延びている。該人工器官は前記スリット内に配置された管状の分岐部を備えている。該分岐部は、前記主移植片本体から内方へ延びている第一の部分と、該主移植片本体から外方へ延びている第二の部分と、前記スリットに隣接して該主移植片本体に取り付けられている中間部分とを備えている。前記分岐部の第二の部分は、主移植片本体の近位端又は遠位端に向かって柔軟に配向させることができる。
【0010】
もう一つ別の例においては、体内血管を治療する方法であり、該方法は、管腔内人工器官を体内血管内へ導入するステントを含んでいる。該人工器官は管状の主移植片本体を備えている。該主移植片本体は、側壁と近位端と遠位端とを備えている。該主移植片本体は該主移植片本体の側壁に穴を備えている。該人工器官は管状の分岐部を備えており、該管状の分岐部は、前記の穴内に配置され且つ前記の主移植片本体に取り付けられている。該分岐部は第一の端部開口と第二の端部開口とを備えている。該第一の端部穴は、前記の主移植片本体の近位端又は遠位端に向かって柔軟に配向させることができる。該方法は、バルーンを前記分岐部内に導入して該分岐部を前記移植片本体に対して所望の向きへと動かすステップを含んでいる。該方法は、分岐部人工器官を前記分岐部内で所望の向きに配備して該人工器官を分岐血管に結合させるステップを含んでいる。
【0011】
本発明のその他の装置、方法、特徴、及び利点は、添付の図面及び以下の詳細な説明を精査することにより当業者に明らかであり又は明らかとなるであろう。このような付加的な装置、方法、特徴、及び利点は、本発明の範囲に含まれ且つ特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、管腔内人工器官の一実施形態の正面図である。
【0013】
【図2】図2は、逆行形態にある分岐部を備えている管腔内人工器官と予め装填されたカテーテルとの一実施形態の斜視図である。
【0014】
【図3】図3は、カテーテルが分岐部内へ更に進められた状態の図2の管腔内人工器官の斜視図である。
【0015】
【図4】図4は、分岐部の向きを調整するためにバルーンが分岐部内に配備されている状態の図2〜3の管腔内人工器官の斜視図である。
【0016】
【図5】図5は、バルーンが分岐部内に配備されており且つ分岐部が順行形態にある状態の図2〜4の管腔内人工器官の斜視図である。
【0017】
【図6】図6は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【図7】図7は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【図8】図8は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【図9】図9は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【図10】図10は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【図11】図11は、管腔内人工器官上で使用するためのステント構造の実施形態を示している図である。
【0018】
【図12】図12は、一つの例示的なステント構造と傾斜が付けられている近位端とを備えている管腔内人工器官の一実施形態の側面図である。
【図13】図13は、一つの例示的なステント構造と傾斜が付けられている近位端とを備えている管腔内人工器官の一実施形態の頂面図である。
【0019】
【図14】図14は、一つの例示的なステント構造と傾斜が付けられている近位端とを備えている管腔内人工器官の一実施形態の側面図である。
【図15】図15は、一つの例示的なステント構造と傾斜が付けられている近位端とを備えている管腔内人工器官の一実施形態の頂面図である。
【0020】
【図16】図16は、分岐部人工器官が内部に配備されている状態の管腔内人工器官の一実施形態の斜視図である。
【図17】図17は、分岐部人工器官が内部に配備されている状態の管腔内人工器官の一実施形態の斜視図である。
【0021】
【図18】図18は、分岐部人工器官が内部に配備されている状態の、図16〜17の管腔内人工器官の管腔に沿った斜視図である。
【0022】
【図19】図19は、人工器官の近位端を拘束する保持構造の実施形態を示している図である。
【図20】図20は、人工器官の近位端を拘束する保持構造の実施形態を示している図である。
【0023】
【図21】図21は、湾曲したカニューレを備えている導入器の一実施形態を示している図である。
【0024】
【図22】図22は、湾曲している拡張器先端を備えている導入器の一実施形態を示している図である。
【0025】
【図23】図23は、分岐部を備えている管腔内人工器官の一実施形態を示している図である。
【図24】図24は、分岐部を備えている管腔内人工器官の一実施形態を示している図である。
【0026】
【図25】図25は、人工器官の近位端から見た図23〜24の管腔内人工器官の管腔を示している図である。
【0027】
【図26】図26は、分岐部が逆行形態にあり且つ分岐部人工器官が内部に配備されている状態の図23〜24の管腔内人工器官を示している図である。
【0028】
【図27】図27は、分岐部が順行状態にあり且つ分岐部人工器官が内部に配備されている状態の図23〜24の管腔内人工器官を示している図である。
【0029】
【図28】図28は、分岐部人工器官が内部に配備されている状態の図23〜24の管腔内人工器官の管腔を示している図である。
【0030】
【図29】図29は、管腔内人工器官内に形成されている窪み部と、該窪み部から延びている分岐部との一実施形態を示している図である。
【図30】図30は、管腔内人工器官内に形成されている窪み部と、該窪み部から延びている分岐部との一実施形態を示している図である。
【0031】
【図31】図31は、窪み部と分岐部とを備えている管腔内人工器官の一実施形態を示している図である。
【図32】図32は、窪み部と分岐部とを備えている管腔内人工器官の一実施形態を示している図である。
【0032】
【図33】図33は、人工器官の遠位端から見た図31〜32の管腔内人工器官の管腔を示している図である。
【0033】
【図34】図34は、人工器官の近位端から見た図31〜32の管腔内人工器官の管腔を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は向きを変えられる分岐部を備えている管腔内人工器官に関する。
【0035】
本開示において、“近位”という用語は、医療処置中において概ね心臓に最も近い方向を指しており、一方、“遠位”という用語は、医療処置中において心臓から最も遠い方向を指している。
【0036】
図1〜5は人工器官10の一つの例を図示している。この一つの例においては、人工器官10は、以下において更に説明するように、左鎖骨下動脈又は左総頚動脈への血流を提供する単一の分岐胸部エンドグラフトとして形成されている。他の例においては、人工器官10は、左総頚動脈のための単一の分岐部を使用し且つ左鎖骨下動脈への血流を維持するために脊椎骨又は非解剖学的バイパスを通る血流に依存することによって保護範囲を更に近位側へ延ばすために適用される。人工器官10は、標準的な胸部ステント移植片が許容するよりも更に近位側にまで延びた保護範囲を必要とする動脈瘤及び/又は動脈解離を治療するために適用可能である。人工器官10は移植片本体20を備えている。移植片本体20は、内側面23と外側面24とを有する移植片材22を備えている。移植片本体20は、ほぼ円筒形状の概ね管状の部材として形成されている。移植片22の内側面23は、その近位端27と遠位端28との間で移植片本体20内を長手方向に延びている主管腔26を形成している。該主管腔26は、例えば、血液のような流体がその中を通るのに適している。
【0037】
移植片22は、当該技術分野において公知の如何なる材料によって作られていてもよい。移植片22は、意図された生体内環境において実質的に無害で且つ患者の生理学的系によって実質的に拒絶されない(すなわち、非抗原性である)生体適合性材料によって作られるのが好ましい。例えば、移植片材22は、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアラミド、ポリアクリロニトリル、セルロース、又はその他の可撓性の生体適合性材料によって作ることができる。移植片材22はまた、公知の繊維グラフト材料、例えば、(米国カンザス州、ウィチタにある)InvistaによるDACRON(ダクロン:登録商標)のようなポリエステル織布、(カルフォルニア州プレザントンにある)Thoratec CorporationによるTHORALON(ソラロン:登録商標)のようなポリエーテルウレタン、又は(ノースカロライナ州スタンレイにある)DSM Dyneema LLCによるDYNEEMA(ジニーマ:登録商標)のような超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)のようなポリエチレンによって作ることもできる。更に又は代替的には、本質的には生体適合性でない材料に表面改質を施して該材料を生体適合性にしても良い。表面改質の例としては、例えば、生体適合性ポリマーの表面へのグラフト重合、架橋重合された生体適合性ポリマーによる表面のコーティング、生体適合性官能基による化学的改質、又はヘパリン若しくはその他の生体適合性物質のような親和剤の固定化がある。従って、生体環境内で生き残るのに十分な強度を有している如何なる繊維状材料も最終的な生地が生体適合性であるならば繊維状移植片を形成するために使用することができる。
【0038】
移植片材22としては、生体改造可能材料、例えば、再生された又は天然由来のコラーゲン剤、細胞外マトリクス(ECM)剤、粘膜下組織、腎被膜、真皮コラーゲン、硬膜、心膜、大腿筋膜、漿膜、腹膜若しくは基底膜の層、又は小腸粘膜下組織(SIS)を含む腸粘膜下組織、胃粘膜下組織、膀胱粘膜下組織、若しくは、子宮粘膜下組織がある。適切な再形成剤の一つの非限定的な例は、(インディアナ州、ブルーミントンにある)Cook MedicalによるSURGISIS BIODESIGN(サージシス バイオデザイン:登録商標)である。もう一つの適切な再形成剤は、Cookらに付与された米国特許第6,206,931号に記載されている移植片人工器官材料がある。該米国特許は、これに言及することによりその全体が本明細書に参考として組み入れられている。付加的又は代替的には、移植片材22は、Greenbergらに付与された米国特許第7,407,509号又はKuppurathanamらによる米国特許出願公開第2009/0171451号に記載されている材料のいずれかによって作ることができる。これらの米国特許及び米国特許出願は、これに言及することによってそれらの全体が参考として本明細書に組み入れられている。
【0039】
移植片本体20は、ステントのような少なくとも一つの支持構造体30を備えている。支持構造体30は、単一構造、一体構造又は複数の独立した構造として形成することができる。支持構造体30及び/又はその種々の部分は、移植片材22の内側面23及び/又は外側面24上に設けられている。多数の支持構造体30は移植片本体20の長さに沿った1以上の尖端に配置されている。移植片本体の各々の端部を体内血管の壁に対してシールするために、1以上の支持構造体30が移植片本体20の近位端27及び/又は遠位端28に近接して配置されている。移植片本体20の近位端27及び/又は遠位端28に近接して配置されている支持構造体30は、移植片本体20の内側面上及び/又は外側面上に配置されている。幾つかの例においては、ステントのうちの1以上を人工器官の内側面に固定することが望ましい。例えば、複雑な解剖学的状況においては、人工器官の外側面に固定されているステントは、分岐血管へのアクセス、シール、又は固定を確保するために使用されるワイヤ又はその他の器具と絡み合った状態となる可能性がある。
