説明

向子宮性作用を持たない、エストロゲン型の器官選択性薬剤としての、アヤメ科及びシミシフガ・ラセモサ(Cimicifugaracemosa)の抽出物、並びにテクトリゲニンの使用

【課題】エストロゲン型作用を有する植物薬剤の提供。
【解決手段】本発明は、心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症及び更年期障害の選択的な治療及び/又は予防、例えば一過性熱感の予防又は軽減のためのエストロゲン型器官選択性薬剤としての、アヤメ科及びシミシフガ・ラセモサ由来の抽出物、並びにテクトリゲニンの使用に関する。向子宮性作用は特に観察されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン型の器官選択性薬剤としての、請求項1に記載のアヤメ科由来の抽出物、及びシミシフガ・ラセモサ(Cimicifuga racemosa)由来のそれら、並びに請求項8に記載の薬剤としてのテクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣で形成される17−β−エストラジオール (以後、エストラジオールと述べるときには、これは常に生理学的な17−β−エストラジオールを言及する)〔以後、E2 としても言及する〕は、一般に生体において増殖−促進作用を有する。雌の周期の調節とは別に、それは骨の代謝への恒常性の影響を有し、そして血管の内皮でのアテローム性斑の形成を予防する。
【0003】
更年期の間、エストラジオールの濃度の低下は、卵巣の機能の停止により起こる。これは生育過程の弱体化をもたらし、そして視床下部においてGnRH刺激発生器の増大した活性をもたらす。(ゴナドトロピン放出ホルモンの刺激発生器は、いわば視床下部におけるタイマーであり、そして拍動性のLHの分泌を、ステロイドが影響する大きさ及び頻度と調和させる。)更年期の女性において、結果として生じた、刺激されたLHの分泌は、不調であることを感じる、いわゆる“一過性熱感(hot flush)”をもたらす。
【0004】
血液中で、高いエストラジオール濃度が十分でないときは、破骨細胞活性及びそれに従う骨塊の破壊が顕著であり、骨格の破損の危険性の増大が伴う。同時に、長期的の血管系における斑点形成の危険性、及びその結果としての亀裂骨折の危険性の増大がある。
【0005】
シミシフガ・ラセモサ由来の、及びベラムカンダ・シネンシス由来の抽出物は共に、更年期周辺及び更年期後の障害を軽減することができる一般的な薬として知られている。今までに、この事は両植物薬種の抽出物が、ヒトの身体の多くの器官、特に脳、卵巣、骨、血管系に対するエストロゲン型作用を、その全てのポジティブな効果によって示す事実を通して説明されてきた。子宮、膣、胸部の組織及び肝臓へのエストロゲン型作用は、前から順に不利である。しかしながら、現在まで、エストロゲン欠損の場合において、器官選択性の予防又は治療のために使用されうるこれらの植物薬種由来の薬剤が、従来技術において利用可能でなかったのは望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この従来技術から出発し、その結果、エストロゲン型作用を有する植物薬剤を提供することが本発明の目的であり、この作用は、子宮に対して作用しないか、又はほとんど作用しない器官選択性である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、アヤメ科由来の抽出物の使用に関する請求項1の構成を通して、請求項3に記載のシミシフガ・ラセモサ由来の抽出物の使用を通して、独立して達成される。更に上記目的は、請求項8に記載のテクトリゲニン及び/又はそのグリコシドに基づく薬剤に関する、請求項2の構成によって達成される。
【0008】
別の独立した解決策は、テクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドを含む、あるいはテクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドに富む、請求項11に記載の植物抽出物によって表される。
【0009】
in vitro及びin vivoの両方の実験で、有機溶媒又は超臨界CO2 によって、アヤメ科、特にベラムカンダ・シネンシス、及びシミシフガ・ラセモサの両方から製造される抽出物が、中枢神経系、骨系及び血管系に対して器官選択的に働き、子宮に対する作用、いわゆる向子宮性作用が存在しないことが、驚きをもって見出された。従って、本発明に従い使用される抽出物は、骨粗鬆症の選択的な治療及び/又は予防のための、調製済みの薬剤の製造に適している。
