説明

向流ガス/液体接触処理方法

本発明は、液体原料および気体状反応物が、反応器中の固定触媒床を通して向流で流れる、ガス/液体を向流接触させる処理方法であって、触媒床が2個以上の触媒層を包含し、2個の隣接する触媒層の空間率の差tが少なくとも0.05であり、液相の流れ方向に沿って減少または増加することを特徴とする方法に関する。本発明の方法は、向流製法の操作可能な気体/液体比、ならびに安定性および融通性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に石油精製および有機化学工業における気−液向流処理を行うための方法に関する。特に、本発明は、気−液−固体の三相系における向流接触触媒反応を行うための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製および有機化学工業では、気−液向流反応器の開発に益々注意が向けられている。気−液向流反応器は、気相と液相との間の反応効率を高め、必要な触媒の量を低減させ、製造コストの低減を達成する。さらに、ガス/液体向流反応器により、準等温条件下で吸熱または発熱反応を進行させ、それによって運転コストを下げ、設備の経済的有益性を高めることができる。
【0003】
石油製品の品質標準が世界中で益々厳しくなるにつれて、炭化水素の水素化処理(hydrotreating)方法がガス/液体向流反応器中で行われる傾向がある。先行技術における炭化水素の水素化処理方法のほとんどは、水素と炭化水素原料が同時に下流に向かって流れ、触媒床と接触し、接触反応を行う固定床反応器中で行われる。
【0004】
しかしながら、反応から生じる硫化水素、アンモニアおよび小炭化水素分子により、製法中のさらなる反応、例えば脱硫、脱窒素、脱芳香族および水素化分解が阻害され、反応速度が遅くなる。特に、脱芳香族反応は劇的に阻害されるが、これは、この反応が逆反応であり、反応程度は水素分圧に比例するが、反応温度に逆比例し、水素化設備が断熱的である結果、反応温度の増加と共に反応速度が低下して反応が進行する。これらすべてのことから、段階を付けた(graded)水素化および/または気−液向流水素化技術が、炭化水素の水素化を高い水素分圧で進行させ、反応温度の変動をほとんど、または全く無くし、反応中に形成されたHSおよびNHを瞬時に除去するための、炭化水素の水素化を行う有望な選択肢になっている。
【0005】
米国特許第5,985,135号には、逆流および順流反応器を採用し、第一反応器のすぐ下流にストリッピング装置を配置した2工程水素化方法が提案されている。しかしながら、この方法は、有害ガスを除去する問題を解決しておらず、高い投資コストが必要になる。
【0006】
有害ガスの除去に関して、多くの精油業者が、気−液向流水素化を行うための方法を研究している。現在入手できる炭化水素の水素化処理反応器は、単一種の触媒を装填した単一機能触媒床を採用し、反応は液相中で進行する。触媒の有効性ファクターを確保するために、この反応器には触媒の小粒子だけを装填する。他方、触媒は比較的高くまで装填され、液体中に浸漬されているため、十分な機械的強度を有するためには固体形態でなければならない。実際、工業的気−液向流水素化反応器では、触媒は、直径3mm未満の球または円筒として使用し、触媒床空間率0.35〜0.45で装填されており、従来の向流操作の空間率(>0.95)よりはるかに低い。しかし、そのような触媒床空間率では、向流反応器はフラッディングを引き起こし、設備の稼働が不安定になる傾向がある。
【0007】
米国特許第5,985,131号および第6,007,787号には、ガスのバイパスを設けてフラッディングを避けた触媒装填方法が提案されている。そのような方法により、向流反応器が保持する液体の量を低減し、高い範囲の気−液比で設備を稼働させることができる。それにも関わらず、反応器全体の気−液配分は考慮されてなく、反応器中のフラッディングは排除できない。さらに、この方法により、反応器の利用率が下がり、通常は嵩が大きい水素化処理反応器の融通性が落ちる。化学工業および環境保護分野では類似の欠陥を有する製法がある。
【0008】
米国特許第5,183,556号は、既存の設備を使用する向流水素化精製方法を提案しているが、そこでは向流反応区域に単一種の触媒、例えば卑金属の硫化物を含んでなるか、または貴金属を含んでなる触媒を装填する。この製法にはフラッディングの欠点がある。さらに、この製法は、原料の急激な脱硫および脱芳香族化には適用されない。原料の反応度合いが増加するにしたがい、反応速度が益々遅くなる。製品標準に適合するために、この製法は、脱芳香族化の場合には高活性触媒、好ましくは貴金属触媒を必要とする。しかしながら、この製法が触媒床全体にわたって高活性触媒、例えば貴金属触媒を使用する場合、反応器上部にある触媒は、高いHS分圧のために失活にさらされることになる。反対に、製法が卑金属硫化物の従来触媒を使用する場合、反応器の下側区域にある触媒も低いHS分圧の結果、硫黄損失による失活にさらされることになり、その活性を全く失うことさえある。