【0040】
支持構造体30及び/又はその種々の部分は、当該技術分野において公知の適切な如何なるパターンを有しているステントであってもよい。該ステントはバルーン拡張型であっても良い。これらのステントは、自己拡張型であるのが好ましい。ステントは、人工器官の開存性を維持し且つ周囲の脈管組織に対する適切なシールを確保することができる。ステントの構造及び内側か外側かといった配置における幾つかの目的は、金属同士の接触点を避けること、2つの異なるタイプの合金間の接触を避けること、及び微動を最少にすることにある。ステントのサイズ、間隔、及び構造は、蛇行している解剖学的構造内においてさえもステント同士の接触がないように決定されるのが好ましい。ステントは、開存性を維持すると共に材料の摩耗及びステントの疲労を少なくしつつ人工器官の可撓性を最大化するように配置されるのが好ましい。更に、ステントは、以下に説明するように人工器官の如何なる分岐部とも干渉せず、異種金属接触腐食の可能性を最少化し且つ適切な接合安定性を確保することが好ましい。ステントの振幅、間隔、ジグザグな配置は、各人工器官の設計に対して最適化されるのが好ましい。ここに記載したステントのいずれもが、人工器官が動く可能性を少なくする助けとするために、棘状部及び/又はその他のアンカー部材を備えることができる。棘状部は、人工器官10の動きを制限する。付加的又は代替的には、棘状部は、人工器官10が分岐血管に対して動くことによって生じる分岐部60の潰れ又は外れの可能性を少なくする。大動脈解離の治療のような幾つかの状況においては、人工器官10は特に非外傷性であることが望ましい。このようにするために、幾つかの実施形態においては、棘状部は人工器官10から省かれている。
【0041】
ステントのパターンの一つの例として、Z型ステント又はジャイアントルコ(GIANTURCO:登録商標)ステント構造がある。各Z型ステントは、一連の屈曲した区分すなわち屈曲部によって連結されている一連のほぼ真っ直ぐな区分すなわちストラット部を備えている。この屈曲した区分は鋭角の屈曲部すなわち頂点を備えている。このZ型ステントは、真直ぐな区分同士が相対的にある角度で配置されて前記の屈曲区分によって結合されているジグザグ形状で配列されている。この構造は、大きな径方向の力並びに長手方向の支持の両方をもたらす。蛇行している解剖学的構造、分岐部、又は開窓部においては、ステント同士の接触を避けるために代替的なステント又はZ型ステント構造の改良品を使用することが好ましい。代替的なステントとしては、例えば、環状ステント又はらせん状ステントがある。
【0042】
ここに記載されているステントは、当該技術分野において公知の適当な如何なる材料によっても作ることができる。一つの例においては、ステントは、標準的な医療等級のステンレス鋼によって作られ且つ標準的なはんだ(鉛ゼロ/錫ゼロ)を使用してはんだ付けされる。他の例においては、ステントは、あらゆるタイプのステンレス鋼、銀、白金、金、チタン、タンタル、イリジウム、タングステン、コバルト、クロム、コバルトクロム合金1058、コバルト系35N合金、ニッケル系合金625、モリブデン合金、約0.4%〜約0.8%の酸化ランタン(La)、及びニッケル−チタン合金、又はその他の当該技術分野において公知の適当な材料から選択された金属材料によって作られていてもよい。該ステントは、ニチノール又はその他の形状記憶金属によって作られても良い。更に、ステントは、適切な管腔内支持構造体を提供するために種々の方法で形成することができる。例えば、1以上のステントは、編み上げワイヤ構造体、レーザーで切断したカニューレ、個々に連結されたリング、又は別のパターン若しくは構造によって作ることができる。
【0043】
移植片本体20の移植片材22上には変形可能な領域40が設けられている。変形可能な領域40は生体適合性の移植片材42を含んでいる。移植片材42は当該技術分野において公知の如何なる材料によって作られてもよい。例えば、移植片材42は該移植片材22に関して上記した材料のいずれかよっても作ることができる。移植片材42は移植片材22を作るために使用される材料と同じか又は異なる材料によって作ることができる。変形可能な領域40は移植片本体20と一体に形成されていてもよい。そのために、移植片材22と移植片材42とは移植片材の一体部片によって作られていてもよい。変形可能な領域40は、一体部片の移植片材を形成するために使用される織り上げプロセス中に形成される。例えば、多数の縦糸及び/又は多数の横糸が織り上げプロセス中に調整されて、Schaefferらによる米国特許出願公開第2010/0063576号に記載されている余剰移植片が形成される。該米国特許出願公開は、これに言及することによりその全体が本明細書に参考として組み入れられている。
【0044】
付加的に又は代替的には、変形可能な領域40が移植片本体20に取り付けられる。該変形可能な領域40は、縫合糸、ワイヤ、ステープル、クリップ、接着剤、又は固定取り付けを行うために使用されるその他の方法によって、移植片本体20に取り付けられる。例えば、変形可能な領域40は、Hartleyらによる米国特許出願公開第2006/0095118号に記載されている方法によって移植片本体20に取り付けられる。該米国特許出願は、これに言及することによってその全体が本明細書に参考として組み入れられている。変形可能な領域40は、移植片本体20の移植片材22及び/又は支持構造体30に取り付けられている。変形可能な領域40の移植片材42は、移植片本体20の移植片材22に取り付けられて流体密シールを形成する。例えば、変形可能な領域40の移植片材42は、移植片本体20の移植片材22に縫い付けることができる。移植片本体20の移植片材22を貫通して穴が形成されており、該穴は変形可能な領域40に対応している。変形可能な領域40は、該変形可能な領域の内側面43が概ね移植片本体20の内側面23に隣接しており且つ変形可能な領域の外側面44が概ね移植片本体の外側面24に隣接するように、前記の穴内に配置されている。別の言い方をすると、変形可能な領域40は、内側面43が移植片本体20の管腔26と連通するように前記の穴内に配置されている。
【0045】
変形可能な領域40の外側端縁は外周46によって規定されている。外周46は、移植片本体20の支持構造体のうちの1以上によって形成されている空間内に配置されている。例えば、第一の近位のステント30aは、図1に示されているように移植片本体20の近位端27に隣接して配置されている。第一の近位のステント30aは移植片材22の内側面23に配置されている。第二の近位のステント30bは、第一の近位のステント30aの遠位側に隣接して配置されている。第二の近位のステント30bも内側面23に設けられている。第一の近位のステント30aは、複数の近位の屈曲部によって形成されている一連の山部32aと、複数の遠位の屈曲部によって形成されている一連の谷部34aとを有している。同様に、第二の近位のステント30bは、複数の近位の屈曲部によって形成されている一連の山部32bと、複数の遠位の屈曲部によって形成されている一連の谷部34bとを有している。第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとは、第一の近位のステントの山部32aが移植片本体20の外周に沿って第二の近位のステントの谷部34bと整合するように、相対的に配置されている。第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとは、図1に示されているように、移植片本体の外周に関して互いに鏡像の関係となるように移植片本体20上に配列されている。
【0046】
第一の近位のステント30aは、移植片本体20の近位端27の近くに配置されている。一つの例においては、第一の近位のステント30aの山部32aは、移植片本体20の近位端27から約2mm未満、典型的には約0.5mm〜約1mmの距離だけ隔てられている。第一の近位のステント30aが移植片本体20の近位端27に近接して配置されることによって、移植片本体の近位端において支持されない移植片材の量が少なくなる。このことにより(例えば、血流による)移植片材の陥没及び/又は移動の可能性が低くなる。該陥没及び/又は移動は移植片の疲労を生じさせ得る。他の例においては、第一の近位のステント30aは移植片本体の近位端から適当な如何なる距離だけ隔てられていてもよい。
【0047】
付加的又は代替的には、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとは、長手方向に沿って約2mm〜約20mm、典型的には約5mm〜13mmの距離(例えば、谷部34aと山部32aとの間の距離)だけ相対的に隔てられる。一つの例においては、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとの間の間隔は、移植片本体20の外周に沿って変化している。例えば、人工器官の頂部長手方向の長さは、(例えば、以下において更に説明する傾斜した端部を形成するために)人工器官の底部の長手方向長さよりも長くされている。頂部の長手方向の長さに沿った第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとの間の間隔は、底部の長手方向長さに沿った第一の近位のステントと第二の近位のステントとの間の間隔よりも大きい。一つの例においては、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとは、約5mm〜約15mm、典型的には約7mm〜13mm、好ましくは約10mmだけ、頂部の長手方向長さに沿って長手方向に相対的な間隔があけられている。付加的又は代替的には、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとは、約2mm〜7mm典型的には約5mmだけ、底部の長手方向の長さに沿って長手方向に相対的な間隔があけられている。支持構造体30の他の部分間(例えば他の互いに隣接しているステント間)の間隔も、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30bとの間の間隔と同様である。他の例においては、隣接しているステントは適当な如何なる距離だけ相対的な間隔があけられていてもよい。
【0048】
変形可能な領域40の外周46は、概ね、第一の近位のステント30aの一つの山部32aと2つの隣接するストラットとによる近位側面と、第二の近位のステント30bの1つの山部32aと整合している1つの谷部34bと2つの隣接しているストラットとによる遠位側面とで境界が定められている空間に対応している。このようにして、外周46の内側に配置されている変形可能な領域40の移植片材42にはステントが設けられていないようにできる。別の言い方をすると、移植片本体20の支持構造体30は実質的に変形可能な領域40の外側に配置されている。変形可能な領域40の外周46の内側に支持構造体がないことにより、以下に更に説明するように移植片材42は変形可能とすることができる。
【0049】
