説明

向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置

【課題】1)良質なエマルションフローを発生させることで極めて高い抽出率を得ること、2)広い範囲にわたってエマルションフローを安定に保つことで装置の大型化を容易にすること、3)水溶液中の粒子成分によるヘッド部の孔の目詰まりを回避することができる装置を提供することにある。
【解決手段】向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置は、水相を噴出させる第1ヘッド部、該第1ヘッド部と対抗して配置された、抽出溶媒相を噴出させる第2ヘッド部、エマルションフローが発生するカラム部、カラム部の上方に設置された上方相分離部、及び下方に設置された下方相分離部から成る装置本体と、送液ポンプとから構成される。水相の流れと抽出溶媒相の流れを向かい合わせる向流方式を適用することで、課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌、振とうなどの機械的な外力を用いることなく連続的にエマルションの状態を発現させ、尚且つエマルション状態の流れ(エマルションフローと称する)を利用することで、水相と抽出溶媒相との効率的な接触を迅速に完了させる、エマルションフローによる2液相接触を利用した連続液液抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶液に含まれる目的成分を、抽出剤を含む水と混じり合わない溶媒(有機溶媒など)に抽出する液液抽出法(溶媒抽出法)は、金属の精製、核燃料の再処理、廃水中の有害成分の除去、有価物質の分離・回収によるリサイクルなど、様々な産業において幅広く利用されている。水溶液中の成分を抽出する方法には、液液抽出法の他にも、樹脂などの固体をカラムなどに充填して用いる固体抽出法がある。液液抽出法は、固体抽出法と比べると簡便ではないと言われるが、抽出容量の大きさと迅速さでは固体抽出法に勝る。水溶液中の目的成分を効率的に液液抽出するためには、水相と抽出溶媒相をよく混合することによって液液界面の面積を大きくし、界面反応を促進させる必要がある。そこで、通常は、撹拌、振動(振とう)などを連続的に行って、エマルションの状態(水と有機溶媒などが混じりあって乳濁した状態)を十分な時間、維持させることにより、液液間の物質移行を平衡状態に達せしめる。
【0003】
連続的に一定流量の水相と抽出溶媒相を導入しながら水相中の成分を抽出溶媒相に抽出する装置としては、撹拌機を利用するミキサセトラが広く普及している。また、パルス発生による振動を液滴分散に利用したパルスカラム、遠心力を利用して分散・相分離を行う遠心抽出機といった比較的新しい連続液液抽出装置(特許文献1参照)も、原子力などの分野で利用されている(あるいは、利用されつつある)。とくに、遠心抽出機は、2液相の接触効率、相分離効率に優れ、高性能でありながらコンパクトなので、使用済核燃料の再処理技術への適用が期待されている。
【特許文献1】特開平09−085120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの装置も、機械的外力(撹拌、振動など)を持続的もしくは断続的に加えることで2液相混合を行っている点では共通しており、このことから、扱いにくさ、ランニングコスト・メンテナンスコスト・装置製作コスト(初期コスト)の高さ、安全面での不安などのデメリットが生じる。たとえば、1)機械的外力の発生に要する大きなエネルギー負担、2)機械的外力を発生させる駆動部の負担・疲労、3)運転開始時に要する長い調整作業、4)駆動部での摩擦や静電気による発火の危険、5)駆動部に要する高強度で高価な材料、6)撹拌、振動、あるいは高速回転に伴う騒音、7)地震時の安全確保での不安、などが挙げられる。
【0005】
一方、最近開発されたエマルションフローは、送液のみで2液相混合の乳濁状態(エマルション)を発現させることができるので、従来の液液装置とは異なり、機械的外力を要しない(特願2007-136496:未公開)。このことから、上記のような従来装置の持つ欠点のすべてが解消される。エマルションフローは、樹脂などの固体をカラムに充填して用いるカラム式固液抽出と同様な簡便さで液液抽出(溶媒抽出)を行うことができる画期的な手法である。すなわち、エマルションフローを利用した抽出装置は、従来の溶媒抽出装置(ミキサセトラなど)の持つ長所(大きな抽出容量、迅速さ)に加えて、カラム式固液抽出器の持つ長所(扱いやすさ、低ランニングコスト)を合わせ持つ。大きな抽出容量と迅速さはカラム式固液抽出器では実現できず、扱いやすさと低ランニングコストは従来の溶媒抽出装置では実現できなかったことなので、これらが両立できた意義は非常に大きい。
【0006】
