説明

向上した量子効率を有する発光デバイス

本発明は、少なくとも基板(1)と、アノード(2)と、第1の正孔輸送層(3)と、発光層(5)と、カソード(6)とを有する発光デバイスであって、前記第1の正孔輸送層(3)と前記発光層(5)との間に第1の正孔ブロッキング層(4)が構成される、発光デバイスに関する。正孔ブロッキング層(4)は、発光層(5)に到達する正孔の濃度を低減し、このため、通常多数電荷担体である正孔の濃度は、電子流に適応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも基板と、アノードと、第1の正孔輸送層と、発光層と、カソードとを有する発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御されるディスプレイシステムは、知られており、種々の原理に基づいて種々の実施例において広く使われている。
【0003】
1つの原理は、光源として有機発光ダイオード(いわゆるOLED)を用いる。有機発光ダイオードは、複数の機能層から成る。OLEDの典型的な構造は、「Philips Journal of Research, 1998, 51, 467」に説明されている。典型的な構造は、透明電極(アノード)としてのITO(インジウムスズ酸化物)の層、導電性高分子層、エレクトロルミネセント層(即ち発光材料を有する層及び金属(好適には低い仕事関数を有する金属)からなる電極(カソード))を有する。このような構造は、通常は基板(通常ガラス)に適用される。発生される光は、基板を通じて観察者に到達する。
【0004】
用いられる発光材料は、例えば発光ポリマーであってよい。エレクトロルミネセント層中に発光ポリマーを有するOLEDは、polyLED又はPLEDとも呼ばれる。
【0005】
しかし、OLEDはエレクトロルミネセント層の発光材料として、小さい発光分子を更に有することができる。エレクトロルミネセント層中に小さい発光分子を有するOLEDは、SMOLED(小分子有機発光ダイオード)とも呼ばれる。この実施例において、発光材料は、正孔又は電子伝導材料からなるマトリクスに埋め込まれる。
【0006】
エレクトロルミネセント層において、正孔と電子とは衝突し、再結合する。その結果、発光材料は、直接、又は、エネルギー移動を介して、励起される。励起された発光材料は、光の放出を伴って基本状態に戻る。
【0007】
電荷担体の成功した再結合は、中でも電荷担体の量に依存する。均衡のとれた正孔及び電子流密度は、効率的なエレクトロルミネセンスの必要条件である。ほとんどの有機材料において、正孔移動度は、電子移動度より約2桁大きい(10−5cm/Vsと比較して10−3cm/Vs)。従って、ほとんどの場合、正孔が、多数電荷キャリアであり、エキシトンを形成すること無しに発光層を通過することができる。なぜなら、正孔は、電子に出会って再結合しないからである。これらの正孔がカソードへと流れることを防止するために、エレクトロルミネセント層とカソードとの間に正孔ブロッキング層が挿入される。正孔ブロッキング層は、正孔が容易に注入されることができない及び/又は正孔の可動性が低い材料を有する。従って、正孔ブロッキング層の材料は、比較的難度を伴ってしか酸化することができない。正孔ブロッキング層のため、正孔はエレクトロルミネセント層に集まる。
【0008】
しかし、フリーな電荷担体、正孔及び電子は、既に励起されている分子(エキシトン)と化学反応することができ、ここで、励起された分子はいかなる発光も無しに基本状態に戻る。従って、励起された分子は消失し、OLEDの量子効率は低減される。これらの反応は、OLEDにおける大きな損失源を表す。なぜなら、過剰な正孔が、励起された分子が発生する領域において、即ちエレクトロルミネセント層において集まるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、増加された量子効率を有する発光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、少なくとも基板と、アノードと、第1の正孔輸送層と、発光層と、カソードとを有する発光デバイスであって、前記第1の正孔輸送層と前記発光層との間に第1の正孔ブロッキング層が構成される、発光デバイスによって達成される。
【0011】
正孔輸送層と発光層との間への正孔ブロッキング層の挿入によって、発光層の正孔の数は、低減され、発光層に到達する電子の数に適応することができる。多数の正孔が正孔輸送層に集まり、励起された発光分子と化学反応することができない。
【0012】
請求項2に記載の発光デバイスの有利な実施例は、正孔がカソードに到達して光生成の目的から失われることを防止する。
【0013】
請求項3及び4に記載の有利な実施例によって、発光層への正孔の流れは、より正確に調整されることができる。
【0014】
請求項5及び6に記載の有利に選択された材料によって、効率的な正孔ブロッキング層が得られる。
【0015】
請求項7に記載の有利な実施例によって、カソードを通じた発光の消失は低減され、発光デバイスへの電子の注入が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、図面に示される実施例を参照して更に説明されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
発光デバイスの全ての実施例は、基板1を持ち、これに、少なくともアノード2、第1の正孔輸送層3、発光層5及びカソード6が適用される。
【0018】
図1に示すように、発光デバイスは基板1、好適には透明ガラス板又は透明プラスチック板を持つ。プラスチック板は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)を有することができる。基板1には、少なくともアノード2、正孔輸送層3、第1の正孔ブロッキング層4、発光層5及びカソード6を有する層本体が隣接する。