外周46はフレーム48を備えている。フレーム48は、変形可能な領域40に構造的な支持を付与し且つ/又は変形可能な領域の移植片材42と移植片本体20の移植片材22との間に取り付け部位を付加することができる。フレーム48は、剛性、半剛性、又は可撓性のフレームとして形成することができる。フレーム48は当該技術分野において公知の何らかの材料によって作られた可撓性のフレームであるのが好ましく、該公知の材料としては例えば支持構造体30に関して上記した材料がある。外周46は如何なる所望の幾何学的形状であっても良い。例えば、外周46は図1〜5に示されているようにダイヤモンド形状であっても良い。該ダイヤモンド形状は、上記したように、概ね第一及び第二の近位のステント30a,30bのストラットと屈曲部とによって規定されている。該ダイヤモンド形状は、移植片本体20の長手軸線に対してほぼ平行に延びている長軸と、移植片本体の長軸に対してほぼ直角に延びている短軸とを有している。別の形態として、外周46は、円形、三角形、矩形、又はその他の多角形若しくは非多角形状の幾何的な形状を有していても良い。外周46は、該外周の形状に関係なく実質的に移植片本体20の支持構造体30間に配置される。これによって、外周46内の移植片材42の変形を可能にする実質的にステントが設けられていない変形可能な領域40がもたらされる。
【0050】
図2〜5に最も良く示されているように、変形可能な領域40の移植片材42は外周46内で変形可能である。例えば、移植片材42は、外周46内で、束ねられ、折り畳まれ、寄せ集められ、引き伸ばされ、あるいは別の操作がなされる。このようにするために、移植片材42は弾性材料として形成されている。適切な弾性材料としてはポリウレタンのようなポリマーがある。付加的又は代替的には、移植片材42は適当なやり方で編み上げられて該移植片材に弾性が付与される。代替的に又は付加的には、変形可能な領域40は、変形を可能にするために余分の移植片材42を含んでいても良い。例えば、変形可能な領域40を形成するために使用される一片の移植片材42は、外周46の内側の面積よりも大きい表面積を有していても良い。従って、余分の移植片材42は、上記したように該移植片材42の部片が移植片本体20の移植片材22に取り付けられるか又は移植片材と一緒に形成されるときに変形可能な領域40の外周46の内側に配置される。この余分の移植片材は、変形可能な領域40の移植片材42が移植片本体20に対して動くことができるようにする。
【0051】
人工器官10は分岐部60を備えていてもよい。分岐部60は移植片材62を備えており、該移植片材62は内側面63と外側面64とを有している。分岐部60は、実質的に円筒形状を有している概ね管状の部材として形成されている。移植片材62の内側面63は分岐部の管腔66を形成しており、該分岐部の管腔66は、分岐部60内をその第一の端部67と第二の端部68との間で長手方向に延びている。
【0052】
移植片62は、当該技術分野において公知の如何なる材料によって作られていてもよい。例えば、ある移植片62は、移植片材22及び/又は移植片材42に関して上記した材料のうちのいずれかによって形成することができる。移植片材62は、移植片材22及び/又は移植片材42を形成するために使用される材料と同じ材料又は異なる材料によって作られている。分岐部60は、移植片本体20及び/又は変形可能な領域40と一体に形成されている。このようにするために、移植片材22、移植片材42、及び/又は移植片材62は、移植片材の一体部片によって形成される。別の方法として、分岐部60は変形可能な領域40及び/又は移植片本体20に取り付けられても良い。分岐部60は、縫合糸、ワイヤ、ステープル、クリップ、接着剤、又は固定取り付けを行うために使用される他の方法によって、変形可能な領域40及び/又は移植片本体20に取り付けられる。前記の他の方法としては、例えば、変形可能な領域40に関して上記した方法がある。もう一つ別の例においては、分岐部60は変形可能な領域40に取り付けられていない。
【0053】
分岐部60は少なくとも1つの支持構造体70を備えている。支持構造体70は、単一の一体構造又は複数の独立した構造を有することができる。支持構造体70及び/又は該支持構造体の種々の部分は、分岐部60の内側面63及び/又は外側面64上に設けられている。分岐部60の全長に沿ったあらゆる場所に多数の支持構造体70を配置しても良い。一つの例においては、支持構造体70は、概ね、分岐部60の長手方向及び周方向に延びているらせん状のステントとして形成されている。支持構造体70はまた、分岐部60の長さに沿って配置されている1以上の環状のリングとして形成されても良い。代替的又は付加的には、例えば、支持構造体30に関して上記したものを含む他のいずれかのステントを使用しても良い。支持構造体70は、例えば、支持構造体30に関して上記した材料を含む当該技術分野において公知のいずれの材料によっても作ることができる。
【0054】
分岐部60は変形可能な領域40に形成されている穴50を貫通して延びている。分岐部60は、移植片本体20の管腔26内の位置と移植片本体の外部の位置との間に延びている。例えば、分岐部60は、図6,8,10に最も詳しく説明されているように、第一の部分72と第二の部分74とを備えている。分岐部60の第一の部分72は、第一の端部67から、該第一の端部と該分岐部の第二の端部68との長手方向での間に配置されている中間点73まで延びている。分岐部60の第二の部分74は、該分岐部の中間点73と第二の端部68との間を長手方向に延びている。分岐部60の第一の部分72は、移植片本体20の管腔26内に配置されている。分岐部60の第二の部分74は移植片本体20の外部に配置されている。中間点73は、変形可能な領域40の移植片材42と概ね整合されている。分岐部60は、中間点73のあたりで変形可能な領域40に取り付けられている。分岐部60の第一の部分72の長さは分岐部全長の0〜100%の範囲内である。分岐部60の第二の部分74の長さは該分岐部の全長の0〜100%の範囲内である。別の言い方をすると、分岐部60は、全体が管腔26内に、又は移植片本体20の外部に、又は一部を移植片本体の管腔26内に且つ一部を移植片本体の外部に配置されても良い。一つの実施形態においては、第一の部分72の長さは分岐部60の全長の約50%であり、第二の部分74の長さは分岐部の全長の約50%である。別の言い方をすると、分岐部60の長さの約半分が移植片本体20の管腔26内に配置され、該分岐部の長さの約半分が移植片本体の外側に配置される。もう一つ別の実施形態においては、第一の部分72の長さは分岐部60の全長の約30%であり、第二の部分74の長さは該分岐部の全長の70%である。別の言い方をすると、分岐部60の全長の約30%が移植片本体20の管腔26内に配置され、該分岐部の全長の約70%が該移植片本体の外側に配置される。
【0055】
分岐部60の一部分を移植片本体20の管腔26内に配置し且つ該分岐部の一部分を該移植片本体の外側に配置することによって多くの利点が提供される。例えば、分岐部60のこのような配置は、以下に更に説明するように、分岐部60を移植片本体20に対して種々の異なる形態となるように動かすか又はひねるのを補助することができる。付加的又は代替的には、分岐部60のこのような配置は、分岐部60を目標とする分岐血管に接続するために分岐人工器官を分岐部の管腔66内に配置する補助となる。分岐部60の比較的大部分を移植片本体20の管腔26内に配置することによって、移植片本体に対する分岐部の動きが容易になる。分岐部60の比較的大部分を移植片本体20の外側に配置することによって、管腔26内の血液の流れが改良され且つ/又は移植片本体の管腔内の分岐部を通過して流れる血液によって生じる分岐部の疲労が減じられる。従って、分岐部60の第一の部分72と該分岐部の第二の部分74との相対的な長さは、移植片本体20の管腔内に流体の流れを維持し且つ分岐部の疲労を最少化しつつ分岐部の可撓性を最適化するように選択される。
【0056】
分岐部60は、変形可能な領域内の適切な如何なる位置に配置されてもよい。一つの例においては、分岐部60は変形可能な領域内のほぼ中央に配置される。例えば、分岐部60は、ダイヤモンド形状の変形可能な領域の長軸と短軸とのほぼ交点に配置される。分岐部60を変形可能な領域のほぼ中心に配置することは、以下に更に説明するように、移植片本体に対する分岐部のより大きな動作範囲を提供する補助となる。他の例においては、分岐部60は、互いに隣接している支持構造体(例えば、第一の近位のステント30aと第二の近位のステント30b)間の長手方向及び/又は周方向のある位置に配置される。一つの例においては、分岐部は、支持構造体(例えば、第一の近位のステント30a又は第二の近位のステント30b)の山部と谷部との長手方向での間に配置される。このように、分岐部は、移植片本体の近位端のより近くに又はより遠くに配置されてもよい。
【0057】
分岐部60は移植片本体20に対して可動とすることができる。例えば、分岐部60は変形可能な領域40に取り付けられている。変形可能な領域40の移植片材42は、移植片本体20に対する分岐部60の向きを変えるために変形させることができる。一つの例においては、分岐部60は逆行形態と順行形態との間で可動である。図2〜4には、分岐部60が逆行形態にある人工器官10が図示されている。該逆行形態においては、分岐部60は、移植片本体20の長手軸線に対してある角度で延びており、この場合に、第二の端部68の開口は、移植片本体の外側の該移植片本体の外側面24から近位方向に遠ざかる方向に向けられている。従って、分岐部60の第一の端部67の開口は、管腔26内の移植片本体20の内側面23から遠位方向へ離れる方向に向けられている。逆行形態における外側面24と分岐部60との間の角度は約0°〜約180°の範囲内である。図5は、順行形態における分岐部60を備えている人工器官10を図示している。順行形態においては、分岐部60は、移植片本体20の長手軸線に対してある角度をなして延びており、この場合に、第二の端部68の開口は、移植片本体の外側の該移植片本体の外面24から遠位方向に遠ざかる方向に向けられている。従って、分岐部60の第一の端部67の開口は、管腔26内の移植片本体20の内側面23から基端側へ遠ざかる方向に向けられている。順行形態における外側面24と分岐部60との間の角度は約0°〜約180°の範囲内である。
【0058】
分岐部60は、逆行形態、順行形態、又は該逆行形態と順行形態との間の他の何らかの形態に配置される。別の言い方をすると、分岐部60は、移植片本体20の外側面24に対して角度をなすように配置される。変形可能な領域40の移植片材42は、上記したように、移植片本体20の移植片材22に対して動かして分岐部60が移植片本体に対して移動できるようにされている。該変形可能な領域40の外周46の形状は、分岐部60を所望の移動経路に沿って付勢し又はガイドするように選択される。例えば、ダイヤモンド形状の外周フレーム48は、分岐部60を該外周の長軸(すなわち、ダイヤモンドの近位先端と遠位先端との間の軸)に沿ったある位置に向かって付勢する。別の言い方をすると、分岐部の第二の端部68の開口は、外周48の長軸と移植片本体20の長手軸線とを通る面に向かって付勢される。このようにして、分岐部60は、逆行形態と順行形態との間の面に沿ってひねられる構造とされている。このダイヤモンド形状の外周の長軸を長くすることによって、(例えば、外周の長軸に沿った)長手方向における移植片本体20に対する分岐部60の可動域が広くなる。これと反対に、該ダイヤモンド形状の外周の長軸を短くすると、長手方向における移植片本体20に対する分岐部60の可動域が狭くなる。同様に、該ダイヤモンド形状の外周の短軸(すなわち、長軸を概ね横切る軸)を長くすると、(例えば、外周の短軸に沿った)周方向における移植片本体20に対する分岐部60の可動域が広くなる。これと反対に、該ダイヤモンド形状の外周の短軸を短くすると、周方向における移植片本体20に対する分岐部60の可動域が狭くなる。該外周は、分岐部60の長手方向の可動域が周方向の可動域よりも広い形態とされている。