エマルションフローは、上述のように画期的な手法ではあるが、いくつかの問題点も持っていた。まず、今までの単流方式では、きめの細かい良質なエマルションのフローを発生させることが困難で、エマルションに若干のむらが生じるため、90%を越える抽出率を得ることは容易ではなかった。また、単流方式では、広い領域でエマルションフローを安定に保つことが難しく、装置の大型化に難があった。さらに、水溶液を微細化して噴出させるヘッド部の孔が粒子成分によって目詰まりしてしまうという致命的な弱点も存在した。水溶液中には懸濁物として粒子成分が混在していることが多く、ヘッド部の目詰まりの問題はエマルションフローの大きな課題であった。なお、単流方式とは、抽出溶媒は送液することも微細化することもなく、水溶液のみをヘッド部で微細化して抽出溶媒中に噴出させる方式をいう。
【0007】
本発明の目的は、単流方式エマルションフロー(初期型)の欠点を解決し、1)より良質なエマルションフローを発生させることで90%を越える抽出率を得ること、2)広い範囲にわたってエマルションフローを安定に保つことで装置の大型化を容易にすること、3)水溶液中の粒子成分によるヘッド部の孔の目詰まりを回避することができる向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、向流方式を適用することにより、抽出率の格段の向上と装置の大型化に成功した。また、抽出溶媒相のみを微細化して循環させる向流方式を用いることで、ヘッド部の目詰まりを回避することにも成功した。
【0009】
本発明の1つの観点に係る向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置は、水相を噴出させる第1ヘッド部、該第1ヘッド部と対抗して配置された、抽出溶媒相を噴出させる第2ヘッド部、エマルションフローが発生するカラム部、カラム部の上方に設置された上方相分離部、及び下方に設置された下方相分離部から成る装置本体と、送液ポンプとから構成される。
【0010】
向流方式を採用することによって、単流方式の装置と比較して、エマルションフローがより安定化し、尚且つよりきめの細かいエマルションフローを発生させられる。また、抽出溶媒を微細化して循環させる向流方式では、粒子成分の影響を受けずに安定な運転ができる。これは、水溶液中の粒子成分が抽出溶媒にはまったく分配されないという性質を利用したものである。すなわち、抽出溶媒相を微細化するにあたっては、ヘッド部(第2ヘッド部)が目詰まりする心配がない。なお、向流方式エマルションフローでは、この第2ヘッド部の構造がエマルションフローの質を左右し、水相を噴出させる第1ヘッド部の構造は重要でないこともわかった。すなわち、第1ヘッド部については、粒子成分が十分に通過できる構造(水相を微細化しない構造)であっても抽出率などに大きな影響は現れなかった。本願発明は、以上のような新しい知見に基づいて完成されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、単流方式エマルションフロー装置では得られなかったエマルションの良質化と安定化が実現し、目的成分をより高い抽出率で抽出できるようになるとともに、装置の大型化も容易になる。また、向流方式の採用によって、単流方式エマルションフロー装置の大きな弱点であった懸濁物などの粒子成分によるヘッド部の目詰まりの問題も解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置について、以下図面を参照して詳細に説明する。初めに、図1を参照する。図1は、本発明の向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置の概略構成図を示している。
【0013】
図1において、エマルションフロー装置10は、水相を噴出させる第1ヘッド部11、溶媒相を噴出させる第2ヘッド部12、エマルションフローが発生するカラム部13、カラム部の上方及び下方に設置した相分離部(上方相分離部14及び下方相分離部15)から成る装置本体と送液ポンプ16(2連式1台もしくは単式2台)によって構成される。なお、ヘッド部は、必ずしも液相(水相、溶媒相、あるいは乳濁混合相)と接触している必要はない。このエマルションフロー装置10には、リザーバー20の水試料が導管21を介して送られてくるようになっている。この第1ヘッド部11は、両端が開いた筒、またはその一端を1μmから5mmのメッシュあるいは孔を有するシートで覆った筒、または一端の閉じた筒の回りあるいはその閉じた部分あるいは回りと閉じた部分の両方に直径1μm から5mmの適当数の孔をあけた構造あるいはその孔をあけた筒のまわりをさらに1μmから1mmのメッシュあるいは孔を有するシートで覆った構造、もしくは、10μmから1mmの孔径を持つ多孔体(たとえば、焼結ガラス)を筒に接着した構造を持つ。また、第2ヘッド部は、第1ヘッド部の構造と同様な構造を持つが、第2ヘッド部の持つ孔あるいはメッシュの大きさは、第1ヘッド部の持つ孔あるいはメッシュの大きさと異なっていても良い。