【0019】
アノード2は、好適には、透明であり、例えばp添加シリコン、インジウム添加スズ酸化物(ITO)又はアンチモン添加スズ酸化物(ATO)を有することができる。アノード2は、好適にはITOを有する。アノード2は、組織化されて(structured)おらず、平面として設計される。カソード6は、例えばアルミニウム、銅、銀又は金等の金属、合金又はn添加シリコンを有することができる。カソード6が2つ以上の伝導層を持つことは、好ましい可能性がある。カソード6が、アルカリ土類金属(例えばカルシウム若しくはバリウム)又はアルカリ金属ハロゲン化物(例えばLiF)若しくはリチウム安息香酸塩の第1層及びアルミニウムの第2の層を有することが特に好ましい可能性がある。カソード6は、組織化されることができ、例えば1つ又は複数の導電材料の多数の平行ストリップを有することができる。代替的に、カソード6は組織化されず平面として設計されることができる。
【0020】
発光層5は、発光材料として発光ポリマー又は小さい発光分子を有することができる。用いられる発光ポリマーは、例えば、ポリ(p−フェニルビニレン)(PPV)又は例えばジアルコキシ置換PPV等の置換されたPPVであってよい。発光層5が小さい発光分子を有する場合、これらは、好適には正孔又は電子輸送材料からなるマトリクスに埋め込まれる。マトリクス材料の選択は、小さい発光分子の要件に依存する。一例として、発光層は、4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)のマトリクスに埋め込まれたトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy))又は2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)のマトリクスに埋め込まれたIr(ppy)を有してよい。
【0021】
アノード2には第1の正孔輸送層3が隣接し、これは装置への正孔の注入及び輸送を容易にする。
【0022】
正孔輸送層3と発光層5との間に位置する第1の正孔ブロッキング層4は、酸化することが比較的困難であり、従って、単位時間あたり発光層5に到達する正孔の数は低減される。
【0023】
第1の正孔ブロッキング層4は、隣接した正孔輸送層3より酸化することがより困難である材料を有する。好適には、正孔ブロッキング層4の材料のHOMO(最高被占分子軌道)エネルギーレベルは、隣接している正孔輸送層3の材料のHOMOエネルギーレベルより低い。HOMOエネルギーレベル間のエネルギー差が大きいほど、第1の正孔ブロッキング層4のブロッキング特性は大きい。本実施例において、正孔は、正孔輸送層3において、即ち第1の正孔ブロッキング層4に隣接する領域において集まる。
【0024】
正孔輸送層3の材料は、低い電子親和力を有する低いイオン化電位を持つべきである。しかし、HOMOエネルギーレベルは、エネルギーバリアを克服すること無しにアノード2からの正孔の注入が可能であるほどに高いべきである。正孔輸送層3のための適切な材料は、例えば、トリアリールアミン、ジアリールアミン、トリスチルベンアミン、又は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PDOT)及びポリスチレンスルホン酸塩の混合物である。
【0025】
第1の正孔ブロッキング層4及び正孔輸送層3については、2つの層のそれぞれの材料のHOMOとLUMO(最低空分子軌道)との間の距離は、発光層5で発生される光が吸収されないためには、発光層5の発光材料のHOMO−LUMO距離より大きくなければならない。
【0026】
図2は、本発明による発光デバイスの他の好適な実施例を示す。この発光デバイスは、加えて、正孔が発光層5からカソード6に通過することを防止する、他の第2の正孔ブロッキング層7を持つ。第2の正孔ブロッキング層7の材料も、酸化することが比較的困難である。好適には、第2の正孔ブロッキング層7の材料のHOMO(最高被占分子軌道)エネルギーレベルは、隣接した発光層5の発光材料のHOMOエネルギーレベルより低い。ここでも、HOMOエネルギーレベル間のエネルギー差が大きいほど、第2の正孔ブロッキング層7のブロッキング特性は大きくなる。
【0027】
図3は、本発明による発光デバイスの更に他の好適な実施例を示す。この発光デバイスは、アノード2と第1の正孔輸送層3との間に多数の層を有する層状構造を持つ。層状構造は、少なくとも1つの他の正孔ブロッキング層及び1つの他の正孔輸送層を持つ。図3に示される実施例において、第1の正孔輸送層3とアノード2との間の層状構造は、2つの他の正孔輸送層8、10及び2つの他の正孔ブロッキング層9、11を持つ。正孔輸送層8、10は、これらの層が層状構造の正孔ブロッキング層9、11と交互になるように構成される。
【0028】
全ての実施例において、正孔輸送層3、8、10は常にアノード2に隣接する。
【0029】
この実施例の有利な機能は、発光層5に到達する正孔の濃度が、発光層5に入る電子密度に正確に適応することができるということである。
【0030】
個々の正孔ブロッキング層4、7、9、11は、同じ材料又は異なった材料を有することができる。同じことは、正孔輸送層3、8、10に関して当てはまる。
【0031】
正孔ブロッキング層4、7、9、11のための適切な材料は、例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロイン(BCP))、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、2−(4−ビフェニル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−オキサジアゾール(PBD)、1,3,5−トリス−(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TBPI)又はペルフルオロ化側鎖を有するオリゴフェニルである。