【0059】
分岐部60は特定の方向に向かって付勢されているけれども、該分岐部は、移植片本体20に対して如何なる方向に可動であっても良い。例えば、分岐部60は、変形可能な領域40の移植片材42に取り付けられている中間点73を中心に移植片本体20に対して如何なる方向にも枢動できる。分岐部60の第一及び/又は第二の端部67,68の開口は、移植片本体20の長手軸線に対して如何なる方向(例えば、近位方向、遠位方向、又は横方向)にも向けることができる。
【0060】
もう一つ別の例においては、変形可能な領域40の可撓性によって、分岐部60を人工器官10の移植片本体20に対して所望の向きに配置することができ、該分岐部が調整後所望の向きに留まったままとなるようにしている。別の言い方をすると、分岐部60は、移植片本体20に対して如何なる向きにも引っ張ったり又は付勢したりすることができない。
【0061】
別の実施形態においては、図23〜28に示されているように、変形可能な領域40が人工器官10から省かれていて、分岐部60は移植片本体20に取り付けられている。分岐部60は、2つの互いに隣接しているステント(例えば、第一の近位のステントと第二の近位のステント)間に規定されている移植片本体20の領域に取り付けられている。この領域は、隣接しているステント同士の間のステントが取り付けられていない領域である。移植片本体における該領域の移植片材は、該互いに隣接しているステント間に張力をかけられた状態で保持されている。例えば、互いに隣接しているステント間の領域は、変形可能な領域40に関して上記した余分の移植片材を備えていなくても良い。分岐部60は、移植片本体20に形成されているスリット29を貫通して延びている。例えば、移植片本体20の移植片材に切れ目が入れられてスリット29が形成され、分岐部60が該スリットを貫通して配置される。
【0062】
一つの例においては、スリット29は、図23に示されているように、ステント(例えば、第一の近位のステント)の互いに隣接しているストラットの間に延びている。このことは、以下において更に説明するように、該分岐部を移植片本体20の近位端の近くに配置する助けとなる。付加的又は代替的には、互いに隣接しているストラットの間(例えば、ステントの山部と谷部との間に少なくとも部分的に長手方向に)にスリットを配置することによって、分岐部をスリット内に配置する助けとされる。例えば、山部と谷部との長手方向での間に配置されている移植片材は、山部と谷部との長手方向での間に配置されていない移植片材(例えば、第一の近位のステント30aの谷部の遠位側で第二の近位のステント30bの山部の長手方向での近位側に配置されている移植片材)よりも大きい引張り力で保持されている。分岐部60を移植片材の一部分内に比較的大きな引張り力で配置することは、分岐部を支持し且つ/又は該分岐部を図23に示されている中立形態(例えば、順行形態と逆行形態との間)に向かって付勢する助けとなる。分岐部を該移植片材の一部分内に比較的弱い引張り張力で配置することは、(例えば、スリットに隣接している移植片材の比較的大きな動きを可能にすることによって)移植片材に対する分岐部のより大きな可動域を可能とし且つ/又は分岐部にかかる付勢力を小さくする。
【0063】
分岐部60は、スリット29に隣接した位置で移植片本体20に取り付けられている。スリット29内での分岐部60の位置は、該スリットに隣接している分岐部60の一部分を変形させる。別の言い方をすると、スリット29に隣接している移植片本体20の部分は、分岐部60を押し潰して該分岐部の一部分を変形させる。一つの例においては、スリット29に隣接している分岐部60の変形した部分は、図23〜25に示されているように楕円形状である。他の例においては、該分岐部の変形した部分は他の形状である。このことは、分岐部が、該スリットを中心として逆行形態と順行形態との間を動くすなわち枢動するのを可能にする補助となる。
【0064】
該スリットは移植片本体20に沿って周方向に延びている長さを有している。他の例においては、スリットの長さは、移植片本体20に沿って長手方向に又は該移植片本体に対して何らかの他の方向に延びている。該スリットは移植片本体20の表面に対してほぼ直線状である。例えば、該スリットは、移植片本体20に沿って該移植片本体の長手軸線を横切る方向に周方向に延びている直線状のスリットとして形成される。別の方法として、該スリットは、該移植片本体20の表面に対して弓形状又はその他何らかの適当な形状であっても良い。該スリットの長さは分岐部60の外周の約1/2より短いか又は等しい。付加的又は代替的には、該スリットの長さは分岐部60の外周の約2/5より大きいか又は等しくても良い。該スリットの長さは分岐部の外周の約2/5〜約1/2の範囲内であるのが好ましい。一つの例においては、分岐部60の直径は約6mm〜約15mmであり、典型的には約8mm〜約12mmである。一つの例においては、分岐部60の直径は約8mm(例えば、該分岐部は8mmの補強チューブとして形成されている)であり、スリットの長さは約12.5mmである。一つの例においては、分岐部60の長さは約8mm〜15mmである。他の例においては、該分岐部は如何なる適切な直径及び/又は長さであっても良い。付加的又は代替的には、該スリットの大きさは上記したように分岐部の直径に応じて選択される。
【0065】
分岐部60に対するスリットのこの大きさは、分岐部を移植片本体20に固定する補助とすることができる。例えば、スリットにおいて移植片本体20が該分岐部に係合(例えば、摩擦係合)できるように、スリットの長さを分岐部60の外周と比較して十分に小さくすることができる。移植片本体20の移植片材は、分岐部60が上記したように概ね動くことができるように十分に可撓性である。互いに隣接しているステント間の間隔はこのような可撓性を可能にするのに十分な大きさである。別の言い方をすると、互いに隣接しているステント間の移植片本体20の移植片材の支持されていない長手方向部分は、分岐部の動きを可能にするように十分に可撓性である。付加的又は代替的には、該スリットは、分岐部60が移植片本体20に対して動くのを可能にすることができる。例えば、スリットは、該スリットに隣接している移植片本体20の移植片材が(例えば、移植片本体の長手軸線に対して内方又は外方へ)動くのを可能にする構造とされる。スリットに隣接している移植片材のこのような動きによって、上記した分岐部60の動きが可能になる。例えば、分岐部60は、上記したようにスリットを中心として逆行形態と順行形態との間を枢動する構造とされる。この実施形態においては、分岐部は大動脈の管腔内に留まったままとなる傾向が少ない。一つの例においては、該分岐部は逆行形態と順行形態とのうちの一方に向かって付勢される。他の例においては分岐部は実質的に付勢されない。別の言い方をすると、移植片本体20の移植片材は、該移植片材が分岐部60に付勢力をかけないように十分に可撓性である。分岐部60は、上記したように、一部が人工器官10の管腔26内に配置され且つ一部が人工器官外に配置されている。別の形態では、分岐部60は、上記したように、全てが人工器官の管腔26内に配置されるか又は全てが人工器官外に配置される。
【0066】
一つの例においては、分岐部60は移植片本体20の近位端27の近くに配置されている。例えば、分岐部60は、移植片本体20の近位端27から約5mm〜約30mm、約10mm〜約25mm、又は約15mm〜約20mmのところに配置される。付加的又は代替的には、移植片本体20の長さは例えば約10cm〜約200cmの範囲内である。付加的又は代替的には、分岐部60は、移植片本体20の近位端27から、移植片本体の長さの約0.25%〜約30%、約0.5%〜約25%、又は約0.75%〜約20%だけ隔てられている。分岐部60が移植片本体20の近位端27に近接していることは、該分岐部を分岐血管(例えば、鎖骨下動脈)と整合させる一方で移植片本体の近位端が図21に示されているように分岐血管を閉塞させることなく2つの互いに隣接している分岐血管(例えば、鎖骨下動脈と頚動脈)同士の間に留まらせる補助となる。
【0067】
一つの例においては、分岐部60は、逆行形態と順行形態との間を動くときにほぼ直線状態のままである。別の言い方をすると、分岐部は、曲がることなく逆行形態と順行形態との間を可動である。該分岐部の周囲を取り巻いている移植片材(例えば、スリットに隣接している変形可能な領域又は移植部材)の動き及び可撓性によって、該分岐部はほぼ直線形状を維持したままで動くことができる。
【0068】
もう一つ別の実施形態においては、人工器官は図29〜34に示されている逆行型分岐部を備えている。該逆行型分岐部は、窪み部60aと管状の分岐部60bとを備えている。該管状の分岐部は、例えば7mm×18mmの内側のらせん状分岐部として作られている。該窪み部と分岐部とは、図29に示されているように一体部片の移植片材によって作られている。該移植片材部片の少なくとも一部分が概ね管形状に巻かれて該分岐部を形成している。該人工器官の第一の近位のステントと第二の近位のステントとの間に位置する人工器官の領域から移植片材の一区分が取り除かれている。該領域は、図29〜34に示されているように概ねダイヤモンド形状をしている。別の方法として、該領域は他の如何なる形状であっても良い。該分岐部と窪み構造とは、あらゆる形状の第一の近位のステントと第二の近位のステントとを収容できるように改造することができる。該窪み部は、第一及び/又は第二の近位のステントのストラットと概ね整合する構造とされている。該逆行型分岐部の窪み部は、前記の移植片材の除去された区分によって移植片本体に形成された穴の外周に沿って人工器官の移植片本体に取り付けられている。該窪み部は、何らかの適当な方法によって人工器官の移植片本体に取り付けられている。例えば、該窪み部は、図30〜34に示されているように、移植片本体の移植片材及び第一の近位のステントの1以上のストラットにブランケットの地縫いかがり縫いを使用して縫い付けられていてもよい。別の方法として、該窪み部は、移植片本体の移植片材を編み上げる際に形成されても良い。
【0069】
該窪み部及び/又は分岐部は、概ね人工器官の管腔内に配置される。分岐部は、窪み部に取り付けられるか(又は該窪み部と一体化されており)且つ窪み部から延びている。分岐部は、図29〜34に示されているように、窪み部から概ね遠位方向に延びている(すなわち、該分岐部は逆行型分岐部として形成されている)。別の方法として、該分岐部は、窪み部から概ね近位方向に延びていても良い(すなわち、該分岐部は順行型分岐部として形成されていても良い)。該分岐部の窪み部と反対側の端部は移植片本体に取り付けられている。例えば、分岐部の端部は、図32に示されているように移植片本体に縫い合わせられる。このことは分岐部を人口器官の管腔内に支持する補助となる。分岐部が適切に嵌合するように、該窪み構造は分岐部の直径及び/又は長さに適合するように調整されている。この構造は、目標とする分岐血管が逆行形態で灌流されるのを可能にする。このことは人工器官を大腿からのアプローチ法によって配備させる補助となる。
【0070】