【0010】
更にそれらは、心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症の選択的な治療及び/又は予防のための、調製済みの薬剤の製造に適している。
【0011】
更にそれらは、更年期周辺及び更年期後の、例えば一過性熱感の様な精神的自律神経障害の選択的な治療及び/又は予防のための、調製済み薬剤の製造に適している。
【0012】
更に、ベラムカンダ・シネンシスから単離した、成分のテクトリゲニンが、本質的に抽出物全体と同様の作用を発揮することが見出された。
【0013】
【化1】

【0014】
この成分はまた、ベラムカンダ・シネンシスの他にも、他のアヤメ科、例えばイリス・ゲルマニカ(Iris germanica)、I.テクトラム(tectorum)、I.イライリカ(illyrica)、I.ディコトマ(dichotoma)において見出される。
【0015】
分類学的に述べると、ベラムカンダ・シネンシスは以下の様に分類される:
【表1】

【0016】
好ましくは、前記植物の根茎、柄、葉及び/又は花弁が、抽出物の製造のために使用される。
【0017】
ベラムカンダ・シネンシス及びその成分の基本的な植物化学的な記載は、Ms. A. Nenningerによる、(LMU Muenchen 1997)“Phytochemishe und pharmakologishe Untersuchungen von Belamcanda sinensis, einer Arzneipflanze der TCM und anderer Irisarten ”と題された論文に与えられた。
【0018】
本発明の薬剤と共に、シミシフガ・ラセモサ及びベラムカンダ・シネンシス及び他のアヤメ科由来の薬剤並びにテクトロリゲニンを基にした薬剤は、骨、心臓血管系及び脳において、完全なエストロゲン受容体拮抗薬として働く、初めての利用可能なものである。
【0019】
本発明の更なる利点及び構成は、実験データの記述及び図面を参照することによって明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】シミシフガ・ラセモサの有機層及び水層の比較。代表的なエストロゲン受容体−リガンド結合アッセイの変動のグラフ。開始溶液の濃度は17.66mg/mlであり、1:2、1:4など最大1:64の希釈が続く;
【図2】ベラムカンダ・シネンシス抽出物、E2及び担体の静脈注射前、及び2時間後の血清LH濃度。ベラムカンダ・シネンシス抽出物は上昇したLH濃度を低下せしめる、E2と同様の能力を有する;
【図3a】卵巣を切除したラットにおける、皮下処理から7日後の子宮重量に対するシミシフガ・ラセモサの作用;(平均値+SEM,n=8、* =p<0.05対担体としてのクレモフォール);
【図3b】卵巣を切除したラットにおける、皮下処理から7日後の血液中のLH濃度に対するシミシフガ・ラセモサの作用;(平均値+SEM、n=8、* =p<0.05対担体としてのクレモフォール);
【図4a】卵巣を切除したラットにおける、皮下処理から7日後の、視床下部の前二対体領域のE2受容体αのmRNAの発現に対する、シミシフガ・ラセモサ及びE2の作用;(平均値+SEM、n=8、* =p<0.05対担体としてのクレモフォール);
【図4b】卵巣を切除したラットの子宮における、皮下投与の7日後の、IGF1及びC3のmRNAの発現;及び
【図4c】卵巣を切除したラットの骨における、皮下投与の7日後の、コラーゲン1(coll1)及びオステオカルシンのmRNAの発現。
【0021】
シミシフガ・ラセモサ及びベラムカンダ・シネンシスのエストロゲン作用の実験的証明
選択的なエストロゲン作用を、様々で複雑な一連の試験系の間の段階において明らかにした。
1.in vitroの実験
1.1 シミシフガ・ラセモサのin vitro実験
17−β−エストラジオール(=E2)に対する抗体による、本成分のエストロゲン型構造の認識をin vitroで示した。
【0022】
シミシフガ・ラセモサ抽出物を、残査になるまで蒸発させた。ジクロロメタンと水との間の層分配によって、異なる極性を有する物質に豊縮させた。両方の層の成分の結合親和性を、ブタの子宮由来のエストロゲン受容体で、in vitroで決定した。前記ブタの子宮由来の細胞質エストロゲン受容体を標準的な方法に従い単離し、そしてリガンド置換実験のために使用した。
【0023】
ここで、例えばシミシフガ・ラセモサ由来のエストロゲン型構造は、それらが有機溶媒によって前記抽出物から抽出されうるので、天然において親水性でなく、親油性であることが明らかになった。前記の有機的に抽出した層に存在する物質は、水層に残っている物質よりも約10倍以上、強固に前記抗体に結合した。
前記の二層の間の差異は、エストラジオール受容体結合アッセイにおいて一層大きい。エストラジオールと結合する物質の類似性は、エストラジオール受容体との選択的な−競争的な−相互作用を、無細胞調製において起こさせるのに十分高いであろう。
【0024】
結果を図1に示す。
1.2 in vitroでのベラムカンダ・シネンシス
ベラムカンダ・シネンシス由来の抽出物もまた、17−β−エストラジオールに対する抗体によって認識される成分を有し、そして17−β−エストラジオール受容体(Nenninger loc. cit.を参照のこと)に結合することが、他の研究から知られている。しかしながら、驚いたことに、本出願の発明者は、これらの抽出物が異なる器官系に対する異なるエストロゲン作用を有すること、特にそれらが向子宮性作用を持たないことを見出した。
【0025】
2.in vivoの実験:卵巣切除ラットに対するエストロゲン作用の証明 受容体E2への結合は、非常に選択的であるが;細胞内の次の段階が促進されているか、または阻害されているか、すなわち、前記物質が作用薬であるか、または拮抗薬であるかを述べることは可能ではない。この性質を適当な細胞系において、又は全動物において決定のみすることができる。
【0026】
前記の卵巣を切除したラットは、内因性のエストラジオールの産生が減退した更年期の女性のための認識されたモデルである。17−β−エストラジオール又はエストロゲン型作用を有する物質の外部からの供給の結果として、そこではエストロゲン感受性の解剖学的形態学パラメーターの復元、例えば子宮の重量の増大、角質細胞の発生、すなわち膣の上皮における斑点上皮細胞、又はホルモンの変化、例えば処置された動物の血液におけるLH濃度の低下が起こる。
【0027】
以下に記載する全ての実験を、240〜280gの体重を有する、卵巣を切除したSprague−Dawleyラット(=OVXラット)で行った。
2.1 ベラムカンダ・シネンシスの単一投与
ベラムカンダ・シネンシス抽出物のエストラジオール型作用の作用開始は、非常に素速く起こる。OVXラットへの担体、エストラジオール及びベラムカンダ・シネンシス抽出物の単一i.v.投与後すぐに、脈拍はE2 存在下、及びベラムカンダ・シネンシスの存在下、その両方で停止した。薬物治療の評価の進展において、以前の評価との比較、及びクレモフォール(cremophor)処理したコントロール動物との比較、その両方において血清LH濃度の有意な阻害が起こる。クレモフォールはポリエトキシル化したヒマシ油誘導体に基づく乳化剤である。
【0028】
前記結果を図2に表す。
ベラムカンダ・シネンシス抽出物の注射後6時間の前記動物の子宮において、子宮のVEGF,IGF1及びC3遺伝子の発現はコントロールと比較して変化しないが、一方、前記のエストラジオールの注射は、これらの3つのエストロゲンによって制御されるタンパク質の遺伝子発現の明らかな増大を引き起こす。構成的に発現したCCO遺伝子は、これらの処置のいずれによっても有意に影響されなかった。
【0029】
これらの発見は、ベラムカンダ・シネンシスの成分が、視床下部のエストロゲン受容型構造におけるGnRHの刺激発生器の阻害をもたらし、そしてその結果エストロゲン拮抗作用を有することを示した。この結果、脳下垂体のLH分泌はベラムカンダ・シネンシスの成分及びエストラジオール、その両方によって有意に阻害される。エストラジオールと対照的に、ベラムカンダ・シネンシスの成分は向子宮性作用を持たない。エストラジオールはVEGF,IGF1及びC3の遺伝子発現を有意に上向きに制御し、その作用はベラムカンダ・シネンシスのもとでは観察されない。
【0030】
ベラムカンダ・シネンシス抽出物のi.v.注射の作用に対する急性の実験の実行