【0032】
正孔ブロッキング層4、7、9、11の層厚は、層において用いられる材料の種類及びその材料の正孔ブロッキング特性に依存する。全ての正孔ブロッキング層4、7、9、11において同じ材料が用いられると、第1、第3及び第4の正孔ブロッキング層4、9、11のそれぞれの層厚さは、第2の正孔ブロッキング層7の層厚さより通常小さい。好適には、第1、第3及び第4の正孔ブロッキング層4、9、11の層厚さは、それぞれ、0.1〜10nmである。層厚さがそれぞれ0.1〜5nmであることは特に好ましい。より好適には、層厚さは、それぞれ0.1〜2nmである。最も好適には、層厚さは、それぞれ0.1〜0.5nmである。
【0033】
全ての実施例において、電子輸送層12が、カソード6と発光層4との間又はカソード6と第2の正孔ブロッキング層7との間に位置することができる。このような電子輸送層の材料は、高い電子親和力によって特徴付けられる。適切な材料は、例えば、トリス−(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(tris-(8-hydroxyquinolato)aluminum)(Alq)又は1,3,4−オキサジアゾール若しくは1,2,4−トリアゾール等の電子不足複素環である。図4は、カソード6と第2の正孔ブロッキング層7との間に電子輸送層12を持つ発光デバイスを示す。
【実施例1】
【0034】
アノード2として働く厚さ150nmのITOの層が、ガラスでできた透明基板1に適用された。厚さ30nmのα−NPDの層が、第1の正孔輸送層3として、スピンコーティングによってアノード2に適用された。1nmの層厚さを持つBCPの第1の正孔ブロッキング層4が、正孔輸送層3に適用された。TCTAに埋め込まれたIr(ppy)の発光層5が、第1の正孔ブロッキング層4に適用された。発光層5の層厚さは、30nmであった。厚さ10nmのBCPの第2の正孔ブロッキング層7が、発光層5に適用された。厚さ40nmのAlqの層が、電子輸送層12として第2の正孔ブロッキング層7に適用された。厚さ1.5nmのリチウム安息香酸塩の第1の層及び厚さ150nmのアルミニウムの第2の層からなる厚さ151.5nmのカソード6が、電子輸送層12に適用された。本発明による発光デバイスは、第1の正孔ブロッキング層4の無い発光デバイスと比較して15%増加された量子効率を持っていた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による発光デバイスを示す。
【図2】本発明による発光デバイスを示す。
【図3】本発明による発光デバイスを示す。
【図4】本発明による発光デバイスを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板と、アノードと、第1の正孔輸送層と、発光層と、カソードとを有する発光デバイスであって、前記第1の正孔輸送層と前記発光層との間に第1の正孔ブロッキング層が構成される、発光デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の発光デバイスにおいて、前記カソードと前記発光層との間に第2の正孔ブロッキング層が構成されることを特徴とする発光デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光デバイスにおいて、前記第1の正孔輸送層と前記アノードとの間に、少なくとも1つの他の正孔ブロッキング層及び1つの他の正孔輸送層からなる層状構造が構成されることを特徴とする発光デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の発光デバイスにおいて、前記他の正孔ブロッキング層及び正孔輸送層は交互に構成されることを特徴とする発光デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の発光デバイスにおいて、正孔ブロッキング層の材料の酸化電位は、隣接する正孔輸送層の酸化電位より高いことを特徴とする発光デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の発光デバイスにおいて、正孔ブロッキング層の材料は、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロイン(BCP))、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、2−(4−ビフェニル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−オキサジアゾール(PBD)、1,3,5−トリス−(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TBPI)及びペルフルオロ化側鎖を有するオリゴフェニルからなる群から選択されることを特徴とする発光デバイス。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の発光デバイスにおいて、カソードと発光層との間に電子輸送層が構成されることを特徴とする発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−510303(P2007−510303A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537499(P2006−537499)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052135
【国際公開番号】WO2005/043581
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】