ここに記載されている例のうちのいずれかにおいては、分岐部60が移植片本体20に対して動くことは、該分岐部を例えば左鎖骨下動脈のような分岐血管と整合させる補助となる。例えば、分岐部60は、移植片本体20に対して種々の角度で配置されて変形可能な領域40に設けられている穴と分岐血管との間の不整合の原因となる。分岐部60が分岐血管の小孔の若干近位側に位置するように人工器官10が配置される場合には、分岐部は、概ね分岐血管の方向に延びる順行形態へと動かされる。分岐部60が分岐血管の小孔の若干遠位側に位置するように人工器官10が配置される場合には、該分岐部は、概ね分岐血管の方向に延びる逆行形態へと動かされる。このようにして、分岐部60の動きによって、人工器官10が配備される際の分岐部60と分岐血管との間の不整合が補正される。
【0071】
分岐部60のこのような動きは、幾つかの異なる方法によって人工器官10を送り込む際の補助となる。この幾つかの異なる方法としては、大腿からの送り込み、上腕からの送り込み、腋窩からの送り込み、鎖骨下からの送り込み、及び/又は心先からの(経皮による心臓先端からの)送り込みがある。例えば、人工器官10は、分岐部60が逆行位置にある状態で大腿動脈から送り込まれる。逆行位置においては、分岐部60の第二の端部68の穴は近位方向を向いており、その結果、該分岐部の中を延びるカテーテルもまた近位方向に延びる。このことは、人工器官10を遠位側から分岐血管へ送り込むときに、分岐血管にカニューレを通すこと及び/又はカテーテルを分岐血管から捕えることの補助となる。別の言い方をすると、分岐部60は、以下において更に説明するように、逆行形態においてはカテーテルを受け入れる向きとされ、逆行アプローチ(例えば、大腿からのアプローチ)を使用して人工器官10を送り込めるように概ね近位方向に延びている。
【0072】
もう一つ別の例においては、人工器官10は、分岐部60が順行位置におる状態で、上腕からの送り込み、腋窩からの送り込み、又は心先からの送り込みを使用して送り込まれる。順行位置においては、分岐部60の第二の端部68の穴は遠位方向を向いており、その結果、該分岐部内を延びているカテーテルもまた遠位方向に延びる。このことは、人工器官10を近位側から分岐血管内へ送り込むときに、分岐血管にカニューレを挿入すること及び/又はカテーテルを分岐血管から捕えることの補助となる。別の言い方をすると、分岐部60は、以下において更に説明するように、カテーテルを受け入れるために順行形態に配向され、順行アプローチ(例えば、上腕からのアプローチ、腋窩からのアプローチ、又は心先からのアプローチ)を使用して人工器官10を送り込むことができるように概ね遠位方向に延びている。分岐部60を移植片本体20に対して動かすことができる機能は、人工器官10を、(例えば、逆行アプローチ又は順行アプローチを使用して)遠位又は近位から目標とする分岐血管に向かって送り込む補助となる。分岐部60の第二の端部68の開口、従って分岐部内を延びているカテーテルは、人工器官10が遠位から分岐血管に向かって送り込まれるか又は近位から分岐血管に向かって送り込まれるかに拘わらず、該分岐血管に対向するように近位方向又は遠位方向に向けられる。従って、医師によって選択される給送アプローチの種類に関係なく同じ人工器官を使用することができる。
【0073】
B型解離がある患者を一般的なエンドグラフトによって治療する際の一般的な過程は、鎖骨下動脈から始まっている通しワイヤを使用し、該ワイヤを捕え、該ワイヤを大腿動脈から引き出す過程である。この方法においては、この鎖骨下アプローチは、真の管腔へのカニューレの挿入を補助し、しかも大腿アプローチによる該器具の送り込みを可能にするために使用される。心先アプローチもまた同様の利点を有している。各々の給送態様について、特定の給送装置の修正(例えば、カニューレの配置、予め装填されているカテーテルの配置、器具の配向、先端の長さ等)が存在する。
【0074】
人工器官10は、以下において更に説明するように、患者の血管内に配置できる大きさ及び形状とされる。人工器官10の好ましい大きさ及び形状は、該人工器官が埋め込まれる解剖学的構造に依存する。生理学的変数、配備特性、及びその他のファクタもまた、人工器官10の適正な大きさ及び形状の決定に寄与する。例えば、人工器官10は、大動脈弓及び/又は下行大動脈内に配置するのに適した大きさ及び形状を有している。このようにするために、人工器官10は、近位端27が大動脈弓内に配置され且つ遠位端28が下行大動脈内に配置される状態で胸部大動脈内に配置される構造とされている。分岐部60は、左鎖骨下動脈のような分岐血管に整合する構造とされている。移植片本体20の直径は、例えば約10mm〜約50mm典型的には約22mm〜約46mmの範囲内である。移植片本体20の直径はその長さに沿って一定とすることができる。別の方法として、移植片本体20は、該移植片本体の直径がその長さに沿って変化するようにテーパーが付けられていても良い。例えば、該移植片本体20の直径は、比較的大きな直径から比較的小さな直径まで近位から遠位に向かってテーパーが付けられている。一つの例においては、移植片本体20は近位から遠位への約10mm以下のテーパーを有している。テーパーが付けられている移植片本体20は、狭くなった大動脈内に配置させることができるという利点を有している。大動脈解離の治療の際には、このような狭くなった大動脈が一般的である。分岐部60の直径は、例えば約6mm〜約24mm、典型的には約8mm〜約12mmの範囲内とすることができる。分岐部60の直径は、その長さに沿って一定としても良い。別の方法として、分岐部60は、分岐部の直径がその長さに沿って変わるようにテーパーが付けられても良い。人工器官10は、種々の他の人工器官と組み合わせて配備して血管系の動脈瘤部分及び/又は解離した部分に効率良く橋渡しすることができる。
【0075】
人工器官が多数の変形可能な領域及び/又は多数の分岐部を有することも更に想定される。例えば、該人工器官は、移植片本体上に配置された1以上の変形可能な領域に取り付けられた2個、3個、又はそれ以上の分岐部を備えていても良い。種々の変形可能な領域及び/又は分岐部を、該移植片本体に沿った種々の長手方向の位置及び周方向の位置に配置することができる。この方法においては、分岐部は、例えば、左鎖骨下動脈、左総頚動脈、及び/又は無名動脈と整合する構造とされている。付加的又は代替的には、該人工器官は患者の血管系内の他の種々の位置に配置できる構造とされる。
【0076】
1以上の放射線不透過性のマークが、人工器官10が患者の体内血管内に配置されたときに人工器官10の位置のX線撮影による視覚化をもたらすために備えられていても良い。一つの例においては金製のビードの形態で提供することができる複数の放射線不透過性のマークは、移植片本体20(例えば、移植片材22及び/又は支持構造体30)、変形可能な領域40(例えば、移植片材42及び/又は外周46)、及び/又は分岐部60(例えば、移植片材62及び/又は支持構造体70)に結合させて、人工器官10の長さに沿った種々の所望の位置の画像形成を容易化することができる。該放射線不透過性のマークは、移植片本体20の近位端27及び/又は遠位端28に配置できる。該放射線不透過性のマークはまた、変形可能な領域40及び/又は分岐部60に近接させて配置して分岐血管との適正な整合を容易化することもできる。
【0077】
人工器官10は、図2に示されているように予め装填された装置の一部として設けられても良い。該予め装填された装置はカテーテル82を備えており、カテーテル82は、分岐血管へのカニューレの挿入、分岐部60の動き、及び/又は分岐部60内への分岐人工器官の挿入を容易化する構造とされている。カテーテル82は、人工器官を患者の体内へ導入する前に人工器官10内に予め装填される。カテーテル82が給送装置の一部として予め装填される場合には、カテーテル82の近位領域84が、移植片本体20の管腔26内を遠位端28から近位端27に向かって進められる。カテーテル82の近位領域84は、次いで、図2に示されているように分岐部60内を進められて人工器官10から出て行く。予め装填されたカテーテル82のこの構造(すなわち、人工器官10内を遠位端28から近位方向に延びている構造)は、該人工器官の逆行方向の給送(例えば、大腿からの送り込み)にとって望ましい。他の例においては、カテーテル82は、管腔26内を近位端27から遠位端28に向かって進められる。予め装填されたカテーテル82のこの構造(すなわち、人工器官10内を近位端27から遠位方向に延びている構造)は、人工器官の順行方向の送り込み(例えば、上腕からの送り込み又は腋窩からの送り込み又は心先からの送り込み)にとって望ましい。カテーテル82は、給送器具の先端の別個の溝内に配置される。シースを引き戻すことによって、カテーテル82が露出され、以下において更に説明するように、医師は、鎖骨下動脈内において、予め装填されているカテーテルを捕えてシースを介して引き抜くことができる。カテーテル82は、医師がカテーテルを捕えてする補助とするために、近位領域84に設けられているフック、ループ、又は穴のような引っ掛け部材を備えている。付加的又は代替的には、カテーテル82の管腔内にガイドワイヤが収容される。該ガイドワイヤは、カテーテル82に関して上記したように、人工器官内に予め装填され且つ/又は前記の予め装填されているカテーテル内に収納される。該ガイドワイヤは、他の種々の機器、器具、又は構成要素(例えば、以下に記載するバルーン)を患者の血管内に配置する補助となる。
【0078】
特に近位のステントに対しては、細い人工器官を提供し且つステントの尖端同士の間での移植片の広がりを制限するために、種々のステント構造を使用することができる。薄い(例えば、約0.125mmの厚みの)又は極めて薄い(例えば、約0.0080mmの厚みの)移植片材及び/又は選択されたステント構造が、直径が約28〜約46mmの範囲内の人工器官のための直径が約12Fr〜約20Frの範囲内の給送装置に対して準備される。例えば、約18Fr〜約20Frのシースの大きさは、厚みが薄い材料によって製造された38mmの器具に対して可能であり、約14Fr〜約16Frのシースの大きさは、極薄材料によって製造された38mmの器具に対して可能である。約18Fr以下の給送装置サイズは、ある種の患者における鎖骨下動脈からの送り込みを可能にする。B型解離を治療する場合におけるガイドワイヤの真の管腔内への配置は、大腿からの送り込みとは正反対の鎖骨下からの送り込みを使用することによって簡素化される。移植片本体20に対する分岐部60の向きを変えることもまた、鎖骨下動脈を介する人工器官10の送り込み(又は上記した他の送り込み形態)の送り込みの補助となる。
【0079】
近位のステントの構造の幾つかの例が図6〜11に示されている。一般的にステントの尖端の数を減らすことによって、人工器官によって提供される径方向外方へ力が増大し且つ/又は人工器官が細くなるが、ステントの尖端間に比較的大きな移植片材のフラップも形成される。これはI型のエンドリーク(内部の漏洩)の可能性を増すかも知れない。従って、多数のステントが移植片本体の近位端に近接して配置され、径方向外方への力と制限された移植片の陥没との組み合わせの効果が提供される。
【0080】
一つの例においては、人工器官10は、図6〜7に示されているように第三の近位のステント630を備えている。第一の近位のステント30aは、上記したように、移植片本体20の近位端27に近接している移植片材22の内側面23に配置されている。第三の近位のステント630は、移植片本体20の近位端27に近接している移植片材22の外側面24に配置されている。第三の近位のステント630は、第一の近位のステント30aと概ね長手方向で整合している。別の言い方をすると、第三の近位のステント630と第一の近位のステント30aとは、移植片本体20の移植片材22の互いに対向している面上において少なくとも部分的に相互に重なっている。第三の近位のステント630は、第一の近位のステント30aの長さ又は振幅とほぼ同じ長さ又は振幅を有している。第三の近位のステント630は、図6に最も詳しく図示されているように、第一の近位のステントの山部が第三の近位のステントの谷部と概ね整合しその逆側も同様に整合するように、第一の近位のステント30aに対して概ね周方向でずれて配置されている。第三の近位のステント630は、図7に示されているように不規則な外周部分636を備えている。この不規則な外周部分636は、変形可能な領域40と周方向において整合しており且つ付加的な山部を備えている。別の言い方をすると、第三の近位のステント630のステントパターンは、付加的な山部を備えるように不規則な外周部分636において分離されていて、第三の近位のステントが第一の近位のステント30aよりも1つ多くの山部を備えるようになされている。第三の近位のステント630の該1つ多い付加的な山部は、変形可能な領域40及び/又は分岐部60と整合している第一の近位のステント30aの山部32aと概ね整合している。第三の近位のステント630の該1つ多い付加的な山部は、第三の近位のステントの谷部に置き換えることができ、そうでない場合には、該付加的な山部は変形可能な領域40内へ延びる。このように、不規則な部分636によって、該第三の近位のステントが変形可能な領域40の外側にとどまったままとなるように、第三の近位のステント630のステントパターンを変えることができる。
【0081】
この例においては、第一の近位のステント30aが、人工器官10を体内血管の壁に押し付けてシールするための径方向外方への力の大部分を提供する。径方向外方への力の大部分が第一の近位のステント30aによってかけられるので、第三の近位のステントは、比較的小さな径方向外方への力をかける構造とすることができる。従って、第三の近位のステント630は、第一の近位のステント30aのワイヤよりも小さい直径又は断面積のワイヤによって作られている。第三の近位のステント630は、第一の近位のステント30a及び/又は第三の近位のステントの山部間における移植片の陥没を制限することができる。第一の近位のステント30aと第三の近位のステント630との山部間の不整合によって、移植片本体20の近位端27に沿った移植片材22における支持されない周方向の長さが短くなる。支持されていない移植片材22の周方向の長さが比較的短いことにより、内方へ折れ曲がる傾向が低くなり、従ってエンドリークの可能性が低くなる。
【0082】
このステント構造又は本明細書に記載されているその他のステント構造は、小さな径方向外方への力を提供しつつ移植片の陥没を制限することができる。この移植片の陥没の制限は付加的なステント上の尖端によって行なわれ、このことにより移植片材の支持されていない外周長さを短くすることができる。この小さな径方向外方への力は、(例えば、第三の近位のステントを形成するために使用されるワイヤの比較的小さな断面積によって)第三の近位のステントによって適用される径方向外方への力を減じることによって達成できる。このような小さな径方向外方への力と移植片の陥没の制限との組み合わせは、大動脈解離の治療にとって望ましい。例えば、このステントの構造は、本物/人工の管腔による連通の適用範囲を確保するために、大動脈の壁面に適切な移植片の付着(例えば、十分な径方向外方への力)を付与することができる。人工器官によって付与される小さな径方向外方への力は、逆行性解離の可能性を低くする。別の言い方をすると人工器官によって付与される径方向外方への力は、大動脈壁に対する移植片の付着のためには十分大きいけれども、逆行性解離の可能性を低くするには小さすぎる。
【0083】
もう一つ別の例においては、人工器官10は、図8〜9に示されているように第三の近位のステント830を備えている。第一の近位のステント30aは、上記したように、移植片本体20の近位端27に近接した移植片材22の内側面23に配置されている。第三の近位のステント830も、移植片本体20の近位端27に近接している移植片材22の内側面に配置されている。第三の近位のステント830は、第一の近位のステント30aの近位側に配置されており且つ第一の近位のステントの長さよりも小さい長さ又は振幅を有している。別の言い方をすると、第一の近位のステント30aと第三の近位のステント830とは異なる長さを有している。第一の近位のステント30aと第三の近位のステント830とは、互いに入れ子にされた関係で配列されていて、第三の近位のステントのどの部分も第一の近位のステントのどの部分とも重ならないようになされている。第三の近位のステント830は、第一の近位のステント30aの2倍の数の山部と谷部とを備えている。第三の近位のステント830の一方の山部の各々は、第一の近位のステント30aの山部と概ね周方向に沿って整合されている。このようにして、第三の近位のステント830は、変形可能な領域40の外側に留まったままの状態で、移植片本体20の近位端27に沿って周方向に設けられるステントの尖端すなわち山部の数を増やしている。第三の近位のステント830は、如何なる数の山部と谷部とを有していても良く、第一の近位のステント30aの山部と谷部との数の2倍に限られない。第三の近位のステント830は、本明細書に記載されているように、移植片の陥没を制限するために第一のステント30aよりも多数の山部を備えているのが好ましい。
【0084】
この例においては、第一の近位のステント30aは、人工器官10を体内血管の壁に対してシールを形成するための径方向外方への力の大部分を付与する。第三の近位のステント830は、第一の近位のステント30a及び/又は該第三の近位のステントの山部同士の間での移植片の陥没を制限している。このようにするために、第三の近位のステント830は第一の近位のステント30aより小さい直径又は断面積のワイヤによって作られている。第三の近位のステント830によって提供される多数のステントの尖端すなわち山部によって、移植片本体20の近位端27に沿った移植片材22の支持されていない周方向の長さを短くすることができる。移植片材22における支持されていない比較的短い周方向の長さは、内方へ折れ曲がる可能性が低く、従ってエンドリークの可能性が低くする。
【0085】
更に別の例においては、該人工器官は、図10〜11に示されている近位のステント1030を備えている。近位のステント1030は、移植片本体20の近位端27に隣接している移植片材22の内側面23に配置されている。図10〜11に示されているように、第一の近位のステント30aの代わりに近位のステント1030が設けられている。別の方法として、第一の近位のステント30aに加えて近位のステント1030が備えられても良い。近位のステント1030は、第一の近位のステント30aに比して多数の山部及び谷部を備えている。近位のステント1030は、図11に示されているように不規則な周方向部分1036を備えている。不規則な部分1036は、変形可能な領域40及び/又は分岐部60と周方向に整合されている。付加的又は代替的には、不規則な部分1036は幅が広くされた山部を備えている。別の言い方をすると、近位のステント1030のステントのパターンは、幅の広い山部を備えるように不規則な部分1036において(例えば、山部を取り除くことによって)乱されている。該幅の広い山部の屈曲部は、近位のステント1030の他の山部の屈曲部の角度よりも大きい角度を有している。近位のステント1030の幅が広い山部は、概ね、変形可能な領域40及び/又は分岐部60と整合されている。このようにして、不規則な部分1036は、近位のステント1030のパターンを該近位のステント1030が変形可能な領域40の外側にとどまったままとなるように変更されている。
【0086】
この例においては、近位のステント1030は、人工器官10を体内血管の壁に対してシールを形成するための径方向外方への力を付与している。近位のステント1030はまた、その山部間での移植片の陥没をも制限している。このようにするために、近位のステント1030によって提供される付加的なステントの尖端すなわち山部は、移植片本体20の近位端27に沿った移植片材22の支持されない周方向の長さを短くしている。比較的短い周方向の長さの支持されない移植片材22は、内方へ折れ曲がる可能性が低く、従ってエンドリークの可能性を低くする。
【0087】
上記したステント構造又はその変形例若しくはそれらの組み合わせは、移植片本体20の近位端及び/又は遠位端に使用することができる。例えば、同様の長さを有し且つ/又は互いに不整合な状態である多数のステントが、図12〜13に示されているように、移植片本体20の近位端27及び/又は遠位端28に取り付けられても良い。該ステントは、上記した不規則な周方向部分を備えていても備えていなくても良い。本明細書に記載されているステント構造は、特に、解離した体内血管を治療するのに有利である。例えば、該ステント構造は、大動脈壁に対する適切な移植片の並置を提供して、解離した大動脈の本来の管腔と人工の管腔との間の連絡の適用範囲を確保することができる。幾つかの例においては、ステント構造はまた従来のステント移植片に比して小さな径方向の力を付与することもできる。この小さな径方向外方への力は、逆行性解離の可能性を減じることができる。
【0088】
図6〜15に示されている実施形態においては、人工器官10の移植片本体20は、曲げられるか又は傾斜が付けられた近位端1227を備えている。図12〜15には示されていないけれども、これらの実施形態のいずれかもが、本明細書に記載されている変形可能な領域40及び/又は分岐部60を備えることができる。移植片本体20の頂部長手方向の長さは、傾斜した近位端1227を形成するために、移植片本体の底部長手方向長さよりも長くされている。移植片本体20の頂部長手方向の長さは、該移植片本体の近位端1227と遠位端28との概ね長手方向での間で延びており且つ移植片の外周においてほぼ180度だけ相互に分離されている。
【0089】
移植片本体20の頂部長手方向の長さの少なくとも一部分は、大動脈弓の外側湾曲(例えば、大動脈弓の長い方の湾曲部分)に沿って配置できる構造とされている。移植片本体20の底部長手方向の長さの少なくとも一部分は、大動脈弓の内側湾曲(例えば、大動脈弓の短い方の湾曲部分)に沿って配置できる構造とされている。別の言い方をすると、該器具の最も短い端縁は大動脈弓の内側湾曲上に配置され、該器具の最も長い端縁は大動脈弓の外側湾曲上に配置される。移植片本体20の長い方を大動脈弓の長い方の外側湾曲と整合させ且つ該移植片本体の短い方を大動脈有弓の短い方の内側湾曲と整合させることによって、配備したときに、人工器官10が大動脈の解剖学的構造の形状と合致するのが促進される。このような優れた形状合致は、蛇行している大動脈の解剖学的構造でさえも人工器官10の正確で精度の高い配置を可能にする。
【0090】
人工器官10は、圧縮されて給送形態とされて導入器のような配備器具上に取り付けられる。分岐したステント移植片を配備させるのに適したあらゆるタイプの配備器具を使用することができる。例えば、適切な配備器具としては、Hartleyらに付与された米国特許第7,488,344号及び第7,537,606号、Greenbergらに付与された米国特許第7,611,529号、及びJensenらによる米国特許出願公開第2009/0204198号に記載されているものがある。これらの米国特許及び米国特許出願は、これらに言及することにより、それらの全体が本明細書に参考として組み入れられている。以下の説明は概ね人工器官10の大腿からの送り込みに関して言及されているけれども、人工器官10はまた、鎖骨下からの送り込み、上腕からの送り込み、心先からの送り込み、又はその他の何らかの所望な形態の送り込みによって送り込むこともできる。当業者は、該人工器官の形状及び/又は配向、給送器具、予め装填されているカテーテル、及び/又はこれらの構成部品は、選択された給送方法に応じて改造することができることがわかるであろう。このような改造も本開示の範囲内に含まれる。