【0009】
気−液向流処理では、気相および液相がそれぞれの体積および粘度の一定変化を受け、これが設備の運転安定性に重要な影響を及ぼす。英国特許第8618888号は、無水マレイン酸およびアルカノールを反応させてモノアルキルマレエートを形成し、次いでモノアルキルマレエートを、触媒の存在下でアルカノールの蒸気と向流で反応させる、ジアルキルマレエートの合成方法に関するものである。この方法では、樹脂触媒を一様に配分した床を使用している。液相の流れ方向で、ジアルキルマレエートの粘性液体流のジアルキルマレエート含有量が次第に増加し、気相は、反応中の消費のためにその体積が次第に小さくなり、従って、反応中に形成された水のすべてを除去することはできない。最後に、反応器は、下側区域で気相およびより粘性の高い液相の流量が高くなり、フラッディングが起こる傾向があり、上側区域では気相および粘性の低い液相の流量が低くなり、フラッディングはほとんど起こらない。この方法は、反応器の異なった区域における気−液比の変化を考慮せずに一様に配分された触媒床を使用しており、従って、反応器の総合的な稼働融通性および安定性を改良することができない。そのような欠陥を有する他の類似の方法もある。
【発明の概要】
【0010】
気−液向流触媒反応を行うための先行技術の方法における欠点を解決するために、本発明は、気−液向流処理を行うための、段階を付けた触媒床を使用する新規な方法を提供する。この方法は、安定した様式で、気−液比の範囲を広げて行うことができる。
【0011】
本発明の気−液向流処理を行う方法は、液体材料および気体反応物を反応器中の固定触媒床を通して向流で通過させることを含んでなり、触媒の固定床が、2個以上の触媒層を包含し、隣接する触媒層間の空間率の差が少なくとも0.05であることを特徴とする。
【発明の実施態様】
【0012】
本発明の方法では、液体材料および気体反応物を反応器中の固定触媒床を通して互いに向流で通過させる。触媒の固定床は、2個以上の触媒層を包含し、隣接する触媒層間の空間率の差が少なくとも0.05である。
【0013】
本発明の目的には、用語「(触媒層の)空間率」は、下記のように定義される。
(触媒層の)空間率=[(触媒層の体積−触媒の体積)/触媒層の体積]
であり、式中、
触媒の体積=触媒の質量/成形された形状にある触媒の、水銀置換法(通常の方法)により測定した密度
である。
【0014】
本方法では、触媒床は典型的には、高さが等しいか、または異なった、2〜10個の触媒層を包含する。隣接する触媒層間の空間率の差は、典型的には0.05〜0.65であり、好ましくは0.10〜0.40である。意図する反応に応じて、触媒層の空間率は、液相の流れ方向で増加または減少させることができる。隣接する触媒層は、篩板などにより分離するか、または触媒層の間に篩板を置かずに配置するか、もしくは触媒層の一部分を相互に組み合わせて配置することができる。触媒層の中で、触媒は、不規則に、または空間率が液相の流れ方向で増加または減少するように配置する。
【0015】
本発明の方法を行うための反応器は、空間率が0.25〜0.55、好ましくは0.30〜0.50の触媒層を下側部分に、空間率が0.35〜0.90、好ましくは0.45〜0.80の触媒層を上側部分に含む。反応器は、下側および上側の間に、下側および上側部分の空間率の中間の空間率を有する触媒層を包含することができる。
【0016】
触媒層の意図する空間率に応じて、様々な粒子径および形状の触媒を装填することができる。例えば、従来の粒子径および形状、例えば球、円筒、三つ葉および四つ葉形を有する触媒を反応器の下側区域(空間率0.25〜0.55、好ましくは0.30〜0.50)に装填し、球の形態に成形された触媒は、通常、直径が1.0〜3.0mmであり、円筒、三つ葉および四つ葉形の触媒は直径が1.0〜2.5mm、長さが3.0〜8.0mmである。他方、不規則な形状、例えばリング、車輪、穴の開いた球、または円筒、粒子径が大きい三つ葉または四つ葉形の触媒は反応器の上側区域(空間率が0.35〜0.90、好ましくは0.45〜0.80)に装填する。穴の開いた球の形態にある触媒は、通常、直径が1.5〜6.0mmであり、円筒、三つ葉および四つ葉の形態にある触媒は、通常、直径が1.5〜4.5mm、長さが3.0〜8.0mmであり、リングの形態にある触媒は、通常、直径が8〜50mm、長さが8〜50mmであり、車輪の形態にある触媒は、通常、直径が8〜50mm、長さが8〜30mmである。