【0014】
次に、動作について説明する。水試料リザーバー20とエマルションフロー装置10とを結合する導管21に設けられた送液ポンプ16により、リザーバー20からの水溶液を、エマルションフロー装置10の第1ヘッド部11である筒を通して抽出溶媒中に向かって噴出させる。それと同時に、装置の第2ヘッド部12である筒を通して水溶液の流れに向い合うように抽出溶媒を噴出させる。これにより、エマルションフロー装置10のカラム部13には、水溶液と抽出溶媒との乳濁混合相からなる流れ(エマルションフローと称する)が発生する。図2に、カラム部13においてエマルションフローが発生している様子を示す。図2から、水相と抽出溶媒相が混合して、エマルション特有の乳濁状態になっていることがわかる。その乳濁混合相が、カラム部13の上方にある上方相分離部14や、カラム部13の下方にある下方相分離部15に到達すると、エマルションフローの状態が解かれて水相と抽出溶媒相に相分離する。図2及び図3から、上方相分離部14及び下方相分離部15において、エマルションフローが消滅していることがわかる。上方相分離部14には抽出溶媒相が集合し、下方相分離部15では水相が集合する。上方相分離部14での清浄な抽出溶媒は、第2ヘッド部12を通じて循環される。また、下方相分離部15での清浄な水相は、処理後の排水として取り出される。以下に、いくつかの具体的な実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。たとえば、ヘッド部(11、12)は必ずしも円筒ではなく、たとえば四角い筒であっても良い。また、カラム部13、相分離部14、15の形状についても円柱状である必要はなく、たとえば四角柱状であっても良い。
【実施例1】
【0015】
硝酸水溶液からのイッテルビウムYb(III)の連続抽出
【0016】
図4の写真に示す高さ70cmの向流方式エマルションフロー抽出装置10を用いて、硝酸水溶液からのイッテルビウムYb(III)の連続抽出実験を行った。なお、第1ヘッド部11は、直径1.5 cm、長さ5 cmで一端の閉じたポリプロピレン製の筒の周囲に38個の孔(直径2 mm)をあけ、さらにその回りを70μmのメッシュを有するテフロン(登録商標)シートで覆った構造である。また、第2ヘッド部は、40μmの孔径を持つ焼結ガラス板を筒に接着した構造である。上相分離部14は、口の搾まった容器をカラム部13の上方に挿入した構造である。また、下相分離部15は、カラム部13よりも径が大きい容器をカラム部13の下方に結合した構造である。
【0017】
金属イオンとしてイッテルビウムYb(III)を選び、抽出剤としてビス(2-エチルヘキシル)リン酸:DEHPAを用いて、イッテルビウムYb(III)の抽出率と送液量との関係を調べた。試料水溶液(水相)の体積は200L、抽出溶媒相の体積は2Lであり、抽出溶媒にはイソオクタンを用いた。水相は、硝酸を加えてpHを2.0に調整し、水相中のイッテルビウムYb(III)の濃度は、6 × 10-6 Mとした。また、抽出溶媒相中の抽出剤(DEHPA)の濃度は1 × 10-2 Mとした。
【0018】
水相送液の流量は184 L/時間、抽出溶媒相循環の流量は30 L/時間で実験を行った(処理能力=毎時184 L)。排水された水相を25L毎に少量採取し、イッテルビウムYb(III)の濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)によって測定した。図5にその結果を示す。送液量に関係なく、イッテルビウムYb(III)の抽出率は、およそ99%であった。
【実施例2】
【0019】
粒子成分共存下でのイッテルビウムYb(III)の連続抽出
【0020】
(実施例1)で用いたものと同じ向流方式エマルションフロー抽出装置(ただし、第1ヘッド部の構造は異なる)を用いて、粒子成分共存下でのイッテルビウムYb(III)の連続抽出実験を行った。なお、このとき用いた第1ヘッド部11は、直径1.5 cm、長さ5 cmで一端の閉じたポリプロピレン製の筒の周囲に直径4.8 mmの孔を6個あけただけの構造である(メッシュシートはなし)。第2ヘッド部12は、(実施例1)のときと同じで、40μmの孔径を持つ焼結ガラス板を筒に接着した構造である。
【0021】