【0091】
人工器官10は、給送カテーテル上で径方向に圧縮されて給送形態とされ且つ外側シースによって被覆される。人工器官10を配備させるために、オペレータは、外側シ−スを給送カテーテルの外周に沿って摺動させるか又は後退させて該人工器官を露出させる。該人工器官はシースを取り外すと外方へ拡張する。オペレータは導入器を直接操作することができ、このことはオペレータに処置中の比較的高度な制御を提供する。更に、このような配備器具はコンパクトで且つ比較的均一な小径の径方向外形を有しており、これは非外傷性のアクセス及び送り込みを可能にする。
【0092】
このような適切な給送装置を使用して、医師は、給送形態の人工器官10を大腿動脈内へ導入し且つ該人工器官を大動脈弓及び/又は下行大動脈内の定位置へと案内する。人工器官10は、放射性不透過性のマークを使用して、分岐部60が概ね左鎖骨下動脈の小孔の近くで整合するように配置される。人工器官10を給送形態に拘束する給送装置のシースは、遠位方向に後退させて人工器官を給送形態から拡張させることができる。
【0093】
人工器官10は、例えば、1以上の縮径用の紐によって少なくとも部分的に縮径形態に拘束されたままとすることができる。該縮径用の紐は移植片本体20の支持構造体30に適用される。該縮径用の紐は、シースの後退後に近位端27及び遠位端28を縮径形態に保持するために、移植片本体20の近位のステントと遠位のステントとに適用されるのが好ましい。このことは、人工器官を血管壁に対して定位置に固定する移植片本体20の完全な拡張の前における人工器官10の再配置及び/又は調整を可能にする。一つの例においては、縮径用の紐は、ステントのストラットの周りにループ状にされた糸及びトリガー用のワイヤとして形成されている。各糸は、きつく引っ張られて該糸に対応するステントのストラット同士を互いにより近づくように引っ張る。糸の端同士は、互いに結ばれ且つ結び付けられてストラットをトリガー用ワイヤに対して定位置に保持してステントの直径が小さくされる。該ストラットは、トリガー用ワイヤを取り外すと解放されてステントの拡張を許容する。該縮径用の紐はまた、人工器官10のステントの直径を小さくすることができる他の何らかのタイプの拘束部材として形成しても良い。例えば、該縮径用の紐は、Hartleyらによる米国特許出願公開第2008/0294234号に記載されている構造とすることができる。該米国特許出願公開公報は、これに言及することにより、その全体が本明細書に参考として組み入れられている。
【0094】
シースの後退によって、図2に示されているように、分岐部60から延びている予め装填されているカテーテル82も露出される。カテーテル82は、図3に示されているように、左鎖骨下動脈内に配置されたシース内で捕えられて引っ張られる。図4,5に示されているように、バルーンがカテーテル82の外周に沿って牽引され且つ分岐部60内に位置決めされる。該バルーンは、操作されて移植片本体20に対する分岐部60の位置を調整する。一つの例においては、バルーンの第一の端部は人工器官10の管腔26内に位置決めされる。バルーンの第一の端部は、人工器官10に対して近位方向及び/又は遠位方向に動かすことができる。バルーンの第一の端部が遠位方向に動かされると、分岐部60は、図4に示されているように逆行形態に向かって移動する。バルーンの第一の端部が近位方向に動くと、図5に示されているように、分岐部60は順行形態に向かって移動する。付加的又は代替的には、人工器官10の外側に配置されているバルーンの第二の端部が操作されて移植片本体20に対する分岐部60の向きが調整される。別の例においては、バルーンと関連付けられたカテーテルが操作されて(例えば、進められるか、戻されるか、回転されるか、又は曲げられて)バルーンの向きが調整され、従って、移植片本体20に関する分岐部60の向きが調整される。分岐部60内に拡張したバルーンが存在することにより、該分岐部に構造的安全性が付与され且つ/又は調整中における分岐部の開存性が維持される。分岐部60は、例えば、バルーンを操作することによって、移植片本体20に関して、逆行形態、順行形態、又はその他の何らかの向きへと動かされる。分岐部60の向きは、該分岐部を左鎖骨下動脈に整合させるように調整される。付加的又は代替的には、分岐部60の向きは、例えば、本来の解剖学的構造、後の介入予定(例えば、下行胸部大動脈へ容易にアクセスできる機能)のような要因、又はその他の関連する要因に基づいて所望の位置に調整される。
【0095】
ステント移植片のような分岐人工器官は、図16〜18に示されているように分岐部60内に配備される。該分岐人工器官は、カテーテル82の外周に沿って送り込まれ且つ何らかの公知の方法を使用して分岐部60内に配備される。該分岐人工器官は、図16に示されているように、分岐部60から近位方向に延びるか、図17に示されているように分岐部から遠位方向に延びるか、又は移植片本体20に対する分岐部の位置に従って他の如何なる方向に延びても良い。該分岐人工器官は、図18に示されているように、移植片本体20の管腔26内の位置と移植片本体の外部の位置との間に延びている。該分岐人工器官の管腔は、移植片本体20の管腔26と連通している。一つの例においては、分岐人工器官は、移植片本体20の管腔26と左鎖骨下動脈のような分岐血管との間に延びている。別の言い方をすると、該分岐人工器官の第一の端部は人工器官10の分岐部60内に配備され、分岐人工器官の第二の端部は左鎖骨下動脈内に配置される。このように、分岐人工器官は、人工器官10を左鎖骨下動脈に結合させてそれらの間に連続した流体通路を形成する。
【0096】
導入管は、人工器官10の少なくとも一部分を導入器上に保持するための保持構造を備えている。例えば、移植片本体20の近位端27は、図19に示されているように保持構造によって拘束されている。該保持構造は、Greenbergらによる米国特許出願公開第2006/0004433号に記載されている構造と同様である。該米国特許出願公開は、これに言及することにより本明細書に参考として組み入れられている。移植片本体20の外周の3つの尖端は、導入器に解除可能な形態で取り付けられている。これら3つの尖端は、(第一の近位のステント30a及び/又は第三の近位のステント630,830及び/又は1030のような)近位のステントの3つの山部に対応している。この保持構造は、導入器の外周に三つ折り形態で配列されている移植片材の3つの丸い突出部1990a,1990b,1990cを形成している。
【0097】
もう一つ別の実施形態においては、移植片本体20の近位端27は、図20に示されているように保持構造によって拘束されている。この構造は、丸い突出部のうちの少なくとも1つに相当する近位のステントの多数の山部が前記導入器に解除可能な形態で取り付けられて図20に示されている構造のような改造された3つに折り畳まれた構造を形成している以外は、図19に示されている構造と同様である。例えば、該近位のステントの外周部分は丸い突出部に相当する。近位のステントの外周部分の山部の各々は、丸い突出部1990aの大きさが他の丸い突出部1990b,1990cより小さくなるような形態で導入器に解除可能に取り付けられている。突出部1990aは、分岐部60と概ね周方向に整合しており且つ大動脈弓の外側湾曲に沿って配置できる構造とされている。別の言い方をすると、他の丸い突出部1990b,1990cより大きさが小さい丸い突出部1990aが、大動脈弓の比較的大きな湾曲部に沿って配置される。突出部1990aの大きさが小さいことにより、人工器官10を大動脈弓内に配備し、配置し、且つ/又は再配置する際に、左鎖骨下動脈のような分岐血管に対して引っ掛かり又は引っ掛かって傷付ける可能性が低くなる。
【0098】
導入器は、大動脈弓の湾曲に対する人工器官の合致性を高める構造とされている。一つの例においては、給送用カテーテルは、図21に示されているように湾曲した内側カニューレ2192を備えている。この湾曲した内側カニューレ2192は、形状記憶材料によって作られており、曲率半径が約0.5cm〜約3.5cmの範囲内である。曲率が小さくなればなるほど付勢力は大きくなり、このことは血管の屈曲がきつい部分において使用するのに有利である。人工器官10は、上記したように、給送形態に圧縮されて湾曲したカニューレ2192に取り付けられる。湾曲したカニューレ2192は、前記の導入器のシース内ではほぼ真っ直ぐに維持される。シースが後退されると、湾曲したカニューレ2192は本来の湾曲形状に向かって撓んで大動脈弓の湾曲に概ね合致する。湾曲したカニューレ2192は、図21に示されているように、人工器官10を大動脈弓の外側湾曲に向かって押す。別の方法として、湾曲したカニューレ2192は人工器官10を大動脈弓の内側湾曲に向かって引っ張る構造とされる。このことにより、人工器官10が大動脈弓の湾曲と合致させ且つ/又は分岐部60を例えば左鎖骨下動脈のような分岐血管と整合させる補助となる。分岐部60は、湾曲したカニューレ2192の大きい方の湾曲すなわち外側湾曲に対して概ね周方向に整合される。このように、湾曲したカニューレ2192が大動脈弓の湾曲と整合されると、分岐部40は、自動的に大動脈弓の分岐血管と周方向に整合される。別の方法として又は付加的には、導入器は湾曲したシースを備えていても良い。湾曲したシースは、概ね同様な方法で大動脈弓の湾曲と合致し且つ同様な結果をもたらす。別の言い方をすると、湾曲したカニューレ又はシースは、人工器官を自動的に大動脈の湾曲と整列させて配向させる。概ね大動脈の外側湾曲上に配置されている弓状血管の場合には、分岐部は給送装置の大きい方の湾曲と整合される。定位置へとたどり着くと、該装置は自動的に分岐部を目標とされている弓状血管に整合する。
【0099】
別の例においては、導入器の遠位端は、該導入器に自己配向作用を付与するための湾曲部を含んでいる。例えば、該導入器は、図22に示されている湾曲した拡張器先端2294を備えている。人工器官10は、分岐部60が前記導入器の外側湾曲部と概ね周方向に整合すように導入器に取り付けられる。大動脈弓内に配置されると、該導入器の外側湾曲部は、それ自体で大動脈弓の外側湾曲部に整合する。このことにより、次いで、分岐部60が、例えば左鎖骨下動脈のような分岐血管と概ね周方向に整合される。このような整合は実質的に自動的である。別の言い方をすると、導入器の湾曲は、医師による追加の操作無しで大動脈弓と自然に整合する傾向がある。この自動的な整合によって、大動脈弓内での人工器官10の適正な配置が補助される。更に特定すると、給送器具の回転方向の調整は、特に大腿からのアプローチが使用される場合には難しく又は不可能でさえある。腸骨動脈、内臓部分、下行胸部動脈、大動脈弓内の著しい蛇行は、このような回転方向の調整の困難さを増す。給送器具及び/又は人工器官10を大動脈弓内で自動的に配向させ又は整合させる手段は、給送器具を回転させて人工器官の配置を補助する必要性を排除する助けとなる。
【0100】
以上、本発明の種々の実施形態を説明したけれども、本発明は添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物を参考にする以外、限定されるべきではない。更に、ここに記載した利点は、必ずしも本発明の唯一の利点ではなく、また必ずしも本発明の各実施形態はここに記載された利点の全てを達成することを期待されるものではない。
【符号の説明】
【0101】
10 人工器官、 20 移植片本体、
22 移植片材、 23 移植片材の内側面、
24 移植片材の外側面、 26 管腔、
27 移植片本体の近位端、 28 移植片本体の遠位端、
30 支持構造体、 30a 第一の近位のステント、
30b 第二の近位のステント、 32a 山部、
32b 山部、 34a 谷部、
34b 谷部、 40 変形可能な領域、
42 移植片材、 43 変形可能な領域の内側面、
44 変形可能な領域の外側面、 46 変形可能な領域の外周、
48 フレーム、 50 穴、
60 分岐部、 60a 窪み部、
60b 分岐部、 62 移植片材、
63 移植片材の内側面、 64 移植片材の外側面、
66 分岐部の管腔、 67 分岐部の第一の端部、
68 分岐部の第二の端部、 70 支持構造体、
72 分岐部の第一の部分、 73 中間点、
74 分岐部の第二の部分 82 カテーテル、
84 カテーテルの近位領域、 630 第三の近位のステント、
636 不規則な外周部分、 830 第三の近位のステント、
1030 近位のステント、 1036 不規則な周方向部分、
1227 近位端、
1990a,1990b,1990c 丸い突出部、
2192 内側カニューレ、 2294 拡張器先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の主移植片本体を備えている管腔内人工器官であって、
前記主移植片本体が、
側壁、近位端、及び遠位端と、
該主移植片本体の前記近位端の近くに配置されている第一のステントと該第一のステントの遠位側に隣接して配置されている第二のステントとであって、該第一のステントと第二のステントとの各々が山部と谷部とを有している、第一のステント及び第二のステントと、
前記側壁内における前記第一のステントの山部と前記第二のステントの谷部との長手方向での間に配置されている穴と、
前記穴内に配置されて前記主移植片本体に取り付けられている管状の分岐部であって、第一の端部開口と第二の端部開口とを備えており、逆行形態と順行形態との間で柔軟に配向させることができる管状の分岐部と、を備えており、
前記逆行形態においては、前記第一の端部開口は前記主移植片本体の前記遠位端に向けて配向され、前記第二の端部開口は前記主移植片本体の近位端に向けて配向されており、
前記順行形態においては、前記第一の端部開口は前記主移植片本体の前記近位端に向けて配向され、前記第二の端部開口は前記主移植片本体の遠位端に向けて配向されるようにされている、ことを特徴とする管腔内人工器官。
【請求項2】
前記側壁に設けられている前記穴が前記主移植片本体の外周に少なくとも部分的に沿って延びているスリットからなり、前記分岐部は、前記側壁から内方に向かって延びている第一の部分と、前記側壁から外方に向かって延びている第二の部分と、前記側壁に取り付けられている中間部分とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
前記スリットが、前記分岐部の外周長の約2/5から約1/2の長さを有している、ことを特徴とする請求項2に記載の人工器官。
【請求項4】
前記側壁が、如何なるステントも無い状態で前記第一のステントと前記第二のステントとの間に配置されている変形可能な移植片領域と、前記変形可能な移植片領域の周囲に少なくとも部分的に支持されている外周と、を備えており、
前記側壁に設けられている前記穴は前記変形可能な移植片領域内に配置されており、前記分岐部は前記変形可能な移植片領域から外方に向かって延びている、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項5】
前記分岐部が更に、生体適合性の移植片材と、前記分岐部の該生体適合性の移植片材に取り付けられた支持構造体とを備えており、該分岐部の前記支持構造体が、Z型ステント、螺旋状ステント、又は環状リングのうちの少なくとも1つからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項6】
前記分岐部が当該人工器官の前記近位端から約5mm〜約30mmの距離だけ隔てられている、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
前記分岐部が、少なくとも部分的に前記第一のステントの山部と該第一のステントの谷部との長手方向での間に配置されており且つ前記第一のステントの互いに隣接しているストラットの周方向での間に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項8】
前記第一のステントが前記主移植片本体の内側面に取り付けられており、前記第一のステントの前記山部が一連の山部からなり、該一連の山部のうちの一つが、隣接している山部よりも大きい角度を有する幅広の山部からなり、該幅広の山部が前記分岐部に対して周方向で整合されている、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項9】
前記主移植片本体の前記近位端の近くに配置された第三のステントを更に備えており、
前記第一のステントは前記主移植片本体の内側面に取り付けられ、前記第三のステントは前記主移植片本体の外側面に取り付けられており且つ一連の山部を備えており、前記第三のステントは少なくとも部分的に前記第一のステントに重なっており、前記第三のステントの第一の山部は前記分岐部と前記第一のステントの山部との各々と周方向で整合しており、前記第三のステントの第二の山部は前記第一のステントの前記谷部と周方向で整合している、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項10】
前記主移植片本体の前記近位端の近くに配置された第三のステントを更に備えており、
前記第一のステントと前記第三のステントとの各々が前記主移植片本体の表面に取り付けられており、前記第一のステントの前記山部は一連の山部からなり、該第一のステントの谷部が一連の谷部からなり、前記第三のステントは一連の山部と一連の谷部とを有し、該第三のステントは前記第一のステントよりも振幅が小さく且つ前記第一のステントよりも山部と谷部との数が多く、前記第三のステントは前記第一のステントの近位側に配置されており、前記第一のステントと第三のステントとは、互いに入れ子状の関係にある、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項11】
前記主移植片本体の前記近位端の近くに配置されている第三のステントを更に備えており、前記第一のステントは前記第三のステントよりも大きな断面積を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
前記主移植片本体の前記近位端が傾斜が付けられた端部を備えており、前記主移植片本体の頂部長手方向長さが前記主移植片本体の底部長手方向長さよりも長くなっていることによって該傾斜が付けられた端部を形成している、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項13】
前記第一のステントが前記主移植片本体の内側面に取り付けられており、該第一のステントの前記山部が一連の山部からなり、該一連の山部のうちの一つは隣接する山部よりも大きい角度を有する幅広の山部からなり、該幅広の山部は前記分岐部と周方向で整合しており、
前記側壁に設けられている前記穴が、前記第一のステントの前記幅広の山部と谷部との間において長手方向に配置されたスリットであって、前記主移植片本体の外周に沿って少なくとも部分的に且つ前記第一のステントの互いに隣接しているストラットの間に延びており、前記分岐部の外周の約2/5から約1/2の間の長さを有するスリットからなり、
前記分岐部は、前記側壁から内方に向かって延びている第一の部分と、前記側壁から外方に向かって延びている第二の部分と、前記側壁に取り付けられている中間部分と、生体適合性の移植片材と、前記分岐部の前記生体適合性の移植片材に取り付けられ且つZ型ステント、螺旋状ステント、又は環状リングのいずれか少なくとも1つからなる支持構造体と、を備えている、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項14】
前記主移植片本体と前記分岐部との内側に予め装填された形態で延びているカテーテルを更に備えており、該カテーテルは、該人工器官の逆行送り込みができるように前記主移植片本体の遠位端の穴を通って前記分岐部の中へと延在している、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項15】
前記主移植片本体と前記分岐部との内側に予め装填された形態で延びているカテーテルを更に備えており、該カテーテルは、該人工器官の順行送り込みができるように前記主移植片本体の近位端の穴を通って前記分岐部の中へと延在している、ことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項16】
管状の主移植片本体を備えている管腔内人工器官であって、
該主移植片本体が、
近位端及び遠位端と、
前記主移植片本体に設けられ且つ少なくとも部分的に該主移植片本体の外周に沿って延びているスリットと、
前記スリット内に設けられた管状の分岐部であって、前記主移植片本体から内方へ延びている第一の部分と、前記主移植片本体から外方へ延びている第二の部分と、前記スリットに隣接して前記主移植片本体に取り付けられている中間部分と、を備えている分岐部と、を備えており、
前記分岐部の前記第二の部分が、前記主移植片本体の近位端又は遠位端に向かって柔軟に配向させることができるようにされている、ことを特徴とする管腔内人工器官。
【請求項17】
前記スリットが、前記分岐部の外周の約2/5から約1/2の間の長さを有する、ことを特徴とする請求項16に記載の人工器官。
【請求項18】
前記主移植片本体の前記近位端の近くに配置されているステントを更に備えており、前記スリットが、前記ステントの山部と谷部との長手方向での間で且つ該ステントの互いに隣接しているストラットの周方向での間に配置されている、ことを特徴とする請求項16に記載の人工器官。
【請求項19】
前記主移植片本体に取り付けられ且つ山部と谷部とを有しているステントを更に備えており、該ステントの前記山部は前記主移植片本体の近位端から約2mm未満の距離だけ隔てられており、前記分岐部は前記主移植片本体の近位端から約5mm〜約30mmの距離だけ隔てられている、ことを特徴とする請求項16に記載の人工器官。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate


【公開番号】特開2013−71005(P2013−71005A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−213496(P2012−213496)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(511152957)クック メディカル テクノロジーズ エルエルシー (76)
【氏名又は名称原語表記】COOK MEDICAL TECHNOLOGIES LLC
【出願人】(504291867)ザ クリーヴランド クリニック ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】THE CLEVELAND CLINIC FOUNDATION
【Fターム(参考)】