24匹のラット(すなわち8匹の動物/群)は、実験前日、エーテル麻酔のもと頸静脈にカテーテルを挿入された。実験当日、6つの血液試料を10分間隔で採取した。6番目の試料の採取後すぐに、等張性のNaCl 1ml)中の62.5mgのベラムカンダ・シネンシス抽出物又は10μgの17−β−エストラジオール(E2 )又は溶媒(5%)クレモフォールをそれぞれ静脈注射し、そして血液試料を10分間隔で更に2時間採取した。静脈投与後から6時間目に、前記動物を断頭し、血液を得て、そして子宮を除去し、検量し、そして液体窒素中で急速冷凍した。
【0031】
2.2 テクトリゲニンの一回投与
テクトリゲニンの単一投与に続いて、血液中のLH濃度及びエストラジオール型免疫活性に対する影響の時間的進展を決定した。E2−RIAの助力により決定された、前記動物の血液中のテクトリゲニン濃度は、20分後には100pg等量のエストラジオールに相当する。
【0032】
テクトリゲニンは素速いLHの減退を引き起こす。i.v.投与に続いて、テクトリゲニンのもと時間通り60分に達成されるLHの減退の速度論は、正確にエストラジオールのものに相当するが、その結果更なる減退をもたらさず、しかし再び徐々に増大する。
実施:Harms及びOiedaの方法に従い(Harms PG ; Ojeda SR : A rapid and Simple procedure for chronic cannulation of the rat jugular vein. J. Appl. Physiol. (1974) 36 : 391 〜392)、OVXラットは実験開始24時間前に、エーテル麻酔のもとカテーテルが頸静脈の外に居えられた。チューブの端を首の皮膚のくぼみに居えた。血液試料を得るために、前記動物に触れる必要がないように、前記カテーテルをシリコンチューブを用いて延長した。カテーテル及びチューブを50IUヘパリン/mlを含むリンガー液ですすいだ。
【0033】
各々100μlの血液試料を、10分間隔で前記動物から引き出し、そして回収した体積を、リンガー/ヘパリン溶液で置換した。6番目の試料の後、1.0mlの各試験溶液を静脈に適用した。試験溶液の様に、2%クレモフォール(=担体溶液)、テクトリゲニン7mg/ml担体、17−β−エストラジオール 10μg/ml担体を使用した。血液を更に140分間、10分間隔で採取した。
【0034】
この様に得た血液試料を10μlのヘパリン溶液(5000IU/ml、Liquemin)を含む0.5mlのエッペンドルフ反応容器に満たし、10000* gで10分間遠心し、そして血漿を放射免疫アッセイの実行まで、−20℃で保存した。
【0035】
LH及びプロラクチンのためのRIAは、NIH(Bethesda,Maryland,USA)の抗血清、対照標準及びヨード化調製物に基づく。エストラジオールの濃度及びイソフラボンとの交差反応性をDPC,Bad NauheimのRIAの補助により測定した。
【0036】
2.3 7日間の投与後、ベラムカンダ・シネンシス抽出物の作用
全体重、子宮の重量、ホルモン濃度及び子宮及び骨の遺伝子活性化に対するエストラジオール、ベラムカンダ・シネンシス抽出物の繰り返しの投与の作用を、毎日、すなわち7日間適用の後、卵巣を切除したラットで試験した。
クロモフォール及びベラムカンダ・シネンシスで処理した動物の平均体重に違いはないが、一方、E2 処理した動物は有意に軽かった。クレモフォール及びベラムカンダ・シネンシスで処理した動物の子宮重量もまた有意に差が無いが、一方E2 処理したものは3倍以上の子宮重量であった。
【0037】
ベラムカンダ・シネンシス処理の動物における血清LH濃度はわずかに減少したが、クレモフォールのコントロールと比較して有意であり;エストラジオールによる減少は更に顕著であった。
【0038】
前記子宮のmRNA抽出物において、エストラジオールは、一週間の処理後に、コントロール値の149%までVEGFの遺伝子発現が有意に上昇した。ベラムカンダ・シネンシスの抽出物のもと、発現はわずかに上昇したが有意ではなかった。シトクロムCオキシダーゼ(=CCO)のための非エストロゲン制御の構成遺伝子の発現は影響されなかった。大腿骨頭の抽出物において、コラーゲン−1A1、オステオカルシン、IGF1及びTGFβ−mRNAの発現を決定した。エストラジオール及びベラムカンダ・シネンシスは、構成CCO遺伝子に対して影響することなく、4つの遺伝子全ての発現を有意に阻害した。
【0039】
エストラジオール及びベラムカンダの異なる作用は、7日の処理後に非常に明らかになる。ベラムカンダ・シネンシスの抽出物は、GnRHの刺激発生器の阻害による脳下垂体のLH分泌に対する、及び骨における4つのエストロゲン制御遺伝子の遺伝子発現に対する、エストラジオール作用薬的影響を有する。対照的に、子宮へのエストロゲン的作用は無く;子宮重量もエストロゲン制御VEGF遺伝子もまた、ベラムカンダ・シネンシスの抽出物によって影響を受けない。対照的に、エストラジオールは子宮の風船様拡大及びVEGF遺伝子の活性化をもたらす。
【0040】
毎日、すなわち7日間の注射の効果による亜急性試験の実施:
試験の群当たり各8匹の動物(合計24匹)が、8:00〜9:00a.m.に、62.5mgのベラムカンダ・シネンシス抽出物及び10μgのエストラジオール又は溶媒(クレモフォール5%、1ml)でそれぞれ毎日皮下注射された。最後の適用から6時間後に、前記動物は断頭され、そして全ての動物から大動脈、子宮及び左大腿骨頭を摘出し、洗浄し、そして液体窒素において冷凍した。
【0041】
前記血液試料において、LH及びエストラジオールの免疫反応性を決定した。
【0042】
2.4 シミシフガ・ラセモサの反復投与
早くとも卵巣切除の後14日目に、7日周期で毎朝1回、62.5mgのシミシフガ・ラセモサ/ラット又は8μgのエストラジオール/ラットの投与量において、前記動物は各試験物質を皮下注射された。両物質を5%クレモフォールに溶解し、コントロール動物は担体のみ受けた。
【0043】
前記動物の断頭の後、脳、子宮及び大腿骨をmRNA回収のために調製した。前記動物の血液中のLH濃度をRIAによって決定した。上文で同定した器官におけるエストロゲン制御遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって決定した。
【0044】
エストラジオール処理した動物の子宮は、シミシフガ・ラセモサ及び平均値において基本的に差が無い担体で処理した動物のものの3倍以上の重さを有していた。これは、シミシフガ・ラセモサの成分は前記動物の子宮に影響しなかったことを意味する。これは膣にとっても真実であり、ここでの上皮組織の角質化がシミシフガ・ラセモサ及び担体で処理した動物において起こらず、これはエストラジオールで処理した動物に極めて反していた。
【0045】
前記の担体で処理した動物のLH濃度は高いままであるが、エストラジオール及びシミシフガ・ラセモサ両方によって有意に低下させられた。
結果を図3a)及び3b)に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
エストロゲン作用の別の目印として、エストロゲン誘導タンパク質のmRNAの活性化を測定した。本明細書で測定したものは、子宮、骨組織(大腿骨)及び視床下部の前二対体領域由来の組織であった。
【0049】
視床下部において、シミシフガ・ラセモサ及びE2はエストロゲン受容体αのmRNAの発現を刺激する(図4a)。骨組織においても、シミシフガ・ラセモサはエストロゲンの様にふるまい、そしてエストラジオールと類似して、骨特異的コラーゲン1及びオステオカルシン遺伝子のmRNAの発現を減少させる(図4b)。
【0050】
対照的に、子宮におけるエストロゲン制御遺伝子に対するシミシフガ・ラセモサの作用は観察されない。エストラジオールのみが、IGF1及び補体因子C3のmRNAを増大させる(図4c)。
【0051】
これらの発見は、シミシフガ・ラセモサが選択的に単一の器官に働き:抽出物が視床下部においてエストロゲン的に(E2受容体αの発現、LHの放出)、及び骨に対して働き、このことがコラーゲン1及びオステオカルシンの遺伝子の発現によって証明されたことを明らかにする。しかしながらエストラジオールと異なり、シミシフガ・ラセモサは子宮の重量並びにIGF1及びC3の遺伝子の発現に対する作用を示さない様に、子宮に対する作用を持たない。
【0052】
in vitro及びin vivoで行った実験によって、シミシフガ・ラセモサ及びベラムカンダ・シネンシス抽出物がエストロゲン的作用を発揮することが証明されたであろう。驚いたことに、指名した薬剤由来の抽出物が器官選択的に、中枢神経系、骨及び血管に働くが、子宮に対しては働かず、そしてその結果子宮内膜に対するネガティブな影響を持つこと無しに、エストロゲン欠損の予防及び治療に、非常に適していることが見出された。
【0053】
同一の効果は、ベラムカンダに含まれるテクトリゲニンによって達成される。
従って、エストロゲン型作用を有するが、向子宮性作用無しの薬剤が初めて利用可能となる。
【0054】
同様の薬剤を心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化、骨粗鬆症、並びに更年期周辺及び更年期後の、例えば一過性熱感の様な精神的自律神経障害の治療及び/又は予防に使用することができる。
【0055】
適用の型の中で、経口、静脈及び皮下の適用が顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲン型の器官選択性薬剤の製造のための、向子宮性作用を持たないか又はその作用が少なくとも無視できる、アヤメ科由来の抽出物の使用。
【請求項2】
前記抽出物がベラムカンダ・シネンシス(Belamcanda sinensis)から製造されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
エストロゲン型の器官選択性薬剤の製造のための、向子宮性作用を持たないか又はその作用が少なくとも無視できる、シミシフガ・ラセモサ(Cimicifuga racemosa)由来の抽出物の使用。
【請求項4】
エストロゲン型の器官選択性薬剤の製造のための、向子宮性作用を持たないか、又はその作用が少なくとも無視できる、テクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドを含む、あるいはテクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドに富む抽出物の使用。
【請求項5】
前記抽出物が、心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化の選択的な治療及び/又は予防のための、調製済みの薬剤の製造に役立つことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記抽出物が、骨粗鬆症の選択的な治療及び/又は予防のための、調製済みの薬剤の製造に役立つことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記抽出物が、更年期障害の選択的な治療及び/又は予防のための、特に一過性熱感の予防又は軽減のための、調製済みの薬剤の製造に役立つことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
薬剤としてのテクトリゲニン及び/又はそのグリコシド。
【請求項9】
向子宮性作用を持たないか又はその作用が少なくとも無視できる、エストロゲン型の器官選択性薬剤であることを特徴とする、請求項8に記載の薬剤。
【請求項10】
心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化;骨粗鬆症;及び更年期障害の選択的治療及び/又は予防のための、特に一過性熱感の予防又は軽減のための薬剤であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の薬剤。
【請求項11】
テクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドを含む、あるいはテクトリゲニン及び/又はテクトリゲニングリコシドに富む植物抽出物。
【請求項12】
向子宮性作用を持たないか又はその作用が少なくとも無視できる、エストロゲン型の器官選択性薬剤であることを特徴とする、請求項11に記載の植物抽出物。
【請求項13】
心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化;骨粗鬆症;及び更年期障害の治療及び/又は予防のための、特に一過性熱感の予防又は軽減のための薬剤であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の植物抽出物。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公開番号】特開2010−132699(P2010−132699A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44419(P2010−44419)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2000−536389(P2000−536389)の分割
【原出願日】平成11年3月19日(1999.3.19)
【出願人】(592044189)ビオノリカ アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】