上記の向流方式エマルションフロー抽出装置を用いて、6 × 10-6 MのイッテルビウムYb(III)を含む硝酸水溶液(pH = 2.0)に酸化アルミニウムAl2O3の微粒子(粒径40μm以下)を共存させた水溶液から、1 × 10-2 MのDEHPAを含むイソオクタンにイッテルビウムYb(III)を抽出する実験を行った。試料水溶液(水相)の体積は200L、抽出溶媒相の体積は2Lとした。酸化アルミニウムAl2O3微粒子が共存する以外は(実施例1)の条件と同じである。なお、共存する酸化アルミニウムAl2O3の量は、モル濃度換算で0.02 Mである。
【0022】
水相送液の流量は237 L/時間、抽出溶媒相循環の流量は30 L/時間で実験を行った(処理能力=毎時237 L)。排水された水相を25L毎に少量採取し、イッテルビウムYb(III)の濃度をICP-MSによって測定した。図6に、その結果を示す。送液量に関係なく、イッテルビウムYb(III)の抽出率は、およそ97%であった。すなわち、(実施例1)での値99%と比較すればやや低いものの、十分に大きな抽出率が得られたことになる。また、第1ヘッド部11、第2ヘッド部12ともに、目詰まりはまったく発生しなかった。なお、図6の鎖線は図5のデータを示す。
【0023】
以上から、大量の粒子成分が共存する中からであっても、粒子成分の影響を受けることなく、水溶液中の金属イオンを抽出できることがわかった。また、向流方式エマルションフローでは、第2ヘッド部12の構造がエマルションフローの質を決定づけ、第1ヘッド部11の構造は重要ではないことも判明した。
【実施例3】
【0024】
装置を停止したときに再開に要する時間
【0025】
(実施例2)で用いた向流方式エマルションフロー抽出装置(第1ヘッド部11、第2ヘッド部12の構造も同じ)を用いて、装置を停止したときに再開に要する時間を測定した。運転していた装置を一旦、完全に停止させた後、再度、送液ポンプを起動してから安定なエマルションフローが発生するまでの時間を測定した。
【0026】
水相送液の流量を205L/時間、抽出溶媒相循環の流量は30 L/時間として装置を運転中に、送液ポンプを突然停止させた。2分経過した後、再度、同じ条件で送液ポンプを稼働させたところ、約5秒でエマルションフローが安定に発生している状態にまで到達することがわかった。すなわち、送液が完全停止しても、調整作業を要することなく、即座に運転を再開できることがわかった。
【実施例4】
【0027】
低レベル放射性廃液(模擬廃液)からのウランUの抽出
【0028】
原子力施設で使用した機器の解体撤去に伴って発生する除染廃液(付着した放射性物質を酸で洗浄・除去することで生じる廃液)を模擬して、Al(8.4 × 10-4 M)、Ti(4.6 × 10-4 M)、Cr(1.1 × 10-4 M)、Fe(4.2 × 10-2 M)、Co(4.3 × 10-3 M)、Ni(6.1 × 10-3 M)、Cu(2.1 × 10-4 M)、Mo(3.8 × 10-4 M)、及びU(5.0 × 10-7 M)を含む硫酸水溶液(pH 0.5)を調整し、(実施例2)と同様な構造の向流方式エマルションフロー抽出装置を用いて、ウランUの選択的な抽出を試みた。また、抽出剤としてはトリオクチルアミン:TOA、抽出溶媒には2.5vol%(体積パーセント)のn-オクタノールを含むイソオクタンを用いた。なお、TOAの濃度は0.3 Mであった。水相送液の流量は225 L/時間、抽出溶媒相循環の流量は30 L/時間で実験を行った(処理能力=毎時225 L)。その結果、種々の金属イオンが高濃度で共存する中から、低濃度のウランUのみをおよそ97%の抽出率で高選択的に抽出することができた。図7に、その結果を示す。なお、モリブデンMoも若干量が抽出されるが、沈殿除去が困難なモリブデンMoも抽出対象になることがあるため、むしろ好都合な結果である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明の向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置は、従来の連続液液抽出装置(ミキサセトラ、パルスカラム、遠心抽出機など)と比較して、産業利用において優位な数々の特徴をもつ。たとえば、費用対効果の点から、ランニングコスト及びメンテナンスコストが小さいことは重要である。従来の液液抽出装置とは異なり機械的外力(撹拌、振動など)を加え続ける必要がないため、その分の電力消費がない。唯一、駆動力を必要とする送液についても、高低差や排水の流れを利用すれば無電力方式の導入も可能である。また、扱いやすいということも、重要な要素である。たとえば、従来の連続液液抽出装置では、運転の立ち上げ時に長時間の調整作業を要し定常運転時にも微調整を要する。しかも、このような調整作業には熟練を要する。一方、エマルションフロー連続液液抽出装置は、送液量の変化に強く、送液が突然停止しても5秒程度で定常状態に復帰できるという安定さから、調整作業をほとんど必要とせず、扱いに熟練も要しない。このことは、人件費の大幅な削減につながる。