触媒層の空間率を増加させるために、単一形状の触媒と粒子状の触媒とを一緒に装填するか、あるいは低空間率部分と高空間率部分とを有する触媒を含む異なった粒子径および形状の触媒を混合して一緒に装填するか、または触媒を高空間率部分を有する不活性充填材と混合して一緒に装填することができる。他に指示がない限り、触媒層中に混合され、一緒に装填される触媒は、形状および粒子径だけが互いに異なっているが、その他の点では、例えば活性金属成分に関して同等である。不活性充填材は、通常、小粒子径のラーシッヒリング、特に短ラーシッヒリングの形態にある。触媒層中で十分に混合され、一緒に装填されるので、様々な粒子径の触媒および不活性充填材は、ことごとく配分された触媒層を造り出す。例えば、触媒層中で、高空間率部分を有する触媒または不活性充填材のそれぞれの粒子径に対して、一個以上の他の触媒粒子が押し退けられるので、その粒子の寸法で高い空間率が得られる。
【0017】
本発明の方法は、軽質または重質留出物および残留油の気−液向流水素化転化、および特に軽質または重質留出物の原料の沸点領域に入る反応温度における水素化処理、例えば沸点範囲が180〜390℃であるディーゼルエンジン油の水素化脱硫または脱芳香族化、水素化による潤滑油の精製および潤滑油の基油の製造、VGO留出物の水素化分解、エチレン水蒸気分解のテールオイル(沸騰範囲200〜465℃)の水素化(脱色)、化学原料の製造、紡糸用(spinnable)ビチューメン、針状コークス等の原料の製造に使用できる。そのような気−液向流製法では、触媒床は、液相の流れ方向で空間率が減少していく2〜10個の触媒層を包含する。
【0018】
本発明者らは、炭化水素の向流水素化処理方法を、特に反応器の軸に沿った様々な位置における気体および液体流量に関して研究し、反応工程中に形成される小分子および反応条件下で気相中に蒸発する原料分子が存在するために、反応により、反応器の上側区域における気−液の体積比が増加し、フラッディングを引き起こすことを見出した。そして、本発明の方法は、空間率が異なった段階的な触媒層を使用し、反応器の軸に沿った様々な位置で異なった気体−液体比を与え、向流反応器中における流量の配分を改善し、運転の融通性および安定性を高めるものである。炭化水素の水素化方法は、特定の水素/油体積比で進行し、この比が低すぎる場合、この製法は満足できる様式で進行しない。本発明の方法は、広い範囲の水素/油体積比で安定した運転で進行することができるため、実用性に優れる。さらに、ディーゼル油の気−液向流水素化処理の分野では、反応系内の不純物、例えばHS、の含有量分布およびその変動、およびフラッディングを引き起こすファクターを考慮し、本発明の方法は、異なった機能の触媒が反応器の異なった区域に装填されている触媒床で反応を行い、様々な活性を有する触媒の機能的区域を最適化し、触媒にそれぞれ最適な条件を与えるものである。その結果、活性が強化された触媒床で反応が行われ、より重要なことに、触媒の耐用寿命が増し、設備の融通性および安定性が高くなる。さらに、本発明の方法は、不規則に装填された触媒床で行い、反応器の空間を最大限に活用するのが好ましい。
【0019】
炭化水素の水素化転化においては、本発明の気−液向流処理を実行する方法の一実施態様は下記の通りである。
(1)向流反応器の下側部分に、通常の粒子径を有する触媒の低空間率層を装填し、触媒層の空間率は0.25〜0.55、好ましくは0.30〜0.50であり、気体材料の流れ方向で増加し、
(2)向流反応器の上側部分(すなわち液体原料の入口から、液体原料の流れ方向に沿って、通常の粒子径を有する触媒の低空間率層の前端部まで)に、高空間率触媒層を装填する。反応器の上側部分では、触媒空間率は、典型的には0.35〜0.90、好ましくは0.45〜0.80であり、液体原料の流れ方向で減少する。
【0020】
ディーゼル留出物の向流水素化精製おいては、低空間率触媒層は、硫黄被毒に敏感な高活性触媒、例えば元素の周期律表第VIB族金属および第VIII族金属を、還元された状態で含んでなる触媒、貴金属を含んでなる触媒、Mo−Ni−Wの窒化物または炭化物を含んでなる触媒、および、卑金属の硫化物を含んでなり、反応中に硫黄の損失をほとんど示さない触媒、からなる。他方、高空間率触媒層は、元素の周期律表第VIB族金属および第VIII族金属を硫化された状態で含んでなる水素化精製触媒からなる。低空間率触媒層は、触媒床の総体積の20〜95%、好ましくは30〜80%を構成する。反応は、反応温度240〜427℃、反応圧1.0〜20.0MPa、水素/油体積比50以上、典型的には50〜1,000、好ましくは100〜1,000、より好ましくは300〜700、および液体体積毎時空間速度0.1〜7.5h−1を包含する反応条件下で進行する。
【0021】
本発明の方法は、適切な触媒により、化学工業における重合、縮合、吸収等、および環境保護分野に応用することができる。様々な反応に対して、単一空間率を有する触媒層は、同一の組成または異なった組成を有する触媒からなることができ、異なった空間率を有する触媒層は、同一の組成または異なった組成を有する触媒からなることができる。例えば、ジアルキルマレエートの合成に使用する場合、本発明の方法は、液体材料の流れ方向で空間率が増加する2〜10個の触媒層を包含する触媒床で行い、モノアルキルマレエートをC1〜C4アルカノールと反応させる。触媒は、この目的に従来使用されているすべての樹脂触媒、例えば米国特許第4269943号、中国特許86102001号、特開昭58−80307号公報および中国公開92101543.7に開示されている酸性陽イオン交換樹脂触媒でよい。
【0022】
重合、縮合、吸収、等の場合、下流に流れる液体材料は、反応が進行するにつれて粘度が増加し、上方向に流れるガス材料は体積が減少する。その結果、反応器は、反応器の下側部分でフラッディングを受ける。このことを考えて、本発明の方法は、触媒層の空間率が液体材料の流れ方向で増加するように配置された触媒層を包含し、本発明の利点を有する触媒床において行う。
【0023】
以下に、本発明の方法を、炭化水素原料の気−液向流水素化処理およびジアルキルマレエートの合成に関して、より詳細に説明する。
【0024】
炭化水素の水素化処理では、本発明の方法を、反応器の上側部分から下側部分に向かって減少する異なった空間率を有する触媒層を包含する触媒床で行う。触媒床は、一般的に少なくとも2個の、典型的には2〜10個の、異なった空間率を有する触媒からなる。触媒層の空間率は、原料の性質(例えば蒸発挙動)および反応の際に形成される小分子の量を考慮して選択する。気相および液相の体積が大きく変動する反応系の場合、本発明の方法は、隣接する触媒層間の空間率の差が比較的大きい数の触媒層を有する触媒床で行う。反対に、気相および液相の体積の変動が小さい反応系の場合、本発明の方法は、隣接する触媒層間の空間率の差が比較的小さい数の触媒層を有する触媒床で行う。反応における原料の挙動に応じて、触媒床は、同一の、または異なった性質の触媒からなる。
【0025】
ディーゼル油を水素化処理する場合、本発明の方法は、2〜5個の触媒層を包含する触媒床で行う。本発明の好ましい実施態様では、触媒床は液相の流れ方向で空間率が減少する2個の触媒層を包含する。触媒床中、低空間率層は触媒床全体の20〜90体積%、好ましくは30〜80体積%を構成する。本方法は、原料である留出物の性質および沸点範囲、および処理の目的を考慮して選択された、炭化水素の水素化に好ましい反応条件下で進行させる。一般的に、軽質留出物は、低い温度、圧力およびH/油比、および高い空間速度で水素化処理し、重質留出物は、高い温度、圧力およびH/油比、および低い空間速度で水素化処理する。
【0026】
ディーゼル油留出物の水素化処理では、低空間率触媒層は、水素化脱硫、水素化窒素化、および水素化脱芳香族化反応の活性が比較的高い。低空間率触媒層は、通常、多孔質で耐火性の無機酸化物担体、例えばアルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、および/またはゼオライトモレキュラーシーブ(例えば超安定性Y、β、XおよびYゼオライトおよびモルデナイト)を包含する触媒からなる。活性成分として、触媒は、元素の周期律表第VIB族金属および/または第VIII族金属、例えばW、Mo、CoおよびNiを還元または硫化された状態で、あるいは貴金属、例えばPtおよびPd、またはMo、NiおよびWの窒化物または炭化物を包含する。高空間率触媒層は、担体として多孔質で耐火性の無機酸化物、例えばアルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、および/またはゼオライトモレキュラーシーブ(例えば超安定性Y、β、XおよびYゼオライトおよびモルデナイト)、活性成分として元素の周期律表第VIB族金属および/または第VIII族金属、例えばW、Mo、CoおよびNiの酸化物または硫化物、および所望により助触媒としてP、Si、FおよびBを含んでなる通常の水素化精製触媒からなる。低空間率および高空間率触媒層の触媒は、あらゆるレベルの、当業者に周知の活性金属および助触媒を含む。例えば、触媒は、酸化物として計算して0.05〜5重量%の一種以上の貴金属、または10〜40重量%の一種以上の卑金属を含む。触媒は、公知のいずれの方法で製造してもよい。
【0027】
ジメチルマレエートの合成では、モノメチルマレエート(または無水マレイン酸)を、向流中、エステル化触媒床上で、メタノール蒸気と接触させる。触媒床は、反応器の上側部分から下側部分に向けて増加する異なった空間率を有する触媒層を包含する。触媒床は、2個以上、典型的には2〜10個の空間率が異なる触媒からなる。また、触媒層の空間率は、原料の性質(蒸発挙動を包含する)および反応の際に形成される小分子の量を考慮して選択することができる。空間率が異なった触媒の形状は、上に説明したように選択することができる。好ましい実施態様では、触媒床は、液相の流れ方向で空間率が増加する3個の触媒層を包含する。反応は、当業者に周知の条件下で、例えば温度90〜140℃、圧力0.1〜1MPa、滞留時間0.1〜10時間およびメタノールとモノメチルマレエートのモル比1.5〜10、を包含する条件下で行うことができる。モノメチルマレエートは反応器に液体として上から供給するのに対し、メタノールは反応器に底部から蒸気として供給する。
【実施例】
【0028】
例1〜11および比較例1
これらの例は、ディーゼル油の向流水素化処理に関し、安定した運転が維持される最大水素/油体積比を例示する。
【0029】
原料の特性および処理条件は、表1にまとめて示す。例で使用する触媒および不活性充填材は、表2に挙げる。反応は、連続様式で行った。実験により、妥当な生成物を得るには、反応器の下側部分で触媒床の総体積に対して少なくとも40%の低空間率触媒層を包含する触媒床中で原料を処理する必要があることが分かった。従って、この例では、触媒床は、触媒床の総体積に対して45%の低空間率触媒層を包含していた。実験結果を表3に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
実験結果から、段階的な空間率および粒子径を有する触媒層を含む触媒床を使用することにより、特定空間速度におけるH/油比の運転し得る範囲が、従来の空間率および粒子径を有する先行技術の範囲よりもはるかに広く、従って、製法の融通性が高くなることが分かる。
【0034】
以下、本発明の方法をディーゼル油の向流脱硫および脱芳香族化に関して説明し、その製品品質および運転安定性に関する優位性を示す。
【0035】
例12〜17および比較例2〜3
これらの例で使用する触媒および原料は、それぞれ表4および表5に示す特性を有する。水素化処理反応は、圧力6.0MPa、温度360℃、毎時空間速度1.5h−1を包含する反応条件下で連続様式で行った。低活性触媒層をV1で、高活性触媒層をV2で表す。これらの触媒は、表に示す体積比で使用した。例12〜17および比較例2〜3の結果をそれぞれ表6および表7にまとめて示す。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
例18
ジアルキルマレエートを、樹脂触媒上の向流製法により、モノアルキルマレエートおよびメタノールから、温度120℃、圧力0.5MPa、メタノールとモノアルキルマレエートのモル比5:1、および液体滞留時間3時間を包含する反応条件下で合成した。触媒は、中国公開92101543.7の実施例1に記載されている方法で処理した、様々な粒子径のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の微小球であった。様々な粒子径を有する触媒層は、表8に示す空間率を有する。上から下に、触媒床は、触媒S−1、S−2およびS−3を体積比2:1:1で包含している。モノアルキルマレエートの転化率は89%であった。
【0041】
【表8】

【0042】
例19
触媒床が、上から下に向けて、触媒S−2およびS−3を2:1の体積比で包含することを除いて、例18を繰り返した。モノアルキルマレエートの転化率は88%であった。
【0043】
比較例4
触媒床が触媒S−2だけを包含することを除いて、例18を繰り返した。モノアルキルマレエートの転化率は84%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体材料および気体反応物を反応器中の触媒固定床を通して向流で通過させることを含んでなる気−液向流処理を行う方法であって、前記触媒固定床が、2個以上の触媒層を包含し、隣接する前記触媒層間の空間率の差が少なくとも0.05である、方法。
【請求項2】
前記触媒床が2〜10個の触媒層を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
隣接する前記触媒層間の空間率の差が0.05〜0.65である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
隣接する前記触媒層間の前記空間率の差が0.10〜0.40である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒層の空間率が、液相の流れ方向で増加または減少するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記空間率が低い方の触媒層の空間率が0.25〜0.55であり、前記空間率が高い方の触媒層の空間率が0.35〜0.90である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
前記空間率の低い方の触媒層の空間率が0.30〜0.50であり、前記空間率が高い方の触媒層の空間率が0.45〜0.80である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記空間率の低い方の触媒層が、球、円筒、三つ葉または四つ葉の形態にある触媒からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記空間率の高い方の触媒層が、リング、車輪、穴の開いた球もしくは円筒、粒子径が大きい三つ葉もしくは四つ葉、の形態にある触媒からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記空間率の高い方の触媒層が単一の粒子径または形状の触媒からなるか、または、低空隙部分を有する触媒と、高空隙部分を有する触媒および/またはその触媒とともに混合され装填される高空隙部分を有する充填材とからなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒が不規則な様式で装填される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記液体原料がディーゼル油留出物であり、前記気体反応物が水素であり、前記反応器中の前記触媒床が水素化処理触媒からなり、前記触媒床中の前記触媒層の空間率が前記液相の流れ方向で減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒床が、前記反応器の下側部分に設けられた低空間率触媒層、および上側部分に設けられた高空間率触媒層である2個の触媒層を包含し、前記低空間率触媒層が前記触媒床の総体積の20〜90%を構成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記低空間率触媒層が前記触媒床の総体積の30〜80%を構成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記低空間率触媒層が、元素の周期律表第VIB族金属および第VIII族金属を、還元された状態で含んでなる触媒、貴金属を含んでなる触媒、Mo−Ni−Wの窒化物または硫化物を含んでなる触媒、および、第VIB族卑金属および第VIII族金属の硫化物を含んでなり反応中に硫黄の損失をほとんど示さない触媒、からなり、前記高空間率触媒層が、元素の周期律表第VIB族金属および第VIII族金属を、硫化された形態で含んでなる水素化精製触媒からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記貴金属がPtおよび/またはPdであり、前記第VIB族金属がMoおよび/またはWであり、前記第VIII族金属がCoおよび/またはNiであり、前記担体が多孔質耐火性無機酸化物であり、前記貴金属の含有量が0.05〜5重量%であり、前記卑金属の含有量が酸化物として計算して10〜40重量%である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記反応が、反応温度240〜427℃、反応圧1.0〜20.0MPa、水素/油体積比50〜1,000、および液体体積毎時空間速度0.1〜7.5h−1の反応条件下で進行する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記液体原料がモノアルキルマレエートであり、前記気体反応物がC1〜C4のアルカノールであり、前記触媒床がエステル化触媒からなり、前記触媒床中の前記触媒層の空間率が前記液相の流れ方向で増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記エステル化触媒が酸性陽イオン交換樹脂触媒である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記触媒床が3個の触媒層を包含する、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2006−501987(P2006−501987A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542154(P2004−542154)
【出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際出願番号】PCT/CN2003/000854
【国際公開番号】WO2004/033085
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(501329404)中國石油化工股▲分▼有限公司 (13)
【出願人】(505131533)中国石油化工股▲分▼有限公司 撫順石油化工研究院 (2)
【Fターム(参考)】