また、シンプルな構造の装置なので製作が容易かつ安価で設備に要する初期コストが小さく、コンパクトな装置なので設置に広いスペースを要しないことも、プラント化において有利である。さらに、既存装置と比べて安全性が高いという利点もある。エマルションフローを原理とする装置では、カラム式固液抽出器と同様に振動の影響を受けにくいこと(耐震性が高いこと)、コンパクトな装置なので使用する有機溶媒の量を抑えられること、機械的外力(撹拌、振動など)を加え続けることによって発生する摩擦熱が存在しないことなどが安全性を高めている。また、調整作業などに伴う廃液が非常に少ないこと、騒音が少ないことなどは、環境への配慮という点から価値の高いメリットである。以上の利点は、機械的外力を使わないエマルションフロー装置が、カラム式固液抽出と同様な簡便さで、効率的な液液抽出を実現できることに起因するものである。
【0030】
以上から、向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置は、今後、液液抽出が関係する多くの産業(金属の精製技術、レアメタルのリサイクル技術など)において、大いに活用されるものと期待できる。また、今までの液液抽出装置にはない数々の優れた特徴から、液液抽出の新しい市場を開拓することも期待できる。たとえば、エマルションフローの原理を用いた装置の持つ、安全で扱いやすく、低コスト、コンパクトといった特徴から、使用済核燃料の湿式再処理における次世代型の連続液液抽出装置、大量に発生する低レベル放射性廃液に対する低コストで迅速な浄化装置などとして大いに期待できる(実施例4を参照)。また、これまでは、液液抽出法を環境水の浄化や大量排水の処理に適用することは、コスト面、操作面、安全面などから困難であったが、向流方式エマルションフローを用いることで、迅速で効率的な水浄化、排水処理が実現可能になると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置の概略構成図である。
【図2】カラム部でのエマルションフローの発生及び上方相分離部でのエマルションフローの消滅を説明する図である。
【図3】下方相分離部においてエマルションフローが消滅する様子を説明する図である。
【図4】実施例で用いた向流方式エマルションフロー装置を示す図である。
【図5】硝酸水溶液からのイッテルビウムYb(III)の連続抽出の結果を示すグラフである。
【図6】粒子成分(Al2O3)共存下でのイッテルビウムYb(III)の連続抽出の結果を示すグラフである。
【図7】向流方式エマルションフロー装置による除染廃液模擬廃液からのウランUの高選択的な抽出結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
10:エマルションフロー装置
11:第1ヘッド部
12:第2ヘッド部
13:カラム部
14:上方相分離部
15:下方相分離部
16:送液ポンプ
20:リザーバー
21:導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相、抽出溶媒相の少なくとも一方を微細化した液滴として噴出させる手段を備え、2液相が混合して乳濁した状態での流れ(エマルションフロー)を発生させることを特徴とする向流方式の連続液液抽出装置。
【請求項2】
水相を噴出させる第1ヘッド部、該第1ヘッド部と対抗して配置された、抽出溶媒相を噴出させる第2ヘッド部、前記エマルションフローが発生するカラム部、カラム部の上方に設置された上方相分離部、及び下方に設置された下方相分離部から成る装置本体と、送液ポンプとから構成される向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置。
【請求項3】
請求項1及び2記載の装置において、前記上方相分離部及び下方相分離部が、エマルションフローが通過する部分の急激な体積増加に伴うエマルションフローの流速減少と乱れにより、エマルションの状態から速やかに水相と抽出溶媒相に相分離するように、その横断面積が広がっていることを特徴とする向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、前記上方相分離部及び下方相分離部が、前記カラム部に挿入された、前記カラム部より体積の小さな、口の窄まった容器であることを特徴とする向流方式エマルションフロー連続液液抽出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の装置において、向流方式によるエマルションフローの発生に基づく液液抽出及びエマルションフローの消滅による相分離を1つの装置内で同時進行させることを特徴とする向流方式マルションフロー連続液液抽出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate